わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成...187...
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わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題第1節
経済のグローバル化、円高等を背景に、アジアを中心とした海外へのものづくり企業の進出が続いている中、国内のものづくりの意義が改めて問われている。
このことは、国内のものづくりを否定するものではなく、国内におけるものづくりのレベルの維持と更なる向上が不可欠であるということであり、それは、これから将来、未来に向かってそれを担う若年人材にかかっているということに疑問の余地はないであろう。
そこで、国内のものづくり産業(製造業)の企業が、若年ものづくり人材(若年技能系社員)をいかに確保し、育成しようとしているか、併せて、これらの面でどのような課題を抱えているかについて見ていくこととする。
なお、本節で引用している統計数値は、他に断りのない限り、(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査」(2010年9月から10月に実施)によるものである。
(1)募集・採用・定着の現状と取組①若年技能系正社員の募集・採用
(ア)募集・採用の状況過去3年間の若年技能系正社員の採用状況を見ると、新
規学卒者の採用(新卒採用)ありとする企業の割合は、大企業9割に対して、中小企業は5割半ばである。一方、勤務経験のある35歳未満の者の採用(若年中途採用)ありとする企業の割合は規模による差はなく、大企業、中小企業とも6割が採用ありとしている(図311-1)。
(イ)技能系正社員としてどのような者を採用しているか採用した新卒技能系正社員のうちで最も多い学歴とし
1.将来を担う若年人材の確保の現状
ては、大企業、中小企業とも「工業高校卒」とする企業が最も多く、次いで「工業高校以外の高校卒」、「大卒・理系」であり、これらを合わせれば8割を占める。なお、
「工業高校卒」については規模別に差があり、「工業高校卒」が最多とする大企業は約半数であるのに対して、中小企業は3割強である(図311-2)。
一方、若年中途採用者の態様を見ると、大企業、中小企業とも「同業他社で働いた経験のある人」とする企業が最も多く、次いで「色々な業界で働いてきた人」「仕事をする上で義務付けられた職業資格の保有者」と続く(図311-3)。
(ウ)若年技能系正社員の募集の目的過去3年間における若年技能系正社員の採用目的は、新
卒採用は過半数の企業が「企業の中核となる人材を育成するため」「高齢従業員の退職に伴う労働力不足に備えるため」としており、次いで「企業全体の若返りを図るため」
「企業全体の年齢構成のゆがみを是正するため」「社内に若
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
採用した 募集を行なったが採用しなかった 募集を行わなかった 無回答
0 20 40 60 80 100(%)
(%)0 20 40 60 80 100
中小企業
大企業
中小企業
大企業
(中途採用)
(新卒採用)
図311-1 過去3年間の技能系正社員の採用の有無(企業規模別)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中学卒 工業高校卒 工業高校以外の高校卒 高等専門学校卒 職業訓練校卒短大・専門学校卒 大卒・理系 大卒・文系 大学院卒 その他 無回答
0 20 40 60 80 100 (%)
中小企業
大企業
図311-2 採用した新卒技能系正社員の最終学歴で最も多いもの(企業規模別)
わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章第3章
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年者の新しい感性を取り入れるため」と続く。一方、若年中途採用は「即戦力となる人材がほしいため」とする企業が7割超と圧倒的に多く、次いで「高齢従業員の退職に伴う労働力不足に備えるため」「企業の中核となる人材を育成するため」「職業意識を身につけた人材を採用したいため」と続く。規模による大きな差はない(図311-4)。新卒採用は「将来の中核人材として」、若年中途採用は「即戦力かつ将来の中核人材として」実施しているといえよう。
(エ)若年技能系正社員の採用に当たっての取組若年技能系正社員の採用に当たっての取組として、「イン
ターンシップ」「トライアル雇用」「紹介予定派遣」の活用状況を見ると、「インターンシップ」と「トライアル雇用」については規模による差が見られ、「インターンシップ」は大企業の6割、中小企業の4割が活用・関心ありとしているのに対し、「トライアル雇用」は大企業の2割半ば、中小企業の4割が活用・関心ありと、「インターンシップ」は大企業、「トライアル雇用」は中小企業という傾向がある。「紹介予定派遣」は規模にかかわらず活用・関心は低い(図311-5)。
中小企業 大企業
無回答
その他
大学や研究機関などに知り合いのいる人
新人のメンター的存在(面倒見のよい先輩)
語学が堪能な人
高学歴者
