日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · web...

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日日日日日日日日日日日日 日日日日日日日 日3日日日日日日日 日日日日 日 日日日日日日日 () 日日日日日日日日日日日日 日日日日日日日.............................................1 日3日日日日日日日 日日...................................................1 日日 日 日日日日日日日 () .....................................................1 はははは............................................................2 1. ははははははははは はは はははははは .........................................4 (1) はははははは はは はははははは .......................................4 (2) 1999はははははははは はは はは――はははははは ............................5 (3) 1990-1999はははははははははは....................................6 (4) はははははははははははは...........................................7 (5) ははははははははは はは はは ........................................8 2. はははははははははははははははPCは はは1970はははははははははは.......................9 (1) PCははははははは――ははははははははははははははははははははははは.....................9 (2) はははははははははははははははははははははははは はははははははははははは () .................11 (3) ははははははははははははははははNECはははははははは――はははは.....................11 (4) はははははははははははは..........................................12 (5) ははははははOSははははははははははははははは 一体............................13 (6) ははははははははははPCはは........................................14 3. はははははははははははははははははははははははは...................................14 (1) はははははははははははははははは――はははははははははははは........................14 (2) ははははははははははははははははははは――ははははははははははははNEC9800はは............16 (3) NECははははははははは はははははは 「」 ...................................17 (4) NECはははははははははははは はははははは 「」 ................................18 (5) はははははははははははははははははははははは................................19 (6) はははは はははははは NECははははははははははははは...........................19 1

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Page 1: 日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · Web view第3章コンピュータ・半導体 鬼木 甫(大阪学院大学) 日本経済の効率性と回復策

日 本 経 済 の 効 率 性 と 回 復 策 に 関 す る 研 究 会

第 3 章 コ ン ピ ュ ー タ ・ 半 導 体

鬼 木   甫 ( 大 阪 学 院 大 学 )

日本経済の 効率性と 回復策 に 関す る 研究会.................................. 1

第3 章コ ン ピ ュ ータ ・半導体.................................................... 1

 鬼木 甫(大阪学院大学).................................................................... 1

は じ め に .......................................................................................... 21. 日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体生産と 輸出入............................ 4

(1) コ ン ピ ュ ータ ・半導体の 生産の 流れ ......................... 4(2) 1999 ――年の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業 ハ ード ウ ェ

ア 5(3) 1990-1999 年の コ ン ピ ュ ータ 生産............................... 6(4) ソ フ ト ウ ェ ア 生産と 輸出入........................................ 7(5) 米国の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業.................................. 8

2. 日米の パ ーソ ナ ル ・コ ン ピ ュ ータ (PC )産業・1970年代中

葉か ら 現在ま で ................................................................................. 9(1) PC ――生産の は じ ま り 複数ア ーキ テ ク チ ャ ー間

の 不完全競争と 独占の 成立.............................................................. 9(2) 米国に お け る 互換機メ ーカ ーの 参入と 競争市場の 成立

(コ ン ピ ュ ータ 標準の 成立)............................................... 11(3) 日本に お け る 複数メ ーカ ーの 併存と NEC 方式市場の 複

――占化 日米格差................................................................................. 11(4) 米国製コ ン ピ ュ ータ の 流入........................................ 12(5) ウ ィ ン ド ウ ズ OS の 普及と コ ン ピ ュ ータ 世界市

場の 一体化....................................................................................... 13(6) 世界市場の 中の 日本の PC 産業........................................... 14

3. 日米の コ ン ピ ュ ータ 産業構造の 比較と 日本型企業組織...... 14

-1-

Page 2: 日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · Web view第3章コンピュータ・半導体 鬼木 甫(大阪学院大学) 日本経済の効率性と回復策

(1) ――上下分離型の 米国コ ン ピ ュ ータ 産業 競争市場と 独占市場

の 併存 14(2) ――縦割り 型と な っ た 日本の コ ン ピ ュ ータ 産業

メ ーカ ー間の 不完全競争と NEC9800 市場.................................. 16(3) NEC 仕様コ ン ピ ュ ータ の 「不完全」独占.................. 17(4) NEC 仕様コ ン ピ ュ ータ 市場へ の 「不完全」参入...... 18(5) 米国に お け る 互換機メ ーカ ーの 参入と 知的財産権... 19(6) セ イ コ ー・エ プ ソ ン 社の NEC 型コ ン ピ ュ ータ

市場へ の 参入................................................................................. 19(7) ――製品と し て の コ ン ピ ュ ータ (本体)の 特色 部品

の 緩や か な 結合体.................................................................... 21(8) 日本型企業の 特色と 製品の 特色........................................... 23

4. 日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業の 将来............................ 24(1) 日本の 比較優位・劣位の 概観.................................................. 24(2) 日本の 比較優位・劣位の 所在.................................................. 26(3) 日本型企業の 不得意の 克服策.................................................. 27(4) ソ フ ト ウ ェ ア 産業..................................................... 30

5. お わ り に .................................................................................... 33参考文献.................................................................................................... 34

は じ め に

 「コ ン ピ ュ ータ 」す な わ ち 「電子的手段に よ る デ ジ

タ ル 情報処理の た め の 機械」は 二十世紀後半の 所産で あ る 。1940

年代、第2 次大戦の 終了時前後に 米国で 生ま れ て 以来、半世紀後の 今日

ま で 、コ ン ピ ュ ータ は 、能力向上と 適用範囲の 拡大、価格の 低落、

サ イ ズ 縮小の そ れ ぞ れ に つ い て 、大幅な 進歩を 遂げ た 。

1

当初コ ン ピ ュ ータ は 、大企業・銀行・政府機関・大学な ど で 専門目

1価格・性能比だけで言えば、もしコンピュータと同じ程度の技術進歩が自動車において生じたならば、現在われわれは 1台を 2-3ドル程度で入手できることになると言われている。

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Page 3: 日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · Web view第3章コンピュータ・半導体 鬼木 甫(大阪学院大学) 日本経済の効率性と回復策

的に 使用さ れ る 「大型・汎用コ ン ピ ュ ータ 」で あ っ た 。1970

年代に 至り 、コ ン ピ ュ ータ の 主要部分で あ る 電子回路が 、シ

リ コ ン 等の 半導体素材上の 集積回路と し て 実現さ れ 、「プ リ

ン ト (焼き 付け )」方式に よ る 大量生産も 可能に な っ て 、デ

ス ク ト ッ プ ・コ ン ピ ュ ータ (パ ーソ ナ ル コ ン ピ ュ

ータ 、PC )が 作ら れ る よ う に な り 、小型化(ダ ウ ン サ

イ ジ ン グ )と 低価格化が 進行し は じ め た 。

1990年代に 入る と 、集積・小型化が さ ら に 進み 、ポ ータ ブ

ル ・コ ン ピ ュ ータ も 実用化し た 。1990年代中葉以降は 、「イ ン

タ ーネ ッ ト 」に 代表さ れ る 通信ネ ッ ト ワ ーク と 結合し

て 、コ ン ピ ュ ータ は 二十一世紀の 「IT社会」2 実現の 役割を 担う

と さ れ て い る 。

現時点に お い て 、コ ン ピ ュ ータ は す で に 、大量生産・大量

消費の 「コ モ デ ィ テ ィ ー」に な っ て い る 。し か し な

が ら 、価格・性能比の 低下、サ イ ズ の 縮小、消費電力の 節約、よ り

簡便な 使用法の 実現等の 点で 進歩は 続い て お り 、製品と し て

の 成熟段階に は 達し て い な い 。従来の 経過を 延長す る と 、二

十一世紀に 入っ て も 、少な く と も 10年間程度は 進歩が 続く で

あ ろ う と 予測さ れ る 。

周知の よ う に コ ン ピ ュ ータ は 、当初の 発明か ら 最近の

イ ン タ ーネ ッ ト の 普及に 到る ま で 米国を 中心と し て 発展

し た 。他の 先進諸国は 米国に 追随し 、こ れ を 追い 越す こ と

を 試み て き た 。日本に お い て も 、コ ン ピ ュ ータ に よ

る 情報処理が 国家社会の 重要な 活動を 担う こ と か ら 、「戦略産業」

と し て 重要視さ れ た 。1960-70年代の 汎用・大型コ ン ピ ュ ータ

国内メ ーカ ーの 保護や 、1980年代初頭以来の 半導体メ モ リ ー開発に 対

す る 国の 援助な ど は 、そ の 表れ で あ り 、後者に つ い て

は こ れ が 成功し て 、米国と の 貿易摩擦を 生ず る ま で に な

2 IT: Information Technology

-3-

Page 4: 日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · Web view第3章コンピュータ・半導体 鬼木 甫(大阪学院大学) 日本経済の効率性と回復策

っ た 。3 し か し な が ら 1980年代末の PC の 出現以降、日本の コ

ン ピ ュ ータ ・半導体産業に 対し て 、直接の 公的補助や 規制は ほ

と ん ど 加え ら な か っ た 。4 同産業は 国際的な 競争環境に お

か れ た の で あ る 。5

コ ン ピ ュ ータ ・半導体の 生産に つ い て は 、当初、そ れ が

日本に お け る 労働力・自然資源の 特性に 合致し て い る よ う に

見え た こ と か ら 、日本が 比較優位を 獲得す る こ と が 期待さ

れ た 。し か し な が ら 、今日の 状況を 見る と 、そ の 期待は

必ず し も 実現し て い な い 。ハ ード ウ ェ ア ・部品を 含む 電

子産業全体を 見れ ば 、日本の 輸出は 国内生産の 半額に 達し て い る 。

ま た 一部の 先端的な 製品、た と え ば 1980年代中葉の 半導体メ モ

リ ー、最近の 液晶デ ィ ス プ レ ー、小型ポ ータ ブ ル ・コ ン ピ

ュ ータ や プ リ ン タ 等の 周辺機器に つ い て 、日本か ら の 輸

出が 目立っ て い る 。し か し な が ら 、PC 本体や そ の 主要部

品で あ る CPU、マ ザ ーボ ード 、チ ッ プ セ ッ ト 等に つ い

て は 輸入が 多い 。加え て 、ソ フ ト ウ ェ ア で は 輸出・輸入比

が 1 %台と い う 状態で あ り 、ま た イ ン タ ーネ ッ ト 関係

の 製品(ル ータ ーな ど )も 米国か ら の 輸入が 多い 。全体と し

て 、将来こ の 分野で 相対的な 成長が 予想さ れ る 製品に つ い て

日本の 競争力が 弱い と い う パ タ ーン が 観察さ れ る 。

本章に お い て は 、日米間で コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業の 比較

優位が 製品ご と に 分か れ て い る こ と に 留意し つ つ 同産業

の 日米比較を お こ な う 。第1節で は 、主に 統計デ ータ に よ

っ て 日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業の 現状を 概観し 、同産業

3スーパー・コンピュータ輸入をめぐる同年代の「貿易摩擦」は、米国による不当要求(関係者の利害だけを反映した要求)の面が強いが、その背景には、1960-70年代における国内コンピュータ・メーカーの保護という経過があったと思われる。4 ただし、税制上の優遇措置など間接的なサポートは続けられている。5 ただし使用言語(日本語と英語)の差から、1990年代初頭まで、国内メーカーは PCハードウェアについて外部(米国)からの競争にさらされなかった(ハードウェア部品・デバイスを除く)。ソフトウェアについても言語障壁が存在するが、英語用ソフトウェアの日本語用への転換は容易であるため、障壁はそれほど高くない。他方、情報サービス・サポートなどについては(他サービスと同じく)強い言語障壁が存在する。

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に お け る 日本の 比較優位・劣位の 所在を 明ら か に す る 。

次い で 第2、第3節で は 、コ ン ピ ュ ータ ・半導体の 中で も 代

表的製品で あ る デ ス ク ト ッ プ ・パ ーソ ナ ル コ ン ピ ュ

ータ (PC )に つ い て 、1980年代後半か ら 1990年初め に か け て

日本が そ の 比較優位を 獲得で き ず 、逆に 日米格差が 生じ た 経過

と 原因を 考察す る 。PC に つ い て は 、日本語・英語の 言語環境の

差か ら 、当初は 日米の 市場が 分離し て 発展し 、1990年代初頭に 到っ

て 両市場が 統合さ れ た 。6 統合直後に お い て 、日本の PC メ ー

カ ーは 、安価な 米国PC の 流入か ら 苦境に 立た さ れ た が 、そ

の 後海外か ら の 部品調達な ど に よ っ て コ ス ト 引下に 努め

つ つ 生産を 続け て い る 。7 今日で は 、PC は 世界規模の 市場か

ら 広く 部品を 調達し て 生産さ れ 、世界市場で 販売さ れ る 「グ

ロ ーバ ル 商品」に な っ て い る 。し た が っ て 、現時点で 過

去の PC 市場の 展開を 考え る 意義は 少な い と 思わ れ る か も

し れ な い 。し か し な が ら 、製品と し て の PC の 特色や

日本の PC 市場の 構造・環境の 特色は 、今日に お け る た と え ば

イ ン タ ーネ ッ ト 構成要素の そ れ と 共通す る も の が あ

り 、PC 産業の 経過を 考え る こ と は 、将来の 日本の IT産業の 効率

性を 考察す る た め の ヒ ン ト に な り 得る も の と 考え

る 。

最後に 第4節で は 、コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業に つ い て 観察

さ れ た 日本の 比較優位・劣位の 生成原因を 考察し 、日本が 比較優位を

実現す る た め に 必要な 方策に つ い て 述べ る 。「お わ り

に 」で は 、本章が 取り 扱っ た テ ーマ に 関す る 従来の 研究成果

を 概観し 、残さ れ た 研究課題に つ い て 述べ る 。

6 PCは当時すでに普及していた大型コンピュータのミニアチュアとして生産されたので、PCの仕様は(使用言語を除き)両市場間で同一であった。したがって、両市場における PC生産の展開は、たとえば異なる環境におかれた双生児のようなもので、両市場環境の差を反映することになった。7 ただし PCについては、ユーザに対するアフター・サービスを含めて「流通経費」のウェイトが大きい(米国においては、PCハードウェア流通の付加価値が同生産の付加価値を超えている――後出表3.15を参照)ので、日本メーカーは国内市場で海外メーカーより有利な立場にある。

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1. 日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体生産と 輸出入

(1) コ ン ピ ュ ータ ・半導体の 生産の 流れ

図3.1 は コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業に お け る 生産の 流れ を

説明し て い る 。コ ン ピ ュ ータ は さ ま ざ ま の 情報作業

(た と え ば 文書作成、イ ン タ ーネ ッ ト ア ク セ ス )の た

め に 使用さ れ る が 、そ れ は (汎用の )コ ン ピ ュ ータ ・周

辺機器・ハ ード ウ ェ ア 上に 目的に 即し た ソ フ ト ウ ェ ア

を 設置(イ ン ス ト ール )し 、ユ ーザ が そ れ を 駆使す る

こ と に よ っ て 実現さ れ る 。ソ フ ト ウ ェ ア は 100 %近

く 労働だ け の 製品で あ る (他ソ フ ト ウ ェ ア の 転用を 含

む )。他方ハ ード ウ ェ ア は 、多数の 部品を 組み 立て て 生産さ

れ る 。主要な 部品が 半導体集積回路で あ る 。そ れ は シ リ コ

ン 等の 素材か ら 作ら れ た ウ ェ ハ ー(薄片)上に 回路設計図を 縮

小し て 焼き 付け た も の で 、小型化を 実現し 、大量生産を 可能に

し て い る 。半導体集積回路は コ ン ピ ュ ータ だ け で な く 、

他の 製品に も 広く 使わ れ て お り 、1980年代に は 「産業の コ

メ 」と 呼ば れ て い た 。コ ン ピ ュ ータ 組立の た め に は 、

半導体集積回路以外の 電子部品・デ バ イ ス も 使わ れ る が 、そ れ

ら の 部品・デ バ イ ス は コ ン ピ ュ ータ だ け で な く 、他

の 多く の 分野で 使用さ れ て い る 。

(2) 1999年の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業――ハ ード ウ ェ ア

ま ず 最初に 、1999年に お け る 日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体

の 生産と 輸出入の 現状を 概観し よ う 。コ ン ピ ュ ータ ・半導体

は 、表3.2 に 示さ れ て い る よ う に 、電子工業製品に 分類さ れ

る 。電子工業製品は 、民生用電子機器(主に 音響・映像機器)、産業用電子機器、

電子部品・デ バ イ ス に 三分さ れ る (ソ フ ト ウ ェ ア は 含

ま な い )。コ ン ピ ュ ータ 本体と そ の 周辺装置は 、産業用電子機

器の 一部で あ る 。他方、半導体集積回路や 液晶デ バ イ ス な ど の

部品は 、電子部品・デ バ イ ス に 分類さ れ て い る 。

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1999年の 国内総生産(GDP)に 対す る 同年の 電子工業生産額23兆円余の 比

