7.プラズマ対向材料のエロージョン特性 - university of...

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小特集 構む 熱粒子制御のためのプラズマ対向壁工学 7.プラズマ対向材料のエロージョン特性 中村和幸,秋場真人 (日本原子力研究所) (1997年4月22日受理) Erosion Characteristics on Plasma Facing Mater NAKAMURA Kazuyuki and AKIBA Masato 葡々αFz6s乞o%ノ~6ε6α70h E3渉8δ1乞sh〃z召フz渉,ノ41》ακ/1渉o〃z乞o E%6壌ソ五~6s6α70h肋s!髭z〆6,1δα名α々づ3ヱヱー0ヱ,ノ砂 (Received22April i997) Abstract The lifetime of plasma facing components can be determined by measure ma facing materials.This paper describes the erosion characteristics o rials,such as CFC and W,for use in ITER In ITER,chemical sputtering with hy(irogen isotopes becomes domina CFC under norm&10peration.Preferential sputtering of t虹e matrix part o duce the chemical sputtering,doping of B4C is effective.In the case of su tion,erosion by thermal shock becomes dominant for the erosion mechan enhanced bot妓with increase of irradiation temperature an(1(lecrease of Keywords: erosion,sputtering,disruption,thermal shock,divertor,CFC,tmgsten, 7.1 はじめに 核融合装置ではプラズマと直接面する壁(プラズマ対 向壁)はプラズマからの熱および粒子に曝されるため, プラズマと壁との相互作用(plasmawallinteraction)に よって壁材料が損耗(エロージョン)される.損耗され た壁材料がプラズマ中へ混入するとプラズマ温度が著し く低下するばかりでなく,プラズマが不安定となり最悪 の場合ディスラプションにいたる場合もある.また,壁 自身も損耗によって寿命が短縮されるとより高い頻度で の交換を余儀なくされ,メンテナンス上大きな問題とな る.したがって,プラズマ壁相互作用によるプラズマ対 向材料の損耗特性を評価することは核融合装置の運転 上,極めて重要である.国際熱核融合実験炉(ITER)等 の大型核融合装置の場合,ダイバータと呼ばれる機器の 熱粒子負荷が最も大きいと想定されている.1TERのダ イバータ板で想定されている負荷条件[1]としては,熱 負荷は定常的に5MW/m2(プラズマ立ち上げ初期の非 定常時には~20MW/m2,10秒程度),粒子負荷はエネ ルギー50~100eVの粒子がIO22~1023/m2・s程度 らにプラズマディスラプション時の熱負荷は約 100GJ/m危0.王~3msと,核分裂炉等の従来の高熱負荷 機器に比べてはるかに厳しい負荷条件となっている.こ れらの熱粒子負荷に耐えるため,プラズマ対向材料には 1,000℃で200W/mK程度の高熱伝導率や粒子負荷に対 して低損耗特性を有することが望まれる.また,プラズ マディスラプション時の熱衝撃に対しても重大な損傷で ある亀裂や剥離が生じず,溶融,蒸発などの損耗のより 小さな材料であることが望まれる.これらの諸条件を考 慮した結果,ITERの工学設計では,ダイバータ板用プ ラズマ対向材料として高熱伝導炭素繊維強化複合材 594

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  小特集構む  熱粒子制御のためのプラズマ対向壁工学

7.プラズマ対向材料のエロージョン特性

中村和幸,秋場真人   (日本原子力研究所)

  (1997年4月22日受理)

Erosion Characteristics on Plasma Facing Materials

           NAKAMURA Kazuyuki and AKIBA Masato葡々αFz6s乞o%ノ~6ε6α70h E3渉8δ1乞sh〃z召フz渉,ノ41》ακ/1渉o〃z乞o E%6壌ソ五~6s6α70h肋s!髭z〆6,1δα名α々づ3ヱヱー0ヱ,ノ砂召%

               (Received22April i997)

Abstract The lifetime of plasma facing components can be determined by measurement of the erosion of plas-

ma facing materials.This paper describes the erosion characteristics of candldate plasma facing mate.

rials,such as CFC and W,for use in ITER

 In ITER,chemical sputtering with hy(irogen isotopes becomes dominant for the erosion mechanism of

CFC under norm&10peration.Preferential sputtering of t虹e matrix part of CFC also takes place.To re-

duce the chemical sputtering,doping of B4C is effective.In the case of such of卜normal events as disrup-

tion,erosion by thermal shock becomes dominant for the erosion mechanism of W.Disruption erosion is

enhanced bot妓with increase of irradiation temperature an(1(lecrease of thermal conductivity.