情報機器・ソフトなどに詳しい人
職場・現場のリーダー的存在
大企業で働いてきた人
仕事をする上で義務付けられた職業資格の保有者
色々な業界で働いてきた人
同業他社で働いていた経験のある人
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
0 20 40 60
図311-3 過去3年間に中途採用した若年技能系正社員の態様(企業規模別)(複数回答)
新卒採用 中途採用
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
その他
職業意識を身につけた人材を採用したいため
即戦力となる人材がほしいため
社会や行政の要請にこたえるため
中高年者の採用より人件費などのコスト削減が期待できるため
社内に若年者の新しい感性を取り入れるため
企業全体の年齢構成のゆがみを是正するため
企業全体の若返りを図るため
高齢従業員の退職に伴う労働力不足に備えるため
企業の中核となる人材を育成するため0 20 40 60 80
図311-4 若年技能系正社員としての採用の目的(「募集は行っていない」「無回答」を除く割合)(全体)(複数回答)
(インターンシップ)
(トライアル雇用)
(紹介予定派遣)
すでに実施している 今後予定・検討中実施予定なし 無回答
大企業
中小企業
大企業
中小企業
大企業
中小企業
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・ 能力開発に関する調査(2010年)」
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
(%)
(%)
(%)
図311-5 若年技能系正社員の採用に当たっての取組(企業規模別)
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(オ)若年技能系正社員の募集・採用についての考え過去3年間の若年技能系正社員の採用方針は、規模によ
る差が見られ、大企業では「新卒採用中心」とするものが8割であるのに対して、中小企業では「新卒採用中心」4割半ば、「中途採用中心」5割強となっている(図311-6)。
また、過去3年間の新卒採用について、「求める人数の採用ができたかどうか」「求めているレベルの人材が採用できたかどうか」、すなわち新卒採用の量と質についてどのように受け止めているかを見ると、中小企業は大企業よりも、いずれの項目とも満足していないと感じているものが多い(図311-7)。②採用した若年技能系正社員の定着
6割超の企業が、採用した若年技能系正社員の3年後の定着率は8割以上としており(図311-8)、過半数の企業が、若年技能系正社員の定着状況は3年前と比べて悪化していないと認識している(図311-9)。これらのことは、規模による差、新卒採用か中途採用かによる差は大きくない。一方、若年技能系社員の定着状況について、問題視していないと考える企業の割合は、大企業7割に対し、
そう思う どちらかといえばそう思うどちらかといえばそう思わない そう思わない 無回答
大企業
中小企業
大企業
中小企業求人に対する応募が少ない
求めているレベルの人材が採用できない
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に 関する調査(2010年)」
0 20 40 60 80 100(%)
図311-7 過去3年間の新卒技能系正社員の募集・採用に関する考え(企業規模別)
(新卒採用)
(中途採用)
8割以上 5~7割台 5割未満
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・ 能力開発に関する調査(2010年)」
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
大企業
中小企業
大企業
中小企業
(%)
(%)
図311-8 若年技能系正社員の採用後3年超定着率(「無回答」を除く割合)(企業規模別)
中小企業
大企業
200 40 60 80 100(%)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・ 能力開発に関する調査(2010年)」
いる いない 無回答
図311-11 若年技能系非正社員の有無
中小企業は5割半ばであり(図311-10)、中小企業は大企業よりも、若年技能系社員の定着状況について、問題視していないと考えている割合が低い。
(2)非正社員の状況①若年技能系非正社員の有無
製造現場でものづくりに携わっている若年非正社員がいるかどうかについては、企業規模により差があり、中小企業は「いる」とするものが3割強に対し、大企業はほぼ6割が「いる」としている(図311-11)。※「非正社員」とは、雇用されている「パートタイム社
員」や「期間工」「季節工」「契約社員」等と呼ばれるフルタイム契約社員を指す。「派遣労働者」「請負労働者」等直接雇用関係にない者は含まない。
②正社員への登用若年技能系非正社員の正社員への登用については、「登
用制度がある」と「制度はないが慣行で登用もある」と
新卒採用が中心 どちらかといえば新卒採用が中心どちらかといえば中途採用が中心 中途採用が中心 無回答
大企業
中小企業
