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資料 6 マスタープランの概要 (1) 海洋産業ポテンシャルマップ (2) 深海底鉱物資源開発 (3) エネルギー資源 (4) 海洋生物資源 (5) 海洋エネルギー (6) 海洋技術開発 (7) 海洋情報管理 (8) 海洋環境保全・創成

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資料 6

マスタープランの概要

(1) 海洋産業ポテンシャルマップ (2) 深海底鉱物資源開発 (3) エネルギー資源 (4) 海洋生物資源 (5) 海洋エネルギー (6) 海洋技術開発 (7) 海洋情報管理 (8) 海洋環境保全・創成

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海洋産業ポテンシャルマップの整備に向けて

海洋技術フォーラム 産業ポテンシャルマップ TF

1.はじめに 海洋基本法の施行にともない,海に囲まれた我が国が国際的協調のもとで海洋の平和的かつ積

極的な開発及び利用と海洋環境の保全との調和を図る新たな海洋立国を実現(海洋基本法第1条)

するため,関係各方面でさまざまな検討がなされている.海が人類の,あるいはそれのみならず

地球上の生物を含む環境における共有の財産であるという認識のもとで,海洋環境の保全を図り

つつ海洋の持続的開発等を可能とするためには,とくに我が国が直接的に利用しうる周辺海域に

関してその実態を知り,開発利用の可能性について潜在的な部分も含め適切に整理された共通基

盤となる知見が不可欠である. 海洋技術フォーラムの活動の一環として,海洋基本法の成立を受けて取り組むべき海洋に関す

る課題についてさまざまな分野におけるマスタープランが検討されてきており,それらの内容に

関する具体的な取り組みが期待されるところである.と同時に,今後長期的な取り組みを的確に

行っていくためには,そうした検討において現時点では必ずしも視野の中心に捉えられていない

ものも含め,少なくとも我が国がその周辺海域に保有する海洋資源及び海洋産業育成の基礎とな

りうる諸事象について適切に把握されているかという視点に立った検討が必要である. こうした問題意識のもとで検討を進めているところ,その中間の段階で整理を試みた結果につ

いて述べる. 2.海洋産業ポテンシャルマップの必要性 我が国の周辺海域には世界第6位といわれる 447 万 km2に及ぶ排他的経済水域がある.現在,

この水域(大陸棚限界)を国連海洋法条約の規定に従って画定するための調査等が鋭意行われて

いる.これにより,我が国の管轄権の及ぶ水域における海底地形と海底地質構造に関する基礎情

報が整備されることとなる. 海洋基本法に定められた目的を達成するため,この情報がその基盤の一つとして極めて重要で

あることは言うまでもない.しかしながら,海洋の開発に関する具体的な取り組みを推進するに

あたり,一義的には我が国国民の共有の財産である経済水域に賦存するさまざまな資源等につい

て必ずしも網羅的な調査が完了しているとは言いがたい. 例えば,従来型化石燃料に替わるエネルギー資源として大きな注目を集めているメタンハイド

レートについては,その資源量評価が精力的に進められているが,その調査対象海域はいまだ限

られており,南海トラフ等以外の海域における潜在資源量の把握が急務である.また,海底鉱物

資源に関しては,海洋技術フォーラムの担当タスクフォースにおいて検討が行われた中でも,数

年後以降の課題という位置づけながら「ポテンシャル基礎調査」が必要であると指摘されている.

近年の金属資源供給の逼迫により,開発可能性がすでに視野に入っている資源等について緊急に

取り組むべき課題が指摘されるのは当然ではあるが,より長期的視点に立つ場合,潜在的にどの

程度の資源が開発しうるものとして存在しているか,その実態を把握することも並行して推進す

6-1

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べき課題である. 海洋生物資源や流体としての海水に係る資源などに関する産業においても同様の取り組みが必

要であるが,これら事象は種々の要因によって時間変化するものであることから,マッピングの

実施に当たって「時間軸」の導入が不可欠であり,「モニタリング」の概念が重要である. エネルギー・鉱物資源についても,それらの資源量そのものは時間変化を伴うものではないと

考えられるが,採掘技術など利用する側の社会的,技術的条件が変化することから,定期的な見

直しを前提とした調査が求められる.

3.当面の課題と長期的展望 海洋産業ポテンシャルマップの作成という観点から今後取り組むべき課題等に関して,資源量

自体の時間変化の有無により二つのカテゴリーに整理してみる. (1) 海底鉱物資源・エネルギー資源

→マッピングの現状の把握 →利用可能性を指標とした評価に基づいて調査優先順位の設定 →可能性のある海域すべての調査探査

(2) 生物資源・海水関連エネルギー・海水資源 →マッピング,モニタリングの現状把握 →漁場環境,海洋環境動態のモニタリング観測網の設定

対象とする事象にもよるが,関連する技術開発の動向や社会情勢の変化を踏まえて概ね 10-15年程度に一度の計画の見直し,再評価が必要である. 我が国の経済水域のマッピングにどのくらいの調査資源を必要とするか大まかに見積もってみ

る.仮に調査船が巡航速度 20km/h で測線幅 10km の航海を行うとすると,調査海域への往復に

要する日数を除いて,経済水域全体をカバーするのに約3年・隻のリソースが必要となる.もち

ろん,調査対象や海域によってはより高密度の精査や,減速・停船を要する調査が必要となる. 必要となる調査対象,海域について,より具体的に整理し,所要の技術開発,計画的な調査船

等の建造計画を含めた計画作りが急務である. 4.おわりに ~「海の国勢調査」の実現を~ ここでの提案はとくに具体的な課題を念頭においたものではなく,「海洋情報管理」「海洋技術

開発」とならんで,具体的に検討が進められている各課題に共通して取り組むべきものという意

図で検討してきている.開発利用の可能性の高い対象および海域から調査に着手することは当然

であるとしても,今後数十年~百年の海洋の保全と利用を考える場合,その依拠する基盤情報と

して,「私たちの海に何があり,どのような状態であるのか」定量的に知っておく必要があること

は論を待たないであろう.いわば「海の国勢調査」とも言うべきポテンシャルマップの整備に早

急に着手すべきである.

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海洋産業ポテンシャルマップの整備

鉱物資源

エネルギー

生物資源

環境保全

海事産業

空間利用

安全確保

情報管理 産業ポテンシャル技術開発

科学研究

海洋産業ポテンシャル:我が国の経済水域内にある共通財産

産業化可能性評価を含めた基礎情報のマッピング

変動性資源等のモニタリング

資源量等調査 産業化可能性評価

調査リソースの確保 技術開発・基礎研究

海洋産業ポテンシャルマップ

【アプリケーション】

【基盤】

ロードマップ

産業ポテンシャルマップ

検討対象産業の選定・現状把握

産業ポテンシャル調査計画策定

産業ポテンシャル調査

資源開発以外の産業

産業ポテンシャルマップ

モニタリング調査

産業ポテンシャルマップ

現状把握

モニタリング観測網の設定

モニタリング調査

生物資源

産業ポテンシャルマップ

資源量調査(2期)

産業ポテンシャルマップ

現状把握

ポテンシャル評価手法の確立

資源量調査(1期)

鉱物資源

エネルギー資源

2014 2015 2016 2017 2018 2019 20202008 2009 2010 2011 2012 2013

戦略見直し

戦略見直し 戦略見直し

戦略見直し

戦略見直し

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深海底鉱物資源開発マスタープラン

-Good-by「マイナスの一兆円産業」、Welcome「海洋産業」-

海洋技術フォーラム 深海底鉱物資源タスクフォース 山崎哲生

要旨 広くて豊かな日本のEEZと大陸棚に存在する深海底鉱物資源を活用して、

未来に「資源」と「産業」を残すために、「深海底鉱物資源開発マスタープラ

ン(今後の技術開発、探査活動等の進め方)」を提言した。過熱する金属市場に

冷や水を浴びせ、世界をリードする海洋産業を育てるために、海洋基本法を生

かした国の積極的なリーダーシップを期待する。

「マイナスの一兆円産業」

2003 年頃から始まった金属価格の上昇は、2006 年春頃から一段と加速し、史

上 高値を更新している。たとえば、銅は 2001 年頃に比べて約 5 倍、ニッケル

は約 10 倍にもなっている*1。この原因としては、中国の金属需要の急激な増加

が挙げられる。銅の場合は図 1 に示すように、3 年間で日本の需要に匹敵する増

加を示している*2。経済成長に伴う電力需要の増加と生活水準の向上、そして

13 億の人口規模を考え合わせると、この需要増加傾向は、更に 7-8 年程度は続

くと予想されている。

資源需給の常識では、需要増加による価格高騰は一時的なものであり、新規

開発が誘発され、価格高騰は落ち着き、需給構造も安定することになる。しか

し、一部の金属については、埋蔵量不足の可能性が指摘され*3、それを見越し

た投機的資金の市場流入によって、価格高騰の加速と乱高下が引き起こされて

いる。

日本では 10kg/人/年という水準で銅消費が定常化しており、国内自給率 0%の

ため、図 1 に示したように、毎年 120~130 万tの銅を輸入している。2006 年の

銅価格を US$6,600/t、為替レートを US$1=118 円とすると、9,300 億~1 兆円が

購入費用となる。実際には、US$6,600/t というスポット価格より長期契約価格

は安く、国内製錬所は品位を高めた濃縮鉱石を輸入して金属を抽出しているた

め、この 50~60%程度の購入費用と推測される。しかし、鉛、亜鉛、ニッケル、

マンガンなども合わせると、一兆円規模に達すると推定され、非鉄金属輸入が

2006 年に「マイナスの一兆円産業」に成長してしまったといえる。

EEZと大陸棚の海底熱水鉱床とコバルト・リッチ・クラスト

日本のEEZと大陸棚には、世界第一位と世界第二位の潜在的賦存量を有す

る海底熱水鉱床とコバルト・リッチ・クラストが存在している*4。特に、開発

対象となる可能性が指摘されている、銅、鉛、亜鉛、金、銀の含有割合が高い

黒鉱型海底熱水鉱床が、伊豆・小笠原海域や沖縄トラフで発見されている。

コバルト、ニッケル、銅、マンガンの含有割合が高いコバルト・リッチ・ク

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ラストは、レアアース類の供給源となる可能性も示唆されている*5。

これらの深海底鉱物資源は、水深 1,000m を超える深海に存在するため、開

発が困難であると考えられてきた。しかし、「ちきゅう」や「しんかい 6500」

に代表される、深海における汎用技術の醸成が進み、ブラジル沖では水深約

2,000m から石油が生産されている。深海に手が届く技術が完成されつつあると

いえる。

未来に「資」「産」を!

海洋技術フォーラムでは、2007 年 4 月に成立した海洋基本法の趣旨を生かし、

①海底熱水鉱床やコバルト・リッチ・クラストなどの深海底鉱物資源のうち、

「資源」として価値があるものの存在場所を特定し、開発技術を整備し、優先

順位をつける

②海底熱水鉱床やコバルト・リッチ・クラストなどの開発「産業」として価値

があるものを探査活動、技術開発等を通じて育成、振興する

ことを目的とする「深海底鉱物資源開発マスタープラン(今後の技術開発、探

査活動等の進め方)」を提言した(https://blog.canpan.info/mt-forum 参照)。

国民生活、国内産業の持続的発展にとって、金属、レアアース類の安定供給

は重要な課題である。一方、深海底鉱物資源の開発に向けた取り組みは、世界

的にみると緒に就いたばかりであり、日本がその潜在的資源量の豊富さと、技

術開発、環境保全策整備等への早期取り組みという優位性を生かせば、「資源」

の確保のみならず、開発「産業」を育成、振興することが可能となる。そのた

めには、表1に示した「5年間の緊急的取り組み」と「中長期的取り組み」を

確実に実行する必要がある。

深海底鉱物資源は「非在来型資源」であり、その開発を狙った調査や研究開

発を実施することを世界にアピールすれば、過熱する金属市場への冷却効果が

期待できる。仮に、金属価格水準を 10%下げることができれば、毎年 1,000 億

円の支払いを減らし、かつ、海洋産業の育成、振興を図る一石二鳥の効果が期

待できる。

提言したマスタープランでは、黒鉱型海底熱水鉱床の調査、パイロットスケ

ール採鉱実験、選鉱・製錬実験、環境モニタリング等の開発可能性検討の根幹

に関わる部分について、緊急的に取り組むべきプランとスケジュールを示した。

その後の商業化は、民間資本を主体としたプロジェクトへの移行を想定してい

る。コバルト・リッチ・クラストについては、基礎的調査と研究開発の必要性

を提示した。

国のリーダーシップで世界をリードする海洋産業へ

海底熱水鉱床とコバルト・リッチ・クラストは、金属含有割合と存在量の点

で、金属の埋蔵量不足を完全に補うことはできない。切り札的存在は、日本が

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国連海洋法条約で認められた鉱区を有するマンガン団塊である*6。マンガン団

塊は、より深い水深 5,000m の大洋底に賦存し、開発に向けての国際的合意形成

が進んでいないため、実際の開発には課題が山積している。しかし、その銅、

ニッケル、コバルト、マンガンの供給源としての潜在的賦存量は莫大であり、

「非在来型資源」のチャンピオンといえる。

EEZと大陸棚の海底熱水鉱床とコバルト・リッチ・クラストの開発を対象

として磨いた、環境保全策も含めた開発技術は、マンガン団塊開発にも応用可

能であり、世界基準として通用するものとなる。準国内資源であるため、海外

依存度は大きく減り、金属価格水準を下げる効果、開発技術を海外へ輸出する

ことも期待できる。これらの経済的効果の累積は、年間数千億円規模になると

推定される。

広くて豊かなEEZと大陸棚を有する日本しかできない、世界をリードする

海洋産業の育成をスタートさせるのは、海洋基本法の成立した今であり、国の

積極的なリーダーシップが必要である。

*1 https://secure.lme.com/Data *2 澤田賢治 (2006). “2005 年世界の非鉄金属需給動向 2006 年の見通し-銅

-,” JOGMEC 主催講演会「平成 17 年度(第 12 回)非鉄金属関連成果発表会」

資料

*3 http://www.nims.go.jp/jpn/news/press/press178.html *4 玉木賢策 (2006). “海底資源開発で世界をリードしよう,”Ship & Ocean

Newsletter,第 150 号 *5

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20070208/pr20070208.html *6 http://www.mofa-irc.go.jp/link/kikan_info/isa.htm

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表1 深海底鉱物資源開発マスタープランの調査・研究開発スケジュール概要

項目 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

黒鉱型熱水鉱床開発の技

術・経済的評価

黒鉱型熱水鉱床可能性調

査、抽出手法確立と適用

既知鉱体パイロットスケール採鉱

実験、選鉱・製錬実験

熱水環境影響評価手法確

立、ベースライン調査、モニタリング

予算規模(百万円) 4,000 4,000 4,000 4,000 2,000

クラスト開発の技術・経済的評

クラスト調査手法確立・適用と

鉱床抽出

クラスト採鉱・製錬技術開発

クラスト環境影響評価手法確

立と基礎調査

EEZ・大陸棚ポテンシャル基礎調

予算規模(百万円) 1,000 1,000 1,000 1,000 1,500 3,000 3,000 3,000 3,000 3,500

図1 主要国、地域、BRICs の銅消費量実績(2005 年まで)と予測(2006 年以降)

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

(千

トン)

欧州

中国

米国

日本

ロシア

ブラジル

インド

レアエレメント類製錬技術開発

調査手法確立 調査手法適用 有望鉱床抽出

採鉱技術開発

評価手法確立 基礎調査

総合的評価 予察的評価 中間段階評価

ポテンシャル基礎調査

予察的評価 総合的評価 中間段階評価

可能性調査、抽出手法確立 抽出手法適用

採鉱実験 選鉱・製錬実験

評価手法確立、ベースライン調査 モニタリンク ゙

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「エネルギー資源」マスタープラン

-国産の海洋石油・天然ガス資源の確保と海洋メタンハイドレート開発の早期実現へ向けて-

海洋技術フォーラム・エネルギー資源タスクフォース

要旨:人口の増加と BRIC 諸国の経済成長に伴って,世界の一次エネルギーの消費は年々増加を続けている。

2000 年以降の一次エネルギー消費量の伸び率は約 2.6%/年,現在は石油換算で 10.9 億トンを世界で消費し

ている。そのエネルギー構成をみると,石油・天然ガスは約 60%のエネルギー供給を担っており,石油・天然ガ

スの供給をほとんど海外に依存している我が国のエネルギー安全保障は脆弱である。

2006 年 5 月に経済産業省において「新・国家エネルギー戦略」が策定され,エネルギー安全保障の観点か

ら,海外での自主開発原油の比率を現在の 15%から 40%に引き上げるという数値目標の実現に向けた取り組み

の強化が示された。一方で,日本の排他的経済水域(EEZ)の海底下に存在する石油・天然ガスは最も安定し

たリスクのないエネルギー資源であるにもかかわらず,その探査活動は十分ではない。現在までに実施された

日本周辺海域における石油・天然ガスの調査は水深 200m 以浅の海域が殆どであり,地質構造上有望と考え

られる地域も含めて,大水深海域における資源賦存状況は明らかにされていない。水深 500mを越える海域で

実施された基礎調査で炭化水素の存在が確認されていることからも,日本の EEZ 内にはまだ未発見の石油・

天然ガス資源のポテンシャルが期待できる。まずは,日本周辺海域における石油・天然ガス資源の探査・開発

を重要な国の海洋政策の柱として位置付けたい。

もう一つの重要課題は,次世代の国産エネルギー資源として期待されている日本周辺海域のメタンハイドレ

ート(MH)の開発である。現在,MH 資源開発研究コンソーシアム(通称 MH 21 研究コンソーシアム)が,資源と

しての MH の有効性を実証して 2016 年度までにその生産技術を整備することを目標に,研究開発を推進して

いる。その研究では,東部南海トラフ海域(東海沖~熊野灘)の海底下地層中に MH 濃集帯が把握され,本海

域の MH フィールドにおいて約 1.1 兆 m3 のメタン原始資源量(国内ガス消費量の約 13.5 年分に相当する量)

の存在が明かにされた。海洋 MH 開発は,日本が世界のトップランナーとして研究開発を着実に進めている。

しかし,実際の MH フィールドでのガス生産という観点では,カナダ・マッケンジーデルタの生産試験で永久凍

土下の MH 層からのガス生産に成功しているものの,海洋 MH からのガス生産試験は 1 回も実施されていない。

海洋 MH 開発の早期実現に向けて,日本周辺海域の MH フィールドでの海洋生産試験を通じた MH ガス生産

性の確認と現場技術の実証を急がなくてはいけない。

以上のことを踏まえて,海洋技術フォーラム・エネルギー資源タスクフォースでは,日本の EEZ 及び大陸棚

における石油・天然ガスの探鉱・開発の促進,海洋 MH 開発の早期実用化をマスタープランとして提言する。

海洋資源開発には多額の先行投資を必要とするが,開発が実用化された場合のリターンは膨大である。日本

のエネルギー安全保障の強化,海洋新産業の創造のみならず,海洋資源開発のフィールド研究を通じて海洋

技術に携わる人材の育成が期待できる。

1. マスタープラン「日本の EEZ 及び大陸棚における石油・天然ガスの探鉱・開発の促進」

1.1 緊急的取り組み

次の3項目を重要課題として示す。海域 5,000km2の 3 次元物理探査には解析も含めて約 100 億円を要する

ので,予算規模として 750 億円程度(5 年間)が必要である(表1)。

(1) 国による基礎調査(物理探査・基礎試錐)の計画的な実施(資源ポテンシャル評価)

1999 年の第 8 次 5 ヶ年計画終了後は,国による基礎調査は年度単位で行われているが,これまでの探鉱

開発活動は主として水深 200m 以浅の海域でしか実施されていない。また,殆ど全ての基礎試錐(掘削調

査)が 2 次元物理探査に基づいて行われており,3 次元物理探査は日本周辺海域ではこれまで極めて限定

された範囲でしか実施されていない。近年の油ガス田探査においては 3 次元物理探査技術の適用により試

掘井の成功確率は大きく高まり,西アフリカ海域の海洋油ガス田等の新規油ガス田の発見につながっている。

6-3

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2

経済産業省は,2007 年度から 10 年間にわたり,PGS(Petroleum Geo-Service)社との契約で 3 次元物理探査

船を導入する。3 次元物理探査船を用いた計画的な基礎調査の実施により,EEZ 内の新たな海洋油ガス田

構造の発見が期待できる。この物理探査船は年間で面積 5~7,000km2 の探査能力を有するので,年間に

5,000km2 の調査海域の拡大が可能である。探査データを公開することにより,3 次元物理探査の解析のでき

る研究者・技術者の育成が図られる。また,民間企業では対応できない隣国との調整が未解決な海域(東シ

ナ海等)において,国は積極的に基礎調査・基礎試錐を行うべきである。

(2) 日本周辺の大水深海域での商業規模の油ガス田の探査・開発

日本の大水深海域には未発見の石油・天然ガス資源のポテンシャルが期待できるので,大水深海域での

商業規模の油ガス田の探査・開発を目標に設定し,その早期実現に向けた技術整備を行う必要がある。世

界の海洋石油開発は水深2,000~3,000m級の大水深油ガス田での海底生産システムを用いた開発へ移行

しているにもかかわらず,日本では水深 200m 級の開発しか進んでいない。海洋開発に対する具体的・継続

的なニーズが無いと日本の海洋技術は育たない。大水深開発に対する日本の技術開発能力・国際競争力

を高めるための課題として,水深 2,000m 級の海域での油ガス田開発に対する技術整備を挙げる。

独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の保有する地球深部探査船「ちきゅう」は,統合国際深海

掘削計画(IODP)での科学掘削を本務とするが,水深 2,500m の海域で海底下 7,500m のライザー掘削能力

を有している。IODP で使用しない期間は科学掘削以外での利用も可能と思われるので,大水深海域での

掘削調査への活用を検討すべきである。

(3) 海洋開発に関わる政策・予算・法制・教育の整備

国が海洋資源に対する継続的な研究・教育指針を明確化することにより,産業界・大学教育機関が後継

技術者を育成できるようになり,海洋技術の継承が可能になる。法制面では,海洋開発を円滑に進めるため

に,漁業関係者との合意形成に関する環境ガイドラインの策定が重要である。

表1 マスタープラン「日本の EEZ 及び大陸棚における石油・天然ガスの探鉱・開発の推進」

(5 年以内に達成すべき短中期的課題とロードマップ)

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020~2030

◆ 国による計画的な日本周辺海域の石油・天然ガス資源の調査実施

◎ 地質構造的に有望な海域の選定

◎ 二次元・三次元物理探査の必要な海域の抽出

◎ 高い石油・天然ガス資源ポテンシャルが期待できる海域の調査

◎ 探鉱データが欠如する地質フロンティア海域の調査

◎ 東シナ海等の隣国との調整が未解決な海域(民間では対応できない海域)の調査

   ⇒ 日本周辺海域の資源ポテンシャル評価

◎ 国が導入する3次元物理探査船の積極的な活用 ⇒ 探査データの公開 ⇒ 3次元物理探査解析技術者の育成

◆ 大水深海域(水深約2,000m)での油ガス田開発の早期実現へ向けた技術整備

◎ 基礎調査に基づく重点海域の選定

 ◎ 大水深開発に必要な海洋技術の整備 ⇒ 油ガス田開発へ適用 ⇒ 海洋開発のノウハウを有する技術者の育成

民間企業による大水深開発への技術適用

◆ 国産資源の確保と技術力向上へ向けた海洋政策・予算の整備

◎ 日本周辺海域における石油・天然ガス資源の探査・開発を重要な海洋政策の一つとして位置付け

◎ 海洋資源探査・開発の促進,海洋技術者の育成に対する継続的な予算の確保

◆ 政策・法制的視点からの探鉱・開発における環境ガイドラインの策定

◎ 漁業関係者との合意形成へ向けたガイドラインの策定

◆ 人材の育成と海洋教育の整備

◎ 初等・中等教育における海洋エネルギー資源の重要性の提示

◎ 具体的な教科書改定,国民への啓蒙

◎ 産官学連携による海洋アライアンス機構の設立・活用

◎ 大学間の研究・教育ネットワーク,単位の互換制度,e-learningなどの構築

予算規模(百万円) 15,000 17,000 17,000 17,000 9,000

 重点海域の絞込み

 海底仕上げ・プラットフォーム設計技術

 大水深海域での掘削調査の促進 ◎ JAMSTECが保有する地球深部掘削船「ちきゅう」の活用

 海洋エネルギー資源の重要性に対する 国民の認識度の向上

 海洋に関する大学教育・研究の改善 技術者の継続教育制度の整備

緊 急 的 取 り 組 み

項目

日本周辺の大水深海域での商業規模の油ガス田の探査・開発

国による基礎調査(物理探査・基礎試錐)の計画的な実施(資源ポテンシャル評価)

 調査計画の策定 ⇒ 各海域調査の実施

海洋開発に関わる政策・予算・法制・教育の整備

 海域環境調査データの整備と 漁業補償に対する環境ガイドラインの策定

 政策理念の形成と 継続的予算の確保

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3

1.2 中長期的取り組み

計画的な基礎調査の継続,大水深海域での探査・開発の項目に加えて,環境調和型開発技術の確立が重

要である。予算規模として 1,400 億円程度(12 年間)が必要である(表2)。

(1) 国による基礎調査(物理探査・基礎試錐)の計画的な実施(資源ポテンシャル評価)

3 次元物理探査船を用いた計画的な基礎調査を継続する。年間に 5,000km2 の探査を継続することにより,

2017 年度には 40,000 km2 までの調査面積の拡大が可能である。

(2) 日本周辺の大水深海域での商業規模の油ガス田の探査・開発

大水深開発に対する日本の技術開発能力・国際競争力を高めるための課題として,水深 3,000m 級の海

域での油ガス田開発に対する技術整備を目標設定したい。遠隔海域における油ガス田開発においては,

高度な油ガス層の管理技術が要求される。デジタルフィールドとは,坑井での検層,地層中に埋め込んだセ

ンサー,弾性波探査データ等を統合的に管理することで,生産に伴う油ガス層の性状変化をリアルタイムに

把握し回収率を最大限に上げるように生産プロセスを管理するフィールドを指す。省力化・生産の高効率

化・回収率の向上を同時に図る最先端技術である。この実用化研究において,ナノテクノロジーを応用した

地層内の流体センサー開発,光ファイバーによる高速通信,油ガス層評価のための高速演算 CPU,並列計

算処理など,学際的な技術導入が期待される。

表2 マスタープラン「日本の EEZ 及び大陸棚における石油・天然ガスの探鉱・開発の推進」

(中長期的課題とロードマップ)

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020~2030

 ◆ 国による計画的な日本周辺海域の石油・天然ガス資源の調査継続

   日本周辺海域の資源ポテンシャル評価

◆ 大水深フロンティア海域(水深3,000m級)の油ガス田開発技術の整備

 ◎ 氷海域の開発技術

 ◎ 遠隔海域における油ガス田の管理技術(物理探査・海底センサー・通信技術を統合化したデジタルフィールド技術)の確立

⇒ 実用化

 ◎ 海底生産システムに対応したプラットフォーム技術・操業技術・輸送技術

⇒ 実用化

◆ 低環境負荷の海洋開発システムの実用化(ゼロエミッション開発技術)

 ◎ ゼロエミッション技術(海洋開発に伴う生産水の坑内分離,掘屑の処理,地層中への水・掘屑圧入技術)の確立

⇒ 実用化

 ◎ 海洋開発における自然エネルギー利用(太陽エネルギー・海洋潮力・風力等を利用したコンパクトグリーンリグの設計・製作)

⇒ リグの設計・製作

◆ 海洋油ガス田開発環境影響評価・対策技術

 ◎ 海洋開発における統合型環境影響評価手法の確立(統合型環境マネジメントシステムの構築)

◆ 油ガス田開発への海底下微生物の利用

予算規模(百万円) 1,200 1,300 1,300 1,600 6,500 16,000 18,000 19,000 19,000 18,000 18,000 18,000

環境データベース プロトタイプの製作  環境データマネジメントシステムの

 公的機関での運用・機能強化⇒ 実用化

 デジタルフィールドの システム化技術

 中小規模ガス田の開発コンセプト策定・技術FS ROV,AUV等による海底生産システムの管理技術の研究 GTL(Gas To Liquid)技術等の新燃料輸送技術の研究

 海洋微生物のゲノム解析による環境モニタリング技術の基盤確立

 パーマネントセンサー(地中埋め込み型センサー等)による計測技術・ 物理探査及びセンサーデータを活用した油ガス層把握技術の開発

 フィールド性能試験 ⇒ 機能・技術改良  実フィールドでの適用試験 要素技術の開発

 地層内での油改質・CO2処理等に対する微生物利用の研究 ⇒ 実用化

 3次元物理探査船によるデータ取得・解析

 総合評価 調査の継続

 開発コンセプト策定・技術FS

 地球深部掘削船「ちきゅう」の活用 ◎ 大水深掘削調査の継続 ◎ DPS,ライザーシステム等の機能強化

 基盤技術開発(大水深用潜水式タンカー等)

 調査計画の策定 ⇒ 各海域調査の実施  ◎ 継続的な調査 ◎ 5ヵ年毎に調査計画の見直し

高効率/低コスト開発システムの設計・製作 (フローティングGTL等 日本周辺海域での適用を視野に入れる)

 ゼロエミッション技術の取り込み 概念設計  要素技術開発  リグの詳細設計

 海洋掘削での地殻内微生物の調査 メタン・水素生成に関与する有用菌の探索

中 長 期 的 取 り 組 み

項目

日本周辺の大水深海域での商業規模の油ガス田の探査・開発

国による基礎調査(物理探査・基礎試錐)の計画的な実施(資源ポテンシャル評価)

環境調和型開発技術の確立

 海洋開発のリスクマネジメントの整備 海洋生態系の調査・整理

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大水深の油ガス田開発においては,海底生産システムに対応したプラットフォーム技術・操業技術・液体

輸送技術が要求される。高効率/低コストの海洋開発システムの設計・製作を念頭において,日本の海洋技

術力を磨くための継続的な研究が必要である。地球深部探査船「ちきゅう」による大水深海域での掘削調査

の継続,船体の機能強化も重要課題と考えられる。

(3) 環境調和型開発技術の確立

中長期的な視野では,低環境負荷の海洋開発システムの実用化が重要課題である。ゼロエミッション開

発技術(海洋開発に伴う生産水・掘屑等は海洋に投棄せずに,海底下の地層中へ再圧入する技術)の確立,

動力として風力・太陽エネルギー等の自然エネルギーを利用する海洋掘削リグ(コンパクトグリーンリグ)の製

作を目標にした基盤技術の整備が必要である。油ガス田開発に伴う海洋環境のモニタリング,環境影響評

価・対策技術に対しては,海洋生態系・微生物に関する研究成果を取り入れた統合環境マネジメントシステ

ムの構築が望まれる。また,近年の海底下地殻内微生物の調査研究では,嫌気性のメタン生成菌等が新規

に発見されている。新種の微生物による油処理・回収技術,CO2 のメタン変換技術等の研究を促進すること

により,海底下微生物の油ガス田開発への利用が期待できる。

2. マスタープラン「海洋メタンハイドレート開発の早期実用化」

2.1 緊急的取り組み

海洋 MH 開発の実用化へ向けての重要課題は,日本周辺海域における MH 資源量の適確な評価と実フィ

ールドにおけるガス生産技術の実証試験(海洋産出試験)である。MH 賦存海域での資源量調査を着実に進

めながら実証試験をクリアすれば,MH 開発の実用化へ向けての大きな一歩を踏み出せる。海洋産出試験は

MH 開発の成否を決める鍵であり,十分な予算措置が必要である。予算規模として最低限 920 億円程度(5 年

間)を要すると思われる(表3)。

(1) 日本周辺海域における MH 資源フィールドの探査と MH 資源量の評価

海洋 MH の資源量評価技術の分野では,近年の MH 21 コンソーシアムにおける研究で, MH 濃集帯の

検知技術の確立という画期的な進歩がみられた。東部南海トラフ海域における 3 次元物理探査・掘削調査

の詳細解析の結果,1) 海底擬似反射面(BSR: Bottom Simulating Reflector),2) タービダイト砂層,3) 強

振幅の反射波,4) 弾性波速度の高速度異常の解析から,MH 濃集帯が存在する場所と深度,その濃集帯

の面積と厚さの分布を直接推定することが可能になり,東部南海トラフ海域の MH 層のメタンガス原始資源

量の評価が実施された。本海域のメタンガス原始資源量の評価平均値は,MH 濃集帯エリア(767km2)に

5,739 億 m3,それ以外の MH 賦存エリア(3,920km2)に 5,676 億 m3,合計で約 1.14 兆 m3 と公表されている。

段階的に 3 次元物理探査の実施海域の拡大を進めて,東部南海トラフ以外の海域における有望な MH フィ

ールドの把握とメタンガス原始資源量を明かにしていく必要がある。

(2) 有望 MH 資源フィールドの選定,開発経済性評価,ガス商業生産へ向けたフィールド基盤技術の整備

MH の開発経済性を決める主要因子は,MH フィールドのメタンガス原始資源量,回収率,ガス生産性で

ある。MH は海底下の地層内に固体として存在するので,在来型天然ガス田と比較すると一坑井あたりのガ

ス生産性はかなり低い。経済性を有するガス生産手法の開発,MH フィールドのガス生産能力の評価,開発

システムのコンセプト設計とその経済性評価は重要課題である。

また,開発の早期実現へ向けては,MH ガス生産性の確認とフィールド基盤技術を確立するために,海洋

産出試験の実施が必須である。海底下浅部での坑井仕上げ技術・生産技術,MH 層内での MH 分解挙動

の計測技術などは,現場試験でしか技術の実証ができない。その実証試験でネックになるのは,世界の大

水深石油開発ブームで高騰している掘削リグの使用料(リグレート)であると思われる。2003 年と比較するとリ

グレートは約 8 倍に上昇しており,水深 1,500m まで稼動可能なセミサブリグのレートは 1 日あたり約 40 万ド

ル(4,600 万円)である。例えば,3 ヶ月の MH 海洋産出試験の実施には,リグコストだけで約 40 億円を要す

る。また,世界に存在するリグは 100%稼動状態に近く,リグの調達も極めて困難な状況である。この状況下

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では,リグの調達・コストのために研究開発が制限されてしまう。日本国内で優先して使用できる水深 1,000

~2,000m で稼動できる掘削リグを確保できれば,研究開発のスピードを大きく早めることが可能である。低リ

グレートで利用可能な掘削リグの建造をマスタープランの重要課題として提言したい。掘削リグを保持するこ

とにより,MH 海洋産出試験を促進するだけでなく,日本の海洋掘削技術者・クルーの育成が図られる。

(3) MH 開発の環境技術の整備

海洋 MH 開発は,環境に調和した開発であり,その安全性が保証されなくてはいけない。MH 開発におけ

る環境管理・保全システムの確立を目指して,開発に伴う環境変化の計測システム,海洋環境影響評価ツ

ール,安全対策技術の整備が必要である。法制面では,漁業関係者との合意形成へ向けた環境ガイドライ

ン等の検討が必要である。

表3 マスタープラン「海洋 MH 開発の早期実用化」(5 年以内に達成すべき短中期的課題とロードマップ)

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020~2030

◆ MH有望フィールドの海域調査により日本周辺海域のMH資源量を早期に明かにする研究の推進

◎ 東部南海トラフ海域MH濃集帯での3次元物理探査

掘削による検層・コアデータの取得・解析

⇒ MH資源量評価の信頼性向上,MHフィールドの候補選定

◎ 東部南海トラフ海域からの他の有望海域への調査拡大

⇒ 各海域のMH資源量評価,MHフィールドの地質構造モデリング

◎ 地震探査・坑井データを用いたMH層キャラクタライゼーション技術

◎ 4C・4D地震探査,海洋電磁探査によるMH層モニタリング技術

◎ 各調査海域におけるMH集積メカニズムの把握技術

 ◎ 国が導入する3次元物理探査船の積極的な活用 ⇒ 探査データの公開 ⇒ 3次元物理探査解析技術者の育成

◆ MH開発の早期実用化へ向けた研究の推進(MHフィールドを絞った開発研究への移行)

◎ 有望海域のMH貯留層特性の解析

◎ コア試験技術の高度化

◎ MH分解採収法の回収率評価

◎ CO2圧入等の先進技術の適用によるMHガス回収率の向上

◎ MH貯留層シミュレータの高速化・実用化

◎ MHフィールドの貯留層モデリング

◎ MHフィールドからのガス生産挙動予測と生産最適化設計

◎ 有望なMHフィールド開発のコンセプト設計と開発経済性評価

⇒ MH貯留層シミュレータと経済性評価モデルを用いた経済性評価技術の確立

⇒ MH開発システム設計技術(海底仕上げ・プラットフォーム設計技術)

◎ MHフィールドを絞った現場研究:実フィールドにおける減圧法の実証試験

⇒ 海洋でのMH層坑井仕上げ・生産・操業技術の開発と実証

⇒ MH層内でのMH分解挙動の計測技術(モニタリング機器・解析手法)の開発

⇒ MH層生産性評価の実証

 ◎ 低リグレートで利用可能な掘削リグの建造 ⇒ MH海洋産出試験を促進 ⇒ 海洋掘削技術者・クルーの育成

 ◎ 大水深開発に必要な海洋技術の整備 ⇒ MHフィールド開発へ適用 ⇒ 海洋開発のノウハウを有する技術者の育成

 MH海洋産出試験に活用して,現場技術の開発を促進させる

◆ MH開発における環境管理・保全システムの確立

◎ MH開発に伴う環境変化の計測システムの整備

⇒ メタン漏洩検知,海底地盤変形のモニタリングシステム

⇒ 海洋産出試験での実証

◎ MH開発の海洋環境影響評価ツール群の整備

⇒ 地層変形予測,漏洩ガスの海水中の挙動予測シミュレータ

⇒ 海洋産出試験での予測結果の実証,シミュレータ改良

◎ MH開発の安全対策技術の整備

⇒ メタンガス漏洩抑制等の保安技術の検討

⇒ リスクマネジメント・漁業関係者との合意形成へ向けた環境ガイドラインの検討

予算規模(百万円) 14,000 21,000 30,000 19,000 8,000

項目

MH開発の環境技術の整備

 MH開発の環境適合性を保証するための モニタリングシステムの実証・改良

 MH開発の海洋環境影響評価のための 要素技術開発・実証・改良

 MH開発操業の安全性に関する技術・ HSEガイドラインの検討

緊 急 的 取 り 組 み

 MH資源フィールドとして有望な海域の精査 EEZ内の調査海域の拡大

 ⇒ 高信頼度のMH資源量評価日本周辺海域におけるMH資源フィールドの探査とMH資源量の評価

 MH資源量評価に必要となる要素技術開発

 経済性を有するMH生産手法の開発

 有望MH資源フィールドの選定と MH層生産性評価

 実フィールドの海洋産出試験の実施

 ⇒ ガス商業生産へ向けた    フィールド基盤技術の確立

有望MH資源フィールドの選定

開発経済性評価技術

ガス商業生産へ向けたフィールド基盤技術の整備

 大水深開発リグの整備

 MH開発システムのコンセプト設計と その開発経済性評価

2.2 中長期的取り組み

有望な MH フィールドの調査を継続的に実施するとともに,MH 商業開発へ向けたフィールド基盤技術の整

備,MH 開発フィールドでの環境モニタリングに関する技術開発が長期目標である。海洋産出試験での MH 開

発可能性の検証,MH開発システムの実証等も含めて,予算規模として900億円程度(7年間)が必要と思われ

る(表4)。

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(1) 日本周辺海域における MH 資源フィールドの探査と MH 資源量の評価

EEZ 内海域全域へ MH 資源調査を拡大することにより,日本周辺海域の MH プロスペクトマップが整備さ

れる。調査促進のために,3 次元物理探査船の積極的な活用が望まれる。

(2) 有望 MH 資源フィールドの選定,開発経済性評価,ガス商業生産へ向けたフィールド基盤技術の整備

実フィールドでの海洋産出試験(複数坑井によるベンチ試験)で MH 開発可能性を検証できれば,海洋

実証プラント生産試験の段階へ移行する。具体的な開発コンセプトのイメージを完成させることにより,民間

企業からの投資が期待できる。

(3) MH 開発の環境技術の整備

海洋産出試験での MH 開発の環境管理・保全システムの実証後は,MH フィールドでの長期的なメタン濃

度監視等の MH フィールドモニタリング技術開発の段階へ移行する。

以上のように,MH 開発の実用化には今後 12 年間に 1,800 億円規模の研究予算を要するが,東部南海トラ

フ海域の MH 濃集帯エリアのメタン原始資源量 5,739 億 m3 の 20%が回収できれば,本海域のガス埋蔵量は

1,148 億 m3 と見積もられ,巨大ガス田の埋蔵量に匹敵する。ガス販売価格を 30 円/m3 として,この海域だけで

も MH の現金価値は約 3.4 兆円である。新産業の創造や日本の海洋技術力の強化という付加価値も含めて,

研究投資を大きく上回る効果が期待される。

表4 マスタープラン「海洋 MH 開発の早期実用化」(中長期的課題とロードマップ)