率は 5 %弱で あ る 8 。電子工業生産の う ち で 産業用電子機器は そ

の 約半分(48.6%)を 占め 、電子部品・デ バ イ ス は 43%程度で あ

り 、残り の 1 割弱が 民生用電子機器で あ る 。産業用電子機器は 、コ

ン ピ ュ ータ と そ の 周辺装置の ほ か 、通信機器・制御機器な ど

を 含む 。1999年に お け る コ ン ピ ュ ータ と 周辺装置の 生産額

は 共に 約2 兆円で あ り 、両者合わ せ て GDPの 1 %弱に な る 。他

方、電子部品・デ バ イ ス の 生産高は 計10兆円で あ る が 、そ の 中

で 半導体・集積回路の 合計は 3 兆5000億円(GDPの 0.7 %程度)、液晶デ バ

イ ス は 1 兆2000億円(GDPの 0.25%)で あ る 。従っ て 、こ れ ら

の 生産金額だ け か ら 見れ ば 、コ ン ピ ュ ータ ・半導体は 、「電

子工業」の 中で 先端的な 製品で は あ っ て も 、生産金額の 点で は

そ の 一部に す ぎ な い 。ま た 日本経済の 中で 同産業が 占め る

ウ ェ イ ト は 、た と え ば 自動車産業と 比較し て も か な り

小さ い 。

次に コ ン ピ ュ ータ ・半導体の 輸出入の 状況を 見よ う 。電子工業

は 全体と し て 見れ ば 輸出産業で あ り 、表3.4 が 示す よ う に

1999年の 輸出額は 12兆円強で 、同国内生産額の 約半分に 達し 、日本の 財

貨・サ ービ ス 輸出額の 4 分の 1 を 占め て い る 。そ の 中で 、

デ ス ク ト ッ プ と 携帯用を 合計し た コ ン ピ ュ ータ の 輸出

額3400億円は 、同国内生産の 15%強に 留っ て い る が 、周辺装置の 輸出

1 兆2000億円は 、国内生産2 兆円の 半分を 超え て い る 。他方、電子部品・

デ バ イ ス を 全体と し て み る と 、国内生産10兆円に 対し て 輸

出は 8 兆円に も 達し て い る 。記憶素子・論理素子な ど の 集積回路

の つ い て も 、同様に 輸出が 多い 。9

8国内総生産は付加価値の合計であり、表 3.2の数値は(付加価値ではなく)売上高であることに注意されたい。ただし、民生用・産業用電子機器は耐久消費財あるいは投資財として最終需要に入るから、本文数値は国内総生産の需要面での比率を表していると言うこともできる。9 PCの中核となる CPU・チップセットなどの論理素子集積回路(マイクロコンピュータ)は、周知のようにインテル、AMDなど米国メーカーからの輸入に頼っている。しかしながらこれらは、半導体製品全体の中で集積度が極端に高い例外的な存在で、より単純な論理素子の生産については日本メーカーが得意としており、生産・輸出金額も大きい。

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他方、電子工業生産の 輸入を 表3.6 で 見る と 、全体と し て 国内生産23

兆円に 対し て 、輸入は 5.6 兆円で あ り 、こ れ は 輸出の 約半分で

あ る 。電子工業の 各項目に つ い て 輸出と 輸入の パ タ ーン を 見

る た め 、1999年の 電子工業純輸出(輸出マ イ ナ ス 輸入)を 計算し

て み る (表3.8 )と 、輸入超過に な っ て い る の は 有線通信機器

(電話機・交換機・ル ータ 等)と 、デ ス ク ト ッ プ コ ン ピ ュ ー

タ の 2 項目だ け で 、そ れ 以外の す べ て の 項目で 輸出が 輸入

を 超過し て い る 。ま た 、特に 純輸出が 大き い 項目は 、コ ン

ピ ュ ータ 周辺装置、通信・コ ン ピ ュ ータ 以外の 産業用電子機器(た

と え ば 制御用機器)、お よ び 半導体・集積回路以外の 電子部品・デ バ

イ ス で あ る 。

こ れ ら の 結果か ら 、日本経済に お け る 電子工業の 生産は 、

デ ス ク ト ッ プ ・コ ン ピ ュ ータ の 本体、通信機器を 除く 大部

分の 項目に つ い て 輸出超過で あ り 、生産効率が 高い こ と が 分

か る 。

(3) 1990-1999 年の コ ン ピ ュ ータ 生産

図3.9 は 1990年代の 電子工業の 国内生産と 輸出入に 加え 、同年代の コ

ン ピ ュ ータ 本体と 周辺端末装置の 生産高の 経過を 示し て い る 。

コ ン ピ ュ ータ 生産の 総額は 1992年の 不況期に 減少し た 後、1997年

に 到っ て 一旦は 上昇し 、そ の 後再び 減少し て い る こ と が

分か る 。し か し な が ら 1990年代を 通じ て 顕著な 増減・変動は

な く 、総額は 5 -6 兆円台で 停滞し て い る 。

次に 生産額の 内訳を 見る と 、ま ず 大型コ ン ピ ュ ータ の 減少

傾向と パ ーソ ナ ル コ ン ピ ュ ータ の 増大傾向が 顕著で あ る 。

大型コ ン ピ ュ ータ は 1990年の 生産高1.3 兆円か ら 、1999年の 2600億

円に ま で 減少し た 。こ れ に 対し て パ ーソ ナ ル コ ン ピ

ュ ータ の 生産金額は 、1993年に 大型コ ン ピ ュ ータ を 追い 越し 、

1999年に は 2 兆2000億円に ま で 達し て い る 。こ れ に 対し 、周

辺端末装置の 生産金額は 若干の 減少傾向に あ る が 、電子計算機本体に 匹

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Page 9: 日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · Web view第3章コンピュータ・半導体 鬼木 甫(大阪学院大学) 日本経済の効率性と回復策

敵す る 金額を 保持し て い る 。

上記の よ う に 1990年代の コ ン ピ ュ ータ の 生産は 、金額だ

け で 見る と 、大型コ ン ピ ュ ータ の 減少と パ ーソ ナ ル コ

ン ピ ュ ータ の 増加傾向を 除い て 、概ね 安定し て い た よ う

に 見え る 。し か し な が ら 、後に 説明す る よ う に 、こ

の 期間実質的な 内容は 大き く 変化し て い る 。ま ず 第一に 、PC

と 周辺端末装置の 価格下落と 性能向上が 著し く 、(売上金額は 変わ ら

な い に し て も )個々の 生産物の 性能価格比は 大幅に 向上し て

い る 。ま ず PC の 国内出荷台数は 、表3.9 が 示す よ う に 、1992年

の 176 万台か ら 1999年の 921 万台へ と 7 年間に 5 倍強の 成長を 示し

て い る 。他方平均価格は 1992年の 56万円か ら 24万円に 低下し て い

る 。PC の 平均性能は こ の 期間に 数倍か ら 十数倍に 向上し た (統

計デ ータ に は 表れ て い な い )か ら 、も し 「性能・価格比を

考慮し た 実質生産」と い う 統計デ ータ が 作成さ れ て い れ ば 、

そ の グ ラ フ は 指数的に 成長し て い た は ず で あ る 。 

次に 図3.9 に お い て 増大傾向を 示し て い る PC の 内訳に つ

い て も 、1990年代に 変動が 生じ た 。同年代前半に お い て は

(こ れ も 後に 説明す る よ う に )NEC製の PC9800 型パ ソ コ

ン が シ ェ ア の 過半を 占め て い た が 、1993年こ ろ か ら

DOS/Vが 普及し 、当初IBM型PC の 輸入増大の 形で 、続い て そ の 国内

生産が 増大し た 。1990年代の 後半に は 、NECも PC9800 型の 生産を 停

止し て DOS/V型PC に 移行し た 。10 1999年の 時点で は 、(ア ッ プ

ル 社製を 除き )100 %近く の PC が DOS/V型に な っ て い る 。

(4) ソ フ ト ウ ェ ア 生産と 輸出入

次に 、ソ フ ト ウ ェ ア の 出荷と 輸出入に つ い て 説明す る 。

表3.11が 示す よ う に 、日本の パ ソ コ ン ・ソ フ ト ウ ェ ア

の 出荷金額は 1998年で 5900億円台で あ り 、こ れ は 同年の パ ーソ

10 NECは同社生産のDOS/V型 PCにも”PC98”の名称を付しているが、本来の同社 PC9800型 PCとの互換性はごく一部を除いて保持されていない。

-9-

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ナ ル コ ン ピ ュ ータ ・ハ ード ウ ェ ア の 生産額2,1 兆円の 約

28%に あ た る 11 。こ の 数字は 、ハ ード ウ ェ ア へ の 支出に

対す る ソ フ ト ウ ェ ア へ の 支出比率の 増大と い う ト レ

ン ド の 同年に お け る ス ナ ッ プ シ ョ ッ ト で あ り 、今

後に お い て は ソ フ ト ウ ェ ア へ の 支出の 比重は 一貫し

て 高ま る こ と が 予想さ れ て い る 。

図3.12A と 同B は 、1998年に お け る パ ソ コ ン 用ソ フ ト ウ

ェ ア 出荷額の 種類別と 、流通経路の 比率を 示し て い る 。同年に

お い て 、ソ フ ト ウ ェ ア の 中で は オ ペ レ ーテ ィ ン

グ シ ス テ ム (OS )が 最大の 比重を 占め 、こ れ に ワ ープ

ロ ソ フ ト 、表計算ソ フ ト が 続い て い る 。他方、PC ソ フ

ト ウ ェ ア の 流通経路と し て は 、デ ス ト リ ビ ュ ータ 経由

の 出荷額が 最大の 42%を 占め 、ソ フ ト ウ ェ ア ベ ン ダ ーか

ら の 直接販売が 19%、PC ハ ード ウ ェ ア や 他ソ フ ト ウ ェ

ア と の バ ン ド ル ・パ ッ ケ ージ が 10%弱を 占め て い る 。

次に 、ソ フ ト ウ ェ ア (PC 用パ ッ ケ ージ ソ フ ト だ け

で な く 、個別発注・製作分な ど も 含む )の 輸出・輸入額の 年次経過

を 1994-1998 年に つ い て 見よ う 。表3.13、お よ び 図3.14か ら 明

ら か な よ う に 、輸出と 輸入の 間に は 極端な ア ン バ ラ ン

ス が 存在す る 。1994年に お け る 日本の ソ フ ト ウ ェ ア 輸入

は 2600億円程度で 、そ の 大部分は 米国か ら の 輸入で あ っ た 。

1998年に は 、輸入金額が 6000億円近く に ま で 増大し て お り 、同

じ く 米国か ら の 輸入が 大部分で あ る 。こ れ に 対し 、日本か

ら の ソ フ ト ウ ェ ア 輸出は 、1994年に お い て 55億円、1998年

11 コンピュータは当初ソフトウェアが無い形、すなわちハードウェアだけで稼働する形で供給された。大型機時代にソフトウェアが使用されるようになったが、初期においてはハードウェアと一体化(バンドル)して供給されていた。1970年代に、当時大型コンピュータを独占的に供給していた IBM社が(米)司法省から独占禁止法違反の訴追を受け、その結果同社はソフトウェアをハードウェアから分離(アンバンドル)して販売することに同意し、基本ソフト(オペレーティングシステム、OS)とアプリケーションソフトの分離も実現された。1970年代末に PCが出現したときにもこの形式が踏襲され、当初から PC用ソフトウェアはハードウェアと分離して、またOSとアプリケーションも分離して生産・供給された。その後、ハードウェアの価格は急速に下落し、ソフトウェアに対する支出の比重が高まってきた。

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で も 88億円程度で あ り 、輸入額の 数十分の 一と い う ア ン バ

ラ ン ス が 続い て い る 。図3.13に は ソ フ ト ウ ェ ア に

つ い て 日本か ら の 輸出を 日本の 輸入で 割っ た 輸出入比率が 示

さ れ て い る が 、日本は 米国、欧州、ア ジ ア 、そ の 他の 世界各

地域に 対し て 輸入超過に な っ て お り 、1997-98年の 対米国比率は

最低の 0.23%で あ る 。ヨ ーロ ッ パ と の 輸出入比率は 1994年の

32%か ら 1998年の 4.6 %に 減少し て お り 、ア ジ ア に つ い

て も 61%か ら 30%に 半減し て い る 。こ れ ら の 数値は 、日本

の ソ フ ト ウ ェ ア 輸入が 絶対値だ け で な く 相対比率に お

い て も 増大し て い る こ と を 示し て い る 。

(5) 米国の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業

 表3.15A ・B は 米国の IT産業(コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業を 含む )

の 生産額(GDP)(付加価値額)を 示し て い る 。12 1999年の (推定)生産

額は 7300億ド ル で あ る 。IT産業が GDP合計中に 占め る 比率は 、

1990年の 5.8 %か ら 1999年の 8.2 %に 到る ま で 一貫し て 増大し

て い る 。こ の う ち 日本の 電子工業に 対応す る 項目は ハ ード

ウ ェ ア と 通信機器で あ る が 、そ の 1999年の 合計額268,214 百万

ド ル は 、1990年の 123,715 百万ド ル の 2.17倍で あ り 、ま た 1999

年の GDP合計の 3.0 %を 占め る 。前述の よ う に 同期間に お け

る 日本の 電子工業生産額は 、23兆円程度の 水準で 停滞し て い た 。

 な お 同表は 、コ ン ピ ュ ータ ・ハ ード ウ ェ ア に 対す る

同ソ フ ト ウ ェ ア 生産額(付加価値)の 増大傾向を 示し て い る 。

1990年の ハ ード ウ ェ ア 生産額に 対す る ソ フ ト ウ ェ ア 生産

額の 比率は 26.6% (=8.27/31.11 )で あ っ た が 、1996年に お い て

は 35.0% (=11.08/31.62)に な っ て お り 、6年間で 平均8.4% (1年間

で 1.4% )の 上昇ス ピ ード を 示し て い る 。

12 本表は前出の表と異なり、各産業の付加価値金額を示しており、したがって合計額に重複は含まれていない。

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2. 日米の パ ーソ ナ ル ・コ ン ピ ュ ータ (PC )産業・1970年代中葉

