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Instructions for use Title 炎症回路とT細胞の活性制御機構に関する研究 Author(s) 勝沼, 功吉 Citation 北海道大学. 博士(医学) 乙第7030号 Issue Date 2017-09-25 DOI 10.14943/doctoral.r7030 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/67447 Type theses (doctoral) Note 配架番号:1693 File Information Kokichi_Katsunuma.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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Instructions for use

Title 炎症回路とT細胞の活性制御機構に関する研究

Author(s) 勝沼, 功吉

Citation 北海道大学. 博士(医学) 乙第7030号

Issue Date 2017-09-25

DOI 10.14943/doctoral.r7030

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/67447

Type theses (doctoral)

Note 配架番号:1693

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Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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学 位 論 文

炎症回路と T細胞の活性制御機構に関する研究

(Studies on regulatory mechanisms of inflammation

amplifier and T cells)

2017年 9月

北海道大学

勝沼 功吉

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学 位 論 文

炎症回路と T細胞の活性制御機構に関する研究

(Studies on regulatory mechanisms of inflammation

amplifier and T cells)

2017年 9月

北海道大学

勝沼 功吉

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目次

I. 発表論文目録及び学会発表目録 .......................................................................... 1

II. 緒言 ....................................................................................................................... 3

III. 略語表 ................................................................................................................... 8

IV. 実験方法 ............................................................................................................. 10

V. 結果 ..................................................................................................................... 17

VI. 考察 ..................................................................................................................... 40

VII. 総括及び結語 ...................................................................................................... 43

VIII. 謝辞 ..................................................................................................................... 45

IX. 引用文献 ............................................................................................................. 46

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I. 発表論文目録及び学会発表目録

本研究の一部は以下の論文に発表した。

1. Daisuke Kamimura*, Kokichi Katsunuma*, Yasunobu Arima, Toru Atsumi,

Jing-jing Jiang, Hidenori Bando, Jie Meng, Lavannya Sabharwal, Andrea

Stofkova, Naoki Nishikawa, Hironao Suzuki, Hideki Ogura, Naoko Ueda, Mineko

Tsuruoka, Masaya Harada, Junya Kobayashi, Takanori Hasegawa, Hisahiro

Yoshida, Haruhiko Koseki, Ikuo Miura, Shigeharu Wakana, Keigo Nishida,

Hidemitsu Kitamura, Toshiyuki Fukada, Toshio Hirano & Masaaki Murakami

(*Equal contribution) KDEL receptor 1 regulates T-cell homeostasis via PP1

that is a key phosphatase for ISR. Nature Communications, 6, 7474 (2015)

2. Daisuke Kamimura, Toru Atsumi, Andrea Stofkova, Naoki Nishikawa, Takuto Ohki,

Hironao Suzuki, Kokichi Katsunuma, Jing-Jing Jiang, Hidenori Bando, Jie Meng,

Lavannya Sabharwal, Hideki Ogura, Toshio Hirano, Yasunobu Arima & Masaaki

Murakami Naïve T cell homeostasis regulated by stress responses and TCR

signaling. Frontiers in Immunology, 6, 638 (2015)

3. Rajeev Singh, Toru Atsumi, Hidenori Bando, Masaya Harada, Akihiro Nakamura,

Moe Yamada, Jing-Jing Jiang, Hironao Suzuki, Kokichi Katsunuma, Takao Nodomi,

Daisuke Kamimura, Hideki Ogura & Masaaki Murakami Reverse direction method:

A possible tool to link animal models with corresponding human diseases and

disorders. Int. J. Genomic Med. 1, 106 (2013)

本研究の一部は以下の学会に発表した。

1. Arisa Moroi, Daisuke Kamimura, Kokichi Katsunuma, Yukihisa Sawa, Toshio

Hirano, and Masaaki Murakami. Regulation of T cell Activation via a Metal

Transporter. The 60th Fujihara Seminar Zinc Signaling and Cellular Functions,

2010年 10月 大阪

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2. Kokichi Katsunuma, Hironao Suzuki, Yuko Okuyama, Hideki Ogura,

Daisuke Kamimura, Toshio Hirano, Masaaki Murakmai. Zinc finger motif

containing protein A, ZFA regulates IL-6 amplifier activation via regulating

NF-kB activity and promotes an autoimmune arthritis. 第 40回日本免疫学会

学術集会, 2011年 11月 千葉

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II. 緒言

免疫は細菌やウイルス等、多くの外敵から生体を守る恒常性維持に欠かすことので

きない非常に重要な生体システムであるが、時にその過剰な活性化はアレルギーや自

己免疫疾患として自身の体まで傷つけてしまう恐れがあるため、免疫の活性化の程度

は高度にかつ繊細に最適化されている必要がある。

Interleukin-6(IL-6)は、IL-1β や tumor necrosis factor alpha(TNF-α)と

並び代表的な炎症性サイトカインとして古くから広く良く知られている。IL-6遺伝子

は 1986年に大阪大学の岸本忠三先生、平野俊夫先生らのグループにより単離、同定さ

れた遺伝子であり、1988 年には関節リウマチ患者の滑液中に IL-6 が豊富に含まれて

いることが判明した 1。その後、中外製薬と大阪大学の共同開発により、ヒト化抗ヒ

トIL-6受容体モノクローナル抗体であるアクテムラが創成された。アクテムラはIL-6

シグナルを抑制することで免疫抑制効果を発揮し、過剰な免疫応答に起因する関節リ

ウマチや全身型若年性特発性関節炎、キャッスルマン病を適応症として臨床現場で広

く利用されている。さらに、アクテムラは全身性強皮症や大動脈炎症候群の適応でも

現在 Phase3の開発段階にあり、炎症性疾患を抱える多くの患者にとって欠かすことの

できない希望の光となっている。以上のことからも、IL-6はヒトの慢性炎症の病態に

深く関わるサイトカインであることは明確であり、抗 IL-6抗体は関節リウマチに対す

る治療効果が古くから認められていたが、一方でその治療効果の詳細なメカニズムに

ついては長い間不明であった。

筆者らの研究グループでは、IL-6シグナルと慢性炎症の関連性を解明するため、こ

れまでに IL-6受容体と直接複合体を形成し細胞内にシグナルを伝える分子 gp130の

759番目のチロシン残基をフェニルアラニン残基に置換したノックインマウスF759マ

ウスを作製している 2。この F759マウスでは、 suppressor of cytokine signaling 3

(SOCS3)によるネガティブフィードバック機構が抑制されることで過剰な炎症が持続

し、生後約 1年程度で関節リウマチ様の関節炎を自然発症した 3。この実験的事実に

より、IL-6及び gp130のシグナル伝達異常が自己免疫疾患を引き起こすことが初めて

証明され、以降、関節炎の発症機構の解明を目的に F759マウスを用いた解析を進めて

きた。その結果、F759マウスでは活性化 CD4陽性 T細胞が週齢と共に増加することや

major histocompatibility complex(MHC)クラス IIまたは cluster of

differentiation 4(CD4)の各ノックアウトマウスと交配し得られた個体では関節リ

ウマチ様の関節炎の発症が抑制されることが明らかとなり、F759マウスの関節炎発症

に CD4陽性 T細胞が深く関与していることが示唆された。さらに、F759変異を持つ線

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維芽細胞等のI型コラーゲン陽性細胞に対してIL-6が作用することで過剰に産生され

る IL-7は、T helper 17(Th17)細胞等の CD4陽性 T細胞を増加させ、産生される IL-17

が再び IL-6と協調的に I型コラーゲン陽性細胞に作用することで、さらに多様な炎症

性サイトカインやケモカインが大量に産生し、関節炎等の自己免疫疾患の発症につな

がることが明らかになった 4。このような免疫系細胞と非免疫系細胞の協調的な作用

による炎症性サイトカイン産生の正のフィードバック機構を、筆者らの研究室では「炎

症回路」と呼び、研究を進めている 4。

近年、炎症回路関連遺伝子のスクリーニングを目的に、マウス全ゲノムを対象にし

たおよそ 65000種類の short hairpin RNA(shRNA)ベクターをマウス線維芽細胞に導

入することで遺伝子ノックダウン細胞を作製し、炎症回路に対する影響を検討した結

果、1289遺伝子が炎症回路の正の制御遺伝子であることが示された 5。さらに、炎症

回路が活性した際の非免疫系細胞の応答を検討するため、マウス及びヒトの線維芽細

胞を IL-6及び IL-17刺激後の遺伝子変動をマイクロアレイにて解析した結果、マウス

において 576遺伝子、ヒトにおいて 885遺伝子が炎症回路の標的遺伝子である可能性

が示唆された。

一般に、ゲノムワイド関連解析 genome wide association study(GWAS)にはヒト

ゲノム全体を網羅する 50万個以上の一塩基多型 single nucleotide polymorphisms

(SNPs)のデータが集積されており、疾患や形質情報と SNPsの頻度の関連性を示すこ

とで、疾患の原因遺伝子の推定に利用されている。我々は実験で得られた遺伝子群の

発現変動と GWASデータを比較することで、その遺伝子群に変化が生じた場合にヒトで

起こりうる疾患を予測する方法を見出した。通常とは逆方向の GWASデータの利用方法

であることからリバースディレクション方法と呼ぶこの手法を用い、マウス及びヒト

の炎症回路関連遺伝子と GWASデータを比較することで、炎症回路の関連遺伝子の機能

的な変化が、ヒトにおいて自己免疫疾患だけでなくメタボリック症候群や神経変性疾

患、がん等のヒトの多くの疾患に結び付く可能性を示唆し報告した(副論文)6。

実際に我々が同定した炎症回路関連遺伝子群のうち、先行して詳細な解析を進めた

epiregulin-erbB1経路では、同経路がヒトにおいても炎症回路の活性化に重要である

ことを証明しており、また、関節リウマチ、多発性硬化症等の患者では epiregulin

の血中濃度が高いことも明らかになっている 6、7、8、9。他にも、肺の同種移植時の移植

片における炎症回路の活性化が拒絶反応に関連することや関節リウマチや多発性硬化

症等の複数の自己免疫疾患でepiregulinやamhiregulin、transforming growth factor

alpha(TGF-α)等複数の成長因子の一過性の発現上昇が疾患発症に深く関与すること

を明らかにし、一部の成長因子に対する阻害剤を免疫疾患治療薬へと応用できる可能

性を示している 9。最近では、alpha subunit of casein kinase II(CK2α)が慢性

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骨髄性白血病の原因としても知られる breakpoint cluster region(BCR)に結合して