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020~2030

◆ MH有望フィールドの海域調査の継続的な調査

◎ 日本周辺海域のMHプロスペクトマップの整備

 ◎ 国が導入する3次元物理探査船の積極的な活用 ⇒ 探査データの公開 ⇒ 3次元物理探査解析技術者の育成

◆ MH商業開発へ向けたフィールド基盤技術の整備

◎ MH開発可能性の検証 ⇒ MH開発システムの実証 ⇒ 民間企業からの投資を期待

 実フィールドの海洋産出試験の実施  海洋MH開発システム設計

 (複数坑井によるベンチ試験)  海洋実証プラントでの生産試験

 MHガス・風力等を動力源とした

 自立型生産システムの設計

◎ 高経済性かつ環境適合したMH生産手法の開発

 CO2圧入等のMH増進回収法技術の研究

 海洋MH開発に適した生産手法の提唱

◎ MH層生産性評価技術の高度化・実用化

 MH貯留層シミュレータの実用化

 MH資源フィールドモデリング技術の実証

 海洋産出試験による評価技術の実証

◎ MHフィールド開発のコンセプト設計と開発経済性評価

◎ 大水深開発リグの海洋産出試験における利用

◆ MH開発における環境管理・保全システム ⇒ MHフィールドモニタリング技術開発

◎ MH環境モニタリング技術の実用化 ◎ MHフィールドモニタリング技術開発

◎ MH開発の海洋環境影響評価

◎ MH開発の安全性の保証

予算規模(百万円) 7,400 14,600 17,600 14,600 12,400 12,800 8,800

有望MH資源フィールドの選定

開発経済性評価技術

ガス商業生産へ向けたフィールド基盤技術の整備

項目

MH開発の環境技術の整備

 海洋実証プラント生産試験への 技術の適用・実用化

 海洋MHベンチ試験における技術の実証  ⇒ メタン漏洩検知,海底地盤変形    のモニタリングシステム

 MHフィールドでの長期計測 ・温度・圧力・メタン濃度 ・監視衛星のモニタリングへの利用

 海洋MHベンチ試験における技術の実証  ⇒ 環境影響評価手法の確立

 海洋MHベンチ試験における技術の実証  ⇒ リスクマネジメント等も含めた    安全操業管理技術の確立

 海洋実証プラント生産試験 への技術の適用・実用化  ⇒ 総合環境影響評価技術 ⇒ 環境管理技術

中 長 期 的 取 り 組 み

日本周辺海域におけるMH資源フィールドの探査とMH資源量の評価

 EEZ内海域全域へのMH資源調査の拡大

非砂層型MH層探査の技術開発

 統合型MH資源フィールドモデリング技術の確立

 海洋実証プラント生産試験への 技術の適用・実用化

 経済性評価技術の確立 MH開発システム設計技術の確立

 海洋実証プラント生産試験への 技術の適用・実用化

 海洋産出試験におけるMH層掘削・ 坑井仕上げに活用

 海洋実証プラント生産試験での MH層掘削・坑井仕上げに活用

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海洋生物資源の持続的利用と新しい産業・社会の創出のためのマスタープラン

-海洋生物資源に立脚した新しい海洋国家の創造を目指して

海洋技術フォーラム・海洋生物資源タスクフォース

1.わが国排他的経済水域の海洋生物資源の価値

わが国は、国土面積の 12 倍、447 万k㎡におよぶ世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を持つ。

この EEZ は亜熱帯から亜寒帯に至る水域をカバーしており、多様な生態系と高い生物生産性を誇

っている。わが国は、世界有数の水産国として、多様な海洋生物を水産資源として利用し、国民へ

の安定的な食料供給に貢献してきた。

わが国の伝統的かつ現時点で最大の海洋産業である水産業の経済規模は、近年では海洋での漁業

生産金額が年間1兆 5 千億円、水産物の輸出入金額が年間1兆8千億円に及ぶ。食品加工や流通を

含めると、水産業全体の経済規模はさらに大きなものになる。また、藻類等からのバイオ燃料の抽

出など食料以外の利用の可能性があるほか、遊漁や潮干狩り等の観光資源としての価値、藻場や干

潟が持つ水産資源涵養や海域浄化などの海洋生態系の機能(自然の恵み)を加えると、海洋生物資

源及び海洋生態系が持つ現在及び将来の経済的価値は極めて大きい。 2.海洋生態系モニタリング体制の拡充・強化

海洋生物資源は、それ自体が自律的に再生産を行うことが特徴であり、適切な管理により持続的

に利用することができる。しかし、近年、沿岸環境の劣化、地球温暖化の影響、外来生物の侵入等

により、わが国 EEZ 内の海洋生態系と海洋生物資源が危機にさらされている。したがって、海洋

生物資源の持続的かつ有効利用を図るため、水産庁が実施しているわが国周辺の水産資源やまぐろ

等の国際資源の調査事業を軸に、GEOSS(複数システムによる全球観測システム)や CoML(海

洋生物センサス計画)等の国際的な計画とも連携した、わが国 EEZ 内の海洋生態系及び海洋生物

資源の状態を的確に把握するための総合的なモニタリング体制を拡充・強化する。

3.海洋生態系の保全と積極的な再生・創成

海洋生物資源、特に水産資源の持続的利用に当たっては、産卵場や幼生の成育場など再生産の場

を保全することが重要である。また、変動する環境下で安定的な漁業生産を確保するためには、海

洋生態系を構成する生物種の多様性の保全や、同一種の中においても遺伝的な多様性の保全が必要

である。水産資源の持続的利用を達成するため、生態系や個々の水産資源の状態に応じた順応的な

管理が求められており、先に述べた海洋生態系及び海洋生物資源のモニタリングと連動した管理方

策の策定システムを構築する。

沿岸水域は、多くの海洋生物資源にとって重要な再生産の場である。特に重要な海域や期間(産

卵期等)については、海洋保護区の設定により適切に保護するとともに、再生産に好適な環境や生

態系を積極的に再生し、さらに環境を創成することによって生産性を高めるための技術開発を行う。

一方、沿岸の陸域はわが国の社会経済活動の中心であり、水陸の境界域は親水空間としても重要

である。海洋保護区の設定や環境や生態系の再生や創成に当たっては、社会経済活動とのバランス

や親水空間としての機能の保全に配慮することが必要である。このため、保護区や海洋環境の再生

や新たな海洋環境の創成による効果の定量的な評価に基づき、幅広い関係者の参加により、沿岸域

の管理方策を決定する枠組み作りを目指す。 4.海域の生物生産性の向上と地球温暖化対策への活用

全球の人為的 CO2排出量の約3割が海洋に吸収されているが、このうち生物過程が果たす役割も

大きい。北太平洋の亜寒帯水域では、表層で生産された植物プランクトンを捕食した動物プランク

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スタンプ
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トンが深海に移動し、そこで他の生物に捕食されたり死亡・分解されたりすることにより、わが国

の年間 CO2 排出量の4~5割に相当する炭素を数百年間海洋の深層に留めておく効果があること

が明らかとなっている。

一方、日本海をはじめとするわが国周辺水域においては、近年、海洋下層から表層(有光層)へ

の栄養塩供給の低下と動植物プランクトンの生産量の減少、有用魚類資源等が餌として利用しにく

い微小プランクトンの増加等、生物生産性の低下が指摘されている。いずれも、水産資源の減少や

海洋の CO2 吸収能力の低下につながる深刻な問題であるが、原因としては、地球温暖化による海

洋表層の成層状態の強化による海水の鉛直混合の低下や、陸域からの負荷による栄養塩バランスの

変化等が指摘されている。

この問題を解決するため、炭酸固化体等を利用したマウンド礁や人工海山の構築による人工湧昇

流の生起技術や深層水の汲みあげによる海洋肥沃化技術を開発するとともに、炭酸殻をもたない大

型の植物プランクトンの増殖を促進するために、不足する微量元素や栄養塩添加手法を確立する。

さらに、これらと藻類大量培養及びバイオ燃料化技術、温度差や洋上風等の再生可能エネルギーに

よる発電技術との組み合わせにより、積極的な CO2 排出削減等の地球温暖化対策が可能となろう。

また、陸域からの流入水の量や質を改善するために、河川流域における植林や魚付き林の造成等、

沿岸域の環境を維持するための陸水系と海洋とを統合した環境保全・再生に関する研究を推進し包

括的な対策技術を開発する必要がある。

5.新しい産業・地域社会の創出による新しい海洋国家の創造

海洋生物資源に立脚した新しい産業や地域社会の創出とは、海洋生態系が持つ機能(自然の恵み)

を多面的に活用して、幅広い産業界や市民の参加を促進し、中核となる地域社会のネットワーク化

による海洋国家の創造に他ならない。海洋生態系の持つ CO2の吸収機能を時間的空間的に定量化す

ることにより、企業の社会貢献(CSR)活動の一環として海洋生態系の保全活動が期待できる他、

CO2排出権取引や課税の対象とすることも可能となる。また、極限環境に生息する海洋微生物の中

には、環境修復や炭素循環等で有用な遺伝子機能を持つものが存在することが想定されており、こ

れらを利用した新しい海洋資源作物やバイオ燃料の大量生産技術の開発を目指す。

一方、既存の水産業の再生も重要な課題である。消費者が好む魚介類の安定供給のためには今後

益々養殖業が重要になる。そのため、養殖対象魚介類が本来持っている遺伝的多様性を活用して、

成長性や味に優れ、疾病に強い品種の育種を進めるとともに、環境汚染の心配がない沖合域で栄養

塩に富んだ海洋深層水を利用するなど大規模養殖を行うための施設や飼育手法を開発する。また、

低利用資源であるサンマやカタクチイワシ等の多獲性浮魚類や、水産物の加工残滓からフィッシュ

ミールを生産し養殖餌料とするとともに、その際の副産物である魚油をバイオディーゼル燃料

(BDF)に加工し、漁船や加工場の燃料として活用することにより、水産業をエネルギー消費型の

産業から循環型の産業へ転換する。

さらに、海洋生物資源の持続的利用や海洋生態系保全活動を社会に根付いたものにするためには、

これらの活動への市民の直接的な参加を促進する必要がある。そのためには、海洋生態系の持つ機

能について、研究機関や教育機関等が一体となった普及・啓蒙を図る必要があり、市民にとっても

参加した海洋生物や環境のモニタリングや保全活動等はよい機会となる。また、我が国独自のエコ

ラベルの水産物への積極的な導入も、海洋生物資源の持続的利用や海洋生態系保全を、市民が直接

的に支援するものとして有効である。海洋基本法の成立を期に、国のリーダーシップの下に、産

学官の連携と市民参加により、世界第6位の広さを誇るわが国 EEZ を、第二の国土として、

海洋生物資源の面から有効活用するとともに、国民自らそれを護る体制を確立することが重要

である。

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漁業生産量

576万トン漁業生産額

1兆5千億円潜在的には1,000万トンの生産が可能

海洋生物資源モニタリング体制の拡充・強化生態系の仕組みに基づく生物資源管理方策の策定海洋保護区の設定

海洋生物資源の持続的利用と新しい産業・社会の創出のためのマスタープラン

-海洋生物資源に立脚した新しい海洋国家の創造を目指して

1.わが国経済水域の海洋生物資源の価値

2.海洋生態系の保全と積極的な再生・創成

3.海域の生物生産性の向上と地球温暖化対策への活用

4.新しい産業・社会の創出-新しい海洋国家の創造を目指して

人工湧昇流の発生による生産性の向上炭酸固化体等を利用したマウントの造成栄養塩添加による藻類や大型プランクトンの増殖による二酸化炭素の削減

大規模沖合養殖施設による新たな養殖業の創出未利用資源の利用による新産業の創出海洋温度差発電やバイオディーゼル燃料等のエネルギー産業の創出

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- 1 -

表1 マスタープランの調査・研究開発スケジュール概要。

項 目 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018~ 2025

海洋生態系モニタリング体制

の構築及び順応的資源管理シ 既往の体制・シス 新体制・システム 新体制・システム モニタリング及び管理の継続

緊 ステムの構築 テムの検討 の構築 の検証

急 海洋保護区の設計・評価技術

的 の開発 先進事例分析 設計・評価技術の開発と検証 実用化

取 海洋表層への栄養塩添加、肥

り 沃化技術の開発 人工海山設計技術/肥沃化技術の開発と実証試験 改良と実用化

組 沖合養殖技術の開発

み 先進事例分析 実験施設の構築と実証試験 改良と実用化

水産物の多段階利用と多獲性

浮魚類等からの BDF 生産技術 BDF生産技術の開発 試験プラントによる実証化 改良と実用化

の開発

予算規模(100万円) 8,000 8,000 8,000 8,000 8,000 4,000 4,000 4,000 4,000 4,000

海藻の大量培養によるバイオ

中 燃料量産技術の開発 大量培養技術の開発 試験プラントによる実証化 改良と実用化

長 有用機能遺伝子の探索と活用

期 技術の開発 探索手法の検討 探索の実施 活用技術の検討 実用化の検討 実用化

的 養殖対象優良品種の育種

取 対象種・形質の選択/遺伝子マーカーの特定 マーカー育種の実施 品種の固定 商業ベースでの養殖開始

り 海洋生態系機能の保全への企

組 業・市民参加の促進 エコラベルの導入検討と導入/調査への市民参加の検討と導入 市民参加の定着

み 海洋生態系機能の CO2排出権

取引対象化 CO2吸収機能の定量化 取引市場の形成条件の検討 取引市場の実験的解説と検証 取引市場の運用

予算規模(100万円) 3,000 3,000 4,000 4,000 5,000 5,000 6,000 6,000 8,000 9,000 9,000

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「海洋エネルギー開発」マスタープラン

海洋技術フォーラム海洋エネルギータスクフォース

要旨:地球温暖化を始めとする地球規模の環境問題あるいは資源の枯渇問題に関連し、持続可

能な自然エネルギーが注目されている。しかし、陸上の利用だけでは我が国の消費する全エネ

ルギーの僅か数%を自然エネルギーで賄うのも難しい。この難問を解決するため、広大な EEZを有効活用し、我が国の基幹エネルギーの一つとして「海洋エネルギー」を育てるため国の積

極的なリーダーシップが期待されている。

1. 海洋エネルギータスクフォースの目的

環境への負荷を出来る限り少なくし、循環を基調とする社会経済システムの実現をめざすた

め、太陽光、風力、バイオマス等、自然エネルギーの導入が図られ多様化の進展が期待されて

いるが、基幹エネルギーは依然として化石燃料、原子力に依存している。化石燃料によるエネ

ルギー供給は温室効果ガスの排出を伴うため、資源が枯渇しなくても地球温暖化問題が大きな

課題である。原子力によるエネルギー供給は、温室効果ガスを伴わないため、将来の基幹エネ

ルギーの中心となることは間違いない。しかし、原子力も当面はウランの核分裂による従来型

のため、使用済み核燃料の問題やウラン資源の枯渇の問題がある。これらの問題が将来解決さ

れる可能性はあるが、単一のエネルギー源に全てを託すのはエネルギー戦略として得策ではな

い。

一方、自然エネルギーは少しずつ導入が進められているが、基幹エネルギーと呼べるだけの

エネルギーを得るには、陸上だけではその適地が限られていることが指摘されている。そこで、

我が国の広大な EEZ を利用することが考えられる。海洋エネルギーには陸上でも得られる風力

や太陽光エネルギーを海上で得るものと、波浪、潮流・海流、海洋温度差エネルギーなどがあ

る。また、発電所の温排水は自然起源ではないが、海水の温度差エネルギーであるため海洋エ

ネルギーとして扱った。

海洋エネルギーに関する研究開発は従来から各所で行われているが、我が国では「産業」と

して魅力に乏しいため、なかなか実用化の段階に進めないでいる。ところが、ヨーロッパを始

めとする海外では、洋上風力発電ファームが大々的に建設されている。さらに、かつては我が

国がトップランナーであった波浪発電も商用発電では英国に先を越された。

我が国の多様なエネルギー供給源確保のために、これらの動きに遅れを取ることなく急速に

海洋エネルギーを実用化していかなければならない。そのために、「海洋エネルギータスクフォ

ース」は次のことを目指す。

(1) 短期的には、海洋エネルギーを小規模でも「産業」として魅力あるものにする。

(2) 中長期的には、海洋エネルギーを将来の「基幹エネルギー」の一つとして育てる。

2.

6-5

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緊急的取り組み

将来的には有望な海洋エネルギーであるが、そこへ到達するため短期的にすべきことは何で

あろう。おそらくそれは幾つかの小型プラントで実海域における経験を積み上げ、十分な信頼

性のある大型プラントの設計・建造・運用能力を獲得することであろう。大型プラントが効率

の良いことは様々な研究で明らかにされつつあるが、そこへの道筋が見えなければ産業として

の魅力は産まれない。現在の規模は小さくとも将来の可能性がなければならない。そのために、

小型機の実験場である「ソケット・ブイ」構想を提案する。 一方、海洋深層水や発電所の温排水のように、電力への変換とは異なる方法で小規模ではあ

るが、商用として利用されている海洋エネルギーも存在する。海洋エネルギーの利用では電力

変換に捉われず、様々な形態でエネルギーを利用していくことが効率化のためには大切である。

海洋深層水・発電所温排水の利用はすでに先行した小さな産業であり、将来の大きな産業の芽

として大切に育てていく必要がある。

3. 中長期的取り組み

海洋エネルギーはエネルギー効率が悪いため、大型機を用いてスケールメリットを最大限に

活かさなければ基幹エネルギーとはなりえない。ソケット・ブイ構想で小型機の実海域実験を

積み重ねながら大型プラントの試設計や事業化検討を行わなければならない。また、その際に

は電力網への接続という従来の方法に拘らず、水素などの新しいエネルギー形態によるエネル

ギー輸送も視野に入れなければならない。 海洋エネルギーの形態は様々であるが、プラントを構成する浮体に関する技術や海象や気象

情報は共通化し効率を上げることが重要である。できれば複合施設の利用が望ましい。海洋温

度差発電では、くみ上げられた海洋深層水を飲料水や医薬品などとして利用することも大切で

ある。あるいは深海の栄養素を直接魚類の増産に結びつけることも考えられる。発電所の温排

水も魚介類の養殖・増殖に利用することができる。また、洋上風力発電ファームなどの大規模

な海洋エネルギー利用を沿岸域で実施する場合には漁業協調型システムであることが大切であ

る。海域総合利用や沿岸漁業振興の観点からもそうした複合型プロジェクトが必要である。 このように、海洋エネルギー開発では、従来から積み上げられてきた技術をさらに磨き上げ

るとともに、様々な利用形態の最適な組み合わせを見つけることが大切である。そのためには、

各組織の繋がりを俯瞰できる国の積極的リーダーシップが大きな役割を果すであろう。このよ

うな取り組みにより 2030 年には我が国の全発電電力量(2004 年)の約 10%に相当する 1,000億 kWh を海洋エネルギーで賄いたい。

規 模 年間発電電力量 洋上風力発電 5MW 風車×2、000 基 360 億 kWh 潮流・海流発電 発電機基数 17,000 基 260 億 kWh 波力発電 1MW 級×2,000 基 30 億kWh 海洋温度差発電 100MW 級×40 基 350 億 kWh 海洋深層水・発電所温排水の利用 全発電電力量と同じオーダー α(電力量で表せない)

合 計 1,000 億kWh+α

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ソケット・ブイでノウハウを貯め、大型プラントを建造

海洋深層水や発電所温排水の利用

農水産業などに利用して大きな産業へ

2030 年には我が国の年間発電電力量の10%に相当する 1,000 億kWh を目指す

規模は小さくても魅力ある産業へ

2008 2012 2030

http://www.oceanpd.com

/Pelamis/default.html

国立環境研

By Decherong, G

複合施設で効率 UP

Marine Current Turbine Ltd

漁業との協調

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項目 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 ソケット・ブイの設置 小型発電施設の実海域実験 海洋深層水の利用促進(冷却水、

水産、真水、その他)

発電所温排水の利用

海域選定 設計製造 実海域実験 事業化検討 商用利用

設計製造 実海域実験 事業化検討

小規模事業化検討 事業化促進 小規模事業化検討 事業化促進

緊急的取り組み

予算規模(百万円) 3,000 5,000 5,000 4,000 4,000 大型洋上風力発電の商用利用 大型海流・潮流発電装置の商用

利用 波力発電装置の商用利用

大型海洋温度差発電装置の商用

利用 漁業協調型・複合利用の調査・

プロジェクト提案 海洋深層水の大規模利用 発電所温排水の大規模利用

賦存量・事業性の評価 係留型大型機の試設計 パイロットプラント建造 商用プラント セーリング型の試設計 パイロットプラント建造

賦存量・事業性の評価 試設計 パイロットプラント建造

賦存量・事業性の評価 試設計 パイロットプラント建造

賦存量・事業性の評価 試設計 パイロットプラント建造

予備的調査 事業化検討 パイロット事業

環境影響検討 事業化検討 パイロットプラント建造

中長期的取り組み

予算規模(百万円) 1,000 1,000 1,000 2,000 2,000 10,000 10,000 10,000 10,000 10,000

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1

海洋技術開発マスタープラン概要

1. 目的と背景

本マスタープランでは、海洋において近い将来から今世紀半ばに向けてどのような技術

開発をしていったらよいか、深海底鉱物資源、エネルギー資源、生物資源、海洋エネルギ

ー、海洋情報管理、海洋環境保全の各分野で検討される内容について、事業化、産業化の

取っ掛かりとなる5~10年のパイロットプロジェクトを提案し、あわせて、取り組むべ

き共通基盤技術を提案するものである。

わが国の海洋技術は国全体の強固な産業基盤を背景にして、機器、素材など要素技術に

は強いものがあるが、海洋石油産業のように海洋を対象にした基盤的な産業活動が無いた

め、これらの要素技術を総合して海洋を対象として何らかの目的を達成するシステムを構

築することに関しては、技術の蓄積は極めて脆弱である。このような条件下で、海洋技術

を継承し育ててゆくためには、あるまとまった技術者集団が必要であり、技術者集団を抱

える産業が必要である。技術を育てるためには工学の研究が必要である。産業の育成のた

めには、事業として成立する活動が提案され、発展的な循環を構成することで海洋産業が

自立的に発展するとが必要である。

深海鉱物資源を初めとする各分野においては、技術の観点から過去かなりの技術の開発

と蓄積が行われたが、多くが実現に至らず今日に至っており、このまま放置すると継承さ

れないままわが国から技術が基盤とともに失われてしまう危機的な状況にある。本マスタ

ープランで提案するものは、もう少し後押しすることで、経済性や実現性が確認でき、実

用化の段階に進めそうなものを各分野から技術の観点から選び、実証試験となるパイロッ

トプロジェクトを提案するものである。

(1)海洋におけるパイロットプロジェクト「実験から商業化技術へ」

本マスタープランで提案するパイロットプロジェクトは、海洋において取り組むべき課

題について、5~10年で実証され、早期に実現されるべき具体的なハードウェアを提案

するものである。「実験から商業化技術へ」を主眼として提案するものである。さらに、採

算性は見込めないが、国としての取り組みを必要とするものも含めている。

(2)事業性の向上のための共通基盤技術

海洋における取組みが自律継続的に実施されるためには、事業性の向上は産業の育成の

観点から必要欠くべからざるものである。本マスタープランのもうひとつの観点は、過去

の海洋開発における経験と反省の上にたって、各開発課題の事業性を向上させるために必

要な共通技術とこの育成に向けた取組みについて提言するものである。

6-6

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2

2. パイロットプロジェクトの提案

(1)深層水複合利用(海洋生物資源)

海洋深層水の富栄養性、低温性、膨大な資源量を利用

して、生物生産のための深層水汲み上げによる海域肥沃

化、低温性を利用した発電・淡水化を組み合わせた深層

水複合利用を提案する。汲み上げ量50万m3/日のシステム

を200海里の離島へのインフラ供給施設として稼動させ

るとともに、事業性の確認を行う。

(2)黒鉱型海底熱水鉱床開発(鉱物資源)

需要の増加を受けて価格が高騰している銅、鉛、亜鉛、金、銀の含

有割合が高い黒鉱型海底熱水鉱床開発を対象とした5年間の緊急的

取り組み、コバルト、ニッケル、銅、マンガンの含有割合が高いコバ

ルト・リッチ・クラストに関する10年間の取り組みを提案する。

黒鉱型海底熱水鉱床については、既存の金属乾式製錬技術とリサイ

クル技術の組み合わせ等により、数年以内に開発が可能であると考え

られる。商業化の段階まで持ってゆくプロジェクトである。

(3)資源量調査と天然ガス開発(石油・ガス)

我が国のエネルギー安全保障上の観点から、日本海域に

おける資源量調査と東南アジア・オセアニアの天然ガス開

発をパイロットプロジェクトとして提案する。

(4)海洋エネルギー複合利用実証(海洋エネルギー)

海洋エネルギーの開発に関しては、多くの場合基礎研究、

技術開発の段階は済んでいる。提案するパイロットプロジェ

クトは、風力発電、太陽光発電、潮流・海流発電、波浪発電、

深層水事業性を向上した近い将来の商業化を目標とした実

証プラントである。総合的な事業性評価を行うものである。

(5)CO2海洋隔離システム技術実証試験(地球環境問題)

長大なCO2海洋隔離パイプに関する技術開発と実証試験をパイロットプロジェクトとし

て提案する。洋上基地から長大なパイプを吊り下げた状態で、洋上基地が波浪によって動

揺する状態でパイプを破壊から守る技術の開発、長大なパイプを曳航する場合について曳

航パイプから渦が放出されることによる振動(渦励振、Vortex Induced Vibration)の応

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答評価技術と設計技術の開発を行い、多目的海洋技術試験船を利用して実海域実験を実施

して技術の完成を行う。

(6)浮体式物流基地(海洋空間利用)

海洋の空間利用は基本的な技術開発は済んでおり、実証

試験も終了している。地域の社会経済の特性を考慮した中

規模程度の浮体式物流基地を計画し、パイロットプロジェ

クトとして実施して実用化への弾みをつける。

(7)海洋観測基地・ネットワーク基地(海洋情報産業)

海洋・気象現象を長期にわたり数千mの海底から海上ま

で立体的・総合的に高い精度で、且つ無人で計測し、リア

ルタイムでデータを伝送できる超大型のスパー型海洋定点

観測プラットフォームの開発と、外洋において継続的な海

洋観測,漁業資源調査ならびに水産業を主体とする海洋利

用技術に関する試験的事業などを実証実験できる浮体式大

型海洋観測基地の開発をパイロットプロジェクトとして提

案する。我が国の排他的経済水域(EEZ)の調査・開発・保

全および離島の振興を目的としたネットワークシステムの

構築のために必要となる海洋ネットワーク基地を提案する。

(8)海洋生態系実験施設(海洋環境保全)

地球温暖化など、地球環境問題に関して、環境影響を

評価するための海洋生態系実験施設をパイロットプロジ

ェクトとして提案する。

3. 共通基盤技術

浮体の動揺低減技術により動揺特性の良い浮体をより小さな浮体で実現、施設の寿命を

長くすることによる経済性の向上など、技術開発のコストを低減するなど、事業性を向上

するための共通基盤技術を提案する。

1)軽量低動揺浮体の開発

2)ライフサイクルコスト低減技術

3)位置保持技術

4)ライザー技術

5)サブシー技術

6)低コストで実証試験が行える体制作り 多目的技術試験船・海洋技術試験場

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4. 開発のロードマップ

パイロットプロジェクトと共通基盤技術を併せて、開発のロードマップを提案する。パ

イロットプロジェクトについては短期間で実証試験を行い事業化の目途をつけることを目

的としている。共通基盤技術は、パイロットプロジェクトで確認される事業性の更なる向

上を図る観点から、短期間で開発し実用に供することを目的とする。

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1

産官学

ⅰ)リエゾンオフィス情報戦略・管理

ⅱ)海洋情報産業の育成

ⅳ)海洋情報管理システム

ⅲ)統一された海洋観測

国際協調

GEOSS・地球温暖化・海洋環境保全

海洋産業の創出による

海洋立国の実現

持続的・統合的な海洋情報管理を国際社会と協調しか

つ独自性を保ちながら実現

海洋情報管理 TF マスタープラン ―海洋基本計画への提言―

1. Vision: 海洋情報戦略―海洋国日本として― 地表の 70% を占める海洋は、地球温暖化・気候変動、環境保全・修復、食料・資源・エネルギー確保、

安全・安心、防災・減災など 21 世紀の人類が直面する様々な問題を解決するために重要な役割を果た

す。その海洋を知る(科学)、利用する(工学)そして海洋から新たな財産を生み出す(産業)ための

基盤は、海洋情報である。国民の総意としての海洋開発の理念に基づいて、新たな海洋産業を創出し、

「海洋立国」を目指すわが国は、国際競争力を持って海洋情報を独自に管理・発信することを強く望

まれている。同時に、地球規模の気候変化への対応のためには、海洋情報の共有を国際協力のもとで

行う必要がある。このような、持続的・統合的な 21 世紀の海洋情報管理を国際社会と協調しかつ独自

性を保ちながら実現するために「海洋国日本」として4つの提言を海洋技術フォーラム・海洋情報管

理タスクフォースとして行う。これらにより、我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向

上を図るとともに、海洋と人類の共生に貢献する(海洋基本法第一条)。

i) 海洋情報戦略・管理を担うリエゾンオフィスの設置 ii) EEZ を中心とした海洋産業創出のため、海洋情報管理と利用を推進する、海洋情報産業の育成 iii) 統一され持続的な EEZ の海洋観測・監視網の構築 iv) 独自性と協調性を両立するための海洋情報管理システムの構築

2. Overview: 海洋立国と国際協調 わが国をとりまく排他的経済水域(EEZ)における独自の海洋観測網、海洋情報管理システムの構築

は、生物鉱物資源・エネルギー開発など新たな海洋産業の創出に貢献することが期待される。一方、

地球温暖化・海洋環境保全などの観点から、国際的な観測計画との連携、持続性により全球地球観測

システム GEOSS の実現へも貢献する。地球規模の変動を監視する長期間(50年程度)にわたって

持続的に維持されるべきシステムの構築を念頭に、海洋国日本としての独自性を保てるようなシステ

ムの構築を目指す。わが国における既存の海洋観測網は、世界有数の規模であるが、必ずしも連携が

取れていないこと、また、50年という長期間にわたって持続すべく、センシング、観測プラットフ

ォーム、通信など最新の技術の導入を継続して行う必要が有る。海洋新産業創出のためには、取得さ

れた海洋情報は適宜加工し速やかにユーザーに配信すること、また、独自性と協調を両立させるため

に、あらたな海洋情報管理システム(参考1)を構築する。このようなシステムの実現は、これまで

独自の観測、情報管理、研究開発を行っていた産官学の連携を新たに構築するリエゾンオフィス(内

閣官房・総合海洋政策本部のもとに設置する)で推進する。

図1 海洋立国と国際協調

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海上輸送海上輸送海上輸送

海底資源開発(鉱物・天然ガス・メタンハイドレートetc)

海底資源開発海底資源開発(鉱物・天然ガス・(鉱物・天然ガス・メタンハイドレートメタンハイドレートetcetc))

自然エネルギー(洋上風力・波力・

潮力 etc)

自然エネルギー自然エネルギー(洋上風力・波力・(洋上風力・波力・

潮力潮力 etcetc))水産業水産業水産業

海洋レジャー海洋レジャー海洋レジャー

海洋情報産業海洋情報産業予測・現況データ、平年値、観測データ等の海洋産業が必要とする海洋情報を、必要とされる形態で作成・提供する

海洋産業

利用項目:安全操業、シップルーティング環境影響評価、資源量予測、適地選定、設備設計 etc

3. Prospect: 21 世紀の海洋情報 何が必要か

[観測]

現在、地球温暖化による砂漠化や海面上昇、自然災害(地震・津波・台風など)、植生の変化、オゾ

ン層の破壊、海洋汚染、漁獲量の変動など、われわれは幾つもの危機に直面している。わが国は、

国際協力(全球地球観測システム GEOSS)により包括的に調整され、継続的な地球観測を実現し、災

害軽減、海洋監視および海洋資源管理を持続すると同時に、海洋国日本としての独自性を保てるよ

うな EEZ の海洋観測・監視網を早急に構築する必要がある。これらの海洋情報は、持続性・緊急性・

要求される観測精度や観測の時空間的解像度などの特徴がそれぞれ異なっており、海洋産業創出に

直接寄与する海洋情報の提供を実現するには、様々なニーズに対応できる時間的、空間的スケール

におけるマルチパラメータ観測網の構築と、観測網連携に必要となる観測現場での品質管理、統合

的な情報管理に至る一連の体制構築が必要となる。このように、21 世紀の海洋観測網はスケーラブ

ルであり、センシングは、マルチパラメータ、マルチスケールであることが求められる。

[海洋情報管理] EEZ を中心とした海域での産業創出、海洋開発における適地選定・環境影響評価を行うために、その

海域がどのような資源的ポテンシャルを持っているのか、海洋開発に対してどの程度の環境汚染の

リスクが潜在するのかを正確に把握する必要がある。そのためには海洋に関するあらゆる自然科学

的情報や経済活動の情報を収集し、一元的に管理して、国民のコンセンサスを得た海洋開発の理念

に基づき産業界へ提供していく必要がある。海洋情報には、国が国として収集・提供すべき海洋情

報と、産業界が独自で取得・利用すべき海洋情報があり、官民がこれらの情報の独自性を理解しつ

つ、相互の情報の共有を進めるべきである。将来的には、主要な海洋調査の担い手である国は調査

により得られた国内の海洋情報を集約し、利用しやすい形に整理して提供すべきであり、国と産業

界の海洋情報の共有と独自性を両立できる情報管理システムを構築するべきである。

[リエゾンオフィス]

既存の観測・予測システムの強化・継続、省庁・海洋関連機関の連携と日本国内の海洋データ管理

体制を確立すること、長期的な展望のもとで解決すべき技術課題を観測技術・通信技術・情報管理

など要素毎に明らかにして開発すること、が重要となる。これまで独自の観測、情報管理、研究開

発を行っていた産官学の連携を新たに構築するリエゾンオフィスの設立が望まれる。一方、データ

統合・解析システムの効率的運用には観測データを効果的・効率的に収集・共有・提供することが

重要となる。そのためにもリエゾンオフィスを中心にして data policy を構築するとともに、それ

を根付かせるしくみをつくる必要がある。

[海洋情報産業育成]

既存の産業を基盤とした海洋産業の拡大と同時に、新規産業誕生を促進する必要が有る。海洋情報

産業では海洋情報管理システムで管理する海洋情報を有効に産業界に活用し、予測・現況データ、

平年値、観測データ等の海洋情報を必要とされる形態で作成し広くユーザーへ提供し、EEZ の有効

な活用を促す(図 2)。

図 2:海洋情報産業で実現する海洋産業創業支援のイメージ

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AUVによる観測(EEZ内を巡回)

船舶による観測ブイによる観測

衛星・航空機による海面観測

衛星・ブイ・AUV・船舶等の複合観測によるEEZ内統合的監視網の構築

底置観測機(ADCP等)

海底ケーブル

何が出来るようになるか ―観測・予測・情報通信技術、海洋新産業の展望― 21 世紀には、人工衛星・航空機・ブイ・船舶・海中ロボットなどプラットフォーム、リモートセンシ

ング(レーダー・ライダー・音響など)・現場観測(CTD・ADCP・波高計・マイクロデバイスなど)

におけるセンサー技術、データの通信技術(携帯電話・海底ケーブルなど)、データの外挿・品質管理

などデータ同化・シミュレーション技術、それから、ユーザーのニーズに合わせたデータの加工(可

視化・高付加価値など)の一体的運用が実現する。海洋観測プラットフォームとしては、海洋観測衛

星は複数衛星の同時観測による観測インターバルの縮小、災害監視などの緊急対応、高解像度化、デ

ータの低価格化などの開発が期待される。また、Argo のような漂流ブイはより知的な海中ロボットに

とってかわり、長期的な観測の持続のために、海底ケーブルネットワークを利用した、電源補給、デ

ータ転送などが実現されるであろう。海底ケーブルはそれ自体が地震監視など重要な観測プラットフ

ォームとなる。また、マイクロデバイスなどセンサー技術の進展によりセンサーの軽量化が図られ、

マルチパラメータ観測が実現される。センサーの小型化により生物タグセンサーを利用した観測網構

築も実現するであろう。膨大なデータは、陸上と海上プラットフォーム(船舶・漂流ブイなど)との

通信のブロードバンド化、AUV などのプラットフォームとの海底ケーブルを利用した通信などあらた

な通信技術の利用が行われるであろう。このような 4 次元観測(図3)は、地球シミュレーターの数

百から数千倍規模の計算資源を活用した、マルチフィジックス・マルチスケールシミュレーターの活

用により、さらに高解像度化・高精度化が図られ、特定のユーザーに適した管理・加工を経て配信さ

れる。気候変化、安全・安心、防災・減災、環境保全、海洋産業創出に関与する研究・開発機関およ

び産業が主ユーザーとなり、教育・啓蒙、芸術・娯楽など、新たな産業が誕生する可能性も有る。21世紀の海洋産業(次世代型海洋産業)を考える場合、造船業、海運業、海洋施設関連業、水産業とい

った既存産業を基盤としつつも、これらの既存事業の枠にとらわれないより多くの新規事業が創成さ

れる。例えば、中小企業支援を取り込んだ海洋産業の育成・支援、海洋情報による海洋教育、海洋か

ら得た情報の芸術や福祉への利用など、海洋情報は我々の予想のつかない利用をされることが十分に

予想される。

図 3 EEZ 統合的監視網による 4 次元観測

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4. Current Status: 現状 国際協力のもと、また独自に行われている海洋観測として、Argo、Tao-Triton、VOS Program、NDBC /NOWPHAS など定点観測ブイ、そして海洋観測衛星などがある。このような観測データは、海洋予

測システムにより統合される。全球での海流の予報を目的とした国際プロジェクト GODAE(Global Ocean Data Assimilation Experiment)は萌芽、開発、現業化と進展し、現在は技術集約と現業移植

(2006-2007)という目標にしたがって、全世界の国々が取り組んでおり、各国気象関係機関による海

洋予測システムの現業化(フランス・Mercator、オーストラリア・BlueLink、日本・気象庁 Move・水産庁-海洋開発研究機構 FRA-JCOPE など)といった成果が上がっている。その中で、情報通信・

管理を行うソフトウェアの開発は米国を中心とした OPeNDAP、また、日本における Editoria などの

例があげられる。 しかしながら、これら観測の大半が研究を目的として計画され、一方、既存の EEZ 内の定期的海

洋観測は、予算の減少や油代の高騰により、その維持は非常に難しい局面にあり、必ずしも長期間にわたっ

ての観測の持続性は保障されていない。また、特定の産業における利用を目的としたものも無い。海

洋予測システムが、新たな産業の創出につながるような海洋情報として利用された具体例もない。海

洋情報管理も、現状では、米国、欧州、日本において独自に開発が進められており、今後 GEOSS の

実現に向けて、連携を図る必要がある。 米国では、10組織(15 省庁)連携により海洋の持続的・統合的な観測を実現すべく Ocean.USを 2000年に設立し、IOOS (Integrated Ocean Observation System)、GOOS(Global Ocean Observing System)、そして GEOSS の推進を行っている。情報管理を担う DMAC (Data Management and Communications) は、IOOS 推進の中心であり、沿岸・全球観測網の連携および、観測からユーザーま

での連携を図る。同様なプログラムとして欧州では、SeaDataNet (Pan-European Infrastructure for Ocean and Marine Data Management 2006-2010)が設立された。バルト海、黒海、地中海そして北

東大西洋に接する 35 カ国、49 海洋観測機関が参加し、効率的な海洋データ管理を行うことを目的と

し、現場観測、衛星観測、予報などを統合する。 日本国内では、「データ統合・解析システム」(国家基幹技術~海洋地球観測探査システム~)の

開発(EDITORIA)が、東京大学・JAMSTEC・JAXA の連携により進められている。海洋に特化したも

のではなく、衛星観測、海洋観測、陸上観測などの観測データを科学的・社会的に有用な情報に変換

し、その結果を社会に提供することによって、観測データを人類社会の利益に結びつけるツールの開

発と運用を目的とする。 このように、国内での省庁・海洋関連機関の連携は、米国・欧州に大きく遅れを取っている。ツ

ールの開発にとどまらず、組織間の連携、日本国内の海洋データの管理体制を早急に確立しないと、

GEOSS など国際連携、EEZ 内の海洋開発といったアジアにおける喫緊の問題への対応も遅れるであ

ろう。そのために、米国 Ocean.US に相当するような省庁および産官学連携体制を確立するための準

備組織としてのリエゾンオフィスを内閣官房・総合海洋政策本部のもとに設置する必要がある。

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Ver3.1 08/28/2007

5

2007 2008 2013 2018 ~2028

基本計画への提言

ⅰ)情報管理リエゾンオフィス設置EEZ統合的監視網の立案情報管理システムの立案海洋情報産業の支援Umi.JP(仮称)の設立

ⅲ)EEZの統合的

監視網の構築技術開発

観測網の展開・確立維持・持続的な発展

国際協力・情報一元化・産官学連携

ⅳ)情報管理シス

テムの構築体制・システムの構築

システムの維持持続的な発展

ⅱ)海洋情報産業

の育成産業育成支援

EEZの統合的監視網の構築・持続:100億円/年情報管理システムの構築・維持:20~30億円/年(海洋産業育成を含む)