か ら 現在ま で 13

 コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業の 日米比較の た め 、本節で は そ

の 代表的製品で あ る パ ーソ ナ ル ・コ ン ピ ュ ータ (PC )産業

を 取り 上げ る 。パ ーソ ナ ル ・コ ン ピ ュ ータ は 、70年代の

集積回路技術の 発展に と も な っ て 、そ れ ま で 複数の 基板上に

作ら れ て い た 電子回路が 1 個の 半導体素子(チ ッ プ )に ま と

め ら れ 、ワ ン チ ッ プ ・コ ン ピ ュ ータ (マ イ ク ロ プ

ロ セ ッ サ ー・ユ ニ ッ ト 、MPU 、CPU)と し て 実現さ れ た

こ と に 始ま る 。PC は 従来の 大型コ ン ピ ュ ータ を 縮小・簡単

化し た 製品で あ り 、半導体素子の 小型化と 大量生産の 結果実現さ れ

た 安価な 小型コ ン ピ ュ ータ で あ る 。し た が っ て 、軽薄短

小を お 家芸と す る 日本メ ーカ ーが PC 生産の 比較優位を 獲得で

き る の で は な い か と 一般に 予想さ れ て い た 。し か

し な が ら 前節で 見た よ う に 、(製品の 極度の 小型化・軽量化を

要求さ れ る ポ ータ ブ ル PC を 除い た )デ ス ク ト ッ プ ・

コ ン ピ ュ ータ に つ い て は 、こ の 予想は 実現し て い な

い 。日本の PC 産業の 環境に 米国の そ れ と 異な る 要因が あ り 、

こ れ が 日本メ ーカ ーに よ る PC 生産の 比較優位の 獲得を 阻げ

た の で は な い か と 考え ら れ る 。本節と 次節の 目的は 、

そ の よ う な 「阻害要因」を 明ら か に す る こ と で あ る 。

(1) PC 生産の は じ ま り ――複数ア ーキ テ ク チ ャ ー間の 不完

全競争と 独占の 成立

1970年代中葉か ら 同年代末に か け て 、米国に お い て も 日本に

お い て も 、多数の コ ン ピ ュ ータ ・メ ーカ ーが 、イ ン テ

ル あ る い は モ ト ロ ーラ 社の CPUを 使っ た PC を 市場に 供

給し た 。現在に 比べ て 能力は は る か に 低く 、小規模の 計算や

13 本節と次(3.)節は、鬼木(1994)をベースとして書き改めたものである。

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短い 文章の ワ ード プ ロ セ ッ サ ー機能程度を 有す る だ け で

あ っ た 。

こ の よ う に 発足直後の PC 産業は 、多数メ ーカ ーが 異な る

ア ーキ テ ク チ ャ ーの PC を 提供す る と い う 異種製品間の 競

争(不完全競争)の 形を と っ て い た 。80年代に 入り 、米国に お

い て は IBMが 、日本に お い て は NECが 急速に シ ェ ア を 広

げ 、数年の う ち に そ れ ぞ れ 独占的な 地位を 確立す る 。

ま ず 米国に お い て は 、1981年に IBMが イ ン テ ル の

CPU(8086)を 使用し た IBM-PC を 発表し 、コ ン ピ ュ ータ 市場に

参入し た 。そ れ は 、オ フ ィ ス の 日常業務を ど う に か 満足

で き る ス ピ ード で 処理で き る 最初の PC で あ っ た 。IBM

コ ン ピ ュ ータ は 米国の 企業社会に 広く 受け 入れ ら れ て 急速

に シ ェ ア を 拡大し 、発売2 年後の 1983年に は 70%以上を 占め る

よ う に な っ た 。IBMは 1984年に イ ン テ ル の 新し い 16ビ

ッ ト CPU(80286 )を 装備し た PC-ATを 発表し た が 、こ れ が 現

在に 至る ま で PC の 標準方式と し て 定着し て い る 14 。そ れ

以外の 形式の コ ン ピ ュ ータ は 市場か ら 姿を 消し 、IBMに よ

る 独占が 形成さ れ た 15 。

 他方、日本に お い て は 、米国に 1 年ほ ど 遅れ て 、NECが IBM-

PC と 同じ く イ ン テ ル の 8086を 装備し た コ ン ピ ュ ータ

を 発表し 、IBMと 同じ く オ フ ィ ス に お け る 採用数を 急速

に 伸ば し た 。1983年に は 、日本IBMが 米IBMコ ン ピ ュ ータ を

改造し た 日本語仕様機5550を 発表し 、ま た 、富士通、日立も そ れ ぞ

れ 事務用を 主目的と す る コ ン ピ ュ ータ を 発表し た 。そ の

後個人使用の コ ン ピ ュ ータ (必ず し も 家庭用で な く 、大部分

は 企業に お い て 事務用に 使用さ れ た )に つ い て 、NECの

PC-9800 型コ ン ピ ュ ータ が 急速に シ ェ ア を 伸ば し 、1980年代

中葉ま で に は シ ェ ア 第1 位を と る よ う に な っ た 。

14 もとより現在までいくつかの新しい標準方式が付加・置換されている。15 現在まで残っている唯一の形式は、アップル社によるマッキントッシュ型のコンピュータである。

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 こ の よ う に 、70年代末の PC の 出現期か ら 80年代前半ま で 、両

国の コ ン ピ ュ ータ 市場は ほ ぼ 同一の パ タ ーン で 展開し 、

不完全競争か ら 独占に 変わ っ て い っ た 。こ れ は 、技術的理由

に よ る 「自然独占」で あ っ た と 考え る こ と が で き る 。

し か し な が ら 80年代中葉か ら 互換機市場の 展開が 始ま る と 、

日米両国の コ ン ピ ュ ータ 産業構造に 大差が 生ず る の で あ る 。

(2) 米国に お け る 互換機メ ーカ ーの 参入と 競争市場の 成立(コ

ン ピ ュ ータ 標準の 成立)

 米国に お い て は 、IBMに よ る 独占形成後わ ず か 数年の う

ち に 、IBMコ ン ピ ュ ータ の 互換機メ ーカ ーが 急速に 成長し

た 。1983年の IBMの シ ェ ア が 72%強で あ っ た の に 対し 、4

年後の 1987年に は 4 分の 1 以下に 低下し 、市場の 75%以上が 互換機メ

ーカ ーに よ っ て 占め ら れ る よ う に な っ た 。

 互換機メ ーカ ーの 急速な 成長を 可能に し た 理由は 、IBMに よ

る コ ン ピ ュ ータ 仕様開示の 方針、メ ーカ ー・ユ ーザ に よ る

標準方式の 受け 入れ 、お よ び 競争促進の た め の 司法判決な ど

で あ る 。IBMは 、当初か ら パ ーソ ナ ル ・コ ン ピ ュ ータ

の 部品の 取り 替え を 可能と す る 設計を 採用し 、同時に そ れ

ぞ れ の 部品の 結合仕様(イ ン タ ーフ ェ ース )を 公開し た 。

そ の 結果、IBMコ ン ピ ュ ータ の 互換部品や 互換機の 生産が 可能

と な り 、多数の 中小メ ーカ ーに よ る 技術開発、市場参入、価格低下

が も た ら さ れ 、IBM方式に よ る コ ン ピ ュ ータ の 標準化

と 同市場の 急速な 成長が 実現し た 。し か し な が ら そ の た

め に 、IBMは 互換機メ ーカ ーの 攻勢に さ ら さ れ 、独占市場を 失

う こ と に な っ た の で あ る 16 。

16 IBMは、独占市場の急速な形成と喪失の原因となった上記方策を後になって修正している。同社は、1980年代中葉に、基本入出力装置(BIOS)の生産について、互換機メーカーを知的財産権違反の理由で何度か提訴した。また、1989年には、新しいマイクロ・チャネル方式(MCA)をデータ・バスとして採用し、その仕様を公開せず、バス使用者から高額のライセンス料を取ることを試みた。しかし、独占市場回復を意図したこれらの試みは成功しなかった。

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(3) 日本に お け る 複数メ ーカ ーの 併存と NEC 方式市場の 複占化―

―日米格差

 米国の コ ン ピ ュ ータ 市場は IBM互換機メ ーカ ーの 大量参入に

よ っ て 競争市場と な っ た が 、日本で は こ れ と 異な る 経過

を た ど っ た 。ま ず 、一般企業に お い て 大型機の 端末と し

て 使用さ れ る PC に つ い て は 、大型機の 供給者で も あ る

NEC、日本IBM、富士通、日立の コ ン ピ ュ ータ が 並立す る 形が 継続

し た 17 。こ の 中で NECの PC-9800 が 着実に シ ェ ア を 伸ば し 、

1980年代後半に は 、価格と 品質、利用可能な ソ フ ト ウ ェ ア 数な

ど に お い て お お む ね 独占的地位を 確立し た 。

 1987年に い た り 、NECの PC-9800 型市場に 、エ プ ソ ン 社が 互換

機メ ーカ ーと し て 参入を 試み た 。同年春に NECは 、エ プ ソ

ン を BIOS の 著作権違反で 提訴し た が 、結局両者の 和解が 成立し 、

PC-9800 型市場は 、NECと エ プ ソ ン に よ る 複占体制と な っ た 。

同年以後、同市場に 新た に 参入を 試み た メ ーカ ーは 現れ て い

な い 。こ れ ら の 結果、1990年の 時点で 、市場の 60%以上を NECと

そ の 互換機が 占め 、残り を 日本IBM、富士通、日立の 3 社お よ び 他

メ ーカ ーが 分け 合う 形に な っ た 。

こ の 間、米国に お い て は 、IBM互換機の 性能向上と 価格下落が 著

し く 、そ の 結果と し て の 需要拡大と さ ら な る 価格下落と

い う 好循環が 生じ 、こ の こ ろ か ら 日米コ ン ピ ュ ータ の

格差拡大の 傾向が 明瞭に な っ た 。し か し な が ら 、こ の 期間、

米国製の コ ン ピ ュ ータ が 日本語を 取り 扱え な い と い う 事

情か ら 、日本の コ ン ピ ュ ータ 市場は 米国か ら 隔離さ れ 、米国

製コ ン ピ ュ ータ の 輸入は ゼ ロ に 等し か っ た 。

 1980年代後半か ら 90年代に か け て 、日米の コ ン ピ ュ ータ に

は 、イ ン テ ル の 80286 か ら 、同社の 386 、次い で 486 と 性能

を 大幅に 向上さ せ た CPUが 採用さ れ た 。ま た 米国に お い

17 4社のコンピュータ仕様は、基本的には米国 IBMコンピュータの仕様に倣っていたが、細部において異なり、それぞれ別種の製品として供給されたが、NECの PC-9800のシェア上昇と性能向上にともなって、同機が大型機端末として採用されるケースも増加した。

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て は 80年代中葉の PC-AT型機、日本に お い て は 同年代中葉の PC-9800

型機が 主流を 占め 、そ れ ぞ れ 実質上の コ ン ピ ュ ータ 標準の

地位を 確立し た 。

(4) 米国製コ ン ピ ュ ータ の 流入

 1991年に 到り 、CPUの 能力増大の 結果、米国IBM型の コ ン ピ ュ ー

タ 上で 日本語の 処理(日本語文書や 、日本語を 含ん だ 表・デ ータ な

ど の 作成)が 可能に な っ た 。そ の た め の 新し い OS が 、

日本IBMの DOS/Vで あ る 。

1991年か ら 92年の 米国に お い て は 、経済全般に わ た る 不況

も あ っ て 、コ ン ピ ュ ータ 価格が 下落し た 。当初は 、小規模互

換機メ ーカ ーの み の 価格引き 下げ で あ っ た が 、漸次(コ ン

パ ッ ク な ど の )大規模メ ーカ ーへ 波及し 、最後に は IBMも 価

格を 引き 下げ た 新し い コ ン ピ ュ ータ を 供給す る よ う

に な っ た 。こ れ ら の 結果、日米の コ ン ピ ュ ータ 価格・性能

差が 従来に も ま し て 顕著に な り 、1992年の 後半か ら 米国製コ

ン ピ ュ ータ の 日本市場へ の 輸入が 増大し た 。そ の 結果1993年

に 到り 、NECお よ び エ プ ソ ン は 、性能を 強化し 、価格を 2 分

の 1 程度に 引き 下げ た 新し い 機種を 発表し て 輸入コ ン ピ ュ

ータ に 対抗す る こ と に し た 。日本で は 1992年か ら 93年に

か け て 不況が 深刻化し た の で 、コ ン ピ ュ ータ 市場の 規模

は 若干縮小し た 。そ し て 1993年に は 、米国製コ ン ピ ュ ータ 、

NEC・エ プ ソ ン の コ ン ピ ュ ータ と も に 、価格引下、性能向上

が 進ん だ 。1993年末に お い て 、日本の コ ン ピ ュ ータ 市場の

大部分は 依然PC-9800 型が 占め て い た が 、新し い OS で あ る

Windowsの 供給開始と 平行し て 、米国製コ ン ピ ュ ータ の シ ェ

ア が 少し づ つ 増加し た 。1992年6 月お よ び 1993年11月の 時点に

お け る 両国の コ ン ピ ュ ータ (ハ ード ウ ェ ア )の 小売価格

(定価)を 比較す る と 、同一性能の 製品に つ い て 日米両国の 間に

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3 対1 あ る い は 2 対1 程度の 価格差が あ っ た 18 。

 

(5) ウ ィ ン ド ウ ズ OS の 普及と コ ン ピ ュ ータ 世界市場の

一体化

 1992-3年か ら 現在ま で 、PC ハ ード ウ ェ ア 性能の 向上と 価格下

落、DOS/Vに 代わ る Windows OS の 普及と そ れ に 基づ く 世界的規模

で の ユ ーザ 数の 拡大と 価格下落が 進ん だ 。こ れ ら の 傾向は

2000年に 入っ て も 依然と し て 継続し て お り 、少な く と も

今後10年程度の 期間は 継続す る も の と 予測さ れ て い る 。

 1990年代後半の 日本に お い て は 、Windows OS が PC の た め の

強力な プ ラ ッ ト フ ォ ーム と し て 成立し 、NEC-9800 型の PC

上で も Windows 用の ア プ リ ケ ーシ ョ ン プ ロ グ ラ ム を

使用す る こ と が 可能に な っ た 。そ の 結果、DOS/V型PC の ア

プ リ ケ ーシ ョ ン と PC-9800 用ア プ リ ケ ーシ ョ ン の 区別

が な く な り 、PC-9800 は Windows OS 下の ハ ード ウ ェ ア の 一

仕様と な っ た 。IBM型PC は 世界規模の 市場を 持ち 、NEC-9800 型PC

の 市場は 日本国内に 限ら れ て い た の で 、生産規模の 利益か ら

両モ デ ル の 生産費に 格差を 生じ 、NEC-9800 型PC は 次第に 競争力

を 失っ て い っ た 。し か し こ の 間、大部分の ユ ーザ は 新

し い ハ ード ウ ェ ア 、新し い OS (Windows)、新し い ア プ

リ ケ ーシ ョ ン へ の 買い 換え を 進め た の で 、NEC-9800 型

PC 上で DOSプ ロ グ ラ ム を 使用し て い た ユ ーザ も 次第に

IBM型PC 上で の Windowsプ ロ グ ラ ム 使用に 移行し た 。そ し

て NEC自体も 本来の NEC-9800 型PC の 生産か ら 、(PC98 と い う 同

一あ る い は 類似の ブ ラ ン ド 名を 保持し た ま ま )IBM型PC

へ の 切り 替え を 進め た 。こ れ ら の 結果NECは 、古く か ら

の 自社PC の ユ ーザ に (他社PC の ユ ーザ と 比較し て )極度に

大き な 負担を か け る こ と な く 、自社モ デ ル で あ る

NEC-9800 型PC か ら 世界標準と な っ た IBM型PC へ の 切換を 完了

18 くわしくは、鬼木(1994)参照。

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す る こ と が で き た 。同社の シ ェ ア は 1980年代末の 6-7 割

と い う 独占的水準か ら 大き く 低下し た が 、し か し 現在で

も 国内PC 市場の ト ッ プ シ ェ ア を 維持し て い る 。

 1990年代前半の 米国製PC の 流入以来、国内の PC メ ーカ ー(NEC、富士通、

日立な ど )は PC 生産に か か る 利潤率を 大幅に 切り 下げ た 。

ま た 従来の PC 部品の 社内供給体制を 諦め 、台湾・東南ア ジ ア の 広

範囲の メ ーカ ーか ら 部品購入を は か っ て コ ス ト を 切り 下

げ 、輸入PC に 対抗し た 。90年代後半は 、Compaq 社を 初め と す る

米国メ ーカ ーと 国内メ ーカ ーが PC ハ ード ウ ェ ア 市場で 激烈

な 争い を 繰り 広げ た 。ま た 1990年代末に お い て は 、米国の

メ ール オ ーダ ー型サ プ ラ イ ヤ で あ る DELL や Gateway2000

も 日本市場に 参入し 、そ の 結果さ ら に 競争が 進展し て 、価格引

き 下げ 、需要増大の 同時進行と い う 好結果が 日本市場で も 実現し

た 。

(6) 世界市場の 中の 日本の PC 産業

 上記の 経過か ら 出て く る 問題点は 、世界の PC 市場に お け る

日本メ ーカ ーの パ フ ォ ーマ ン ス が 、何ゆ え に テ レ ビ 、

フ ァ ク シ ミ リ 、VTR市場で の す ぐ れ た パ フ ォ ーマ ン

ス と 大き く 異な る こ と に な っ た か で あ る 。日本の

メ ーカ ーは 早く か ら PC の 重要性と 将来性を 認め て お り 、十

年余の 期間に わ た っ て (途中一部メ ーカ ーの 脱落は あ っ た

が )悪戦苦闘と も 言う べ き 企業努力を 払い 続け て き た 。そ

れ に も か か わ ら ず 、PC ハ ード ウ ェ ア 市場で 苦戦を 免

れ な か っ た 。ま た PC ソ フ ト ウ ェ ア 市場で は 、OS で

も ア プ リ ケ ーシ ョ ン で も 、最初か ら ほ と ん ど 勝負に

も な ら な か っ た 。こ の よ う な 極端な 結果を 生じ さ せ

た 原因を 明ら か に す る こ と が 、次節の 課題で あ る 。

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3. 日米の コ ン ピ ュ ータ 産業構造の 比較と 日本型企業組織

