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平成25年度 スーパーサイエンスハイスクール S uper S cience H igh school 福岡県立香住丘高等学校 生徒課題研究論文集

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平成25年度 スーパーサイエンスハイスクールSuperScienceHigh school

福岡県立香住丘高等学校

生徒課題研究論文集

平成25年度 スーパーサイエンスハイスクール 生徒課題研究論文集

福岡県立香住丘高等学校

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困難な課題ほど克服する価値がある

本校は、平成23年度から文部科学省よりSSH(スーパーサイエンスハイス

クール)の指定を受け、理数系教育の充実を図っています。

SSH事業の大きな柱の一つが生徒課題研究です。本校では、数理コミュニケ

ーションコースに学校設定教科『SS科学探究』を設定し、科学系部活動と併せ

て生徒課題研究を実施しています。平成25年度はSSH・1期生が3年生にな

り、これまでに培ってきた「探究する力」・「伝え合う力」を発揮して課題研究の

成果を発表するときが来ました。7月のサマーサイエンスフェスタ(小倉高校コ

アSSH事業)では15テーマのポスター発表を実施、4テーマで表彰を受け、

10月には「日本学生科学賞」に13点の科学研究論文を出品し、3テーマで表

彰を受けました。また、11月に実施された福岡県高等学校総合文化祭自然科学

部門研究発表大会では優秀賞を受賞し、2月に実施された九州高等学校生徒理科

研究発表大会に出場しました。更に、12月には福岡女子大学地域連携センター

のご協力により、本校生徒のみならず、中学生3名のポスター発表を含めた地域

連携型の科学研究発表会を開催することができました。

今年度の「生徒課題研究論文集」は、本校のSSH事業の開始から今日までに

蓄積してきた成果を凝縮した論文集であり、いずれも各研究チームが心を込めた

珠玉の論文の数々です。16部の論文をまとめたチームの中には、非常に困難な

課題に挑戦した諸君もいます。どれほど苦闘してここまで辿りついたのか察する

に余りある作品もあり、研究に取組んだ生徒諸君や休日を返上して指導・助言を

していただいた諸先生方の努力に敬意を表さずにはおられません。

真理の探究や人類の幸福を目指して積み重ねられてきた科学的な営みは、新た

な真理を発見するとともに、克服することが困難と思われる課題であっても、そ

の英知を結集して解決の糸口を見つけ出してきました。課題は困難であるほど解

決に向けた価値が大きいものです。これから、自然、環境、技術、社会など、様

々な分野の困難な課題の克服や真理の探究に挑戦する勇気ある諸君の健闘の先に

は、明るい未来と将来が見えてくることでしょう。

最後になりましたが、本校のSSH事業や生徒課題研究発表会に、御支援・御

協力をいただきました福岡女子大学、九州大学、九州工業大学、山口大学、北九

州市立大学はじめとする諸大学、研究機関、運営指導委員の先生方、文部科学省、

科学技術振興機構並びに関係機関の皆様に、心より感謝申し上げます。

平成26年2月21日

福岡県立香住丘高等学校

SSH推進課長 辻 和宏

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平成25年度 生徒課題研究論文テーマ一覧

課題研究発表テーマ 発表生徒 (所属・学年) 担当教員 頁

物 クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元 中 村 浩 太 (数理・3年) 辻 和宏 1理 河 北 侑 也 (数理・3年)① ☆ 第57回 日本学生科学賞福岡県審査 優秀賞受賞 池 田 俊 介 (数理・3年)

物 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究 谷 本 諒 太 (物理部・3年) 辻 和宏 7理 北 村 啓 伍 (物理部・3年)② ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2012 最優秀賞(藤田記念賞)受賞 花 田 泰 智 (物理部・3年)

物 「逆立ち独楽」等の運動に関する研究 井 上 正 悟 (物理部・2年) 辻 和宏 10理 梅 﨑 大 介 (物理部・2年)③ ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 最優秀賞(藤田記念賞)受賞

物 免震装置に関する実験 川 崎 友 也 (数理・3年) 谷口 和也 15理 齊 藤 裕 也 (数理・3年)④ ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 優秀賞受賞

物 ブーメランの飛行原理と実験的検証 西 田 拓 人 (数理・3年) 野田 正志 19理 江 川 稜 馬 (数理・3年)⑤ 竹 野 翔太郎 (数理・3年)

靍 貴 博 (数理・3年)

物 視覚特性に基づく照明に関する 木 村 龍太郎 (数理・3年) 中村 勇佑 25理 髙 田 彬 人 (数理・3年)⑥ 西 田 亮 太 (数理・3年)

化 高濃度溶液の凝固点降下現象 元 村 晴 香 (数理・3年) 髙尾 正樹 31学 ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 優秀賞受賞 大 坪 朋 矢 (数理・3年)① ☆ 第57回 日本学生科学賞福岡県審査 努力賞受賞

化 マグネシウム燃料電池の研究 浦 山 卓 也 (数理・3年) 青木 俊一 40学 江 口 大 貴 (数理・3年)②

化 地球温暖化モデル実験 太 田 望 (数理・3年) 室井 真人 46学 ~将来の地球における気温の推測~ 野 口 竜 成 (数理・3年)③ 橋 口 尚 史 (数理・3年)

山 口 晃 志 (数理・3年)

化 かんすいがグルテンに与える弾性について 多 田 早 織 (数理・3年) 古川 千恵 51学 工 藤 賢 之 (数理・3年)④

生 ワサビの辛味成分の実用化 庵 原 佑 介 (数理・3年) 尾辻 亜季 55物 岡 部 隆 司 (数理・3年)① ☆ 第57回 日本学生科学賞福岡県審査 努力賞受賞 竹 村 瑞 稀 (数理・3年)

生 ヒドラとプラナリアの再生に関する研究 重 松 大 輝 (数理・3年) 吉松 晶子 61物 斉 藤 誠 (数理・3年)② ☆ サマー・サイエンス・フェスタ2013 優秀賞受賞 森 新之介 (数理・3年)

平 山 芙 香 (数理・3年)

生 アサリの水質浄化能力と環境条件 金 洪 恩 (数理・3年) 満永佳菜恵 68物 田 畑 諒 馬 (数理・3年)③ 宮 崎 周 (数理・3年)

花 田 知枝美 (数理・3年)

生 食品の殺菌作用 鬼 束 由 梨 (数理・3年) 松山 涼子 73物 ~新しい洗剤を作ろう~ 片 岡 聡 (数理・3年)④ 木 村 紗 己 (数理・3年)

久地浦 将 (数理・3年)谷 口 彩 (数理・3年)吉 村 恵 理 (数理・3年)熊 谷 茜 (数理・3年)

研究

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1

1 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

1 要旨、概要

本研究においては静電気力に注目し、電子天秤

を用いて逆2乗法則が成立することを実験によっ

て検証した。また、クーロンが測定に用いたとさ

れる「ねじり秤」に関する資料を収集し、測定装

置として復元した。クーロンが行った実験をこの

装置で再現することが可能となり、クーロンの法

則が発見されたときの状況を理解することができ

た。

2 問題提起、研究目的

物理の授業で、万有引力の法則や静電気力と磁

気に関するクーロンの法則を学習した。これらの

力は異なるものであるが、その大きさは距離の2

乗に反比例するという不思議な共通性がある。し

かし、これらの法則が成立することを測定実験で

検証する方法は教科書には記載されていない。そ

の検証は、非常に困難であることが予測されるが、

測定に取組むことにする。この法則の発見の歴史

には興味深いものがある。教科書によるとクーロ

ンは、「ねじり秤」を用いた測定によって静電気力

に関するクーロンの法則を発見した。文献によれ

ば、クーロンの「ねじり秤」は非常に敏感な装置

であり、現代に行われた再現実験でも誤差が大き

く、距離の-1~-3乗程度になるという結論しか

得られていない。「ねじり秤」は市販されていない

ので、文献・資料を基に、「ねじり秤」の復元に取

り組み、測定装置として活用するとともに、科学

史の研究資料とする。

3 研究方法

(1)逆2乗法則の検証

まず初めに、次のような実験を行った。

縦長い長方形の発泡スチロール棒を2つ、塩ビ

パイプ、電子天秤、スタンドを各1つずつ用意し、

1つの発泡スチロール棒を電子天秤に固定して、

もう1つの発泡スチロール棒をスタンドで固定す

る。それぞれの発泡スチロール棒に塩ビパイプを

1,2回こすって電荷をあたえ、そして、スタン

ドに固定してある発泡スチロール棒を電子天秤に

固定してある発泡スチロール棒にゆっくりと近づ

けていき、電子天秤の秤量の変化により、引力や

反発力を調べた。

しかし、この方法では電荷を発泡スチロール棒

の上端に保持することができず、有効なデータは

得られなかった。

これはおそらく、電荷が発泡スチロール棒の表

面に広がり空気中に放電したためだと考えられる。

そこで、鉄球が電荷を保持できることを確かめた

上で、発泡スチロールの上端に鉄球を置き、上か

らスタンドに固定したエボナイト棒を近づけてい

くという方法をとった。しかしこれも、帯電はし

たがデータのブレが大きすぎたために、有効とは

いえなかった。これも、鉄球の電荷が鉄球の接触

面から発泡スチロールの表面に広がってしまった

と考えられる。

次に、確実に帯電しそうなエボナイト棒を鉄球

の代わりに用いて、この二つの棒を、平行にした

り垂直にしたりして近づけていくという方法を用

いた。しかしこれも同様に、データのずれが大き

すぎたために、有効なデータであるとは、いえな

かった。

最終的に、エボナイト棒を直接電子天秤に近づ

ける下記の方法を採用した。

①エボナイト棒を獣皮で摩擦して、負に帯電させ

る。

②スタンドで固定したエボナイト棒を電子天秤に

近づける。

③電子天秤の金属板が静電誘導によって静電気力

を受けて秤量が変化する。その様子を確認しな

がら天秤とエボナイト棒の距離を読み取る。

④横軸にエボナイト棒と天秤の距離、縦軸に天秤

の値、つまり静電気力の大きさを示すグラフを

作成する。

使用した電子天秤とエボナイト棒

クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元 3年 中村 浩太、 河北 侑也、 池田 俊介

物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元 1

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2 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

(2)「ねじり秤」の製作と実験方法

教科書や文献によるとクーロンは、「ねじり秤」

を用いた測定によって静電気力の式を発見した。

しかし、ねじり秤は市販されていないので、文献

や資料を基に、「ねじり秤」の復元に取り組み、測

定装置として活用するとともに、科学史の研究資

料とする。

①ねじり秤に関する資料

教科書には、クーロンの「ねじり秤」として、

下記のイラストが記載されている。しかし、復元

するために必要な資料は非常に少ない。

教科書に記載されているクーロンのねじり秤

ねじり秤(新潟大学ホームページ)

ねじり秤に関す情報をインターネットで検索し

たところ、新潟大学の博物館に復元されたねじり

秤が保管されていることがわかった。この写真は、

復元するための資料とした。

②ねじり秤の動作原理

D B C

金属球Aに電荷を与えると、金属棒でつながれ

た金属球Bも帯電する。糸でつるされた金属球C、

Dは金属球Bに引き寄せられ、金属球B、Cが接

触すると金属球Cは金属球Bと同符号に帯電する

ため金属球CはBから遠ざかる。

糸のねじれ角から静電気力の大きさを計算する

ことができる。

自作した「ねじり秤」

物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元2

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2 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

(2)「ねじり秤」の製作と実験方法

教科書や文献によるとクーロンは、「ねじり秤」

を用いた測定によって静電気力の式を発見した。

しかし、ねじり秤は市販されていないので、文献

や資料を基に、「ねじり秤」の復元に取り組み、測

定装置として活用するとともに、科学史の研究資

料とする。

①ねじり秤に関する資料

教科書には、クーロンの「ねじり秤」として、

下記のイラストが記載されている。しかし、復元

するために必要な資料は非常に少ない。

教科書に記載されているクーロンのねじり秤

ねじり秤(新潟大学ホームページ)

ねじり秤に関す情報をインターネットで検索し

たところ、新潟大学の博物館に復元されたねじり

秤が保管されていることがわかった。この写真は、

復元するための資料とした。

②ねじり秤の動作原理

D B C

金属球Aに電荷を与えると、金属棒でつながれ

た金属球Bも帯電する。糸でつるされた金属球C、

Dは金属球Bに引き寄せられ、金属球B、Cが接

触すると金属球Cは金属球Bと同符号に帯電する

ため金属球CはBから遠ざかる。

糸のねじれ角から静電気力の大きさを計算する

ことができる。

自作した「ねじり秤」

3

3 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

③ねじり秤の材料

器具の構造と文献の内容を考察した結果、以

下の材料を使用することにした。

・容器

容器は二つの金属球どうしが引き寄せあっ

たり、反発しあったりする動きが観察できるよ

うに、透明のガラスを使用する。

大きさは、用いる金属球の大きさにあわせて適

当な大きさのものを用いる。

・帯電球

帯電球BCは初め、電荷が移りやすそうな鉄

を使用した。二つの鉄球をそれぞれ糸で吊るし、

帯電させて静電気力が働くかどうか確認を行

ったところ、肉眼では実際に力が働いているか

確かめることができなかった。次に発泡スチロ

ールを使用した。また、直径が約 1センチメー

トルの発泡スチロールの球では、鉄球で行った

同じ方法で二つの発泡スチロールの球の間に

静電気力が働いていることを確認できた。そこ

で、実際にねじり秤で使用するには1センチメ

ートルでは小さすぎるため、直径が約4センチ

メートルの発泡スチロールの球で、ねじり秤に

設置してエボナイト棒を摩擦によって帯電さ

せるという上に記載したやり方とは異なった

方法で発泡スチロールの球に静電気力が働く

か確かめた。しかし、静電気力による糸のねじ

りは確認できなかった。原因として、発泡スチ

ロールの球を大きくしたことにより、球の表面

積が増加して電荷が空気中に逃げやすくなっ

たと考えられる。次に、鉄球をねじり秤に設置

して静電気力を確かめたところ、ねじれが生じ、

2物体間に静電気力が働いていることが確認

できた。これは、ねじり秤が微小な力を測定で

きる構造であるため、糸で吊るす実験では静電

気力が観察できなかった鉄球でも、ねじり秤を

使えば力を観察できたと考えられる。発泡スチ

ロール、共に2回確認の実験を行ったが、初め

の実験で静電気力を確認するには、より大きな

力が必要であったと考えられる。また、静電気

力が働く鉄球が持つ電気量が分かるように、帯

電球ADも鉄球にした。導体には、帯電した導

体同士を接触させると、電気量がそれぞれ半分

ずつになるという性質があり、さらに導体で繋

がれた帯電球AB、CD同士も電気量は同じに

なる。そのため、実験中触れることができない

帯電球BCの電気量を、帯電球Aの電気量を測

ることで知ることができる。

・帯電球の接合

帯電球C、Dをつなげるものは、初めは、電

荷の移動をなくすため竹の棒を使用した。帯電

球CからDに電荷が移動しないようにした理

由は、電荷を帯電球AからBへ、次にBからC

に移動させることで、BとCの間に静電気力が

働きねじれが生じると仮定したためである。帯

電球Dに電荷が移動していないかクーロンメ

ーターで確認したところ、帯電していたため電

荷の移動があったと分かった。電荷の移動を防

ぐため、帯電球と竹の棒を絶縁する必要がある

と考えた。次に、竹の棒と帯電球の間にゴムを

挟んだ。そして同じようにクーロンメーターで

帯電球Dの電荷を調べたところ、帯電している

ことが分かった。今回も電荷が移動した原因と

して電荷は表面も移動するためだと考えた。以

上から、電荷を移動させて、C,Dの電気量を

等しくするため針金を使用した。金属球A,B

を取り付ける棒も、電荷を移動させるように金

属棒を使用する。

・容器の蓋

容器の蓋は、初め、加工しやすい木の板を丸

く切って使用した。しかし、木の板を容器にし

っかりと合うような形に加工することが難し

く、その蓋にガラス管を取り付け、金属球をつ

るした時にその重さに耐えられるような強度

もなかったため、強度が高いアクリル板を使用

した。これは、容器の高さを調整するもので使

用したアクリル板と同じ大きさにし、その両方

のアクリル板の四隅に容器を固定できるよう

なねじを取り付け、蓋と台座が一体となるよう

にした。

・ねじり糸

ねじり秤をつるす糸は初め、ビニール製のテ

ープを細く裂いて使用した。このビニール製の

テープは刺しゅう糸などとは異なり糸にねじ

れがないためねじり秤の条件に合うと考えた。

しかし、帯電球である鉄球をつるして実験を行

うと、徐々にビニールが伸びて、糸が切れてし

まい鉄球をつるすには不適だった。鉄球の重さ

にも耐えることができ、ねじれに対する反発力

が大きいガラス糸を使用した。

・ねじり糸の保護材

物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元 3

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4 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

ねじり秤を吊るす糸を覆う管は、秤がよりねじ

れやすくなるようにするためと、もし管(糸)

が短いと指で触れる管の上部に電荷がにげや

すくなるとかんがえ、これらの理由から管は長

くした。

・ねじれ調整ねじ

ねじれ秤が静止する位置を操作するため、中

央のガラス管の上端ネジに秤を吊るしたニク

ロム線を巻き付け、置いた。このネジを捻るこ

とで、秤の静止位置を操作できる。

・水平調整ねじ

容器の高さを調節するものは、金属球C、D

をつるすガラス糸がガラス管に接触して金属

球A、Bのねじれに影響を与えないようにする

必要がある。ねじり秤の容器の下に透明のアク

リル板を敷いて、アクリル板に穴をあけ、アク

リル板の四隅にねじを通す。ねじを回し高さを

調節する。

④ねじり秤の使用方法

ア.装置の中を真空にし、鉄球C,Dを静止さ

せる。このとき、鉄球Cと鉄球Bの間は数ミ

リ開けておき、ねじり秤のねじれは無い。

イ.摩擦によってエボナイト棒を帯電させ、固

定した金属球Aに電荷を与える。そのとき金

属棒でつながれた鉄球Bも帯電し、鉄球Aと

鉄球Bの電気量は等しくなる。

ウ. クーロン力により、固定した鉄球Bと秤の

金属球Cが接触し、両方の鉄球B、Cの電荷

の符号が同じになり反発し、ねじれが始ま

る。.鉄球Cが離れているときに鉄球Bに電

荷を与えると、反発力が鉄球Cの運動量の増

加を促し、鉄球Cがねじれて再び戻ってくる

ときの運動量も増加するために鉄球Cが鉄

球Bに衝突し、鉄球Cの動きを乱すと考え、

鉄球Cが鉄球Bに近づいているタイミング

で帯電させる。

エ.秤が静止するまで鉄球Bに電荷を与える。

静止したら鉄球Bの電荷を量り、ねじれ角か

ら、二つの鉄球の距離を計算する。

オ.測定した値を用いて、クーロンの法則比例

定数を計算する。

⑤自作した「ねじリ秤」の動作

・糸がねじれていない状態で、金属球B,C

を接触させる。

・金属球を帯電させると、静電気力によって

属球B、Cは遠ざかる。

4 結果

(1)逆2乗法則の検証

帯電棒を電子天秤に近づけて測定した静電力の

大きさと距離の関係は、以下の通りである。

物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元4

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4 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

ねじり秤を吊るす糸を覆う管は、秤がよりねじ

れやすくなるようにするためと、もし管(糸)

が短いと指で触れる管の上部に電荷がにげや

すくなるとかんがえ、これらの理由から管は長

くした。

・ねじれ調整ねじ

ねじれ秤が静止する位置を操作するため、中

央のガラス管の上端ネジに秤を吊るしたニク

ロム線を巻き付け、置いた。このネジを捻るこ

とで、秤の静止位置を操作できる。

・水平調整ねじ

容器の高さを調節するものは、金属球C、D

をつるすガラス糸がガラス管に接触して金属

球A、Bのねじれに影響を与えないようにする

必要がある。ねじり秤の容器の下に透明のアク

リル板を敷いて、アクリル板に穴をあけ、アク

リル板の四隅にねじを通す。ねじを回し高さを

調節する。

④ねじり秤の使用方法

ア.装置の中を真空にし、鉄球C,Dを静止さ

せる。このとき、鉄球Cと鉄球Bの間は数ミ

リ開けておき、ねじり秤のねじれは無い。

イ.摩擦によってエボナイト棒を帯電させ、固

定した金属球Aに電荷を与える。そのとき金

属棒でつながれた鉄球Bも帯電し、鉄球Aと

鉄球Bの電気量は等しくなる。

ウ. クーロン力により、固定した鉄球Bと秤の

金属球Cが接触し、両方の鉄球B、Cの電荷

の符号が同じになり反発し、ねじれが始ま

る。.鉄球Cが離れているときに鉄球Bに電

荷を与えると、反発力が鉄球Cの運動量の増

加を促し、鉄球Cがねじれて再び戻ってくる

ときの運動量も増加するために鉄球Cが鉄

球Bに衝突し、鉄球Cの動きを乱すと考え、

鉄球Cが鉄球Bに近づいているタイミング

で帯電させる。

エ.秤が静止するまで鉄球Bに電荷を与える。

静止したら鉄球Bの電荷を量り、ねじれ角か

ら、二つの鉄球の距離を計算する。

オ.測定した値を用いて、クーロンの法則比例

定数を計算する。

⑤自作した「ねじリ秤」の動作

・糸がねじれていない状態で、金属球B,C

を接触させる。

・金属球を帯電させると、静電気力によって

属球B、Cは遠ざかる。

4 結果

(1)逆2乗法則の検証

帯電棒を電子天秤に近づけて測定した静電力の

大きさと距離の関係は、以下の通りである。

5

5 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

測定値をエクセルでグラフ化し近似式を求めた。

その結果、静電気力の大きさは、エボナイト棒

では距離の-1.8乗、塩化ビニル棒では距離の

-1.9乗に比例している。

(2)自作した「ねじり秤」による実験結果

「ねじリ秤」の内部を真空にすることはできな

かったが、実験“イ”・“ウ”を行った。

実験“イ”を行った結果、鉄球Cは鉄球Bから

離れ、その後折り返してきて、鉄球Cに近づくが、

再び鉄球Cから離れた。その後も、この鉄球Cの

単振動のような動きが続いた。

実験“ウ”では、やがて鉄球Cは静止した。そ

してさらに電荷を与えると、再び振動し、鉄球C

はさらに鉄球Bから遠い位置に静止した。

これらのことから、自作した「ねじり秤」にお

いて2物体間にクーロン力が働き、電気量が増え

ればその力の大きさも大きくなるということが分

かった。

5 考察

(1)逆2乗法則の検証

この時の指数の値が-2乗でないのは、時間と

共に帯電体の電荷が空気中に放電したためだと考

えられる。また、クーロンの法則は、二つの電荷

は点電荷であるという前提だが、帯電させたエボ

ナイト棒は表面に電荷が広がっており、対象物で

ある金属板の静電誘導している部位も広がりを持

つため、この二つは点電荷とみなすことが難しく

なり、このようなずれが生じたと考えられる。

そこでまず、エボナイト棒の先端だけを獣皮で

こすって帯電させ、エボナイト棒を点電荷とみな

し、エボナイト棒をスタンドに縦向きで固定して、

実験を行った。このとき、金属板は点電荷ではな

いが、電気力線を考えると、このときのエボナイ

ト棒と金属板は点電荷同士の電気力線に似た電気

力線を形成するため、点電荷同士の状態に近いと

いえる。しかし、本当にエボナイト棒の先端だけ

に電荷がたまっているのかを確認することができ

ず、データも有効であるとはいえなかった。

また、実験後にスタンドの電荷をクーロンメー

ターで量ったところ、微量の電荷がスタンドにた

まっていたことが分かった。これは、スタンドと

エボナイト棒の接点はゴムで絶縁してあるが、大

部分が金属製のスタンドに電荷が引き寄せられ、

移ったためだと考えられる。そのため、静電気力

の大きさと距離の2乗の逆数の関係に誤差が生じ

たと考えた。

(2)自作した「ねじり秤」の動作

「ねじり秤」の製作は、試行錯誤を繰り返しな

がら多くの時間を費やした。その結果、この装置

の動作原理を理解することができ、完成した装置

が動作原理通りに動くことを確認することができ

た。しかし、自作したこの装置で定量的な測定に

よるクーロンの法則の検証は、まだできていない。

糸のねじれ角の大きさから静電気力の大きさを計

算する方法を研究し、装置をさらに改良するなど、

今後も継続した研究が必要である。

6 結論と課題

本研究においては、逆2乗法則のうち静電気力

に注目し、その検証を行った。電子天秤を用いた

定量実験では、一定の精度で逆2乗法則が成立す

ることを容易に検証することができることを確認

した。

しかし、クーロンがこの法則を発見した18世

紀においては、電子天秤などの精密電子機器は存

在していないことを考えると、「ねじり秤」による

測定が科学の発展に非常に大きな意義を持ってい

たと言える。「ねじり秤」を自作したことによって、

この法則の歴史的発見がどのようにして行われた

かを、詳細に知ることができた。一方で、現代に

行われた再現実験でも誤差が大きく、距離の-1

~-3乗程度になるという結論しか得られていな

いことから、クーロンは論理的考察から逆2乗法

則を信じるようになり、それを検証しようとして

実験を行い、多くの測定データの中から最も信頼

物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元 5

-5-

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6

6 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

できるデータだけを報告したと考える研究者もあ

る。

この議論について結論を出すためには、「ねじリ

秤」による定量測定の信憑性を確認することが必

要であり、復元材料の選択や装置を動作させる方

法について、更に研究を深める必要がある。

7 参考文献

・教科書「物理Ⅱ」数研出版

・霜田光一『歴史をかえた物理実験』

(丸善、1996年)

・新潟大学博物館ホームページ

8 謝辞

今回、「ねじり秤」によるクーロンの法則の検証

実験を行うにあたって多くの方々に協力してもら

いました。まず、私たちの研究を指導していただ

いた 辻 和宏先生 には、実験のテーマを決め

た後から、実験を正確に行える環境を作っていた

だきました。また、自分たちではどうしようもな

く行き詰ったときに、先生の視点からアドバイス

をもらいました。そして、校内の中間発表会では、

大学・高校の先生方からも新しい考え方や視点を

指摘していただき、問題解決の大きな助けになり

ました。私たちの研究に協力していただき、あり

がとうございました。

物理① クーロンの法則の検証と 「ねじり秤」 の復元6

-6-

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6

6 物理① クーロンの法則の検証と「ねじり秤」の復元

できるデータだけを報告したと考える研究者もあ

る。

この議論について結論を出すためには、「ねじリ

秤」による定量測定の信憑性を確認することが必

要であり、復元材料の選択や装置を動作させる方

法について、更に研究を深める必要がある。

7 参考文献

・教科書「物理Ⅱ」数研出版

・霜田光一『歴史をかえた物理実験』

(丸善、1996年)

・新潟大学博物館ホームページ

8 謝辞

今回、「ねじり秤」によるクーロンの法則の検証

実験を行うにあたって多くの方々に協力してもら

いました。まず、私たちの研究を指導していただ

いた 辻 和宏先生 には、実験のテーマを決め

た後から、実験を正確に行える環境を作っていた

だきました。また、自分たちではどうしようもな

く行き詰ったときに、先生の視点からアドバイス

をもらいました。そして、校内の中間発表会では、

大学・高校の先生方からも新しい考え方や視点を

指摘していただき、問題解決の大きな助けになり

ました。私たちの研究に協力していただき、あり

がとうございました。

1 物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究

1 動機及び目的

ミルクの雫が液面に落下すると、ミルククラウ

ンが形成される。この現象を調べてみると、落体

によって形成されるクレーターの形成過程と類似

点があることがわかった。ミルククラウンと惑星

クレーターのスケール比は 107 程度であり、類似

した現象であったとしても、スケール比を超えた

共通法則が成立するのか疑問である。

本研究では、流体や固形物によって形成される

衝突クレーターについて測定実験を行うことによ

り、共通する物理法則が存在するかを解明する。

2 原理

落体が液面や地面に衝突すると、クラウンやク

レーターが形成される。これらのクラウンやクレ

ーターの形成には、その大きさに関係なく共通の

法則性(スケール変換不変則)があると仮説を立

て、落体の運動エネルギー・密度とミルク(ヨー

グルト)クラウンやクレーターの大きさを測定・

比較し、関係式を検証する。

〈スケーリング則について〉

円の面積の公式πr 2 は、円の大きさに関係なく

成立する。自然現象において、大きさに関係なく

成立する関係式が見つかれば、モデル実験によっ

て得られた結果から、スケールの異なる現象を予

測することができる。

物理の分野でこのスケーリング則が重要なのは、

同じ現象を考えるときに指数 n(円の公式では2) が多くの状況で普遍的な値をとり、定数部分(円

の公式ではπ)が個別の状況を反映しているから

である。

クレーターの場合は次元解析より、クレーター

の面積Sを落体の運動エネルギーK・密度ρ及び

重力加速度 g を用いて表すと、

S=αg

(αは定数)

となる。この関係式を実験によって検証する。

3 方法

<砂団子のクレーター形成実験>

岩石を使用しても衝突時に壊れない。そのため

この実験では衝突時に壊れやすく、クレーターを

形成する砂団子を用いた。

~手順~

① グラウンドで土を含んだ砂を採取し、荒い「ふ

るい」で小石を取り除く。

② 水を含ませてボール状にして乾燥させる。

③ 落下面にも同じ砂で均等な深さの層を作る。

④ 砂団子の質量と落下させる高さを測定する。

⑤ 砂団子を落下させ、形成されたクレーターの

直径をものさしで測定する。

衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究 物理部・3年 谷本 諒太、 北村 啓伍、 花田 泰智

物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究 1

-7-

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2 物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究

同様の方法で、乾燥していない砂団子について

も、測定を行う。

砂団子のクレーター形成実験

<流体のクレーター形成実験>

固体の落体だけでなく、流体の場合でも関係式

が成り立つか調べるために、形成されたクレータ

ーを測定しやすいヨーグルトとマヨネーズを使用

した。

~手順~

① 落下面には落下と同じ物質の深さを決めてシ

ャーレに入れる。

② スタンドに固定したピペットを用いて物質を

滴下し、形成されたクレーターの直径をノギ

スで測定する。

③ マヨネーズについては、食酢を混ぜることに

よって粘性を変化させて測定を行う。

4 結果と考察

クレーター面積 S、衝突する物体の運動エネル

ギーK、密度ρ、重力加速度 g の関係を次元解

析によって求めると、クレーター面積 S は、 𝐾𝐾𝜌𝜌𝜌𝜌 の平方根に比例することがわかる。

この関係を対数グラフで示す。

このグラフから、乾燥砂団子によるクレーター

の面積 S は

S = 1.0 � 𝐾𝐾𝜌𝜌𝜌𝜌�0.50

となり、次元解析による式が成り立っている。

流体(ヨーグルトやマヨネーズ)や湿った砂団

子については、関係式からの誤差があると考える

と、その理由についての考察は以下の通りである。

物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究2

-8-

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2 物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究

同様の方法で、乾燥していない砂団子について

も、測定を行う。

砂団子のクレーター形成実験

<流体のクレーター形成実験>

固体の落体だけでなく、流体の場合でも関係式

が成り立つか調べるために、形成されたクレータ

ーを測定しやすいヨーグルトとマヨネーズを使用

した。

~手順~

① 落下面には落下と同じ物質の深さを決めてシ

ャーレに入れる。

② スタンドに固定したピペットを用いて物質を

滴下し、形成されたクレーターの直径をノギ

スで測定する。

③ マヨネーズについては、食酢を混ぜることに

よって粘性を変化させて測定を行う。

4 結果と考察

クレーター面積 S、衝突する物体の運動エネル

ギーK、密度ρ、重力加速度 g の関係を次元解

析によって求めると、クレーター面積 S は、 𝐾𝐾𝜌𝜌𝜌𝜌 の平方根に比例することがわかる。

この関係を対数グラフで示す。

このグラフから、乾燥砂団子によるクレーター

の面積 S は

S = 1.0 � 𝐾𝐾𝜌𝜌𝜌𝜌�0.50

となり、次元解析による式が成り立っている。

流体(ヨーグルトやマヨネーズ)や湿った砂団

子については、関係式からの誤差があると考える

と、その理由についての考察は以下の通りである。

3 物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究

<クレーターの形成に関する定性的考察>

乾燥砂団子は特性が安定しており、分布幅が少

ない測定値を得ることができた。流動物(ヨーグ

ルト、マヨネーズ)は、クレーター形成直後から、

中央の窪みに向かってクレーター壁が流動するた

め、クレーター面積 S の測定値は実際より大きく

測定された。その変化は濃度や気温による影響が

ある。また、水分を含んだ砂団子は砂粒が散乱し

にくいので、クレーター面積 S の測定値は小さく

なる。

しかし、この関係式に含まれていない別の要因

が存在する可能性もある。

5 反省と課題

今回の研究では、300 個以上の落体によるクレ

ーターを計測し、関係式を検証することができた。

落下物の衝突によって形成されるクレーターの

面積は、スケール変換が可能な共通法則が一定の

範囲内で存在しており、スケール比 103 程度の範

囲内で法則性が確認できた。乾燥砂団子のクレー

ターについては、次元解析によって得られた関係

式の係数と指数を決定することができた。

流体や湿気を含んだ砂団子によるクレーターの

形成には、考慮すべき要因が他にもあり、正確な

検証はできていない。今後の課題は、流体や湿気

を含んだ固形物を使って検証すること、落下面の

密度がクレーターの形成にどのように影響するか

を調べる必要がある。

参考文献

『スケーリング理論とは何か? 有限系から無限

系を見る方法』 福島孝治 (2006)