最適な観測技術の組合せによる統合的観測網を実現

50人規模の体制で、予測情報等の

海洋産業が求める基盤情報を提供

5. Proposal:提言 [ゴール] EEZ 内の海洋開発を促進し数兆円規模の海洋産業を創出するために

・ EEZ 内に統合的・持続的海洋観測網を構築 ・ 海洋開発における適地選定・環境影響評価などに資する海洋情報の一元的管理 ・ 数 100 億円規模の海洋情報産業の育成

[タスク] 観測計画 複合観測による EEZ 内統合的監視網立案および技術開発課題抽出 情報システム 国として提供すべき情報、民間独自で取得すべき情報の仕分けを行い、情報の共有

と独自性を両立できる情報管理システムを構築する 情報産業育成 海洋開発における臨界運用・安全確保の支援等、民間海洋予報業務など新たな情報

産業を育成する 目標を実現すべく、1 ヵ年(準備期間)、5 ヵ年(中期)、10 ヵ年(長期)計画を提案する。 1 年目の目標:統合的な海洋情報管理を実現するため、調整を行うための産学官連携の海洋情報管理リ

エゾンオフィスを設立する。産官学の連携を強めるとともに、持続的で統合的な海洋観測システムの

構築(観測計画立案)、共通する海洋情報の一元化(情報システム立案)、海洋情報産業育成と事業評

価により社会的な需要・評価を観測・予測へ還元すること(情報産業育成)。 5 年目の到達目標:50 人規模の体制で、以下を実現する:海洋産業創出のために、既存の観測・予測

システムの強化と持続を開始する。長期的な展望のもとで、解決すべき技術課題を、観測技術・通信

技術・情報管理など要素ごとに明らかにし、開発を開始する。国内既存の観測網の統合のために管理

の指針を示す。また、他プログラム(例えば EDITORIA)との連携を具体化する。そして、リエゾンオ

フィス機能を強化し持続するため、恒久的な組織(仮名:Umi.JP)を設立する。 10 年目の到達目標:国内観測網構築、一元情報管理体制の整備、国際的な連携の具体化。情報産業の

拡大。システムの維持と持続的な発展。 [ロードマップ] UMI.JP: Unified Marine Infrastructure of Japan

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Ver3.1 08/28/2007

6

Obs 1

Obs 2

Obs 3

Obs N

FCST 1

FCST 2

FCST M

USR 1

USR 2

USR K

Hub 1

Hub 2

Hub K

QC

QC

QC

Hub間の連携 e.g. Hub1 温暖化予測Hub2 海洋産業創出

参考1:システム 海洋情報基盤は、複数の海洋観測網(OBS)、予報センター(FCST)とユーザー(USR)により構成

される。観測された情報は品質管理(QC)を経て、予報センターにおいて数値予報の結果と統合され

る(データ同化)。ここで、情報を取捨選択し加工・配信する役割を果たすのがハブ(Hub)である。

多様なユーザーに対応し海洋情報を管理する Hub は必然的に複数独立して存在し、Hub 間では必ずし

も情報の共有は前提ではない。そこで、複数の Hub 間で共有できる情報、出来ない情報を明確にし、

共有できる情報・技術を共有するために、Hub そのものに関する情報管理を行うのが Hub-of-Hubsである。(e.g. Hub が国家プロジェクト、GEOSS が Hub-of-Hubs 的な活動と考えると、国家として

の独自性と国際協調の両立が実現可能) 海洋情報には、海洋観測や予測による自然科学的な情報に限定せず、ユーザーが必要とする社会に関

する情報(e.g.気象災害発生・被害統計)も含む。また、情報通信基盤には、ハードウェア(e.g.海底

ケーブル、衛星通信)、ソフトウェア(e.g.メタデータ、カタログ)を包括した、スケーラブルなネッ

トワークが必要である。そのためには、Hub 間で通信プロトコルの共有もしくは連携のための翻訳機

能が必要となる。 付録:海洋情報管理タスクフォース名簿 山口 一 東京大学工学系研究科環境海洋工学専攻 早稲田卓爾 東京大学工学系研究科環境海洋工学専攻 浅田 昭 東京大学生産技術研究所 中田 薫 水産総合研究センター 本部業務企画部 園田 朗 海洋研究開発機構 横浜研究所 海洋地球情報部 データ統合・解析グループ 木場 正信 三菱総合研究所 科学技術研究本部 地球科学技術グループ 角田 智彦 三菱総合研究所 科学技術研究本部 地球科学技術グループ 田中 瑞乃 NTT データ経営研究所 溝内 辰夫 NTT データ経営研究所 アドバイザーとしてご協力いただいた方々 渡辺 一樹 海上保安庁海洋情報部海洋情報課 道田 豊 東京大学海洋研究所 小池 俊雄 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻

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1

平成 19 年 9 月 5 日 「海洋環境保全・創成」マスタープラン概要

1.マスタープランの概要

内海性浅海域では、陸域からの負荷の増大とともに、埋立や干拓による干潟や浅場の減少に伴い自

然の浄化能力が低下してきたことから、赤潮のような単一種の異常発生や底層の貧酸素化、硫化物を

含む無酸素水塊の湧昇で生じる青潮等が、沿岸生態系に壊滅的な打撃を与えている。また、外海域や

中深海においても、大気中 CO2 濃度の上昇による表層酸性化と、それに伴う中深海への沈降有機物

の減少による生態系の変化等が危惧されている。このように、現状のままでは生態系の維持・生態系

サービスの持続的利用が困難になるとの危機感が高まっている。 一方で、海洋には持続的生産が可能な未利用資源が多く残っており、その利用は人類の発展に多大

な恩恵を与える。海底油田や他の資源開発、CO2 海洋隔離、深層水汲上げや栄養塩散布、海洋エネ

ルギー開発、大型浮体の設置等に伴う環境改変などの海洋の大規模利用を普及させるためには、環境

と開発を二元論として捉えるのではなく、海洋環境保全のみならず、開発に伴う環境改変を新たな環

境創成として考え、計画時から環境調和型の開発を目指した研究開発を行う必要がある。 この時考えなくてはならないのが、生物多様性と生態系機能の保全である。生物多様性の減少は、

長期的に見ると生態系の安定性低下につながると考えられる。限られた海域で、ある生態系機能を最

大化するとき、多くの場合、生物多様性との両立は困難である。そこで、個々の局所個体群より上位

のメタ個体群・メタ群集で管理を行うといったように、管理を行う空間スケールを拡大して両立を図

るという考え方がある。浅海域においては、幼生の移動などの局所個体群の連携を考慮し、各海域を

目的によって使い分け、上位の空間スケールで管理する。深海においては、より多段な海水層におい

て機能と多様性を確保するということになる。 このような海洋環境の保全・創成を達成するには、まずモニタリング調査による現状と開発による

環境変化の把握を基盤とした環境影響評価技術が必要になる。例えばバイオセンサー、化学・生物成

分の現場型の自動試料採取・計測システム機器、モニタリングに関する国内外のネットワーク化の拠

点確立を拡充・強化することが緊急の課題である。モニタリングには、開発事業や自然再生事業の監

視と、特定事業に関係なく広く汎用性の高いデータを記録・蓄積するものがある。いずれの場合もデ

ータベースの構築は重要となる。 次にこれらの情報を広く社会に公開し、その上で合意形成を図り、意思決定することが肝要になる。

そこには、陸域・大気・海洋の区別なく地球規模での環境へのインパクトを包括的に評価するため、

政策決定者や一般市民にわかりやすい指標の開発も必要となる。 また流出油や化学物質の汚染などには、対策技術開発が必要である。海洋の開発に伴う環境改変を

最小限に抑えるための技術開発も重要となる。予想されるハザードの因果関係を示すハザードマップ

を作成し、環境リスクを定量化するために必要なデータを計測・収集する。またリスクの高いハザー

ドに関して、ハザードマップに示される因果関係を効率的に断絶することが効率的な対策技術となり

得る。さらに、対策技術が新たな環境変化を生み出すことも考えられるため、またモニタリングに戻

って、環境影響評価から始める必要性が生まれる。 このように、モニタリング・情報公開による合意形成・対策技術といった一連のループを常に回し

続けることによって順応型管理を行うことが、海洋環境の保全・創成の基本的な考え方となる。順応

型管理の促進のためには、生態系の持つ環境への適応能力の評価、環境と生態系の安全性の評価手法、

6-8

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2

環境と生態系の撹乱が最小に抑制できるエコ技術の開発等も重要な調査研究開発の課題である。この

課題の検討には現場の環境と生態系の相互関係を的確に評価できるマクロからミクロまでのマク

ロ・メソコスムの実験装置の開発と運用が重要な課題となる。またどのような生態系の構築が環境変

動に対して対応できるのか、あるいは食糧生産に繋がるのかも重要な検討課題である。特に海洋の植

物プランクトン・動物プランクトン・微生物の複合共生系の利用、サンゴ礁、藻場、マングローブ等

の主要な沿岸生態系の複合的機能性の利用が考えられており、このような海洋生態系の多角的・多面

的利用の高度化を促進するためにはそれぞれの生物種・生態系の機能性・特徴をシステムとして把握

する科学的技術開発が必要となる。 2.プロジェクト例

(1) 沿岸域環境再生技術開発 順応的管理に適した低コスト修復技術、モデリング連動型モニタリング技術、陸・海域の

バランスを考えた栄養塩サイクル最適化、バイオレメディエーション、有害物質除去技術。 (2) 環境変動に伴う海洋生態系の応答実験

(ア) 外海域環境影響評価システムの開発 マクロコスム(外洋現場型生態系シミュレータ)を用いて、開発段階からの環境リス

ク抽出および、順応型管理による環境調和型システムを創成。 (イ) 室内実験による生物影響データ計測技術の開発

対象生物(動・植物プランクトン、無脊椎動物、魚類)を用いた試験データの蓄積、海

洋生物試験法の確立(淡水生物は室内実験の公定法確立。海洋生物は不備) (3) 油汚染対策技術開発

漁業被害予測モデル、生態系回復モデル、流出油防除作業意思決定支援ツール、沈船の情

報管理と潜在的危険性予測、沈船からの油流出予測技術開発。 (4) 包括的環境影響指標の開発

地球環境に対する包括的な環境影響評価指標として、資源やエネルギーの利用、廃棄物の

処理などに必要な生態系の生産能力や、人体や生態系へリスクを統合した指標を提案。 (5) 海産バイオマス利用による循環型沿岸環境再生

過栄養状態の人工干潟や人工磯などからアオサやムラサキイガイなどが枯死・死亡する前に

バイオマス資源として回収し、燃料や肥料などの有効利用を行うシステムの開発。 (6) 東アジア海域の海洋環境保全

(ア) 沿岸環境保全研究に関してアジアにおける強力な共同体を構築。 (イ) 日本海の環境保全に関して国際的な連携を強化。

(7) 海洋機能遺伝子の統合情報解析 海域を複数選定し、個々の生物群について異なる機能遺伝子の存在と多様性を網羅的に調

べる。これによって機能遺伝子群の海洋での分布様式と多様性を明らかにする。

(8) モニタリング技術の高度化 (ア) 生物運動型潜水機の研究開発と利用 (イ) 有害藻類検出用ナノロボットの開発 (ウ) 深海微生物探索技術開発 (エ) 衛星・飛行船・AUV を用いた 3D 高精度マルチスケール情報化利用

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3

3.ポンチ絵

モニタリングの重要性(油流出の例)

外海域環境影響評価システム(マクロコスム+順応型管理)

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4

4.ロードマップ

項目 2008 2009 2010 2011 2012 2013-2018 2018-2023 沿岸域環境再生技術開発

順応的管理用低コスト修復技術 モデリング連動モニタリング技術(5 億/年) 陸海域栄養塩

(0.5 億/年) サイクル最適化

有害物質除去技術の高効率実用化(5 億/年) (10 億/年)

外海域環境影響評価シス

テムの開発+包括的環境

影響指標の開発

マクロコスム設計(2 億/年) マクロコスム実験(2 億/年) 予測モデル開発(0.2 億/年) 指標化と合意形成(1 億/年)

室内実験による生物影響

データ計測技術の開発

対象生物の探索 海洋生物試験法の確立 実用化 試験装置の試作 (0.5 億) (公定法マニュアル作成) (0.5 億)

油汚染対策技術開発 沈船の情報管理(0.1 億/年) 沈船の油流出予測技術開発(0.5 億/年) 漁業被害モデル(0.3 億/年) 生態系回復モデル(0.4 億/年) 流出油防除意思決定ツール(1 億/年)

海産バイオマス利用に よる循環型沿岸環境再生

地域情報収集 プラント建設・試運転(3 箇所) (0.1 億/年) (15 億/年) 回収システム開発(0.3 億/年)

生物運動型潜水機の 研究開発と利用

魚型水中ロボット開発(10 億/年) マグロの群れを誘導・追込(5 億/年)

有害藻類検出用 ナノロボットの開発

ナノロボット基礎研究(5 億/年) ナノロボット開発(10 億/年) 実装実験・実用化

(10 億/年)

深海微生物探索 技術開発

深海微生物の網羅的調査(現場遺伝子レベル増幅技術) 事業化 5 億/年) 人工的発現(タンパク質合成)(5 億/年)

衛星・飛行船・AUV を 用いた高度情報利用

飛行船を使った IP 高速伝送実験(5 億/年) 実用化検討(10 億/年) AUV・ROV 観測技術高度化(5 億/年) 衛星軽量化・複数打上(10 億/年)

予算規模(億円) 44.0 58.9 59.4 68.4 63.4 44/年 20/年

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資料 7

マスタープラン

(1) 海洋生物資源 (2) 海洋エネルギー (3) 海洋技術開発

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海洋生物資源の持続的利用と新しい産業・社会の創出

のためのマスタープラン

-海洋生物資源に立脚した新しい海洋国家の創造を目指して-

平成19年8月

海洋技術フォーラム・海洋生物資源タスクフォース

7-1

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海洋生物資源の持続的利用と新しい産業・社会の創出のためのマスタープラン

-海洋生物資源に立脚した新しい海洋国家の創造を目指して

目 次

1.タスクフォースの目的と背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.1 海洋生物資源の定義と特徴

1.2 わが国排他的経済水域の海洋生物資源の価値と取り巻く状況

1.3 海洋基本法の制定とタスクフォースの目的

2.海洋生態系の保全と積極的な再生・創成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・2

2.1 海洋生物資源および海洋生態系のモニタリング体制の拡充・強化

a.モニタリングの必要性

b.総合的なモニタリングシステムの構築

2.2 海洋生態系の保全・再生・創成技術の開発

a.海洋保護区による海洋生物資源および海洋生態系保全技術の開発

b.沿岸域の総合的な管理と生態系の再生・創成技術の開発

3.海域の生物生産性の向上と地球温暖化対策への活用 ・・・・・・・・・・・・5

3.1 海域の生物生産性の向上技術の開発

3.2 地球温暖化対策へ向けた技術開発

a.二酸化炭素の固定・吸収における海洋生物過程の役割

b.海洋生物過程を利用した地球温暖化対策技術の開発

4.新しい産業・地域社会の創出による新しい海洋国家の創造 ・・・・・・・・・7

4.1 安全・安心な水産物増産のための革新的増養殖技術の開発

4.2 海洋生物資源および海洋生態系機能に基づく新産業の創出

a.海洋生物資源の循環利用技術の開発

b.新産業創出のための海洋生物資源および海洋生態系の利用技術の開発

4.3 新しい地域社会と海洋国家の創造

a.秩序ある海洋空間の利用と海洋生物資源や海洋生態系の保全

b.漁村と都市の交流を通じた沿海地域の活性化と海洋産業拠点の整備

5.海洋生物資源の持続的利用を推進する上で必要となるその他の課題 ・・・・11

5.1 支援技術の開発および制度の拡充

a.生物資源モニタリング技術の開発

b.データロガー技術の向上

c.大容量データ通信技術の実用化

5.2 国民へのアウトリーチの拡大

5.3 国際協力の推進

6.参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

付録 タスクフォースメンバー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

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1

1.タスクフォースの目的と背景

1.1 海洋生物資源の定義と特徴

海洋生物資源とは、海洋生物のうち何らかの形で人類が利用しているか、利用する可能性

があるものを指す。水産資源はその典型であるが、現時点では水産業によって利用されてい

ない海洋の中・深層に生息する魚類や沿岸域の多種多様な海藻類も、将来の食料資源や機能

性素材、バイオ燃料の原料として利用される可能性がある。また、海洋細菌をはじめとする

海洋微生物も、遺伝資源の宝庫として期待される重要な海洋生物資源である。さらに、ダイ

ビングや自然観察の対象としてのサンゴ礁、浅海域の多様な動物相や植物相、鯨類やイルカ、

遊漁や潮干狩りの対象としてなど、海洋生物は観光資源としても利用されている。

鉱物資源などの他の天然資源と異なり、海洋生物資源には、「再生産性」、「相互作用性」、

「移動性」という3つの特徴がある。海洋生物資源は、親が子を産むという自律的な再生産

過程を通じて資源が更新される。このため、漁獲量や漁獲努力量の制限や禁漁期や禁漁区の

設定等を通じて再生産過程を適切に管理することにより、将来にわたり持続的な利用が可能

である。また、海洋生物資源のそれぞれが、海洋生態系の構成要素の一つとして、捕食者と

被食者、餌や生息場所を巡る競争者等の種間関係を通じて相互に作用しており、海洋生態系

において重要な役割を担っている。このため、利用にあたっては、海域における生物多様性

の保全や海洋生態系全体の構造や機能が維持できるように配慮する必要がある。さらに、殆

ど全ての海洋生物種が、その生活史の一時期あるいは生活史全体を通じて広範囲に移動ある

いは拡散する性質を持つ。回遊や生活史初期段階での海流や潮流による拡散など、自然的な

移動・拡散に加えて、近年では、船舶のバラスト水への混入や輸入水産物に付随しての外来

海洋生物種の侵入が大きな問題となっている。したがって、海洋生物資源の管理と保全にあ

たっては、対象資源の分布・回遊の広がりに応じた広域的、国際的な連携が必要である。

1.2 わが国排他的経済水域の海洋生物資源の価値と取り巻く状況

わが国は、国土面積の 12 倍、447 万k

㎡に及ぶ亜熱帯から亜寒帯に至る世界第

6位の排他的経済水域(EEZ;図1)を

持ち、多様な生態系と高い生物生産性に

より、世界有数の水産国として、多様な

海洋生物を水産資源として利用し、国民

への安定的な食料供給に貢献してきた。

わが国の伝統的かつ現時点で最大の海

洋産業である水産業の経済規模は、最近

では海洋での漁業生産金額が年間1兆 5

千億円、水産物の輸出入金額が年間1兆

8 千億円におよぶ。食品加工や流通部門

を含めると、水産業関係全体の経済規模

はさらに大きなものになる。また、藻類

等からのバイオ燃料の抽出など食品に留

まらない利用の可能性があるほか、各種 図1.わが国の排他的経済水域(EEZ)

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2

の観光資源としての価値、藻場や干潟が持つ水産資源の涵養や海域の浄化、海洋の生物生

産過程における二酸化炭素の固定・吸収などの海洋生物資源や海洋生態系の持つ多面的な

機能を加えると、海洋生物資源および海洋生態系が持つ現在および将来の経済的な価値は

極めて大きい。しかしながら、天然の水産資源の多くが低水準に留まっており、従来からの

沿岸域の開発や陸域からの化学物質の負荷に加えて、地球温暖化、有害生物の大発生、外来

生物の侵入等の問題が、わが国周辺海域の水産資源の減少や生態系の機能の低下を加速して

いる。

世界人口の増加と開発途上国の経済発展によって、近年、世界的に水産物への需要が増大

しつつあり、食料資源としての海洋生物資源への依存が今後さらに高まることは確実である。

また、地球温暖化対策の観点から、バイオ燃料の原料としての海洋生物資源を利用する必要

性も増大するほか、海洋の生物過程における二酸化炭素の固定・吸収機能にも注目と期待が

高まっている。まさに、将来の人類の生存は、海洋生物資源の持続的利用に掛かっていると

言っても過言ではなく、海洋生物資源および海洋生態系を適切な状態に維持しつつ、持続的

に利用するための研究開発が極めて重要となっている。

1.3 海洋基本法の制定とタスクフォースの目的

海洋基本法が定める主要な施策のうち、海洋生物資源と直接的に関連するものとしては、

「持続可能な海洋資源の開発・利用の推進(第 17 条)」、「海洋環境の保護・保全及び再

生の推進(第 18 条)」および「沿岸域のより良い利用と管理(第 25 条)」があり、海洋環

境や生態系の保全に基づく、海洋生物資源の持続的利用の重要性が強調されている。

さらに、「わが国海域の管理の確立(第 22 条)」、「海洋に関する科学技術の研究およ

び開発の推進(第 23 条)」、「海洋産業の育成および振興(第 24 条)」、「海洋の国際秩

序の先導と国際協力の推進(第 27 条)」および「海洋に関する国民の理解増進と海洋教育・

研究の拡充(第 28 条)」なども、海洋生物資源の持続的利用を推進する上で重要な施策で

ある。

海洋基本法の成立を期に、国のリーダーシップの下に、産学官の連携と市民参加により、

世界第6位の広さを誇るわが国の排他的経済水域を、第二の国土として海洋生物資源の面

から有効活用し、安全で安心な食料の安定的な供給と新産業や地域社会の創出を通じて、

わが国の社会経済の持続的発展に貢献するとともに、国民自らそれを護る体制を確立する

ことが重要である。このため、「海洋生態系の保全と積極的な再生・創成」によって、「海

域の生物生産性の向上と地球温暖化対策への活用」へ貢献し、「新しい産業・地域社会の創

出による新しい海洋国家の創造」を目指す観点から、その実現のために必要と考えられる研

究開発プロジェクトや、研究開発の基盤および成果の普及・啓蒙等について、その内容およ

び将来へ向けた展望を整理し、マスタープランとして提言する。

2.海洋生態系の保全と積極的な再生・創成

2.1 海洋生物資源および海洋生態系モニタリング体制の拡充強化

a.モニタリングの必要性

海洋生物資源は、それ自体が自律的に再生産を行うことが特徴であり、適切な管理により

持続的に利用することができる。しかし、近年、沿岸環境の劣化、地球温暖化の影響、外来

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3

生物の侵入等により、わが国の排他的経済水域内の海洋生態系と海洋生物資源が危機にさら

されている。一方、海洋生物資源が、海洋の炭素循環やエアロゾルの形成等を通じて、地球

温暖化や気候変動そのものに影響することも知られている。人類の持続的な繁栄を維持する

ために必要となる全球地球観測システム(GEOSS)を構築するために、世界各国が協力して

いる。海洋生物資源と海洋生態系のモニタリングは、その一翼を担うものであり、海洋生物

資源の持続的利用のための適切な管理の実行や生態系の保全、さらには生態系の積極的な再

生や創成等の施策の土台であり、その重要性は今後さらに増大する。

b.総合的なモニタリングシステムの構築

海洋生物資源と海洋生態系モニタリングの基本は観測によるデータ取得である。多様性に

富む海洋生物資源の持続的かつ有効利用を図るためには、水産庁が実施しているわが国周辺

の水産資源やまぐろ等の国際資源の調査事業を軸に、調査船をはじめとする各種プラットホ

ームによる現場観測や衛星を利用した海洋の生物生産力調査が今後も重要な役割をはたす

と考えられ、その拡充・強化が重要な課題である。あわせて、多様性に富む海洋生物資源の

モニタリングには、ゲノム情報や画像解析技術を利用した簡便な生物同定技術の開発が必要

である。

一方、現場観測に基づくモニタリングデータは時・空間的に断片的、あるいは離散的なデ

ータとならざるをえない。離散的な各種観測データを統合し、連続的な再解析データを作成

して水産資源の管理等に応用できるようにするために、データ統合・解析システムの開発が

我が国の GEOSS で取り組むべき課題として取り上げられている。データ統合・解析システ

ムでは観測データを効果的・効率的に収集・共有・提供することが重要となる。中でもモニ

タリング網を形成する各機関ならびに海洋生物資源や生態系の管理を行う各機関が自由に

統合データや解析システムを使えるシステムの構築が、海洋生物資源と海洋生態系のモニタ

リング体制の拡充・強化に必要不可欠である(図2)。

図2.海洋生物資源および海洋生態系の監視・管理システムの概念

海洋生態系監視・管理システム

GEOSSCoML

データ同化データ統合再解析値

予測・影響評価管理

DATA

生物資源の持続的利用

モニタリング網の維持・強化

25

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生態系監視システムの構築

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4

2.2 海洋生態系の保全・再生・創成技術の開発

a.海洋保護区による海洋生物資源および海洋生態系保全技術の開発

海洋生物資源の持続的利用のためには、海洋生態系の保全、再生、創成技術の開発が重

要である。水産資源の管理は、これまで、個別の資源を対象とした漁獲量規制が中心であ

った。しかしながら、最近では、水産資源の多くが、気候変動をはじめとする環境変動の

影響を受けて変動することが明らかとなっている。このため、生態系の仕組みを基礎とし

た資源管理(Ecosystem Based Management)や、資源変動の実態に応じた適応的管理

(Adaptive Management) の必要性が認識されつつあり、その具体的な方法論の確立が急

務となっている。さらに、生態系を構成する生物種の多様性を確保するだけでなく、漁獲

に当たっては、対象資源の種個体群内部の遺伝的多様性の維持に配慮すること

(Evolutionally Approach)が、資源の持続にとって重要であることが指摘されている。

生態系に基礎をおく管理や適応的管理の実行において、再生産や生物資源の加入にとっ

て重要な海域を一定期間あるいは恒久的に海洋保護区(禁漁区、禁漁期)とすることは、

水産資源の持続をはじめ、海洋生態系の生物種や遺伝的多様性の保全を図る上で極めて有

効である。海洋保護区の設定は、次に述べるように、沿岸域を中心に検討・設定される事

例が多いが、水産資源の中には、かに類やたら類等、沖合域の表・中層や大陸棚域を再生

産や稚仔の生育場として利用しているものも多く、沖合域や大陸棚域における海洋保護区

の設定も重要な課題である。

海洋保護区の設定に当たっては、その内部の海洋生物資源や生態系の状態について適切

なモニタリングを行い、その有効性の検証を行うとともに、保護区の設定方法の開発・改

良やモニタリングに基づいた順応的管理手法の開発につなげることが重要である。また、

単に漁業活動や他の産業活動を制限するだけでなく、保護区内に保護礁や産卵礁を人工的

に設置することにより積極的な資源の培養を図り、保護区の外側に優良な漁場の形成を誘

導するなど、保護区域と開発・利用区域の適切な区分け(zoning)による保護と開発の間

のバランスを取る必用がある。さらに、保護区内でのモニタリングの結果については、広

く関係者や国民に公開し、海洋保護区の設定や開発・利用との調整について、幅広い理解

と合意形成を図ることが重要である。

b.沿岸域の総合的な管理と生態系の再生・創成技術の開発

沿岸水域は、多くの海洋生物資源にとって重要な再生産の場である。一方、温暖化や気

候変動、人為的な環境改変の影響を最も受けやすい水域であることから、海洋保護区の設

定により適切に保護するとともに、再生産に好適な環境や生態系を積極的に再生し創成す

ることを検討するべきである(図3)。ダムの建設や取水等の陸域における人間活動が沿

岸域の生産力低下の重要な原因のひとつとして指摘されており、気象の大きな変動を想定

した護岸設備の増強と生物資源の生育場として利用可能な多機能護岸設備、水防災と沿岸

域の環境ならびに生物資源生産力の維持の双方に効果的な陸域と海域を統合した利水技術

を開発する必要がある。

沿岸域の海洋生物資源にとって、藻場や干潟は全生活史にわたる生息の場か、あるいは

生活史の初期段階における生育場である。藻場、干潟生態系を構成する生物の多くは浮遊

生活期をもち、湾スケールあるいはそれ以上のスケールで移動・分散している。東京湾、

伊勢湾、瀬戸内海など主要な沿岸域において流動モデルを基礎とした生態系モデルを開

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5

発・利用して干潟や藻場の効果的な配置を考えた上で沿岸域の造成を実施するなどの措置

が必要である。

なお、沿岸の陸域はわが国の社会経済活動の中心であり、水陸の境界域は親水空間とし

ても重要である。したがって、海洋保護区の設定や環境や生態系の再生や創成に当たって

は、社会経済活動とのバランスや親水空間としての機能の保全に配慮することが必要であ

る。このため、保護区や沿岸域の再生・創成の効果に関する定量的な評価に基づいて、幅

広い関係者の参加により、沿岸域の管理方策を決定する枠組み作りが必要となる。

図3.藻場を例とした海洋生態系の修復・再生・創成技術開発のイメージ

3.海域の生物生産性の向上と地球温暖化対策への活用

3.1 海域の生物生産性の向上技術の開発

日本海をはじめとするわが国周辺水域において、近年、海洋下層から表層(有光層)への

栄養塩供給の低下と動植物プランクトンの生産量の減少、有用魚類資源等が餌として利用し

にくい種類のプランクトン(クラゲ等)の相対的な増加等、生物生産性の低下が指摘されて

いる。この原因として、地球温暖化による海洋表層の成層状態の強化による海水の鉛直混合

の低下や、陸域からの流入水の量や質の変化による栄養塩バランスの変化等が指摘されてい

る。いずれも、水産資源の減少や、海洋の二酸化炭素の吸収能力の低下につながる深刻な問

題である。

海での魚類生産量は、食物連鎖の最も低位にある海洋の一次生産量(植物プランクトン

の量)で決まる。そしてこの一次生産量は、光合成によってもたらされるものであり、窒

素・リン等の無機栄養塩(植物にとっての肥料)が太陽光の当たる表層海面(有光層)に

如何に存在するかに掛かっている。海洋の大部分は表層が暖かく(密度が低く)低層が冷た

海洋生態の修復・再生・創成ー 藻場の再生例 ー

アイゴやウニ等による食害による藻場の磯焼け 食害生物の除去

母藻の移植流動促進藻場の再生

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6

い(密度が高い)ため成層した状態となり上下の混合が起こらないので、表層では栄養塩が

光合成により消費され貧栄養状態となっている。一方、水深が深くなると太陽光が届かず

光合成による栄養塩の消費もなく、沈降する有機物が栄養塩として蓄積される。したがっ

て、深層水を有光層に汲み上げ移動させることが出来れば、海洋が肥沃化し一次生産力を

増大させることが可能である。わが国では、深層水の汲み上げによる海洋肥沃化に関する

実海域での試みは富山湾の「豊洋」(1989~1991)、相模湾での「拓海」(2003~2008:

予定)の 2 例があり、世界でも最先端の実験を行っている。こうした技術をベースにして

海洋の肥沃化技術を向上させ、生物資源の持続的利用に役立てることが重要な課題である

(図4)。

図4.海洋深層水の汲み上げによる海洋肥沃化および一次生産増大技術のイメージ

3.2 地球温暖化対策へ向けた技術開発

a.二酸化炭素の固定・吸収における海洋生物過程の役割

IPCC 第 4 次報告書によると、地球温暖化は人為起源の温暖化ガスが原因である。温暖化

対策は地球全体に課せられた急務の課題となっている。全球の人為的な二酸化炭素排出量の

約 3 割が海洋に吸収され、その量は 2 ギガトン(10 億トン)と推定されている。海洋による

二酸化炭素の吸収、深層への輸送と隔離には、海洋生物資源が関与する生物ポンプが大きな

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役割をはたす。栄養塩量が十分で栄養塩比が適切であれば、珪藻等大型の植物プランクトン

が優占し、大型の動物プランクトンから魚へと繋がる採食食物連鎖が発達する。このような

水域では、大型の糞粒や死骸等の大量の有機物が表層から深層へと急速に移送され、不足し

た溶存無機炭素を補う形で大気から二酸化炭素が溶け込む。これを生物ポンプという。 例

えば、北太平洋の亜寒帯水域では、表層で生産された植物プランクトンを捕食した動物プラ

ンクトンが深海に移動し、そこで他の生物に捕食されたり死亡・分解したりすることで、わ

が国の年間の二酸化炭素排出量の 4~5 割に相当する炭素を数百年間海洋の深層に留めてお

く効果がある。

b.海洋生物過程を利用した地球温暖化対策技術の開発

湧昇した栄養分を、どこかの海域に沈み込む前に全て使い切り、深層に有機物を転送して

しまうのが効率のよい生物ポンプということになるが、現実には、鉄などの微量元素が不足

しているために生物ポンプがうまく機能していない水域がある。また、沿岸域生産力の増大

と生物ポンプの駆動に重要な珪素が、沿岸海域に流入する前にダム等で取り除かれてしまう

珪素欠損という現象の存在が指摘されている。さらに、日本海は、3,000m以上の海盆部を有

するが、他の海とつながる海峡が非常に狭くて浅いために 300m以深には他水域からほぼ孤

立した日本海固有水が分布し、下層からの栄養補給がほとんどないために、日本海表層は貧

栄養塩化している。モニタリングをもとにそれぞれの水域で不足した微量元素や栄養塩を生

物ポンプの駆動に効果的な形で添加することによって、生物資源の生産力増強と温暖化の緩

和を同時に実現できる技術開発が重要である。具体的には、不足した微量元素や栄養塩の表

層への散布、沿岸域における適切な河川管理によるエスチュアリー循環の強化技術の開発が

考えられる。

一般に、深層には有機物の分解による高濃度の栄養塩が分布することから、ポンプによる

汲み上げやマウンド等の構造物を浅海域に入れて、人工湧昇を起こすことで海洋表層の生産

力増強を図れる可能性がある。ただし、深層水には二酸化炭素も大量に溶け込んでおり、湧

昇域では、生産活動に重要な栄養塩とともに温暖化ガスも上層に上がってくることになる。

マウンドの素材に二酸化炭素を封入した固形化物でできたブロックを使用することで、結果

として生産力の増強と同時に二酸化炭素の削減を同時にはかることが可能である。また、人

工湧昇水を利用して、隣接した浮体に海藻を繁茂させ、バイオエネルギーとして利用すると

ともに流れ藻のように魚類稚仔の生育場として利用することも可能であろう。このためにも、

安価で再溶出のない二酸化炭素封入固形化物の開発ならびに固形化物利用によるマウンド

建設技術の開発やバイオマス造成浮体の開発が重要課題となる(図5)。

4.新しい産業・地域社会の創出による新しい海洋国家の創造

4.1 安全・安心な水産物増産のための革新的沖合養殖技術の開発

近年の発展途上国の急激な経済発展による水産物への需要の増大にともなう、特に有用

魚種の乱獲による水産資源の減少により、現状の漁業活動を続けていった場合、2048 年ま

でには世界の漁獲量が過去最大の漁獲量の 10%まで落ち込み、漁業は産業として崩壊する

というショッキングなシミュレーション結果がある。資源管理の強化とともに食糧資源を

安定的に確保する手段として今後期待されるのが養殖である。しかし、沿岸域は富栄養化し

やすく、沿岸環境への負荷の低減対策がとりにくいこと、沖合域にくらべて赤潮などの環境

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図5.地球温暖化緩和のための海洋生物生産力増強技術開発の概念図

変動が起こりやすいこと、安心・安全性の確保から清浄な水域での養殖が望まれること、さ

らに飼育空間が限られていること等から、沖合養殖への期待が高まっている。

沖合養殖施設は基本的には浮体である。浮体には風力、水温差等を利用した必要なエネル

ギーを得るための発電装置、清浄かつ栄養分に富んだ深層水や亜表層のクロロフィル極大を

はじめ懸濁体に富む層などから自由に採水可能なポンプシステムなどを併設し、必要に応じ

て船舶等で簡便に曳航可能な構造とする。台風などの気象擾乱に対しては、飼育水深を可変

化することで耐候性を向上させることで対応が可能である。例えば、イセエビやウナギなど

生活史初期に外洋の流れを利用する水産生物資源の完全養殖を行う場合、亜表層に大量に分

布する有機物を採水、濃縮して利用したり、日周鉛直移動をする生物の場合には鉛直移動に

より経験する生息条件の変化を飼育槽の昇降により人工的に与えたりすることもできる。

短期的には沖合域の大水深を生かした設置水深を変えられる大型養殖施設の開発、自動給

餌技術、海上風等の自然エネルギー利用技術等個々の要素技術を開発する。あわせて設置シ

ミュレーションによる最適な設置位置等を推定する。中長期的には、要素技術を組合せ、経

済性も考慮した多機能養殖施設の開発を行い、沖合養殖を実用化する(図6)。

4.2 海洋生物資源および海洋生態系機能に基づく新産業の創出

a.海洋生物資源の循環利用技術の開発

低利用資源であるサンマやカタクチイワシ等の多獲性浮魚類や、水産物の加工残滓からフ

ィッシュミールを生産し養殖餌料とするとともに、その際の副産物である魚油はバイオディ

ーゼル燃料(BDF)に加工して、漁船や加工場の燃料として活用することにより、水産業を

エネルギー消費型の産業から循環型の産業へ転換することが可能となる。また、食品の安

全・安心や健康に関する関心が高まるなか、天然素材である海洋生物から抽出されたセラミ

生物生物生産力生産力増強・温暖化緩和増強・温暖化緩和システムシステム

•不足する微量元素や栄養分の添加で基礎生産力を増強•生物力でCO2を深層へ輸送・貯蔵

具体例CO2封入ブロックで人工海山建設

→湧昇発生→食料生産+バイオマスエネギー増大

Fe, N, P, Sietc….

