トロンボモデュリン...

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リコモジュリン点滴静注用 12800 トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え) 1 1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 旭化成ファーマ株式会社

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Page 1: トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え)...リコモジュリン点滴静注用12800 トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え) 第 1

リコモジュリン点滴静注用 12800

トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え)

第 1 部

1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

旭化成ファーマ株式会社

Page 2: トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え)...リコモジュリン点滴静注用12800 トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え) 第 1

1.5 項 略号一覧(1/2)

略号 省略していない表現

AL-P alkaline phosphatase(アルカリホスファターゼ)

APC activated protein C(活性化プロテイン C)

APTT activated partial thromboplastin time(活性化部分トロンボプラスチン時間)

ATIII antithrombin III(アンチトロンビン III)a)

C5min plasma concentration at 5 min after administration(投与後 5 分時の血漿中濃度)

Cmax maximum plasma concentration(最高血漿中濃度)

ChE cholinesterase(コリンエステラーゼ)

Cl クロール

DIC disseminated intravascular coagulation(汎発性血管内血液凝固症)b)

ED20 20% effective dose(20%作用用量)

ED70 70% effective dose(70%作用用量)

FAS full analysis set

FDP fibrin/fibrinogen degradation products(フィブリン・フィブリノゲン分解産物)

FVa activated factor V(活性化第 V 因子)

FVIIIa activated factor VIII(活性化第 VIII 因子)

GOT glutamic-oxaloacetic transaminase

GPT glutamic-pyruvic transaminase

IC20 20% inhibitory concentration(20%阻害濃度)

IC50 50% inhibitory concentration(50%阻害濃度)

IC80 80% inhibitory concentration(80%阻害濃度)

K カリウム

LDH lactate dehydrogenase(乳酸デヒドロゲナーゼ)

LPS Lipopolysaccharide(リポ多糖)

MOF multiple organ failure(多臓器不全)

Na ナトリウム

PAI-1 plasminogen activator inhibitor-1(プラスミノゲンアクチベーターインヒビター-1)

PPS per protocol set

QOL Quality of Life

T1/2 elimination half-life(消失半減期)

TAT thrombin・antithrombin III complex(トロンビン・アンチトロンビン III 複合体)

TCT thrombin clotting time(トロンビン凝固時間)

a) アンチトロンビン IIIの正式名称としては、アンチトロンビン(AT)が推奨されているが、本

申請資料では、試験報告書で使用される用語が ATIIIであるため、混同を避ける目的でアン

チトロンビン III(ATIII)の用語を用いた。

b) 一般に、DICを示す疾患名としては「播種性血管内血液凝固症」の用語が用いられることが

多いが、同効薬の添付文書において「汎発性血管内血液凝固症」が用いられているため、本

資料においても「汎発性血管内血液凝固症」を用いた。

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1.5 項 略号一覧(2/2)

略号 省略していない表現

TF tissue factor(組織因子)

TM thrombomodulin(トロンボモジュリン)

U unit(単位)

厚生省 DIC 診断

基準

厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班による DIC 診断基準(1988 年改訂)C)

本剤、本薬 1.5 項において、トロンボモデュリン アルファ注射製剤を示す場合「本剤」、ト

ロンボモデュリン アルファ薬剤原薬を示す場合「本薬」と略した。

低用量群、中用

量群、高用量群

低用量群、中用量群、高用量群は、それぞれ 38 U/kg 群(0.006 mg/kg 群)、130 U/kg

群(0.02 mg/kg 群)、380 U/kg 群(0.06 mg/kg 群)を示す。

c) 次頁に厚生省 DIC診断基準を添付した。

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I.基礎疾患 得点

あり 〔1〕

なし 〔0〕

II.臨床症状

1) 出血症状(注 1)

あり 〔1〕

なし 〔0〕

2) 臓器症状

あり 〔1〕

なし 〔0〕

III.検 査 成 績

1) 血清 FDP 値(μg/mL)

40≦ 〔3〕

20≦ <40 〔2〕

10≦ <20 〔1〕

10> 〔0〕

2) 血小板数(×103/μL)(注 1)

50≧ 〔3〕

80≧ >50 〔2〕

120≧ >80 〔1〕

120< 〔0〕

3) 血漿フィブリノゲン濃度(mg/dL)

100≧ 〔2〕

150≧ >100 〔1〕

150< 〔0〕

4) プロトロンビン時間

時間比(正常対照値で割った値)

1.67≦ 〔2〕

1.25≦ < 1.67 〔1〕

1.25> 〔0〕

IV.判 定(注 2)

1) 7 点以上 DIC

6 点 DIC の疑い(注 3)

5 点以下 DIC の可能性少ない

2) 白血病その他注 1 に該当する疾患

4 点以上 DIC

3 点 DIC の疑い(注 3)

2 点以下 DIC の可能性少ない

V.診断のための補助的検査所見

1) 可溶性フィブリンモノマー陽性

2) D-D ダイマーの高値

3) トロンビン・アンチトロンビン III 複合体の高値

4) プラスミン・α2 プラスミンインヒビター複合体の

高値

5) 病態の進展に伴う得点の増加傾向の出現。特に数

日内での血小板数あるいはフィブリノゲンの急激

な減少傾向ないし FDP の急激な増加傾向の出現

6) 抗凝固療法による改善

VI.注 1:白血病および類縁疾患、再生不良性貧血、抗

腫瘍剤投与後などの骨髄巨核球減少が顕著

で、高度の血小板減少をみる場合は血小板数

および出血症状の項は 0 点とし、判定は IV-2)

に従う*1。

注 2:基礎疾患が肝疾患の場合は以下の通りとする。

a. 肝硬変および肝硬変に近い病態の慢性肝炎

(組織上小葉改築傾向を認める慢性肝炎)の

場合には、総得点から 3 点減点した上で IV-1)

の判定基準に従う。

b. 劇症肝炎および上記を除く肝疾患の場合は、

本診断基準をそのまま適用する。

注 3:DIC の疑われる患者でV.診断のための補助

的検査成績、所見のうち 2 項目以上満たせば

DIC と判定する。

VII.除外規定

1) 本診断基準は新生児、産科領域の DIC の診断には

適用しない。

2) 本診断基準は劇症肝炎の DIC の診断には適用しな

い。

厚生省 DIC 診断基準(厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班、1988 年改訂)

*1 本資料中では、「VI.注 1」の「白血病および類縁疾患、再生不良性貧血、抗腫瘍剤投与後な

どの骨髄巨核球減少が顕著で、高度の血小板減少をみる」に該当し、判定を「IV-2)」で行っ

た症例を DICの疾患群分類として「白血病群」と称した。上記に該当せず、判定を「IV-1)」

で行った症例を DICの疾患群分類として「非白血病群」と称した。

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目次

[1.5-頁]

1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯 ...................................................................................................1

1.5.1 起原又は発見の経緯 ........................................................................................................................1

1.5.1.1 はじめに ......................................................................................................................................1

1.5.1.2 汎発性血管内血液凝固症(DIC)の臨床的/病態生理学的側面.............................................1

1.5.1.3 DIC 治療の現状 ...........................................................................................................................3

1.5.1.4 DIC 治療における抗凝固療法の問題点 ...................................................................................6

1.5.1.5 本剤発見の起原 ..........................................................................................................................7

1.5.2 開発の経緯 ......................................................................................................................................10

1.5.2.1 非臨床試験成績の概略 ............................................................................................................11

1.5.2.2 臨床試験成績の概略 ................................................................................................................18

1.5.2.3 申請製剤・申請効能以外の開発・承認状況 ........................................................................29

1.5.2.4 開発の経緯のまとめ ................................................................................................................29

1.5.3 特徴及び有用性 ..............................................................................................................................31

1.5.3.1 非臨床試験からみた特徴及び有用性 ....................................................................................31

1.5.3.2 臨床試験からみた特徴及び有用性 ........................................................................................32

1.5.4 効能・効果及び用法・用量 ..........................................................................................................34

1.5.4.1 申請品目 ....................................................................................................................................34

1.5.4.2 効能・効果 ................................................................................................................................34

1.5.4.3 用法・用量 ................................................................................................................................34

1.5.5 参考文献..........................................................................................................................................36

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-1

1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5.1 起原又は発見の経緯

1.5.1.1 はじめに

トロンボモデュリン アルファ(遺伝子組換え)は、ヒトトロンボモジュリンの活性部位を含む

細胞外ドメインのみを可溶型分子として遺伝子工学的に動物細胞で産生させた新規物質であり、

旭化成工業株式会社(現 旭化成ファーマ株式会社)で開発された。本剤は、既存薬にない新し

い血液凝固調節作用メカニズムを有する。

1.5.1.2 汎発性血管内血液凝固症(DIC)の臨床的/病態生理学的側面

1.5.1.2.1 DIC の患者数

DIC は、造血器悪性腫瘍・重症感染症・固形癌などの基礎疾患の存在下に発症する重篤な合併

症である。基礎疾患に DIC を合併することにより、患者の予後は悪化する場合が多い1)。本邦で

は、厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班により 1997 年に実施された全国的アンケート調査

の結果2)、年間の DIC 患者数は、73,000人と推定されている。同アンケート調査によれば、DIC

を合併した患者の生命予後は極めて悪く、6 診療科 243施設(内科・外科・小児科・産科婦人科・

集中治療部・救急部)2,193例における転帰は、死亡が 56.0%、生存が 39.8%であった(不明 4.2%)。

死亡原因の内訳は、基礎疾患によるものが 54%、DIC によるものが 24%、合併症によるものが 20%

であった。同調査によれば、上記 6 診療科における DIC の基礎疾患の内訳は表 1.5.1-1 のとおり

であり、患者数は、感染症、造血器悪性腫瘍、固形癌の順に多く、その他ではショック、肝硬変

などが多かった。

表 1.5.1-1 DIC の各基礎疾患別の患者数

基礎疾患分類 基礎疾患 患者数 a)

敗血症 303

呼吸器感染症 144

胆道感染症 55 感染症

成人呼吸促迫症候群 53

555

急性骨髄性白血病 104

急性リンパ性白血病 76

急性前骨髄球性白血病 73 造血器悪性腫瘍

非ホジキン悪性リンパ腫 161

414

肝細胞癌 142

肺癌 99

胃癌 93 固形癌

結腸癌 65

399

ショック 222

肝硬変 123 その他

大動脈瘤 69

414

a) 厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班による調査の結果 2)、DICの

基礎疾患について回答のあった 6診療科 243施設における患者数

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-2

1.5.1.2.2 DIC の発症機序と病態

DIC の発症機序を図 1.5.1-1 に示した。DIC は、造血器悪性腫瘍、感染症、固形癌などの重篤な

基礎疾患に合併し、血液凝固系の過度な活性化により全身の微小血管内に血栓を生じ、重症化す

ると微小循環障害により臓器障害を合併する、あるいは線溶系活性化及び消費性凝固障害により

出血症状が生じる病態である。

組織障害 単球・マクロ

ファージ活性化

組織因子 血管内皮

細胞障害

トロンビン生成

微小血栓

MOF 出血

血小板・凝固因子の消費性低下

凝固系活性化

造血器悪性腫瘍、固形癌 感染症(エンドトキシン、サイトカイン)

二次線溶

外傷

MOF:多臓器不全

組織障害 単球・マクロ

ファージ活性化

組織因子 血管内皮

細胞障害

トロンビン生成

微小血栓

MOF 出血

血小板・凝固因子の消費性低下

凝固系活性化

造血器悪性腫瘍、固形癌 感染症(エンドトキシン、サイトカイン)

二次線溶

外傷

MOF:多臓器不全

図 1.5.1-1 DIC の発症機序3)