(1) 上下分離型の 米国コ ン ピ ュ ータ 産業――競争市場と 独占市場の 併

 前節で 説明し た よ う に 、米国に お い て は 、1980年代中葉に

IBM型PC の 標準仕様が 確立し 、多数の 互換部品メ ーカ ー、互換機メ ー

カ ー、ソ フ ト ハ ウ ス が 市場に 参入し た 。こ れ ら の メ ー

カ ーは 、自己の 得意と す る 部品、製品、シ ス テ ム 、ソ フ ト

ウ ェ ア な ど の 生産に 特化し 、分業の 利益を 最大限に 発揮し な

が ら 他メ ーカ ーと 競争し 、技術進歩、製品改良、コ ス ト 引き 下げ

を 実現し た 。そ の 結果、ハ ード ウ ェ ア か ら ソ フ ト ウ

ェ ア ま で の 各レ ベ ル に わ た っ て 「上下分離」型産業構造が

成立し 、(少数の 例外を 除き )そ れ ぞ れ の レ ベ ル で 競争が

進行し た 。上下分離型の 産業組織は 、高度な 分業の た め の 、つ ま

り 効率的な 生産の た め の 必要条件で あ っ た 。

 図3.18が 示す よ う に 、米国の コ ン ピ ュ ータ 産業は 上下5 層

に 分か れ て 機能し て い る 。最下層は 、ハ ード ウ ェ ア 部品・

デ バ イ ス の 生産で あ る 。多数の 部品・デ バ イ ス 市場が 成立

し て お り 、米国だ け で な く 世界各地に 供給基地が あ っ て 、

そ の 大部分が 競争市場で 、製品開発・改良が 急速に 進ん で い る 。19

次に 、同図の 下か ら 2 番目と 3 番目の 層は 、コ ン ピ ュ ータ 本

体や 周辺装置を 設計し 、組み 立て る 仕事で あ る 。設計・組立は 、

い ず れ も 高度の 知的作業や 注意深い 工程管理を 必要と す る が 、

特殊な ハ ード ウ ェ ア の よ う に 知的財産権な ど で 保護さ れ

る 要素は 少な い 。こ の た め 、こ の 層に は 多数の 企業が 参入

し て 競争市場が 形成さ れ て い る 。20

19 ただし、メーカーの特殊な技術に依存する部品市場は独占下にある。独占は、生産技術が高いこと、また製品が知的財産権(特許・著作権制度など)によって保護されていることから生ずる。最も顕著な独占市場は、インテルが供給するCPU市場である。CPUの価格は、コンピュータ・ハードウェア、ソフトウェア全体の価格のうちで大きな比重(10%~30%程度)を占める。20 現在のコンピュータ・ハードウェアについては、(キーボードなど一部の部品を除いて)使用言語による区別は存在しない。したがって、全世界のハードウェア市場は一体化している。1990年代中葉以降、米国で(小売店舗を持たない)メール・オーダーのハードウェア・メーカー(DELL、Gateway2000社など)が急成長し、最近では日本市場にも進出して急速にシェアを伸ばしつ

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図3.18の 上2 層は 、い ず れ も ソ フ ト ウ ェ ア 生産で あ る 。

上か ら 2 層目の オ ペ レ ーテ ィ ン グ ・シ ス テ ム (OS )市場

は 、マ イ ク ロ ソ フ ト の ほ ぼ 完全な 独占下に あ る 。OS

は 、そ の 上の 層す な わ ち ア プ リ ケ ーシ ョ ン ・プ ロ

グ ラ ム (AP )に 対し て 標準化さ れ た 公開イ ン タ ーフ ェ ー

ス (API )を 提供す る 必要が あ り 、(内部構造は 別に し て )イ

ン タ ーフ ェ ース に つ い て 独自性を 出す 余地は ほ と ん ど

な い 。ま た 、OS の 開発に は 多額の コ ス ト が か か る 。

OS は す べ て の コ ン ピ ュ ータ で 使用さ れ る た め 、販売

数は 格段に 大き い が 、「生産」は コ ピ ー作成に す ぎ な い た

め 、可変費用が 極度に 低く 、規模の 利益が 大き い 。し た が っ

て 、独占市場が 一旦成立す る と 、製品価格が 高く 設定さ れ な い

か ぎ り 、市場に 新た に 参入す る こ と は 困難で あ る 。IBM

が 当初PC の 供給を 開始し た と き に 採用し た マ イ ク ロ ソ

フ ト の オ ペ レ ーテ ィ ン グ ・シ ス テ ム (MS-DOS)が 、

IBM-PC と 同互換機の 普及に と も な っ て 強固な 独占市場を 形成し 、

ウ ィ ン ド ウ ズ OS の 時代に な っ て も こ れ が 維持さ れ

て い る 21 。

図3.18の 最上層は 、ア プ リ ケ ーシ ョ ン ・プ ロ グ ラ ム

(AP )で あ る 。プ ロ グ ラ ム の 生産は 、特定の 仕事を 実行す

る 手順に 関す る ア イ デ ィ ア と 、そ れ を 実現す る た め

の (プ ロ グ ラ ム ・記号の )コ ーデ ィ ン グ に 依存し て お

つある。21 マイクロソフト社のOSは数回にわたってグレード・アップされたが、すべて下方互換性が保証され、とりわけMS-DOSからウィンドウズへの切換時には、当初MS-DOSをベースにしたWindows3.1によって顧客をつなぎ止め、次いでMS-DOSから独立したWindows95/98を供給するという巧妙な方策が採用された。(これに対し、IBMは当初からMS-DOSから独立して自社OS“OS-2”の供給を試み、失敗に終わった。)またマイクロソフトは他OSの参入を防ぐため、通常の独占価格よりも相当に低いと思われる水準にOSの価格を設定した。その結果、同社は独占市場のほぼ完全な維持に成功し(他OSの参入が皆無ではなかったが、市場シェアの点で問題にならなかった)、独占OSおよびそれをベースとして進出したアプリケーションソフト市場からから巨大な利潤を得た。ただしOSの価格は、コンピュータ・ハードウェア全体の 3%~5%程度であり、同社の独占は直接的にはそれほど強くユーザに影響しているわけではない。1998年に(米)司法省は、同社のOS以外の市場への進出方式が(米)独占禁止法に触れるとして訴追を開始したが、2000年 6月に一審判決がワシントン連邦地裁で下り、同社は独占禁止法に違反しているという理由でOS事業とアプリケーション事業への2分割という是正命令を受けた(ただし二審への控訴が予測されている)。

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り 、優れ た ア イ デ ィ ア と コ ーデ ィ ン グ 技術が あ れ

ば 、少額の 資本で 容易に 参入で き る た め 、ソ フ ト ウ ェ ア

市場は 強度の 競争市場と な っ て い る 。そ の 結果、コ ン ピ ュ

ータ の 使い 勝手は 年々改良さ れ 、ま た コ ン ピ ュ ータ に よ

っ て 実行で き る 仕事の 範囲も 拡大し 、多数の ユ ーザ を 引き

つ け る こ と が で き た 。米国に お け る コ ン ピ ュ ータ

産業発展の 一端は 、競争環境に あ る ア プ リ ケ ーシ ョ ン ・プ

ロ グ ラ ム 市場が 担っ た の で あ る 。22

(2) 縦割り 型と な っ た 日本の コ ン ピ ュ ータ 産業――メ ーカ

ー間の 不完全競争と NEC9800 市場

 米国の コ ン ピ ュ ータ 産業が 上下分離・横断型の 競争市場と な っ

た の に 対し 、日本の コ ン ピ ュ ータ 産業は 、当初MS-DOSの 時代

に 、ハ ード ウ ェ ア 、OS 、ソ フ ト ウ ェ ア を 通じ て メ ー

カ ーご と の 縦割り に な り 、そ れ ぞ れ の メ ーカ ーが 少

し ず つ 仕様の 異な る コ ン ピ ュ ータ を 生産・供給し た 。

そ の 結果、わ が 国の コ ン ピ ュ ータ 産業の 成長は 、米国と 比

較し て 遅れ る こ と に な っ た 。ハ ード ウ ェ ア に つ い

て は 、メ ーカ ーご と に 研究開発、品質改良の 努力が な さ れ た

が 、市場が 縦割り で あ り 、そ れ ぞ れ の 市場の 規模が 小さ

い た め に 、優れ た 製品を 開発し て も そ こ か ら 十分な 収益

を 上げ る こ と が で き な か っ た 。し た が っ て 、研究開

発に 向け ら れ る 資金量も 限ら れ 、全体と し て 技術進歩の ス

ピ ード が 落ち た の で あ る 。

ま た 、DOS時代の ア プ リ ケ ーシ ョ ン に つ い て は 、ソ

フ ト ハ ウ ス が 、各メ ーカ ーの OS ・ハ ード ウ ェ ア に 適合

22 多数のアプリケーション・プログラムのうち、格段に優れた性能を持つプログラム、マーケティングに成功して多数のユーザを獲得したプログラムには、大量販売による規模の利益が作用し、その分野において独占あるいは寡占的な地位を獲得するものも少なくない。しかしながら、プログラム価格が高水準に設定されると、他ソフトハウスからの参入を招くので、独占・寡占的地位の継続は必ずしも容易ではない。アプリケーション・プログラム層全体としては効果的な競争環境が実現しており、優れたアプリケーション・プログラムが大量に供給されている。

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す る よ う に ソ フ ト ウ ェ ア を 作ら な け れ ば な ら

な か っ た 。通常の 場合、ま ず 市場規模が 最大で あ る NEC社コ

ン ピ ュ ータ 用の ソ フ ト ウ ェ ア が 供給さ れ 、そ こ で 成

功し た ソ フ ト ウ ェ ア の み が 他メ ーカ ーの コ ン ピ ュ

ータ 用に 書き 直さ れ た 。23 ソ フ ト ハ ウ ス が 「書き 直し 」

に 余分の コ ス ト を 支払わ な け れ ば な ら な か っ た 分

だ け 、新製品の 開発力が 落ち た の で あ る 。そ の 結果、ユ ー

ザ が 入手で き る ソ フ ト ウ ェ ア の 種類や 数に お い て 、

そ し て ま た 平均的な ソ フ ト ウ ェ ア の 質に お い て 、日

米両国間に 数年程度の 格差が つ い た と 言わ れ て い る 24 25 。

(3) NEC 仕様コ ン ピ ュ ータ の 「不完全」独占

 米国と 日本の コ ン ピ ュ ータ 産業の 構造変化を 比較し て み る

と 、米国に お い て 生じ た 変化す な わ ち 標準仕様PC の 成立と

互換機メ ーカ ーの 参入に よ る 競争の 進展が 、日本に お い て は

23 それぞれのメーカーのコンピュータの仕様が微妙に異なるので、機械的な書き直しができない。「書き直し」のコストは、当初ゼロから作るコストより小さいかもしれないが、ソフトウェア・コスト全体の中で無視できなかった。24 1980年代中葉以降において、米国の IBM-PC仕様のコンピュータ用のソフトウェアが 10万点以上発売されたのに対し、わが国においては、最大シェアを持つN社仕様コンピュータ用のソフトウェアでも、1~2万点が供給されたにとどまったと言われている。25 縦割り構造は、コンピュータのハード・ソフトの使用から生ずる「ロックイン効果」によって強化された。コンピュータが実行する仕事自体には、メーカー間で大きな差はない。しかしながら、たとえばN社のハードウェアを購入したユーザは、そのハードウェアを使うために、N社のOSとN社のOSに適合したアプリケーションを購入しなければならない。年月が経ってハードウェアを新しい機種に買い替えるとき、すでにN社用OSとそのためのソフトウェアを保有しているので、それらを無駄にしないためには、同じN社のハードウェアを入手しなければならない。N社の新しいハードウェアは下方互換性があり、N社の古いハードウェアの機能をすべて持っているので、既存のOSとソフトウェアは新しいハードウェア上でもそのまま使用できる。次に、今度はソフトウェア(の一部)を買い替える、あるいは新しく買う場合にも、他社用のソフトウェアはN社のハードウェア上で使用できないので、同じくN社用のOSやソフトウェアを購入することになる。このようなハードウェアとソフトウェアとの結合関係を通じて、ユーザは一旦特定メーカーのハードウェアとソフトウェアを購入すると、結果的にそこに縛り付けられる。他社の製品に買い替えるには、それまで購入したハードウェアおよびソフトウェアを全部捨てて、ゼロから出発する必要がある。これが「ロックイン効果」である。90年代中葉に到るまで、日本のコンピュータ市場のシェアの過半はNEC社によって占められていたが、上記の「ロックイン効果」は、NEC社コンピュータのユーザにも、またNEC社以外のメーカーを選んだユーザにも同様に成立した。NEC社と他社のコンピュータの間には、シェアの大小に応じて、ハードウェアの価格・機能や、ソフトウェアの数において格差があった。したがって、NEC社以外のコンピュータのユーザは、もし「ロックイン効果」がなければ、価格の安い、かつソフトウェアが豊富なNEC社製品にシフトすることを望んだはずである。しかしながら、この「ロックイン効果」のため、また次節に述べる他の理由から、NEC社のシェアもある程度以上は増加せず、縦割り構造が続いたのである。

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中途半端で 終わ り 、最後ま で 進行し な か っ た こ と が 観察で

き る 。第1 に 、NEC仕様の コ ン ピ ュ ータ の シ ェ ア が 3 分

の 2 程度ま で 拡大し て 、同社と 他社の 間に 製品格差が 生じ た に

も か か わ ら ず 、他社仕様の コ ン ピ ュ ータ は 消滅せ ず 、相

当の シ ェ ア (そ れ ぞ れ 5~10%程度)を も っ て 生き 残っ

た 。第2 に 、最大シ ェ ア を と っ た NEC仕様の コ ン ピ ュ ー

タ 市場に は 、わ ず か 1 社(エ プ ソ ン )だ け が 参入し た

に と ど ま り 、米国で 生じ た よ う な 多数の 互換機メ ーカ ー

の 参入は 、コ ン ピ ュ ータ 本体に つ い て は 生じ な か っ

た 。(周辺機器市場に は 多数の 参入が 生じ た 。)