冬 春 夏 秋 冬

深層で産卵

ノープリウス幼生

表層へ移動 表層で摂餌、成長

コペポディド幼生 深層に沈降、越冬

深層で脱皮し成体になり、交尾、産卵

呼吸や捕食で体成分炭素が深層に保存

成体

冬 春 夏 秋 冬

深層で産卵

ノープリウス幼生

表層へ移動 表層で摂餌、成長

コペポディド幼生 深層に沈降、越冬

深層で脱皮し成体になり、交尾、産卵

呼吸や捕食で体成分炭素が深層に保存

成体

北太平洋のネオカラヌスが日本の二酸化炭素排出量の46%相当を深海に輸送し、数百年間深海に貯蔵

鉄など不足する栄養分を補給し深海への輸送力を増強

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ドやプロバイオティクス等の機能性物資を利用した化粧品や健康食品の開発が注目されて

おり、産業としての今後の発展が期待される。

図6.大規模沖合養殖システム開発の概念図

b.新産業創出のための海洋生物資源および海洋生態系の利用技術の開発

極限環境に生息する微細藻類や海洋微生物の中には、環境修復や炭素循環等で有用な遺伝

子機能や、低栄養塩状態でも高い成長性を示す遺伝子機能を持つものが存在することが想定

されており、これらを利用した新しい環境保全のための海洋生物や、バイオ燃料原料の効率

的な生産のための海洋における資源作物の開発が期待される。また、3で述べた「海域の生

物生産性の向上技術」や4.1で述べた「沖合養殖技術開発における浮体開発技術」と組み

合わせた、沖合域においてホンダワラ等の大型海藻を大量に培養・収穫する技術や、大型海

藻から効率的にバイオエタノール等を抽出・変換する技術の開発は、陸上の資源作物のよう

な耕地面積や灌漑用水の制約を受けず、食料生産とも競合しないバイオエタノール等の原料

生産技術として極めて有効であり、これに基づく新しいエネルギー産業の創出が期待できる。

一方、海洋生態系の持つ二酸化炭素の固定・吸収能力を時・空間的に精度よく定量化する

システムを開発することにより、企業がその社会貢献(CSR)活動の一環として、植林活動

等と同様に、海洋生態系の保全活動に積極的に参加することが期待できるほか、将来的には、

特定海域の海洋生態系の二酸化炭素吸収機能を対象とした二酸化炭素の排出権取引市場の

形成や、海洋生態系の機能に影響を及ぼす産業活動に対する課税措置を検討することも可能

となる。

加えて、海洋生物資源や海洋生態系を対象とした観光産業は、既に世界的にも大きな経済

効果を持つ産業であるが、今後益々拡大することが期待され、この点からも沿岸域の景観を

大規模沖合養殖システム大規模沖合養殖システム

・現在の養殖可能水域は限界・現在の養殖可能水域は限界

沈下

沈下

浮上

浮上

沈下

沈下

浮上

浮上

ペレットを給餌ペレットを給餌

・外国との魚介類の買い負け・外国との魚介類の買い負け

・水産物の安定的供給を確保・水産物の安定的供給を確保生簀システム : 大型浮沈式生簀(浮沈式、ウォーターバッグ式)生簀システム : 大型浮沈式生簀(浮沈式、ウォーターバッグ式)

ブイシステム : 自動給餌装置

モニタリングシステム(魚影、残餌、海象、浮沈等)

ブイシステム : 自動給餌装置

モニタリングシステム(魚影、残餌、海象、浮沈等)

オペレーション船 : 魚の収容、回収、網メインテナンスウォーターバッグ : 魚の運搬

オペレーション船 : 魚の収容、回収、網メインテナンスウォーターバッグ : 魚の運搬

・未利用沖合域での効率的、環境にやさしい養殖産業の確立・未利用沖合域での効率的、環境にやさしい養殖産業の確立

取り上げシステム、尾数カウンター、サメ防除システム、盗難防止、斃死魚回収、鮮度保持取り上げシステム、尾数カウンター、サメ防除システム、盗難防止、斃死魚回収、鮮度保持

・関連技術開発課題・関連技術開発課題

浮沈式生簀浮沈式生簀 ウォーターバッグ式生簀ウォーターバッグ式生簀

オペレーション船オペレーション船

ウォータバッグウォータバッグ

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含め、海洋生物資源や海洋生態系の適切な管理・保全が重要である。また、海洋生物は海洋

という流体中での生活に適応するよう行動様式や体の機能を進化させてきた。これらに関す

る研究を通じて、船舶や車等における流体抵抗の少ない素材や形状の開発等、我々の日常生

活を豊かで便利にする技術開発と新しい産業の創出が期待できる(図7)。

図7.海洋生物資源や海洋生態系を活用した、新しい産業および社会の構築のイメージ

4.3 新しい地域社会と海洋国家の創造

a.秩序ある海洋空間の利用と海洋生物資源や海洋生態系の保全

海洋生物資源や海洋生態系に立脚した新しい産業や地域社会の創出とは、これまで未利用

であった海洋の生物資源や生態系が持つ様々な機能の多面的な活用への産業界や市民の幅

広い参加を促進するとともに、活動の中核となる地域社会のネットワーク化により、海洋及

び海洋生物資源の多面的な機能に立脚した新しいわが国のあり方を目指すものに他ならな

い。

わが国を取り巻く海洋、特に沿岸域は、変化に富んだ地形と陸域も含めた生態系が多様な

景観を造りだし、市民のレクリエーションや癒しの場として重要な役割割りをはたしてきた。

一方、沿岸域は、海洋生物資源の再生産の場として極めて重要であるほか、漁業・養殖業生

産の場として国民への食料供給に重要な役割を担っている。さらに、沿岸域に隣接する陸域

の多くがわが国の社会経済活動の中心域である。また、沖合域も従来は産業的には漁業生産

の場としての利用が中心であった。しかし最近では、遊漁をはじめとした観光産業的な利用

や海底鉱物資源の開発をはじめ、多面的な利用への関心が高まっている。したがって、海洋

が持つ多面的な機能をより一層活用するためには、関係する各セクター間での調整により、

多様化する利用ニーズと地域、海域の特性に応じた秩序ある海洋空間の利用と、海洋生物資

源や海洋生態系の保全を図ることが重要である。

かけがえのない海の生物資源を使って陸上の様々な問題を解決

堆積物

洋上発電

監視カメラ

簡易プラットフォーム

養殖生簀

農作物保管

陸上産業と海洋産業のコラボレーション

簡易プラットフォーム

・病害虫対策(一時避難)

・病弱種養生

・農作物保管

・高品質・強耐性種生産研究

・海洋汚染対策

【洋上農園】堆肥供給

花卉産業

農業

エネルギー供給

海洋産業技術・海洋空間を利用して、陸上産業の課題解決を支援、宇宙開発を支援

【洋上堆積物汲み上げ・堆肥化施設】

宇宙産業と海洋産業のコラボレーション

堆積物収集

堆積物

洋上発電

監視カメラ

簡易プラットフォーム

養殖生簀

農作物保管

陸上産業と海洋産業のコラボレーション

簡易プラットフォーム

・病害虫対策(一時避難)

・病弱種養生

・農作物保管

・高品質・強耐性種生産研究

・海洋汚染対策

【洋上農園】堆肥供給

花卉産業

農業

エネルギー供給

海洋産業技術・海洋空間を利用して、陸上産業の課題解決を支援、宇宙開発を支援

エネルギー供給

海洋産業技術・海洋空間を利用して、陸上産業の課題解決を支援、宇宙開発を支援

【洋上堆積物汲み上げ・堆肥化施設】

宇宙産業と海洋産業のコラボレーション

堆積物収集

食料生産、温暖化対策、エネルギー生産癒し空間創成、etc

海藻養殖、エネルギー化

使って

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11

b.漁村と都市の交流を通じた沿海地域の活性化と海洋産業拠点の整備

マリーナ等のプレジャーボートの係留施設、防波堤等を利用した釣場の整備等により、マ

リンスポーツを楽しめる快適で安全な海洋レクリエーションの場を提供し、これらの親水空

間を通して海洋生物資源や水産業に対する国民の親近感や理解を醸成する必要がある。さら

に、漁村を中心に、漁港や漁村に存在する水産基盤施設の有効利用を通じた、体験漁業、マ

リンスポーツ訓練、海の自然や生物の観察等、都市と漁村の交流や自然や文化の学習の場と

しての機能を構築し、都市との交流を通じた漁村と漁港の活性化と、都市部も含めた沿海地

域全体の活性化を図ることが重要である。

さらに、地域や海域の特性を考慮して全国に数カ所の海洋産業拠点を設け、沖合域を含め

た海域利用体制(港湾施設、観光・交流施設、水産物の水揚げ・加工・流通施設等)の整備、

関連産業の集中、これらの活動の基盤となる海洋に関する研究開発機関の配置等を進め、こ

の拠点間の連携により、全国的な海洋開発・利用と管理・保全体制を確立することが望まれ

る。

5.海洋生物資源の持続的利用を推進する上で必要となるその他の課題

5.1 支援技術の開発および制度の拡充

a.生物資源モニタリング技術の開発

わが国周辺海域に生息する水産資源生物だけでなく、公海や外国の排他的経済水域内で漁

獲される高度回遊性魚類については、国際的な枠組みの中で適切な資源管理を行うことがこ

れまで以上に求められている。その基礎となるのが資源量の評価である。生物資源を持続的

に利用するためには資源評価を支援するための音響学的手法や光学的手法を用いた水産資

源生物の現存量や行動の計測技術を高度化する必要がある。また、フェロモンなど生物が本

来有する物質を利用して、資源生物を集めて資源量推定することにより漁業管理に利用する

ことも将来的には可能となる。また、海洋生物の出す音を利用することにより、ある海域に

おける個体数(現存量)の推定が可能である。

b.データロガー技術の向上

様々な流通過程で安価で小型の電子タグが使用されている。こうした技術を利用し、超小

型化したマイクロデータロガー(小型記録器)を開発して海洋生物に装着し、行動生態や資

源量のモニタリングに利用することが可能となる。一方、耳石などの生物体内の年齢形質に

おける酸素の安定同位対比を調べることにより、その生物が経験してきた水温環境を調べる

ことが可能である。また、肉質部の窒素や炭素の安定同位対比を調べることにより、その生

物の生態系内の栄養段階を推定することが可能である。こうした知見を利用し、生物そのも

のを海洋環境についてのデータロガーとしてとらえ、より精度高く簡便な温暖化や生態系変

動の生物モニタリング技術の開発が望まれる。

c.大容量データ通信技術の実用化

人工衛星や携帯電話、フィールドサーバーを利用した大容量データ通信技術の向上とその

実運用化が進みつつある。こうした技術をさらに向上させるとともに、現場海域や養殖場等

のモニタリング結果をリアルタイムで関係機関に配信し、関係機関で解析した結果を必要に

応じ現場にフィードバックできるような社会基盤を整える。

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5.2 国民へのアウトリーチの拡大

海洋生物資源の持続的利用や海洋生態系保全活動を社会に根付いたものにするためには、

これらの活動への市民の直接的な参加を促進することが効果的である。そのためには、海洋

の生物資源や生態系が持つ多面的な機能に対する市民の理解を深めるために、研究機関や教

育機関等が一体となった普及・啓蒙を図る必要がある。市民も参加した海洋生物や環境のモ

ニタリングや保全活動等はそのよい機会となる。また、水産物へのわが国独自のエコラベル

の積極的な導入も、海洋生物資源の持続的利用や海洋生態系保全を、市民が直接的に支援す

るものとして有効である。

また、最近、青少年の理科離れが危惧されているが、海洋科学は、物理学、化学、生物学、

数学、地理学、社会学等の複合科学であると同時に、研究開発のフロンティアであり、青少

年に夢を与え、海洋に対する関心を集めると期待されるテーマが数多くある。かつて、フラ

ンスのジャック・クストー(Jacques Cousteau)が指揮したカリプソ号による海洋探査の映像

がテレビ等で放映され好評を博したが、研究機関、教育機関およびマスメディアが連携し、

海洋調査活動の状況を一般の家庭や教育現場においても簡単に視聴できるようなプログラ

ムを検討する。また、水族館、博物館や資料館などの教育展示施設の中には、長年にわた

り蓄積された地元ならではの資料や情報が、予算や人手不足等により広く一般に公開する

機会を失い、未整理のまま埋もれている例も多い。このような資料や情報の整理に、高校

生や大学生を課外教育の一環として参加させることも、自然科学分野のみならず社会科学

的側面からも海洋科学への関心を喚起するよい機会となるであろう。さらに、「海の日」

などの記念日等をきっかけに、例えば「海の日大作戦」と銘打って、様々な年齢層や立場

の市民が参加して、全国一斉に干潟や藻場の生物の目視調査を行う等の調査イベントを企

画・開催することも、大きな普及・啓蒙効果が期待される。

5.3 国際協力の推進

海洋生物資源は、各国の排他的経済水域や公海域にまたがって分布・回遊する。また、地球温

暖化をはじめとする地球規模での環境変動や漁獲量や漁獲能力の管理状況など、各国に共通

する課題が海洋生物資源の変動に影響する。このため、海洋生物資源を持続的に利用するた

めには、国際協力が必要不可欠である。海洋生物資源の国際的な管理・保全については、国

連海洋法条約等に基づき、国連食糧農業機構(FAO)が主導的な役割をはたしているほか、

まぐろ類等を対象に、世界の各海域において国際条約に基づき地域漁業管理機関(Regional

Fisheries Management Organization; RFMO)が設置され、科学的な調査結果に基づき漁獲割当

量の決定や配分等を行っている。しかしながら、加盟国間での利害調整に手間取る場合や、

便宜置籍漁船等による国際ルールを遵守しない無秩序な操業があり、円滑な資源の管理・保

全の実施は容易ではない。

海洋生物資源の国際的な管理・保全に当たっては、海洋環境や資源変動に関する正確な科

学的知見の共有が重要である。このため、北大西洋における国際海洋理事会(International

Council of Exploration of the Sea; ICES)や、北太平洋における北太平洋海洋科学機関(North

Pacific Marine Science Organization; PICES)等の国際科学機関での論議や共同調査プロジェク

トの実施が有効である。また、GOOS(Global Ocean Observing System)、GLOBEC(Global Ocean

Ecosystem Dynamics)、IMBER(Integrated Marine Biogeochemistry and Ecosystem Research)等

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13

の、地球環境変化と海洋生物資源変動の関係解明を目指す国際プロジェクト研究を通じて、

地球温暖化が海洋生態系や水産資源に影響を及ぼすメカニズムの解明を進め、海況予測モデ

ルや生態系モデルの開発により、主要水産資源への影響評価・予測を進めるとともに対応策

を講じることが重要である。

わが国は、関係する国際機関や地域漁業管理機関等を通じた従来からの国際的な連携・

協力関係を維持・発展させるとともに、水産業および海洋科学の先進国として、国際プロ

ジェクト研究への積極的な参加、各国の研究機関等との協同研究や研究者の交流を通じた

連携・協力を促進し、国際的な視点に基づいた研究開発を主導する必要がある。特に、中

国、韓国、ロシアをはじめ、今後水産物貿易や漁業管理、海洋環境や生態系の保全等の面

で一層の関係強化が望まれる環太平洋諸国との連携・協力の促進が重要な課題である。

6.参考文献

独立行政法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター:G-TeC レポート:海洋生物資源

の持続的利用と海洋生態系の保全管理技術,(2006)

水産庁:平成18年度 水産の動向(2007)

水産庁:水産基本計画(2007)

水産庁:水産研究・技術開発戦略(2007)

水産庁・水産総合研究センター:わが国周辺の水産資源の現状を知るために

http://abchan.job.affrc.go.jp

水産庁・水産総合研究センター:国際漁業資源の持続的利用と適切な保存・管理のため

http://kokushi.job.affrc.go.jp

IPCC:IPCC Fourth Assessment Repot: working Group I Report “The Physical Science Basis

(2007)

IPCC:IPCC Fourth Assessment Repot: working Group II Report “ The Impacts, Adaptation and

Vulnerability” (2007)

IPCC:IPCC Fourth Assessment Repot: working Group II Report “ Mitigation of Climate Change”

(2007)

坂井正康:バイオマスが拓く21世紀エネルギー,森北出版 (1998)

海洋基本法研究会:海洋基本法及び同法案の衆議院決済に伴う国土交通委員会決議

海洋政策大綱及び付属資料(2007)

海洋政策研究財団:海洋白書 2007,成山堂書店,東京(2007)

海洋政策研究財団:海洋白書 2006,成山堂書店,東京(2006)

栗林忠男,秋山昌廣:海の国際秩序と海洋政策,東信堂(2006)

農林水産省:水産基本計画関係資料(2007)

日本学術会議:地球環境・人間生活にかかわる水産業及び漁村の多面的な機能の内容及

び評価について(答申)(2004),

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/shimon-19-1-6.pdf

日本海洋学会:海と環境,講談社サイエンティフィク(2001)

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14

付録: 海洋生物資源タスクフォース名簿

松里寿彦 水産総合研究センター理事(主査)

和田時夫 水産総合研究センター

中山一郎 水産総合研究センター

中田 薫 水産総合研究センター

大河内裕之 水産総合研究センター

渡部俊広 水産総合研究センター

桑原隆治 水産総合研究センター

生田和正 水産総合研究センター養殖研究所

大関芳沖 水産総合研究センター中央水産研究研

藤田純一 社団法人マリノフォーラム21

中原裕幸 社団法人海洋産業研究会

渡邉良朗 東京大学海洋研究所

木谷浩三 株式会社ゼニライトブイ

末永芳美 東京海洋大学先端科学技術研究センター

長島徳雄 社団法人海洋水産システム協会

香取義重 株式会社三菱総合研究所

田中瑞乃 株式会社 NTT データ経営研究所

山崎哲生 独立行政法人産業技術総合研究所地質情報研究部門

多部田茂 東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻

大塚耕司 大阪府立大学大学院工学研究科航空宇宙海洋系専攻

大内一之 大内海洋コンサルタント

鈴木達雄 株式会社アシュクリート

佐藤 徹 東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

1

「海洋エネルギー開発」マスタープラン―中間報告―

海洋技術フォーラム海洋エネルギータスクフォース

1. 海洋エネルギータスクフォースの目的 我が国は、環境への負荷を出来る限り少なくし、循環を基調とする社会経済システムの

実現をめざしている。このために、太陽光、風力、バイオマス等、自然エネルギーの導入

が図られ多様化の進展が期待されているが、基幹エネルギーは依然として化石燃料、原子

力に依存している。化石燃料によるエネルギー供給は温室効果ガスの排出を伴うため、資

源が枯渇しなくても地球温暖化問題が大きな課題である。原子力によるエネルギー供給は、

温室効果ガスを伴わないため、将来の基幹エネルギーの中心となることは間違いない。し

かし、原子力も当面はウランの核分裂による従来型のため、使用済み核燃料の問題やウラ

ン資源の枯渇の問題がある。これらの問題が将来解決される可能性はあるが、単一のエネ

ルギー源に全てを託すのはエネルギー戦略として得策ではない。

一方、自然エネルギーは少しずつ導入が進められているが、基幹エネルギーと呼べるだ

けのエネルギーを得るには、陸上だけではその適地が限られていることが指摘されている。

そこで、我が国の広大な EEZ を利用することが考えられる。海洋エネルギーには陸上でも

得られる風力や太陽光エネルギーを海上で得るものと、波浪、潮流・海流、海洋温度差エ

ネルギーなどのように海洋が持つエネルギーに分けられるが、ここでは、それらを全て含

んで海洋エネルギーと総称する。また、発電所の温排水は自然起源ではないが、海水の温

度差エネルギーであることと、原子力や火力発電を続ける限り生成されるということから、

海洋エネルギーとして扱う。

海洋エネルギーに関する研究開発は従来から各所で行われているが、我が国では「産業」

として魅力に乏しいため、なかなか実用化の段階に進めないでいる。ところが、ヨーロッ

パを始めとする海外では、洋上風力発電ファームが大々的に建設されている。さらに、か

つては我が国がトップランナーであった波浪発電も商用発電では英国に先を越された。

我が国の多様なエネルギー供給源確保のために、これらの動きに遅れを取ることなく急

速に海洋エネルギーを実用化していかなければならない。そのために、「海洋エネルギータ

スクフォース」は次のことを目指す。

(1) 短期的には、海洋エネルギーを小規模でも「産業」として魅力あるものにする。 (2) 中長期的には、海洋エネルギーを将来の「基幹エネルギー」の一つとして育てる。

2. エネルギー資源としての「価値」の指標 市場主義経済においては「値段」で物の価値が決められる。エネルギー資源の場合もこ

れと同じく、従来は単位エネルギー当たりの「値段」が安いものが優れたエネルギー資源

とされてきた。しかし、市場原理で決められる「値段」は、今現在の需要と供給の関係で

odano
スタンプ
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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

2

1.90

2.50

1.90

0.90

1.60

2.00

3.90

6.80

15.30

17.40

2.14

7.90

6.55

0.00 5.00 10.00 15.00 20.00

海洋温度差

潮力

波力

太陽熱曲面式

太陽熱タワー式

太陽光

風力

地熱

中小水力

原子力

LNG火力

石油火力

石炭火力

決められる値であり、将来のエネルギー資源の「価値」の評価基準とはなり得ない。すな

わち、将来枯渇が予想されるエネルギー資源でも、現在十分な供給があれば「値段」を安

く設定することもできる。また、他のエネルギー資源に切り替えた場合の「値段」の推定

では、輸送や利用形態の変化に伴うコストも評価しなければならないので、的確に見積も

ることは困難である。石油などの枯渇が予測される資源は将来供給量が減れば「値段」も

上がるので、「値段」も「価値」の基準となるという意見もあるが、定量的に推定するには

未来の複雑社会経済システムを予測する必要があり、正確な値を推定するのは不可能であ

ろう。特に、環境保全や修復のためのコストは現在の市場主義経済では殆ど考慮されてい

ない。これに必要なコストは環境に対する我々の認識が深まれば急激に上昇する可能性が

あり、現在の市場主義経済に基づく「値段」で将来のエネルギーの価値を論じるのは非常

に危険である。 一方、2006 年 8 月に「もったいない学会」2-1)を設立した石井吉徳(東大名誉教授)はエ

ネルギーの合理的な価値基準として Energy Profit Ratio(EPR)を提唱している。EPR はエ

ネルギーを得るに必要な入力エネルギーと、それから得られる出力エネルギーの比で与え

られる。これは、環境保全や修復に必要なエネルギーや輸送、利用形態によって変化する

エネルギーなどを考慮して算出する事ができるので、エネルギー資源の優劣を評価するの

に も合理的な指標と考えられている。

図1.発電面から見た電源別 EPR2-2)

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

3

図1.は代表的な発電方式の EPR を計算した例である。EPR の定義より、EPR 値が大

きいほど優秀なエネルギー資源と言え、この値が1以上でないとエネルギー資源とは呼べ

ない。この図では原子力がもっとも EPR が大きく、放射性廃棄物の処理問題やウランの枯

渇など負の部分さえ解決できれば、原子力がもっとも有望なエネルギー資源の候補である

ことが分かる。次にEPRが大きいのは水力や地熱であるが、これらは量に限界があるため、

基幹エネルギーとは成りえない。現在の主力エネルギー源である石油や石炭は EPR7~8

と優秀であるが、将来は採掘場所がますます大深度や大水深となり、性状もますます悪質

なものとなるため EPR 値は急速に下がっていくと予想される。 海洋エネルギーに関しては、風力エネルギーが陸上の値であるため、洋上風力の値が分

からないが概ね EPR 値で 2~3 である。海洋エネルギーは石油などに比べると現在の EPR値では劣っているが、後で示すように、エネルギーの総量は豊富で我が国の基幹エネルギ

ーと成り得る量は確保できる。問題はエネルギー密度が薄いため、 低限の EPR=1以上

ではあるものの EPR 値がそれほど良くない点である。 しかし、将来の基幹エネルギーとして原子力以外に幾つかの選択肢を残すとすれば、石

油や石炭の EPR 値がいずれは大きく低下することが確実なことから、海洋エネルギーが有

力な候補と成り得ることがわかる。また、現在の EPR 値を技術革新によりさらに向上させ

ることが重要である。このマスタープランでも、EPR 値を評価基準とし、各種の海洋エネ

ルギー資源の優劣、あるいは技術進歩の程度を合理的に判定することを提案する。

参考文献 2-1)もったいない学会ホームページ:http://www.mottainaisociety.org/ 2-2)(社)日本原子力学会誌 2006 年 10 月号目次より転載

3. 短期的取り組み 前章で示したように、海洋エネルギーの EPR はそれほど高くはないものの、将来、化石

燃料の EPR 値が下がってきたとき、それを逆転する可能性は十分ある。また、次章で示す

ように、大型の海洋エネルギープラントを多数建造すれば、中長期的には我が国の基幹エ

ネルギーとして育つ可能性も十分に秘めている。 さて、このように将来的には有望な海洋エネルギーであるが、そこへ到達するため短期

的にすべきことは何であろう。おそらくそれは幾つかの小型プラントで実海域における経

験を積み上げ、十分な信頼性のある大型プラントの設計・建造・運用能力を獲得すること

であろう。大型プラントが効率の良いことは様々な研究で明らかにされつつあるが、そこ

への道筋が見えなければ産業としての魅力は産まれない。現在の規模は小さくとも将来の

可能性がなければならない。5 章以降に示すように、このような取り組みは既にヨーロッパ

を中心に開始されつつある。 特に注目すべき試みは、南西イングランド地域開発公社 3-1)の Wave Hub 構想で、海洋エ

ネルギー資源が豊富な地点の海底に陸上の送電網と接続した『ソケット』を設置し、その

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

4

ソケットから受電・送電できるようにするものである。Wave Hub を設置することによっ

て、そのサイトを商用段階一歩手前の発電装置の開発地点とし、その後は引き続き発電所

として利用し、 終的には南西イングランド地域近海に海洋エネルギー発電の集積地を作

り上げることを目標としている。 我が国も類似の構想を実現することが短期的取り組みとして要求されているのではない

だろうか。我が国では、波力発電以外にも各種の発電方法が提案されているので、ここで

は仮に「ソケット・ブイ」構想と呼ぶ。「ソケット・ブイ」構想を実現することにより、次

のようなメリットが考えられる。 (1)ソケットと電力系統間はすでに用意されているので、陸上まで電力を運ぶ海底ケーブ

ルなどに資金を投じる必要がなくなる。したがって、個々のプロジェクトの費用が軽

減され、いろいろな機関あるいはベンチャー企業などが参入しやすくなる。小型のプ

ラントについては、すでに実績のあるものも多数あり、このような共通インフラの整

備で多くのプロジェクトを惹きつけることが可能と考えられる。 (2)ソケットからの電力をなるべく太い基幹系統へ接続しておけば、海洋エネルギーの短

所の一つである発電電力の変動を上手に吸収することができる。つまり、実際に系統

電力として接続して使用した場合のノウハウを蓄積できる。 (3)同じ海域で同時に幾つかのプラントを稼動させるので、メンテナンスなどの共通技術

を共有でき、プロジェクト推進経費を軽減できる。また、気象・海象データの計測な

ども共通化できる。これらの共通化により、プロジェクト間のシナジー効果も期待で

きる。 このような構想により、ある程度の発電実績が挙がれば商用化への道が見えてくるであ

ろう。また、それは次の大型化への第一歩であり、海洋エネルギーを基幹エネルギーへ育

て上げる第一歩でもある。 一方、海洋深層水や発電所の温排水のように、電力への変換とは異なる方法で小規模で

はあるが、商用として利用されている海洋エネルギーも存在する。4.2 節で改めて述べるよ

うに、海洋エネルギーの利用では電力変換に捉われず、様々な形態でエネルギーを利用し

ていくことが効率化のためには大切である。したがって、これらの商用化の芽を着実に育

てていくことも短期の取り組みとして大切である。これについては 3.2 節で述べる。 3.1「ソケット・ブイ」構想 「ソケット・ブイ」構想を実現するため、洋上ソケット・ブイと陸上電力系統間を連係

する海底ケーブル送電システムの検討を行った。設置海域は漁業権の問題など今後解決す

べき問題も多く残っているため特定の海域に限定できないが、波浪状況や風況が比較的良

いとされている銚子沖から、伊豆半島、御前崎にかけての海域を想定した。 検討に用いた条件は以下のとおりである。

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

5

1)洋上ソケット集電規模:20MW (2MW 発電施設 10 基接続を想定) 2)海底区間距離:20kmおよび50km 3)水深:50m

送電システムについては次のように考えた。洋上集電規模から海底ケーブルの送電電圧

は22kVが 適であり、22kV3芯電力ケーブルで海底送電し、揚陸部の変電設備を

経由して陸上電力系統に接続するものとした。洋上ソケット・ブイには各種、各容量の発

電浮体からの受電に対応出来るよう、位相調整機能を備えた22kV級の多点接続開閉機

器を配備し、変電設備は各発電浮体に設置して発電浮体と洋上ソケット・ブイ間も22k

Vケーブルで送電するものとした。

図2.海底ケーブル送電システムのイメージ

送電設備建設費は、上記条件を前提とすると概略試算例は以下のようになった。

表1.送電設備建設費の試算例 送電距離 20km 50km

送電用ケーブル、接続機器費 7 億 7 千万円 18 億 2 千万円 送電用ケーブル、接続機器施工費 2 億円 3 億円

区分

洋上浮体設備費(係留、設置費含) 2 億円 2 億円 合 計 11 億7千万円 23 億 2 千万円 ただし、上記には各発電浮体と洋上ソケット・ブイ間の送電用ケーブル設備費は含まない。

また、上記の表にある洋上浮体設備費は次の仮定に基づいて概算した値である。 1)直径 20m の円筒形ブイ 2)水深50m

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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このようなソケット・ブイを設置できる海域は日本近海にいくつかある。初めはある実

験海域から始め、ある程度の成功が見込める発電装置が集まれば、このようなソケット・

ブイを日本近海に次々と増やしていき、規模は小さくとも立派な産業へと育てていくこと

を提案する。 3.2 海洋深層水・発電所温排水の利用 海洋深層水は 4.2 節の多様な利用で述べるように、温度差エネルギーによる発電よりも、

くみ上げた深層水そのものを利用することがすでに小規模ではあるが商用化されている。

これらは、健康飲料や化粧品などエネルギーそのものを利用しているのではないが、海洋

エネルギー開発の副産物が国民の目に触れることは短期的に海洋産業を魅力あるものにす

るためにも大切なことである。 一方、発電所の温排水は自然起源のエネルギーではないが、現在の発電システムでは余

分なエネルギーとして捨てられているものである。この温排水は現在でも小規模ながら農

産物の促成栽培や魚介類の増殖に利用されている。また、これらを事業として実施してい

る企業もある。 これらはすでに先行した小さな産業であり、将来の大きな産業の芽として大切に育てて

いく必要がある。

参考文献 3-1) SWRDA : South West of England Regional Development Agency http://www.southwestrda.org.uk/what-we-do/projects/renewable-energy/wave-hub/index.shtm

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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4.中長期的取り組み 海洋エネルギータスクフォースの目的の一つは「海洋エネルギー」を将来の「基幹エネ

ルギー」の一つとして育てることである。そこで、ここでは基幹エネルギーとしての可能

性と将来の多様な利活用について考察し、具体的な課題については 5 章以降に、発電の種

類別に挙げることとする。 4.1 海洋エネルギーの可能性 海洋エネルギーなどの自然エネルギーは、そのパワー変動が大きいため我が国が必要と

するエネルギーの全てを賄うことは不可能で、他のエネルギー源と組み合わせて変動をな

るべく小さくしなければならない。しかし、ここでは単純に我が国の全エネルギーを基準

に海洋エネルギーの可能性を検討してみる。 地球の大気圏外に到達する太陽光エネルギーの進行方向に垂直な面での強度は約

1.4kW/m2である。これに地球の断面積を掛けると、地球の大気圏外に到達する太陽エネル

ギーの総量は 1.73×1014kWになる。このうちの 30%が光として宇宙に直接反射し、残り

の 70%すなわち 1.21×1014kW が地表近くに到達するエネルギーである 4-1)。これから緯度

と自転の影響を幾何学的に考えて我が国の国土 38 万km2 に降り注ぐ太陽エネルギーを計

算すると、年間約 8.1×1014kWh(2.9×1021J)となる。さらに、雲や霧などの影響があるた

め実際に地表まで到達するエネルギーはその一部であるが、仮に 40%が到達するとすれば、

年間約 3.2×1014kWh(1.2×1021J)が我が国に降り注ぐ太陽エネルギーの総量である。これ

は、日本の1次エネルギー年間総供給量(2004 年)6.6×1012kWh(2.37×1019J)4-2)の約 50 倍

である。これだけを見ると、単純に太陽光パネルで電力に変換すれば、我が国の一次エネ

ルギーを供給することは簡単なように思われる。しかし、実際にはこれにエネルギーの変

換効率を考慮しなければならない。例えば、変換効率を 15%とすると、我が国の全エネル

ギーを賄うためには国土の約 13%が必要である。これも一見可能なように思えるが、山岳

部では設置のための基礎工事に新たなエネルギーが必要であるし、平野部では建物の屋上

など限られたスペース以外に設置場所を探すのは難しいことなどから、面積の確保は困難

である。一方、我が国は未利用の 447 万 km2の排他的経済水域(EEZ)を有している。こ

こに多数の洋上浮体を展開すれば、EEZ の僅か 1.1%を利用するだけでエネルギーを受ける

面積の確保が可能である。ただ、太陽光パネルを支えるための平面的な広がりのある浮体

は使用鋼材の製造に費やすエネルギーがかさむため、EPR は大幅に低下する。 次に、自然エネルギーのなかでは EPR の大きい風力発電について考察してみよう。風車

は技術的に可能な も大型のものとして、5MW 級の風車を用いることにする。一般に風車

は効率を下げないために、前後左右の間隔を大きく開けなければならないが、ここでは仮

に風車直径(120m)の 10 倍と 3 倍の間隔を開けたと仮定する。また、設備利用率を 20%とすれば、5MW 級風車1基の年間発電電力量は 8.9×108kWh(3.2×1013J)である。前述の

全エネルギーをこの値で割ると、5MW 級風車 74 万基の風車で賄えることになる。しかし、

この風車を設置するのに必要な面積は 3.1×105Km2となり、日本の国土の 82%を必要とす

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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ることになる。 これを排他的経済水域(EEZ)に展開することを考えてみる。この際には、得られたエ

ネルギーは電力線で直接送電することは出来ないので、海水を電気分解し、水素に変換し

てエネルギーを海上輸送することとする。この変換による効率を仮に水素変換効率 50%×

燃料電池発電効率 60%とする。一方、海上では風況が陸上よりかなり良い地点があるので、

そこでの設備利用率を 40%とすると、必要な風車数は 98 万基である。この風車が展開する

面積は前述の間隔を仮定すると、必要な面積は 4.2×105Km2となり、EEZ の 9%を利用す

れば設置が可能である。実際には、水素に変換せずに送電できる海域もあるので、必要な

面積はさらに狭くなるであろう。また、風車を支える浮体は風車の重量を支えれば良いの

で、それに必要な鋼材は少なくてすみ、EPR 値はそれほど悪化しない 4-3)。 海洋温度差発電の場合についても推定してみよう。我が国の EEZ 内で利用可能な海洋温

度差エネルギーの潜在的資源量に関する試算は種々行われているが、省エネルギーセンタ

ーのプロジェクト報告 4-6)がよく用いられる。それによると、一年間に利用できるエネルギ

ー量は 1.0×1014kWh(3.6×1020J)と膨大で、この内の 7%を利用すれば我が国の全一次エネ

ルギーを賄うことができる。もっとも、これだけ多量の深層水をくみ上げると海水の循環

システムに影響を及ぼすかもしれないので、実際にはこれほど多くのエネルギーは得られ

ないであろう。しかし、基幹エネルギーとなる十分なポテンシャルは持っている。また、

標準の OTEC 発電所サイズを 10MW(深層水汲上量 200 万 m3/日、ライザー口径 4m)級

とすると、日本の1次エネルギーを得るのに必要な発電所の数は約 7 万 5 千基となる。 以上のように、海洋を利用すれば、エネルギー収支の面から考えると 1 次エネルギーを

全て自然エネルギーで賄うことも可能なことがわかる。ただし、ここでの計算では発電施

設自体を建設するのに必要なエネルギーを消費エネルギーに加えていないので、必要な面

積などの数値は多少増えるであろう。しかし、風力発電施設のように殆どの部材が鉄でで

きているものは、耐用年数が充分長ければ自分自身を製造するのに必要なエネルギーの割

合は低いと考えられている。 4.2 海洋エネルギーの多様な展開 海洋エネルギーのうち風力や波力は風任せ波任せなので、しばしばパワーの変動が問題

点として指摘される。この問題の解決法として、短期的には電力送電網の柔軟性に期待す

るところが大きいが、長期的には新しいエネルギー輸送形態を利用することも考えられる。

例えば、輸送機関用のエネルギーとして 2020 年頃から本格使用 4-4)が想定されている燃料

電池に使用される水素に変換することが考えられる。水素に変換してしまえば、もはやパ

ワー変動を気にする必要はない。我々の予想では 2020 年~2030 年頃に電力系統に直接つ

ながない洋上型のプラントが現れるので、その頃には陸上の輸送機関で十分に試された水

素運搬技術を海上でも利用することが可能であろう。すなわち、海上エネルギーのもう一

つの問題点であった送電線の問題からも開放されるのである。前節の議論はこのような状

況を想定している。

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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海洋深層水は温度差エネルギーを電力へ変換して利用する以外に、くみ上げた深層水そ

のものを淡水化して飲料水や食品,化粧品,医薬品などに利用することも考えられている。

すなわち、他の用途と組み合わせた分を全体の電力以外の形態の取得エネルギーとして算

入することにより、EPR 値を向上することができる。また、くみ上げた深層水は豊富な栄

養素を含むので、これを海面付近の有光層に拡散させ、そこに降り注ぐ太陽光エネルギー

を直接生物生産に結びつける試みもおこなわれている。これは「拓海」として実験機によ

る実海域実験 4-5)が行われた。近年は食料生産にも多大のエネルギーがつぎ込まれているこ

とを考えると、このような装置もエネルギー資源の有効な採取装置と考えられる。ただし、

この装置のEPRを計算しようとすると魚類増殖分をエネルギー値に変換しなければならな

いが、観測データの不足などから適切な変換法は良くわかっていない。したがって、現在

の知識では魚類増殖効果を EPR に直して、他のエネルギー資源と比較することは難しい。 しかし、海洋エネルギーの利活用では、このような従来型エネルギー資源と異なる特性

を理解し、 終的な利用形態をふくめて検討しなければ正しい評価はできないことに十分

注意する必要がある。

4.3 発電所温排水の利用 発電所温排水はエントロピーの高い質の悪いエネルギーであるため、エネルギーとして

は利用しづらく、従来は海洋に捨てられる際の環境影響という負の面だけが問題視され、

利用というプラスの面はあまり注目されていない。しかし、そのエネルギー量は膨大であ

る。 エネルギー白書 20064-2)によると、2004 年の火力発電電力量は 5,826 億 kWh、原子力発

電の年間発電電力量は 2,824 億 kWh である。このとき排出される温排水量を 40(火力)

~70(原子力)t/s/100 万 kWとすると 1 年間に排出される温排水量は 1,550 億トンとなり、

表層水面との温度差を 7 度とすれば、その廃熱量は 4.54×1018J となる。これを電力量の単

位で書くと 1 兆 2 千億 kWhである。要するに、発電機の熱効率の関係から、我が国の発電

電力量と同程度のオーダーの熱量が温排水として排出されているのである。さらに、近年

導入された「熱出力一定」運転をすれば冬期の廃熱量が増加することになり、利用量を増

やし易い状況になっている。 さて、前述のように熱力学の法則に従えば、温排水から熱エネルギーを回収するのは効

率が悪いが、農水産業に利用して冬期の促成栽培や魚介類の養殖などにはすでに利用され

ている。海洋エネルギータスクフォースでは、海洋の利用という側面から、水産業への大

規模な利用を行い、食料増産に役立てるべきだと考えている。そのためには、大規模利用

が環境に与える影響の精査、事業化の可能性、さらには養殖・増殖に使う施設あるいは他

の海洋エネルギー施設との複合利用などについて、中長期の課題として解決していかなけ

ればならない。特に、他の海洋エネルギー施設との複合利用は施設建設に掛かるエネルギ

ーやメンテナンスコストなどの問題にも関係する大変重要な課題である。 なお、施設の複合利用とならんで、海域の複合利用という考え方も重要である。特に沿

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岸域は、従来から漁港や養殖などに利用されているため、新たな発電施設などの設置にあ

たって漁業権の問題が発生する。これを解決するには、海域の複合利用という考え方に従

い、漁業協調型プロジェクトの推進が不可欠であろう。これの具体的プロジェクト案につ

いては、次章以降で触れる。 一方、環境影響の評価はこれらの水産への利用においても重要であり、従来よりもさら

に広範で正確な観測網が必要である。それらは、潮流・海流発電など他の海洋空間利用の

ためのデータとも共通性がでてくるであろう。

参考文献 4-1)エネルギー便覧―プロセス編―、コロナ社、2005 年 4-2)資源エネルギー庁:エネルギー白書 2006 4-3)平成 18 年度 洋上風力発電を利用した水素製造技術開発委託業務報告書、(独)国

立環境研究所 4-4)経済産業省「技術戦略マップ 2007」:

http://www.meti.go.jp/policy/innovation_policy/index.html 4-5)大内一之、大村寿明:海洋肥沃化装置「拓海」の実海域実験、第 8 回海洋深層水

利用研究会入善大会論文集、2004

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5.洋上風力発電

5.1 過去の取組と成果

近年、風力エネルギーへの期待は、さほど大きいとは言えない状況が続いてきたが、グ

ローバルな環境問題やエネルギー問題の意識の高揚等に伴い1970年頃から世界的に本

格的風力発電の開発が始まった。特に、デンマークを中心にした大型風力発電機開発に端

を発し、エネルギー供給の一角を占めるような風力発電事業化に成功している。その後、

オイルピーク説や地球温暖化問題が叫ばれるに至り、欧州、米国などの先進国で大型導入

が進んでいる。

我が国でも同時期に当時としては大型の数100kWクラスのプロジェクト開発が行われ

たが300kW機の試作にとどまり、事業化には結びつかなかった。1980年代に入り三

菱重工が独自に大型機開発を開始し、欧州を追う形で1MW 以上の大型機開発を達成し、米

国市場を中心に本格的投入に成功している。

現在は、ライセンス生産を別にすれば三菱重工と富士重工の2社が大型機の自主開発生

産をしており、それぞれ2.4MW 機、2MW 機の開発に成功している。

導入促進が急ピッチで進む風力発電であるが、一方で故障率の高さや重大事故も大きな

問題となっている。我が国では、山間部への導入が多いことや台風の来襲が多いという、

海外には無い特徴も不利な条件となっている。風の大きな乱れ度に起因する故障や落雷に

よるブレードの破損、台風や稼働中に倒壊する事故も発生しており、基礎部の設計基準や

運用基準の整備も問題視されている。我が国の環境に適する風車開発や故障率の低減など

が今後の大きな課題とされる。

1988 1995 1998 2000   2005 2008~2010?

