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⾼効率の⽯炭技術は 2℃シナリオと⽭盾する

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⾼効率の⽯炭技術は 2℃シナリオと⽭盾する

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⾼効率の⽯炭技術は2℃シナリオと⽭盾する

Lindee Wong, David de Jager and Pieter van Breevoort

2016 年 4 ⽉

プロジェクト番号:ESMNL16513

© Ecofys 2016:WWF ヨーロッパ政策オフィス(WWF EPO)より受託。⽇本語訳は WWF ジャパン監修によりエコネットワークス社。

【本⽂中で使⽤している単位について】

Gt:1Gt(ギガトン)=10 億トン / Mt:1Mt(メガトン)=100 万トン

GW:1GW(ギガワット)=100 万 kW / TWh:1TWh(テラワットアワー)=10 億 kWh

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要約 2015 年 12 ⽉、パリの国際会議で各国政府は、地球の平均気温上昇を産業⾰命前と⽐較して 2℃より⼗分低く保

つとともに、1.5℃未満に抑える努⼒を追求することを約束した。この約束を果たすには、世界は低炭素経済に移⾏する必要がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の排出シナリオの評価によれば、これは 2050 年までに世界の電⼒部⾨が脱炭素化する必要があることを意味する。⾼効率低排出(HELE)⽯炭⽕⼒発電所の展開が、⽯炭産業と⼀部の政府により気候変動対策技術として提⽰されている。彼らは、もう⼀つの別の技術である炭素回収・貯留(CCS)と組み合わせれば、ゆくゆくは排出量ゼロ、さらには排出量がマイナスになるだろうと主張している。HELE ⽯炭⽕⼒発電技術を⽤いれば、現在運⽤されている⽯炭⽕⼒発電所では 1,000 gCO2/kWh を超える排出量を、将来の最も⾼効率な⽯炭⽕⼒発電所では 670 gCO2/kWh へと削減できる可能性があるが、これに対して天然ガス⽕⼒発電所は 350〜490 gCO2/kWh、⾵⼒および太陽光発電の直接排出量は 0 gCO2/kWh である。

本報告書は、HELE ⽯炭⽕⼒発電が、気温上昇を 2℃未満に抑える⽬標と⽭盾することを⽰している。世界のカーボン・バジェット(炭素予算)や温室効果ガス排出量を削減するために残された時間を考慮すれば、⽼朽化した⽯炭⽕⼒発電所をより⾼効率の新しい⽯炭⽕⼒発電所に建て替えたり、ましてや設備容量を増加させたりする余地などそもそもない。現在、設備容量 1,400 GW の⽯炭⽕⼒発電が計画されているが、これは気温上昇を 2℃に抑えることと⽭盾する。もし仮に同計画容量をすべて HELE ⽯炭⽕⼒発電所にしたとしても、やはり 2℃⽬標は達成できない。

この結論は、IPCC の第 5 次評価報告書(AR5)で⽰されたシナリオと、国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー展望(WEO)2015』のシナリオにおける⽯炭⽕⼒発電所の位置づけ、および、現在計画中・建設中の⽯炭⽕⼒発電所のデータを評価することで導き出された。

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⽬次 1 はじめに 1

2 2℃シナリオにおける HELE ⽯炭⽕⼒発電の位置づけ 4

2.1 2℃シナリオが⽯炭⽕⼒の発電量および電⼒部⾨の排出量に対して意味するもの 4

2.2 IEA『WEO 2015』と IPCC 2℃シナリオの⽐較 7

2.3 2℃シナリオにおいて、⽯炭⽕⼒の容量追加計画が意味すること 11

3 結論 15

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1 はじめに

⻑期的な地球の平均気温上昇を産業⾰命前と⽐較して 2℃より⼗分低く保つには、世界は 2050 年までに低炭素経済および完全に脱炭素化した電⼒部⾨へと移⾏する必要がある。2015 年 12 ⽉にパリで開催された国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議(COP21)で、締約国は「気温上昇を産業⾰命以前に⽐べて 1.5℃に抑えることが、気候変動のリスクと影響を⼤きく低減するという認識のもと、努⼒を追求する」ことを約束し1、2℃の⽬標が強化された。温室効果ガス緩和の解決策の⼀つとして提案されてきたのが、⾼効率低排出(HELE)⽯炭⽕⼒発電である。本報告書は、気温上昇を 2℃未満に抑える排出経路における HELE ⽯炭⽕⼒発電の位置づけを検討するものである。

⾼効率低排出(HELE)⽯炭⽕⼒発電とは、どのようなものか

HELE ⽯炭⽕⼒発電は、従来の亜臨界圧の⽯炭⽕⼒発電所2よりも変換効率3が⾼く、⼆酸化炭素(CO2)排出原単位が低い発電所で発電するものを指す。このような特徴のため、エネルギー部⾨における CO2 排出量の緩和に向けた重要な⼿段の⼀つとして、⽯炭産業および⼀部政府は HELE 技術の開発と展開を促進している4。さまざまな変換効率および排出量レベルをもつ多様な HELE 発電技術があり、超臨界圧(SC)、超々臨界圧(USC)、先進超々臨界圧(A-USC)、⽯炭ガス化複合発電(IGCC)プラントとして知られている。これらのプラントのプラント効率、CO2 排出原単位、⽯炭消費量を表 1 に⽰す。

