グルタチオンs-転移酵素の構造と機能gst の分類と構造を進化の面から...

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グルタチオンS-転移酵素の構造と機能 誌名 誌名 東京農業大学農学集報 ISSN ISSN 03759202 著者 著者 宮本, 徹 巻/号 巻/号 57巻4号 掲載ページ 掲載ページ p. 247-260 発行年月 発行年月 2013年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: グルタチオンS-転移酵素の構造と機能GST の分類と構造を進化の面から 8クラス,即ち π,T,乙 e ,λ, dehydroascorbate reductase , tetrachlorohydroquinone

グルタチオンS-転移酵素の構造と機能

誌名誌名 東京農業大学農学集報

ISSNISSN 03759202

著者著者 宮本, 徹

巻/号巻/号 57巻4号

掲載ページ掲載ページ p. 247-260

発行年月発行年月 2013年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: グルタチオンS-転移酵素の構造と機能GST の分類と構造を進化の面から 8クラス,即ち π,T,乙 e ,λ, dehydroascorbate reductase , tetrachlorohydroquinone

]. Agric. Sci., Tokyo Uni,仏 Agric.,57 (4), 247-260 (2013) 東京農大農学集報, 57 (4), 247-260 (2013)

グルタチオン s-転移酵素の構造と機能一薬剤による抵抗性発現からの脱却-

宮本 徹*

(平成 24年 12月21日受付/平成 25年 1月25日受理)

要約:グルタチオン s-転移酵素 (GST)はミクロソーム酸化酵素であるチトクローム P450と並んで生物体

に広く存在する抱合酵素である。これは生体内で生合成や薬物の代謝分解に於いて重要な役割を演じている。

α,μ,π,σクラス GSTでは,チロシンがグルタチオン (GSH)のプロトンを引き抜き, GSH抱合体を形

成する。一方,昆虫の e,δ,[;クラス GSTでは,セリンが近傍のペプチド結合のカルボニル基と相侠って,

GSHからプロトンを引き抜き, GSH抱合体を形成する。植物や大腸菌の GSTは見虫と同じセリンのシス

テムでGSHを活性化しているようである。本稿では,この GSTの触媒機構と多様な機能を計算化学による

必須アミノ酸残基の立体配座の視点から解説し薬剤開発と抵抗性発現のイタチごっこの解消の足がかりを

提案する。

キーワード:グルタチオン s-転移酵素,グルタチオン,チロシン,セリン,立体配座

1. はじめに

グルタチオンふ転移酵素 (GST)はミクロソーム酸化酵

素 (P450) と並んで生物体に広く存在する薬物代謝酵素

である。 P450は外来物質を酸化して水溶性物質へと代謝

を図る酵素で, ミクロソーム画分に分画される。 GSTは

更にこの極性代謝物をグルタチオン (GSH)に抱合して体

外へ排植する一般には解毒化を図る酵素で,サイトソーlレ

画分に分画される。他の抱合酵素と異なる点は,極性をも

っリガンドだけでなく無極性のリガンドを直接 GSHに抱

合できるところにある。 P450はFMO(フラピン含有モノ

オキシゲナーゼ)と並んで,第二アミンや第三アミン,ス

ルフィドをヒドロキシルアミンや N-オキシド, s-オキシド

に酸化し解毒のみならず毒性の発現を招いて選択毒性を

生む大きな特徴をもつが, GSTにも特異な活性化を導く

事例がある。有機リン殺虫剤プロチオホスやチアジアゾリ

ジン系のプロトックス阻害型除草剤がGSTにより活性化

されるという報告である。ベンゾ [aJピレンは P450によ

る酸化とエポキシド加水分解酵素による加水分解が組み合

わされて初めて発癌性物質に活性化されるが,ブロチオホ

スもこれと同様に P450による酸化と GSTよる抱合が連

動して初めて特異な殺虫力を発現する。これらはいずれも

「薬の開発の基礎知見jになり, I抵抗性発現と薬剤開発の

イタチごっこjを脱却するヒントになる。 GSTの機能に

関する個々の科学的知見は多くの成書にあるので,本稿で

はこれらは第6章,第 I節に要点をまとめて解説する。生

体内で進むステロイドの合成では,反応の各ステップを異

なる P450分子種が個別に作用するといった,生合成に係

わる酵素は基質との特異性が高いが,外界からの有機化合

*東京農業大学名誉教授

物の侵入には天然物であれ人工化学物質であれその基質特

異性は低い。多種類の薬物代謝酵素ファミリーがありそれ

ぞれ分子多様性をもって外来物質の解毒に対応しているの

である。無論これは薬物代謝の性質上からは理にかなった

ことであるが,そのメカニズムは体系的に多くは語られて

こなかった。 GSTはこの薬物代謝酵素としての役割の他

に,生体内合成や酸化ストレス 貯蔵やトランスポータと

しての働きをもっ典型的な多機能酵素である。

これまでタンパク質の研究は一次構造の相同性,基質特

異性,部位特異的変異法, X線結晶解析等により明らかに

されてきた。 GSHはチオールアニオン (S-)を分子中央部

に突出させ翼のような形をとり,これにリガンドの反応部

位が向き合って結合部位に収まり抱合反応が完成する。そ

のため結合部位はリガンドを認識する特定残基を相応する

位置にもち,リガンドの全体構造を保持できる立体空間を

もっていることが必要である。ベンゾ [aJピレンの保持部

位のように伸び広げられた C末端部が結合部位になる事

例も見られる。このように GSTは, GSHの巧妙な活性化

機構とリガンドが都合よく結合できる結合部位を多種類の

分子種をもつことにより可能にしている。この点P450も,

いずれの分子種も Feを活性部位にもちリガンドを取り込

んで Fe・リガンド複合体をつくり,空気中の分子状酸素

を活性化して酸化反応を完結するといった, GSTもP450

もリガンドの構造を選ばない中で酸化なり抱合なりの反応

が自由度を大きくもって進むように三次構造が形作られて

いると考えていいのかも知れない。

部位特異的変異法では必須残基を知ることはできるが,

その立体構造は分からず, X線結晶解析では立体構造は分

かつても反応時の立体配座には至らない。本稿では,計算

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化学を基盤に,タンパクの分子モデリングによる三次構造

に有機化学的な構造修飾を加え,立体配座の視点、から GST

の分子多様性,種々の機能を解説する。

2. GSTの分類と一次構造

GSTはほとんどの真核生物に存在し,一部の原核生物

にもその存在が見つかっている。小胞体に存在する膜結合

のミクロソ マルな GSTと細胞質に存在する水溶性のサ

イトソリックな GSTがある。両者の聞には機能的な関係

はない。 GSTに関する論文はこの 30年間に約 48000報余

り,動植物,微生物等生物種と係わって GSTを扱った論

文を検索すると,動植物 GSTでそれぞれ700報ほど,微生

物 GSTで120報,魚 GSTで400報余り,見虫 GSTで500

報ほど,烏 GSTで20報ほどで,生物種と GSTの概念が

少なくともどこかに入っている論文を検索するとこの 5~

10倍の論文数が見つかる。 10年単位で GSTに係わる論文

を検索すると, 1981-1990年には 4400報, 1991-2000年に

はその 3.6倍強, 2001-2012年には 6.2倍強の論文数が検索

されてくる。昆虫との係わりで、絞って概観すると, 1981

1990年には 53報, 1991-2000年には 140報, 2001-2012年

には 282報あり, 2009年から 3年間では 86報, 2011年だ

けを見ると 42報と,加速度的に論文数が増加しているこ

とが窺える。これは GSTがP450と共に多くの基礎反応

に関与し毒性に係わって広く生物界に存在することを背景

に,医薬や農薬のドラッグデザイン,工業用生物資材の創

出といった応用研究が,化学分析や機器分析,分子生物学

や計算化学といった種々の学問と技術により活発に行われ

てきていることが大きな理由であろう。

本稿では薬物代謝酵素としての GSTに焦点を絞って,

その構造と機能,活用について述べることから,サイトソ

リックな GSTのみを取り上げる。 GSTは一次構造の相同

性と基質特異性を基にアルファ (alpha,α),ミュー (mu,μ),

パイ (pi,π),シータ (theta,θ)のように分類する。これまで

研究がよく進められてきたのは高等動物由来の α,μ,n:GST

で,eGSTの研究も裾が広い。 PRADE,1. et al. (1997) 1)は

ヒト胎盤から 5種の α,μ,π,σ,θクラスの GSTを基質特異

性と一次構造により分類して見い出した。この論文で彼ら

は腫蕩細胞が薬剤耐性を導く GST分子種の単一過剰発現

をすることを示し分子種間での構造の違いを新しい抗癌

剤の開発に利用できることを示唆した。 SHEEHAN,D. et al.

