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平成 21 年度産業技術研究開発委託費 (産学連携ソフトウェア工学実践事業 (クラウド・コンピューティングに関する 国内外の制度・技術動向等の調査研究)) 報告書 平成22年3月

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平成 21 年度産業技術研究開発委託費

(産学連携ソフトウェア工学実践事業

(クラウド・コンピューティングに関する

国内外の制度・技術動向等の調査研究))

報告書

平成22年3月

目 次

1.クラウド・コンピューティングの制度上の課題整理 ...................................... 1

(1)国内においてデータセンターを設置する上で対応すべき規制、海外との違い ............ 1

(2)データセンター設置、選定に際して、重視されるポイント ............................ 6

(3)国境をまたいでデータを保存する際の法的リスク ................................... 19

(4)その他、クラウド・コンピューティングの利用を妨げる可能性のある法規制 ........... 30

2.クラウド・コンピューティングの技術面の課題 ......................................... 34

(1)クラウド・コンピューティングに関連した情報セキュリティの指標と達成状況 ......... 34

(2)クラウド・コンピューティングに関連した高信頼性の指標と達成状況 ................. 36

(3)データセンターおよびクラウド・コンピューティングシステムの省エネ指標とその達成状況

.................................................................................... 39

(4)クラウド・コンピューティング技術に関する国際的な標準化動向 ..................... 50

(5)諸外国におけるクラウド・コンピューティングに関する研究開発プロジェクトの動向と政府

等公的機関の支援状況................................................................. 53

3.クラウド・コンピューティングによる国内IT市場の変化 ............................... 71

(1)国内IT市場におけるクラウド関連市場規模の把握 ................................. 71

(2)国内ITユーザ企業における IT コストの変化、ビジネス革新事例 .................... 85

(3)国内ITベンダの将来における収益構造の変化 ..................................... 86

4.各国の主要データセンターの運用等に関する定量データ ................................. 89

(1)主要データセンター事業者の建設立地 ............................................. 89

(2)設備に関する技術動向 ........................................................... 91

図 表 目 次

図表・ 1 40 フィートコンテナを積載した 3軸トレーラー ............................... 6

図表・ 2 シンガポールと日本の投資コスト比較 ....................................... 10

図表・ 3 データセンター設置等における支援制度 ..................................... 13

図表・ 4 主要都市のデータセンター運用コスト(2008 年) ............................ 14

図表・ 5 データセンター運用コストの安価な上位 10 都市(2008 年) ................... 15

図表・ 6 データセンター設置の支援制度 ............................................. 17

図表・ 7 環境対策を考慮した主な支援制度 ........................................... 18

図表・ 8 アジア各国の主な取組み ................................................... 19

図表・ 9 プライバシー保護のチェックリスト ......................................... 21

図表・ 10 「クラウド・コンピューティングの利用を躊躇する理由」 .................... 35

図表・ 11 信頼性指標の算出方法.................................................... 37

図表・ 12 直列処理の場合の稼働率 .................................................. 38

図表・ 13 並列処理(冗長構成)の場合の稼働率 ...................................... 38

図表・ 14 主なクラウド・コンピューティングサービスの SLA の概要 .................... 39

図表・ 15 PUE のレベル分類 ........................................................ 41

図表・ 16 DPPE のサブ指標 ......................................................... 41

図表・ 17 ENERGY STAR for Data Centers のレーティングと HDD ........................ 43

図表・ 18 ENERGY STAR for Data Centers のレーティングと CDD ........................ 44

図表・ 19 ENERGY STAR for Data Centers のレーティングと PUE ........................ 45

図表・ 20 LEED 関連の規制および優遇措置 ........................................... 46

図表・ 21 EPA 発表の PUE の測定値 .................................................. 47

図表・ 22 米国データセンターにおける PUE 値の例 .................................... 47

図表・ 23 日本のデータセンターにおける PUE 値の例 .................................. 48

図表・ 24 DCiE by Climate Zone & Data Center Type ................................. 49

図表・ 25 Climate Zone ........................................................... 50

図表・ 26 クラウド・コンピューティングの進展にともない新規に結成された業界団体 .... 51

図表・ 27 既存標準化団体のクラウド・コンピューティング関連技術の標準策定状況 ...... 53

図表・ 28 米国連邦政府のクラウド・コンピューティング推進計画 ...................... 55

図表・ 29 フェデラル・クラウドのフレームワーク .................................... 56

図表・ 30 Apps.Gov のトップページ ................................................. 57

図表・ 31 EC FP7 の研究プロジェクト .............................................. 58

図表・ 32 英国の Government ICT Strategy のサマリ .................................. 60

図表・ 33 国家グリッド構想概要図 .................................................. 61

図表・ 34 National Grid Consortium ................................................ 62

図表・ 35 Alatum の商用プラン ..................................................... 62

図表・ 36 nGrid の商用プラン ...................................................... 63

図表・ 37 PTC の商用プラン ........................................................ 63

図表・ 38 Cloud Innovation Centre の無償提供プログラム一覧 ........................ 64

図表・ 39 クラウド・コンピューティング政策のビジョンと目標 ........................ 67

図表・ 40 クラウド・コンピューティングの政策協議会の機関別の主な役割 .............. 69

図表・ 41 クラウド・コンピューティングの政策協議会の機関別の主な役割 .............. 70

図表・ 42 業種・業態別クラウド化の進展による影響 .................................. 71

図表・ 43 わが国におけるサ-バ・ワ-クステ-ションの出荷実績 ...................... 74

図表・ 44 パーソナルコンピュータ市場の出荷実績 .................................... 75

図表・ 45 ネットワークストレージ市場の出荷実績及び需要予測 ........................ 75

図表・ 46 業務用パッケージソフトウェアの年間売上高 ................................ 77

図表・ 47 SaaS システム市場規模予測 ............................................... 77

図表・ 48 VMware 社の売上高(参考) ............................................... 78

図表・ 49 データセンターの市場規模予測 ............................................ 79

図表・ 50 クラウド関連デジタルコンテンツ市場の動向 ................................ 80

図表・ 51 サーバー・ホスティング業務年間売上高規模別(左:事業所数、年間売上高) .. 81

図表・ 52 契約者別トラヒック・月間平均の推移(ダウンロードトラヒック) ............ 82

図表・ 53 ブロードバンド回線の市場規模予測 ........................................ 83

図表・ 54 法人ネットワーク市場規模予測 ............................................ 83

図表・ 55 ソフトウェア業務の業務種類別年間売上高 .................................. 84

図表・ 56 クラウド・コンピューティングによる国内 IT 市場の変化 ..................... 88

図表・ 57 データセンター事業者の 近のデータセンター建設動向 ...................... 89

図表・ 58 データセンターが建設された地域の経済指標 ................................ 90

図表・ 59 ネブラスカ州の制定する「Nebraska Advantage」 ............................ 91

図表・ 60 コールドアイルとホットアイルのレイアウトイメージ ........................ 92

図表・ 61 アイルキャッピングの導入例 .............................................. 93

図表・ 62 直接外気にさらして冷却するモジュール化された装置 ........................ 94

1

1.クラウド・コンピューティングの制度上の課題整理 グーグル、アマゾン、セールスフォース・ドットコム、マイクロソフトなどグローバルにクラ

ウド・コンピューティング事業を展開する主要プロバイダは、まず米国にデータセンターを開設

し、その後、欧州、アジア・パシフィック地域に進出するケースが多くなっている。

この際、アジア・パシフィック地域に関しては、セールスフォース・ドットコムやアマゾン、

マイクロソフトがデータセンターの開設を発表しているシンガポールがデータセンターの立地と

して第一に選ばれるケースが多くなっており、残念ながら、日本に設置されるケースは少ない。

また、クラウド・コンピューティングに限らず、ソニーのように日本に本社を置く企業であって

も、日本のデータセンターを閉鎖し、シンガポールにデータセンターを移転させる企業も出てき

ている。

データセンターはクラウド・コンピューティング事業を支える重要なプラットフォームであり、

ランニングコスト等を含め、データセンターの運営能力の優劣がクラウド・コンピューティング

事業の競争優位を左右するといっても過言ではない。

本章では、諸外国との比較を通して、「データセンターを設置・運営する上での制度上の課題」

を明らかにするため、法制度や法人税の優遇等の各種支援制度などさまざまな面から検証し、今

後の日本におけるデータセンターの立地環境整備を検討する上での基礎資料とすることを第一の

目的とする。そのため、まず始めにデータセンターを設置する上で対応が必要となる法規制につ

いて述べる。次に、データセンター事業者や建設事業者からのヒアリングを通じて得られた、デ

ータセンターのロケーションを選定する場合に重視されるポイントについて述べる。

第二の目的としては、「クラウド・コンピューティングを利用する上で障壁となっている制度上

の課題」を明らかにする狙いがある。このため、国境をまたいでデータを保存する際の法的リス

ク、クラウド・コンピューティングを利用して、各種のインターネット・サービスを提供する場

合に考慮が必要な、著作権法、電気通信事業法等の課題について述べる。

(1)国内においてデータセンターを設置する上で対応すべき規制、海外との違い

日本において、データセンター建設時に考慮すべき法規制は多岐に渡る。主なもので、建築

基準法と関連する法規(建築基準法施行令、建築基準法施行規則)、消防法と関連する法規(消

防法施行令、消防法施行規則、危険物の規制に関する政令)、下水道法と関連する法規(下水道

法施行令)などがある。その他、都市計画法、宅地造成等規制法、省エネ法、土壌汚染対策法、

電気事業法、大気汚染防止法、水質汚濁防止法、騒音規制法、ビル管理法、廃棄物の処理及び

清掃に関する法律、高圧ガス保安法、環境アセスメント法、都民の健康と安全を確保する環境

に関する条例などもケースバイケースであるが関連があるといえる。

ここでは、まず、クラウド・コンピューティングの浸透とともに注目を集め始めているコン

テナ型データセンターを日本に設置する上での法的課題について解説する。

1)コンテナ型データセンターとは

コンテナ型データセンターとは、ISO 規格の輸送用コンテナの中に、サーバーラック、電源・

通信配線、空調設備、消火設備を組み込んだデータセンターである。従来型のデータセンター

と比べて、少ない初期投資、短い構築期間、省スペース、高い空調効率、移動が可能といった

特徴を持つ。

コンテナ型データセンターは、米サン・マイクロシステムズが 初に開発するなど、米国の

2

サーバーベンダーの製品が多数を占める。このため、これらの米国仕様のコンテナ型データセ

ンターを日本に持ち込み、設置する場合には、日本の法規制にそぐわない点もいくつか指摘さ

れている。

①建築基準法

a)建築物の定義

建築基準法とは、建物の安全と衛生を図ること、快適な街づくりを目指すことを目的とし、

建築物に関する 低基準を定めた も基本的な法律である。

ここで、まず問題となるのが、そもそもコンテナ型データセンターが「建築物」に該当する

か否かである。日本の建築基準法第二条第一項(下記参照)では、「土地に定着する工作物のう

ち、屋根及び柱若しくは壁を有するもの」を建築物と定義している。

一方、平成元年 7 月 18 日に、建設省住宅局建築指導課長から、特定行政庁建築主務部長宛に

出された通達「住指発第 239 号:コンテナを利用した建築物の取扱いについて」では、「 近、

コンテナを専用装置による伴奏音楽に合わせて歌唱する用に供する個室(いわゆるカラオケル

ーム)に転用し、不特定多数の者の利用に供している例等が見受けられるが、これらのコンテ

ナは、その形態及び使用の実態から建築基準法(以下「法」という。)第 2 条第一号に規定する

建築物に該当する。」としている。

この通達以降、一部の自治体では、「コンテナを土地に定着させて使用する場合、そのコンテ

ナは建築物に該当する」と解釈している。従って、こうした自治体において、コンテナ型デー

タセンターを屋外に設置する場合は、建築物に該当することになる。

ただし、「コンテナを土地に定着させて使用する場合、そのコンテナは建築物に該当する」と

いう解釈は必ずしも、全国の自治体共通の解釈にはなっていない。実態は、各自治体の担当者

の裁量に依る部分も多く、建築物には該当しないと解釈している自治体も存在する。

b)建築物の建築等に関する申請及び確認

建築物の場合、建築基準法第 6 条の第 1 号から第 4 号までに掲げる建築物を建築しようとす

る場合、建築工事着手(着工)前に、その計画が関係法令に適合しているかどうかを事前にチ

ェックする建築確認申請が必要になる。

コンテナ型データセンターの場合、その用途から、第 1 号の「特殊建築物」には該当しない。

またスチール製であることから、第 2 号にも該当しない。しかしながら、コンテナを積み重ね

て設置する場合や平置きで 20 フォートモデルを 13 台、あるいは 40 フォートモデルを 6 台設置

する場合は、「木造以外の建築物で 2 以上の階数を有し、又は延べ面積が 200 平方メートルを超

えるもの」という第 3 号に該当する。また、都市計画区域等内に設置する場合、「都市計画区域

若しくは準都市計画区域(いずれも都道府県知事が都道府県都市計画審議会の意見を聴いて指

定する区域を除く。)若しくは景観法(平成 16 年法律第 110 号)第 74 条第 1 項の準景観地区(市

町村長が指定する区域を除く。)内又は都道府県知事が関係市町村の意見を聴いてその区域の全

部若しくは一部について指定する区域内における建築物」という第4号に該当する。

従って、この場合には建築確認申請が必要となり、建築主は建築主事(または民間の指定確

認検査機関)に申請し、確認済証を受けた後でなければ着工することはできない。

3

c)建築確認申請時の提出書類

上記で建築確認申請が必要となった場合には、提出書類として建築基準法施行規則第一条の

三に基づき、正本として、

(1)確認申請書(2)調査報告書(3)委任状(4)設計図書(5)浄化槽を併願する場合の添

付書類

別綴りとして、(1)建築工事届(2)建築計画概要書(3)消防署同意書、又は通知書(4)都

市計画法第 53 条に関する申告書 2 枚+都市計画図 2 枚(5)開発行為に関する申告書 2 枚(6)

浄化槽を併願する場合の添付書類

副本として(1)確認申請書(正本と同じ)、委任状(正本と同じ)(3)設計図書(正本と同

じ)(4)浄化槽を併願する場合の添付書類 が必要となる。

なお、このうち、確認申請書に添付する設計図書は、建築基準法建築基準法施行規則第一条

の三に基づき、コンテナを平置きし、かつ延べ面積 200 ㎡以下の場合、建築計画概要書、付近

見取図、配置図、各階平面図、屎尿浄化槽又は合併処理浄化槽の見取り図となる。

また、コンテナを 2 段以上積み重ねるか、延べ面積 200 ㎡を超える場合は、さらに、基礎伏

図、各階床伏図、小屋伏図、構造詳細図、構造計算書が必要となる。

d)建築工事届

建築確認申請に加えて、建築基準法第 15 条第 1 項に定められている通り、建築物又は当該工

事に係る部分の床面積の合計が 10 平方メートルを超える場合は、建築工事届が必要となる。

従って、20 フィート型のコンテナで面積が 15 ㎡、40 フィート型のコンテナで 30 ㎡となるコ

ンテナ型データセンターでは、いずれの場合も建築工事届が必要となる。

e)防火地域内の建物

防火地域内にコンテナ型データセンターを設置する場合、建築基準法第 61 条に基づき、2 段

積み以下で、延べ面積が 100 ㎡の場合は、耐火または準耐火建築物、それ以外は耐火建築物で

なければならない。

f)準防火地域内の建築物

準防火地域内にコンテナ型データセンターを設置する場合、建築基準法第 62 条に基づき、一

段か二段で延べ面積が 500 ㎡以下の場合は制限を受けないが、その他の場合は、耐火建築物、

または準耐火建築物でなければならない、といった制限を受ける。

g)耐火建築物、準耐火建築物

コンテナ型データセンターが「耐火建築物」、もしくは「準耐火建築物」であることが求めら

れる場合、建築基準法第 2 条の 7、および第 2 条 7 の 2、第 2 条 9 の 2、9 の 3 に定められてい

る「政令で定める技術的基準」に適合しなければならない。

なお、ここでいう「政令で定める技術的基準」とは、建築基準法施行令の第百七条、第百七

条の二を指す。

このように、新しい概念の建築物であるコンテナ型データセンターが、一般的に厳しいとさ

れる、日本の建築基準法に準拠しているかどうかをチェックするのは膨大な時間がかかると予

4

想される。しかも、適合させるためには、相当のコストが必要となると、「低コスト、かつ迅速

な設置が可能」というコンテナ型データセンターのメリットを損なうことになり、現実的では

ない。

このため、日本に設置する場合には、既に建築基準法に適合していることが明らかであるプ

レハブ設備等にコンテナ型データセンターを格納することで、建築基準法の適用対象外とし、

納期の短縮を図るという方法が取られている。もちろん、その分のコストは発生するものの、

従来の方法でデータセンターを建設するよりは、遙かに割安とされている。

ちなみに、米国においては、コンテナ型データセンターは、「建築物」には該当しないとされ

ており、建築基準法への準拠の有無を気にすることなく、屋外に設置することができる。

②消防法

a)消防同意

コンテナ型データセンターを屋外に設置し、建築申請を行う場合、消防に関する項目は消防

法第 7 条による消防機関の確認が必要となる。この際、消防法施行令第 6 条別表第一の「(十五)

前各項に該当しない事業場」として、消防長又は消防署長の同意をとる必要が出てくる。

b)消防用設備

消防法第 17 条第 1 項では、「防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防

の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設について消火、避難その他の消防の活

動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、

及び維持しなければならない」とされている。

また、消防法施行令第 7 条においては、「消防法第十七条第一項の政令で定める消防の用に供

する設備は、消火設備、警報設備及び避難設備とする」としている。

このうち、警報設備、避難設備の必要性は各自治体の消防署等の判断を仰ぐことになるが、

東京消防庁の判断では、必要なしとされている。

また、消防用水は消防施行令第 27 条において、「その敷地の面積が二万平方メートル以上あ

り、かつ、その床面積が、耐火建築物にあつては一万五千平方メートル以上、準耐火建築物に

あつては一万平方メートル以上、その他の建築物にあつては五千平方メートル以上のもの」に

ついて設置するとしているように面積に依存し、コンテナ型データセンターを一台設置する分

には、必要でないと考えられる。

排煙設備についても同様に、消防施行令第 28 条において、「排煙設備は、次に掲げる防火対

象物又はその部分に設置するものとする。

一 別表第一(十六の二)項に掲げる防火対象物で、延べ面積が千平方メートル以上のもの

二 別表第一(一)項に掲げる防火対象物の舞台部で、床面積が五百平方メートル以上のも

三 別表第一(二)項、(四)項、(十)項及び(十三)項に掲げる防火対象物の地階又は無

窓階で、床面積が千平方メートル以上のもの」

としているように面積に依存し、コンテナ型データセンターを一台設置する分には、必要で

ないと考えられる。

その他の連結散水設備、連結送水管、非常コンセント設備、無線通信補助設備についても、

5

消防施行令第 28 条の 2~第 29 条に定められている通り、地階、あるいは高層建築に必要なも

ので、コンテナ型データセンターをこうした場所に設置しなければ、これらの設備は必要ない。

結果的に消防の用に供する設備として、対応が必要なものは、消防法施行令第 7 条の 2 に定

められた消火設備となる。コンテナ型データセンターでは、サーバーを使用することから、使

用できるのは「不活性ガス消火設備」と想定される。

この際、新しいガスなどを使用する不活性ガス消火設備では、消防法第 17 条第 3 項で定めら

れているように、総務大臣の認定を取る必要がある。

c)各種届け出、検査、点検など

先に説明した、新しいガスなどを使用する不活性ガス消火設備を消防用設備として用いる場

合には、特殊消防用設備等として、消防長又は消防署長に届け出て、検査、点検を行い結果を

報告する必要がある。

③道路交通法

米国製のコンテナ型データセンターのサイズは大きく分けて、20 フィートと 40 フィートが

ある。40 フィートのコンテナの場合、長さは 40 フィート(12.192m メートル)、高さが 9.6 フ

ィート(2.93 メートル)、サーバーを含めた総重量は 大で約 27 トンにもなる。このため、日

本国内で陸上輸送を行うには各種の制限がある。

a)長さ

車両制限令第三条第四項において、長さは十二メートルまでと定められおり、40 フィートの

コンテナ型データセンターの場合、長さは 12.192m メートルのため、この制限値を超える。

b)高さ

40 フィートのコンテナの場合、高さは 9.6 フィート(2.93 メートル)であるが、これをコン

テナシャーシ(荷台)に積載した場合、荷台の高さ約 1200mm を含めれば約 4.1 メートルとな

る。

車両制限令第三条第三項において、高さは「道路管理者が道路の構造の保全及び交通の危険

の防止上支障がないと認めて指定した道路を通行する車両にあつては四・一メートル、その他

の道路を通行する車両にあつては三・八メートル」と定められており、一般道では、制限値を

超える。

c)総重量

40 フィートのコンテナの場合、サーバーを含めた総重量は 大で約 27 トンになる。車両制

限令第三条第二項イでは、総重量について、「高速自動車国道又は道路管理者が道路の構造の保

全及び交通の危険の防止上支障がないと認めて指定した道路を通行する車両にあつては二十五

トン以下で車両の長さ及び軸距に応じて当該車両の通行により道路に生ずる応力を勘案して国

土交通省令で定める値、その他の道路を通行する車両にあつては二十トン」と定めている。

しかし、国際海上コンテナ積載車両は、国内で貨物の積み替えを行わないという国際複合一

貫輸送に特殊性があることから、保安基準で規定を緩和できる車両の対象にするとともに道路

6

構造の保全のために必要な条件等を付したうえで、高速道路及び指定道路において特例的に通

行許可を行っている。

具体的には、認定を受けた 3 軸トレーラーとトレーラーヘッドによる輸送が認められており、

20 フィートで 24,000kg、40 フィートで 30,480kg までの輸送が合法となっている。

図表・ 1 40 フィートコンテナを積載した 3 軸トレーラー

出所)国際海上コンテナの陸上における安全輸送ガイドライン

なお、道路交通法第五十七条、道路法第四十七条の第二項では、当該車両について政令で定

める乗車人員又は積載物の重量、大きさ若しくは積載の方法の制限を超える場合であっても、

道路管理者に事前に申請し、許可を得れば、通行可能なルートが制限されるなどの制約がある

ものの、規定された限度をこえる車両の通行が許可されると定めている。

(2)データセンター設置、選定に際して、重視されるポイント

クラウド・コンピューティングに限らない、一般なデータセンターの場合、そのロケーショ

ンを選定する場合に重視されるのは、第一に市場があるところ、つまりデータセンターの利用

者である顧客に物理的に近い場所、そして、地震や台風など自然災害の影響を受けにくい場所

であると同時に、通信回線の敷設状況や安定した電力が複数の系統から供給されることなど地

理的な条件が重視される。その次に、コスト(土地代、電力料金、税金、人件費など)である。

ニューヨーク、ロンドン、東京の金融機関のデータセンターが、各都市内にデータセンター

を保有する傾向が強いのは、こうした理由からである。単純にコストだけを見れば、ニューヨ

ーク、ロンドン、東京の各都市はいずれも高コストであり、コスト的にはそこにデータセンタ

ーを設置するメリットはない。しかし、いずれの都市も世界有数の金融機関が集中し、自社の

近くにデータセンターを保有したいというニーズが強い。結果的にはコストよりも、自社に近

いという条件が優先される結果となっている。

一方、クラウド・コンピューティング用のデータセンターの場合、その物理的な所在地が公

開されないケースが多いことからも分かる通り、基本的に顧客がデータセンターを訪ねること

を想定していない。このため、「データセンターの利用者である顧客に物理的に近い場所」とい

う条件の優先度は必ずしもは高くない。

しかしながら、あまりに距離が離れ、複数の通信事業者のネットワークを経由するような場

合には、ネットワークのレイテンシ(遅延)が発生し、利用者の円滑なクラウド・コンピュー

7

ティングの利用を阻害する場合がある。また、後述するように、国によっては、個人情報や財

務データを自国内に保管することを義務づけている場合もある。こうした理由から、結果的に

顧客の近い場所にデータセンターが設置される場合もある。

ただ、相対的に、顧客に近いというよりは、自然災害が少なく、通信回線や電力設備が整備

されているといった地理的な条件、あるいは極力コスト(特にランニングコスト)の安いとこ

ろといった条件の優先度が高くなる傾向にあるのは間違いない。

特に、コストに関しては、ダイレクトに顧客へのサービス提供料金に影響するため、クラウ

ド・コンピューティング事業者各社は個別に各国の政府・自治体、あるいは電力会社と交渉し、

税制の優遇措置などの特別なインセンティブを手にしているケースも多い。

ここでは、日本、米国、EU(英国)、シンガポール、韓国、インド、中国といった各国のデ

ータセンター事情、および誘致に関わる支援策の状況について、整理を行う。

1)主要国のデータセンター事情

①日本

電力料金は米国、韓国等と比べると、2 倍以上と高価である。法人税率も 40%と高く、デー

タセンターに対する国策としての優遇措置等はない。地震が多いことから、建物は耐震基準を

満たすように設計・建設する必要がある。特にデータセンターは高い耐震性能を要求されるケ

ースが多く、その分コスト高となる。

しかし、高品質な電力網が整備されており、首都圏に限れば、充実した通信回線が整備され

ている。ただし、首都圏と地方を結ぶ通信回線の容量が必ずしも十分ではない。特に、寒冷な

気候からデータセンターの冷却コスト削減に寄与するとして、注目を集めている北海道につい

ては、首都圏と北海道を結ぶ通信回線の帯域の狭さを指摘する声が複数のデータセンター事業

者から挙げられている。このため、石狩市のように税制の優遇措置を打ち出す自治体は存在す

るものの、データセンター事業者は北海道への進出に及び腰になっているのが実情である。

東京都では、平成 22 年 4 月 1 日から「温室効果ガス排出総量削減義務」が開始されることか

ら、データセンター事業者の中には地方への移転を検討するところも出てきている。しかし、

このようなインフラの問題や「地方で優秀なオペレータを確保できるか」といった人材面の課

題もあり、地方への移転は容易ではない。

②米国

一般的なデータセンターは、ニューヨークやワシントン、サンフランシスコなどのビジネス

の中心である大都市、あるいは大都市近郊に建設されることが多い。しかし、クラウド・コン

ピューティング用のデータセンターに関しては、そのような傾向はなく、むしろ地方に建設さ

れることが多い。これは、コロケーションやハウジングが主体の場合、データセンターを顧客

が見学したり、何かあった場合にすぐに駆けつけられたりできる必要があるが、クラウド・コ

ンピューティングの場合、顧客がデータセンターを訪問する必要性がないため、電力料金など

コストの安い場所が優先されるためである。

地震やハリケーンなど自然災害が少なく、光ファイバの敷設状況など高速な通信回線の有無

はもちろん求められるが、近年は、風力発電に代表されるように代替エネルギーが利用できる

か否かが重視されるようになっている。なお、米国の場合、日本と異なり、同じ州内で比較的

8

小さい電力会社が複数存在しており、電力料金も電力会社ごとに異なる。

その他、データセンターのロケーションを選定する際に重要な要素を占めるのが、税制の優

遇措置である。連邦政府としての統一的なプログラムは存在しないが、一定の投資額や地域住

民の雇用を条件に税制の優遇措置を講じている自治体が多い(詳細は次項「2)データセンタ

ー設置等の支援制度」を参照)。一般的にこれらの優遇措置の条件が公開されることは稀で、デ

ータセンターを建設しようとする事業者と州政府との個別交渉が基本である。

大量のサーバー機器など大規模な設備を保有するクラウド・コンピューティング用のデータ

センターにとって、固定資産税などの税制の優遇措置は非常に重要である。マイクロソフトの

ように税制の変更に伴い、ワシントン州クインシーから、テキサス州サンアントニオへデータ

センターを丸ごと、移設してしまったような例もある1

③EU

一般的なデータセンターは、ビジネスの中心であるロンドンやフランクフルト、パリなどに

多く設置される傾向にあるが、近年は、欧州各地へのアクセスがよく、英語を話せる人材が豊

富であることから、アムステルダムの人気が高まっている。英国と異なり、テロの心配がない

ことも人気を集めている理由の一つである。

クラウド・コンピューティングに関していえば、マイクロソフトやアマゾン、IBM がデータ

センターを開設しているアイルランド(ダブリン)の人気が高い。アイルランドはもともと IT

を重要な基幹産業として位置づけ、高成長を遂げた国であるため、通信回線などのインフラ面

は整備されており、データセンターの運用を任せられる人材も豊富である。

また、夏も涼しいアイルランドは電力コストの削減が至上命題となっているクラウド・コン

ピューティングのデータセンターには非常に適した環境といえる。たとえば、マイクロソフト

がダブリンに建設したデータセンターはサーバーの冷却に外気を利用している。驚くことに、

データセンターの稼働時間の 95%がチラ-などの冷却設備を使うことなく、適切な温度を維持

できているということだ。この結果、ダブリンのデータセンターの PUE(Power Usage

Effectiveness)は 1.25 と非常に優秀な数値を示している。

なお、英国においては東京都同様、2010 年4月より、炭素削減義務(CRC:Carbon Reduction

Commitment)が、英国内のビジネス・公共セクターの企業・団体を対象に開始される(試行

期間 3 年間)。CRC は義務的排出量取引制度であり、各企業・団体の排出枠は入札で決まる。

具体的には、年間 6,000 MWh (6 百万 kWh)以上を消費、電気料金換算で約 100 万ポンド以

上の料金を支払って消費している組織が対象となり、クレジット価格は 3 年間の試行期間中は

固定、その後は毎年入札で決められる。

④シンガポール

シンガポールは IT で立国するという目標を立て、早くからさまざまな取り組みを行っている。

そのひとつがデータセンターの誘致である。そもそも、シンガポールは自然災害が少なく、デ

ータセンターの立地を検討する上では、非常に恵まれた国である。大陸プレート上の安定部分

に位置するため地震の心配はなく、インドネシアやフィリピンなど他の島々に囲まれているた

め他地域で発生した津波の影響を受けることも少ない。また、赤道直下のため台風も発生しな

1 http://www.datacenterknowledge.com/archives/2009/08/05/microsoft-migrates-azure-citing-tax-laws/