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に 関する調査(2010年)」
0 20 40 60 80 100(%)
図311-6 過去3年間の若年技能系正社員の採用方針(企業規模別)
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成
190
(中途採用)
(新規採用)(%)
(%)
高まった やや高まった 横ばい やや低くなった 低くなった 無回答
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業
大企業
中小企業
大企業
0 20 40 60 80 100
0 20 40 60 80 100
図311-9 若年技能系正社員の採用後3年超定着率の変化(企業規模別)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業
大企業
0% 20% 40% 60% 80% 100%
まったく問題視していない あまり問題視していない やや問題視している 非常に問題視している 無回答
図311-10 若年技能系正社員の定着状況についての考え(企業規模別)
中小企業
大企業
200 40 60 80 100(%)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
ある 制度はないが、慣行として正社員に登用されることがある制度も慣行もないが、制度の設置を検討中無回答
度・慣行ともなく、制度の設置も検討していない
図311-12 技能系非正規社員の正社員への登用制度の有無(企業規模別)
を合わせると、大企業では7割近く、中小企業では半数強となり、多くの企業が若年技能系非正社員の正社員登用を行っていることがわかる(図311-12)。
若年技能系非正社員の正社員登用に当たってどのよう
な点を重視しているかを見ると、7割超が「仕事に対する意欲」を重視するとしており、次いで「技能・知識のレベル」を6割半ばが、「登用時までの実績」を半数強が重視するとしている(図311-13)。
191
するものは2割強であるのに対して、中小企業は4割弱が「長い・やや長い」としており、大企業よりも厳しい評価をするものが多い(図312-2、図312-3)。
②若年技能系正社員の能力水準の評価若年技能系正社員の能力水準を企業がどのように評価
しているかを見ると、「理解力」、「仕事の遂行能力」、「責任感」、「担当業務に必要な専門知識・技能」、「判断力」、
「達成意欲・チャレンジ精神」、「コミュニケーション能力」を、大企業、中小企業ともに過半数が「期待する水準以上」と評価している。対して、「トラブルに対処する能力」、
(1)若年技能系正社員の能力水準についての評価①技能系正社員としての「一人前」のレベル
企業規模にかかわらず、ほとんど(8割)の企業が「単独で仕事をこなせるレベル以上」を「一人前」としている(図312-1)。
製造業務未経験から「一人前」にするための育成期間として「3年から10年」とするものが8割強である。この育成期間については企業規模による差はないが、大企業は7割強が「想定どおり」とし、「長い・やや長い」と
2.将来を担う若年人材の育成・能力開発の現状
中小企業
大企業
0 20 40 60 80 100(%)
先輩・上司の細かな指示で仕事をこなせるレベル 先輩・上司の大まかな指示で仕事をこなせるレベル 単独で仕事をこなせるレベル部下や後輩に指示や助言をしながら仕事をさせられるレベル 職場で最も難しい仕事をこなせるレベル 無回答
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
図312-1 技能系正社員として「一人前」のレベル
仕事に対する意欲
技能・知識のレベル
登用時までの実績
協調性
登用後の将来性
仕事内容や職種の変更に応じられること
年齢
登用時までの勤続期間
学歴
その他
無回答
20.0 40.0 60.0 80.0 100.00.0
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業 大企業
図311-13 技能系非正社員の正社員登用に当たっての重視事項(企業規模別)(複数回答)
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成
192
(%)
中小企業
大企業
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
長い やや長い 想定通り やや短い 短い 無回答
0 20 40 60 80 100
図312-3 若年技能系正社員を「一人前」にするための育成期間の評価
中小企業
大企業
200 40 60 80 100(%)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
3年未満 3年以上~5年未満 5年以上~10年未満10年以上~15年未満 15年以上 無回答
図312-2 若年技能系正社員を「一人前」にするための育成期間
過半数が「期待する水準より低い」と評価している。また、全体的に中小企業は大企業より満足度が低く、より厳しい評価をしている(図312-4)。