(2001) 2)も細菌,カピ,植物,見虫,のような非温血生物

のGSTの分類を概観している。又, MANNERVIK, B. et al.

(2005)3)はラットやマウスの GSTをヒト酵素と同様に分

類した。 MOHSENZADEH,Sasan et al. (2011) 4)は植物由来の

GSTの分類と構造を進化の面から 8クラス,即ち π,T,乙 e,λ, dehydroascorbate reductase, tetrachlorohydroquinone

dehalogenaseの7種とミクロソーマルな GST1種に分類

できると記している。昆虫の GSTについては,農薬の代

謝分解や抵抗性発現,毒性研究が盛んなため,伐 δ,eGST

の研究が精力的に行われている。 1991-2012年で検索した

ところ,論文の多くは α,e,δ, eクラスの研究で,高等動物

を中心に報告が多くある α,μ,πクラスでは少なくクラスn,

宮本

Cで同程度であった。 DDTやピレスロイド剤に対する抵抗

性発現に係わるふ Eクラスの GSTに関する論文が多かっ

た。イエバエや蚊の双麹目見虫類では, 6種類の GST,θ,δ,

e,σ,n, .;クラスが見つかっている。微生物の GSTについ

ても研究が盛んで幅広く行われている。このように, GST

は一次構造と基質特異性を基に α,μ,π,伐 e,δ,e,n,ぶ λ,T

等といった多くのクラスに分類されてきたが,今日では総

じて GSHの活性化機構とリガンドの保持残基やその配置

の組み合わせで大別分類しでもいいのではないか。

GSTの表記法3)については以下のように取り決められて

いる。クラスは alpha,mu, pi等.のように Greeklettersで,

短縮する時はA.M, P等.のように Romancapitalsで表記

し,クラスメンバーは構成するサフやユニットの構造と組み

合わせをアラビア数字で区別して表記する。例えばGSTA1-l

はαクラスでサブユニット lがホモで構成される GSTと

いう意味である。生物種に応じてもつ分子種クラスは概ね

決まっているが,多くはその域を超え自身に於いてマイ

ナーなクラスも見つかっており,その生きる上での役割の

複雑さが垣間見える。過剰発現し,また新しいサブタイプ

が創られていく,種々の遺伝子発現(系統)が成せる業で

あろう。

3. GSTの三次構造

GSTは2つのドメインをもっサブユニットをホモある

いは極めて構造がよく似たヘテロで構成された 2量体であ

る。 N末端側ドメインの特定の分子表面に GSHを保持し

てアニオンへ活性化しこの近縁の C末端側ドメインの表

面にリガンドを保持して GSアニオンと抱合体を形成する。

ホモロジーモデリングによる立体構造を観察すると,主鎖

のフォールデイングは一次構造(相向性)が種々異なって

も一見似ており,また GSHがどのタンパクに於いても必

ず同じ特徴ある構造位置に配されてくる。そうであるなら

ば, GSTが分子種により異なる反応を異なる程度で見せ

るのは何故か。

PAULING,1.と COREY,R.B. (1951)5)は,ペプチド結合の二

次構造を X線結晶解析により次のように明らかにした。

ペプチド結合は,図 1に示すように, N原子の孤立電子対

がCO基と共鳴するため C-N結合に二重結合性をもっO

そのため 2つの sp3C(Cα)原子とその間にある C,0, N, H

の4原子は一つの平面上に乗る。この Cαが他の 5原子と

一緒に隣の CO基の C原子あるいは NH基の N原子を軸

に回転することによりポリペプチド鎖を形成する。アミノ

酸残基の側鎖構造の違いにより個々回転可能範囲が制限さ

れ種々の立体構造を形成する。彼らはこのように説いた。

一次構造のアミノ酸残基の種類と結合順序が変わると,

/:;今PN- 'c I I H R2

ごー乃γ図 1 ペプチド結合

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(2) 分子力学計算 (MM)の限界

ほとんどのタンパク分子は,ネイテイブ構造と呼ばれる

熱力学的に最も安定な配座構造で一番多く存在すると考え

られている。著者らはホモロジーモデリングにより得たイ

エバエ GST分子種 6Aと6Bの最安定化構造を分子力学計

算 (MM)で求めることを試みた6-9.)0 MMは,極小値を

もっ配座構造を初期構造の近傍で得ることはできる。 しか

しその計算はタンパク質のような大きい分子ではエネル

ギー障壁を越えて計算できないので,その極小値は必ずし

も最小値に一致せず,最も安定な構造を得られるとは限ら

ない。MMは初期構造に依存した安定化に過ぎないので

ある。

グルタチオン s-転移酵素の構造と機能

(3) 遷移状態下での極小値構造の立体配座

図3は横ililllに連続する立体配座を,縦車111にその楠玉造がも

っエネルギー値を振ったエネルギー関数の模式図である。

多くの極小値をもち,厳密にはそれぞれが更に小さな極小

値に分離して存在していると考えられる。この中の最も小

さい極小値が最小値で¥最安定な構造の立体配座を示す。

しかし n残基のタンパク 質はおよそ 10n通りの構造(配

座異性)が考えられ,大きなタンパク質の最安定構造を網

羅的に探すことは技術的に不可能といえる。

近年,部分椛造の最適化を組み合わせて立体構造を予測

して行く研究10)が進められている。著者ら も,イエバエ GST

のGSHの活性化を解明するに当たか反応に係わるセ リ

ン残基側鎖 CHzOHと近傍にあるペプチ ド結合. GSHの側

鎖 CHzSHをひとくくりにした反応部位の構造体での配座

異性に絞って工夫をこらし遷移状態下での考えられる極

小値構造の立体配座から遷移構造の予測11)を試みた。具体

的には先ず任意に GST分子種の一次構造から三次構造を

立ち上げ,反応部位であるセリン側鎖 sp3C原子. GSHの

C阿部の sp3C原子に結合する OH基.SH基を,図 4に示

すようにそれぞれ他の2つの H原子と入れ替えた 3つの

配座構造の組み合わせにより 9通りの立体構造を作製し

た。これらを初期構造として MMによる極小化を図った。

一つの極小値は 2つのエネルギー障壁間に必ず lつ求めら

れるので,この 9通りの徳小化を計算することは GSTタ

ンパク分子のこれら OH基と SH基が採り得る全ての配座

を網羅する中からこの特定の構造体をもっ 9つの極小値構

造の立体配座を計算 していることに等しい。

この戦111各は特定の構造体の極小化を図り ,その他の構造

(1) ホモロジーモデリング

タンパク質の構造と機能の研究は,これまで X線結晶解

析と高分解能 NMR分析により行われてきた。し か し結

晶構造のデータはタンパク質の絶対配置 (absoluteconfigu-

ration) を明らかにするものの,その機能を論じるに足り