0.2MWD=20m

8MWD=160m

5MWD=126m

2MWD=80m

1MWD=60m

0.6MWD=45m

図-5.1 風車大型化の変遷 5-1)などより

洋上風力発電は、欧州で沿岸の浅海区域へ着座式の大規模な試験導入が進められている。

我が国では北海道西岸の瀬棚町の港湾内に600kW の着底式風力発電機2基が設置され

ているのみであり、ウィンドファームを構成するような事例はないのが現状である。しか

し、技術的基盤整備は進められており、(財)沿岸開発技術研究センターが洋上風力発電の

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技術マニュアル-基礎工法に重点をおいて-5-2)を纏めており、港湾区域に於ける詳細な風

況マップ 5-3)が、国土交通省港湾局と(財)日本気象協会により作成されている。

一方、我が国の沿岸の多くは急峻な地形を有しており、欧州のような広大な遠浅海域が多

くないことから、浮体式による導入を模索する研究の動きも活発である。 2002年に

行われた JOIA(海洋開発産業協会)の調査研究 5-4)(海洋資源・エネルギーを複合的に活用

する沖合洋上風力発電等システムの開発)では、複数の形式の浮体式風力発電が取り上げ

られ、統一した基準のもとで技術的成立性の他、経済性の比較も行われた。この研究に端

を発して、その後も各種の形式が提案され、現在もいくつかのプロジェクトが進行してい

る。

写真-5.1 北海道瀬棚町港湾区域の着座式洋上風力発電

海上技術安全研究所など5機関の係留型の研究、国立環境研究所のセイリング方式による

非係留型の研究、東京大学・東京電力の経済性 適化を目指した軽量係留型の研究などの

他、造船重機系企業からも様々な方式の提案がなされている。

図-5.2 海上技術安全研究所の構想例(格子型、スパー型)5-5)

図-5.2は、海上技術安全研究所と東京大学が提案している浮体式風力発電システムで

ある。格子型とスパー型について浮体の動揺、構造強度、係留安全性の検討が行われてい

る。係留には合成繊維索係留と新型アンカー技術が応用されている。エネルギー利用は、

直接電力利用する以外に、水素、メタンへの変換貯蔵が検討されており、経済性、エネル

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ギー収支の成立性が確認されている。

図-5.3は、 新の研究事例の1つである。細長部材で構成された半潜水型浮体上に

5MW 風車3基を搭載しているのが特徴である。浮体は係留設置される。浮体構造は半潜水型

の部類に属するが、高い経済性を得るため極力軽量構造にする工夫がされている。細長部

材を緊張索で支持し全体剛性を確保する構造が採用されている。

図-5.4はセイリング型の構想図である。長さ約2kmの浮体上に11基の 5MW 風車を

搭載する。風況と海象を予測しながら 適な海域を探しセイルやスラスター等により移動

する。電力は海水を電気分解して水素に変換して貯蔵する。帆走時のエネルギーを考慮し

て他の自然エネルギーと同オーダーのエネルギー収支が得られる。

図-5.3 東大・東電のセミサブ型 5-6) 図-5.4 国環研のセイリング型 5-7)

5.2 海外の事例とその評価

海外の風力発電導入は、デンマークの大型機開発、大規模導入と事業化の成功により、

1990年代に入りドイツなど欧州各国で導入が活発化した。図-5.1は大型化の経過

を示したものであるが、数年前までの1~1.6MW クラスから、現在では2MW クラスが主

流であり、5MW 機の試験運転が 2006 年に欧州で開始されている。一説には、現在の設計開

発は8~10MW 機に移行しているといわれており、数年後には試験運転が行われると見ら

れている。大型化の背景には、近い将来の洋上への展開を前提とした計画がある。自然エ

ネルギーはエネルギー密度が低く広い設置面積が必要なことから、今後、導入比率を増や

すには広大な海洋空間の利用に活路を求めるのが必然と考えられている。こうした考え方

を背景にして、欧州を中心に風力発電は洋上への展開が始まっている。ノルウェー、ドイ

ツ沿岸には数10kmにわたる広大な浅水深域があり、大規模なウィンドファームの建設

が始まっている。陸上では運搬の問題で大型化に限度があるが、海上にはその心配が無く

スケールメリットによるコスト削減の効果もあることから、各メーカーとも洋上向け大型

機の開発に凌ぎを削っているという状況にある。

大型風力発電機は出現から10年程度であり、開発途上期にあるため技術的課題も多く

残されている。種々の故障や事故も多数発生しており個々の要因に対処しているというの

が実情である。欧州における洋上試験運転では、送電路のトラブルや塩害による故障、荒

天によるメンテナンスの困難さなどの問題のあることが伝えられている。

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欧州や中国で大規模な洋上風力発電導入計画が発表されている。欧州では、デンマーク、

スウェーデン、オランダ、イギリスが取組みを始めており、ドイツは洋上風力発電比率を

電力消費の15%とする目標を立てている。政策的にも

「再生可能エネルギー法」「洋上風力発電利用に関する

政府戦略」といった導入に向けての基盤整備が並行して

進められている。バルト海上の開発に期待が寄せられて

おり、適地選定と開発区域の確定作業がドイツ連邦環境

省と連邦海上交通・水路管理庁で進められている。

浮体式に関する計画もいくつか検討されている。北海

などでの海底石油開発の技術を応用して、ノルウェー、

イギリス、オランダなどで研究が行われており、テスト

プラント建設の計画が上がっている。図-5.5はノル

ウェーにおけるコンクリート製スパーブイ型のテスト

プラント構想であり2009年設置を目指してHydro社

と Siemens 社を中心に研究開発が進められている。

米国エネルギー省は、2003~2004年に、内外の

研究者を集めて大水深域洋上風力発電に関する会議を開

催し、浮体式に関する可能性を討議している。海底石油開

発で培った技術を応用した浮体技術、係留技術の適用法が検討されている。一方で、NREL

と MIT での浮体式プロジェクト研究も始まっている。スパー型、ポンツーン型、ミニTL

P型3種類の形式を対象にした検討が行われている。

中国は、急速な経済成長に伴いエネルギー消費が増大しており、供給が需要に追いつかな

い状況にある。原子力発電、水力発電の建設の積極的開発の他、自然エネルギー導入の動

きも活発化している。浙江省に計画中の洋上風力発電プロジェクトは、2MW風力発電機

100基を岱山県拷門防波堤付近60km2の浅海域に建設する計画である。設備容量20

万kWのアジア 大の洋上風力発電施設となるが、2020年までに50万kWにまで拡

大するという計画が立てられている。

5.3 商用展開に向けた課題

着座式洋上風力発電は既に海外で大規模な導入が始まっており、商用運転に向けての開

発初期の課題は克服しているものと考えられる。しかし、全体には開発途上にあると見ら

れ、完成期に至るには 10~20 年程度かかると見ることができる。故障率の低減やメンテナ

ンス技術の開発が、今後の事業性向上における課題となると考えられる。また、洋上の電

力輸送系統の設置費はコストに大きく跳ね返ることになり、こうしたインフラ整備を総合

的計画のもとに急ぐ必要がある。

浮体式は基礎研究段階にあるものの、欧州の数カ国で実証の計画が持ち上がっており、

数年の内に建設される可能性がある。浮体式には常に動揺の問題があり、動揺に耐えうる

図-5.5 ノルウェーの コンクリート製スパー型 http://www.hydro.com/en

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風力発電機の開発やタワーなど支持構造の強度設計技術が重要となる。

わが国の場合にはこれら技術的課題に加え、沿岸域では漁業権の問題がある。したがっ

て、大規模な洋上風力発電を沿岸域で実施する場合には漁業協調型システムであることが

不可欠であろう。また、海域総合利用や沿岸漁業振興の観点からもそうした複合型のプロ

ジェクトが必要である。まして、一定規模の海域空間を占有する洋上ウインドファームは、

それ自体がいわば水産資源にとっての保護水面あるいは漁業にとっての格好の養殖・蓄養

水面としての性格を兼ね備えるので、この点を積極的に活用すべきであろう。 図5.6は(社)海洋産業研究会が提案する「漁業協調型洋上風力発電システム」である。

この提案によると、次の利点が考えられるとされている。 1)風車基礎構造物の利用方法 ・風車基礎周辺に魚礁ブロックを設置することにより、魚介類の蝟集効果が期待できる。 ・基礎と基礎の間にロープを張ることにより、海藻類の生育場所を提供することができる。 2)発電電力の利用方法 ・発電された電力を集魚灯や水質浄化装置などに利用する。 ・発電された電力を送電線に系統連系し売電する以外に、漁業関連施設内の冷凍施設、養

殖施設、漁獲物の加工施設等に電力を供給する。 3)漁業者自らの風力発電事業への参画 ・事業へ参画することにより、発生電力の水産利用が高まると考えられる。

図5.6漁業協調型 洋上ウィンドファームのイメージ5-8)

水質浄化装

集魚灯

電力供給

港 湾 施

漁業関連施

魚生海 藻

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5.4 共通メンテナンス、技術の共有

海洋エネルギーに共通な技術として、電力輸送ラインの整備、海上メンテナンス技術の

完成があげられる。また社会的要素として、海域総合活用マップの制定が望まれる。

日本の電力は地域により事情が異なる。風力発電について言えば、風況が良く導入量の

比較的多い北海道、東北地域では、風車設置地点付近の電力線の系統連系容量が低く、大

規模な接続が困難であるという問題をかかえる。こうした地域では電力消費量は都市部の

ように大ききいため、変動の大きい風力発電の大規模導入が行われると、周波数変動など

電力の質の低下が起きる。一方、都市部は需要が大きいため変動の吸収が容易であり、系

統容量も大きいが、風力発電機の設置に適した地域が少ないという事情がある。

風力発電先進国といわれる欧米諸国は、電力輸送の幹線とも言えるネットワークが完備

していると言われる。我が国では、電力変動を解決する蓄電技術の研究などが行われてい

るが、本質的には自然エネルギー大規模導入に適したインフラ整備が必要である。

メンテナンス技術の整備も重要である。洋上ではアクセスの問題があり、故障に直ぐ対

処出来ない事が大きな問題となる。欧州では、建設やメンテナンス専用の船舶も建造され

ており、これにより大規模施設の効率的な建設や保守管理が可能となっている。

写真-5.2 欧州ウィンドファームの施工用専用船

こうした共通基盤は、大規模に集中的に行う場合に効果が発揮できる事が多く、将来の

エネルギー供給体制を予測して、総合的整備の一環として計画的に行う必要がある。

社会的要因として、既存海洋産業との共生は避けて通れない問題である。特に、水産

業は、今後の食糧自給率向上を目指すとき重要であり、目標生産量確保計画との調整が必

要となる。これは、従来の漁業権とは別の観点で海域利用の総合管理が必要という意味を

もっており、総合政策としての海域の利用マップを制定する必要が生じてくるものと思わ

れる。我が国国民の生存や文化的生活の維持に欠かせない食料、エネルギーを確保するに

は、現在の化石燃料中心社会からの転換がいずれ必要となり、その時期はそれほど遠くな

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いとする見解もある。途上国の経済発展が加速している現状では安いエネルギーの供給は

今後困難となる可能性が高く、安定確保への道を早急に確立しておく必要が生じていると

言える。

図-5.7 日本における風車故障事故の実態(発生部位)5-9)

5.5 ロードマップ

日本の風力発電の導入量の限界は、陸上で約700万kW の設備容量と推定されている。

陸上風力発電の設備利用率は平均20%程度とみられるから、年間発電電力量は123億

kW・h(4.43×1016J)となる。図-5.8は我が国の年間発電電力量の推移を示

している。現在は、1980年当時の約2倍にもなっている。今後、省エネルギーを含め

たエネルギー需給を進めなければならないが、2004年度の発電電力量9705億k

W・h(3.49×1018J)を基準にすると、陸上風力で得ることの出来る電力は全体の

1.3%にしかならない。今後、エネルギー消費を1980年当時の水準になったとして

も3%前後に止まる。

2004年度にNEDOの風力発電利用率向上調査委員会が、洋上までを含めたロードマ

ップを提案している。これによれば、洋上展開は2010年から始まり、2030年まで

に陸上、海上を含めて2000万kWの導入を目指すとされている。我が国の洋上風力発電

は基礎的研究の段階にあるのが現状であり、実用化技術の開発を急ぐ必要があることは言

うまでもない。

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18

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

1960 1970 1980 1990 2000 2010

年度

発電

電力

量(億

kW・h)

Total

水力

石炭

LNG

石油

LPG他

地熱

原子力

新エネ

図-5.8 年間電力発電電力量の推移

図-5.9 風力発電ロードマップ図 5-10)

日本周辺海域の風況予測に関して,いくつかの研究があるが、図-5.10は SSM/I

衛星と海岸線の風速に GIS を援用して作成された長井の風況データを用いて、沿岸域 100km

の年平均風速の分布に等水深線を重ねた結果である。年平均 8m/s 以上の海域の中から,100

~200m の水深域について絞り込むと,次の 13 海域が候補地となる.

留萌沖 瀬棚沖 秋田沖 輪島沖 境港沖 屋久島沖 那覇沖 平良沖

石垣沖 和歌山沖 御前崎沖 伊豆大島周辺 房総鹿島沖

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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現時点で海象観測データが整い安全性検証が確実な海域を選定して、以下の4海域を対

象と考えてみる。ここで、大型台風の来襲頻度を考慮して伊豆より南の海域を除外した。

北海道西岸、東北・日本海沖、房総鹿島沖、伊豆大島周辺

設置面積,浮体ユニット基数,発電電力量の関係を試算すると表-5.1のようになる。

海域全てを使用するのは事実上不可能であるので、その 5%を利用するものとしている。

また、風車の展開、は風車直径を D として、10D×10D の間隔を要するものとした。発電電

力量は,風速の出現確率をレイリー分布で仮定し、5MW 機のパワーカーブを用いて算出し

た。この際、風速の高度分布をべき指数 1/10 として考慮した。

年平均風速

6m以下7~8m8~9m9m以上

100m水深

500m200m

1000m

図-5.10 日本沿岸 100km の風況と等水深線 5-11)

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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表-5.2 有望海域面積の 5%を利用した時の賦存量

海域 面積(5%面積)

km2

風車基数

(5MW 風車)

設備容量

万 kW

発電電力量

億 kW・h/年(J/年)

北海道西岸沖 7,618(381) 520 260 93.3(3.36×1016)

東北・日本海沖 2,092(105) 140 70 23.2(0.84×1016)

房総鹿島沖 1,705( 85) 110 55 20.3(0.73×1016)

伊豆大島周辺 1,283( 64) 80 40 15.7(0.57×1016)

合計 12,698(635) 850 425 152.5(5.49×1016)

この結果を、陸域における2010年度導入目標の300万kWの発電電力量と比較し

てみる。陸域の設備利用率を20%と仮定すると,年間発電電力量は52.5億 kW・h(1.

89×1016J)となる。表-5.2の結果は,その約3倍ということになる。すなわち、

想定海域の5%面積で、900万kWの陸域風力発電に匹敵する発電電力量が得られること

になる。

図-5.9に示した2030年目標では、フローティング1000万kW となっている。

表-5.2の設備容量は425万kWであるので、その約2.35倍となり、約12%の海

域面積5MW 風車 2,000 基が必要となる。これは、沿岸100km以内で係留が容易な20

0m水深迄の海域への導入を前提とした結果であるが、水深1000m程度の海域までは

現在の技術で係留設置可能であり、この範囲まで考慮に入れると可能範囲は大きく拡大す

る。さらに、非係留型のセイリング型の導入が可能となれば、対象海域は大幅に拡大でき

る。また、表で得られた設備利用率(41%)をそのまま適用すると、年間発電電力量は 360

億 kWh となる。

沖合洋上風力発電の事業性を考える上で、送電コストの問題が良く指摘される。これま

では、欧州のウィンドファームなどの例が引き合いに出される場合が多くあり、全体の建

設費の15%前後になるとされる。これは、テスト事業における初期導入コストについて

の算定結果と考えるのが適切である。送電ラインの寿命は浮体などに較べてはるかに長く、

将来の大規模洋上エネルギー利用を考えた計画のもとに、インフラとしての洋上送電網を

整備すればライフサイクルコストの大幅な低減が期待できる。

また、日本周辺海域を広範に有効活用できるとすれば、将来、風力の電力量比率は 大

20%程度の導入も夢ではないと推測される。

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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参考文献

5-1) 中村成人:風力発電の 深事情と展望、風力エネルギー、通巻 81、日本風力エネルギ

ー協会、2007

5-2) 洋上風力発電の技術マニュアル(2001 年度版)―基礎工法に重点をおいて―、(財)

沿岸開発技術研究センター、2002

5-3) 全国港湾風況マップ、国土交通省港湾局振興課、2004

(http://www.mlit.go.jp/kowan/kaihatuka/wind_hp/huukyo-map/wmap_top.html)

5-4) (社)日本機械工業連合会、(社)日本海洋開発産業協会(JOIA)、平成14年度 浮遊式

風力発電基地の自然エネルギーの 適輸送技術に関する調査研究報告書,2003

5-5) 大川他:浮体式洋上風力発電による輸送用代替燃料創出に資する研究、運輸分野にお

ける基礎的研究推進制度平成 15 年度終了課題研究成果報告書、鉄道・運輸機構、2006

5-6) 大山他:洋上風力発電のための軽量セミサブ浮体構造物の波浪動揺特性、海岸工学論

文集、第 53 巻、土木学会、2006

5-7) 平成 18 年度洋上風力発電を利用した水素製造技術開発委託業務報告書、国立環境研

究所、2007

5-8) (社)海洋産業研究会、平成 15 年度八戸地域洋上風力発電導入可能整調査報告書、2004

5-9) 丸山隆一:風力発電利用率向上調査委員会の活動報告、第 28 回風力エネルギー利用

シンポジウム、日本風力エネルギー協会、2006

5-10) 新エネルギー・産業技術総合開発機構、平成 16 年度風力発電利用率向上調査委員会

の風力発電ロードマップ検討結果報告書、2005

5-11) 長井浩他:SSMI 衛星と沿岸データの風況解析による洋上風力発電の賦存量:太

陽/風力エネルギー講演論文集、2002

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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6.潮流・海流発電 6.1.はじめに 近年、エネルギー問題によって、石油価格の高騰を受け、脱石油、代替エネルギーの開

発が求められている。その中で期待されているのが、再生可能エネギー(自然エネルギー)

である。自然エネルギーは再生利用可能であるが、一般に、自然エネルギーはエネルギー

密度が低く、気象条件に左右されるために安定供給が難しい。自然エネルギーの中でも海

流・潮流エネルギーは波力、風力及び太陽光に比べ、その発現の規則性が極めて高いこと

から、 も安定したエネルギー源であると言える。その安定した発現性から利用可能エネ

ルギー量の確定が容易であり、電源システム設計における安全率を 小に設定出来ること

から、適切な発電機容量及び蓄電池容量の選定が可能となる利点がある。さらに、日本は

四方を海に囲まれており、海洋エネルギーが豊富に存在する恵まれた海洋環境を持ってい

る。 6.2 潮流・海流エネルギー 6.2.1 エネルギー賦存量 海流・潮流エネルギーは海水が移動することで生じる運動エネルギーである。我が国に

は世界の二大潮流の一つである黒潮が沿岸を流れている。この黒潮を含めた海流エネルギ

ー賦存量は年間 1,400 億 kWh(5.04×1017J)と推定されている(6-1)。このうち、比較的安

定したエネルギーが得られる地点としては、八重山諸島、トカラ列島、足摺岬沖、八丈島

沖が挙げられる。潮流は、海流の場合利用できる海域が限定されるのに対して、沿岸部の

海峡・水道など対象海域は多い。瀬戸内海、九州西岸及び五島列島の海域に集中している。

潮流エネルギーの賦存量は、年間 2190 億 kWh(7.56×1017J)と見込まれている 6-1)。潮流

は、潮汐と同様に 12 時間周期で正弦状に変化し、半周期ごとに流れの方向が反転する。流

向が反転することを転流といい、転流時に海水の動きが停止する時を憩流という。潮流は、

流速変化に周期性を持っているのでエネルギー変化量を予測可能である。

図-1 世界の主な海流 図-2 日本近海でのエネルギー附存量 6-1)

①黒潮②親潮 ③北太平洋海流 ④北赤道海流 ⑤赤道反流 ⑥南赤道海流 ⑦南インド海流 ⑧南大西洋海流 ⑨北大西洋海流 ⑩南極海流 ⑪カリフォルニア 海流

地点最大流速[ノット]

平均最大流速

[m/s]

断面積

[m3]

賦存量

[×103KW]

鳴門海峡 9.9 3.8 93000 2672

来島海峡 8 3.1 77000 1167

関門海峡 6.8 2.6 12920 120

広島湾 6.3 2.4 48300 328

明石海峡 5.8 2.2 264000 1525

島原湾 5.4 2.1 286000 1334

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6.3 潮流・海流発電の開発状況 6.3.1 過去の取り組みとその成果 日本では、1980 年代には日本大学が来島海峡で 3kW のダリウス水車、徳島大学が鳴門

海峡で 0.8kW のクロスフロー水車で実海域実験を行った実績があるが、このときは実験段

階で終了している 6-1)。 6.3.2 海外の事例とその評価 6-2)

近の環境問題に関する関心の高まりから、欧米を中心に潮流発電の開発プロジェクト

が進んでおり、基礎研究の段階から実証段階に入っており、商業化の一歩手前まで来てい

る。そこで、海外の主な開発プロジェクトを以下に示す。 ・イギリス イギリスでは、潮流及び波力発電技術の開発が活発である。Marine Current Turbine 社

が中心になり、Seaflow プロジェクトとしてローター式の潮流発電システムを現在開発して

いる 6-3)。2003 年にイングランドのデボンのリンマス沖に 300kW 級発電装置を設置した。

ローター直径 11m であり、U=2.7m/s で 300kW の発電を計画している。2006 年には第1

段階が終了する予定である。さらに、商用試作設備としてノース・デボン沿岸に12基か

らなる潮流発電ファームの建設についてのFSを実施している。 スコットランドのロバートゴードン大学では、潮流発電タービンに代わる Sea-Snail 装置

を開発している 4)。ブレハブ式の簡易な構造であるため、他の潮流タービンよりも安価に

設置できる可能性がある。2005 年には、ロバートゴードン大学は Sea-Snail 装置が成功し

たことを発表した。大きさは 15m×12m あり、海底に固定するために6つの水中翼のダウ

ンフォースを利用しているところが特徴である。2007 年には、 初の潮流発電ファームが

稼働し、5MW を発電することを目標としている。

図-3 SEAFLOW 装置 図-4 Sea-Snail 装置 ・ノルウェイ Hammerfest STROM AS 社が、Blue Concept というプロジェクトでプロペラ式の発電装

置を開発している 6-5)。これは、海底面に設置する方式で 300kW の発電能力を有している。

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ノルウェイ北端の Kvalsundet 海峡において試運転を開始しており、2003 年 1 月から送電

している。STROM AS 社は、ABB 社や Statoil 社と共同で水車型システムの開発を行って

いる。今後、STROM AS 社は費用効率性を向上させるため、技術の 適化を図り、潮流タ

ービンの改良を行う予定である。成功すればさらに増設されていく予定である。 ・カナダ BlueEnergy 社の OceanTurbine は水中垂直軸風車である 6)。現在まで6基の試作機が製

作され試験された。BlueEnergy 社は現在カナダ・ブリティシュコロンビア州の沖合で

500kW 機の試験を実施中である 6-6)。プロジェクトは海流から発電を行う2つの浮上式

250kW ユニットから構成されている。今後、世界で 大の海流エネルギー施設になる予定

である。第2段階としては、プロジェクトでは BlueEnergy 社の海洋エネルギーシステム

と水素燃料電池との統合を検証する予定である。

図-5 海底に設置された潮流タービン 図-6 Ocean Turbine ・ 米国

2007 年に米国内でいくつかの波力および潮力のパイロット実証プロジェクトが開始さ

れる予定がある。米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)が、EPRI が発表した実現可能性

研究結果の報告書の中に明示されている潮力エネルギーサイトでの研究の実施に関して、

2006 年に約 40 件の許可の申請を受けている。ニューヨークのバーダント・パワー社のイ

ーストリバー・プロジェクトは も米国で進んだ潮流エネルギープロジェクトである 6-7)。

2007 年に.同社は小規模な試験的プロジェクトでマンハッタン地区とクイーンズ地区の間

を流れるイーストリバーに二つの水中タービンを設置することを計画している。そしてさ

らに 4 つのタービンを追加する前に、18 ヵ月に亘り魚への影響を研究する。もし問題がな

ければ、同社は 300 基の水中タービンをイーストリバーに追加設置することができ、2008 年に 10MW の発電容量に達する。ニューヨーク州エネルギー研究・開発局はこのプロジェ

クトに対しこれまでに 200 万ドル以上を投資している。

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図-7 Verdant Power turbine6-7)

6.3.3 国内の開発の現状 現在、国内で海流・潮流発電の取り組んでいる主な研究開発を以下に紹介する。現在は、

基礎研究、応用研究の段階であり、経済性や環境評価に関する基礎データを収集している

状況である。 ・弘前大 弘前大学では、南條教授を中心としたグループが津軽海峡における海流発電の研究を行

っている。津軽海峡は東進の海流が潮流を上回っており、海流発電が経済的に成立すると

見ている。現在、サボニウス型水車を使用した流水路実験を実施しており、津軽海峡での

実証試験段階に入る予定である。 ・九州大学 九州大学では、経塚教授のグループが長崎県の生月島特有の周囲を流れる海流を生かし、

島にかかる生月島大橋の橋脚を利用した潮流発電システムの開発を行っている。狭い海峡

では一般に潮流は速いが、さらに橋脚による増速効果や発電機の設置などで既設の施設を

利用できる点が特徴である(図-8)。現在、流域調査や発電装置の検討を平行して実施してお

り、将来的に実証試験を行う予定である。 ・海上保安庁 海上保安庁では、潮流を航路標識用電源エネルギーとして利用することにより、電源容量

の向上が容易に図ることが出来ること及び従来の波力発電や太陽光発電に加え、電源種別

の選択肢が多様化を図っている。実際に発電能力が 35W と小規模であるが灯浮標用のシス

テムで 2002 年に実用化されている(図-9)。

図-8 橋脚を利用した発電システム 図-9 来島海峡沖に設置された航路灯浮識

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6.4 商用展開に向けた課題 潮流・海流発電を事業として発展させるために、導入目標を達成するには課題を整理し

て対策を取りまとめる ・エネルギー変換技術の性能向上 潮流は風力発電と異なり周期的に流速が変化し予測が可能である。しかし、流速が変化

するために 適効率でエネルギー変換するにはタービン特性、増速機、発電機特性を考慮

して設計する必要がある。このため、設置場所の流速特性に合わせた発電システムの設計

が必要である。以下に述べる流況マップをもとに 適なシステム構成及び 適制御技術の

開発によって効率向上を図る。海流は流路、流向が長期的に変化するために、 適な効率

が得られるような位置に移動できる係留・移動システムと流向変化に合わせた 適ヨウ角

制御システムを開発する。 タービン単体のエネルギー変換効率向上だけでなく、発電システムとして発電量の大出

力を図ることで効率向上につながる。具体的には、タービンを1基だけでなく、複数基の

タービンを装備することによりトータルで大出力化が可能になる。潮流・海流発電では、

風力発電と異なり、タービン自体を水中に置くので浮力の影響で支持装置にかかる負担を

軽減できる(図-10)。

図-10 MCT 社の提案する複数基の発電タービンのイメージ図 6-2) 6-8) ・コスト低減 発電システム毎の変電設備や送電設備を設置することコストが増加するために、複数の

発電システムでインフラ設備を共有化することで全体のコストを抑えることができる。ま

た、タービンや支持部材等を複合材料を利用して軽量化による構造材料の低減もコスト低

減につながる。潮流・海流発電の導入を進めることにより、発電機本体の大量生産による

低価格化が見込まれる。変電、送電設備を海面より上に設置すれば、陸上用のパワーエレ

クトロニクス機器の転用を検討することができ、変電、送電設備の選択枝が広がることに

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より陸上における市場価格で購入することが可能になる。 ・信頼性 タービンを水中に設置するために、水密等の信頼性を十分に検証する必要がある。また、

故障等が生じた場合にすぐにメンテナンスできるような技術の確立が必要である。また、

積極的な保守技術としては、タービン等にセンサーを設置して遠隔モニタリングによって

故障の事前予知を行うことも考えられる。 ・流況把握、環境影響評価 潮流・海流エネルギーは、自然エネルギーであるためにエネルギー密度が低い。このた

め、日本近海における潮流・海流エネルギーの 適なマップを作成することにより、潜在

的に潮流・海流発電に適した場所を選定する。また、海域に発電タービンを設置すること

により、海洋環境にどの程度影響があるかを実証プラントで検証し、周辺地域の理解が得

られるようにしお互いうまく共生できるように開発を進めていく必要がある。 ・事業性の確保 開発当初は、開発コストがかかり発電コストが高くなり、他のエネルギーと競争するこ

とが困難である。しかし、潮流・海流発電の普及促進が進めば、発電システムの大出力化・

大規模化でコスト低減が図れる。国が実証プラントによる研究成果を踏まえて潮流・海流

エネルギーを新エネルギーとして選定し、規制緩和や導入支援をすることにより、風力発

電のように潮流・海流発電もビジネスとして維持できると考えられる。 6.5 ロードマップ 潮流・海流発電に係る課題に対して、2030 年度までの導入目標は図-11 に示すように総

導入量を 300 万 kW として 2030 年度新エネルギー全体の導入量の見通しの約 3%のシェア

を想定した。これと関連して、2030 年度までに国内の他の発電システムと競合できるよう

に、EPR を 4.0 以上を目指す。2030 年度までには、洋上風力発電の導入も進んでおり、浮

体設備の水面下を利用することにより、潮流・海流発電システムの導入を大幅に展開する

ことが可能になる。 潮流・海流発電の導入を拡大することにより、300 万 kW の導入目標を達成し、技術開発

力を向上させ、地域に根ざした分散型エネルギーとして活用することによる経済活性化や

国際競争力を高めることに資する。 導入目標: 【2010 年】 0.1 万 KW 実証プラント(複数基組み合わせ) 【2020 年】 100 万 KW 【2030 年】 300 万 KW

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図-11 潮流・海流発電のロードマップ (設定根拠) 潮流発電 150 万 kW(年間 130 億kWh) エネルギー密度 1.4kW/m2 (流速V =2m/s、風力と異なり流速変化に規則性があるた

め変換効率η =0.35 と仮定)

30.5 *P A Vρ η= ⋅ ⋅ ⋅ 20.1~ mA (単位面積)

タービン径 15m を想定すると、必要な基数 6,000 基 想定される対象海域:鳴門海峡、来島海峡、関門海峡、津軽海峡、明石海峡、島原海峡、

大畠瀬戸等 海流発電 150 万 kW(年間 130 億 kWh) エネルギー密度 0.07kW/m2 (流速 V =0.75m/s、流速変化が少ないため変換効率

0.35 と仮定) タービン径 50m を想定すると、必要な基数 11,000 基 想定される対象海域:黒潮、親潮、対馬海流、津軽海流等 ただし、水中に設置することから浮力の支持を受けられるため、パイルや浮体に複数台

の発電機を設置することが可能になり、パイル及び浮体自体の設置台数は減少させること

が可能である。

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6.6.将来展望 将来的な海流・潮流発電システムの実用化に向けた課題を整理する。海流・潮流発電を

行う場所は漁業権等を考慮すると沖合 10km 以上になることが考えられる。設置コストも

大きくなることが予想されるため、いかに発電コストを抑えるかが重要である。前述した

Seaflow プロジェクトでも、潮流発電の EPR は、洋上風力の約1/2倍、陸上の風力発電

の1/3倍という試算になっている。今後、本プロジェクトでは技術開発や大容量化で陸

上の風力発電と同等にしていく予定である。このため、現時点で海流・潮流発電の実用化

を進める上では、海流・潮流エネルギー以外に洋上で利用できる自然エネルギーを総合的

に利用することが不可欠であると考える。洋上風力等でも沖合からの送電エネルギーコス

トの問題があり、複合型海洋エネルギー利用施設を設置することで送電にかかるエネルギ

ーコストを相対的に小さくすることが可能である。このように、海洋エネルギーを複合的

に利用することにより、初期インフラにかかるエネルギーコストをできるだけ低く抑え、

陸上における発電施設の EPR に近づけることができると考えている。 また、石油に代わる代替エネルギー需要の高まりから、燃料電池等の新しいエネルギー

源が期待されている。燃料電池等に用いる水素などは2次エネルギーと言われ、別のエネ

ルギーを利用しないと生成できない。水素等のエネルギーを上記複合型海洋エネルギー利

用施設で生成すれば、二酸化炭素を極力排出しないクリーンなエネルギーとして利用でき

る。また、本複合型海洋エネルギー利用施設は、図-12 に示すように地域特性に合わせ、発

電プラントとして発電ネットワークに連結するか代替エネルギー生成プラントして利用す

ることが選択できるようにし、地域特性のニーズに合わせた運用によって実用化が図れる。 本施設の課題としては、浮体式を想定した場合、沖合である程度の海象条件でも係留で

き、荒天下では安全な海域への移動も可能な係留システムの開発が必要である。この点は、

我が国で進めてきたメガフロート技術など応用できるのではないかと考えている。また、

エネルギー変換装置のメンテナンスでは、イギリスの Seaflow プロジェクトでも検証され

たが、エネルギー変換装置がエレベータ式で上下できるようにすれば水上で部品の交換が

可能になり、メンテナンス費用も低く抑えられる。施設本体のメンテナンスについても、

メガフロートで培った技術が利用できるのではないかと考える。

潮流・海流発電

クリーン電力

海水 水素、メタン

代替燃料

燃料電池発電電気自動車

配電線

地域分散型エネルギーネットワーク

負荷変動が予測可能

電力

潮流・海流発電

クリーン電力

海水 水素、メタン

代替燃料

燃料電池発電電気自動車

配電線

地域分散型エネルギーネットワーク

負荷変動が予測可能

電力

図-12 地域分散型エネルギーネットワーク

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6.7 まとめ 地球温暖化問題や原油価格高騰など今後ますます脱石油、再生利用可能エネルギーへ関

心が高まると考えられる。我が国としては海外に依存するのではなく、日本の恵まれた海

洋環境をいかにうまく利用していくかを検討する段階に来ていると感じている。海洋エネ

ルギーは、エネルギー密度は低いが、海洋エネルギーだけで社会全体のエネルギー消費を

賄う訳ではなく、エネルギー発生量が予測可能な特徴を生かし、地域のエネルギー需要に

合わせて他のエネルギー源とのベストミックスを考えていけば、十分に実用化できると考

えられる。 今後は、日本国内でも本格的な海流・潮流発電の実証試験を行い、エネルギ変換システ

ムの検証、経済性評価や環境影響評価等を行い、実用化に向けてまず一歩踏み出すべきで

ある。 参考文献 6-1) 近藤俶郎、木方靖二、谷野賢二、上原春男、谷野賢二著、「海洋エネルギー利用技術」、

森北出版株式会社 6-2) NEDO 海外レポート、「欧米における潮流・波力 発電技術の 新状況」、

No.977,2006 6-3) http://www.marineturbines.com/projects.htm 6-4) http://www.e-tidevannsenergi.com/index.htm 6-5) http://www.rgu.ac.uk/cree/general/page.cfm?pge=10769 6-6) http:// www.bluenergy.com 6-7) http://verdantpower.com/ 6-8)George Hagerman,「Tidal Stream Energy in the Bay of Fundy」, Energy Research

& Development Forum 2006

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7.波力発電 7.1 我が国での過去の取組と成果 7-1),7-2),7-3),7-4)

1919 年に広井勇博士が、大東崎に振子式及び空気圧縮方式の波エネルギー変換装置に関

する現地実験を行って以来、様々な形式の波力発電装置が提案されている。特に、1973 年

の第一次石油危機による石油の高騰以後、波力発電装置への関心が高まり、我が国でも多

くの研究が行われている。 提案された波力発電装置の主なものは、次の3種類に大別される。第1は、装置内に空

気室を設け、海面の上下動によって生じる空気の振動流を用いて空気タービンを回転させ

る振動水柱型、第2は波浪のエネルギーを可動する物体を介して油圧に変換した後、油圧

モータ等を用いて発電を行う可動物体型、第3は波を貯水池等に越波させ、この貯水池の

落差により生じた水流を用いてタービンを回転させる越波型である。我が国では、この内、

振動水柱型と可動物体型の波力発電装置に関する開発が主に行われている。中でも振動水

柱型は、沿岸に固定した固定型、海上に浮かんだ浮体型について多くの研究がある。 波力発電装置で実用化されているものは極めて少ない。1965 年に海上保安庁に採用され

た益田式航路標識用ブイは、 初に実用化された浮体式の振動水柱型装置で、 大出力が

30W~60W の小型のものがほとんどであるが、世界で広く用いられている 7-5)(図 7-1)。 振動水柱型、可動物体型について、プロトタイプによる実海域実験が行われたものとし

て、以下のものがある。7-7)

(1)固定式の振動水柱型装置 a) 新技術開発事業団他は、山形県三瀬海岸で沿岸固定式波力発電システムの実験を

行い、冬期間の平均出力として約 11kw を得た。(1983~1984) b) 大成建設(株)は、新潟県寝屋漁港で波力利用熱回収システムの実験を行い、10

~30Kw/10m の熱エネルギーを取得した。(1986~1987) c) 財)エンジニアリング振興協会他は、千葉県片貝海岸で消波工型定圧化タンク方式

波力発電システムの実験を行っている。(図 7-2、1987~1996) この装置では、複

数の空気室で得られた圧縮空気を、定圧化タンクに集め変動性を平滑した後に空気

タービン発電機に送るシステムを採用している。7-8) d) 運輸省第一港湾建設局、港湾技術研究所が山形県酒田港北防波堤で行った波力発

電ケーソン防波堤(図 7-3、1998~1999)は、混成防波堤やケーソン式護岸として

用いることができるように、空気室をケーソンと一体化したものである。発電効率

に関して、理論と実験も含めた詳細な検討が行われ、装置の設計手法が提案されて

いる。7-9) e) 東北電力(株)は、福島県原町火力発電所南防波堤で水弁集約式波力発電システム

の実験を行った。(1996~2000) この装置では、複数個の振動水柱型の波力エネルギ

ー変換装置で得られる往復の空気流を、水頭差を利用して封かんする水弁装置を用

いて整流すると共に平滑・集約するシステムを備えている。

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(2)浮体式の振動水柱型装置 a) 海洋科学技術センターは、山形県由良沖で浮体式波力発電装置「海明」の実験を

行った。(図 7-4、1978~1980, 1985~1986) 全長 80m、幅 12m の船型浮体に 13個の空気室が設置されている。空気室は入射波の進行方向に沿って配置されている。

b) 海洋科学技術センターは、三重県五カ所湾沖で浮体型波力発電装置「マイティー

ホエール」の実験を行った。(図 7-5、1998~2003) 全長 50m、幅 30m の船首部の

幅方向に 3 個の空気室が設置され、タンデム型のウェルズタービンに直結された発

電機で発電する。詳細な検討が行われ、装置の設計マニュアルも示されている。7-11) また、このプロジェクトでは複合利用や漁業協調型の提案も行われている。

c)(株)メカニカルプラネット他は、山形県由良沖と愛知県三河湾で、後ろ曲げダク

トブイの実験を行った。この装置は、空気室のダクトが、波に対して後向きに L 字

形に曲げられたブイ形式の装置である。特定の周波数帯で波上側に微速前進する特

性があるので、係留コストを低減できる利点がある。

(3)可動物体型装置 a) 日本造船振興財団海洋環境研究所は、沖縄県八重山郡竹富町西表船浮湾サバ崎沖

に浮体式波浪発電装置「海陽」を設置して実験を行った。(1984~1988) この装置

では、浮体の回転運動をリンク機構で、海洋固定構造物上のアクチュエータに伝達

し、油圧に変換した後、油圧モータを経て交流発電機を駆動させる。異常海象時に

は構造物全体がジャッキアップする。 b) 室蘭工業大学は、室蘭港外防波堤沖で、振り子式波力発電装置の実験を行った。(図

7-6、1983~2000) 上端にヒンジを持つ振り子板の運動は、油圧システムを介して、

油圧モータを経て交流発電機を駆動させる。その研究成果が本としてまとめられて

いる。7-12) 有義波高や有義周期の波浪条件が良い場合における発電の総合効率は、代表的な装置で

ある、波力発電ケーソン防波堤が大略 10~20%、マイティーホエールが 13~15%、振り子

式波力発電装置が 40~50%である。 2003 年に終了した「マイティーホエール」の研究開発以後は、大規模な実証プロジェク

トが無く、波力発電装置に関する研究開発は低調であったが、近年の石油価格の歴史的な

高騰に伴い、波浪エネルギー研究についても、わずかながら回復の兆しが見られる。研究

の方向は、発電効率の向上の方向であり、浮体式や固定式の振動水柱型波力発電装置では、

発電効率を高めるために、浮体や水室の 適形状を求める研究が行われている。現在行わ

れている実証実験としては、国土交通省北陸地方整備局が、松江高専及び佐賀大学と共同

で、新潟西海岸で実施している固定式振動水柱型波力発電用の衝動タービンの実験 7-13)等が

ある。

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図 7-1 航路標識用ブイ 7-6) 図 7-2 消波工型定圧化タンク方式波力発電 システム 7-8)