Keywords:erosion,sputtering,disruption,thermal shock,divertor,CFC,tmgsten,plasma faclng materials(PFM)

7.1 はじめに

 核融合装置ではプラズマと直接面する壁(プラズマ対

向壁)はプラズマからの熱および粒子に曝されるため,

プラズマと壁との相互作用(plasmawallinteraction)に

よって壁材料が損耗(エロージョン)される.損耗され

た壁材料がプラズマ中へ混入するとプラズマ温度が著し

く低下するばかりでなく,プラズマが不安定となり最悪

の場合ディスラプションにいたる場合もある.また,壁

自身も損耗によって寿命が短縮されるとより高い頻度で

の交換を余儀なくされ,メンテナンス上大きな問題とな

る.したがって,プラズマ壁相互作用によるプラズマ対

向材料の損耗特性を評価することは核融合装置の運転

上,極めて重要である.国際熱核融合実験炉(ITER)等

の大型核融合装置の場合,ダイバータと呼ばれる機器の

熱粒子負荷が最も大きいと想定されている.1TERのダ

イバータ板で想定されている負荷条件[1]としては,熱

負荷は定常的に5MW/m2(プラズマ立ち上げ初期の非

定常時には~20MW/m2,10秒程度),粒子負荷はエネ

ルギー50~100eVの粒子がIO22~1023/m2・s程度,さ

らにプラズマディスラプション時の熱負荷は約100GJ/m危0.王~3msと,核分裂炉等の従来の高熱負荷

機器に比べてはるかに厳しい負荷条件となっている.こ

れらの熱粒子負荷に耐えるため,プラズマ対向材料には

1,000℃で200W/mK程度の高熱伝導率や粒子負荷に対

して低損耗特性を有することが望まれる.また,プラズ

マディスラプション時の熱衝撃に対しても重大な損傷で

ある亀裂や剥離が生じず,溶融,蒸発などの損耗のより

小さな材料であることが望まれる.これらの諸条件を考

慮した結果,ITERの工学設計では,ダイバータ板用プ

ラズマ対向材料として高熱伝導炭素繊維強化複合材

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小特集 7.プラズマ対向材料のエロージョン特性 中村,秋場

(CFC材)およびタングステンが採用されている[1].

Fig.1にこれら材料が使用される部分を示したダイバー

タ板の概略図を示す.これらの材料は概ね熱流束の大き

な部分にはCFC材が,粒子束の大きな部分にはタング

ステンが使用されている.本稿では,これらITER用ダ

イバータ板材料を中心として,プラズマ対向材料の熱お

よび粒子による損耗特性について概説する.

7.2粒子負荷による工ロージョン7.2.1 スパッタリング

 ITERでは定常運転時のプラズマからの熱流束に対し

てプラズマ対向材料の表面温度が1,000℃程度以下にな

るよう設計されているため,蒸発による壁材料の損耗は

ほとんどないと考えている.したがって,定常運転時の

損耗はプラズマからの粒子によるスパッタリングによる

ものがほとんどである.スパッタリングは,物理スパッ

タリングと化学スパッタリングの2つに大別されるが,

Wing(W

Plasma

Divertor 鴻[

   Vertical Target

繊(w臨濃簡 

DumpTarget(CFC端霧

麟縁assettebody

VerticalTarget(W君orupPerPart,CFCforLowerPart)

Divertor Cassette of ITER

(Vertical Target Option)

Fig.1 Divertor cassette of ITER,丁揺s configuration is

   basedonverticaltargetoption.CFCandWare   used for parts with high heat flux and with higb

   particle flux,respectively.

ITERのような大型の核融合装置の場合,プラズマから

の粒子のエネルギーが50~100eVと,壁材料の物理スパ

ッタリングの閾値(例えばタングステンの重水素に対す

る閾値は~200eV)より小さくなるため,化学スパッタリ

ングによる損耗の方がより大きいと予測されている[1].

 熱分解黒鉛や等方性黒鉛等の炭素系材料と水素,重水

素による化学スパッタリングに関しては,従来,低エネ

ルギーのイオン加速器やプラズマシミュレータあるいは

実際のトカマク装置を用いた研究が進められており,そ

の結果,化学スパッタリングの温度依存性,エネルギー

依存性,粒子束依存性等の知見が多数得られている.そ

れらの結果の一例として炭素系材料のスパッタリング収

率の温度依存性をFig.2に示す[2].図では,低エネル

ギーイオン加速装置を用いて測定された1keVと50eV

の重水素による結果が示されている.一般的に水素同位

体による炭素系材料の化学スパッタリングは強い温度依

存性を有することが良く知られており,図からもlkeV

の場合,500℃近傍に損耗のピークが確認できる.この

損耗の温度依存性はエネルギーが小さくなるとピークが

ブロードになると同時にピークの位置が低温側にシフト

する傾向が実験的に見られる.図においても50eVの場

合では,ピーク温度が100℃程低温側にシフトしている.