図 1.5.1-1 に示すとおり DIC の発症機序は基礎疾患により異なる。すなわち、造血器悪性腫瘍・

固形癌といった悪性腫瘍を基礎疾患とする DIC においては、腫瘍細胞に発現している組織因子が

血液と接触することにより、血液凝固系が過度に活性化される4)。重症感染症を基礎疾患とする

DIC においては、エンドトキシンなどによる炎症性サイトカインネットワークの活性化を介して

凝固系の過度の活性化が起こる4)。

このように、各基礎疾患により凝固系活性化の機序は異なるものの、各基礎疾患に共通するの

は、トロンビンの過剰生成が起こることである4)。

トロンビンの過剰生成の結果、全身の微小血管内に血栓が多発すると、その結果として虚血性

の臓器障害、すなわち DIC の臓器症状が生じる5)。脳、肺、肝臓、腎臓などの主要臓器での血栓

形成は特に問題であり、症状が高度な場合は直接生命に関わる。血栓形成の程度が致死的でない

場合でも、これら臓器の機能不全が全身状態を悪化させる場合が多い。特に、臓器障害が複数の

臓器で起こり、多臓器不全(以下、MOF)の状態に陥ると、患者の予後は極めて不良となる6)。

一方、血液凝固系の過度な活性化による全身性微小血栓の多発に対して二次線溶が過度に活性

化すると、止血血栓の溶解が必要以上に起こるため、出血が生じる。また、過剰に生成したトロ

ンビンにより血小板や凝固因子が消費され、血液中での血小板数や凝固因子濃度が低下すると、

止血血栓が十分に形成されないため、やはり出血が生じる。すなわち、DIC における出血の原因

は、トロンビンの過剰生成により引き起こされる、線溶系の過度な活性化及び消費性凝固障害で

ある5)。出血症状に関しては、出現部位が脳、肺、消化管などの重要臓器の場合、出血そのもの

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-3

が死因となる場合がある7)。DIC における出血症状は、さまざまな部位に起こることが知られて

おり8)、これらの出血症状が持続した場合には、患者の QOLが著しく損なわれる

9)。

以上のように、DIC の基礎疾患は様々でありその症状の発現状況も多様であるが、DIC の本態

がトロンビンの過剰生成であることは、基礎疾患あるいは発現する症状の種類によらず共通であ

る。

1.5.1.2.3 DIC の診断

DIC の診断は、出血症状、臓器症状の観察に加え複数の凝血学的検査を組み合わせて行うのが

一般的である。

凝固線溶系のバランスが破綻した DIC においては、凝固系の活性化と線溶系の活性化が同時に

起こり一見相反する複雑な病態を呈する。病態が凝固系の活性化、線溶系の活性化のどちらに傾

いているかによって、臓器症状及び出血症状の発現程度が異なる。したがって、個々の DIC 患者

の病態把握には、凝固系検査、線溶系検査を複数組み合わせて評価することが必要である10)。

また DIC では、心筋梗塞や脳血栓症などといった局所性の血栓症と異なり、全身性に微小血栓

が多発するため、血栓の存在を画像検査などの方法で直接捉えることができない。したがって、

DIC の病態把握のためには、複数の凝血学的検査により間接的に微小血栓の存在を把握する必要

がある。本邦で長年使用されてきた厚生省 DIC 診断基準においても、出血症状、臓器症状、凝血

学的検査を組み合わせて DIC の診断を行っており、凝血学的検査値に得点が重点的に配点されて

いる11)。

本邦においては、1980 年に厚生省特定疾患血液凝固異常症調査研究班により DIC 診断基準が作

成され12)、さらに 1988 年に改訂された

11)。この厚生省 DIC 診断基準は臨床現場で広く使用され

ている。これまでに本邦で実施されてきた DIC 治療薬の臨床試験のほとんどが厚生省 DIC 診断基

準を選択基準として用いている。また、2004 年には日本血栓止血学会・日本救急医学会により救

急領域の DIC 診断基準が作成され13)、さらに改訂されたものが急性期 DIC 診断基準として 2005

年に公表された14,15)

欧米においては、DIC は治療すべき疾患として認識されながらも、長らく統一的な DIC の診断

基準がなかったため、臨床試験実施の妨げとなってきた16,17)

。このため、欧米においても DIC の

診断基準の必要性が指摘され、2001 年になり国際血栓止血学会により、厚生省 DIC 診断基準を踏

襲、一部変更する形で overt-DIC(顕性化した DIC)の診断基準が作成され、使用され始めている16,18,19)

1.5.1.3 DIC 治療の現状

1.5.1.3.1 DIC の治療意義

DIC の治療意義は、「DIC による患者の死亡を防ぐこと」及び「DIC により患者の全身状態が

悪化するのを防ぎ基礎疾患に対する積極的な治療機会を増やすこと」である。したがって DIC の

治療においては、以下の 2 点が重要であると指摘されている5)。

• DIC の基礎疾患を治療し DIC の原因を除去すること

• 出血症状や臓器症状といった DIC の症状をコントロールすること

DIC の治療においては、DIC の原因となっている基礎疾患を治療し取り除くことが最優先され

る。しかしながら、DIC の基礎疾患はいずれも重篤な疾患であるため、基礎疾患自体に対する治

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-4

療が奏効しない場合あるいは奏効するまでに時間を要する場合が多い。また、感染症に合併した

DIC の場合、たとえ抗菌剤による治療が奏効していたとしても、それだけでは不十分であり、DIC

そのものに対する治療が必要である17,20)

。基礎疾患の病態に加えて DIC による出血症状や臓器症

状が重なると患者の全身状態は悪化するので、DIC に対する治療を適切に行って出血症状や臓器

症状をコントロールし、DIC による患者の状態悪化を軽減することが求められる。

1.5.1.3.2 DIC 治療の実際

基礎疾患の治療と並行して実施される DIC に対する治療は、以下のとおりに大別される。

(1) 抗凝固薬による抗凝固療法

(2) 濃厚血小板・新鮮凍結血漿による補充療法

(3) 抗線溶薬による抗線溶療法

(1)の抗凝固療法の位置付けについては次項に述べる。

(2)の濃厚血小板・新鮮凍結血漿による補充療法は、DIC により消費された血小板や凝固因子を

体外から補う療法であり、血小板数あるいは血液凝固因子が高度に低下している DIC 患者に実施

される21)。

(3)の抗線溶療法は、線溶系の活性化が高度で出血傾向が顕著な一部の患者に適用となり、本邦

ではトラネキサム酸などが使用されている。しかしながら、線溶系を阻害することは、使用方法

を誤ると血栓による臓器障害を悪化させるため、抗線溶療法は一般的には実施されていないのが

現状である22)。

1.5.1.3.3 DIC 治療における抗凝固療法の位置付け

DIC の本態は血液凝固系の過度な活性化であるため、それを抑制する抗凝固療法が基礎疾患に

対する治療と並行して広く行われている。

抗凝固療法が、出血症状や臓器症状のコントロール、転帰の改善に有用であることは以下のと

おり多くの基礎的研究、臨床研究により明らかにされている。

(1) 出血症状

DIC 患者では、出血症状が高頻度に認められ、その原因は上述したように凝固系の過度

な活性化により引き起こされる線溶系活性化と消費性凝固障害である5)。抗凝固薬による

凝固系の抑制は、線溶系活性化及び消費性凝固障害の是正につながるため、DIC 患者の出

血症状を改善させることができる。DIC 患者に抗凝固療法を施すことにより、出血死を減

少させることが白血病に合併した DIC 患者を対象とした試験により示されている23)。

(2) 臓器症状

DIC 患者では、微小血栓の多発による臓器障害が起こり、しばしばMOF の状態に陥る。

抗凝固薬による凝固系の抑制は、微小血栓の形成を阻害することができるため、臓器症状

の軽減につながる。動物を用いた基礎研究により、抗凝固薬の投与により敗血症の DIC モ

デルにおいて肝臓などの臓器不全の改善、死亡率の改善などの効果が得られることが明ら

かにされている24,25)

(3) 転帰(生命予後)

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-5

感染症に合併する DIC に対して抗凝固療法を施すことが、生命予後の改善に結び付くこ

とは、主に欧米で実施された臨床研究より明らかにされている。そのような臨床研究が行

われるようになった経緯も含めて臨床試験結果の概略を以下に記載した。

欧米においては、「1.5.1.2.3 項」で記載したとおり、2001 年に overt-DIC(顕性化した

DIC)の診断基準が作成されるまで統一的な診断基準がなかったため、選択基準として

「DIC」が明示された抗凝固薬の比較臨床試験はほとんど実施されてこなかった。しかしな

がら、医療現場では DIC 患者への抗凝固療法として、凝固系活性化に対する予防的な低用

量ヘパリン投与が、急性前骨髄球性白血病や重症敗血症の治療に用いられてきた26,27)

また近年になって、DIC 合併例を多く含む重症敗血症患者を対象とした抗凝固療法の大

規模臨床試験が行われるようになり、遺伝子組換え型 APC による抗凝固療法が、重症敗血

症患者の死亡率を低下させることが証明された28)。

さらに、overt-DIC の診断基準が作成されたことを受けて、敗血症患者に対する臨床試験

の対象患者から overt-DIC の患者を抽出する事後的サブグループ解析が行われるように

なった。この結果、上記の遺伝子組換え型 APC の試験にエントリーされた症例のうち、

overt-DIC と診断された症例での検討から遺伝子組換え型 APC による抗凝固療法で DIC 患

者の死亡率が有意に低下することが示された29)。さらにこの治験データから、DIC におけ

る微小血栓の形成が患者の予後悪化に寄与することが指摘されている30)。同様な結果が、

高用量の ATIII 製剤を重症敗血症患者に投与した試験のサブグループ解析からも得られて

いる31)。すなわち、DIC 患者に対して抗凝固療法を施すことが、患者の生命予後を改善さ

せる上で有用であることが複数のサブグループ解析から示された。

古くから DIC の治療に用いられてきたヘパリンに関しても以下のような知見が最近得ら

れている。重症敗血症患者を対象とした遺伝子組換え型 APC、高用量の ATIII 製剤、遺伝

子組換え型 tissue factor pathway inhibitor の大規模臨床試験においては、血栓形成防止目的で

低用量ヘパリン(低分子量ヘパリン含む)が約 7割の患者に投与されていた。ヘパリン投

与に対して無作為化されていないため結果の解釈には留意が必要であるが、これらの試験

の事後的サブグループ解析結果から、ヘパリンを投与した患者は非投与と比較して 28日目

の生存率が有意に高いことが報告されている32,33)

1.5.1.3.4 DIC における抗凝固療法のハードエンドポイント

DIC における抗凝固療法による治療意義は、基礎疾患の悪化に伴い発症する DIC を抑制し、DIC

による直接的な死亡を防ぐことや、DIC の悪化による基礎疾患の治療機会の逸失を防ぎ、結果的

に患者の生命予後を改善することにあると考えられる。すなわち、本剤で目標適応症とした DIC

における抗凝固療法のハードエンドポイントは、患者の生命予後改善であると考えられる。しか

しながら、その評価時期は以下に述べるとおり、基礎疾患により異なると考えられる。

感染症を基礎疾患とする DIC においては、海外で行われた重症敗血症における大規模臨床試験

で投与開始後 28日目の死亡率が主要評価項目として設定されている28,34,35)ことから、抗凝固薬投

与開始後およそ 1ヶ月の生命予後が抗凝固療法のハードエンドポイントとして適切であると考え

られる。

造血器悪性腫瘍あるいは固形癌を基礎疾患とする DIC においては、感染症を基礎疾患とする

DIC の場合と異なり、しばしば再発・寛解を繰り返すこともあり、基礎疾患の再発により再び DIC

が発症することも少なくない。すなわち、造血器悪性腫瘍あるいは固形癌の長期間にわたる治療

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-6

経過においては、患者が死亡のリスクにたびたびさらされることになるため、これらの累積する

死亡リスクを低下させることが臨床的に重要である。したがって、造血器悪性腫瘍あるいは固形

癌を基礎疾患とする DIC の抗凝固薬による治療においては、長期間の治療経過における生命予後

がハードエンドポイントであると考えられる。

1.5.1.4 DIC 治療における抗凝固療法の問題点

現在本邦で DIC 治療に用いられている抗凝固薬は、ヘパリン、低分子量ヘパリン、低分子ヘパ

リノイド、蛋白分解酵素阻害剤、及び ATIII 製剤である。

これらの中でヘパリンは、DIC におけるプラセボ対照の controlled study に基づいたエビデンス

はないものの、古くから DIC 治療に広く使用されてきた36,37)

。したがって、ヘパリンは DIC に対

する抗凝固療法の中では実質的な標準薬として位置付けられている。このことは、上記の既存薬

のほとんどがヘパリンを対照薬として比較試験を行ってきたことからも裏付けられる。

DIC 患者にヘパリンを使用する目的は、凝固系の活性化を抑制することである38)。DIC 患者に

対しては 1日量 7,200~12,000 U のヘパリンを持続点滴するのが一般的である4)。

DIC 以外の一般的な血栓症の治療においてヘパリンで十分な抗凝固作用を得るには、1日用量

で 30,000~40,000 U程度が必要である39)。このような用量では、ヘパリンは、その強力な抗凝固

作用によって止血系の反応も阻害する場合がある。特に DIC 患者においては、血小板や凝固因子

の低下、線溶系活性化が原因で出血が生じやすい状況に陥っているため、20,000 U 以上のヘパリ

ン投与では出血症状の発現・増悪が問題となる26,40)

。欧米では当初、一般の血栓症の患者と同様

に DIC 患者に対する 30,000~40,000 U程度のヘパリン投与がなされたが、出血発現例が多発し、

ヘパリン療法の評価が比較的低くなる原因となった41)。今日においては、DIC 患者における抗凝

固効果と出血に対する影響のバランスから、欧米、本邦共に DIC における最適化された標準的な

ヘパリンの用量は、一般の血栓症に対する治療量よりも低用量の 1日 7,200~12,000 U である4,41,42)