得る情報は多くない。X線結晶解析はタンパク分子が超高

速で運動しその立体配座 (conformation)を逐一変える中

で,任意に得られる結晶構造の配座を測定するものである

からである。一方. NMR分析のデータは活性部位での機

能を解析できるが全体i構造を明らかにすることは得意で、は

ない。近年のコンピュータの進歩は, 三次次構造が判明し

ている類縁のタンパク質の構造情報があればこれらを鋳型

に組み合わせて目的のタンパク質の三次構造を予測できる

ホモロジーモデリングの手法を生み出した。ディスプレイ

上で、構造を有機化学的に修飾でき, 構造と機能を計算化学

により考えていくことができて.X 線結占~119可析で、は知り得

なかった情報を予測できるところに大きな特徴をもっ。タ

ンパク質の機能を考えるためにはその絶対配置だけではな

く立体配座の視点が不可欠である。機能分子である酵素な

どはその反応に立体配座の変化が深く関わっていることを

考えると,本手法は大きな武器となり得るのである。

遷移構造の立体配座4.

エネルギー障壁

最小値

側鎖構造が異なるだけでなく ,このように主鎖によるタン

パク質全体の立体配座が微妙に違ってくるため,フォール

デイングはよく 似ているように見えるが. タンパク表面の

形や性質は異なり,活性部位では種々の化合物が異なる反

応を有機化学的に大胆にま た微妙に迫って展開され, 機能

の面に大きく反映されてくるのである。

GST分子の活性音1)位を一般化した模式図で図 2に示す。

酵素表而に結合したGSHの下には GSHを活性化するアミ

ノ酸残基がある。言い換えると GSHを保持する残基がGSH

のシステイン (Cys)部の下にあり ,またチオーlレ基 (SH)

の下近傍にもチオールアニオンを形成する残基が配されて

いる。この残基が GSHのプロ トンを直接引き抜けない時

は更にその下にその原動力になるもう 一つの残基が潜んで、

いる。詳細|は第5章の iGSTの触媒機構」の中で立体配

座の視点から解説する。

エネルギー障壁

エネルギー障壁

-社会呼H

GSHの活性化に係わる2つ目の残基

GSH

立体配座

エネルギー|刻数の模式図図 3GSTの活性昔1¥位の模式図図 2

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A I-I 初期構造 OH基 SH基

3 んfII1位 A位

2 1位 B位3 1位 C位

SH C 4 2位 A位B 5 2位 B位

6 2位 C位7 3位 A位8 3位 B位

Asp10 9 3位 C位

図 4 音11分構造の最適化のための初期構造

部分の配座は固定して計算しているが,得られた結果が他

の科学的要因と照ら しでもよく合致 しており,仮説の信態

性を評価liで、きるものと考える。但し,極小値 Oocalmini-

mum),最小値 (globalminimum)の配座構造はタンパク

自体の安定な構造であり,活性音11位に見られる反応部位の

構造体の遷移状態下の配座が最安定であることを必ずしも

意味しているわけで、はない。

5. GSTの触媒機構

GSTによる GSH抱合は 2つのステップで進み, 一つは

GSHの GSアニオンへの活性化, もう 一つは活性化された

GSアニオンへの リガン ドの取り込みで抱合体が形成され

る。

(1) GSHの保持

GSH は一次構造の N 末端から 50~60 番目辺りのアミノ

酸残基により形成される三次構造に於ける固有の湾曲部突

端②に保持される(図 2)。この残基は活性部位のタンパ

ク表面にあって,その主鎖の CO基と NH2基が GSHの

Cys音11のNH2基と CO基と水素結合 してGSHを保持 して

いる。

(2) GSアニオンの形成

GSI-IはpKaが約 9で有機化学的にはプロトンを容易に

解離することはない。GSTに於いて初めてこの反応を生

体は可能にしている。これは保持された GSHのSH基の

直ぐ下のタンパク表面,N末端近くにプロトンを引き抜く

アミノ酸残基が共通して配されているからで,分子モデリ

ングによる立体構造からその様が窺える。SH基の求核反

応性はプロ ト ンの 19干潟If~度に依存し酵素 GST' GSH複合

体中での pKaが低いことが重要で、ある。これまで GSHの

活性化機構は下記の 3通りのメカニズムで考えられてき

た。以下にそのメカニズムを相応するクラス群と対応させ

ながら計算化学による立体配座からの視点で解説する。

(a) チロシンによるプロ トンの引き抜き

GSHをGSアニオンに活性化する原動力になるアミノ酸

残基の一つは GSHの下近傍にあるチロシン (Tyr)である。

その側鎖 4-0H-ベンジル基を, N末端から最初にある固有

の湾曲音11①を通りヘリックス梢造に至るポリペプチ ド鎖の

内側空間に N末端近くから直立して突き出させ, SH基の

宮本

~J'但匡 ~ ~、 GSH

固有の湾曲部①

固有の湾曲部突端②

図 5 チロシンによる GSHの活性化ヒト)J台継πGST(PDB ID : AQW)

プロ トンを直接引き抜いてオキソニウムイオンにする中で

GSアニオンを形成する (I:gl5)。lIr1i乳動物由来の α,μ,πクラス GSTやヤリイカのような

uクラス GSTに共通して見られるメカニズムである。ヒ

トnGSTの Tyr7の側鎖 OH基の化学修釘liによる CDNB

活性の低下や,音11位特異的変異j去による Tyrのフェニルア

ラニン (Phe)置換変異種の CDNB活性やエタクリン酸

GST阻害活性の低下,GSH複合体の pkaの変化等により

証I~~ 12.13)されている。図5はPRADE,1. et al. (1997)のヒ ト

)J台盤πGST(PDB ID : 1AQW)のX線結晶解析データを分

子モデリングしたものである。GSHはロイシン 52(Leu52)

に保持され. GSHのプロトンは Tyr7のフ ェノール性 OH

基により引き抜かれる様がよく分かる。この他の同じ類の

GSTの分子モデリングも総合 して見ると, GSHが保持さ

れる残基やプロトンを引き抜く Tyr残基のポリペプチド

鎖上の位置は少しずつづれて異なるが,いずれの場合も

GSHは前述(1)で述べた固有の湾曲部突端②に保持され,

SH基は Tyrの OH基の上近傍に位置するように N末端

側ドメインは形作られていることが窺い知れる。また,

Tyr 残基の側鎖が突出する空間には, ポ リ ペプチド~~íを構

成するー述の残基の側鎖は外側に向いて無いか,脂溶性側

鎖があるだけで¥ どれ一つ大きく内側に突出した残基側鎖

がないのも興味深い事実である。

(b) セリンによるプロトンの引き抜き

GSHの活性化の原動力になるもう 一つのアミノ酸残基

は,保持される GSHのSH基の下近傍にあるセ リン (Ser)

