表計算ソフトを用いた都市の空間計画立案支援シー...

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表計算ソフトを用いた都市の空間計画立案支援シートへのデータ入出力機能の実装 相 尚寿・片桐 由希子 Installing Data Input/Output Interface to the Costing and Planning Sheet for City Planning Developed on Spreadsheet Software Hisatoshi AI, and Yukiko KATAGIRI Abstract: We have been developing a costing and planning sheet for city planning based on spreadsheet software. For improvement of the sheet function, we have been working to raise cell numbers, to increase land use category types, and to calculate population and land use more particularly. However, these improvement resulted in huge number of input by the user. This paper shows a new interface regarding data input and output installed in the costing sheet. Keywords: 表計算ソフト(Spreadsheet software),空間計画立案支援シート(Costing and planning sheet),データ入出力機能(Data input/output interface1. はじめに 本格的な人口減少、高齢社会の到来により、コ ンパクトシティなど空間集約を伴う都市構造の 再編が急務となっている。しかし、縮退を伴った 都市空間再編の事例は限定的で、その方法論も十 分に確立されていない。また、都市空間の再編は、 公共施設の再配置や住民の移転など住民生活に 多大な影響を及ぼすため、計画立案においては丁 寧な合意形成プロセスが求められる。 近年は空間データの整備や GIS ソフトの普及が 進みつつあるものの、自治体職員や一般市民がこ れらを自在に操作する段階には至っていない。そ こで筆者らは、より日常的に使用される表計算ソ フトを用い、都市空間をメッシュデータとしてセ ル上に表現し、計画立案支援と計画の事業性の簡 易的な評価を実現するシート(以下、試算シート と記す)を開発してきた(相ほか, 2014; AI & KATAGIRI, 2015)。 表計算ソフトを用いることで、GIS に関する専 門知識や技能を持たない自治体職員や一般市民 であっても空間的な要素を考慮した計画立案が 可能となる。 一方、試算シートの機能向上により、入力デー タ量が増大したため入力支援が必要になったこ と、試算結果を GIS 上で他の詳細な空間データを 組み合わせる活用法が想定されることから、デー タ入力支援機能と結果出力機能を実装すること とした。本稿ではこれらの機能について報告する。 2. 試算シートの概要 2.1 試算シートを用いた試算の流れ 利用者は試算シートに対して現状人口分布と 自治体の行政サービスコストに関わる原単位な ど試算に必要な情報をパラメータとして入力す る。パラメータには将来の土地利用における市街 地像の分類やそれに基づく人口増減率なども含 まれる。 相 尚寿 〒277-8568 千葉県柏市柏の葉 5-1-5 東京大学 空間情報科学研究センター Phone: 04-7136-4302 E-mail: [email protected]

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表計算ソフトを用いた都市の空間計画立案支援シートへのデータ入出力機能の実装

相 尚寿・片桐 由希子

Installing Data Input/Output Interface to the Costing and Planning Sheet for

City Planning Developed on Spreadsheet Software

Hisatoshi AI, and Yukiko KATAGIRI

Abstract: We have been developing a costing and planning sheet for city planning based on

spreadsheet software. For improvement of the sheet function, we have been working to raise cell

numbers, to increase land use category types, and to calculate population and land use more

particularly. However, these improvement resulted in huge number of input by the user. This paper

shows a new interface regarding data input and output installed in the costing sheet.

Keywords: 表計算ソフト(Spreadsheet software),空間計画立案支援シート(Costing and

planning sheet),データ入出力機能(Data input/output interface)

