ミクロ経済学 基本講義 -...
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1 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
ミクロ経済学 基本講義
第 8 回 市場均衡 Ⅱ
Ⅰ.余剰分析 ②
(1) 最高さいこう
価格か か く
⇒ 市場均衡価格よりも低い● ●
水準に政府が取引価格(PH)を設定する政策。
【 余剰分析 】
● 総余剰(TS) AFGB
※ 価格をPHに設定 取引量はX0に決定
● 消費者余剰(CS) : AFX0O - PHGX0O = AFGPH
● 生産者余剰(PS) : PHGX0O - BGX0O = PHGB
価格か か く
規制き せ い
…… 市場均衡価格とは無関係に政府が価格を設定し、その価格での取引を
生産者と消費者に強制する政策。
P
X O
E
P*
X*
S
●
● B
●
●
● A
F
G
D
PH
X0
●
X1
C
CS
PS
厚生損失
供給量X0<需要量X1(超過需要)となっていますが、価格の上昇は起き
ないので、取引量は少ない● ● ●
方●
の量(供給量X0)で決定されてしまいます。
《 ショート・サイドの原理 》
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2 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
(2) 最低さいてい
価格か か く
⇒ 市場均衡価格よりも高い● ●
水準に政府が取引価格(PL)を設定する政策。
【 余剰分析 】
● 総余剰(TS) AFGB
※ 価格をPLに設定 取引量はX0に決定
● 消費者余剰(CS) : AFX0O - PLFX0O = AFPL
● 生産者余剰(PS) : PLFX0O - BGX0O = PLFGB
P
X O
E
P*
X*
S
●
● B
●
●
● A
F
G
D
PL
X0
●
X1
C
PS
厚生損失
供給量X1>需要量X0(超過供給)となっていますが、価格の下落は起き
ないので、取引量は少ない● ● ●
方●
の量(需要量X0)で決定されてしまいます。
《 ショート・サイドの原理 》
CS
◆ 政府が価格規制を行うと、完全競争市場均衡(E点)の場合の総余剰(AEB)よりも
総余剰が減少し、厚生損失(EFG)が発生してしまう。
よって、価格規制による政策は経済厚生上望ましくない。
厚生こうせい
損失そんしつ
(死し
荷重かじゅう
) 総余剰の減少分(E0E1G) =
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3 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
(3) 二重にじゅう
価格か か く
政策せいさく
⇒ 政府が生産者と消費者に異なる価格を設定する政策。
【 余剰分析 】
● 総余剰(TS) ①+②+③-⑦
● 政府の余剰(GS) : PDGX1O - PSFX1O = -②-⑤-⑥-⑦
ex.旧食糧管理制度(コメ)など
※ 生産者から価格PS(高い価格)で買い取り、消費者に価格PD(低い価格)で提供する。
● 消費者余剰(CS) : AGX1O - PDGX1O = ①+②+⑤
● 生産者余剰(PS) : PSFX1O - BFX1O = ②+③+⑥
政府の余剰(GS)(収入-支出)も考慮する。
P
X O
E
S
●
● B
●
● A
F
G
D
PS
●
X1
PD
①
②
③ ④
⑤
⑥
⑦
厚生損失
(①+②+③+④+⑤) (③+④)
(②+③+④+⑤+⑥+⑦) (④+⑤+⑦)
(③+④) (②+③+④+⑤+⑥+⑦)
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4 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
Ⅱ.パレート最適さいてき
基準きじゅん
※ ここでは 2 つの財(X財、Y 財)の存在を前提とします。
(1) 純粋じゅんすい
交換こうかん
経済けいざい
前 提 〔登場人物〕 A氏、B氏
〔初期保有量〕 A氏(XA0、YA0) …… 相対的にX財を多く保有
B氏(XB0、YB0) …… 相対的にY財を多く保有
2 人にとって最適な“財の分け方”(最適さいてき
な資源し げ ん
配分はいぶん
)とは、どのような状態かを考える。
B氏のグラフをひっくり返すと…
《 A氏の無差別曲線 》 Y
X OA
UA0
W
●
XA0
YA0
《 B氏の無差別曲線 》 Y
X OB
UB0
W ●
XB0
YB0
Y
X OB
UB0
W ●
XB0
YB0
◆ X(X財の全体量)= XA0 + XB0
◆ Y(Y財の全体量)= YA0 + YB0
2 人以外に財を
保有している人
はいないので…
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5 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
ⅰ).W点を出発点として、2人の間でX財とY財の“物々交換”をしたとする。
ⅱ).財の配分を表す点はb点に移動し、両者同時に効用が上昇する。
A氏 : UA0 ⇒ UA1 (UA0 < UA1)
B氏 : UB0 ⇒ UB1 (UB0 < UB1)
◆ W点よりも効用が改善し、2人にとって望ましい状態(パレート改善● ●
)。
∴ W点は2人にとって最適な資源配分を実現しているとはいえない。
ⅲ).同様の交換を繰り返すと、やがて財の配分はE点のような状態に至る。
(やはり、2 人の効用は高まるので、B点も最適な資源配分を実現しているとはいえない)
◆ E点からさらに交換を行うと、少なくともどちらか一方の効用を引き下げてしまう
ことになる。これは、もはや効用について改善の余地がないことを示している。
∴ E点は 2 人にとって最適な資源配分を実現しているといえる。
UA1
Y
X OA
UA0
W
XA0
YA0
Y
X OB
UB0
XB0
YB0 ●
● b
UB1
Y
X
● E UB
*
UA*
YB*
XB*
XA*
YA*
もはや他の誰かを不利にしない限り、自己を有利にすることが
できない状態。
= 全体として、改善の余地のない状態
パレート最適基準
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6 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
UA0
【 パレート最適条件 】(交換経済)
◆ パレート最適基準には、「所得
しょとく
分配ぶんぱい
の公平性こうへいせい
」という考え方は含まれていない!