である。N末端から最初Jのヘリックス構造に至る手前,湾

曲音11①以後のポリペプチド鎖上に釆っている。11m乳動物や

昆虫の Oクラス GSTはこのメカニズムにより GSHが活性

化される。昆虫等がもっ 3やEクラスの GSTもこの Serが

原動力である。植物や大腸菌にも相当する Serが一次構造

上に同様に認め得るが, 三次構造的見地から疑義が残る。

次項(C)で解説する。話を戻すと Oクラスの GSTにも一次

構造上で α,μ,πクラスと同様に N末端近くに Tyr残基を

有するが, 三次構造に立ち上げて観察すると側鎖はポリペ

プチド鎖を挟んで GSHのSH基とは丁度反対の方向に向い

ており ,一見するだけで GSHのプロ トンを引き抜けない

ことが分かる。これとは逆に原動力となる S巴rの側鎖は N

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グルタチオン S-]I伝移酵素の構造と機能 251

末端から固有の湾曲音11①を通りヘリックス構造に至るポリ

ペプチド鎖で形成される内側空間に突き出ている(図 6)。

この活性化メカニズムについては議論が十分なされぬま

ま今日に至った。Serをアラニン (Ala)に置換した部位特

異的変異j去により GSHの活性化には Serが必須で、ある 14)

ことは証されている。しかし GSHと水素結合をつくる距

離にあるとは言えないといわれる中15)それ以上に SerOH

基はアルコール性の水酸基で. Tyrのように単独で、 GSH

のプロトンを引き抜くことは有機化学的にはできない。果

たして何がこれを可能にしているのか。

著者らはその秘密が酵素 GSTの Ser残基の奥下.N末

端近くのポリペプチド鎖のペプチド結合 CO基の酸素原子

に隠されていることを予測した。表 1に一次構造から見た

GSH活性化に係わるアミノ酸残基とその配列の関係を幾

っか事例をもって示す。プロ トンを引き抜く Ser残基は

CO残基から 3つ後に位置するという ,活性化に必須の共

通梢造が大腸菌を除くいずれの GSTにも見事に内包され

ていることが窺える。著者らはこのタイプの活性化メカニ

ズムをイエバエ GSTの分子種 6A. 6Bに於いて明らかに

した。その概要を図 7に示す16)。ペプチド結合は,図 lに

ペプチド結合CO基

図 6 セリンによる GSHの活性化

表 1 GSTに於ける GSHの活性化に係わるアミノ酸残基

GST文は Serを活性化する H+を引き抜く GSHを保PDBID 生物種 ペプチド檀成残 主!l:d華基 持する残2C3Q 8GST Asp8 Leu9 Ser11 Val54 1PN9 e5GST Leu6 Pro7 Ser9 IIe52 21MK EGST Leu9 HIS10 Ser12 IIe55

10YJ 植物 Phe12 Trp13 Ser15 IIe56 1GNW 植物 His8 Pro9 Ser11 Val54

2DSA 大腸菌 Ser6 Pro7 Ser11 Val52

示 したように,ケト型の N原子の孤立電子対が CO基と

共鳴して C-N結合に二重結合性をもたせたエノ ール型を

とり固有のペプチド鎖を形成している。タンパク分子は構

成アミノ酸の構造の違いによりこの回転角に制限を受けペ

プチド結合毎に個々異なる立体配座を形づくり分子固有の

ポリペプチド鎖を構成している。

前掌の 「遷移構造の立体配座jに記 した 9通りの初期構

造(医14)に,このメカニズムの要のエノール型ペプチド

結合と Serの OH基をオキソニウムイオンに改変した構造

(図 7) を組み込み,酵素反応H寺の立体配j査を網羅する中

でMM計算した。分子種 6Aに於ける結果を表2に示す。

基本構造,改変構造①では,初期構造のいずれも 2組の 2

原子問距lIlmは水素結合できる程度の距離に安定化されな

かった。一方,改変構造②では,初期構造 1.2. 7を除き

すべて少なくとも一選移構造体はこの原子間距離の要件を

満足し論理矛盾のない安定構造を採り得ている。またこれ

ら計算結果が音11位特異的変異法による結果(表 3) とパラ

レルにあることから. Serによる GSHのi舌'性イヒのメカニ

ズムを図 7の如く明らかにした。

(c) 植物,大腸菌での活性化機構

植物や大腸菌の GSTも一次構造上は見虫と同様に Tyr

残基がN末端に保存されている。三次構造に立ち上げる

と. GSHを活性化できる側鎖のフェノール性 OH基はポ

リペプチド鎖を挟んで GSHと全く反対側に位置し 一見

して触媒残基には成り得ないことが分かる。そして,昆虫

と同様に,固有の湾曲音11①を挟むポリペプチド鎖で形成さ

れる内側空!日]に Serの OH基がきている。これがアルコー

ル性の OH基で単独では GSHのプロトンを引き抜くこと

ができないのは昆虫の場合と同様で、ある。

表 2 イエバエ GST6Aに於ける GSH活性化機梢

CH20目とCQの距離I CH20 ト目2とCQーのß~高仕/CHヲOHとGSHの距離帯(A)CHクO+HタとGSーの距離字(A)

初期構造 基本構造 改変構造⑦ 改変構造②1 4.9012.74 4.99/2.64 4.4612.19 4.84/2.74 2 4.81/2.60 4.93/2.78 4.99/2.04 5.26/2.17 3 4.91/6.02 4.94/4.76 1.99/2.03 3.15/3.40 4 2.36/4.56 2.0115.11 2.15/2.19 2.5312.13 5 2.36/3.72 2.0212.89 2.06/2.15 2.68/2.40 6 2.36/6.42 2.01/4 95 2.08/2.36 2.24/2.15 7 2.35/3.72 2.01/4.60 1.90/5.10 1.9414.85 8 2.37/3.07 2.01/4.13 1.9412.36 2.05/3.49 9 2.35/6.90 2.01/5.68 1.92/2.38 2.02/3.55

*3つの構造体に於けるSerOH基の活性化とGSHのプロトンの引き抜きに係わる2組の2原子問の距離。

Ser12-0-H HS-G

子へ~S-Se町r1吃2同心0:う.ち〉

H G

nb

uH

U川

/

¥

+OH

qJι

-rl

白しv

nb

ゅー ?- ーAsp10、-.ツ~ _ -Asp10,:チ久

l'¥eu9V、Leu9

H H

基本構造 改変構造①

図 7 セリンによる GSHの活性化メカニズム

改変構造②

O

Asp10、+チ人r 、N' 、Leu9

H

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252

植物の;場合は,該当する Serは昆虫の GST以上に GSH

から距離が離れているとされ17) 音11位特異的変異法による

試験もなく不確かなまま残されていたが,著者らは前述の

イエバエ GSTに於ける GSHの活性化機梢が植物にも当て

はまる可能性を見出した(未発表)。例えば,DJXON, D.P.

et al. (2003) 18) による RiceGSTl (PDB ID : 10YJ)のX

線結晶解析データを分子モデリングすると,図 8に示すよ

うに, GSHはGSTが共通にもつ GSH保持部位の湾|担l部

突端②にあるイソロイシン 56(Ile56)に水素結合し, SH

基を Serl5のOH基の上に被さるように保持された。しか

しこのセリンの OH基を何が活性化して GSHのプロ トン

を引き抜くのか。三次構造を見る|浪り, N末端から最初に

ある間有の湾曲部①を挟んで Serl5と対極に位置するフェ

ニルアラニン 12(Phe12)とトリ プ トファン 13(Trp13)か

ら成るペプチド結合の CO基しかその役割を漁'じる残基は

ないように見えた(表1)。イエバエ GSTの研究に倣って,

考えられる 9通りの基本構造の幾つかの Phe12とTrp13

聞のペプチド結合をエノール型構造に,併せて SerOH基

をオキソニウムイオンに, GSHをGSアニオンに構造を一

度に改変し MMにより安定化を図って。+H2のH原子

とPhe12COーのO原子, -SGのS原子のそれぞれの原子

|品j距離を計測した。 0+H2とPhe12COーの原子間距離が水

素結合できる距離にあると 0+H2と-SGの原子問距離が若

干離れるといった不適合が残ったが, 一方で、これら三者は

分子モデリングを実行するディスプレイ上で挙動を同じく

して動台前述で証したイエバエ GST の触媒機構を行~q91\

させた。RETNEMER,P. et al. (1996)による Arabidopsis

thalianaのGST(PDB ID : 1GNW)のヒスチジン 8(His8)