しかしながら、この低用量ヘパリン療法は、一般の血栓症に対する用量よりも低い用量に抑えら

れていることから明らかなように、効果の面では必ずしも十分な抗凝固作用が発現する治療では

ない38)。ヘパリン以外の抗凝固薬においても、基本的にはヘパリンと同様な問題点を有しており、

例えばガベキサートメシル酸塩においては臨床的に抗凝固効果が十分に発揮されていないと指摘

する報告がある43)。

すなわち、ヘパリンを初めとする従来の抗凝固薬の DIC 治療における問題点は、「全身的に高

度な凝固系の活性化状態にある DIC に対し抗凝固療法を施す必要がある一方で、DIC は出血が起

こりやすい状態にあるため、十分な抗凝固療法ができない」という点である。

DIC 治療において抗凝固薬投与により、出血を悪化させずに十分な抗凝固効果を得ることがで

きれば、出血症状・臓器症状の改善を通じた患者の全身状態の改善、さらに生命予後の改善が期

待できる。同時に、十分な抗凝固療法により患者を DIC 状態から離脱させることができれば、濃

厚血小板や新鮮凍結血漿など供給量に限界のある血液製剤の使用頻度を減少させられることが期

待できる。DIC は致死的疾患であり、臨床現場においては、出血症状の悪化が生じない範囲で、

十分な抗凝固効果を得ることができる抗凝固薬の出現が切望されている。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-7

1.5.1.5 本剤発見の起原

1.5.1.5.1 トロンボモジュリンの発見と生理的機能

トロンボモジュリン(以下、TM)は、血管内皮細胞上に存在する糖蛋白質であり、生体内の血

液凝固調節を担う生理的な抗凝固因子であることが、1982 年米国オクラホマ大学の Esmon らによ

るウサギ肺を用いた研究により明らかにされた44)。旭化成ファーマ株式会社では、19 年より

TM の遺伝子の研究に着手し、丸山征郎鹿児島大学教授、鈴木宏治三重大学教授と共同で 1987 年

世界に先駆けてヒトの TM 遺伝子の単離に成功した45,46)

。さらに、遺伝子工学的手法を用いて TM

の活性部位が細胞外ドメインに存在することを明らかにした47,48)

ヒトの TM 遺伝子単離と時を同じくして、TMが生理的な血液凝固の調節に中心的な役割を担

う分子であり、疾患の発症と密接に関連することが明らかにされた。すなわち、炎症反応の亢進

による血液凝固系の全身的な活性化に、TM の血管内皮細胞上での発現低下が関与していること

が明らかとなった49)。DIC を高頻度で合併する髄膜炎菌血症の患者においてバイオプシーが実施

され、血管内皮細胞上での TM 発現が著しく低下していることが明らかにされた50)。これらの研

究から、発現が低下した TM を体外からの投与で補充することが、全身性の血液凝固活性化を来

たしている疾患に対し有効な治療法になることが推測された。

また最近、TM には、好中球の血管内皮への接着を阻害する作用があることが示された51)。TM

は凝固系の制御のみでなく、炎症の制御も含めた生体の防御機構に非常に重要な役割を果たす分

子であることが指摘されている52)。さらに、炎症後期の致死的メディエーターとして知られてい

る high-mobility group-B1 DNA-binding protein に対し TMが結合しその作用を失わせることが報告

されており53)、TM は内皮細胞の果たす生体防御機構の中心的存在であることが指摘されている

54)。

1.5.1.5.2 TM の医薬品への応用

天然型 TM は、膜蛋白質であり難溶性である。医薬品への応用には、可溶性の蛋白質が好まし

いことから、活性部位を含む細胞外ドメインのみを可溶型分子として遺伝子工学的に産生するこ

とを試みた。TM の細胞外ドメインのみを動物細胞で発現させた可溶型分子すなわちトロンボモ

デュリン アルファ(以下、トロンボモデュリン アルファ注射製剤を示す場合「本剤」、トロン

ボモデュリン アルファ薬剤原薬を示す場合「本薬」)は、天然型 TM と同等の血液凝固調節作用

を有することが明らかとなり、医薬品応用への端緒となった55)。天然型ヒト TM とトロンボモデュ

リン アルファの構造の関係を示す模式図を図 1.5.1-2 に示した。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-8

細胞膜

D1 D2 D3 D4 D5

天然のヒトトロンボモジュリン

COOHNH2

細胞質

細胞外ドメイン

トロンボモデュリン アルファ

細胞膜

D1 D2 D3 D4 D5

天然のヒトトロンボモジュリン

COOHNH2

細胞質

細胞膜

D1 D2 D3 D4 D5

天然のヒトトロンボモジュリン

COOHNH2

細胞質

細胞外ドメイン

トロンボモデュリン アルファ

図 1.5.1-2 天然型ヒトトロンボモジュリンと本薬

D1:ドメイン 1、D2:ドメイン 2、D3:ドメイン 3、D4:ドメイン 4、D5:ドメイン 5

トロンビンは、単独で存在するとその基質特異性がフィブリノゲンや血小板上のレセプターに

向いており、血液を凝固させるように作用する56)。ところが、図 1.5.1-3 に示したように、トロ

ンビンは一旦 TM と結合すると、その基質特異性は変化しプロテイン C に向き、プロテイン C を

限定分解し APCへと活性化させる57)。生じた APC は、プロテイン S を補酵素とし血液凝固系の

活性化第 VIII 因子、活性化第 V 因子を失活させるため、TM は結果的に血液凝固系の活性化を阻

害する58-60)

。すなわち、TM はトロンビンの基質特異性を変化させることで、血液凝固系の活性

化にネガティブフィードバックをかける。本薬は、この天然型 TM の血液凝固に対するネガティ

ブフィードバック作用を保持するヒト型の可溶型分子である。したがって、生体内で血液凝固系

が過度に活性化されるため発症する血栓症に本薬は効果を発揮すると考えられた。

非臨床試験の結果、本薬は、in vitro におけるヒト血漿への組織因子添加によって惹起されるト

ロンビンの生成を、プロテイン C 活性化促進作用を介して阻害した。さらに、本薬のこの作用は、

トロンビンの凝固活性を直接的に阻害する作用発現濃度の 1/110 の濃度域で発現することが明ら

かとなった。トロンビンは血栓形成のみでなく止血反応に必須な因子であることから、トロンビ

ンを直接的に阻害しその凝固活性を過度に抑制することは出血につながる。トロンビンの凝固活

性を直接的に阻害しない濃度で、トロンビンの生成そのものを抑制することができる本薬は、ヘ

パリンを初めとする従来の抗凝固薬で困難であった「出血が発現あるいは増悪するリスクを増大

させない濃度範囲で強力な抗凝固活性を示すこと」が可能になる初めての抗凝固薬であることが

期待された。

さらにサルの DIC モデルを用いて本薬の静脈内投与による DIC 発症抑制効果を調べた結果、本

薬は DIC 発症に伴う凝血学的検査値の悪化を有意に抑制した。この DIC 発症抑制効果は、トロン

ビンの凝固活性に対する直接阻害作用濃度(in vitro)の 1/44 の濃度域で発現したことより、in vitro

の試験で想定した本薬の特徴が in vivo においても認められることが示唆された。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-9

以上、非臨床試験の結果より本薬は「全身的に高度な凝固系の活性化状態にあるため DIC に対

して抗凝固療法を施す必要がある一方で、DIC は出血が起こりやすい状態にあるため、十分な抗

凝固療法ができない」という DIC 治療の根本的な問題を解決し得る薬剤である可能性が示唆され

た。

PL,Ca2+

FⅧa

FⅨ

FⅨaFⅩ

PL,Ca2+FⅩa

FⅤa

プロトロンビン

トロンビン

フィブリノゲン

フィブリンモノマー

プロテインC

プロテインS

組織因子FVIIa

活性化

血栓

活性化プロテインC

(APC)

太実線:トロンビン生成阻害に関る反応

太点線:トロンビン直接阻害に関る反応

PL,Ca2+FⅩaFⅤa プロトロンビナーゼ複合体

TMあるいは

トロンボモデュリン アルファ

PL,Ca2+

FⅧa

FⅨ

FⅨaFⅩ

PL,Ca2+FⅩa

FⅤa

プロトロンビン

トロンビン

フィブリノゲン

フィブリンモノマー

プロテインC

プロテインS

組織因子FVIIa

活性化活性化

血栓

活性化プロテインC

(APC)