BCRの活性を制御していることを見出し、BCR-CK2α複合体が炎症関連疾患の新たな治

療標的分子となる可能性があることを報告している 10。

また、当研究室では炎症回路に関わる研究のみならず、必須微量元素である亜鉛と

炎症・自己免疫疾患の関連性を検討する研究も進めてきた 11。亜鉛は転写因子や各種

のシグナル伝達分子等多くのタンパク質の構造維持に必要とされ、生体内で亜鉛が必

要な酵素は約 300種類以上存在することが知られている。細胞内亜鉛濃度は主に Zip

(Zrt, Irt-like protein)ファミリーや ZnT(Zn transporter)ファミリー等の亜鉛

トランスポーターやメタロチオネイン等の分子により制御を受け、恒常性が維持され

ている。これまでに、獲得免疫における代表的な抗原提示細胞である樹状細胞におい

て細胞膜上に発現する Zip6が細胞の成熟、活性化の制御に関与していることや、アレ

ルギー応答のエフェクター細胞であるマスト細胞においてゴルジ体/小胞体に発現す

る ZnT5が遅延型アレルギー応答と protein kinase C(PKC)/nuclear factor-kappa B

(NF-κB)シグナルに必須であることを証明してきた 12、13。前述のマウスの全ゲノム

を対象としたスクリーニングからも、分子内に Znフィンガードメインを含む複数の遺

伝子が炎症回路に関わることが示唆されており、そのうちいくつかの遺伝子に対して

は追加解析を実施中である。それらの遺伝子の発現を抑制した場合、細胞レベルでは

炎症回路の活性化時に産生される各種炎症性サイトカインの発現低下が認められ、さ

らに関節炎モデルマウスでも関節炎の病態スコアが低下することが明らかとなってい

る。これらの結果は、各種免疫関連細胞の活性化や恒常性維持に亜鉛が関連する可能

性を示唆するものと考えており、既に一部の結果は学会報告しているが、現在追加デ

ータも含め論文投稿の準備を進めている。

以上のように、筆者の所属する研究室では、炎症応答に対する活性化制御について

様々な角度から研究を進めてきた。生体内には多様な免疫担当細胞が存在するが、中

でも重要な役割を担う T細胞の細胞数や活性レベルの適切な制御は、免疫系の恒常性

維持に欠かすことはできない。ナイーブ T 細胞の生存を正に制御するには、T cell

receptor(TCR)-pMHC の相互作用や IL-7 等のサイトカインが必要であることが知ら

れているが 14、一方で、ナイーブ T 細胞の生存に対して負の作用をもたらすシグナル

についてはほとんど知られておらず、T 細胞の恒常性維持の機構に関しては更なる研

究が必要と考えられた。さらに、CD4ノックアウトマウスや MHCクラス IIノックアウ

トマウスを用いた試験の結果から、炎症回路の活性化には T細胞が必要なことが示唆

されていた。

そこで今回、我々は、炎症回路を活性化する生体内の制御機構の中で特に T細胞の

生存と細胞死の調整メカニズムの解明を目的とし、探索的な実験的アプローチ方法と

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して変異誘導化合物 N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)によるランダムな遺伝子変異

を導入したマウスを用いフェノタイプスクリーニングを実施した。その結果、変異導

入マウスの中にナイーブ T細胞の数が正常マウスよりも大幅に少ないマウスを見出す

ことに成功し、その系統のマウスをnaïve T cell reduced(T-Red)マウスと名付け

た。その後の解析により、T-Redマウスでは KDEL endoplasmic reticulum protein

retention receptor 1(Kdelr1)に変異が生じていることが判明した。

KDELR1は、cis-ゴルジ体から endoplasmic reticulum(ER)へとタンパク質を逆行

輸送する責任遺伝子として同定されており 15、16、C末端側に KDEL様モチーフを持つタ

ンパク質や同様のモチーフを持つ ER局在型のタンパク質と複合体を形成するタンパ

ク質が逆行輸送することが知られていた 17、18。また、KDELRは ERストレス応答に関与

し、細胞内シグナルカスケードに重要な Srcキナーゼの活性を制御しているとの報告

があった 19、20。酵母から高度に保存されている一般的なストレス応答として、

Integrated stress responses(ISR)が知られている。ISRは ERストレスやアミノ酸

欠乏、二本鎖 RNAウイルスの感染、酸化ストレス等の様々なタイプのストレスにより

惹起され、細胞内では活性化した eukaryotic translation initiation factor 2A

kinase 1(eIF2α kinase1)(HRI)や eIF2αkinase 2(PKR)、eIF2αkinase 3(PERK)、

eIF2αkinase 4(GCN2)により、転写開始因子eIF2αの 51番目のセリン残基がリン

酸化される 21、22、23。eIF2αのリン酸化レベルの亢進は、細胞の全般的な翻訳活性を低

下させるとともに、アポトーシス誘導遺伝子 Bcl-2 interacting mediator of cell

death(Bim)、C/EBP-homologous protein(CHOP)、tribbles pseudokinase 3(Trib3)

等の発現を誘導することで、生体の恒常性維持に機能する 24。実際に、eIF2αのリン

酸化の持続がアポトーシスを誘導するとの報告もある 25、26。一方で、protein

phosphatase 1(PP1)は growth arrest and DNA damage-inducible protein 34(GADD34)

及び constitutive repressor of eIF2α phosphorylation(CreP)と共に作用するこ

とで、リン酸化 eIF2αを脱リン酸化することが知られている 27。また、ISRの異常が、

糖尿病やアルツハイマー病、ウイルス感染等の複数の疾患と関連しているとの報告も

ある 28、29、30。さらに、これまでに ISRが T細胞の分化や活性化状態に影響する可能性

が一部で示唆されていたものの 31、32、ISRが定常状態のナイーブ T細胞の恒常性維持

に関与するかどうかは不明であった。通常、1日あたり数百万個のナイーブ T細胞が

胸腺から発生するが、末梢における T細胞の数はほぼ一定に保たれており、その恒常

性は非常に高い精度で維持されている。また、ナイーブ T細胞は末梢で約 50日以上の

半減期を持つが、記憶 T細胞はより長期間にわたり末梢血中に存在するとされている33、34。これまでに、ナイーブ T細胞は TCR-pMHCの相互作用や IL-7のようなサイトカ

インにより生存が正に制御され、記憶 T細胞では IL-7と共に IL-2、IL-15等のサイト

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カインが作用することにより生存が維持されると考えられている 14。また、加齢、感

染、放射線等により胸腺に異常が生じることで末梢の T細胞の数が減少すると、代償

的な応答として TCRシグナルやサイトカイン産生が亢進し、末梢での T細胞の分裂が

促進される 35、36。一方で、末梢の T細胞のアポトーシスは主に Bimによって制御され

ることや 14、37、38、39、Bimの発現量が主に転写レベルでコントロールされていること、

ストレス状況下で転写因子 Chopにより誘導されることは知られているものの 40、T細

胞の細胞数を負に制御するようなシグナルに関しての詳細な報告はほとんどなかった。

今回、我々は T-Redマウスの解析を通じ、KDELR1と PP1が直接相互作用し ISR応答

による過剰な eIF2αのリン酸化を抑制することで、ナイーブ T細胞の細胞死を制御し

ていることを見出し、KDELR1が免疫細胞のホメオスタシス維持に深く関与していると

いうことを初めて報告した。さらに、今回の KDELR1の新たな機能に対する知見を通じ、

ナイーブ T細胞では細胞の生存に対し負に働きかけるストレスが恒常的に発生してい

ることを明らかにした。また、T-Red マウスでは T 細胞が関与する全身性の免疫応答

が低下していることも判明した。

本研究により、ナイーブ T細胞の生存を制御することでヒトの自己免疫疾患等の疾

患をコントロールできる可能性が示唆され、新たな薬理作用を持つ医薬品開発への道

を拓くことができたと考えている。

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III. 略語表

7-AAD:7-Amino-Actinomycin D

ASN:asparagine synthetase

APC:allophycocyanin

BCG-CWS:bacillus Calmette-Guérin cell wall skeleton

BCR:breakpoint cluster region

Bim:Bcl-2 interacting mediator of cell death

CD:cluster of differentiation

CFA:complete Freund's adjuvant

CFU:colony forming unit

CHOP:C/EBP-homologous protein

CreP:constitutive repressor of eIF2α phosphorylation

DP:double positive

eIF2α:eukaryotic translation initiation factor 2A

ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay

ENU:N-ethyl-N-nitrosourea

ER:endoplasmic reticulum

FACS:fluorescence-activated cell sorter

FITC:fluorescein isothiocyanate

GADD34:growth arrest and DNA damage-inducible protein 34

GCN2(EIF2AK4):general control nonderepressible 2(elF2α kinase 4)

HPRT:hypoxanthine phosphoribosyltransferase

HRI(EIF2AK1):heme-regulated eIF2α kinase(elF2α kinase 1)

HRP:porseradish peroxidase

GWAS:genome wide association study

IFN-γ:interferon-gamma

IL:interleukin

ISP:immaturer single positive

ISR:integrated stress responses

KDEL:Lys-Asp-Glu-Leu

KDELR1:KDEL endoplasmic reticulum protein retention receptor 1

LM:Listeria monocytogenes

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MHC:major histocompatibility complex

NF-κB:nuclear factor-kappa B

OVA:ovalumin

PE:phycoerythrin

PERK(EIF2AK3):PRKR-Like endoplasmic reticulum kinase(elF2α kinase 3)

PKC:protein kinase C

PKR(EIF2AK2):double-stranded RNA-dependent protein kinase R(elF2α kinase 2)