9

い。電力も安定して供給され、現地の日本企業からは、「停電の発生率は日本より小さい」とい

う声も挙がっている。

一般的にシンガポールはコストが安いといわれる。日本と比較した場合、まず、オフィス賃

料やコロケーション費用は 2~3 割安い。また、一般家庭向けの電力料金は同水準であるものの、

監督官庁との交渉次第で、データセンターに限っては、日本の産業向け電力料金の半額程度で

提供される場合もある。そして、 も差が大きいのが、法人税である。日本の 40%に比べ、シ

ンガポールは 17%である。さらに、地元の雇用の確保、設備投資や固定資産の額、地域のヘッ

ドクォーターを置く、といったことに対して更なる税金の優遇策がある2。

外国企業をシンガポールに誘致するにあたっては、経済開発庁(EDB:Economic Development

Board)の存在も大きい。シンガポールでは、資金調達や優遇措置、データセンター設置に関す

る手続などの交渉、サポートについてはすべて EDB が窓口となっており、いわゆるワンストッ

プサービスを提供している。日本へ外資系企業が進出する場合、日本国内においてどこに相談

すれば必要な情報が得られるかということがしばしば問題になることを考えれば、EDB のワン

ストップという機能のありがたみが分かる。

東京 23 区とほぼ同じ面積で、人口は約 500 万人と東京都よりも少ない都市国家のシンガポー

ルは、法制度の面では、日本と異なり、州などの自治体ごとに条例が存在するようなことはな

い。そのため、解釈も容易である。データセンターを建設する場合でも、1.5 ヶ月~2 ヶ月で認

可が下り、非常に迅速にデータセンターの立ち上げが可能というメリットもある。

こうした国を挙げての積極的な誘致策が功を奏し、この数年で TATA、Equinix といったデ

ータセンター事業者の進出や設備拡大に加えて、Microsoft、Salesforce.com、Amazon のよう

なクラウド・コンピューティング事業者がアジア地域の 初のデータセンターの開設地として、

シンガポールを選択するケースが目立っている。

また、日本国外の企業がシンガポールに進出するだけではなく、日本企業のデータセンター

の移転も始まっている。例えばソニーは、2007 年にシンガポールにデータセンターを設置した

だけでなく、2011 年までにアジア地域の基幹システム用のデータセンターを全てシンガポール

に集約する予定である。また、キヤノンも、クラウド・コンピューティングを使ったアジア 18

カ国アフターサービス部門の統括システムをシンガポールに設置した。また健康食品や医薬品

の販売サイトのケンコーコムのように、日本国内省令による医薬品のネット販売規制をきっか

けに海外移転を考えた企業も、シンガポールを選択するケースが増えている。

2 EDB シンガポールホームページ, “投資家向けガイド > 税制”

10

図表・ 2 シンガポールと日本の投資コスト比較

シンガポール 日本

賃金(月額) エンジニア (中堅) $ 1,891.8 $4,604.86

中間管理職 (課長) $ 3,139.1 $6,272.91

賃料 事務所賃料 $35.91〜64.64 $42.34

(m2当たり) 工業団地借料 $0.52〜1.47 $5.16〜8.53

業務用 月額基本料 $4.98 $17.21

電気料金 1kWh 当たり $0.1476〜0.1487 $0.12~0.13

税制 法人所得税 17%

(2008 年迄 18%)30%

出所)日本貿易振興機構(JETRO), “国・地域別情報(J-FILE) 投資コスト比較”, 2008

⑤韓国

韓国は、データセンターの運用コストの主要因である電力料金が安価であり日本の 60%程度

である。さらに、2009 年からは IDC 施設安全信頼性基準項目(情報通信省勧告事項、2000.11)

を満たしている IDC 事業者に対しては、家庭向けではなく事業者向け電気料金が適用され、家

庭向け料金と比べ概ね 10%~20%程度電気料金が割り引かれるとされる。

またソウル市近郊においては、電力品質は高く日本と同様停電も少ないため、Tier4 レベルの

冗長構成の電源設備は不要であると考えられている。インターネット大国と呼ばれるように広

帯域のネットワークインフラも充実しており、IT インフラに関する地域間の格差もあまりない

ためインフラ面ではデータセンターをソウル市以外に設置するハードルは低い。実際に韓国政

府の所有する政府統合電算センターは第一センターが大田大徳研究団地に第二センターが広州

に設置されている。しかし、韓国での大規模なデータセンター事業者である大手の財閥系企業

はその本社機能がソウル市などの大都市にあることから、データセンターもソウル市などの市

内およびその近郊に設置されている場合が多い。現在のところ多くのデータセンター事業者は

データセンターへの交通アクセスが良いことを重視している。

交通アクセス以外に韓国においてデータセンターの立地選定の際に検討される要件としては、

地震と水害への対応があげられる。韓国において大規模な地震はあまりないが、大地震への備

えとして地盤が堅牢な土地を選定するとともに、耐震設計を行うのが一般的である。なお、韓

国においては一般の建造物に対する耐震設計が普及していないため、大地震の際にはデータセ

ンター自身よりも一般の建造物の倒壊などによる都市機能の麻痺の方が課題とされている。

地球温暖化および CO2排出に対する規制は現在政府が検討している段階であり、データンセ

ンター運用に際して環境面に対する配慮はあまり行われていないが、コスト削減の点から外気

導入やビルの断熱機能などの省エネ対策には積極的に取り組んでいる。

データセンター事業に対する政府の優遇制度はないが、ソウル市は産業育成の観点から市内

の DMC 団地において冷水および暖房の団地内ビルに対する供給する共有施設の設置や地下か

らの 2 系統の電力供給など、インフラ整備を積極的に行っている。特に冷却水と暖房の供給は

省エネ面での効果が高く、DMC 団地内に設置されたデータセンターは PUE=1.4 を実現してい

る。

11

⑥インド

インドでは、産業用の電力料金が民生用よりも高価であり、あるデータセンター事業者によ

ると、データセンターの運営に 5~11 ルピー/kwh 程度の電気料金を負担しているとのことで

ある。これは日本と変わらない水準である。また、電力供給は不安定であり電圧が急に下がる

「ブラウンアウト」、停電する「ブラックアウト」が頻発する。特にデリーでは他の地域に比べ

て停電が多く、一回あたりの時間が長い。ただし、停電のスケジュールはあらかじめ自治体か

ら事業者へ通達されており、事業者は電力供給計画を立てられるため、工業団地では原則とし

て停電は発生しない。データセンター事業者は十分な容量のディーゼル自家発電と、自家発電

に切り替わる瞬間の一時的な電圧変動をフォローするUPSをバックアップ体制として完備して

いる。インド国内の 30,000 平方フィートのデータセンターでは、3MW のディーゼル自家発電

を 5 機、UPS を 6 機設置おり、また別の 75,000 平方フィートのデータセンターでは、10 機のデ

ィーゼル自家発電と 10 機の UPS を設置しているという情報を得た。いずれも自家発電のみで

連続一週間程度の稼働が可能とのこと。

国際回線のレイテンシとして、複数のデータセンターのヒアリング結果を集約すると、概算

でそれぞれ、日本 170msec、米国 250msec、英国 180msec、シンガポール 100msec、香港 110msec

程度となっている。国内通信のレイテンシや通信容量については、大都市であれば大きくは変

わらない。

データセンター設立にあたっては、消防設備について頻繁に州政府の監査を受ける。一方、

耐震性については特に要求されない。

優遇制度は州政府単位で設定されている。例えば Andhra Pradesh 州では、IT 事業者に対し

て事業用地の無料貸与、税や電力料金の優遇、特許取得支援、セキュリティ認証取得支援、SEZ

(Special Economic Zone:特区)申請等の支援を行っている。

顧客の要望としては、利用地までの物理的な距離が重視される。特に金融マーケットのある

ムンバイは、地震や洪水などの自然災害の多い都市であるにも関わらず、データセンターが数

多く設置されている。

インド国内の比較的先進的なデータセンターでの PUE は 1.9 程度であった。

⑦中国

中国の国内事業者は、自社内にサーバーを置いていることが多い。データ運用を社外にアウ

トソーシングするという考え方は必ずしも浸透していない。当局による突然のサーバー回収の

可能性があり、サーバーは自社の目の届く場所に置いておきたいという考え方が一般的である。

ただしこの考え方は近年少しずつ変わってきており、データ運用をアウトソーシングするとい

う考え方を利用者が受け入れ始めているため、データセンター需要の拡大は時間の問題と考え

られる。四川大地震の経験から、金融業界では当局より遠隔地に DR を設置する通達が下った

が、この点もデータセンターの需要を高める要因となるだろう。

一方、中国で事業を運営する外資事業者のデータセンター需要は大きい。特に香港は金融の

拠点であり、多国籍企業が集まり旺盛な需要が発生しているため、多数のデータセンターが設

立されている。

中国の土地は国有資産であり、事業者は所有できない。建設物は事業者も所有できるが、通

常は既存の建設物を間借りすることが多い。市政府はデータセンター誘致のため、土地の無償

貸与や、税制優遇、回線料金や建設工賃の支援など、それぞれに独自の施策を打ち出し、市政

12

府間で激しい競争となっている。

また外資系事業者にとって中国国内でデータセンター事業を営む上での大きな問題として、

投資比率の規制が挙げられる。中国ではデータセンターは電信付加価値サービスに該当し、電

信付加価値サービスは、外商投資電信企業管理規定により、中国国内での外資参入にあたって

独資は不可となっている。よって中国国内の投資者との合弁の形式をとる必要があるが、外資

側の投資比率は 50%を超えることができない。このため、中国国内の投資者を探し、パートナ

ーシップを組むためのスキームを検討する必要があることが、外資にとって中国への参入を図

る際の重要な課題となる。

中国における国内回線は省ごとに料金体系が異なり、概して高価である。また、国内南部は

チャイナテレコム、北部はチャイナユニコムが回線を引いているが、お互いの乗り入れの際の

利用料が高価であることも、データセンター事業者にとって課題の一つとなっている。回線コ

スト低減のため、顧客の拠点の近隣にデータセンターを置く必要があり、これも香港など大需

要地にデータセンターが建設される一員となっている。ヒアリングでは、例えクラウドに対す

る意識が高まっても、インフラコストが高い現状では広まらないのではないか、という意見も

聞かれた。

クラウド・コンピューティングについては、2009 年に立案された中国の新規 ICT 戦略である

「物聯網(ウーレンワン)」の中に位置づけられており、研究テーマとしてホットトピックとな

っている。「物聯網」(ウーレンワン, The Internet of Things) は 2009 年 8 月に立案された、ユビ

キタスネットワークに冠する中国の新規 ICT 戦略であり、クラウド・コンピューティングもこ

のうちの1つとして位置づけられている。物聯網はまた、新エネルギー、グリーン生産などと

共に、中国国家級重大科学技術専門プロジェクトとして国家 5 大新興戦略性産業にも組み入れ

られている。現在、中国国務院、国家発展改革委員会、中国工業信息化部が、標準化委員会に

おいて推進するための枠組みづくりや 2010 年以降の実行計画の策定に着手しており、情報通信

業界では注目されている。

研究機関や通信事業者は、外資のクラウド事業者と情報交換を始めており、クラウドを利用

したビジネスモデルや、将来想定される需要の予測、クラウドの浸透が進んだ際に想定される

リスク等についての検討が行われている。

13

2)データセンター設置等の支援制度

データセンターの立地支援を中心として、クラウド・コンピューティング普及に向けた支援

制度について整理した。支援制度の枠組みは、税制優遇、補助金・助成金、金融支援、規制緩

和の 4 種類に大別した。例えば、土地の賃貸や施設の無償貸出等は、規制緩和の一種として扱

っている。また、貸し工場や貸し研究室等の共有施設、事業支援等のインキュベート機能、土

地や上下水道、電気、道路等のインフラ整備についても対象とした。

図表・ 3 データセンター設置等における支援制度

支援の種類 調査項目・視点

税制優遇 費目(不動産取得税、事業税、固定資産税等)、対象地域、対象用件、対象者

軽減率(割合、金額)、課税免除(期間)

補助金・助成金 対象施設、業種、地域、用件、対象者、助成内容(限度額)

金融支援 対象施設、業種、地域、用件、対象者

低利融資、利子補給、等

規制緩和 土地代、用水料金、電気料金、交通料金、用地買収等

14

①税制優遇(アイオア州のケース)

2008 年、アイオア州はマイクロソフトのデータセンターを誘致するため、同社に対する優遇

策(incentive package)の法案を議会で可決した。同州に 2 億ドル以上投資したウェブ・ポー

タル企業に対して、コンピュータ、周辺装置・機器、電力の購入についての州の売上税と使用

税を 6 年間にわたり免税する。

これを受けてマイクロソフトはデータセンターの建設を発表。同州は以前より、巨大設備を

建設・運営する企業に対し、設備投資や電力購入にかかる税金を免除する仕組みを持っており、

これを活用してデータセンターを誘致している。グーグルも同様の優遇策を提示されて進出し

ている。

同州は米国の中心部に位置し、教養のある労働力を備え、電力の 8%を風力でまかなうなど

電気代も安く、米国内でもデータセンター運用コストの低い都市を持つ州として知られている。

企業の立地コンサルティング会社の試算では、12.5 万平方フィート(約 1.2 万平米)、従業員

75 人のデータセンターを新規に運用する年間コストは、 も低額なサウスダコタ州で 11 百万

ドル、 も高額なニューヨーク州で 28 百万ドル、アイオワ州では 12 百万ドルである。

図表・ 4 主要都市のデータセンター運用コスト(2008 年)

(百万ドル/年)

11 12

23

28

0

5

10

15

20

25

30

Sioux Falls, S.D. Council Bluffs,Iowa

San Francisco, CA New York, NY

出所)日経 Itpro「データセンターは世界のはるか彼方へ,ネット企業の壮大なクラウド計画 」

(2009/08/19)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080808/312432/

15

図表・ 5 データセンター運用コストの安価な上位 10 都市(2008 年)

出所)DATA CENTER KNOWLEDGE ウェブサイト

http://www.datacenterknowledge.com/archives/2008/05/12/the-most-affordable-data-center-markets-2008/

②複数の支援制度の組み合わせ

米国では州政府や地方自治体等複数の主体により支援を行うケースが見られる。いずれもデ

ータセンター誘致に積極的な州であり、より複数の支援制度を組み合わせることで、より有利

な条件を提示出来るよう工夫している。

16

a)州政府と公営企業体が民間企業と地方自治体を支援するケース

Data Cave 社がコロンバス市に建設する 8 万平方フィートのデータセンターに対して、 イン

ディアナ州は総額$30 万のインセンティブを提供する。

(ア)州経済開発公社から DC 設置企業へ

(イ)州から DC 設置予定の地方自治体へ

b)州政府が民間企業と公営企業体を支援するケース

オクラホマ州は Google 社に対する州税を免除すると共に、使用電力量を非公開とする恩恵を

新法制定により与える。

(ア)州から DC 設置企業へ

(イ)州から電力会社へ

インディアナ州

Data Cave社 コロンバス市

インディアナ州経済開発公社

税額控除(22.5万ドル)、訓練助成金(3.7万ドル)、

固定資産税の軽減

同社新データセンター予定地への光ファイバ延伸コスト助成金(最大5万ドル)

(ア) (イ)

オクラホマ州

Google社 公営電力会社

売上税、固定資産地方税の免除

大口需要家(Google社)の産業電力の使用量非公開を許可

(ア) (イ)

州政府

DC設置企業

地方自治体

公営企業体

州政府

DC設置企業

地方自治体

公営企業体

17

c)州政府と地方自治体が民間企業を支援するケース

コロラド州とボルダー市が協力して、ヒトとカネの両面から活動を支援する。

(ア)州から DC 設置企業へ

(イ)地方自治体から DC 設置企業へ

③条件付き支援制度

一定の条件を満たした場合に支援を行う仕組みである。州政府や電力会社等の支援者は、一

定人数の雇用確保や給与水準の保証、まとまった額の投資などの条件を組み合わせ、それを満

たす案件に対して助成金の支払いや税制優遇等の支援を行っている。

図表・ 6 データセンター設置の支援制度

---20年間の優遇税制措置(当初10年間は固定資産税控除)及び

機器購入に対する売上税免除

ニューヨーク州

ロックポート

1億ドル以上50名以上の新規雇用

拡張で1.5億ドル以上既存データセンター

投資賃金雇用

-年間5万ドル/人75名の新規雇用ローコスト電力供給(合計1億120万ドルのコスト削減)

Yahoo!社

ニューヨーク州

電力公社

500万ドル以上の初期投資と200万ドル以上の機器購入

--州売上税を免除データセンター

事業者

ワイオミング州

(審議中)

1千万ドル以上州平均の1.5~2倍

75名以上の新規雇用投資税額15%控除、賃金税額10%控除、売上税還付、動産税10年間免除

事業進出や拠点開発を図る企業

ネブラスカ州

1.5億ドル以上州平均の1~1.5倍50名以上の新規雇用

コンピュータ機器に対する州売上税・使用税の免税

新規データセンターバージニア州

従業員の平均給与は、設置される郡の標準給与を上回る額とすること

50名のフルタイム

従業員の雇用

税額控除

(今後10年間で推定46百万ドル)

Apple社ノース

カロライナ州

--4,000人の雇用助成金

(22百万ドル)Rackspace社テキサス州

支援の条件支援内容

対象事業者/

企業事例支援者

---20年間の優遇税制措置(当初10年間は固定資産税控除)及び

機器購入に対する売上税免除

ニューヨーク州

ロックポート

1億ドル以上50名以上の新規雇用

拡張で1.5億ドル以上既存データセンター

投資賃金雇用

-年間5万ドル/人75名の新規雇用ローコスト電力供給(合計1億120万ドルのコスト削減)

Yahoo!社

ニューヨーク州

電力公社

500万ドル以上の初期投資と200万ドル以上の機器購入

--州売上税を免除データセンター

事業者

ワイオミング州

(審議中)

1千万ドル以上州平均の1.5~2倍

75名以上の新規雇用投資税額15%控除、賃金税額10%控除、売上税還付、動産税10年間免除

事業進出や拠点開発を図る企業

ネブラスカ州

1.5億ドル以上州平均の1~1.5倍50名以上の新規雇用

コンピュータ機器に対する州売上税・使用税の免税

新規データセンターバージニア州

従業員の平均給与は、設置される郡の標準給与を上回る額とすること

50名のフルタイム

従業員の雇用

税額控除

(今後10年間で推定46百万ドル)

Apple社ノース

カロライナ州

--4,000人の雇用助成金

(22百万ドル)Rackspace社テキサス州

支援の条件支援内容

対象事業者/

企業事例支援者

注)「-」は詳細不明を表す

出所)各種資料より作成

州政府

DC設置企業

地方自治体

公営企業体

コロラド州 ボルダー市

IBM社

IBM従業員に対する訓

練プログラムの策定に協力するとともに奨励金(63万ドル)を提供

市が課す広範な税・料金に適用可能な受給資格(10万ドル)(支払い

免除と同等)

(ア) (イ)

18

④環境対策を考慮した支援制度

環境対策に配慮する事業所に対して、その活動を支援する制度をデータセンターにおいても

活用することが出来る。

図表・ 7 環境対策を考慮した主な支援制度

国名 主な支援策 内容

フランス

advanced

renewable tariffs

( tarife

equitable ) in

2006

税額控除

再生可能なエネルギー源および特定のヒートポンプを

利用したエネルギー生産設備に対する税控除割合を

40%から 50%に引き上げ。

潜熱回収型給湯器(コンデンシングボイラー)、断熱材

に対する税控除割合を 25%から 40%に引き上げ。

ドイツ

固定価格買取制度

補助金

climate

protection

initiative

再生可能エネルギー市場活性化プログラムに関する助

成金を年間 5億ユーロにまで引き上げ。

オランダ 固定価格買取制度

補助金

指定されたエネルギー節約設備に対する投資コストが

課税対象利益から控除される優遇措置(省エネ設備投資

特別控除制度)を用いて、エネルギー節約設備及び代替

エネルギー源に対する投資額の 44%を税引き前利益か

ら控除。

英国

気候変動課税

気候変動協定

資本控除拡大制度

固定価格買取制度

気候変動協定を政府と締結し、目標を達成できたエネル

ギー多消費事業者は気候変動課税を 80%減税。

省エネ基準を満たした設備投資を行う企業に対する優

遇制度(資本控除拡大制度)を用いて、エネルギー効率

のよい機械装置購入から1年間の 100%税控除。

NGO である Carbon Trust が省エネ設備へのゼロ金利ロ

ーンを提供。

出所)The Green Grid Energy Policy Research for Data Centres

http://www.thegreengrid.org/en/Global/Content/white-papers/The-Green-Grid-Energy-Policy-Research-for-Dat

a-Centres

⑤アジア各国の主な取組み

一部のアジア諸国ではデータセンター事業の育成を目的とした各種支援制度を整備している。

具体的には設置したデータセンターを政府自身が利用したり、安価な電気料金を利用できるよ

う規制緩和したりするなどの例が見られる。

19

図表・ 8 アジア各国の主な取組み

国名 主な支援策とその内容

シ ン ガ

ポール

2008 年、政府は国内を拠点としたグリッドサービスプロバイダを公募、その事業

立ち上げを支援。事業開始後は、約 4 割の ICT 資源を政府・公的機関がアウトソ

ーシングで利用することで事業を育成する。

「知的国家 2015(iN2015)」は 2006 年から始まる 10 ヵ年の国家 ICT 戦略。グリッ

ドコンピューティングの国際競争力を武器に、シンガポールを ICT 資源アウトソ

ーシング事業の世界的拠点に高める。「インフラ整備・強化」「プロフェッショナ

ル人材育成による競争力向上」「国際協力」の 3本柱から構成される。グリッドサ

ービスプロバイダの公募はインフラ整備・強化の一環。

中国

サービス貿易の自由化措置により、香港の銀行は今まで中国本土に設置する必要

があった中国本土子会社のデータセンターを香港に設置可能になった。

中国商務部と香港特別行政区政府が経済緊密化協定(CEPA)の第 5 次補充文書に

調印したことによる。ただし、クレジットカードの情報は引き続き中国本土にデ

ータセンター設置の義務がある。

韓国

IDC 施設安全信頼性基準項目(情報通信省勧告事項、2000.11)を満たしている IDC

事業者に対しては、家庭向けではなく事業者向け電気料金が適用される。

割引率の詳細は公開されていないが、概ね 10%~20%程度電気料金が割り引かれる

とされる。

出所)各種資料より作成

(3)国境をまたいでデータを保存する際の法的リスク

クラウド・コンピューティングサービス、特に海外にサーバーが存在するサービスを利用す

る場合は、サーバー所在地の法律に従う必要があり、日本から利用する場合、あるいは海外で

事業を行う際には注意が必要である。ここでは、まず留意すべき海外の法律として、米国の米

国愛国者法と EU のデータ保護指令について説明する。そして、次にグーグルの利用規約を参

考に、プライバシーの観点で注意すべき事項について解説する。

1)米国愛国者法

①概要

2001 年 9 月 11 日に発生した同時多発テロ事件を受け、2001 年 10 月に成立した反テロ法、

通称「米国愛国者法(USA Patriot Act)」では、捜査機関の権限の拡大や国際マネーロンダリ

ングの防止、国境警備、出入国管理、テロ被害者への救済などについて規定を行っている。

我が国のクラウド・コンピューティング利用者が特に注意すべきは、捜査権限の強化を

定めた第二章である。たとえば、第 201 条や第 202 条では、テロリズムやコンピュータ詐

欺及びコンピュータ濫用罪に関連する有線通信や電子的通信を傍受する権限が明記されて

いる。また、第 209 条では、捜査官は裁判所命令ではなく捜査令状により、電子メールや

ボイスメールを入手できると規定され、第 213 条では、捜査官は令状の通知なく家宅等を

捜索できるとする規定されている。

また、第二章以外では、第五章の第 505 条も関連する。第 505 条では、FBI が金融機関や

通信サービス・プロバイダに対して顧客の個人情報の提出を求める場合に、その情報が「国

20

際テロや秘密諜報活動の防止を目的とした正式な捜査に関連」することを明示することで

足りるとしている。これは、捜査機関は、金融機関やプロバイダの同意を得さえすれば、

裁判所の関与を求めることなく捜査ができるということである。

つまり、米国にサーバーが存在するクラウド・サービスを利用する場合、テロリズムやコン

ピュータ詐欺に関係すると捜査官が判断すれば、電子メールを押収されたり、データセン

ターを捜索されたりする恐れがあるということである。

これらの懸念が現実となった事件も報告されている。2009 年 4 月 2 日、米国テキサス州レッ

ドオークのホスティング事業者である Core IP Networks は同社のサーバーを収容しているダ

ラスのビルを突如、捜索され、捜査官は 2 フロア分のコンピュータ設備を押収したということ

である3

このような状況から、米国においても、米国愛国者法がクラウド・コンピューティングの

普及の妨げになるのではないか?という意見が出てきている4

②米国愛国者法に対するカナダ政府の対応

愛国者法が施行されて以来、カナダでは、「政府は適切に国民の個人情報を保護してくれてい

るのだろうか」という不安の声が高まっている。特に近年では、民間企業だけではなく、連邦

政府機関においても、業務の一部をアウトソースするケースが増えており、こうした業務の中

には企業の機密情報やカナダ国民の個人情報を管理する業務も含まれている。

アウトソーシング業務の委託先が米国企業の場合、もしくはカナダの企業であっても米国に

関連企業が存在する場合には、個人情報を含むデータが国境を越え、米国に置かれる可能性が

出てくる。この場合、愛国者法の適用対象となることから、本人の承諾なく個人情報が米国当

局の目に晒されるリスクが懸念されている。

米愛国者法がカナダ国民のプライバシーに与える潜在的な影響について、国レベルで活発に

議論されるようになったのは、2004 年にブリティッシュ・コロンビア州で起こされた訴訟がき

っかけである。

この訴訟は、州の医療記録の管理業務を米国企業のカナダ支社へ委託することを差し止める

よう、ブリティッシュ・コロンビア政府とサービス従業員組合が州政府に要求したものである。

米愛国者法の下では、医療記録を危険に晒すことになるというのがその主張であった。

このような経緯から、カナダ政府は、米愛国者法に関わる懸念に対して戦略的に対処すると

しており、国民個人のプライバシーや機密情報に関する権利は尊重されるべき、と宣言してい

る。具体的には、次のようなステップで戦略を推進してきた。

a)啓蒙

160 の政府機関に対し、米愛国者法によって提起されたプライバシー問題について、カナダ

のプライバシー法の下で対処するように周知した。

3 http://cbs11tv.com/local/Core.IP.Networks.2.974706.html 4http://www.itbusinessedge.com/cm/blogs/vizard/patriot-act-may-hamper-cloud-computing-adoption/?cs=3