2011 年には新設⽯炭⽕⼒発電所の約 50%が HELE 技術、主に SC と USC の微粉炭燃焼ボイラーを使⽤していた5。現状で最⾼効率の HELE 技術は USC ⽯炭燃焼で、変換効率が 45%に達しているものもあり、排出原単位は740 gCO2/kWh である。A-USC 技術の展開が 2020 年代に始まると予想され、排出量は 670 gCO2/kWh に下がる可能性がある。

1 パリ協定 http://unfccc.int/resource/docs/2015/cop21/eng/l09r01.pdf 2 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2012)『High-Efficiency, Low-Emissions Coal-Fired Power Generation Technology Roadmap(⾼効率低排出の⽯炭⽕⼒発電技術ロードマップ)』 3 ⽯炭⽕⼒発電所のエネルギー変換効率は、投⼊した燃料(すなわち⽯炭)のエネルギー含量(低位発熱量)に対する(正味の)有⽤エネルギー出⼒(すなわち電⼒)の⽐率である。 4 出典:同上、World Coal Association(世界⽯炭協会)、『High efficiency low emission coal(⾼効率低排出の⽯炭)』 https://www.worldcoal.org/reducing-co2-emissions/high-efficiency-low-emission-coal 5 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2012)『High-Efficiency, Low-Emissions Coal-Fired Power Generation Technology Roadmap(⾼効率低排出の⽯炭⽕⼒発電技術ロードマップ)』

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表 1 ⽯炭技術の変換効率、CO2 排出原単位、⽯炭消費量6,7

技術 変換効率 3 CO2 排出原単位

(gCO2/kWh) ⽯炭消費量(g/kWh)

亜臨界圧 最⼤ 38% 880 以上 380 以上

超臨界圧(SC) 最⼤ 42% 800〜880 340〜380

超々臨界圧(USC) 最⼤ 45% 740〜800 320〜340

A-USC/IGCC 45〜50% 670〜740 290〜320

HELE ⽯炭技術に関して、留意すべき点がいくつかある。

• HELE ⽯炭技術の「⾼効率」と「低排出」とは、従来の亜臨界圧⽯炭⽕⼒発電所の特徴を基準にしている。他の技術はもっと効率が⾼く(例えば、天然ガス⽕⼒発電は最⼤ 60%)、直接的な CO2 排出係数も低い(例えば、天然ガス⽕⼒発電は 350〜490 gCO2/kWh、⾵⼒および太陽光発電は 0 gCO2/kWh)8。

• 表 1 に⽰した指標は、⽯炭⽕⼒発電所を⼀定かつ⾼い設備利⽤率で稼働したときに達成できる数字である。実際の市場では発電所の設備利⽤率がこれより低く、頻繁に出⼒を変動させなければならないため、これらのパフォーマンス指標は悪化する。将来の電⼒システムでは、変動型再⽣可能エネルギーによる電⼒のシェアが⼤きくなり、このような状況が顕著になるであろう。

• 表 1 に⽰した CO2 排出係数は、発電所レベルでの直接排出量を表す(幅は、投⼊される⽯炭の品質差による)。ライフサイクルでの排出量(採掘、加⼯、運搬など、⽯炭のバリューチェーン全体を通じた排出量を含む)は約 40〜70 gCO2/kWh 多くなる 8。

炭素回収・貯留(CCS)付き⽯炭⽕⼒発電は、排出原単位のみならず変換効率も下げる

炭素回収・貯留(CCS)付き⽯炭⽕⼒発電も、温室効果ガス排出量を削減する可能性のある措置として別途提案されており、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)および国際エネルギー機関(IEA)の 2℃シナリオで極めて重⼤な役割を担っている。CCS は、CO2 を⼯業・エネルギー関連の排出から分離し、貯留場所に輸送し、⻑期にわたり⼤気から隔離するプロセスである9。

6 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2012)『High-Efficiency, Low-Emissions Coal-Fired Power Generation Technology Roadmap(⾼効率低排出の⽯炭⽕⼒発電技術ロードマップ)』. 7 CO2 排出原単位は⽯炭種によって異なる。瀝⻘炭、亜瀝⻘炭、褐炭の順に⼤きくなり、これが幅として表されている。 8 出典:Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)(2014)『Climate Change 2014: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change (Annex III)(気候変動 2014:気候変動の緩和:IPCC 第 5 次評価報告書の第 3 作業部会報告書《付録 III》)』 9 Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)(2005 年)『IPCC Special Report on Carbon Dioxide Capture and Storage(⼆酸化炭素回収・貯留に関する IPCC 特別報告書)』

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本報告書では、CCS 付き⽯炭⽕⼒発電所の排出原単位を約 100 gCO2/kWh(控えめな⾒積もりと考えられる)10と仮定しているが、これは最も⾼効率な HELE 発電所の排出原単位の 20%に満たない値である。

しかし、CO2 回収プロセスではエネルギーを消費するため、HELE ⽯炭技術場合と同様、現実の排出係数はもっと⾼くなり、変換効率は低くなる。CCS のライフサイクル排出量は、⽂献で報告されている 95〜150 gCO2/kWhの幅よりも 70〜110 gCO2/kWh 多くなる11。