太実線:トロンビン生成阻害に関る反応

太点線:トロンビン直接阻害に関る反応

PL,Ca2+FⅩaFⅤa プロトロンビナーゼ複合体

TMあるいは

トロンボモデュリン アルファ

図 1.5.1-3 血液凝固カスケードと TM あるいはトロンボモデュリン アルファの

抗凝固作用機序

FVIIa:活性化第 VII 因子、FIX:第 IX 因子、FIXa:活性化第 IX 因子、FX:第 X 因子、

FXa:活性化第 X 因子、FVIIIa:活性化第 VIII 因子、FVa:活性化第 V 因子、PL:リン脂質、

Ca2+:カルシウムイオン

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-10

1.5.2 開発の経緯

本剤の開発の経緯を図 1.5.2-1に示した。

図 1.5.2-1 本剤の開発経緯

開発コード名:19 年 月~19 年 月 「A7A」、19 年 月~19 年 月 「AT-908」

19 年 月~製造販売承認申請時 「ART-123」

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-11

「1.5.1.5項」に記載したとおり、ヒト TMの細胞外ドメインのみを動物細胞で発現させた可溶

型分子すなわち本薬が、天然型 TMと同等の血液凝固調節作用を有することが明らかとなったた

め、本薬生産用のチャイニーズハムスター卵巣細胞株を樹立し、さらに精製法も確立した。これ

を受け 19 年 月から本薬の非臨床試験を開始した。非臨床試験結果を受けて、19 年 月か

ら臨床試験を開始した。

なお、本薬の開発当初には TMの力価の統一的な表示法がなかったため、本薬の含量を重量で

表示して試験を実施した。19 年より財団法人ヒューマンサイエンス振興財団官民共同研究「ト

ロンボモジュリンの単位の標準化」として、国立食品医薬品衛生研究所、持田製薬株式会社、旭

化成ファーマ株式会社の 3者によるヒト TMに関する標準アッセイ法の開発が開始された。本研

究によって標準化されたアッセイ法(APCアッセイ)は、2002年に公知となった61)。本剤の製造

販売承認申請の含量表示はこの統一化された力価表示とした。このため CTD第一部及び第二部で

は、必要に応じて適宜、力価と重量を併記して表示した。

1.5.2.1 非臨床試験成績の概略

1.5.2.1.1 効力を裏付ける試験

抗凝固薬は、主としてトロンビンに対する以下の 2つの薬理作用で、血液凝固系を阻害する。

• トロンビン生成阻害作用:トロンビンの生成量を低下させる作用

• トロンビン直接阻害作用:トロンビンの凝固活性を阻害する作用

本薬は、上記の 2つの作用を共に有するが、「トロンビン生成阻害作用」が「トロンビン直接

阻害作用」より非常に低い濃度で発現することが最大の特徴である。この特徴を示す効力を裏付

ける試験の結果を以下に記述する。

トロンビン生成阻害作用の評価方法としては、血漿に組織因子(以下、TF)を添加してトロン

ビンの生成量を定量する TF誘発トロンビン生成アッセイが適しており、トロンビン直接阻害作用

の評価方法としては、血漿にトロンビンを添加して血漿が凝固するまでの時間を測定するトロン

ビン凝固時間法(以下、TCT)が適している。そこで、ヒト及びサルの血漿を用い in vitroにおい

て、これら 2つの評価方法で本薬と比較対照薬であるヘパリンの薬効を比較した。また、サルを

用いた TF誘発 DICモデルを用いて両薬剤の in vivoの薬効を比較した。

1.5.2.1.1.1 In vitro 効力試験

本薬のトロンビン生成阻害作用及びトロンビン直接阻害作用に関して、へパリンを対照として

in vitro効力試験を実施した。

ヒト血漿を用いた試験結果を図 1.5.2-2に示した。

• 本薬は、ヒト血漿におけるトロンビン生成反応を濃度依存的に阻害するとともに、TCTを

濃度依存的に延長させトロンビン凝固活性を阻害した。

• ヘパリンもこの両者を濃度依存的に阻害したが、トロンビン生成反応とトロンビン凝固活

性の阻害濃度の関係が本薬とは大きく異なっていた。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-12

• 本薬及びヘパリンのトロンビン生成阻害濃度(IC50)とトロンビン直接阻害濃度(TCTの 2倍

延長濃度)の乖離は、それぞれ 110倍及び 2.4倍であり、ヘパリンと比較して本薬の方が

明らかに大きく乖離していた。

• 本薬及びヘパリンのトロンビン生成阻害作用における濃度反応曲線の傾きを、20%阻害濃

度に対する 80%阻害濃度の比(IC80/IC20比)によって評価した。本薬では、IC80/IC20比が

110であったのに対して、ヘパリンでは 7.0であり、本薬のトロンビン生成阻害作用におけ

る濃度反応曲線の傾きは、ヘパリンに比べて明らかに緩やかであった。

0

20

40

60

80

100

100

200

300

400

0.001 0.01 0.1 1 10 100

○ ト

ロンビン生成阻害

率 %

■ T

CT延長

率 %

トロンボモデュリン アルファ µg/mL

0

20

40

60

80

100

100

200

300

400

0.01 0.1 1

○ ト

ロンビン生

成阻害

率 %

■ T

CT延

長率

%

ヘパリン U/mL

図 1.5.2-2 ヒトの in vitro 試験における本薬(A)及びヘパリン(B)の薬理作用とその濃度反応性

ヒト血漿を用いた TF誘発トロンビン生成阻害率(○)及び TCT延長率(■)について、本薬及

びヘパリンの濃度反応性を示した。

また、サル血漿を用いた試験においてもヒト血漿とほぼ同様の結果が得られ、本薬の薬理作用

において、ヒトとサルの種差は小さいと考えられた。

1.5.2.1.1.2 In vivo 効力試験

(1) サル TF誘発 DICモデル

サルに TFを静脈内投与することにより作成した DICモデルを用いて本薬の効果をヘパ

リンと比較した(図 1.5.2-3)。

- 本薬を本モデルに静脈内投与した結果、生体内でのトロンビン生成量の指標である TAT

の増加を本薬は用量依存的に抑制した。本薬は、生体内においてもトロンビン生成阻害

作用を発現することが示唆された。

- へパリンでは TATに対する効果は認められなかった。

- 本薬、ヘパリンは共にフィブリノゲン低下を用量依存的に抑制した。

- フィブリノゲン低下に対する改善作用の用量反応性を評価するために、本薬の 20%作用

用量に対する 70%作用用量の比(ED70/ED20比)を算出した。本薬及びヘパリンの

A B

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-13

ED70/ED20比は、それぞれ 23及び 3.5であり、本薬のフィブリノゲン低下に対する改善

作用の用量反応曲線の傾きは、ヘパリンと比べて明らかに緩やかであった。

0

20

40

60

80

100

0

20

40

60

80

100

10 100 1000 104

0.001 0.01 0.1 1

○ フ

ィブリノゲン改善率

%

■ T

AT改善率

%

トロンボモデュリン アルファ U/kg

トロンボモデュリン アルファ mg/kg

< 0

0

20

40

60

80

100

0

20

40

60

80

100

1 10 100○

フィ

ブリ

ノゲ

ン改

善率

%

■ T

AT改善

率 %

ヘパリン U/kg

< 0

10

10

図 1.5.2-3 サルの in vivo 試験における本薬(A)及びヘパリン(B)の薬効とその用量反応性

TF誘発サル DICモデルの各用量におけるフィブリノゲン改善率(○)及び TAT改善率(■)に

ついて、本薬及びヘパリンの用量反応性を示した。

(2) TF 誘発ラット DIC モデル

ラットに TF を投与することにより作成した DIC モデルにおいて、本薬は 640 U/kg (0.1

mg/kg)の静脈内投与で TF の持続投与による出血時間の延長を抑制した。

(3) ラット LPS 誘発 DIC モデル

ラットに LPS を投与することにより作成した DIC モデルにおいて、LPS 投与直前の本薬

19,000 U/kg(3 mg/kg)の静脈内急速投与と、LPS 投与と同時の本薬 1,900 U/kg(0.3 mg/kg/hr)

の 24 時間静脈内持続投与を組み合わせて投与した結果、対照群の生理食塩液投与では、生

存率が 56%であったのに対し、本薬群では、生存率が 92%まで改善し救命効果が認められ

た。さらに、同モデルで発症する肝機能障害に対して本薬は抑制効果を示した。

1.5.2.1.1.3 効力を裏付ける試験のまとめ

以上の検討から、本薬の薬理学的な特徴に関して以下のことが明らかとなった。

(1) 本薬は、天然型ヒト TM の活性部位を有し、天然型ヒト TM と同様にトロンビンのプロテ

イン C 活性化を促進する。したがって、本薬は、血液凝固系において天然型ヒト TM と同

様の調節作用を有していると考えられる。

A B

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-14

(2) 本薬は、トロンビン生成阻害作用とトロンビン直接阻害作用を発現するが、既存薬のヘパ

リンに比べてトロンビン生成阻害作用とトロンビン直接阻害作用の発現濃度域が乖離して

おり、トロンビン生成阻害作用が低濃度で発現する。止血反応に必須なトロンビンを直接

的に過度に阻害することは、出血につながると考えられることから、トロンビン直接阻害

作用がほとんど発現しない濃度でトロンビン生成阻害作用を発現する本薬は、ヘパリンに

比べて出血のリスクが低いと考えられる。

(3) 本薬は、ヘパリンに比べてトロンビン生成阻害作用の濃度反応曲線の傾きが緩やかである。

(4) 本薬は、実験的 DIC モデルにおいて凝血学的検査値の改善作用を示し、その用量反応曲線

の傾きはヘパリンに比べて緩やかであることから、本薬はヘパリンに比べて安定した抗凝

固作用を発現すると考えられる。

(5) 本薬は、実験的 DIC モデルにおいて出血時間延長の抑制作用及び肝機能障害の改善作用を

示し、生存率の改善作用を示す。

以上の効力を裏付ける試験の結果から、本薬においては、DIC 患者に投与する際、トロンビン

生成阻害作用が十分に発現し、トロンビンの凝固活性をほとんど阻害しない血漿中濃度を設定す

ることが可能と考えられた。さらに、本薬ではトロンビン生成阻害作用の用量反応曲線の傾きが

ヘパリンと比較して緩やかであるため安全域が広く、安定した抗凝固効果を発揮し得るものと考

えられた。

1.5.2.1.2 安全性薬理試験

本薬の全般的な薬理学的特性を把握するために 19 年に一般薬理試験(GLP 非適用試験)と

して一般症状・中枢神経系、呼吸・循環器系、胃腸管系、及び腎・泌尿器系に対する作用を検討

した。その後、2001 年に安全性薬理試験ガイドライン(医薬審発第 902 号)が通知されたため、

コアバッテリー試験(中枢神経系、心血管系、及び呼吸系)及び hERG 試験について GLP を遵守

して検討した。

これらの試験の結果から、臨床推奨用法・用量の範囲内で、本薬が安全性薬理学的観点から問

題となる作用を惹起する可能性は極めて低いと考えられた。

1.5.2.1.3 薬力学的薬物相互作用試験

本邦において DIC の効能・効果を有する主要な薬剤であるヘパリン、ダルテパリン、ガベキサー

トメシル酸塩、及びナファモスタットメシル酸塩と本薬との相互作用について、健康成人から得

た血漿を用い in vitro で薬力学的薬物相互作用を検討した。

本薬のトロンビン生成阻害作用を指標とした薬力学的薬物相互作用試験において、ヘパリン及

びダルテパリンは、臨床血漿中濃度より低い濃度から本薬のトロンビン生成阻害作用を増強した。

また、本薬の高濃度で発現する APTT 延長作用を指標とした検討においても、本薬との併用によ

り相加的な APTT の延長が認められた。このことから、本薬とヘパリン類を併用した場合、抗凝

固作用が相加的に作用して出血作用が増強する可能性を否定できないため、ヘパリン類と本剤の

併用に際しては注意が必要と考えられた。

一方、臨床血漿中濃度と同程度のガベキサートメシル酸塩あるいはナファモスタットメシル酸

塩を併用しても、本薬のトロンビン生成阻害作用は増強されなかった。しかし、本薬の高濃度で

発現する APTT 延長作用を指標とした検討では、本薬と同効薬を併用した場合には相加的な作用

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-15

が認められた。このことから、本薬とガベキサートメシル酸塩あるいはナファモスタットメシル

酸塩との併用に際しても注意が必要と考えられた。

1.5.2.1.4 薬物動態試験

ラット及びサルに本薬を静脈内投与した結果、T1/2は約 7 時間(ラット)及び約 6 時間(サル)

であり、血漿中濃度に線形性が認められた。また、末梢コンパートメントの分布容積が約 10~20

mL/kg と小さかったことから、組織移行性は低いことが示唆された。1日 1回の反復投与により血

漿中濃度の上昇が認められたが、3~4回投与以降は定常状態に達した。サルにおいて、反復投与

時の推移は、初回投与時のシミュレーション曲線と一致したことから、反復投与による血漿中濃

度の上昇は、単回投与時の血漿中濃度推移より予測し得る範囲であり、本薬の蓄積性はないと考

えられた。また、T1/2が長いことから、DIC 患者に投与する際、24 時間持続静脈内投与が不要で、

1日 1回の静脈内投与が可能であると考えられた。

分布及び代謝試験は、ラットに125

I-トロンボモデュリン アルファを静脈内急速投与して検討し

た。組織への分布は、血漿で最も高く、肝臓などの他の臓器への組織移行性は低かった。いずれ

の組織も血漿とほぼ同様の減衰を示し、特定の組織に対する残留性はないと考えられた。この傾

向は反復投与によっても同様であった。代謝物を分子量分布に基づいて検討した結果、血漿中で

は未変化体画分に放射能の大部分が存在し、低分子量代謝物画分はわずかであった。尿中では両

画分がほぼ同比率で認められた。

サルに本薬を単回静脈内急速投与したところ、投与後 120 時間までに投与量の約半量が尿中に

未変化体として排泄され、投与量、投与方法(静脈内持続投与)、及び反復投与においても累積

排泄率に大きな変動は認められなかった。ラットに125

I-トロンボモデュリン アルファを単回静脈

内急速投与した結果、投与放射能量のほとんど(93%)が尿中に排泄され、糞中への排泄はわずかで

あった。尿中に排泄された放射能量の約半分が未変化体と考えられた。

以上の結果から、静脈内投与された本薬はほとんど組織に移行せず、活性を有した未変化体と

して血管内に存在し、約半分が未変化体のまま尿へ、残りの半分は生体内で分解された後尿へ、

排泄されることが示唆された。

妊娠ラットでの125

I-トロンボモデュリン アルファを用いた検討から、本薬は胎児への移行性は

低いものの、哺育中ラットでの検討から、本薬は未変化体として乳汁中へ移行しているものと考

えられた。

1.5.2.1.5 毒性試験

医薬品毒性試験法ガイドラインに従い、新有効成分含有医薬品の製造販売承認申請に必要な試

験を実施した。

1.5.2.1.5.1 単回静脈内投与毒性試験

概略の致死量はラットでは 1,200,000 U/kg (180 mg/kg)であり、カニクイザルでは 1,200,000

U/kg

(180 mg/kg)を超える量であった。

1.5.2.1.5.2 反復静脈内投与毒性試験

ラット 1ヶ月間投与試験において、出血が 120,000 U/kg(18 mg/kg)で腎臓被膜下、胸腺、あるい

は卵巣で認められ、無毒性量は 38,000 U/kg(6 mg/kg)であった。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-16

サル2週間投与試験において、最高用量の3,800 U/kg(0.6 mg/kg)で毒性変化は認められなかった。

サル 1ヶ月間投与試験において、3,800 U/kg(0.6 mg/kg)以上で投与部位の紫斑又は腫脹及び口腔

粘膜の蒼白が認められた。血液学的検査では、3,800 U/kg (0.6 mg/kg)以上で貧血が認められた。出

血が 3,800 U/kg (0.6 mg/kg)以上で投与部位の皮下組織に、13,000

U/kg (2 mg/kg)以上で全身の皮膚

及び皮下組織に認められた。13,000 U/kg (2 mg/kg)以上で出血による死亡あるいは切迫屠殺例がみ

られた。無毒性量は 1,300 U/kg(0.2 mg/kg)であった。

サル 6ヶ月間投与試験において、3,800 U/kg (0.6 mg/kg)以上で投与部位あるいは採血部位周囲の

紫斑又は腫脹がみられ、13,000 U/kg (2 mg/kg)では、さらに、口腔粘膜の蒼白、自発運動減少、体

重減少、及び摂餌量減少が認められた。血液学的検査では、3,800 U/kg (0.6 mg/kg)以上で貧血が認

められた。3,800 U/kg (0.6 mg/kg)以上で出血が主に採血部位周囲の大腿部に認められた。無毒性量

は 1,300 U/kg(0.2 mg/kg)であった。

1.5.2.1.5.3 生殖・発生毒性試験

ラットにおける妊娠前及び妊娠初期投与試験において、死亡、腎臓被膜下の出血、黄体数、着

床数、及び生存胎児数の減少が認められ、無毒性量は、雌雄動物におよぼす一般毒性学的影響に

対しては 13,000 U/kg(2 mg/kg)、生殖能力に対しては雄では 38,000 U/kg/日(6 mg/kg)、雌では 13,000

U/kg(2 mg/kg)、次世代の発生に対しては 13,000 U/kg(2 mg/kg)であった。

胎児の器官形成期投与試験において、ラット、カニクイザル共に膣からの出血の増加により、

ラットでは蒼白(四肢及び耳介)並びに母動物の死亡、カニクイザルでは口腔粘膜の蒼白並びに

貧血がみられ、これらに起因する変化として、ラットでは 120,000 U/kg (18 mg/kg)で胎児体重の減

少及び骨格異常発生頻度の増加、カニクイザルでは 7,700 U/kg (1.2 mg/kg)で胚死亡がみられた。

ラットにおける無毒性量は、母動物におよぼす一般毒性学的影響に対しては 13,000 U/kg(2 mg/kg)、

母動物の生殖におよぼす影響に対しては 3,800 U/kg(0.6 mg/kg)、次世代の発生に対しては 38,000

U/kg(6 mg/kg)であった。カニクイザルにおける無毒性量は、母動物の一般毒性学的影響、生殖に

およぼす影響並びに次世代の発生に対して 3,800 U/kg(0.6 mg/kg)であった。

ラットにおける周産期及び授乳期投与試験において、38,000 U/kg (6 mg/kg)の 1例が分娩途中に

死亡した。13,000 U/kg (2 mg/kg)以上で蒼白(四肢及び耳介)並びに膣からの出血が認められた。

無毒性量は、母動物におよぼす一般毒性学的影響に対しては 3,800 U/kg(0.6 mg/kg)、母動物の生殖

におよぼす影響に対しては 3,800 U/kg(0.6 mg/kg)、次世代の発生に対しては 13,000 U/kg(2 mg/kg)