1. はじめに

本格的な人口減少、高齢社会の到来により、コ

ンパクトシティなど空間集約を伴う都市構造の

再編が急務となっている。しかし、縮退を伴った

都市空間再編の事例は限定的で、その方法論も十

分に確立されていない。また、都市空間の再編は、

公共施設の再配置や住民の移転など住民生活に

多大な影響を及ぼすため、計画立案においては丁

寧な合意形成プロセスが求められる。

近年は空間データの整備やGISソフトの普及が

進みつつあるものの、自治体職員や一般市民がこ

れらを自在に操作する段階には至っていない。そ

こで筆者らは、より日常的に使用される表計算ソ

フトを用い、都市空間をメッシュデータとしてセ

ル上に表現し、計画立案支援と計画の事業性の簡

易的な評価を実現するシート(以下、試算シート

と記す)を開発してきた(相ほか, 2014; AI &

KATAGIRI, 2015)。

表計算ソフトを用いることで、GIS に関する専

門知識や技能を持たない自治体職員や一般市民

であっても空間的な要素を考慮した計画立案が

可能となる。

一方、試算シートの機能向上により、入力デー

タ量が増大したため入力支援が必要になったこ

と、試算結果を GIS 上で他の詳細な空間データを

組み合わせる活用法が想定されることから、デー

タ入力支援機能と結果出力機能を実装すること

とした。本稿ではこれらの機能について報告する。

2. 試算シートの概要

2.1 試算シートを用いた試算の流れ

利用者は試算シートに対して現状人口分布と

自治体の行政サービスコストに関わる原単位な

ど試算に必要な情報をパラメータとして入力す

る。パラメータには将来の土地利用における市街

地像の分類やそれに基づく人口増減率なども含

まれる。

相 尚寿 〒277-8568 千葉県柏市柏の葉 5-1-5

東京大学 空間情報科学研究センター

Phone: 04-7136-4302

E-mail: [email protected]