とプロリン 9(Pro9)問のペプチド結合から Serllへのポ

リペプチド鎖の立体配座を始め,同じような多くの事例が

X線結晶解析データから認められ,表 lに示したように植

物でも Serが GSHのプロトンを引き抜いているのではな

いかと窺い知|ることができた。

大腸菌の場合は,井上らは RDSA(PDB ID)のSerll側

鎖がGSHと反対の方向を向き触媒機構に直接関与している

とは考えljlltいといい,昆虫由来の機構とは別途異なる機構

が存在する可能性を示唆19)している。しかしこれももう

一つの可能性と して近傍のペプチ ド結合,但し昆虫や櫛物

の場合とは異なり Serllと少し離れたところのペプチド結

図 8 イネ GST(PDB ID : lOYJ ) に 1l~ける GSH の活

宮本

合のCO基のO原子が原動力であることが疑わしく (表1),

著者らは立体配座による構造解析を進めている(未発表)。

又, NrsHIDA, M. et al. (1998)却による大腸菌 k-12GST(PDB

ID: 1AOF)のxt~財布品解析データを分子モデ リ ングし

イエバエ GSTの研究に倣っていくつかの基本構造を MM

計算により安定化して得た GSHの活性化時の立体配座の

模式図を匡19に示す。0+H2と-SGの原子間距離が水素結

合できる距離である と, 0+H2とリジン 6CO-(Lys6CO-)

の原子間距離が水素結合するには大きい目の距離を示して

いた。しかしながら, 三者が一体となって活性部位を占め

ているという点で昆虫,植物と同様であるように見受けら

れる。

(3) GSHの解離度に係わるポリペプチド鎖の立体配座

。,(5, E;クラス GSTに見られる Serによる GSHの活性化

では, GSHのプロ トン解離には Serの OH基の H原子と

近傍のペプチド結合 CO基の 01原子聞の水素結合の強さ

が影響を与えている。これは有機リン殺虫剤プロチオホス

オキソン s-オキシドの抵抗性八千代系統イエバエ由来の

GST6B (野生種)とその変異種Ile9Leu,Ile9Phe, Phe37Met,

Phe120Leu, Phe121Leuの5種による GSH抱合反応(反応

式 1)でのフェニルホスフェー ト (PP)の生成量と,これ

ら6種の分子種の分子モデリングにおける Ser12のOH基

のH原子とペプチド結合 Ile9CO基の O原子との原子間

距離の相関(表 3)16)から明らかになった。Ile9をLeuに替

図 9大腸菌 GST(PDB ID : lAOF)に於ける GSHの活性化

時 CI野いい|プロチオホスオキソン

H20

J伊 CI +--

2,4・ジクロロフヱニルホスフ~-ト (PP)

.チオキシド

lお1+ GSEI

脱エチルふオキシド

反応式1・プロチオホスオキソンの GST6Bによる酸化的GSH抱合反応

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グルタチオン S-ll伝移酵素の構造と機能 253

表 3Serl20H i!i!iのH原子と Leu9CO基の O原子との原子間距離と酸化的

GSH抱合反応に於けるフェニルホスフェートの生成量

Ser120H基のH原子とLeu9CO基の 2,4ージクロロフヱニル。原子との原子間距椴 (A) ホスフヱート(PP)の

分子種分子力学法半経験的分子軌道法 生成量

{MM2) (LocaISCF) (nmo 11m i n/mg)