『氷天体の衝突破壊とクレーター形成過程』

荒川政彦 (2008)

物理② 衝突クレーターの形成に関するスケーリング則の研究 3

-9-

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1

1 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

1 要旨、概要

「逆立ち独楽」が回転によって逆立ちする現象

を考察し、高校生でも理解できる説明方法を考案

した。研究は基本的な回転現象から考察を行い、

逆立ち独楽の回転原理の考察に応用することを試

みた。研究対象は「普通の独楽」、「はまき型の物

体」、「ゆで卵」、「逆立ち独楽」の四つを用いた。

これらの物体の回転原理を比較・検討して共通点

と相違点を整理することにより回転する物体の運

動を総合的に分析する。さらに、未知の物体の回

転にも応用できる可能性を示唆する。

2 問題提起、研究目的

「逆立ち独楽」がどのような過程を経て逆立ち

という運動が起きるのか疑問に思った。「独楽」の

運動については、大学のテキストではオイラー方

程式を用いて解説されており、一般の高校生は理

解することが困難な高等数学が用いられている。

このため、高校で学ぶ物理の内容で理解できるよ

うに説明できないかと考え、研究を行った。 「逆

立ち独楽」の回転のように複雑な回転運動であっ

ても、基本的な回転運動と比較・考察することに

より、現象を細分化しながら分析することができ

れば、その運動原理を解明し他の回転運動の考察

にも応用できる。

【説明のための座標軸等の定義】 x,y→ 水平面内の座標軸 z → 鉛直な軸 G → 重心 O → 中心 P → 独楽と床との接地点 Q → 取手と床の接地点 N → 垂直抗力 Fx → Pでの摩擦 物体の質量 → m 重力加速度 → g

逆立ち独楽 3 研究方法

「逆立ち独楽」の運動は複雑であり、単純なモ

デルから考察を深めていく必要がある。比較対照

するものとして「普通の独楽」・「はまき型の物

体」・「ゆで卵」を選定した。各物体の回転原理を

論理的に考察し、「逆立ち独楽」との共通点・相違

点を見つけて、回転現象を解明する。

(1)「普通の独楽」について

P 普通の独楽は回転軸に対して対称性があるの

で、床との接点Pは、必ず回転軸上にある。重力

と垂直抗力の「不安定なつり合い」が成立する。

(2)「はまき型の物体」について

「はまき型の物体」とは、重心に対して左右の

質量がつり合っておらず、水平な面に静止させた

とき傾いている物体のことを指す。 実験 「はまき型の物体」に印をつけ、z 軸回転とは

別の方向に回転が起こるか市販のカメラを用いて

高速連写(30 枚/秒)し、観察する。

「逆立ち独楽」等の運動に関する研究 物理部・2年 井上 正悟、 梅﨑 大介

O G

mg

物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究1

-10-

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1

1 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

1 要旨、概要

「逆立ち独楽」が回転によって逆立ちする現象

を考察し、高校生でも理解できる説明方法を考案

した。研究は基本的な回転現象から考察を行い、

逆立ち独楽の回転原理の考察に応用することを試

みた。研究対象は「普通の独楽」、「はまき型の物

体」、「ゆで卵」、「逆立ち独楽」の四つを用いた。

これらの物体の回転原理を比較・検討して共通点

と相違点を整理することにより回転する物体の運

動を総合的に分析する。さらに、未知の物体の回

転にも応用できる可能性を示唆する。

2 問題提起、研究目的

「逆立ち独楽」がどのような過程を経て逆立ち

という運動が起きるのか疑問に思った。「独楽」の

運動については、大学のテキストではオイラー方

程式を用いて解説されており、一般の高校生は理

解することが困難な高等数学が用いられている。

このため、高校で学ぶ物理の内容で理解できるよ

うに説明できないかと考え、研究を行った。 「逆

立ち独楽」の回転のように複雑な回転運動であっ

ても、基本的な回転運動と比較・考察することに

より、現象を細分化しながら分析することができ

れば、その運動原理を解明し他の回転運動の考察

にも応用できる。

【説明のための座標軸等の定義】 x,y→ 水平面内の座標軸 z → 鉛直な軸 G → 重心 O → 中心 P → 独楽と床との接地点 Q → 取手と床の接地点 N → 垂直抗力 Fx → Pでの摩擦 物体の質量 → m 重力加速度 → g

逆立ち独楽 3 研究方法

「逆立ち独楽」の運動は複雑であり、単純なモ

デルから考察を深めていく必要がある。比較対照

するものとして「普通の独楽」・「はまき型の物

体」・「ゆで卵」を選定した。各物体の回転原理を

論理的に考察し、「逆立ち独楽」との共通点・相違

点を見つけて、回転現象を解明する。

(1)「普通の独楽」について

P 普通の独楽は回転軸に対して対称性があるの

で、床との接点Pは、必ず回転軸上にある。重力

と垂直抗力の「不安定なつり合い」が成立する。

(2)「はまき型の物体」について

「はまき型の物体」とは、重心に対して左右の

質量がつり合っておらず、水平な面に静止させた

とき傾いている物体のことを指す。 実験 「はまき型の物体」に印をつけ、z 軸回転とは

別の方向に回転が起こるか市販のカメラを用いて

高速連写(30 枚/秒)し、観察する。

「逆立ち独楽」等の運動に関する研究 物理部・2年 井上 正悟、 梅﨑 大介

O G

mg

2

2 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

(3)「ゆで卵」について

「ゆで卵」は「はまき型の物体」と同様に、重

心に対して左右の質量がつり合っておらず、水平

な面に静止させたとき傾いている。「ゆで卵」は尖

っている部分を水平にし、回転させると 90 度回

転して立ち上がる。 実験 段ボールを円形に加工し、それを積み重ねるこ

とで「ゆで卵」に近い模型を作製した。作成した

模型を用いて「ゆで卵」の回転をより大きなスケ

ールで行い、運動を簡単に説明できないか考察を

行った。また、どのような条件が立ち上がること

に必要なのか、製作の過程から考察を行った。

(4)「逆立ち独楽」について

「逆立ち独楽」は、扁平な楕円体の上部を切断

した部分に回転させるための取手がついていて、

楕円体の中心と重心は一致していない。取手を上

にしたとき、重心が最も低い状態になって静止す

る。 実験 ・「逆立ち独楽」を回転させ、市販のカメラを用い

て高速連写(30 枚/秒)し、逆立ちする過程を撮

影した。 ・ガラス板に洗剤を塗り、摩擦力を小さくした状

態を作る。その上で「逆立ち独楽」を回し、逆立

ちするかどうかを観察した。 ・スポンジゴムを用いることで、反発係数が床よ

りも小さい状態にした。その上で「逆立ち独楽」

を回し、逆立ちするかどうかを確認した。 ・電子天秤の上で独楽を回し、逆立ちする瞬間に、

静止した状態よりも電子天秤の値が変化するかど

うかを観察した。 ・取手にマジックペンのキャップをつけ、回転し

た時の質量が重心に対して左右で釣り合うように

して「逆立ち独楽」を回し、どのように回転する

かを観察した。 今回は、「逆立ち独楽」の運動をカメラやビデ

オで撮影し、通常の独楽の回転と比較することに

より、相違点を整理した。また、逆立ちする原因

を特定するため、摩擦係数や反発係数が異なる条

件で回転の様子を比較・確認した。これらの情報

を総合して逆立ち独楽の回転原理を説明するため

の考察を行った。 4 結果

(1)「普通の独楽」について

「普通の独楽」は、回転速度が低下すると、回

転軸が徐々に傾いて、独楽の重心は低い位置に移

動する。

(2)「はまき型」の物体について

「はまき型」の物体は力を加えた z 軸方向の回

転だけでなく、同時に x 軸方向の回転も起こる。

(3)「ゆで卵」について

模型の卵が回転して立ち上がるためには、模型

の形状を卵に近づけることで立ち上がりやすく

なった。

(4)「逆立ち独楽」について

・Z 軸回転に対して x 軸回転は非常に緩やかに進

んでいた。また逆立ちが完成する直前に「逆立ち

独楽」の取手部分と床との間で反発が起こってい

た。 ・床の反発係数が小さいと、x 軸回転は起こった

が、逆立ちまでは至らなかった。 ・x 軸回転が起こっている間だけ電子天秤に表示

される値が、静止している状態よりも大きく表示

された。 ・「逆立ち独楽」を加工して重心 G を中心Oに近

づけると、取手が床と平行になるまで x 軸回転が

起こるが、その後 x 軸回転は維持されず、z 軸回

転のみ維持される。

静止

O G

mg N

物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究 2

-11-

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3

3 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

5 考察

(1)「普通の独楽」について

独楽の重心と接地点は一直線上に並んでいる。

つまり、独楽に働いている重力と垂直抗力は向か

い合って働いている。独楽を z 軸方向に回転させ

たとき、異なる方向の外力が少し加わっただけで

独楽の z 軸回転軸が鉛直に保たれなくなり、独楽

は傾き始める。そして、最終的に回転を続けるこ

とができなくなる。これは「普通の独楽」の z 軸

回転軸が傾いたとき、接地点が移動することがで

きないため、z 軸回転軸を鉛直に保つことができ

ないからである。

(2)「はまき型の物体」について

「はまき型の物体」は自然な状態で静止させた

場合は、図のように長軸が傾いた状態で静止する。 「はまき型」の物体を z 軸方向に回転させると、

鉛直回転軸は重心 G を通る。このとき接地点 P と

はGは同一円直線上にないため接地点Pに動摩擦

力 Fx がはたらく。このため動摩擦力 Fx によって

水平軸回転が生じる。鉛直軸回転は動摩擦力 Fxによって減速し、水平軸回転は徐々に加速する。

(3)「ゆで卵」について

「ゆで卵」を静止させた場合は「はまき型」物

体と同様に、長軸が傾いた状態で静止する。 そのため、「ゆで卵」を真上から見た状態で反

時計まわりに回転させると「はまき型の物体」と

同様に、動摩擦力 Fx がはたらき水平軸回転が生

じる。このとき、水平軸回転は徐々に加速し、鉛

直軸回転は減速する。また、接地点 P に接してい

る部分は、鉛直軸回転による x 軸の正の向きにす

べると同時に、水平軸回転によって x 軸の負の向

きにすべっている。 その結果、接地点 P において鉛直軸回転と水平

軸回転の速さが等しくなる瞬間が訪れる。この瞬

間、接地点 P は床に対して静止し、接地点 P に静

止摩擦力がはたらく。そのため、静止していた重

心Gと接地点Pが床に対して同時に静止する必要

が生じる。この条件が満たされるのは、静止した

静止

P

G

x

y

z

P

G

N

ωz ωy

物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究3

-12-

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3

3 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

5 考察

(1)「普通の独楽」について

独楽の重心と接地点は一直線上に並んでいる。

つまり、独楽に働いている重力と垂直抗力は向か

い合って働いている。独楽を z 軸方向に回転させ

たとき、異なる方向の外力が少し加わっただけで

独楽の z 軸回転軸が鉛直に保たれなくなり、独楽

は傾き始める。そして、最終的に回転を続けるこ

とができなくなる。これは「普通の独楽」の z 軸

回転軸が傾いたとき、接地点が移動することがで

きないため、z 軸回転軸を鉛直に保つことができ

ないからである。

(2)「はまき型の物体」について

「はまき型の物体」は自然な状態で静止させた

場合は、図のように長軸が傾いた状態で静止する。 「はまき型」の物体を z 軸方向に回転させると、

鉛直回転軸は重心 G を通る。このとき接地点 P と

はGは同一円直線上にないため接地点Pに動摩擦

力 Fx がはたらく。このため動摩擦力 Fx によって

水平軸回転が生じる。鉛直軸回転は動摩擦力 Fxによって減速し、水平軸回転は徐々に加速する。

(3)「ゆで卵」について

「ゆで卵」を静止させた場合は「はまき型」物

体と同様に、長軸が傾いた状態で静止する。 そのため、「ゆで卵」を真上から見た状態で反

時計まわりに回転させると「はまき型の物体」と

同様に、動摩擦力 Fx がはたらき水平軸回転が生

じる。このとき、水平軸回転は徐々に加速し、鉛

直軸回転は減速する。また、接地点 P に接してい

る部分は、鉛直軸回転による x 軸の正の向きにす

べると同時に、水平軸回転によって x 軸の負の向

きにすべっている。 その結果、接地点 P において鉛直軸回転と水平

軸回転の速さが等しくなる瞬間が訪れる。この瞬

間、接地点 P は床に対して静止し、接地点 P に静

止摩擦力がはたらく。そのため、静止していた重

心Gと接地点Pが床に対して同時に静止する必要

が生じる。この条件が満たされるのは、静止した

静止

P

G

x

y

z

P

G

N

ωz ωy

4

4 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

接地点Pと重心Gが鉛直回転軸上に位置する場合

のみである。この結果、「ゆで卵」には、x 軸, y軸, z 軸の3方向の回転が同時に生じて、螺旋を描

くようにして安定な位置まで、90°立ち上がる。

ここで、静止摩擦力が重心 G を移動させる回転を

引き起こしたと考えると違和感があるが、「ゆで卵」

が回転するとき、接地点 P がすべらないように大

きな静止摩擦力が作用したため、物体の回転に変

化が生じている。 (4)「逆立ち独楽」について ・独楽が傾いても倒れない理由 独楽を上から見て反時計回りに回転させたと

すると独楽の中心軸の傾きが起こる前、独楽の中

心 O と重心 G は同一円直線上に並んでいる。 摩擦や床の凹凸により独楽が傾く。このとき接

地点 P が回転軸からずれる。普通の独楽であれば

回転軸が傾き、重心 G が下がって倒れてしまうが、

逆立ち独楽の場合、接地点 P がずれたとしても、

接地点が移動することにより、垂直抗力 N が鉛直

回転軸 z を鉛直に保つので、鉛直回転軸 z は傾か

ない。

・重心 G が上昇する理由 「ゆで卵」の場合と同様に、接地点 P に働く動

摩擦力Fxがx軸回転を引き起こすモーメント(以

下 Fx モーメント)となる。OP を腕とする Fx モ

ーメントとOGを腕とするmgモーメントを比較

すると、OG に比べて OP の方が長いため反時計

回りに x 軸回転をする。また、接地点 P は常に独

楽の中心 O の真下にあるため、水平回転軸 x は独

楽の中心 O を通る。そして独楽が x 軸回転をする

ことにより重心 G が上昇する。このとき独楽の取

手は、独楽が z 軸回転と x 軸回転することにより

螺旋を描いきながら下降していく。

・逆立ちが完成する理由 取手は床に衝突しても螺旋回転を続けようと

する。そのため、鉛直回転軸 z 上を重心 G が上昇

し、中心 O が重心 G の下に移動を続ける。 さらに取手は螺旋を描きながら独楽の下部に

入り込み、逆立ちが完成する。

静止摩擦力

G

O G

O G

mg N

P

O G

N

P

O G

P

静止摩擦力 P

物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究 4

-13-

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5

5 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

逆立ちが完成した後も z 軸回転は起こるが、接

地点が移動することはなく、「普通の独楽」と同様

の運動となり、回転が鈍ると倒れる。 6 結論と課題

「逆立ち独楽」を回転させると、接地点に作用

する動摩擦力によって水平方向回転軸の回転が発

生し、その後、静止摩擦力の作用によって逆立ち

が起こることを解明した。この説明は高校の物理

を用いて行い、研究目的を達成することができた。 また、比較対照した物体として「はまき型の物

体」や「ゆで卵」の回転について考察し、類似し

た理論で説明できることを明らかにし、剛体の回

転の変化を総合的に考察することができた。 これらの物体の回転について、共通点や相違点

を整理する。 ① 形状の非対称性 ・「はまき型の物体」、「ゆで卵」は床の上に静止さ

せておいたときに、物体が水平に保たれていな

い。また、回転させたとき接地点と重心が同一

鉛直線上にない。 ・「逆立ち独楽」は接地点がずれやすい形状の面を

持っている。 ② x 軸(水平軸)回転の発生 ・「はまき型の物体」、「ゆで卵」、「逆立ち独楽」に

ついては動摩擦力により x 軸回転が起こる。 ③立ち上りや逆立ちの原因(重心の上昇) ・「ゆで卵」、「逆立ち独楽」は、接地点に作用する

静止摩擦力によって物体の回転状態が変化し、

立ち上りや逆立ちが起こる。 ・「はまき型」の物体は回転によって立ち上がらな

い。 ④立ち上りの角度 ・「ゆで卵」は 90 度、「逆立ち独楽」は 180 度回

転して立ち上がるが、「はまき型の物体」は立

ち上がらない。

以上の考察から、「逆立ち独楽」の運動をいく

つかの段階として見たときに、今回、比較した物

体の運動と一致している部分があることが確認で

きた。 「ゆで卵」や「逆立ち独楽」のように水平面上

で回転する剛体の回転状態を変化させるのは、最

初は動摩擦力であり、二つの回転軸で回転が起こ

る。次に、この二つの回転状態が徐々に変化して

静止摩擦力が作用する状態に達すると、最終的な

立ち上りや逆立ちの状態へ進行する。 今回の研究で得た結論は、回転する剛体の運動

の変化を説明するとき、更に多くの現象に応用で

きるものと考えられる。独特の回転・振動を行う

「ラトルバック」などに研究対象を拡大して考察

を深めれば、多くの剛体の回転に共通する法則性

を見つけることができる。また、引き続き「逆立

ち独楽」の実験を行い、理論的な考察だけでなく

数値として結果を得ることで、より正確な検証を

行うことも必要である。

7 参考文献

・「逆立ちゴマの力学」

静岡大学次世代ものづくり人材育成センター

藤間信久 永田照三 太田信二郎

8 謝辞

今回、「逆立ち独楽」を中心とした回転する剛

体の研究を行うにあたって多くの方々に協力して

いただきました。まず、私たちの研究を指導して

いただいた 辻 和宏先生には、実験のテーマを

決めた後から、考察に関するアドバイスをいただ

きました。そして、校内で実施された中間発表会

では、大学・高校の先生方からも新しい考え方や

視点を指摘していただき、課題解決の大きな助け

になりました。私たちの研究に協力していただき、

ありがとうございました。

はまき型物体

ゆで卵

独楽 逆立ち 通常

回転時の 接地点

重心を通る鉛直線からずれる

ずれ やすい

ずれ ない

水平軸回転の発生

動摩擦力の作用で発生する 発生しない 立ち上り

の有無 形状として不可能

静止摩擦力の作用で発生する

立ち上り角度

90° 180°

O G

物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究5

-14-

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5

5 物理③ 逆立ち独楽等の運動に関する研究

逆立ちが完成した後も z 軸回転は起こるが、接

地点が移動することはなく、「普通の独楽」と同様

の運動となり、回転が鈍ると倒れる。 6 結論と課題

「逆立ち独楽」を回転させると、接地点に作用

する動摩擦力によって水平方向回転軸の回転が発

生し、その後、静止摩擦力の作用によって逆立ち

が起こることを解明した。この説明は高校の物理

を用いて行い、研究目的を達成することができた。 また、比較対照した物体として「はまき型の物

体」や「ゆで卵」の回転について考察し、類似し

た理論で説明できることを明らかにし、剛体の回

転の変化を総合的に考察することができた。 これらの物体の回転について、共通点や相違点

を整理する。 ① 形状の非対称性 ・「はまき型の物体」、「ゆで卵」は床の上に静止さ

せておいたときに、物体が水平に保たれていな

い。また、回転させたとき接地点と重心が同一

鉛直線上にない。 ・「逆立ち独楽」は接地点がずれやすい形状の面を

持っている。 ② x 軸(水平軸)回転の発生 ・「はまき型の物体」、「ゆで卵」、「逆立ち独楽」に

ついては動摩擦力により x 軸回転が起こる。 ③立ち上りや逆立ちの原因(重心の上昇) ・「ゆで卵」、「逆立ち独楽」は、接地点に作用する

静止摩擦力によって物体の回転状態が変化し、

立ち上りや逆立ちが起こる。 ・「はまき型」の物体は回転によって立ち上がらな

い。 ④立ち上りの角度 ・「ゆで卵」は 90 度、「逆立ち独楽」は 180 度回

転して立ち上がるが、「はまき型の物体」は立

ち上がらない。

以上の考察から、「逆立ち独楽」の運動をいく

つかの段階として見たときに、今回、比較した物

体の運動と一致している部分があることが確認で

きた。 「ゆで卵」や「逆立ち独楽」のように水平面上

で回転する剛体の回転状態を変化させるのは、最

初は動摩擦力であり、二つの回転軸で回転が起こ

る。次に、この二つの回転状態が徐々に変化して

静止摩擦力が作用する状態に達すると、最終的な

立ち上りや逆立ちの状態へ進行する。 今回の研究で得た結論は、回転する剛体の運動

の変化を説明するとき、更に多くの現象に応用で

きるものと考えられる。独特の回転・振動を行う

「ラトルバック」などに研究対象を拡大して考察

を深めれば、多くの剛体の回転に共通する法則性

を見つけることができる。また、引き続き「逆立

ち独楽」の実験を行い、理論的な考察だけでなく

数値として結果を得ることで、より正確な検証を

行うことも必要である。

7 参考文献

・「逆立ちゴマの力学」

静岡大学次世代ものづくり人材育成センター

藤間信久 永田照三 太田信二郎

8 謝辞

今回、「逆立ち独楽」を中心とした回転する剛

体の研究を行うにあたって多くの方々に協力して

いただきました。まず、私たちの研究を指導して

いただいた 辻 和宏先生には、実験のテーマを

決めた後から、考察に関するアドバイスをいただ

きました。そして、校内で実施された中間発表会

では、大学・高校の先生方からも新しい考え方や

視点を指摘していただき、課題解決の大きな助け

になりました。私たちの研究に協力していただき、

ありがとうございました。

はまき型物体

ゆで卵

独楽 逆立ち 通常

回転時の 接地点

重心を通る鉛直線からずれる

ずれ やすい

ずれ ない

水平軸回転の発生

動摩擦力の作用で発生する 発生しない 立ち上り

の有無 形状として不可能

静止摩擦力の作用で発生する

立ち上り角度

90° 180°

O G

1 物理④ 免震装置に関する実験

1 要旨、概要 今回の研究では、免震装置と断震装置の対照実験

を行うための準備として、免震装置の製作と免震装

置の特徴を、実験を通して調査することを目的とし

た。免震装置を用いて、回転に関する揺れと横揺れ

に関する二つの実験を行った結果、回転軸に関する

揺れでは免震装置の下の円盤の振動数を変化させる

と、揺れを吸収する場合と吸収しない場合そして揺

れが増幅する場合があった。横揺れに関する実験で

は、振動数を変化させても揺れを吸収せず、伝わる

揺れが与えた揺れと同じ、もしくは大きくなった。

実験の結果から、作成した免震装置に使われている

物質を変え、本来の地震の振動数を調べて、その振

動数の揺れを吸収することができる免震装置を作る

ことで今後行う免震装置と断震装置との比較実験を

より正確に行うことができると考えている。

2 問題提起、研究目的 東日本大震災をはじめ、日本では地震が頻繁に発

生している。この実験を行う以前から私たちは建築

に興味を持っており、その中でも特に、地震対策装

置について注目していた。しかし、制振や耐震につ

いての内容の理解は多少できていたが、免震につい

ての理解が不十分だったため、免震について調べて

いくうえで、免震や耐震などの既に普及している地

震対策装置のほかに断震装置という新たな地震対策

装置の研究開発が進んでいるということを知り、断

震装置とは何か、従来の地震対策装置より優れた点、

劣っている点についてより詳しく調べてみたいと思

った。さらに、地震対策装置についての理解を深め、

免震装置と断震装置の性能の違いを調べる比較実験

を行うための免震装置のモデルを作成することを目

的として、揺れを吸収しやすい免震装置を作成しよ

うと試みた。

3 方法 <αゲルを使用した免震装置のモデル実験> ⑴回転に対する免震装置の働きについて

① ホームセンターで販売されている家具などに使

用する制振用のゲルチップと文房具店で購入した

工作用プラスチック板を一定の直径の円形に切り

取る。

② 切り取ったゲルチップとプラスチック板を交互

に重ねて免震装置のモデルを作成する。

③ 二枚のプラスチック板に免震装置を取り付ける。

④ 板の中心に免震装置を取り付ける。

⑤ 装置の上におもりを乗せて、円板を左右交互に

一定の回転角で振動させて、円板と免震装置の上の

物体の基準からの回転角を測定することにより、免

震装置が揺れをどれだけ吸収しているのかをしらべ

る。このとき、円板の回転角をθ1、物体の回転角

をθ2とする。

⑥ 与える揺れの振動数や免震装置の大きさは変化

させずに免震装置の間に挟むプラスチック板の数だ

けを変化させて、⑤を繰り返し行う。

⑵横揺れに対する免震装置の揺れの吸収について

① ゲルチップとプラスチック板を(1)の実験と同

様に一定の直径の円形に切り取る。

② 切り取ったゲルチップとプラスチック板を交互

に重ね免震装置をつくる。

③ 二枚のプラスチック板に免震装置を取り付ける。

④ 台車の側面にばねを複数取り付けて地震の揺れ

を再現し、地震発生装置を作成する。

⑤ ④で作成した台車に、③で作成した免震装置を

とりつける。

⑥ 免震装置の上におもりを乗せ、揺れを与えた際

の基準からの物体の揺れ幅を測定する。

⑦ 与える揺れの振動数を変化させて、⑤を繰り返

し行う。

4 結果 ⑴免震装置を回転軸とした揺れに対する免震装置の

働きについて

① θ1=6°、プラスチック板 6枚のときの結果

・測定結果から、特徴的の左右非対称のグラフ(図

1)が作成された。

・振動数が0.6Hz以下では、θ1とθ2の値がほぼ等

しくなり、振動数が 0.6Hz以上1.5Hz以下では、

θ1よりもθ2の値が著しく大きくなっており、振

動数が1.5Hz以上では、θ1よりもθ2の値が小さ

くなった。

免震装置に関する実験 3年 川崎 友也、 齊藤 裕也

物理④ 免震装置に関する実験 1

-15-

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2 物理④ 免震装置に関する実験

② θ1=6°、プラスチック板0枚のときの結果

・測定結果から、①の測定結果から得たグラフと特

性が似ていた特徴的なグラフ(図2)が得られた。

・振動数が0.6Hz以下では、θ1とθ2の値が等しく

なり、振動数が0.6Hz以上1.5Hz以下では、θ1

よりもθ2の値が大きくなり、振動数 1.5Hz以上で

は、θ1よりもθ2の値が小さくなり、

θ1=6°、プラスチック板 6 枚のときの結果とほ

ぼ同じ結果が得られた。

⑵横揺れに対する免震装置の働きについての結果

・横揺れの場合、台車の振動数が一定値より小さい

場合は地震発生装置と物体との振幅はほぼ等しく

なったが、振動数が一定値を超えると、振動数を

大きくしていくにつれて伝わる揺れが与えた揺れ

よりも激しくなり、回転に対する揺れのときのよ

うに与えた揺れよりも伝わる揺れが小さくなる、

ということは無かった。

・測定した値から作成したグラフ(図3)の概形は、

回転に対する揺れで得られたグラフ(図1、図2)

の振動数が0.6Hz以下の範囲と0.6Hz以上1.0Hz

以下の範囲のグラフに特性が似ていた。

5 考察 ⑴回転に対する免震装置の働きについて

・振動数が0.6Hz以下では、θ1とθ2の値が等しく

なり、振動数が0.6Hz以上1.5Hz以下では、θ1

よりもθ2の値が大きくなり、振動数 1.5Hz以上で

は、θ1よりもθ2の値が小さくなった原因として、

円盤と物体の位相差が関係していると考えた。図

1、図2において、振動数が0.6Hz以下の場合(振

動が緩やかな場合)では、物体と円盤の動きがほぼ

一致し物体と円板の位相差が小さくなっていたた

め、免震装置が働かず円板に与えた揺れがそのま

ま物体に伝わったと考察した。一方、振動数が

1.5Hz以上の場合(振動が激しい場合)では、物

体の動きが円盤よりも大きく遅れるため、物体の

運動と円盤の運動の間に、位相差が生じ、それに

加えて物体の運動と円盤の運動が逆位相になって

いたため、物体に伝わる揺れが弱められて、円盤

に与えた揺れよりも物体に伝わった揺れの方が、

小さくなったと考えた。また、振動数が0.6Hz以

上1.5Hz以下の場合では、1.5Hz以上の場合と同

じように円盤の運動と物体の運動の間に、位相差

は生じているが、物体の運動と円盤の運動が逆位

相になっておらず共振が起こったため、円盤に与

えた揺れよりも物体に伝わった揺れの方が、大き

くなったと思われる。

・θ1=6°、プラスチック板 6枚のときに得られた

グラフ(図2)とθ1=6°、プラスチック板 0枚

のときに得られたグラフ(図 2)を比較すると、

大きな差はなかった。このことから、ゲルの厚み

と揺れの吸収とは直接関係がなく、現在免震装置

として使用されている天然ゴム系積層ゴムでゴム

とゴムの間に、鉄の板を入れて層状にしているの

は、免震装置自体の強度を上げるためだと考えた。

実際に、θ1=6°、プラスチック板 6枚のときと

θ1=6°、プラスチック板0枚のときでは、免震

装置の上に物体を乗せ、揺れを与えたとき、プラ

スチック板6枚のときの方が安定していた。

⑵横揺れに対する免震装置の働きについて

・今回の結果で、台車の振動数が一定値より小さい

場合は地震発生装置と物体との振幅はほぼ等しく

なったが、振動数が一定値を超えると、振動数を

大きくしていくにつれて伝わる揺れが与えた揺れ

よりも激しくなり、回転に対する揺れのときのよ

うに、与えた揺れよりも伝わる揺れが小さくなる

ということは無かった。その原因として、私たち

は2つ考えた。1つ目の原因は、免震装置の設置

位置、免震装置の上に乗せる物体の質量、免震装

置の大きさである。今回の実験では、装置の設置

位置、装置の上に乗せる物体の質量、免震装置の

大きさは固定し、台車の振動数だけを変化させて

物体の揺れ幅を測定したため、装置の設置位置、

装置の上に乗せる物体の質量、装置の大きさを変

えて実験を行うことで、横揺れの場合も回転に対

する揺れで得られたグラフが得られると考えた。2

つ目の原因は、振動数の大きさである。今回の実

験では、振動数の最大値が2.3Hzだった。そして

得られたグラフ(図 3)は、回転に対する揺れで

得られたグラフ(図1、図2)の振動数が 0.6Hz以下

の範囲と0.6Hz以上1.0Hz以下の範囲のグラフに

特性が似ていた。このことから、今回の実験結果

だけでは不十分であり、台車の振動数が2.3Hz以

上の場合の実験を行うことで、横揺れの場合でも

回転に対する揺れで得られたグラフに特性が似て

いるグラフが得られると考えた。

・2つの実験に関する考察

二つの実験から得たグラフが特徴的なグラフだっ

たため、何かの物理現象を表したグラフになって

物理④ 免震装置に関する実験2

-16-

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2 物理④ 免震装置に関する実験

② θ1=6°、プラスチック板0枚のときの結果

・測定結果から、①の測定結果から得たグラフと特

性が似ていた特徴的なグラフ(図2)が得られた。

・振動数が0.6Hz以下では、θ1とθ2の値が等しく

なり、振動数が 0.6Hz以上1.5Hz以下では、θ1

よりもθ2の値が大きくなり、振動数 1.5Hz以上で

は、θ1よりもθ2の値が小さくなり、

θ1=6°、プラスチック板 6 枚のときの結果とほ

ぼ同じ結果が得られた。

⑵横揺れに対する免震装置の働きについての結果

・横揺れの場合、台車の振動数が一定値より小さい

場合は地震発生装置と物体との振幅はほぼ等しく

なったが、振動数が一定値を超えると、振動数を

大きくしていくにつれて伝わる揺れが与えた揺れ

よりも激しくなり、回転に対する揺れのときのよ

うに与えた揺れよりも伝わる揺れが小さくなる、

ということは無かった。

・測定した値から作成したグラフ(図3)の概形は、

回転に対する揺れで得られたグラフ(図1、図2)