本報告書は、2℃⽬標を達成する上で HELE ⽯炭⽕⼒発電の果たす役割を吟味する

本報告書ではまず、IPCC が検討した 2℃シナリオと、これらのシナリオが電⼒部⾨の排出量および⽯炭⽕⼒発電にとって何を意味するのかを⽰す。

次に、国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー展望(WEO)2015』報告書のシナリオを分析する。この分析ではモデルの仮定に着⽬し、その結果と IPCC 2℃シナリオとの⽐較を⾏う。

最後に、実際の⽯炭⽕⼒の計画容量に対して、IPCC と IEA のシナリオを評価する。この部分の分析では、予測される排出量を検討した上で、それが 2℃未満に抑える排出曲線に沿っているかどうかを考察する。また、計画容量のすべてが HELE 発電所である、あるいは CCS 付き発電所である、という 2 つの異なる仮想事例も検討する。

10 IPCC は、新設の CCS 付き微粉炭⽕⼒発電所の排出原単位の幅を 92〜145 gCO2/kWh、代表値を 112 gCO2/kWh とする⼀⽅、新設 IGCC プラントの排出原単位の幅を 65〜152 gCO2/kWh、代表値を 108 gCO2/kWh としている。これらの代表値を考慮して、本研究では排出原単位を 100 gCO2/kWh と仮定する。出典:同上 11 Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)(2014 年)『Climate Change 2014: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change (Annex III)(気候変動 2014:気候変動の緩和―IPCC 第 5 次評価報告書の第 3 作業部会報告書《付録 III》)』

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2 2℃シナリオにおける HELE ⽯炭⽕⼒発電の位置づけ

2.1 2℃シナリオが⽯炭⽕⼒の発電量および電⼒部⾨の排出量に対して意味するもの

気温上昇を 2℃未満に抑えるため、電⼒部⾨は 2050 年までに脱炭素化する必要がある

地球の気温上昇を産業⾰命前と⽐較して 2℃より⼗分低く保つには、全部⾨の温室効果ガス排出量を今後数⼗年間で⼤幅に削減する必要がある。

図 1 は、IPCC の第 5 次評価報告書(AR5)のシナリオ(これらのシナリオの説明は Box 1 を参照)を⽰しており、電⼒部⾨の年間排出量を現在の⽔準(2013 年に 13.4 GtCO2)12から 2050 年にはほぼゼロ13に削減しなければならないことを表している。このシナリオでは 2050 年以降、電⼒部⾨からの排出量をマイナスにする必要があるが、これは例えば炭素回収・貯留(CCS)付きバイオエネルギー(BECCS)により、あるいは再植林、空気回収、鉱物固定など電⼒部⾨以外で(さらに)炭素隔離を進めることにより、実現しうると考えられている。

図 1 IPCC AR5 の 2℃シナリオにおける発電からの CO2 排出量。緑⾊の幅は 10〜90 パーセンタイルを表し、⻘い線は中央値を⽰す 13

12 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2015)『World Energy Outlook(世界エネルギー展望)』. 13 出典:Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)(2014)『Climate Change 2014: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動 2014:気候変動の緩和。IPCC 第 5 次評価報告書の第 3 作業部会報告書)』.

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Box 1 IPCC シナリオ 13

IPCC は、今世紀末までの最⼤濃度が 430〜480 ppmCO2e となるような排出経路であれば、2100 年までの地球の気温上昇を 2℃未満に抑える確率は 66%となるという結論を出している。本研究では、この 430〜480 ppmCO2eという閾値が満たされている限り、450 ppm のシナリオは 2℃未満に抑える⽔準に沿うと仮定する。本研究で除外した排出シナリオは、次のいずれかに該当するものである。(1)少なくとも 66%の確率で気温上昇を 2℃未満に抑えることができない。(2)2010 年時点の世界排出量の中位推計から 5%以上逸脱する。(3)今世紀末までに-20 GtCO2/年という極端なマイナスの CO2 排出量を仮定している。(4)緩和⾏動に「意図的な」遅れを伴う14。

これらのシナリオは、異なる研究チームのさまざまなソフトウェアを⽤いて計算されている。従って、排出量など数値の定量化では幅がある。本報告書では、中央値と 10〜90 パーセンタイルの幅(すなわち推定値の中央 80%をとらえたもの)を⽰す。

図 2 IPCC AR5 の⽰す 2℃シナリオにおける⽯炭⽕⼒(CCS なし)の発電量。緑⾊の幅は 10〜90 パーセンタイルを表し、⻘い線は中央値を⽰す 13

14 出典:Climate Action Tracker(2015)『The Coal Gap: planned coal-fired power plants inconsistent with 2˚C and threaten achievement of INDCs(⽯炭のギャップ:計画中の⽯炭⽕⼒発電所は 2℃⽬標に沿わず、INDC の達成を脅かす)』 http://climateactiontracker.org/assets/publications/briefing_papers/CAT_Coal_Gap_Briefing_COP21.pdf

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削減対策なし(*訳注)の⽯炭⽕⼒は 2050 年までに段階的に廃⽌する必要がある

2050 年までに電⼒部⾨の脱炭素化を⾏う必要があることを考えれば、削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電(すなわちCCS なし⽯炭⽕⼒発電)を⼤幅に削減する必要があるというのは驚くには当たらない。IPCC 2℃シナリオの中央値によると、削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電は、2050 年までにほぼ完全に廃⽌する必要がある(図 2 参照)13。