 第1 の 点、す な わ ち NEC仕様の コ ン ピ ュ ータ の シ ェ ア

が 100 %に ま で 拡大し な か っ た 理由、す な わ ち 他社仕様の

コ ン ピ ュ ータ が 生き 残っ た 理由は い く つ か 考え ら れ

る 。ま ず 、日本の 企業は 、自己の 属す る 企業系列グ ル ープ の

コ ン ピ ュ ータ ・メ ーカ ーの 機種を 採用す る 傾向が あ っ た

点を 指摘で き る 。そ の 理由は 、第1 に 、企業が 使用す る 大型機

が 同一グ ル ープ ・メ ーカ ーの 製品で あ り 、大型機メ ーカ ーが

供給す る コ ン ピ ュ ータ を 使う こ と が 有利で あ っ た 。第

2 に 、日本の 企業社会の 「風土」に よ り 、技術的・経済的要因を 超え

て 同一グ ル ープ に 属す る メ ーカ ーの 製品が 購入さ れ る 傾向

が 強か っ た こ と が 挙げ ら れ る 。26

(4) NEC 仕様コ ン ピ ュ ータ 市場へ の 「不完全」参入

NEC仕様の コ ン ピ ュ ータ (PC-9800 型)の シ ェ ア の 拡大が 米

国の よ う に 極端ま で 進ま な か っ た 基本的な 理由は 、同市場

が 独占あ る い は 複占の ま ま で 終わ り 、米国の よ う に 上下

分離さ れ た 競争市場と な ら な か っ た こ と に よ る 。米国

26 これはコンピュータだけでなく、多くの製品・サービスについても観察されている。企業系列グループの存在意義(たとえばリスクの軽減)についてはいくつかの研究があり、系列内の取引関係が密であることが必ずしもすべて経済外的な現象ではない。しかし、コンピュータについては、標準化と競争市場の利点が大きいので、系列グループの存在は同産業の発展のためのマイナス要因となった。

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に お い て は 、競争の 進展に よ っ て IBM型コ ン ピ ュ ータ

の 価格の 下落と 性能向上が 急速に 進み 、短期間の う ち に 他社仕様

の コ ン ピ ュ ータ と 大差が つ い て し ま っ た 。こ れ に

対し 、日本に お い て は 、最大シ ェ ア を 持つ PC-9800 市場が 独

占・複占の ま ま 続い た の で 、高価格が 維持さ れ 、ま た 性能向上

も そ れ ほ ど 急速に は 進ま な か っ た 。し た が っ て 、

NEC以外の コ ン ピ ュ ータ の ユ ーザ が 、NEC仕様の コ ン ピ

ュ ータ に 乗り 換え る 動機が 米国と 比べ て 弱く 、他社仕様の コ

ン ピ ュ ータ が 1990年代ま で 生き 残る こ と に な っ た の

で あ る 。

 日本の コ ン ピ ュ ータ 産業構造の 1 つ の 特色は 、PC-9800 市場へ

の 新規参入が エ プ ソ ン 1 社だ け で 終わ り 、米国の よ う な

多数メ ーカ ーの 参入が 生じ な か っ た 点に あ る 。こ の 点に

つ い て は 、特許権や 著作権な ど の 知的財産権の 制度や そ の 運用

の 仕方が 影響を 与え た 。コ ン ピ ュ ータ 市場の 独占は 、独占企業

の 技術や ノ ウ ハ ウ が す ぐ れ て い て 他社が 容易に 追随で

き な い こ と か ら 成立し て い る 場合も あ る が 、多く の

場合、コ ン ピ ュ ータ に 不可欠の 部品が 知的財産権に よ っ て 保護

さ れ て い る こ と に よ っ て 成立し て い る 。以下、こ れ

ら の 点に つ い て 日米比較を お こ な う 。

ま ず 、知的財産権の 法律条文自体に は 、日米間で ほ と ん ど 差が

な い 。特許権や 著作権関係の 法律は 、長い 間国際的な 標準化・均一化の

努力が 続け ら れ て お り 、そ の 結果、先進国は お お む ね 同一

内容の 法律を 持つ よ う に な っ て い る 27 。日米間の コ ン ピ

ュ ータ 産業へ の 新規参入の 程度の 差は 、知的財産権法の 差か ら 生

じ た の で は な い 。実際に 影響を 与え た の は 、法律の 条文

で は な く 、法律の 運営方法の 差、す な わ ち 米国に お い て

27 もちろん、法律の細部や運用の仕方においては差があり、ガット・ウルグアイラウンド協議対象の一部にもなった。しかし、コンピュータ関係の知的財産権法、半導体レイアウト保護法やプログラム著作権法などは、1980年代中葉の米国「ヤング・レポート」後に開かれた日米協議の結果に基づいて作成・改訂されており、両国はほとんど同一条文の法律を持っている。

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は 裁判所の 判決、日本に お い て は 裁判所の 判決(そ の 欠如)を 含

む 社会的風土で あ っ た 。

(5) 米国に お け る 互換機メ ーカ ーの 参入と 知的財産権

 米国IBMは 、1980年代中葉に 同社仕様コ ン ピ ュ ータ の イ ン タ ー

フ ェ ース (バ ス 仕様や キ ーボ ード 、デ ィ ス プ レ イ 、固定

デ ィ ス ク な ど の 接続仕様)を 公表し 、周辺機器メ ーカ ーの 参入

を 認め て 市場の 急速な 成長を は か っ た 。し か し な が ら 、

コ ン ピ ュ ータ 本体、と り わ け そ の 中心部品で あ る 基本入出

力シ ス テ ム (BIOS )に つ い て は 著作権に よ る 保護を 求め 、

自社仕様コ ン ピ ュ ータ の 供給独占を 継続し よ う と し た 。こ

れ に 対し て 互換機メ ーカ ーは BIOS を 自社で 生産し (た と え

ば コ ン パ ッ ク 社)、あ る い は BIOS を 同専門メ ーカ ー(た

と え ば AMD 社)か ら 購入し て 市場参入を 試み た 。IBMは 、こ

れ ら の 互換BIOS の 生産が 同社BIOS の 著作権を 侵害し て い る

と し て 、互換機メ ーカ ー、BIOS メ ーカ ーを 何度も 提訴し て き

た 。

 こ れ ら の 提訴に 対し 、1980年代後半に お け る 裁判の 結果、第三

者に よ る IBM仕様コ ン ピ ュ ータ の BIOS 生産に つ い て 「ク

リ ーン ・ル ーム 方式」と 呼ば れ る 参入ル ール が 成立し 、同方式

に し た が う 生産は 、IBMの 著作権を 侵害し な い と す る 判例

が 確定し た 28 。

 そ の 結果、先行企業が 設計・供給し た プ ロ グ ラ ム や 半導体と

同一機能の 製品を 後発企業が 合法的に 生産す る 途が 開か れ た 。こ

28 「クリーン・ルーム方式」とは、以下のような手続きによる BIOS(一般には半導体チップやプログラム)の生産を指す。IBM仕様BIOSの生産を企図するメーカーは、まず同BIOSの機能を知る必要がある。BIOSは、現在では ROM(読み出しのみ可能、すなわち書き込み不可能のメモリ)で供給されるが、ROMに入っているプログラムの内容や働きを組織的に解析するのである。これを「リバース・エンジニアリング」という。次に、リバース・エンジニアリングにたずさわった技術者とは全く別の技術者が、リバース・エンジニアリングの結果判明したBIOSの機能に関する情報のみを使って(BIOSの内部構造に関する情報は使わないで)、同一機能を持つ別のプログラムを作成する。このとき、リバース・エンジニアリングにたずさわった技術者と新たにプログラムを作成する技術者との間には、情報的に何らの連絡もあってはならない。この意味で、BIOSを作成するエンジニアは、情報的に「クリーン・ルーム」に入っていなければならない。

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の 方式は 、BIOS だ け で な く 、他の 製品、た と え ば イ ン

テ ル CPUの 互換メ ーカ ーに も 適用さ れ て い る 。

(6) セ イ コ ー・エ プ ソ ン 社の NEC 型コ ン ピ ュ ータ 市場

へ の 参入

 日本の 場合に は 、NECの PC-9800 方式の コ ン ピ ュ ータ 市場に

お い て 、1987年3 月に エ プ ソ ン が 「自社開発」と 主張す る PC-

9800方式BIOS を も っ て 参入を 試み た (エ プ ソ ン PC286モ デ

ル 1 ~4 )。NECは 当初こ れ に 対し 、エ プ ソ ン の 同BIOS が 自

社BIOS の 著作権を 侵害し て い る と し て 出荷差し 止め (製造販売

中止の 仮処分申請)を 同年4 月7 日に 東京地裁に 提訴し た 。エ プ ソ

ン は NECの 提訴に 対し 、当初供給し よ う と し て い た BIOS

の 出荷を と り や め 、自社で 開発し た 別の BIOS に よ っ て

NEC互換機を 供給す る こ と を 発表し た (PC286モ デ ル 0 )29 。

そ の 後、NEC、エ プ ソ ン 両社は 同訴訟に つ い て 和解に 達し

(同年11月30日発表)、(非公開の 条件の 下に )NECは 提訴を 取下げ 、エ

プ ソ ン は NECに 和解金を 支払っ た 上で PC-9800 仕様市場へ の 参入

を 果た し た 。そ の 後、エ プ ソ ン と 類似の 条件で 同市場へ

の 参入を NECに 申入れ た 企業も あ っ た が 、NECは こ れ を

す べ て 拒否し た と の こ と で あ る 。エ プ ソ ン 社以外、同

市場に 互換機を も っ て 参入を 試み た メ ーカ ーは な い 30 。

 BIOS 生産に 関す る 訴訟に お い て 日本が 米国と 異な っ て い

る 点は 、互換メ ーカ ー(上記ケ ース に お い て は エ プ ソ

ン )BIOS に つ い て 、適法な 生産と 不法な 生産を 区別す る 明確

な 基準が 確立さ れ な か っ た こ と に あ る 。NECと エ プ

ソ ン の 和解内容は 公表さ れ ず 、ま た 、裁判所も こ の 点に 関

す る 明確か つ 具体的な 判断を 示さ な か っ た 。エ プ ソ ン

29 日本経済新聞 1987年4月 24日[産業 1]欄。30 本パラグラフに述べた事項の大部分は、本研究会における水野幸男NEC元副社長(現顧問)の説明による。

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の 参入後も 、PC-9800 市場へ の 合法的な 参入の 方法は 不明確の ま ま

で 残り 、結局NECの 提訴を 予想し た 上で の 他社に よ る 同市場へ

の 参入は 試み ら れ な か っ た 。安易な 参入が 不法行為と な り 、

企業イ メ ージ を 損ず る こ と を 怖れ た か ら で あ ろ う

と 推測さ れ る 。そ の 結果、同市場は NECと エ プ ソ ン の 複占市

場と し て 存続し た 31 。

(7) 製品と し て の コ ン ピ ュ ータ (本体)の 特色――部品の 緩

や か な 結合体

 前節の 議論の よ う に 、日米間の コ ン ピ ュ ータ の 製品格差を

も た ら し た 原因は 、第1に 産業構造の 差(上下分離型か 縦割り 型

か )、第2に 知的財産権の 保護を め ぐ る 司法制度の 差に あ っ た

と 言う こ と が で き る 。し か し 、日本企業が 成功し た 自動車

や 家電、オ フ ィ ス 機器(フ ァ ク シ ミ リ 機な ど )な ど の

市場は 上下分離型で な く 、企業ご と の 縦割り 構造に な っ て い

る 。自動車は と も か く と し て も 、コ ン ピ ュ ータ は 大衆

市場を 目標に し た 小型の 電気製品と い う 点で 、家電製品・オ フ

ィ ス 機器と 類似し て い る 。そ れ に も か か わ ら ず 、日本

メ ーカ ーが コ ン ピ ュ ータ に お い て 成功し な か っ た 理

由は 何で あ ろ う か 。

 そ の 説明の た め に は 、コ ン ピ ュ ータ と い う 製品の 性

質を 明ら か に す る こ と が 有用で あ る 。図3.19は 、コ ン

31 日本のコンピュータ市場とりわけNECの PC-9800型コンピュータ市場が、米国 IBM型コンピュータ市場と異なった構造をとった理由については、上記以外に多くの解明すべき課題が残っている。コンピュータ本体は複占市場となったが、周辺機器やソフトウェアまで含めると、事情は異なる。たとえば、同機用のハードディスク・ドライブ(HDD)については、PC-9800型コンピュータの発売後数年間は、本体と同じくNECが独占的に供給していた。しかしながら、1980年代末ごろから互換機メーカーの参入が始まり、わが国におけるHDDの性能価格比が急速に上昇した。NECは、PC-9800のBIOSを著作権によって保護したが、バス接続仕様については、IBMに倣って当初からこれを公開していた。HDDはバスに接続する制御ボードを通じてコンピュータ本体から使用されるので、その意味では 9800型コンピュータについても、当初から互換HDDメーカーの参入は可能であった。しかし、1980年代中葉のわが国において、HDDの生産技術は大型機メーカーしか保有していなかったので、中小企業である互換メーカーの参入には時間がかかった。80年代中葉から同年代末にかけて、米国の中小企業の間でHDDの技術が急速に発達し、IBMコンピュータの互換機市場で大量の参入を生じた。この技術が数年後に輸入され、また外国HDDメーカーの日本支社も設立されて、わが国のHDD市場は競争市場となった。他の入出力機器や消耗品、たとえば通信モデムについても、類似のプロセスで競争市場が成立した。

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ピ ュ ータ 本体(ハ ード ウ ェ ア )、同ソ フ ト ウ ェ ア 、自動車、

お よ び 家電製品が 比較さ れ て い る 。ま た 、コ ン ピ ュ ー

タ の 重要な 部品で あ る 半導体(CPUと メ モ リ )に つ い て

も 、参考の た め に 比較を お こ な っ て い る 。比較の 視点と

し て は 、製品の 改良、需要の 増大、そ し て 産業成長の 諸点に か

か る 項目が 選ば れ て い る 。(他の 項目、た と え ば 資本労働比

率・収益期間な ど は 省略さ れ て い る 。)

図3.9 の 項目を 全体と し て 眺め る と 、PC 本体ハ ード と 同ソ

フ ト の 性質は 比較的似て お り 、こ れ に 対し て 家電製品は PC

本体よ り も む し ろ 自動車に 近い 性質を 持っ て い る こ と

が わ か る 。コ ン ピ ュ ータ ・ハ ード ウ ェ ア は 小型の 電気

製品と し て 家電製品と 似て い る よ う に 思え る が 、実は そ

の 性質は 相当に 異な っ て い る の で あ る 。ま た 、半導体

(CPU、メ モ リ )は 、製品構造と 研究開発の パ タ ーン に お い

て 自動車・家電と 似た 性質を 持っ て い る 。

図3.10の 最初の 4製品(PC ハ ード 、ソ フ ト 、自動車、家電)は 、

い ず れ も 組立型の 製品で あ る 。し か し 部品の 物理的性質は 、

製品間で 大差が あ る 。特に PC ソ フ ト の 部品は 、他と 異り 「情

報(プ ロ グ ラ ム )」そ の も の で あ る 。そ れ に も か

か わ ら ず 、こ れ ら の 4製品は 、そ れ ぞ れ が あ る 程度独

立し た 部品か ら 構成さ れ て お り 、多数の 部品を そ の 性質に

応じ て 組み 立て 、部品全体が 統合さ れ て 製品と し て の 働き

を 生み 出す 点で 共通し て い る 。

し か し な が ら 部品相互間の 関係、す な わ ち イ ン タ ーフ

ェ ース は 、PC と 自動車・家電製品の 間で 大き く 異な る 。PC に

お い て は 、ハ ード ウ ェ ア に つ い て も ソ フ ト ウ ェ

ア に つ い て も 、部品間の 結合度が 弱く 、1 個の 部品を (た と

え ば よ り 性能の 高い )別の 部品で 置き 換え る こ と は 比較的

自由に で き る 。そ の 結果、部品間の 性能の バ ラ ン ス に 変化

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が 生じ て も 、製品全体と し て 大き な 問題に は な ら な い 32 。