「発想力・立案力」、「リーダーシップ」、「関連業務や全社業務に関する幅広い知識」については、大企業の過半数が「期待する水準以上」と評価する一方、中小企業では
(%)
期待する水準に比べて高い 期待する水準に比べてやや高い
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業中小企業大企業
理解力
仕事の遂行能力
責任感
担当業務に必要な専門知識・技能
判断力
達成意欲・チャレンジ精神
コミュニケーション能力
トラブルに対処する能力
発想力・立案力
リーダーシップ
関連業務や全社業務に関する幅広い知識
0 20 40 60 80 100
ほぼ期待する水準に達している 期待する水準に比べてやや低い期待する水準に比べて低い 無回答
図312-4 若年技術系正社員の平均水準の評価(企業規模別)
193
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業 大企業
0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0
仕事の遂行能力
達成意欲・チャレンジ精神
責任感
コミュニケーション能力
発想力・立案力
トラブルに対処する能力
判断力
リーダーシップ
理解力
無回答
関連業務や全社業務に関する幅広い知識
担当業務に必要な専門知識・技能
図312-5 若年技能系正社員に身につけてほしい、重視している項目(企業規模別)(2つ選択)
を挙げるものが多い(図312-5)。これらは、若年技能系正社員の能力として満足度が高いものと重なっており、企業がこれらの能力をより重視していることがわかる。
③若年技能系正社員に身につけて欲しい能力若年技能系正社員に身につけて欲しい、最も重視する項
目を尋ねたところ、大企業、中小企業ともに、「仕事の遂行能力」、「達成意欲・チャレンジ精神」、「担当業務に必要な専門知識・技能」、「責任感」、「コミュニケーション能力」
重視しているが、中小企業においては大企業に比べて現場を離れた取組は弱いと言える。
② Off-JT の意義は評価現場を離れて行う「研修などの Off-JT」を実施してい
るのは、大企業6割弱に対して、中小企業3割強である(図312-6)。これらの企業がどのような内容の Off-JT を実施しているかを見ると、大企業、中小企業ともに「仕事や作業をスムーズに進める上で必要な専門知識・技能を習得させるためのもの」、「仕事に関連した資格を取得するためのもの」を6割あるいはそれ以上のものが実施している。また、4割半ばのものが「仕事をする上で基本的な心構えを身につけさせるためのもの」を実施している。
「OJT では習得が難しい体系的な知識・技能を習得させるためのもの」については、規模による差が見られ、大企業の過半数がこれを実施しているのに対し、中小企業では4割に満たない(図312-7)。
現在 Off-JT を実施していない企業も含めて、若年技能系正社員の育成・能力開発に当たって今後 Off-JT を増やすかについて尋ねたところ、半数弱の企業が「増やしたい」としており、「減らしたい」とするものはほとんどない。
(2)若年技能系正社員の育成・能力開発の取組①若年技能系正社員の育成・能力開発のために実施して
いる取組中小企業の過半数が実施しているとしている取組は、
「仕事の内容を吟味して、やさしい仕事から難しい仕事へと経験させる」と「作業標準書や作業手順書を使って進めている」であり、次いで「指導者を決めるなどして計画的に進める OJT」を挙げるものが半数弱となっている。一方、大企業では、「作業標準書や作業手順書を使って進めている」、「職場における改善・提案の奨励」、「指導者を決めるなどして計画的に進める OJT」がほぼ7割となっている。中小企業においては大企業に比べて「作業標準書や作業手順書を使って進めている」、「指導者を決めるなどして計画にそって進める OJT」の取組の割合が弱い。このことは中小企業においては大企業に比べて若年技能系正社員の育成・能力開発におけるマニュアル、計画の整備が弱いと言える。
さらに、大企業では、「職場における小集団活動・QCサークル等の活動」、「研修などの Off-JT」、「自己啓発活動の支援」を過半数が実施しているとしている(図312-6)。大企業、中小企業ともに「現場直結」の取組を
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成
194
仕事の内容を吟味して、やさしい仕事から難しい仕事へと経験させる
作業標準書や作業手順書を使って進めている
指導者を決めるなどして計画にそって進めるOJT
職場における改善・提案の奨励
主要な担当業務のほかに、関連する業務もローテーションで経験させる
研修などのOff-JT(職場を離れた教育訓練)
職場における小集団活動・QCサークル等の活動
新規の業務にチャレンジさせる
1~9のような取組みは実施していない
無回答
自己啓発活動(通信教育の受講、テキストの購入、セミナー参加など、職業に関する能力を自発的に開発・向上させるための活動)の支援
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業 大企業
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0