であった。

1.5.2.1.5.4 毒性試験のまとめ

本薬の毒性は、ラット並びにサルを用いた単回投与及び反復投与毒性試験、哺乳類培養細胞を

用いた遺伝毒性(染色体異常)試験、ラット並びにサルを用いた生殖発生毒性試験、ウサギを用

いた局所刺激性試験、及びモルモットなどを用いた抗原性試験により検討した。

単回投与、反復投与、及び生殖発生毒性試験における本薬の毒性は、薬理作用に起因する出血

性変化及びそれに伴う二次的変化のみであった。サル 1ヶ月及び 6ヶ月反復投与毒性試験におけ

る無毒性量である 1,300 U/kg(0.2 mg/kg)をサルへ投与した際の本薬の血漿中濃度(C5min 及び

AUC0-24hr)は、臨床推奨用量の 380 U/kg(0.06 mg/kg)を DIC 患者に投与した際の血漿中濃度(Cmax

及び AUCinf)に対して、C5min では約 3~4倍、AUC0-24hr では約 1倍であった。生殖発生毒性試験

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-17

において母動物の出血に起因する二次的な悪影響が胎児にみられた。その他、遺伝毒性、局所刺

激性、及び抗原性の各試験において問題となる結果は得られなかった。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-18

1.5.2.2 臨床試験成績の概略

非臨床試験の結果を踏まえ、DIC を目標適応症として 19 年 月に本剤の臨床試験を開始し

た。本剤の臨床開発計画の概略は、表 1.5.2-1 のとおりで、臨床試験は全て国内で実施した。

では、海外(米国等)において を対象と

して第 2相臨床試験が 20 年 月より開始された。

また、北米において本剤の「 を対象とした を適応症と

する第 2相臨床試験(皮下投与)」が実施された。適応症、投与経路、剤型共に異なるため、本

試験結果は申請データパッケージには含めなかったが、公表論文を参考資料として添付した{添

付資料番号:5.3.5.4-2(参考)}。

上記の北米での第 2相臨床試験に先立ち、米国において健康成人を対象とした第 1相臨床試験

が実施された。本試験結果は申請データパッケージには含めなかったが、公表論文を参考資料と

して添付した{添付資料番号 5.3.5.4-1(参考)}。

表 1.5.2-1 臨床開発計画の概略

試験名

試験時期

添付

資料

番号

第 1 相臨床試験

(静脈内持続投与)

19 年 月~

19 年 月

5.3.3.1-1

第 1 相臨床試験

(静脈内急速投与)

19 年 月

5.3.3.1-2

前期第 2相臨床試験

19 年 月~

19 年 月

5.3.5.2-1

後期第 2相臨床試験

19 年 月~

19 年 月

5.3.5.1-1

第 3 相臨床試験

20 年 月~

20 年 月

5.3.5.1-2

治験相談

第 2 相終了後相談

19 年 月 日

治験相談

個別相談

19 年 月 日

医薬品申請前相談

20 年 月 日

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-19

1.5.2.2.1 第 1 相臨床試験

19 年 月より 19 年 月に、健康成人男性を対象として単回投与試験{190 U/人(0.03 mg/

人)、640 U/人(0.1 mg/人)、1,900 U/人(0.3 mg/人)、2 時間静脈内持続投与}及び反復投与試験{1,300

U/人(0.2 mg/人)、2 時間静脈内持続投与、3日間}を実施した。その結果いずれの投与量でも自

他覚症状、理学的検査、血液一般検査、血液生化学検査、尿検査、凝血学的検査に本剤によると

考えられる異常は認められなかった。

血漿中濃度推移は二相性を示し、T1/2αは約 4 時間、T1/2βは約 20 時間で、線形性が認められた。

反復投与試験における血漿中濃度推移は反復投与期間中血漿中濃度の上昇がみられたが、投与 1

日目の推移からシミュレートした曲線と一致したことから、反復投与により本剤の薬物動態は変

動しないものと考えられた。尿中排泄は投与終了後 48 時間までに単回投与試験では約 60%が、反

復投与試験では約 70%が未変化体として排泄された。

2 時間静脈内持続投与試験の結果を踏まえ、臨床現場における用法の選択のひとつとして静脈

内急速投与も可能と考えられたため、前期第 2相臨床試験の開始後ではあるが、その安全性を検

討することとした。すなわち、19 年 月に健康成人男性を対象として単回静脈内急速投与試験

{1,900 U/人(0.3 mg/人)}を実施した結果、安全性に問題は認められず、薬物動態に関して上記

と同様の成績が得られた。本試験においてプロトロンビナーゼ活性の推移を ex vivo にて調べたと

ころ、本剤投与後、プロトロンビナーゼ活性の低下が認められた。

なお、静脈内急速投与の用法については、申請用法としなかった。その理由は、万一投与中に

不都合が生じた際、即座に投与を中止できる静脈内持続投与の安全性と静脈内急速投与の利便性

のバランスを考慮し、安全性を優先させるべきと考えたためである。

第 1相臨床試験の結果、190 U~1,900 U/人(0.03~0.3 mg/人)の用量範囲で本剤は、自他覚所

見・臨床検査・凝血学的検査の結果から安全性に問題は認められなかった。薬物動態に関しては

良好な線形性が認められ、T1/2 は動物よりさらに長く約 20 時間程度であることが示され、1日 1

回投与の蓋然性がさらに強く示唆された。

1.5.2.2.2 前期第 2 相臨床試験

19 年 月より 19 年 月に、DIC 患者を対象として本剤の有効性並びに安全性を検討する

ことを目的として、探索的な非盲検試験を全国 32施設で実施した。

(1) 試験計画

対象は、厚生省 DIC診断基準に基づき「DIC」又は「DIC の疑い」と診断された患者と

し、基礎疾患は限定しなかった。

用法は、第 1相臨床試験の結果、本剤の T1/2 が約 20 時間と長かったため、1日 1回 30

分静脈内持続投与とした。なお、以後の DIC 患者を対象とした試験はいずれもこの用法で

実施した。

用量は、有効性と安全性を確認しつつ低用量からステップ毎に上げていくこととした。

投与量を上げる次のステップへの移行に関しては、その時点までに得られた試験成績を十

分検討し、治験総括医師の判断により決定した。また同一患者内においては、3日間投与

して効果が不十分な場合には残りの 3日間の投与に関しては増量可とした。投与量の設定

については、臨床現場における利便性を考慮し、ヒト当たりの投与量とした。サルの DIC

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-20

モデル試験、サルにおける 1ヶ月反復投与毒性試験、及び第 1相臨床試験の結果をもとに、

最低用量を 1,900 U/人(0.3 mg/人)、最高用量を 19,000 U/人(3 mg/人)に設定した。

各ステップの用量に関しては、開始用量を 1,900 U/人(0.3 mg/人)、3,800 U/人(0.6 mg/

人)、7,700 U/人(1.2 mg/人)、13,000 U/人(2.0 mg/人)の 4 ステップとし、それぞれ増量

後の用量を 3,800 U/人(0.6 mg/人)、7,700 U/人(1.2 mg/人)、13,000 U/人(2.0 mg/人)、

19,000 U/人(3.0 mg/人)と設定した。

投与期間は 6日間とし、評価時期は投与終了日の翌日(7日目)とした。なお、以後の

DIC 患者を対象とした試験はいずれもこの投与期間・評価時期で実施した。

(2) 試験結果

総投与症例 44例のうち完全採用例は 34例で、全般改善度の「中等度改善」以上は、ス

テップ 0 が 66.7%(2/3例)、ステップ 1 が 40.0%(4/10例)、ステップ 2 が 55.6%(5/9例)、

ステップ 3 が 83.3%(10/12例)であった。

治験薬との因果関係が否定できない随伴症状の発現率は、ステップ 0 が 0%(0/3例)、

ステップ 1 が 0%(0/13例)、ステップ 2 が 11.1%(1/9例)、ステップ 3 が 8.3%(1/12例)