の振動数が0.6Hz以下の範囲と 0.6Hz以上1.0Hz

以下の範囲のグラフに特性が似ていた。

5 考察 ⑴回転に対する免震装置の働きについて

・振動数が0.6Hz以下では、θ1とθ2の値が等しく

なり、振動数が 0.6Hz以上1.5Hz以下では、θ1

よりもθ2の値が大きくなり、振動数 1.5Hz以上で

は、θ1よりもθ2の値が小さくなった原因として、

円盤と物体の位相差が関係していると考えた。図

1、図2において、振動数が 0.6Hz以下の場合(振

動が緩やかな場合)では、物体と円盤の動きがほぼ

一致し物体と円板の位相差が小さくなっていたた

め、免震装置が働かず円板に与えた揺れがそのま

ま物体に伝わったと考察した。一方、振動数が

1.5Hz以上の場合(振動が激しい場合)では、物

体の動きが円盤よりも大きく遅れるため、物体の

運動と円盤の運動の間に、位相差が生じ、それに

加えて物体の運動と円盤の運動が逆位相になって

いたため、物体に伝わる揺れが弱められて、円盤

に与えた揺れよりも物体に伝わった揺れの方が、

小さくなったと考えた。また、振動数が0.6Hz以

上1.5Hz以下の場合では、1.5Hz以上の場合と同

じように円盤の運動と物体の運動の間に、位相差

は生じているが、物体の運動と円盤の運動が逆位

相になっておらず共振が起こったため、円盤に与

えた揺れよりも物体に伝わった揺れの方が、大き

くなったと思われる。

・θ1=6°、プラスチック板6枚のときに得られた

グラフ(図2)とθ1=6°、プラスチック板0枚

のときに得られたグラフ(図 2)を比較すると、

大きな差はなかった。このことから、ゲルの厚み

と揺れの吸収とは直接関係がなく、現在免震装置

として使用されている天然ゴム系積層ゴムでゴム

とゴムの間に、鉄の板を入れて層状にしているの

は、免震装置自体の強度を上げるためだと考えた。

実際に、θ1=6°、プラスチック板6枚のときと

θ1=6°、プラスチック板0枚のときでは、免震

装置の上に物体を乗せ、揺れを与えたとき、プラ

スチック板6枚のときの方が安定していた。

⑵横揺れに対する免震装置の働きについて

・今回の結果で、台車の振動数が一定値より小さい

場合は地震発生装置と物体との振幅はほぼ等しく

なったが、振動数が一定値を超えると、振動数を

大きくしていくにつれて伝わる揺れが与えた揺れ

よりも激しくなり、回転に対する揺れのときのよ

うに、与えた揺れよりも伝わる揺れが小さくなる

ということは無かった。その原因として、私たち

は2つ考えた。1つ目の原因は、免震装置の設置

位置、免震装置の上に乗せる物体の質量、免震装

置の大きさである。今回の実験では、装置の設置

位置、装置の上に乗せる物体の質量、免震装置の

大きさは固定し、台車の振動数だけを変化させて

物体の揺れ幅を測定したため、装置の設置位置、

装置の上に乗せる物体の質量、装置の大きさを変

えて実験を行うことで、横揺れの場合も回転に対

する揺れで得られたグラフが得られると考えた。2

つ目の原因は、振動数の大きさである。今回の実

験では、振動数の最大値が2.3Hzだった。そして

得られたグラフ(図 3)は、回転に対する揺れで

得られたグラフ(図1、図2)の振動数が0.6Hz以下

の範囲と0.6Hz以上1.0Hz以下の範囲のグラフに

特性が似ていた。このことから、今回の実験結果

だけでは不十分であり、台車の振動数が2.3Hz以

上の場合の実験を行うことで、横揺れの場合でも

回転に対する揺れで得られたグラフに特性が似て

いるグラフが得られると考えた。

・2つの実験に関する考察

二つの実験から得たグラフが特徴的なグラフだっ

たため、何かの物理現象を表したグラフになって

3 物理④ 免震装置に関する実験

いると予測した。参考文献を調べた結果、グラフ

は共振曲線に類似していることが分かった。共振

曲線は一定の固有振動数をもつ物体に加わった周

期的に変化する強制振動の振動数によって物体の

振幅がどのように変化するかを表したグラフであ

る。この共振曲線は、制動力が小さいほどグラフ

の山は高く、鋭くなり、制動力が大きいほどグラ

フの山は低く、緩やかになる。今回行った実験の

場合、一定の固有振動数をもつ物体にあたるもの

が免震装置上の物体であり、強制振動にあたるも

のが、円盤や台車の振動であり、固有振動にあた

るものが、免震装置の中のゲルの振動であり、制

動力にあたるものがゲルの変形による弾性力であ

る。回転に対する揺れの場合、ゲルの層をゲルの

層の高さが大きいため、小さい力でも容易に変形

することができる。一方ゲル層の高さが小さい横

揺れの実験の場合、大きい力を加えてもゲル層の

変形は起こりにくい。この性質はバネの長さが短

くなるほどバネ定数が大きくなるのと特性が似て

いることから、ゲル層を一つのバネ、ゲル層の高

さをバネの長さと考えて、実験の考察を行った。

回転に対する揺れの場合、ゲル層の高さが横揺れ

で使用した装置より大きいため、弾性力すなわち

制動力が小さくなり、グラフの山が鋭くなった。

一方、横揺れの場合、ゲル層の高さが小さいため、

制動力が大きくなり、その結果グラフの山が緩や

かになっていると考えた。そのため、横揺れの実

験からえたグラフも、地震発生装置の揺れの振動

数をより大きくしていくと、与えた揺れよりも、

物体に伝わる実際の揺れの方が小さくなる範囲が

現れると思われる。しかし今回比較したグラフは、

ばねの運動ではない上に、比較したそれぞれの実

験の運動が異なるので、本当にゲルの弾性力を単

純なバネの弾性力に近似して良いのかどうかは明

瞭ではない。今後このことについて詳しく調べて

いく必要がある。

6 結論(課題) 今回行った回転に対する揺れと横揺れに対する免

震装置の働きについての実験から得られた結果から、

物体に免震装置を取り付けたとしても与えた揺れを

すべて吸収できるわけではなく、吸収できる揺れの

振動数があることがわかった。また免震装置を使用

しても、与えた揺れよりも伝わる揺れの方が大きく

なり、揺れが増幅する場合があることが分かった。

また、2 つの実験から得られたグラフ(図 1、図 2、

図 3)が共振曲線に似通っていた。これからの実験

の課題は3つある。1 つ目は、免震装置の精度の向

上である。今回の実験では免震装置の素材を変えず

に実験を行ったため、様々な素材を使って免震装置

を作成して、今回作成した免震装置以上に揺れを吸

収することのできる免震装置の作成を目指す。2 つ

目は、横揺れに対する実験において、与えた揺れよ

りも伝わる揺れが小さくなるということが無かった

原因を究明する。考察で述べたように、考えられる

2つの原因を改善して、実験を行っていく。3つ目は、

今回の実験で得たグラフは異なる運動から得たグラ

フであるため、この両者のグラフが本当に共振曲線

であるか調べる。そのため、今回行った二つの実験

において、免震装置の高さを変化させた際に、グラ

フの山が今回の考察と一致するかどうかを追実験す

る必要がある。また、グラフが共振曲線だと分かっ

た場合の考察方法として、今回はゲル層の弾性力を

ばねの弾性力に置き換えて考察を行ったが、実際の

運動は、バネのような単純な運動ではなくより複雑

な運動であると考えられる。そのため、歪みやねじ

れの運動などの剛体の性質について詳しく調べたう

えで、その性質を考慮して、より正確なデータを測

定することができる実験を行っていこうと考えてい

る。

今回の実験を進めていき、考察通りの共振曲線を

得ることができれば、免震装置が吸収することがで

きる揺れを決定することができる。そのため、免震

装置が吸収する揺れの範囲を変化させることができ

れば、本来の地震の揺れを調べ、その揺れを吸収で

きる免震装置を理論上作ることができ、目標である

断震装置との比較実験をより正確に行うことができ

ると考えている。

7 参考文献 ADC株式会社 ホームページ

http://www.adc21.com/604_nri.html 株式会社ブリヂストン ホームページ

http://www.bridgestone.co.jp/business/dp/construction/antiseismic_rubber/

新稿 物理学概説上巻 (学術図書出版社)

8 謝辞 実験にご協力して頂いた、担当の先生をはじめ、

物理④ 免震装置に関する実験 3

-17-

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4 物理④ 免震装置に関する実験

理科の先生方、また活動場所を提供してくださった

物理部の方々本当にありがとうございました。

9 図表・画像

図1 (①θ1=6°、プラスチック板 6枚のとき)

図2 (②θ1=6°、プラスチック板0枚のとき)

図3 (横揺れに対する免震装置の働きについて)

物理④ 免震装置に関する実験4

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4 物理④ 免震装置に関する実験

理科の先生方、また活動場所を提供してくださった

物理部の方々本当にありがとうございました。

9 図表・画像

図1 (①θ1=6°、プラスチック板 6枚のとき)

図2 (②θ1=6°、プラスチック板0枚のとき)

図3 (横揺れに対する免震装置の働きについて)

1 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

1 概要

この研究は、ブーメランの飛び方や飛行原理を調べた上で、実際にブーメランを作成して調べた通

りにブーメランが飛ぶかを検証するというものである。

また、今回の研究は風の影響を受けない室内で行い、安全面を考慮して工作用紙を用いてブーメラ

ンを作成する。

2 研究目的

私たちは昨年、オーストラリアへ修学旅行に行った。オーストラリアにはもともとアボリジニと呼

ばれる先住民がいた。私たちはオーストラリアでアボリジニの人たちがブーメランを投げたりしてい

る様子を実際に見ることができた。

この様子を見て、ブーメランが戻ってくる仕組みに興味を持った。文献などで調べてみると、「飛行

するブーメランは歳差運動を起こし、回転軸の向きが周期的に変化するため、円軌道を描いて手元に

戻る。また、ブーメランの質量が大きくなるほど軌道半径も大きくなる」ということがわかった。

そこで、実際にそうなるかを確かめるため、ブーメランを作成し、それを投げてブーメランが飛行

するときの様子を検証する。

3 原理

ここでは、1枚の羽の長さが𝑙𝑙、全体の質量が𝑚𝑚の反時計回りに旋回する4枚羽根のブーメランを考

える。このブーメランを重心速度𝑣𝑣、回転角速度𝜔𝜔で投げたとする。

ブーメランの慣性モーメントIと角運動量𝐋𝐋は、

𝐼𝐼 =13𝑚𝑚𝑙𝑙2

𝑳𝑳 = 𝐼𝐼𝜔𝜔 =13𝑚𝑚𝑙𝑙2𝜔𝜔

ブーメランの羽根にはねじって角度がつけてあり、飛行するブーメランはこのねじりにより羽根と

垂直な向きに空気から抗力を受ける。

ブーメランは、投げられた時点ではほぼ垂直に回転している。この時、抗力のほとんどは横向きだ

が、一部の垂直方向の成分がブーメランを空中で支えている。

羽根が受ける抗力は𝑣𝑣2に比例する。また、回転しているから(ω𝑙𝑙)2に比例する項も付け加えられる。

このときの係数をc (cは羽根の形状に依存する)とおけば、4枚の羽根の合力

𝑭𝑭 = 4𝑐𝑐 𝜔𝜔2𝑙𝑙3

3+ 2𝑐𝑐𝑣𝑣2𝑙𝑙 = 4𝑐𝑐𝑙𝑙 �

𝜔𝜔2𝑙𝑙2 3

+ 𝑣𝑣2

2�

羽根の上になっている部分と下になっている部分では対地速度が異なるので、抗力の大きさが異な

り、そのため力のモーメントが生じる。その大きさは

𝑵𝑵 = 4𝑐𝑐 𝜔𝜔2𝑙𝑙3

3× 𝑙𝑙 = 4𝑐𝑐

𝜔𝜔𝑣𝑣𝑙𝑙4 3𝑙𝑙

= 4 3 𝑐𝑐𝜔𝜔𝑣𝑣𝑙𝑙3

ブーメランの飛行原理と実験的検証 3年 西田拓人、江川稜馬、竹野翔太郎、靍 貴博

物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証 1

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2 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

図1.上の羽根と下の羽根の抗力差

𝑵𝑵の向きは常に𝑳𝑳に垂直であり、最初は進行方向と反対向きである。角運動量保存則より力のモーメ

ント𝑵𝑵が角運動量ベクトル𝐋𝐋の方向をブーメランの旋回の中心に向けるように変化させるので、ブーメ

ランは歳差運動を起こす。

図2 図3

𝐋𝐋の向きは水平面を上から見て反時計周りに回転することになる。その回転角速度を𝜔𝜔pとすると

𝜔𝜔p =𝑁𝑁𝐿𝐿

=4𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣𝑚𝑚

さらに、ブーメランが角速度𝜔𝜔0で半径Rの円軌道を描いて旋回するとすれば、𝜔𝜔pは𝜔𝜔0に等しく

なければならないから

𝑣𝑣 = 𝑅𝑅𝜔𝜔0 = 𝑅𝑅𝜔𝜔p

物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証2

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2 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

図1.上の羽根と下の羽根の抗力差

𝑵𝑵の向きは常に𝑳𝑳に垂直であり、最初は進行方向と反対向きである。角運動量保存則より力のモーメ

ント𝑵𝑵が角運動量ベクトル𝐋𝐋の方向をブーメランの旋回の中心に向けるように変化させるので、ブーメ

ランは歳差運動を起こす。

図2 図3

𝐋𝐋の向きは水平面を上から見て反時計周りに回転することになる。その回転角速度を𝜔𝜔pとすると

𝜔𝜔p =𝑁𝑁𝐿𝐿

=4𝑐𝑐𝑣𝑣𝑣𝑣𝑚𝑚

さらに、ブーメランが角速度𝜔𝜔0で半径Rの円軌道を描いて旋回するとすれば、𝜔𝜔pは𝜔𝜔0に等しく

なければならないから

𝑣𝑣 = 𝑅𝑅𝜔𝜔0 = 𝑅𝑅𝜔𝜔p

3 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

よって

𝑅𝑅 =𝑚𝑚

4𝑐𝑐𝑙𝑙

旋回半径 Rはブーメランの質量mが大きいほど大きく、羽根の長さ𝑙𝑙が長いほど小さくなる。

4 研究内容

Ⅰ 羽根の数の異なるブーメラン5種類(2枚羽、3枚羽、4枚羽、6枚羽、8枚羽)を作成し、それ

ぞれを投げて羽の枚数がブーメランの飛行にどのような影響をあたえるか、すなわち戻ってくる確

率がどのように変わるのか調べる。

Ⅱ ブーメランの形は変えずにスケールを大きくし、旋回半径や飛び方にどのような影響をあたえる

のか調べる。

5 研究方法

今回の研究は、風の影響のない室内で行うため、安全面を考慮し、ブーメランは工作用紙を用いて

作成する。

①半径4㎝で羽根の数が2枚、3枚、4枚、6枚、8枚のブーメラン

を作成する。

※ブーメランの作成方法については6を参照

②ブーメランの重心速度、回転角速度を一定にするため割り箸で作っ

たゴム鉄砲風の発射台(図4)を作成する。

③ブーメランの発射台を使って、5種類のブーメランそれぞれ10回

ずつ垂直方向に投げて何回成功するかを調べる。

※明らかに手元に戻ってこなかった場合を失敗とする。

図4.発射台

①半径4㎝、6㎝、8㎝とスケールを大きくしたブーメランを作成し、それぞれの軌道半径の大きさ

を調べる。

※軌道半径の大きさは目測で計測する。

6 ブーメラン作成方法(三枚羽根)

ⅰ 市販の厚紙(厚さ 0.6㎜)に半径4㎝の円を描く。

ⅱ コンパスを使って、正六角形を描く。

ⅲ 中心から 1個飛ばしで頂点を結び、

3枚羽根の羽の中心軸を作る。

ⅳ 結んだ中心軸を1㎝幅にして描く。

ⅴ いらない部分(図5の黒い部分)をカッターで切り取り完成。 図5.作成図

〇スケールを大きくする場合、半径:羽の幅=4㎝:1㎝を基準にして 1.5、2.0倍と大きくしてい

く。

〇羽の枚数が 2枚のブーメランは、中心角が 120°となるように作る。

〇4枚羽のブーメランは、円の直径を引き、その直径と直角に交わるように直径を引いて中心軸と

なるようにする。

〇6枚羽は、羽根の枚数が3枚のものを 60°ずらしてもう一度描き 6枚羽の中心軸になるようにす

る。

物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証 3

-21-

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4 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

〇8枚羽は、6枚羽と同様にして、羽根の枚数が4枚のものを 45°ずらしてもう一度描き8枚羽の

中心軸になるようにする。

〇投げ方について、ブーメランの羽根を水平方向にして飛ばすと上に向かって飛んでしまうため、

ブーメランの羽根を垂直にして飛ばした。

完成すると下の図6、図7のようになった。図7の1番左のブーメランと、図6の

左から2番目のブーメランは同じものである。

図6.半径4cmの2、3、4、6、8枚羽の 図 7.半径4、6、8、12cmの

ブーメラン 3枚羽ブーメラン

7 研究結果

結果①

2枚 3枚 4枚 6枚 8枚

質量(g) 0.30 0.50 0.60 1.0 1.3

成功 0回 9回 9回 0回 0回

失敗 10回 1回 1回 10回 10回

3枚羽根及び4枚羽根のブーメランしか成功しなかった。その他のブーメランがうまくいかなかっ

た原因について考えてみた。2枚羽根のブーメランの場合、ブーメランの回転軸が安定しなかったた

めに、十分な抗力が得られずに失敗したと考えられる。

8枚羽根のブーメランは、質量が4枚羽根のほぼ2倍であり、羽根の枚数も2倍なので、4枚羽根

のブーメランと同じ軌道で飛行するはずだが、実際には羽根と羽根の間隔が狭すぎたため 1枚 1枚の

羽根で十分な抗力を得ることができず戻ってこなかったと考えられる。これは6枚羽のブーメランで

も同じことが考えられる。

結果②

ブーメランのスケールを大きくすると、明らかに軌道半径が大きくなった。

「3 原理」に記した式

𝑅𝑅 =𝑚𝑚

4𝑐𝑐𝑙𝑙

によると軌道半径 Rは質量に比例し、羽根の長さに反比例するはずである。ブーメランのスケールを

2倍、3倍にすると羽根の長さは2倍、3倍だが、質量は4倍、9倍となる。したがって、軌道半径

は大きくなり、原理から予想されたとおりの結果となった。

8 考察

実際にブーメランを投げると、はじめは羽根を縦に向けて投げたが、手元に返ってくる頃には羽根

が水平方向をむいて戻ってきた。この理由を以下のように考察する。

物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証4

-22-

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4 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

〇8枚羽は、6枚羽と同様にして、羽根の枚数が4枚のものを 45°ずらしてもう一度描き8枚羽の

中心軸になるようにする。

〇投げ方について、ブーメランの羽根を水平方向にして飛ばすと上に向かって飛んでしまうため、

ブーメランの羽根を垂直にして飛ばした。

完成すると下の図6、図7のようになった。図7の1番左のブーメランと、図6の

左から2番目のブーメランは同じものである。

図6.半径4cmの2、3、4、6、8枚羽の 図 7.半径4、6、8、12cmの

ブーメラン 3枚羽ブーメラン

7 研究結果

結果①

2枚 3枚 4枚 6枚 8枚

質量(g) 0.30 0.50 0.60 1.0 1.3

成功 0回 9回 9回 0回 0回

失敗 10回 1回 1回 10回 10回

3枚羽根及び4枚羽根のブーメランしか成功しなかった。その他のブーメランがうまくいかなかっ

た原因について考えてみた。2枚羽根のブーメランの場合、ブーメランの回転軸が安定しなかったた

めに、十分な抗力が得られずに失敗したと考えられる。

8枚羽根のブーメランは、質量が4枚羽根のほぼ2倍であり、羽根の枚数も2倍なので、4枚羽根

のブーメランと同じ軌道で飛行するはずだが、実際には羽根と羽根の間隔が狭すぎたため 1枚 1枚の

羽根で十分な抗力を得ることができず戻ってこなかったと考えられる。これは6枚羽のブーメランで

も同じことが考えられる。

結果②

ブーメランのスケールを大きくすると、明らかに軌道半径が大きくなった。

「3 原理」に記した式

𝑅𝑅 =𝑚𝑚

4𝑐𝑐𝑙𝑙

によると軌道半径 Rは質量に比例し、羽根の長さに反比例するはずである。ブーメランのスケールを

2倍、3倍にすると羽根の長さは2倍、3倍だが、質量は4倍、9倍となる。したがって、軌道半径

は大きくなり、原理から予想されたとおりの結果となった。

8 考察

実際にブーメランを投げると、はじめは羽根を縦に向けて投げたが、手元に返ってくる頃には羽根

が水平方向をむいて戻ってきた。この理由を以下のように考察する。

5 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

図 8.羽根が受ける風

図8の左の羽根は乱れてない空気を通過する。しかし、右の

羽根は左の羽によって乱れた風を受けるので、左の羽の方が右

の羽より大きな抗力を受ける。よって左右の力のモーメントに

差が生じる。この力のモーメントのベクトルを n とする。

初めに n は図の上向きであり、L に垂直である。角運動量保

存則より、力のモーメント𝑛𝑛が角運動量ベクトル𝐿𝐿の方向を上に

向けるからである。

図の左を指す矢印(赤)はブーメランが進む方向、右を指す矢

印(緑)は風向きを表す。

また、同じブーメランでも手元に返ってくるときと返ってこない時があった。旋回の向心力の大き

さはFであり、ブーメランが投げた場所に戻ってくるには、

𝐹𝐹 =𝑚𝑚𝑚𝑚2

𝑅𝑅

が成り立つ必要がある。ここから重心速度𝑚𝑚とブーメランの回転速度(角速度)ωに関する次の関係が

えられる。

𝑚𝑚 = � 2 3

𝜔𝜔𝑙𝑙

ブーメランが投げ手のもとに返ってくるのは、この条件を満たしているときだと考えられる。

9 今後の課題

今回の実験では、先でも述べたように安全面を考慮して工作用紙を使用した。しかしそれでは原理

で説明したようなこととは矛盾してしまう。つまり、工作用紙のブーメランは、剛体ではないので、

飛行中に受ける抗力によって羽根自体が変形してしまう。だから、これからの実験では、工作用紙の

ような薄いものではなく、木のような厚みのある素材を使って実験を行ってみようと思う。しかしそ

うなると、室内では実験を行うことができなくなるので対策を考えなくてはならない。そこで、今後

の実験をより正確でよいものにしていくための課題を挙げていく。

①ブーメランの投げ方について

今回の実験では、ブーメランを投げる際に、「5 ブーメランの作成方法」で紹介した割りばしと輪

ゴムを使って作成した発射台を用いた。この発射台を使うと、毎回ほぼ等しい力でブーメランを投げ

ることが出来る。さらに今回の実験は室内で行ったので、風の影響も受けなかったので、ほぼ正確に

ブーメランを投げることができた。

しかし、7月 21日に九州工業大学(福岡県北九州市)で行われたサマーサイエンスフェスタという

発表会に参加した際に、ある大学の教授から、ブーメランの大きさに応じて投げる力を変えないとい

けないというアドバイスをいただいた。だから今後は今回の実験で用いた発射台だけではなく投げる

力を調整できる発射台を作ることを考えていかなければならない。

②ブーメランの素材について

先ほども述べたように、今後は厚みのある硬いものでブーメランを作成する必要がある。私たちが

考えたのは木材だ。実際オーストラリアのアボリジニの人たちが使っていたブーメランも木製のもの

だった。そのことから、ブーメランの材料には木が適しているのではないかということが考えられる。

しかし、私たちが行う実験は予算も時間もあまりない。そのうえ、木材を正確に加工するのにはかな

りの時間がかかる。さらにこの場合実験は安全面から考えると屋外での実験となる。その場合ブーメ

ランが風の影響を受ける可能性が考えられ、正確な実験ができなくなる可能性がある。このように木

材を用いた実験は失敗したときのことも考えるとデメリットが多すぎるため、木材を用いて実験を行

物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証 5

-23-

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6 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

う場合には十分な計画を立てる必要がある。また、ブーメランは絶対に剛体でなければならないとい

うアドバイスもいただいた。これは当たり前のことだが私たちは見落としていた。スケールが小さい

ブーメランは剛体とみなせるが、ブーメランのスケールを大きくしていく際に最終的には、羽根の先

が曲がってしまうくらい柔らかくなってしまっていた。つまり、剛体ではなくなってしまった。それ

では正確な値は測定できないということに気がついた。だから今後はブーメランのスケールを大きく

する際は工作用紙よりも丈夫な素材で作成し、ブーメランの羽根がしならなくなるように気を付けな

ければならない。

③ブーメランの形状について

今回の実験で投げたブーメランは単純な形のものだった。しかしブーメランのことが書いてある本

を調べてみると、ブーメランの中心に穴が開いているものや羽根の長さがバラバラなものなど、いろ

いろな形状のものがあった。そういうものも試してみるとまた違った結果が出るかもしれないのでい

いかもしれない。作り方なども詳しく書かれていたので今後試してみようと思う。

④実験を外で行う場合

実験を外で行うと、当然のようにブーメランは風の影響を受けて正確に測定することが難しくなる。

しかし、木材のような硬いものを使ってブーメランを作る場合は、危険なので室内では実験を行うこ

とができない。だから、外で実験を行う場合のことも考えなければならない。外で行うときはどうし

ても風の影響を受けてしまうので、そのことを前提にして同じ日の同じ時間に行うのが最善の策だと

考えられる。また、木材で作成したブーメランだと、工作用紙で作成したものよりは風に流されにく

いとも考えられる。

10 実験を通して

今回の実験を通して、ブーメランの原理を調べていくと、ブーメランのことが書いてある書籍にも、

詳しいことはまだ解明されていないと書かれていた。私たちも調べていてそれを知ったとき驚いた。

このことからわかるように、今回私たちが行ったような実験はどうしても調べれば調べていくほど内

容が難しくなっていってしまう。だから、今後もブーメランに関する実験を行う際は、じっくりと書

籍などで調べる必要がある。私たちの班は恵まれていて、高校の先生にもいろいろ教えていただき、

大学の先生にもお世話になった。工作用紙の加工は容易だったため、実験自体は行いやすかったが、

原理を調べることは、時間がかかった。

主観的ではあるが、ブーメランのことに興味を持っていただけあって、このような実験を最後まで

することができてよかったと思っている。

11 参考文献

物理学スーパーラーニング力学(シュプリンガー・フェアラーク東京)

12 謝辞

今回の研究内容は高校生が学習する物理の範囲を超えている点がいくつかありました。そのため、

香住丘高校の野田先生には何度も助言をいただきました。私たちの研究に協力していただき、本当に

ありがとうございました。

物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証6

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6 物理⑤ ブーメランの飛行原理と実験的検証

う場合には十分な計画を立てる必要がある。また、ブーメランは絶対に剛体でなければならないとい

うアドバイスもいただいた。これは当たり前のことだが私たちは見落としていた。スケールが小さい

ブーメランは剛体とみなせるが、ブーメランのスケールを大きくしていく際に最終的には、羽根の先

が曲がってしまうくらい柔らかくなってしまっていた。つまり、剛体ではなくなってしまった。それ

では正確な値は測定できないということに気がついた。だから今後はブーメランのスケールを大きく

する際は工作用紙よりも丈夫な素材で作成し、ブーメランの羽根がしならなくなるように気を付けな

ければならない。

③ブーメランの形状について

今回の実験で投げたブーメランは単純な形のものだった。しかしブーメランのことが書いてある本

を調べてみると、ブーメランの中心に穴が開いているものや羽根の長さがバラバラなものなど、いろ

いろな形状のものがあった。そういうものも試してみるとまた違った結果が出るかもしれないのでい

いかもしれない。作り方なども詳しく書かれていたので今後試してみようと思う。

④実験を外で行う場合

実験を外で行うと、当然のようにブーメランは風の影響を受けて正確に測定することが難しくなる。

しかし、木材のような硬いものを使ってブーメランを作る場合は、危険なので室内では実験を行うこ

とができない。だから、外で実験を行う場合のことも考えなければならない。外で行うときはどうし

ても風の影響を受けてしまうので、そのことを前提にして同じ日の同じ時間に行うのが最善の策だと

考えられる。また、木材で作成したブーメランだと、工作用紙で作成したものよりは風に流されにく

いとも考えられる。

10 実験を通して

今回の実験を通して、ブーメランの原理を調べていくと、ブーメランのことが書いてある書籍にも、

詳しいことはまだ解明されていないと書かれていた。私たちも調べていてそれを知ったとき驚いた。

このことからわかるように、今回私たちが行ったような実験はどうしても調べれば調べていくほど内

容が難しくなっていってしまう。だから、今後もブーメランに関する実験を行う際は、じっくりと書

籍などで調べる必要がある。私たちの班は恵まれていて、高校の先生にもいろいろ教えていただき、

大学の先生にもお世話になった。工作用紙の加工は容易だったため、実験自体は行いやすかったが、

原理を調べることは、時間がかかった。

主観的ではあるが、ブーメランのことに興味を持っていただけあって、このような実験を最後まで

することができてよかったと思っている。

11 参考文献

物理学スーパーラーニング力学(シュプリンガー・フェアラーク東京)

12 謝辞

今回の研究内容は高校生が学習する物理の範囲を超えている点がいくつかありました。そのため、

香住丘高校の野田先生には何度も助言をいただきました。私たちの研究に協力していただき、本当に

ありがとうございました。

1 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

1 要旨、概要

私たちは、視覚特性を用いて照明に関する研究を行った。視覚特性とは人間がものを見るとき形や

色をある特定の組み合わせにすることで、物の見え方が普通とは違って見えることだ。私たちがこの

研究をしようと思った理由は、近年良くエネルギーの削減が叫ばれており、自分たちの身の回りのも

のでエネルギーの削減が出来ないかと思い、どの場所でも使用頻度の高い照明の電力消費の削減に着

目したからである。そのため、私たちは先ほど挙げた視覚特性を用いて照明の光量を減らし、電力の

消費を抑える方法を探るために実験を行った。 2 問題提起、研究目的

現在エネルギー問題を解決するために、使用するエネルギーを削減する「省エネルギー」が叫ばれ

ている。そこでより少ない電力消費つまり少ない光量で、プリントの文字を見えやすくすることがで

きればオフィスでの省エネルギーに繋がると思い、その方法を視覚特性等を用いて研究しようと考え

た。少ない光量では字を見ることはできない。しかし、人が物をとらえるときの特性を用いて工夫す

ることで、普段使用する光量よりも少ない光量でも字を見ることができるのではないかと考えた。今

回の研究では視覚特性を用いた。一般的に、職場と自宅での活動時間を比べると、職場にいる方が長

い人が多いため、会社のオフィスの方が電力消費量が多いと考えられる。オフィスでの消費電力を減

すことができれば、多くのエネルギーを削減できると考えたので、会社のオフィスについて考えた。 今回の実験の目的は、オフィスで最も見る機会の多いプリントの文字を見やすことである。そのた

め、文字が見えやすくなる条件を探ることが今回の研究である。ここでの見えやすい,見えにくいの

定義は、文字が見る人にとってはっきり見えるかぼやけて見えるかとした。机上のプリントの文字を

見やすくするには、机上から反射してくる光量とプリントの背景等を考慮して調整すればよい。机上

から反射される光を調節するために、光源から壁に当たり壁から反射してくる光量を変えようと考え

た。光が物に当たったとき、反射される光量は物の色により反射率は異なる。反射率とは光が物に当

たったとき反射される光の割合のことである。そのために壁の色を変えることを考えた。次に、視覚

特性の一種である明度対比や彩度対比といったものも利用して、机上に置いてあるプリントの文字を

より見えやすくしようと考えた。 今回の研究に使用した明度対比、彩度対比、その他の原理は以下を示すものである。明度とは、光

を全て反射する白色の明度を 100%として、反射する光の割合をパーセンテージで表したものである。

これは光をほとんど反射しない黒では低く、白色では高いといえる。明度対比とは、明度が高い色を

明度がより低い色で囲むと、明度が高い色の明度がより低く見え、明度が低い色を明度がより高い色

で囲むと、明度が低い色の明度がより高く見えることだ。例えば、灰色を灰色よりも明度が低い黒で

囲むと、灰色の明度がより低く見え、灰色を灰色よりも明度が高い白で囲むと、灰色の明度がより高

く見えることである。(図1参照)これによって明度が高い色でプリントを囲めばプリントの文字の明

度が高く見え、より文字が見えやすくなると考えられる。 彩度とは、色の鮮やかさの度合いを示す値である。彩度は色味のある赤、青、緑などの色では高く、

色味のない白や黒では0で、黒や白色などの色味のない色が混ざると小さくなる。彩度対比とは彩度

が高い色で彩度が低い色を囲むと、彩度が低い色の彩度がより高く見え、彩度が低い色でより彩度が

高い色を囲むと、彩度が高い色の彩度がより低く見えることだ。例えば、緑色の中で彩度が高い純色

の緑色で、その緑色に黒を混ぜた濃い緑色を囲むと、黒を混ぜた緑色の彩度が高くなり、黒を混ぜた

緑色で彩度が高い純色の緑色を囲むと、彩度が高い緑色の彩度が低くなることである。(図2参照)こ

視覚特性に基づく照明に関する研究 3年 木村龍太郎、 高田 彬人、 西田 亮太

1 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

1.要旨、概要

私たちは、視覚特性を用いて照明に関する研究を行った。視覚特性とは人間がものを見るとき形や

色をある特定の組み合わせにすることで、物の見え方が普通とは違って見えることだ。私たちがこの

研究をしようと思った理由は、近年良くエネルギーの削減が叫ばれており、自分たちの身の回りのも

のでエネルギーの削減が出来ないかと思い、どの場所でも使用頻度の高い照明の電力消費の削減に着

目したからである。そのため、私たちは先ほど挙げた視覚特性を用いて照明の光量を減らし、電力の

消費を抑える方法を探るために実験を行った。 2.問題提起、研究目的

現在エネルギー問題を解決するために、使用するエネルギーを削減する「省エネルギー」が叫ばれ

ている。そこでより少ない電力消費つまり少ない光量で、プリントの文字を見えやすくすることがで

きればオフィスでの省エネルギーに繋がると思い、その方法を視覚特性等を用いて研究しようと考え

た。少ない光量では字を見ることはできない。しかし、人が物をとらえるときの特性を用いて工夫す

ることで、普段使用する光量よりも少ない光量でも字を見ることができるのではないかと考えた。今

回の研究では視覚特性を用いた。一般的に、職場と自宅での活動時間を比べると、職場にいる方が長

い人が多いため、会社のオフィスの方が電力消費量が多いと考えられる。オフィスでの消費電力を減

すことができれば、多くのエネルギーを削減できると考えたので、会社のオフィスについて考えた。 今回の実験の目的は、オフィスで最も見る機会の多いプリントの文字を見やすことである。そのた