図312-6 若年技能系正社員の育成・能力開発のために実施している取組(企業規模別)(複数回答)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業 大企業
仕事や作業をスムーズに進める上で必要な専門知識・技能を
習得させるためのもの
仕事に関連した資格を取得するためのもの
4S(整理・整頓・清掃・清潔)など、仕事をするうえで基本的な心構えを
身につけさせるためのもの
OJT では習得が難しい体系的な知識・技能を習得させるためのもの
新たに導入された( 導入予定の)設備機器等の操作方法に関する知識・技能を習得させるためのもの
グループ・ディスカッション、ワークショップなどの形式で
様々な課題について検討していくもの
その他
無回答
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0
図312-7 Off-JTの内容(企業規模別)(複数回答)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業 大企業
仕事や作業をスムーズに進める上で必要な専門知識・技能を
習得させるためのもの
仕事に関連した資格を取得するためのもの
4S(整理・整頓・清掃・清潔)など、仕事をするうえで基本的な心構えを
身につけさせるためのもの
OJT では習得が難しい体系的な知識・技能を習得させるためのもの
新たに導入された( 導入予定の)設備機器等の操作方法に関する知識・技能を習得させるためのもの
グループ・ディスカッション、ワークショップなどの形式で
様々な課題について検討していくもの
その他
無回答
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0
図312-7 Off-JTの内容(企業規模別)(複数回答)
中小企業
大企業
増やしたい やや増やしたい 現状維持やや減らしたい 減らしたい 無回答
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力 開発に関する調査(2010年)」
0 20 40 60 80 100(%)
図312-8 若年技能系正社員の育成・能力開発に当たり、現在よりもOff-JTを増やすか(企業規模別)Off-JT の意義が認識されていることがわかる(図312-8)。さらに、その Off-JT により今後力を入れて取り組みた
い項目については、「仕事や作業をスムーズに進める上で必要な専門知識・技能を習得させるためのもの」を6割の企業が挙げ、規模によらず最も多い。次いで、大企業では4割半ばが「OJT では習得が難しい体系的な知識・技能を習得させるためのもの」を挙げるのに対して、中小企業ではほぼ半数が「仕事をする上で基本的な心構えを身につけさせるためのもの」を挙げる(図312-9)。職場を
195
10.00.0 20.0 30.0 50.040.0 70.060.0
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業大企業
仕事や作業をスムーズに進める上で必要な専門知識・技能を習得させるためのもの
4S(整理・整頓・清掃・清潔)など、仕事をするうえで基本的な心構えを身につけさせるためのもの
仕事に関連した資格を取得するためのもの
OJT では習得が難しい体系的な知識・技能を習得させるためのもの
担当する業務と関連する技術分野について学習させるためのもの
新たに導入された( 導入予定の ) 設備機器等の操作方法に関する知識・技能を習得させるためのもの
グループ・ディスカッション、ワークショップなどの形式で様々な課題について検討していくもの
その他
力を入れて取り組みたいものは特にない
無回答
図312-9 Off-JTのうち、今後力を入れて取り組みたいもの(企業規模別)(複数回答)
200 40 60 80 100
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業大企業
受講料などの金銭的援助
教育訓練機関、通信教育等に関する情報提供
社内での自主的な勉強会等に対する援助
就業時間の配慮
教育訓練休暇(=社員が教育訓練に活用できる休暇)の付与
キャリアに関する相談機会を設ける
その他
無回答
図312-10 自己啓発活動の支援の内容(企業規模別)(複数回答)
いるのは、大企業過半数強に対して、中小企業3割足らずと、規模により差が見られる。支援の内容としては、大企業、中小企業とも、「受講料等の金銭的支援」を9割超が実施しており、次いで過半数が「教育訓練機関等の情報提供」を実施している(図312-10)。
離れた教育訓練である Off-JT についても、大企業に比べて中小企業は現場の基本的及び専門的な内容により関心があるようだ。
③自己啓発活動の支援通信教育の受講等職業に関する能力を自発的に開発・
向上させるための自己啓発活動に対する支援を実施して
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成
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(3)若年技能系正社員の育成・能力開発の体制①育成・能力開発の責任の所在