PLA:proximity ligation assay

PP1:protein phosphatase 1

SDS-PAGE:sodium dodecyl sulfate–polyacrylamide gel electrophoresis

shRNA:short hairpin RNA

SNPs:single nucleotide polymorphisms

SOCS:suppressor of cytokine signaling

SPF:specific pathogen-free

TCR:T cell receptor

TGF:transforming growth factor

Th:T helper

TNF:tumor necrosis factor

T-Red:naïve T cell reduced

Trib3:tribbles pseudokinase 3

VEGFA:vascular endothelial growth factor A

Zip:Zrt, Irt-like protein

ZnT:Zn transporter

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IV. 実験方法

1. リバースディレクション法

筆者の所属する研究室では、マウス全ゲノム(約 16000遺伝子)に対する約

65000種のshRNAレンチウイルスライブラリーを用いて遺伝子発現を定常的に抑

制したマウス線維芽細胞を作製し、各細胞の機能を評価することで 1289遺伝子

を炎症回路の正の制御因子として同定した 6。さらに、マウス及びヒトの線維芽

細胞を IL-6及び IL-17にて刺激をし、遺伝子の発現変動を DNAマイクロアレイ

で解析した結果、マウスでは576遺伝子、ヒトでは885遺伝子を炎症性回路の標

的遺伝として同定した。以上のように、実験結果で得られた炎症回路関連遺伝子

群と GWASデータを利用しヒトの疾患に関連すると推測される遺伝子群を比較す

ることで、炎症回路に関連する遺伝子群が自己免疫疾患以外のヒトの疾患に関

連するかを評価した。

2. 動物

C57BL/6及び C3H/Heマウスはチャールズリバージャパン及び日本エスエルシ

ーより購入した。すべてのマウスは北海道大学遺伝子病制御研究所、大阪大学

医学部及び独立行政法人理化学研究所免疫・アレルギー総合研究センターの手

順に従って、SPF下で飼育した。また、マウスは雌雄ともに使用し、使用した

マウスの週齢は各実験にて説明した。除外基準は設定せず、ランダム化、盲検

化も実施しなかった。マウスの入手数に制限があった場合を除き、3匹以上の

マウスを使用して試験を実施した。すべての実験動物は大阪大学大学院医学系

研究科及び生命機能研究科、北海道大学大学院医学研究科遺伝子病制御研究所

及び理化学研究所 RCAIの各動物実験委員会のガイドラインに則り行った。

3. 抗体、試薬

FACS染色に用いた以下の抗体は200倍希釈で使用した。ただし、抗CD90抗体

は 2000倍希釈で使用した。eFlour450標識抗体(抗 CD4(RM4-5)抗体、抗 CD8

(53-6.7)抗体、抗 B220(RA3-6B)抗体(eBioscience社、California))、FITC

標識抗体(抗 CD44抗体(IM7)(eBioscience社)、抗 IgD抗体(11-26c.2a)

(BD Biosciences社、California))、PE標識抗体(抗 CD25抗体(PC61)、 抗

CD45.2抗体(104)、抗 IL-17A抗体(eBio17B7)(eBioscience社)、抗 IgM

抗体(R6-60.2)、抗 IgG1抗体(A85-1)(BD Biosciences社))、PE-Cy7標識

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抗体(抗 CD3抗体(145-2C11)(BioLegend社)、抗 CD8抗体、抗 CD44抗体

(eBioscience社))、APC標識抗体(抗 CD4抗体、抗 CD45.1抗体(A20)、抗

CD90.1抗体(HIS51)、抗 CD90.2抗体(53-2.1)、抗 IFN-γ抗体(XMG1.2)

(eBioscience社))、抗 Bim抗体(Cell Signaling社、Tokyo)、Alexa488標

識抗 rabbit IgG抗体(Invitrogen社、Tokyo)。ウエスタンブロッティングに

用いた以下の抗体は 100倍希釈で使用した。抗 Bim抗体 及び抗 phospho S51

eIF2a抗体(Cell Signaling社)、抗 FLAG M2 affinity gel、3xFLAG peptide

(Sigma社、Tokyo)、抗 eIF2a抗体、抗 Actin抗体、抗 PP1抗体及び HRP標識

抗 cMyc抗体(Santa Cruz社、Texas)。

4. フローサイトメトリー分析及びセルソーティング

1×106個以下の細胞に対し、非標識の抗 CD16/32 (2.4G2) 抗体存在下で、

各種蛍光標識抗体を 30分間氷上で反応し、細胞表面抗原を染色した。また、細

胞内の抗原の染色時には Cytofix/Cytoperm kit (BD Biosciences社)を用い、

リン酸化 eIF2αの染色には Foxp3 Fixation/Permeabilization kit(eBioscience

社)を用いた。染色した細胞は CyAn flow cytometer(Beckman Coulter社)を

利用して解析し、得られたデータは解析ソフトウエア FlowJo(Tree Star社,

Oregon)を分析した。ナイーブ及び記憶 T細胞を精製するために、脾臓細胞及び

リンパ節の細胞を CD44の発現レベルを基準に、Moflo cell sorter(Beckman

Coulter社)を用いて分取した。 CD4陽性 CD8陽性 CD25陰性胸腺細胞を DP胸腺

細胞とした。精製した細胞の純度は、常に 98%よりも高かった。 抗体の希釈

倍率は、細胞内染色時は100倍希釈、セルソーティング時は200倍希釈とした。

5. ENU変異マウスの確立と T-Redマウスの責任遺伝子の特定

雄性の野生型 B6マウスに ENU(Sigma社)を 1週間間隔で 2回、腹腔内投与し

た。10から 11週間後、雌性の野生型 B6マウスと交配し、第 1世代(G1)を得

た。第 2世代(G2)は雄性の G1の精子と雌性の野生型 B6マウスの卵子を人工授

精し得た。第 3世代(G3)は G1の精子と G2の卵子を人工授精し得た。G1マウ

ス 1系統につき約 30匹の G3マウスを得、計 309匹の G3マウスの末梢血を FACS

解析した。T-Redマウスは得られたG3マウスを野生型B6マウスと戻し交雑をし

て作製した。連鎖解析のため、T-Redマウスと C3H/HeJマウスを交雑し、得られ

たF1マウス同士を内交配した。得られたF2マウスの末梢血中CD8陽性T細胞の

CD44発現レベルを FACS解析にて評価し、CD44を高発現する細胞の割合が高い

F2マウスの尻尾からゲノム DNAを抽出した。連鎖解析及び遺伝子読解により、

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T-Redマウスの表現型の責任遺伝子を同定した。

6. レトロウイルスを用いた Kdelr1遺伝子の導入

骨髄細胞を採取の3から5日前に、B6またはT-Redマウスに対し150 mg/kg 5-

フルオロウラシル(Sigma社)を腹腔内投与した。 採取した骨髄細胞は100 ng/ml

IL-6、100 ng/ml stem cell factor及び 1% IL-3存在下で 2日間培地した。

Phoenix細胞に対し、空ベクターまたは pMSCV-IRES-GFP KDELR1をトランスフェ

クションし、2日後に産生されたウイルス含有培地を回収した。骨髄細胞への

ウイルスの感染は、4mg/ml polybrene(Sigma社)存在下で 2回実施した。9.5 Gy

の放射線照射後の B6または T-Redマウスに形質導入した骨髄細胞を移植し、8

から 12週間後に解析に用いた。

7. Kdelr1遺伝子欠損マウスの確立

KDELR1コンディショナルノックアウトマウスは、、ES細胞を用いた相同組換

えにより作製した。ターゲティングベクターは pEZ-FRT-Lox-DT ベクターを用い、

Kdelr1遺伝子の2番目と3番目のエクソンをloxPサイトで挟み込むようにデザ

インし構築した。 FRTサイトに挟まれたネオマイシン耐性遺伝子は、フリッパ

ーゼトランスジェニックマウスと交配することで除去した。Kdelr1 flox/floxマウ

スは CAG-cre Tgマウスまたは CD4-cre Tgマウスと交配することで臓器特異的な

Kdelr1ノックアウトマウスを得た。

8. in vivo実験

コラーゲン誘発性関節炎の試験は、Mycobacterium bovis由来の BCG-CWSと

CFAのエマルジョンを用いて誘導した。初日と 21日目にマウス尾根部に鶏由来

II型コラーゲン(Sigma Aldrich社)を 0日目及び 21日目にマウスの尾基部に

200μg/bodyでCFA/BCG-CWSと共に投与した。血清中のIL-17濃度はIL-17 ELISA

キット(eBioscience社)を用いて測定した。また、抗 OVA(ovalumin)応答の

試験では0日目と5日目にマウスの腹腔内に水酸化アルミニウムとOVAの混合物

を投与して応答を惹起した。血清中の抗OVA IgG1抗体及びIgM抗体の濃度はOVA

コートしたマイクロタイタープレートとアルカリフォスファターゼ標識抗マウ

ス IgG1及び IgM抗体(Jackson Immunoresearch, Pennsylvenia)を使用した。

雄性特異的抗原に対するT細胞応答の試験では、雄性のB6マウス(CD45.2陽性)

から回収した 2×107個の脾臓細胞をコンジェニック系統の雌性の B6マウス

(CD45.1陽性)に投与して応答を惹起し、その後の末梢血中の CD45.2細胞の生

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存比率を評価した。感染実験では 1日目に OVAを発現するリステリア菌

Listeria monocytogenes(LM-OVA)3000 CFUをマウスの尾静脈内から投与した。

いくつかの試験では、感染実験の1日前に 1万から2万個の野生型またはT-Red

マウスのOT-I細胞を移入し、7日目のOT-I細胞の比率をフローサイトメトリー

解析した。抗原特異的に IFN-γを産生する CD8陽性 T細胞を解析した試験では

脾臓細胞に対し in vitroで OVAペプチド(N4、SIINFEKL)刺激し、4時間後の

細胞内 IFN-γを染色することで評価した。骨髄細胞混合キメラマウスは、野生

型マウス(CD45.2/CD90.1)、T-Redマウス(CD45.1/CD45.2/CD90.2)、OT-Iマ

ウス(CD45.2/CD90.1/CD90.2)及び T-Red/ OT-Iマウス(CD45.2/CD90.2)から

回収した骨髄細胞を T細胞を除去して 4:4:1:1で混合し、10Gyの放射線照射し

た野生型のコンジェニックマウス(CD45.1/CD90.2)に移植することで作製した。

ナイーブ T細胞の in vivoでの生存評価試験では、野生型マウスと Kdelr1 flox/flox;ERT2-creマウスから回収したそれぞれ同数のナイーブ CD4陽性 T細胞ま