こ れ に 対し 、自動車や 家電製品に お い て は 、部品間の 結合度が

強い 。た と え ば 自動車に つ い て は 、部品規格が メ ーカ ーご

と 、モ デ ル ご と に 決ま っ て お り 、一部の 部品だ け 高級

な も の に 取り 替え る こ と は 不可能で は な い が 、大部分

の 部品に つ い て は 考え ら れ て い な い 。家電製品に つ い

て は 、故障し た 部品を 同一部品で 取り 替え る こ と は あ っ

て も 、部品取り 替え に よ っ て 部分的な グ レ ード ア ッ プ

を は か る こ と は 皆無で あ る 33 。な お 半導体は 、情報を 取

り 扱う と い う 点で PC ハ ード 、ソ フ ト と 共通し て い る

が 、組立型の 製品で は な く 、当初か ら 一体化さ れ て 生産さ れ

る 。そ の 点で は 、PC よ り も 自動車・家電に 近い 。

こ の よ う に 、製品を 構成す る 部品が 比較的自由な 取り 替え

を 許す か 否か が 、PC と 自動車・家電製品・半導体と の 大き な 差

に な っ て い る 。PC に お い て は 、ハ ード ウ ェ ア に

つ い て も ソ フ ト ウ ェ ア に つ い て も 部品取り 替え を

可能に す る た め 、部品間の イ ン タ ーフ ェ ース が 標準化さ

れ て い る 。イ ン タ ーフ ェ ース の 約束を 守っ て 製造さ れ

た 部品は 、メ ーカ ーの 如何に か か わ ら ず 組み 込む こ と

が で き る 。こ れ に 対し て 、自動車・家電製品に お い て は 、

故障時の 取り 替え を 除い て 部品の 入れ 替え は 最初か ら 考え

ら れ て い な い 。し た が っ て 、(タ イ ヤ や バ ッ テ

リ ーの よ う な 少数の 消耗品を 除い て )部品間の イ ン タ ーフ

ェ ース は 標準化さ れ て い な い 34 。つ ま り PC は ハ ード

ウ ェ ア に つ い て も ソ フ ト ウ ェ ア に つ い て も 、複

32 たとえば PCハードにおいてメモリが高速化されれば、それだけメモリ関係の仕事の効率が上がり、ディスクが大容量高速のものに置き換えられれば、ディスクを多用する仕事の効率が上がる。33 したがって、自動車や家電製品については、各部品の耐用年数が揃うように設計されており、予定された使用期間が終わると製品全体が廃棄されることになる。これに対し、PCについては、部品ごとの使用期間に差がある。34 ただし、設計・製造コストの節約のため、単一メーカー内で、異なるモデルの部品が標準化されることはある。

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数の 製品(部品)の 「結合体」に な っ て い る 。こ れ に 対し 、自

動車・家電製品・半導体は 、文字ど お り 単一製品と し て ま と ま っ

て い る 。35 36

(8) 日本型企業の 特色と 製品の 特色37

 上記の よ う な 製品特色の 比較か ら 、自動車・家電製品・半導体は 日本

型企業に お け る 研究開発お よ び 生産に 適し て い た と 言う

こ と が で き る 。日本型企業は 、会社ご と の ま と ま り が 強

く 、社内の 統制が よ く と れ て お り 、社内コ ミ ュ ニ ケ ー

シ ョ ン も 円滑に 進む 。社員が チ ーム を 組み 、緊密な 連携の 下

に 新製品を 開発し 、ま た 製造技術に 磨き を か け る た め に 適

し て い る の で あ る 。日本型企業に お い て は 、製品開発は

も と よ り 、生産段階に お い て も 、材料・部品の 調達、組立、流通・

販売に 至る ま で 実質上系列化さ れ て い る こ と が 多く 、そ

れ ぞ れ の 系列の 中で 各ス テ ッ プ が 効率化さ れ て い る 。

競争相手の 企業系列と の 交渉は ほ と ん ど な か っ た 。

35 このような「部品の緩やかな結合体(ネットワーク型製品)」としてのコンピュータの特質はどこから生ずるのか。コンピュータが情報処理を目的としているからではない。テレビやファクシミリやVTRのように、家電製品・オフィス機器にも情報処理を目的とするものは多い。これらの製品は情報を取り扱うが、ほとんどすべての場合、一体化されており、部品を少しずつ取り替えてグレードアップさせることはない。コンピュータとこれらの製品との間の差は、前者が情報処理のための「汎用機器」である点にある。すなわち、コンピュータにおいては、ソフトの取り替えによって異なる仕事を実行できる。これに対し、テレビ、ファクシミリ、VTRは、それぞれあらかじめ定められた種類の情報処理だけをおこなう。コンピュータが部品の取り替えによるグレードアップを許し、それによって生ずる部品性能のアンバランスを受け入れることができるのは、コンピュータが汎用情報処理機器であるからである。複数の仕事のうち、与えられたそれぞれの仕事に応じて一部の部品がその性能を発揮し、複数の仕事全体にわたって考えれば、部品間の性能のアンバランスが平均化される。これに対し、自動車・家電製品においては、仕事が単一であるため、部品は常に同一の仕方で製品全体の仕事に貢献している。一部の部品だけをグレードアップさせても、その効果は他の低グレードの部品によって打ち消され、全体としての能力向上は実現されず、グレードアップによるコスト増だけが欠点として出てくることになる。したがって、一部の部品だけを改良することは得策でなく、製品は一体として設計・生産される。36 このような製品構造の特色は、図 3.19の研究開発(R&D)の特色の項目にも反映されている。コンピュータにおいては、部分的なグレードアップ・改良が意味を持つので、研究開発は、個人あるいは少人数のチームによって部品ごとにおこなわれることが多い。これに対し、自動車・家電製品においては、部品間のバランスが重要であるため、多人数のチームにより、緊密な連携の下に、全部品にわたるバランスのとれた研究開発が必要である。半導体については、その必要はさらに大きい。自動車・半導体においては製品単価が高いため、新モデル・新製品の開発は、多人数のチームによって集中的におこなわれる。家電製品においては、自動車・半導体に比較して開発費用が低く、また製品種類が多数にわたるので、最初からある程度の「当たりはずれ」を勘定に入れた研究開発(新製品の設計)がおこなわれる。したがって、自動車産業・半導体産業におけるほどは研究開発活動が集中していない。37 本節内容のより立ち入った検討については、Oniki(1999)を参照。

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自動車・家電製品や 半導体の よ う に 一体化さ れ た 製品は 、上記の

よ う な 日本企業に お い て 最も 効率的に 生産さ れ た 。た と

え ば 、自動車に つ い て は 、部品生産を 受け 持つ 下請け 企業も 、

製造プ ロ セ ス の 側面で は 実質的に 親企業の 中に 組み 込ま れ

て い た 38 。親企業と 下請け 企業の 関係を 断ち 切り 、自由な 「部品市

場」を 作っ て 、親企業が 最も 安価な 、優れ た 部品を 購入す る こ

と は 考え ら れ な い で は な か っ た 。し か し な が ら 、

そ の よ う な 方法で は 、品質管理や 生産管理等に つ い て 、親企業

と 部品供給企業と の 間の 交渉の 手間、す な わ ち 取引費用

(Transactions Cost )が 増大し 、有利な 結果は 必ず し も 得ら れ な

い 39 。家電製品・半導体メ モ リ に つ い て も 、同様の 傾向が 見ら

れ た 40 。

上記の こ と を 逆に 述べ れ ば 、垂直統合さ れ た 日本型の 企業

は 、コ ン ピ ュ ータ 本体の 生産に は 適し て い な か っ た

と 言わ な け れ ば な ら な い 。コ ン ピ ュ ータ に お い

て は 、部品間の 結合が ゆ る く 、一部の 部品の 改良が そ れ 自体

の メ リ ッ ト を 発揮す る 。し た が っ て 、米国の コ ン ピ

ュ ータ 産業に 見ら れ た よ う に 、部品単位の 取引を 実現す る

こ と が 有利で あ る 。す な わ ち 、そ れ ぞ れ の 部品に つ

い て 、メ ーカ ーは 、自己の た め に 最も 有利な 条件を 提供す

る 相手と 取引す る こ と が 望ま し い 。部品間の 結合が 緩く 、

ま た 標準仕様が 確立し て い る の で 、外部市場か ら 部品を 調達

し て 組み 立て て も 問題は 生ぜ ず 、企業間の 取引コ ス ト も 増

大し な い 。こ の 理由で 、コ ン ピ ュ ータ の 生産に お い て

は 、企業間の 開か れ た 市場が 産業成長の た め に 威力を 発揮し

38 親企業と下請け企業が区別されていたのは、製造プロセスにおける便宜のためでなく、賃金格差、労務管理などの別の要因によっていた。39 ただし 2000年 3月の時点で、各国の自動車メーカーが提携して部品使用を標準化し、インターネット上で競争的に調達・納入するシステムを作りつつあるとのことである。これはネットワーク活用による取引費用の節約として説明できる。40 なおコンピュータ用 CPUの生産における日米格差は、別の要因、すなわち回路設計技術の差と「ロックイン効果」によって生じている。

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た の で あ る 。41

垂直統合さ れ た 日本型企業が コ ン ピ ュ ータ の 生産に 従事す

る と き に は 、研究開発能力の 不足と い う 不利を 被む る 。研究開

発と 部品生産を す べ て 自社内で お こ な う と き に は 、研究開

発に 振り 向け る 資源を す べ て 自社で 負担し な け れ ば な

ら な い 。部品市場が 開か れ て い た な ら ば 、国内で (あ る

い は 世界中で )最も 優れ た 研究開発の 成果を 利用で き た 。し

か し な が ら 、自社開発の 場合に は 、社内と い う 限ら れ た 範

囲内で 最も 優れ て い る 研究開発の 成果し か 利用で き な い 。産

業全体の 観点か ら 言え ば 、企業が 縦割り 構造に な っ て い る

た め 、研究開発能力が 企業ご と に 分断さ れ た の で あ る 。こ

れ に 対し 自動車・家電製品あ る い は ポ ータ ブ ル ・コ ン ピ

ュ ータ の 場合に は 、部品間の イ ン タ ーフ ェ ース が 強い た

め に 、コ ン ピ ュ ータ の よ う に 外部市場か ら 部品を 調達す

る 利点が 少な か っ た 。デ ス ク ト ッ プ PC の 場合に は 、同

じ 理由で 外部か ら 部品を 調達で き な い こ と が 生ず る マ

イ ナ ス が 大き か っ た の で あ る 。

日本型の 企業組織が 、自動車・家電製品・半導体メ モ リ の 生産に お

い て 威力を 発揮し た 反面、コ ン ピ ュ ータ の 生産に お い て

は マ イ ナ ス 要因と な っ た 理由は 上記の と お り で あ る 。

4. 日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業の 将来

(1) 日本の 比較優位・劣位の 概観

日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業、あ る い は そ れ ら を

含む 電子工業は 、全体と し て み れ ば 現在時点で 十分な 国際競争力

を 持っ て お り 、こ の 地位は 中期的に は (た と え ば 5年な

い し 10年程度の 期間は )安泰で あ ろ う と 考え ら れ る 。も

41 1994年ごろから、日本でもコンピュータ・メーカーによる輸入部品の使用が増加した。現在では、CPUはもとより、マザーボード・チップセットなどの中心的部品を含め、コンピュータ部品の過半は米国・アジアから輸入されている。日本の PCメーカーが米国メーカーと共存できているのは、従来からの自社製品優先の方針を切り替え、オープン市場で部品を調達するようにしたからである。

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と よ り 電子工業の 製品は 多種多様で あ り 、抵抗器や コ ン デ ン

サ ーの よ う に 単純な 構造の 部品か ら 、コ ン ピ ュ ータ 用メ

モ リ ・CPU集積回路の よ う に シ ス テ ム 的要因が 大き い 複雑

な ハ ード ウ ェ ア ま で 存在す る 。大量生産・大量販売に 適し た

製品と 、特殊な 用途や 場所だ け で 使わ れ る 少量・注文生産の 製品

も あ る 。日本が 比較優位・劣位の い ず れ を 持っ て い る か

は 、そ れ ぞ れ の 特性に よ っ て 大き く 異な る が 、全体と

し て の 競争力に つ い て は 当分の 間は 安心し て よ い と 言

う こ と が で き る 。こ れ は 、1990年代の 電子工業の 純輸出が 6

~8 兆円で 安定し て い る (内訳は 動い て い る が ――表3.9 )こ

と に も 表れ て い る 。

し か し な が ら 日本の 比較優位・劣位の 所在を 詳細に 点検す

る と 、時間の 経過に と も な っ て 電子工業全体と し て の 日本

の 比較優位の 程度が 減少傾向に あ る こ と が わ か る 。日本の 優

位性は 長期的に 少し ず つ 失わ れ て お り 、も し 現状の ま ま

に と ど ま れ ば 、電子工業全体か ら の 所得の 減少(つ ま り 日本

全体と し て 他に 新た な 所得の 発生源が 見付か ら な い か ぎ

り 、他国と 比較し た と き の 日本の 平均所得の 相対的減少)を 生ず

る こ と に な る 。

電子工業に 関す る 日本の 優位を 低下さ せ る 外的要因は 2つ あ

る 。第一は 、中進国か ら の 追い 上げ で あ る 。電子工業、あ る

い は コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業に お い て 日本が 比較優位を 持

っ て い る 製品は 、い ず れ も ア ジ ア を 主と す る 中進国

が 得意と す る 製品で も あ る 。こ れ ら の 中進国が 、日本よ

り 安価な 労働力を 使い つ つ 技術進歩と 大量生産の 利益を 実現す れ

ば 、そ れ は 確実に 日本製品の 市場を 侵食す る こ と に な る 。

第二の 要因は 、電子工業の 製品に 対す る 需要の シ フ ト で あ

る 。経済成長に よ っ て 世界全体の 平均所得が 高ま る と と も に 、

単純な 製品か ら 複雑な 製品へ 、単品か ら シ ス テ ム へ 、ハ ー

ド ウ ェ ア か ら ソ フ ト ウ ェ ア へ と 需要が シ フ ト す

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Page 34: 日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · Web view第3章コンピュータ・半導体 鬼木 甫(大阪学院大学) 日本経済の効率性と回復策

る 傾向が あ る 。ハ ード ウ ェ ア は 大量生産に よ っ て 価格が

低下す る が 、新製品が 現れ る 余地は そ れ ほ ど 大き く な い 。

こ れ に 対し ソ フ ト ウ ェ ア 製品・シ ス テ ム 製品は 、新工

夫・新機軸に よ っ て 作ら れ る 。製品を 改良し グ レ ード ア ッ

プ す る 機会、全く 新し い 製品を 生み 出す 機会は 、ハ ード ウ

ェ ア に 比べ て は る か に 大き い 。し た が っ て 電子産業全

体に つ い て 、単純な 製品・ハ ード ウ ェ ア に 支出す る 金額に

比較し て 、複雑な 製品・シ ス テ ム 製品・ソ フ ト ウ ェ ア に 支

出す る 金額が 相対的に 増大す る 傾向が あ る 。

本節に お い て は 、日本の 電子工業の 比較優位・劣位の 所在に つ

い て よ り 詳細に 検討し 、上記の よ う に 日本の 比較優位が 少し

ず つ 失わ れ る こ と を 防ぐ た め の 方策に つ い て 考察す

る 。

(2) 日本の 比較優位・劣位の 所在

電子工業を 構成す る 3部門、す な わ ち 民生用電子機器(映像・音響機

器)、産業用電子機器(コ ン ピ ュ ータ ・通信機器・周辺機器な ど )、電子

部品・デ バ イ ス に つ い て 考え る 。民生用電子機器お よ び 電子

部品・デ バ イ ス に お い て は 、日本は 強い 比較優位を 持っ て

お り 、そ れ ぞ れ 純輸出金額(輸出―輸入)が 国内生産金額の 半分近く

に ま で 達し て い る 。産業用電子機器に つ い て も 純輸出は プ

ラ ス で あ る が 、そ れ は 国内生産額の 1割程度で あ る 。

民生用電子機器に お け る 日本メ ーカ ーの 強さ は 高度成長期か ら

す で に 定評が あ り 、日本の 独壇場と 言う こ と が で き る 。

日本の 輸入に つ い て も 、そ の か な り の 部分が 日本メ ーカ

ーが 東南ア ジ ア で 生産し た 製品の 輸入で あ り 、労働コ ス ト

の 差か ら 海外に 進出し て い る が 、生産技術で は 他の 追随を 許

さ な い 。

次に 電子部品・デ バ イ ス に つ い て も 、全体と し て み れ

ば 民生用電子機器と 同様で あ る 。単純な 部品や 集積度の 低い 半導体

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に つ い て は 、台湾・韓国お よ び 東南ア ジ ア か ら の 輸入が