め、文字が見えやすくなる条件を探ることが今回の研究である。ここでの見えやすい,見えにくいの

定義は、文字が見る人にとってはっきり見えるかぼやけて見えるかとした。机上のプリントの文字を

見やすくするには、机上から反射してくる光量とプリントの背景等を考慮して調整すればよい。机上

から反射される光を調節するために、光源から壁に当たり壁から反射してくる光量を変えようと考え

た。光が物に当たったとき、反射される光量は物の色により反射率は異なる。反射率とは光が物に当

たったとき反射される光の割合のことである。そのために壁の色を変えることを考えた。次に、視覚

特性の一種である明度対比や彩度対比といったものも利用して、机上に置いてあるプリントの文字を

より見えやすくしようと考えた。 今回の研究に使用した明度対比、彩度対比、その他の原理は以下を示すものである。明度とは、光

を全て反射する白色の明度を 100%として、反射する光の割合をパーセンテージで表したものである。

これは光をほとんど反射しない黒では低く、白色では高いといえる。明度対比とは、明度が高い色を

明度がより低い色で囲むと、明度が高い色の明度がより低く見え、明度が低い色を明度がより高い色

で囲むと、明度が低い色の明度がより高く見えることだ。例えば、灰色を灰色よりも明度が低い黒で

囲むと、灰色の明度がより低く見え、灰色を灰色よりも明度が高い白で囲むと、灰色の明度がより高

く見えることである。(図1参照)これによって明度が高い色でプリントを囲めばプリントの文字の明

度が高く見え、より文字が見えやすくなると考えられる。 彩度とは、色の鮮やかさの度合いを示す値である。彩度は色味のある赤、青、緑などの色では高く、

色味のない白や黒では0で、黒や白色などの色味のない色が混ざると小さくなる。彩度対比とは彩度

が高い色で彩度が低い色を囲むと、彩度が低い色の彩度がより高く見え、彩度が低い色でより彩度が

高い色を囲むと、彩度が高い色の彩度がより低く見えることだ。例えば、緑色の中で彩度が高い純色

の緑色で、その緑色に黒を混ぜた濃い緑色を囲むと、黒を混ぜた緑色の彩度が高くなり、黒を混ぜた

緑色で彩度が高い純色の緑色を囲むと、彩度が高い緑色の彩度が低くなることである。(図2参照)こ

視覚特性に基づく照明に関する研究 3年 木村龍太郎、 髙田 彬人、 西田 亮太

物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究 1

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2 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

れによってプリントを彩度が低い色で囲めばプリントの彩度が高く見え、より文字が見えやすくなる

と考えられる。 3 研究方法

文字が見えやすくなる壁の色と机のデスクマットの色を調べるために、壁の色と机のデスクマット

の色による机上のプリントの文字の見えやすさへの影響をアンケートで調べた。 実験を行う際、文字が見えやすくなる壁の色と机のデスクマットの色について以下の仮説を立てた。

①白色の壁は最もプリントの文字は見えやすくする。 この仮説を立てた理由は、大きい光量をプリントに当てた方が小さい光量を当てる時と比較して、一

般的に用いられるプリントの背景である白色が目立ち、よりプリントの文字が見えやすくなる。した

がって、色の中で最も光の反射率の高い白色を壁に用いるとプリントの文字が見やすくなると考えた

からである。 ②緑色のデスクマットはプリントを見えやすくする条件を持っている。 この仮説を立てた理由は実際にオフィスで作業をする際には緑色のデスクマットがよく使われている

ので、緑色のデスクマットにはプリントの文字を見えやすくすると考えたからである。 ③プリントの文字が見えやすくなる条件は男女で違いがある。 この仮説を立てた理由は、男子と女子では目や体、光を感じ取る細胞に違いがあるかもしれないので、

色の感じ方に差があるのではないかと考えたからである。 実験には以下の道具を使用した。 黒色のプラ板、水性ペンキ(白色とクリーム色の二種類)市販の色画用紙(赤・青・黄・緑・白・黒

色の六色)、電球、机、椅子、A4 サイズのプリント(図3のアンケート用紙を使用) 水性ペンキに白色とクリーム色の二色を使用したのは、最も光を反射する白色と、調べた結果から、

オフィスでよく使われる壁の色であるクリーム色でのプリントの文字の見えやすさの違いを比べるた

めである。また、色画用紙には光の反射率が最大と最小の白色と黒色、オフィスのデスクマットに良

く使われる緑色・赤・青・黄色を選んだ。 実験方法 ①プラ板で机、椅子、人が入る電話ボックス大の四角い部屋を2つ作成した。 ②2つの部屋の内側の壁をそれぞれ白色、クリーム色の二色の水性ペンキで塗り、机と椅子を中に入

れた。(図4,5参照) ③片方の部屋に入り部屋の扉を閉じ、椅子に座り机の上のA4の白色のプリントを見てもらった。 ④もう一つの部屋でも③の作業を行ってもらいどちらの部屋でよりプリントの文字が見えやすいかを

比較してもらった。 ⑤次に、机の上にデスクマットの代わりとして色画用紙を置き、その上に③と同じプリントを置き、

色画用紙の色ごとにプリントの文字の見えやすさを比較してもらった。(図6参照)色画用紙は赤・

青・黄・緑・白・黒色の6枚を使い、プリントの見えやすさは緑色を基準の 5 として文字の見えや

すさを 0~10 の 11 段階で数値化する。(数値の小さい 0 が最も見えづらく、数値の大きい 10 が最

も見えやすい) ⑥もう1つの部屋でも同様の作業を行ってもらった。 ⑦①から⑥実験の結果をアンケートにとり、どのような条件でプリントの文字がより見えやすくなる

かを統計学に基づくデータを出した。(図3参照) 4 実験結果

実験のアンケートは男子 73 人女子 73 人で合計 146 人からとった。まず、白色の壁の部屋とクリー

ム色の壁の部屋でのプリントの文字の見えやすさを調べたところ、白色の壁の部屋の方が見えやすい

物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究2

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2 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

れによってプリントを彩度が低い色で囲めばプリントの彩度が高く見え、より文字が見えやすくなる

と考えられる。 3 研究方法

文字が見えやすくなる壁の色と机のデスクマットの色を調べるために、壁の色と机のデスクマット

の色による机上のプリントの文字の見えやすさへの影響をアンケートで調べた。 実験を行う際、文字が見えやすくなる壁の色と机のデスクマットの色について以下の仮説を立てた。

①白色の壁は最もプリントの文字は見えやすくする。 この仮説を立てた理由は、大きい光量をプリントに当てた方が小さい光量を当てる時と比較して、一

般的に用いられるプリントの背景である白色が目立ち、よりプリントの文字が見えやすくなる。した

がって、色の中で最も光の反射率の高い白色を壁に用いるとプリントの文字が見やすくなると考えた

からである。 ②緑色のデスクマットはプリントを見えやすくする条件を持っている。 この仮説を立てた理由は実際にオフィスで作業をする際には緑色のデスクマットがよく使われている

ので、緑色のデスクマットにはプリントの文字を見えやすくすると考えたからである。 ③プリントの文字が見えやすくなる条件は男女で違いがある。 この仮説を立てた理由は、男子と女子では目や体、光を感じ取る細胞に違いがあるかもしれないので、

色の感じ方に差があるのではないかと考えたからである。 実験には以下の道具を使用した。 黒色のプラ板、水性ペンキ(白色とクリーム色の二種類)市販の色画用紙(赤・青・黄・緑・白・黒

色の六色)、電球、机、椅子、A4 サイズのプリント(図3のアンケート用紙を使用) 水性ペンキに白色とクリーム色の二色を使用したのは、最も光を反射する白色と、調べた結果から、

オフィスでよく使われる壁の色であるクリーム色でのプリントの文字の見えやすさの違いを比べるた

めである。また、色画用紙には光の反射率が最大と最小の白色と黒色、オフィスのデスクマットに良

く使われる緑色・赤・青・黄色を選んだ。 実験方法 ①プラ板で机、椅子、人が入る電話ボックス大の四角い部屋を2つ作成した。 ②2つの部屋の内側の壁をそれぞれ白色、クリーム色の二色の水性ペンキで塗り、机と椅子を中に入

れた。(図4,5参照) ③片方の部屋に入り部屋の扉を閉じ、椅子に座り机の上のA4の白色のプリントを見てもらった。 ④もう一つの部屋でも③の作業を行ってもらいどちらの部屋でよりプリントの文字が見えやすいかを

比較してもらった。 ⑤次に、机の上にデスクマットの代わりとして色画用紙を置き、その上に③と同じプリントを置き、

色画用紙の色ごとにプリントの文字の見えやすさを比較してもらった。(図6参照)色画用紙は赤・

青・黄・緑・白・黒色の6枚を使い、プリントの見えやすさは緑色を基準の 5 として文字の見えや

すさを 0~10 の 11 段階で数値化する。(数値の小さい 0 が最も見えづらく、数値の大きい 10 が最

も見えやすい) ⑥もう1つの部屋でも同様の作業を行ってもらった。 ⑦①から⑥実験の結果をアンケートにとり、どのような条件でプリントの文字がより見えやすくなる

かを統計学に基づくデータを出した。(図3参照) 4 実験結果

実験のアンケートは男子 73 人女子 73 人で合計 146 人からとった。まず、白色の壁の部屋とクリー

ム色の壁の部屋でのプリントの文字の見えやすさを調べたところ、白色の壁の部屋の方が見えやすい

3 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

と答えた人数は 76 人、クリーム色の壁の部屋の方が見えやすいと答えた人数は 70 人だった。(実験

③・④) 白色の壁の部屋とクリーム色の壁の部屋でそれぞれ、デスクマットとして使用した色画用紙ごとの

プリントの文字の見えやすさをグラフ化した。(実験⑤・⑥)(図7参照) この実験結果の男女差を2つの部屋ごとにグラフ化した。(図8・図9参照)女子の実験結果は白色

の壁の部屋でプリントの文字が見えやすくなった色の順番が赤・白・黄・緑・黒・青色となった。次

に、プリントの文字の見えやすさの値を見ると、男子の値は黄色・白色で 6.7 ポイントと高い値を示

して、黒色では 4.5 ポイント 4.2 ポイントと低い値を出していた。 これらの実験に使用した色画用紙ごとの明度、彩度、輝度を JPEG Viewer Ver 2.2.0 で数値化した。

(図 10、図 11、図 12 参照) 色画用紙ごとの明度は赤・青・緑・黄・白・黒色の順に高いというデータとなった。彩度について、

数値化された彩度は光の三原色である赤、青、緑の中で色画用紙に最も多く含まれていた色の割合で

表されているので、同じ色が多く含まれていた色でしか比べることができない。そのため黄・白・赤・

緑・青・黒という全く違う色の色画用紙を使用した今回の実験結果からは、プリントの文字を見えや

すくする彩度の条件を推察できなかった。 明度、彩度以外に光量の度合いを表す量として輝度というものがある。これは単位面積あたりの光

源の明るさ(ここでは色画用紙の反射光)を示すものである。測定した輝度の値を実験結果と比較する

と、色画用紙の輝度の高さは黄、白、赤、緑、青、黒色の順番になった。 5 考察

実験③④より、白色の壁の部屋、クリーム色の壁の部屋でのプリントの文字の見やすさについては、

白色の部屋の方がプリントを見えやすいと答えた人が 6 人多いというデータが出た。アンケートをと

った人数 146 人に対して差の 6 人という人数は統計学的に少ないものなので、白色の壁の部屋とクリ

ーム色の壁の部屋でのプリントの文字の見えやすさに差は見られなかったと考えられた。 実験⑤⑥より、使用した色画用紙の色ごとのプリントの文字の見えやすさを、ふたつの部屋で出た

値の平均から見ると黄・白・赤・緑・青・黒色の順にプリントの文字を見えやすくしたといえる。白

色の壁の部屋とクリーム色の壁の部屋では実験結果に大きな差は出なかった。 実験⑤⑥のデータを男女別に出すと、女子の結果ではそれぞれの色画用紙を使ったときの見えやす

さの値の差が小さくなった。また、男子の結果では白色・黄色でのアンケート結果の平均値がより高

く、黒色でのアンケート結果がより低く出た。これらのことから男子と女子ではデスクマットの色か

ら受ける影響が違うといえる。また、男子はデスクマットの色によるプリントの文字の見えやすさへ

の影響を女子より受けやすいともいえる。(図8・図9参照) 明度、彩度、輝度について考える。今回の実験でデスクマットとして黄色・白色を用いると、プリ

ントの文字が見やすくなることが分かった。また黄色・白色の明度の共通点として、明度が80%に

近い値というものが見られた。これより、明度が 80%に近い値を示す色はプリントの文字を見えやす

くすると考えられた。輝度については、輝度の高さの順番黄・白・赤・緑・青・黒色が、色画用紙ご

とのプリントの文字の見えやすさの順黄・白・赤・緑・青・黒色と一致した。よって、輝度が高いデ

スクマットを使うとプリントの文字が見えやすくなるということが考えられる。 今回の実験では、私たちは電球から発せられた光が壁で反射する際、反射される光量が色のより異

なるため、その反射された光がプリントに当たり、プリントの文字の見えやすさは変わると推測した

が、今回の実験では壁によるプリントの文字の見えやすさへの影響はほぼ見受けられなかった。その

理由は、2つ考えられる。1つ目の理由は壁の色である。今回使用した壁の色は白色とクリーム色で、

ほとんど壁の色に違いが見られなかった。つまり、ほとんど近い色である白色の壁とクリーム色の壁

を比較してもプリントの文字の見えやすさへの影響がほとんど出なかったのだと考えられる。2 つ目

の理由は電球の光量だ。今回の実験で使用した電球の光量が小さかったのだと考えられる。つまり、

物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究 3

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4 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

光源である電球の光量が小さければいくら壁の色を変えて反射された光量を変えても、その光量の変

化が小さく、結果として反射された光量によるプリントの文字の見やすさへの影響がほとんど出なか

ったと考えられる。この実験では明度対比からプリントの文字が見やすくなるデスクマットの色は明

度が低い色であると推測していたが、その推測とは異なる実験結果が出た。その理由はプリントに対

するデスクマットの大きさだと考えられる。今回使用したデスクマットの大きさはプリントよりも一

回り程度大きいものでしかなかったため、プリントに対するデスクマットの大きさが不十分だったと

思われる。そのため、明度の差を目が十分に認識せず、明度対比の効果が薄くなり、推測と異なる結

果が出たのだと考えられる。デスクマットの色として用いたときに特に文字を見やすくした黄色・白

色の色画用紙に明度が 80%に近いという共通点があったこと、輝度が高い色のデスクマットを使用す

るとプリントの文字が見やすくなり輝度が低い色のデスクマットを使用するとプリントの文字が見に

くくなったことは、今後実験をすることがあれば、重ね考察していきたい。 また、私たちが出した実験結果は人の目にある錐体細胞の特徴によるものだと考えられる。錐体細

胞とは目から入ってきた光を捉えて脳に信号を送る細胞である。この錐体細胞は受け取る光によって

三種類にわけられている。R錐体細胞とG錐体細胞とB錐体細胞だ。R錐体細胞は赤色の光を、G錐

体細胞は緑色の光を、B錐体細胞は青の光を捉える。これらの錐体細胞の存在比率はB、G、Rの順

で高くなっているので、緑色の光は多くの錐体細胞を使わずに捉えることができ、錐体細胞が少なく

捉えきれないというということもないので目に優しいのではないかと考えている。この錐体細胞の量

によって文字が見えやすい条件、男女の文字の見えやすさの差が出たと考えられる。 6 結論

今回の研究からオフィスで消費電力を抑える方法は、作業を行う机のデスクマットに輝度が高く、

明度が 80%に近い値を示す色を用いることであると分かった。また、壁の色についてはプリントの見

えやすさには関係がないと推測される。さらに、男女によって条件を変える必要があると分かった。 今後実験を行う際は、反射率が大きく異なる壁の色を様々用意して壁の色によるプリントの文字の

見やすさへの影響を調べたり、反射する光そのものがプリントの文字の見やすさへの影響を与えるこ

とのできる広さの箱で実験を行ったりすることで、使用するエネルギーを削減できる結果を出せるよ

うにしたい。デスクマットの色についての実験でも今回の結果をより詳しく出せるように、十分に明

度対比が現れる大きさのデスクマットを使用して実験を行うようにしたい。また、プリントの文字の

見やすさの定義を明確にすることで、より正確な実験結果を得られると考えられるので、今後はプリ

ントの文字の見やすさの基準となる具体的な数値を定めて実験を行おうと思う。

7 文献

新版色の手帖 監修永田泰弘 小学館 決定版色の名前 507 福田邦夫 主婦の友社 色彩の心理学 金子隆若 岩波新書 Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8 8 謝辞

この実験をサポートしてくれた先生方、アンケートに協力してくれた方々ありがとうございました。

物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究4

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4 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

光源である電球の光量が小さければいくら壁の色を変えて反射された光量を変えても、その光量の変

化が小さく、結果として反射された光量によるプリントの文字の見やすさへの影響がほとんど出なか

ったと考えられる。この実験では明度対比からプリントの文字が見やすくなるデスクマットの色は明

度が低い色であると推測していたが、その推測とは異なる実験結果が出た。その理由はプリントに対

するデスクマットの大きさだと考えられる。今回使用したデスクマットの大きさはプリントよりも一

回り程度大きいものでしかなかったため、プリントに対するデスクマットの大きさが不十分だったと

思われる。そのため、明度の差を目が十分に認識せず、明度対比の効果が薄くなり、推測と異なる結

果が出たのだと考えられる。デスクマットの色として用いたときに特に文字を見やすくした黄色・白

色の色画用紙に明度が 80%に近いという共通点があったこと、輝度が高い色のデスクマットを使用す

るとプリントの文字が見やすくなり輝度が低い色のデスクマットを使用するとプリントの文字が見に

くくなったことは、今後実験をすることがあれば、重ね考察していきたい。 また、私たちが出した実験結果は人の目にある錐体細胞の特徴によるものだと考えられる。錐体細

胞とは目から入ってきた光を捉えて脳に信号を送る細胞である。この錐体細胞は受け取る光によって

三種類にわけられている。R錐体細胞とG錐体細胞とB錐体細胞だ。R錐体細胞は赤色の光を、G錐

体細胞は緑色の光を、B錐体細胞は青の光を捉える。これらの錐体細胞の存在比率はB、G、Rの順

で高くなっているので、緑色の光は多くの錐体細胞を使わずに捉えることができ、錐体細胞が少なく

捉えきれないというということもないので目に優しいのではないかと考えている。この錐体細胞の量

によって文字が見えやすい条件、男女の文字の見えやすさの差が出たと考えられる。 6 結論

今回の研究からオフィスで消費電力を抑える方法は、作業を行う机のデスクマットに輝度が高く、

明度が 80%に近い値を示す色を用いることであると分かった。また、壁の色についてはプリントの見

えやすさには関係がないと推測される。さらに、男女によって条件を変える必要があると分かった。 今後実験を行う際は、反射率が大きく異なる壁の色を様々用意して壁の色によるプリントの文字の

見やすさへの影響を調べたり、反射する光そのものがプリントの文字の見やすさへの影響を与えるこ

とのできる広さの箱で実験を行ったりすることで、使用するエネルギーを削減できる結果を出せるよ

うにしたい。デスクマットの色についての実験でも今回の結果をより詳しく出せるように、十分に明

度対比が現れる大きさのデスクマットを使用して実験を行うようにしたい。また、プリントの文字の

見やすさの定義を明確にすることで、より正確な実験結果を得られると考えられるので、今後はプリ

ントの文字の見やすさの基準となる具体的な数値を定めて実験を行おうと思う。

7 文献

新版色の手帖 監修永田泰弘 小学館 決定版色の名前 507 福田邦夫 主婦の友社 色彩の心理学 金子隆若 岩波新書 Wikipedia http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8 8 謝辞

この実験をサポートしてくれた先生方、アンケートに協力してくれた方々ありがとうございました。

5 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

9.図表・画像

図1.白、灰、黒の三色の明度対比

図2.グリーン、深緑、鉄色の三色彩度対比

図3.アンケート用紙

図4.壁をクリーム色に塗った部屋

図5.壁を白色に塗った部屋

図6.机上に色画用紙とプリントを置いた状態

物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究 5

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6 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

図7.2つの部屋でのデスクマットとして使用し

た色画用紙ごとのプリントの文字の見えや

すさの値の平均

図8.クリーム色の壁の部屋での男女別にとっ

たデスクマットとして使用した色画用紙ごと

のプリントの文字の見えやすさの値の平均

図9.白色の壁の部屋での男女別にとったデスク

マットとして使用した色画用紙ごとのプリ

ントの文字の見えやすさの値の平均

図10.使用した色画用紙の明度

図11.使用した色画用紙の彩度

図12.使用した色画用紙の輝度

物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究6

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6 物理⑥ 視覚特性に基づく照明に関する研究

図7.2つの部屋でのデスクマットとして使用し

た色画用紙ごとのプリントの文字の見えや

すさの値の平均

図8.クリーム色の壁の部屋での男女別にとっ

たデスクマットとして使用した色画用紙ごと

のプリントの文字の見えやすさの値の平均

図9.白色の壁の部屋での男女別にとったデスク

マットとして使用した色画用紙ごとのプリ

ントの文字の見えやすさの値の平均

図10.使用した色画用紙の明度

図11.使用した色画用紙の彩度

図12.使用した色画用紙の輝度

1 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

1 要旨

一般に希薄溶液の凝固点降下度⊿t〔K〕は、希薄溶液では、溶液の質量モル濃度〔mol/kg〕に

比例する。しかし、高濃度溶液では、溶質粒子間の相互作用が表れ、希薄溶液とは異なる凝固点降

下度となる。そこで、溶質の種類を変えて、凝固点降下度を測定することで、高濃度溶液での溶質

粒子の影響を調べることを目的とした。 本研究では、溶質を電解質とした溶液について、同一濃度における凝固点降下度を測定し、測定

した凝固点降下度(測定値)と理論式から算出した凝固点降下度(理論値)を比較した。電解質の

種類を変えて測定を行い、イオンの大きさや価数の違いと凝固点降下度の理論値と測定値の差との

関係を調べた。 その結果、溶質の電解質を構成しているイオンの価数が大きいものほど、凝固点降下度の測定値

と理論値の差が大きくなることが分かった。また、イオンの大きさが大きいものほど、測定値と理

論値の差が大きくなることが分かった。 この高濃度溶液における凝固点降下度の測定値と理論値よりも常に小さいという結果より、理論

で算出した濃度より実質的な濃度が小さくなっていることが考えられた。これは、電離した溶質の

イオンが、水分子を媒介して反対符号のイオンを引き寄せ、水分子を含めた集合体を作り、その結

果、実際の濃度が小さくなったと推察できた。 2 研究目的

一般に濃度の小さい溶液(希薄溶液)の凝固点は、純溶媒と比べて低くなる。この現象を溶液の

凝固点降下といい、純溶媒と溶液との凝固点の差を凝固点降下度⊿t[K]という。この凝固点降下度

⊿t[K]は、希薄溶液において、質量モル濃度 m [mol/kg]に比例し、その比例定数(モル凝固点降下

Kf [K・kg/mol])は、溶質の種類に関係なく、溶媒の種類によって決まることがわかっている。その

ため、凝固点降下度⊿t[K]は、⊿t=Kf×m で求めることができる。このときの質量モル濃度

m[mol/kg]は、電解質が溶質の水溶液の場合、電解質が電離した時の質量モル濃度となる。しかし

ながら、濃度の大きい溶液(高濃度溶液)では、溶質粒子どうしが接近するようになり、溶質粒子

間の相互作用の影響が表れ、その凝固点降下度⊿t[K]は、⊿t=Kf×mの式に従わないと考えられる。

一般に、高濃度溶液とは 0.1mol/kg を超える溶液を指すことが多い。 私たちは福岡女子大学において、溶質をパラジクロロベンゼン、溶媒をナフタレンとした溶液の

凝固点降下度⊿t[K]を測定した。そして、質量モル濃度 m[mol/kg]と凝固点降下度⊿t[K](測定値)

とのグラフを作成し、⊿t=Kf×m で求めることができる凝固点降下度⊿t’を理論値として算出して

比較した(図表 1)。図 1 の破線は凝固点降下度⊿t[K]の測定値を、実線は凝固点降下度⊿t’[K]の理

論値を表している。溶液の濃度が小さい時の測定値は理論値とほぼ等しかったが、濃度が大きくな

るにつれ、測定値は理論値に対して、負にずれることが分かった。 そこで、私たちは、高濃度溶液において凝固点降下度⊿t[K](測定値)が理論値からずれること

に興味を持ち、次の研究を実施した。 【研究①】

溶質が非電解質、溶媒も非電解質の場合(パラジクロロベンゼンナフタレン溶液)と、溶質が電

解質、溶媒が水の場合(塩化カリウム水溶液)の高濃度における凝固点降下現象を比較する。 【研究②】

溶質が電解質の水溶液の場合について、陽イオンの価数の違い、及び陽イオンの大きさの違いに

よる、同濃度における凝固点降下度⊿t[K](測定値)と理論値との差を調べる。 【研究③】

高濃度溶液の凝固点降下現象 3年 元村 晴香 大坪 朋矢

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象 1

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2 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

溶質が電解質の水溶液の場合について、陰イオンの価数の違い、及び陰イオンの大きさの違いに

よる、同濃度における凝固点降下度⊿t[K](測定値)と理論値との差を調べる。

3 研究方法

(Ⅰ)実験手順 (1) 試料を、100mL メスフラスコにそれぞれ測り入れ、水 50.0g を注いで溶液を調整する。 (2) 穴をあけたねじ口試験管の蓋に、電子温度計の測定部分を差し込む。 (3) ねじ口試験管に撹拌子と(1)の溶液を入れて、(2)の蓋をする。 (4) 保温性の容器に氷と食塩(冷却材)を入れた後、ねじ口試験管と氷が接触の仕方などによって

ねじ口試験管の冷え方が変化しないように、ねじ口試験管が入る大きさの試験管に(3)を入れ、

温度の出入りが小さくなるように綿などで蓋をして図表 2 のように、冷やす。 (5) 電子温度計で 1 秒毎に温度を測定する。測定した温度のグラフを作成し、溶液の凝固点を決定

する。凝固点は図表 3 のように、凝固が始まった後の直線部分を延長した線とグラフの交点を

凝固点として読む。

図表 2

図表 4 (実際の写真) 図表 3

図表 1

40

45

120 180 240

時間(秒)

温度

[℃]

時間[s]

0

5

10

15

0 2 4 6 8

凝固点降下度

[K]

質量モル濃度[mol/kg]

塩化カリウム水溶液の凝固点降下度

実測値

理論値

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象2

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2 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

溶質が電解質の水溶液の場合について、陰イオンの価数の違い、及び陰イオンの大きさの違いに

よる、同濃度における凝固点降下度⊿t[K](測定値)と理論値との差を調べる。

3 研究方法

(Ⅰ)実験手順 (1) 試料を、100mL メスフラスコにそれぞれ測り入れ、水 50.0g を注いで溶液を調整する。 (2) 穴をあけたねじ口試験管の蓋に、電子温度計の測定部分を差し込む。 (3) ねじ口試験管に撹拌子と(1)の溶液を入れて、(2)の蓋をする。 (4) 保温性の容器に氷と食塩(冷却材)を入れた後、ねじ口試験管と氷が接触の仕方などによって

ねじ口試験管の冷え方が変化しないように、ねじ口試験管が入る大きさの試験管に(3)を入れ、

温度の出入りが小さくなるように綿などで蓋をして図表 2 のように、冷やす。 (5) 電子温度計で 1 秒毎に温度を測定する。測定した温度のグラフを作成し、溶液の凝固点を決定

する。凝固点は図表 3 のように、凝固が始まった後の直線部分を延長した線とグラフの交点を

凝固点として読む。

図表 2

図表 4 (実際の写真) 図表 3

図表 1

40

45

120 180 240

時間(秒)

温度

[℃]

時間[s]

0

5

10

15

0 2 4 6 8

凝固点降下度

[K]

質量モル濃度[mol/kg]

塩化カリウム水溶液の凝固点降下度

実測値

理論値

3 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

(Ⅱ)使用した試料 溶質に使用した電解質は全て電離したものとし、イオンの総数で質量モル濃度[mol/kg]を算出

した(イオン総濃度)。 【研究①】

<塩化カリウム KCl> イオンの総濃度が 0.04mol/kg までは約 0.02mol/kg おきに、イオンの総濃度が 0.04mol/kg

からは約 0.2mol/kg ずつ濃度を変化させて、凝固点を測定した(図表 5)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数 [mol/kg]

0.00081 50.04 0.016 0.032 0.0024 50.31 0.048 0.096 0.0050 50.09 0.099 0.20 0.0055 50.01 0.11 0.22 0.0067 50.07 0.13 0.27 0.010 50.01 0.20 0.40 0.0200 50.04 0.399 0.799 0.0300 50.03 0.601 1.20 0.0400 50.03 0.799 1.60 0.0502 50.07 1.00 2.00 0.0600 50.09 1.20 2.39 0.0700 50.00 1.40 2.80 0.0799 50.02 1.60 3.20 0.0900 50.10 1.80 3.59 0.100 50.03 2.00 4.01 0.100 50.00 2.00 4.01 0.110 50.66 2.17 4.34 0.120 51.59 2.33 4.65 0.1500 50.02 2.998 5.996

【研究②】 <陽イオンの大きさの比較>

陽イオンは価数を 1 価のアルカリ金属のイオンに揃え、大きさを比較した。陰イオンを塩化

物イオンに揃えることで、陰イオンの電荷や大きさの影響が等しくなるようにした。 また、全て電離した時のイオンの総濃度を約 4.0mol/kg で等しくなるように濃度を調整し、

それぞれの溶液の凝固点降下度の理論値が等しくなるようにした(図表 6)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数[mol/kg]

陽イオンの半径 [nm]

LiCl 0.100 50.00 2.005 4.01 0.090 NaCl 0.100 50.00 2.005 4.01 0.116 KCl 0.100 50.00 2.004 4.01 0.152

<陽イオンの価数の比較>

陽イオンは第 3 周期の金属イオンに揃えることによってイオンの大きさの影響を小さくした。

図表 5

図表 6

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象 3

-33-

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4 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

陰イオンを塩化物イオンに揃えることで、陰イオンの電荷や大きさの影響が等しくなるように

した。 また、全て電離した時のイオンの総濃度を約 4.0mol/kg で等しくなるように濃度を調整し、

それぞれの溶液の凝固点降下度の理論値が等しくなるようにした(図表 7)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数[mol/kg]

陽イオンの半径 [nm]

Na⁺Cl 0.100 50.00 2.005 4.01 0.116 Mg²⁺Cl₂ 0.067 50.00 1.336 4.01 0.086 Al³⁺Cl₃ 0.050 50.00 1.002 4.01 0.068

【研究③】 <陰イオンの大きさの比較>

陰イオンは 1 価のハロゲン化物イオンに揃え、大きさを比較した。陽イオンをカリウムイオ

ンに揃えることで、陽イオンの電荷や大きさの影響が等しくなるようにした。 また、全て電離した時のイオンの総濃度を約 4.0mol/kg で等しくなるように濃度を調整し、

それぞれの溶液の凝固点降下度の理論値が等しくなるようにした(図表 8)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数[mol/kg]

陰イオンの半径 [nm]

KCl 0.100 50.00 2.004 4.01 0.167 KBr 0.100 50.06 1.998 4.00 0.182 KI 0.100 49.99 2.005 4.01 0.206

<陰イオンの価数の比較> 陰イオンは電離度と大きさに考慮して、1 価の硝酸イオン、2 価の硫酸イオン、3 価のリン酸

イオンを選んだ。陽イオンをナトリウムイオンに揃えることで陽イオンの電荷や大きさの影響

が等しくなるようにした。 また、これらの試料は他の試料に比べて溶解度が小さく、全て電離した時のイオンの総濃度

を約 4.0mol/kg に統一するのが不可能だった。そのため、10 分の 1 の約 0.4mol/kg で等しくな

るように濃度を調整し、それぞれの溶液の凝固点降下度の理論値が等しくなるようにした(図

表 9)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数[mol/kg]

NaNO₃⁻ 0.010 50.07 0.200 0.40 Na₂SO₄²⁻ 0.007 50.01 0.133 0.40 Na₃PO₄³⁻ 0.005 49.92 0.091 0.36

4 結果

(ア)【研究①】 図表 10 はパラジクロロベンゼンナフタレン溶液の凝固点降下度[K]と質量モル濃度[mol/kg]の

関係を、図表 11 は塩化カリウム水溶液の凝固点降下度[K]と質量モル濃度[mol/kg]の関係を表し

ている。 溶質が電解質水溶液の場合においても、非電解質混合溶液と同様に、濃度が小さい時の凝固点

降下度の測定値は理論値とほぼ等しかったが、濃度が大きくなるにしたがって、測定値は理論値

に対して負にずれることが分かった。

図表 9

図表 7

図表 8

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象4

-34-

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4 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

陰イオンを塩化物イオンに揃えることで、陰イオンの電荷や大きさの影響が等しくなるように

した。 また、全て電離した時のイオンの総濃度を約 4.0mol/kg で等しくなるように濃度を調整し、

それぞれの溶液の凝固点降下度の理論値が等しくなるようにした(図表 7)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数[mol/kg]