企業規模にかかわらず、若年技能系正社員の育成・能力開発はほとんどの企業が「企業の責任」で「現場主導」で進めるとしているが、「従業員個々人の責任で進める」とするものの割合が中小企業の方が高いことが見てとれる(図312-11)。
②育成の担当若年技能系正社員育成の主担当者については、「直属の
上司」、「ベテランの技能系正社員」とするものが多く、「現場主導」で進めるとしていることと符合している。企業規模別に見ると、大企業ではこれらに次いで「年の近い技能系社員」とするものが多くなっており、中小企業との間で差が見られる(図312-12)。
(責任の所在)
企業の責任で進める 企業の責任で進める、に近い従業員個々人の責任で進める、に近い 従業員個々人の責任で進める 無回答
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する 調査(2010年)」
0 20 40 60 80 100(%)
中小企業
大企業
(主導する部署)
現場主導で進める 現場主導で進める、に近い人事・労務部門などを中心に進める、に近い 人事・労務部門などを中心に進める 無回答
(%)0 20 40 60 80 100
中小企業
大企業
図312-11 若年技能系正社員の育成・能力開発の責任の所在等(企業規模別)
50 15 25 3510 20 30 40
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業大企業
直属の上司
ベテランの技能系正社員
年の近い技能系正社員
社長・役員などの経営トップ層
定年後継続雇用されている技能系社員
その他
無回答
図312-12 若年技能系正社員育成の主担当者(企業規模別)
10.00.0 20.0 30.0 40.0 50.0
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
中小企業大企業
管理者・監督者に部下の育成計画を立てさせる
部下の教育・管理に関する研修
部下の教育に関する項目を管理者・監督者の評価項目とする
管理者・監督者に、部下の教育についてのマニュアルを配布
その他
管理者・監督者を対象とした取組みは特には行っていない
無回答
図312-13 若年技能系正社員育成のために職場の管理者・監督者を対象に実施している取組(企業規模別)(複数回答)
197
中小企業
大企業
うまくいっている ある程度うまくいっているあまりうまくいっていない まったくうまくいっていない 無回答
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%)
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に 関する調査(2010年)」
図312-14 若年技能系正社員の育成・能力開発がうまくいっているか(企業規模別)
育成をになう中堅層の従業員が不足しているから
効果的に教育訓練を行うためのノウハウが不足しているから
若年・正社員に新しい技能や知識を身につけようという意欲がないから
新たに製造現場に配属される若年技能系正社員が少ないから
職場の従業員の数に比べて仕事の量が多すぎるから
従業員が短期的な成果を求められるようになっているから
従業員教育のための予算や施設が不足しているから
育成・能力開発につながる仕事に若年・正社員を配置することが難しいから
技術進歩の速さにベテラン従業員がついていっておらず、指導できないから
その他
無回答
中小企業 大企業
0.0 20.0 40.0 60.0 80.0
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
図312-15 若年技能系正社員の育成・能力開発がうまくいっていない理由(企業規模別)(複数回答)
③育成のための職場の管理・監督者に対する取組若年技能系正社員育成のために職場の管理・監督者に
どのような取組を実施しているかを見ると、企業規模により差がみられる。すなわち、大企業では、ほぼ半数が
「管理者・監督者に部下の育成計画を立てさせる」、「部下の教育・管理に関する研修」を実施しているとしている。一方、中小企業でもこれらの取組を実施しているものもあるものの、「管理者・監督者を対象とした取組は特に行っていない」とするものが最も多くなっている(図312-13)。「現場主導」で若年技能系正社員の育成・能力開発を行う
としつつ、中小企業においてはその体制は弱い状況にある。
(4)若年技能系正社員の育成・能力開発がうまくいっているか6割超の企業が若年技能系正社員の育成・能力開発は
「うまくいっている・ある程度うまくいっている」と肯定的に評価しているが大企業では、8割強、中小企業は6割半ばとなっており、中小企業は大企業より「うまくいっている・ある程度うまくいっている」とする割合が低い
(図312-14)。「あまりうまくいっていない・まったくうまくいってい
ない」と否定的に評価しているものは、中小企業で3割、大企業で2割弱であるが、その理由を見ると、大企業のほぼ7割、中小企業のほぼ6割が「育成を担う中堅層の従業員が不足しているから」を挙げ、次いで、大企業の過半
数、中小企業の4割半ばが「効果的に教育訓練を行うためのノウハウが不足しているから」を挙げる。中小企業では、次いで3割半ばが「若年正社員に新しい技能や知識を身につけようとする意欲がないから」を挙げているが、これを挙げる大企業は1割と明らかに差がある(図312-15)。