21

b)リスクの特定と軽減

米愛国者法のリスクを含んでいる契約を特定するため、2004 年 10 月に政府機関が締結して

いるアウトソーシング契約のレビューを実施。リスクの深刻度を調査した。

たとえば、業務を全くアウトソースしていない場合は「no risk」、アウトソーシング契約を結

んでいる企業がカナダ国内でのみ操業している場合は「low risk」、データはカナダ国内に存在

するカナダ企業によって維持管理されているものの、国外の親会社や支社からアクセス可能で

ある場合は「Low to medium risk」、データが、国外で操業している国外企業により、国外で維

持・処理されている場合は「Medium to high risk」といった具合である。

なお、このレビュー結果「Privacy Matters: The Federal Strategy to Address Concerns About

the USA PATRIOT Act and Transborder Data Flows」5は、カナダ連邦政府予算庁(Treasury

Board of Canada Secretariat,)のホームページで公開されている。

c)ガイドラインの整備

アウトソーシング契約を結ぶ際にチェックすべきガイドライン「Taking Privacy into Account

Before Making Contracting Decisions」6を策定した。事業者との契約時の具体的な手続きなど

が順を追って説明されている。

このガイドラインはカナダ連邦政府予算庁が作成したもので、プライバシー法に基づき、個

人情報を取り扱う業務をアウトソースする場合は、国民のプライバシーを適切に保護するため、

ガイドラインで示されているアドバイスに従うよう、強く推奨している。

基本的な方針として、事業者と契約を締結する段階で、契約内容がカナダのプライバシー法、

および予算庁のプライバシー・ポリシーを遵守しているかどうかを確認し、遵守していない場

合は、必要な条項を契約に盛り込むことが推奨されている。確認すべき項目はガイドラインの

中で、チェックリストの形で提示されている。たとえば、「個人情報のデータベースは必ずカナ

ダ国内に置き、カナダ国内からのみアクセスできること」、「個人情報にアクセスする予定の社

員リストを提出すること」「政府の事前の承諾なしに、個人情報をカナダ国外に移動させないこ

と」などである。

従って、一部の例外を除き、こうした条項が契約書に盛り込まれない場合、事実上、政府機

関はアウトソーシング契約を結べない状況になっている。

図表・ 9 プライバシー保護のチェックリスト

YES NO N/A DESCRIPTION

Control and accountability

Determine whether the contractual agreement should specify the following:

1. The types of records or personal information (list them) affected by the contract will remain:

a. under the control of the government and subject to the Privacy Act and the Access to Information Act; or

8395 5 http://www.tbs-sct.gc.ca/pubs_pol/gospubs/TBM_128/pm-prp/pm-prp-eng.asp 6 http://www.tbs-sct.gc.ca/pubs_pol/gospubs/tbm_128/gd-do/gd-do-eng.asp

22

b. the sole property of the contractor;

2. the contractor shall designate a senior individual within its organization to be the point of contract for complying with privacy/security obligations;

3. the contractor shall provide the government with an up-to date list of all employees, subcontractors, or agents engaged in the contract who will have access to the personal information;

4. all employees, contractors of the subcontractors, or agents to whom personal information may be accessible in the performance of the contract shall sign a privacy and confidentiality agreement;

5. the contractor shall be fully and solely responsible for the actions of its employees, subcontractors, and agents who act on its behalf in the performance of their functions under the contract; and

6. the contractor shall advise the government in advance in the event of any change in ownership of all or a part of the contractor’s business.

7. the contractor shall immediately notify the government in the event of any proceedings for bankruptcy or insolvency brought by or against the contractor under applicable bankruptcy or insolvency laws or any notice of creditor’s remedies.

Transborder data flows

Determine whether the contractual agreement should specify the following:

8. the limitations on where the records and the personal information (including back-up tapes and archives) may be processed, stored or maintained by the contractor (refer to the accompanying guidance document for advice and for sample clauses); or

9. that the contractor is prohibited from disclosing and/or transferring any personal information outside the boundaries of Canada, or allowing parties outside Canada to have access to it, without the prior written approval of the government.

Collection of personal information

Determine whether the contractual agreement should specify that:

10. the collection of personal information shall be limited to that which is necessary for the contractor to comply with the contract or the exercise of the contractor’s rights, under the agreement;

11. the contractor must, unless otherwise directed in writing, collect personal information directly from the individual to whom the information relates;

12. the contractor, at the time of collection of personal information, must notify an individual from whom it collects personal information:

of the purpose for collecting it;

23

of any statutory authority for the collection;

whether response is voluntary or required by law;

of any possible consequences of refusing to respond;

of the individual’s right of access to and correction of the information; and

of the number of personal information banks in which the personal information will be retained; and

13. the contractor’s employees must effectively identify themselves to the individuals from whom they are collecting personal information and provide individuals with a means to verify that they are actually working on behalf of the government and authorized to collect the information.

Accuracy of personal information

14. Determine whether the contractual agreement should specify that the contractor must make every reasonable effort to ensure the accuracy and completeness of any personal information to be used by the contractor or the government in a decision-making process that will directly affect the individual to whom the information relates.

Use of personal information

15. Determine whether the contractual agreement should specify that, unless otherwise directed in writing, the contractor shall use the personal information only for the purpose of fulfilling its obligations under the contract.

Disclosure of personal information

Determine whether the contractual agreement specify the following:

16. the contractor shall be prohibited from disclosing or transferring any personal information, except as necessary for the purposes of fulfilling its obligations under the agreement or unless otherwise directed to do so in writing; and

17. if the contractor receives any request for disclosure of personal information for a purpose not authorized under the contract, or if it becomes aware that disclosure may be required by law, the contractor shall immediately notify the government about the request or demand for disclosure and must not disclose the information unless otherwise directed to do so in writing.

Requests for information

Determine whether the contractual agreement specify the following:

18. individuals can use an informal process to access records or their personal information directly from the contractor; and

19. the responsibilities of both the government and the contractor in dealing with requests made under the Access to Information Act and the Privacy Act

24

with respect to those records or personal information are to be considered under the control of the government but maintained by the contractor.

Correction of personal information

20. Determine whether the contractual agreement should specify the responsibilities of both the government and the contractor with respect to requests made by individuals under the Privacy Act to correct or annotate personal information maintained by the contractor.

Retention of records or personal information

Determine whether the contractual agreement specify the following:

21. the retention and disposal requirements for records or personal information, including the maximum retention period and the disposal methods to be used; and

22. the conditions governing the disposition of any transitory records that are created or generated by the contractor.

Protection of personal information

23. Determine whether the contractual agreement shall oblige the contractor to ensure that the personal information is protected against such risks as loss or theft, as well as unauthorized access, disclosure, transfer, copying, use, modification, or disposal.

Complaints and investigations

Determine whether the contractual agreement should specify the following:

24. that the government and the contractor shall immediately notify each other when complaints are received pursuant to the Access to Information Act and the Privacy Act or other relevant legislation and of the outcome of such complaints; or

25. the right of the Information Commissioner and Privacy Commissioner to access any records or personal information for the purposes of investigations under the Access to Information Act or the Privacy Act.

Audit and inspection of records or personal information

Determine whether the contractual agreement should specify the following:

26. that the government may, at any time and upon reasonable notice to the contractor, enter the contractor’s premises to inspect, audit, or require a third party to audit the contractor’s compliance with the privacy, security, and information management requirements under the contract and that the contractor must co-operate with any such audit or inspection; and

27. the requirement of the contractor to maintain specific information to enable the conduct of information audits, i.e. the maintenance of some form of audit trail (electronic or paper form).

Notification of breach

25

Determine whether the contractual agreement should specify the following:

28. the contractor shall be obliged to notify the government immediately when it anticipates or becomes aware of an occurrence of breach of privacy or of the security requirements of the contract; and

29. the contractor shall be required to indemnify the government for any liability in connection with any breach of its obligations under the contract.

Subcontracting

Determine whether the contractual agreement should specify the following:

30. the contractor must not subcontract the performance of any part of the services or functions under the contract without prior written approval; and

31. despite any written approval to subcontract, the contractor remains fully responsible for the performance of services under the contract or subcontract.

Termination or expiry of the contract

Determine whether the contractual agreement should specify the folllowing:

32. all personal information and records must be returned to the contracting authority upon completion of the contract; and

33. the obligations of the contractor to protect personal information shall continue even after the completion of the contract.

出所)「Guidance Document: Taking Privacy into Account Before Making Contracting Decisions」

カナダ国民にとって、プライバシーは長年、基本的な権利とみなされており、カナダ政府も

自らをプライバシー法やプライバシーに関する政策の策定においては、国際的なリーダーであ

ると認めている。このため、米愛国者法に対する国民の関心も高く、カナダ連邦政府予算庁

(Treasury Board of Canada Secretariat,)のホームページには、「Frequently Asked Questions:

USA PATRIOT ACT Comprehensive Assessment Results」というページも開設されている7。

2)イギリス・EU諸国

EU および英国ではデータ保護指令(Data Protection Directive)8により、EU 内の住民の個

人情報に関して十分なデータ保護レベルを確保していない第三国へのデータの移動を禁じてい

る9。(ただし、「十分なデータ保護レベルを確保していない」とされる国であっても、個人の承

諾が得られればOK)

ここで、EU のデータ保護指令が要求する十分な保護水準を確保していると認められている

国・地域は、現在のところ、スイス、カナダ、アルゼンチン、ガンジー島、マン島、ジャージ

ー島の6つである(今後イスラエルも加えられる見込み)。

7 http://www.tbs-sct.gc.ca/pubs_pol/gospubs/tbm_128/usapa/faq-eng.asp 8 “Directive 95/46/EC of the European Parliament and of the Council of 24 October 1995 on the protection of individuals with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data” (The Data Protection Directive, http://ec.europa.eu/justice_home/fsj/privacy/law/index_en.htm など) 9 http://ec.europa.eu/justice_home/fsj/privacy/thridcountries/index_en.htm

26

このうち、カナダは、連邦政府部門対象の法律、民間部門対象の法律、州政府対象の州法等、

複数の法律を組み合わせることにより、ほぼすべての機関を対象とした法的枠組みを形成し、

十分性を認められている。

米国の場合は、包括法がないため、特定の認証基準を設け、その認証を受けた企業ごとに十

分性を付与するセーフハーバー協定を 2000 年に EU と締結している。また、米国―EU 間の航

空旅客情報についても認められている。なお、グーグル、アマゾン、セールスフォース・ドッ

トコム、マイクロソフトなど多くのサービス・プロバイダはセーフハーバー協定を遵守してい

る(セーフハーバーを遵守している組織リストについては、米国商務省のウェブサイトの「Safe

Harbor List10」を参照)ことから、EU 内の住民の個人情報を米国で保管しても問題はないこと

になる。

データ保護指令違反を含む違法行為があった場合、責任の所在はデータのコントローラ(管

理責任者)であるかプロセッサ(処理責任者)であるかで違ってくる。基本的には、責任の所

在はプロセッサではなくコントローラにあるとされる。これをクラウドに当てはめると、プロ

バイダは、データの生成には関与しないプロセッサである。データの所有者であり、データを

クラウド上に置くユーザがコントローラとみなされる。したがって、クラウド上のデータに関

して法律違反があった場合、基本的にはプロバイダではなくユーザがその責任を問われること

になる

しかしながら、2006 年の SWIFT の例のように、プロバイダが責任を負うケースも存在する。

欧州委員会 29 条作業部会(Article 29 Working Party 29, WP29)の SWIFT に関する意見書11に

詳しいが、ベルギーに本拠地を置き、国際金融メッセージングサービス SWIFTNet FIN service

を運用する SWIFT が、911 以降、テロ対策を目的とした国防省 (US Department of Treasury、

UST) の要請に従い、アメリカにミラーリングしていた国際送金情報を公開していたことに対

し、テロリストに対抗する目的であってもデータ保護は遵守されるべきであると WP29 が結論

づけたものである。

この結果、SWIFT は、EU 個人データ保護指令 (EU Data Protection Directive 95/46/EC)

と、SWIFT の本拠地であるベルギーのデータ保護法に違反したと結論付けられた。ベルギー当

局も WP29 の結論と同様、SWIFT の米国当局への情報提供についてデータ保護法に違反してい

ると結論付けた。ただし、データ保護指令第 15a 条には罰則は効果的で相当かつ抑止的でなけ

ればならないことが記されているものの、SWIFT 事件に対してベルギーは具体的な処罰は行っ

ていない。

SWIFT 事件の主な論点は以下のとおりである。

送金情報は、送金者と受取人の個人情報(名前等)、口座番号などの付加情報、送金時のメッ

セージ(自然言語などの非構造データ)を含む。送金以外の用途を明言しないまま、SWIFT は

データのミラーリング先のアメリカにおいて、テロ対策の用途で UST に情報を公開した。

データ保護の所在の責任は、第 2 条に規定されるコントローラ(controller)かプロセッサ

(processor)であるかで異なる。前者はデータの個人情報の利用目的と通信手段を定める者で

あり、後者は前者の代理で情報処理を行う者である。データ保護指令第 4 条によりデータ保護

10 https://www.export.gov/safehrbr/list.aspx 11 ARTICLE 29 Data Protection Working Party, "Opinion 10/2006 on the processing of personal data by the Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication (SWIFT)", 01935/06/EN WP128, 2006.

27

責任はコントローラが負う。SWIFT はプロセッサであることを主張したが、WP29 は、SWIFT

はコントローラであり各銀行と共同責任がある、と結論付けた。これには、国際送金が UST へ

のデータ開示のリスクがあることを、SWIFT を利用する金融機関が知らずに使っていたことが

影響している。SWIFT もまた、このことを金融機関へ明示的に説明していなかった。

第 18、20 条では、海外にデータを送信する前に送信元の各国のデータ保護法の専門家の判断

が必要だと述べている。SWIFT はこれにも違反したと判断された。

アメリカでバックアップサイトがあるのであればアメリカの召喚状や SOX などの法遵守の

必要がある。しかし個人情報保護は個人の権利である。基本的人権(European Convention of

Human Right)の第 8 条に関わる場合のみ、個人情報の開示の可否が判断される。

データ保護指令第 26 条には、保護指令適用の例外が規定されている。公益のために重要な情

報や、海外での手術の際の患者のカルテなどがこれに当たる。SWIFT は G10 加盟国の中央銀行

の送金情報というであるため、と主張したが、WP29 は例外に当たらないと結論付けた。また、

バックアップの目的であればアメリカである必要がない(例えばカナダなどでも良い)とも述

べた。

加盟国は欧州指令に基づき、国内法規定の違反行為に適用しうる罰則規定を整備し、実施を

確保するために必要なあらゆる措置を講ずる必要があることがデータ保護指令第 15 条に書か

れている。SWIFT の場合はベルギーのデータ保護法に当たる。

欧州でのクラウド上の違法行為についても、SWIFT のケースに準ずることが予想される。す

なわち、意見書にあるように、ユーザ(SWIFT の場合は各銀)が故意でなく法律違反を犯して

しまう場合やデータ開示をしてしまった場合は、プロバイダに責任があるとされる可能性が高

い。

国境をまたいでデータを保存する際の法律は各国未整備であり、その国のポリシーに依存し

ていると言えるが、EU は も厳密に取り締まることが予想される地域のひとつである。

3)プライバシーの観点

グーグルでは同社の企業理念の中で、プライバシー原則として以下のような内容を公開して

いる12。

プライバシー原則 Google では、既存のテクノロジーの限界を超えるようなアイデアやサービスを追求しています。

責任ある企業として、Google は技術革新とユーザのプライバシーやセキュリティが、適切なバラ

ンスを保つよう努めています。下記の Google のプライバシー原則は、Google が意思決定を行う

際の基準となっています。この原則に基づき、ユーザのプライバシーやセキュリティ等を保護し、

サービスの提供を通じて、世界中の情報を体系化し、世界中の人々がアクセスできるようにする

という Google の使命を果たすべく、活動しています。

1. 提供された情報は有益なサービスをユーザに提供するためにのみ使用する。 「 良のユーザ エクスペリエンスを提供する」ことが、Google の理念の第一義となって

います。ユーザが Google に情報を提供することにより、Google はユーザにとって有益

なサービスを構築することができます。開発過程において、ユーザ中心に考えることでサ

ービスの利便性向上や、プライバシー保護機能の強化、革新的な技術開発により、オンラ

12 http://www.google.com/intl/ja/corporate/privacy_principles.html

28

イン ユーザの支持を得ることができたと Google は考えています。

2. 厳しいプライバシー基準とポリシーが反映されたサービスを開発する。 ユーザ エクスペリエンスを低下させることなく個人情報を簡単に管理できるようにする

ツールの開発など、 先端の技術を牽引していくことが Google の目標です。Google はプライバシーに関する法律に従い、監督機関や業界のパートナーと共同で、強力なプライ

バシー基準を構築、実装しています。

3. 個人情報の収集に透明性を持たせる。 Google は、サービスのカスタマイズに使用する情報をユーザに開示するよう努めていま

す。必要に応じて、Google が保持するユーザの個人情報について、またサービスを提供

するために、その情報をどのように使用するかについて、情報を開示することを Google は目指しています。

4. プライバシー保護のレベルをユーザが選択できるようにする。 プライバシーに対する懸念とニーズは、ユーザごとに異なります。すべてのユーザにあら

ゆるサービスを提供するために、Google は、個人情報の利用に関する詳細な選択肢を用

意しています。Google では、個人情報を「人質」にしてはならないと考えており、ユー

ザが他のサービスに個人情報をエクスポートできるサービスの構築に努めています。

Google がユーザの個人情報を販売することはありません。

5. 保持している情報については責任を持って管理する。 Google は、ユーザが Google に委ねたデータを保護する責任があると認識しています。

Google はセキュリティの問題に真剣に取り組んでおり、インターネットをより安全で保

護されたものにするために、大規模なユーザ コミュニティや外部のセキュリティ専門家

と協力しています。

また、プライバシーポリシーの中で収集する情報とその利用方法について、以下のように説

明している13。

Google が収集する情報およびその利用法

Google では、Google 検索サービスなど、アカウントを登録したり個人情報を提供しなくても利

用できるサービスを多数ご用意していますが、あらゆる種類のサービスを提供するため、次のよ

うな情報を収集させていただく場合があります。

ご提供いただく情報 – Google アカウントまたは登録が必要な他の Google のサービ

スもしくはプロモーションのご登録手続きに際して、個人情報(お名前、メール アドレ

ス、アカウント パスワードなど)の提供をお願いしています。広告プログラムなど一部

のサービスでは、クレジットカードその他のお支払いに関するアカウント情報の提供もお

願いしていますが、これらの情報は安全なサーバー上で暗号化して管理されます。Google では、アカウントに含まれる情報を Google の他のサービスまたは第三者から取得した情

報と統合し、ユーザの利便性の向上および Google のサービスの品質向上のために使用す

る場合があります。一部のサービスについては、情報を統合しないように選択することも

できます。

Cookie – はじめて Google にアクセスすると、Google からユーザのコンピュータや携

帯端末などに Cookie が送信されます。Cookie は文字列情報からなる小さなファイル

で、お使いのブラウザを個別に識別します。Google では、Google のサービスの品質向

13 http://www.google.com/intl/ja/privacypolicy.html

29

上のため、ユーザの設定内容の保存、検索結果や広告選択の改善、ユーザの傾向(どのよ

うに検索が行われているかなど)の追跡に Cookie を使用します。また Google は、広

告サービスでも Cookie を使用して、広告主様とサイト運営者様がウェブ上で広告を掲

載、管理できるようにしています。広告用の Cookie を使用する Google サイトをはじ

めとするウェブサイトにアクセスし、Google の広告サービスが提供する広告を表示また

はクリックすると、ブラウザに Cookie が設定される場合があります。

ログ情報 – Google のサービスを利用すると、ユーザがウェブサイトにアクセスするた

びにブラウザから送信される情報が Google のサーバーによって自動的に記録されます。

これらのサーバー ログには、お客様のアクセス リクエスト、IP アドレス、ブラウザの

種類、ブラウザの言語、リクエストの日時、ブラウザを識別する Cookie などの情報が含

まれる場合があります。

お客様からのご連絡 – メールやその他の方法で Google にご連絡をいただいた場合、

お問い合わせの処理、ご要望への対応、Google のサービス向上のために、メッセージの

内容を保存させていただく場合があります。

他サイトでの関連サービスの提供 – Google では、一部の Google のサービスを他のウ

ェブサイト上で提供しています。サービスを提供する都合上、お客様がそれらのサイトに

提供した個人情報が Google に送信されてくることがあります。Google では、本プライ

バシー ポリシーに基づいてそのような情報を処理しています。ただし、Google のサービ

スを提供する関連サイトごとに個人情報の取り扱いが異なる場合があるため、各サイトの

プライバシー ポリシーをご一読されることをお勧めします。

ガジェット – Google では、Google のサービスを通じて第三者のアプリケーションを

提供することがあります。ガジェットや他のアプリケーションを有効にしたときに Google によって収集された情報は、本プライバシー ポリシーに基づいて処理されます。

アプリケーションまたはガジェットの提供者によって収集された情報は、提供者のプライ

バシー ポリシーに基づいて処理されます。

位置情報 – Google では、モバイル Google マップのように位置の特定が可能なサービ

スを提供しています。お客様がこれらのサービスを利用した場合、お客様の現在地情報(携

帯端末から送信される GPS 信号など)や、位置の推定に使用できる情報(セル ID など)

を Google が受け取る可能性があります。

リンク – Google では、ユーザがリンクを辿ったかどうか追跡できるフォーマットでリ

ンクを表示しています。これらの情報は、Google の検索技術、カスタマイズ コンテンツ

および広告の品質を向上させるために使用されます。詳しくはリンクやリダイレクト URL に関する説明をご一読ください。

他のサイト – 本プライバシー ポリシーは、Google のサービスのみに適用されるもの

です。Google は、検索結果として表示されるサイト、Google のアプリケーションやサ

ービスが含まれているサイト、または Google の各サービスからリンクされているサイト

については管理権限がありません。このような他のサイトも、それぞれ Cookie などのフ

ァイルをお客様のコンピュータに送信し、データや個人情報を取得する可能性がありま

す。

Google では、プライバシー ポリシーあるいは各サービスのプライバシーに関する補足情報に記

載されている目的でのみ個人情報を処理します。これらの目的には、前述したものの他、下記が

含まれます。

カスタマイズ コンテンツおよび広告の表示などの Google のサービスの提供。

30

Google のサービスの保全、保護および向上のための監査、リサーチおよび分析。

Google ネットワークの技術的機能の確保。

Google またはユーザの権利や財産の保護。

新サービスの開発。

Google の個人情報の処理方法について詳しくは、各サービスのプライバシーに関する補足情報

をご覧ください。

Google では、個人情報の処理を米国その他各国の Google サーバーで行っていますが、お客様

の居住国以外のサーバーで個人情報を処理する場合もあります。また、Google のサービスの提

供のために個人情報を処理する場合もありますが、広告パートナーなど第三者のために当該第三

者の指示に従って個人情報を処理することもあります。

(4)その他、クラウド・コンピューティングの利用を妨げる可能性のある法規制

ここでは、IaaS(Infrastructure as a Service)などのクラウド・コンピューティングサービス

を利用して、各種のビジネスを行う場合に留意すべき法規制について述べる。

1)電気通信事業法

IaaS 上で電子メールサービスやソフトウェアのオンライン提供を行う場合、「電気通信事業

者」に該当するか否かが問題となる。

①電気通信事業者の定義

電気通信事業法第二条では、電気通信役務を次のように定義している。

「電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供す

ることをいう」

この定義の解釈について、クラウド・コンピューティングに関連すると考えられる以下のサ

ービスについては、総務省電気通信事業部データ通信課が発行している『電気通信事業参入マ

ニュアル[追補版]― 届出等の要否に関する考え方及び事例 ―』の中で、「登録又は届出を要

する電気通信事業」として例示されている。

a)電子メール運営のためのホスティング

企業等が電子メールを利用できるようサーバー等を設置して、当該企業等にサーバーの容量

貸し及び電子メールの機能を提供するものをいう。

企業等の電子メール運営は他人の通信を媒介することになることから電気通信事業に該当し、

そのためにサーバーの容量貸しを行うホスティング自体についても電気通信設備を用いて他人

の通信を媒介すると判断される。

b)国外サーバーを用いた電子メール

国内に事業を営む拠点を置く者が、国外に設置した電気通信設備(サーバー等)を用いて、

インターネットを通じて国内の利用者向けに提供する電子メールをいう。

電気通信設備の設置場所についての限定はなく、国外に電気通信設備を設置していたとして

31

も、国内に事業を営む拠点を置く者が国外の電気通信設備を支配・管理していることから、電

気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務を提供すると判断される。

一方、一見、上記サービスに近いものと思われる以下のサービスについては、「登録及び届

出が不要な電気通信事業に該当する」とされており、取り扱いには違いがあるため、注意が必

要である。

c)ソフトウェアのオンライン提供

労務管理や販売管理等を行うアプリケーションソフトウェアをインストールしたサーバー等

を設置して、インターネット等を経由して当該ソフトを企業等に利用させるものをいう(狭義

のASPサービス)。『各種情報のオンライン提供』と同様の理由(自己と他人(利用者)と

の間の通信であり、他人の通信を媒介していないことから、電気通信回線設備を設置していな

い場合には、登録及び届出が不要な電気通信事業に該当)により、登録及び届出が不要な電気

通信事業に該当する。

d)オンラインストレージ

サーバー等を設置して、インターネット等を経由してユーザ企業等の顧客データ等を受信し

てバックアップ保存するものをいう。

『各種情報のオンライン提供』と同様の理由(自己と他人(利用者)との間の通信であり、

他人の通信を媒介していないことから、電気通信回線設備を設置していない場合には、登録及

び届出が不要な電気通信事業に該当)により、登録及び届出が不要な電気通信事業に該当する。

e)ポータルサイト、SNS(Social Networking Site)