また,ピークの値が下がると同時にベースの値も上がっ

ており,結果的に温度依存性そのもののが小さくなって

いることも特徴的である.温度依存性がエネルギーによ

って異なる原因はいまだ解明されていないが,材料中に

おけるイオンの飛程の違いが原因の一つと考えられている.

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 200   400   600   800   1000  1200  1400

         Temperature(k)

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Fig。2 Temperature dependence of the sputtering yield of

   graphite.

595

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プラズマ・核融合学会誌 第73巻第6号  1997年6月

 次に,室温における炭素系材料のスパッタリング収率

のエネルギー依存性をFig.3に示す[2].図中,実線は

計算で求めた物理スパッタリング量である.計算による

と物理スパッタリングは,数百eVにピークを持ち,そ

れより低エネルギー側では損耗量が急激に低下する.一

方,実験で求めた全損耗量(物理スパッタリング+化学

スパッタリング)は,低エネルギー領域においてもほと

んど減少していない.これは100eV以下の低エネルギー

領域における損耗は,化学スパッタリングが優勢である

ことを示しており,核融合装置における損耗評価には化

学スパッタリングの解明がより重要であることがこの図

からも知ることができる.また,スパッタリング収率の

粒子束依存性に関しても,プラズマシミュレータやトカ

マク装置などを用いてデータが得られている.しかし,

これらの装置では,エネルギー分布がブロードであった

り,装置内に中性粒子や不純物源が多いなど,粒子エネ

ルギーや粒子束の正確な評価や不純物制御が困難である

などの問題点を有しており,従来から高粒子東のイオン

照射装置による測定の必要性が指摘されている.

 そのような観点から,原研では数年前から低エネル

ギー高粒子束イオン源(SLEIS)の開発を進めており,タ

ングステンワイヤーを引き出し電極に用いたイオン源に

おいて現在,~1021個/m2s(~50eV)の粒子束が得ら

れている[3].これは,プラズマシミュレータやトカマ

ク装置には及ばないものの従来のイオン照射装置に比べ

て2~3桁高い粒子束であり,この装置を用いることに

よって不純物の少ない単一エネルギーによる高粒子東ス

パッタリング実験が可能となったのである.SLEISを

用いてイオン照射したCFC材の表面を電子顕微鏡で観

   ロブ    でワ

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一一_一⊥一  0.01     0.1      1      10      100

          Energy(keV》

Fig.3  Energy dependence of the sputtering yield of

   graphite.

察した結果をFig,4に示す[4].左端は未照射の表面,

右側はそれぞれ照射量の異なる表面で,照射材料は一次

元CFC材のMFC-1である.写真から照射量が増加す

るに従ってCFC材の繊維部がより鮮明になっていくこ

とがわかる.これは水素イオンによるスパッタリングは,

マトリックス部の方がより大きいことを示している.し

たがって,CFC材の水素同位体による損耗を低減する

ためには,マトリックス部のスパッタリングを抑制する

ことが効果的であり,現在低化学スパッタリング材であ

るB4cやSiCをドープした材料の研究を進めている.

B4Cをマトリックス部にのみドープした一次元CFC材

のイオン照射後表面をFig,5に示す.マトリックス部

にスパッタリングされずに残ったB4Cの結晶粒が観察

され,B4Cのドーピングが化学スパッタリングの抑制に

効果があることがこの実験から確認された[5].

7.2.2 照射促進昇華(RES)

 照射促進昇華(Radiation Enhanced Sublimation)は,

炭素材料中でイオン照射によって生成された照射欠陥の

対(Vacancy4nters面aDが,1,000℃以上の高温条件下で

表面に拡散し,qという形で表面から昇華していく現

象である.これによる損耗は高温領域ではスパッタリン

グに比べ桁違いに大きいため,定常運転時の表面温度は

RESの生じない温度領域で運転するように設計されて

いる.ただし,最近TEXTORでRESが従来の予想よ

り小さい可能性を示唆する結果が報告[6]されており,

より高温での運転の可能性も検討されている.