(a) 機械室構造概要 (b) ケーソン 図 7-3 波力発電ケーソン防波堤 7-4)

図 7-4 浮体型波力発電装置「海明」7-10)

7-6 振り子式波浪エネルギー吸収装置 7-12) 図 7-5 マイティーホエール 7-11)

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7.2 海外での波力発電装置開発の状況 海外においても、日本と同様に、1970 年代のオイルショックを機に、波力発電の研究が、

ノルウェーや英国を中心に始められた。この初期の研究の多くは、政府の基金に基づいて、

装置の原理等の研究を主体に、大型の火力発電所級(100 万 kW 級)の大規模な波力発電所を

目指した研究が行われた。以下のような研究等が行われている。7-1), 7-7), 7-9) a) Edinburgh 大学では、Salter Duck が開発された(図 7-7)。これは、長い円柱(スパ

イン)の周りに多数のアヒルの形状をしたダック浮体を取り付ける構造を、波向きと

直角方向に設置し、スパインとダックの相対運動からエネルギーを取り出す可動物体

型の装置である。 b) Bristol 大学では、Oscillating Cylinder と呼ばれる可動物体型装置の研究がなされた

(図 7-8)。これは、水面と平行に没水させた円柱浮体を係留し、この浮体が波浪によ

り運動する力を係留系に内蔵したポンプシステムを利用して取り出し、ポンプで発生

する高圧水を一カ所に集め、ベルトン水車を用いて発電する。 上記を含めた研究が行われたが、装置の経済的な面での克服ができず、商用レベル装置

の開発までは至らなかった。また、1983 年以降のエネルギー危機の緩和の影響もあり、そ

の後、波力発電の研究は縮小している。 a) ダックの断面 b)システム全体図 図 7-7 ソルターダック 7-1) a) 概念図 b) システム全体図 図 7-8 Bristol Cylinder7-1)

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図 7-9 世界の波パワー密度の分布(単位峰幅当り、単位:kW)7-15)

しかしながら、ヨーロッパを中心とした海外での波力発電装置の開発は 1990 年の半ばか

ら復活している。この時期からの開発は、以前の反省を踏まえ、目標とする装置の規模を

Max.2MW と小規模なものにして、開発の主体も小規模な会社が担当している。7-14) この

ような波力発電装置の開発の復活は、図 7-9 に示すように、ヨーロッパ等では、日本に比べ、

波エネルギー密度が高いために波力発電装置への期待が高く、多くのベンチャー企業が波

力発電装置の開発に参入しているためと思われる。この流れは近年も続いており、2006 年

に公開された AEA Energy & Environment によるレポート 7-16)では、海外で現在、53 の波

浪エネルギー利用装置の開発が行われている。この内、10 基の装置で実機サイズでの実海

域実験が行われている。 ヨーロッパでは、このような研究を支援するための組織も整備されている。欧州委員会

は 1992 年から波力発電分野の研究を資金面から支援している。欧州委員会の賛助の下に

2000 年に設立された European Wave Energy Thematic Network は、ヨーロッパで波力発

電装置を開発している 14 の研究機関から構成され、波力発電装置に関する技術開発、経済

性評価、標準化等を協力して行っている。7-17)

また、装置の商用化に際しては、実海域での実証実験が必要となるが、欧州海洋エネル

ギーセンター(EMEC)では、図 7-10 に示すように、スコットランドのオークリーの水深 50mの海域に、4つのテストバース、このバースから陸上へまでの海底電気ケーブル、波高計

測用ブイ等を備えた波力発電用実験海域を 2003 年に完成させ、下記に示す Pelamis 等の波

力発電装置の実験を行っている。7-18)

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図 7-10 欧州海洋エネルギーセンターの波力発電装置の実証実験海域 実海域で実験が行われた代表的な装置としては、以下のようなものがある。 (1) 可動物体型装置

a) スウェーデンの Interproject Service 社は、Vinga 沖で IPS ブイの実験を行ってい

る。(図 7-11, 1980~1981) この装置は、ブイの下に設置された長いチューブの中に

あるピストンの上下動とチューブ内の水の相互運動によって波のエネルギーを取

り出し、油圧システムを経て発電する。7-19) b) Archimedes Wave Swing は、オランダの Teamwork Technology BV を中心に開発

され、北ポルトガル沖で 2MW 機の実験が行われた(図 7-12, 2005)。この装置は、

海底等に固定された構造物とその上の波によって上下する浮体からなる。リニア発

電機を用いて発電する。7-20) c) イギリスの Ocean Power Delivery 社によって開発された Pelamis は、図 7-10 に示

すスコットランドの Orkney で 750kW 機の実験が行われた。(図 7-13) 直径 3.5mの円筒形浮体4台を連結し、全長 150m の装置である。浮体連結部にシリンダーポ

ンプ2台と可変容量型モータ1台を組み合わせた油圧変速機を使用して発電機駆動

を行う。近く、北ポルトガル沖に 750kW 機が 3 基設置される予定である。7-22)

d) デンマークの Wave Star Energy 社は、長さ 240m の波力発電装置 Wave Star(図

7-14)の 1/10 モデル(24m)での実海域実験を行っている。この装置には左右それぞ

れ 20 個、合計 40 個のアーム付き浮体が設置されており、波よって浮体が上昇する

と、浮体に連結されたシリンダー内のピストンがオイルを押し、油圧モータを介し

て発電する。7-23)

e) アメリカの Ocean Power Technologies 社は、point absorber である PowerBuoy を

開発し、40kW の装置の実海域実験を行っている。7-24)

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a) 外観図 b) 原理図 b) 原理図

図 7-11 IPS ブイ 7-19) 図 7-12 Archimedes Wave Swing7-20)

a) 実海域実験 b) 連結部構造

図 7-13 Pelamis7-22) a) 実海域実験 b) イメージ図

図 7-14 wave Star 7-23)

a) 外観図

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a) 実海域実験 b) イメージ図 図 7-15 PowerBuoy7-24)

(2) 振動水柱型装置 a) 沿岸固定式波浪発電装置(LIMPET)は、英国の Wavegen 社がクイーンズ大学の協

力を得て開発したもので、スコットランドの Islay 島で 500kw の世界初の産業用

発電を行った。(図 7-14, 2000~現在)7-25) b) 欧州委員会の下で推進されているポルトガルアゾレス諸島の Pico 島では、400kw

の沿岸固定式波浪発電装置が 1999 から稼働している。一時期、運転停止の期間が

あったが、2005 年から再稼働している。7-26)

図7-14 LIMPET 7-25) 図7-15 Pico島の固定式波力発電装置 7-26)

(3) 越波型装置 a)ノルウェーノルウェーブ社が Toftestallen で実施した 350kw 狭水路越波型発電装置

TAPCHAN は、越波型の波力発電装置である。(図 7-16, 1985~1991) 狭くなる水

路で波高を増幅して、背後の貯水池に海水を貯め、その水位差を利用して水車を回

して発電する。装置は、1991 年から停止している。7-21) b) デンマークの Wave Dragon ApS は、Nissum Breding で、浮体式越波型装置 Wave

Dragon(図 7-17, 2003~現在)を行った。発電原理は、TAPCHAN と同様であるが浮

体式である。西ウェールズ海岸沖に MW 級の装置を設置する計画がある。7-28)

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図 7-16 TAPCHAN 7-27) 図-7-17 Wave Dragon 7-28)

(4) 波浪エネルギーの発電以外への利用

a)Hydam Technology Ltd.は、アイルランド、シャノ川河口で海水淡水化装置 McCabe Wave Pump(図 7-18)の実証実験を行った。この装置は、中央浮体の両側に端部浮体

が連結されている。3個の浮体の波浪中運動がシリンダーポンプを駆動させ、そのエ

ネルギーで逆浸透膜装置を運転して海水の淡水化を行う。

a) 実海域実験 7-29) b) イメージ図 7-21) 図 7-18 McCabe Pump

b) デンマークの Wave Plane International A/S は、海水循環装置 The Wave Plane(図 7-19)

の実証実験を行った。浮体の傾斜面に向かって きた波は傾斜面をはい上がり、浮体の流路を通 り、後部垂直管から海水深部へ流出する。7-30)

図 7-19 Wave Plane 7-30)

a) 原理図

b) 実海域実験

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7.3 商用展開に向けた課題 我が国での波力発電装置の商用化に関する課題としては、以下のものが考えられる。

(1) 高効率、高信頼性、低価格の波力発電装置の開発

近年、海外では、1990 年半ばから始まった、ベンチャー企業が Max.2MW 級の装置

の開発を目指した、いわば第2ステージの開発において、様々の波力発電装置の提案が

行われ、Pelamis 等実用レベルに近い装置も現れている。また、装置の低価格化も同時

に進められている。開発の方向は、沿岸域から、波の高い沖合に向かっており、浮体型

の装置、特に、可動物体型の開発が増えているように思われる。 これに対して、我が国では、1970 年の半ばから波力発電装置の開発が精力的になさ

れ、波力発電ケーソンやマイティーホエールのように設計法等が提案されている装置も

あるが、実用化への道は明確でない。これは、提案された装置の発電単価が高止まりの

ままで、その後のコスト低減の研究がなされていないためと思われる。日本沿岸域の波

高がヨーロッパ等に比べて小さいことも関係して、近年は、波力発電に関する期待は小

さくなっているように思われる。このため、日本の波力発電装置の開発段階は、海外の

第2ステージに対応するものの時期を迎えていないようである。 しかしながら、今日の石油の暴騰、待ったなしの地球温暖化に対して、クリーンエネ

ルギーとして、無尽蔵な波浪エネルギーの利用法の提案は、海洋工学関係者の責務であ

ると思われる。我が国の従来の波力発電の研究は、固定式や浮体式の振動水柱型の波力

発電装置の開発が中心であった。今後は、波高が大きい沖合に装置を設置することを考

えて、一次変換効率の良い可動物体型の装置も含め、高効率・高信頼性で低価格の浮体

型装置の開発が必要と思われる。 また、今後、浮体型の洋上風力発電所の建設も始まると予想されるが、波のエネルギ

ーを吸収・発電する波力発電装置は、この浮体の動揺低減装置として、このような浮体

に必要な装置になっていく可能性もある。 (2) 実海域実験海域の整備

波力発電装置の開発においては、提案した装置の発電性能、耐久性、信頼性を実際の

海域で実験を行い、評価、確認する必要がある。装置の開発企業が単独で、実証実験海

域を確保し、海域で発電した電力を陸地の送電網と接続する系統連携まで考慮して実験

を行うことは、経済的な観点から非常に困難である。このため、図 7-10 に示した欧州

海洋エネルギーセンターのように、実海域実験に必要な機能を備えた海域が、提供され

ることが必須である。その際、3.に述べたような、「ソケット・ブイ」の存在は、実

海域実験を経済的で効率良いものとするために必要である。図 7-20 に、南西イングラ

ンド地域開発公社の Have Hub 構想 7-31) における海底のソケット示す。我が国でも、

このような実験海域を準備する必要がある。

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(3) 設計ツールの整備 所用の性能を満足し、安全で信頼性のある波力発電装置を設計するために、 実際の

海域での波力発電装置の一次変換、2次変換性能を評価するための数値シミュレーショ

ンソフトや実験データを整備する必要がある。 (4) 環境影響評価

多数の波力発電装置を設置する場合等は、装置の海域への設置が、周辺環境に及ぼす

影響について事前に評価しておく必要がある。調査の対象としては、周辺波浪や流れへ

の影響、魚類、鳥類等の生物への影響等多岐にわたる。 図 7-20 Wave Hub のイメージ図 7-31) 7.4 ロードマップ 波力発電装置の 2030 年までの導入目標を、200 万 kW と想定した。この値は以下のよう

にして導出した。 日本周辺の波パワーについては、以下のように前田らと高橋のデータがある。7-1), 7-3)

・前田らのデータ 一般商船の目視観測データを用い、日本近海を 19 の海区に分けて、それぞれの海

区の波高と波周期の発現頻度を、結合確率密度関数を用いて算定し、日本近海の単

位幅当たりの不規則波の波パワーの平均を、10kW/m と試算している。 ・高橋のデータ

国土交通省港湾局の波浪観測結果から、日本周辺の波パワーの平均を 7kW/m と試

算している。

上記の波パワーの小さい 7kW/m を用いて、日本沿岸の総延長を 5,000km とすると、総

量は 3500 万 kW となる。この内 1%の波エネルギーが利用できるものとすると、年間発電

電力量は約 30 億 kWh となる。年間設備利用率を約 17%と設定すると、波力発電装置の規

模は、約 200 万 kW となる。これを 1MW 級×2000 基で実現する。

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我が国の波力発電装置開発に関する現状を鑑み、以下のように、短期、中長期目標を掲げ

る。

(1)短期的目標 2010 年 “我が国の波力発電装置研究の復活ステージ” a)新型の波力発電装置の提案(経済性、安全性、耐久性を満足する装置) Nearshore、Offshore 設置の波力発電装置 室内実験での性能評価実験、

b)実証試験フィールドの整備 c)波力発電を新エネルギーとして認定、研究ファンドの獲得

(2)中期的目標 2020 年 導入目標 70 万 kW “波力発電装置の実海域での検証、一部商用化ステージ”

a)実証実験フィールドでの実海域実験の実施 各種波浪発電装置の実海域実験による性能、安全性確認、 b)波力発電装置一部商用化開始

(3)長期的目標 2030 年 導入目標 200 万 kW “波力発電装置の商用化拡大ステージ”

参考文献

7-1) 近藤俶朗編:海洋エネルギー利用技術、pp14-94、森北出版、1996 7-2) 清水幸丸編:自然エネルギー利用学、pp161-204、パワー社 1999 7-3) 高石敬史他:“海洋エネルギー利用”、日本造船学会誌、第 637 号、PP298-358,1982 7-4) 社)日本海洋開発建設協会:21 世紀の海洋エネルギー開発技術、pp32-75、山海堂、

2006 7-5) 益田善雄:日本の波力発電、霞出版社、1987 7-6) http://www.ryokusei.co.jp/wave/index 7-7) 社)土木学会新エネルギー技術小委員会:波エネルギー利用技術の現状と将来展望、

1990 7-8) http://www.takenaka.co.jp/enviro/env_tec/64_wvpow/64_wvpow.htm 7-9) 高橋重雄:波力発電ケーソン防波堤の開発、港湾技術研究所講演会講演集、

pp.1-57,1985 7-10) http://e-tech.eic.or.jp/libra/lib_38/lib38.html

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7-11) JAMSTEC: 波浪エネルギー利用技術の研究開発 ―沖合浮体式波力装置「マイティ

ホエール」の開発、2004 7-12) 渡部富治・近藤俶郎:波力発電、pp41-136、パワー社、2005 7-13) http://www.hrr.mlit.go.jp/press/2005/03/060315niigatagityo.pdf 7-14) http://www.wave-energy.net/Schools/History.htm (European Wave Energy

Thematic Network) 7-15) Duckers,L.:Renewable Energy, Boyle,G.ed.,P.325,Oxford University Press,1996 7-16) AEA Energy & Environment: Review and Analysis of Ocean Energy Systems

Development and Supporting Policies, 2006 7-17) Alain Clement et al.: Wave Energy in Europe: current status and perspectives,

Renewable and Sustainable Energy Reviews,6, pp.405-431, 2002 7-18) http://www.emec.org.uk 7-19) http://www.ips-ab.com/ 7-20) Polinder,H., Damen,W.W.C. and Goden,M. 2005, “Archimedes Wave Swing Linear

Permanent-magnet Generator System Performance”, Proc. 6th European Wave and Tidal Energy Conference, Glasgow, UK, pp.383-388.

7-21) Bhattachryya,R. and Mocrmik,M.E.: Wave Energy Conversion, ElSEVIER, 2005 7-22) http://www.oceanpd.com/default.html 7-23) http://www.wavestarenergy.com/pdf/UK_web.pdf 7-24) http://www.oceanpowertechnologies.com/index.htm 7-25) http://www.wavegen.co.uk/index.htm 7-26) http://www.pico-owc.net/ 7-27) http://www.uni-leipzig.de/~grw/welle/wenergie_3_80.html 7-28) http://www.wavedragon.net 7-29) Kraemer,D.R. 2005, “Simulation of the Motions of the Mccabe Wave Pump

System”, Proc. 6th European Wave and Tidal Energy Conference, Glasgow, UK, pp.251-258.

7-30) http://www.waveplane.com 7-31) http://www.wavehub.co.uk

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図-8.1 海洋温度差発電の原理

8.海洋温度差発電 海洋温度差発電に関する研究開発は、今から約 126 年前の 1881 年(明治 14 年)、世界で

初の火力発電所ができた年まで遡る。この年にフランスのダルソンバール (J.D'

Arsonval)が 初に考案したものである。その後、1973 年の第一次エネルギーショックをき

っかけにして、日本と米国で本格的な研究が行われるようになった。実証プラントは、相

次いで建設され、実験が行われてきた(1)。当初は、正味出力(EPR が1以上)が得られないの

ではないかと懸念されていたが、MINI-OTEC をはじめ3つのプロジェクトによって海洋温度

差エネルギーのみで正味出力が得られることは検証された。海洋温度差発電の技術力は、

実用レベルにあることは検証されたが、これまでの実証試験は 100kW レベルである。海洋

温度差発電は、他の再生可能なエネルギーのなかで特にスケールメリットの大きなシステ

ムであるため、実用化推進のためには 1000kW(1MW)以上での実証試験が不可欠であると長

年指摘されている。

一方、海洋温度差発電の大きな特徴のひとつとして、発電する際に汲み上げる海洋深

層水の利用である。電力だけでなく、この海洋深層水のメリットを活かし、豊かな水産資

源を目指す「海洋肥沃化」、「海水淡水化」、「水素製造」、「リチウム回収」などとの複合的

プロジェクトの実現が効果的である。 海洋温度差発電とこの動力源を利用した大規模海洋深層水利用技術は、国際的に見て

も我が国が卓越した技術と実績を有している分野である。広大な海に囲まれた我が国にと

って、この海洋温度エネルギーとそれに伴う海洋深層水利用は、持続可能な発展のために

「海洋立国」とともに「環境立国」目指す我が国が有する魅力的で豊かなエネルギー資源

の一つである。

8.1海洋温度差発電と海洋深層水利用

海洋温度差発電は、表面層の温海水と深層約 600~1000m の冷海水との温度差による熱エ

ネルギーを利用して、電気エネルギーを取り出す発電方式である(図-8.1)。このエネルギ

ーの源は、地球の 3 分の 2 に降り注い

だ太陽からのエネルギーである。この

エネルギーの量は膨大であるが、化石

燃料と比較するとそのエネルギー密度

は極めて小さいため、その複合利用が

重要である。

海洋温度差発電は、発電とともに持

続的に海水淡水化や水素製造、リチウ

ム回収などの複合利用が可能である。

この際には製造した水素は「Blue

Hydrogen」として米国で提案されてい

る。情報化社会に不可欠なリチウムイ

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図-8.2 複合利用のイメージ

オン電池の原料であるリチウムは、我が国にその資源はなく100%輸入しているのが現

状である。さらに、発電の際に利用する海洋深層水を用いて、乱獲や環境変化で水産資源

が減少している魚場を回復し、持続可能な水産資源の確保を目指した海洋牧場などへの複

合利用も期待され、多くプロジェクトが進められている(1-2)(図-8.2) 。

8.2過去の取り組みとその成果

8.2.1 海洋温度差発電

海洋温度差発電の発電方式には、オープンサイクル方式とクローズドサイクル方式と

大きく2種類ある。我が国にサンシャイン、ニューサンシャインプロジェクトでは、オー

プンが主に採用された。米国でも当初オープンサイクルが採用された。一方、佐賀大学で

は、OTEC の実用化推進のためには、クローズド方式が不可欠であるとその技術に特化し

た。これまでの成果として、オープンサイクルよりクローズドサイクル方式が、適してい

るとの評価を得ており、現在は、クローズドサイクル方式が国際的に主流である。なお、

我が国において、オープンサイクルにおける評価が、海洋温度差発電の評価となっており、

誤解されている面は否めない。 実証研究は、オイルショック以降、100kWレベルで実証的な研究が数例行われ、海洋

の温度差エネルギーのみを利用して正味出力(EPR が1以上)が得られることは検証されて

いる。一方、経済性を高め、実用化を推進には、1000kW以上での実証が不可欠である。

このような状況の中、海洋温度差発電の実用化に積極的なインド政府は、1MW の実証試験を

行うために、研究プロジェクトをインド国立海洋技術研究所(National Institute of Ocean

Technology, NIOT)を中心にスタートし注目されていた。発電プラントは、佐賀大学等の協

力により完成したが、プラント設置後の 1000m の取水管の課題により、現在ではプロジェ

クトを海水の温度差を利用した海水淡水化等に重点的に取り組んでいる。2005 年6月には、

日量100トンの海洋エネルギーを利用した海水淡水化を実用化させている(図―8.3)。

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2007 年4月に我が国の「拓海」プロジェクトの取水管技術の成功事例などを参考にして、

530mの深さより管形1mの取水管の設置に成功し、この取水による日量1000トン

の海洋温度差エネルギーを用いたプロジェクトを成功させている。動力源としてディーゼ

ル発電を用いているが、今後海洋温度差発電での利用を検討している。佐賀大学と行う予

定である。インドは、環境に優しいエネルギーを用いて持続可能な淡水化の実用化推進の

ために、海洋温度差エネルギーを利用した日量1万トンの海水淡水化プロジェクトをスタ

ートさせている。インドだけにとどまらず、現在、米国、台湾、スリランカ、モーリシャ

スなどで新たなプロジェクトが提案されたり、実際進行中である。

図8.3日量100トンの淡水化装置 図8.4日量1000トンの実証実験装置 2005年6月実用化(インド) 2007年4月(インド) 海洋温度差発電の高性能化については、佐賀大学海洋エネルギー研究センターにおいて、

作動流体として従来のアンモニアからアンモニア/水を用いた研究が行われている。これま

での成果として、アンモニア/水を作動流体として用いた 30kW のシステムにおいて安定し

て正味出力が得られることを示している(図8-5)。一方、佐賀大学海洋エネルギー研究セ

ンターでは、海洋温度差発電を推進するための複合利用に取り組み、海水淡水化、リチウ

ム回収などで、実際の海水を用いて実証試験を行い、その可能性を示している。

図-8.5 30kW海洋温度差発電システム 図―8.6 リチウム回収システム(佐賀大学)

(佐賀大学)

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8.2.2 海洋深層水利用

1986 年に科学技術庁のプロジェクトとしてスタートした海洋深層水利用は、1989 年に

日本 初の陸上型海洋深層水施設が設置され以来、我が国において全国的規模で利用され、

新たな産業の創出に貢献している。我が国の陸上型取水施設は、取水量が日量数 100 トン

から約 13,000 トン(久米島の総計)規模である。この海洋深層水利用技術は、国際的にも

我が国は米国とともに先導的な役割を担っており、その成果が台湾をはじめ国際的にその

普及が広がっている。

海洋深層水の主な特徴は、低温安定性、冨栄養性、清浄性であり、電力のみでなく、食

品・飲料への利用、医療分野への利用、豊かな魚場造成のための海洋肥沃化などが注目さ

れている。

海洋深層水を利用した海洋肥沃化への利用分野では、マリノフォーラム21のプロジェ

クト「拓海」において、世界で初めて浮体型で日量10万トンの海洋深層水を汲み上げる

実証に成功し、台風等にも耐える技術であることが検証された(図―8.7)。その肥沃化

の効果は現在詳細な評価がなされている。この関連の技術では、国際的にも卓越した技術

として高い評価を得ている。このように、海洋深層水利用技術の分野では、これまで多く

の成果が得られている。一方、海洋深層水を利用した海洋肥沃化を効果的に行うためには、

日量50万トンから100万トン以上のプロジェクトによる検証が必要といわれている。

図-8.7 海洋深層水を利用した海洋肥沃化 マニノフォーラム21 「拓海」

3.2 海外の事例とその評価 海外ではオイルショック以降、米国を中心に 100kW 規模で実証研究が行われきたが、

この10年余りで本格的な実証的なプラントを用いた研究は、インドにおける1000kWプロジェクトのみである。特に、海洋温度差発電は、技術的には実用レベルにあると評さ

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

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れており、今後は経済性を高めるための大型化の実証研究が海外をはじめ国内で重要とな

っている。一方、地球温暖化とエネルギー問題が世界的で深刻化する中、米国、キューバ、

パラオ、韓国、台湾などで、近年その実用化の推進が検討され評価されている。主なもの

を次の通りである。 2007 年 8 月のハワイにおける ENRGY OCEAN の国際会議において、OTEC meeting

が約70人規模で開催され、米国を中心に OTEC を推進のための種々の提案がなされてい

た。この会議において、特に米国におけるハワイでの 1000kWの多目的利用のプロジェク

ト、2012年までにシンガポールにおける100MW(10 万 KW)浮体式の OTEC など

の提案が紹介され注目された。 台湾においては、海洋深層水の利用が進展し、海洋深層水の大規模利用のプロジェクト

が進められている。そのエネルギー源の一つとして OTEC が検討されている。 パラオにおいて、佐賀大学と学術協力の覚書が交わされパラオにおける海洋温度差発電

の複合利用が検討されている。これまでパラオにおける海洋調査など行われ概念設計など

がなされている。(図―8.8) 南太平洋などの島嶼国では、原油の高騰や水問題が深刻で、持続可能な発展のためには

再生可能なエネルギーの開発が急務となっている。このような状況の中、海洋温度差エネ

ルギーが世界的にも豊富なこの地域は、海洋温度差エネルギーを利用した持続可能な発展

が検討されている。この分野で実績を有する我が国の海洋技術が貢献できる重要な分野の

一つである。(図-8.9) 図―8.8 海洋温度差発電を利用した海洋深層水の複合利用システム

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図―8.9 表層と深層1000mとの平均温度差

8.3 商用展開に向けた課題

海洋温度差発電は、他の自然エネルギーの異なり、スケールメリットが極めて大きい特

性を有するシステムである。逆に述べると、小さいシステムとして、経済的には成立する

ことが困難となる。商用的な展開を考える場合、1000kW以上のシステムでの実証が不

可欠である。 1000kW 規模での海洋温度差発電が実用化されていないのが現状であるが、海外で

はその実用化推進は、積極的に検討されている。一方、我が国では、実績ベースの傾向が

強く、先ず、国の支援を得たプロジェクトの成功事例が不可欠と考える。 一方、海洋温度差発電の商用展開の推進を考えた場合、我が国においては、先ず海洋温

度差発電単独ではなく、海洋温度差発電を利用した大規模海洋深層水の利用の実証が重要

と考えられる。海洋温度差発電は、電力だけでなく、海水淡水化や魚場造成、水素製造、

リチウムやストリチウムの回収などの複合利用が可能であるためこれらを複合的に利用し

た500-1000kW規模の実証的研究を国家プロジェクトとして立ち上げ実績を積む

ことが商用化推進にとって極めて重要であるとも思われる。 海外では、米国などで電力と淡水化などの複合利用が商用化のプロジェクトとして検討

されている。我が国が海洋産業を国際的に先導していくためには、我が国の国際的に優れ

た「浮体」「係留」「温度差エネルギー利用技術」「水素製造」「魚場造成」「リチウム回収」

「造水技術」などの技術を横断的総合的に結集することが重要と考えられる。このために

は、下記の省庁横断型のプロジェクトとして立ち上げることが重要である。 1.【国土交通省】国土保全、交通の動力源としての水素製造、水問題 2.【経済産業省】海洋温度差エネルギーを利用した電力、水素製造、造水技術 3.【農林水産省】持続可能な水産資源を中心とする生物生産の改善と促進 4.【環境省】海洋環境の保全と評価 5.【文部科学省】海洋深層水利用に関する国際的な学際研究の推進拠点形成

℃ ℃

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

50

8.4 開発ロードマップ

開発のロードマップとしては、商用展開の推進を考慮すると、前節で述べたように、海

洋温度差発電の単独ではなく、海洋温度差発電を動力源とした数100kW規模の海洋深層

水利用技術の事業化を実施することが重要である。その間、数千 kWから 100MW の大型の

海洋温度差発電の商用化、海洋温度差発電を利用した海洋深層水の100万トン以上の大

規模海洋深層水利用の事業化を見据えて中長期的に取り組む。 【海洋深層水利用事業】 これまでの我が国の国際的に優れた「浮体」「係留」「温度差エネルギー利用技術」「水素

製造」「魚場造成」「リチウム回収」「造水技術」の技術を結集して、数100kW程度の

「発電」、日量50万トンから100万トンの海洋深層水を放流による「魚場造成」、「水

素製造」による外洋上からのエネルギー輸送(自動車、船舶などの動力源として)、「淡

水化」などの複合的なプロジェクトを横断的総合的に立ち上げる。そのキーの技術は、「浮

体技術」と「係留」である 2008-2009 「拓海」(10万トン/日量)の技術を発展させより事業化するための、より

大型化(50万トンー100万トン/日量)を目指した小規模事業化の検

討。特に、 2010-2012 事業化を促進するための実証研究

2012- 事業化の進展 【大型海洋温度差発電装置の商用化】 2008-2010 事業性の評価 2010-2012 10MW から100MW 規模の試設計 2013-2017 パイロットプラントの建造 2018-2020 パイロットプラントの商用化のための実証運転と技術確立 2021―2023 商用化のための試プラント建造と実証評価 【海洋深層水の大規模利用の事業化】 2008-2011 数100万トン以上の大規模環境評価検討 2012-2014 事業化検討 2015- パイロットプラント建造

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2007 年 9 月 5 日 海洋技術フォーラムシンポジウム

51

本稿はマスタープランの中間とりまとめであり、より完成度の高いものにするためにも、

皆様の忌憚のないご意見をお待ちしております。

平成 19 年 9 月 5 日 主査 高木 健(大阪大学)

資料作成に協力いただいた方の氏名・所属(敬称略・五十音順) 石井健一 (古河電工(株)) 池上康之 (佐賀大学) 大川 豊 ((独)海上技術安全研究所) 鈴木英之 (東京大学) 永田修一 (佐賀大学) 南 佳成 ((独)海上技術安全研究所) 矢後清和 ((独)海上技術安全研究所) 山口 一 (東京大学)

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0

海洋技術開発マスタープラン

2007年9月

海洋技術フォーラム

海洋技術開発タスクフォース

7-3

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1

海洋技術開発マスタープラン目次

1.概要 3

1.1 目的と背景 3

1.2 パイロットプロジェクトの提案 4

1.3 共通基盤技術 5

1.4 開発のロードマップ 6

2.目的と背景 7

2.1 海洋基本法と求められる取組み 7

2.2 わが国海洋産業の現状 7

2.3 マスタープランの提案 8

3.各分野におけるパイロットプロジェクトの提案 10

3.1 海洋生物資源 10

3.2 鉱物資源 15

3.3 石油・天然ガス 19

3.4 海洋エネルギー 24

3.5 地球環境問題 28

3.6 海洋空間利用 30

3.7 海洋情報産業 33

3.8 海洋環境保全 36

4.共通基盤技術 39

4.1 軽量低動揺浮体の開発 39

4.2 ライフサイクルコスト低減技術 40

4.3 位置保持技術 41

4.4 ライザー技術 43

4.5 サブシー技術 44

4.6 低コストで実証試験が行える体制の構築 44

4.7 共通技術による開発課題の事業性の向上概算 46

5.開発のロードマップ 47

6.まとめ 49

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2

資料(専門家アンケート) 50

マスタープラン検討委員構成 53

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3

1.概要

1.1 目的と背景

本マスタープランでは、海洋において近い将来から今世紀半ばに向けてどのような技術

開発をしていったらよいか、深海底鉱物資源、エネルギー資源、生物資源、海洋エネルギ

ー、海洋情報管理、海洋環境保全の各分野で検討される内容について、事業化、産業化の

取っ掛かりとなる5~10年のパイロットプロジェクトを提案し、あわせて、取り組むべ

き共通基盤技術を提案するものである。

わが国の海洋技術は国全体の強固な産業基盤を背景にして、機器、素材など要素技術に

は強いものがあるが、海洋石油産業のように海洋を対象にした基盤的な産業活動が無いた

め、これらの要素技術を総合して海洋を対象として何らかの目的を達成するシステムを構

築することに関しては、技術の蓄積は極めて脆弱である。このような条件下で、海洋技術

を継承し育ててゆくためには、あるまとまった技術者集団が必要であり、技術者集団を抱

える産業が必要である。技術を育てるためには工学の研究が必要である。産業の育成のた

めには、事業として成立する活動が提案され、発展的な循環を構成することで海洋産業が

自立的に発展するとが必要である。

深海鉱物資源を初めとする各分野においては、技術の観点から過去かなりの技術の開発

と蓄積が行われたが、多くが実現に至らず今日に至っており、このまま放置すると継承さ

れないままわが国から技術が基盤とともに失われてしまう危機的な状況にある。本マスタ

ープランで提案するものは、もう少し後押しすることで、経済性や実現性が確認でき、実

用化の段階に進めそうなものを各分野から技術の観点から選び、実証試験となるパイロッ

トプロジェクトを提案するものである。

(1)海洋におけるパイロットプロジェクト「実験から商業化技術へ」

本マスタープランで提案するパイロットプロジェクトは、海洋において取り組むべき課

題について、5~10年で実証され、早期に実現されるべき具体的なハードウェアを提案

するものである。「実験から商業化技術へ」を主眼として提案するものである。さらに、採

算性は見込めないが、国としての取り組みを必要とするものも含めている。

(2)事業性の向上のための共通基盤技術

海洋における取組みが自律継続的に実施されるためには、事業性の向上は産業の育成の

観点から必要欠くべからざるものである。本マスタープランのもうひとつの観点は、過去

の海洋開発における経験と反省の上にたって、各開発課題の事業性を向上させるために必

要な共通技術とこの育成に向けた取組みについて提言するものである。

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4

1.2 パイロットプロジェクトの提案

(1)深層水複合利用(海洋生物資源)

海洋深層水の富栄養性、低温性、膨大な資源量を利用

して、生物生産のための深層水汲み上げによる海域肥沃

化、低温性を利用した発電・淡水化を組み合わせた深層

水複合利用を提案する。汲み上げ量50万m3/日のシステム

を200海里の離島へのインフラ供給施設として稼動させ

るとともに、事業性の確認を行う。

(2)黒鉱型海底熱水鉱床開発(鉱物資源)

需要の増加を受けて価格が高騰している銅、鉛、亜鉛、金、銀の含

有割合が高い黒鉱型海底熱水鉱床開発を対象とした5年間の緊急的

取り組み、コバルト、ニッケル、銅、マンガンの含有割合が高いコバ

ルト・リッチ・クラストに関する10年間の取り組みを提案する。

黒鉱型海底熱水鉱床については、既存の金属乾式製錬技術とリサイ

クル技術の組み合わせ等により、数年以内に開発が可能であると考え

られる。商業化の段階まで持ってゆくプロジェクトである。

(3)資源量調査と天然ガス開発(石油・ガス)

我が国のエネルギー安全保障上の観点から、日本海域に

おける資源量調査と東南アジア・オセアニアの天然ガス開

発をパイロットプロジェクトとして提案する。

(4)海洋エネルギー複合利用実証(海洋エネルギー)

海洋エネルギーの開発に関しては、多くの場合基礎研究、

技術開発の段階は済んでいる。提案するパイロットプロジェ

クトは、風力発電、太陽光発電、潮流・海流発電、波浪発電、

深層水事業性を向上した近い将来の商業化を目標とした実

証プラントである。総合的な事業性評価を行うものである。

(5)CO2海洋隔離システム技術実証試験(地球環境問題)

長大なCO2海洋隔離パイプに関する技術開発と実証試験をパイロットプロジェクトとし

て提案する。洋上基地から長大なパイプを吊り下げた状態で、洋上基地が波浪によって動

揺する状態でパイプを破壊から守る技術の開発、長大なパイプを曳航する場合について曳

航パイプから渦が放出されることによる振動(渦励振、Vortex Induced Vibration)の応

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5

答評価技術と設計技術の開発を行い、多目的海洋技術試験船を利用して実海域実験を実施

して技術の完成を行う。

(6)浮体式物流基地(海洋空間利用)

海洋の空間利用は基本的な技術開発は済んでおり、実証

試験も終了している。地域の社会経済の特性を考慮した中

規模程度の浮体式物流基地を計画し、パイロットプロジェ

クトとして実施して実用化への弾みをつける。

(7)海洋観測基地・ネットワーク基地(海洋情報産業)

海洋・気象現象を長期にわたり数千mの海底から海上ま

で立体的・総合的に高い精度で、且つ無人で計測し、リア

ルタイムでデータを伝送できる超大型のスパー型海洋定点

観測プラットフォームの開発と、外洋において継続的な海

洋観測,漁業資源調査ならびに水産業を主体とする海洋利

用技術に関する試験的事業などを実証実験できる浮体式大

型海洋観測基地の開発をパイロットプロジェクトとして提

案する。我が国の排他的経済水域(EEZ)の調査・開発・保

全および離島の振興を目的としたネットワークシステムの

構築のために必要となる海洋ネットワーク基地を提案する。

(8)海洋生態系実験施設(海洋環境保全)