契約けいやく
曲線きょくせん
(パレート最適点の軌跡)
♫ 契約曲線は、ボックスダイヤグラムの「原点」を通過する
⇒ 「原点」は、パレート最適点
Y
X OA
W
Y
X
OB
UB0
●
●
E
●
●
∵ ボックスダイヤグラムの内側に財の配分を変更すると、
必ず何れか一方の効用を低下させてしまうことになるため。
2 人の無差別曲線が接しているので、
◆ パレート最適な資源配分は、無数● ●
に存在する!
∴ MRSXYA = MRSXY
B
UA*
UB*
E ●
MRSXYA
MRSXYB
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7 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
~★ 練習問題 ★~ (V問題集 №178)
次の図は、2 人の消費者A、BとX財、Y財の 2 つの財からなる交換経済のエッジワースの
ボックスである。図において横軸と縦軸の長さは、それぞれX財とY財の全体量を表す。図中の
U1、U2、U3は、消費者Aの無差別曲線を表し、V1、V2、V3は、消費者Bの無差別曲線を
表している。この図の説明として妥当なのはどれか。
1.a点からd点への移行は、パレート改善である。
2.曲線FFは契約曲線と呼ばれ、曲線FF上では、A、Bそれぞれの資源配分は効率的である
とともに、常に公平な分配が実現される。
3.a点からe点への移行は、パレート改善である。
4.b点からc点への移行は、パレート改善である。
5.b点では、Aの限界代替率は、Bの限界代替率より小さく、X財、Y財をより多くAに分配
すれば、社会厚生は増加する。
肢 1 消費者A : 効用は低下する。
(Ua ⇒ U3)
消費者B : 効用は高まる。
(V2 ⇒ Vd)
∴ パレート改善ではない。
U1
V1
OA
U3 a
V3
AのX財の数量
OB
V2
U2
c
d
AのY財の数量
BのX財の数量
BのY財の数量
●
●
b
●
● e
● F
F
a
V2
U3
d
U2
Vd
Ua
●
●
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8 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
肢 2 パレート最適基準という価値基準では、所得分配の公平性を判断することはできませ
ん。これを判断するには、別の基準が必要になります。
肢 3 消費者A : 効用は高まる。
(Ua ⇒ Ue)
消費者B : 効用は高まる。
(V2 ⇒ Ve)
∴ パレート改善である。
(肢 3 が正解)
肢 4 消費者A : 効用は高まる。
(U3 ⇒ U2)
消費者B : 効用は低下する。
(V3 ⇒ VC)
∴ パレート改善ではない。
肢 5 b点は契約曲線上に存在しますので、パレート最適条件を満たします。すなわち、消
費者Aと消費者Bの限界代替率は一致します(MRSXYA=MRSXY
B)。
a
V2
Ve
e
U2
Ua ●
a
V2
U3
b U2
V3
● ●
Ue
●
● c
VC
まとめ
◆ 初期保有点(W点)よりもパレート改善となる
配分は、W点で作られる“レンズ型● ● ● ●
”の内側にあ
る。
※ b点とg点はパレート改善ではない。
◆ “レンズ型”の内側にあって、かつ● ●
パレート最
適点の集合である契約曲線(FF)上にある配分
を「コア配分」という(№179 参照)。
W ●
●
E g
●
● e
● c
b ●
F
F
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9 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
(2) 消費のパレート最適性(厚生こうせい
経済学けいざいがく
の第 1だ い 1
命題めいだい
)
【 消費者の予算制約線 】(財を初期保有している場合)(V問題集№055 参照)
A 氏 PX・X + PY・Y = PX・XA0 + PY・YA0
所 得
⇔ PY・Y - PY・YA0 = -PX・X + PX・XA0
⇔ PY(Y - YA0)= -PX(X - XA0)
⇔ Y - YA0 = - (X - XA0) PX
PY
定点(XA0、YA0)を通り、
傾きがーPX/PYの直線
B 氏 PX・X + PY・Y = PX・XB0 + PY・YB0
⇔ PY・Y - PY・YB0 = -PX・X + PX・XB0
⇔ PY(Y - YB0)= -PX(X - XB0)
⇔ Y - YB0 = - (X - XB0) PX
PY
定点(XB0、YB0)を通り、
傾きがーPX/PYの直線
Y
X OA XA0
W
Y
X
OB
YB0 YA0
XB0
PX
PY -
●
初期保有点
(定点)
A氏の予算制約線
= B氏の予算制約線
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10 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