陽イオンの半径 [nm]

Na⁺Cl 0.100 50.00 2.005 4.01 0.116 Mg²⁺Cl₂ 0.067 50.00 1.336 4.01 0.086 Al³⁺Cl₃ 0.050 50.00 1.002 4.01 0.068

【研究③】 <陰イオンの大きさの比較>

陰イオンは 1 価のハロゲン化物イオンに揃え、大きさを比較した。陽イオンをカリウムイオ

ンに揃えることで、陽イオンの電荷や大きさの影響が等しくなるようにした。 また、全て電離した時のイオンの総濃度を約 4.0mol/kg で等しくなるように濃度を調整し、

それぞれの溶液の凝固点降下度の理論値が等しくなるようにした(図表 8)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数[mol/kg]

陰イオンの半径 [nm]

KCl 0.100 50.00 2.004 4.01 0.167 KBr 0.100 50.06 1.998 4.00 0.182 KI 0.100 49.99 2.005 4.01 0.206

<陰イオンの価数の比較> 陰イオンは電離度と大きさに考慮して、1 価の硝酸イオン、2 価の硫酸イオン、3 価のリン酸

イオンを選んだ。陽イオンをナトリウムイオンに揃えることで陽イオンの電荷や大きさの影響

が等しくなるようにした。 また、これらの試料は他の試料に比べて溶解度が小さく、全て電離した時のイオンの総濃度

を約 4.0mol/kg に統一するのが不可能だった。そのため、10 分の 1 の約 0.4mol/kg で等しくな

るように濃度を調整し、それぞれの溶液の凝固点降下度の理論値が等しくなるようにした(図

表 9)。

溶質[mol] 水[g] mol/kg イオンの総数[mol/kg]

NaNO₃⁻ 0.010 50.07 0.200 0.40 Na₂SO₄²⁻ 0.007 50.01 0.133 0.40 Na₃PO₄³⁻ 0.005 49.92 0.091 0.36

4 結果

(ア)【研究①】 図表 10 はパラジクロロベンゼンナフタレン溶液の凝固点降下度[K]と質量モル濃度[mol/kg]の

関係を、図表 11 は塩化カリウム水溶液の凝固点降下度[K]と質量モル濃度[mol/kg]の関係を表し

ている。 溶質が電解質水溶液の場合においても、非電解質混合溶液と同様に、濃度が小さい時の凝固点

降下度の測定値は理論値とほぼ等しかったが、濃度が大きくなるにしたがって、測定値は理論値

に対して負にずれることが分かった。

図表 9

図表 7

図表 8

5 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

また、パラジクロロベンゼンのナフタレン溶液の凝固点の測定値のグラフから近似式を求めた。

その近似式を利用して、イオン総濃度 4mol/kg の凝固点降下度を求めると、理論値との差は 8.1Kであった。一方、塩化カリウム水溶液でイオン総濃度 4mol/kg において 1.8K の差があった。今

回の実験結果では非電解質混合溶液の方が、電解質水溶液より、凝固点降下度の測定値と理論値

の差が大きいことが分かった。

(イ)【研究②】 <陽イオンの大きさの比較>

図表12は凝固点降下度の理論値と測定値の差[K]と陽イオンの半径 [nm] の関係を表してい

る。 凝固点降下度の理論値と測定値の差[K]は、陽イオンの半径にほぼ比例することが分かった。

<陽イオンの価数の比較>

図表 13 は凝固点降下度の理論値と測定値の差[K]と陽イオンの価数との関係を表している。 陽イオンの価数が大きいものほど、理論値との差が大きくなることが分かった。また、1 価

と 2 価は差が大きいが、2 価と 3 価の差は小さくなった。

y = -0.1861x2 + 6.4772x - 1.0006 0.0

50.0

100.0

0 5 10 15

凝固点降下度

[K]

質量モル濃度[mol/kg]

パラジクロロベンゼンナフタレン溶液の 凝固点降下度

測定値

理論値

0

5

10

15

0 2 4 6 8

凝固点降下度

[K]

質量モル濃度[mol/kg]

塩化カリウム水溶液の凝固点降下度

実測値

理論値

R² = 0.9689

0

1

2

3

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

理論

値との

差(K

)

陽イオンのイオン半径[nm]

陽イオン半径との関係

0

1

2

3

4

5

Na⁺Cl Mg²⁺Cl₂ Al³⁺Cl₃

理論

値との差

[K]

陽イオンの価数との関係

図表 10

図表 12

図表 13

図表 11

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象 5

-35-

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6 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

(ウ)【研究③】

<陰イオンの大きさの比較> 図表14は凝固点降下度の理論値と測定値の差[K]と陰イオンの半径の関係[nm]を表している。 陽イオンの大きさとの関係を比較すると、陰イオンの大きさの違いによる差はほとんど見ら

れなかった。

<陰イオンの価数の比較> 図表 15 は凝固点降下度の理論値と測定値の差[K]と陰イオンの価数との関係を表している。 陰イオンの価数が大きいものほど、理論値との差が小さくなることが分かった 1 価と 2 価の

差と 2 価と 3 価の差はほぼ均等だった。

5 考察

<凝固点降下の原理> 今、図表 16 のように、水の凝固点である 0℃において、0℃の氷と 0℃の水があるとする。凝

固点である 0℃では、融解する粒子の数と凝固する粒子の数が等しく、平衡状態となる。しかし、

図表 17 のように 0℃において溶質を加えた溶液の場合は、溶媒粒子が凝固するとき、溶質粒子が

その妨げとなり、融解する粒子の数よりも凝固する粒子の数が少なくなり、氷は溶けてしまう。

そのため、この溶液を凝固させるためには、純溶媒よりも、温度を低くしなければ凝固しない。

つまり、凝固点降下が生じたといえる。よって、溶質の粒子数の割合が大きくなるにつれ(濃度

が大きくなるにつれ)凝固点降下が促進されることになる。

<凝固点降下現象の抑制について>

R² = 0.1296 0

1

2

3

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

理論値との差

[K]

陰イオンの半径[nm]

陰イオン半径との関係

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

NaNO₃⁻ Na₂SO₄²⁻ Na₃PO₄³⁻

理論

値との

差[K

]

陰イオンの価数との関係

図表 15

図表 14

図表 16 図表 17

0℃の氷

0℃の水 溶質

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象6

-36-

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6 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

(ウ)【研究③】

<陰イオンの大きさの比較> 図表14は凝固点降下度の理論値と測定値の差[K]と陰イオンの半径の関係[nm]を表している。 陽イオンの大きさとの関係を比較すると、陰イオンの大きさの違いによる差はほとんど見ら

れなかった。

<陰イオンの価数の比較> 図表 15 は凝固点降下度の理論値と測定値の差[K]と陰イオンの価数との関係を表している。 陰イオンの価数が大きいものほど、理論値との差が小さくなることが分かった 1 価と 2 価の

差と 2 価と 3 価の差はほぼ均等だった。

5 考察

<凝固点降下の原理> 今、図表 16 のように、水の凝固点である 0℃において、0℃の氷と 0℃の水があるとする。凝

固点である 0℃では、融解する粒子の数と凝固する粒子の数が等しく、平衡状態となる。しかし、

図表 17 のように 0℃において溶質を加えた溶液の場合は、溶媒粒子が凝固するとき、溶質粒子が

その妨げとなり、融解する粒子の数よりも凝固する粒子の数が少なくなり、氷は溶けてしまう。

そのため、この溶液を凝固させるためには、純溶媒よりも、温度を低くしなければ凝固しない。

つまり、凝固点降下が生じたといえる。よって、溶質の粒子数の割合が大きくなるにつれ(濃度

が大きくなるにつれ)凝固点降下が促進されることになる。

<凝固点降下現象の抑制について>

R² = 0.1296 0

1

2

3

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

理論値との差

[K]

陰イオンの半径[nm]

陰イオン半径との関係

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

NaNO₃⁻ Na₂SO₄²⁻ Na₃PO₄³⁻

理論

値との

差[K

]

陰イオンの価数との関係

図表 15

図表 14

図表 16 図表 17

0℃の氷

0℃の水 溶質

7 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

今回の実験では、測定した凝固点降下度⊿t[K]は⊿t=Kf×m で算出した理論値よりも小さく

なっていた。つまり、理論で算出した濃度よりも実質的な濃度が小さくなり、凝固点降下現象が

抑制されている(理論値に対して負にずれている)といえる。そのため、測定値と理論値の差が

大きいほど、実際の濃度が小さくなっている(溶質の粒子が少なくなっている)と推察できる。

その理由として、次の 2 つが考えられる。

【考察①】 今回の実験では溶質は完全に電離しているとして濃度を算出しているが、実際には

溶質が完全に電離していない。その結果、実際の濃度が小さくなった(溶質の粒子が

少なくなった)(図表 18)。 【考察②】 電離した場合でも、溶質のイオンが水分子を媒介して反対符号のイオンを引き寄せ、

水分子を含めて集合体を作り、その結果、実際の濃度が小さくなった(溶質の粒子が

少なくなった)(図表 19)。

【研究①】の結果から、電離しない非電解質の溶液の場合においても、測定値は理論値よりも

小さな値となっている。そのため、【考察①】の電離度の影響によらなくても、たとえば【考察②】

のような影響が考えられる。さらに、完全に電離すると考えられる NaCl のような溶液において

もずれを生じているため、【考察①】の電離の影響よりも、【考察②】の影響が大きいと考えられ

る。

<イオンの電荷と凝固点降下の抑制について> 図表 20 は【研究②】の陽イオンの価数との関係(図表 13)と、【研究③】の陰イオンの価数と

の関係(図表 15)をまとめたグラフである。ただし、陰イオンについては濃度が 10 分の 1 の約

0.4 mol/kg だったので値を 10 倍にしている。【考察②】の影響を考えると電荷が大きいほど、水

分子を媒介しても電荷による引力が弱くなりにくく、集合体を作りやすい、つまり理論値との差

が大きくなると考えられ、陽イオンの価数との関係では、その傾向が見られる。しかしながら、

陰イオンの価数との関係では、その傾向が見られない。陰イオンについては多原子イオンを用い

たため、イオンにおける電荷の分布、イオンの大きさ、および水素結合等も影響していることが

原因と考えられる。

<イオンの半径と凝固点降下の抑制について> 図表 21 は【研究②】の陽イオン半径との関係(図表 12)と、【研究③】の陰イオン半径との関

係(図表 14)をまとめたグラフである。グラフを見てわかるように、イオン半径は大きいほど理

012345

1 2 3

理論値との差

[K]

価数

価数との関係

陽イオン

陰イオン×10

図表 18 図表 19

図表 20

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象 7

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8 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

論値との差が大きくなっている。しかしながら、【研究②】の影響を考えると、陽イオン、陰イオ

ンがそれぞれ水分子を引き寄せ、水分子に取り囲まれた水和イオンを形成した上で、集合体を作

っていると推察されるため、一方のイオンだけでなく双方のイオンの影響があると考えられる。

そこで、陽イオン、陰イオン双方の水分子を引きつける力を考慮し、各化合物の水和エネルギー

と、理論値との関係を調べた(図表 22)。

図表 22 より水和エネルギーが大きいほど、理論値との差が小さくなっている。このことか

ら水和エネルギーが大きいほど、イオンがより多くの水分子を引き寄せてしまうため、電荷が

弱められ集合体を作りにくくなったと考えられる(図表 23)。

<イオンの電荷と水和エネルギーについて> 以上の考察より、イオンの電荷が大きい(2 価や 3 価)場合は、水分子を含めた集合体を

形成しやすいと考えられる。しかしながら、イオンの電荷が小さい(1 価)の場合は、引き

寄せた水分子によって電荷が弱められるため、水和エネルギーが小さい方が集合体を形成し

やすいと考えられる。 <非電解質混合溶液と電解質水溶液について> 【研究①】の結果より、今回の実験では非電解質混合溶液の方が、電解質水溶液に比べ、

理論値との差が大きいことがわかった。このことより、非電解質混合溶液の方が溶質粒子の

集合体を形成しやすいと考えられる。 電解質水溶液では、溶質粒子(イオン)と溶媒分子(水分子)が電荷による方向性をもっ

て水和するため、溶質粒子どうしが分散しやすいと考えられるが、非電解質混合溶液では、

0

1

2

3

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

理論値との差

[K]

イオンの半径[nm]

イオン半径との関係

陽イオン半径

陰イオン半径

0

1

2

3

500 600 700 800 900

理論値との差

[K]

水和エネルギー[kJ/mol]

水和エネルギー

図表 22

図表 21

LiCl NaCl KCl

KBr KI

KCl

LiCl

NaCl

KCl

KBr

KI

図表 23

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象8

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8 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

論値との差が大きくなっている。しかしながら、【研究②】の影響を考えると、陽イオン、陰イオ

ンがそれぞれ水分子を引き寄せ、水分子に取り囲まれた水和イオンを形成した上で、集合体を作

っていると推察されるため、一方のイオンだけでなく双方のイオンの影響があると考えられる。

そこで、陽イオン、陰イオン双方の水分子を引きつける力を考慮し、各化合物の水和エネルギー

と、理論値との関係を調べた(図表 22)。

図表 22 より水和エネルギーが大きいほど、理論値との差が小さくなっている。このことか

ら水和エネルギーが大きいほど、イオンがより多くの水分子を引き寄せてしまうため、電荷が

弱められ集合体を作りにくくなったと考えられる(図表 23)。

<イオンの電荷と水和エネルギーについて> 以上の考察より、イオンの電荷が大きい(2 価や 3 価)場合は、水分子を含めた集合体を

形成しやすいと考えられる。しかしながら、イオンの電荷が小さい(1 価)の場合は、引き

寄せた水分子によって電荷が弱められるため、水和エネルギーが小さい方が集合体を形成し

やすいと考えられる。 <非電解質混合溶液と電解質水溶液について> 【研究①】の結果より、今回の実験では非電解質混合溶液の方が、電解質水溶液に比べ、

理論値との差が大きいことがわかった。このことより、非電解質混合溶液の方が溶質粒子の

集合体を形成しやすいと考えられる。 電解質水溶液では、溶質粒子(イオン)と溶媒分子(水分子)が電荷による方向性をもっ

て水和するため、溶質粒子どうしが分散しやすいと考えられるが、非電解質混合溶液では、

0

1

2

3

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25

理論値との差

[K]

イオンの半径[nm]

イオン半径との関係

陽イオン半径

陰イオン半径

0

1

2

3

500 600 700 800 900

理論値との差

[K]

水和エネルギー[kJ/mol]

水和エネルギー

図表 22

図表 21

LiCl NaCl KCl

KBr KI

KCl

LiCl

NaCl

KCl

KBr

KI

図表 23

9 化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象

粒子どうしが方向性のない引力であるファンデルワールス力によって引き合うため、溶質粒

子が分散しにくく、結果として、集合体を形成していると考えられる。

6 結論

高濃度における電解質水溶液において、イオンの価数や化合物の水和イオンが凝固点降下現象

を抑制することに関係していることがわかった。電荷が大きいほど、凝固点降下が抑制される度

合いが大きくなり、電荷が小さい場合においては水和エネルギーが小さいほど抑制される度合い

が大きいことがわかった。そして、これらの電荷や水和エネルギーは相互に影響を及ぼしている

と考えられる。今後は様々な種類の溶質や溶媒の溶液について測定を行い、種々の要因やその相

互の関係についても研究を深めたい。

7 参考文献

化学Ⅱ 新訂版(実教出版) 化学Ⅰ・Ⅱの新研究(三省堂) 改訂版 フォトサイエンス化学図録(数研出版) イオンの水和(共立出版)

8 謝辞

お忙しい中、多くの適切な助言や協力をしていただきました、福岡女子大学の池田宜弘先生に厚

く御礼申し上げます。また、休みの日や遅くまで私たちに付き合って指導して下さった香住丘高校

の高尾正樹先生に感謝いたします。SSH、JST に関係する皆様のおかげでこの研究を行うことがで

きました。そして、この研究に意見してくださいました多くの学校の先生方、保護者の皆様ありが

とうございました。

この研究を通して、今まではただ実験は楽しいものという印象でしたが、実験は仮説や実験方法、

実験結果から考察までの実験のすべてにおいて思考が必要であり、大変で困難なものであると分か

りました。そして、その困難さの中に、研究の本当の面白さ、その困難を乗り越えた達成感を感じ

ることができました。この貴重な経験を今後の生活に活かしたいと思っています。

化学① 高濃度溶液の凝固点降下現象 9

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1 化学② マグネシウム燃料電池の研究

1 原理

電池とは、二つの電極(正極、負極)がある。その二つの電極に挟まれた電解液という水溶液があ

る。電解液とは、イオンを通すことができるが、電子を通すことができないという特性を持った液体

である。電池では負極で電子を失う酸化反応が起こり、正極では、その電池の負極で放出された電子

を受け取る還元反応がおこる。そして、これらの反応から電子が回路を通って負極から正極へ流れる。

その電子の向きと反対の向きに電流が流れ、その電流を利用して電力を作るのが電池である。ふつう、

電池と聞くとエネルギーが貯められているため池のような装置だと想像する人が多いと思われる。例

えば、乾電池にしても、乾電池の中には燃料と酸化剤が入っており、それらを使い切ってしまうと、

その時点で電池は電力を発生させることが不可能となり、再利用はできなくなる。しかし、燃料電池

というものは、電池と少し異なり、燃料を送り続ける限り発電を続けることができる装置である発電

装置のようなものである。そのため、電池は再生することが不可能であるが、燃料電池は再生するこ

とが可能だ。 今回私たちが実験で使ったマグネシウム電池は以下のように反応する。

(正極) O₂+2H₂O+4e¯→4OH¯

(負極) 2Mg→2Mg2⁺+4e⁻

(全反応)2Mg+O₂ +2H₂O→2Mg(OH)₂ 負極ではマグネシウムが電離してマグネシウムイオンとなり、電子を放出する酸化反応を起こし、そ

の電子と正極で酸素が反応する還元反応を起こす。これらの反応が一連の電子の移動となり、電流が

発生する。ほかの燃料電池の例として有名なのは、水素と酸素の燃料電池がある。その燃料電池は環

境によいと思われがちであるが、その燃料電池の正極で用いられる水素ガスは自然界にはほとんど存

在していない。そして、この電池に利用される水素ガスを作り出すのには化石燃料が利用されコスト

が高く、環境に良いとは言えない。しかし今回研究するマグネシウム電池は、環境にもよく再生も可

能である。 2 問題提起・研究目的

私たちは、化学の授業で電池について学び、マグネシウム電池について知った。マグネシウム電池

に興味を持ち、詳しく調べてみると、現在、様々な大学や企業でこのマグネシウム電池が注目されて

いるということが分かった。それは、反応に用いられる物質である、酸素やマグネシウムが地球上の

様々なところに多く存在しており、コストがかからず商品化しやすいこと、反応物である水酸化マグ

ネシウムを還元することで再びマグネシウムに戻るので環境によいこと、という点があるからである。

そこで、私たちは今注目されているマグネシウム電池の研究に少しでも近づきたいと思い、この研究

を行うことにした。 マグネシウム電池のどのようなことについて研究するか考えたとき、初めは、水酸化マグネシウム

を反応物として作らない電解液を探したり、液性をほぼ一定に保つ緩衝液などを用いたりして研究を

行おうとした。しかし、今回は、私たちのマグネシウム電池の研究のスタートだったため、マグネシ

ウム電池の性質や特徴を確認したり発見したりする、ということに重きをおいて研究していった。

マグネシウム燃料電池の研究 3年 浦山 卓也 江口 大貴

化学② マグネシウム燃料電池の研究1

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1 化学② マグネシウム燃料電池の研究

1 原理

電池とは、二つの電極(正極、負極)がある。その二つの電極に挟まれた電解液という水溶液があ

る。電解液とは、イオンを通すことができるが、電子を通すことができないという特性を持った液体

である。電池では負極で電子を失う酸化反応が起こり、正極では、その電池の負極で放出された電子

を受け取る還元反応がおこる。そして、これらの反応から電子が回路を通って負極から正極へ流れる。

その電子の向きと反対の向きに電流が流れ、その電流を利用して電力を作るのが電池である。ふつう、

電池と聞くとエネルギーが貯められているため池のような装置だと想像する人が多いと思われる。例

えば、乾電池にしても、乾電池の中には燃料と酸化剤が入っており、それらを使い切ってしまうと、

その時点で電池は電力を発生させることが不可能となり、再利用はできなくなる。しかし、燃料電池

というものは、電池と少し異なり、燃料を送り続ける限り発電を続けることができる装置である発電

装置のようなものである。そのため、電池は再生することが不可能であるが、燃料電池は再生するこ

とが可能だ。 今回私たちが実験で使ったマグネシウム電池は以下のように反応する。

(正極) O₂+2H₂O+4e¯→4OH¯

(負極) 2Mg→2Mg2⁺+4e⁻

(全反応)2Mg+O₂ +2H₂O→2Mg(OH)₂ 負極ではマグネシウムが電離してマグネシウムイオンとなり、電子を放出する酸化反応を起こし、そ

の電子と正極で酸素が反応する還元反応を起こす。これらの反応が一連の電子の移動となり、電流が

発生する。ほかの燃料電池の例として有名なのは、水素と酸素の燃料電池がある。その燃料電池は環

境によいと思われがちであるが、その燃料電池の正極で用いられる水素ガスは自然界にはほとんど存

在していない。そして、この電池に利用される水素ガスを作り出すのには化石燃料が利用されコスト

が高く、環境に良いとは言えない。しかし今回研究するマグネシウム電池は、環境にもよく再生も可

能である。 2 問題提起・研究目的

私たちは、化学の授業で電池について学び、マグネシウム電池について知った。マグネシウム電池

に興味を持ち、詳しく調べてみると、現在、様々な大学や企業でこのマグネシウム電池が注目されて

いるということが分かった。それは、反応に用いられる物質である、酸素やマグネシウムが地球上の

様々なところに多く存在しており、コストがかからず商品化しやすいこと、反応物である水酸化マグ

ネシウムを還元することで再びマグネシウムに戻るので環境によいこと、という点があるからである。

そこで、私たちは今注目されているマグネシウム電池の研究に少しでも近づきたいと思い、この研究

を行うことにした。 マグネシウム電池のどのようなことについて研究するか考えたとき、初めは、水酸化マグネシウム

を反応物として作らない電解液を探したり、液性をほぼ一定に保つ緩衝液などを用いたりして研究を

行おうとした。しかし、今回は、私たちのマグネシウム電池の研究のスタートだったため、マグネシ

ウム電池の性質や特徴を確認したり発見したりする、ということに重きをおいて研究していった。

マグネシウム燃料電池の研究 3年 浦山 卓也 江口 大貴

2 化学② マグネシウム燃料電池の研究

様々なことを考慮した結果、今回の研究の目的は、電解液中で効率よく電子を伝え、また電極に

不導体を作りにくい電解液の種類と適した濃度を見つけることになった。 3 研究方法

今回の実験では、電解液中で効率よく電子を伝え、また電極に不導体を作りにくい電解液の種

類と適した濃度を見つけるという目的のもと、5 種類の電解液をそれぞれ 4 種類のモル濃度に分

け、実験を行った。この時用いた電解液は、どの液性が最も効率よく電流を流すか調べたかった

ため、強酸性の塩酸、弱酸性の塩化アンモニウム、中性の塩化ナトリウム、弱塩基性の酢酸ナト

リウム、強塩基性の塩化ナトリウムの 5 つを用いた。 また、モル濃度は、モル濃度の高低においてどのような変化がみられるか調べたかったため調べ

た。そのとき、塩化ナトリウムの飽和状態のモル濃度が約 3mol/L だったため、それぞれの電解

液を 3mol/L を最大とし、1.5mol/L、0.750mol/L、0.375mol/L の計 4 種類で実験を行った。 では実験方法を説明する。

まず、実験を行うために、マグネシウムリボン、電解液各種、活性炭、電流計、ろ紙、わに口クリッ

プ、マイクロピペット を準備する。 始めに、マグネシウムリボンを表面積1cm2に合わせ、切断する。その後、活性炭、ろ紙、マグネ

シウムの順番に重ね、電池を作り、わに口クリップと電流計をつないで、回路を作る。なお、この時

のろ紙は電解液をしみこませるためのものである。つぎに、マイクロピペットで測定する電解液を1

ml量りとり、電池の濾紙にしみこませる。そして、しみこませると同時に電流を測定し始め、10秒

おきに 300秒たつまで電流を測定する。

4 結果

・(グラフ1参照) 強酸性である塩酸を電解液に用いた場合、はじめは急激に電流が発生した。しか

し、すぐさま発生する電流は激減して、少量の電流しか流れなくなった。 ・(グラフ1参照) 弱酸性である塩化アンモニウムを電解液に用いた場合、強酸性である塩酸ほど極

端ではないが、似たような反応を起こした。 ・(グラフ1参照) 強塩基性である水酸化ナトリウムを電解液に用いた場合、実験を始めても電流は

ほとんど発生していなかった。 ・(グラフ1参照) 弱塩基性である酢酸ナトリウムを電解液に用いた場合、強塩基性である水酸化ナ

トリウムほど極端ではないが、似たような反応を起こした。 ・(グラフ1参照) 中性である塩化ナトリウムを電解液に用いた場合、酸性である電解液に用いた場

合より、はじめは電流の発生は少ないものの、時間が経過するにつれ、この 5 つの電解液の中で最も

電流の発生量は大きかった。 ・(グラフ2~6参照) モル濃度が 3mol/L に近づくほど、電流の発生は大きくなった。なお、この際、

モル濃度の変化による、電解液ごとの時間経過による電流の発生量の変化の仕方は変わらなかった。 5 考察

自分たちは今回、電流が発生しなくなる原因について以下の 3 つのことを考えた。 1. マグネシウムリボンと電解液が反応しきってしまい、マグネシウムが不足して電流が流れなくな

った。 2. マグネシウムリボンの表面に反応物である水酸化マグネシウムが付着して電流の発生を妨げる。 3. そもそも、マグネシウムと電解液は反応していない。

化学② マグネシウム燃料電池の研究 2

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3 化学② マグネシウム燃料電池の研究

・まず強酸である塩酸を電解液に用いた場合を考える。マグネシウムは金属の中でも比較的イオン化

傾向が大きい金属であり、酸と反応しやすいので急激にはじめに電流を発生させたと考えた。実験後

のマグネシウムリボンは明らかに小さくなっていた。そのため、マグネシウムリボンと電解液が反応

しきってしまい、マグネシウムが不足して電流が流れなくなったと考えた。 ・次に弱酸性である塩化アンモニウムを電解液に用いた場合を考える。強酸性の塩酸と同様に金属と

反応しやすいので、はじめに多くの電流が流れると考えられる。反応後のマグネシウムリボンは強酸

性の塩酸を電解液に用いた場合ほど極端ではないが、マグネシウムリボンは小さくなっていた。だか

ら、塩酸と同じく、マグネシウムリボンと電解液が反応しきってしまいマグネシウムが不足して電流

が流れなくなったと考えた。 ・また、強塩基性である水酸化ナトリウムを電解液に用いた場合を考える。この時の実験では、はじ

めからほとんど電流は発生しなかった。マグネシウムリボンの表面には少しだけ、何か気泡のような

ものが生じたもののかなり少量であったため、その気泡によって電流の流れが妨げられたとは考えら

れないので、マグネシウムと電解液がそもそも反応しないので電流が発生しないと考えた。 ・さらに、弱塩基性である酢酸ナトリウムを電解液に用いた場合についてかんがえる。強塩基性の水

酸化ナトリウムでは、電流の発生量はほぼ 0 に等しかったが、酢酸ナトリウムを電解液に用いると、

明らかに電流は発生していた。また、反応後のマグネシウムリボン の表面には少し気泡が付着しており、マグネシウムリボンに反応物である、水酸化マグネシウムが付

着している可能性もある。しかし、水酸化マグネシウムは白色で水に溶けない。そして、マグネシウ

ムは銀色であるため、たとえ、マグネシウムリボンの表面に水酸化マグネシウムが付着していようが、

見分けることは難しい。さらに、反応後にマグネシウムリボンが不足しているとは考えられなかった。

以上のことから、マグネシウムリボンの表面に反応物が付着して、電流の流れを妨げたと考えた。ま

た、気泡についてはマグネシウムリボンを包み込むほど多くはなかったので、その反応物は水酸化マ

グネシウムと考えた。 ・最後に、中性である塩化ナトリウムを電解液として用いた場合を考える。実験結果より、時間が経

過すると最も大きな量ではあったが、マグネシウムリボンの表面には気泡が付着していた。しかし、

マグネシウムリボンの表面を包み込むほど多くはなかった。よって、マグネシウムリボンの表面に反

応物である水酸化マグネシウムが付着して電流の流れを妨げたと考えた。 6 課題

私たちは今回の研究での反省から、今後の研究における具体的な課題を 5 つ考えた。 課題 1:回路に抵抗を入れること。 課題 2:電解液の価数を変化させること。 課題 3:他の中性の電解液はどのような反応を起こすのかを調べること。 課題 4:反応前後の pH を正確に測ること。 課題 5:本当に表面に水酸化マグネシウムが付着しているのかを調べること。 課題 1 から具体的な反省と詳しい対処方法を記載していく。 課題 1:回路に抵抗を入れること 私たちの今回の実験は回路に抵抗をいれていなかった。実際に使われるときには、回路の中に抵抗

が存在している。だから、より、実際に使われる状況に近いものにするように抵抗を付けるべきであ

る。 また、酸性の電解液を用いた場合に、はじめ、急激に電流を発生させたが、抵抗を付けると電流が

化学② マグネシウム燃料電池の研究3

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3 化学② マグネシウム燃料電池の研究

・まず強酸である塩酸を電解液に用いた場合を考える。マグネシウムは金属の中でも比較的イオン化

傾向が大きい金属であり、酸と反応しやすいので急激にはじめに電流を発生させたと考えた。実験後

のマグネシウムリボンは明らかに小さくなっていた。そのため、マグネシウムリボンと電解液が反応

しきってしまい、マグネシウムが不足して電流が流れなくなったと考えた。 ・次に弱酸性である塩化アンモニウムを電解液に用いた場合を考える。強酸性の塩酸と同様に金属と

反応しやすいので、はじめに多くの電流が流れると考えられる。反応後のマグネシウムリボンは強酸

性の塩酸を電解液に用いた場合ほど極端ではないが、マグネシウムリボンは小さくなっていた。だか

ら、塩酸と同じく、マグネシウムリボンと電解液が反応しきってしまいマグネシウムが不足して電流

が流れなくなったと考えた。 ・また、強塩基性である水酸化ナトリウムを電解液に用いた場合を考える。この時の実験では、はじ

めからほとんど電流は発生しなかった。マグネシウムリボンの表面には少しだけ、何か気泡のような

ものが生じたもののかなり少量であったため、その気泡によって電流の流れが妨げられたとは考えら

れないので、マグネシウムと電解液がそもそも反応しないので電流が発生しないと考えた。 ・さらに、弱塩基性である酢酸ナトリウムを電解液に用いた場合についてかんがえる。強塩基性の水

酸化ナトリウムでは、電流の発生量はほぼ 0 に等しかったが、酢酸ナトリウムを電解液に用いると、

明らかに電流は発生していた。また、反応後のマグネシウムリボン の表面には少し気泡が付着しており、マグネシウムリボンに反応物である、水酸化マグネシウムが付

着している可能性もある。しかし、水酸化マグネシウムは白色で水に溶けない。そして、マグネシウ

ムは銀色であるため、たとえ、マグネシウムリボンの表面に水酸化マグネシウムが付着していようが、

見分けることは難しい。さらに、反応後にマグネシウムリボンが不足しているとは考えられなかった。

以上のことから、マグネシウムリボンの表面に反応物が付着して、電流の流れを妨げたと考えた。ま

た、気泡についてはマグネシウムリボンを包み込むほど多くはなかったので、その反応物は水酸化マ

グネシウムと考えた。 ・最後に、中性である塩化ナトリウムを電解液として用いた場合を考える。実験結果より、時間が経

過すると最も大きな量ではあったが、マグネシウムリボンの表面には気泡が付着していた。しかし、

マグネシウムリボンの表面を包み込むほど多くはなかった。よって、マグネシウムリボンの表面に反

応物である水酸化マグネシウムが付着して電流の流れを妨げたと考えた。 6 課題

私たちは今回の研究での反省から、今後の研究における具体的な課題を 5 つ考えた。 課題 1:回路に抵抗を入れること。 課題 2:電解液の価数を変化させること。 課題 3:他の中性の電解液はどのような反応を起こすのかを調べること。 課題 4:反応前後の pH を正確に測ること。 課題 5:本当に表面に水酸化マグネシウムが付着しているのかを調べること。 課題 1 から具体的な反省と詳しい対処方法を記載していく。 課題 1:回路に抵抗を入れること 私たちの今回の実験は回路に抵抗をいれていなかった。実際に使われるときには、回路の中に抵抗

が存在している。だから、より、実際に使われる状況に近いものにするように抵抗を付けるべきであ

る。 また、酸性の電解液を用いた場合に、はじめ、急激に電流を発生させたが、抵抗を付けると電流が

4 化学② マグネシウム燃料電池の研究

流れにくいので初めに流れるはずであった電流が全体的に分散して時間が経過しても、中性の電解液

よりも多くの電流が流れているという状況になるとも考えられる。さらに、今回ほとんど電流が流れ

なかった塩基性の電解液でも抵抗を付けるとすると、もちろん電流の発生量はより小さくなると考え

られる。 課題 2:電解液の価数を変化させること

今回はそれぞれの液性の電解液で 1 つの種類でしか実験を行わなかった。そのため、価数を変える

とどのような変化をするのかは不明である。価数が大きくなるほど、より多くの電流が発生するので

はないかと考えている。 課題 3:他の中性の電解液はどのような反応を起こすのかを調べること 今回の研究では中性である塩化ナトリウムが最も効率よく電流を流すことがわかった。そこで、塩