ポータルサイト、SNS など様々なサービスを包含した総合サービスについては、それぞれの

サービス毎に電気通信事業として登録又は届出を要するかどうかを判断することとなる」と注

記されている。

2)著作権法

①動画投稿・配信サービス提供時

我が国の著作権法では、権利者(著作権者、著作隣接権者)の許諾なく、コンテンツを公衆

向けに配信することは権利侵害(刑事罰の対象)に該当する(著作権法第 2 条及び第 23 条)。

このため、権利者の許諾を得たか否かを逐一確認することが困難な、YouTube、ニコニコ動

画などの動画投稿・配信サービスは、海外サーバーを利用しているケースが多い。

一方、米国では、米国著作権法により、配信事業者が権利者の許諾なく投稿された情報を排

除すべく権利侵害を未然に防止する一定の努力をしている場合には、配信事業者がその事実を

知らずに権利者の許諾のない情報を配信したとしても配信事業者の刑事責任が免責されている。

このため、今後もクラウド・コンピューティングを利用して、動画配信などユーザから投稿

されるコンテンツを元としたサービスを提供しようとする事業者は、法的リスクを回避するた

め、国内のサービスではなく、米国等海外のサービスを利用せざるをえないケースが増える可

能性が高い。

32

②検索エンジンサービス提供時

検索エンジンサービスの提供に至る作業工程は、検索エンジンサービス提供者によって細か

な差異はあるものの、概ね次の 3 つに類型化できる

a)ソフトウェアによるウェブサイト情報の収集・格納(クローリング)

b)検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積

c)検索結果の表示(送信)

(改正前の著作権法の解釈)

a)ソフトウェアによるウェブサイト情報の収集・格納(クローリング)は、検索ロボット

(クローラー)と呼ばれるソフトウェアによって、ウェブサイト情報を収集し、そのデータを

ストレージサーバーへ格納(蓄積)する工程である。

ストレージサーバーへのウェブサイト情報のデータの格納については、従来の著作権法の解

釈では、当該データが文章や画像等の著作物である場合には、そのまま蓄積するものであるか

ら、著作物の複製に該当するものと考えられるとされていた。また、その性質から、機器利用

時・通信過程における瞬間的・過渡的な一時固定にも当たるとはいえないとされていた。

b)検索用インデックス及び検索結果表示用データの作成・蓄積は、a)でストレージサー

バーに格納されたデータを用いて、予め検索用インデック及び検索結果表示用データを作成・

蓄積する工程である。

検索用インデックスについては、単なる文字列、変換された数値データであり、オリジナル

のデータが著作物であるとしても、その著作物性のない部分だけを用いているに過ぎないと考

えられる。したがって、検索用インデックスの作成・蓄積は、著作物の利用には該当せず、著

作権法上の問題は生じない。これに対して、検索結果表示用データの作成・蓄積については、

オリジナルのデータが著作物である場合に、当該データが有する著作物性のある部分を含む場

合があることから、著作権法の複製に該当する可能性があるとされていた。

c)検索結果の表示(送信)は、利用者からの検索要求に対し、b)で作成・蓄積された検

索用インデックスを用いてウェブサイト情報の検索を行い、同じくb)で作成・蓄積された検

索結果表示用データを、ウェブサイトの所在情報(URL 等)と共に検索結果として利用者に送

信する工程である。

検索結果表示用データは、ウェブサイトを紹介する手段として複数に組み合わせられた上で、

ウェブサイトの所在情報とともに検索結果として、送信可能化の状態に置かれ、利用者からの

検索要求に従って、自動公衆送信される。検索結果表示データがオリジナルのデータの著作物

性のある部分を含むものであって、その作成・蓄積が著作物の利用に該当する場合には、検索

結果の表示に際して、著作物の送信可能化及び自動公衆送信が行われることとなる。

また、検索結果表示用データとして作成されるスニペットやサムネイルを検索結果として表

示する行為については、学説において、引用としての利用に該当しうるとの見解があった。し

かしながら、検索結果の表示方法の態様や、今後の検索技術又はサービスの発展如何によって

は、引用の範囲を超える場合もありうるほか、キャッシュ・リンクについては、「引用の目的上

正当な範囲内で行われるもの」であると評価することは困難との指摘もあった。

33

(改正後の著作権法の解釈)

a)ウェブサイト情報の収集・格納及びb)検索用インデックス及び検索結果表示用データ

の作成・蓄積については、検索エンジンサービスを提供する上で不可欠な技術的工程で行われ

るものであり、かつ、この時点では、行為自体はシステム内でのみ行われ、公衆の目に触れる

ことはないことから、権利者への影響は限定的なものに止まる。したがって、これらの行為に

ついて、権利制限の対象とする妥当性は認められるものと考えられるようになった。

これに対し、c) 検索結果の表示(送信)については、その際の著作物の利用行為は、公衆

の目に触れるものである。したがって、検索エンジンサービス提供者が著作物の提示や提供自

体を目的としていなくとも、その表示方法の態様によっては、利用者に対して著作物の提示や

提供と同等のものとして作用する可能性を含んでいる。しかしながら、その表示方法について

は、サービス向上の追及や検索技術及びサービスの発展とともに随時変化していくものと考え

られることから、著作物の利用形態についても、予めその外縁を厳密に画定することは困難で

ある。したがって、法制度によって検索エンジンのサービス形態が限定されることのないよう、

検索エンジンの目的上必要と認められる範囲内で権利制限の対象を適正に設定することが適切

であると言及されている。

③送信の効率化等のための複製に係る権利制限(著作権法改正によって解決)

インターネット上の通信を行う上で、頻繁なアクセスに効率よく対処するためのキャッシュ

サーバーや情報を安定的に提供できるようにするためのミラーサーバー、バックアップサーバ

ーなどの仕組みが通信事業者等にとって必須となっている。

しかしながら、従来の著作権法では、このような仕組みにおいて行われている複製が著作権

の侵害に当たる可能性が指摘されていた。

改正された著作権法(第 47 条の 5 関係)では、インターネットサービスプロバイダ等のサー

バー管理を業とする者により、①アクセス集中による送信の遅滞等の防止(ミラーリング)②

サーバーへの障害発生時における復旧(バックアップ)③著作物の送信の中継の効率化(キャ

ッシング)等の目的で行われる複製行為について、権利制限が認められるようになった。

34

2.クラウド・コンピューティングの技術面の課題 本章では、クラウド・コンピューティングサービスの提供/利用に際して、意識すべきセキュリティや信

頼性、省エネルギー等の指標、および技術標準化動向について整理する。

また、米国・EU・英国・シンガポール・韓国について、政府が推進するクラウド・コンピューティングに

関する取り組みや研究開発プロジェクトの状況について紹介する。

(1)クラウド・コンピューティングに関連した情報セキュリティの指標と達成状況

ここでは、まずクラウド・サービスの提供事業者が今後対応を迫られる可能性があるセキュリ

ティ関連の標準として、PCI-DSS を紹介する。次に、主要プロバイダのセキュリティ・監査基準

に対する達成状況について紹介する。

1)PCI-DSS

PCI-DSS(Payment Card Industry-Data Security Standard)は、 カード会員のデータセキュ

リティを強化し、均一なデータセキュリティ評価基準の採用をグローバルに推進するために策

定された、クレジットカード産業の業界基準である。PCI DSS には、SOX 法のように絶対の順

守を求めるだけの法的拘束力はないものの、カード発行を行っている金融機関やカード決済を

利用している加盟店、それらのコンピュータ処理を請け負う決済代行事業者にとっては、カー

ド会員情報の漏えい事件・事故が発生した際の数十億、数百億円の損害賠償責任がどこまで問

われるかを決定する重要な基準となっている。

米国のいくつかの州では、カード情報の漏えいにともなう損害が発生した場合、PCI DSS へ

の準拠が確認されれば金融機関からの損害賠償請求に対して免責されるとされており、企業の

リスク管理としては、順守すべき基準であるといえる。14

一見すると、PCI-DSS はクレジットカード産業だけが関係するセキュリティ基準のように思

えるが、技術的なセキュリティ要件、たとえば、「システムをネットワーク上に導入する前に、

ベンダ提供のデフォルト値を必ず変更する」「個人識別番号(PIN)または暗号化された PIN ブ

ロックを保存しない」「パスワードに7文字以上が含まれることを要求する」「保存するカード

会員データは 小限に抑える。データの保存と廃棄に関するポリシーを作成する。データ保存

ポリシーに従って、保存するデータ量と保存期間を業務上、法律上、規則上必要な範囲に限定

する」など、具体的な施策が示されていることから、米国ではクレジットカードとは関係ない

企業や組織も PCI DSS をセキュリティ基準として採用し始めている。

情報セキュリティ対策基準といえば、一般的には、PCI-DSS よりも、ISMS(Information

Security Management System)やプライバシーマーク制度の方が知られている。これらの基準

と PCI-DSS との違いは、ISMS やプライバシーマーク制度がセキュリティをマネジメントする

ことに主眼が置かれ、技術的なセキュリティの達成目標の設定は個々の組織に委ねられていた

のに対して、PCI-DSS では、情報セキュリティの技術的な達成目標が明確にされている点であ

る。

近では、クラウド・コンピューティングサービスの PCI-DSS への対応が議論になるケース

もあり15、米国連邦政府の公式サイト(http://www.usa.gov/)をクラウド上で運用している

ことで知られる Terremark Worldwide のように、既に PCI-DSS の認証を取得しているクラウ

14 以上、参考 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20080407/298165/?ST=system

35

ド事業者も出てきている。

また、クラウド環境におけるセキュリティ確保を目的とした製品を提供するベンダーの中に

は、PCI-DSS への対応を積極的にアピールするケースも出てきている16。

2)クラウド・コンピューティング事業者のセキュリティ標準・要件に対する達成状況

クラウド・コンピューティングに対する認知度は日に日に高まっているものの、企業ユーザ

からは、クラウドのセキュリティを不安視する声も多く上がっている。実際、各種のアンケー

ト調査結果を見ると、「クラウド・コンピューティングを利用しない理由・利用を躊躇する理由」

として、「セキュリティが不安」「社外にデータを置くことに心理的な抵抗がある」といった内

容が上位に挙げられている。

図表・ 10 「クラウド・コンピューティングの利用を躊躇する理由」

45.439.4

28.225.3

23.022.1

16.314.7

11.19.2

5.85.7

44

3.1

0 10 20 30 40 50

セキュリティが不安

社外にデータを置くことに心理的な抵抗

信頼性・可用性が不安

トータルコストが不明確

パフォーマンス(レスポンスタイムなど)が不安

既存システムとの連携、移行が不安

カスタマイズの自由度が低い

全般的にサービスが未成熟

どのシステムで利用するべきか判断できない

プロバイダの信頼性、事業継続性が不安

特定のプロバイダにロックインされてしまう

SLAが不明確

オンプレミス型(自社で所有、運用)で十分

プロバイダのサポートが不安

その他

(%)

出所)野村総合研究所 「企業情報システムとITキーワードに関する調査」2009 年 11 月

クラウド・コンピューティングでは、その実装や運用はクラウド事業者に依存しており、利

用者側からみればブラックボックス化されている。このブラックボックスの中身、特にセキュ

リティ面の不安を払拭することが、クラウド・コンピューティングの利用促進に繋がると考え

られる。

こうした状況を受けて、一部のクラウド・コンピューティング事業者は自社のセキュリティ

対策やコンプライアンスに関する情報開示を始めている。ここでは、主要なクラウド・コンピ

ューティング事業者が公開している情報から、セキュリティ標準や各種コンプライアンスに対

する対応状況についてまとめる。

1)マイクロソフト

マイクロソフトでは、『Securing Microsoft’s Cloud Infrastructure 』17というホワイトペーパ

ーを発行しており、その中で、同社のクラウド・コンピューティング基盤に関するセキュリテ

15 http://developer.amazonwebservices.com/connect/thread.jspa?threadID=34960 16 http://static2.altornetworks.com/docs/Altor_and_PCI.pdf#5 17 http://www.globalfoundationservices.com/security/documents/SecuringtheMSCloudMay09.pdf

36

ィ対策やプライバシー保護の方針について説明されている。

この中で、同社のオンラインサービスが情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格

である「ISO/IEC 27001:2005」の認証を取得していることや SAS(Statement of Auditing

Standard) 70 TypeⅠand TypeⅡの監査証明書を取得していることを公表している。

また、HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act:医療保険の相互運用性

と説明責任に関する法律)や SOX(Sarbanes Oxley Act of 2002)法といったコンプライアンス

への対応も完了している。

2)アマゾン

アマゾンでは、『Amazon Web Services::Overview of Security Processes』 18というホワイ

トペーパーを発行しており、その中で同社が取得しているセキュリティ関連の認証や同社が提

供する各クラウド・コンピューティングサービスに関するセキュリティ対策について解説して

いる。

この中では、SAS(Statement of Auditing Standard) 70 TypeⅡの監査証明書を取得してい

ること、同社のクラウド・プラットフォーム上で HIPAA に準拠したヘルスケアアプリケーシ

ョンの開発が可能であることなどを説明している。アマゾンでは、2009 年 4 月に『Creating

HIPAA-Compliant Medical Data Applications with Amazon Web Services』19というホワイトペ

ーパーを発行している。

3)セールスフォース・ドットコム

セールスフォース・ドットコムは、同社のホームページ上で「セールスフォース・ドットコム

のセキュリティは、通常の企業セキュリティをはるかに凌駕しています。弊社のセキュリティは

一般企業が独自に実装可能なデータセキュリティをはるかに超えていることが第三者の監査によ

り確認されています」と宣言しており、SysTrust の監査、SAS 70 Type II の監査を完了している

ことを表明している20。

また、同社が発行しているホワイトペーパー「The Seven Standards of Cloud Computing Service

Delivery21」の中で、SysTrust 、SAS 70 Type II に加えて、SOX の監査を完了していること、ISO

27001 の認証を取得していることを明らかにしている。

(2)クラウド・コンピューティングに関連した高信頼性の指標と達成状況

ここでは、クラウド・コンピューティングサービスの信頼性を客観的に評価するための指標の

動向について整理する。まず、一般的なサーバーとクラウド・コンピューティングの信頼性評価指標の違

いについて説明し、次に、主要な事業者が信頼性を示す一つの指標として提示している SLA(Service

Level Agreement)の内容について説明する。

1)一般に利用されている信頼性の指標

一般に情報システムに利用されるサーバーなどのハードウェアの信頼度は、信頼性

18 http://awsmedia.s3.amazonaws.com/pdf/AWS_Security_Whitepaper.pdf 19 http://awsmedia.s3.amazonaws.com/AWS_HIPAA_Whitepaper_Final.pdf 20 http://www.salesforce.com/jp/platform/service-delivery/security/ 21 http://www.salesforce.com/assets/pdf/datasheets/SevenStandards.pdf

37

(Reliability)、可用性(Availability)、保守性(Serviceability)で評価される。この3つの指

標による信頼度は、その英語の頭文字から RAS と呼ばれている。RAS を構成する3つの指標は

数値化されており、信頼性(R)は MTBF(Mean Time Between Failures)、可用性(A)は稼

働率、保守性(S)は MTTR(Mean Time To Repair)が使用される。

また、RAS 以外に利用される指標としては下記があり、それぞれの定義は以下の通りである。

故障率:単位時間内でどの程度故障するかを示す値であり MTBF の逆数である。

修復率:単位時間内に修理した件数であり MTTR の逆数である。

MTTF(Mean Time To Failure):非修理品の故障までの平均時間であり、故障した場合修理

せずに交換する部品などに適用する。

MTBF、MTTR、稼働率の計算方法は下記の通りである。

図表・ 11 信頼性指標の算出方法

出所)各種資料より作成

2)クラウド・コンピューティングのアーキテクチャーと信頼性指標

クラウド・コンピューティングの場合、比較的信頼性の低い複数台のサーバを冗長構成で利

用することにより信頼性を高めているが、複数のサーバーでシステムを構成した場合の稼働率

はその利用方法によって異なる。

例えば、3 台のサーバーが Web の 3 階層システムのように直列に接続された場合、システム

が稼働するためには全てのサーバーが動作しなくてはならないため、それぞれの稼働率を A、B、

C とするとシステム全体の稼働率 S は以下のようになる。

38

S= A×B×C

図表・ 12 直列処理の場合の稼働率

Server A Server B Server C

入力 出力

Server A Server B Server C

入力 出力

出所)各種資料より作成

一方、3 台のサーバーが同じ処理を並列にしておりどれか一台でも作動していればシステム

が稼働していると見なせる場合の稼働率 P は以下の値で示すことができる。

P=1-(1-A)×(1-B)×(1-C)

図表・ 13 並列処理(冗長構成)の場合の稼働率

出所)各種資料より作成

そのため、例えば A=B=C=0.9 とした場合、S=0.729 に対して P=0.999 となり並列処理してい

るシステムの稼働率が高くなる。Google における検索システムのように故障したサーバの処理

を常に代替できるように冗長構成で稼働している場合、極めて多数のサーバによる並列稼働状

態と見なすことができ、そのシステム稼働率も非常に高い値(1 に近い値)となる。

3)クラウド・コンピューティング事業者の信頼性用件に対する達成状況

現状、主要なプロバイダから提示される SLA は稼動率だけである。パフォーマンスやデータ

のバックアップ/リストア、障害回復時間、障害通知時間等については何も触れられていない。

たとえば、グーグルの Google Apps Premier Edition の場合は月間稼動率 99.9%を保証してい

る(ただし、10 分以上続いたダウンタイムが対象)が、稼動率以外の項目はない。

Amazon のストレージサービス S3(Simple Storage Service)の場合も月間稼働率 99.9%、仮

39

想サーバーサービスの EC2 の場合は、年間稼働率 99.95%を保証する SLA を提示する。

企業ユーザへの普及で先行する SaaS 型 CRM の場合は、セールスフォース・ドットコムを除

く SaaS プロバイダ各社(オラクル、ネットスイート、ライトナウ・テクノロジーズ)は四半期

ごとのサービス稼働率 99.5%を保証している。

なお、あらかじめ設定した稼働率を下回った場合のペナルティは、利用料金を次回以降の料

金支払いに充てることができるクレジットとして返還するという内容で各社ほぼ共通している。

図表・ 14 主なクラウド・コンピューティングサービスの SLA の概要

SLAを満たさなかった期間が含まれるクレジットカードの支払い請求額の10%に充当することが可能なサービスクレジット

を発行

稼働率99.95%/年

HaaS/

仮想サーバ

Amazon.com/

EC2

稼働率99.5%/四半期

稼働率99.5%/四半期

稼働率99.5%/四半期

稼働率99.9%/月

稼働率99.9%/月

SLA

SLAを満たさなかった月の利用料金の10~25%を次回以降

の料金支払いに充てることが可能なクレジットとして返還

HaaS/

ストレージ

Amazon.com/S3

サービス期間終了後に3~15日間のサービスを無料で追加SaaS/

電子メール

Google/Google Apps Premier Edition

12ヶ月間で2回、SLAを満たさなかった場合、契約期間の

途中でも契約解除できる権利が発生し、残り期間分の利用料金を返還

SaaS/CRMRightNowTechnologies/RightNow

SLAを満たさなかった月の利用料金は、次回以降の料金支

払いに充てることが可能なクレジットとして返還

SaaS/CRM・ERP・Eコマース

NetSuite/NetSuite

15分間の継続的なダウンタイムが発生し、SLAを下回った場

合、1日分の利用料金を返還(四半期で最大10日まで)

SaaS/

CRMOracle/Siebel CRM On Demand

ペナルティサービス種別プロバイダ名

SLAを満たさなかった期間が含まれるクレジットカードの支払い請求額の10%に充当することが可能なサービスクレジット

を発行

稼働率99.95%/年

HaaS/

仮想サーバ

Amazon.com/

EC2

稼働率99.5%/四半期

稼働率99.5%/四半期

稼働率99.5%/四半期

稼働率99.9%/月

稼働率99.9%/月

SLA

SLAを満たさなかった月の利用料金の10~25%を次回以降

の料金支払いに充てることが可能なクレジットとして返還

HaaS/

ストレージ

Amazon.com/S3

サービス期間終了後に3~15日間のサービスを無料で追加SaaS/

電子メール

Google/Google Apps Premier Edition

12ヶ月間で2回、SLAを満たさなかった場合、契約期間の

途中でも契約解除できる権利が発生し、残り期間分の利用料金を返還

SaaS/CRMRightNowTechnologies/RightNow

SLAを満たさなかった月の利用料金は、次回以降の料金支

払いに充てることが可能なクレジットとして返還

SaaS/CRM・ERP・Eコマース

NetSuite/NetSuite

15分間の継続的なダウンタイムが発生し、SLAを下回った場

合、1日分の利用料金を返還(四半期で最大10日まで)

SaaS/

CRMOracle/Siebel CRM On Demand

ペナルティサービス種別プロバイダ名

出所)各種資料より作成

4)米国連邦政府のIaaS調達基準 (SLAに関する要求部分)など、ユーザサイドの信頼性に対する要求

事項

2009 年 7 月末、連邦政府はフェデラル・クラウドの一部として、外部からクラウド・サービ

スを調達すべく RFQ(提案見積依頼)を各クラウド・サービス事業者に提出した。21 ページに

わたる RFQ には、連邦政府が考えるクラウドの定義や特徴が、5 つのカテゴリー、35 項目に上

手く纏められている。SLA に関するポイントは以下の通りである。

①クラウド・データセンターの稼働率(SLA)は、99.95%以上とし、月あたり1時間以上の

予期しないダウンタイムが発生した時には、原因調査と改善方法を提示する

②IaaS 事業者は、米国内に 2 箇所のサービス施設を持つこと

③データやアプリケーションの所有権は、連邦政府が所有する

④データは北米大陸のみに保管し、適切な権限と許可をもつ人だけがアクセスすることがで

きる

⑤連邦政府は、必要に応じていつでも、データやアプリケーションのコピーを要求すること

ができる

⑥その他、ネットワークに関しては IPv6 対応も明記

(3)データセンターおよびクラウド・コンピューティングシステムの省エネ指標とその達成状況

40

1)PUE

現在、一般に利用されているデータセンターの省エネ指標は米国の業界団体である TGG(The

Green Grid)が提唱している PUE のみである。しかし、PUE にはいくつかの問題点が指摘さ

れている。

a)異なるデータセンター間の比較をするには適していない

PUE は元来、データセンターの運用者がその電力効率を改善するにあたり、いかに改善され

たかを可視化することを目的としており、TGG はPUEの測定方法を明確化せず、各データセ

ンター任せにしていた。そのため、計測箇所や計測方式が計測者によって異なってしまう。

b)施設の効率化の指標であり、データセンター内の IT 機器の効率化を考慮していてない

PUE は、データセンターの空調や配電機器などの効率を反映したものであり、IT 機器の効率

化については考慮していない。そのため、稼働率が低いサーバーが多数あるような状況下でも

良い PUE 値となる場合がある。

c)利活用上の問題点

PUE はその明快さから、データセンターのユーザ企業、運営事業者の経営者などにとっては

分かりやすい指標として受け入れられている。しかし、ユーザや経営者、さらには現場の運用

担当者が本当に欲しい値は、コスト削減に結びつく数字である。そのため、実際の現場ではコ

ストに直結する消費電力を指標としている場合が多い。

特に、環境関連の規制が原単位ではなく総量規制になっている場合、PUE のような効率化の

指標よりも総消費電力などの方が利用しやすいという面もある。ただし、CO2排出量に注目し

た場合、総消費電力のみでなく、利用した電力の由来(火力、原子力など)によって排出量に

影響があるため注意が必要である。

グリーン・グリッドでは、PUE の問題点を解決すべく会員企業や研究機関などと改善策の検

討をすすめ、2009 年 2 月に PUE および DCiE(Data Center infrastructure Efficiency)の新しい

仕様を発表した。新しい仕様では、測定の精度と頻度によって L1~L3 の 3 段階にレベル分け

をした。

具体的には、IT 機器の入力の測定ポイント、データセンターの総施設電力の測定ポイント、

測定頻度の 3 つの項目についてそれぞれ基準を設定し、基礎(レベル 1)、中級(レベル 2)、上

級(レベル 3)に区分している。レベル 1 では、IT 機器電力の測定は UPS(無停電電源装置)、

データセンター電源入力を総施設電力とし、月または週1回の頻度で測定を行った場合が相当

する。レベル 2 では、IT 機器電力の測定は PDU(配電盤)、総施設電力は共用の HVAC(空調)