UB*
PX↑(上昇)、 PY↓(下落) ⇒ ↑(予算制約線が時計回りにシフト) PX
PY
価格の変化は、超過需要と超過供給が解消されるまで続く。
《 完全競争市場の価格メカニズム 》
【 パレート最適条件 】(消費経済)
Y
X OA
UA1 W
XA1
YA1
Y
X OB
UB1
XB1
YB1 ●
EA1
EB1
●
●
● E*
UA*
ⅰ).当初、最適消費点としてA氏がEA1点、B氏がEB1点を選択していたとする。
ⅱ).全体量(= 供給量)に対して以下のようになっている。
X財 : X < XA1+XB1 (供給量 < 需要量) ⇒ 超過需要
Y財 : Y > YA1+YB1 (供給量 > 需要量) ⇒ 超過供給
Y
X
ⅲ).最終的に、財の配分はE*点(EA点=EB点)に至る(競争きょうそう
均衡きんこう
配分はいぶん
)。
…… 完全競争市場均衡は、パレート最適な資源配分を実現する。 厚生こうせい
経済学けいざいがく
の第 1だ い 1
命題めいだい
各消費者が相対価格(Px/Py)に従って行動
することで、消費者の限界代替率は均等化する。
競争均衡配分においては、以下の関係が成立する。
MRSXY
A = MRSXYB =
PX
PY
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11 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
【 オファー・カーブを用いた完全競争市場均衡の表現方法 】
オファー・カーブ ……(ボックスダイヤグラムで用いる)価格か か く
消費しょうひ
曲線きょくせん
② 互いの無差別曲線が接する● ● ●
。
♫ なかでも、競争● ●
均衡● ●
配分● ●
においては、互いのオファー・カーブが交わる● ● ●
。
《 A氏のオファー・カーブ 》 Y
X OA
EA1
W
E*
●
●
●
《 B氏のオファー・カーブ 》 Y
X OB
EB1
W
E* ●
●
●
価格比が変化したときの、
効用最大化点の軌跡
Y
X OA
W
XA*
YA*
Y
X
OB XB
*
YB*
EA1
EB1
●
●
●
E*
UA*
UB*
UA*
UB*
●
OCA
OCB
OCA
OCB
契約曲線
♫ パレート最適点においては
① 契約曲線が通過する。
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12 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
(3) 厚生こうせい
経済学けいざいがく
の第 2だ い 2
命題めいだい
【 参 考 】
※ 所得分配の公平性を考慮しつつ、パレート最適な資源配分を実現することは可能か?
ⅰ).当初、初期保有点はw0であったとする。
ⅱ).ここで政府が分配の公平性を考慮して、政策によって初期保有点をW0点からW1点に変化
させたとする。
具体的には、政府はA氏にX財を税金として物納させ、それを
B氏に補助金として現物支給します(= 所得しょとく
再分配さいぶんぱい
)。
このまま完全競争の価格メカニズム(価格調整)に任せれば、
完全競争市場均衡点はE0*になります。
ⅲ).政策実施後のW1点から市場の価格メカニズムに任せれば、E1*点という完全競争市場均
衡を実現することができる。
…… 初期保有量を政策によって変化させることにより、任意のパ
レート最適な配分を完全競争市場均衡として実現することが
できる。
(№180 肢 1、№184 肢 2 を参照)
厚生こうせい
経済学けいざいがく
の第 2だ い 2
命題めいだい
Y
X OA
W0
XA0
YA0
Y
X OB
XB0
YB0 ●
E0*
UA0*
●
●
●
W1
XA1
XB1
E1*
UB0*
UA1*
UB1*
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13 2020 ミクロ経済学・基本講義 第 8 回
以 上
最低限解くべき問題
番 号 1 回目 2 回目 コメント
№ 166 / │ / │ 従量税と価格規制を同時に確認できる“お得”な問題。
№ 167 / │ / │ グラフで示される結論は、覚えてしまいましょう。
№ 168 / │ / │ グラフを描きながら解きましょう!
№ 171 / │ / │ 補助金の額 = 政府の赤字 = 政府の「収入-費用」です。
№ 175 / │ / │ まずはこの問題をマスターしましょう。
№ 177 / │ / │ 基礎的な問題ですね。慣れましょう。
№ 178 / │ / │ これも基礎的で、よく見るタイプです。
№ 179 / │ / │ 概念の整理をするのに、とても良い問題です。
№ 180 / │ / │ 消去法で。正解肢の内容は、覚えられたら覚えて下さい。
№ 181 / │ / │ 予算制約線が入っても、考え方の基本は同じです。
№ 183 / │ / │ 良い問題。誤りの選択肢もきちんと考えましょう。
№ 184 / │ / │ 消去法で。№180 の肢 1 と同内容が正解肢となっています。