化物イオンが影響しているのか、ナトリウムイオンが影響しているのか、もしくは中性であればどの

ような電解液でもよいのかということを調べたい。そのために、塩化物イオンが含まれる中性の電解

液である、塩化カリウムや塩化バリウム、またナトリウムイオンが含まれる、硫酸ナトリウム、硝酸

ナトリウム、そして、どちらのイオンも含まない、硫酸カリウム、硝酸カリウム、硫酸バリウムなど

を用いて研究していく。 課題 4:反応前後の pH を正確に測ること 今回、反応前後の pH を測定していない。酸性の電解液を用いた場合、急激に発生する電流は減少

してしまった。これを私たちはマグネシウムを使い切ってマグネシウムが不足し他ためであると考え

た。しかし、水酸化マグネシウムとマグネシウムは見分けがつかないので、マグネシウムが不足した

ために、発生する電流が減少するのではなく水酸化マグネシウムの付着によって電流が流れなくなっ

た可能性もある。そのため、反応後の電解液の pH を測定し、酸性から塩基性に変化していた場合は、

水酸化マグネシウムの付着が原因であるとわかる、また、中性の塩化ナトリウムで、電流の発生量の

減少の原因は、水酸化マグネシウムの付着であると考えたが、その反応後の pH を測定し、それが中

性であればすなわち、水酸化マグネシウムの付着が原因ではないとわかる。 課題 5:本当に表面に水酸化マグネシウムが付着しているのかを調べること 実験で付着した反応物がはっきりと水酸化マグネシウムとは言い切れない。そのため、反応後のマ

グネシウムリボンを電解液から取り出して表面を削り、酸性の水溶液と反応させてその付着した反応

物が本当に水酸化マグネシウムであるかどうかを確かめたい。 最後に、今回の実験では本物のマグネシウム燃料電池の内部を調べてどのような実験を行えばもっ

とも有益な結果を得られるのか考えることを行えば、より優れた結果が得られたと思われる。次回か

らの研究ではそのことにしっかり注意して、これからよりこの研究を大きなものへと発展させたい。 6 参考文献

タイトル 改訂版(第15版)フォトサイエンス化学図録 編者 数研出版編集部 発行年度 平成23年 2月1日 7 謝辞

今回、学校の先生方をはじめ、福岡女子大学の教授方のこの研究に携わって下さった方々にこの場

をかりて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

化学② マグネシウム燃料電池の研究 4

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5 化学② マグネシウム燃料電池の研究

(グラフ1)

(グラフ2)

(グラフ3)

(グラフ4)

050

100150200250300350400450500550600650700750800850900950

1000105011001150120012501300135014001450150015501600

10 50 90 130

170

210

250

290

3.0 mol/L

NaCl

NH₄Cl

CH₃COONa NaOH

HCl

0

50

100

150

200

250

300

10 50 90 130

170

210

250

290

NaCl

0.3750.7501.503.00

0

50

100

150

200

250

300

10 50 90 130

170

210

250

290

NH4Cl

0.3750.7501.503.00

0

50

100

150

200

250

300

10 50 90 130

170

210

250

290

CH3COONa

0.3750.7501.503.00

化学② マグネシウム燃料電池の研究5

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5 化学② マグネシウム燃料電池の研究

(グラフ1)

(グラフ2)

(グラフ3)

(グラフ4)

050

100150200250300350400450500550600650700750800850900950

1000105011001150120012501300135014001450150015501600

10 50 90 130

170

210

250

290

3.0 mol/L

NaCl

NH₄Cl

CH₃COONa NaOH

HCl

0

50

100

150

200

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300

10 50 90 130

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NaCl

0.3750.7501.503.00

0

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150

200

250

300

10 50 90 130

170

210

250

290

NH4Cl

0.3750.7501.503.00

0

50

100

150

200

250

300

10 50 90 130

170

210

250

290

CH3COONa

0.3750.7501.503.00

6 化学② マグネシウム燃料電池の研究

(グラフ5)

(グラフ6)

050

100150200250300350400450500550600650700750800850900950

1000105011001150120012501300135014001450150015501600

10 50 90 130

170

210

250

290

電流

[mA

]

時間[s]

HCl

0.375

0.75

1.5

3

0

10

20

30

40

50

1 4 7 10131619222528

電流

[mA]

時間[s]

NaOH

0.3750.751.53

化学② マグネシウム燃料電池の研究 6

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1 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

1 動機と目的

私たちは以前、福岡女子大学でメタン、二酸化炭素を使いそれらを空気と比較することでどちらの

気体が温暖化に大きく関係しているかという地球温暖化モデル研究を行った。その結果、メタンの方

が二酸化炭素よりも温暖化にもたらす影響が大きいということが分かった。しかし、空気中に含まれ

る存在率は二酸化炭素 0.035%、メタン 0.0008%であり、二酸化炭素の方が圧倒的に多く含まれている。

そのため、二酸化炭素の方が温暖化にもたらす影響が大きく、二酸化炭素が地球温暖化の主な原因と

なっている。

私たちが地球温暖化の原因についてさらに調べてみると、温暖化にはこのほかにも水蒸気説という

ものがあった。これは、二酸化炭素の増加による温室効果によって海水がより多く蒸発し、その水蒸

気によって地球温暖化がさらに加速するというものだ。このことは、冬の晴れた日の翌朝は雲が少な

いことから水蒸気量が少なくなり、温室効果が少ないためいつもより寒くなる、天気予報などで使わ

れている放射冷却現象からも実感することができる。そこで水蒸気の温暖化へ与える影響について調

べた。水蒸気は赤外線吸収量が大きく温室効果の 75%~90%を受け持つ地球上最大の温室効果をもつ気

体である。しかし水蒸気は、地球温暖化を起こすガスとしての定義である「温室効果ガス」には含ま

れない。なぜならば、水蒸気は地球温暖化を起こすきっかけのガスには成り得ないからである。例え

ば、新しい火山が発生したり、人類がボイラーを急激に増やしたりして水蒸気量が増えたとしても、

大気はそれを維持しきれずに、どこかで結露を作ったり、雨になったりするため大気中の水蒸気量は

常に一定状態である。また、地球の大気は、常に1気圧であり一定である。よって、大気中の水蒸気

量を上げるには、気温が上がらなくてはいけない。言い換えると、大気中の水蒸気量が上がるには、

まず地球温暖化が必要なのであり、水蒸気が増える、温暖化というだけの流れは決して起こらず、何

かしらの原因で地球が温暖化し、水蒸気量上昇する。その結果、水蒸気の影響で更に温暖化するとい

う流れで起こる。「温室効果ガス」の定義というのは、その何かしらの原因としてのガスであり、そこ

には水蒸気は入らない。

水蒸気を使っての研究は思うようにいかずネットで公表されているデータとの誤差がとても大きか

った。また、水蒸気は温室効果ガスの定義に入らないため水蒸気は除外した。また、温室効果ガスと

して二酸化炭素や水蒸気、メタンのほかに六フッ化硫黄、オゾン、フロンガスなども挙げられるが、

どれも危険な物質のためこれらも研究から除外した。

気象庁や全国地球温暖化防止活動推進センターには、すでに将来の地球における気温の推測データ

が出ている。しかし、実際の地球は二酸化炭素の濃度が少し上昇するだけでここまで温度上昇するの

か疑問をもった。そして、公表されているデータは多くの情報から趣旨を読み取らなければならず、

お年寄りや子どもはこのようなデータから読み取るのは難しいと考えられる。そこで、推測データを

簡略化し、多くの人に地球温暖化に興味を持ったり、理解を深めてもらいたいと思った。

これらのことを受けて、今回私たちは二酸化炭素に絞って研究を行うことにした。今回の実験では

二酸化炭素の濃度変化と温暖化の関係を調べ、そのデータを数式化する。これを利用し、将来の地球

における温度上昇の推測を行うことを目的とした。

2 原理

地球の表面温度を左右する第一の要因は太陽である。核融合反応によって高温に保っている太陽か

ら太陽光が地球に降り注いでいる。地球はこれにより暖められる。このとき、地球はある割合、赤外

線として反射させ、宇宙へ熱を逃がす。温室効果ガスは、太陽からの可視光は吸収しないが、地球から

地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~ 3年 太田 望、野口竜成、橋口尚史、山口晃志

化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~1

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1 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

1 動機と目的

私たちは以前、福岡女子大学でメタン、二酸化炭素を使いそれらを空気と比較することでどちらの

気体が温暖化に大きく関係しているかという地球温暖化モデル研究を行った。その結果、メタンの方

が二酸化炭素よりも温暖化にもたらす影響が大きいということが分かった。しかし、空気中に含まれ

る存在率は二酸化炭素 0.035%、メタン 0.0008%であり、二酸化炭素の方が圧倒的に多く含まれている。

そのため、二酸化炭素の方が温暖化にもたらす影響が大きく、二酸化炭素が地球温暖化の主な原因と

なっている。

私たちが地球温暖化の原因についてさらに調べてみると、温暖化にはこのほかにも水蒸気説という

ものがあった。これは、二酸化炭素の増加による温室効果によって海水がより多く蒸発し、その水蒸

気によって地球温暖化がさらに加速するというものだ。このことは、冬の晴れた日の翌朝は雲が少な

いことから水蒸気量が少なくなり、温室効果が少ないためいつもより寒くなる、天気予報などで使わ

れている放射冷却現象からも実感することができる。そこで水蒸気の温暖化へ与える影響について調

べた。水蒸気は赤外線吸収量が大きく温室効果の 75%~90%を受け持つ地球上最大の温室効果をもつ気

体である。しかし水蒸気は、地球温暖化を起こすガスとしての定義である「温室効果ガス」には含ま

れない。なぜならば、水蒸気は地球温暖化を起こすきっかけのガスには成り得ないからである。例え

ば、新しい火山が発生したり、人類がボイラーを急激に増やしたりして水蒸気量が増えたとしても、

大気はそれを維持しきれずに、どこかで結露を作ったり、雨になったりするため大気中の水蒸気量は

常に一定状態である。また、地球の大気は、常に1気圧であり一定である。よって、大気中の水蒸気

量を上げるには、気温が上がらなくてはいけない。言い換えると、大気中の水蒸気量が上がるには、

まず地球温暖化が必要なのであり、水蒸気が増える、温暖化というだけの流れは決して起こらず、何

かしらの原因で地球が温暖化し、水蒸気量上昇する。その結果、水蒸気の影響で更に温暖化するとい

う流れで起こる。「温室効果ガス」の定義というのは、その何かしらの原因としてのガスであり、そこ

には水蒸気は入らない。

水蒸気を使っての研究は思うようにいかずネットで公表されているデータとの誤差がとても大きか

った。また、水蒸気は温室効果ガスの定義に入らないため水蒸気は除外した。また、温室効果ガスと

して二酸化炭素や水蒸気、メタンのほかに六フッ化硫黄、オゾン、フロンガスなども挙げられるが、

どれも危険な物質のためこれらも研究から除外した。

気象庁や全国地球温暖化防止活動推進センターには、すでに将来の地球における気温の推測データ

が出ている。しかし、実際の地球は二酸化炭素の濃度が少し上昇するだけでここまで温度上昇するの

か疑問をもった。そして、公表されているデータは多くの情報から趣旨を読み取らなければならず、

お年寄りや子どもはこのようなデータから読み取るのは難しいと考えられる。そこで、推測データを

簡略化し、多くの人に地球温暖化に興味を持ったり、理解を深めてもらいたいと思った。

これらのことを受けて、今回私たちは二酸化炭素に絞って研究を行うことにした。今回の実験では

二酸化炭素の濃度変化と温暖化の関係を調べ、そのデータを数式化する。これを利用し、将来の地球

における温度上昇の推測を行うことを目的とした。

2 原理

地球の表面温度を左右する第一の要因は太陽である。核融合反応によって高温に保っている太陽か

ら太陽光が地球に降り注いでいる。地球はこれにより暖められる。このとき、地球はある割合、赤外

線として反射させ、宇宙へ熱を逃がす。温室効果ガスは、太陽からの可視光は吸収しないが、地球から

地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~ 3年 太田 望、野口竜成、橋口尚史、山口晃志

2 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

の赤外線を吸収し、再び四方八方に放射する。この再放射によって地球表面はさらに暖められる。

赤外線とは電磁波の一種であり、電磁波とは水分子などの電気的な偏りをもつ粒子を振動させるは

たらきをもつ。水蒸気はこの電磁波によって熱を発生している。二酸化炭素分子は電気的な偏りをも

たない分子である。しかしある電磁波をあてると二酸化炭素分子の炭素と酸素の結合部分が伸び縮み

したり、折れ曲がったりする。その結果、二酸化炭素分子は振動して熱を発生させる。この電磁波が

赤外線である。

赤外線によって、伸び縮みや折れ曲がりが生じるのは二酸化炭素分子の炭素と酸素の結合部分や、

水分子の水素と酸素の結合部分などの異なる原子どうしの結合部分だけである。温室効果ガスとは、

赤外線を浴びせると振動するガスを指す。そのためメタンや六フッ化硫黄も温室効果ガスに含まれる。

また、酸素などの 1種類の原子でなる分子は赤外線を浴びても何も起こらないため温室効果ガスでは

ないといえる。

動機と目的で記述した水蒸気説とは、上記に述べたように水蒸気は水分子なので電気的な偏りをも

つ。そのため赤外線により振動して熱を発生させるので温室効果がある。さらに大気中の水蒸気は主

に海から出てくるもので、地球が温暖化により暖められると海から出る水蒸気の量が増え、さらに温

暖化が進むという説である。

これらのメカニズムを踏まえると、地球温暖化の原因として、「太陽放射が強まった可能性」、「反射

率が低くなった可能性」、「温室効果が強まった可能性」さらには大気中の粒子やちり、ほこりまでも

が考えられる。なお、今回は「温室効果が強まった可能性」に着目し、ほかの条件は考慮しない。

3 方法

本研究は前回の福岡女子大学での実験を参考とした。現在の二酸化炭素濃度は 380ppmであり、これ

を基準として二酸化炭素濃度を 2倍、4倍、8倍・・・としたものと、空気の二つをそれぞれ一緒に赤

外線ランプに当て、温度変化が見られなくなるまで測定を続ける。そのふたつの温度差を縦軸に、二

酸化炭素濃度を横軸にとり、近似曲線を引く。このグラフの横軸に将来の地球における二酸化炭素濃

度の割合を代入し、気温の推測をする。 ~手順~ ① 図1のような実験装置を作る。 ② この実験装置に測定する濃度分(380ppm、760ppm、1520ppm、3040ppm、6080ppm、12160ppm)の空

気を注射器を用いて抜く。 ③ 測定する濃度分の二酸化炭素を注射器を用いて入れる。 ④ 赤外線ランプと実験装置との距離を統一して赤外線ランプを点灯させる。 ⑤ 40分後測定を終了する。 ⑥ その時間の温度上昇の差をグラフに取りまとめる。 4 結果

図 2は、前回福岡女子大学で行った実験の結果である。このグラフから温暖化係数(個々の温室効

果ガスの地球温暖化に対する効果を表した指標で二酸化炭素を 1としたらメタンは 21となる)の大き

いガスほど温度上昇が大きいことが分かる。 今回の実験結果をグラフにすると、図 3のようになった。グラフからも分かるように、二酸化炭素

の濃度が大きくなるほど温度上昇率が小さくなるという結果になった。また、二酸化炭素濃度と温度

上昇の差は、対数関係にあるとした。そこで、このグラフを対数関数のグラフとして数式化すると、

温度(上昇)=0.75ln(CO₂濃度)-4.7 という数式が得られた。グラフの相関性は R²=0.96 であった。

この数式の CO₂濃度に 2100年の二酸化炭素濃度の推測値である 1000ppmを代入した。すると、現在と

比べておよそ 0.48℃上昇するという結果となった。

化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~ 2

-47-

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3 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

5 考察

今回の実験結果をグラフにしたところ、図3より二酸化炭素の濃度が大きくなるにつれて、温度上

昇率が小さくなるという結果になった。そして、このグラフを数式化し、近似曲線をとることで「温

度(上昇) = 0.75ln(CO₂濃度) - 4.7」という数式を出し、横軸に将来の二酸化炭素濃度、縦軸に

二酸化炭素の温度上昇と空気の温度上昇の差をとり、2100 年の二酸化炭素濃度の推測値である

1000ppm を代入したところ、0.48℃上昇するという結果になった。全国地球温暖化防止活動推進セン

ターが発表しているデータによると、2100年の温度上昇の推測値は 3.7℃(1.1℃~6.0℃の中間値)

となっていた。今回の私たちの実験データと全国地球温暖化防止活動推進センターのこの推測データ

を比較すると 3.2℃もの差が生じていた。この差は、私たちが今回の実験を二酸化炭素に絞って実験

を行ったことに対して、全国地球温暖化防止活動推進センターは二酸化炭素以外の温室効果ガスにつ

いても考慮して実験を行っているためだと考えられる。また、地球温暖化の原因は大きく見ると上で

も述べたが「太陽放射が強まった可能性」、「反射率が低くなった可能性」、「温室効果が強まった可能

性」があり、温室効果が強まった可能性として大気中の粒子やちり、ほこりによるものが考えられる。

また、気象庁のデータより 1900~200 年の 100 年間に地球の平均気温はおよそ 0.5℃上昇したと報告

されていた。今回、私たちが研究で求めた将来 100年間(2000~2100年)の気温の推測値は 0.48℃であ

るため、二酸化炭素の濃度が年々増加していると仮定すると、今回私たちが研究で得たデータは正確

性のあるものであると考えられる。図3のRは相関係数を示すものである。なお、今回私たちが作成

したグラフの相関係数はR=0.98であったので相関が強いと考えられる。

6 結論(課題)

図3よりこのグラフは対数関数の形をとっており、二酸化炭素と温暖化の関係について多くの人が

わかりやすいデータを得ることが出来た。また、近似曲線での相関係数R=0.98という値を得たため

相関性の強い数式を得ることができた。今後の方針としては、今回の実験ではアクリル球と机が接し

ていたため場所によって熱の出入りに差があったと考えられるので、今後は発泡スチロールなどの断

熱材を用いて、アクリル球と机との熱の出入りがより少なくなるようにしていく。さらに実験する際、

環境をできるだけ同じような状態にし、実験ごとに環境が大きく異なるところがないようにして実験

を行う。そこから実験回数を増やしてデータを多くとることでデータの精度を向上させ、誤差を少な

くしていきたい。また、最近温室効果を促進する又は抑制する物質としてブラックカーボンや硫酸塩

などの微粒子が注目されている。黒色の炭素からなるブラックカーボンは、炭素を主成分とする燃料

を高温で不完全燃焼する際に発生する。具体的には、ディーゼルエンジンの排気、石炭の燃焼、森林

火災などから生じる。ブラックカーボンは世界全体で年間 8.0 Tg 発生し、そのうち約 40 %がアジア

から発生している。中でも中国はブラックカーボン発生量が世界最大の国である。全てのエアロゾル

は光を散乱するが、そのうち限られた種類のものは同時に光を吸収して大気を加熱する効果を持つ。

具体的にはブラックカーボン、黄砂などの鉱物粒子及び分子量の大きい一部の有機成分である。これ

らの物質は二酸化炭素以外の温室効果ガスに比べて、比較的安易に入手することが可能であり、まだ

解明されていない点が多いので、次回の実験ではこれらの物質も使用することにより、今回得た数式

に加え、二酸化炭素と微粒子が温暖化に与える影響について研究を続けていきたい。

温室効果ガス排出量は、今後の社会構造の変化や経済成長のスピード、人口増加、エネルギー源の

選択、太陽活動の活性化、科学技術の発展・普及等の要因により大きく異なると考えられるが、これ

らの要因の将来像を予め正確に見通すことは不可能である。そのため将来社会について、いくつかの

典型的なパターンを想定した上で、排出量の道筋の想定である排出シナリオが作成されている。排出

シナリオのどのパターンの二酸化炭素濃度上昇の推測データを参考するかによって、気温の推測デー

タも変わってくると考えられる。図3のグラフから、二酸化炭素の濃度が増えると将来の気温もさら

に上昇することが見てわかる。そのため私たちは二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを早急に削

減する義務がある。二酸化炭素の削減方法として、エネルギーを効率よく運ぶことで化石燃料の消費

化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~3

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3 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

5 考察

今回の実験結果をグラフにしたところ、図3より二酸化炭素の濃度が大きくなるにつれて、温度上

昇率が小さくなるという結果になった。そして、このグラフを数式化し、近似曲線をとることで「温

度(上昇) = 0.75ln(CO₂濃度) - 4.7」という数式を出し、横軸に将来の二酸化炭素濃度、縦軸に

二酸化炭素の温度上昇と空気の温度上昇の差をとり、2100 年の二酸化炭素濃度の推測値である

1000ppm を代入したところ、0.48℃上昇するという結果になった。全国地球温暖化防止活動推進セン

ターが発表しているデータによると、2100年の温度上昇の推測値は 3.7℃(1.1℃~6.0℃の中間値)

となっていた。今回の私たちの実験データと全国地球温暖化防止活動推進センターのこの推測データ

を比較すると 3.2℃もの差が生じていた。この差は、私たちが今回の実験を二酸化炭素に絞って実験

を行ったことに対して、全国地球温暖化防止活動推進センターは二酸化炭素以外の温室効果ガスにつ

いても考慮して実験を行っているためだと考えられる。また、地球温暖化の原因は大きく見ると上で

も述べたが「太陽放射が強まった可能性」、「反射率が低くなった可能性」、「温室効果が強まった可能

性」があり、温室効果が強まった可能性として大気中の粒子やちり、ほこりによるものが考えられる。

また、気象庁のデータより 1900~200 年の 100 年間に地球の平均気温はおよそ 0.5℃上昇したと報告

されていた。今回、私たちが研究で求めた将来 100年間(2000~2100年)の気温の推測値は 0.48℃であ

るため、二酸化炭素の濃度が年々増加していると仮定すると、今回私たちが研究で得たデータは正確

性のあるものであると考えられる。図3のRは相関係数を示すものである。なお、今回私たちが作成

したグラフの相関係数はR=0.98であったので相関が強いと考えられる。

6 結論(課題)

図3よりこのグラフは対数関数の形をとっており、二酸化炭素と温暖化の関係について多くの人が

わかりやすいデータを得ることが出来た。また、近似曲線での相関係数R=0.98という値を得たため

相関性の強い数式を得ることができた。今後の方針としては、今回の実験ではアクリル球と机が接し

ていたため場所によって熱の出入りに差があったと考えられるので、今後は発泡スチロールなどの断

熱材を用いて、アクリル球と机との熱の出入りがより少なくなるようにしていく。さらに実験する際、

環境をできるだけ同じような状態にし、実験ごとに環境が大きく異なるところがないようにして実験

を行う。そこから実験回数を増やしてデータを多くとることでデータの精度を向上させ、誤差を少な

くしていきたい。また、最近温室効果を促進する又は抑制する物質としてブラックカーボンや硫酸塩

などの微粒子が注目されている。黒色の炭素からなるブラックカーボンは、炭素を主成分とする燃料

を高温で不完全燃焼する際に発生する。具体的には、ディーゼルエンジンの排気、石炭の燃焼、森林

火災などから生じる。ブラックカーボンは世界全体で年間 8.0 Tg 発生し、そのうち約 40 %がアジア

から発生している。中でも中国はブラックカーボン発生量が世界最大の国である。全てのエアロゾル

は光を散乱するが、そのうち限られた種類のものは同時に光を吸収して大気を加熱する効果を持つ。

具体的にはブラックカーボン、黄砂などの鉱物粒子及び分子量の大きい一部の有機成分である。これ

らの物質は二酸化炭素以外の温室効果ガスに比べて、比較的安易に入手することが可能であり、まだ

解明されていない点が多いので、次回の実験ではこれらの物質も使用することにより、今回得た数式

に加え、二酸化炭素と微粒子が温暖化に与える影響について研究を続けていきたい。

温室効果ガス排出量は、今後の社会構造の変化や経済成長のスピード、人口増加、エネルギー源の

選択、太陽活動の活性化、科学技術の発展・普及等の要因により大きく異なると考えられるが、これ

らの要因の将来像を予め正確に見通すことは不可能である。そのため将来社会について、いくつかの

典型的なパターンを想定した上で、排出量の道筋の想定である排出シナリオが作成されている。排出

シナリオのどのパターンの二酸化炭素濃度上昇の推測データを参考するかによって、気温の推測デー

タも変わってくると考えられる。図3のグラフから、二酸化炭素の濃度が増えると将来の気温もさら

に上昇することが見てわかる。そのため私たちは二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを早急に削

減する義務がある。二酸化炭素の削減方法として、エネルギーを効率よく運ぶことで化石燃料の消費

4 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

を抑える方法、ガソリン車よりも電気自動車やハイブリッド車を使用して二酸化炭素の排出を抑える

方法、家電製品を省エネのものにし、電力の消費を減らして二酸化炭素の排出量を減らす方法、石炭・

石油などの化石燃料よりも自然エネルギーなどの環境にやさしいエネルギーを使う方法などがある。

二酸化炭素だけでもこれだけの削減方法があるので、これらのことを一人一人が実践して二酸化炭素

排出量を削減することで、地球温暖化の影響を少しでも和らげる工夫をしていくことが必要である。

7 参考文献

『Newton』(2007.8)

気象庁 www.date.kisyougo.jp/climate/ 全国地球温暖化防止活動推進センター http://www.jccca.org/global_warming/knowledge/kno02.html 謝辞 今回の実験では、さまざまな人にお世話になりました。 まず、福岡女子大学の馬教授。馬教授には、初めに、昨年の 5月に体験実験をさせてもらい地球温

暖化によって伴う地球に及ばされる影響や今後の地球について教えてもらい、自分たちが実験を始め

るきっかけもらいました。そして、今回の実験を始めるにあたって地球温暖化のメカニズムや実験セ

ットの工夫方法、実験をする上でのアドバイスなど様々なことを教えてもらい、本当にお世話になり

ました。 次に、今回、自分たちのグループを担当してくださった室井先生。室井先生には昨年の研究から今

回の研究を引き続きするうえで、研究の目的を決めるのに悩んでいたときに、何でこの研究を始めた

のかという根本の部分が一番大切であるという研究のプロセスを教えてもらいました。さらに、先生

は化学部の顧問で忙しいにも関わらず実験についていただきスムーズに実験を行うことが出来ました。 次に、昨年、自分たちのグループを担当してくださった北村先生。北村先生には、自分たちが研究

を始めた当初で何も分からない状態のときにさまざまなことをサポートしてくれました。さらに、北

村先生は三年生の受験指導で忙しい中、自分たちのレポートを何度も点検して、添削してくれました。

本当に助かりました。 最後に、化学の研究をとりまとめてくれた高尾先生。担任とSSHの主任で忙しい中研究を見ては

アドバイスをくれたりして助けてくれました。 他にも、さまざまな人にお世話になりました。このように、自分たちの研究がいろんな人に支えら

れてできていたことを改めて認識することが出来ました。 今まで研究にかかわっていただいた人たちのみなさん本当にありがとうございました。

図1実験装置

化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~ 4

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5 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

図2 各物質の温度変化

図3 二酸化炭素濃度の変化による温度上昇

0 0.1 0.4

0.8 1

1.5 1.5 1.7

2.1

2.6 温度(上昇) = 0.75ln(CO2濃度) - 4.7

R² = 0.96

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

差(CO₂-air) 40min

対数 (差(CO₂-air) 40min)

25

30

35

40

45

50

0 6 12 18 24 30 36 42 48 54 60 66 72

空気

二酸化炭素

メタン

[ppm]

[℃]

[℃]

[分] 時間

温度

二酸化炭素の温度上昇と空気の温度上昇の差

将来における二酸化炭素濃度

温度

化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~5

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5 化学③ 地球温暖化モデル実験 ~将来の地球における気温の推測~

図2 各物質の温度変化

図3 二酸化炭素濃度の変化による温度上昇

0 0.1 0.4

0.8 1

1.5 1.5 1.7

2.1

2.6 温度(上昇) = 0.75ln(CO2濃度) - 4.7

R² = 0.96

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

差(CO₂-air) 40min

対数 (差(CO₂-air) 40min)

25

30

35

40

45

50

0 6 12 18 24 30 36 42 48 54 60 66 72

空気

二酸化炭素

メタン

[ppm]

[℃]

[℃]

[分] 時間

温度

二酸化炭素の温度上昇と空気の温度上昇の差

将来における二酸化炭素濃度

温度

1 化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について

1 要旨、概要

小麦粉と水を混ぜてこねると弾力が生まれ、引っ張るとゴムのようによく伸びる。これは、小麦粉

に含まれるグリアジンとグルテニンという二種類のタンパク質が水を加えることで複雑に絡み合い、

新たなタンパク質であるグルテンが形成されるからである(図1)。グリアジンはシステインを多く含

む分子量 3.6~7万の一本鎖のポリペプチドであり、グルテニンもシステインを多く含む分子量1~

13万のポリペプチドである。しかし、グルテニンの構造はグリアジンと異なり、分子間でジスルフィ

ド結合をすることで凝集したものである。このグリアジンとグルテニンの 2種類のタンパク質は小麦

粉の中にほぼ同じ割合で含まれている。グルテンはグリアジンとグルテニンに水と力を加えることで、

グリアジンとグルテニンが互いに分子内もしくは分子間でジスルフィド結合をすることで形成されて

いる。

このグルテンが無数につながり、網目状の構造を作っていくことで、パンや麺類に強い弾力や展性

を与えている (1)。食品によっては、グルテンの形成を助け、より強い弾力を引き出すために、様々

な添加物等の物質を加える場合がある。パンやうどんの生地を混ぜる際に食塩水、中華麺の生地を混

ぜる際にかんすいを加えるのがその例である。

グルテニン↓

←グリアジン

図1 グルテンの構造

かんすいとは、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸類のカリウム塩、ま

たはナトリウム塩のうち一種類もしくは二種類以上を含む無機質、アルカリ性の食品添加物である。

グルテンにはアルカリ性の物質と反応するとグルテニン同士が凝集し合い、生地を収縮させる性質が

あるため(2)、小麦粉にかんすいを加えると、中華麺の生地にコシの強さを生じさせることができる(3)。

このかんすいの配合割合を調節することによって、中華麺の職人や中華麺を製造する工場では麺を製

造している。特に、現在でも一部の職人は中華麺を手作業で作る場合、強力粉に配合するかんすいや

水の量を長年の勘で調節している。

そこで、私たちはかんすいとグルテンの関係を化学的に調べること、それにより「勘」ではなく科

学的に効率よく中華麺を作成できるようになることを目的とし、研究を始めた。

まず、かんすいとグルテンの関係を調べるために、かんすいの濃度とグルテンの弾力に着目した。

そこで、異なる質量パーセント濃度となるように、かんすいの主成分である炭酸カリウムのみを含む

かんすいを作成し、強力粉と混ぜて中華麺を作成した。さらに、作成した中華麺の弾力を測定するた

めに、割箸と画鋲で作成した先端の平らな棒で、はかりの上に一様に並べた中華麺を押し、1㎜めり

込んだ時の値を測定した。実験の結果、かんすいの質量パーセント濃度が大きくなるにつれて、中華

麺の弾力が大きくなるという比例関係が得られた。

かんすいがグルテンに与える弾性について 3年 多田 早織 工藤 賢之

化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について 1

-51-

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2 化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について

2 研究目的

私たちは中華麺の弾力であるコシを生み出すもととなるかんすいについて興味を持ち、中華麺にお

ける弾力とかんすいの関係について調べた。

また、グルテンの弾力とかんすいの関係を明らかにすることで、中華麺を作成する職人や食品会社、

さらに、家庭において「勘」に頼らずに中華麺を効率よく作成できるようになるのではないかと考え、

中華麺作りの効率化もこの研究の目的とした。実験では、市販のかんすいの主成分である炭酸カリウ

ムに注目し、炭酸カリウム水溶液で中華麺を作成し、炭酸カリウムの質量パーセント濃度と中華麺の

弾力について測定した。

3 研究方法

(1)麺の作成(4)