を除くデータセンター電源入力としたものを毎日測定した場合、さらにレベル 3 では、IT 機器

電力の測定はサーバー単位、データセンター電源入力に加えビル照明や保安設備も含めたもの

を総施設電力とし、数分ごとの連続測定を行っている場合が相当する。

これら測定ポイントおよび頻度の違いは、PUE の数値に併記して報告する。測定期間に関し

ては、Y・M・W、測定頻度を M・W・D・C で表現する。たとえば、PUE1.6L3YCという表記

の場合、レベル 3 の測定ポイントで、継続的に計測した値の年平均した PUE の値が 1.6 という

ことになる。また、グリーン・グリッドでは測定結果公開レポートが測定ガイドラインに則っ

ているかのクラス分けと、その正当性を認証する外部認定制度も設ける予定である。

41

図表・ 15 PUE のレベル分類

連続的(xx分ごと)毎日月/週1回測定頻度

サーバー、その他

データセンター入力

(共用HVACを除く)

およびビル照明、保安設備

PDU

データセンター入力

(共用HVACを除く)

UPS

データセンター電源入力

IT機器電力

総施設電力

レベル3

(上級)

レベル2

(中級)

レベル1

(基礎)

連続的(xx分ごと)毎日月/週1回測定頻度

サーバー、その他

データセンター入力

(共用HVACを除く)

およびビル照明、保安設備

PDU

データセンター入力

(共用HVACを除く)

UPS

データセンター電源入力

IT機器電力

総施設電力

レベル3

(上級)

レベル2

(中級)

レベル1

(基礎)

出所)The Green Grid の資料を参考に作成

2)TGG DCP(Datacenter Productivity)

TGG ではデータセンターの生産性を評価する新しい指標「DCP(Datacenter Productivity)」

の検討をすすめている。DCPは、サーバーの稼働率や、仮想化技術の導入といった施策を含

め、データセンターにおけるコンピューティング能力の生産性をトータルに評価した値である。

DCP の定義は下記の通りである。

DCP=IT 機器全体の情報処理量/設備全体の消費電力

DCP はまだ検討段階であり、PUE の時と同様、グリーン・グリッドの会員や業界関係者から

数々の指摘を受けている。特に、IT機器全体の情報処理量の定義があいまいで、測定しづらい

という意見が多くでている。そこでグリーン・グリッドでは、生産性の測定に関して 8 つのプ

ロキシ(代理指標)を提案しており、内容を見直している。

3)グリーン IT推進協議会 DPPE(Datacenter Performance per Energy)

データセンターのエネルギー消費効率を改善するには、ファシリティの省エネとデータセン

ター中の IT 機器の省エネの両方を実現することが必要であることから、Green IT Promotion

Council (GIPC)では、データセンター全体のエネルギー効率を表わす新しい指標として、

Datacenter Performance Per Energy (DPPE)を検討している。

基本的に DPPE は、データセンターの消費エネルギーあたりの生産性を表す指標を目指して

検討を進めている。すなわち、検討の出発点は、DPPE=(データセンターの生産量)/(消費

エネルギー)である。DPPE を定義するにあたり、生産性の定義方法、消費エネルギーの範囲

等を決める必要があるが、これらは、データセンターの省エネ取り組み施策の効果と連動すべ

きと考える。そこで、データセンターの 4 つの種類の省エネ取り組み施策に着目した指標を策

定している。

図表・ 16 DPPE のサブ指標

サブ指標名 式 対応する取組み施策

ITEU

(IT Equipment Utilization) = データセンターの IT 機器利用率 IT 機器の有効利用

ITEE

(IT Equipment Energy

= IT 機器の総定格能力

/IT 機器の総定格消費電力 省エネ型 IT 機器の導入

42

Efficiency)

PUE

(Power Usage

Effectiveness)

= データセンターの総消費電力

/IT 機器の消費電力 ファシリティの電力削減

GEC

(Green Energy Coefficient)

= グリーン(自然エネルギー)電力

/データセンターの総消費電力 グリーン電力利用

出所)GIPC Introduction of Datacenter Performance per Energy

DPPE はこれらのサブ指標の関数、すなわち

DPPE = f ( ITEU, ITEE, PUE , GEC )

と表すことができる。今回定義したサブ指標を適用すると、

DPPE = ITEU × ITEE ×1/PUE × 1/ (1-GEC)

と表わすことになり、概念的には、下記の式で表すことができる。

DPPE = (IT 機器稼働率×IT 機器の総能力)/(DC 総消費エネルギー-グリーンエネルギー)

= (IT 機器の実利用量)/(商用電力利用量)

DPPE を算出するために必要になる 4 つのサブ指標は以下の考え方で求める。

IT Equipment Utilization (ITEU) は、潜在的な IT 機器の能力を無駄なく利用する仮想化

技術、オペレーション技術による省エネの度合いを示す。必要とされる IT 能力に見合った数の

機器を無駄なく利用することにより、設置する機器の削減を促す。

ITEU は本来的にはデータセンターに含まれる全ての IT 機器の平均利用率であるが、具体的

な算出にあたっては測定しやすさを考慮し、「IT 機器の総実測電力と総定格電力の比を使用す

る方法」を採用することが検討されている

IT Equipment Energy Efficiency (ITEE) は、IT 機器の総能力を IT 機器の総定格電力で割

った値と定義する。この指標では、単位電力あたりの処理能力の高い機器の導入を促すことに

より、省エネを推進することを目指している。考え方はThe Green GridのDCePと似ているが、

データセンターの中には、様々な機器、様々なサービスが混在し、実測することは、困難と考

えられることから、データシートのスペック値を用いて、単純に計算する方法を検討する。そ

のため、ITEE は、データセンター内の IT 機器のカタログ上の省エネ性能の加重平均値となる。

Power Usage Effectiveness (PUE)は、グリーン・グリッドが提唱する指標である。

Green Energy Coefficient(GEC)は、データセンター内で生産・利用されたグリーン電力量

を総電力消費量で割った値である。グリーン電力の使用促進のために取り入れたため、消費電

力削減の観点から定義された他の 3 つの指標とは位置づけが異なっている。

4)EPA Energy STAR for Data Centers

EPA は、建物向けのエネルギーマネジメントのプログラムである ENERGY STAR for

Buildings で、ビル管理分野において下記の省エネソリューションを提供しており、すでに 8,000

以上の建物が認定書の発行を受けている。EPA はデータセンターに対しても同様のレーティン

43

グシステムの設定を検討しており、2010 年の 6 月以降にデータセンターモデルをリリースする

予定である。

ENERGY STAR for Data Centers の基本概念は、他の ENERGY STAR の手法と既存の方式に

基づいており、データセンター事業者全体に意味・意義があるレーティングシステムを確立す

ることを目的としている。監査項目は、すでに一般的に使われている計測手法とその数値記録

を使用することとしており、すぐに実践利用が可能なものとなる予定である。ENERGY STAR

for Data Centers は、データセンターの専用棟(一棟建て)にも、色々な建物内共存のデータセ

ンターやオフィスビル内のサーバー室にも応用が出来る。また、省エネ度は、建物全体のパフ

ォーマンスを評価するものであり、個々のビルの特異な省エネ対策は評価対象としていない。

さらに、このプログラムの利用者には、情報提供とさらなる関連リソースが提供され、利用者

がさらに省エネを推進することができるよう支援する。評価の結果、総合レーティングが 75 点

以上のデータセンターには、ENERGY STAR for Buildings と同じエネルギースターラベルと認

定書が発行される。

現在 EPA では、レーティングシステムを構築するために 61 の 1 棟建てのデータセンターか

ら PUE や Tier レベル、エネルギー源、立地条件などの基礎数値を収集し、PUE 数値予測のた

めの回帰分析モデルを開発している。回帰モデルを構築する過程で、立地の気候条件(寒暖)

がデータセンターのエネルギー消費にあまり影響を与えていないことが判明した。

図表・ 17 ENERGY STAR for Data Centers のレーティングと HDD

出所)EPA ENERGY STAR for Data Centers

※HDD とは気温が華氏 65 度以下の日数と華氏 65 度との温度差の積算値

44

図表・ 18 ENERGY STAR for Data Centers のレーティングと CDD

注)CDD とは気温が華氏 65 度以上の日数と華氏 65 度との温度差の積算値

出所)EPA ENERGY STAR for Data Centers

また Tier レベルによるレーティングへの影響も少ないことから、EPA の 終モデルには、Tier

レベルは含まない予定である。さらに、エネルギー消費が大きいデータセンターほど PUE 値が

低いという結果も得られており、データセンターの効率化が規模の経済に従っているためと考

えられている。

なお、図表からも明らかなように、ENERGY STAR for Data Centers のレーティングと PUE

は相関関係があり、PUE の代替を目的したものではない。EPA プログラムの目的はあくまでも

データセンターの運用者が効率的な省エネを実施するための仕組みを構築することにある。

45

図表・ 19 ENERGY STAR for Data Centers のレーティングと PUE

出所)EPA ENERGY STAR for Data Centers

5)LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)

LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)は、米国建築業界を中心とする民

間企業によって組織・運営されている「米国グリーンビルディング協議会(USGBC:U.S. Green

Building Council1)」が推進している評価制度である。USGBC では、より効率性の高い次世代

建築物の構築を目指し、新しい製品、素材、設計、ポリシー、教育・トレーニング、展示会な

ど幅広い活動を実施しており、LEED もそれらの活動の一環として行われている。LEED では、

Environmental Design を「ビルを主体として環境面でのマイナス要因を大幅に縮小又は取り除

く」ことと定義している。実際のレーティングでは、ビル等の各建築物が環境改善にどの様に

貢献しているかの指標を明確にし、その指標に基づき対象建築物を評価する。2009 年 12 月現

在、全世界で 26,358 の LEED 登録プロジェクトがあり、4,327 のプロジェクトが認証を受けて

いる。

LEED が規定している指標は、省エネ対策による環境負荷の少ない建築物の利用のみならず、

飲料水の使用量の削減、代替エネルギーの導入、建築材料の有効利用、室内環境の品質改善(快

適性)といった観点も評価対象としており、経済的効果や健康・安全面の改善、更には地域住

民の利益にも貢献することを狙っている。

認証の基準は以下の 6 つの項目に分かれており、項目ごとにポイントが割り振られている。

各項目には詳細項目があり、項目 5 の屋内環境基準の場合、照明、ペンキ、カーペット、など

がそれぞれ 1 ポイント分の評価対象となっている。

46

1. 持続可能な敷地計画 (14 ポイント)

2. 水効率 (5 ポイント)

3. エネルギー (17 ポイント)

4. 資材・資源 (13 ポイント)

5. 屋内環境基準 (15 ポイント)

6. 革新性と設計プロセス (5 ポイント)

新築の場合はトータルで 69 ポイントの認証基準があり、26-32 で認証、33-38 でシルバー、

39-51 がゴールド、52-69 がプラチナのランクとなる。中古物件の場合は新築とは審査基準が異

なり 高で 85 ポイントとなっている。

地方行政によっては民間企業による不動産投資・開発にも LEED 認証と連動したグリーンビ

ルに関する規制・優遇措置を制定するところもあり、事業者にとってのインセンティブが生じ

やすいものとなっている。ニューヨーク市ではグリーンビルディング法(Local Law 86/2005:

http://www.nyc.gov/html/dob/downloads/pdf/ll_86of2005.pdf)により市から 1,000 万ドル

あるいは建築コストの 50%以上の額の投資を受ける場合や、市が建設・増築するビルで 200 万

ドル以上の場合は、LEED 基準に従わなくてはならない。

図表・ 20 LEED 関連の規制および優遇措置

ニューヨーク州

ニューヨーク市

市推進の開発案件は LEED 認証要

LEED に準拠したビルに対して市場より 4%低い金利でのローン提供

ダラス市

テキサス州

2011 年以降新規の建築案件は LEED の項目に従った評価結果の提出が必須

建築許可申請の優先制度あり

カリフォルニア州

ロサンゼルス市

市推進の開発案件は LEED シルバー認証要

大$250,000 までの財政支援

カリフォルニア州

サンフランシスコ市 LEED ゴールド認証案件は建築許可申請時に優先される

出所)USGBC Summary of Government LEED® Incentives を参考に NRI 作成

LEED 認証の成功を受けて、USGBC ではデータセンター向けの LEED 認証プログラムの策定

をしている。データセンター向け LEED 認証の認証基準は、基本的な考え方は商業ビルの認証

システムと同じであるが、いくつかデータセンター向けに項目を変更しており、評価項目数が

下記のように増減している。

1. 持続可能な敷地計画 (13 ポイント)

2. 水効率 (9 ポイント)

3. エネルギー (50 ポイント)

4. 資材・資源 (10 ポイント)

5. 屋内環境基準 (7 ポイント)

6. 革新性と設計プロセス (10 ポイント)

ポイント数の増減がもっとも大きいのは、エネルギーの項目である。商業ビルの場合 17 ポイ

ントであったものが 50 ポイントに増えている。必須要求項目には DCiE が含まれている。DCiE

47

の評価基準は、図表 x と xx に示した通り、温度や湿度などの気候条件と建物を Tier レベルに

よって異なる値が決められている。EPC の ENERGY STAR for Data Centers では、これらの違

いに対する配慮をしない方向で検討を進めているのと対象的である。また、再生可能エネルギ

ーの利用割合についての評価項目があり、例えば再生可能エネルギーの利用割合が 7.5%以上の

場合は 1 ポイント、17.5%以上の場合は 4 ポイントが与えられる。

6)PUEの達成状況

EPA が ENERGY STAR for Data Centers を策定するために収集した測定結果によると、PUE

の値は 1.25 から 3.75 の値に分布しており、その平均値は 1.91 であった。

図表・ 21 EPA 発表の PUE の測定値

出所)EPA ENERGY STAR for Data Centers

また、米国のトッププロバイダのデータセンターでは、PUE1.20 に限りなく近づいている。

図表・ 22 米国データセンターにおける PUE 値の例

出所)各種資料より作成

48

それに対して、日本のデータセンターは目標値でも 1.5 前後であり、米国のトップデータセ

ンターと比べるとエネルギー効率が低い値となっている。

図表・ 23 日本のデータセンターにおける PUE 値の例

出所)各種資料より作成

49

図表・ 24 DCiE by Climate Zone & Data Center Type

出所)DCIE by Climate Zone & Data Center Type, ASHRAE TC9.9 Committee, 4/28/08

50

図表・ 25 Climate Zone

出所)DOE Map of DOE’s Proposed Climate Zone

(4)クラウド・コンピューティング技術に関する国際的な標準化動向

クラウド・コンピューティングのコンセプトが浸透するにつれ、PaaS(Platform as a Service)

を中心に、異なるサービス間の相互接続性やベンダー・ロックインの問題が指摘されるように

なってきている。

たとえば、グーグルの Google App Engine、セールスフォース・ドットコムの Force.com、

マイクロソフトの Windows Azure など現在の PaaS は、各社独自の技術を用いて構築されてい

るため、一度いずれかのプラットフォーム上でアプリケーションを開発した場合、ほかのプラ

ットフォームへアプリケーションを移植することは事実上困難である。このようなベンダー・

ロックインを回避し、クラウド間の相互接続性を確保する、あるいは API の標準化などを目的

とした活動が 2009 年 3 月頃から活発になっている。

標準化を目指す活動には、クラウド・コンピューティングの浸透にともない、新規に設立さ

れた組織(Open Cloud Manifesto、OCC など)、あるいは既存の標準化団体(SNIA、DMTF

など)の中で、新たにクラウド・コンピューティングを対象に結成された組織がある。

1)クラウド・コンピューティングの進展にともない新規に結成された業界団体

新規に結成された団体としては、主に相互運用性の課題解決に向けた「Open Cloud Manifesto

(オープン・クラウド・マニフェスト)」、CCIF(The Cloud Computing Interoperability Forum) 、

OCC(Open Cloud Consortium)、セキュリティ問題を対象にした CSA(Cloud Security

Alliance)などがある。

たとえば、2009 年 3 月に相互運用性の実現を目指すクラウド・コンピューティングのプロバ

イダが議論を重ねた上で署名した、オープン・クラウド・マニフェストの中には、プロバイダ

51

が順守するべきマニフェストとして、「クラウドの実装作業を手がける際は、オープンな標準規

格に従うこと」「新たな規格を作成したり、既存の規格を改変したりする際には十分な注意を払

う」「マーケットにおけるポジションを利用して顧客の囲い込みをしてはならない」などが掲げ

られている。

これらの相互運用性の実現を目指す標準化活動の目下の課題は、アマゾン、グーグル、セー

ルスフォース・ドットコム、マイクロソフトといった現在のクラウド市場をリードする企業が

ほとんど参加していないということである。

たとえば、オープン・クラウド・マニフェストの参加企業リストを見ると IBM や VMware、

Cisco、EMC、SAP などの大手ベンダの名前はあるものの、アマゾンやグーグル、セールスフ

ォース・ドットコム、マイクロソフトという現在のクラウド市場をリードする企業の名前はな

い。CCIF や OCC の場合も同様である。

グーグル、アマゾン、セールスフォース・ドットコムにしてみると、クラウド市場はまだ黎

明期であることから、まずは市場の拡大が先決であって、相互接続性については二の次という

認識であると推定される。このため、すでに課題解決に向けた議論が始まっていることは事実

ではあるものの、相互接続性の実現にはもう少し時間がかかると考えられる。実際の活動状況

をみても、現状では、クラウド・コンピューティングのユースケースの整理といった内容にと

どまっていたり、CCIF のように活動の停止を検討する団体も出てきており、必ずしも順風満帆

ではないように見える。

一方、クラウド環境におけるセキュリティのベストプラクティスの確立を目指す CSA には、

グーグル、マイクロソフトが参加しており、活動成果も順調に公開されている。セキュリティ

に関しては、ベンダ間の利害が少ないことが理由であると推察される。

図表・ 26 クラウド・コンピューティングの進展にともない新規に結成された業界団体

団体等 開始時期 概要 活動状況 主要参加企業

Open Cloud

Manifest 2009/3/31

クラウドプロバイダが順守

するべき 6 つのマニフェス

トとして、「クラウドの実装

作業を手がける際は、オープ

ンな標準規格に従うこと」

「マーケットにおけるポジ

ションを利用して顧客の囲

い込みをしてはならない」な

どを策定

・『Cloud Computing Use

Case White Paper V3』

を公開(2010/2/2)

・同意団体は 300 社以

(2010/3/18 時点)

IBM 、 Cisco 、

EMC、Red Hat、

SAP、VMWare、

Sun

Microsystems、

Akamai な ど

300以上の企業

CCIF ( Cloud

Computing

Interoperabil

ity Forum)

2009/4/2

クラウドの互換性に関する

組織

ほとんど活動はなく、

創設者の Reuven Cohen

からは活動を停止した

いとの意見が出されて

いる。22

Enomaly,IBM、

Cisco,Intel、

RSA,Sun

Microsystems、

Appistry 、

Adaptivity な

ど(スポンサ

ー)

22 http://twitter.com/ruv/status/9636075156

52

団体等 開始時期 概要 活動状況 主要参加企業

OCC ( Open

Cloud

Consortium)

2009/1/15

クラウド間の相互運用に関

する標準化とフレームワー

ク作り、オープンソースを利

用したクラウドのリファレ

ンス実装の支援、「 Open

Cloud Testbed」の運営など

Yahoo!が、500 ノード

/2000 コアのクラスタ

環境を OCC に寄贈し

たことを発表。Open Cloud Testbed, the Open Science Data Cloud のスケールアッ

プテスト等で利用され

る予定(2009/12/9)

Cisco、Yahoo!、

Aerospace、イ

リノイ大学シ

カゴ校、ノース

ウエスタン大

学など

CSA ( Cloud

Security

Alliance)

2009 年 3 月

クラウド環境におけるセキ

ュリティを確保するための

ベストプラクティスの提供、

セキュアにクラウドを使う

ための教育の提供

・ 『 Guidance for

Critical Areas of

Focus in Cloud

Computing v2.1』を

公開(2009/12/17)

・『Top Threats to Cloud

Computing Report』

を公開(2010/3/1)

企業メンバー

HP,CA,Cisco,G

oogle,Microso

ft,VMware,Del

l,RSA,McAfee,

Verizon な ど

35 社

(2010/3/18現

在)

出所)各種資料より、野村総合研究所

2)既存標準化団体のクラウド・コンピューティング関連技術の標準策定状況の把握

新規に設立された団体よりは、どちらかというと SNIA、DMTF といった既存標準化団体の方

が活動は活発である。

特に、システム管理標準の開発・推進等を主導するDMTF(Distributed Management Task Force)

では、2008年9月に仮想コンピュータ環境における相互運用性や可搬性の向上を支援する「VMAN

(Virtualization Management) Initiative」を立ち上げて以来、精力的に活動を続けてきた。

VMAN の活動の中でも、クラウド・コンピューティングの相互運用を実現する仕様として も

注目を集めてきたのが、仮想マシン・イメージの共通フォーマットである「Open Virtual Machine

Format」である。この仕様は、もともと VMware、Microsoft、XenSource、IBM、HP、Dell と

いう仮想化技術の開発・展開をリードする6社が共同で策定し、草案をDMTFに提出したもので、

仮想マシンのパッケージ化の方法を標準化することで、仮想マシンの可搬性を高めることを目的

としている。

OVF 仕様は 2009 年 3 月にバージョン 1.0 が発表され、2010 年 1 月にはいくつか改訂が加えら

れたバージョン 1.1 が公開されている。バージョン 1.1 仕様はアメリカ規格協会(ANSI: American

National Standards Institute)の米国標準規格とするため、情報技術規格国際委員会(INCITS:

InterNational Committee for Information TechnologyStandards)に提出されている。ANSI 標準

として承認されると、国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)に

も提出され、国際標準として検討が進められる。

このように OVF が順調に国際標準としての道を進んでいるのは、やはり仮想化技術のキープレイ

ヤーがほぼもれなく参画している点が大きい。こうした状況からも、先に述べた新規に設立され

た標準化団体にも主要プレイヤーの参画が望まれるところである。

53

図表・ 27 既存標準化団体のクラウド・コンピューティング関連技術の標準策定状況

団体等 開始時期 概要 活動状況 主要参加企業

SNIA(Storage

Networking

Industry

Association)

1997 年

ストレージネット

ワーキング技術関

連の教育・啓発・標

準化を中心に活動

・クラウド・ストレージ技術作業

部会の発足(2009/4/6)

・『Managing Private and Hybrid

Clouds for Data Storage』ホワ

イトペーパーを発行(2010 年 1

月)

・新しいクラウド・ストレージの

仕 様 Cloud Data Management

Interface ( CDMI ) , Draft

Version 1.0 を公開(2010/2/13)

Cisco,HDS,Net

App,Oracle,Ir

onMountain,By

cast,

Olocity,

QLogic

DMTF

(Distributed

Management

Task Force)

1992 年

企業内のマルチベ

ンダーシステム、ツ

ール、ソリューショ

ン間の相互運用を

可能にするシステ

ムマネジメント標

準の開発・推進

・仮想サーバ管理と標準 VM フォー

マット(OVF)仕様 1.0 を公表

(2009/3/23)

・Open Cloud Standards Incubator

を創設(2009/4)

・Open Cloud Standards Incubator

の活動成果としてホワイトペー

パーを公開(2009/11)

・OVF 1.1 を公開。ANSI/ISO 標準

とするべく仕様をINCITSへ提出

CA, Cisco,

Citrix, EMC,

HP, IBM,

Intel,

Microsoft,

Novell,

RedHat、VMware

など 16 社

OGF(Open Grid

Forum) 2006 年

グリッドコンピューテ

ィングの技術開発と

普及促進

・IaaS を対象とした標準 API 仕様

の 策 定 を 目 的 と し た

OCCI(Open Cloud Computing Interface) ワーキンググループ

を創設(2009 年 4 月) ・2010 年 1 月に OCCI 仕様を公開

し、2010 年 3 月 22 日までパブリ

ックコメントを募集中

欧州の研究機

関の研究者が

中心

出所)各種資料より、野村総合研究所

(5)諸外国におけるクラウド・コンピューティングに関する研究開発プロジェクトの動向と政府等公的機関の

支援状況

1)米国

医療や環境、予算管理、国防に至る政策の実行やその評価の為に、IT を 大限に活用する方

針を掲げているオバマ大統領は、2009 年 3 月、米国連邦政府の CIO にヴィベック・クンドラ

(Vivek Kundra)氏(34)を任命した。連邦政府の CIO のポストは今回が初めてとなる。

クンドラ氏は、それまで、ワシントン D.C.の CTO を務め、86 の機関の技術オペレーション

と戦略を担い、数々の実績を残してきた。オバマ大統領の就任式では、ワシントン D.C.の Web

サイトにアクセスが集中することを予測して、ミラーサイトを Amazon EC2 で構築したり、

Google Apps などの SaaS や、オープンソース・ソフトウェアの導入で、ワシントン D.C.の

IT 予算の大幅な削減に寄与したりと、クラウドのビジネスモデルとオープンソースを積極的に

活用してきた人物である。民間企業が採用するコスト削減手段を大胆に政府に適用した手腕は、

周囲から注目を集めており、2008年 ITエグゼクティブイヤー、世界のベスト CTO 25(InfoWorld

誌)のひとりにも選ばれた実力者である。オバマ大統領は、同氏の登用にあたり「イノベーシ

54

ョンの精神と技術力によって、パフォーマンスを改善し、政策コストを低減するよう指示して

いる。彼は、CIO として重要な役割を果たしてくれるだろう。」と期待を寄せている。

①フェデラル・クラウドの推進計画

2009 年 9 月、クンドラ氏は、シリコンバレーの NASA 研究所で、フェデラル・クラウド・コ

ンピューティング・イニシアティブとその推進計画を発表した。フェデラル・クラウド・コン

ピューティング・イニシアティブとは、クンドラ氏のもと、オバマ政権のイニシアティブとし

て組織化されたもので、IT インフラ統合と仮想化テクノロジーを適用することで、政府の IT

コスト削減に寄与することがミッションとされている。

これがいわゆる「フェデラル・クラウド」と呼ばれる連邦政府の促進するクラウドへの取り

組みである。組織として、戦略立案をする ESC(Cloud Computing Executive Steering

Committee)と、その戦略を計画し、設計する AC(Cloud Computing Advisory Council)が

設置され、各政府機関のクラウド・コンピューティング適用の提言と実装アプローチをサポー

トする。

既に、このクラウド・コンピューティングのビジネスモデルを適用した、仮想化統合データ

センターによる連邦政府共通 IT インフラは、実際に 2010 年度予算でコミットされている。

クンドラ氏によると「このイニシアティブが 初に手がける大きな仕事は、IT インフラコス

トを削減することが、第一歩だ」とのことで、クラウドの適用によるコスト削減効果への期待

は高い。実際、政府の IT システムは組織間の重複業務が多く、国土安全保障省だけでも 23 の

データセンターを抱え、その維持に多大な費用が費やされている。その結果、年間 740 億ドル

(約 7.4 兆円)の政府 IT 総予算合計のうち、190 億ドル(約 1.9 兆円)がインフラ維持費用と

なっているのが現状である。この部分は、各政府機関が本格的にクラウドを利用することで、

大幅なコスト削減が可能になるとの考えである。

AC が発表しているクラウド推進計画を見ると、フェデラル・クラウドを利用した、 適化

されたコスト効率の高い、各政府機関共通 IT インフラを確立することをゴールとし、重複排除

のための共通ソリューションの選定やサービス・オリエンテッド・アプローチを推進している

ことが分かる。

フェーズ毎のアプローチを見てみると、フェーズ 1(2009 年 8 月−10 月)では、軽量でセキ

ュリティリスクの低い、コラボレーションや生産性向上ツール、基礎部分の IT インフラとプラ

ットフォームを、商用パブリック・クラウド・サービスの活用で提供することになっている。

フェーズ 2(2009 年 9 月−2010 年 2 月)では、セキュリティリスクが中程度の生産性向上ツ

ールやプラットフォームの拡張を実施。ここでは、パブリッククラウドとアウトソースされた

プライベート・クラウドを構築する。

フェーズ 3(2010 年 3 月‐6 月)では、セキュリティリスクの高いエンタープライズ・アプ

リケーションとサービス統合を提供し、プライベート・クラウドとハイブリッド・クラウドを

実装していく計画となっている。

55

図表・ 28 米国連邦政府のクラウド・コンピューティング推進計画

Infrastructure as a Service (IaaS)