たはナイーブCD8 T細胞をコンジェニック系統のマウスに1日目に移植し、1、3、

8日目にタモキシフェン 1.5mg/bodyを経口投与し評価した。血中のドナー細胞

の生存試験は移植後 1、14、21日目に評価を行い、脾臓中のドナー細胞の総細

胞数の評価は 21日目に実施した。

9. ピューロマイシンを用いた代謝標識

非放射性ラベル法でタンパク質合成を評価した。20mg/kgピューロマイシン

をマウス腹腔内に投与後 1時間で、脾臓細胞と胸腺細胞を回収し、ナイーブ T

細胞と DP胸腺細胞を分離回収した。それらの細胞溶解液を用いて総タンパク質

を SDS-PAGEにて分離後にメンブレンに転写し、Ponceau-S染色を実施後、8000

倍希釈した抗ピューロマイシン抗体(4G11)(Millipore社、MA)を用いたウエ

スタンブロッティングにて評価した。定量分析には画像分析ソフトウエア

ImageJ(National Institutes of Health、Maryland)を使用した。

10. in vitro における T細胞培養

分離回収したナイーブ T細胞または記憶 T細胞(1×10 5細胞)は 2.5 ng/mL

のリコンビナントマウス IL-7(Peprotech社、New Jersey)の存在下または非存

在下で、96ウェルプレート中で培養した。細胞は 7-AAD(eBioscience社)で染

色後に、CyAn flow cytometerで分析し、生細胞集団を 7-AAD陰性として検出し

た。いくつかの実験では、ナイーブ T細胞または DP胸腺細胞に対し、0.5 Gyで

放射線照射や 1μg/mLエトポシド(Sigma社)存在下で培養した。eIF2αの試験

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系では、都度 T細胞を分離するか、内因性のeIF2αリン酸化レベルを減少させ

るため37℃で1から2時間前培養した後に RIPA緩衝液で溶解し、全細胞溶解物

をウエスタンブロッティングに用いた。いくつかの実験では、プレインキュベ

ーション後に、PP1/GADD34特異的阻害剤サルブリナル(Santa Cruz社)を終濃

度10μMとなるように添加した。Th1、Th17の細胞分化の試験では、分離回収し

たナイーブ CD4陽性 T細胞を、Th1分化の検討時には IL-12存在下で、また、

Th17分化の検討時には IL-6、TGF-β存在下で、骨髄由来樹状細胞及び可溶性抗

CD3ɛモノクローナル抗体(145-2C11)と共に 4~5日間培養した。細胞内サイト

カイン染色には FITC標識抗 IFN-γ抗体と抗 IL-17A抗体をそれぞれ 200倍希釈

で使用した。

11. リアルタイム PCR

各遺伝子及び HPRT mRNAの発現レベルの定量には、ABI7300リアルタイム PCR

システム(ABI、Tokyo)及び SYBR FAST PCR Mixまたは PROBE FAST PCR Mix(KAPA

Biosystems社、Woburn)を使用した。分離、精製した T細胞からの総 RNAの調

製には GenElute Mammalian total RNA kit(Sigma社)を用いた。プローブとし

て SYBER greenを用いた場合、リアルタイム PCR条件は、94℃15秒間、60℃60

秒間を 1サイクルとして 40サイクル繰り返した。一方で、FAMまたは TAMRAの

二重標識プローブ(Sigma)を用いた場合は、94℃3秒間、60℃30秒間を 1サイ

クルとして 40サイクル繰り返した。相対的 mRNA発現レベルは、Hprt mRNAの発

現レベルを用いて標準化した。リアルタイム PCRに用いたプライマーの配列を

以下に示す。Bimは 5'FAM- TGAACTCGTCTCCGATCCGCCGCA -TAMRA 3’、5'-

ACGACAGTCTCAGGAGGAACC -3'、5'- CGGTAATCATTTGCAAACACCCTC -3'、Chopは

5'FAM- TCTTGACCCTGCGTCCCTAGCTTGGC -TAMRA3'、5'-CCCAGGAAACGAAGAGGAAGAA

-3'、5'- GGGATGTGCGTGTGACCTC -3'、Hprtは 5'FAM-

ATCCAACAAAGTCTGGCCTGTATCCAACAC -TAMRA3'、5'- AGCCCCAAAATGGTTAAGGTTG -3'、

5'- CAAGGGCATATCCAACAACAAAC -3'、Asnsは 5'- GGCCCTGGATGAAGTCATATT -3'、

5'- CACCACGCTGTCTGTGTTCT -3'、Vegfaは 5'- TCACCAAAGCCAGCACATAG -3'、5'-

AATGCTTTCTCCGCTCTGAA -3'、Trib3は 5'- GCCTTATATCCTTTTGGAACGA -3'、5'-

AGATGTAAAGGAGCCGAGAGC -3’。

12. 免疫沈降及びウエスタンブロッティング

HEK293T細胞に対し、MycまたはFlagタグ発現型pPBO-EFベクターをリン酸カ

ルシウム法で遺伝子導入し、強制発現した。FLAG融合型の目的遺伝子産物は細

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胞溶解物を抗 FLAG M2 affinity gelを用いて免疫沈降し、3×FLAG peptideを

用いて溶出した。目的遺伝子産物の検出は SDS-PAGE及びウエスタンブロッティ

ングにより実施した。検出されたタンパク質の分析には、画像解析ソフト

ImageJを用いた。

13. TCRJαおよびTCRβの頻度/再編成

総 RNAを DP胸腺細胞から抽出し、cDNAはオリゴ dTを用いて合成した。TCR J

αの頻度を検討するため、TCR Vα8-Cα断片を PCRで増幅し、32P標識Jα特異

的オリゴヌクレオチドプローブを用いブロットした。ハイブリダイゼーション

は 50℃で一晩行い、その後の洗浄は6×SSC/0.1% SDSで 2回、60℃で 20分間

実施した。使用したプローブの配列を以下に示す。Jα58は 5'-

ACTGGGTCTAAGCTGTCATTTGGG -3'、Jα53は 5'- AGTGGAGGCAGCAATTACAAACTG -3'、

Jα47は 5'- CTTTGGCTTGGGAACCATTTTG -3'、Jα39は 5'- AATGCAGGTGCCAAGCTCAC

-3'、Jα27は 5'- GACCGTGCTCACAGTGAAG -3'、Jα16は 5'-

TTAGGGAGGCTGCATTTTGG -3'、Jα7は 5'- GGACTACAGCAACAACAGACTTAC -3'、Cαは

5'- CAGAACCTGCTGTGTACCAG -3'。PCRに用いたプライマーを以下に示す。Vα

8-PCR-Fは 5'- CAGACAGAAGGCCTGGTCAC -3'、Cα-PCR-Rは 5'-

TGGCGTTGGTCTCTTTGAAG -3'。TCR Vβの頻度の検討は、Vβ TCR screening panel

(BD Biosciences社)を用いフローサイトメトリーにより解析した。Cβ1の

mRNA発現レベルは、SYBRグリーンを用いた qPCRにより評価した。

14. eIF2αの脱リン酸化アッセイ

eIF2αの脱リン酸化の検討にはナイーブ T細胞の細胞溶解液を用いた。分離

精製したナイーブ T細胞を、20mM Tris-HCl(pH7.4)及び 0.5% Triton-X-100、

50mM NaCl、10% グリセロール、0.1mM EDTA を含有する細胞溶解液で溶解した。

リコンビナント GST-PERK及び His-eIF2α(Sigma社)と5μCi [γ-32 P] ATP

の存在下で 30℃、30分間反応し、標識した。未取り込みの同位体を除去後、放

射性標識 His-eIF2αの一部を T細胞の溶解液と 30℃で脱リン酸化反応(20mM

Tris-HCl(pH7.4)、50mM KCl、2mM MgCl2、0.1mM EDTA、0.8 mM ATP)した。続

いて 5×SDS-PAGEサンプルバッファーを加え反応を停止し、煮沸後に SDS-PAGE

することでタンパク質を分離した。画像イメージは Typhoon Phosphorimager(GE

Healthcare社、Tokyo)を用いて取得し、分析には ImageJを用いた。

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15. PLA法(近接ライゲーションアッセイ)

内在性の発現レベルでの KDELR1と PP1の相互作用を評価するため PLA法を用

いた評価を実施した。野生型及びT-Redマウスから分離精製したナイーブT細胞

を顕微鏡用チャンバー(Ibidi)に播種した。細胞を固定後に、Cytofix /

Cytoperm kit(BD Biosciences社)を用い膜透過処理した。100倍希釈の抗KDELR1

抗体及び抗 PP1抗体(Santa Cruz社)と反応後、PLA用の市販キット(Duolink)