試料の中華麺は市販のものと同様に、幅 2.0mm、厚さ 2.0mmとなるように以下の手順で作成した。

〈作成手順〉

① 水 20gに対して、0、5、10、15、20、25、30%の質量パーセント濃度となるように炭酸カリウムを

加え、これらをそれぞれかんすいとした。

② 強力粉 50g に①で作成した異なる濃度のかんすいをそれぞれ加え、箸で 100 回混合し、できた生

地をポリ袋に入れて密閉し、一日室温(25±3℃)で休ませた。箸で 100回混ぜたのは、①で作成し

たどのかんすいでも強力粉が生地としてまとまることができた回数であったからである。また、

生地をポリ袋に入れて密閉し、一日休ませたのは、タンパク質であるグルテンは反応が非常に緩

やかであるため、一日という長い時間生地を休ませることで、生地の内部でグルテンの重合がゆ

っくりと行われ、巨大な高分子の網目状構造が、徐々に広がっていくからである。

③ 生地をポリ袋の上からかかとで 20回全体を均等に踏み、三つ折りにした。この作業を 5回繰り返

した。この際、かかとで踏む力が生地全体に均等に行きわたるように、生地の上に一様な厚みの

まな板を乗せて、体重に変化のないよう同じ人物がまな板全体をかかとで踏むように注意した。

同じ回数でもあまり速く踏みすぎると、生地が広がらなかったので、踏む速度も緩やかなものに

統一して行った。

④ 生地を 2mmの厚さに麺棒でのばし、2mmの幅に切りそろえた。伸ばす際も、③で生地を踏んだ時と

同じように、早く麺棒を動かすと生地が伸びにくかったため、麺棒に体重をかけて生地を押しつ

ぶすように押し広げ、その後、麺棒を手前から奥の方に転がした。

⑤ ④で作成した麺を沸騰した湯で 40秒間ゆでた。

(2)測定方法

弾力を測定するために画鋲(直径 11mm、厚さ 1.0mm)を割り箸の先端に刺し込んだ先端の平らな画

鋲棒(図 2)を作成した。

〈測定手順〉

①ゆでた麺を 5本ずつ、幅が約 10㎝となるように電子天秤の上に乗せた平らな木の板の上に隙間なく

並べた。

②並べた麺の中心に画鋲棒を静かに乗せて手で支えた。(図3 左)。

③画鋲棒を上から手で垂直に押し、1.0mm埋め込んだときの重さを電子天秤で測定し、これを中華麺

の弾力とした(図3 右)。

なお、中華麺に対して力のかかり方に大きな誤差が出ないように、これらの測定は同一の人物が行

った。

化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について2

-52-

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2 化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について

2 研究目的

私たちは中華麺の弾力であるコシを生み出すもととなるかんすいについて興味を持ち、中華麺にお

ける弾力とかんすいの関係について調べた。

また、グルテンの弾力とかんすいの関係を明らかにすることで、中華麺を作成する職人や食品会社、

さらに、家庭において「勘」に頼らずに中華麺を効率よく作成できるようになるのではないかと考え、

中華麺作りの効率化もこの研究の目的とした。実験では、市販のかんすいの主成分である炭酸カリウ

ムに注目し、炭酸カリウム水溶液で中華麺を作成し、炭酸カリウムの質量パーセント濃度と中華麺の

弾力について測定した。

3 研究方法

(1)麺の作成(4)

試料の中華麺は市販のものと同様に、幅 2.0mm、厚さ 2.0mmとなるように以下の手順で作成した。

〈作成手順〉

① 水 20gに対して、0、5、10、15、20、25、30%の質量パーセント濃度となるように炭酸カリウムを

加え、これらをそれぞれかんすいとした。

② 強力粉 50g に①で作成した異なる濃度のかんすいをそれぞれ加え、箸で 100 回混合し、できた生

地をポリ袋に入れて密閉し、一日室温(25±3℃)で休ませた。箸で 100回混ぜたのは、①で作成し

たどのかんすいでも強力粉が生地としてまとまることができた回数であったからである。また、

生地をポリ袋に入れて密閉し、一日休ませたのは、タンパク質であるグルテンは反応が非常に緩

やかであるため、一日という長い時間生地を休ませることで、生地の内部でグルテンの重合がゆ

っくりと行われ、巨大な高分子の網目状構造が、徐々に広がっていくからである。

③ 生地をポリ袋の上からかかとで 20回全体を均等に踏み、三つ折りにした。この作業を 5回繰り返

した。この際、かかとで踏む力が生地全体に均等に行きわたるように、生地の上に一様な厚みの

まな板を乗せて、体重に変化のないよう同じ人物がまな板全体をかかとで踏むように注意した。

同じ回数でもあまり速く踏みすぎると、生地が広がらなかったので、踏む速度も緩やかなものに

統一して行った。

④ 生地を 2mmの厚さに麺棒でのばし、2mmの幅に切りそろえた。伸ばす際も、③で生地を踏んだ時と

同じように、早く麺棒を動かすと生地が伸びにくかったため、麺棒に体重をかけて生地を押しつ

ぶすように押し広げ、その後、麺棒を手前から奥の方に転がした。

⑤ ④で作成した麺を沸騰した湯で 40秒間ゆでた。

(2)測定方法

弾力を測定するために画鋲(直径 11mm、厚さ 1.0mm)を割り箸の先端に刺し込んだ先端の平らな画

鋲棒(図 2)を作成した。

〈測定手順〉

①ゆでた麺を 5本ずつ、幅が約 10㎝となるように電子天秤の上に乗せた平らな木の板の上に隙間なく

並べた。

②並べた麺の中心に画鋲棒を静かに乗せて手で支えた。(図3 左)。

③画鋲棒を上から手で垂直に押し、1.0mm埋め込んだときの重さを電子天秤で測定し、これを中華麺

の弾力とした(図3 右)。

なお、中華麺に対して力のかかり方に大きな誤差が出ないように、これらの測定は同一の人物が行

った。

3 化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について

図2 画鋲棒 図3 弾力測定の様子

4 結果

麺の作成において、炭酸カリウムの質量パーセント濃度が 40%の場合、強力粉とかんすいを混ぜて

も粉の状態のままで、生地としてまとまらず、麺の作成が不可能であった。そこで、麺の作成、測定

可能であった 0~30%の麺において炭酸カリウムの質量パーセント濃度と中華麺の弾力の関係を次の

ようなグラフに表した(図4)。

y = 93.449x + 0.6786

R2 = 0.9954

0

100

200

300

400

500

600

700

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30%

K₂CO₃濃度(%)

麺の

弾力

(gw)

図4 かんすい濃度と中華麺の弾力の関係

5 考察

炭酸カリウムの質量パーセント濃度が 0%から 30%の間では、炭酸カリウムの濃度と中華麺の弾力

の間には比例関係が見られた。これについて私たちは、かんすいの質量パーセント濃度に比例して、

グルテンの網目状構造が密になり、生地の弾力が強化されたためであると考えた。

また炭酸カリウムの質量パーセント濃度が 40%のときに麺の作成ができなかったのは、グルテンの

網目状構造が密になりすぎてしまったため、グルテンとグルテンの間に水が入り込むことができなか

ったからであると考えた。

グルテニンとグリアジンは共にシステインを含むため、水溶性タンパク質である。小麦粉に水を加

えた時、水は水和したグルテニンとグリアジンの間に存在している。ここに電解質が加えられると、

水分子が電解質に引き寄せられてグルテンどうしが互いに引き合い、その結果、密着するようになる。

この状態で外部からこねるという力を加えることで、グルテニンとグリアジンのシステインのチオー

ル基が化学反応を起こしてジスルフィド結合を形成すると考えた。炭酸カリウムは水溶液中では電離

をして水和イオンになっている。かんすいに含まれる炭酸カリウムの質量パーセント濃度が高くなる

と、より多くの水分子が、炭酸カリウムに引き寄せられてしまうため、グルテン間の水分子が少なく

3 化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について

図2 画鋲棒 図3 弾力測定の様子

4 結果

麺の作成において、炭酸カリウムの質量パーセント濃度が 40%の場合、強力粉とかんすいを混ぜて

も粉の状態のままで、生地としてまとまらず、麺の作成が不可能であった。そこで、麺の作成、測定

可能であった 0~30%の麺において炭酸カリウムの質量パーセント濃度と中華麺の弾力の関係を次の

ようなグラフに表した(図4)。

y = 93.449x + 0.6786

R2 = 0.9954

0

100

200

300

400

500

600

700

0% 5% 10% 15% 20% 25% 30%

K₂CO₃濃度(%)

麺の

弾力

(gw)

図4 かんすい濃度と中華麺の弾力の関係

5 考察

炭酸カリウムの質量パーセント濃度が 0%から 30%の間では、炭酸カリウムの濃度と中華麺の弾力

の間には比例関係が見られた。これについて私たちは、かんすいの質量パーセント濃度に比例して、

グルテンの網目状構造が密になり、生地の弾力が強化されたためであると考えた。

また炭酸カリウムの質量パーセント濃度が 40%のときに麺の作成ができなかったのは、グルテンの

網目状構造が密になりすぎてしまったため、グルテンとグルテンの間に水が入り込むことができなか

ったからであると考えた。

グルテニンとグリアジンは共にシステインを含むため、水溶性タンパク質である。小麦粉に水を加

えた時、水は水和したグルテニンとグリアジンの間に存在している。ここに電解質が加えられると、

水分子が電解質に引き寄せられてグルテンどうしが互いに引き合い、その結果、密着するようになる。

この状態で外部からこねるという力を加えることで、グルテニンとグリアジンのシステインのチオー

ル基が化学反応を起こしてジスルフィド結合を形成すると考えた。炭酸カリウムは水溶液中では電離

をして水和イオンになっている。かんすいに含まれる炭酸カリウムの質量パーセント濃度が高くなる

と、より多くの水分子が、炭酸カリウムに引き寄せられてしまうため、グルテン間の水分子が少なく

化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について 3

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4 化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について

なり、より多くのジスルフィド結合を形成したため、今回の実験のような結果になったと考えた。そ

のため、今後は別の塩を用いて実験を行い、電離した際のイオンの物質量の合計が大きな塩のかんす

いの方が、中華麺の弾力が大きくなるかを確かめる必要がある。

6 結論と課題

今回の研究ではかんすいとして用いる炭酸カリウム水溶液の質量パーセント濃度が高くなるにつれ

て、中華麺の弾力が大きくなることが分かった。この理由は、水和している二種類のタンパク質、グ

リアジンとグリアニンの周りに存在している水分子が電離した炭酸カリウムに引き寄せられ、グリア

ジンとグルテニンの距離が近づき、この状態で外部からこねるという物理的な力が加えられることに

よって、ジスルフィド結合の数が増え、網目構造が強化されたためだと考えた。

今回の研究では中華麺の硬度を中華麺の弾力(コシ)と定義し、画鋲と割り箸と電子天秤を用いて実

験を進めた。今後の研究では測定方法の精度を上げるために実験器具の改良や、条件の統一など、で

きるだけ一定条件の下で実験を行うなどの改善をしていく必要があると考えている。また、今回の実

験でかんすいの溶質として使用した試薬は炭酸カリウムだけのため、市販のかんすいの成分として使

用されている炭酸カリウム以外の塩でも実験を行い、実験回数やデータ数を今よりもさらに増やして

いき、私たちの実験データをより信憑性のある確かなものに近づけていきたいと考えている。

そうして、グルテンの弾力とかんすいの関係を明らかにすることで、「勘」に頼らない効率的な麺作

りに繋げていきたいと考えている。

7 参考文献

(1) ラーメンワンダーランド

http://www.seimen.co.jp/wonderland/

(2) 自家製面のつくりかた

http://kuropansan.web.fc2.com/rye.html

(3) かんすい|ラーメンを作る

http://ameblo.jp/wa-ra-wi/entry-11102430157.html

(4) (中華麺の作成方法)

自家製手打ち麺~自作ラーメン研究サイトらーめんまんぼー~

http://www.geocities.jp/rarteimanbo/

8 謝辞

今回の研究で、私たちは多くの人の支えがあったのでここまで来ることができました。

まず、担当していただいた古川先生。前例のない研究を右も左も分からない中、最後まで支えてく

ださって、ありがとうございました。先生のアドバイスのおかげで、自分たちの研究の課題や、研究

者として求められること、私たち自身の課題にも改めて気付く機会になりました。

次に、担任の高尾先生。化学班全体はもちろん、クラス全体の研究も支えていただき、ありがとう

ございました。お休みの日にも学校を開けていただくなど、いつも助けていただきました。時に厳し

く、時に温かく支えていただき、ありがとうございました。

次に、化学担当実習助手の園田先生。先生には実験に関しては厳しくご指導していただきました。

研究の順序から器具の扱い方まで徹底して教えていただいたので、これからの研究でも生かしていき

ます。

最後に、家族へ。実験で遅く帰る日に駅まで迎えに来てくれたり、学校が休みでも実験がある日に

はお弁当を作ってくれるなど、研究活動を支えてくれてありがとうございました。

化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について4

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4 化学④ かんすいがグルテンに与える弾性について

なり、より多くのジスルフィド結合を形成したため、今回の実験のような結果になったと考えた。そ

のため、今後は別の塩を用いて実験を行い、電離した際のイオンの物質量の合計が大きな塩のかんす

いの方が、中華麺の弾力が大きくなるかを確かめる必要がある。

6 結論と課題

今回の研究ではかんすいとして用いる炭酸カリウム水溶液の質量パーセント濃度が高くなるにつれ

て、中華麺の弾力が大きくなることが分かった。この理由は、水和している二種類のタンパク質、グ

リアジンとグリアニンの周りに存在している水分子が電離した炭酸カリウムに引き寄せられ、グリア

ジンとグルテニンの距離が近づき、この状態で外部からこねるという物理的な力が加えられることに

よって、ジスルフィド結合の数が増え、網目構造が強化されたためだと考えた。

今回の研究では中華麺の硬度を中華麺の弾力(コシ)と定義し、画鋲と割り箸と電子天秤を用いて実

験を進めた。今後の研究では測定方法の精度を上げるために実験器具の改良や、条件の統一など、で

きるだけ一定条件の下で実験を行うなどの改善をしていく必要があると考えている。また、今回の実

験でかんすいの溶質として使用した試薬は炭酸カリウムだけのため、市販のかんすいの成分として使

用されている炭酸カリウム以外の塩でも実験を行い、実験回数やデータ数を今よりもさらに増やして

いき、私たちの実験データをより信憑性のある確かなものに近づけていきたいと考えている。

そうして、グルテンの弾力とかんすいの関係を明らかにすることで、「勘」に頼らない効率的な麺作

りに繋げていきたいと考えている。

7 参考文献

(1) ラーメンワンダーランド

http://www.seimen.co.jp/wonderland/

(2) 自家製面のつくりかた

http://kuropansan.web.fc2.com/rye.html

(3) かんすい|ラーメンを作る

http://ameblo.jp/wa-ra-wi/entry-11102430157.html

(4) (中華麺の作成方法)

自家製手打ち麺~自作ラーメン研究サイトらーめんまんぼー~

http://www.geocities.jp/rarteimanbo/

8 謝辞

今回の研究で、私たちは多くの人の支えがあったのでここまで来ることができました。

まず、担当していただいた古川先生。前例のない研究を右も左も分からない中、最後まで支えてく

ださって、ありがとうございました。先生のアドバイスのおかげで、自分たちの研究の課題や、研究

者として求められること、私たち自身の課題にも改めて気付く機会になりました。

次に、担任の高尾先生。化学班全体はもちろん、クラス全体の研究も支えていただき、ありがとう

ございました。お休みの日にも学校を開けていただくなど、いつも助けていただきました。時に厳し

く、時に温かく支えていただき、ありがとうございました。

次に、化学担当実習助手の園田先生。先生には実験に関しては厳しくご指導していただきました。

研究の順序から器具の扱い方まで徹底して教えていただいたので、これからの研究でも生かしていき

ます。

最後に、家族へ。実験で遅く帰る日に駅まで迎えに来てくれたり、学校が休みでも実験がある日に

はお弁当を作ってくれるなど、研究活動を支えてくれてありがとうございました。

1 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

1 要旨、概要

ワサビの辛味成分は、初めからワサビに存在するのではなく、細胞が壊されて酸素と触れることで

生成される。このことから、ワサビの辛味成分はワサビを細かくすればするほど、多く生成されるの

ではないかという仮説を立てて実験を行った。 ワサビの辛味成分が生成されたかどうかの指標として、ワサビの防カビ作用に着目し、カビの生え

具合で辛味成分の生成度合を測定した。その結果、ワサビを細かくすればするほど、カビは生えにく

くなることが分かった。 さらに、辛味成分を実生活に役立てるためにそのにおいを取り除く必要性を感じ、活性炭をいれる

ことによる効果も検証した。その結果、においの除去には成功したが、防カビ作用は減少した。 今後は、ワサビの辛味成分をさらに効率よく抽出する方法と、においの除去について検証していく

必要がある。

2 問題提起、研究目的

植物には辛味成分を持つものが存在する。それらの植物が辛味成分を持つことは、それぞれの植物

にとって利点があるからだと考えられている。 ナス科の植物であり、辛味成分を持つ植物として、一般的によく知られているのがトウガラシであ

る。一般の生活では、料理で用いられるのはもちろんのこと、香辛料、ラー油やチリソースのような

調味料の原料としても用いられる。また、医薬品や保存料として用いられることもある。トウガラシ

の辛味成分はカプサイシンという物質であり、主に果肉に含まれる。野生ではカプサイシンがトウガ

ラシに含まれているので、サルやシカなどの辛味が苦手な野生生物に食べられることはめったにない。

一方、鳥類は辛味を感じないため、トウガラシは鳥類にのみ食べられる。すると、結果としてトウガ

ラシは種子をより遠くへ運ぶことができる。したがって、トウガラシの辛味成分はより広い範囲に子

孫を繁栄させるためだと考えられている。 一方、アブラナ科の植物では、トウガラシのカプサイシンとは違って辛味成分がイソチオシアネー

トである。アブラナ科に属するカラシナはカラシの原料であり、イソチオシアネートが辛味成分であ

る。カラシは、マスタードや漢方薬として利用されている。その中でも多く含まれる辛味成分がアリ

ルイソチオシアネートである。セイヨウワサビは日本のワサビである本ワサビとは異なり、ホースラ

ディッシュともよばれ、すりおろしたものはローストビーフの薬味として利用されているほか、乾燥

させたものはチューブ入りねりワサビの原料となっているものもある。これもアリルイソチオシアネ

ートを主な辛味成分としている。このようにアブラナ科に属する植物は、イソチオシアネートを辛味

成分としていることが分かる。これらの植物は、野生動物などによって植物体が傷つけられたときに、

酵素がグルコシノレートを加水分解することでイソチオシアネートを分泌する。よって、アブラナ科

の植物が辛味成分を持つ理由は、トウガラシと違って生体防御のために役立っているということが示

唆される。 今回、我々は、アブラナ科のワサビの辛味成分の生成法に着目をした。着目をした理由は、もとも

とワサビは辛味成分を持たないが、植物体が傷つけられることによって新たに辛味成分を生成すると

いう現象に非常に興味を持ったからである。 ワサビは食用の植物であるが、食用外でも辛味成分であるアリルイソチオシアネートの殺菌作用、

植物の老化を促進させるエチレンガスの発生を抑制する作用が利用されていて、食品、野菜用の抗菌、

消臭、鮮度保持剤として冷蔵庫などで使用する製品や、弁当用の防腐剤、米の防虫剤として現在すで

ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

3年 庵原 佑介 岡部 隆司 竹村 瑞稀

生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~ 1

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2 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

に利用されている。 私たちは、ワサビの辛味成分を効率よく利用するために、より多くの辛味成分を生じさせることが

できないかと考えた。そこで、「ワサビは傷つければ傷つけるほど辛味成分が生じる」という仮説をた

て、実験Ⅰを行った。 また、辛味成分の防カビ作用は実生活に利用できるのではないかと考えた。しかし、実験Ⅰを行っ

た際に臭いが気になり、このままでは実用化に不向きであると考え、防カビ作用を残したまま臭いだ

けとる方法はないかと考えた。検討したところ、活性炭には消臭効果があるとわかったので、「活性炭

でワサビのにおいを除去できる」という仮説をたて、実験Ⅱを行った。 [実験Ⅰ] ① 酸素と触れる表面積が増えた場合、アリルイソチオシアネートはより生成されるか。 ② アリルイソチオシアネートを効率よく取り出せる植物はワサビ以外にあるか。 [実験Ⅱ] ① 活性炭でワサビのにおいを除去することができるか。 ② 活性炭によってワサビの防カビ作用に影響があるか。 3 研究方法

[実験Ⅰ]

(1) 材料

食パン(ヤマザキのサンドイッチ用)、ワサビ、ダイコン、ねりワサビ(エルビー食品の本わさび)、

ねりカラシ(エルビー食品の本からし)

(2) 方法

ⅰ.それぞれ以下の①~⑬の密閉した容器の中のパン(41.4㎠)に、カビが生えたか 15日間毎日観

察しデジタルカメラで撮影する。

① パンのみ容器に入れたもの。

② パンと 12.4gのワサビを4等分(写真Ⅰ)に切ったものを容器に入れたもの。

③ パンと 12.4gのワサビをサイコロ状に切ったものを容器に入れたもの。

④ パンと 12.4gのワサビをみじん切りにしたものを容器に入れたもの。

⑤ パンと 12.4gのワサビを目の大きなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

⑥ パンと 12.4gのワサビを目の小さなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

(②から⑥にかけてワサビは細かくなる)

⑦ パンと 87.9gのダイコンを16等分に切ったものを容器に入れたもの。

⑧ パンと 87.9gのダイコンをサイコロ状に切ったものを容器に入れたもの。

⑨ パンと 87.9gのダイコンをみじん切りにしたものを容器に入れたもの。

⑩ パンと 87.9gのダイコンを目の大きなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

⑪ パンと 87.9gのダイコンを目の小さなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

(⑦から⑪にかけて細かくなる)

⑫ パンと共に市販のねりワサビを 12.4g入れたもの。

⑬ パンと共に市販のねりカラシを 12.4g入れたもの。

ⅱ.8日目、10日目、15日目の写真のパンの面積とカビの面積を測定する。

面積の測定方法は、写真の面積から次式により算出した。

実際のカビの面積=実際のパンの面積×写真のカビの面積÷写真のパンの面積

こうして求めた値で実際のカビの面積のグラフを作成した。

[実験Ⅱ]

(1) 材料

生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~2

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2 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

に利用されている。 私たちは、ワサビの辛味成分を効率よく利用するために、より多くの辛味成分を生じさせることが

できないかと考えた。そこで、「ワサビは傷つければ傷つけるほど辛味成分が生じる」という仮説をた

て、実験Ⅰを行った。 また、辛味成分の防カビ作用は実生活に利用できるのではないかと考えた。しかし、実験Ⅰを行っ

た際に臭いが気になり、このままでは実用化に不向きであると考え、防カビ作用を残したまま臭いだ

けとる方法はないかと考えた。検討したところ、活性炭には消臭効果があるとわかったので、「活性炭

でワサビのにおいを除去できる」という仮説をたて、実験Ⅱを行った。 [実験Ⅰ] ① 酸素と触れる表面積が増えた場合、アリルイソチオシアネートはより生成されるか。 ② アリルイソチオシアネートを効率よく取り出せる植物はワサビ以外にあるか。 [実験Ⅱ] ① 活性炭でワサビのにおいを除去することができるか。 ② 活性炭によってワサビの防カビ作用に影響があるか。 3 研究方法

[実験Ⅰ]

(1) 材料

食パン(ヤマザキのサンドイッチ用)、ワサビ、ダイコン、ねりワサビ(エルビー食品の本わさび)、

ねりカラシ(エルビー食品の本からし)

(2) 方法

ⅰ.それぞれ以下の①~⑬の密閉した容器の中のパン(41.4㎠)に、カビが生えたか 15日間毎日観

察しデジタルカメラで撮影する。

① パンのみ容器に入れたもの。

② パンと 12.4gのワサビを4等分(写真Ⅰ)に切ったものを容器に入れたもの。

③ パンと 12.4gのワサビをサイコロ状に切ったものを容器に入れたもの。

④ パンと 12.4gのワサビをみじん切りにしたものを容器に入れたもの。

⑤ パンと 12.4gのワサビを目の大きなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

⑥ パンと 12.4gのワサビを目の小さなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

(②から⑥にかけてワサビは細かくなる)

⑦ パンと 87.9gのダイコンを16等分に切ったものを容器に入れたもの。

⑧ パンと 87.9gのダイコンをサイコロ状に切ったものを容器に入れたもの。

⑨ パンと 87.9gのダイコンをみじん切りにしたものを容器に入れたもの。

⑩ パンと 87.9gのダイコンを目の大きなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

⑪ パンと 87.9gのダイコンを目の小さなおろし金ですりおろしたものを容器に入れたもの。

(⑦から⑪にかけて細かくなる)

⑫ パンと共に市販のねりワサビを 12.4g入れたもの。

⑬ パンと共に市販のねりカラシを 12.4g入れたもの。

ⅱ.8日目、10日目、15日目の写真のパンの面積とカビの面積を測定する。

面積の測定方法は、写真の面積から次式により算出した。

実際のカビの面積=実際のパンの面積×写真のカビの面積÷写真のパンの面積

こうして求めた値で実際のカビの面積のグラフを作成した。

[実験Ⅱ]

(1) 材料

3 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

食パン(ヤマザキのサンドイッチ用)、ワサビ、ねりワサビ(エルビー食品の本わさび)、ねりカラ

シ(エルビー食品の本からし)

(2) 方法

ⅰ.それぞれ以下の①~⑩までの密閉した容器の中のパン(41.4㎠)にカビが生えたか 10日間毎日

観察しデジタルカメラで撮影する。

① パンと活性炭を容器に入れたもの。

② パンと目の大きなおろし金ですりおろした 9.5gのワサビと活性炭を容器に入れたもの。

③ パンと目の小さなおろし金ですりおろした 9.5gのワサビと活性炭を容器に入れたもの。

④ パンと 9.5gのねりワサビと活性炭を容器に入れたもの。

⑤ パンと 9.5gのねりカラシと活性炭を容器に入れたもの。

⑥ パンだけを容器に入れたもの。

⑦ パンと目の大きなおろし金ですりおろした 9.5gのワサビを容器に入れたもの。

⑧ パンと目の小さなおろし金ですりおろした 9.5gのワサビを容器に入れたもの。

⑨ パンと 9.5gのねりワサビを容器に入れたもの。

⑩ パンと 9.5gのねりカラシを容器に入れたもの。

ⅱ.4日目、6日目、8日目のパンの面積とカビの面積を測定する。実験Ⅰと同様の方法で実際に

カビの生えた面積を計算し、その値を用いてグラフにした。

4 結果

[実験Ⅰ]

8日目、10日目、15日目のカビ面積を計測した結果は図Ⅰ・Ⅱ・Ⅲになった。

ワサビはおろし金ですりおろしたもの、ダイコンは目の小さなおろし金ですりおろしたものには

カビが生えなかった。それ以外の容器にはそれぞれの食パンにカビが生えた。

[実験Ⅱ]

4日目、6日目、8日目のカビ面積を計測した結果は図Ⅳ・Ⅴになった。

活性炭を容器内に加えるとワサビのにおいは除去することができていた。

5 考察

[実験Ⅰ]

図Ⅰ、Ⅱより、密閉した容器内に食パンだけを入れたものより、細かくしていないワサビやダイコ

ンを入れたもののほうが先にカビが生えていることがわかる。これは、ワサビやダイコンに含まれる

水分によって、容器内の湿度が上昇し、食パンにカビが生えやすくなったと考えられる。

図Ⅲより、パンと共にねりワサビやねりカラシを入れたものにはカビが生えなかった。これは、ワ

サビやカラシがより細かくなっていることに加え、ねりカラシには殺菌作用がある酸化防止剤のビタ

ミン Cが含まれていることも防カビに関係していると考えられる。

図Ⅰ・Ⅱ・Ⅲより、防カビ作用が観察できた。

つまり、密閉した容器を用いることで、揮発性のあるワサビの辛味成分は密閉した容器をもちいる

と容器内に残っていると考えられる。

図Ⅰ・Ⅱ・Ⅲよりワサビやダイコンを細かくすればするほど、カビが生えなかった。

これより、壊れた細胞がより酸素に触れることによって、辛味成分が生成されて防カビ作用が働い

たと考えられる。

図Ⅰ・Ⅱより同じように切り、ワサビよりダイコンの方が質量も大きいのにダイコンを入れたもの

の方が、ワサビを入れたものよりパンにカビが生えた。

よって、ワサビの方がダイコンより辛味成分を多く生成すると考えられる。したがって、実際の生

生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~ 3

-57-

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4 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

活で用いるならワサビの方が適していると考えられる。

[実験Ⅱ]

図Ⅳ・Ⅴより実験Ⅰと比べて短い期間でカビが生えた。さらに目の大きなおろし金ですりおろした

ワサビを容器内に入れたものにもカビが生えた。

これは、実験期間が梅雨に重なったので、容器内の湿度が実験Ⅰのときより高いためにカビが生え

やすくなったと考えられる。 また、活性炭を入れた容器からはにおいが無かった。これは、活性炭の消臭効果によってにおいが

無くなったと考えられる。 活性炭と目の小さなおろし金ですりおろしたワサビを入れたものにカビが生えた。 このことより、活性炭によって、辛味成分が吸収されたためだと考えることができるが、ねりワサ

ビを入れたものにカビが生えなかったためわからない。したがって、活性炭を容器内に入れるとカビ

が生えやすい傾向にあるといえる。 [実験Ⅰ・Ⅱ] 実験期間中に学校とのスケジュールの問題で、班員の自宅に持ち帰る日があった。各容器に違いは

無いが、環境が変化するので避けておくべきだったと考えられる。 また、容器内の様子を撮影するとき、容器の蓋を開けて行った。それぞれの容器を空ける時間は短

くするように心がけてはいたが、容器内のワサビの辛味成分の量やその他の環境に影響を与えていた

と考えられる。したがって、これも避けるべきであり、より信憑性のあるデータを得るためにラップ

などで密閉しそのまま撮影できるような状態にする工夫が必要である。 また、容器内の撮影について特に決めていなかった。実際に生えたカビの面積を測定するのは難し

いので、実際の食パンの面積と写真のパンに生えたカビの割合を利用してカビ面積を推定したが、よ

り正確な値を算出するためには写真の撮影時の容器とカメラの角度から決めて統一すべきだった。

6 反省と課題

活性炭を加えると、消臭効果はあったが、防カビ効果は減少した。ワサビの辛味成分を実用化する

ためには、コーヒー豆や茶葉、レモンの皮などの他の消臭効果のある物質で実験を行い、消臭効果が

あるか、また、それらの物質による防カビ作用への影響を確認する必要がある。

さらに、実用化を進めるために、防カビ作用を示すアリルイソチオシアネートを効率的に取り出し、

それを液体に溶解させ、防カビ作用を示すかどうかなども検証していきたい。

7 参考文献

「水分活性とは」http://homepage3.nifty.com/hinshitukanri/siryou/suibunkassei.htm

Wikipedia「カビ、アオカビ、ワサビ」

Ja.wikipedia.org/wiki/

8 謝辞

この研究を行うにあたって、ご指導いただいた尾辻先生を初めとする多くの先生方に深くお礼を申

し上げたいと思います。また、多くの適切なアドバイスをして下さった同輩諸君にも深くお礼申しあ

げます。

生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~4

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4 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

活で用いるならワサビの方が適していると考えられる。

[実験Ⅱ]

図Ⅳ・Ⅴより実験Ⅰと比べて短い期間でカビが生えた。さらに目の大きなおろし金ですりおろした

ワサビを容器内に入れたものにもカビが生えた。

これは、実験期間が梅雨に重なったので、容器内の湿度が実験Ⅰのときより高いためにカビが生え

やすくなったと考えられる。 また、活性炭を入れた容器からはにおいが無かった。これは、活性炭の消臭効果によってにおいが

無くなったと考えられる。 活性炭と目の小さなおろし金ですりおろしたワサビを入れたものにカビが生えた。 このことより、活性炭によって、辛味成分が吸収されたためだと考えることができるが、ねりワサ

ビを入れたものにカビが生えなかったためわからない。したがって、活性炭を容器内に入れるとカビ

が生えやすい傾向にあるといえる。 [実験Ⅰ・Ⅱ] 実験期間中に学校とのスケジュールの問題で、班員の自宅に持ち帰る日があった。各容器に違いは

無いが、環境が変化するので避けておくべきだったと考えられる。 また、容器内の様子を撮影するとき、容器の蓋を開けて行った。それぞれの容器を空ける時間は短

くするように心がけてはいたが、容器内のワサビの辛味成分の量やその他の環境に影響を与えていた

と考えられる。したがって、これも避けるべきであり、より信憑性のあるデータを得るためにラップ

などで密閉しそのまま撮影できるような状態にする工夫が必要である。 また、容器内の撮影について特に決めていなかった。実際に生えたカビの面積を測定するのは難し

いので、実際の食パンの面積と写真のパンに生えたカビの割合を利用してカビ面積を推定したが、よ

り正確な値を算出するためには写真の撮影時の容器とカメラの角度から決めて統一すべきだった。

6 反省と課題

活性炭を加えると、消臭効果はあったが、防カビ効果は減少した。ワサビの辛味成分を実用化する

ためには、コーヒー豆や茶葉、レモンの皮などの他の消臭効果のある物質で実験を行い、消臭効果が

あるか、また、それらの物質による防カビ作用への影響を確認する必要がある。

さらに、実用化を進めるために、防カビ作用を示すアリルイソチオシアネートを効率的に取り出し、

それを液体に溶解させ、防カビ作用を示すかどうかなども検証していきたい。

7 参考文献

「水分活性とは」http://homepage3.nifty.com/hinshitukanri/siryou/suibunkassei.htm

Wikipedia「カビ、アオカビ、ワサビ」

Ja.wikipedia.org/wiki/

8 謝辞

この研究を行うにあたって、ご指導いただいた尾辻先生を初めとする多くの先生方に深くお礼を申

し上げたいと思います。また、多くの適切なアドバイスをして下さった同輩諸君にも深くお礼申しあ

げます。

5 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

9 図表・画像

写真Ⅰ

05

1015202530354045

0 5 10 15

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ 4等分 サイコロ状 みじん切り 粗おろし 細おろし

05

1015202530354045

0 5 10 15

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ 8等分 サイコロ状 みじん切り 粗おろし 細おろし

図Ⅰ 実験Ⅰでワサビを入れたパンの 8,10,15 日目のカビ面積を表したグラフ。

図Ⅱ 実験Ⅰでダイコンを入れたパンの 8,10,15 日目のカビ面積を表したグラフ。

生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~ 5

-59-

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6 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