野生程

変異種lIe9Leu lIe9Phe Phe37Met Phe120Leu Phe121Leu

2,35

2.38 2,37 2.35 2.33 2.34

えると原子間距離は少し大きくなり PPの生成量は 86%に

減じ, Pheに置換する と原子間距離は 1A以上大きくなっ

てPPは全く生成されてこなかった。これは残基の側鎖構

造が変わったため,ペプチド鎖の結合様式は変わらないが,

その立体配座に変化が生じたため, SerOH基との距離に

差が生まれ,PPの生成量に大きな違いが生じたものと考

えられる。水素結合の強さがGSHの活性化,jl界再Itの大きさ

に影響を与えていたのである。一方, Phe37をメチオニン

(Met)に置換した変異種 Phe37Metにおいても,原子間

距離は 1A以上と大きく変化し Ile9は野生種のままなのに

PPの生成が認められなかった。このことは水素結合の強

さが大きく影響 してい ることを示唆 している。Phe120,

Phe121を共に Leuに置換しでも原子間距離に変化は出ず

PPの生成量だけが70%に減少したのは残基の置換による

ものと考えられる。

6. GSTの機能とリガンドを保持する残基

(1) GSTの機能

最も大きな役割は薬物代謝酵素としての GSH抱合反応

である 。 薬物は一般に第 I キI~I反応により水酸基,カルボキ

シル基,アミノ基,チオール基などの官能基をもっ極性化

合物に変化し体外に排他される。これらは同時に第E相反

応により GSHやグルクロン酸などの極性ある生体分子に

抱合され一層体外へ担l・il止され易くなる。抱合体は通例解毒

代謝物であるが~I" には0'性代謝物で、あることもある 。 本酵

素は電子吸引性基をもっ薬物を補酵素 GSHと反応させ

GSH 抱合体を形成する。一般に抱合反応は極性基をもっ

薬物や酸化,力"水分解により生成 した極性代謝物が受ける

が,GSTは脂溶性ニトロ化合物 ハロゲン化アルキルや

アリール, α,s-不飽和カルボニル化合物,エポキシドのよ

うな非極性化合物をも直接抱合できる。GSTの多くはこ

のように解毒化を図るが,有機リン殺虫剤プロチオホスや

チアジアゾリジン系のプロ トックス阻害型除草剤は GSTにより活性化が図られる数少ない事例2卜23)である。また,

サリゲニン環状リン酸エステルや殺菌剤 IBP,種々のカル

コンの GSH抱合体は殺虫活性は認められないものの,こ

の反応を進める GSTを逆に阻害創部)する。またこの抱合

反応はロイコトリエ ンC4の生合成29)や植物色素の GSH

抱合体の液泡への輸送30)にも利用されている。GSTは肝

臓では可溶性タンパク質の約 10%を占める。また一部は

2,23 0.44:t0.05

2,42 0.38土0.083.25 ND

3,55 ND

2.25 0.31 :tO.043 2.22 O,32:tO,034

図 10 CDNBとエタクリ ン般の GSH抱合体

更に s-リアーゼにより C-S結合が開裂されs-メチル化物

に変換される。GSH抱合体は動物では大半が腎臓で,植

物では液泡で, グルタミン酸,グリシンのJII質にはずれてメ

ルカプツール酸に代謝され排出される。GSH抱合体は

GSH抱合体トランスポータに認識させる荷札の役割を示

しているのかも知れない。GSTにはこれら抱合反応の他

に,有機過酸化物のGSH依存的な還元による酸化ス トレ

スの防御31) この GST活性によるJJ重筋細胞のアド リアマ

イシンに対する耐性化32) 植物の種々のス トレス応答に関

与する抗酸化ス トレス33) ヘムやビ リルビン,ステロイド

等の疎水性化合物の結合タンパクと しての細胞内貯蔵や輸

送31)に関与といった機能があるが,いずれも生理的意義が

明維ではないものが多くある。

(2) リガンドを保持する必須残基

GSH は GST の N 末端~!Ijドメインの特定の残基に保持さ

れ概ね同じメカニズムで GSアニオンへと活性化が図られ

る。一方,リガン ドは反応に係わる音1I位をチオールアニオ

ンS-に向け,全体構造がうまく結合部位表面に収納され

るよう保持されて抱合化されるが,この時その固有の部分

構造を少なくとも表面のアミノ酸残基に認識されていなけ

ればならない。本節ではこの必須残基が GSTのどこに位

置しリガンドをどのようにタンパク表面に保持しているの

かをi9I(,説する。

(a) 必須残基がC末端側ドメインの 101~120 辺り の残基

i ) μ,π,σクラス GST

ヒトπGSTP1-1のCDNBやエタク リン酸の GSH抱合体

のX線結晶構造 (PDBID : 18GS, llGS)犯 36)を分子モデリ

ングで GSHと比較すると, GSHはLeu52に水素結合して

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254

保持されているのに対して, CDNBあるいはエタクリン

酸の GSH抱合体は図 10に示すようにそれぞれの芳香環を

Tyrl08の芳香環と比較的近接な位置で平行に保って保持

されている一方, GSH部は同H寺に Leu52に水素結合して

いることが見てとれる。このことからヒ トπGSTPl-l下で

CDNBあるいはエタクリン酸を保持する必須残基は

Tyrl08で,静電的相互作用によって両化合物を保持し,

Tyr7で活性化された GSHと置換あるいは付加反応をさ

せ,それぞれの抱合体を形成させていることが鋭い知れる。

ブタ πGSTPl-lの2GSR(PDB ID)37)で、も GSHはLeu50

に保持され Tyr7で活性化される一方,リガンドは Tyrl06

に保持されて抱合体が形成されていることが予il!1Jされる。

μGSTの6GST(PDB ID)でもGSHはLeu59に保持され

Tyr6により活性化されると共に リガンドは Tyr115で保

持されるようである。ヤリイカ σGSTの lGSQ(PDB ID)38)

では Met50が GSHを保持し Tyr7で活性化された GSH

がPhe106で保持されたリガンドを取り込み抱合化してい

ることが分かる。造血部型プロスタグランジン D合成田孝

素 (PDBID : 3EE2)39)もσGSTの一つであり,同様の保

持を分子モデリングから見ることができる。このように μ

π, σ クラスの GST では C 末端側ドメインの残基 101~ 120

辺りの芳香族アミノ酸残基が必須残基として多く用いられ

ている。

ii) D, d, eクラス GST

GSTは昆虫の殺虫剤抵抗性にこれまで重要な役割を演じ

てきた。近年, GSTの過剰発現により DDTに対する抵抗

性を獲得することがショウジョウパエ,ガンピエハマダラ

カ(Anophelesgambiae),ネッタイシマカ (Aedesegypti)

宮本

に於いて示されている。ガンピエハマダラカの DDT抵抗

性系統では, 8クラス中 5クラスの GSTに過剰発現が見

い出され, eクラスの AgGSTe2は同蚊がもっ dクラスの

AgGSTl-6に比べて約 350倍の活性があり,抵抗性発現を

生む最も重要な GSTであると考えられている。

WANG, Y. et al. (2008)"0)はこの特異な AgGSTe2による

DDTの解毒活性が高い秘密は N末端側ドメインの H4ヘリックス にある Phel08,Arg112, Glu116, Phe120 lj長i!;.~に

あり , i舌I~:の弱い AgGSTdl-6 (Tyr105, Alal09, Tyr113,

Phe117) と比べた椛造的証拠を X線結晶解析 (PDBID :

21L3, 21M1, 21MK, lPN9)から提起している。両酵素の活

性発現の違いをこれからだ、けで、は満足いく説明はできない

が,δ,eGSTのリガンドを認識する必須残基,特に Arg112,

Glu116に大きな速いがあることは械かである(図 11)。更

にC末端側ドメインの残基領域のフォールデイングが若

干異なっているところに活性の違いを加速する秘密がある

かもしれない。ヒト DGSTもAgdirusのδGST川と 同じ

フォールデイングをもつようである。

また,著者らのイエバエ GST6BのPhel08,Arg113,

Thr116. Phe121の4残基が今述べてきた AgGSTe2の4

残基に一次構造上で相当する。しかし残基1nrJ&良の立体配

座から観察すると, 6Bの Arg113は90度近く遅れて,

Phe120は90度近く早く, 他のPhe108,Thr116, Phe121

に比べ GSアニオンに向く配座をと っていることが窺え

る。CDNB活性に於いて Arg113は必須残基ではなく,

Phel08は必須残基であることが別途部位特異的変異法か

ら実証91>)された。一方,本節(d)項で詳細に述べるが, ヒ

トπGSTの 11GSのIlel07,Tyrl08と同じ役割をも っ残

AgG5Td1・6(lPN9) AgGSTe2(2IMK)

全体構造の比較

Phe108 Tyr105 S-hexyl GSH

Tyr113 lIe55

AgGSTdl-6 AgGSTe2

活性部位の比較

図 11 ガンピエハマダラカ (Anophelesgambiae)のδ.oGSTの比il変

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グルタチオン 5-ll反移酵素の構造と機能 255

基と して,イエバエ 6Bでは Phe120.Phe121が. 6Aで

はLeu120. Phe121が相当し. Tyr108とPhe121の側鎖

芳香環の向きが同 じか異なるかで有機リン殺虫剤プロチオ

ホスの殺虫活性に大きな差異が生まれ,毒性発現に大きな

影響を与えることが分かっている。AgGSTe2では Leu1l9

とPhe120がこれらに相当する残基で.Phe120の芳香環

の配座がイエバエ 6Bと同じであることが三次構造から分

かった。同じクラスであれ異なるクラスであれ,このよう

に側鎖の配座異性は薬物に対する酵素活性,阻害活性に大

きな影響を与えることになる。

(b) 必須残基がC末端1H1Jドメインの末端伸長部残基

多環芳香族炭化水素のベンゾ [a] ピレンは CYP1A1に

より 7.8-エポキシドに酸化され,エポキシド加水分解酵素

によって 7.8-ジオールに加水分解されて,最後に CYP1A1

により活性代謝物7.8-ジオール 9.10-エポキシド(benzo[a]

pyrene 7 (R). 8 (S) -diol 9 (S). 10 (R) -epoxide)に酸化され

発癌性を示す。一方で、この発癌性代謝物は一般に αGSTA1-1

や2-2によってGSHに抱合化されて解毒される。murine(マ

ウス)の αGSTA1-1とαGSTA2-2はこの発癒性代謝物の

GSH抱合に対して高い触媒能力をもっ。両者のアミノ酸

残基は 10残基 しか迷わないが, αGSTA1-1の触媒能力は

αGSTA2-2に比較して 3倍以上高い。Gu.Y. et al. (2000)

は murineのαGSTA1-1の GSI-I複合体と,この発縮性代

謝物のGSH抱合体との複合体 (PDBID : 1F3A. 1F3B)の

結晶構造を解析し42) 又.2003年には murineのαGSTA2・2

におけるこの発痛性代謝物の GSH抱合体 (PDBID :

