「ちょぼ汁」の故郷を巡る 母子の健康を願う 心をリフレッ …第1 1回 県淡...

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特集 2 車で13分 車で33分 パルシェ 香りの館 あわじ花さじき 館内では、お香作りやエッセ ンシャルオイルの抽出などの 体験メニューを実施。その他、 新鮮野菜のマルシェ(土日の み)やフクシア大温室、「香り の宿」には温 泉もある。淡 路島ビュッフェは大人1,650 円(税 込)。ディナータイム には腕利きシェフのフランス 料理が味わえる(要予約) 第11回 兵庫県淡路市 兵庫 兵庫 兵庫第1 第1 第1 第11回 1回 1回 1回 兵庫 兵庫 兵庫 兵庫県淡 県淡 県淡 県淡食文化研究家のわたくし清 絢が 日本各地の郷土食を巡る旅もいよいよ最終回。 四季を感じながら、その地方らしい風土と文化に 触れる旅は、貴重な出会いの連続でした。 そんな連載の最後に訪ねたのは、 出産祝いの伝統料理として受け継がれた、 だんご入りの汁物「ちょぼ汁」です。 そこには、お母さんの体をいたわる工夫が詰まった、 名実ともに温かい料理がありました。 文/清 絢 写真/川端正吾 イラスト/竜田麻衣 大阪府出身。日本各地の農山漁村 を訪ね、伝統的な食文化や暮らしに ついて、調査研究を行う。日本の食 文化を次世代へ継承するために、執 筆、講演など、さまざまな形で活動中。 清 絢 (きよし・あや) 春:ポピー 夏:ヒマワリ 秋:コスモス 冬:ストック あわじ花さじき 四季の花々 15haの 園 内 には、い つ 訪れても色鮮やかな花畑 が広がり、春は菜の花や ポピー、夏はヒマワリやク レオメ、秋はサルビアやコ スモス、冬はストックが見 頃に。近隣の馬術クラブ の散歩コースでもあり、馬 に出会うことも 西15 70 %使50 14 2015 4 月号 15 2015 4 月号 14 2015 4 月号

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Page 1: 「ちょぼ汁」の故郷を巡る 母子の健康を願う 心をリフレッ …第1 1回 県淡 母子の健康を願う 「ちょぼ汁」の故郷を巡る 食文化研究家のわたくし清

食文化研究家・清

きよし

絢あ

特集2

車で 1 3 分 車 で 3 3 分

パルシェ 香りの館 あわじ花さじき

館内では、お香作りやエッセンシャルオイルの抽出などの体験メニューを実施。その他、新鮮野菜のマルシェ(土日のみ)やフクシア大温室、「香りの宿」には温泉もある。淡路島ビュッフェは大人1,650円(税込)。ディナータイムには腕利きシェフのフランス料理が味わえる(要予約)

第11回

兵庫県淡路市回回回回

兵庫兵庫兵兵庫県淡県県 路路路第1第1第1第11回1回1回1回

兵庫兵庫兵庫兵庫県淡県淡県淡県淡路路路路

母子の健康を願う

「ちょぼ汁」の故郷を巡る

食文化研究家のわたくし清 絢が日本各地の郷土食を巡る旅もいよいよ最終回。四季を感じながら、その地方らしい風土と文化に触れる旅は、貴重な出会いの連続でした。そんな連載の最後に訪ねたのは、出産祝いの伝統料理として受け継がれた、だんご入りの汁物「ちょぼ汁」です。そこには、お母さんの体をいたわる工夫が詰まった、名実ともに温かい料理がありました。文/清 絢 写真/川端正吾 イラスト/竜田麻衣

大阪府出身。日本各地の農山漁村を訪ね、伝統的な食文化や暮らしについて、調査研究を行う。日本の食文化を次世代へ継承するために、執筆、講演など、さまざまな形で活動中。

清 絢 (きよし・あや)