図 3 は、1.5℃シナリオの場合15、2050 年までの削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電の減少がさらに急速になることを⽰している。2℃シナリオより厳しい 1.5℃シナリオでは、削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電をさらに早い時期に廃⽌することが求められる。1.5℃シナリオで削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電を廃⽌する速度は、2010〜2020 年の年率約5%から、2030〜2040 年には年率 8%へと増していく(2℃シナリオの場合はそれぞれ同時期に 4%から 5%へ)。1.5℃シナリオの場合も 2℃シナリオと同様、削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電を 2050 年までにほぼすべて廃⽌する必要がある。

*訳注: 本報告書では、CCS が実装されている発電所のことを「削減対策あり(abated)」発電所と呼び、CCS なしの発電所のことを「削減対策なし(unabated)」発電所と呼んでいる。

図 3 1.5℃シナリオにおける⽯炭⽕⼒(CCS なし)の発電量。緑⾊の幅は 10〜90 パーセンタイルを表し、⻘い線は中央値を⽰す 13

15 出典:Rogelj, J.、G. Luderer、R. C. Pietzcker、E. Kriegler、M. Schaeffer、V. Krey、K. Riahi(2015)"Energy system transformations for limiting end-of-century warming to below 1.5°C(世紀末の気温上昇を 1.5℃未満に抑えるためのエネルギーシステムの転換)"、Nature Clim. Change 5(6): 519-527.

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2.2 IEA『WEO 2015』と IPCC 2℃シナリオの⽐較

IEA の 450 シナリオも、削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電は急速に減らすべきことを⽰している

国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー展望(WEO)2015』は、2040 年までの 3 つのエネルギーシナリオを⽰している(Box 2 参照)。このうち、450 シナリオ(450 シナリオ)は、2℃の上限に沿うように作られたものである(Box 2 と Box 3 参照)。このシナリオの化⽯燃料による CO2 排出量の合計は、2040 年にIPCC2℃シナリオのパーセンタイルの幅を 20%上回っている。

Box 2 WEO 2015 シナリオ16

450 シナリオ(450 シナリオ)では、50%の確率で⻑期的な地球の平均気温上昇を⽬標の 2℃未満に抑えられるような、エネルギー起源の温室効果ガス排出曲線をもたらす⼀連の政策を仮定している。このシナリオでは、⼤気中の温室効果ガス濃度が今世紀半ば頃までに 450 ppm(気温上昇を 2℃未満に保つ許容閾値)を超える⽔準でピークを迎えるが、2℃⽬標を最終的に不可能にするほどの⾼さにはならない。温室効果ガスの濃度は 2100 年以降、450 ppm 前後で安定する。このシナリオの仮定についてのさらなる詳細は、Box 3 を参照のこと。

「現⾏政策シナリオ」(CPS)は、2015 年半ばの時点で実施措置が公式に採⽤されている政策のみを考慮し、これらの政策が強化されずに持続すると仮定するもの。(以前は「基準シナリオ」と呼ばれたもの。)

「新政策シナリオ」(NPS)は、2015 年半ばの時点で採⽤されている、エネルギー市場に影響を与える政策措置を含み、さらに、これまでに発表された他の関連するエネルギーや温室効果ガス削減施策を⽰唆するものも、厳密な実施措置がまだ完全に定められていない段階でも考慮に⼊れている。ここには、2015 年 10 ⽉ 1 ⽇までに提出された国別⽬標案(INDC;約束草案)のエネルギー関連の部分も含む。このシナリオでは、今世紀末までの地球の平均気温上昇が 2.7〜3.6℃となる17。

⽯炭に関して 450 シナリオは、⽯炭⽕⼒発電からの CO2 排出量を 2013〜2040 年の間に 84%削減し、年間 1.5

GtCO2 にする必要があることを⽰している(図 4 参照)16。この排出曲線⾃体は、IPCC 2℃シナリオにおける2040 年までの電⼒部⾨の中央値曲線に沿っている(図 5 参照)。しかしシナリオの重要な仮定の⼀つに、CCS の展開を⽀援する政策措置が整っているということがある。2040 年には削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電が約 1,000 TWh(IPCC 2℃シナリオの中央値とほぼ同じ)へと減少する⼀⽅で、⽯炭⽕⼒の総発電量はそれよりはるかに多い 4,100 TWh となる。450 シナリオでは、電⼒部⾨において CCS が、中国で 2020 年頃から、インドでは 2025年頃から展開され、⽇本の⽯炭⽕⼒発電にも導⼊され、⽶国と EU では⽀援が拡⼤すると仮定している。その結果、⽯炭⽕⼒の総発電量の 4 分の 3(3,100 TWh)が CCS 付き発電所によるものとなっている。

WEO では、450 シナリオで仮定された⾼効率低排出(HELE)⽯炭⽕⼒発電所の数を明⽰していない。しかし、450 シナリオではかなりの CCS が必要とされていることや、⽯炭⽕⼒発電所の排出原単位が低くなっていること(Box 3 参照)を考えると、HELE ⽯炭⽕⼒発電所の展開だけで気温上昇を 2℃に抑えられないことは明らかである。

16 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2015)『World Energy Outlook(世界エネルギー展望)』. 17 http://climateactiontracker.org/

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図 4 削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電量(灰⾊の印)、CCS 付きを含めた⽯炭⽕⼒発電量(⾚い線)、CCS 付き発電所を含めたIEA 450 シナリオ18における CO2 排出量(⻘い線)

18 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2015)『World Energy Outlook(世界エネルギー展望)』、International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2016)私信。.