(Sigma社)で反応した。点状の蛍光 PLAシグナルは、共焦点顕微鏡を用いた Z

スタック画像化により得、シグナルの数の測定は、ソフトウエアによる 200個

以上の細胞を自動的な解析により実施した。

16. 統計分析

2群間の統計学的分析はスチューデント t検定(両側)で評価した。 多重比

較では、一方向 ANOVA(分散分析)及びポストホックダネット検定を使用した。

いくつかの試験では、対応のあるペアードスチューデント t検定を用いた。 ウ

ィルコクソン検定は、関節炎のスコアを評価した。図中の*は p<0.05、**は p

<0.01、***は p<0.001を表し、統計学的に有意な差があることを示した。

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V. 結果

1. リバースディレクション解析法により炎症回路関連遺伝子が複数の疾患に関与

する可能性を示した

我々は免疫系細胞と非免疫系細胞が協調的に作用し複数の炎症性サイトカイン

を大量に産生する正のフィードバック機構を炎症回路と名付け、研究を進めてい

る。ヒトの疾患の理解や医薬品の開発のためには、in vitroでの培養細胞を用い

た実験や in vivoにおける疾患モデル動物を利用した試験は必要不可欠である。

しかしながら、一般的に実験で得られた結果をそのままヒトの疾患や病態に外挿

して反映することは難しく、課題が残る。そこで、我々は GWASデータを用いて、

炎症回路の研究を通じ得られた動物実験データをヒトの疾患へと関連付ける解析

を実施し、我々が炎症回路関連遺伝子として同定していた遺伝子が、自己免疫疾

患以外にもがんや代謝性疾患、神経変性疾患等、多くの疾患や病態に関連する可

能性があることを明らかにした。この解析方法は、通常とは逆方向の GWASデータ

の利用方法であることからリバースディレクション方法と命名した(副論文)。こ

のように炎症回路の適切な制御は炎症や自己免疫疾患以外にもヒトの恒常性維持

に欠かすことができないものであり、炎症回路の知見を深めることはヒトの疾患

を理解することにも結び付く。また、炎症回路には T細胞が深く関与することか

ら T細胞の恒常性を維持する機構の解明は非常に重要であると考えられた。

2. ランダム変異を導入することで過剰な記憶/活性化 T細胞を持つ T-Redマウスを

得た

炎症回路に関わる免疫細胞で中心的な役割を担う T細胞の恒常性維持や活性制

御の機構について更なる知見を得ることを目的に、今回、新たなランダムスクリ

ーニングを実施した。変異原性物質 N-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)を投与し

た C57BL/6雄マウスを野生型 C57BL/6雌マウスと交配させ、第 1世代 ENU処理マ

ウスを得た。さらに、第 1世代 ENU処理雄性マウスと野生型 C57BL/6雌性マウス

を交配し、第2世代を得た 41。次ぐ第3世代は第2世代を内交配して得た(表1)。

in vivoで T細胞の恒常性に異常がある変異系統を見出すために、第 3世代マウ

ス計 309匹の末梢血中 T細胞の表現型をフローサイトメーターで解析した結果、

末梢血でCD44高発現型の記憶T細胞の比率が増加した系統を見出した。その傾向

は CD4陽性 T細胞よりも CD8陽性 T細胞において、より顕著であった(図 1 a)。

さらに野生型マウスと比較して、その系統のマウスでは脾臓中の総細胞数も減少

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しており、特にナイーブ T細胞数が減少していることが分かった(図 1 b)。ま

た、胸腺では T細胞の総数の減少と CD4陽性 CD8陽性(DP細胞)、CD4陽性細胞

(CD4SP細胞)、CD8陽性細胞(CD8SP細胞)が減少していた(図 1 c)。変異マ

ウスにおける T細胞の表現型は、5から 6週齢より出現し、表現型への影響の大

きさはDP胸腺細胞<SP胸腺細胞<ナイーブT細胞であり、T細胞の分化が進むほ

どより顕著になることが判明した(図 1 d)。一方で、胸腺組織の CD44高発現型

の記憶/活性化 T細胞や CD4陰性 CD8陰性胸腺細胞(DN細胞)、CD8陽性 CD3低発

現型の未熟な SP胸腺細胞(ISP細胞)や脾臓組織のナチュラルキラー細胞、γδ

T細胞、好中球、樹状細胞の細胞数は野生型マウスと同等であった。DP細胞の表

面マーカーを調べた結果、この変異マウスでは CD69陽性細胞の割合が減少する

一方で、アポトーシスマーカーである Casp3や Annexin V陽性細胞の割合が増加

していたことから、変異マウスの胸腺ではナイーブ T細胞への分化過程に異常が

生じ、細胞死が誘導されている可能性が示唆された(図 1 e)。変異マウスの末

梢においてナイーブ T細胞のみが顕著に減少している原因は、胸腺で胸腺細胞の

寿命が延長することでこれらの細胞にストレスが蓄積しやすくなった可能性も考

えられる。一方で、変異マウスであっても記憶/活性化 T細胞の割合が野生型マ

ウスと同等な理由は、末梢でのホメオスタティックな増殖により補完されるため

であると考えている 42、43。我々はこの変異マウスを、ナイーブ T細胞が少ないと

いう表現型から、T-Red(naïve T-cell reduced)マウスと名付けた。また、T-Red

マウスの表現型は、常染色体上の変異によるもので劣性遺伝することが分かった

(表 1)。

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図 1 T-Redマウスではナイーブ T細胞数が減少した

(a)変異原性物質 ENUを用い遺伝子に変異を導入した T-Redマウスでは C57BL/6

野生型の正常マウスと比較して、CD44高発現型の記憶/活性化 T細胞の比率が上

昇した。フローサイトメトリー解析には 9週齢のマウスの末梢血の T細胞を用い

た。(b)T-Redマウスでは脾臓中の総細胞数及びナイーブT細胞の数が減少した。

解析には 12週齢までのマウスを用いた。(c)T-Redマウスでは胸腺中の総細胞

及び DP細胞及び CD4SP細胞、CD8SP細胞の細胞数が減少した。解析には 12週齢

までのマウスを用いた。(d)胸腺において T-Redマウスの表現系は 5から 6週齢

以降に顕著になることが分かった。数値は各時点での T-Redマウスと野生型マウ

スの細胞数の比率を示した。(e)T-Redマウスの DP細胞では活性化 caspase3及

び annexin V陽性細胞の比率が高く、アポトーシスが亢進していることが示唆さ

れた。

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表 1 T-Redマウスの表現型は常染色体劣性遺伝で引き継がれた

第 3世代の T-Redマウス同士の系統内交配によって、得られた第 4世代では

T-Redマウスの表現型が全例に引き継がれた。一方で、第 3世代の T-Redマウス

と野生型マウスを交雑して得られたF1世代にはT-Redマウスの表現型が引き継が

れなかった。さらに、F1同士の交配により得られた次世代(F2)では、T-Redマ

ウスと同様の表現型を示すマウスが上表のように出現した。以上の結果から、

T-Redマウスの表現型は常染色体劣性遺伝で引き継がれることが分かった。

T-Redマウスの表現型は、6から 12週齢のマウスの末梢血における CD8陽性 T細

胞の CD44発現レベルで評価した。

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3. T-Redマウスは Kdelr1遺伝子に点突然変異が存在した

T-Redマウス(ホモ接合体)と野生型の C3H/Heマウスを交雑して得た F2マウ

スを解析することで、T-RedマウスにおけるT細胞の表現型は、443遺伝子を含む

7番染色体の約 100 kbの領域内の変異に依存することが判明した。さらに、遺伝

子配列を読解した結果、T-Redマウスでは Kdelr1遺伝子の 1塩基変異(T→C)に

より(図 2 a)、KDELR1の 5番目の膜貫通領域に位置する 123番目の Ser残基が

Pro残基へと置換されていることが明らかとなった(図 2 b)。

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図 2 T-Redマウスにおいて Kdelr1遺伝子の変異を同定した

(a)mRNAとマウスゲノム DNAのエクソン領域を解読した結果、T-Redマウスの

Kdelr1遺伝子上に T→Cの 1塩基変異を同定した。(b)T-Redマウスでは、変異に

より KDELR1の 5番目の膜貫通ドメイン(四角で囲った領域)に存在する Ser123

が Proに置換されていた。

4. T-Redマウスの表現型の原因として Kdelr1遺伝子の点突然変異を特定した

野生型Kdelr1遺伝子を導入したT-Redマウス由来造血幹細胞を放射線照射後の

T-Redマウスに移植したレスキュー実験の結果、野生型Kdelr1遺伝子を導入した

群ではナイーブT細胞の比率が増加し、記憶T細胞の比率が相対的に減少した(図

3 a)。また、全身性に Kdelr1遺伝子を欠損させたマウス(Kdelr1Δflox/Δfloxマウ

ス)と T細胞特異的に Kdelr1遺伝子を欠損させたマウス(CD4-Cre/Kdelr1flox/flox

マウス)でも T-Redマウスと同様の T細胞の表現型が認められた(図 3 b)。さ

らに、Kdelr1flox/flox; ERT2-Creマウス由来のナイーブ T細胞を野生型マウスに移

植後にタモキシフェンを投与することで、ナイーブT細胞におけるKdelr1遺伝子

の発現を抑制した結果、ナイーブ T細胞の細胞数が減少することが判明した(図

3 c、d)。以上の結果から、T-Redマウスで認められる T細胞の表現型は、Kdelr1

遺伝子の T細胞における機能欠損が原因であることが明らかとなった。

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図 3 T-Redマウスの表現型は Kdelr1遺伝子の点突然変異に起因した

(a)T-Redマウス由来の造血幹細胞に野生型 Kdelr1遺伝子を強制発現し、放射

線照射後の T-Redマウス(5から 6週齢)に骨髄移植後、2カ月経過したマウスの

T細胞を解析した。その結果、対照群(mock)に対し野生型 Kdelr1遺伝子を発現

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した造血幹細胞を移植したT-Redマウスでは、CD44高発現型の記憶CD4陽性T細

胞及び記憶 CD8陽性 T細胞の比率が減少した。(b)T-Redマウスと同様に、CD4

陽性細胞特異的にKdelr1遺伝子を欠損させたマウスCD4-cre/Kdelr1flox/flox及び全

身の Kdelr1遺伝子を欠損させたマウス CAG-Cre/Kdelr1flox/flox(Kdelr1Δfl/Δfl) で

は、末梢血中の記憶 CD4陽性 T細胞及び記憶 CD8陽性 T細胞の比率が野生型マウ

スと比較して上昇した。評価にはそれぞれ 7から 14週齢のマウスを使用した。

(c)8から 11週齢の野生型マウス及び Kdelr1flox/flox;ERT2creマウスから回収し

た同数のナイーブ T細胞を野生型マウスに移植した。その後、ホストの野生型マ

ウスにタモキシフェンを投与し、移植したナイーブ T細胞の末梢血中における細

胞数の変化を検討した結果、Kdelr1flox/flox;ERT2creマウス由来ナイーブ T細胞は

タモキシフェン依存的に、より顕著に減少した。(d)同様に脾臓においても 21

日経過時点で Kdelr1flox/ flox;ERT2creマウス由来ナイーブ T細胞の細胞数は顕著に

減少した。

5. T-Redマウスでは in vivoにおける T細胞応答が減弱した

T-Redマウスにおけるナイーブ T細胞の数の減少が、抗原特異的 T細胞応答に

与える影響を評価した。 コラーゲン誘導関節炎モデルでは、野生型マウスと比

較し T-Redマウスにおいて臨床スコア及び血清中 IL-17A濃度が有意に低かった

(図 4 a、b)。 また、OVA/Alum免疫後の血清中の抗 OVA抗体濃度上昇も、T-Red

マウスでは顕著に抑制され、OVAに対する T細胞依存的な応答が減弱しているこ

とが判明した(図 4 c、d)。さらに、T-Redマウスでは異性間の抗原特異的な拒

絶反応が低下し(図 4 e、f)、OVAを発現するリステリア菌(LM-OVA)の感染に

対しての OVA特異的な CD8陽性 T細胞の増殖も減少した(図 4 g)。以上の結果

から、T-Redマウスでは抗原特異的な T細胞の免疫応答が減弱しており、その原

因が KDELR1の機能欠損によるナイーブ T細胞数の減少に起因している可能性が

示唆された。一方で、OT-I細胞または T-Red/OT-I細胞を移入後のコンジェニッ

クマウスにLM-OVAを感染し、その後の細胞数の変化を検討したところ、T-Red背

景による影響は認められなかった(図 4 h)。 同様に、in vitro試験の結果、

T-Redマウス由来ナイーブ T細胞は抗CD3抗体刺激後の細胞増殖能やTh17への分

化能には異常はなかった。

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図 4 T-Redマウスでは T細胞応答が減弱した

(a)コラーゲン誘導関節炎モデルでの臨床スコアは T-Redマウスで有意に低下

した。(b)コラーゲン誘導関節炎モデルマウスにおいて、血清中の IL-17A濃度を

免疫前及び免疫後 21日経過後(d21)、さらに 2回目の免疫後 6日経過後(d21+6)