春:ポピー 夏:ヒマワリ

秋:コスモス 冬:ストック

あわじ花さじき

四季の花々

季節の花が咲き誇る丘で

心をリフレッシュ

味わい

ふれあい

出会い旅

15haの園内には、いつ訪れても色鮮やかな花畑が広がり、春は菜の花やポピー、夏はヒマワリやクレオメ、秋はサルビアやコスモス、冬はストックが見頃に。近隣の馬術クラブの散歩コースでもあり、馬に出会うことも

淡路島を食べつくす

大満足のビュッフェ

 

明石海峡大橋を渡ってやってきた

兵庫県の淡路島は、古来より朝廷へ

食料を献上する〝御みけつ食

国くに

〞と称された

「食の島」。ここには、産後の女性

をねぎらい、赤ちゃんの健やかな成

長を願って食べる「ちょぼ汁」という

汁物が伝わっています。

 

まずは、小高い丘の上にある「あ

わじ花さじき」へ。広大な敷地に花

のじゅうたんが広がり、明石海峡や

大阪湾、関西国際空港まで望めます。

「淡路島は花の島でもあるんです

よ。2000年には国際園芸・造園博

〝ジャパンフローラ2000〞(通称:

淡路花博)が開かれ、今年は15周年

を記念して〝淡路花博2015

花み

どりフェア〞が開催されます」と広報

の細川浩ひろ

嗣つぐさん。

 

愛らしい花々と雄大な風景を眺め

るのも気持ちいいものですね。

 

次に訪ねたのは、日本のお線香生

産量の70%を占める淡路市一宮地区

にある、香りをテーマにした施設「パ

ルシェ

香りの館」。

「館内にある『レストラン ベルレー

ヌ』のランチタイムには、淡路島産の

豊富な食材を使った約50種類の料理

をビュッフェ形式で味わえます。淡路

特産のタマネギや淡路牛はもちろん、

伝統料理も知ってもらいたいので、ちょ

ぼ汁も提供しているんです」と企画

リーダーの岩井宣樹さん。

 

人気のランチには観光客だけでな

く地元の人も大勢やってきます。

142015   4月号15 2015   4月号 142015   4月号

Page 2: 「ちょぼ汁」の故郷を巡る 母子の健康を願う 心をリフレッ …第1 1回 県淡 母子の健康を願う 「ちょぼ汁」の故郷を巡る 食文化研究家のわたくし清

しづかグループ淡路島

フルーツ農園

淡路出身の中谷 学さんがサラリーマン生活を終え、Uターンして始めた農園。淡路の農業に新しい風をと試行錯誤し、2年前にはカフェもオープン。連日多くの観光客でにぎわう。季節に応じてブドウ、ミカン、サツマイモ掘り体験なども可能

ちょぼ汁の作り方●材料(4人前)いりこだし……700mlササゲ……180gズイキ……20gもち粉……100g味噌……80gかつお節……適量

ズイキをぬるま湯で戻して1㎝の長さに切り、ゆがいてあくを抜き、水けを絞っておく。

いりこだしを鍋に入れ、ササゲとズイキを加えて煮る。

もち粉を同量程度の水で耳たぶほどのかたさにこねて、1.5㎝大くらいのだんごにする。

ササゲとズイキがやわらかくなったらだんごを入れ、だんごが浮き上がってきたら味噌で味をととのえて完成。器によそい、かつお節をのせる。

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※下ごしらえ● ササゲを洗って水に3時間浸し、一度煮こぼして、たっぷりの水でやわらかく煮る。

❶ あわじ花さじき   兵庫県淡路市楠本2865-4  ☎0799-74-6426❷ パルシェ 香りの館  兵庫県淡路市尾崎3025-1  ☎0799-85-1162❸ 淡路島フルーツ農園  兵庫県淡路市上河合173  ☎0799-85-2696❹ 伊弉諾神宮   兵庫県淡路市多賀740  ☎0799-80-5001 