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Box 3 ⽯炭⽕⼒発電に関する IEA 450 シナリオの仮定 18

450 シナリオにおいては、⽯炭⽕⼒発電の設備容量は、2020〜2040 年の間に 2,000 GW から 1,250 GW へ減少する。WEO 報告書は、このシナリオで廃炉となった既存の発電所の数を明⽰しておらず、⽯炭⽕⼒の新設容量の仮定も明確にしていない。しかし、排出原単位の傾向から、稼働している⽯炭⽕⼒発電所の種類を推定することができる。排出原単位は、2020 年の 978 gCO2/kWh から 2030 年には 756 gCO2/kWh、2040 年には 374 gCO2/kWh19へと減少している。この傾向を⾒ると、450 シナリオでは 2020 年にまだ亜臨界圧プラントがかなりの割合を占めていることがわかる。しかし 2030 年には、排出原単位が USC プラントに相当する値となっているため、亜臨界圧の割合は減っている(表 1 参照)。この原因は、実際に使われている CCS 付き発電所の増加や、HELE 発電所の展開にあるといえる。ここで⽰されている 2040 年の値まで、排出原単位が下がるのは、CCS 付き発電所が⼤規模に展開されること(新設および改修を含む)を⽰唆している。

450 シナリオにおいては、2020〜2030 年の⽯炭⽕⼒発電所の変換効率は 36%で⼀定であり、2040 年に 34%に下がる20。この変化は、450 シナリオで CCS の割合が⼤きいことからくる可能性もある。CCS はエネルギーを消費するため、発電所の変換効率全体を下げるからである。それ以外にも IEA は、⽔ストレスのある地域での乾式冷却技術の利⽤や設備利⽤率の低下も、可能性のある原因の⼀部として触れている(WEO 2015 ではっきりとは⾔及されてはいない)。

450 シナリオにおいて、⽯炭⽕⼒発電所の設備利⽤率は、2020 年の 53%から 2030 年には 43%、2040 年には37%に下がっている21。この低下の原因は、再⽣可能エネルギーの展開のほか、炭素の価格付けや CCS のコストにある可能性がある。このために⽯炭⽕⼒発電のコストが上がり、より排出量の少ない発電との競争⼒が失われる。

以上からまとめると、WEO に明記されたりそこから推論できたりする仮定は理にかなっており、450 シナリオの定義に沿っている。HELE の展開についてはほとんどが不明であるが、IEA の 450 シナリオで気温上昇を 2℃に抑えるには、電⼒部⾨にとって HELE 技術よりも CCS 技術のほうが不可⽋であることが明らかである。

IEA の現⾏政策シナリオ(CPS)と新政策シナリオ(NPS)は気温上昇を 2℃未満に抑える経路と⼀致しない

WEO 2015 の現⾏政策シナリオ(CPS)と新政策シナリオ(NPS)はいずれも、2℃の上限と⽭盾する。これらのシナリオにおける⽯炭⽕⼒発電からの CO2 排出量は、2040 年には IPCC 2℃シナリオにおける全化⽯燃料による発電からの CO2 排出量の中央値より、少なくとも 8,000 MtCO2/年多くなる(図 5 参照)。

19 出典:IEA の WEO 2015 に記載されている⽯炭⽕⼒発電所の発電量および排出量データを基に独⾃に計算。 20 出典:IEA の WEO 2015 に記載されている⽯炭⽕⼒発電部⾨の発電量および TPED(⼀次エネルギー総需要)を基に独⾃に計算。 21 出典:IEA の WEO 2015 に記載されている発電量および設備容量を基に独⾃に計算。

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図 5 IPCC 2℃シナリオにおける発電部⾨全体からの CO2 排出量と IEA シナリオにおける⽯炭⽕⼒発電からの CO2 排出量の⽐較[MtCO2/年]。いずれも CCS の展開を仮定している22

現⾏政策シナリオおよび新政策シナリオにおける 2020〜2040 年の⽯炭⽕⼒発電量も、IPCC 2℃シナリオの幅を上回っている(図 6 参照)。この⽐較において⼀つ不整合が⽣じるのは、IPCC 2℃シナリオが削減対策なしの発電量を検討している⼀⽅で、IEA シナリオは CCS 付きを含めていることによる。WEO 2015 は、CCS 付き⽯炭⽕⼒の発電量を、2020〜2040 年の全期間について明記していない。しかし、終点である 2040 年時点のデータを⾒ると、現⾏政策シナリオも新政策シナリオも 2℃⽬標と整合していないと結論付けることができる。

• WEO では新政策シナリオについて、「2040 年には CCS 付き発電所の総発電量が約 470 TWh に達し、うち⽯炭⽕⼒発電所からが 90%を超える」(従って約 420 TWh)と述べている。

• 2040 年の現⾏政策シナリオおよび新政策シナリオの⽯炭⽕⼒の総発電量はそれぞれ 16,500 TWh と 11,900 TWh であり、IPCC2℃シナリオにおける削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電量(中央値)と、それぞれ 15,500 TWh および 10,800 TWh の隔たりがある。