の時点でそれぞれ評価した結果、野生型マウスに対し、T-Redマウスでは免疫後の

血清中の IL-17A濃度の上昇が有意に低下した。(c、d)OVA/Alum免疫後の血清中

の抗 OVA IgM抗体及び抗 OVA IgG1抗体の濃度は T-Redマウスでは有意に抑制され

た。(e)雄性のコンジェニックマウスの脾臓細胞を、6-8週齢の野生型または T-Red

の雌性マウスに移植した結果、T-Redマウスへ移植した方が移植後のドナー細胞の

生存率が高かった。(f)一方で、同一性間での移植時には差はなかった。(g)野

生型マウスに対し T-Redマウスでは LM-OVA感染後 7日目の脾臓中の OVA特異的な

IFNγ陽性 CD8陽性 T細胞の細胞数が少なかった。(h)一方で、コンジェニックマ

ウスに OT-Iまたは T-Red/OT-I細胞を移入し、LM-OVA感染後 7日目の末梢血中にお

ける CD8陽性 T細胞あたりのドナー細胞の比率は、T-Red背景の影響を受けず同等

であった。

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6. T-Redマウスの表現型は TCR拘束により認められなくなった

T-Redマウスでは野生型マウスに比較してCD44高発現型の記憶型CD8陽性T細

胞の比率が高いが、T-Red/OT-Iマウスと OT-Iマウスを比較した場合は同程度で

あることが分かった。同様に、その他の TCRトランスジェニックマウスとの交配

で得た T-Red/p14マウスや T-Red/OT-IIマウスでも、T-Redマウスに特徴的な記

憶型 T細胞の比率の増加は認められなかった(図 5 a、b)。コンジェニックマウ

スに野生型、T-Red、OT-I、T-Red/OT-Iの各マウスの骨髄細胞を混合して移植後

に、分化して生着する各種細胞の細胞数は OT-Iと T-Red/OT-I間では同等だった。

一方で、胸腺におけるDP細胞及びCD8SP細胞、また、脾臓におけるナイーブCD8

陽性 T細胞及び記憶 CD8陽性 T細胞は、野生型マウス由来細胞と比較して T-Red

由来の細胞が顕著に少なかった(図 5 c、d)。

7. T-Redマウスの TCR再編成に異常はなかった

TCRトランスジェニックマウス背景の T-Redマウスのナイーブ T細胞の比率が

正常であったことから、KDELR1の機能的欠損が不完全なTCR再編成を生じさせる

か検討した結果、T-Redマウスの T細胞では TCR Vαから近位に位置する TCR Jα

が使用される頻度が高いという結果が得られた(図 5 e、f)。一方で、再編成さ

れた TCRの量には差はなく(図 5 f)、また、TCRαに比べ比較的狭い領域で再編

成が起きる TCRβでも野生型マウスと同様の発現量であることも分かった。以上

のことから、T-Redマウスの基本的な TCR再編成には異常がないと考えられ、

T-Redマウスで見られるナイーブ T細胞の減少は TCR再編成の過程の異常による

ものではないと推測された。一方で、T-Redマウスでは TCRの再編成が Vαから近

位に位置する Jαが選択されることで再編成の期間が早期に完了したナイーブ T

細胞のみが生き残っている可能性があり、分化過程で TCRの再編成に一定以上の

時間がかかったナイーブ T細胞では細胞死が誘導されている可能性が考えられた。

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b

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図 5 T-Redマウスの表現型は TCR拘束により認められなくなり、TCR再編成にも異常

はなかった

(a、b)TCR拘束性(OT-I、OT-II及び p14 TCRトランスジェニック)の T-Red

マウスでは、T-Redマウスの末梢血で認められた記憶 T細胞の比率の上昇が抑制

された。それぞれ 12週齢までのマウスを用いて検討した。(c、d)野生型、T-Red、

OT-I及びT-Red/OT-Iマウスの骨髄細胞を混和し、放射線照射後の8-10週齢のコ

ンジェニックマウスに移植した。その後の胸腺及び脾臓での細胞数の変化を追跡

した結果、T-Red/OT-Iマウス及び野生型の OT-Iマウス骨髄に由来する細胞はい

ずれも同程度存在した。一方、T-Redマウス骨髄由来細胞は野生型マウス骨髄由

来細胞と比較し、胸腺におけるDP細胞及びCD8陽性T細胞、脾臓におけるナイー

ブ CD8陽性 T細胞及び記憶 CD8陽性 T細胞の細胞数がそれぞれ顕著に減少した。

(e)TCR Vα-Jα-Cαの構造を模式的に示した。(f)8から 9週齢の WT及び T-Red

マウスから DP胸腺細胞を分離後、total RNAを抽出し、TCRVα8-及び Cα-特異的

なプライマーセットを用いて RT-PCRした。Jαの利用頻度はそれぞれの Jα特異

的なプローブを用いたサザンブロッティングにて検出した。総 mRNAの量の検出

には Cα特異的なプローブを用いた。Cβ1 mRNAの定量は qPCRで実施し、Hprtと

の相対的な発現レベルを比較することで評価した。

8. T-Redマウスのナイーブ T細胞では Bimの高発現とアポトーシスの亢進が認めら

れた

T-RedマウスでナイーブT細胞の細胞数が減少する理由を検証した結果、T-Red

マウスのナイーブ T細胞では野生型マウスの T細胞と比較し、アポトーシス促進

因子 Bimの発現が高いことが判明した。一方で、記憶 T細胞や B細胞では、Bim

の発現レベルは T-Redマウスと野生型マウスの間で差はなかった(図 6 a-c)。

実際に、T-Redマウスのナイーブ T細胞では野生型マウス由来の細胞と比較して

IL-7存在または非存在下でも低い生存率を示した(図 6 d)。さらに、T-Redマ

ウスのナイーブT細胞に野生型のKdelr1遺伝子を強制発現させたところBimの発

現が減少したが、記憶T細胞ではKdelr1遺伝子の強制発現はBimの発現量に影響

しなかった(図 6 e)。これらの結果から、T-Redマウスのナイーブ T細胞では

KDELR1の機能的な欠陥によりBimが高発現し、アポトーシスが誘導されている可

能性が示唆された。

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図 6 T-Redマウスのナイーブ T細胞では Bimの発現上昇とアポトーシスの亢進が確認

された

(a)8から10週齢のマウス由来のT細胞を用い、real-time qPCR解析した結果、

T-Redマウスのナイーブ CD4陽性及び CD8陽性 T細胞では、野生型マウスに比べ

Bim mRNAの発現量が高かった。(b、c)Flow cytometry解析でも、(a)と同様

の結果が得られ、T-Redマウスのナイーブ T細胞ではタンパク質レベルでも Bim

が高発現していることが判明した。(d)9から 10週齢のマウスを用い、T細胞の

経時的な生存率の変化を in vitroで評価した結果、T-Redマウスのナイーブ CD4

陽性及び CD8陽性 T細胞では、野生型マウスに比べ死細胞の割合が早期から増加

した。また、IL-7添加による細胞生存率の維持効果も弱かった。(e)T-Redマウ

ス由来造血幹細胞にレトロウイルスを用いて野生型の KDELR1を強制発現した結

果、ナイーブ CD4陽性及びナイーブ CD8陽性 T細胞における Bimの発現レベルが

減少した。

9. T-Redマウスのナイーブ T細胞では ISRの亢進が認められた

T-Redマウスのナイーブ T細胞において、アポトーシスシグナルがどのように

活性化されるかについて検討した。野生型マウスまたは T-Redマウスからナイー

ブ T細胞を 回収し、DNAマイクロアレイで発現解析を実施した。Bimは ISRの標

的分子としても報告されていたことから 24、まずはこの経路について解析した結

果、T-Redマウスのナイーブ T細胞において ISRに関連する複数の遺伝子の発現

が上昇している可能性が示唆され、続く real-time qPCR解析で Asns、Chop、

Trib3、Vegfa遺伝子の顕著な発現亢進を確認した(図 7 a)。ISRの活性化は翻

訳の低下を引き起こすとされているが、実際に T-Redマウスの DP胸腺細胞やナイ

ーブ T細胞でも翻訳活性の低下が認められた(図 7 b)。さらに、ISRのシグナル

は主に eIF2αリン酸化を介して伝達され細胞死が誘導されることが知られてい

たことから 25、26、FACS解析を実施した結果、T-Redマウスのナイーブ T細胞で

eIF2αのリン酸化が亢進していることが判明した(図 7 c)。一方、TCRトランス

ジェニック背景の T-Redマウスではナイーブ T細胞の数は正常であったが、その

表現型を反映するように T-Redマウスのナイーブ T細胞で見られる ISR関連遺伝

子の発現亢進も T-Red/OT-Iマウスでは顕著に抑制されていた(図 7 d)。これら

の結果は、T-RedマウスのナイーブT細胞において、ISRが亢進している可能性を

示唆している。

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図 7 T-Redマウスのナイーブ T細胞では ISRが亢進した