車で 4 分

伊弉諾神宮

カリウムやカルシウムが豊富なズイキは、産後の女性の体力が早く回復するようにと食されてきた。しづかグループのみなさんは阪神・淡路大震災を乗り越え、20年以上も活動を続けている。郷土料理のたこ飯や若者向けに考案されたズイキとササゲのご飯も作ってくださった

境内にある樹齢900年の夫め お と

婦大おおくす

楠には、夫婦神が宿ると信じられ、多くの絵馬が掛けられている。夫婦円満の御ご

神しん

鳥ちょう

セキレイの石碑など、子授け、安産にご利益がありそうなモチーフがあちこちに。夫婦神が描かれた大熊手も正月期間限定で授与される

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もち粉は水を少しずつ加えて練ってね!

国生み神話を体感できる

神聖な空間

真っ赤なイチゴやスイーツが食べられる!

ちょこっと寄り道

お母さんの体を癒やし

心も温まる郷土汁

 

次に立ち寄ったのは、季節ごとに

果物狩りができる「淡路島フルーツ

農園」。併設のカフェには、果物を

使ったスイーツもあり、旅の途中に

一息つけるスポットです。

 

続いて「伊いざなぎ

弉諾神宮」へ。淡路島

がなぜ〝御食国〞と呼ばれたのか、宮

司の本ほんみょう名孝たか

至し

さんに聞きました。

「『万葉集』では〝御食向ふ淡路の国〞

と詠まれているんです。東は大阪湾、

西は播磨灘、南は太平洋に囲まれ、

海の幸が豊富で、製塩も盛んでした。

さらに瀬戸内式気候で暖かく、イノ

シシやシカ、野菜や果物から、いに

しえのチーズといわれる〝蘇そ

〞まで献

上していたようです。そんな豊かな

土地だったからこそ、『日本書紀』の

中で国生み神話の舞台に淡路島が選

ばれ、御食国にもなれたのでしょう」

と本名さん。

 

伊いざなぎの

弉諾大お

神かみ

と伊い

ざなみの

弉冉大お

神かみ

の夫婦神

を祀る神宮は、夫婦円満や子授けに

ご利益があると、多くの参拝客が訪

れます。そうした出産や赤ちゃんに

まつわる郷土料理が、今回ご紹介す

るちょぼ汁なのです。

 

作り方を教えてくれるのは、志し

筑づき

地区で農産物の直売所を運営する

「しづかグループ」のみなさん。

「ちょぼ汁は、ササゲとズイキ(芋

茎)のたっぷり入っただんご汁でね、

産後のお母さんのために作るもの。

ズイキは古い血を下ろして血をきれ

いにして、お乳の出もよくなるって、

女性の体をいたわるために食べられ

たんよ」と、池田美重子さん。

 

かつては、出産した女性の母親が

材料を持って里から訪れ、作ったも

のでした。だんごの形にも意味があ

り、女児が産まれたらまんまるに、

男児なら先をとがらせて、健やかな

成長を願いました。料理名は「おちょ

ぼ口のようにかわいらしく育ってほ

しい」という意味も込められている

のだとか。赤ちゃんをお披露目する

日には、親戚や近所にも振る舞う習

慣があったそうです。

 

一見ぜんざいのようですが、食べ

てみると、いりこだしの味噌汁で

ごはんによく合い、食べ応えも十分。

産後の疲れきった体にも元気が湧い

たことでしょう。最近は、島内のイ

ベントでちょぼ汁を振る舞い、多く

の人に魅力を伝えているみなさん。

「自分がおばあちゃんになるときに

は娘に作ってあげたい」と言う若い

方も増えてきたとか。母子の健康と

成長を願う温かい思いとともに、こ

れからも淡路の母の味として、受け

継がれてほしいと願っています。

162015   4月号17 2015   4月号