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次に試算シートが将来の土地利用計画に相当

する空間計画案を利用者に提示する。この計画案

では、入力された現状人口分布と人口増減率で算

出できる将来人口を収容しつつ、人口密度が高い

既存市街地とその近隣地域を優先的に集約先と

して存置するよう配慮される。

試算シートの提案に対して利用者は修正を加

えることができ、修正後の空間計画案に対して将

来的な人口分布と事業性の簡易的な評価が出力

される。

2.2 試算シートによる事業性評価の考え方

試算シートの利用目的は、空間計画や事業計画

の細部の調整ではなく、都市の将来像を描くこと、

それが実現できるおおよその事業規模の把握す

ることであると想定する。試算シートが事業性の

簡易的な評価を行う際、(1)都市をコンパクト化

するためには集約先の居住環境を整備するため

の初期投資が必要、(2)都市がコンパクト化する

ことで都市域外縁部の行政サービスコストが縮

減できる、という 2 点を仮定する。(1)の初期投

資は計画初期段階に発生する一過性の支出であ

り、対して(2)は計画が進行することで毎年費用

縮減効果が見込める。ここで(1)を(2)で除すこと

により、初期投資を回収できる費用縮減が実現す

るまでの事業期間が概算でき、事業性を簡易的に

評価できる。例えば、事業期間が 100 年など長期

間に及べば当該計画の実現は財政面で困難と判

断でき、一方 10 年程度であれば実現可能な計画

規模として、より詳細な計画立案および事業性評

価へと展開させれば良い。

2.3 試算シートの利活用と改善点

試算シートは表計算ソフト上で動作するため、

再計算機能により空間計画や事業性評価に用い

るパラメータを変更するだけで直ちに試算結果

が修正される。このことは様々な条件下での将来

像の比較検討を容易にし、自治体内の部署間での

合意形成や住民とのワークショップなどでの意

見集約での活用が期待される。

これまで筆者らは試算対象にできるセル数の

増加、人口における属性別(年齢階層別の利用を

想定)データへの対応などの改良を実施してきた。

その一方で、試算の初期段階で必要となる現状人

口分布の入力において、対象セル数が東西方向 60

×南北方向 60×属性別 3 の 10,800 セルとなり、

国勢調査メッシュデータなど既存のデータから

の手動での転記が困難となってきた。

図 1 試算シート主要部分の画面 ※実際の操作画面に各部の説明文字は表示されない

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また、試算により実現可能な計画規模であると

判断できた場合に、詳細な計画立案や事業性評価

を行うためには、試算結果を他の空間データと組

み合わせて表示するためGISに読み込める形式で

出力できると試算シートの利便性が高まる。

以下では、これらに対して、データ入力支援機

能と結果出力機能の実装内容について説明する。

3. データ入力支援機能

3.1 位置座標指定パラメータの追設

元来表計算ソフトは空間情報を扱う設計では

ないため、試算シート上にメッシュで表現された

人口分布や土地利用計画は位置情報を伴わない。

そこで、データ入力支援機能および結果出力機能

の追加にあたり、任意で設定するパラメータとし

て、最上段左端のセルすなわち地図の北西端の座

標を入力できるように改良した。この座標は経緯

度(世界測地系)で指定する。

3.2 入力支援機能で対応する入力データ形式

今回実装したデータ入力支援機能では、(1)国

勢調査メッシュデータなどメッシュコードと対

応して収録された人口データ、(2)住民基本台帳

など住所と居住人数が対応したデータからの入

力を想定する。

3.3 メッシュコードによるデータの入力

本節では、国勢調査メッシュデータを念頭に、

標準地域メッシュコードと人口が対となったデ

ータからの入力支援機能について述べる。この機

能は、基準地域メッシュ(第 3次メッシュ)と 2分

の 1地域メッシュのコードに対応する。具体的に

は、メッシュコードから当該メッシュの経緯度を

算出し、試算シート上の 60×60 セルのうち対応

するセルに人口データが自動的に対応付けられ

る。入力支援機能は試算を行うシートとは別シー

トとして追設したため、利用者は入力支援機能の

シートから試算用シートに人口データをコピー

すれば良い。両者のシートを分離したため、入力

支援機能を用いない手動入力も可能である。

入力支援機能に対応するメッシュサイズは約

1km と約 500m であるが、試算シートのセルサイズ

(縮尺に相当)がこれらの値以外であっても、メッ

シュサイズがセルサイズで割り切れる場合には

入力の人口データが自動的に按分される機能を

有する。例えばセルサイズが 250m に設定されて

いれば、各セルには対応する 2分の 1地域メッシ

ュの人口の 4分の 1が割り当てられる。

3.4 緯度経度によるデータの入力

住民基本台帳など住所と居住人数が対となっ

たデータから入力する場合、ジオコーディングに

図 2 メッシュコードを用いる入力支援機能の画面 ※紙面の都合で 60×60 マスの一部は割愛

図 3 緯度経度を用いる入力支援機能の画面 ※紙面の都合で 60×60 マスの一部は割愛

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より住所を経緯度に変換する前処理を要する。こ

の経緯度と居住人数のデータを入力支援機能の

シートに貼り付けることで、自動的に人口データ

を格納すべきセルが特定される。同一セルに複数

のデータが対応している場合であってもSUMIF関

数で処理を行うため、セル内のデータは自動的に

総和が求められる。

4. 結果出力機能

結果出力機能は、表計算ソフト上で 60×60 の

セル上に入力された将来土地利用計画およびセ

ル上に算出された将来人口分布を、GIS で読み込

める形式で書き出す機能である。

具体的な手順としては、パラメータとして入力

されている 60×60 セル最上段左端(北西端)の座

標とセルサイズ(縮尺に相当)をもとに、各セルの

重心座標を計算し、この重心座標と将来土地利用

計画、将来人口分布を一覧表形式で出力する。

GIS 上では重心座標からポイントデータを発生

させることができ、このポイントに将来土地利用

計画や将来人口分布が属性として含まれる。

利用者がセルサイズと同一の大きさのメッシ

ュの空間データを入手できれば、空間結合により

メッシュデータと出力内容が結合できる。また、

メッシュの空間データがない場合にも、出力され

た一覧表から発生させたポイントデータを母点

としてボロノイ図を生成すれば疑似的なメッシ

ュデータとして再現できる。

5. おわりに

本稿では、筆者らが開発している、表計算ソフ

ト上で都市の空間計画立案と事業性の簡易評価

が可能な試算シートに対して、メッシュデータや

住所データから人口分布を入力する機能と、試算

結果をGIS上でも活用するために経緯度と試算結

果を出力する機能を実装した。

今後の課題としては、データのコピーペースト

ではなくCSVファイルなどから直接のデータ入出

力を可能とするアドインの開発など、入出力支援

機能の操作性向上が必要であろう。さらに、計画

立案の支援という点では、計画案を一時保管して

後刻読み出せる機能、複数の計画案を並列して比

較できる機能が実装できれば、試算シートの有用

性は一層高まると期待される。これらの機能の実

装も今後の課題として、仕様の検討を行いたい。

謝辞

過去の GIS 学会、CSIS DAYS、IASUR における試

算シートの提案において、有意義なコメントをく

ださった皆様に紙面を借りてお礼申し上げます。

参考文献

相尚寿・北垣亮馬・片桐由希子・田村順子

(2014):表計算ソフトを用いた都市計画立案

支援のための費用試算シートの提案,GIS-理

論と応用-, 22(1), 27-35.

AI, H. and KATAGIRI. Y. 2015. A Costing

Spreadsheet to Support Spatial Planning.

Journal of Sustainable Urbanization and

Regeneration, Selected Papers from IASUR

Conference, 2014, 83-91.

図 4 結果出力機能の画面(左)と GIS 上に表示した出力結果(右)