(a)野生型または T-Redマウスの T細胞及び B細胞における ISRの標的遺伝子の

発現量を real-time qPCRで解析した結果、T-Redマウスでは ISR関連遺伝子の発現

が亢進していた。数値はそれぞれ野生型の細胞の発現量を 1にした際の相対値を示

す。(b)野生型または T-Redマウスの各細胞におけるタンパク質の新規合成量を

in vivoピューロマイシン標識法で評価した結果、T-Redマウスの細胞ではタンパ

ク質の合成活性が低下していた。数値は Ponceau-S染色による総タンパク質量での

補正値(ピューロマイシン/Ponceau-S比)。(c)Flow cytometryにより T細胞の

サブセットを解析した結果、T-Redマウスのナイーブ T細胞で eIF2αのリン酸化が

亢進していた。(d) 各マウスのナイーブ CD8陽性 T細胞における ISR標的遺伝子

の相対発現量を解析した結果、T-Redマウスで亢進した各遺伝子の発現が

T-Red/OT-Iマウスでは抑制されていた。数値は Hprtの発現量を内部標準とした補

正値。

10. T-Redマウスのナイーブ T細胞では PP1による eIF2αの脱リン酸化が減弱した

T-Redマウスのナイーブ T細胞で認められる eIF2αのリン酸化亢進の原因を探

るため、eIF2αのリン酸化酵素または脱リン酸化酵素の機能を評価した。既知の

eIF2αのリン酸化酵素は 4種類(HRI、PKR、PERK及び GCN2)が、脱リン酸化酵は

1種類(PP1/GADD34複合体)が報告されている 21、22、23、27。T-Redマウスの T細胞

に対し eIF2αのリン酸化を促進する刺激を加えた予備検討を実施した結果、

eIF2αのリン酸化酵素は野生型マウスと T-Redマウスでの細胞で同様に活性化し

たため、脱リン酸化酵素である PP1の機能に着目した。解析の結果、野生型マウ

スのナイーブT細胞では定常状態でも一定の割合でリン酸化eIF2αが存在し、in

vitroの培養時間依存的にリン酸化レベルが低下することが判明した。また、

PP1特異的な阻害剤サルブリナル処置により 44、リン酸化 eIF2αが増加したこと

から、正常のナイーブT細胞ではPP1によりeIF2αの脱リン酸化が制御されてい

ることが分かった。一方で、T-Redマウスのナイーブ T細胞では定常状態から

eIF2αが高度にリン酸化され、その状態が定常的に持続した。さらに、サルブリ

ナル処置の効果も認められなかった(図 8 a)。さらに、in vitroでの脱リン酸

化試験においても、T-Redマウスの CD4陽性及び CD8陽性のナイーブ T細胞では

リン酸化 eIF2αに対する PP1の脱リン酸化活性が減弱していることが示された

(図 8 b)。以上の結果から、T-Redマウスのナイーブ T細胞では PP1の活性が低

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下することによりリン酸化 eIF2αが蓄積し、過剰な ISRが誘導されアポトーシス

が起きている可能性が強く示唆された。

図8 T-RedマウスのナイーブT細胞では PPIの脱リン酸化活性が低下し eIF2αのリン

酸化レベルが亢進した

(a)ナイーブ T細胞の細胞溶解液を用いウエスタンブロッティングにて評価し

た結果、T-Redマウスではリン酸化されている eIF2αの比率が高いことが判明し

た。(b)放射線標識したリン酸化 eIF2αに対して、野生型または T-Redマウス

のナイーブT細胞から抽出した細胞溶解液を反応させた後、SDS-PAGEで分離し、

eIF2αの放射線強度を検出した結果、T-Redマウスの細胞溶解液では eIF2αの脱

リン酸化活性が低下していることが判明した。数値は反応10分経過後の強度を1

とした時の相対値。

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11. T-Redマウスのナイーブ T細胞では KDELR1と PP1の相互作用が減弱した

PP1は複数の分子と複合体を形成することで PP1の酵素活性、基質特異性、細

胞局在性が決定されることが報告されている 45。そこでKDELR1とPP1が複合体を

形成する可能性を評価するため両者を強制発現させ共沈実験を実施した結果、野

生型の KDELR1が PP1α分子と複合体を形成すること、さらに T-Red型の KDELR1

分子では PP1α分子との相互作用が非常に減弱することが判明した(図 9 a)。

KDELR1にはRVEFという典型来なPP1結合モチーフが含まれるが 46、このモチーフ

内に機能欠損型の変異を導入したRVEA変異型のKDELR1やtailドメインを欠損型

の KDELR1でも、PP1αと複合体を形成した(図 9 a)。一方で、ARFや GAP、Src

ファミリーキナーゼとの相互作用に必要とされるKDELR1分子の1番目の細胞質内

loop19、20、47を欠損させたΔ1型 KDELR1では PP1αとの相互作用が減弱したことか

ら、KDELR1がこの領域を介して PP1αと結合することが推測された(図 9 a)。

続いて、部分欠損型 PP1αと野生型 KDELR1の共沈実験を実施し、PP1分子側で

KDELR1との相互作用に必要な領域が182から209番目のアミノ酸領域であること

が明らかとなった(図 9 b)。また、ナイーブ T細胞を用いた PLA法での解析で

も内在性のKDELR1-PP1の相互作用が認められた一方で、T-Redマウスのナイーブ

CD4陽性 T細胞やナイーブ CD8陽性 T細胞では野生型の細胞よりも KDELR1-PP1の

相互作用が低下していることも判明した(図 9 c)。これらの結果から、KDELR1

と PP1が直接的な相互作用を介して PP1の活性を制御している可能性が示唆され

た。

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図 9 T-Redマウスのナイーブ T細胞では KDELR1と PP1の相互作用が減弱した

(a)HEK293T細胞に Flag-KDELR1及び Myc-PP1αを強制発現し、抗 Flag抗体ビー

ズを用いて免疫沈降後、抗 Flag抗体または抗 Myc抗体を用いて検出した結果、PP1

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が野生型の KDELR1と相互作用する一方で、T-Red型の KDELR1とはほぼ相互作用し

ないことが明らかとなった。黒塗り矢印と白抜き矢印はそれぞれ RVEFモチーフの

位置と T-Redマウスにおける点突然変異の位置を示す。(b)KDELR1と PP1αの相

互作用に必要な PP1α分子側の領域を特定するため、PP1αの部分欠損変異体を用

いて相互作用を検討した結果、PP1α分子の 182から 209番目のアミノ酸領域が

KDELR1と相互作用する領域であることが明らかとなった。下図は作製した PP1αの

変異体の模式図を示す。数値はそれぞれ PP1α/KDELR1の比を示す。(c)7から 13

週齢のマウスのナイーブT細胞を用い、内在性の発現レベルでKDELR1とPP1αの相

互作用を PLA法で検出した結果、T-redマウスでは野生型マウスに比べナイーブ T

細胞内での KDELR1-PP1αの相互作用が低下していた。数値は細胞あたりで検出さ

れた相互作用の頻度を示す。

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VI. 考察

我々の研究室により見出された炎症回路は、T 細胞を中心とした免疫細胞及び I 型

コラーゲン陽性細胞等の非免疫細胞が協調的に作用することによる免疫応答の正のフ

ィードバック機構である。炎症回路の活性化により産生される CCL20等のケモカイン

が組織局所への各種の免疫細胞の集積を引き起こし、組織の恒常性を破壊することに

より炎症が引き起こされると考えている。

我々はこれまでに炎症回路に関連する細胞のうち、非免疫系細胞を用いた複数のス

クリーニングを実施し、炎症回路の正の制御遺伝子として 1300弱の遺伝子を同定して

いる。さらに、炎症回路の標的遺伝子として、ヒトでは 900弱、マウスでは 600弱の

候補遺伝子を同定しており、現在は個々の遺伝子についての解析を進めている。また、

同定された炎症回路関連遺伝子を GWASデータと比較することにより、炎症回路の制御

が炎症応答以外にもがんや代謝性疾患、神経変性疾患等、多くの疾患の病態をコント

ロールできる可能性があることが示唆され、炎症回路の分子メカニズムを理解するこ

との重要性が一層高まったと考えている。

今回、私は炎症回路に関連する細胞のうち、T 細胞の恒常性の維持機構に着目し、

研究を進めた。まず T細胞の恒常性や機能の維持に関わる遺伝子の探索を目的に、ENU

処理によりランダムに遺伝子変異が導入されたマウスを得、その中からナイーブ T細

胞の数が顕著に少ない T-Redマウスを見い出した(図 1 a、b)。連鎖解析と遺伝子読

解により、T-Redマウスでは Kdelr1遺伝子に S123Pのアミノ酸変異が存在することを

明らかにした(図 2 a、b)。KDELR1の 123番目のセリン残基は KDEL配列を持つ分子

との相互作用に特に重要であることが知られており、当該アミノ酸に変異がある

T-Red マウスでは KDELR1 の機能に異常が生じている可能性が示唆される 48。また、

T-Redマウスの骨髄幹細胞に野生型Kdelr1を強制発現させるレスキュー実験ではナイ

ーブ T細胞の比率の上昇が認められ、さらに全身性の KDELR1 KOマウスや CD4陽性細

胞特異的な KDELR1 KOマウスではナイーブ T細胞の減少が認められたことから、T-Red

マウスで見られる表現型は KDELR1の変異が原因であると考えられた(図 3 a、b)。

強制発現系の KDELR1と PP1αの共沈実験(図 9 a)と内在性タンパク質の相互作用

を評価した結果(図 9 c)から、KDELR1 と PP1αが直接相互作用することが明らかと

なり、加えて T-Red型の KDELR1では PP1との相互作用が非常に減弱することが判明し

た。さらに、T-Red ナイーブ T細胞において、eIF2αに対する PP1の脱リン酸化活性

の低下(図 8 a、b)とリン酸化 eIF2αの増加(図 8 a)を認めた。過去の報告による

と eIF2αの活性化の維持はアポトーシスを促進するとされており 25、26、実際に今回の

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我々の試験でも、T-Redマウスのナイーブ T細胞において ISRシグナルに関わるエフ