であった。ステップ 2 では貧血の進行、ステップ 3 では多形滲出性紅斑様皮疹がそれぞれ

認められた。

治験薬との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動が 3例 14件に認められた。内

容は、ステップ 1 で 1例に、Na、K、Cl の上昇が認められた。ステップ 2 では、1例に赤

血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値の低下と GOT、LDH、AL-P の上昇が認めら

れた。ステップ 3 では、1例に GOT、GPT、AL-P の上昇と尿酸、血糖の低下が認められた。

観察期間内の死亡例は 17例に認められ、全例で治験薬との因果関係が否定された。

以上の結果より 1,900~19,000 U/人(0.3~3.0 mg/人)が DIC に対する有効投与量域と推

定した。

1.5.2.2.3 後期第 2 相臨床試験

19 年 月より 19 年 月に、DIC 患者を対象として本剤の用量反応関係を検証することを

目的として、非盲検動的割り付け並行群間比較試験を全国 92施設で実施した。

(1) 試験方法

対象は、厚生省 DIC診断基準に基づき「DIC」又は「DIC の疑い」と診断された患者と

し、基礎疾患は限定しなかった。

本剤は 1日 1回 30 分静脈内持続投与で、38 U/kg (0.006 mg/kg){約 1,900 U/人(0.3 mg/

人)}、130 U/kg (0.02 mg/kg){約 6,400 U/人(1.0 mg/人)}、380 U/kg (0.06 mg/kg) {約

19,000 U/人(3.0 mg/人)}の 3 用量のいずれかを 6日間投与することとした。

DIC治療の成否が基礎疾患の経過に影響を受けると考えられたので、後期第 2相臨床試

験では、基礎疾患を層化要因とした動的割り付けを行い、基礎疾患毎の例数を群間で均一

化することで、用量反応関係の検証試験としての精度を高めた。

最低用量に関しては、DIC が致死的な疾患であるため、明らかな無効量を選択すること

は避けるべきであると考えられた。第 1相臨床試験(静脈内急速投与)において、1,900 U/

人(0.3 mg/人)の用量で、プロトロンビナーゼ活性の有意な低下が認められたこと、また

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-21

前期第 2相臨床試験において、開始用量が 1,900 U/人(0.3 mg/人)に該当するステップ 0

で 3例中 2例が有効であったことから、1,900 U/人(0.3 mg/人)は DIC に対して無効量で

はないと判断した。以上のことより、最低用量は 1,900 U/人(0.3 mg/人)に設定した。

最高用量に関しては、前期第 2相臨床試験のステップ 3{13,000 U/人(2.0 mg/人)~19,000

U/人(3.0 mg/人)}までの投与成績があり、そのときの全般改善度の「中等度改善」以上

率は 83.3 %(10/12例)で、この改善率は DIC における他の抗凝固薬の成績と比較して同

等以上に高く十分な有効性を示しているものと判断した。また、この用量での安全性に特

に問題は認められなかった。一方、サルでの反復投与毒性試験において、出血の毒性発現

が 3,800 U/kg(0.6 mg/kg)で認められた。この用量をサルとヒトの薬物動態の差を考慮してヒ

トに外挿すると、1,300 U/kg(0.2 mg/kg)、すなわち 64,000 U/人(10 mg/人)となる。前期第

2相臨床試験の最高用量 19,000 U/人(3.0 mg/人)は、その約 1/3 量に相当するので、個人

間の血漿中濃度のばらつきを考慮すると、安全性の観点からこれ以上の高い用量は設定す

べきでなく、19,000 U/人(3.0 mg/人)が後期第 2相臨床試験の最高用量として適切と考え

られた。

以上より、最低用量を 1,900 U/人(0.3 mg/人)、最高用量を 19,000 U/人(3.0 mg/人)と

し、公比 3 で、中用量を 6,400 U/人(1.0 mg/人)とした。

後期第 2相臨床試験は、投与量と効果の相関性を検証することが主な目的であり、より

正確に有効性の用量相関性をみることができるように血漿中濃度のばらつきの要因はでき

る限り少なくすることが望ましいと考えた。そこで用量は、前期第 2相臨床試験まで採用

したヒト当たりの設定に代えて、体重当たりの設定を採用することとした。したがって、

体重を50 kgとして換算し、低用量を38 U/kg (0.006 mg/kg)、中用量を130 U/kg (0.02 mg/kg)、

高用量を 380 U/kg (0.06 mg/kg)と設定した。本試験以降は、この体重当たりの設定を採用す

ることとした。

(2) 試験結果

総投与症例 120例のうち、主たる解析対象集団における全般改善度採用例は 90例であっ

た。全般改善度の「中等度改善」以上率は、38 U/kg(0.006 mg/kg)群(以下、低用量群)、

130 U/kg(0.02 mg/kg)群(以下、中用量群)、380 U/kg(0.06 mg/kg)群(以下、高用量群)の

各群で 39.3%(11/28例)、60.7%(17/28例)、67.6%(23/34例)であり、Cochran-Armitage

法を用いた傾向検定を行った結果、有意であった(p=0.0188)。本剤が投与された全例を

対象とした集団でも同様に傾向検定を行った結果、有意であり検証結果は頑健であると考

えられた。客観的な評価指標である凝血学的検査値改善度の結果も全般改善度と同様であ

り、「中等度改善」以上率は、低用量群 35.7%(10/28例)、中用量群 60.7%(17/28例)、

高用量群 67.6%(23/34例)と、用量増加に伴って高まった。また、各群の DIC 離脱率を事

後的にもとめると、低用量群 34.4%(11/32例)、中用量群 50.0%(14/28例)、高用量群

55.9%(19/34例)であった。

全般改善度採用例 90例のうち、基礎疾患別症例数は、造血器悪性腫瘍(白血病)(以下、

白血病 DIC)48例、固形癌(以下、固形癌 DIC)20例、感染症(以下、感染症 DIC)15

例、その他(以下、その他 DIC)7例であった。

各基礎疾患別の全般改善度の「中等度改善」以上率をみると、低用量、中用量、高用量

の各群で、以下のとおりであった。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-22

- 白血病:46.7%(7/15例)、68.8%(11/16例)、70.6%(12/17例)

- 固形癌:28.6%(2/7例)、60.0%(3/5例)、50.0%(4/8例)

- 感染症:25.0%(1/4例)、40.0%(2/5例)、83.3%(5/6例)

- その他:50.0%(1/2例)、50.0%(1/2例)、66.7%(2/3例)

高用量群において、白血病 DIC、感染症 DIC では各基礎疾患を合わせた改善率とほぼ同

等の改善率を示したのに対し、固形癌 DIC では改善率が低い傾向にあった。

また、各基礎疾患別の DIC 離脱率をみると、低用量、中用量、高用量の各群で、以下の

とおりであった。

- 白血病:43.8%(7/16例)、56.3%(9/16例)、58.8%(10/17例)

- 固形癌:22.2%(2/9例)、40.0%(2/5例)、25.0%(2/8例)

- 感染症:0%(0/5例)、40.0%(2/5例)、83.3%(5/6例)

- その他:100.0%(2/2例)、50.0%(1/2例)、66.7%(2/3例)

安全性に関して、治験薬との因果関係が否定できない随伴症状の発現率は、低用量群2.6%

(1/39例)、中用量群 5.0%(2/40例)、高用量群 2.4%(1/41例)であった。低用量群で

は黄疸、中用量群では発熱、アレルギー性紫斑病、高用量群では発熱、丘疹がそれぞれ認

められた。因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は、低用量群で1例にAL-P上昇、

血清ビリルビン上昇が認められた。中用量群では、1例に ChE 低下が認められた。高用量

群では、1例に血清 GOT 上昇、血清 GPT 上昇が認められた。

出血症状に関連する随伴症状発現頻度は、低用量群、中用量群、高用量群の各群で、そ

れぞれ 28.2%(11/39例)、27.5%(11/40例)、29.3%(12/41例)と用量依存的な傾向はみ

られなかった。

観察期間内の死亡例は、低用量群、中用量群、高用量群の各群で、それぞれ 38.5%(15/39

例)、32.5%(13/40例)、29.3%(12/41例)と用量依存的な傾向はみられなかった。これ

ら死亡例は全例で治験薬との因果関係が否定された。

以上のとおり、後期第 2相臨床試験では、3 用量群間比較における用量依存性の検証に

より本剤の DIC 患者に対する有効性が示され、380 U/kg 群(0.06 mg/kg 群)までの用量で

安全性に特に問題は認められなかった。

1.5.2.2.4 臨床推奨用量を想定した第 3 相臨床試験への投与量の設定

後期第 2相臨床試験の結果、全般的改善度及び DIC 離脱率は、用量依存的に高くなる結果が得

られたが、いずれも中用量群と高用量群の間の用量依存性は緩やかであった。したがって、これ

以上投与量を増やしても、改善率及び離脱率が大きく上昇する可能性は少ないと推察された。ま

た、本剤の薬効を最も直接的に反映すると考えられる TAT 値は中用量群、高用量群で同程度の改

善を示したことから、380 U/kg(0.06 mg/kg)より投与量を増やしても凝血学的検査値がさらに改善

する可能性は少ないと推察された。

一方、サルでの反復投与毒性試験における出血の毒性発現用量である 3,800 U/kg(0.6 mg/kg)は、

薬物動態の差を考慮しヒトに外挿すると、1,300 U/kg(0.2 mg/kg)となる。380 U/kg(0.06 mg/kg)は、

その約 1/3 量に相当するので、個人間の血漿中濃度のばらつきを考慮すると、安全性の観点から

これ以上の高い用量は設定するべきでなく、380 U/kg(0.06 mg/kg)をヒトにおける用量の上限とす

ることが妥当と判断した。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-23

以上の理由及び DIC は重症疾患であり救命的な治療効果を得ることを目的として治療が行われ

ることから、安全性が認められている用量範囲内でできる限り有効性の高い用量である 380

U/kg(0.06 mg/kg)を臨床推奨用量と想定し、第 3相臨床試験での投与量とすることが妥当であろう

と判断した。

1.5.2.2.5 治験相談

1.5.2.2.5.1 第 2 相終了後相談

第 3相臨床試験開始に先立ち、本試験計画の妥当性に関しては、19 年 月 日に医薬品副

作用被害救済・研究振興調査機構(現 独立行政法人医薬品医療機器総合機構、以下「医薬品機

構」)と治験相談(第 2相終了後相談)を実施し、以下の助言を得た(議事録:1.13項-1)。

1.5.2.2.5.2 個別相談

第 3相臨床試験開始に先立ち、上記の第 2相終了後相談で検討できなかった事項に関して、19

年 月 日に医薬品機構と治験相談(個別相談)を実施し、以下の助言を得た(議事録:1.13項

-2)。

1.5.2.2.6 第 3 相臨床試験

上記した 2回の治験相談の助言に基づき以下の試験方法で、20 年 月より 20 年 月に

DIC 患者を対象として本剤の有効性(DIC 離脱率を主要評価項目とした非劣性検証)及び安全性

を検討することを目的に第 3相臨床試験を全国 113施設で実施した。

(1) 試験方法

- 対象患者:

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-24

後期第 2相臨床試験までは、厚生省 DIC診断基準に基づき「DIC」又は「DIC の疑い」

と診断された患者としていたが、本試験では同診断基準に基づき「DIC」と診断された

患者とした。

DIC の基礎疾患に関する規定はこれまで設けていなかったが、本試験においては、直

接誘因基礎疾患が「固形癌」「その他」の患者は対象とせず、「造血器悪性腫瘍」ある

いは「感染症」の患者のみを対象とした。このようにした根拠を本項の「DIC の基礎疾

患の選択理由」に詳細に記載した。造血器悪性腫瘍あるいは感染症を基礎疾患とする

DIC 患者は、薬効評価をそれぞれの基礎疾患で行えるように独立に動的割り付けし、両

基礎疾患共に最低 100例ずつ集積することとした。

- 試験デザイン:

ヘパリンナトリウムを対照薬としたダブルダミー法による二重盲検無作為化並行群

間比較法を採用した。各薬剤への割り付けは、有効性評価に大きく影響をおよぼすと考

えられる背景因子について薬剤群間のバランスを保つため、「開始時 DIC スコア」「出

血症状の有無」を層化要因とする動的割り付け法により行った。

- 用法・用量:

本剤は、後期第 2相臨床試験で用いた最大用量 380 U/kg(0.06 mg/kg)の 30 分間静脈内

持続投与が、その有効性・安全性から用法・用量として妥当であると考えられた。

ヘパリンナトリウムは、DIC治療で標準的に使用されている用法・用量(8 U/kg/hr を

24 時間静脈内持続投与)を採用した。

- 主要評価項目:

後期第 2相臨床試験までは全般改善度であったが、本試験では DIC の治療目標のひと

つである DIC からの離脱率とした。検証方法は、対照薬ヘパリンに対する非劣性検証(非

劣性限界値 5%)としたが、両薬剤群間の DIC 離脱率の差の下側信頼限界値が 0%を上

回ったときは、優越と判定することとし治験実施計画書に取り決めた。なお、本治験実

施計画作成後ではあるが、2000 年に欧州の CPMP(Committee For Proprietary Medical

Products)より「Points to consider on switching between superiority and non-inferiority」のガ

イドラインが発行された62)。このガイドラインに照らしても上記判定方法は妥当である

と考えられた。

- 薬剤の特徴を評価するための副次的評価項目:

有効性と安全性の両側面を反映する指標である「出血症状の経過」を設定した。DIC

における出血症状は、さまざまな部位に起こることが知られており8)、これらの出血傾

向が持続した場合には、患者の QOL が著しく損なわれ9)、また全身状態の悪化を招き、

基礎疾患に対する積極的な治療機会が失われることもある。さらに、頭蓋内出血、肺・

気管出血、消化管出血といった重要臓器での出血は、致死的な状況につながる可能性も

高い7)。一方、DIC の治療においては、「全身的に高度な凝固系の活性化状態にある DIC

に対し抗凝固療法を施す必要がある一方で、DICは出血が起こりやすい状態にあるため、

十分な抗凝固療法ができない」という問題点があり、出血を発現あるいは悪化させずに

十分な抗凝固効果を発揮できる薬剤が医療現場で求められている。本剤は、作用機序及

び後期第 2相臨床試験までの結果から、出血を発現あるいは悪化させる可能性は少ない

と考えられた。さらに、凝固系の活性化を強力に抑制することで、血小板、凝固因子の

消費性低下や二次線溶の活性化を抑制し、DIC に伴う出血症状を改善することが期待さ

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-25

れた。以上のことから、「出血症状の経過」は本剤の特徴を評価する項目として適切と

考えられた。

- DIC の基礎疾患の選択理由:

造血器悪性腫瘍及び感染症が、本剤の第 3相臨床試験(検証試験)の対象として妥当

と考えられた理由は以下のとおりである。

(a) 造血器悪性腫瘍においては抗癌剤による治療、骨髄移植による治療などで基礎疾患

そのものの治療が可能である場合が多い。同様に、感染症においても抗菌剤による

治療、外科的処置などで基礎疾患そのものの治療が可能である場合が多い。した

がって、造血器悪性腫瘍及び感染症では、合併する DIC の病勢を抑制できれば、

DICが直接的あるいは間接的に関与する患者の死亡を防ぐことができると考えられ、

抗凝固薬の投与の臨床的意義が大きい。

(b) 造血器悪性腫瘍あるいは感染症を基礎疾患とする DIC は、急性型が多くその時間経

過が比較的類似していると考えられた。

(c) 本剤及び対照薬であるヘパリンの至適用量が造血器悪性腫瘍あるいは感染症を基

礎疾患とする DIC で同様と考えられた。

「固形癌」及び「その他の基礎疾患」が第 3相臨床試験(検証試験)の対象として妥

当でないと考えられた理由は以下のとおりである。

固形癌を直接誘因基礎疾患とする DIC(以下、固形癌 DIC)の特徴として次のことが

挙げられる。すなわち、転移が進行した末期癌にしばしば DIC が合併するため、固形癌

DIC患者においては基礎疾患に対する治療が一般的に造血器悪性腫瘍や感染症より困難

で DIC治療の効果も低い8)。したがって、固形癌 DIC においては、基礎疾患の治療が困

難な患者が多く、抗凝固薬による DIC治療が生命予後の改善に結び付き難いと考えられ

た。固形癌 DIC の中でも、固形癌自体の治癒が可能な患者に関しては抗凝固薬による治

療の意義が大きいが、そのような患者を予め予測し臨床試験に組み入れることは困難で

あると考えられた。

「1.5.1.3項」に記載したとおり、DIC の治療の成否には基礎疾患の治療や経過が影響

する。したがって、検証試験においては基礎疾患の治療や経過が類似した患者を対象と

することが精度の高い有効性・安全性の評価のために必要である。上述したとおり、固

形癌 DIC は、固形癌の治療が困難で治療に時間を要するため DIC も慢性の経過をたど

ることが多く、基礎疾患の治療や経過が造血器悪性腫瘍あるいは感染症を基礎疾患とす

る DIC とは異なると考えられた。

以上の理由から、第 3相臨床試験で固形癌 DIC を造血器悪性腫瘍あるいは感染症を基

礎疾患とする DIC と同じ治験実施計画で評価することは、不適切であると判断した。

「その他の疾患」を直接誘因基礎疾患とする DIC を対象としなかった理由は以下のと

おりである。すなわち、「その他の基礎疾患」としては、大動脈瘤、産科的疾患、外傷

など様々な疾患が挙げられる。これら「その他の基礎疾患」の DIC 患者では、基礎疾患

の治療や経過が多様性に富むため、本剤の第 3相臨床試験(検証試験)の対象とするこ

とは精度の高い薬効評価を行う上で不適切と判断した。

(2) 試験結果

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-26

(a) 主要評価項目:本剤の DIC 離脱効果はヘパリンに対し非劣性であることが検証された

表 1.5.2-2 に示したとおり、FAS における造血器悪性腫瘍・感染症を基礎疾患とする

DIC 患者における各々の DIC 離脱率は、どちらの基礎疾患群においても本剤群はヘパリ

ン群を上回り、質的交互作用は認められなかった。したがって、両基礎疾患をまとめて

評価することは妥当と判断し併合して解析を実施した。その結果、両薬剤群における

DIC 離脱率の差の点推定値は 16.2%であり、95%信頼区間は 3.3%~29.1%であった。95%

信頼区間が非劣性限界である-5%を跨がないことから、本剤の DIC 離脱効果がヘパリン

に対し非劣性であることが検証され、さらに、0%を跨がないことから、優越であると判

定された。すなわち、本試験は本剤のヘパリンに対する非劣性を検証すべく計画された

が、非劣性のみならず、ヘパリンに対し優れることが示された。

PPS を対象に解析した場合、及び共変量による調整を行った場合も同様に、本剤のヘ

パリンに対する優越性が示された。さらに、部分集団別に検討した結果、本剤ではいず

れの部分集団でも一貫して DIC 離脱率が高い傾向にあり、ほとんどの部分集団で本剤の

DIC 離脱率がヘパリンを上回っていた。以上のことから、上記の結果は頑健であると考

えられた。

基礎疾患別の DIC 離脱率は、後期第 2相臨床試験の高用量群のそれぞれの基礎疾患群

の値とほぼ同様であり、再現性が認められた。

本剤の有効性におよぼす基礎疾患の経過の影響を評価するため、基礎疾患の経過別の

DIC 離脱率を調べた。基礎疾患の経過が「改善」「不変」「悪化」の層それぞれのカテ

ゴリーで、両薬剤群の DIC 離脱率を比較すると、本剤群の DIC 離脱率がヘパリン群に

比べ高い、もしくは概ね同程度であった。したがって、「本剤の DIC 離脱効果がヘパリ

ンより優れる」という結果は、基礎疾患の経過に依存したものではないことが示唆され

た。

表 1.5.2-2 基礎疾患別の DIC 離脱率

DIC 離脱(FAS)

離脱 非離脱

各群の 95%信

頼区間(正確)

差の 95%信頼区

間(漸近)(連続

修正なし)

例数 (%) 例数 (%) 合計 下限 上限

差の点

推定値 下限 上限

A群 42 65.6 22 34.4 64 52.7 77.1 19.7 2.6 36.8造血器悪性

腫瘍 H 群 28 45.9 33 54.1 61 33.1 59.2

A 群 32 66.7 16 33.3 48 51.6 79.6 11.8 -7.3 30.9感染症

H 群 28 54.9 23 45.1 51 40.3 68.9

A 群:本剤群、 H 群:ヘパリン群

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-27

(b) 薬剤の特徴を評価するための副次的評価項目:出血症状の経過において本剤群はヘパリ

ン群と比べ優れていた

表 1.5.2-3 に示したとおり、出血症状の経過において、本剤群はヘパリン群と比べ優

れていた(p=0.0271)。同時に本剤群の出血症状の消失率はヘパリン群と比較して高かっ

た(消失率の差の点推定値:14.3%、95%信頼区間:1.2%~27.4%)。特に造血器悪性腫

瘍を基礎疾患とする群では、本剤群の出血症状の消失率はヘパリン群と比較して高く

(消失率の差の点推定値:19.2%、95%信頼区間:2.1%~36.4%)、濃厚血小板の使用頻

度も本剤群で低かった(p=0.0250)。

DIC 離脱・非離脱と出血症状の経過、凝血学的検査値改善度と出血症状の経過との関

係を調べたところ、DIC 離脱例や凝血学的検査値改善度が「著明改善」「中等度改善」

の症例では、出血症状の経過が「消失」「改善」の症例が多く、DIC 離脱・非離脱と出

血症状の経過、凝血学的検査値改善度と出血症状の経過の相関性はいずれも高いと考え

られた。

これらの結果から、本剤は DIC における凝固異常を改善させ、凝固因子の消費性低下

や二次線溶の活性化を抑制した結果、DIC に伴う出血症状も改善させたと考えられた。

したがって、第 3相臨床試験の出血症状の経過において、本剤群とヘパリン群に差がみ

られたことは、本剤の凝固異常改善作用がヘパリンナトリウムよりも強いことを反映し

た結果と考えられた。

表 1.5.2-3 基礎疾患別の出血症状の経過

出血症状の経過(FAS)

消失 改善 不変 悪化

拡張 Mantel 検定(両

側)

例数 % 例数 % 例数 % 例数 % 合計

症状

なし χ2値 DF P 値

A 群 14 32.6 9 20.9 10 23.3 10 23.3 43 21 4.8848 1 0.0271造血器悪

性腫瘍 H 群 6 13.3 12 26.7 10 22.2 17 37.8 45 16

A 群 17 37.8 10 22.2 10 22.2 8 17.8 45 5 感染症

H 群 13 28.3 10 21.7 10 21.7 13 28.3 46 6

A 群:本剤群、 H 群:ヘパリン群

(c) 副次的評価項目:本剤の凝固活性化状態の改善効果はヘパリンと比べ優れていた

凝血学的検査値の推移をスコア化して決定される凝血学的検査値改善度において、本

剤群はヘパリン群に対して優っていた(p=0.0261)。凝血学的検査を個別にみた場合にお

いても、TAT、D-ダイマー、プロテイン C、PAI-1、ATIII、APTT の各項目で、凝固線

溶異常を正常化する方向への変化率(量)で本剤群はヘパリン群と比較して大きいこと

が示唆され、FDP、フィブリンモノマー複合体では同様の傾向がうかがえた。

(d) 副次的評価項目:出血症状に関連する有害事象発現率(7日目まで)は本剤群の方がヘ

パリン群と比較して低かった

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-28

本剤の出血症状に関連する有害事象の発現率(7日目)はヘパリンと比較して低かっ

た(p=0.0487)。治験薬投与中止に至った出血症状に関連する有害事象発現は、本剤群で

は 2例であったのに対し、ヘパリン群では 7例に認められた。出血以外の有害事象発現

状況に両薬剤群間で大きな差は認められなかった。

(e) 副次的評価項目:転帰に関しては、感染症を基礎疾患とする群では、本剤群のヘパリン

群に対する相対死亡リスクは 19.1%低かった

28日目死亡率において、造血器悪性腫瘍を基礎疾患とする群では両薬剤群間で差がな

かった。感染症を基礎疾患とする群では、28日目の死亡率は本剤群 28.0%、ヘパリン群

34.6%であり、症例数が少なく有意差は認められないものの、本剤群の死亡率の方が低

かった。この結果から、本剤群のヘパリン群に対する死亡の相対リスク減少率を算出す

ると、19.1%であった。

1.5.2.2.7 効能・効果の設定

【効能・効果】

汎発性血管内血液凝固症(DIC)

<効能・効果に関連する使用上の注意>

(1) 本剤は、患者が臨床的に DIC の状態にあることを確認した場合に限り使用すること。

(2) 基礎疾患に対する積極的治療が不可能で、DIC を回復させたとしても予後の改善が期待できな

い患者には、原則として本剤は投与しないこと。

(3) 「造血器悪性腫瘍あるいは感染症」以外を基礎疾患とする DIC 患者については、本剤の投与経

験は少なく、有効性及び安全性は確立していない。

本剤の効能・効果を設定するに際しては、以下に示す理由から、第 3相臨床試験(検証試験)

のように対象患者の基礎疾患を「造血器悪性腫瘍あるいは感染症」に限定することなく、「DIC」

とするべきと考えられた。

すなわち、DIC の本態は基礎疾患によらず共通であり、「造血器悪性腫瘍あるいは感染症」以

外を基礎疾患とする DIC の本態も、血液凝固系の過度な活性化によるトロンビンの過剰生成であ

る。したがって、トロンビンの生成を抑制する本剤は「造血器悪性腫瘍あるいは感染症」以外を

基礎疾患とする DIC に対しても効果を示すと考えられる。「造血器悪性腫瘍あるいは感染症」以

外を直接誘因基礎疾患とする DIC 患者、すなわち、「固形癌」あるいは「その他の疾患」を直接

誘因基礎疾患とする DIC 患者も対象として含んでいた後期第 2相臨床試験の結果から、これらの

患者に対する本剤の臨床推奨用量での投与は、有効であり安全性にも大きな問題は認められてい

ないと考えられた。

以上より、本剤の第 3相臨床試験は、DIC の直接誘因基礎疾患を造血器悪性腫瘍あるいは感染

症に限定して実施したものの、本剤の効能・効果を設定するに際し、特に基礎疾患を限定する必

要がないと考えた。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-29

しかしながら、本剤の第 3相臨床試験(検証試験)においては基礎疾患を限定したため、「造

血器悪性腫瘍あるいは感染症」以外を直接誘因基礎疾患とする DIC 患者に対する本剤の投与経験

は少ないことも事実である。そこで、このことについて〈効能・効果に関連する使用上の注意〉

に記載し注意喚起することが必要と考えた。さらに製造販売後、特に「造血器悪性腫瘍あるいは

感染症」以外を直接誘因基礎疾患とする DIC 患者に本剤を投与するにあたっては、有効性・安全

性情報の収集・評価を充実させ、適正使用を徹底する必要があると考える。

また、DIC 患者の中でも基礎疾患に対する積極的治療が不可能で、DIC を回復させたとしても

予後の改善が期待できない患者に関しては、本剤を投与することにより得られるベネフィットは

不明確であることから、本剤投与が積極的に推奨されるべきではないと考えた。したがって、〈効

能・効果に関連する使用上の注意〉の項にその旨を記載することとした。

1.5.2.2.8 医薬品申請前相談

本申請に先立ち、 に関して、20 年 月 日に独立

行政法人医薬品医療機器総合機構と医薬品申請前相談を実施し、以下の助言を得た(議事録:1.13

項-3)。

当該相談の助言を参考に、CTD資料を作成した。

1.5.2.3 申請製剤・申請効能以外の開発・承認状況

本剤の申請製剤・申請効能以外の開発又は承認状況を表 1.5.2-4 に示す。

表 1.5.2-4 本剤の申請製剤・申請効能以外の開発状況

剤型 適応症 国・地域 開発会社 承認・開発状況

皮下投与

製剤

北米

静脈内投

与製剤

海外(米国

等)

1.5.2.4 開発の経緯のまとめ

以上の成績から、旭化成ファーマ株式会社は本剤が DIC治療に貢献し得る薬剤であると判断し、

下記の内容で承認申請を行うこととした。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-30

効能・効果:汎発性血管内血液凝固症(DIC)

<効能・効果に関連する使用上の注意>

(1) 本剤は、患者が臨床的に DIC の状態にあることを確認した場合に限り使用すること。

(2) 基礎疾患に対する積極的治療が不可能で、DIC を回復させたとしても予後の改善が期待

できない患者には、原則として本剤は投与しないこと。

(3) 「造血器悪性腫瘍あるいは感染症」以外を基礎疾患とする DIC 患者については、本剤の

投与経験は少なく、有効性及び安全性は確立していない。

用法・用量:通常、成人には、トロンボモデュリン アルファとして 1日 1回 380 U/kg を約 30

分かけて点滴静注する。なお、症状に応じ適宜減量する。

<用法・用量に関連する使用上の注意>

本剤の臨床試験において、7日間以上の投与経験はなく、本剤を 7日間以上投与した場合

の有効性及び安全性は明らかではない。本剤の使用にあたっては、基礎疾患の病態、凝血

学的検査値及び臨床症状等から血管内血液凝固亢進状態にあるか否かを総合的に判断した

上で投与期間を決定し、漫然と投与を継続することがないよう注意すること。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-31