22 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2015)『World Energy Outlook(世界エネルギー展望)』;International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2016)私信;Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)(2014)『Climate Change 2014: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動 2014:気候変動の緩和。IPCC 第 5 次評価報告書の第 3 作業部会報告書)』

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• 従って、CCS 付き⽯炭⽕⼒発電を除外すると、現⾏政策シナリオも新政策シナリオも 2℃未満の経路と完全に⽭盾することは明らかである。

図 6 IEA シナリオおよび IPCC 2℃シナリオ(10〜90 パーセンタイル)における⽯炭⽕⼒発電量の⽐較。IPCC のデータはCCS なしである⼀⽅、IEA のデータは CCS 付きを含む場合と CCS なしの場合が⽰されている。IEA の新政策シナリオ(NPS)と現⾏政策シナリオ(CPS)については、CCS 付き⽯炭⽕⼒発電量の上限値(420 TWh)を仮定して、CCS なしの発電量を計算している。

2.3 2℃シナリオにおいて、⽯炭⽕⼒の容量追加計画が意味すること

⽯炭⽕⼒の計画容量 1,400 GW は、気温上昇を 2℃に抑えることと⽭盾する

Global Coal Plant Tracker(世界⽯炭⽕⼒発電所トラッカー)によると、世界では 1,400 GW の⽯炭⽕⼒の新設容量が計画中で、設備容量を追加するものもあれば、⽼朽化した発電所を建て替えるものもある23。この総計のうち 350 GW はすでに建設中であるが、1,050 GW は他の段階(計画中、許可申請中、許可済み)にある。これ

23 出典:Global Plant Tracker(世界⽯炭⽕⼒発電所トラッカー)(2016)『Proposed Coal Plants by Country (MW) – January 2016(提案されている⽯炭⽕⼒発電所《国別》《MW》――2016 年 1 ⽉)』 http://endcoal.org/wp-content/uploads/2016/01/Global-Coal-Plant-Tracker-December-2015-Countries-MW.pdf

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らの計画中の⽯炭⽕⼒発電所がすべて 2030 年までに稼働すると仮定すると24、それ以降は 2℃未満の排出経路にとどまることは不可能となるであろう。また、計画中の⽯炭⽕⼒発電所の年間 CO2 排出量(6,100 MtCO2

25,26)は、IPCC 2℃シナリオで許される全電⼒部⾨(すなわち全化⽯燃料)の年間排出量の中央値(2030 年に 6,300 MtCO2/年、図 7 参照)をわずかに下回るのみであろう。つまり、⽯炭⽕⼒の計画容量を稼働させながら気温上昇を 2℃に抑える経路にとどまるには、既存の⽯炭⽕⼒発電所をほぼすべて廃⽌したうえで、削減対策なしの天然ガス⽕⼒発電は 2030 年にはほとんど許可されないことになる。

この⽯炭⽕⼒の設備容量 1400 GW を、IPCC 2℃シナリオの経路における⽯炭⽕⼒発電量の中央値 2,300 TWh(図 2 参照)と照らし合わせてみると、設備利⽤率はわずか 20%にしかなりえない(全負荷相当運転時間 1,600時間)ことが結論づけられる。このようなシナリオは、コスト効率性の⾯からも低炭素化の途上で⽯炭から天然ガスへ燃料転換が予測されることからも、極めて⾮現実的である。したがって、このことは、2030 年までの⽯炭⽕⼒の新設計画容量が 2℃未満の経路と⽭盾することを⽰している。

2040 年までには、この状況がさらに顕著になる。計画中の⽯炭⽕⼒発電による排出量は、IPCC 2℃シナリオで全電⼒部⾨に許される全排出量を上回る(図 7 参照)。これは 2040 年以降、⽯炭⽕⼒の計画容量が、2℃未満の経路と⼀致しない可能性が極めて⾼いことを⽰している。

さらに、この⽯炭⽕⼒の計画容量は、IEA 450 シナリオに照らし合わせてみると、2040 年までに気温上昇を2℃未満に抑える経路で許される世界全体の⽯炭⽕⼒の設備容量(CCS 付き発電所を含む)より⼤きい。2℃未満の道筋にとどまるには、計画容量を⽯炭⽕⼒発電所の技術的な寿命である 50 年よりはるかに前に急速に廃⽌するか27、できる限りすべての発電所を CCS 付きに改修する必要がある(このシナリオについては後で詳細に論じる)。あるいは、追加的な排出量を回収するために、BECCS を広範に展開する必要があるであろう。これらの対策は⾮常にコストがかかるため、財政的に成⽴するためには⾼い炭素価格が必要となると考えられる。したがって、⽯炭⽕⼒の計画容量は 2℃未満の経路と⼀致しないという結論が再確認できる。

もし仮に計画容量のすべてが HELE ⽯炭⽕⼒発電所だったとしても、やはり 2℃⽬標は達成できないであろう

計画容量の平均排出係数(830 gCO2/kWh)28は、これらの発電所すべてが HELE ⽯炭⽕⼒発電ではないことを⽰している。もし、計画容量すべてが排出原単位 670 gCO2/kWh の(最も効率の⾼い)A-USC プラントであるという仮想ケースを⽤いたとしても、この計画容量から⽣じる排出量は 5,000 MtCO2 になるであろう。これでもやはり、IPCC 2℃シナリオにおける 2030 年の電⼒部⾨(全化⽯燃料)年間排出量の中央値の 80%にのぼる(図 7参照)。