多い が 、よ り 高い 技術レ ベ ル を 必要と す る 部品や デ バ

イ ス 、た と え ば 特定用途半導体論理回路、コ ン ピ ュ ータ デ ィ

ス プ レ イ (と り わ け 液晶デ バ イ ス )等に つ い て 日本

の 比較優位が 目立っ て い る 。こ れ に 対し 、コ ン ピ ュ ータ

用CPU、チ ッ プ セ ッ ト 、マ ザ ーボ ード の よ う に さ ら

に 集積度が 高く 、あ る い は 高度な シ ス テ ム 製品・ソ フ ト

ウ ェ ア 要因の 強い 製品に つ い て は 米国が 比較優位を 持っ て

お り 、日本の 輸出力は あ ま り 強く な い 。し か し な が ら

日本が 比較優位を 持っ て い な い こ れ ら の 電子部品・デ バ イ

ス は (単価は 高く て も )金額的に は そ れ ほ ど 大き く は

な く 、電子部品・デ バ イ ス の 全体の 純輸出を 引き 下げ る ほ

ど の 影響は 及ぼ し て い な い の で あ る 。

産業用電子機器に つ い て は 、日本の 純輸出は 全体と し て プ ラ

ス で あ る が 、そ の 金額は 国内生産額に 比べ て そ れ ほ ど 大

き く な い 。ま た 、産業用電子機器の う ち で 通信機器お よ び

(携帯用を 除く )コ ン ピ ュ ータ は 純輸入に な っ て い る 。現

在の 有線通信機器輸入の 主要な 構成要素は イ ン タ ーネ ッ ト 用ル ー

タ ・ス イ ッ チ で あ り 、ハ ード ウ ェ ア と ソ フ ト ウ

ェ ア が 一体化し た 製品で あ る 。(コ ン ピ ュ ータ の よ う

に 両者が ア ン バ ン ド ル さ れ て い な い 。ま た ソ フ

ト ウ ェ ア の コ ス ト が 大き い 。)ま た コ ン ピ ュ ータ

に つ い て 携帯用と デ ス ク ト ッ プ を 比較す る と 、ス ペ

ース ・重量等の 関係か ら 携帯用コ ン ピ ュ ータ は 、最初か ら 構成

部品を 一括し て 設計す る 必要が あ る の に 対し 、デ ス ク ト

ッ プ コ ン ピ ュ ータ の 部品は (そ れ ぞ れ 規格を 守る か

ぎ り )別個に 生産で き る 。つ ま り 産業用電子機器の 分野に お

い て 、日本メ ーカ ーは 分散型・シ ス テ ム 型の 製品、お よ び

ソ フ ト ウ ェ ア 要因が 大き い 製品に つ い て 比較優位を も

っ て い な い こ と が 結論で き る 。

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電子産業全体と し て 見て も 、民生用電子機器は シ ス テ ム 要因が

比較的少な い 一体型製品で あ る こ と か ら 42 、日本が 比較優位を 持

つ こ と が 説明で き る 。ま た 電子部品・デ バ イ ス 中で 日本

が 比較劣位に あ る PC 用CPUも 、実は 一体型製品と は い え 内部に

マ イ ク ロ プ ロ グ ラ ム 構造を 持つ な ど シ ス テ ム 要因

が 大き い 製品で も あ る 。ソ フ ト ウ ェ ア は も と よ り

典型的な シ ス テ ム 型製品で あ る 。

こ れ ら を 総合し て 考え る と 、前節に お い て デ ス ク

ト ッ プ コ ン ピ ュ ータ に つ い て 考察し た 日本の 比較優位

の 有無の 決定要因、つ ま り 製品が 一体型で あ る か 複合シ ス テ

ム 型で あ る か と い う 区別が 、電子産業の 他の 製品に つ い

て も 概ね 当て は ま る こ と が 分か る 。た だ し 、PC 用CPU

は 一体型と し て の 性質と シ ス テ ム 要因の 双方を も っ て

お り 、上記基準だ け で 日本が PC 用CPUを 100 %近く 輸入し て い

る 事実を す べ て 説明す る こ と は で き な い 。イ ン テ

ル に 対す る AMD の よ う な 互換機メ ーカ ーが 日本で 育た な

か っ た 理由を 明ら か に す る こ と は 、今後の 研究課題で あ

る 。

(3) 日本型企業の 不得意の 克服策

 日本の メ ーカ ーが 複合シ ス テ ム 型・ネ ッ ト ワ ーク 型製品

の 生産を 苦手と し て い る の は 、日本型企業の 組織、仕事の 仕方、

人々の 関わ り 方に 根ざ し て い る も の と 考え ら れ る 。

そ れ は 社会の 特色が 反映さ れ た 結果で あ り 、そ の 根は 深

い 。そ の 変革は 一国の 社会・文化の 変革を 意味す る の で 不可能

で あ る と す る 考え 方が あ る 。ま た そ の よ う な 社会

基盤の 入れ 替え は 、日本と い う 国家の 特色を 失わ せ る も

の で あ り 、受け 入れ る べ き で は な い と す る 主張も

あ る 。こ こ で は 、そ の よ う な 変革が 大き な も の で

42 前出 4(7)の説明、図 3.19。

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は あ っ て も 日本社会・文化を 失わ せ る ほ ど の も の で

は な い と す る 考え 、ま た そ の よ う な 変革は 困難で

は あ っ て も 不可能で は な い と す る 考え を 前提し て 議

論を 進め よ う 43 。

日本型企業が 複合シ ス テ ム 型・ネ ッ ト ワ ーク 型製品を 苦手

と し て い る の は 、PC 産業の ケ ース に つ い て 見た (第

2―3節)よ う に 、生産活動を 自社内、あ る い は 系列・下請け の

よ う に 固定し た 関係者だ け で 実行し よ う と す る か ら

で あ る 。そ の 結果生産活動が 閉じ て し ま い 、オ ープ ン

な 経営が で き な い 。し た が っ て 分業が 不徹底に な り 、

企業外部の 優れ た 資源を 利用で き ず 、同一製品に つ い て オ ー

プ ン な 経営を 行っ て い る 他企業と の 競争に 負け て し ま

う の で あ る 44 。上記の こ と を 別の 表現で 述べ れ ば 、日本

型企業で は 生産活動に 必要な 協業が 狭い 範囲に 限ら れ て お り 、

広範囲の 協業(Wide Coordination )を 実現で き る 企業と 比較し て 効率

が 低い 45 。

こ の 問題は 生産に 必要な 協業を 実現す る た め の 2種類の

モ ード で あ る 「組織」と 「市場」の 選択と い う 企業理論の 1

ケ ース で あ り 、そ こ で の 議論を 適用す る こ と が で

き る 46 。

 一般に 生産活動に 必要な 要素を 外部市場に 求め ず 、企業内で 準備

す る の は 、そ の 要素を 市場で 購入す る 際に 生ず る 取引費用

を 節約す る た め で あ る 。こ の 点か ら す れ ば 、日本型企

業が 例え ば PC 生産に 必要な 部品を 自社内で (あ る い は 自社系

列内で )調達す る 傾向が あ る の は 、こ れ を 外部市場か ら 調

43 過去において日本は、社会の基盤の変革とも呼ぶべき出来事を幾たびか経験している。封建社会から近代国家へ転換した明治維新や、拡張型軍国主義から平和を前提とする経済成長主義への敗戦を境とする変革、また生産活動の面でも、安価な粗悪品を生産する戦前の個人・家内工業単位のシステムから、優良製品を生産する戦後の企業・工場単位の「リーン生産システム」への変革を経験している。44 この点について詳しくは國領(1998)を参照。45 詳しい議論はOniki (1999) を参照。46 近刊では、たとえばWilliamson(1996)を参照。

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達す る こ と か ら 生ず る 取引コ ス ト が 高い の で 、そ

れ を 節約す る た め で あ る 。そ の よ う な 「取引費用」と

は 、具体的に 何で あ ろ う か 。

 外部市場で の オ ープ ン な 取引と し て 、「ス ポ ッ ト 型取

引」と 「プ ラ ッ ト フ ォ ーム 型取引」を 区別し よ う 。ス ポ

ッ ト 型取引と は 、取引が そ の た び ご と に 独立し て お

り 、双方の 企業が 当初か ら 自由意志を も っ て 契約を 結び 、取引

す る 場合で あ る 47 。こ の 場合、両企業の 「契約能力」が 、取引内容

に 応じ る 水準に ま で 達し て い な け れ ば な ら な い 。

取引対象を 過不足な く 特定す る こ と 、運搬・納入・支払い ・ア フ

タ サ ービ ス 条件を 確定す る こ と 、さ ま ざ ま な 不規則・不

確実な 事象に 対し て あ ら か じ め 処理方法を 定め る こ と

な ど が 契約内容の 例で あ る 。コ ン ピ ュ ータ や そ の 部品

の よ う に 製品が 複雑で あ る 場合は 契約内容も 複雑化す る の

で 、他の 単純な 製品の 場合よ り も 、高い 契約能力が 必要と な

る 。日本型企業に お い て は 、こ の 種の 契約能力が 必要な 水準

に 達し な か っ た た め 、詳細な 契約を 結ぶ 必要が あ る 外部

市場で の 取引を 避け 、社内あ る い は 系列内の 相手と 試行錯誤に

よ っ て 取引内容を 確定し 、そ の 後取引相手を 固定す る と い

う 閉じ た 取引方式を 選ん だ と 考え ら れ る 。

 ま た 外部市場で の 取引は 、ど の よ う に 詳細な 契約を 作成

し て も 、契約外の 事態が 必ず 発生す る 。そ の よ う な 事態

が 生じ た 場合の 処理は 、第一に 広く 認め ら れ た 商慣行に 従

い 、そ れ で 不充分の 場合は 社会全体の 司法制度、つ ま り 法律と

裁判所に 拠ら な け れ ば な ら な い 。日本に お い て は こ

の 目的の た め の 法律と 司法制度の 整備が 不充分で あ っ た た

め に 、オ ープ ン な 取引の 実現が 阻害さ れ た 可能性が 大き

い 。

47 ただしこのことは、スポット型契約のための「ひな型(テンプレート)」の存在をさまたげない。実際にはスポット型契約のゼロからの作成は困難であり、既製のひな型を用いることが多い。

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 外部市場に お け る 協業実現の 第二の 類型は 、「プ ラ ッ ト フ

ォ ーム 型取引」で あ る 。そ れ は 特定の 種類の 取引・提携に つ

い て あ ら か じ め 一定の 条件を 定め (そ の た め の 「プ

ラ ッ ト フ ォ ーム 」を 整備し )、プ ラ ッ ト フ ォ ーム の

条件に 適合す る 取引や 提携に つ い て は ス ポ ッ ト 契約を 結

ぶ こ と な く 、自動的に 実施す る も の で あ る 。大部分の 小

売店舗で 採用し て い る 「定価販売(値引き 交渉の 余地あ る 場合を

除く )」、交通・通信サ ービ ス 供給に お け る 「約款」制度、PC の

ウ ィ ン ド ウ ズ ・プ ラ ッ ト フ ォ ーム (API )上で の ア

プ リ ケ ーシ ョ ン ・プ ロ グ ラ ム の 作動、イ ン タ ーネ

ッ ト ・プ ラ ッ ト フ ォ ーム に お け る 電子メ ール や ウ

ェ ブ サ ービ ス の 供給な ど が 典型例で あ る 。プ ラ ッ ト

フ ォ ーム 型協業は 、ス ポ ッ ト 契約と 比較し て 取引費用を 格段

に 節約し 、小規模・多数の 取引を 効率よ く 実現す る た め の 有力

な 手段で あ る 。

プ ラ ッ ト フ ォ ーム 型協業の 実現に 必要と さ れ る の は 、

ス ポ ッ ト 型契約の 場合と 同じ く 「プ ラ ッ ト フ ォ ーム 形

成能力」と も 呼ぶ こ と が で き る 「能力」で あ ろ う 。プ

ラ ッ ト フ ォ ーム が ど の 程度ま で 広く 協業を 実現で き

る か は 、そ の プ ラ ッ ト フ ォ ーム が 提供す る 契約条件

(た と え ば 約款)が 、そ れ ぞ れ の 取引相手の 注文に ど の

程度ま で 柔軟に 対応で き る か に よ っ て 決ま る 。日本型企業

の 場合に は 、「プ ラ ッ ト フ ォ ーム 形成能力」が 不充分で あ

っ た (た と え ば 約款が 粗雑で あ っ た た め に 紋切り 型

の 対応し か で き な か っ た )の で 、プ ラ ッ ト フ ォ ー

ム 上で の 開か れ た 協業が 不充分の ま ま に 終わ っ た と 考

え る こ と が で き る 。

 ス ポ ッ ト 型契約に し ろ 、プ ラ ッ ト フ ォ ーム 型協業に

し ろ 、オ ープ ン な 外部市場で の 取引は 、必然的に 競争を も

た ら す 。も と よ り 競争は 、競争に さ ら さ れ る 当事者に

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と っ て は 利潤機会を 奪う 要因で あ り 、競争な し で 済ま せ

る こ と が で き れ ば そ れ に 越し た こ と は な い 。

し た が っ て 競争の 導入に 反対す る 動機は 強く 、経済活動の

あ ら ゆ る 場面で 競争を 制限す る 動き が 出て く る 。し か

し な が ら も と よ り 、社会全体に と っ て 競争は 効率化推進

の エ ン ジ ン で あ る 。し た が っ て 、企業間の 協業が 開

か れ た 市場で 行わ れ る こ と は 、競争要因の 働く 範囲を 拡大

し 、産業全体の 効率化と 成長に 寄与す る の で あ る 。日本型企業組

織で は 、企業内の 生産要素が 競争を 回避す る た め に オ ープ

ン な 外部市場で の 取引を 排除す る 傾向を 持っ て お り 、こ

の 点か ら も 企業間協業の 進展が 妨げ ら れ た 。

 上記で 述べ た 「契約作成能力」「法律・司法制度の 水準」「プ ラ ッ

ト フ ォ ーム 形成能力」は 、い わ ば 経済活動シ ス テ ム の 形

成・維持能力で あ る 。こ れ ら は い ず れ も 、社会全体の 「ビ

ジ ネ ス ・イ ン フ ラ 」と も 呼ぶ べ き も の で あ っ て 、

そ の 整備に は 長い 時間を 必要と す る 。つ ま り 本項に お

け る 筆者の 主張の ポ イ ン ト は 、半導体・コ ン ピ ュ ータ 産

業に お い て 日本型企業が 複合型・シ ス テ ム 型製品を 苦手と し

た の は 、一時的・偶然的な こ と で は な く 、上に 述べ た

「ビ ジ ネ ス ・イ ン フ ラ 」の 不足と い う 構造的原因の た

め で あ っ た と い う 点に あ る 。こ の よ う な ビ ジ

ネ ス ・イ ン フ ラ の 不足に よ っ て 比較優位を 獲得で き る

チ ャ ン ス を 失っ た の は 、コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業に

限ら ず 、他の 産業で も 多数存在し た の で は な い だ ろ う

か 。「ビ ジ ネ ス ・イ ン フ ラ 」整備の た め の 方策が 早急

に 開始さ れ る こ と が 望ま し い 。

次に 第2―3節で 述べ た よ う に 、日本の PC 産業が NECに よ る

独占市場か ら 互換機メ ーカ ーの 参入に よ る 競争市場に 「進化」で

き な か っ た の は 、互換機メ ーカ ーの 適法な 参入と 不法な 参入

を 区別す る 基準が 不明確の ま ま に 終わ っ た か ら で あ っ

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た 。実際に は 、NECの PC9800 市場に 対し て エ プ ソ ン 社が 互換