Platform as a Service (PaaS)

Softwareas a Service (SaaS)

Security

Procurement

Target Availability

Target Apps

Phase 1 Phase 2 Phase 3

TARGET AVAIL: Sep 2009

TARGET AVAIL: Sep 2009

TARGET AVAIL: Aug 2009

Low-Impact FISMA Security

Advantage, BPA

Aug – Oct 2009

Light-weight collaboration & productivity tools and basic infrastructure / platform

Low and Medium Impact FISMA Security

Smart-Buy, BPA, Directed RFP

Nov 2009 – Feb 2010

Rich productivity tools, enhanced platform capabilities

Low , Medium an d High Impact FISMA Security

Mar – Jun 2010

Enterprise Applications in the cloud and integration services

Cloud Delivery Models

Commercially Available Public Clouds

Public and Outsourced Private Clouds

Private and Hybrid Clouds

TARGET AVAIL: Feb 2010

TARGET AVAIL: Jan 2010

TARGET AVAIL: Nov 2009

TARGET AVAIL: Mar 2010

TARGET AVAIL: Apr 2010

TARGET AVAIL: Jun 2010

Smart-Buy, BPA, Directed RFP

出所)GSA, “Federal Cloud Computing Initiative Overview”

なお、フェデラル・クラウド関連の予算額については明らかにされていないが、政府関連プロ

ジェクトの事情に詳しい、米 Input 社の調査によると、フェデラル・クラウドの市場は 2009 年の

3.7 億ドルから 2014 年には 10.2 億ドル(年率 27%の伸び)と予想している23。

②フェデラル・クラウドのフレームワーク

2009 年 7 月末、連邦政府はフェデラル・クラウドの一部として、外部からクラウド・サービ

スを調達すべく RFQ(提案見積依頼)をクラウド・サービス事業者に出している。21 ページに

わたる RFQ には、連邦政府が考えるクラウドの定義や特徴が、5 つのカテゴリー、35 項目に纏

められている。

それまでは各政府機関がそれぞれにクラウドの調査・導入検討を進めてきたが、クンドラ氏

は、「クラウドは、IT 調達の合理化の観点からも重要である」とし、連邦政府調達局 GSA

(General Service Administration)と連携して、フェデラル・クラウドのフレームワークを策

定している。

23 http://www.input.com/corp/press/detail.cfm?news=1444

56

図表・ 29 フェデラル・クラウドのフレームワーク

Infrastructure as a Service (IaaS)

Platform as a Service (PaaS)

Software as a Service (SaaS) / Applications User/ Admin Portal

Reporting & Analytics

Service Mgmt & Provisioning

Analytic Tools

Analytic Tools

Data MgmtData Mgmt

ReportingReporting

Knowledge Mgmt

Knowledge Mgmt

Citizen EngagementCitizen Engagement

Application Integration

API’sAPI’s

Workflow Engine

Workflow Engine

EAIEAI

Mobile Device Integration

Mobile Device Integration

Data Migration Tools

Data Migration Tools

ETLETL

Application Integration

API’sAPI’s

Workflow Engine

Workflow Engine

EAIEAI

Mobile Device Integration

Mobile Device Integration

Data Migration Tools

Data Migration Tools

ETLETL

Wikis / BlogsWikis / Blogs

Social NetworkingSocial Networking

Agency Website Hosting

Agency Website Hosting

Email / IM Email / IM

Virtual DesktopVirtual Desktop

Office AutomationOffice Automation

Business Svcs Apps

Business Svcs Apps

Core Mission Apps

Core Mission Apps

Legacy Apps (Mainframes)Legacy Apps (Mainframes)

Gov ProductivityGov Productivity Gov Enterprise AppsGov Enterprise Apps

DatabaseDatabase Testing Tools

Testing Tools

Developer Tools

Developer Tools

DBMSDBMS Directory ServicesDirectory Services

Security & Data Privacy Data/Network

SecurityData/Network

Security Data PrivacyData Privacy Certification & Compliance

Certification & Compliance

Authentication & Authorization

Authentication & Authorization

Auditing & AccountingAuditing & Accounting

Service Provisioning

Service Provisioning SLA MgmtSLA Mgmt Performance

MonitoringPerformance Monitoring

DR / Backup

DR / Backup

Operations Mgmt

Operations Mgmt

StorageStorage Virtual Machines

Virtual Machines

Web ServersWeb Servers Server HostingServer HostingCDNCDN

Data Center Facilities

Routers / FirewallsRouters / Firewalls LAN/WANLAN/WAN Internet

AccessInternet Access

Hosting Centers

Hosting Centers

User Profile Mgmt

User Profile Mgmt

Trouble Mgmt

Trouble Mgmt

Product CatalogProduct Catalog

Order MgmtOrder Mgmt

Billing / Invoice

Tracking

Billing / Invoice

Tracking

Customer / Account Mgmt

Customer / Account Mgmt

User Profile Mgmt

User Profile Mgmt

Trouble Mgmt

Trouble Mgmt

Product CatalogProduct Catalog

Order MgmtOrder Mgmt

Billing / Invoice

Tracking

Billing / Invoice

Tracking

Customer / Account Mgmt

Customer / Account Mgmt

Clo

ud

Ser

vic

e D

eliv

ery

Cap

abili

ties

Cloud User Tools

Co

re C

lou

d S

erv

ices

出所)GSA, “Federal Cloud Computing Initiative Overview”

フレームワークは「Core Cloud Services」「Cloud User Tools」「Core Service Delivery

Capabilities」という3つのパートに分かれている。

a)Core Cloud services

SaaS、PaaS、IaaS の 3 つのサービスに分けられている。SaaS は、Wiki やブログ、ソーシャ

ルネットワーキングなど市民との交流の促進を図る「Citizen Engagement」、E-Mail・チャッ

ト、仮想デスクトップ、オフィス・オートメーションなど、生産性向上を目的とする Gov

Productivity、各種行政サービス、コアとなるミッションのアプリケーション、メインフレーム

等のレガシーアプリケーションから成る「Government Enterprise Application」の 3 つの要素

から構成される。

また、PaaS は、データベースやテスティング・ツール、開発者ツール、ディレクトリー、IaaS

は、仮想マシン、ストレージ、Web サーバー・ホスティング、CDN から構成される。

b)Cloud User Tools

上記3つのサービスを有効かつ円滑に利用するため、アプリケーション統合、ユーザ/管理者

ポータル、レポート・分析などの共通ツールが提供される。

c)Core Service Delivery Capabilities

データセンター設備、セキュリティ&データプライバシー、サービス管理&プロビジョニン

グが、クラウド・サービスを支える共通基盤として位置づけられている。

③連邦政府のクラウド・サービスのマーケットプレイス「Apps.Gov」

「Apps.gov(http://www.apps.gov)」は、各政府機関にクラウド・サービスを提供するた

めのポータルサイトである。クラウド推進計画のフェーズ 1 で掲げられた、軽量でセキュリテ

57

ィリスクの低い、コラボレーションや生産性向上ツール、基礎部分の IT インフラや開発プラッ

トフォームを、商用のパブリック・クラウド・サービスを活用して、提供するために登場した

ポータルサイトにあたる。各政府機関が利用する IT リソースを集約することで重複コストの削

減を狙っている。

図表・ 30 Apps.Gov のトップページ

出所)https://apps.gov/cloud/advantage/main/home.do?BV_UseBVCookie=Yes

2)欧州

ヨーロッパで も大きな ICT の研究ファンドには現在、欧州委員会による 7 年間(2007 年〜

2013 年まで)にわたる、協力、構想、人材、能力の四項目の具体的プログラムに基づいた Seventh

Framework Programme(第七次研究枠組み計画, FP7)がある。このうち、クラウドに関する

研究は IRMOS、RESERVOIR、SLA@SOI、LarKC、EGEE であり、科学計算向けの EGEE を除

くと 5 年間で計 5,000 万ユーロの研究費が予定されている。

58

図表・ 31 EC FP7 の研究プロジェクト

プロジェクト名 研究機関 技術分野 期間 費用 (M€ )

RESERVOIR IBM Haifa Research Lab

Security and

Compliance 2007-2010 17.3

IRMOS Xyratex Ltd Virtualization 2007-2010 12.9

SLA@SOI SAP Research 他 QoS

Pay per use 2008-2011 15.2

LarKC

STI Innsbruck,

Universität Innsbruck

Data Management 2008-2011 7.0

EGEE-III European Organization

for Nuclear Research 他Availability 2008-2010 46.9

出所)European Commission, “The Future of Cloud Computing – Expert Group Report”, 2009およびCORDIS

FP7 ICT Programme より作成

今後もクラウド・コンピューティングの関連研究は増えると考えられるが、2010 年に欧州委

員会 (European Commission, EC) の Information Society and Media で設置された Expert

Group の分析では24、一般的な IaaS への研究投資はすでに時期を逸しており、大きなインパク

トを生まないと結論付けており、今後の EU の研究開発は、従来の OSS や SOA の技術的強み

を生かし、ドメイン特化の PaaS/SaaS やベンダー・ロックインの防止やセキュリティ関連研究、

および標準化や法制度が整備されている通信やエネルギーなどへの応用研究に集中してゆくべ

きだと提言している。

3)英国

2009 年 6 月に英国のビジネス・イノベーション・職業技能省と文化・メディア・スポーツ省

は共同で、グローバルデジタル経済において、英国が 前線の位置を占め続けるための ICT 政

策の戦略ビジョン「デジタル・ブリテン」の 終報告書25を公表している。

この報告書では、現行のパブリック・セクターにおける ICT システムの調達が抱える問題点

を指摘するとともに、調達の効率化の観点から、クラウド・コンピューティングを活用した

「G-Cloud(Government cloud computing)」の構築の必要性を指摘している。

また、2010 年 1 月末には「Smarter,cherper,greener」をキーワードとした政府の新 ICT 戦略

「Government ICT Strategy」を公開している。

2008 年から 2009 年にかけての世界同時不況の影響は、英国の公的部門にも及んでおり、公

共サービスの質の向上と共に効率化とコスト削減というプレッシャーに直面している。英国内

閣府の担当大臣である Angela Smith 氏は、本戦略の目標の一つとして公的部門の ICT コスト

の削減を掲げている。具体的には、現在年間約£160 億費やしている ICT コストのうち、£32

億削減を目標値として設定している。

これらの目標を達成するために、以下の 3 つを柱とした戦術を打ち出している。

①a Common Infrastructure

②Common Standards

24 Information Society and Media, European Commission, “The Future of Cloud Computing – Expert Group Report”, 2009 25 http://www.culture.gov.uk/images/publications/digitalbritain-finalreport-jun09.pdf

59

③Common capabilities

このうち、クラウド・コンピューティングに関連が深いのは「a Common Infrastructure」で

ある。Common Infrastructure は ICT 戦略の中核を成すものとして、各公的部門が共通で利用

可能な、セキュアで柔軟なインフラの構築を目指し、次のビジョンを掲げている。

a)The Public Sector Network

音声とデータ通信が統合された通信インフラの整備。2014 年までに年間 5 億ボンドのコス

ト削減を目指す

b)The Government Cloud(G-Cloud)

公的部門がセキュアで柔軟、かつコスト効率のよい共通化された環境から ICT サービスを選

択、あるいはホスティングできるようにする。複数の事業者から複数のサービスを選択可能に

することで、仮に問題が発生した場合には迅速かつ安価に事業者を切り替えられるようになる。

この G-Cloud の活用が、年間 32 億ボンドのコスト削減の鍵を握ると期待されている。

c)Data centre rationalisation

G-Cloud の構築と歩調を合わせ、現在の数百のデータセンターを 10-12 まで統合する。冷却

コストと電力消費を現在の 75%にまで削減するだけでなく、IT インフラコストを年間で3億ボ

ンド削減することを見込んでいる。

d)Government Application Store(G―AS)

公的部門横断で業務アプリケーションやサービス、コンポーネントの共用や再利用を可能と

する新しいゲートウエイ。要求に応じて、その都度、スクラッチで開発するよりも、今後は再

利用が標準となる。これにより、年間 5 億ボンドのコスト削減を見込んでいる。

e)Shared services

近年、財務や人材管理、調達の分野では、部門内/部門間でシェアードサービス化を進めて

きている。シェアードサービスの機会をさらに拡大するため、2020 年までに、Government

Application Store と Government Cloud を通じて、提供する予定である。

f)Desktop services

公的部門共通で使うようデザインされたデスクトップサービス。従来、電子メール、ワープ

ロ、表計算、インターネットブラウザなどのデスクトップサービスは各機関がそれぞれ別々に

選定していたため、コスト増を招いていた。仮に全ての公的部門が同じデスクトップサービス

を利用するようになれば、年間£4 億のコスト削減になると見込んでいる。

なお、②Common Standards と③の Common capabities を含む ICT 戦略のサマリを図表 18

に示す。

60

図表・ 32 英国の Government ICT Strategy のサマリ

出所)Cabinet Office, “Government ICT Strategy”

本戦略に基づく G-Cloud の主な役割は、Government Application Store(G-AS)のホスティ

ングである。G-AS は公的機関が利用する電子メールや VoIP クライアント、HR や ERP などの

アプリケーションをホスティングする。

なお、G-ASのプロトタイプはマイクロソフトのWindows Azure PlatformやアマゾンのEC2、

Cisco/EMC/VMware が構築した仮想マシン上で構築されている。

4)シンガポール

シンガポール国家の ICT 戦略の中心は、Intelligent Nation 2015 Master Plan (iN2015) であ

る。これは Infocomm Development Authority of Singapore (IDA) によって策定されている、

2006 年から 2015 年までの 10 年間のシンガポール国家 ICT 戦略のマスタープランである。

iN2015 の中では、ソフトウェア、計算、ストレージなどの ICT リソースをオンデマンドに共有、

61

購買、売却のできる Infocomm Resource Marketplace (IRM) 構想について述べられており、

これに基づいて、IDA の一組織である National Grid Office(NGO)が、The National Grid Initiative

を推進している。NGO の施策としては主に、 (1)国家グリッド(National Grid)基盤の構築、

(2)GSP 利用に関するサポートの 2 種類がある。下図は国家グリッド構想の概要図である。

図表・ 33 国家グリッド構想概要図

出所)Lee Hing Yan, National Grid Office, "Cloud Computing in Singapore", 2009

また、NGO 以外の施策として、(3) Cloud Innovation Centre (CIC) の設立、(4) Open

Cirrus への参加、(5)標準化活動、(6)シンガポール省庁の取り組み がある。

①グリッド基盤の構築:National Grid ConsortiumによるGrid Service Provider の育成

2008 年 6 月に、低価格で Infrastructure-As-A-Service(IaaS) 、Software-As-A-Service(SaaS)、

Storage-As-A-Service を提供することを目的に、3 つの National Grid Consortium(NGC)が

設立された。3 カ年計画である National Grid Consortium では、各コンソーシアムは半年に 1

度、IDA によるレビューを受ける必要がある。この際、IDA により定められた政府・公共機関

ユーザ数、企業ユーザ数の目標値を満たしていない場合には、計画が打ち切られることになっ

ている。プロジェクトを進めてゆくと同時にユーザを確保させることで、終了後には継続的に

ビジネスパートナーとなる Grid Service Provider (GSP) を確保してゆくことが IDA の狙い

62

である。全ての NGC プロジェクトが進行中であることから、順調に顧客を獲得していると考

えられる。DHL や Carrier のように、Alatum と、National Grid 基盤上の独立サービスプロバ

イダー(ISV)である Melioris の 2 種類の GSP を組み合わせて国家グリッドを利用している先

進的なユーザも存在する。

図表・ 34 National Grid Consortium

コンソーシアム名 主な参加企業 プロセッサ

(コア)

ストレージ

サイズ(TB)提供形態

推計される年間投資額(SGP$)*26

Alatum

Singapore

Telecommunications

Hewlett-Packard

2,712 20 IaaS

SaaS 651 万注)

nGrid

ewMedia Express

Fujitsu Asia

1-Net Singapore

Microsoft

730 5 IaaS

SaaS 298 万注)

PTC PTC System, NetApp

ClearManage -

12

(開始時)

Storage as

a Service 7.78 万注)

注)年間投資額は各商用プランとプロセッサ数・ストレージ容量から政府利用 4 割として試算

出所)Lee Hing Yan, National Grid Office, “Cloud Computing in Singapore”, 2009

プロジェクトの開始時に、シンガポール政府が全体の 4 割を上限として利用することで投資と

することを GSP と約束している。各コンソーシアムの現在のプロセッサ数および商用プランから

推定すると、国家グリッドに対する現在のシンガポール政府の年間投資額は 大でおよそ、

Alatum へ 651 万シンガポールドル (約 4 億円)、nGrid に 298 万シンガポールドル(約 1.9 億円)、

PTC に 7.77 万シンガポールドル (約 500 万円) であると推計される。

図表・ 35 Alatum の商用プラン

パッケージ 単位 従量費 (SGP$)月額固定費

(SGP$)

PowerPlus Compute

物理サーバー

600 4,000 8 x コア (2.5 Ghz 相当)

16 GB RAM

80 GB (ストレージ)

Power Compute

仮想サーバー

600 2,000 4 x コア (2.5 Ghz 相当)

8 GB RAM

40 GB (ストレージ)

ValuePlus Compute

仮想サーバー

600 1,000 2 x コア (2.5 Ghz 相当)

4 GB RAM

20 GB (ストレージ)

Value Compute 仮想サーバー 600 500

26 Singapore 2010 Youth Olympic Games (http://www.singapore2010.sg/public/sg2010/en.html) にも使われる

など、現在はこの金額よりも多いと考えられる

63

1 x コア (2.5 Ghz 相当)

2 GB RAM

10 GB (ストレージ)

追加 単位 従量費 (SGP$)月額固定費

(SGP$)

コア 1 コア 追加 100 450

RAM RAM (1GB) 追加 100 30

ストレージ ストレージ (10GB) 追加 100 7

システムソフトウェ

ア アプリケーション

製品のスペシャリ

スト

製品のスペシャリ

スト

ロードバランサ 1 サーバー 120 120

出所)Alatum より作成

図表・ 36 nGrid の商用プラン

パッケージ 単位 1時間当り (SGP$)月額固定費

(SGP$)

Enterprise VM

Hosting

仮想サーバー

600 850 1 プロセッサ

1 GB RAM

10 GB (FC ストレージ)

8 パブリック IP アドレス

週次バックアップなど

追加 単位 1時間当り (SGP$)月額固定費

(SGP$)

プロセッサ Xeon 2 Ghz 相当以上 1

プロセッサ・RAM 1 コア+1GB RAM (Enterprise

向け) - 720

ストレージ FC ストレージ (1GB) 追加 8

ストレージ SATA ストレージ (1GB) 追加 2

ネットワーク 1Mbps 接続 250

出所)nGrid より作成

図表・ 37 PTC の商用プラン

パッケージ 用途 1GB あたり月額 (SGP$)

Public

Academic (SLA: 99.95%) 1.00

Basic (SLA: 99.9%) 1.00

Premium (SLA: 99.95%) 1.50

Bulk

Academic (SLA: 99.95%) 0.90

Basic (SLA: 99.9%) 0.90

Premium (SLA: 99.95%) 1.35

出所)PTC SaaS より作成

②GSP利用に関するサポート:GSPユーザ向けコンサルティング機関AxSaaS Incubation Centr

eと政府向けSaaS事前評価機関Bulk Tenderの設立

National Grid の周辺サービスおよび GSP 利用のサポートとして、IDA に指名された Aksaas

Pte Ltd.によって、GSP 上で SaaS を使うためのコンサルティングを行う AxSaaS Incubation

Centre が 2008 年 9 月に設立されている。

64

また、IDA 自身、Bulk Tender と呼ばれるグリッドサービスを 2009 年 11 月より開始した。

これは、複数の省庁が使うと考えられるソフトウェアやサービスを、あらかじめ評価しておく

ことで、各組織がそのソフトウェアやサービスを導入しやすくするための施策である。Tender

ではまず、ビデオホスティングとストリーミングのスイートの評価から取り組んでおり、今後

対象を広げてゆく予定である。

③Cloud Innovation Centre (CIC) の設立

2009 年 4 月に、IDA とカナダの Platform Computing 社の提携により、Cloud Innovation Centre

(CIC) が設立されている。国家グリッドがシンガポールにクラウド・プラットフォームを根付

かせるための活動であるのに対し、CIC は CIC は、試験的利用や Proof of Concept の目的でクラ

ウドを利用する企業への支援や、ICT 技術者の支援を目的としている。

CIC では以下のプログラムを無償提供している。

図表・ 38 Cloud Innovation Centre の無償提供プログラム一覧

支援・提供 概要

クラウドソフトウェア

Proof of Concept やパイロット利用の支援 クラウドを利用するベンチャー企業やソフトウェ

アベンダーへ技術コンサルタントを派遣する

研修プログラム 技術者向けにクラウドコンピューティングについ

ての 5日間の研修プログラムを提供する。

(600 人を目標)

④Open Cirrusへの参加

IDA は、2008 年 7 月に米国 Hewlett-Packard、Intel、Yahoo! が設立した、Open Cirrus27に

も参加している。これは、世界規模の複数のデータセンターにまたがるオープンソースのクラ

ウドコンピューティングテストベッドを提供するものである。シンガポールはサンディエゴな

どとともにクラウド/グリッドクラスタの1つとなっている。現在は10組織が参加しているが、

特に Hewlett-Packard は、2010 年 2 月に新たな研究所「HP Labs Singapore」をシンガポール

に開設するなど、シンガポールの関係を深めている。

⑤標準化活動

IDA は情報交換やクラウドの相互運用性の確保を目的として、GridAsia、TheCloud Computing

Interoperability Forum (CCIF)、Cloud Camp、Open Grid Forum といった会議や団体への参画、

サポートも行っている。

⑥省庁の取り組み

National Grid は non-sensitive data 向けのクラウドであるため、政府の sensitive data を扱うに

はプライベート・クラウドが必要となる。これについては IDA の OB である各省庁の CIO によっ

て現在検討がされている。

シンガポール省庁のうち、教育省 (Ministry of Education, MOE) はパブリッククラウドの

27 Open Cirrus , https://opencirrus.org/

65

Google を採用している28。シンガポールでは教師も教育省の公務員に含まれることから、MOE

は他省に比べて人数規模が大きい上に他の省庁と運営上の性質が異なっているためだと考えられ

る。

また、政府の中での先進的なクラウドユーザーには National Library Board (NLB) がある。

NLB ではいわゆる Web2.0 タイプのサービスについてのクラウド利用を進めており、例えば

Facebook 上での書籍検索、貸出、問合せのアプリケーション “NLB myLibrary” の提供を行って

いる29。

5)韓国

①クラウド・コンピューティング活性化総合計画

a)推進の背景

韓国政府は、世界的にグリーン IT 実現によるコスト削減、迅速な IT サービス提供等の長所

を持つ「クラウド・コンピューティング」が次世代のインターネットビジネスモデルとして浮

上しており、国内でもクラウド・コンピューティングへの関心が高まっているにも係わらず、

先進国に比べてサービス導入や関連技術開発の格差など下記のような問題が存在すると認識し

ている。

・米国等の先進国と比較すると約 4 年の技術格差が存在

ネットワーク構築・運営面の競争力は優れているが、仮想化・プラットフォーム等のコア

技術がないため、外資系企業が国内市場を侵食する恐れがある。

米国との技術格差(出所:KEIT(‘09)):韓国(4.1 年)、日本(3.6 年)、ヨーロッパ(2.5

年)、中国(6.2 年)

・IT 資源の共有に対する抵抗感及び情報流出の可能性に対する懸念

個人情報及び企業情報を保管・管理するクラウド・サービス事業者の法的責任と権限に対

する明確な規定がない

・各省庁独自のクラウド・コンピューティング技術開発及び産業活性化政策の推進により、

業界が混乱し、シナジー効果が失われることが懸念

産・官・学・研の協調体制が反映されたクラウド・コンピューティング産業生態系の活性

化策及びグローバル化のあり方が十分に提示されていない

b)韓国内でのクラウド・コンピューティングへの取組み状況

サムスン SDS、KT、SKT 等が DaaS などのクラウド・サービスを社内向けにテスト適用して

いる段階である。通信キャリア系以外の大手 SIer はいわゆる財閥系企業の社内情報システムを

主として手がけており、社外向けのデータセンタービジネスへの参入はまだ限定的である。そ

のため、クラウド・コンピューティングに高い関心はあるものの、その適用は大企業内部のコ

スト削減や効率化業務に偏っているため、パブリッククラウド市場の活性化はまだ低水準であ

る。

28 http://www.moe.gov.sg/media/press/2009/09/moe-adopts-open-standard-inter.php

66

c)韓国政府におけるクラウド・コンピューティング政策のビジョンと目標

韓国政府は、前出の問題点を解決するために、市場、技術、社会、政策などの観点でそれぞ

れ取組み指針を策定した。具体的な取組み指針は以下の通りである。

(市場)国内市場の生態系がぜい弱なため、外国企業が国内市場を侵食する恐れ

⇒公共部門における先導的な需要創出、官民協力によるテストベッドの構築及びテスト事業

を通じて好循環の生態系づくりが必要

(技術)外国のグローバル企業に比べ、国内にはシーズ・コア技術がない

⇒コア技術の開発支援を通じて先進国との技術格差を解消すべき

(社会)法制度的なインフラの不備に伴い、社会的な信頼基盤がぜい弱

⇒利用者の権益保護等のための法制整備が必要

(政策)国レベルの統合された対応システム及び求心点の不在

⇒力量を結集するために、政府レベルの単一推進システムと総合計画づくりが必要

また、この指針に従いクラウド・コンピューティング政策のビジョンと目標を定めた。

29 http://www.facebook.com/apps/application.php?id=136183774004

67

図表・ 39 クラウド・コンピューティング政策のビジョンと目標

政府レベルのクラウドコンピューティングビジョン

2014 年に『世界 高水準のクラウドコンピューティング強国』を実現 <2014 年におけるクラウドコンピューティング世界市場シェア:10% >

推進目標

国内のクラウドコンピューティング市場規模:6,739 億ウォン['09]→ 25,480 億ウォン['14]