1.5.3 特徴及び有用性

1.5.3.1 非臨床試験からみた特徴及び有用性

本薬の製剤学的特徴、非臨床試験から確認された特徴並びに示唆された有用性を以下に示す。

(1) 本薬は、天然型ヒト TMの活性部位を含む細胞外ドメインを可溶型分子として遺伝子工学的

手法を用いて動物細胞により産生した新規糖蛋白質である。

(2) 本薬は、トロンビン生成阻害作用とトロンビン直接阻害作用に基づく血液凝固調節作用を

有している。

(3) 本薬は、既存薬であるヘパリンに比べ、トロンビン生成阻害作用とトロンビン直接阻害作

用の発現濃度域の乖離が大きく、トロンビン生成阻害作用が低濃度で発現する。これは既

存薬にない本薬の新規の作用機序による。

(4) 本薬は、ヘパリンに比べ、トロンビン生成阻害作用の濃度反応曲線の傾きが緩やかである

ため、安全域が広い。

本薬は、既存の抗凝固薬と異なり、血液凝固系活性化の結果生じたトロンビンに結合し、

プロテイン C 活性化を促進させ、凝固系にネガティブフィードバックをかける。本薬は、

このような作用メカニズムを有するため、トロンビンに対する直接阻害作用がほとんど発

現しない濃度域で、トロンビンの生成阻害作用を通じて十分な抗凝固作用を発揮する。さ

らに、本薬はヘパリンと比較して用量反応曲線の傾きが緩やかであるため、安全域が広い。

実際に、本剤の後期第 2相臨床試験における血漿中濃度測定の結果、DIC 患者の血漿中濃

度は、トロンビンの凝固活性をほとんど阻害せず、トロンビンの生成阻害作用を十分に発

揮する濃度に保たれていることが示された。

トロンビンは血栓形成のみでなく止血反応に必須な因子であることから、トロンビンを

直接的に阻害しトロンビン活性を過度に抑制することは出血につながる。トロンビンを直

接的に阻害しない濃度で、トロンビンの生成そのものを抑制することができる本薬は、ヘ

パリンを初めとする従来の抗凝固薬で困難であった「出血が発現あるいは増悪するリスク

を増大させない濃度範囲で十分な抗凝固活性を示すこと」を実現できる初めての抗凝固薬

であることが期待された。

「1.5.1.4項」に記載したとおり、DIC では病態自体が、出血が発現あるいは増悪するリ

スクの高まった状態にあることから、そのリスクを回避するために、従来の抗凝固薬では

用量を上げられず十分な抗凝固効果を得ることができない。出血のリスクが増大しない濃

度域で十分な抗凝固効果を発揮できると考えられた本薬は、この DIC治療における根本的

な問題を解決することができる可能性が、非臨床試験の結果から示唆された。

(5) 本薬は、LPS で誘発した DIC モデルにおいて救命効果を発揮する

ラットに LPS を投与して DIC を誘発したモデルで、本薬は救命効果を示した。さらに、

同モデルで発現する肝機能障害に対し、本薬は抑制効果を示した。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-32

1.5.3.2 臨床試験からみた特徴及び有用性

1.5.3.2.1 本剤の臨床的位置付け(ヘパリンとの比較)

(1) 本剤の DIC 離脱効果はヘパリンと比べ高い

患者が DIC から離脱することは、DIC治療の目標のひとつである。造血器悪性腫瘍・感

染症を基礎疾患とする DIC 患者を対象に行った比較試験において、本剤群の DIC 離脱率が

ヘパリン群に対し非劣性であることが検証され、同時に優越であることが示唆された。ま

た、本剤群の DIC 離脱率がヘパリン群より高いことに関しては、造血器悪性腫瘍・感染症

の両基礎疾患群で同様の傾向であった。

既存の抗凝固薬で主要評価項目においてヘパリンに対する優越性を示すことができたも

のはないことを鑑みると、本剤の臨床的な存在価値は高いと考えられる。

(2) 本剤の抗凝固作用はヘパリンと比べ強力である

DIC 患者における凝血学的検査値異常の改善の程度、すなわち凝血学的検査値改善度は、

本剤群の方がヘパリン群より優れていた。また、TAT など個別の検査値異常に対する改善

効果についても本剤群の方がヘパリン群より大きかった。この試験結果から、本剤が今回

の用法・用量範囲内でヘパリンと比べ強力な抗凝固作用を有することが強く示唆された。

(3) 本剤はヘパリンと比べ、出血症状の経過において優れ、また出血症状に関連する有害事象

の発現率も低かった

出血症状の経過において本剤群はヘパリン群と比べ優れていた。治験薬投与開始 7日目

までの出血症状に関連する有害事象の発現率においても、本剤群の方がヘパリン群より低

かった。したがって、本剤の投与により DIC 患者の出血症状を消失させることあるいは出

血症状の悪化を防ぐことができると考えられる。

造血器悪性腫瘍を基礎疾患とする DIC 患者においては、血小板数の低下や線溶系の過度

な活性化のため、出血症状が臨床的に特に問題となる。造血器悪性腫瘍を基礎疾患とする

層単独で、本剤群の出血症状消失率はヘパリン群に対して優っており、かつ、濃厚血小板

の使用頻度も低かった。したがって、造血器悪性腫瘍を基礎疾患とする DIC 患者において

本剤投与による出血症状の軽減、血液製剤の投与量低減などのメリットが期待できる。

(4) 本剤の用法は 1 日 1 回 30 分間の静脈内持続投与である

本薬のヒトでの血漿中濃度の消失半減期は、約 20 時間と長く、1日 1回 30 分間の静脈

内持続投与が可能であった。DIC治療に用いられる既存の抗凝固薬においては、乾燥濃縮

人アンチトロンビン III が 1日 1回の静注、ダナパロイドが 1日 2回の静注であるが、他の

汎用されているヘパリン、低分子量ヘパリン、ガベキサートメシル酸塩、ナファモスタッ

トメシル酸塩においては、いずれも 24 時間の持続点滴静注が必要である。本剤投与では

24 時間にわたる持続点滴静注の管理が必要ないので、患者はもとより医療現場の負担も軽

減できると考えられる。

(5) 出血以外の有害事象の発現状況に本剤とヘパリンとの間に大きな違いはない

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-33

本剤は、出血症状に関連する有害事象に関するリスクがヘパリンと比べ小さいと考えら

れた。出血以外の有害事象に関しては、ヘパリンとの間に大きな違いは認められなかった。

添付文書(案)に記載した禁忌や使用上の注意を遵守することによって、DIC 患者に対す

る良好な忍容性が確保できると考えられた。

以上のとおり、本剤は DIC に対する第一選択薬として、標準薬であるヘパリンに置き換わり得

る薬剤と位置付けられる。

1.5.3.2.2 本剤の臨床的位置付け(ヘパリン以外の薬剤との比較)

本剤は、ヘパリン以外の薬剤とは比較臨床試験を実施していないが、過去の臨床試験の結果及

び効能・効果の比較から、本剤の臨床的位置付けは以下のとおり考察される。

本剤は、DIC で抗凝固療法に用いられる既存薬である低分子量ヘパリン、低分子ヘパリノイド、

ガベキサートメシル酸塩、ナファモスタットメシル酸塩、及び乾燥濃縮人アンチトロンビン III

とはいずれも作用メカニズムが異なる。

既存薬は、いずれもヘパリンとの有効性比較で非劣性あるいは同程度の効果が示された薬剤で

ある63-66)

。それに対し本剤は、これらの既存薬の非劣性検証条件より保守的な条件でヘパリンに

対する非劣性を示したことから、DIC に対する本剤の有効性は既存薬と比較して少なくとも劣る

ことはないと推察される。

したがって、本剤は既存薬と並び DIC に対する第一選択薬の 1 つとして位置付けられる。

乾燥濃縮人アンチトロンビン III の効能・効果は、「ATIII 低下を伴う DIC」に限定されており、

本剤の効能・効果である「DIC」とは異なる。第 3相臨床試験の ATIII による部分集団解析から、

本剤の有効性は、ATIII が低下した患者、低下していない患者の両方で認められた。したがって、

本剤の治療対象は ATIII 濃度によらないことが乾燥濃縮人アンチトロンビン III と異なる。また、

乾燥濃縮人アンチトロンビン III は、「産科的及び外科的 DIC」以外の内科的 DIC ではヘパリン

との併用が必要である。しかしながら、本剤はいずれの基礎疾患の DIC 患者に対してもヘパリン

との併用は不要である。

以上、本剤の有効性・安全性プロファイルを考慮すると、DIC 患者に対し、基礎疾患に対する

治療を十分に施し、本剤を投与することで、得られるベネフィットはリスクを上回り本剤の臨床

的有用性は高いと考えられ、以下の内容で製造販売承認申請を行うこととした。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-34

1.5.4 効能・効果及び用法・用量

1.5.4.1 申請品目

【申請品目】

リコモジュリン点滴静注用 12800

1.5.4.2 効能・効果

【効能・効果】

汎発性血管内血液凝固症(DIC)

<効能・効果に関連する使用上の注意>

(1) 本剤は、患者が臨床的に DIC の状態にあることを確認した場合に限り使用すること。

(2) 基礎疾患に対する積極的治療が不可能で、DIC を回復させたとしても予後の改善が期待で

きない患者には、原則として本剤は投与しないこと。

(3) 「造血器悪性腫瘍あるいは感染症」以外を基礎疾患とする DIC 患者については、本剤の投

与経験は少なく、有効性及び安全性は確立していない。

• 効能・効果の設定根拠は、「1.5.2.2.7項 効能・効果の設定」に記載した。

1.5.4.3 用法・用量

【用法・用量】

通常、成人には、トロンボモデュリン アルファとして 1日 1回 380 U/kg を約 30 分かけて点滴静

注する。なお、症状に応じ適宜減量する。

<用法・用量に関連する使用上の注意>

本剤の臨床試験において、7日間以上の投与経験はなく、本剤を 7日間以上投与した場合の有

効性及び安全性は明らかではない。本剤の使用にあたっては、基礎疾患の病態、凝血学的検査値

及び臨床症状等から血管内血液凝固亢進状態にあるか否かを総合的に判断した上で投与期間を決

定し、漫然と投与を継続することがないよう注意すること。

• 用法の設定根拠

DIC における血液凝固の活性化反応は、一定期間内持続あるいは反復するものと考えら

れるので、治療薬は持続的に血液中に存在する必要がある。第 1相臨床試験の結果より、

本剤の血漿中濃度の消失半減期は約 20 時間と長く、治療期間中、抗凝固効果を発揮するの

に必要な血中濃度を維持するためには、「1日に 1回の静脈内投与」で十分であると考え

られた。さらに、安全性の観点から被験者の状態を観察しながらの投与が可能で、万一投

与中に不都合が生じた際、即座に投与を中止できる「30 分点滴静注」を用法として選択し

た。

• 用量の設定根拠

後期第 2相臨床試験の結果から想定された臨床推奨用量である 380 U/kg (0.06 mg/kg)を用

いた第 3相臨床試験において、本剤は、ヘパリンに対し DIC 離脱率の優越性を示した。こ

のことから、上記用量での有効性は十分高いと考えられた。また、安全性の面からも特に

問題となるものは認められなかった。

以上の理由及び DIC は重症疾患であり救命的な治療効果を得ることを目的として治療が

行われることから、安全性が確保されている用量範囲内でできる限り効果の高い用量であ

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

1.5-35

る 380 U/kg (0.06 mg/kg)を臨床推奨用量とすることは妥当と考えられた。なお、用量の設定

根拠に関しては、「1.8.5項 用量(案)の設定根拠」に詳述した。

本剤は腎排泄型の薬剤であるが、PPK解析の結果からは腎機能障害患者において投与量

調整が必要なほどの影響はなかった。しかしながら、「重篤な腎機能障害のある患者」に

ついては、投与経験も少なく本剤の投与量が過量になる可能性を完全に否定できないため、

凝血学的検査、臨床検査、及び臨床症状を参考に減量を考慮する必要があると考えた。特

に「血液透析療法中の患者」については腎機能障害の程度が高度であるため、一律に減量

する必要があると考えた。以上の理由から、添付文書(案)の[用法・用量]に「症状に

応じ適宜減量する。」旨を記載した。なお、減量の程度に関しては、過度な減量の結果、

効力が不十分となることは DIC のような重篤疾患の場合、死亡等の重大なリスクの増大に

つながるので、後期第 2相臨床試験から安全でかつ有効性が著しく減弱しないことが明ら

かとなっている 130 U/kg (0.02 mg/kg)とすることが妥当と考えた。

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1.5 起原又は発見の経緯及び開発の経緯

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