メ ーカ ーと し て 参入を 試み 、一旦は 裁判に な っ た も の の

途中で 「和解」し 、両メ ーカ ーの 直接の 交渉に よ っ て 参入が 実現

し た 。オ ープ ン な 互換機市場の た め の ル ール は 形成さ れ

な か っ た 。当時の 事情か ら す れ ば や む を 得な か っ た

で あ ろ う が 、こ れ が 米国PC 産業と 日本の PC 産業の 勝敗を 左

右す る 一因と な っ た の で は な い だ ろ う か 。

コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業に お い て は 、一方に お い て 新

し い 発明・工夫を 誘引す る た め に 知的財産権の 保護が 不可欠で

あ り 、他方に お い て は 新規参入を 可能に し て 競争環境を 実現

す る た め に 、知的財産権や そ れ に 基づ い て 成立し た 「既成

の 産業環境」か ら 生ず る 利潤機会を 制限す る 必要が あ る 。こ

の 2 つ の 目的に は 矛盾す る 点が あ り 、実際の 経済活動に つ

い て 適法と 不法の 境界を 明確に 示し て お か な け れ ば な

ら な い 。境界が 不明確で あ れ ば 、(意図せ ざ る 不法行為の 実行

と い う )リ ス ク の 回避行動を 引き 起こ す 。そ の 結果、新し

い 工夫や 発明を も た ら す 動機を 鈍ら せ 、あ る い は 低効率

の 独占市場を 長期に わ た っ て 存続さ せ る と い う 望ま し

く な い 結果を 生じ る 。も と よ り 個々の メ ーカ ーは 、自己

の 利益を 追求す る た め に 知的財産権と い う 武器を 最大限に 活用

す る の で (こ の 点で 遠慮す る 経営者は 株主の サ ポ ート を

受け る こ と が で き な い )、産業全体・社会全体と し て 望ま

し い 結果を 実現す る た め に は 、上記の 境界の 明確化の た め

に 知的財産権関係の 法律の 整備と 知的財産権分野の 司法制度の 整備が 不可

欠で あ る 。(私見で は 、こ の 目的の た め の 専門の 裁判所の 設

立と 、専門の 裁判官・弁護士(弁理士)の 大量養成・供給が 必要と 考え て

い る 。)

(4) ソ フ ト ウ ェ ア 産業

 本章1(4) で 述べ た よ う に 、日本の ソ フ ト ウ ェ ア の 輸出

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は 輸入に 比べ て 1 %程度(米国に 対し て は 0.25%)と い う ニ

ア ゼ ロ 水準に あ り 、日本の ソ フ ト ウ ェ ア 生産性は 極度

に 低い 。ソ フ ト ウ ェ ア 生産の た め の 作業は 、「組織的な

情報処理手順の 設計と 記述」で あ り 、緻密か つ 几帳面と い う 日本

人の 特性と 合致し て い る 点が あ る 。そ の 生産性が 極端に 低

い の は 、特異な 現象と 言わ な け れ ば な ら な い 。

さ ら に ソ フ ト ウ ェ ア の 生産は 、基礎的な 知識さ え あ

れ ば 、PC1台と 数万円程度の ソ フ ト 作成用ソ フ ト ウ ェ ア

の み で 足り 、能力と 意欲だ け で 容易に 参入で き る 。PC は

多数の 用途に 使わ れ て お り 、イ ン タ ーネ ッ ト と 接続し

て そ の 可能性は ど こ ま で 増え る か 想像で き な い く

ら い で あ る 48 。

日本社会に 何ら か の 全般的・組織的な 「原因」が あ っ て 、日本

で の ソ フ ト ウ ェ ア 生産を 妨げ て い る の で は な い

か 、と 考え ら れ る 。ソ フ ト ウ ェ ア は 、将来の ネ ッ

ト ワ ーク 社会・IT社会で 情報機器を 有効に 活用す る た め の 手段

で あ る こ と 、そ し て ソ フ ト ウ ェ ア へ の 需要が 相対

的に 増大し 、支出金額も 増大す る こ と を 考え る と き 、日本

に お け る ソ フ ト ウ ェ ア 生産の 極度の 不振と い う 現在

の 状態は 放置で き な い 。

 日本に お け る ソ フ ト ウ ェ ア 産業の 不振と い う 事実は

す で に 広く 知ら れ て い る が 、こ の 問題に 対す る 一般

の 反応は 表面的・類型的な レ ベ ル に 留ま っ て い る よ う

に 思わ れ る 。た と え ば 「日本は ビ ジ ネ ス ソ フ ト ウ

ェ ア の 生産は 苦手だ が 、エ ン タ ーテ イ メ ン ト 分野の

ゲ ーム や カ ラ オ ケ や ア ニ メ の 生産で は 米国に 勝っ

て い る 。」と し て 、そ こ で 議論が 終わ っ て し ま う

こ と が 多い 。実は 、こ の 認識に は 誤り が 含ま れ て い

48 最近のウィルス被害を考えるとき、たとえばウィルス予防・退治や発生源トレース(犯人特定)のためのソフトウェアの価値は高いだろう。

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る 。ゲ ーム に つ い て 日本の 生産性が 高い の は 、ゲ ーム 機

と い う ハ ード ウ ェ ア に つ い て で あ り 、ゲ ーム 用

コ ン テ ン ツ (こ の 場合は 本来の コ ン テ ン ツ と ソ フ

ト ウ ェ ア が 一体化さ れ て い る )に つ い て は 、ユ ー

ザ と の 関係か ら コ ン テ ン ツ の ロ ーカ ラ イ ゼ ーシ

ョ ン の 必要が 強く 、日本製の 「ゲ ーム ソ フ ト (上記の 意味

の コ ン テ ン ツ と ソ フ ト の 双方)」の 輸出力は 必ず し

も 高く な い 49 。

ま た 、カ ラ オ ケ や ア ニ メ に つ い て 日本の 生産性が

高い の は 、そ こ で 使わ れ て い る ソ フ ト ウ ェ ア で

は な く 、カ ラ オ ケ 用の コ ン テ ン ツ (つ ま り 音楽)

や カ ラ オ ケ ・サ ービ ス の 提供用ハ ード ウ ェ ア で あ

る 。ア ニ メ に つ い て は 、そ の た め の ソ フ ト よ

り 、ア ニ メ の 内容自体(コ ン テ ン ツ )や そ れ を 収め

た パ ッ ケ ージ で あ る 50 。

日本に お け る (本来の )ソ フ ト ウ ェ ア の 生産性が 低い

こ と の 原因と し て 、専門家を 含め 多く の 人が そ れ ぞ れ

異な っ た 意見を 個人的に 持っ て い る よ う に 思わ れ る 。

た と え ば 、「日本の 企業で は 個人プ レ ーが 許さ れ ず 、チ

ーム に 入っ て 仕事を し な け れ ば な ら な い の で 、個人

の 能力に 大き く 依存す る ソ フ ト ウ ェ ア の 開発が 妨げ

ら れ る 。」「日本の 企業で は 優秀な ソ フ ト ウ ェ ア を 開発

し て も 、そ こ か ら 生ず る 利益を 開発者(個人あ る い は

チ ーム )が 受け 取る シ ス テ ム に な っ て い な い 。」

「ソ フ ト ウ ェ ア 作成の た め に は 英語を 使わ な け れ

ば な ら ず 、日本人は 本来的に 不利な 立場に あ る 。」「日本の 学

49 本パラグラフ後段の内容は、本研究会の一員であった池尾和人慶応義塾大学経済学部教授に負っている。50 しばらく前まで、「ソフトウェア」の用語が、ハードウェアを駆使する手段としての本来のソフトウェアと、ハードウェア上に格納され利用される「コンテンツ」の双方を意味するように使われていたことからこの種の誤解が生じたのではないかと推測する。

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Page 44: 日本経済の効率性と回復策に関する研究会€¦ · Web view第3章コンピュータ・半導体 鬼木 甫(大阪学院大学) 日本経済の効率性と回復策

校教育で は 暗記型学習が 多い た め 、ソ フ ト ウ ェ ア 開発に 必

要な 創造的能力の 形成が 妨げ ら れ る 。」「日本で は ベ ン チ

ャ ービ ジ ネ ス が 育つ 環境が な い た め に 、ソ フ ト ウ

ェ ア を 開発し て も そ れ を ビ ジ ネ ス 化で き な い 。」

「日本人は 物ご と を 全体的に か つ 情緒的に 受け 取る の で 、各

部分の 論理構成が 不可欠な 作業に な っ て い る ソ フ ト ウ ェ

ア の 生産は 苦手で あ る 。」な ど で あ る 。こ れ ら の 意見

は 、豊富な 経験と 深い 洞察か ら 得ら れ た も の か も し れ

な い し 、単に 日常生活の 偶発的な 出来事か ら の 思い つ き に

す ぎ な い か も し れ な い 。多く の 場合、ソ フ ト ウ ェ

ア 生産の 不振を 問題に し て も 、こ の 種の 説明が な さ れ

て そ れ で 議論が 終わ っ て し ま う こ と が 多い 。

 こ の 問題に つ い て 筆者は 、「ソ フ ト ウ ェ ア 生産性の 決

定要因に 関す る 組織的調査」の 実施を 提案し た い 。

 ま ず 日本の ソ フ ト ウ ェ ア 生産性を 増大さ せ る た め

に は 、現在の 低い 生産性を も た ら し て い る 原因を 明ら

か に す る 必要が あ る 。原因が 特定さ れ な け れ ば 、対策

を 考え る こ と は で き な い 。

 次に 、ソ フ ト ウ ェ ア 生産性の 決定要因は 、多数に 及ぶ こ

と が 推測さ れ る 。個人の 能力や 意欲、目的と す る ソ フ ト

ウ ェ ア の 性質、ソ フ ト ウ ェ ア 生産の 環境や 手段な ど 、

ソ フ ト ウ ェ ア 生産性の 決定に は 多数の 要因が 影響を 与え

て い る 可能性が あ り 、実体は 組織的な 調査に 拠ら な け れ

ば 明ら か に な し 得な い だ ろ う 。ソ フ ト ウ ェ ア は

日常生活で 触れ る こ と が 多い の で 、そ の 際の 経験か ら 生

産性の 決定要因に つ い て 理解で き た よ う な 錯覚を 生じ や

す い の で は な い だ ろ う か 。実際に は 、ソ フ ト ウ

ェ ア 生産性の 決定要因は 複雑・多様な 要因を 含み 、一人あ る い

は 少数の 人間の 経験の 積み 重ね だ け で は 意味の あ る 結論

が 出せ な い 種類の も の で は な い だ ろ う か 。

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 現在の 日本の 「ソ フ ト ウ ェ ア 生産性の 問題」は 、1980年代初頭

の ア メ リ カ に お け る 「製造業の 生産性の 問題」と 類似し

て い る 。当時の ア メ リ カ で は 、日本の 製造業の 高い 生産性

に よ る 輸入増加と 、自国の 製造業の 不振が 問題に な っ た 。ア

メ リ カ 政府は 多額の 予算を 割い て 専門家を 動員し 、年月を か

け て 日本の 製造業の 実状を 調べ 、そ こ か ら 得ら れ た 知見

と 政策提言を 「MIT Report (Made in America) 」と し て 1989年6 月に 発表

し た 。ア メ リ カ の 多く の 企業が こ の 提言に 沿っ て 改革

を 実行し 、そ の 結果1990年代の ア メ リ カ 経済の 繁栄が 実現さ

れ た 51 。日本に お い て も ソ フ ト ウ ェ ア 生産性に つ い

て 、組織的な 調査に 基づ く 生産性向上の た め の 政策を 実行す

る べ き で は な い だ ろ う か 52 。

5. お わ り に

本章で は 、コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業、と り わ け PC 産業に

つ い て 日米比較を 試み た が 、残さ れ た 研究課題は 多い 。日本

の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業の 効率性を 調べ る た め に 、同産

業の 細分類に つ い て 純輸出(輸出マ イ ナ ス 輸入)を 計算し 、製品

特性と の 関連を 見る こ と を 考え た が 、時間不足で 実現で き

な か っ た 。ま た 日本の デ ータ と 米国の デ ータ を 直接に 比

較す る こ と が 有用だ が 、こ れ も 一部だ け で 終わ っ た 。

さ ら に 本章で は 、コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業の 供給側だ け

を 議論し た が 、需要側つ ま り 普及・使用の 側面も 重要で あ る 。

最近の イ ン タ ーネ ッ ト に 代表さ れ る コ ン ピ ュ ータ ・IT

の 活用は 、企業・政府組織の 効率を 高め 、教育・文化を 向上さ せ 、政治

面で は 民主主義を 充実さ せ て 社会の 進歩・発展に 貢献す る か ら

51 本研究会における依田直也立正大学経営学部大学院教授・(株)東レ経営研究所元代表取締役社長の報告による。52 たとえば、まず「ソフトウェアの生産性決定要因の組織的調査プロジェクトのプロポーザル」と、「同上プロポーザルの初期審査と、採用プロジェクトの途中評価のためのシステムのプロポーザル」の公募を、相当額の政府予算で実施することが考えられる。

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で あ る 53 。

最後に 、本章の 参考文献に つ い て 述べ て お き た い 。コ ン

ピ ュ ータ ・半導体産業の 文献は 多数に 上る が 、本章の テ ーマ で

あ る 「日米比較」に 焦点を 絞っ た も の は 意外に 少な い 。ま

ず 同産業の 歴史や 代表的企業・経営者・技術者の 動向(エ ピ ソ ード を

含む )に つ い て 述べ た 書籍は 多数出版さ れ て い る 。こ こ

で は 最近の 刊行分と し て 、関口(2000)、谷(1999)(い ず れ も 参

考文献が 多い )を 挙げ て お い た 。日米の コ ン ピ ュ ータ ・半

導体産業の 生産性比較を 取り 扱っ た 書物と し て は 、伊丹(1998)と

同書の ベ ース に な っ た 伊丹・伊丹研究室(1996)(参考文献が 多い )

が 必見で あ る 。数年前の 刊行で あ る が 、PC 以前の 大型コ ン

ピ ュ ータ 時代を 含め て 日本の コ ン ピ ュ ータ ・半導体産業を 概

観し て お り 、本章の 内容と 一致す る 点も 多い 。た だ し 同書

で は 、本章の 主要な ポ イ ン ト で あ る 製品特色に よ る 日米

の 比較優位の 決定、つ ま り 一体型製品と シ ス テ ム ・ネ ッ ト

ワ ーク 型製品の 差に つ い て は 言及し て い な い 。荒井

(1996)、Baba 他(1996)も 日米の 電子産業を 比較し て い る が 、カ

バ ーし て い る 時期が 1993年ご ろ ま で で あ る 。な お 、日本

の PC9800 ア ーキ テ ク チ ャ ーの 成長・衰退の プ ロ セ ス に

つ い て は 、か な り の 数の 海外の 研究者が 関心を 寄せ て い

る 。Methe 他(1997)と そ の 参照文献を 見ら れ た い 。分散・ネ ッ

ト ワ ーク 型製品(モ ジ ュ ール 製品)と い う 観点に つ い て

は 、最近Baldwin 他(1999)が 刊行さ れ 、理論的側面を 含め た 議論を 展

開し て い る (た だ し 内容は 散漫で あ る )。日本型企業の 特色

と い う テ ーマ は 、最近多数の 研究者の 関心を 呼ん で い る 。例

え ば 青木他(1996)を 参照さ れ た い 。そ の う ち オ ープ ン ・

ネ ッ ト ワ ーク 経営の 観点に つ い て は 、國領(1998)が 議論を

展開し て い る 54 。さ ら に 、本章の 議論で 前提し た コ ン ピ

53 この点については、本報告第○章「情報・通信」を参照。54 同氏は本研究会のメンバーでもあった。

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ュ ータ ・半導体、あ る い は ネ ッ ト ワ ーク タ イ プ の 製品・

サ ービ ス 市場の 特色は 、Shapiro 他(1999)に ま と め ら れ て

い る 。

参考文献

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鬼木 甫、「パ ーソ ナ ル ・コ ン ピ ュ ータ 産業の 経済分析――マ

ル チ メ デ ィ ア 産業の 発展の た め に 」上(日米パ ソ コ ン 産

業の 歴史と 現状)、下(日米パ ソ コ ン 産業の 構造比較)、補論(基礎事項

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6 月、pp.42-53 ;No.474、1994年7 月、pp.34-36 。

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脇 英世『パ ーソ ナ ル コ ン ピ ュ ータ を 創っ て き た 人々』 

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