公共部門の IT インフラ運営費用を'15 年までに 50%削減 [6,877 億ウォン↓ ]

クラウドビジネスの成功モデルを発掘し、グローバル市場へ進出

4 大分野において 10 の細部課題を推進

公共部門での先制導入 民間のクラウドサービスの基盤づくり

①政府レベルのクラウドインフラ構築

②政府レベルのクラウドプラットフォームの導入

③クラウドコンピューティングのサービスモデル発掘

④クラウドコンピューティングのテストベッド構築

⑤公共クラウドサービスの民間提供及び民間クラウド

サービスの公共活用の促進

クラウドのコア技術の R&D 活性化に向けた環境づくり

⑥クラウドコンピューティング基盤システム構築

のためのシーズ技術の R&D を推進

⑦クラウドコンピューティング導入法制度の改善

⑧信頼性と安全性の向上のためのセキュリティ及び認

証システムの構築

⑨クラウドコンピューティングの標準化推進

⑩クラウドコンピューティング協議会の構成運営

出所)クラウド・コンピューティング活性化総合推進計画

d)クラウド・コンピューティング政策の具体的推進内容

□適用可能な分野から公共部門のクラウド・サービスを先行導入

・中小型で使用率の低いサーバー(1,970 台)を高性能サーバー(255 台)に統合(~’12)

‐ システム使用量に応じて HW 資源(CPU、メモリー等)を弾力的に割当て

・一時的な HW 資源需要に対応するために“Emergency Pool”を構築(’10~)

※ 年末精算、新型インフル、入試発表等、使用量が一時的に集中するシステムが対象

・国家情報化事業を受注した業者を支援するための開発・テスト環境の提供(’11~)

□民間の多様なクラウド・サービス出現のための基盤づくり

68

・8 大クラウド・サービスへの取組み

'14 年までに、波及効果が大きく国際競争力のある有望分野を選定してクラウドのテストサ

ービスを段階的に推進する。具体的には下記の 8 大クラウドテストサービスに取り組む。

1 プラットフォーム統合 IPTV サービス提供クラウド

2 クラウド基盤のグリーン・インターネットカフェ

3 無線インターネット活性化のためのモバイル・クラウド

4 国家スマートグリッド連携クラウド

5 グローバル・オンラインゲーム支援クラウド

6 Green u-Work 実現クラウド

7 オンライン教育の高度化に向けたクラウド

8 政府支援レンダーファームセンター統合クラウド

・クラウドコンピューティング・テストベッドの構築

政府主導のテスト事業の他に民間の多様なクラウド・サービスが現れる環境づくりをする

ために、 カサン(加山)デジタル団地内に「クラウドコンピューティング・テストベッ

ド」の設置を推進

・民間が提供するクラウド・サービスの公共部門への導入及び適用の拡大‐ NIA・NIPA

等をテスト機関に指定し、民間クラウド・サービスを優先的に適用('10)

※ 研究報告書等、産・学・研の共同作業用にインターネット基盤の文書編集サービスを

導入する等

・政府及び公共機関のサービスのうち、民間に開放・共有したときに社会的波及効果の高い

100 大サービスを段階的に構築('10~'13)

‐ 交通情報・気象情報等、'13 年までに 100 大サービスを先導的に開発

□クラウドのコア技術の R&D を通じた技術競争力の強化

・'14 年までに約 582 億ウォンを投資してクラウドのコア技術を開発

‐ クラウド・プラットフォーム及び応用サービスの関連技術の開発を重点項目とする

・R&D の結果を 8 大テストサービスに適用し、R&D の結果を検証・補完

□クラウド・コンピューティング活性化に向けた環境づくり

・クラウド・コンピューティングサービス活性化のための制度改善(案)策定('10)

‐ クラウド・サービス事業者の権限乱用を防止するための法制度を整備

‐ サービス契約(SLA)、課金・精算等のサービスガイドライン作成

・クラウド・コンピューティングサービスの信頼性を高めるためのセキュリティ及び認証シ

ステムの構築('10)

‐ クラウド環境において個人情報の保護等、セキュリティ強化に向けた基準を策定

‐ サービスの安定性と信頼性に対する品質評価等の認証制度を導入

69

・公共・民間クラウド・サービスの相互運用性を確保するための標準制定('10)

‐ 異業種の業者が提供するクラウド間の互換性、品質(QoS)、ライセンス等

・関連省庁と民間の専門家らによる「クラウド・コンピューティング政策協議会」の構成・

運営

‐ クラウド・コンピューティングに関する政策課題を研究、主要課題の協議等

図表・ 40 クラウド・コンピューティングの政策協議会の機関別の主な役割

区分 役割

中央行政機関

(行政安全部、知識経済部、

放送通信委員会)

・クラウド政策の樹立と法制度の改善

・クラウド・サービスの課題の発掘

・公共部門のリードの導入普及支援

研究機関、大学

・政策立案のサポート、および需要の提起

・R&Dなどのクラウド関連技術の研究

・専門委員

民間企業や団体 ・サービスモデルの発掘、事業化の推進及び基盤技術の確保

・フォーラムやセミナーの開催等

出所)クラウド・コンピューティング活性化総合推進計画

e)所要予算と期待効果およびスケジュール

韓国政府はクラウド・コンピューティング活性化総合計画の推進に'10~'14 年の 5 年間に計

6,146 億ウォンの費用を見積もっている。その内訳は、インフラ(4,158 億ウォン)、プラットフ

ォーム(490 億ウォン)、応用サービス(858 億ウォン)、R&D(582 億ウォン)、環境づくり(58

億ウォン)である。

また、本計画を推進することにより、国内クラウド産業の競争力強化及び国家 IT 資源の運営

効率性の向上が図れるとしている。具体的にはクラウド・サービス活性化により、新市場('09

年 0.7 兆ウォン→'14 年 2.5 兆ウォン)と雇用の創出、さらに国家 IT 資源に関してはクラウド・

コンピューティングによる統合により 52%(4,229 億ウォン)の削減が可能だとしている。

70

図表・ 41 クラウド・コンピューティングの政策協議会の機関別の主な役割

(単位:億ウォン)

区分 実践課題 主管省庁 推進日程 所要

予算

政府統合電算センター内に政府レベルのクラウドインフラを構築 行政安全部 '10 年~'12 年 4,158公共部門

先行導入 政府レベルのクラウドプラットフォームの導入及び適用 行政安全部 '11 年~'13 年 330

プラットフォーム統合 IPTV サービス提供クラウド 放送通信

委員会 '10 年~'11 年

クラウド基盤のグリーン・インターネットカフェ 知識経済部 '10 年~'12 年

無線インターネット活性化に向けたモバイル・クラウド 放送通信

委員会 '11 年~'12 年

国家スマートグリッド連携クラウド 知識経済部 '11 年~'14 年

グローバル・オンラインゲーム支援クラウド 放送通信

委員会 '12 年~'13 年

Green u-Work 実現クラウド 行政安全部 '10 年~'14 年

オンライン教育の高度化に向けたクラウド 放送通信

委員会 '13 年~'14 年

政府支援レンダーファームセンター統合クラウド 放送通信

委員会 '13 年~'14 年

514

クラウドコンピューティングのテストベッド構築及び運営 放送通信

委員会 '10 年~'14 年 160

民間の

クラウド

サービスの

基盤づくり

公共クラウドサービスの民間提供及び

民間クラウドサービスの公共活用の促進 行政安全部 '10 年~'13 年 344

クラウド

技術 R&D

クラウドコンピューティング基盤システム構築のための技術シーズの

R&D 推進 知識経済部 '09 年~'14 年 582

クラウドコンピューティング導入促進のための法制度の改善

放送通信

委員会,

行政安全部

'10 年~'14 年

クラウドコンピューティングサービスの信頼性を高めるためのセキュ

リティ及び認証システムの構築

放送通信

委員会,

知識経済部

'10 年~'14 年

26.5

クラウドコンピューティングの互換性を提供するための

標準化の推進 知識経済部 '10 年~'14 年 29

活性化に

向けた

環境づくり

クラウドコンピューティング協議会の構成・運営 省庁共同 '10 年~持続 2.5

出所)クラウド・コンピューティング活性化総合推進計画

71

3.クラウド・コンピューティングによる国内IT市場の変化 クラウド関連の市場規模を増加させる要因、減少させる要因の両面について、影響を及ぼす対

象とその大きさを整理・分析し、それらがもたらす国内 IT ベンダの将来の収益構造の変化を明ら

かにする。具体的には以下の手順で検討を行った。

ア)関連する事業主体毎に、クラウド化による影響(仮説)を構築する。

イ)上記仮説の中で統計資料として取れるデータを収集する。

ウ)統計資料の時系列変化(トレンド)や規模感、実現可能性等を踏まえ、実現可能性の高

い(妥当性のある)シナリオを組む。

エ)シナリオに沿って数値を再集計し、市場規模を試算する。

(1)国内IT市場におけるクラウド関連市場規模の把握

クラウド・コンピューティングが日本の国内 IT 市場に与えるインパクトを、サービス内容や

業種・業態といった分類でプラス・マイナス両面から整理・分析する。

国内市場に与えるインパクトは規模の拡大に繋がる「↑上昇要因」と縮小に繋がる「↓加工

要因」の両面を考慮する。クラウド・コンピューティングを利用するインセンティブの一つに

コスト低減効果がある。利用コストの低下は、これまで利用が困難だった中小事業者も取り込

むことで、クラウド関連サービス利用者の裾野を広げ、当該分野の市場拡大に繋がる。一方、

システムの効率的な運用は、裏を返せば IT 機器の出荷数量の減少をもたらすものであり、全体

としてみれば国内 IT 市場縮小の要因となる。

そこで、業種や業態等に着目して、クラウド化の進展が国内 IT 市場にもたらすインパクトに

ついて仮説を構築する。上記仮説の中で統計資料として取れるデータを収集する。

図表・ 42 業種・業態別クラウド化の進展による影響

業種・業態 クラウド化の進展による影響(変化の方向性)

ハードウェア

ベンダ

サーバーの集約化、仮想化、高密度実装が進む

クラウド・サービスの利用が一般化する(利用層が拡大する)

ユーザ端末は高機能である必要がなくなる(クラウド側での処理が進

む)

ストレージ先としてのクラウド利用が拡大する(ストレージに蓄積する

データ需要が増大する)

ネットワークを流れるトラヒック需要が増大する

ソフトウェア

ベンダ

パッケージソフトウェアで所有(製品)から利用(サービス)への形態

変化が進む(「本数を売る」から「利用量を売る」へ)

クラウド上でソフトウェアが動作するようになる

中小企業を中心に、今まで使っていなかった人たちにも ERP などの統合

型業務ソフトウェアの普及が進む

クラウド・サービス事業者向けに仮想化ソフトの需要が増える

データセンター

事業者

クラウド・サービス事業者の増加に伴い、国内での新規立地が進む

クラウド・サービス事業の効率化ニーズに対応し、国内外の 適立地を

求めて集約化や国外移転が進む

72

業種・業態 クラウド化の進展による影響(変化の方向性)

アプリケーション・

コンテンツ事業者

既存コンテンツのデジタル化が加速化する(電子書籍、教育用コンテン

ツ、電子カルテ等)

コンテンツ事業への参入が容易になる

通信事業者 ネットワークを流れるトラヒック需要が増大する

専用線や VPN に対するニーズが増大する

SI 事業者 周辺部のシステムからクラウドへの移行が進む

1)ハードウェアベンダ

①主な仮説

・一部のクラウドベンダに集約化が進む。米アマゾンのように購買力のあるユーザ企業から

価格低下の圧力がかかり、調達価格が下がる。

・米シスコのような巨大ベンダのように、クラウド向け新製品の開発力を持つ一部のベンダ

に集中化が進む。こうしたベンダは高い価格を付けることが出来るが、価格交渉力のない

クラウド・サービス事業者はそれでも買わざるを得ない。

・日本のクラウド・サービス事業者の多くはグローバルな競争力を持つ海外ベンダから機器

を購入する。日本のハードウェアベンダは自ら市場を掘り起こすべく、自社でクラウド・

サービスを始める。

a)サーバーの集約化、仮想化、高密度実装が進む。

[↑上昇要因]

・仮想化の効率を上げるため、サーバーの大型化・高機能化が進む(機器単価の上昇)

[↓下降要因]

・仮想化技術が進み、小型・単機能化したサーバーの複数利用化(スケールアウト)が進む

(機器単価の下落)

b)クラウドサービスの利用が一般化する(利用層が拡大する)

[↑上昇要因]

・クラウド・サービス事業者によるハードウェア購入の需要が増加する(売上げの増加)

[↓下降要因]

・ユーザはハードウェアを購入せずにクラウド・サービスを利用するようになる(販売台数

の減少)

c)ユーザ端末は高機能である必要がなくなる(クラウドサービス側での処理が進む)

[↑上昇要因]

・低スペック化による価格低下が進み、新たなユーザ層でも利用が拡大する(販売台数の増

加)

・端末の多様化が進み、携帯端末やゲーム機などでの利用が増える(新規市場の創出、販売

台数の増加)

73

[↓下降要因]

・低スペック化が進み、端末の付加価値が減少する(機器単価の下落)

d)ストレージ先としてのクラウドサービス利用が拡大する(ストレージに蓄積するデータ需要が増大する)

[↑上昇要因]

・ストレージ機器の高機能化や需要の拡大が進む(販売台数、売上げの増加)

・クラウド・サービス側のストレージにデータを保存するようになる(サービス利用の増加)

[↓下降要因]

・一般向けディスクメディアや HDD などのストレージ機器の利用が減少する(販売台数・

枚数の減少)

・業務用ストレージの低価格化が進む(売上げの減少)

②主な統計データ

・多くの種別・価格帯で出荷実績は減少しており、300 万円以上の IA サーバーのみが出荷台

数・金額ともに上昇している。

・また、合計の出荷金額も減少しており、機器の選択と集中が進んでいると考えられる。

74

図表・ 43 わが国におけるサ-バ・ワ-クステ-ションの出荷実績

(単位:台、百万円)

価格帯別 平成16年度 平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 伸び率

メインフレーム 台数 1,212 949 872 713 601 -50.4% ●

金額 246,721 193,334 180,117 165,836 119,694 -51.5% ●

2億5千万円以上 台数 268 221 235 196 185 -31.0%

金額 154,463 118,613 118,831 124,232 90,144 -41.6%

4千万円~ 台数 663 470 398 295 250 -62.3% ●

2億5千万円未満 金額 85,559 68,118 55,730 37,105 25,546 -70.1% ●

4千万円未満 台数 281 258 239 222 166 -40.9%

金額 6,699 6,603 5,556 4,499 4,004 -40.2%

UNIXサーバ 台数 59,666 62,735 59,161 42,818 29,922 -49.9%

金額 334,805 322,803 280,068 223,762 176,772 -47.2%

2,000万円以上 台数 8,176 7,939 6,858 4,446 2,026 -75.2% ●

金額 149,995 139,158 114,951 65,416 52,276 -65.1% ●

1,000万円 台数 4,444 4,149 3,748 4,446 2,026 -54.4% ●

~2,000万円未満 金額 56,747 55,940 48,389 65,416 52,276 -7.9%

300万円 台数 11,643 11,118 10,083 7,774 9,305 -20.1%

~1,000万円未満 金額 89,132 76,898 68,065 57,411 57,181 -35.8%

100万円 台数 17,958 19,293 19,958 16,754 12,149 -32.3%

~300万円未満 金額 50,363 57,678 59,337 53,133 37,850 -24.8%

100万円未満 台数 22,777 25,237 22,914 13,331 6,122 -73.1% ●

金額 18,772 20,189 20,250 12,178 5,290 -71.8% ●

IAサーバ 台数 368,564 414,283 449,708 326,718 317,132 -14.0%

金額 277,650 300,672 308,826 256,130 231,905 -16.5%

300万円以上 台数 1,493 1,122 1,519 2,657 78.0%

金額 18,972 13,755 19,293 32,617 71.9%

100万円 台数 20,874 20,782 17,439 8,130 -61.1% ●

~300万円未満 金額 52,226 43,261 42,035 23,950 -54.1% ●

50万円 台数 71,647 66,177 115,611 75,773 60,892 -15.0%

~100万円未満 金額 123,938 68,025 103,972 70,046 51,934 -58.1% ●

50万円未満 台数 296,917 325,739 312,193 231,987 245,453 -17.3%

金額 153,712 161,449 147,838 124,756 123,404 -19.7%

ワークステーション 台数 100,278 151,109 146,746 105,214 96,617 -3.7%

金額 48,202 53,020 51,112 28,627 25,180 -47.8%

300万円以上 台数 578 144 65 87 116 -79.9% ●

金額 3,527 1,154 590 186 594 -83.2% ●

100万円 台数 5,891 5,397 3,299 1,158 437 -92.6% ●

~300万円未満 金額 10,784 8,759 4,603 1,807 1,955 -81.9% ●

100万円未満 台数 93,809 145,568 143,382 103,969 96,064 2.4%

金額 33,891 43,107 45,919 26,634 22,631 -33.2%

合計 金額 907,378 869,829 820,123 674,355 553,551 -39.0%

注)伸び率は平成 20 年度と平成 16 年度の比較

「●」は伸び率が±50%以上変動したもの

IA サーバーは平成 17 年度より価格帯を細分化

出所)(社)電子情報技術産業協会ウェブサイト資料より作成

http://it.jeita.or.jp/statistics/midws/h20/kakaku1.html

75

・ノートブック型 PC 市場は単価の急速な下落を伴いながら縮小している。市場の減少幅は

デスクトップ PC の方が大きい。

図表・ 44 パーソナルコンピュータ市場の出荷実績

平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年 伸び率(2003年) (2004年) (2005年) (2006年) (2007年) (2008年) (2009年) H21/15

ノートブック 数量(台) 4,945,017 5,079,397 5,183,237 5,361,947 5,253,479 4,671,040 4,098,657 -17.1%

型PC 金額(百万円) 674,647 683,840 659,663 695,604 656,292 561,005 407,625 -39.6%

単価(百万円/台) 136,430 134,630 127,269 129,730 124,925 120,103 99,453 -27.1%

デスクトップ 数量(台) 3,841,589 3,862,022 3,666,954 3,023,267 2,950,881 2,809,943 2,407,789 -37.3%

型PC 金額(百万円) 491,058 456,701 404,460 330,840 301,754 281,048 216,849 -55.8%

単価(百万円/台) 127,827 118,254 110,299 109,431 102,259 100,019 90,061 -29.5%

合計 金額(百万円) 1,165,705 1,140,541 1,064,123 1,026,444 958,046 842,053 624,474 -46.4%

注)平成 16 年から名称変更

平成 16 年から「ワークステーション(クライアント機のみ)」を統合し、サーバー用を分割・名称変

平成 21、22 年の数値は経済産業省のサイトより

出所)平成 19 年機械統計年報(経済産業省経済産業政策局調査統計部)より作成

・ネットワークストレージの容量ベースの出荷実績は急速に伸びているものの、大容量 HDD

の普及や企業向けハードウェア単価の減少などから金額ベースでは低迷が続いている。TB

当たり単価の下落は引き続き進行するものの、それを上回る容量ベースの伸びによって市

場規模は安定的な成長が見込まれている。

図表・ 45 ネットワークストレージ市場の出荷実績及び需要予測

(単位:TB、億円、%、百万円/TB)

伸び率

2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2010/2006

容量 18,700 26,000 36,500 52,925 90,978 131,918 191,281 277,357 402,168 583,144 3018.4%

金額 3,866 3,400 2,989 2,658 2,492 2,745 2,882 3,026 3,177 3,336 -13.7%

単価 20.7 13.1 8.2 5.0 2.7 2.1 1.5 1.1 0.8 0.6 -97.2%

実績 予測

注)2007 年度以降は電子情報技術産業協会予測値

出所)2007-2010 年度 産業用電子機器需要予測((社)電子情報技術産業協会)より作成

76

2)ソフトウェアベンダ

①主な仮説

・ソフトウェアはパッケージ販売からライセンス販売へと移行する。さらに必要な時だけオ

ンデマンドで使うケースも増えると顧客単価が下がるため、開発費を回収するまでの期間

が長期化する。課金時間が短く、利用単価も下がるため、売上げ規模は低下する。体力の

ないソフトベンダは投資を回収できない可能性もあり、淘汰が進む。

・パッケージ販売とクラウド・サービス向けライセンス販売の両方を並立するところは、ラ

イセンス販売の単価を下げざるを得ない。ユーザ数が同じならば市場は縮小するため、ユ

ーザ数を増やす努力が必要となる。

a)パッケージソフトウェアで所有(製品)から利用(サービス)への形態変化が進む(「本数を売る」から

「利用量を売る」へ)

[↑上昇要因]

・価格の低下や利用形態が多様化(時間課金やレンタル利用等)する(利用者数・量の増加)

・パッケージ流通のコストが削減される(利益率の向上)

[↓下降要因]

・価格の低下や利用形態が多様化(時間課金やレンタル利用等)する(顧客単価の減少)

・物流事業者におけるパッケージ流通の需要が減少する(売上げの減少)

・小売業(リアル店舗)におけるパッケージ販売の需要が減少する(売上げの減少)

b)クラウドサービス上でソフトウェアが動作するようになる。

[↑上昇要因]

・クラウド・サービス上でライセンス販売するなど販売チャネルが増える(売上げの増加)

[↓下降要因]

・CPU から仮想マシン単位の課金になる。気軽に仮想マシンを増やすとライセンス料が大幅

に増えるため、必要なときだけ使われるようになる(売上げの減少)

c)中小企業を中心に、今まで使っていなかった人たちにも ERP などの統合型業務ソフトウェアの普及

が進む

[↑上昇要因]

・中小企業向け ERP は SaaS 化し、顧客にリーチし易くなる(売上げの増加)

[↓下降要因]

・これまでパッケージ販売が普及していたところは、クラウド・サービスに顧客を奪われて

市場が縮小する(売上げの減少)

d)クラウドサービス事業者向けに仮想化ソフトの需要が増える

[↑上昇要因]

・シェア 9 割の VMware を中心に有償の仮想化ソフトの販売需要が増加する(売上げの増加)

・仮想化レイヤーを管理するためのクラウド管理ソフトの需要が増える(売上げの増加)

[↓下降要因]

77

・クラウド・サービス事業者はコストを抑えるため、オープンソースの XEN や KVM の需要

が増える(売上げの減少)

②主な統計データ

・業務用パッケージソフトウェアの売上高は多少の変動はあるものの、社会規模で進む情報

化の影響を受け、長期的には拡大傾向にある。

図表・ 46 業務用パッケージソフトウェアの年間売上高

(百万円)

平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 伸び率

728,429 736,553 726,631 701,857 632,816 942,686 847,878 1,058,185 45% 注)伸び率は平成 20 年と平成 13 年の比較

出所)特定サービス産業実態調査、サービス産業実態調査(経済産業省)より作成

・米国を中心とする専業ベンダのサービスが比較的大規模なユーザ企業で導入され始めたこ

となどを理由に SaaS 市場は今後も順調な伸びが見込まれており、2014 年度には 2009 年度

の約 2 倍の規模まで拡大する。

図表・ 47 SaaS システム市場規模予測

(億円)

2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 伸び率

154 240 300 360 400 438 477 209.7%

システム提供サービス 125 200 250 300 330 358 387 209.6%

カスタマイズSI 29 40 50 60 70 80 90 210.3%

SaaSシステム市場

注)伸び率は 2014 年度と 2008 年度の比較

特定の顧客向けの活用を意識して構築されている従来型の ASP やサービスやソフトウェアの利用に関

連して提供される業務アウトソーシングサービスなど。広義の SaaS と呼ばれる市場は含まない。

出所)これから情報・通信市場で何が起こるのか IT 市場ナビゲーター 2010 年版(野村総合研究所)

より作成

78

・有償の仮想化ソフトウェアで約 8~9 割の市場シェアを持つと言われている VMware 社の

売上高は順調に伸びており、特に近年は海外分野の比率が高まっている(参考)。

図表・ 48 VMware 社の売上高(参考)

(千ドル)

Revenues: 2005 2006 2007 2008 2009

United States 209,600 391,614 720,620 987,604 1,039,033

International 177,474 312,290 605,191 893,423 984,904

Total 387,074 703,904 1,325,811 1,881,027 2,023,937

出所)SEC EDGAR database より作成

3)データセンター事業者

①主な仮説

・増大する需要に対応してデータセンターを拡大する事業者がいる一方で、効率的な運営を

目的に集約化を進めるケースも出る。拡大についてはデータセンターの新規設置もしくは

既存設備の拡張により対応する。

・グローバルな企業が選択と集中を進めると、現状では日本から撤退する可能性が高い。日

本の国内クラウド・サービス市場が大きくなるようであれば、外資系企業がアジアの拠点

として日本にデータセンターを設置する可能性もある。

・ユーザが自社のデータセンターでなくクラウド・サービスを使うようになると、クラウド・

サービス向けデータセンターの需要が増えていく。また、環境負荷低減に関連する規制が

強まると、効率を求めて自社のデータセンターを持たず、アウトソース化が進展する。そ

の結果、同様にしてクラウド・サービス向けデータセンターの需要が増える。

a)クラウドサービス事業者の増加に伴い、国内での新規立地が進む。

[↑上昇要因]

・クラウド・サービス事業者におけるデータセンター利用の需要が増加する(売上げの増加)

・建築業におけるデータセンター建築の需要が増加する(売上げの増加)

・不動産業における既存ビルの空きフロアを利用したデータセンターの需要が増加する(売

上げの増加)

・エネルギー産業における電力供給の需要が増加する(売上げの増加)

[↓下降要因]

・エネルギー消費量(環境負荷)の増大に伴い、対応コストが増加する(売上げの減少)

79

b)クラウドサービス事業の効率化ニーズに対応し、国内外の最適立地を求めて集約化や国外移転が進

[↑上昇要因]

・エネルギー消費量(環境負荷)の減少に伴い、対応コストが減少する(コストの減少)

[↓下降要因]

・集約化や国外移転により、クラウド・サービス事業者におけるデータセンター利用の国内

需要が減少する(売上げの減少)

②主な統計データ

・近年のネットワークトラフィックの増加に加え、法規制等により企業が保存すべきデータ

の種類や量、保存期間も延びる傾向にあり、データセンターの供給は安定的な伸びが期待

されている。

図表・ 49 データセンターの市場規模予測

(億円)

2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 伸び率

9,280 10,200 11,080 12,490 13,090 13,600 14,010 14,660 15,340 65% 注)伸び率は 2006 年度と 2014 年度の比較