24 ⽯炭⽕⼒発電所の典型的な⼯期は 5 年間 8、準備期間 5〜10 年間であるため、これは現実的な仮定である。 25 出典:Global Plant Tracker(世界⽯炭⽕⼒発電所トラッカー)(2015)『Proposed Coal Plants by Country: Annual CO2 in Million Tonnes (December 2015)(提案されている⽯炭⽕⼒発電所《国別》:年間 CO2 排出量《百万トン》《2015 年 12 ⽉》)』 http://endcoal.org/wp-content/uploads/2016/01/Global-Coal-Plant-Tracker-December-2015-Countries-Annual-CO2.pdf 26 実際には計画容量すべてが建設されるわけではない可能性が⾼い。Shearer ら(2015)の研究によると、環境問題や再⽣可能エネルギーとの競争などにより、⽯炭⽕⼒発電所の計画が中⽌される件数が増えていることがわかっている。出典:Shearer C.、N. Ghio、L. Myllyvirta、T. Nace(2015)「Boom and bust – Tracking the Global Coal Plant Pipeline(活況と不況――世界で進⾏中の⽯炭⽕⼒発電所の追跡)」 http://endcoal.org/wp-content/uploads/2015/05/BoomBustMarch16embargoV8.pdf 27 出典:International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2015)『World Energy Outlook(世界エネルギー展望)』 28 出典:Global Coal Plant Tracker(世界⽯炭⽕⼒発電所トラッカー)で仮定された設備利⽤率 59%を基に独⾃に計算。

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2040 年以降においては、この排出量⽔準は、電⼒部⾨の排出量の 10〜90 パーセンタイルの幅を上回り続けることになる。したがって、先の議論を再びなぞり、もし仮にすべての発電所が HELE の最⾼効率の特性を備えたとしても、この⽯炭⽕⼒の計画容量を前提とすれば、気温上昇を 2℃に抑えることは不可能である。

図 7 では、IEA シナリオにおいて、HELE 発電所が削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電量の予測にどのような影響を与えるかも検討している。2030 年にもし削減対策なしの⽯炭⽕⼒がすべて A-USC プラントで発電されても、現⾏政策シナリオと新政策シナリオでこれにより⽣じる排出量は、IPCC 2℃シナリオで許される全化⽯燃料による電⼒部⾨の排出量レベルの中央値を上回る。2040 年には、現⾏政策シナリオと新政策シナリオの排出量レベルは、IPCC 2℃シナリオにおける電⼒部⾨の排出量レベルの中央値の少なくとも 3 倍⾼くなる。

図 7 削減対策なし(CCS なし)の HELE ⽯炭⽕⼒発電所からの CO2 排出量と、IPCC 2℃シナリオにおける発電部⾨全体からの CO2 排出量の⽐較。「計画中」は、Global Coal Plant Tracker(世界⽯炭⽕⼒発電所トラッカー)で確認されている 1400 GW を指す。IEA の新政策シナリオ(NPS)、現⾏政策シナリオ(CPS)、450 シナリオは、IEA の WEO 2015 の 3 つのシナリオを指す(Box 2 参照)。「参照、超臨界圧」については、全追加容量が従来通りの超臨界圧(SC)プラントであると仮定する。「仮想、A-USC」は、全新設容量が先進超々臨界圧(A-USC)技術を⽤いると仮定する29。

29 出典:独⾃の計算;Global Coal Plant Tracker(世界⽯炭⽕⼒発電所トラッカー)(2016)『Proposed Coal Plants by Country (MW) – January 2016(提案されている⽯炭⽕⼒発電所《国別》《MW》――2016 年 1 ⽉)』 http://endcoal.org/wp-content/uploads/2016/01/Global-Coal-Plant-Tracker-December-2015-Countries-MW.pdf、International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2015)『World Energy Outlook(世界エネルギー展望)』、International Energy Agency(国際エネルギー機関)(2016)私信、Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間

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もし仮に計画容量のすべてが CCS 付きであったとしても、2℃⽬標が達成される保証はない

計画容量を全て CCS 付きにすれば、2050 年まで気温上昇を 2℃未満に抑える経路に沿うことが、理論上は可能になる。CCS 付き発電所からの排出量は 740 MtCO2/年となり30、気温上昇を 2℃に抑えるのに必要な 2050 年までの排出曲線に内側に収まる(図 7 参照)。このシナリオでは、⽯炭⽕⼒発電所からの 5,400 MtCO2 が、毎年回収・貯留されることになる。しかし、現在稼働中の⼤規模 CCS 発電所は 1 カ所しかなく、回収量が最⼤ 1 MtCO2/年であることや31、コストが⽐較的⾼いために他の低炭素技術と深刻な競争にさらされていること、さらに電⼒市場のダイナミクスの変化や、貯留場所および関連インフラの開発、規制⾯・社会⾯の課題といった要素を考えると、このような CCS の⼤規模展開が 2030 年までに(15 年以内で)起きる可能性は極めて低い。

2050 年以降、電⼒部⾨ではマイナスの排出量が求められる(図 1 参照)。CCS 付き⽯炭⽕⼒の設備容量 1,400 GW がそもそもこの⻑期的なマイナスの排出経路に沿うかどうかは疑わしい。