(5)非正社員の教育訓練・キャリア形成支援若年技能系非正社員に対する教育訓練・キャリア形成
支援の取組としては、一部の若年技能系非正社員に対するものを含めて、大企業、中小企業とも過半数が「改善提案・QC サークルの奨励」、「計画的 OJT」を実施し、次いで、「採用時社内研修」を大企業の過半数、中小企業も4割半ばが実施している。一方、「社外研修」、「自己啓発活動奨励・支援」、「キャリア相談」という現場を離れての取組は少ない(図312-16)。
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成
198
中小企業大企業
改善提案・QCサークルの奨励
中小企業大企業
計画的OJT
中小企業大企業
採用時社内研修
中小企業大企業
定期的社内研修
中小企業大企業
社外研修
中小企業大企業
キャリア相談
中小企業大企業
自己啓発活動奨励・支援
若手非正社員全員に実施 一部の若手非正社員を対象に実施 実施していない 無回答
0% 20% 40% 60% 80% 100%
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
図312-16 若年技能系非正社員に実施している教育訓練・キャリア形成支援(企業規模別)
企業は、若年技能系正社員の育成・能力開発はおおむねうまくいっていると認識しているが、特に、中小企業における若年技能系正社員の確保、現場の育成・能力開発体制の充実といった課題が照らし出された。これらの課題に効果的に対応するための取組・支援の実施が必要である。
(1)中小企業の新規学卒人材確保に向けた取組の推進中小企業に応募した理由として「やりたい仕事に就け
3.将来を担う人材の育成を巡る課題と対応 る」、「企業として独自の強みがある」、「会社の雰囲気がよい」、「出身地・地元に本社がある」が挙げられており、逆に、中小企業に応募しなかった理由としては、「知名度が低い」が「安定性に欠ける」とともに最も多く挙げられている。就職先として地域の中小企業が大学卒業予定者に知られていないという実態が示されている(図313-1)。
ハローワークに配置されたジョブサポーターによる地域の大学生を始めとした高校・大学生・求職生徒・中小企業間の日常的な情報疎通や相談活動の実施、地域における中小企業を対象とした就職面接会の開催、マッチングの促進といった取組の意義は非常に大きい。
より基本的には若者に製造業に興味を持ってもらう
やりたい仕事に就ける
企業として独自の強みがある
会社の雰囲気が良い
出身地・地元に本社がある
仕事の裁量が大きい
0 2010 30 40 50
資料:(株)ディスコ「日経就職ナビ 2011 就職活動モニター調査」(2010年10月)
〔応募した理由〕
安定性に欠ける
知名度が低い
福利厚生が不十分
給与待遇が良くない
競争力が弱い
0 2010 30 40 50〔応募しない理由〕
図313-1 中小企業への応募についての大学生の考え(複数回答の上位5位)
199
講師として学校に派遣したり、生徒の職場見学・体験を受け入れる取組が多く実施されており、中小企業の側からのこのような活動が引き続き積極的に推進されることが期待される。
ことが必要と思われるが、そのために重要な点として、「小・中学校等において、ものづくりの現場に触れ、技術者や技能者から話を聞く機会を増やす」を挙げる企業が多い(図313-2)。実際、ハローワークの依頼により、地域の中小企業事業主団体等が経営者や技術者・技能者を
図313-3 (独)雇用・能力開発機構(現:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構)が実施する在職者訓練、事業主支援の実績
平成20年度 平成21年度在職者訓練 受講者数 38,964人 33,148人
施設貸与 延件数 11,837件 12,651件指導員派遣 延人数 3,934人 3,696人
資料:厚生労働省職業能力開発局
小・中学校などにおいて、ものづくり現場に触れ、技術者や技能者から話を聞く機会を増やす。
工業高等学校などにおいて、より知識習得に重点を置いた教育を増やす。
高等専門学校、工業系大学・大学院などにおいて産学連携の機会を増やす。
待遇の改善がなされない限り、妙案はない。
製造業離れは特に感じていない、または特に問題だと感じていない。
無回答
0 2010 30 40 50
資料:(独)労働政策研究・研修機構「若年技能系社員の育成・能力開発に関する調査(2010年)」
図313-2 製造業に興味をもってもらうための重点(全体)
利用したことがある 利用したことはない 不明
中小企業
大企業
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100(%)
資料:厚生労働省「能力開発基本調査(2010年)」
図313-4 キャリア形成促進助成金の利用状況(製造業・企業規模別)
用を促進することが重要である。中小企業は Off-JT の意義を評価し関心もあるもののそ