7.3熱負荷による工ロージョン7.3.1粒子飛散(Particle Emission)

 プラズマディスラプション時の熱負荷は~100GJ/m2,

0.1~3msと想定されており,このように大きな熱負荷

(衝撃)が材料に加わった場合,材料は蒸発ばかりでなく,

粒子飛散と呼ばれる現象によっても損耗される.粒子飛

散は熱衝撃を受けた材料表面からクラスター状となった

材料片が飛散する現象であり,高速度カメラによってそ

の発生状況(Fig.6)が観測されている.粒子飛散の発生

機構はいまだ明らかではなく,また,損耗量も熱負荷条

件によって大きく異なるが,ディスラプション時の熱衝

撃の場合,蒸発による損耗より数倍~数十程度大きいこ

とが,蒸発損耗コードによる計算結果との比較から推定

されている.したがって,ディスラプション時の熱衝撃

による損耗を評価するためには,蒸発のみならず粒子飛

散による損耗を評価することが極めて重要である.そこ

で,この項ではJAER【Electron Beam Irradiぬon System

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小特集 7.プラズマ対向材料のエロージョン特性 中村,秋場

ε試

oo

Unlrradlated       噛.6           12   (x lo24/m2)

Fig.4 Surface morphologies ofわydrogen irradiated a口d non-irradiated CFC with SEM.

輔謙rl》《 5⑪m

(JEBIS)と呼ばれる最大加速電圧100kVの電子ビーム装

置を用いた熱衝撃損耗実験を中心に粒子飛散について概

説する.

 炭素製カロリーメータを用いて測定した電子ビームの

吸収熱流東分布は,ピーク熱流束が2,000MW/m2の同

心円状であり,半値幅は約7mmである.試料に対する

電子ビーム照射は1回のみで,損耗量は熱衝撃前後にお

ける試料の重量変化を微小天秤で測定することによって

求めた.また,試料を低熱流束の電子ビームを用いて予

備加熱することにより,高温における損耗データを測定

した.CFC材の熱衝撃試験結果をFig,7に示す[7].横

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Fig.5 Surface morphologies of B4C doped CFC withわyd-

   rogen irradiation.

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Fig.6 BehaMor of the particle emission from CFC with a

   electron beam of2000MW/m2and2ms.

597

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プラズマ・核融合学会誌 第73巻第6号  1997年6月

軸は熱衝撃前の試料温度,縦軸は損耗量である.照射試

料は三種類のCFC材と等方性黒鉛であり,熱伝導率の

大小はそれぞれ,MFC-1>CX.2002U乞MCI-felt>

ETP-10となっている.この図から,どの試料について

も熱衝撃前温度が高いほど損耗量が大きくなること,同

じ熱衝撃前温度では熱伝導率が小さいほど損耗量が大き

くなることがわかる.前述したように高熱流束領域にお

いては,粒子飛散による損耗の方が大きいことから,こ

の損耗量の温度依存性および熱伝導率依存性は,すなわ

ち粒子飛散の依存性を示していると考えられる.

 次に,タングステンの熱衝撃試験結果をFig.8に示

す.試料には化学蒸着タングステン(CVD-W),焼結タ

ングステンおよび単結晶タングステンを用いた.タング

ステンの場合もCFC材と同様に,熱衝撃前試料温度の

高い方が,損耗量がより大きくなっている.この実験に

おいて,一部の単結晶タングステンで著しい粒子飛散が

観測された.この試料の熱衝撃後表面の電子顕微鏡写真

をFig。9に示す.図中,タングステン表面に無数の突

沸痕が見られる.これはタングステン中に含まれていた

比較的蒸気圧の高い不純物(他のタングステン材料との

比較によりこの原因不純物はCaと考えられる.)が,

電子ビームによって融けたタングステン中で突沸したた

めと考えられる.この試料の損耗量は他のタングステン

材料より大きな値(CVD-Wの5~6倍)を示したこと

から,試料中の不純物量は,粒子飛散による損耗量に大

きく影響するものと考えられる.

 その他,ベーパーシールド効果と呼ばれる蒸発した材

料の蒸気によって材料表面への熱の流入が妨げられ,そ

の結果損耗量が減少するという現象も,プラズマガンを

用いた損耗実験において観測されている.このベーパー

シールド効果は電子ビームを用いた装置では観測されて

おらず,加熱方式やエネルギーの違いが大きく影響する

と考えられている.ディスラプションによる損耗量を低

減化する可能性のある現象だけに今後より一層の研究が

望まれる.