パネル)(2014)『Climate Change 2014: Mitigation of Climate Change. Contribution of Working Group III to the Fifth Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動 2014:気候変動の緩和。IPCC 第 5 次評価報告書の第 3 作業部会報告書)』 30 排出係数を 100 g/kWh と仮定。 31 出典:Global CCS Institute(グローバル CCS インスティテュート)、『Large Scale CCS Projects(⼤規模 CCS プロジェクト)』 http://www.globalccsinstitute.com/projects/large-scale-ccs-projects。

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3 結論

⻑期的な地球の平均気温上昇を産業⾰命前と⽐較して 2℃より⼗分低く保ち、さらには 1.5℃に抑えるには、世界は低炭素経済に移⾏する必要がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による排出シナリオの評価は、このために 2050 年までに電⼒部⾨が脱炭素化する必要があることを⽰している。⽯炭産業および⼀部政府は⾼効率低排出(HELE)⽯炭⽕⼒発電の展開を、炭素回収・貯留(CCS)という別の技術も導⼊することで、ゆくゆくは排出量ゼロ、さらには排出量をマイナスにする気候変動対策技術として提⽰している。HELE 発電技術には、超臨界圧(SC)、超々臨界圧(USC)、先進超々臨界圧(A-USC)、⽯炭ガス化複合発電(IGCC)プラントがある。個々の排出量は、現在の(旧式)発電所の 1,000 gCO2/kWh を超える値から、新技術を備えた将来の発電所では670 gCO2/kWh へと下がる可能性があるが、⽐較としていえば天然ガス⽕⼒発電所は 350〜490 gCO2/kWh、⾵⼒および太陽光発電の直接排出量は 0 gCO2/kWh である。

本報告書は、HELE ⽯炭⽕⼒発電の位置づけを検討した結果、2℃未満の経路と⽭盾するという結論に⾄った。世界のカーボン・バジェット(炭素予算)や、温室効果ガス排出量を削減するために残された時間を考慮すれば、⽼朽化した⽯炭⽕⼒発電所をもっと⾼効率の新しい⽯炭⽕⼒発電所に建て替えたり、ましてや設備容量を増加させたりする余地などそもそもない。そもそもの排出量が依然多すぎて、脱炭素化の経路になじまない。

この結論は、IPCC の第 5 次評価報告書(AR5)に⽰されたシナリオと、国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー展望(WEO)2015』のシナリオにおける⽯炭⽕⼒発電所の位置づけ、そして、現在計画中・建設中の⽯炭⽕⼒発電所のデータを評価して導き出された。

IEA の 450 シナリオ(450 シナリオ)は、IPCC 2℃シナリオと同様、削減対策なしの⽯炭⽕⼒発電を急速に(2013〜2040 年の間に 84%)減少させなければならないことを⽰している。しかし、全電⼒部⾨の排出量はIPCC の幅を上回っている。IEA の 450 シナリオは、HELE ⽯炭⽕⼒発電よりむしろ CCS の広範な展開が、気温上昇を 2℃に抑える上で不可⽋であると予測している。そして 2040 年には⽯炭⽕⼒発電の 4 分の 3 が CCS 付き発電所となると予測している。WEO で検討された他のシナリオ(現⾏政策シナリオ《CPS》と新政策シナリオ《NPS》)は、2℃シナリオと⼀致していない。

現在、⽯炭⽕⼒の新設容量約 1,400 GW の建設が今後数⼗年間に予定されている。この⽯炭⽕⼒の計画容量は、IPCC 2℃シナリオとも IEA 450 シナリオとも⽭盾する。2040 年以降、計画容量による排出量は、IPCC 2℃シナリオにおける全電⼒部⾨の排出量を上回る。もし仮に計画容量のすべてが HELE ⽯炭⽕⼒発電所であったとしても、この結論は変わらない。

もし計画容量すべてが CCS 付きであれば、2050 年まで気温上昇を 2℃未満に抑える経路に沿う。しかし、2050 年以降、電⼒部⾨では排出量をマイナスにする経路が求められる。本報告書全体を通して、変換効率や展開のスピードについては楽観的な値を使⽤した。

しかし、1,400 GW もの CCS 付き⽯炭⽕⼒発電が 2030 年までに稼働すると仮定するのは現実的ではなく、排出原単位を 100 gCO2/kWh(これは低い推定値であると考えられる)まで下げる上で必要な⾼い回収効率を実現するには、⾼いコストがかかる可能性がある。このように、⽯炭⽕⼒の計画容量 1,400 GW が、⻑期的に 2℃未満に抑える曲線に沿う可能性が低い。

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HELE であれ CCS 付きであれ、⽯炭⽕⼒発電所の⽴場をさらに悪くする要素はほかにも存在する。これらの先進技術の開発と展開は既定路線ではない。ほぼ間違いなく、技術・経済・社会の障壁によって、これらの選択肢の展開や理論上のパフォーマンスが制限されることになるであろう。⼀例が、将来のエネルギー市場における⽯炭⽕⼒発電所の運⽤のあり⽅であろう。設備利⽤率は低下すると予測されており、出⼒変動が頻繁になるのと相まって、変換効率の低下と個々の⽯炭⽕⼒発電所の排出量の増加をもたらすことになる。さらに、ライフサイクルでの温室効果ガス排出量は、稼働段階の直接排出量より 40〜110 gCO2/kWh 多い可能性もある。

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