ェクター分子 Bimや Chop、Trib3の発現上昇が認められ(図 6 aから c、図 7a)、そ

の結果、アポトーシス誘導が亢進したものと推測している(図 1 e、図 6 d)。ナイー

ブ T細胞で定常的に発生する ISRシグナルの原因は不明であるが、得られた結果をま

とめると、機能欠損型の KDELR1を持つナイーブ T細胞ではストレスにより惹起される

ISR後の eIF2αのリン酸化・活性化を制御することができずに蓄積することで、アポ

トーシスが高度に誘導されているものと考えられた。

さらに、T-Red マウスではコラーゲン誘導関節炎モデルや OVA に対する応答、異性

間の移植による拒絶応答、リステリア菌感染に対する応答等の T細胞が関連する様々

な反応が減弱した(図 4 aから g)。今回の主論文の公表から約 4か月後に発表され

た Siggs氏らの報告でも、我々の報告に非常に類似した KDELR1と免疫機能に関する結

果が得られている。彼らも ENU処理により得られた Kdelr1遺伝子の Y158C変異マウス

の解析結果をきっかけに、KDELR1 の免疫系細胞に対する機能に着目し、CRISPR/Cas9

システムを利用して Kdelr1 遺伝子にフレームシフトを導入した変異マウスを作製し

ていた 49。我々の報告と同様に、彼らの作製した KDELR1 KOマウスでも CD44高発現型

の T細胞の比率が高く、また、ウイルスに対するクリアランスが低下することを報告

していた 49。以上のことから、KDELR1が T細胞に関連する全身性の免疫機能を制御し

ていることが強く示唆される。

また、興味深いことに、T-Red マウスの表現型は TCR トランスジェニックマウスと

の交雑により認められなくなった(図 4 h、図 5 a、b)。さらに T-Red/OT-Iマウスの

ナイーブ CD8陽性 T細胞では、T-Redの細胞で見られるアポトーシス誘導遺伝子 Bim、

Chop、Trib3の発現亢進が抑制された(図 6 e、図 7 d)ことから、T-Red/OT-I細胞で

はトランスジェニック TCRによる何らかのシグナルが入力されることで、KDELR1の機

能異常により惹起されるアポトーシスが回避されている可能性があった。つまり、TCR

トランスジェニック胸腺細胞ではトランスジェニック TCRから一定の強度の正の生存

シグナルが入力されることで、T-Red マウス背景の細胞で特徴的なアポトーシスが抑

制されている可能性が考えられた。逆に、野生型のマウスの胸腺細胞は TCRトランス

ジェニックほど強力な TCR シグナルが発生していないため、T-Red マウス背景の過剰

な ISRに対し高い感受性を示しているとも考えられた。そこで我々の研究室では、本

学位論文の主論文として用いた今回の報告に引き続き、ナイーブ T細胞の生存に対す

るKDELR1/PP1シグナルとTCRシグナルの関係性をさらに検討している 50。これまでに、

TCRトランスジェニックマウスである OT-Iマウスや P14マウスの T細胞では、TCRの

自己反応性の指標となる CD5 の発現が高いことが報告されていた 51。そこで、T-Red

マウスでアポトーシスを回避し残存しているナイーブ CD4 陽性 T 細胞及びナイーブ

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CD8陽性 T細胞の CD5の発現を定量した結果、野生型マウスの細胞よりも CD5の発現

が高いことが確認された 50。また、MHC クラス I に H-2Kbを、抗原ペプチドに OVA 由

来のペプチド配列 SIINFEKLを用いた MHCテトラマーを利用した解析の結果、T-Redマ

ウスのポリクローナル CD8 陽性 T 細胞は、野生型マウスの細胞と比較し、

H2-Kb/SIINFEKL テトラマーに対して高いアフィニティーを持つ細胞の存在比率が高

いことが判明した 50。さらに、OT-I TCRに対する様々なアフィニティーを持つ OVA改

変ペプチドを用いた検討を実施し、T-Red/OT-I マウスのナイーブ T 細胞が in vitro

及び in vivoで生存及び増殖するためには、OT-Iマウスのナイーブ T細胞よりも高い

アフィニティーのペプチドリガンドが必要なことが判明した 50。これらの結果は、

KDELR1の機能欠損による過剰なISRによるアポトーシス誘導をT-Red型ナイーブT細

胞が回避し生存するためには、野生型ナイーブ T細胞よりも強力な TCRシグナルが必

要なことを示しており、定常状態のナイーブ T細胞でも一定のレベルで生じているで

あろう ISRを TCRシグナルが協調的に制御していることを示唆する新たな知見として

も重要と考えられる。

一方で、ナイーブ T細胞で ISRが引き起こされている内因的な発生原因は現段階で

は明確ではない。どのような因子が発端となり、ナイーブ T細胞に恒常的な負の生存

シグナルが入力されているのかを解明する必要がある。さらに、KDELR1が PP1と相互

作用して、どのようにして PP1の活性を制御しているかというメカニズムも今後の明

らかにすべき課題として残っている。PP1 の脱リン酸化活性や基質特異性、細胞内局

在は複数の調節タンパク質により制御されており 45、例えば分子シャペロン Bip は

KDEL配列を持ち KDELR1に結合することも既知である 51、52、53。さらに、PP1-GADD34複

合体は小胞体に局在し、KDELR1はゴルジ体から分子シャペロンを逆行輸送すると報告

されている 54。そのため、野生型 KDELR1は PP1の立体構造の維持に必要なある種の分

子シャペロンを輸送、供給することで PP1の活性制御に関与している可能性があり、

T-Red型KDELR1を持つナイーブT細胞ではそのような分子の供給に異常が生じること

で PP1が正常に機能していない可能性が考えられる。

このように、今回得られた一連の結果は、KDELR1が PP1活性制御を通じ ISRを制御

することでナイーブ T細胞の恒常性を維持していることを強く示すものである。以上

の結果は、T細胞に関する他の最近の知見を加え、総説としても公表した。

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VII. 総括及び結語

リバースディレクション法により炎症回路に関わる遺伝子の発現変動がヒトの

様々な疾患に関連する可能性を示唆した。

ENU処理により作製したナイーブ T細胞の細胞数に異常を持つ変異マウス(T-Red

マウス)の原因遺伝子として KDELR1 を同定した。

KDELR1-PP1が直接相互作用することを見い出し、T-Redナイーブ T細胞では両者

の相互作用と PP1の脱リン酸化活性が低下することを発見した。

T-Redマウスのナイーブ T細胞では eIF2αのリン酸化が持続し、下流のアポトー

シス関連遺伝子の発現が誘導され細胞死が亢進していることを明らかにした。

T-Redマウスでは、T細胞依存型の全身性の免疫応答が低下することを示した。

ISRに対するナイーブ T細胞の恒常性維持は、KDELR1-PP1と TCRシグナルの協調

により制御されている可能性を示唆した。

T細胞の生存を正に制御するシグナルとして、IL-7や TCRシグナルが従来から知ら

れていたが、本報告によりナイーブ T細胞では生存を負に制御するシグナルが恒常的

に負荷されている可能性が示唆された。さらに野生型マウスでは KDELR1-PP1 経路が

TCRシグナルと協調し過剰な ISRを適切に解除することで、ナイーブ T細胞の細胞数

とその恒常性が適切に維持されていることが示唆された。本研究を通じ、生体内で T

細胞の生存維持に必要な機能やその制御機構の全容解明にまた一歩近づくことができ

たと考えている。

今回得られた知見を応用することで、将来的に T細胞の恒常性や機能を人為的に制

御する新規医薬品開発や免疫関連疾患を治療・予防するための方策立案に結び付くこ

とが期待される。2017年 3月現在で、PP1を標的とした阻害薬、活性調整薬は非臨床

段階ではいくつかの開発品が散見されるものの、臨床段階まで開発が進んだ製品は存

在しない。また、KDELR1を標的とした医薬品の開発候補品は非臨床段階の製品も含め

てまだ存在しない。PP1 には多種多様な基質に作用することが予想されるため、特異

性の面から医薬品としての開発難易度が高いことが予想される。今後の研究で、

PP1-KDELR1 の相互作用の影響が免疫細胞に限定されるというエビデンスがさらに積

み上げられれば、両者の相互作用の調整を狙った医薬品開発へと道が開ける可能性が

ある。例えば、KDELR1-PP1の相互作用の促進剤はある種の感染症や抗腫瘍効果を持つ

医薬品として、一方で、阻害剤は抗炎症治療薬や自己免疫疾患治療薬として応用可能

かもしれない。また、IL-6 シグナルの詳細解明に極めて有用であった F759 マウスの

ように、KDELR1の各種ノックアウトマウスは、T細胞のホメオスタシス維持に異常の

認められる実験モデル動物として医薬品の開発等の応用研究への利用や免疫細胞の恒

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常性維持を生体レベルで真に理解するための基礎研究に活用できる可能性がある。今

後、不足している情報を補完し、KDELR1の生理的な機能の理解をさらに進めることが、

将来的な医療への応用可能性を探るためには非常に重要である。

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VIII. 謝辞

日々の研究の進め方に関してのご指導から研究に対する基本姿勢まで幅広い観点

でご指導を頂戴するとともに学位申請の機会を与えて下さった指導教授の村上正晃先

生に心より深く御礼申し上げます。また、実験を進める上で常に全力でのご協力を賜

り、さらに本論文の作成にあたっても温かいご指導と多大なご協力を頂戴した上村大

輔講師に深謝申し上げます。本研究の実施及び論文の作成にあたり、多大なご協力と

励ましを頂きました北海道大学遺伝子病制御研究所・大学院医学研究科分子神経免疫

学分野の先生方及びスタッフの方々及び旧大阪大学大学院医学系研究科免疫発生学研

究室の皆様に感謝申し上げます。

なお、本研究の一部は独立行政法人日本学術振興会の科研費、外国人研究者招へい

事業 、科学技術振興機構 JST-CRESTプログラム、大阪臨床免疫学研究奨励会の各補助

金の助成を受け実施したものであり、ここに謝意を表します。

また、世界トップクラスの研究室への研究出向をサポートして下さったゼリア新薬

工業株式会社の皆様並びに学位取得のための研究生活を支えてくれた家族に感謝しま

す。

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