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    Bulk Temperature before lrradiatlon(。C)

Fig.7 Temperature dependence of disruption eroSions of

   CFCs aad isotropic graphite with a eIectron beam

   of2000MW/m2and2ms。

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⑫●

7.4 1TER EDAにおけるエロージョン評価

 最後に,ITER EDAにおいて現在進められているプ

ラズマ対向材料(Be,W,CFC)の損耗評価について概説

する.ITER EDAにおける損耗評価は,定常運転時の

スパッタリング,プラズマ立上げ時の約10秒間ほどの非

定常時における蒸発昇華,そしてプラズマディスラプシ

ョン時の熱衝撃損耗の3つの現象に対してそれぞれ1シ

ョットあたりの損耗量を評価し,それに各現象の発生頻

  ’1000           1500          2000          2500

        ’Heat Flux(MWlm2)

Fig.8 Disruption erosions of CVD-W,powder metal W and

   monoc「ystalWatroomtemperatureand4000℃.

脇鱒

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598

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小特集 7.プラズマ対向材料のエロージョン特性 中村,秋場

Tablel EvaluationoflifetimeofBe,WandCFCfortheapplicationoflTER

lnitial Thickness(mm) Disruption Erosion(mm)  Sputtering Erosion(mm) Transient Erosion(mm) Lifetime(shots)

Bea

Beb

W3Rea

W3Reb

Carbon

Carbon

11

11

20

20

40

40

4.3

2.3

18

18

28

31.5

 2,8

 5.2

neg量igible

negligibIe

 7.9

 4.4

 1.9

 1.6

negligible

negIigible

 2.1

 2.1

570

1010

2400

7820

9330

10490

a)Meit Ioss50%,b)Melt loss10%,c〉Low dependence of chemical sputtering yield upon pa貢icle f[ux,

d〉Highdependenceofchemicalsputteringyielduponpaけicleflux

度を考慮して,初期装荷時のダイバータ板の厚みから

2mm厚まで減少するショット数として評価を行ってい

る.評価にあたっては,再付着率,ベーパーシールド効

果の有無,表面温度の違いや粒子束による化学スパッタ

リング収率の違い(CFC材のみ)などによる効果が考

慮されているが,当然のことながら,それらの前提条件

によって寿命は大きく異なる.現在までに得られている

データベースを基に,表面材料の厚みが2mmまで減少

するまでの放電回数の試算結果をTable1[8]に示す.

この試算によると,タングステンではディスラプション

損耗のみが寿命に影響すること,炭素系材料では粒子束

依存性によって10%程度寿命が異なるなどの結果が得ら

れている.また,ベリリゥムの場合,非定常時のベーパー

シールド効果が期待されないと寿命が100ショット程度

まで減少する可能性が最近の研究から指摘されており,

このことがダイバータ板へのベリリウムの適用可能性を

著しく低下させた最も大きな理由となっている.いずれ

にしろ,寿命評価の前提となるそれぞれの現象の測定精

度にいまだ不確実な部分があることは否めず,今後より

精度の高い測定が必要と考えられる.

7.5 まとめと今後の課題

 ここでは国際協力で進められているITERのダイバー

タ板用材料を中心に,それら材料のプラズマによる損耗

特性を概説したが,今後さらに必要と思われる課題とし

ては,

(1)中性子照射後データの蓄積,

(2)より高粒子束イオンビーム源の開発,

(3)低エネルギー高熱流束源の開発,

等が考えられる.

 言うまでもなく,損耗特性を評価するために行った各

種の基礎実験は,必ずしも実機の条件を100%満足する

ものではなく,得られたデータはいずれの場合もある種

の不確実性を有するものである.したがって,それを基

に行う寿命評価もまた同様にある程度の不確実性を有す

ることは止むを得ない.しかしながら,一方でこれら基

礎実験によるデータの積み重ねが,損耗評価研究を一歩

一歩着実に進めてきたことも事実である.今後もより実

機に近い実験条件を備えた実験機器手法の整備をさらに

進めることが核融合炉実現の近道と信ずるものである.

        参考文献[1]EDA Documentation Series No.7(1996).

[2]J.Roth,E Vietzke and A.A.Haasz,Erosion of

  Graphite Due to Particle Impact Atomic and

  Plasma-Material Interaction Data for Fusion,Vol.1,

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[3]前野修一,中村和幸,奥村義和,神藤勝啓:第4回

  粒子線の先端的応用技術に関するシンポジウムプロ

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[4]K.Nakamura,A.Nagase,M.Dairaku,M.Akiba,M.

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代表著者E-mail nakamuk@naka.jaeri.gαjp

599