地球温暖化など、地球環境問題に関して、環境影響を

評価するための海洋生態系実験施設をパイロットプロジ

ェクトとして提案する。

1.3 共通基盤技術

浮体の動揺低減技術により動揺特性の良い浮体をより小さな浮体で実現、施設の寿命を

長くすることによる経済性の向上など、技術開発のコストを低減するなど、事業性を向上

するための共通基盤技術を提案する。

1)軽量低動揺浮体の開発

2)ライフサイクルコスト低減技術

3)位置保持技術

4)ライザー技術

5)サブシー技術

6)低コストで実証試験が行える体制作り 多目的技術試験船・海洋技術試験場

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6

1.4 開発のロードマップ

パイロットプロジェクトと共通基盤技術を併せて、開発のロードマップを提案する。パ

イロットプロジェクトについては短期間で実証試験を行い事業化の目途をつけることを目

的としている。共通基盤技術は、パイロットプロジェクトで確認される事業性の更なる向

上を図る観点から、短期間で開発し実用に供することを目的とする。

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7

2.目的と背景

2.1 海洋基本法と求められる取組み

海洋基本法は平成 19 年 4 月 20 日に参議院を通過し成立の運びとなった。海洋基本法に

おいては、海洋基本計画の策定が義務付けられており、その中で定めるべき取り組みとし

て次のものが上げられている。

海洋環境の保全

排他的経済水域等の開発等の推進

海上輸送の確保

海洋の安全の確保

海洋調査の推進

海洋科学技術に関する研究開発の推進等

海洋産業の振興及び国際競争力の強化

沿岸域の総合的管理

離島の保全等

国際的な連携の確保及び国際協力の推進

海洋に関する国民の理解の増進等

海洋基本法のねらいは、わが国が海洋国家として、海洋に関する施策を総合的かつ計画

的に実施するために定められたものである。この取り組みを実のあるものにするためには、

海洋基本法に謳われているように海洋産業の育成と国際競争力の強化が、海洋基本法のね

らう取り組みが自律継続的に推進されるために必要欠くべからざるものと考えられる。取

り組みの中には、すでに検討が行われて技術的成立性が確認されたものの、開発が進まな

かった課題の推進も含まれる。

本マスタープランは、海洋基本法の施行と海洋基本計画策定に向けて、わが国の海洋技

術の開発について提言を行うことをねらったものである。

なお、本検討は日本船舶海洋工学会の研究ストラテジー委員会と海洋技術フォーラムが協力

して WG を設置し、日本船舶海洋工学会が検討の場を提供して、分野横断的な検討を行ったもの

である。本 WG は研究ストラテジー委員会では海洋技術開発テーマ検討WGと位置づけられ、海

洋技術フォーラムでは海洋技術開発タスクフォースと位置づけられている。

2.2 わが国海洋産業の現状

わが国の海洋技術を見ると、わが国全体の強固な産業基盤を背景にして、機器、素材な

ど要素技術には強いものがあるが、海洋石油産業のように海洋を対象にした基盤的な産業

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8

活動自体は無いため、これらの要素技術を総合して海洋を対象として何らかの目的を達成

するシステムを構築することに関しては、技術の蓄積は極めて脆弱である。

各分野のタスクフォースマスタープランで述べられた目的を達成するためには、目的達

成に必要なシステムを構築し、得られた技術を継承し育て、将来に生かしてゆく仕組みが

必要である。継承の部分については技術者集団が必要であり、技術者集団を抱える産業が

必要である。技術を育てる部分に関しては工学の研究が必要である。産業の育成のために

は、事業として成立する活動を提案しなければならない。これらが発展的な循環を構成す

ることで海洋産業が自立的に発展すると考えられる。

2.3 マスタープランの提案

本マスタープランでは、海洋において近い将来から今世紀半ばに向けてどのような技術

開発をしていったらよいか、深海底鉱物資源、エネルギー資源、生物資源、海洋エネルギ

ー、海洋情報管理、海洋環境保全の各分野で検討される内容について、事業化、産業化の

取っ掛かりとなる5~10年のパイロットプロジェクトを提案し、あわせて、取り組むべ

き共通基盤技術を提案するものである(図1)。深海鉱物資源を初めとする各分野において

は、技術の観点から過去かなりの技術の開発と蓄積が行われたが、多くが実現に至らず今

日に至っており、このまま放置すると継承されないままわが国から技術が基盤とともに失

われてしまう危機的な状況にある。本マスタープランで提案するものは、もう少し後押し

することで、経済性や実現性が確認でき、実用化の段階に進めそうなものを各分野から技

術の観点から選び、実証試験となるパイロットプロジェクトを提案するものである。

(1)海洋におけるパイロットプロジェクト「実験から商業化技術へ」

本マスタープランで提案するパイロットプロジェクトは、海洋において取り組むべき課

題について、5~10年で実証され、早期に実現されるべき具体的なハードウェアを提案

するものである。「実験から商業化技術へ」を主眼として提案するものである。さらに、採

算性は見込めないが、国としての取り組みを必要とするものも含めている。

(2)事業性の向上のための共通基盤技術

海洋における取組みが自律継続的に実施されるためには、事業性の向上は産業の育成の

観点から必要欠くべからざるものである。本マスタープランのもうひとつの観点は、過去

の海洋開発における経験と反省の上にたって、各開発課題の事業性を向上させるために必

要な共通技術とこの育成に向けた取組みについて提言するものである。

(3)専門家アンケート

本取組みを始めるに当たって専門家へのアンケートを実施した。このアンケートからも

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9

事業性に関する必要性が大きくクローズアップされた。

アンケートに共通した認識は、海洋におけるテーマに求められるものは事業性であり、

技術そのものは後からついてくるとの認識である。また、日本の EEZ を有効に利用できる

可能性ありながら、日本が取り組まないことは避けなければならない。

図2.1 開発課題

共通基盤技術

海洋生物資源

海洋空間利用

石油・天然ガス

鉱物資源 海洋エネルギー

地球環境問題

海洋情報産業

海洋環境保全

黒鉱型海底熱水鉱床

コバルト・リッチ・クラスト

風力エネルギー

潮流海流エネルギー

温度差エネルギー

波浪エネルギー

バイオマスエネルギー

空港、港湾施設

防災拠点、廃棄物処理

洋上原子力発電施設

軽量低動揺浮体の開発

ライフサイクルコスト低減技術

位置保持技術

低コスト実証試験施設

ライザー技術

サブシー技術

海洋観測基地

海洋ネットワーク基

海洋生態系実験施設

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10

3.各分野におけるパイロットプロジェクトの提案

3.1 海洋生物資源

(1)背景

太古の昔から現在まで、漁業は動物性蛋白質食糧供給という人類にとって不可欠の海洋

産業であった。しかし、近年の人口の爆発、漁具漁法の改良により、特に有用魚種につい

ては乱獲による資源量の減少が指摘されている。2006年 11月の科学誌 Science にカナダ、

アメリカ、イギリス、スエーデンの第一線研究者により発表された Impacts of Biodiversity Loss on Ocean Ecosystem Services によれば、このまま世界が現状の漁業活動を続けてい

った場合、2048 年までには世界の漁獲量が過去 大の漁獲量の 10%まで落ち込み、漁業は

産業として崩壊するというショッキングなものであり、これは単なる仮定を設けてのシミ

ュレーションでなく、これまでの実際の観測データから割り出したもので説得力があり、

世界に大きな波紋を起こしている。 広大な海を舞台とする漁業は農業のように灌漑・施肥等の人為的制御が難しく、「あるも

のを見つけて獲る」という基本的に狩猟的な産業である。勿論、養殖という生産方法も開

発されているが、これはあくまでも餌を与えることが前提となっており、その餌はやはり

海から狩猟してきた低位で安い魚が原料となっており、今後の食料不足問題を考えると漁

業資源の有効活用の意味では無駄使いとも言えよう。いずれにせよ、今後漁業の壊滅を防

ぎ、持続的な発展を図るためには、乱獲の防止とともに、海洋での魚の資源量を人工的に

増やすという、歴史に例のない新しい海洋の制御に関する技術開発が必要とされる。 海での魚類生産量は、食物連鎖の も低位にある海洋の一次生産量(植物プランクトン

の量)で決まる。そしてこの一次生産量は、光合成によってもたらされるものであり、窒

素・リン等の無機栄養塩(植物にとっての肥料)が太陽光の当たる表層海面(有光層)に

如何に存在するかに掛かっている。 海洋の大部分は表層が暖かく(密度が低く)低層が冷たい(密度が高い)成層した状態であり

上下の混合が起こらないため、表層では栄養塩が光合成により消費され貧栄養状態となっ

ている。一方、水深が深くなると太陽光が届かず光合成による栄養塩の消費もなく、沈降

する有機物が栄養塩として蓄積されるため、特に水深 200m 以下の海水は海洋深層水と呼

ばれ、栄養塩の濃度が高く、栄養の種類も多様でバランスも良いことが知られている。 つまり、海洋は「表層が貧栄養で深層が富栄養」という非常に重要な性質があり、深層

水を有光層に汲み上げ移動させることが出来れば、海洋が肥沃化し一次生産力を増大させ

ることが可能であり、これは人工湧昇流漁場として長年の水産学・海洋学の夢でもある。

しかし現在でも、多量の深層水汲み上げと有光層への滞留方法、海洋の厳しい海気象条件

への耐候性等、技術的に困難な課題が多く未だに研究段階の域を脱していない。 また、海洋深層水は低温熱源としての資源性を有しており、かつその資源量は膨大であ

る。深層水と表層水の温度差を用いた海洋温度差発電は1世紀前に考案されている。また、

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11

この膨大な資源量を生かして、原子力発電所の冷却用低温熱源などとしての利用も考えら

れる。将来的には地球温暖化にともなる海洋環境の変化を、海洋の温度環境の観点から制

御するための利用も考えられる。 (2)深層水複合利用パイロットプロジェクト 1)深層水汲み上げによる海域肥沃化 わが国では、深層水による実海域での海域肥沃化の試みは富山湾の「豊洋」(1989~1991)、相模湾での「拓海」(2003~2008(予定))の 2 例があり、世界でも 先端の実験を行ってい

る(図 3.1.1、及び、図 3.1.2 参照)。これらの実海域実験の結果から、深層水汲み上げ

図3.1.1 富山湾での豊洋の実験 図 3.1.2 相模湾での拓海の実験

による海洋肥沃化のあるべき姿・仕様が徐々 に明らかになりつつある。特に 2007 年度を 終年度とする拓海の 5 年間の実海域実験の

観測データから、多くの今後の人工的海洋肥 沃化研究に関する貴重な示唆が得られること が期待される。これまでの研究評価によれば、 海洋肥沃化装置のコンセプトとしては耐風浪 性と低動揺に優れた性能を発揮した図 3.1.3 に示す拓海型が有力とされている。 一方、深層水を有光層に汲み上げよる一次 生産力及び魚類の増加量については、一般論 として、深層水の硝酸塩濃度、生態効率、食 物連鎖の段階等を仮定して、深層水汲み上げ 量によりどのように変わるかを計算した例 [井関 2000]を図 3.1.4 に示す。 図3.1.3 拓海概念図

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12

図3.1.4

2)深層水の低温性を利用した発電・淡水化 海洋深層水は富栄養性と共に、低温性という大きな資源性を有している。深層水と表層

水の温度差により海洋温度差発電(OTEC)を行う試みは 20 世紀初頭より行われており、

数々の計画及び海洋実験によってそのコンセプトは実証されているが、コスト的に商業化

するところまで採算が見込めないこともあり、未だ実用化までには至っていない。 しかし、近年の材料技術・機械技術の進歩により、高効率熱交換器、高効率作動流体、

システムの高度化などで、システム効率が大幅に改善され、表深層の海水温度差が 20℃の

場合、1,000kw を発電するための深層水使用量は 20 万 m3/日程度であり、外部へ供給でき

る正味出力も総発電量の 70%を超えることが可能である。また、OTEC プラントのは副産

物としてスプレーフラッシュ蒸発式による海水淡水化(1 トンの淡水生産に 5kwh 必要)も

行えるので、それも含めれば深層水の多目的利用によりコスト低減が可能となる。 3)深層水複合利用のフィジビリティ・スタディ 上記で述べた、海洋深層水の富栄養性、低温性、清浄性を複合的に利用して、海洋肥沃

化、海洋温度差発電、海水淡水化を、海洋深層水を原料として同時に生産するプラットフ

ォームを検討する。装置のサイズを深層水汲み上げ量で 20 万、200 万、2,000 万 m3/日の

3 ケースを想定して概略の採算計算を行った結果を表 3.1.1 に示す。この結果から汲み上げ

量 200 万 m3/日(ライザー管径 3.8mφ)程度の深層水複合利用装置はであれば十分採算に

乗ることが判る。

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13

表3.1.1

(3)電力淡水供給海洋肥沃化パイロットプロジェクト 上記のフィジビリティ・スタディを踏まえて、パイロットプロジェクトとして海洋深層

水複合利用のためのプラットフォームの実海域パイロット実験を提案する。実験装置とし

ての 50 万 m3/日型程度の電力淡水供給海洋肥沃化浮体(一般配置を図 3.1.5 に、稼動イメ

ージを図 3.1.6 に示す)を 200 海里の離島へのインフラ供給施設として稼動させるものとす

る。 (4)技術開発 パイロットプロジェクトを受けた本格的な事業化に向けては、プラットフォームと長大

な深層水取水管よりなるシステムの挙動解析法の開発、取水管のアペンディングによる一

体設置法、係留系と浮体の効率的な設置法の開発が必要となる。

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14

図3.1.5 配置概念図

図3.1.6 稼動イメージ図

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15

3.2 鉱物資源

(1)背景

国民生活、そして国内産業の持続的発展にとって、金属・レアアース類の安定供給は近

未来の重要な課題であり、これらの原材料の供給に不安があれば、機械、電気、電子工業

等の製造業は海外へ生産拠点を移さざるを得なくなる。

2003 年頃から始まった金属価格の上昇は、2006 年春頃から一段と加速し、史上 高値を

更新するものが続出している。たとえば、銅は 2001 年頃に比べて約 5倍、ニッケルは約 10

倍にもなっている。この原因としては、中国の金属需要の急激な増加が挙げられる。銅の

場合は、図3.2.1に示したように、2002 年頃から 3 年間で日本の需要に匹敵する増加

を示している。経済成長に伴う電力需要の増加と生活水準の向上、そして 13 億の人口規模

を考え合わせると、この需要増加傾向は、更に 7-8 年程度は続くと予想されている。他の

金属・レアアース類にも同様の傾向がみられ、レアメタル・レアアース類の国外輸出規制

を実施する国が現れる、供給側との価格交渉の難航などの問題が発生してきている。

資源需給の常識では、需要増加による価格高騰は一時的なものであり、新規開発が誘発

され、価格高騰は落ち着き、需給構造も安定することになる。しかし、一部の金属につい

ては、埋蔵量不足の可能性が指摘され、それを見越した投機的資金の市場流入によって、

価格高騰の加速と乱高下が引き起こされている。

日本の排他的経済水域と大陸棚には、金属・レアアース類を含有する黒鉱型海底熱水鉱

床やコバルト・リッチ・クラストなどの深海底鉱物資源の有望海域が多数発見されている。

これらを開発できる体制を整備することは、前述のような情勢の中で、金属・レアアース

類の安定供給に資するばかりでなく、2002 年頃に年間 2,000 億円程度であった金属原料輸

入額が、2006 年には 1兆円に急増している状況下では、経済効果も大きいといえる。

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

(千トン

欧州

中国

米国

日本

ロシア

ブラジル

インド

(出典: 澤田賢治 (2006). ”2005年世界の非鉄金属需給動向 2006年の見通し-銅-,”JOGMEC主催講演会「平成17年度(第12回)非鉄金属関連成果発表会」資料)

予測実績

図3.2.1 主要国、地域、BRICs の銅消費量実績(2005 年まで)と予測(2006 年以降)

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16

(2)展望

日本の排他的経済水域と大陸棚には、世界第一位と世界第二位の潜在的賦存量を有する

海底熱水鉱床とコバルト・リッチ・クラストが存在している。特に、開発対象となる可能

性が高い、銅、鉛、亜鉛、金、銀の含有割合が高い黒鉱型海底熱水鉱床が、伊豆・小笠

原海域や沖縄トラフで発見されている。コバルト、ニッケル、銅、マンガンの含有割合

が高いコバルト・リッチ・クラストは、白金、チタン、セレン、ジルコン、テルルなどが高

い含有率で含まれていること、重希土類元素が含まれている可能性が高いことなどが明らかにな

ってきており、レアアース類の将来の供給源となる可能性が示唆されている。

これらの深海底鉱物資源は水深が 1,000m を超える深海域に存在するため、開発が困難

であると考えられてきた。しかし、2006 年から実海域での活動を本格化させた地球深部探

査船「ちきゅう」や、2007 年 3 月に通算 1,000 回目のダイブを達成した「しんかい 6500」

に代表される、大水深における汎用技術の醸成が進んでおり、ブラジル沖では水深約 2,000m

から石油生産が実施されている。深海に手が届く技術が完成されつつあるといえる。

(3)深海底鉱物資源開発パイロットプロジェクト

1)5年間の緊急的取り組み課題

黒鉱型海底熱水鉱床は、既知鉱体と呼べるような経済的な可能性の高い場所が発見され

ている。また、海洋掘削技術や海洋ロボット技術、既存の金属乾式製錬技術とリサイクル

技術の組み合わせ等により、技術的には数年以内に開発が可能であると考えられる。この

ため、開発を具体化し、商業的開発の可能性を評価するために、①経済性の高い場所を抽

出する調査手法の確立と適用、②既知鉱体を利用したパイロットスケール採鉱実験及び選

鉱・製錬実験、③環境影響評価手法の確立とベースライン調査、採鉱実験の環境影響モニ

タリング、④開発の技術・経済的評価を中心とする「5年間の緊急的取り組み」を行う。

表3.2.1にスケジュールと展開を示す。

表3.2.1 黒鉱型海底熱水鉱床の5年間の緊急的取り組み課題

2,0004,0004,0004,0004,000予算規模(百万円)

熱水環境影響評価手法確立、ベースライン調査、モニタリング

既知鉱体パイロットスケール採鉱実験、選鉱・製錬実験

黒鉱型海底熱水鉱床可能性調査、抽出手法確立と適用

黒鉱型海底熱水鉱床開発の技術・経済的評価

20122011201020092008項目

2,0004,0004,0004,0004,000予算規模(百万円)

熱水環境影響評価手法確立、ベースライン調査、モニタリング

既知鉱体パイロットスケール採鉱実験、選鉱・製錬実験

黒鉱型海底熱水鉱床可能性調査、抽出手法確立と適用

黒鉱型海底熱水鉱床開発の技術・経済的評価

20122011201020092008項目

モニタリング

予察的評価 中間段階評価 総合的評価

採鉱実験 選鉱・製錬実験

可能性調査、抽出手法確立 抽出手法適用

評価手法確立、ベースライン調査

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17

黒鉱型海底熱水鉱床は、海外企業による商業的開発プロジェクトが進展していること、

海外企業の日本法人が鉱業法に基づいて、排他的経済水域に9海域、133箇所の鉱区を

申請したことなど、早期の開発着手が予想される状況にある。このため、パイロットスケ

ール採鉱実験と環境影響モニタリングを先行させ、開発の技術・経済的評価の精度を高め

ること、環境ガイドライン策定に役立つデータの早期取得に特徴がある。

パイロットスケール採鉱実験においては、海底で鉱体から鉱石を採掘する機械装置(採鉱

機)と採掘した鉱石を海面まで運搬する揚鉱システムを建造し、採鉱実験を実海域で実施す

る。採鉱機は掘削、破砕、取り込み機能を有するクローラー推進の自走式のもの、揚鉱シス

テムは生産規模が小さいため、輸送効率が高いワイヤーラインホイスト(バケットエレベー

タ)が想定される(図3.2.2参照)。採鉱機は掘削、破砕、取り込み機能を有するクロ

ーラー推進の自走式のものが想定される。

図3.2.2 パイロットスケール採鉱実験システム

外洋で長期間・連続的に稼働する大規模システムのオペレーション経験(たとえば海洋

における石油、天然ガス開発)に乏しい日本の海洋技術にとって、システム技術の熟成と

いう点で、このパイロットスケール採鉱実験の持つ意味は大きい。

採鉱実験において回収した採掘原鉱石は、全量を陸上に持ち帰り、既存の選鉱・製錬設

備を利用して、パイロットスケールの選鉱・製錬実験を実施する。実験では、脱塩の難易、

既存選鉱技術・製錬技術による金属回収率の測定、産物や廃棄物の性状把握、選鉱・製錬

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18

運転コスト算出に必要なデータ等の収集を行う。

表3.2.2に基準年を変えて、年 1,000t/day 規模の生産量の場合の黒鉱型海底熱水鉱

床開発の経済性評価を示したが、製錬後の金属を売却することによって、技術開発に必要

な費用の一部を回収できる可能性がある。また、表3.2.3にはこの経済性評価のベー

スとなった開発システムの建造費、運転費試算結果を示す。

表3.2.2 黒鉱型海底熱水鉱床開発の経済性評価

(出典:Yamazaki T. (2007). “Economic Validation Analyses of Japan's Proposed Nodule,

Crust, and Kuroko-type SMS Mining in 2006,” Proc. Oceans 2007、Vancouver, in press)

61209M3.1Metal prices and factors in 20068-1M12.9Metal prices and factors in 2004

1323M9.4Metal prices in 1995-1999 and factors in 1999

IRR (%)NPV($)Payback periods (year)

Kuroko-type seafloor massive sulfideswith production scale 300,000t/y in wet weight

Case

61209M3.1Metal prices and factors in 20068-1M12.9Metal prices and factors in 2004

1323M9.4Metal prices in 1995-1999 and factors in 1999

IRR (%)NPV($)Payback periods (year)

Kuroko-type seafloor massive sulfideswith production scale 300,000t/y in wet weight

Case

表3.2.3 黒鉱型海底熱水鉱床開発システムの建造費、運転費

(出典:Yamazaki T. (2007). “Economic Validation Analyses of Japan's Proposed Nodule,

Crust, and Kuroko-type SMS Mining in 2006,” Proc. Oceans 2007、Vancouver, in press)

130.1M$117.5M$112.1M$Total investment

28.917.7

20.013.4

18.99.1

Continuing expensesWorking capital

with economic factors in 2006

with economic factors in 2004

with economic factors in 1999

84.1M$Sub-total

55.019.59.6-

Mining systemMineral processingTransportationMetallurgical processing

Capital costs

Kuroko-type seafloor massive sulfideswith production scale 300,000t/y in wet weight

Subsystem

130.1M$117.5M$112.1M$Total investment

28.917.7

20.013.4

18.99.1

Continuing expensesWorking capital

with economic factors in 2006

with economic factors in 2004

with economic factors in 1999

84.1M$Sub-total

55.019.59.6-

Mining systemMineral processingTransportationMetallurgical processing

Capital costs

Kuroko-type seafloor massive sulfideswith production scale 300,000t/y in wet weight

Subsystem

2)中長期的取り組み課題

コバルト・リッチ・クラストは、既知鉱体と呼べるような経済的な可能性の高い場所が

発見されていないため、10~20年後の開発・利用を想定して、①調査手法の確立・適

用と資源的に魅力のある場所の絞り込み、②利用可能な金属・レアアース類の確定と採鉱・

製錬技術の確立、③環境影響評価手法の確立、④開発の技術・経済的評価を中心とする「中

長期的取り組み」を行う。表3.2.1にスケジュールと展開を示す。

レアアース類の将来の供給源を探るという点で、国家戦略として重要な意味を持つ課

題である。経済的に有効な製錬技術の確立が、供給源となるかどうかの鍵を握るといえる。

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表3.2.4 コバルト・リッチ・クラストを中心とした中長期的取り組み課題

有望鉱床抽出

レアエレメント類製錬技術開発

調査手法確立 調査手法適用

採鉱技術開発

評価手法確立 基礎調査

予察的評価 総合的評価

3,5003,0003,0003,0003,0001,5001,0001,0001,0001,000予算規模(百万円)

EEZ・大陸棚ポテンシャル基礎調査

クラスト環境影響評価手法確立と基礎調査

クラスト採鉱・製錬技術開発

クラスト調査手法確立・適用と鉱床抽出

クラスト開発の技術・経済的評価

2017201620152014201320122011201020092008項目

3,5003,0003,0003,0003,0001,5001,0001,0001,0001,000予算規模(百万円)

EEZ・大陸棚ポテンシャル基礎調査

クラスト環境影響評価手法確立と基礎調査

クラスト採鉱・製錬技術開発

クラスト調査手法確立・適用と鉱床抽出

クラスト開発の技術・経済的評価

2017201620152014201320122011201020092008項目

中間段階評価

ポテンシャル基礎調査

(4)技術開発課題

パイロットプロジェクトから、継続的な事業に育成するに当たっては、効率的な採鉱の

ための技術開発が求められる。このために、荒天下でも長大な採鉱管を安全に保持し高い

稼動率を確保するための技術、長大なライザーの挙動解析技術、採鉱船とライザーより成

るシステムの応答制御法、位置保持技術の開発が求められる。

3.3 石油・天然ガス

(1)背景

国の資源エネルギー政策は、エネルギー政策基本法に基づき実施されている。同法は、

平成 14 年 6 月に公布・施行され、これにより日本のエネルギー政策は、「安定供給の確保」、

「環境への適合」、「市場原理の活用」が基本方針となった。同法に基づく基本計画は、10

年程度を見通して、平成 15 年 10 月に閣議決定されたが、同計画策定の直後から原油供給

余力不足に対する不安、資源ナショナリズムの台頭、新興消費国による資源獲得競争の激

化、投機資金の原油市場への参入等に起因して、継続的に油価が高騰傾向を示した。この

原油市場の構造的な変化を背景に、平成 18 年 5 月、経済産業省において「新・国家エネル

ギー戦略」が策定され、同戦略を踏まえ平成 19 年 3 月にはエネルギー基本計画の改定がな

された。同改定では、エネルギー安全保障の視点を重視し、省エネルギーの推進、エネル

ギー源の多様化、自主開発の促進と石油の供給源の多様化等が掲げられている。中でも「第

2章第 4節 石油の安定供給に向けた戦略的・総合的な取り組みの強化」では、資源産出国

との関係強化、資源開発企業に対する支援を通じた自主開発の推進が謳われており、新・国

家エネルギー戦略でも掲げられた、海外での自主開発比率(原油輸入量に占める本邦企業

の権益下にある原油取引量の割合)を現在の 15%から 2030 年に 40%に引き上げるという

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20

数値目標が提示されている。

(2)世界の状況

現在に至るまで我が国の海洋石油・天然ガス開発が水深 200m以浅にとどまったのに対し

世界の趨勢は大水深化に向かい、急速な技術の進歩・蓄積に伴い下図に示すとおり drilling

では、1990 年代には 2000m に到達し、現在では 3000m 域まで達している。一方生産システ

ムについても 2000 年代に 2000m に到達している。

こうした大水深化を可能としたのは、下表に示す大水深開発システムの技術開発である。

FPSO の特徴は、原油を貯蔵しておいてシャトルタンカーに出荷できること、1500m 以深

の超大水深にも対応できること、タンカーを改造して利用できること、大生産にも対応で

きること、穏海域では多点係留によりコスト削減を図れること、タレット係留により厳海

域でも採用できること等である。(稼動中 大水深 1,853m Roncador Petrobras 1999)

FPS の特徴は、FPSO と比較して外力や動揺が小さいこと。そのためタレットは不要であ

るが、鋼管のライザーを採用できるほどには動揺が小さくないので、フレキシブルライザ

ーは必要である。セミサブリグからの改造が多く、改造では居住区、 安全設備、プロセス

設備、消火設備等の増設のほか長期連続操業に対する十分な安全性を確保しなければなら

ない。(稼動中 大水深 1,920m GoM NaKiKa Shell 2004)

TLP は、掘削・ワークオーバー装置、プロセス装置等を搭載した浮体と、係留用テンドン

とその海底基礎、生産用リジッドライザーおよび坑井テンプレート等から構成される。浮

体の構造形式はセミサブと類似しているが、係留方法が異なる。セミサブの係留はカテナ

出展:石油天然ガスレビュー Vol40

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21

リーであるが、TLP の係留は、TLP と海底基礎とをパイプ(テンドン)で接続し、浮体の余

剰浮力を利用して定点保持する緊張係留方式である。これまでに建造された TLP は合計 20

基あり、ほとんどが GOM(15 基)で稼動中。(稼動中 大水深 1,432m GOM Magnolia

ConocoPhillips 2004)

SPAR の特徴は上下動が極めて小さく、TLP と同様クリスマスツリーをプラットフォーム

上に搭載し、掘削・ワークオーバーができることである。Oryx が 1996 年に、GOM の Neptune

(VioscaKnoll 826、水深 588m)に世界初の生産用 SPAR を設置し、97 年より生産を開始し

た。生産用 SPAR の実績は、GOM のみで 13 基ある。 初の 3基は円柱構造であったが、4基

目以降は下部が減揺機能を兼ねたトラス(Truss)構造となっており、Truss SAPR とよばれ

る。そのほかにユニット建造によるコスト削減を図った Cell SPAR がある。 係留はポリ

エステルロープによるトート係留か、チェーン・ワイヤロープによるトート・カテナリー

係留(Taut Catenary Mooring)である。(稼動中 大水深 1,710m GOM Devis Tower Dominion

E&P 1999)

Mono Column の特徴は Spar 同様に上下動が極めて小さく、大浮力のために生産用施設、

掘削・ワークオーバーが搭載可能であり、貯蔵ができることである。高価なタレット、ス

イベル等がないためコストダウンが容易であるが、展張係留(spread mooring)を採用せ

ざるえないため、offloading は DP 付き shuttle tanker が必要である。Sevan による SSP300

によるブラジル Piranema(水深 1500m)で 1 基のみ稼動中。Petrobras による MONOBR もあ

る。

不要必要不要不要不要スイベルTurret

Pipelineただし,LNG/GTLプラント搭載可能

Pipelineただし,LNG/GTLプラント搭載可能

PipelinePipelinePipelineガス出荷

DP Shuttle TankerShuttle Tanker

直接係船PipelinePipelinePipeline原油出荷

有有無無無貯油

搭載可能搭載困難搭載困難搭載可能搭載可能Workover Rig

極小中~小小極小ほぼゼロ動揺

イメージ

Mono columnFPSOFPSSPARTLPシステム

不要必要不要不要不要スイベルTurret

Pipelineただし,LNG/GTLプラント搭載可能

Pipelineただし,LNG/GTLプラント搭載可能

PipelinePipelinePipelineガス出荷

DP Shuttle TankerShuttle Tanker

直接係船PipelinePipelinePipeline原油出荷

有有無無無貯油

搭載可能搭載困難搭載困難搭載可能搭載可能Workover Rig

極小中~小小極小ほぼゼロ動揺

イメージ

Mono columnFPSOFPSSPARTLPシステム

もうひとつ重要な役割を果たしたものが、三次元探査技術の進歩である。この技術によ

り、地下地質構造の解析制度が飛躍的に向上し、坑井掘削の成功率が高まり、効率的な開

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22

発を行うことが可能となった。

(3)我が国の現状

我が国では、周辺海域における石油・天然ガス資源の基礎調査を昭和 30 年から 5カ年計

画で実施し、平成 11 年に第 8次をもって終了したが、その後年度単位で継続実施している。

基礎調査は、物理探査と基礎試錐に分かれ、物理探査は二次元が主流で、三次元探査はき

わめて限定された範囲(6000m3)でしか実施されていない。

日本周辺海域における資源量の評価について、平成 6 年度に公表された通商産業省(現

経済産業省)の石油審議会開発部会技術専門委員会資料によれば、日本周辺海域の石油・

天然ガスの資源量は約 10.24 億 Kl で、その半分は沖縄から東シナ海の EEZ 内に賦存してい

ると考えられている。

日本周辺海域の堆積物層厚マップ【出典:旧地質調査所 1991】

また、平成 17 年度の国内原油生産量は 91 万 Kl、天然ガス

は 31 億m3(原油換算 300 万 Kl)であり、併せると国内消費

量の 1.2%を占める。(なお、天然ガスは、国内消費量の 4%

を国内で生産しており、これをすべて家庭用にまわせば国民

が 3週間暮らせる量に匹敵する)

このように、国内における原油・天然ガス(EEZ 内も含む)

は、我が国のエネルギー安全保障上 も安定したエネルギー

堆積物の厚さ赤、桃、緑にはガスや

石油が期待される

東シナ海で活躍した三次元物理探

査船Ramform Victory

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23

源であるとともに、その探鉱・開発は、本邦企業が海外フィールドで自主開発を推進する

上での技術力の涵養、人材育成等の基盤を確保する上で大きな意義がある。

(4)日本海域における資源量調査・天然ガス開発パイロットプロジェクト

1)わが国周辺海域の資源量の調査

日本の海象は厳しく、ごく近くに日本海溝が走る特殊な環境であるが、大水深の厳海域

を開発することが可能となった現在、自国の資源量を正確に把握することはエネルギー安

全保障上必要不可欠。そのためには、在来型の資源のみでなくメタンハイドレートのよう

な非在来型の資源を含めて、日本の経済水域すべての資源量を早急に調べる必要がある。

幸い、我が国もようやく平成 19 年度以降に三次元物理探査船を保有することになり、本

格的な調査が開始されることになるが、あまり調査が進んでいない水深 2000mまでの海域

での三次元物理探査、試錐(掘削)等の事業を先導して行うことが重要である。

2)東南アジア・オセアニアの天然ガス開発

わが国の企業が有するガス田は、東南アジア・オセアニアの大水深域にある。天然ガス

は埋蔵量偏在が石油に比べて小さく、炭酸ガス放出割合も小さいため、開発に拍車がかか

り、従来の L N G の他に G T L 変換、C N G 輸送、NGH 輸送の研究が進められている。そ

の技術を大水深に適用するときには、FLNG(LNG-FPSO)等の浮遊式システムが有望となる。

FLNG の要素技術は LNG プラント、FPSO、LNG タンカーで、いずれも日本が世界有数の実績

を有する。得意の技術分野に絞って開発を進めることは重要な観点である。リスクの少な

い分野から始めて、技術を完成させ、新たな埋蔵量の確保につなげることが得策である。

しかし、組み合わせ技術としては新技術であり、それなりのリスクを伴うことも事実で

ある。新技術を採用しない限り技術発展は期待しにくく、したがって日本が有利にエネル

ギーを確保することも容易でなくなる。そのため、コンソーシアムによるリスク分散と、

新技術採用への国のインセンティブが重要と考えられる。

(5)技術開発課題

EEZ を含む国内原油・天然ガスの開発には、1)資源量把握するためには、漁業との共存が

必要となるため、漁業補償等を含め事業を円滑に実施するための法整備が必須となる。そ

の他2)FLNG(LNG-FPSO)や FGTL(GTL-FPSO)技術等、FPSO にてガス処理を行え、ガスを

有効活用できる技術(プラント技術)の維持、FS 等、3)大水深に対応でき、ハリケーン

や台風等の厳環境下でも稼働できる、貯油機能付きで動揺が極端に小さい FPSO(モノコラムや

SPAR 等)の開発、4)係留索、ライザー、マリンホース等の水中線状構造物の解析技術の

開発、5)定点位置保持技術、Dynamic Positioning System が必要となる。

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24

3.4 海洋エネルギー

(1)背景

2007 年 6 月に開催された主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)では「2050 年ま

での温暖化ガス半減」で一致し、議長総括で温暖化ガス削減に向けた各国の協調が訴えら

れた。このためには、CO2 を排出しないエネルギー源の大規模な開発が必要となる。海洋に

おいては、風、波、海流・潮流、温度差の利用を意味する。 近の原油価格の高騰によっ

て、再生可能エネルギーの相対的な経済性は向上しており、欧米においては、風力発電、

潮流発電、波浪発電に関する研究が俄かに活発化している。事業化に研究目標を設定して

いるものが多い。

一方、わが国においては 2006 年に NEDO において策定された風力発電システムの導入促

進に関する提言で、2030 年に陸上と洋上を合わせて発電容量 2000 万 kWとすることが提案

されたところであるが、これでも電力需要に占める風力の割合は 3.4%程度と想定されてい

る。再生可能エネルギーのさらなる導入の推進が必要である。風力発電の事業性について

は、陸上風車の設置のための工事コストに比べて、浮体式風車をドックなどで効率よく製

作して、設置海域に曳航して設置するコストは同等であり、洋上風の条件が陸上に比べて

良いことを考慮すると、現時点でも十分に事業性はあると思われる。

図3.4.1 NEDO による風力発電ロードマップ

1)風力エネルギー

洋上風力エネルギーについては、陸上への送電、水深の観点から経済的に成立する可能

性のある離岸距離 40km の範囲に絞った少な目の見積もりでも、エネルギー賦存量は

出出 典典 :: 風風 力力 発発 電電 ロロ ーー ドド ママ ッッ ププ

3388

6622

11000000

11330000

22000000

7700

110000

115500

220000

5500

00

((万万kkWW))

年年度度

22000000 220011 22002200 22003300

3300 陸陸

上上

洋洋

上上

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25

1500TWh/年と推定されている。この値は、現在の日本の総発電量 945TWh/年を上回る。また、

より詳細に九十九里沖の海域で離岸距離 40km、浮体設置が容易な水深 20~200mの海域に

関して風況予測を行い、漁業権や航路などにかかわり利用できない海域を除いて評価する

と年間 94TWh となる。この値は東京電力の年間発電量の1/3となる。これらから、2030 年

時点で日本の一次エネルギーに占める割合を、たとえば風力 20%、海流・潮流+波力 5%、

海洋温度差 5%程度の目標設定も必要と思われる。

洋上風力エネルギーについては、近年集中的に検討が行われ、浮体技術、風車技術とも

に基本的な内容については既に存在する。必要なことは、動揺の少ない浮体とある程度の

揺れを許容する風車の設計法の開発である。

図3.4.2 浮体式風車のコンセプト(左より、格子型、スパー型、沖合遊弋型)(出典:

独)海上技術安全研究所、東京大学、マリンフロート推進機構)

2)海流・潮流エネルギー

海洋エネルギーの短所として供給の安定性の問題がある。風力発電、波浪発電、太陽光

発電では、季節変動、日変動、天候により、変動が大きく、発電量の予測が難しいことが

挙げられる。これに対して、黒潮による海流発電については設置場所にもよるが、変動は

少なく、発電量の予測は容易である。エネルギー資源量は大きなものがある。一方、潮流

発電については、潮汐による変動があるが、予測は可能であり、供給安定性の観点から欠

点の少ない海洋エネルギーである。潮流については、瀬戸内海周辺や津軽海峡など日本周

辺の海峡において流速の早い、エネルギー密度が高い流速域がある。これらについてはも

過去研究が行われ、小規模な実験プラントが設置され、基礎研究、技術開発の段階は済ん

でいる。

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26

図3.4.3 海流・潮流発電のコンセプト(出典:Marine Current Turbines(左)、東

京大学(右))

3)波浪発電

波浪発電についても、 近ヨーロッパにおいて積極的に開発が進められている。発電方

式としては、波による水面変動を稼動浮体の運動に変換し、 終的に機械エネルギーとし

て取り出して発電する方式、水面変動を空気の流れに変化して空気タービンにより発電す

る形式、波のエネルギーを海水の位置のエネルギーに変換し、落下する海水の流れを用い

てタービンにより発電する方式があるが、いずれの方式にしても基本的な内容は開発が行

われており、基礎研究、技術開発の段階は済んでおり、 近欧米においては「実験から商

業技術へ」が合言葉となっている。

図3.4.4 波浪発電のコンセプト(左から、マイティーホエール(空気タービン型)、

Pelamis(機械式)、Wave Dragon(水タービン型))

(出典:JAMSTEC(左)、Ocean Power Delivery Ltd.(中央)、Wave Dragon ApS(右))

4)温度差発電

海洋表面の比較的高い水温と海中の低温い水温の温度差を用いて。熱機関を駆動して発

電するものである。高温熱源と低温熱源の温度差が小さいため、熱機関としての効率は低

いが、熱資源量が膨大であるため、大規模な導入に際して、環境影響が問題なければ、基

礎研究、技術開発の段階は済んでいるので、実現は十分可能である。

5) 海洋バイオマスエネルギー

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カーボンニュートラルである植物燃料の実用化が急速に進展している。しかし、農作物

の高騰、森林伐採による環境破壊など、燃料植物転換による問題も浮上しつつある。食料

生産に影響を及ぼすことなく、植物燃料を効率的に生産する方式として、農地を洋上に求

め、陸上で回収した CO2 を用いて、CO2 の濃度の高い環境下で光合成を活発化しさせるバイ

オエネルギー生産が考えられる。

例えば、イネは二酸化炭素濃度が200ppm高くなると収穫量が15%増える(施肥

効果)。そこで、サトウキビ(イネ科)に二酸化炭素を吸収させ、エタノールなどの燃料を

生産することが考えられる。高温・多湿で広大な土地を確保するため、紀伊・四国・九州・

沖縄の近海に大規模な浮体を作り、発電所からなどの二酸化炭素を輸送・供給する。サト

ウキビからはエタノールを生産する。二酸化炭素排出削減とエネルギー自給率の向上を狙

う。

低コスト化(寿命経過後の廃棄コストを含む)・環境影響評価が重要な課題と考えられる。

特に、浮体は、台風に耐えた上で、できるだけ低コストであることが求められる。このよ

うに、高度な技術を要するものではないが、10~15年の中長期的取り組みが必要と考

えられる。

(2)複合利用実証パイロットプロジェクトの提案

海洋エネルギーの開発に関しては、多くの場合基礎研究、技術開発の段階は済んでいる。

過去の研究においては、技術開発に主眼をおいた研究が主であったため、事業化を主たる

目標とした検討ではなかった。現時点で求められることは、事業性を向上し近い将来のエ

ネルギー供給の一翼を担う存在として育てることにある。長期にわたってエネルギー供給

を担うためには、事業として成立することが重要であり、極力事業性を向上した上で、政

府による設備導入時の補助や、電力買取価格に関する補助に依存する部分を極力小さくす

ることが必要である。同様の観点からは、社)海洋産業研究会から海域総合利用と沿岸漁業

振興の観点から「漁業協調型 Offshore Wind Farm」が提案されている。

本マスタープランで提案するパイロットプロジェクトは商業化を目標とした、風力発電、

太陽光発電、潮流・海流発電、波浪発電、深層水利用の複合利用実証プラントである。いくつか

の海洋エネルギー開発を一つの浮体で実現する複合システムであり、図3.4.5に示すように、

システムとしての総合的な事業性評価を行うものである。

(3)技術開発課題

事業性を向上させるためには、海洋エネルギーのように初期投資が大きく、稼動時には保守・

点検コストが主たる支出となるシステムでは、要素技術としてはシステムの長寿命化が有効であ

ると考えられる。

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図3.4.5 海洋エネルギー開発の事業性評価のための複合システム実証機

(4)導入のインセンティブ

再生可能エネルギーについては、採算性が向上してきているが、導入を促進するために

は、国の長期的なエネルギー戦略に基づく育成が必要である。再生可能エネルギーの導入

を義務付けるRPS法において義務付けている電力量を増やす。あるいは、これまで太陽光発

電について行われていたように、設備導入に対して補助をする、発電された電力の買取価格を高

く設定するなどが考えられる。また、化石燃料に利用に炭素税を課して利用を抑制するとともに、

税を再生可能エネルギーの利用促進、研究に活用することが考えられる。いずれにしてもわが国

の将来の姿をどのように描くか、展望と理念が必要である。

3.5 地球環境問題

(1)背景

地球温暖化問題については、京都議定書の約束期間が終了する 2012 年に向けて地球温暖

化ガスの排出量を削減するための技術開発が行われている。CO 2海洋隔離は大気中に放出さ

れる CO2 を発電所などの集中排出源で回収して海洋中に隔離することにより、今後 100 年

程度の短時間で CO 2 が集中的に大気中に放出され、大気中に蓄積されることによる地球温

暖化を緩和し、かつ CO2 が高濃度となった大気に海洋表面が接することによる悪影響を抑

えるものである。

CO2 の海洋隔離は、人類が大気中に放出する CO 2は 終的にほとんどが海洋に吸収される

こと、さらに海洋が CO2 を吸収した場合にも、海水の量が膨大であるため、海洋中の CO 2

太陽光発電

深層水利用

波浪発電

潮流・海流発電

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濃度の増加はそれほど大きくならないことに着目したものである。この方式は CO2 の 終

的な平衡状態を人工的に促進して、大気中に CO 2 が蓄積されて地球環境に悪影響を及ぼす

ことを緩和するための技術である。発生した大量の CO 2 を処理する技術には、地中隔離も

あるが、処理可能な量は海洋隔離の方が圧倒的に大きい。

海洋隔離の方式としては、液体 CO 2を深度 500 m~2000 m の海域に放出する中層放流方

式と、深海底の窪地に CO 2 を液体として溜める深海貯留方式がある。中層放流方式は海水

の鉛直循環周期の 2000 年程度の隔離期間が期待でき、その後は海洋と大気の間で CO2 が平

衡状態に達すると考えら得れる。一方、深海貯留方式では、貯留する CO2が海水より重い密

度的で安定となる深度 3500m以深の海底が対象となり、2000年以上の隔離期間が期待

できる。

いずれの方式でも、海洋環境への影響が懸念されるところであり、海洋環境への影響に

関する懸念が払拭されない限り実現は難しいが、大量の CO2 を隔離する方式について、他

に対応策が無いのも事実である。特に、地球温暖化を防止するために、2050 年を目処に地

球温暖化ガスの排出量を半減するためには、大水深に CO 2 を送り込むための技術開発を環

境影響評価技術とあわせて開発することは必要である。

中層放流方式、深海底貯留方式ともに洋上の基地から 2000~3000mの長大管を吊り下げ

たり、曳航したりすることになる。深海貯留方式では海底の窪地の直上の海面で、洋上基

地から 3000m を超える CO2 投入管を吊り下げたまま洋上基地を位置保持することが必要と

なる。また、中層放流方式では放流船から長さ 2500m程度の CO2 投入管を吊り下げ 2~3m/s

程度で曳航する必要が求められる。

図3.5.1 CO2 海洋隔離の各方式 (出典:独)海上技術安全研究所 HP)

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(2)CO2 海洋隔離技術開発パイロットプロジェクト

長大な CO2 海洋隔離パイプに関する技術開発と実証試験をパイロットプロジェクトとし

て提案する。CO2 海洋隔離は技術的には、洋上基地から長大なパイプを吊り下げた状態で、

洋上基地が波浪によって動揺する状態でパイプを破壊から守る技術の開発が求められる。

また、長大なパイプを曳航する場合については、曳航パイプから渦が放出されることによ

る振動(渦励振、Vortex Induced Vibration)が問題となると予想される。パイプを破壊

から守るための、渦励振の応答評価技術と設計技術の開発が必要である。また、開発され

た技術に関しては、本マスタープランで提案される多目的海洋技術試験船を利用して実海

域実験を実施して技術の完成をねらう。

3.6 海洋空間利用

(1)背景

平地が狭く,四方を海に囲まれるわが国では,工業用地,港湾,空港などの社会資本の

整備に,早くから沿岸域の海上空間が利用されてきた.その海上空間形成の主役をなして

きたのが,埋め立てによる土地造成であり,大都市周辺や地方の工場地帯の沿岸域は多く

の埋め立て地によって占められている.