1ML6)の結晶構造の解析必)を行っている。先ずこれら結

晶梢造はいずれも多くのクラスの GSTと違って結合部位

を構成する残基群が乗る C末端側ドメインの候補残基領

域が GSアニオンから少 し離れており,前述の μや π,

σGSTのようなメカニズムはとることができない。替わっ

てヘ リックス α9に伸長変化が見 られ,ここに必須残基が

立体配座に重要な違いをもって乗り反応に対応 しているこ

とが窺える。図 12に 1F3A(a). 1F3B (b). 1ML6 (c)の

立体配座を示す。

医laのように GSHはVal54に保持されている。発痛性

代謝物の GSH抱合体の芳香環は医Ibでは Arg216のグア

ニジル基と平行に位置し,図 cでは Phe221の芳香環と平

行に位置して,共にその GSH音15はVal54に水素結合して

いる。これらから発癌性代謝物は αGSTA1-1では Arg216

が, αGSTA2-2では Phe221が認識 しGSアニオンに抱合

されるものと考えられる。Phe219は3つの結晶構造共に

同じ立体配座を示すことから認識には係わっていないこと

が想像され,また Arg216は図 a.図cで同じ立体配座を

もち,図 bのみ多環芳香環に作用する様が見て取れる。

GRAI-Jt、1.E. et al. (2006)が発表したヒ トαGSTl-1の結晶柿一造

(PDB ID : 1PKW) 44)を2つの murineの酵素と比較したと

ころ. GSHの活性化については 3酵素とも同じメカニズ

ムであるが, リガン ドの必須残基についてはヒ トαGST1-1

はmurineのαGSTA2-2と同じで, この発:席性代議1物の

GSH抱合を最も効率よく担うのが munneのαGSTA1-1で

あることとよく符合している。

Ar

Phe219

1 F3A (a)

Phe219

1 F3B (b)

発癌性代謝物のGSH抱合体

Phe219

1 ML6 (c)

図 12 ベンゾ [a]ピレンの発縮性代謝物の GSI-I抱合体

(c) 必須残基の立体配座と変異

i ) 抗:府剤のデザイン

PRADE. L. et al. (1997)はヒ トJJEi推から 5種の α,μ,π,σ,

O クラスの GST を 一次構造の相向性と基質特異't~ニ により

分類 し この中で腫蕩細胞が薬剤l耐性を導く GST分子種

を単一に過剰発現させている 1)ことを発見した。これまで

α,μGSTの椛造と変異種に閲する研究は数多くあるが,

πGSTについては多くない。分子種間での三次桃造とその

立体配座の速いを利用した新規抗癌剤の開発の可能性を説

いている。 しかしながらこの後に関連の報告が見当たらな

し、。

ii) Murin巴の αGSTA1-1. 2-2における Arg216.Phe221 の側鎖立体配座<12.'13)

前項 (b)で述べたように.1F3AはαGSTA1-1にGSHが

保持された結晶構造で, 1F3Bはこれに発掘性代謝物が作

用して GSH抱合体を形成した結晶柿i造で、ある。1F3Bの

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256 宮本

Arg216の側鎖グアニジル基は発癌性代謝物の GSH抱合

体の芳香環と平行な配座に変化し, Phe219はその配座に

変化は見 られない。一方,lML6はαGSTA2-2に発掘性代

謝物の GSH抱合体が形成された時の結晶構造で¥その芳

香環は Phe221の芳香環と平行な配座をとっている。この

時, Arg216の側鎖は 1F3Aの抱合反応前の Arg216の配

座と同じである。これらのことから,発痛性代議I物を保持

する必須残基は,αGSTA1-1では Arg216で, αGSTA2・2

では Phe221であって Arg216ではないこと, Phe219は両

酵素で、抱合反応に係わっていないことが窺えた。これらは

発癌性代議l物を抱合できる 2つの分子種が遺伝子発現の過

程で異なって作られてくる事例であるが,この両者の代謝

活性にもっと大きな差がある分子種を作製できれば,抗癌

剤の新規開発の新たな指標となるであろう 。

系イエバエ GST6Bあるいは 6Aとヒ トπGSTllGSの活性

部位の立体配座を比較したものである。図aはR系 6Bの

Phe120, Phe121とヒト llGSの Ile107,Tyr108のペプチ

ド結合 5原子同士を重ね合わせた もの,図 bはR系 6A

の Leu120,Phe121とヒト llGSの Ile107,Tyr 108のペ

iii) 殺虫剤 DDTに対する抵抗性昆虫における薬物代

謝酵素の過剰発現

この場合は前項 (b)と違って, DDTの解毒活性の高い

AgGSTe2に対して既存の DDT類縁体を中心に殺虫試験

をし解毒が抑えられる薬剤のスク リーニングを agGSTl-6

と比較しながら行うことが先ず考えられる。

(d) プロチオホスオキソン s-オキシドの GSTによる活

性化と選択毒性21.22,'15)

(a)

(b)

プロチオホスは汎用の有機リン剤に対して抵抗性を示す

リン剤抵抗性筈虫にも殺虫活性がほとんど低下しない有機

リン剤である。これは図 13に記したように,既知活性体の

ふオキシ ドのみならずこれが更に脱エチル化されたもう 一

つの活性体の脱エチルs-オキシドが AChEを不可逆的に

強く阻害するからである。ここに新奇な GST6Bによ る抱

合反応が係わってくる。プロチオホスオキソンは GST6A.

6Bによ って脱エチル化され解毒化されるが,s-オキシ ドを

脱エチル化し活性化できるのは GSTBのみである。6Aと

6Bの構造のどこが異なるから GST6Bだけがふオキ シド

の GSH抱合を進め脱エチル化できるのか。答は図 14に示

すように 6B,6A両分子種の Phe121の側鎖ベン ジル基の

芳香環の向きの違い,立体配座の違いであった。図 14はR

図 14 R系イエバエ GST6Bあるいは 6Aとヒ トπGSTlIGSの活性音11位での立体配座の比較

Pl'S,.../,シO

EtOハo-{万 CJ

cr -hcl| AChEOH AChE-O、_90

ーーー.. EtOハ'0-(,ー~)-ClCl

プロチオホスオキソン

グルタチオン IGST6A(R系>S系)抱合 I GST6B(S系>R系)

Pl'S・ノOp: -

HO〆、0-亡}-Cl

cr 脱ヱチル

プロチオホスオキソン(解毒物)

$-オキシド(活性体)

グルタチオン I GST6B 抱合 I{R系>S系)

リン酸化AChE

ドヤドChEOH 〆問、y Cl

HO '0-¥, /)-Cl

脱アルキルリン酸化AChE

脱エチルS・オキシド(活性体)