の活用は不十分であること、自己啓発支援が弱い一方で、若年社員自身の向上意欲に満足していない面も見られた。上述のオーダーメイドも可能な在職者訓練は的確な Off-JT の機会であり、また、従業員の Off-JT に係る賃金・経費等や自己啓発支援に係る経費等について助成する制度である「キャリア形成促進助成金」について、本助成金を利用した製造業事業主のほとんどが、これが従業員の訓練や能力評価に結びついたと評価しているところである(図313-4、図313-5)。在職者訓練と本助成金の一
(2)中小企業の人材育成・能力開発体制の充実中小企業における現場の人材育成・能力開発体制を強
化・充実するための支援が重要である。(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する各訓
練施設においては、ものづくり企業やその関係者等との間で定期的な情報交換を持って、ものづくり分野の人材育成の推進に向けた業務運営に反映させながら、地域の中小企業等の労働者等に高度な技能・知識を習得させるためのレディメイド又はオーダーメイドの在職者訓練を提供するとともに、地域の中小企業等の要望に応じて訓練指導員を派遣して効果的な訓練プログラムの策定や職業訓練指導の相談・援助を行ったり(図313-3)、製品の性能評価や高精度治具の開発等の研究を地域の中小企業等と共同で行う等のサポートを実施している。「育成を担う中堅層の従業員の不足」、「効果的教育訓練のノウハウ不足」が人材育成・能力開発のボトルネックとして指摘されていることを踏まえると、上記の訓練指導員派遣等のサポートや新事業の展開を図る企業に対し教育訓練カリキュラムの開発・実施等による支援の意義は大きいと言える。中小企業への一層の周知を図り、個々の中小企業のニーズに的確に対応した活
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成
200
中小企業
大企業
(注)直近(平成21年度)にキャリア形成促進助成金を利用したことがあると 回答した事業所に対して尋ねた結果である。
200 40 60 80 100(%)
資料:厚生労働省「能力開発基本調査(2010年)」
つながった つながらなかった
図313-5 キャリア形成促進助成金が訓練や能力評価につながったか(製造業・企業規模別)
中小企業
大企業
200 40 60 80 100
資料:厚生労働省「能力開発基本調査(2010年)」
実施している 実施していない 不明
(%)
図313-6 職業能力評価の実施状況(製造業・企業規模別)
国、国の関係機関、地方自治体などが認定する公的資格(技能検定以外)
技能検定
民間団体が認定する民間資格
事業主等が認定する社内資格
その他
不明
10 20 30 40 50 60 700
資料:厚生労働省「能力開発基本調査(2010年)」
中小企業 大企業
図313-7 職業能力評価において利用している資格(製造業・企業規模別)(複数回答)
層の周知、活用促進により、中小企業における Off-JT、自己啓発を推進することが重要である。これにより、若年社員自身の能力向上意識・意欲の増進にも結びつくことが期待できる。
(3)職業能力を客観的に示す仕組みの整備・活用中小企業は、就労経験のある若年中途採用への依存度
が高いこと、また、若年技能系非正社員の正社員登用に当たって「仕事に対する意欲」、「技能・知識のレベル」、
「登用時までの実績」が重視されることを踏まえると、個々の社員の技能レベルを客観的に示す仕組み、すなわち、職業能力評価の実施と活用の意義は大きい。製造業
事業主における職業能力評価の実施状況を見ると、中小企業においても6割の事業主が、技能検定や他の公的資格等を利用して職業能力評価を行っているが、それを「労働者に必要な能力開発の目標」や「技能継承のための手段」、「人材の採用」、「人材戦略・計画の策定」に活用しているとする事業主は多くないところである(図313-6、図313-7、図313-8)。職業能力評価の有効なツールとして、技能検定等の資格、仕事をこなすための必要な職業能力・知識を業種別等に整理体系化した職業能力評価基準について、事業主の一層の認知・理解を深め、人材確保、人材育成も含めたより積極的な活用を促進することが重要である。
201
人事考課の判断基準
人材配置の適正化
労働者に必要な能力開発の目標
技能継承のための手段
人材の採用
人材戦略・計画の策定
その他
不明
20 40 60 100800
資料:厚生労働省「能力開発基本調査(2010年)」
中小企業 大企業
図313-8 職業能力評価の活用方法(製造業・企業規模別)(複数回答)
併せて、個々の社員の職業能力(技能)レベルとともに、就労経験、育成・能力開発の事跡を「見える化」することも重要であり、そのツールであるジョブ・カードを活用したキャリア ・ コンサルティングを実施することで一層の効果が期待できる。さらに、Off-JT、自己啓発の実績をジョブ・カードに記録し、若年社員自身が現場の管理者・監督者とともにそれを確認しながら業務に取
り組むことにより、若年社員それぞれの能力向上意識・意欲が一層高まることになると考えられる。
また、ジョブ・カード制度の雇用型訓練の導入を契機に、企業内の能力評価基準が構築され、人事考課等で実際に活用する企業が増えることは、業界全体の職業能力の底上げにもつながる。このためジョブ ・ カード制度について一層の周知 ・ 理解を図ることの意義は大きい。
第1節
ものづくり産業の将来を担う人材の育成の現状と課題
第3章 わが国ものづくり産業の将来を担う人材の育成