一方,経済社会の発達と都市機能の高度化,さらに人々の利便性向上への要求に伴って,

交通施設,流通施設等の空間確保のための海域利用の要請はますます増大している.また,

親水性を備えた海上空間は,人々の憩いの場としてもニーズが広がっている.しかし,こ

れらの海上空間利用に適した沿岸域や,内海,内湾の浅海域は既に高密度に利用されてお

り,埋め立てのための適地が限られてきているのが現状である.

そこで,海上空間利用のための新たな手段として浮体構造物の利用が考えられる.浮体

構造物は,海水の流れを阻害しないため,海洋環境に与える影響が小さい.また耐震性に

優れるため,我が国のような地震国では特に有効と考えられ,地震時における防災基地や

情報バックアップ基地等への利用も期待される.さらに浮体は水深に関係なく設置可能で

ある.したがって大水深域への展開が可能であり,人類にとっての新たな活動空間が創造

される.

このような浮体構造物が,海洋環境の中で長期にわたってその機能を果たすためには,

波浪中における浮体構造物の各種応答の予測技術,設計技術,建設技術,防食・点検等の

維持管理技術など幅広い技術が必要である.長年に渡るこれらの技術の蓄積とその総合化

の結果,超大型浮体構造物の実現が一定の範囲で可能となり,各種の浮体利用コンセプト

が提案されると共に,実証試験ならびに試験的な実用化がなされるに至っている.

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図3.6.1 海洋空間利用技術の実証試験

実用機の建造は技術的にはすでに可能であり、今後は、地域の社会経済の特性を考慮し

た計画に基づき、早い段階で実用機の建造を進め、自然環境の保全を含めた稼動状態での

実績データを収集して、次世代機への更なる向上を図る必要がある。

【参考文献】

日本造船学会 海洋工学委員会 構造部会編「超大型浮体構造物の構造設計」

(2)海洋空間利用パイロットプロジェクト

パイロットプロジェクトの候補事例を次ページ以降に示す。海洋の空間利用は基本的な

技術開発は済んでおり、実証試験も終了しているので、具体的な用途が特定されれば直ち

に実現化が可能なレベルにある。以下に示すいずれもがパイロットプロジェクトと成り得

る。(出典:メガフロート技術研究組合、マリンフロート推進機構、原子力研究所)

1)空港

海上空港実証実験モデル 情報基地実証実験モデル

内部空間利用による

空陸接続物流基地

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2)港湾施設

3)防災拠点

LNG受け入れ・備蓄用

タンク

食糧備蓄用・冷凍倉庫

(LNG冷熱利用)

訓練用滑走路

大水深

コンテナターミナル

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4)廃棄物処理基地

5)洋上原子力発電施設

3.7 海洋情報産業

(1)背景

海洋の研究・開発、利用を促進し、海洋事業を振興するためには、それぞれの海域の海

洋の特性と状態および変動の様子とその要因等を把握することが可能な、種々のデータが

用意されている必要がある。

現在、海洋関連のデータについて、我が国では原則として、リアルタイムの海洋データ

収集を気象庁が担当し、歴史的データについては主として海上保安庁海洋情報部の日本海

洋データセンターが担当している。しかし、この両種のデータを統一的に扱う機関・シス

テムは無く、今後の課題となっている。

また、ユーザーの多様な情報提供ニーズにきめ細かく対応していくためには、目的に応

じたデータ製品を作製して供給する機関あるいはサービス会社が必要と考えられる。国際

面では、海洋データ・情報の管理について統一的な国際対応も必要である。

(2)技術の観点からの展開

以上に述べた体制の問題とは別に、海洋調査観測網の整備についても未だ十分ではない。

ここでは、技術的観点から、この観測網整備の視点で論を進める。

海洋の調査・モニタリングの手法として も基本的なものは船舶による観測である。我

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が国では、大学等の研究船・実習船・練習船、海上保安庁の測量船、気象庁の観測船、水

産庁の調査船、JAMSTEC の観測船等、JOGMEC の探査船など、大小およそ50隻の船舶が運

用されている。しかし、50隻のうち約30隻は総トン数が千トン未満の小型船であり、

大型船であっても必ずしも 新の計測・分析装置を搭載しているわけではない。また、現

在は各機関がそれぞれの業務目的の遂行のみに限定した運用を行っているのが実態であり、

我が国の EEZ を総合的に扱うには十分な体制とは言えない。

一方、荒天海域や危険な海域もしくは長期に亘る連続観測など特殊な調査・モニタリン

グが必要な場合には、設定された行動を行う無人の海洋ロボットが有効である。このよう

なロボットについても目的に応じて使用できるように技術開発を進めるとともに、適宜、

導入を図ることが必要である。

海洋において発生している現象の推移、すなわち時系列的変動を把握するには、定点に

おいて長期に亘り連続観測することが必要であり、これを行うために計測機器を装備した

係留浮体または漂流浮体のブイに類するものによる計測も行われているが、EEZ 全域の調査

を視野に入れれば、その数は圧倒的に少ない。

また、地震、津波、海底火山噴火などの海底下の地殻活動に伴う現象のモニタリングに

は、海底地震計などのセンサーが海底ケーブルによって接続され、常時データ採取できる

海底ネットワークの整備が必要である。

その他、 新の技術を糾合して、新しいコンセプトに基づく観測基地の実現も望まれる。

以上のように、現在の機器等を新鋭化し、数量的に増加させて対応するべきものとして、

船舶、海洋ロボット、ブイ類があり、また、新規に整備していくべきものとして、海底ネ

ットワーク、その他の新型観測基地がある。

ここでは、新しいコンセプトに基づく観測基地の提案例を示す。これらは、船舶とブイ

の両方の特性を持ったものである。いずれの構想例も、要素技術は基本的には現状のもの

を発展的に利用可能であり、全体システム設計の検討を実施することにより早期に実現可

能であるが、規模や機能によっては位置保持技術や動揺低減技術等で研究が必要となる。

また、一定の予算の中で、多点への設置を行うためにはライフサイクルコスト低減も重要

であり、今後の研究も望まれる。

(3)観測・研究基地パイロットプロジェクトの提案

収集されたデータの品質を高め、信頼性の高いデータ製品を提供するためには、研究的

側面も含めた海洋学的知識が必要である。また、ユーザーが使いやすい形に加工して配布

するのに 新の IT 技術の活用が望ましい。これらの、データ・ハンドリング技術について

も併せて検討していく必要がある。

【参考文献】

財団法人 海洋産業研究会「わが国 200 海里水域の海洋管理ネットワーク構築に関する研究 報

告書」

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1)海洋観測基地

地球全体規模の海洋・気象変動と解明のため、西太平洋はわが国の主導によって海洋調

査の努力がなされている。これらの海域は港からは相当離れ、水深も深く冬季には猛烈な

時化に見舞われることから海底から高層大気に到るまでの諸現象を精度良く同時に長期間

連続して観測することは難しく、望まれる観測項目についてのデータの空白が多い。

また、安定的な漁業資源獲得手段を開発するためには、広域における長期の漁業調査及

び、近海での養殖事業の可能性を確認する必要がある。このため、日本列島から比較的近

い海域に新たな漁場を人工的に創生することを狙いとした調査研究用の観測実験基地も必

要である。

これらを踏まえた施設構想例として、例えば下記2例がある。海洋・気象現象を長期に

わたり数千mの海底から海上まで立体的・総合的に高い精度で、且つ無人で計測し、リア

ルタイムでデータを伝送できる超大型のスパー型海洋定点観測プラットフォームを開発す

る。(図3.7.1左図)

あるいは、外洋において継続的な海洋観測,漁業資源調査ならびに水産業を主体とする海

洋利用技術に関する試験的事業などを実証実験できる浮体式大型研究実験基地を開発する。

(図3.7.1右図)

図3.7.1 スパー型海洋定点観測プラットフォームと浮体式大型研究実験基地

2)海洋ネットワーク基地

我が国の排他的経済水域(EEZ)の調査・開発・保全および離島の振興を目的としたネッ

トワークシステムの構築のために必要となる浮体式多目的海洋基地を提供する。この基地

はの用途と特徴は

①大気、気象、海洋観測・調査および資源調査および海洋における諸実験・研究に

利用する。

②EEZ 内に 7基の浮体式海洋基地を展開し、本土と主要な離島間を結ぶヘリ空路中継

基地として救難活動や民間の人員・貨物の迅速な移動の用に供する

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③広い甲板面積を有し、動揺の小さな半潜水型浮体形状。

海洋観測・実験基地作業例

深海ボーリンク

マシン(BMS)

海中・海底探査

(海底地形・火山)

AUV

コアラー

自航ロボット

作業ロボット

海水調査

(塩分・CO2・水温・

プランクトン等)

海上観測・調査・監視

(大気・気象・海象・不審船)

海底土質調査

(コアリング)

探査ロボットによる

海底調査

ソナーによる

海底地形調査

図3.7.2 海洋ネットワーク基地 (出典:マリンフロート推進機構)

3.8 海洋環境保全

(1)背景

1950 年代後半から 1960 年代の高度経済成長期に急速に進展した工業化と共に、水俣病等

に代表される公害問題が深刻になったが、水質汚濁防止法等の数多くの法的規制や産業構

造の転換等の結果、その後の沿岸環境は一定の回復に向かいつつある。

しかし近年、ますます進む都市機能の多様化、高度化に伴い、都市部での空間高度利用

のために大都市近郊の内湾部では大規模な開発が行われ、大規模埋立や人口護岸の構築に

より、自然海岸や浅場が喪失している。その結果、一部の生態系のバランスが崩れ、海域

環境の自己修復作用が失われた結果、閉鎖性海域では赤潮や青潮の被害が増加しているが、

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それに対応する環境修復のためのミチゲーション技術も開発されつつある。地球温暖化に

よる海面上昇によってサンゴ礁を消滅の危機から救い、かつわが国の排他的経済水域(EEZ)

を保全する観点から、電着技術によるサンゴ増殖法がなども提案されている(社)海洋産

業研究会)。また、埋立や人工護岸の構築を伴わない空間利用の手法として、メガフロート

も提案されている。

一方、船舶および海洋構造物から流出おるいは排出される物質についても、関心が払わ

れている。すなわち、衝突・座礁による油流出の抑制および流出油の回収、船底塗料によ

る汚染の防止、エンジン排ガスの抑制等で、国際的な取決め、国内の法的規制およびそれ

に対応する技術開発がなされている。

これらの技術はそれぞれ一定の成果を納めつつあるので、これを更に推進していく必要

があるが、一方で 近は、海洋を地球規模の物質循環の場として捉えて見る環境問題も議

論され始めた。すなわち、大気中 CO2 濃度の増加や地球温暖化との関係で、海洋生態系も

含めた海洋環境を評価する動きが広がりつつある。

これらの動きは、環境評価の観点、手法、評価基準などが何も決まっていないものが多

く、それらの世界標準を我が国が主導的に確立して行くことが、我が国の戦略として望ま

しい。まずは、計測あるいは実験の技術を確立して、その技術を用いた研究成果を踏まえ

て、必要とされる地球規模の環境保全の考え方を提唱していく手順となろう。

要素技術的には、既に確立している海洋構造物技術、計測技術等を糾合して、なるべく

早い時期に計測あるいは実験のパイロットプロジェクトを立ち上げるのが有効である。パ

イロットプロジェクトを実施する中で、更に要求される計測機能やそれを実現するために

必要となる技術が浮き彫りになり、更なる高度プロジェクトへの進化を図って行くことと

なろう。先ずは小規模からでも踏み出すことが重要である。

(2)海洋生態系実験施設パイロットプロジェクト

この分野には多くの観点や手法があるので、パイロットプロジェクトも種々有り得るが、

技術の観点からは、海洋環境保全のための評価技術の開発のためのインフラとなる研究施

設が上げられる。海洋における実験はコストがかかるというの共通認識である。これは実

験の準備に多くの機材と準備を要することによるものである。安価に実験が行える施設が

望まれ、膜構造などを用いたメソコスムの開発を提案する。

ここに提案する海洋生態系実験施設は、CO2 濃度を制御した海水塊を膜で囲まれた空間内

に作り出し、所定の海域・深度における生物活性への影響や生態系変化を調べるものであ

る。

大気中 CO2濃度上昇によって、地球規模の気候変化や海面上昇などによる大規模被害が懸

念されている。海洋への直接的な影響としては、海水中 CO2濃度上昇による全球的な海洋生

態系影響への関心が高まっている。海洋表層海水中の CO2濃度上昇はすでに顕在化して観測

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されている。将来の中深層海水中の CO2濃度上昇も確実に予見される。これらの状況のもと、

具体的には以下の課題がある。

①表層や海底に比べ、海洋中深層の生物は密度が低く、海洋の全生態系に対する役割の

解明が進んでいない。(未知の危険性)

②中深層の海水中 CO2 濃度上昇は、大気・表層に追随して必ず起こるが、百年から数百

年遅れるので、影響が顕在化した時には手遅れである。

③生態系に関する研究を加速するとともに、海水中 CO2 濃度上昇が及ぼす影響に関する

研究を急ぎ進める必要がある。

図3.8.1 海洋生態系実験施設

着底式の生物影響・生態系影響実験は既存

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4.共通基盤技術

4.1 軽量低動揺浮体の開発(事業性の向上)

前章で提案された開発課題は、何らかの形で浮体技術を利用するものであり、開発目的に

応じて浮体形状や上載機器が決められる。現在、海外で海洋産業として成立している海底石

油・ガス生産に用いられている浮体施設は、かなり重厚構造であるが、これは石油・天然ガ

スの生産の用いられる設備が大きく、取り扱う物量も大きいためである。今後開発すべきと

考えられている他の海洋資源や海洋エネルギーは、採算性に関する懸念があるためこれまで

産業化出来なかったものが多く、一般に取り扱う物量も小さい。従って、採算性向上のため

には、安全性を確保した上で出来るだけ軽量小型の浮体が望ましい。また、日本のEEZを

利活用する事を目的とした場合、台風を初めとする厳しい気象・海象条件を克服する必要が

ある。一般に浮体の動揺に伴う傾斜角や慣性力が問題となるため、上載機器の機能要件を確

保するためには出来るだけ揺れない浮体を設計する必要がある。また、サバイバルコンディ

ションでも漂流は許されないので、何らかの形で係留系への負担を軽減させる工夫が必要で

ある。そこで、動揺低減技術と波漂流力低減技術が必要である。動揺低減は一般的には浮体

の大型化を意味するが、動揺低減技術により動揺特性の良い浮体をより小さな浮体で実現で

きれば、低コスト化を実現できる。

4.1.1 動揺低減技術

一般に動揺低減技術としては、船の横揺れを押さえるためのビルジキール、フィンスタビ

ライザー、減揺タンク等が知られている。一方、バージなどの前進速度を持たない浮体につ

いて「揺れない浮体構造物の研究」が行われ、減揺法として①水線幅変更タイプ(底部にフ

ィン張り出しを含む)②減揺タンク上載③SLO-ROLタンク(加圧タンク)付加④TDM(動吸振器)

付加等が有力な方法として研究された1)。これらの方法が外洋で想定されるセミサブタイプ

の浮体に対して有効に働くか否かを改めて検討する必要がある。

4.1.2 波漂流力低減技術

浮体の下部に取り付けた翼により、波浪中で推進力が得られる事は寺尾2)、一色等3)に

よって示されている。前進速度がない場合でも、波浪中での見かけの振動で推力が得られる

可能性があり、これを係留浮体構造物に適切に配置することによって、波漂流力を低減させ

る可能性がある。また、海流発電など、強潮流下で使用する浮体については、エネルギーの

一部を推進装置に回すなどして係留装置への負担を減らすシステムも考えられる。

4.1.3 動揺・波漂流力同時低減の可能性

一色等の波浪推進の実船実験3)によると、波浪推進と同時に減揺効果も得られ

ている。従って、翼型フィンを浮体下部に適切に配置することによって、動揺及

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び波漂流力の同時低減効果が期待できる。浮体関連の共通技術としてこの可能性

を追求する研究を推進すべきである。

【参考文献】

1) (財)沿岸開発技術研究センター:「揺れない浮体構造物の研究」研究報告書

http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1999/00770/mokuji.htm

2) 寺尾裕:波に向かって進浮体、関西造船協会誌、第184号、昭和57年3月(1982)

3) 一色浩、八田和也、寺尾裕:波力利用振動翼推進の研究開発、日本造船学会誌、第719

号、平成元年5月(1989)

4.2 ライフサイクルコスト低減技術(100年浮体による事業性の向上)

海洋に設置するシステムの事業性を向上するためには、再生可能エネルギー開発のよう

に初期コストが大きく、稼動時の保守・管理のコストが相対的に低いものについては、長

寿命化することによりライフサイクルコストが大きく改善される可能性がある。また、同

じ意味合いでメンテフリーを実現することで同じくライフサイクルコストの大幅な低減が

可能となると考えられる。長寿命化、メンテフリーの技術として必要な技術について見て

みる。

4.2.1 構造強度

海洋構造物を長寿命化する場合、安全性に関わる強度設計の観点からは、設計条件とし

て設定される海象条件の再現期間は長くなるが、有義波高の上昇はそれほど大きくないの

で、再現期間を仮に2倍に伸ばしても 終強度を確保するための構造重量、コストの上昇

は小さい。

一方,疲労損傷は供用期間に比例して増大するので,長寿命化には疲労強度の向上が必

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要になる. 近,静的強度,靭性,溶接性などを従来鋼と同程度以上に維持しながら疲労

寿命の大幅延伸を達成した耐疲労鋼が開発された.また,UIT法(超音波ピーニング)

などの新しい疲労強度向上技術が普及しつつある.これらの新技術によれば,大幅なコス

ト上昇や構造様式の大幅変更を招くことなく,疲労強度の大幅向上が可能であり,これら

の材料関係の技術の進歩を海洋構造物の長寿命化に適用することが有効である.

4.2.2 防食技術

長寿命化に関して構造強度と並んで考慮が必要になるもう一つの観点は、腐食である。

防食法の変遷を表4.2に示す。 近開発されたステンレスライニングは、異種金属同士

の接触による腐食の心配が無く、また、塗装に比較して大幅なコスト上昇がなく長寿命を

達成できることから非常に有効と考えられる。金属ライニングを適用する場合、ライニン

グの施工がしやすく、かつ損傷が生じにくい構造形状を選ぶ必要がある。

防食技術に関しては,金属ライニングの他にも,耐腐食性能を画期的に向上させた鋼板

の開発が期待される.

表4.2 防食法の変遷

年代 防食技術 耐用年数

1960~1970 年 無機ジンクリッチペイント

+タールエポキシ樹脂塗料

10~15 年

1980 年 超厚膜エポキシ樹脂ライニング 40 年

1990 年

2000 年

耐食性金属ライニング

チタンクラッド鋼ライニング

耐海水ステンレス鋼ライニング

50~100 年

4.2.3 機能機器の換装

海洋エネルギーの開発では、構造体の長寿命化が達成された場合に、搭載する機器も同

様に長寿命化が図られることが望ましいが、一般には可動部分を有する機械類の寿命は2

0年前後である。このため、稼動期間中に機器の換装を必要とすることになる。このため、

設備更新や機能更新、機能拡張などに対応する構造形状、内部構造を採用する必要があり、

このための設計法の開発が必要である。

4.3 位置保持技術(技術的成立性)

海洋における資源エネルギーの開発については、図4.3.1に示すように海流・潮流、

風力、メタンハイドレートの開発など様々な形態が考えられる。わが国においてこれらを

開発する場合、日本周辺の海底地形が急峻で水深が急速に深くなることから、大水深にお

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42

ける位置保持技術は開発のキーテクノロジーである。

大水深における位置保持技術については、海洋石油の分野において合成繊維索と高把駐

力アンカーを用いた大水深係留技術の開発が進められており、水深 3000m が現在の開発目

標となっている。わが国の EEZ 内の大水深に海洋石油資源は無いが、再生可能エネルギー

開発やメタンハイドレート開発に関して必要な技術である。たとえば、黒潮中における海

流発電を目標とする場合、水深数百~5000m、流速 2m/s の海洋中において、発電プラット

フォームを位置保持する技術の開発が必要となる。

また、広く位置保持技術を展望すると図4.3.2に示すように水深に関しては 10m 程

度の浅海から 5000m の深海、位置保持精度に関しては数 m から場合によっては 100km 程度

の精度まで許容される場合もある。また、再生可能エネルギー開発など事業性が重視され

る場合、低コスト高性能の位置保持システムを実現することが必要である。

図4.3.1 海洋における資源エネルギーの開発

図4.3.2 開発の項目と適用対象

1m 10m 100m 1km 10km 100km

水深

0m

5000m

風力、潮流発電

EEZ 風力発電

海流発電

メタンハイドレート開発

①長期低コスト位置保持

②短期低コスト位置保持

③大水深位置保持

位置保持精度

沿岸

沖合

ポンツーン型風車 セミサブ型風車 スパー型風車 沖合型無係留型風車 メタンハイドレート掘削

メタンハイドレート生産

潮流発電 海流発電

適用対象と必要性

水深 ~数十m

水深 ~200m

水深 ~5000m

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既存技術の現状とわが国の事情に照らして、大水深における位置保持技術の先端的な開

発、長期低コスト位置保持技術の開発をテーマには次のようなものが考えられる。

(1)大水深無係留位置保持(エネルギー低消費型)

EEZ沖合いに展開されるプラットフォームを対象にスラスターや海洋の流れや風を用い

た低コスト無係留位置保持技術の開発を行う。

(2)大水深高流速域位置保持(水深 5000m、流速 2m/s の表層流れ)

海流発電やメタンハイドレート開発など、大水深高流速域に設置される浮体の位置保持

を可能とする位置保持方式について、合成繊維索と高把駐力アンカーを用いた係留、ス

ラスターによる位置保持の開発を行う。

(3)長期低コスト係留(100 年メンテフリー)

日本周辺における再生可能エネルギー開発の実現に向けて、事業性を向上させるための

低コスト化を図るため、超長寿命係留方式を開発する。

4.4 ライザー技術

海中・海底から生産された資源を洋上の処理施設に持ち上げたり、その逆に洋上から海

中に CO2 などを送り込むために、長大な管状構造物を設置する必要がある。海洋石油の油

井の掘削では、泥酔循環により掘削屑を洋上の掘削船に回収するためにドリルパイプの外

側に掘削ライザー管を設置する。また、生産した石油・天然ガスを洋上の施設に持ち上げ

てくるために、生産ライザーが用いられる。海洋深層水の利用では多量の深層水を汲み上

げるために、洋上の施設から長大なパイプを吊り下げることが必要になる。また、CO2 の海

洋隔離では、洋上の基地から長さ 3000mを超えるパイプを海中に吊り下げ、位置保持した

り、曳航したりする必要がある。深海底鉱物資源の開発においても、海底上で回収した鉱

物資源を洋上に持ち上げるためにやはり長大な揚鉱管が必要になる。

これらの長大な管状構造物(ライザー)については、次のような観点から技術の開発が

必要である。

(1)長大管の設置技術

掘削ライザーでは、比較的短いパイプをフランジ継ぎ手によりつなぎながら海中に降

ろしてゆく設置する方法が取られる。一方、陸上で製作した長大なパイプを浮力材を

付けて洋上に引き出し、曳航し、現地にて浮力材を切り離して鉛直に設置するアペン

ディングという設置法が取られることがある。目的に応じた効率的な設置法の開発と

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確立が必要である。

(2)挙動評価技術

ライザーは、様々な運状態が考えられるが、安全性確保の観点から も重要になるの

は、長大なライザーを海底から切り離し、吊り下げた状態で荒天中にある場合で、こ

のような状態において大きな張力変動がライザー内に発生する。また、多くの場合、

ライザーは流れの中にあったり、曳航されるなどのために流れに曝される。このよう

な状態では、ライザーから渦が放出されることにより渦励振が発生しこれによる金属

疲労が発生する。ライザーシステムの安全性確保の観点から、ライザーの各運用状態

における挙動解析が必要であり、弾性構造物としての動的挙動解析法、VIV のように

流体と構造が連成する流力弾性挙動解析法の開発が必要となる。

(3)材料開発

弾性体であるライザーは、長大になればなるほど応答特性は低下し、強度的に成立の

限界に達する。このため、従来の限界を超えるためには高強度、高弾性、軽量材料の

開発が必要である。

4.5 サブシー技術

わが国周辺における石油・天然ガスの開発は、大水深域を含む中小油田・ガス田の開発

となり、開発の経済性はかなり厳しいと予想される。このような開発を成功に導くために

は開発の各局面でコスト低減が必要となる。大水深域に大型の構造物を多数設置すること

はコスト面でのデメリットが多くなるため、従来洋上の構造物上で行ってきた生産物に対

する処理を海底上で実施し、海底パイプラインにより陸へ送る、あるいは限られた構造物

に上げて集約した上で陸に送るなど方式を開発する必要がある。このため、海底上に設置

するセパレータなどの生産設備の開発、パイプライン、送電ケーブルの低コストの設置技

術の開発が必要である。

また、海洋エネルギーの開発においても、沖合に設置された浮体式風車や潮流・海流発

電施設などから生産した電力や生成物を陸上に送るために、低コストでパイプラインや送

電ケーブルを設置する技術の開発が必要である。本格的な海洋エネルギーの開発では、多

数の風車や潮流・海流発電施設が沖合いの広い範囲に展開されるため、これらの機器の入

れ替えや新たな設置が容易に行えるよう、送電やパイプラインの幹線と幹線への着脱が容

易に行えるノードの開発が必要である。

4.6 低コストで実証試験が行える体制の構築

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わが国の海洋技術の開発において、技術開発のベースとなる海洋石油産業が無いため、

新たな技術を実海域において実験、実証するために多大な労力と費用を要する。このため、

研究が要素技術の開発に終ってしまい。システムとして組み上げ、これを実海域において

試験することによって得られるノウハウの蓄積が無いまま終了することが多々見受けられ

る。システムとして実際に稼動させることにより得られる知見や経験は重要かつ貴重であ

る。そこで、海洋技術の実験、原型、実証の各段階で、低コストで簡便に利用できる実験

のプラットフォームとなる多目的技術試験船と海洋技術試験場を提案する。

海洋技術試験場については、例えば、エンジニアリング振興協会から沖ノ鳥島多目的利

用構想として、沖ノ鳥島実証・実験基地構想が提案されている。

図4.6.1 沖ノ鳥島実証・実験基地構想 (出典:エンジニアリング振興協会)

多目的技術試験船については、実海域において開発した技術の総合的試験を効率よく行うた

めにムーンプールを有し、長大管を組み立て吊り下げる機能を有し、さらに様々な機器の曳航機

能があれば、メタンハイドレート開発、深海鉱物資源、CO2 海洋隔離、深層水利用、洋上風力発

電、海流・潮流発電などの実海域試験を容易に実施できる。

ムーンプール: 長大管などの機器を吊り下げ曳航する機能

クレーン: 機器の揚げ降ろし

推進装置: 曳航機能

大水深位置保持機能: 海洋エネルギーなどの技術開発のために

大水深海域で位置保持する

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試験船の効率を上げるために、試験船を台船とタグボートに分割しても良い

図4.6.2 多目的技術試験船

4.7 共通技術による開発課題の事業性の向上概算

耐用年数 100 年の浮体の設計では、耐用年数 20 年の場合に比べて設計波の波高は 20%増

加する。また、疲労強度の観点からは寿命を 5 倍に延ばすためには発生する応力レベルを

20%減らす必要がある。このことから、単純には強度部材の強度あるいは量を 20%増すこと

が必要になる。腐食に関しては 1 年あたり 0.1mm の衰耗を見込むので、現状の材料、防食

法では過剰な板厚増加につながるので、新技術の開発が必要であるが、浮体の耐用年数を

20 年から 100 年に延ばすためのコスト上昇は 20%程度に抑えられると想定できる。1年当

たりのコストに換算すると浮体寿命を100年浮体とすることで76%削減することができる。

一方、維持・保守にかかる年間コストは初期コストの 5%は必要と考えられる。この場合、

20 年浮体の総コストは初期コストの 2 倍、100 年浮体では 6 倍となり、1年当たりのコス

トは 28%の削減に止まる。したがって、100 年浮体がその利点を十分に発揮するためには、

維持・保守コストを大幅に抑え、メンテナンスフリーにすることが必要である。

搭載設備も含めてその効果を検討してみる。浮体発電コストの試算をスパー型浮体を例

に求めてみる。浮体・係留はメンテフリーとし、風車については 20 年で取替え、送電につ

いては 50 年で取り替えるものとする。年間の維持、保守関係費用を初期コストの 5%とする

と、表4.1に示すように、20 年浮体の場合発電単価は 8.9 円/kWh、100 年浮体では 5.2

円/kWh となる。

一方、メタンハイドレート開発の場合、新たに生産井を掘削するためのコストが占める

割合が大きく、生産するガス単価に換算すると表4.2に示すように、20 年浮体で 14.0 円

/m3、100 年浮体で 13.0 円/m3 となり低減効果はあまり期待できない。

以上より、初期コストに占める浮体の割合が大きい場合、あるいは毎年運用や維持・保

守にかかるコストが小さな場合に 100 年浮体の効果は大きいことがわかる。

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表4.7.1 5MW スパー型の発電コスト

20 年浮体 100 年浮体

ライフタイムコスト

浮体コスト 4.0 億円 4.8 億円 20%増し

係留 1.5 億円 1.8 億円 20%増し

送電 5.0 億円 10.0 億円 1 回交換

風車 5.0 億円 25.0 億円 4 回交換

維持、保守 15.5 億円 50.0 億円 初期コストの 5%/年

浮体はメンテフリー

発電量

稼働率 0.4 350x106kWh 1752x106kWh

発電単価

8.9 円/kWh 5.2 円/kWh

表4.7.2 メタンハイドレート生産

30 年浮体 100 年浮体

ライフタイムコスト

プラットフォームコスト 188.4MM$ 226.1MM$ 20%増し

運用コスト 17.0MM$/yr 340.0MM$ 1700.0MM$

移設コスト 4.8MM$/回 21.9MM$ 109.5MM$

掘削コスト 80.0MM$/400day 1460.0MM$ 7300.0MM$

全天然ガス生産量

80MMscfd 16537x106m3 82685x106 m3

天然ガス単価

14.0 円/m3 13.0 円/m3

5.開発のロードマップ

パイロットプロジェクトと共通基盤技術を併せて、開発のロードマップを表5.1に示

す。パイロットプロジェクトについては短期間で実証試験を行い事業化の目途をつけるこ

とを目的としている。また、共通基盤技術についても、パイロットプロジェクトで確認さ

れる事業性の更なる向上を図る観点から、短期間で開発し実用に供することを目的とする。

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表5.1 開発のロードマップ

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6.まとめ

海洋国といわれるわが国であるが、これを実態として支える海洋産業は、海洋石油産業

のように基盤的となる産業活動が無いために極めて脆弱である。一方、海洋は鉱物資源、

生物生産、石油・天然ガス、物流、再生可能エネルギー、地球環境などわが国の将来を左

右する存在である。

わが国の、海洋技術を育て継承してゆくためには、まとまった数の技術者集団が必要で

あり、技術者集団を抱える産業が必要である。技術を育てるためには産業、大学、研究機

関における研究が必要である。わが国において海洋産業を育成するためには、わが国固有

のニーズに基づいた事業が成立し、技術開発、継承、産業の間に発展的な循環が形成され

海洋産業が自立的に発展するとが必要である。

本マスタープランは、海洋において近い将来から今世紀半ばに向けてどのような技術開

発をしていったらよいか、深海底鉱物資源、エネルギー資源、生物資源、海洋エネルギー、

海洋情報管理、海洋環境保全の各分野で検討される内容について、「実験から商業化技術へ」

を主眼として事業化、産業化の取っ掛かりとなる5~10年のパイロットプロジェクトを

提案し、あわせて、事業性の向上の観点から取り組むべき共通基盤技術開発を提案した。

一方で、これらの提案が実現されわが国において海洋産業が育成されるためには、わが

国の将来の姿をどのように描くか、展望と理念に強く依存している。再生可能エネルギー

などについては、展望と理念に基づく戦略の下で導入を適切に図ることがやはり重要であ

る。

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資料(専門家アンケート)

海洋技術の専門家で本タスクフォースメンバーに、海洋技術を見てきた各専門の立場か

ら実現すべき開発テーマとそれらを実現するために必要な基盤技術開発課題抽出のために、

アンケートの答えてもらった。お答えください。

アンケート内容

[1] 次期海洋技術開発のテーマとして必要と思われるものを上げてください。

次の技術分類に従って、既に提案されているものも含めて、複数記入してください。

タイプⅠ 技術的可能性、事業性は不明だが必要と思われる取り組み。

[ 地球温暖化対策 ]

[ バイオマス ]

[ メタンハイドレート、潮流・海流、コバルトリッチクラスト ]

[ メタンハイドレート ]

[ 地球温暖化対策 ]

[ メタンハイドレート、fish farm、浮体太陽光発電、浮体原発 ]

タイプⅡ 技術的に可能だが、事業性が不明である取り組み。

[ 潮流・海流エネルギー、バイオマス、生物生産 ]

[ 波、風、CO2、メタンハイドレート ]

[ 温度差、海洋肥沃化 ]

[ 再生可能エネルギー、深海鉱物資源 ]

[ 再生可能エネルギー、バイオマス、生物生産 ]

[ 非係留型風力発電浮体、東シナ海ガス田 ]

タイプⅢ 技術的に可能で、事業性もあるが、開発費の負担が大きく進まない取り組み。

[ 鉱物資源 ]

[ コバルトリッチクラスト ]

[ 鉱物資源 ]

[ 係留型風力発電浮体 ]

タイプⅣ 技術的に可能で、事業性もあるが、さまざまな理由で進んでいない取り組み。

[ 石油・天然ガス開発、洋上風力エネルギー ]

[ 熱水鉱床、大水深石油 ]

[ 海底熱水鉱床、サハリンパイプライン ]

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[ 東シナ海ガス田開発、地球温暖化対策 ]

[ わが国主導の石油・天然ガス ]

参考 従来から話題となっている取組み

分野 開発課題

(1)資源・エネルギー

(2)生物生産

(3)環境

・再生可能エネルギー

風、潮流・海流、太陽、波、温度差

・バイオマス

海草エタノール化、海洋バイオマスタービン

・鉱物資源

熱水鉱床、コバルトリッチクラスト

・石油・天然ガス

メタンハイドレート、大水深石油、東シナ海ガス田

・増養殖

鰯、マグロ

・海洋肥沃化

・地球温暖化対策

CO2 海洋隔離、CO2 海洋底下隔離

[2] 海洋技術が実現されない理由

これまでの海洋関係の技術開発では、技術開発で終り実現化に結びつかなかった例が多

くありました。その 大の理由は何だとお考えでしょうか。以下の4つの要因に順位を付

けてください。その他の要因があれば記入してください。

A 技術

B 事業性

C 社会的認知

D 環境

E その他[ チャレンジすることを避ける戦後の国民性 ]

要因の順位 [1 位: B 2 位: A 3 位: C 4 位: E ]

要因の順位 [1 位: B 2 位: A 3 位: 4 位: ]

要因の順位 [1 位: B 2 位: A 3 位: 4 位: ]

要因の順位 [1 位: B 2 位: D 3 位: C 4 位: A ]

要因の順位 [1 位: B 2 位: C 3 位: A 4 位: E ]

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要因の順位 [1 位: C 2 位: B 3 位: D 4 位: A ]

[3] 要素技術について

[1]で答えていただいた技術について、こんな技術があれば経済性や事業性が大幅に向

上して、実現が難しいと思われたことが実現すると思われるものについてお答えください。

(1)望まれる材料技術は何でしょうか?

例:長寿命化技術(ステンレスクラッド材、塗装など)

[ 長寿命化技術(≒メンテナンスフリー) ]

[ バイオマスを挙げたが、材料技術とか要素技術ではなく、新しい発想が必要 ]

[ 軽量化技術、接合技術 ]

[ メンテナンスフリー化技術 ]

[ 耐海水性ステンレス鋼、FRP コーティング、合成繊維ロープ ]

(2)望まれる要素技術は何でしょうか?

例:大水深位置保持技術

[ 海洋施工技術(大水深対応ROV等) ]

[ 環境影響評価技術、性能評価技術 ]

[ 大水深位置保持技術、ライザー、Marine Operation のための

コントロール・センサー・ネットワーク技術 ]

(3)注目される諸外国の動向は何でしょうか?

例:新しい提案、建設・建造の事例

[ 大水深石油開発 ]

[ ノーチラス社のパプアニューギニアの黒鉱型熱水鉱床開発 ]

[ 国際規格化 ]

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海洋技術開発マスタープラン検討委員会 委員

鈴木 英之 東京大学大学院工学系研究科 環境海洋工学専攻

大内 一之 ㈱大内海洋コンサルタント

増田 昌敬 東京大学大学院工学系研究科 地球システム工学専攻

山崎 哲生 産業技術総合研究所 地質情報研究部門

定木 淳 東京大学大学院工学系研究科 地球システム工学専攻

藤田 純一 社)マリノフォーラム 21

井上 俊司 三菱重工業(株) 船舶・海洋事業本部船 舶技術部

安田 哲也 アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド エンジニアリング事業

部ガス海洋 G

平井 一司 三井造船(株) 船舶・艦艇事業本部 基本設計部

林 英一郎 新日本製鐵(株)海洋エネ事業部 海洋エネルギー第二ユニット

平山 裕章 独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構 石油・天然ガス開発技術

調査グループ

小田野 直光 独)海上技術安全研究所 企画部

加藤 俊司 独)海上技術安全研究所 海洋開発研究領域

青野 雅和 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(上海)有限公司 環境・エ

ネルギーコンサルティング