図 13 リン斉IJ抵抗性見虫に卓効なプロチオホスオキソンに隠された秘密

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抵抗性が発現するからである。作用点の異なる新剤の開発

も遅かれ早かれ抗する抵抗性個体群が生まれてくることは

避けられず,正に「薬剤開発と抵抗性発現はイタチご、っこj

である。

それではこの「抵抗性発現を抑制するJことは可能であ

ろうか?作用点の異なる薬剤の併用が昔から説かれてき

た。これは前述の「劣性個体の優性化」を遅らせる漠然た

るま[1恵であったろう 。本提言45)は,ここから歩を更に一歩

進めた確たる知見による知恵を忍ばせたものである。即ち,

抵抗性発現の理由の一つである GST活性の高い抵抗性個

体の優性化を逆手に,そこに生まれる解毒化とは逆の活性

化に働く分子種を見つけ防除の要と して応用 していこうと

いうものである。ここで本提言をシミュレー トした生物制

御化学研究室で 2年間に渡り行ったダイアジノンとプロチ

オホスを使い分けての淘汰イエバエを用いたダイアジノン

とプロチオホスによる殺虫試験の結果を表4に紹介する。

ダイアジノンを連続して投与し淘汰してきた リン剤抵抗性

イエバエ (GST6A, 6Bが多い個体,表4右側)はダイア

ジノンが効かなくなって増える中,ダイアジノンに代わり

プロチオホスを投与し始めると(表4左側)GST6Bによ

る活性化のためその殺虫力が暫時働いて, リン斉IJ (ダイア

ジノン)抵抗性イエバエが逆に減少することに成功,ダイ

アジノンに本来感受性の個体が再優性化して個体数が復活

してきたのである。即ち,プロチオホスによる淘汰イエバ

エに対して改めてダイアジノンを主薬剤lとして防除に当た

ることができて,ダイアジノンは従来通りの殺虫活性を

もった有意な農薬として利用できるという訳である。この

観点から言えば,プロチオホスは汎用の有機リン剤をエコ

農薬化し 自身もエコ農薬と して担い得るのである。無論

これは室内実験で圃場にて直ぐに実用化できるものではな

いが,我々に大きな防|除示唆を与えるものである。

257

プチ ド結合 51原子同士を重ね合わせたものである。

更なる疑問はヒ トをはじめ温血動物にも昆虫と同じ毒性

が発現しないのかということである。プロチオホスのラッ

トやマウスに対する急性毒性はそれぞれ LD50値で 925

mg/kg, 940 mg/kgで,毒性の区分は普通物である。この

答えも図 14にあった。ヒト7rGST(PDB ID : llGS)を解析

すると, イエバエ 6B(又は 6A)のPhe120(又は Leu120),

Phe121に相当する残基は Ile107,Tyrl08で, Tyr108の

側鎖の 4-0H-ベンジル基の芳香環の向きがイエバエ 6Aの

芳香環の向きと同じであった。E!jJち, 6Aはs-オキシドを

脱エチル化できなかったことからヒ トの場合もこの脱エチ

ル化反応は進まず AChEを不可逆的に阻害することがな

いから毒性の発現がないことが予測できる。このように,

アミノ酸残基は同じであっても,その側鎖の芳香環の向き

が同じあるいは異なるといった立体配座の違いが, リン剤

抵抗性の虫にも高い殺虫活性を示 し, ヒトとの間に大きな

選択毒性を生んで、いるのである。

グルタチオン S

薬剤開発と抵抗性発現のイ タチこcっこ

農薬は有効性と安全性の両国をバランス良く満足させた

選択毒性の高い 「薬」という化学物質と して開発され質的

向上が図られてきた。即ち,農薬の分子構造に, ヒトや有

用生物とターゲッ ト間の種差に起因する受容体や薬物代謝

酵素の構造上のわずかな違いを認識する秘密を隠しもたせ

て来たのである。 しかし 薬剤lに対する抵抗性昆虫の発現

には我々は今も飽くなき闘いを演じている。なぜなら,昆

虫の殺虫剤への抵抗性発現は「劣性個体の優性化が主たる

原因」であって,薬剤l開発がその時々の優性種をターゲツ

トとしている限り,優性種と若干異なる作用点や薬物代詩j

酵素をもっ劣性種の個体には薬剤の殺虫効果が乏しく ,そ

のH寺々の優性種に代わって新たに劣性極の優性化が進んで

7.

「薬斉l附Haと抵抗性発事1のイタチこやっこ」 はWf消できるか?表 4

LD50(μg/f1y)

プロチチオホスによる淘汰イムハエ

プロチオホスオキソン

プロチオホスオキソン

イエバエ世代

0.49

0.51 0.48

0.43 0.41

0.35

0.35 0.32

0.31 0.33 0.26 0.27

0目280.27

0.29

0.31

0.27

ダイアジノン

dd

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リ抵hh

円HV殺虫力大

nHHHV殺虫力小

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0.43

0.45 0.48

0.51

0.53 0.49

0.58

0.62

0.63 0.69 0.75 0.67 0目61

0.68 0.61

0.71

0.68

ダイアジノン

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aqaa守

aaTEU

試験日

2005/12/17

2006/02/01 2006/03/15

2006/04/27 2006/06/06

2006/07/18

2006/09/01 2006/10/14 2006/12/09

2007/1/21 2007/3/3 2007/4/15

2007/5/31

2007/7/15

2007/9/1 2007/10/13

2007/12/25

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258

8. おわ り に

GSTの機能は. GSHの活性化と GSアニオンのリガン

ドとの抱合反応を基軸に考えねばならない。先ず前者につ

いて,活性化を直接担える残基と他の力を借りて活性化を

図る残基の 2つの原動力がある。後者はもっと複雑で, リ

ガンドを GSアニオンの横で収容できる空間が第ーに必要

で,そして結合させるに必須の物理化学的諸性質をもった

残基がリガンドの構造に併せて結合部位の相当する位置に

あって初めて反応が稼働するのである。このため分子表面

で,且つ GSアニオンといった一点での反応故に,少し異

なる構成残基の結合部位をもっ分子種の数だけ反応の数が

増えることになり,これが GSTが生物界に幅広く分布し

多くの解毒を中心とした役割を担える酵素となり得る所以

である。 P450もNAD(P)H存在下で分子状の酸素を活性

化して,その一原子をリガンドに取り込ませて酸化し, も

うー原子を水に還元する反応を触媒する。このため P450

による酸化をー原子酸素添加反応とか MFO反応と呼ぶ。

P450. GST共に多くの生物に存在し,大きな役割を果た

す分子種が多くあるのはこのためであろう。計算化学の手

法はこの必須残基を探し残基側鎖の立体配座の違い等を有

機化学的に知り,活性発現の有無等を,分子生物学では知

り得ない研究上のもう一方のウイングで解析するのに役立

ち,分子生物学との二人三脚がこの研究領域の発展に大き

く貢献するであろう。尚,本稿の計算化学による研究は

Scigress Explorer (Ver.7.6) (旧BioMedCAChe)(FUJITSU)

の計算化学ソフトを用いて行われた。使用したツールは,

分子モデリング,三次構造とアミノ酸配列の対比,分子構

造の改変,分子の重ね合わせ,分子力学法や半経験的分子

軌道法による計算,その他の BioApplicationである。い

ずれも計算化学を実行する上で不可欠な基本ツールで,

SN2反応やドッキング法といった一つの使用目的をもっ

た応用ツールではない。近年,計算化学はこれらを薬剤開

発や材料科学等の分野でスクリーニング的に活用し発展し

てきたが,本稿のように基本ツールを研究者が自らの知恵、

と融合させれば,計算化学は従来の基礎化学だけでは追求

仕切れない生命のメカニズムのような未知なる難問に個々

に活用出来る手立てとなり得ることを示した。

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グルタチオン S転移酵素の構造と機能 259

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260 宮本

Structure and Function of Glutathione S-transferases Breakaway from the Resistant Expression with Medicine-

By

Toru MIYAMOTO*

(Received December 21 2012/ Accepted J anuary 25, 2013)

Summary : Glutathione S-transferase (GST) is a conjugating enzyme which is widely present in organ

isms along with the cytochrome P450 which is oxidizing enzyme. This is playing an important role in

biosynthesis or drug metabolism and degradation. In alpha, mu, and pi class GSTs, tyrosine draws out

the proton of glutathione (GSH) and forms GSH conjugates. On the other hand, in theta, delta and epsilon

class GSTs in insect, serine draws out the proton from GSH conjointly with carbonyl group of the nearby

peptide bond, and forms GSH conjugates. It seems that GST of plant or E. coli is activating GSH by the

system of the same serine as insect. In this paper, the catalytic mechanism and function of GST are ex-

plained from the viewpoint of conformation of the essential amino acid residue by computational

chemistry, and a foothold for the breakaway from vicious circle of drug development and resistance dis-

covery is proposed.

Key words : glutathione S-transferase, glutathione, tyrosine, serine, conformation

* Professor Emeritus, Tokyo University of Agriculture