出所)これから情報・通信市場で何が起こるのか IT 市場ナビゲーター 2010 年版(野村総合研究所)

より作成

4)アプリケーション・コンテンツ事業者

①主な仮説

・米アマゾンのウェブサービス(AWS)のようなクラウド・サービスが日本でも普及すると、

レンタルサーバーを使っていたコンテンツ事業者の移行が進む。一方、レンタルサーバー

事業者、ホスティング事業者にはノウハウがないため、クラウド・サービス事業には容易

には参入できない。

・アプリケーション事業者が SaaS に取り組もうとした場合、第三者の提供する PaaS 的なサ

ービスが必要になる。しかし、これまではコスト面の問題から利用できず、普及しなかっ

た。しかし、米アマゾンや米セールスフォース・ドットコムにより価格破壊が起き、中小

のアプリケーション事業者でもサービスを利用可能な価格になる。

・ウェブ系企業を中心にクラウド・サービスの利用を前提とした起業が増える。初期投資が

少なく、アイデア勝負ができるため、新たなサービスが登場しやすくなる。

a)既存コンテンツのデジタル化が加速化する(電子書籍、教育用コンテンツ、電子カルテ等)

[↑上昇要因]

・価格の低下や利用形態が多様化(時間課金やレンタル利用等)する(利用者数・量の増加)

・パッケージ流通のコストが削減される(利益率の向上)

・クラウド・サービス側のストレージにデータを保存するようになる(利益率の向上)

80

[↓下降要因]

・価格の低下や利用形態が多様化(時間課金やレンタル利用等)する(顧客単価の減少)

・物流事業者におけるパッケージ流通の需要が減少する(売上げの減少)

・小売業(リアル店舗)におけるパッケージ販売の需要が減少する(売上げの減少)

b)コンテンツ事業への参入が容易になる

[↑上昇要因]

・初期投資が少なくて済むため、事業参入障壁が低下、ベンチャー系市場が拡大する(事業

者の増加→販売機会拡大)

[↓下降要因]

・レンタルサーバー利用の既存事業者が一気にクラウド・サービスへ移行し、レンタルサー

バー事業者、ホスティング事業者の需要が減少する(売上げの減少)

②主な統計データ

・デジタルコンテンツ市場全体は順調に伸びている。このうち、クラウド・コンピューティ

ング普及の影響を受ける分野をみると、映像やゲーム等の市場が拡大するのに対し、音楽

市場は横ばいとなっている。中でも音楽パッケージソフト市場は縮小傾向にある。

・一方、映像や音楽のネット配信は大きな伸びを見せており、また広告市場も拡大傾向にあ

る。

図表・ 50 クラウド関連デジタルコンテンツ市場の動向

(億円、%)

品目 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年(予) 伸び率

23,670 26,855 28,047 29,378 30,361 32,711 38.2%

5,136 6,385 6,448 6,913 6,735 6,984 36.0%

映像パッケージ・ソフト 4,948 6,067 6,042 6,420 6,151 6,313 27.6%

インターネット配信 173 292 368 444 527 596 244.5%

携帯電話配信 15 26 38 49 57 75 400.0%

7,637 7,723 7,672 7,462 7,505 7,615 -0.3%

音楽パッケージ・ソフト 6,210 6,021 5,896 5,578 5,403 5,342 -14.0%

インターネット配信 53 79 145 164 244 328 518.9%

携帯電話配信 1,374 1,623 1,631 1,720 1,858 1,945 41.6%

4,138 4,362 5,351 5,116 5,126 5,505 33.0%

パッケージ・ソフト 3,771 3,766 4,614 4,285 4,240 4,508 19.5%

オンライン・ゲーム(運営サービス) 367 596 737 831 886 997 171.7%

6,759 8,385 8,576 9,887 10,995 12,607 86.5%

パッケージ・ソフト売上 2,163 2,175 2,401 2,162 1,888 1,819 -15.9%

インターネット配信 1,965 2,464 1,263 1,469 1,635 1,755 -10.7%

インターネット広告 1,634 2,520 3,240 3,970 4,460 5,440 232.9%

携帯電話配信 817 938 1,282 1,665 2,099 2,357 188.5%

モバイル広告 180 288 390 621 913 1,236 586.7%

41,786 48,242 52,079 55,910 60,682 69,660 66.7%

図書・画像・テキスト

デジタルコンテンツ市場全体(参考)

クラウド関連デジタルコンテンツ市場

映像

音楽

ゲーム

注)伸び率は 2004 年度と 2009 年度(予測)の比較

出所)デジタルコンテンツの市場規模とコンテンツ産業の構造変化に関する調査研究報告書、2009 年

3 月(デジタルコンテンツ協会)より作成

81

・平成 20 年におけるサーバー・ホスティング業務市場の年間売上高は 245.34 百万円(該当

事業所数は 170 事業所)。

・事業所数でみると全体の約半数を年間売上高 1 億円未満の事業所が占めているが、サーバ

ー・ホスティング業務市場(年間売上高の合計)でみると年間売上高 1 億円未満の企業が

占める割合は全体の 3%程度である(大手事業所による寡占化)。

図表・ 51 サーバー・ホスティング業務年間売上高規模別(左:事業所数、年間売上高)

出所)平成 20 年特定サービス産業実態調査(経済産業省)より作成

6%

21%

25%

40%

8%

 1千万円未満  1千万円以上3千万円未満

 3千万円以上1億円未満  1億円以上10億円未満

 10億円以上100億円未満

36%

61%

1%0%2%

 1千万円未満  1千万円以上3千万円未満

 3千万円以上1億円未満  1億円以上10億円未満

 10億円以上100億円未満

82

5)通信事業者

①主な仮説

・クラウド・コンピューティングの普及により、基本的に回線需要は増加する。しかし、現

状の仕組みでは通信会社はトラヒックに見合う設備コスト負担を価格に転嫁することが困

難であり、通信網への追加投資が滞りがちである。

・日本ではインターネットに対する不安は根強く残り、専用線や VPN へのニーズは引き続き

大きい。

a)ネットワークを流れるトラヒック需要が増大する

[↑上昇要因]

・国内クラウドサービス(サーバー)向けのトラヒックが増加する(売上げの増加)

[↓下降要因]

・海外クラウドサービス(サーバー)とのトラヒックが増加した結果、ネットワークの利用

に見合う設備コスト負担を価格に転嫁できず(売上げの減少、設備投資の増加)

b)専用線や VPN に対するニーズが増大する

[↑上昇要因]

・専用線サービスや VPN の契約、機器購入が増える(売上げの増加)

[↓下降要因]

・専用線や VPN 等の比較的高価格のネットワークを利用することでサービス全体の価格が上

がり、利用者が伸び悩む(売上げの減少)

②主な統計データ

・ブロードバンドサービス契約者のダウンロードトラヒックは堅調に増加を続け、2009 年 5

月の月間平均は約 500Gbps にも達している。直近 1 年間の増加率は約 15%強でほぼ一定で

ある。

図表・ 52 契約者別トラヒック・月間平均の推移(ダウンロードトラヒック)

(Gbps)

2005年5月 2005年11月 2006年5月 2006年11月 2007年5月 2007年11月 2008年5月 2008年11月 2009年5月

178.3 194.2 226.2 264.2 306.0 339.8 374.7 432.9 501.0

注)伸び率は 2005 年度と 2014 年度(予測)の比較

出所)我が国のインターネットにおけるトラヒック総量の把握(総務省)より作成

83

・ブロードバンド回線の加入件数は増えてはいるものの、その増加率は減少しつつあり、ブ

ロードバンド市場全体は飽和に向かっている。2008 年には光ファイバの加入件数が ADSL

を上回り、家庭用ブロードバンド回線の半数以上を占めるようになった。

図表・ 53 ブロードバンド回線の市場規模予測

(億円)

2005年度 2006年度 2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 伸び率

光ファイバー 1,904 3,214 4,629 5,931 6,990 7,800 8,473 9,116 9,677 10,163 433.8%

CATV 1,772 1,982 2,156 2,313 2,430 2,503 2,547 2,576 2,594 2,607 47.1%

ADSL 5,272 5,313 4,964 4,447 3,992 3,655 3,419 3,201 3,004 2,827 -46.4%

合計 8,949 10,509 11,749 12,691 13,413 13,959 14,439 14,893 15,276 15,597 74.3% 注)伸び率は 2005 年度と 2014 年度(予測)の比較

出所)これから情報・通信市場で何が起こるのか IT 市場ナビゲーター 2010 年版(野村総合研究所)

より作成

・法人ネットワーク市場規模は従来型専用線から新型 WAN(広域イーサネット、IP-VPN、

エントリーVPN、インターネット VPN)への移行が急速に進行した結果、金額ベースの市

場規模も縮小傾向にあった。

・一方、廉価版の法人向けネットワークサービスの普及が本格化しつつあり、中小企業や大

企業の拠点・事務所等を中心に利用が拡大している。

図表・ 54 法人ネットワーク市場規模予測

(億円)

2007年度 2008年度 2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度 2014年度 伸び率

インターネットVPN 543 581 616 646 679 713 741 771 42.0%

エントリーVPN 231 291 318 342 366 392 418 444 92.2%

IP-VPN 1,521 1,549 1,534 1,533 1,497 1,461 1,426 1,393 -8.4%

広域イーサネット 1,986 2,119 2,134 2,141 2,166 2,208 2,261 2,329 17.3%

FR・CR 654 497 383 329 290 258 232 211 -67.7%

イーサネット専用線 384 447 507 567 629 695 755 809 110.7%

従来型専用線 5,132 4,344 3,603 2,928 2,636 2,426 2,256 2,120 -58.7%

合計 10,451 9,828 9,094 8,486 8,263 8,152 8,089 8,077 -22.7% 注)伸び率は 2007 年度と 2014 年度(予測)の比較

出所)これから情報・通信市場で何が起こるのか IT 市場ナビゲーター 2010 年版(野村総合研究所)

より作成

6)SI事業者

①主な仮説

・企業にとって本質的ではないシステムはクラウド・サービスに移行していく可能性が高い。

汎用的なシステムを作っていた事業者は淘汰されていく一方、受注生産で基幹系システム

を手がける大手への影響は少なく、大手の寡占化が進む。

84

・顧客向けの納品形態がクラウド・サービスを前提とした形になると、基盤システムが標準

化される。規格化されたテンプレートで構築できるため、大量生産でシステム化のコスト

が下がる。

○周辺部のシステムからクラウド・サービスへの移行が進む

[↑上昇要因]

・簡単なシステムはクラウド・サービス上で構築する顧客が増えるが、単価も安く、納期も

短い(売上げの微増)

[↓下降要因]

・コアに近いシステムをクラウド・サービス上に構築することでテスト環境等も含めた開発

コストが低下する(売上げの減少)

・クラウド・サービス利用に伴い、顧客からの値下げ圧力も強まる(売上げの減少)

②主な統計データ

・日本のソフトウェア産業は受託開発の比率が高く、パッケージソフトウェアの割合は 2 割

にも満たない。業務用パッケージソフトウェアに限れば、受注ソフトウェア開発に占める

割合は約 1 割で安定して推移している。

図表・ 55 ソフトウェア業務の業務種類別年間売上高

(百万円)

平成13年 平成14年 平成15年 平成16年 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 伸び率

728,429 736,553 726,631 701,857 632,816 942,686 847,878 1,058,185 45%

6,763,421 6,868,182 6,637,179 6,785,991 6,739,653 9,046,907 8,943,936 9,953,463 47%

0.11 0.11 0.11 0.10 0.09 0.10 0.09 0.11 -

業務用パッケージ

受注ソフトウェア開発

パッケージ/受注比率 注)伸び率は平成 20 年と平成 13 年の比較

出所)特定サービス産業実態調査、サービス産業実態調査(経済産業省)より作成

85

(2)国内ITユーザ企業における IT コストの変化、ビジネス革新事例

国内 IT 企業におけるクラウド化による影響について整理する。新聞・雑誌記事やインターネ

ットで公開されている各種情報を中心に広範に情報収集を行い、具体的な取り組み内容、導入

効果などを明らかにする。

1)ガリバーインターナショナルのケース

株式会社ガリバーインターナショナルは中古車買取業者である。全国の店舗で買い取りした

中古車を、独自の画像販売システムを用いて顧客に販売している。展示場を持たないことでロ

ーコストオペレーションを可能とする。

①クラウド・サービス導入のきっかけ

買取から販売へとビジネスモデルを変化させる過程で、顧客とのコミュニケーション手段の

見直し、コミュニケーションコストの削減を狙い、クラウド・サービスの導入を検討した。

情報システムへの地理的なアクセス制限をなくすこと、コストを削減すること、情報漏洩等

のリスクを抑えることが導入システムの機能要件として求められた。Google Apps は他サービ

スと比較してイニシャルコストやランニングコストの点で優れていたが、詳細な機能やリスク

などの比較検証は行わず、Google の持つ先進的なブランド力を信じて実質 2 週間で導入が決ま

った。

導入に先立って行われたアンケート調査では、Google Apps の導入で約 1,500 台/月の販売

台数の増加が見込まれるとの結果も出ていた。

②クラウド・サービスの導入

まず直営店に導入し、状況を見据えた上で全店に展開。メールやスケジューラ、ファイルサ

ーバー、ポータル等、これまで個別のシステム上で動いていた各種ツールを全て Google Apps

に移行した。これにより使い勝手が向上しただけでなく、メール等の容量の制限も事実上なく

なった。

③クラウド・サービスの導入効果

システム管理費(人員)やシステムの運用費、償却費用等が、クラウド・サービスの導入に

より Google Apps の使用料及び運用費のみとなるため、年間 1500 万円程度のコスト削減にな

ると見込まれている(初期投資含まず)。

また、利用に伴う個人情報保護の観点や利用料の値上げ、サービスの停止等を導入後のリス

クとして認識している。

2)クックパッドのケース

クックパッド株式会社は料理のレシピを集めた「日本 大の料理サイト」である「クックパ

ッド」を運営している。サイトの利用者は、自分が作った料理のレシピを掲載したり、他人が

考えたレシピをもとに料理を作って写真を掲載する、といったことができる。

①クラウド・サービス導入のきっかけ

クックパッドを訪れる月間 800万人が検索するキーワードは 800万人の料理趣向を表すため、

86

この膨大な食の検索データベースを「たべみる」という名称で法人向けに販売している。例え

ば、食材・地域・季節・食用シーン(運動会やお弁当)など、さまざまな切り口で検索件数や

ランキングデータの分析を行うことが可能である。この膨大なデータ処理を効率的に行う仕組

みとしてクラウドの導入を検討した。

②クラウド・サービスの導入と効果

米アマゾンのクラウド・サービスである EC2 上に、大規模分散データ処理フレームワークで

ある Hadoop クラスタを構築してログデータの解析を行った。

1 年分のログを対象にデータ解析を実施した場合、当初 7,000 時間かかると見積もっていた処

理を 30 時間に短縮して完了させることが可能となった。

(3)国内ITベンダの将来における収益構造の変化

クラウド・コンピューティングの市場規模予測や IT ユーザ企業のクラウド・コンピューティ

ングの利用状況を踏まえ、クラウド・コンピューティングの深化がハードウェアベンダ、ソフ

トウェアベンダ、IT サービスベンダ、データセンター事業者等に与える影響を分析する。

前項の統計資料の時系列変化(トレンド)や規模感、実現可能性等を踏まえ、実現可能性の

高い(妥当性のある)シナリオを構築する。その後、シナリオに沿って数値を再集計し、市場

規模を試算する。

1)想定されるシナリオ

①ハードウェアベンダ

・景気低迷による IT 投資の抑制等からサーバー市場を中心にハードウェア市場の低迷が続い

ている。また、機器単価の下落を伴い、「サーバーの集約化、仮想化、高密度実装」も進ん

でいる。

・企業業績の改善による IT 投資の再開は、個々のハードウェアには向かわず、「クラウド・

サービス利用の一般化」を加速すると見込まれる。クラウド化の進展はシステムの効率的

な利用を促進し、ハードウェア市場の拡大には繋がりにくい。

・PC 市場で急速な伸びを見せたネットブックは、出荷台数こそ増えたものの価格単価の下落

を招いている。また、市場におけるスマートフォンの認知と普及が進み、ノート PC 市場

との棲み分けが進む。「クラウド・サービス側での処理が進む」こともあり、デスクトップ

PC を含むパーソナルコンピュータ市場の縮小傾向が続く。

・日常生活におけるデジタル化の進展により、ユーザが保有する音楽や画像等を中心に保存

ニーズのある電子ファイルの容量が増加している。また法規制等により企業が保存すべき

データの種類や量、保存期間も延びる傾向にある。「ストレージ先としてのクラウド・サー

ビス利用が拡大」することで市場の伸びも続く。

②ソフトウェアベンダ

・情報化の進展を受け、ソフトウェア市場は長期的な拡大傾向にある。

87

・「クラウド・サービス上でソフトウェアが動作する」ようになり、また「中小企業を中心に、

今まで使っていなかった人たちにも ERP などの統合型業務ソフトウェアの普及が進む」こ

とから、SaaS 市場は急速に伸びていく。

③データセンター事業者

・企業の情報通信環境における基盤としてデータセンターは位置付けられ、大企業のみなら

ず中小企業にまで顧客層は拡大していく。また、「クラウド・サービス事業者の増加に伴い、

国内での新規立地が進む」ことで需要に好影響を与えることも考えられる。

・このような国内需要は堅調であり、長期的にみて順調に拡大していく。

④アプリケーション・コンテンツ事業者

・パッケージ系ソフトは流通コストの削減以上に、市場そのものが縮小傾向にある。一方、

インターネットや携帯電話向け配信等、利用形態が多様化することで「既存コンテンツの

デジタル化が加速化する」。映像や音楽の配信サービスは大きく伸びており、アプリケーシ

ョン・コンテンツ事業市場は安定的に拡大傾向にある。

・「コンテンツ事業への参入が容易」になったものの、レンタルサーバー利用の既存事業者が

一気にクラウド・サービスへ移行し、レンタルサーバー事業者、ホスティング事業者の需

要が減少する。しかし、クラウド・サービスに対応できない中小事業者がサーバー・ホス

ティング業務市場に占める割合はもともと少なく、その影響はほとんどない。

⑤通信事業者

・ブロードバンド向けトラヒックは堅調に増加する一方で、ブロードバンド契約者数の伸び

はそれに追いついていない(売上げが大きく伸びていない)。「ネットワークを流れるトラ

ヒック需要が増大」しているにも関わらず利用に見合う設備コスト負担を価格に転嫁でき

ていない。

・光ファイバはブロードバンド回線市場全体を牽引してはいるものの、徐々に成長速度は緩

んでおり、現状では今後の急成長は見込みにくい。

・法人ネットワーク市場の縮小傾向は落ち着き、比較的安価な「専用線や VPN に対するニー

ズが増大する」ことで中堅・中小企業向けの需要が新たに開拓される。

⑥SI事業者

・情報化の進展を受け、ソフトウェア市場は長期的な拡大傾向にある。

・業務用パッケージソフトウェアが受注ソフトウェア開発に占める割合は、「周辺部のシステ

ムからクラウド・サービスへの移行が進む」ことで、徐々にではあるが拡大していく。

2)試算結果

想定されるシナリオに沿って数値を再集計し、市場規模を試算した。試算に際しては、統計

資料より得られた実績値をもとに、ロジスティクス曲線やゴンペルツ曲線などの成長曲線を用

いて近似した。その際、実績値と も相関が高くなるように各パラメータを設定した。

88

図表・ 56 クラウド・コンピューティングによる国内 IT 市場の変化

(億円)

平成22年度 平成27年度 平成32年度 平成37年度 平成42年度

2010年度 2015年度 2020年度 2025年度 2030年度

サーバ・ワークステーション市場 4,477 3,670 3,563 3,627 3,748

パーソナルコンピュータ市場 6,551 3,713 1,882 834 315

ネットワークストレージ市場 2,120 1,815 1,599 1,432 1,295

業務用パッケージソフトウェア市場 10,241 11,147 11,572 11,765 11,851

(SaaSシステム市場) 300 524 694 838 966

データセンター市場 13,090 15,650 16,990 17,596 17,862

クラウド関連デジタルコンテンツ市場 32,655 35,713 37,840 39,495 40,862

ブロードバンド回線市場 13,959 16,115 17,663 18,878 19,892

法人ネットワーク市場 8,486 7,773 7,313 7,012 6,789

受注ソフトウェア開発市場 102,287 119,822 132,719 141,782 147,964

出所)各種資料より作成

89

4.各国の主要データセンターの運用等に関する定量データ

(1)主要データセンター事業者の建設立地

グーグル、マイクロソフト、IBM、ヤフーといった主要データセンター事業者が、近年デー

タセンターを建設・稼働開始した立地、あるいは現在建設中の立地のマクロな経済指標を定量

的に把握することで、データセンター事業者がデータセンターの建設に際して重視している項

目を明らかにする。ここでは州別での比較が行いやすいことから、米国における事情を取り上

げた。

図表・ 57 データセンター事業者の 近のデータセンター建設動向

企業 州 都市敷地面積

(平方フィート)稼働(予定)

時期

Google Oklahoma Pryor 不明 2010年稼働予定

Iowa Council Bluffs 不明 2009年稼働

South Carolina Goose Creek 不明 2008年稼働

North Carolina Lenoir 480,000 2008年稼働

Oregon The Dalles 210,000 2007年稼働

Microsoft Iowa Des Moines 550,000 2008年7月発表

Illinois Northlake 700,000 2009年稼働

Texas San Antonio 470,000 2008年稼働

Washington Quincy 500,000 2007年稼働

Yahoo! Nebraska Omaha 180,000 2010年稼働

Washington Quincy 250,000 2007年稼働

IBM North Carolina Raleigh 100,000 2010年稼働

出所)DATA CENTER KNOWLEDGE ウェブサイトより NRI 作成

90

図表・ 58 データセンターが建設された地域の経済指標

州 事業者電力料金

(米セント/kWh)売上税(%)

平均所得(米ドル)

Illinois Microsoft 4.54 6.25 42,397

Iowa Google,Microsoft 4.81 6.00 36,680

Nebraska Yahoo! 7.98 5.50 37,730

North Carolina Google,IBM 5.54 4.50 34,439

Oklahoma Google 6.19 4.50 36,899

Oregon Google 5.21 なし 35,956

South Carolina Google 5.37 6.00 31,884

Texas Microsoft 8.79 6.25 38,575

Washington Microsoft,Yahoo! 4.55 6.50 42,356

米国平均 6.83 5.09 39,751

出所)US.EIA “Electric Power Annual 2008”

Tax Foundation “State and Local Sales Tax Rates 2009”

US.DOC Bureau of Economic Analysis “State Personal Income 2008”

グーグルはカリフォルニア州に 5 台のデータセンターを保有しているといわれているが、近

年は地方都市への建設を進めている。2007 年以降にグーグルがデータセンターを稼働させた、

アイオワ州、ノースカロライナ州、オクラホマ州、オレゴン州、サウスカロライナ州といった

州では、電力料金、売上税、人材の平均所得の面から見て、米国平均に比べて低い。データセ

ンターの運用コストを抑えるために、前章までに取り上げた個別の優遇措置を引き出すだけで

なく、土地選定のスタートラインから、合理的な判断をとっていることがわかる。

ヤフーは電力料金や売上税が必ずしも低くないネブラスカ州でのデータセンター建設を進め

ている。これは「Nebraska Advantage」と呼ばれる一連の優遇パッケージの存在によるところ

が大きい。Yahoo!はこの Nebraska Advantage にいおいて、TIER FOUR の措置をうけている。

また、ヤフーがデータセンターを建設したオマハ市ラヴィスタには、HP やイーベイなども入居

するビジネスパークがあり、有望な需要があれば運用コストが多少高くても、データセンター

設置の判断を下すことを示唆している。

91

図表・ 59 ネブラスカ州の制定する「Nebraska Advantage」

出所)Nebraska Department of Economic Development

またマイクロソフトは、電力料金、売上税の高いテキサス州にデータセンターを設置してい

る。テキサス州サン・アントニオは 130 万人を抱える米国 7 番目の大都市で、かつ自然災害が

少ない。過去に地震が発生したことがなく、竜巻の発生は平均して年 1 回程度であり、内陸部

のため台風被害もほとんどないという立地条件は大規模データセンターを設置するマイクロソ

フトにとって極めて魅力的である。地元の水道事業者は水資源の再利用に積極的であり、安価

に、かつ干ばつに際しても水資源が確保できることも土地選定の大きな要因となった。

加えて、データセンター誘致を積極的に図る市政府より、大幅な優遇措置が提案された。マ

イクロソフトは当初、500 人の雇用を条件に、10 年間の固定資産税減額を提示が持ち出された。

マイクロソフトの雇用予定者数は 75 人だったため、本来であれば減額期間は 6 年となる条件だ

が、例外的に 10 年間の減税措置を受けることができた。

(2)設備に関する技術動向

データセンターの電力効率向上にむけ、データセンター事業者は冷却コストの低減のためア

イルキャッピング、フリークーリングといった技術を導入している。

①アイルキャッピング

IT 機器の多くが、前面から冷気を吸い込み、背面から排気するが、ラックをレイアウトする

際にこの吸気と排気の混合を防ぐべく、ラック間の通路を「コールドアイル」と「ホットアイ

ル」に区分し、その通路に屋根や壁を設ける方式がアイルキャッピングである。これにより、

92

冷気が確実に機器に吸い込まれ、冷却効率を高めることができる。

図表・ 60 コールドアイルとホットアイルのレイアウトイメージ

出所)IT Pro 2008/05/26 記事

NTT ファシリティーズは、データセンター事業者のさくらインターネットが 2009 年 2 月に

増床した堂島データセンターにアイルキャッピングを導入した。これにより、従来総利用電力

消費の約 4 割を占めていた冷却コストを、20%効率化することに成功した。

93

図表・ 61 アイルキャッピングの導入例

出所)さくらインターネット株式会社 2009/2/18 報道資料

②フリークーリング

外気をデータセンター内に引き込むなど、自然環境を利用した冷却方式を総称してフリーク

ーリングと呼ばれている。

Data Center Dynamics によると、HP が英国に設置したデータセンターでは、一年を通して

外気をデータセンター内にとりこみ、循環させることによって、データセンター内温度を常に

24℃に保っている。Data Center Journal では、データセンター建設にあたって追加コストが 6%

発生したが、ランニングコストの低減によって解消されるとしている。

またグーグルがベルギーに設置するデータセンターでは、モジュール化された装置を直接外

気に触れさせる方式をとっている。

94

図表・ 62 直接外気にさらして冷却するモジュール化された装置

出所)DATA CENTER KNOWLEDGE ウェブサイト

グーグルはデータセンターの運用に際して、温度は 27℃程度を維持すればよいとしている。

ブリュッセルの気温は夏でも 22℃程度までしか上がらず、このような環境ではフリークーリン

グの方式を採用することにより、冷却装置は一切不要としている。