05

1015202530354045

0 2 4 6 8

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ 粗おろし 細おろし ねりワサビ ねりカラシ

05

1015202530354045

0 2 4 6 8

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ 粗おろし 細おろし ねりワサビ ねりカラシ

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

0 5 10 15

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ ねりワサビ ねりカラシ

図Ⅲ 実験Ⅰでねりワサビ、ねりカラシを入れたパンの 8,10,15 日目のカビ面積を表したグラフ。

図Ⅳ 実験Ⅱでワサビと活性炭を一緒に入れたパンの4、6,8 日目のカビ面積を表したグラフ。

図Ⅴ 実験Ⅱでワサビとパンを一緒にいれて、4,6,8 日目のカビ面積を表したグラフ。

生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~6

-60-

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6 生物① ワサビの辛味成分の実用化 ~生成法と他に与える影響~

05

1015202530354045

0 2 4 6 8

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ 粗おろし 細おろし ねりワサビ ねりカラシ

05

1015202530354045

0 2 4 6 8

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ 粗おろし 細おろし ねりワサビ ねりカラシ

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

0 5 10 15

カビ面積(㎠)

日数(日)

食パンのみ ねりワサビ ねりカラシ

図Ⅲ 実験Ⅰでねりワサビ、ねりカラシを入れたパンの 8,10,15 日目のカビ面積を表したグラフ。

図Ⅳ 実験Ⅱでワサビと活性炭を一緒に入れたパンの4、6,8 日目のカビ面積を表したグラフ。

図Ⅴ 実験Ⅱでワサビとパンを一緒にいれて、4,6,8 日目のカビ面積を表したグラフ。

1 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

1 概要

ヒドラとプラナリアは非常に再生能力の高い生物として知られている。特にプラナリアの再生実験

に関してはよく調べられており、体のどの部分を切り出しても完全な個体へと再生する。我々は傷口

に注目し、再生にどのように関与しているのかについて調べるために、傷口から何らかの化学物質が

放出されているのではないかと仮定して実験を行った。 まず、ヒドラとプラナリア、その切断した切片を飼育液へ浸し、再生促進物質が溶け込んだと思わ

れる培養液を作る。ヒドラの培養液と飼育液の中にヒドラ切片を入れ、プラナリアの培養液と飼育液

の中にプラナリアの切片を入れ、再生の様子を観察した。再生までの日数の違いを比較することで傷

口から放出された物質の再生に対する作用を調査した。 その結果、ヒドラの場合では飼育液中では3日程で再生が完了したが培養液中では2日程で再生が

完了した。プラナリアの場合、通常の飼育液中では7日程で再生が完了したが、培養液中では3~5

日程で再生が完了した。 実験の結果より、ヒドラとプラナリアの両方の培養液では、通常の飼育液よりも再生が促進されて

いたことから、ヒドラとプラナリアの傷口から再生を促進させる物質が放出されていると考えられる。

2 動機および目的

ヒトの皮膚が損傷した場合、瘡蓋をつくり元の状態へと再生するが、腕が切断された場合は欠けた

組織や器官が再生されることはない。しかし、生き物の中には非常に強い再生能力を持つ動物が多数

存在する。ヒドラやプラナリアは非常に再生能力の高い生物として知られており、特にプラナリアは

200 年以上前から研究されてきた長い歴史がある。その中でもプラナリアの再生実験に関してはよく

調べられており、プラナリアの体はどの部分を切り出しても完全な個体へと再生する。近年では再生

に関する生化学的な研究も盛んに行われており、これらの生物の再生メカニズムを解明することは、

ヒトの再生機構を理解し、ヒトの再生医療技術を確立する上で非常に重要であるとされている。今回

我々は、プラナリアと同様に再生能力の高いヒドラについて、再生を促す要因について調べてみた。

再生の様子を観察すると、どちらの生物も傷口に形成される再生芽を先頭に体の末端部に向かって再

生が進んでいく。我々はこの傷口に注目し、再生にどのように関与しているのかについて調べるため

に、傷口から何らかの化学物質が放出されているのではないかと仮定して実験を行った。 昨年度、福岡女子大学からの協力を得て、ヒドラの再生に関する研究を行った。昨年度我々は、ま

ずヒドラの触手と胴体切片の再生の違いを観察した。その結果、胴体切片からの再生は起こったが、

触手からの再生は起こらなかった。次に、なぜ触手と胴体部で違いが生じたのかを明らかにするため

に、触手と胴体部の細胞組成比を調べてみた。その結果、触手から神経細胞は観察できなかった(図

1)。神経細胞が観察できなかったのは、触手において、神経細胞の割合が非常に少なかったからであ

ると考えられる。ヒドラの触手に神経細胞が少ないことは、ヒドラの神経細胞を蛍光染色した写真(図

2)からも確認できる(Osamu Koizumi, 1999)。これらの結果から、ヒドラの胴体部の優れた再生

能力は、未分化な細胞である間細胞だけのはたらきではなく、神経細胞も関与していることが考えら

れる。そこで、今年度の研究としては、再生メカニズムに焦点を当て、傷口ができた胴体切片の神経

細胞はどのようなはたらきをしているのかを知るために研究を行うことにした。実験にはヒドラと同

様に再生能力が高く、散在神経系のヒドラより一段階神経系が達しているかご形神経系のプラナリア

を比較対象として用いた。 プラナリアは過去に多くの研究がなされており、既にナリアの傷口から再生促進物質が放出されて

ヒドラとプラナリアの再生に関する研究 3年 重松 大輝、斉藤 誠、森 新之介、平山 芙香

生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究 1

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2 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

いることが知られている(Haruo Kanetani,1964)。今回の実験では、ヒドラの胴体にも再生促進物

質が存在するのかについて調べた。 3 仮説

昨年の実験より、ヒドラの胴体には触手よりも多くの神経細胞が集中していることが分かった。ま

た、ヒドラは胴体切片からは再生が起こるが、触手切片からは再生が起こらなかった。そこで、再生

には神経細胞が関与しているのではないかと考え、今回我々は神経分泌細胞から再生促進物質が分泌

されているのではないかという仮説を立てた。 そのように考えると、プラナリアの頭部には神経が集中している脳が存在するため、頭部の傷口か

ら、より多くの再生促進物質が分泌されているはずである。また、ヒドラにも再生促進物質があると

すれば、神経の少ない触手の傷口よりも、神経細胞の多い胴体の傷口からの方が多くの再生促進物質

が分泌されているはずである。従って、それを含む溶液中でヒドラを培養すれば、より早く再生が起

こるはずである。 4 材料・器具

(材料)普通ヒドラ:福岡女子大学神経科学研究室提供 ナミウズムシ(プラナリア):福岡県犬鳴川から採集 アルテミア耐久卵:ヒドラの餌として使用 鳥レバー、赤虫:プラナリアの餌として使用

(器具)マイクロチューブ、マイクロピペット、柄つき針、微針、スポイト、漏斗、濾紙、微小メ

ス、1mm方眼紙、筆、薬さじ、温度計、保冷パック、ヒーター、水槽、キムワイプ、ホ

ールスライドガラス、カバーガラス、腰高シャーレ、市販のミネラルウォーター、メチレ

ンブルー、解離液(グリセリン:酢酸:水=1:1:13)、食塩低温定温機、エアポンプ、

光学顕微鏡、双眼実体顕微鏡、カメラ、スキャナー、顕微鏡撮影装置

5 方法

餌であるアルテミアの飼育は最初にビーカーに塩水を作成し、次にアルテミアの耐久卵を薬さじで

3杯分とり、塩水の入ったビーカーに入れた。最後にこのビーカーをヒーターの入った水槽に入れ、

約 26度で 24時間程度放置した。

ヒドラの飼育はシャーレの中に飼育液としてミネラルウォーターを入れ、その中にヒドラを入れた。

次に 2~3日おきに孵化したアルテミアをミネラルウォーターで十分に洗浄してヒドラに与えた。餌や

り終了後、1時間程少し時間をおいて水替えを行い、翌日にまた水替えを行った。翌日に再度水替え

を行うのは、ヒドラは約6時間後に未消化物を口から出し、水質を悪くするからである。

プラナリアは福岡県犬鳴川から採集してきた個体を使用した。実験室においてミネラルウォーター

に順化させ、ヒドラと同様に飼育液としてミネラルウォーターを用いた。腰高シャーレに入れ、20度

に設定した低温定温機内で飼育した。再生実験に用いる個体は、10日以上の絶食期間を経たものを用

いた。

観察項目は2つあり、一つ目は、ヒドラを胴体と触手に切り分け、1日おきに観察をするもの、二

つ目は、ヒドラを胴体と触手に切り分け、それぞれ解離し観察し、細胞の組成を調べるものである。

まず、予備実験として、昨年度ヒドラの胴体と触手の細胞の組成を調べた。解離法については、①

スライドガラス上にヒドラを 1匹のせる。②双眼実態顕微鏡下で微小メスを用いてヒドラを胴体と触

手に分ける。③胴体と触手を別々のスライドガラスに分け、余分な水分を濾紙で吸い取る。④解離液

を 1滴落とし、約 15分間放置する。⑤余分な解離液を濾紙で吸い取り、柄付き針を用いて胴体と触手

をそれぞれ砕く。⑥メチレンブルー溶液を 1滴ずつ落として染色し、カバーガラスをかけて光学顕微

鏡で観察する。

生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究2

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2 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

いることが知られている(Haruo Kanetani,1964)。今回の実験では、ヒドラの胴体にも再生促進物

質が存在するのかについて調べた。 3 仮説

昨年の実験より、ヒドラの胴体には触手よりも多くの神経細胞が集中していることが分かった。ま

た、ヒドラは胴体切片からは再生が起こるが、触手切片からは再生が起こらなかった。そこで、再生

には神経細胞が関与しているのではないかと考え、今回我々は神経分泌細胞から再生促進物質が分泌

されているのではないかという仮説を立てた。 そのように考えると、プラナリアの頭部には神経が集中している脳が存在するため、頭部の傷口か

ら、より多くの再生促進物質が分泌されているはずである。また、ヒドラにも再生促進物質があると

すれば、神経の少ない触手の傷口よりも、神経細胞の多い胴体の傷口からの方が多くの再生促進物質

が分泌されているはずである。従って、それを含む溶液中でヒドラを培養すれば、より早く再生が起

こるはずである。 4 材料・器具

(材料)普通ヒドラ:福岡女子大学神経科学研究室提供 ナミウズムシ(プラナリア):福岡県犬鳴川から採集 アルテミア耐久卵:ヒドラの餌として使用 鳥レバー、赤虫:プラナリアの餌として使用

(器具)マイクロチューブ、マイクロピペット、柄つき針、微針、スポイト、漏斗、濾紙、微小メ

ス、1mm方眼紙、筆、薬さじ、温度計、保冷パック、ヒーター、水槽、キムワイプ、ホ

ールスライドガラス、カバーガラス、腰高シャーレ、市販のミネラルウォーター、メチレ

ンブルー、解離液(グリセリン:酢酸:水=1:1:13)、食塩低温定温機、エアポンプ、

光学顕微鏡、双眼実体顕微鏡、カメラ、スキャナー、顕微鏡撮影装置

5 方法

餌であるアルテミアの飼育は最初にビーカーに塩水を作成し、次にアルテミアの耐久卵を薬さじで

3杯分とり、塩水の入ったビーカーに入れた。最後にこのビーカーをヒーターの入った水槽に入れ、

約 26度で 24時間程度放置した。

ヒドラの飼育はシャーレの中に飼育液としてミネラルウォーターを入れ、その中にヒドラを入れた。

次に 2~3日おきに孵化したアルテミアをミネラルウォーターで十分に洗浄してヒドラに与えた。餌や

り終了後、1時間程少し時間をおいて水替えを行い、翌日にまた水替えを行った。翌日に再度水替え

を行うのは、ヒドラは約6時間後に未消化物を口から出し、水質を悪くするからである。

プラナリアは福岡県犬鳴川から採集してきた個体を使用した。実験室においてミネラルウォーター

に順化させ、ヒドラと同様に飼育液としてミネラルウォーターを用いた。腰高シャーレに入れ、20度

に設定した低温定温機内で飼育した。再生実験に用いる個体は、10日以上の絶食期間を経たものを用

いた。

観察項目は2つあり、一つ目は、ヒドラを胴体と触手に切り分け、1日おきに観察をするもの、二

つ目は、ヒドラを胴体と触手に切り分け、それぞれ解離し観察し、細胞の組成を調べるものである。

まず、予備実験として、昨年度ヒドラの胴体と触手の細胞の組成を調べた。解離法については、①

スライドガラス上にヒドラを 1匹のせる。②双眼実態顕微鏡下で微小メスを用いてヒドラを胴体と触

手に分ける。③胴体と触手を別々のスライドガラスに分け、余分な水分を濾紙で吸い取る。④解離液

を 1滴落とし、約 15分間放置する。⑤余分な解離液を濾紙で吸い取り、柄付き針を用いて胴体と触手

をそれぞれ砕く。⑥メチレンブルー溶液を 1滴ずつ落として染色し、カバーガラスをかけて光学顕微

鏡で観察する。

3 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

上記の予備実験をうけて、今年度はヒドラとプラナリアの再生能力に関する実験を行った。まず、

プラナリアの体のどの部分から特に再生促進物質が放出されているのかを確認するために、プラナリ

アの体を頭部、胴部、尾部に分け、それぞれ飼育液に入れ、数日放置し、再生促進物質が放出され、

溶け込んだと思われる溶液を培養液とする。頭部切片からの再生促進物質が溶け込んだ頭部培養液、

胴部切片からの再生促進物質が溶け込んだ胴部培養液、尾部切片からの再生促進物質が溶け込んだ尾

部培養液をあらかじめ作成しておく。次に、頭部を切除したプラナリアを作成したそれぞれの培養液

に入れ、頭部の杯状眼(目)が形成された時点で再生が完了したと定義し、実験開始から再生完了ま

での日数を測定した。 また、ヒドラにも再生促進物質が存在すると仮定し、ヒドラの胴体を細かく切断したものを飼育液

に入れ、数日放置し、再生促進物質が傷口から放出され溶け込んだと思われる溶液を培養液とした。

作成した培養液に新たに触手を切除したヒドラを入れ、触手が形成され始めた時点で再生が完了した

と定義し、実験開始から再生完了までの日数を測定した。 最後に集めたデータを比較し、考察を行った。

6 結果

・プラナリアについて 今回の実験では、プラナリア総個体数 56 個体で実験を行ったところ、再生完了までに要した日数

は頭部培養液に浸したプラナリア 14 回の実験のうち、3 回の実験で 3 日、8 回の実験で 4 日、3 回の

実験で 5 日を要した。胴部培養液に浸したプラナリア 14 回の実験のうち、4 回の実験で 4 日、7 回の

実験で 5 日、3 回の実験で 6 日を要した。尾部培養液に浸したプラナリア 14 回の実験のうち、1 回の

実験で 4 日、4 回の実験で 5 日、8 回の実験で 6 日、1 回の実験で 7 日を要した。飼育液に浸したプ

ラナリア 14 回の実験のうち、1 回の実験で 5 日、2 回の実験で 6 日、4 回の実験で 7 日、6 回の実験

で 8 日、1 回の実験で 9 日を要した。 再生完了までの日数を平均すると、頭部培養液は 3.93 日、胴部培養液は 4.93 日、尾部培養液は 5.64

日、飼育液は 7.29 日となった(表1)。 頭部培養液の再生が最も早く、次いで胴部培養液、尾部培養液、最も遅かったのは飼育液であった。

・ヒドラについて 今回の実験では、ヒドラ総個体数 54 個体で実験を行ったところ、再生完了までに要した日数は培

養液に浸したヒドラ 27 回の実験のうち、1 回の実験で 2 日、13 回の実験で 3 日を要した。飼育液に

浸したヒドラ 27 回の実験のうち 2 回の実験で 1 日、5 回の実験で 2 日、9 回の実験で 3 日、8 回の実

験で 4 日、3 回の実験で 5 日を要した。 再生完了までの日数を平均すると、培養液は 2.44 日、飼育液は 3.19 日となった。(表2参照) 飼育液よりも培養液中での再生の方が早い結果となった。 7 考察

プラナリアに関して、培養液中と飼育液中で比較してみると、培養液の方がより再生が早い結果と

なった(図3)。これらの結果から、培養液では再生が促進されたことがわかる。従って、虫体の傷口

から何らかの再生促進物質が分泌され、それが再生を促進させたと考えられる。また、胴部・尾部の

培養液中よりも、頭部の培養液中での再生の方が早かった。このことから、プラナリアのかご型神経

系の神経節が頭部に集中している(図4)影響により多くの再生促進物質を分泌した可能性が考えら

れる。 ヒドラに関しては、培養液中と飼育液中での再生を比較してみると、培養液中での再生の方が早い

結果となった(図5)。このことから、ヒドラの虫体の傷口からも何らかの再生促進物質が分泌され、

それが再生を促進させたと考えられる。また、ヒドラの口の周辺には神経環と呼ばれる神経細胞の集

生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究 3

-63-

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4 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

中した部分が存在する(図2)ため、胴体切片から多くの再生促進物質が放出されている可能性が考

えられる。 また、今回の実験ではヒドラの個体の中に、培養液中よりも飼育液中の再生が早かった個体が僅か

にみられた。これは、ヒドラの虫体の傷口から十分に再生促進物質が飼育液に浸透されてなかったこ

となどが考えられる。 8 今後の課題

今回の実験では、当初、虫体の体長を測定することで再生速度を求めようとしていたが、虫体の再

生は体内にもともと存在している細胞によって起こっており、再生が起こっても体長が伸長するわけ

ではない。実際に観察すると、再生が完了した虫体は切断されたときの大きさからさほど変わってい

なかった。従って、再生速度は虫体の体長を測定することでは求められないことがわかった。そこで

対象となる器官の再生完了までの時間を測定することによって再生速度を比較した。また、我々が飼

育に慣れていなかったために、実験当初、飼育する温度を低く設定しなければならないにも関わらず

飼育温度を高く設定してしまったことや太陽光に弱いにも関わらず直射日光下にさらしていたことな

どの理由から、ヒドラとプラナリアが大量に死滅してしまった。 実験の測定方法を現在のものに変更したことや期間が短く、個体数が確保できず、十分なデータが

集められなかったことなど、実験結果は確証を得たものとは言いがたいものとなってしまった。よっ

て、考察をより強固なものとするために、今後さらに実験を重ね、多くのデータを取ることが必要で

ある。また、今回の実験では神経細胞が多く分布するヒドラの胴体から放出される再生促進物質が、

神経細胞が少ない触手から放出される再生促進物質よりも多いという前提で胴体部分のみ実験を行っ

ていた。しかしながら、本当に再生促進物質が触手から放出される再生促進物質が、胴体から放出さ

れる量よりも少ないのか、さらに、この再生促進物質が本当に神経細胞から放出されているものであ

るかどうかを知るためには、触手部分と胴体部分を今回と同じように実験して比較する必要がある。

さらに、ヒドラの再生促進物質とプラナリアの再生促進物質は同じ成分なのかについても今後調査し

ていきたい。 9 参考文献

• HaruoKanetani,1964 「プラナリアの虫体抽出液が示す促進作用」 動物学雑誌 73(2), 52-57, 1964-02-15

• Osamu Koizumi, 1999 「ヒドラの散在神経系の神経生物学」 比較生理生化学 16(4): 278-287 • WataruTeshirogi, 1987 「ヒドラの散在神経系の神経生物学」 共立出版 • WataruTeshirogi and KenjiWatanabe 1998 「プラナリアの形態変化―基礎から遺伝子まで―」

共立出版 • 日本比較生理生化学学会 2012 「研究者が教える動物飼育 第 1 巻」 共立出版 • 広島大学生物学会, 2012 「日本動物解剖図説(新装版)」 森北出版

10 謝辞

今回の研究に協力していただいた福岡女子大学の先生、小泉先生を始めとし、研究室の方々、私た

ちの研究にアドバイスをしてくださった各大学、高校の先生方、本当にありがとうございました。こ

れまで研究が続けてこられたのも、各先生方のご協力があってのことだと思います。私たちが研究に

行き詰ったときも温かく見守ってくださったおかげで、最後まで研究を続けることができました。本

当にありがとうございました。 そして、今回の研究を行うに当たって、このような機会を作ってくださった香住丘高校の先生方に

も感謝をしています。なかなか思うように研究が進まないようなときも、優しく時には厳しくご指導、

アドバイスをしてくださりありがとうございました。

生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究4

-64-

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4 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

中した部分が存在する(図2)ため、胴体切片から多くの再生促進物質が放出されている可能性が考

えられる。 また、今回の実験ではヒドラの個体の中に、培養液中よりも飼育液中の再生が早かった個体が僅か

にみられた。これは、ヒドラの虫体の傷口から十分に再生促進物質が飼育液に浸透されてなかったこ

となどが考えられる。 8 今後の課題

今回の実験では、当初、虫体の体長を測定することで再生速度を求めようとしていたが、虫体の再

生は体内にもともと存在している細胞によって起こっており、再生が起こっても体長が伸長するわけ

ではない。実際に観察すると、再生が完了した虫体は切断されたときの大きさからさほど変わってい

なかった。従って、再生速度は虫体の体長を測定することでは求められないことがわかった。そこで

対象となる器官の再生完了までの時間を測定することによって再生速度を比較した。また、我々が飼

育に慣れていなかったために、実験当初、飼育する温度を低く設定しなければならないにも関わらず

飼育温度を高く設定してしまったことや太陽光に弱いにも関わらず直射日光下にさらしていたことな

どの理由から、ヒドラとプラナリアが大量に死滅してしまった。 実験の測定方法を現在のものに変更したことや期間が短く、個体数が確保できず、十分なデータが

集められなかったことなど、実験結果は確証を得たものとは言いがたいものとなってしまった。よっ

て、考察をより強固なものとするために、今後さらに実験を重ね、多くのデータを取ることが必要で

ある。また、今回の実験では神経細胞が多く分布するヒドラの胴体から放出される再生促進物質が、

神経細胞が少ない触手から放出される再生促進物質よりも多いという前提で胴体部分のみ実験を行っ

ていた。しかしながら、本当に再生促進物質が触手から放出される再生促進物質が、胴体から放出さ

れる量よりも少ないのか、さらに、この再生促進物質が本当に神経細胞から放出されているものであ

るかどうかを知るためには、触手部分と胴体部分を今回と同じように実験して比較する必要がある。

さらに、ヒドラの再生促進物質とプラナリアの再生促進物質は同じ成分なのかについても今後調査し

ていきたい。 9 参考文献

• HaruoKanetani,1964 「プラナリアの虫体抽出液が示す促進作用」 動物学雑誌 73(2), 52-57, 1964-02-15

• Osamu Koizumi, 1999 「ヒドラの散在神経系の神経生物学」 比較生理生化学 16(4): 278-287 • WataruTeshirogi, 1987 「ヒドラの散在神経系の神経生物学」 共立出版 • WataruTeshirogi and KenjiWatanabe 1998 「プラナリアの形態変化―基礎から遺伝子まで―」

共立出版 • 日本比較生理生化学学会 2012 「研究者が教える動物飼育 第 1 巻」 共立出版 • 広島大学生物学会, 2012 「日本動物解剖図説(新装版)」 森北出版

10 謝辞

今回の研究に協力していただいた福岡女子大学の先生、小泉先生を始めとし、研究室の方々、私た

ちの研究にアドバイスをしてくださった各大学、高校の先生方、本当にありがとうございました。こ

れまで研究が続けてこられたのも、各先生方のご協力があってのことだと思います。私たちが研究に

行き詰ったときも温かく見守ってくださったおかげで、最後まで研究を続けることができました。本

当にありがとうございました。 そして、今回の研究を行うに当たって、このような機会を作ってくださった香住丘高校の先生方に

も感謝をしています。なかなか思うように研究が進まないようなときも、優しく時には厳しくご指導、

アドバイスをしてくださりありがとうございました。

5 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

私たちは3年なので翌年には卒業をし、香住丘高校では研究を続けることはできませんが、私たち

の後輩が研究を引き継いでくれ、さらに発展していくことを切に願っています。 11 図表

表1(プラナリア再生完了までの日数)

表2(ヒドラ再生完了までの日数)

プラナリア 頭部培養液 胴部培養液 尾部培養液 飼育液実験1 4日 5日 6日 8日実験2 5日 5日 6日 9日実験3 4日 4日 4日 5日実験4 4日 6日 6日 8日実験5 3日 4日 5日 6日実験6 4日 5日 6日 8日実験7 3日 4日 5日 7日実験8 3日 5日 6日 7日実験9 5日 5日 5日 8日実験10 4日 6日 7日 8日実験11 5日 6日 6日 7日実験12 4日 5日 5日 6日実験13 4日 4日 6日 7日実験14 4日 5日 6日 8日平均 3.93日 4.93日 5.64日 7.29日

ヒドラ 培養液 飼育液実験1 2日 4日実験2 3日 3日実験3 2日 3日実験4 3日 4日実験5 2日 5日実験6 2日 3日実験7 3日 2日実験8 3日 3日実験9 3日 4日実験10 3日 3日実験11 3日 5日実験12 3日 3日実験13 3日 4日実験14 2日 3日実験15 2日 4日実験16 2日 4日実験17 3日 4日実験18 1日 5日実験19 3日 3日実験20 2日 2日実験21 2日 3日実験22 2日 1日実験23 3日 1日実験24 3日 2日実験25 2日 2日実験26 2日 2日実験27 2日 4日平均 2.44日 3.19日

生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究 5

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6 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

図1(ヒドラの胴体と触手の細胞組成比)

図2(ヒドラ神経細胞:小泉 修、福岡女子大学人間環境学部 環境理学科神経科学研究室 提供)

図3(プラナリア再生完了までの日数の平均グラフ)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

胴体 触手

刺胞細胞 神経細胞 腺細胞 間細胞 消化細胞 表皮筋細胞

生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究6

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6 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

図1(ヒドラの胴体と触手の細胞組成比)

図2(ヒドラ神経細胞:小泉 修、福岡女子大学人間環境学部 環境理学科神経科学研究室 提供)

図3(プラナリア再生完了までの日数の平均グラフ)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

胴体 触手

刺胞細胞 神経細胞 腺細胞 間細胞 消化細胞 表皮筋細胞

7 生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究

図4(プラナリアの神経図 プラナリアの生物学―基礎と応用と実験― 教育出版 引用)

図5(ヒドラ再生完了までの日数の平均グラフ)

生物② ヒドラとプラナリアの再生に関する研究 7

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1 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

1 要旨

私たちは、アサリの水質浄化能力について、どのような環境で水質浄化能力が高まるかを調べる研

究を行った。 アサリなどの二枚貝類はろ過摂食者と呼ばれ、海水をエラでろ過してエサとなるプランクトンを摂

食する。この時、エサとして過剰な分は偽糞として固めて沈殿させる。このようなアサリの活動が海

水の水質浄化に関わる。今回の実験では、アサリの水質浄化能力を海水の吸光度の変化から判定した。

この実験結果から、このアサリの水質浄化能力は環境条件によって変化しており、アサリが活発に活

動する環境下では水質浄化能力は高まると考えられる。

2 問題提起

私たちが今回、アサリの水質浄化能力に着目したのは、福岡女子大学での講義・実験がきっかけで

ある。私たちの高校では毎年、高大連携によって福岡女子大学で実際に大学の授業を体験させてもら

っている。講義のテーマは「アサリはなぜメタボにならないのか」であり、この講義によって、アサ

リの生態や自然界における役割について学んだ。 アサリは呼吸のために海水を体内に取り込む際、エラでプランクトンなどのエサをろ過して取り込

む。その後、胃の中にある桿晶体ですりつぶして吸収しやすくしている。このようにしてアサリはプ

ランクトンを摂取している。すなわち、アサリは呼吸を行うのと同時に摂食を行っており、常にエサ

となるプランクトンを取り込んでいることになる。では、アサリはプランクトンが大量に発生する環

境下ではエサの過剰摂取でメタボにならないのか?プランクトンが大量に発生するような環境とは

たとえば赤潮のことである。赤潮とは生活排水や工場排水に含まれるリンなどが川から海に流れ込み、

海の富栄養化が進行することでプランクトンが大量に発生する現象のことである。この環境下でアサ

リはどのような摂食行動をしているのか。 大学での実験で、赤潮生物であるスケレトネマを入れた海水にアサリを入れて静置したところ、時

間がたつとアサリから糞のようなものが排出されるのが観察できた。これはアサリがプランクトンを

ろ過する時に粘膜を分泌してエサとして過剰な分を生きたままで固めて排出したものである。これを

偽糞という。偽糞ではプランクトンは生きたまま固められているために、栄養素が保存された状態で

海底に沈む。これは海底生物にとって大切な栄養源となっているので、海底生態系の保全に貢献して

いる。また、アサリなどの二枚貝類が偽糞を作ることで、海水に漂うプランクトンの数が減少し、海

水が浄化されることから、アサリは赤潮の解消に役立つと考えられている。 この講義を通して、私たちはアサリの水質浄化能力に興味をもったため、このことについて調べる

ことにした。まず、先行実験として「アサリはどのような物質をろ過できるか」を調べた(詳細は【先

行実験】参照)。これについて実験を行ったところ、アサリがろ過できる物質は粒子の大きさは関係

なく、コーヒーなどのアサリが忌避反応をしめす物質はろ過できないことが分かった。また、この実

験を通して、ろ過する物質の違いだけでなく、水温などの環境条件の違いもアサリの水質浄化能力に

影響を与えることが示唆された。 これらの実験を踏まえて、今回はアサリの水質浄化に適した環境について調べた。

3 先行実験

<目的> アサリの水質浄化能力について知るために、アサリが海水を取り込む際にどのような物質をろ過で

アサリの水質浄化能力と環境条件 3年 金 洪恩、田畑諒馬、宮崎 周、花田知枝美

生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件1

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1 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

1 要旨

私たちは、アサリの水質浄化能力について、どのような環境で水質浄化能力が高まるかを調べる研

究を行った。 アサリなどの二枚貝類はろ過摂食者と呼ばれ、海水をエラでろ過してエサとなるプランクトンを摂

食する。この時、エサとして過剰な分は偽糞として固めて沈殿させる。このようなアサリの活動が海

水の水質浄化に関わる。今回の実験では、アサリの水質浄化能力を海水の吸光度の変化から判定した。

この実験結果から、このアサリの水質浄化能力は環境条件によって変化しており、アサリが活発に活

動する環境下では水質浄化能力は高まると考えられる。

2 問題提起

私たちが今回、アサリの水質浄化能力に着目したのは、福岡女子大学での講義・実験がきっかけで

ある。私たちの高校では毎年、高大連携によって福岡女子大学で実際に大学の授業を体験させてもら

っている。講義のテーマは「アサリはなぜメタボにならないのか」であり、この講義によって、アサ

リの生態や自然界における役割について学んだ。 アサリは呼吸のために海水を体内に取り込む際、エラでプランクトンなどのエサをろ過して取り込

む。その後、胃の中にある桿晶体ですりつぶして吸収しやすくしている。このようにしてアサリはプ

ランクトンを摂取している。すなわち、アサリは呼吸を行うのと同時に摂食を行っており、常にエサ

となるプランクトンを取り込んでいることになる。では、アサリはプランクトンが大量に発生する環

境下ではエサの過剰摂取でメタボにならないのか?プランクトンが大量に発生するような環境とは

たとえば赤潮のことである。赤潮とは生活排水や工場排水に含まれるリンなどが川から海に流れ込み、

海の富栄養化が進行することでプランクトンが大量に発生する現象のことである。この環境下でアサ

リはどのような摂食行動をしているのか。 大学での実験で、赤潮生物であるスケレトネマを入れた海水にアサリを入れて静置したところ、時

間がたつとアサリから糞のようなものが排出されるのが観察できた。これはアサリがプランクトンを

ろ過する時に粘膜を分泌してエサとして過剰な分を生きたままで固めて排出したものである。これを

偽糞という。偽糞ではプランクトンは生きたまま固められているために、栄養素が保存された状態で

海底に沈む。これは海底生物にとって大切な栄養源となっているので、海底生態系の保全に貢献して

いる。また、アサリなどの二枚貝類が偽糞を作ることで、海水に漂うプランクトンの数が減少し、海

水が浄化されることから、アサリは赤潮の解消に役立つと考えられている。 この講義を通して、私たちはアサリの水質浄化能力に興味をもったため、このことについて調べる

ことにした。まず、先行実験として「アサリはどのような物質をろ過できるか」を調べた(詳細は【先

行実験】参照)。これについて実験を行ったところ、アサリがろ過できる物質は粒子の大きさは関係

なく、コーヒーなどのアサリが忌避反応をしめす物質はろ過できないことが分かった。また、この実

験を通して、ろ過する物質の違いだけでなく、水温などの環境条件の違いもアサリの水質浄化能力に

影響を与えることが示唆された。 これらの実験を踏まえて、今回はアサリの水質浄化に適した環境について調べた。

3 先行実験

<目的> アサリの水質浄化能力について知るために、アサリが海水を取り込む際にどのような物質をろ過で

アサリの水質浄化能力と環境条件 3年 金 洪恩、田畑諒馬、宮崎 周、花田知枝美

2 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

きるかについて調べる。

<実験で使用したもの> ビーカー、アサリ、分光光度計、セル、ピペット、海水(香椎浜)、試料(小麦粉、食用色素、合

成洗剤、コーヒー)、電子天秤 <実験手順> 1.海水を汲んでくる。 2.汲んできた海水を 400mL ずつにビーカーに分ける。 3.各試料(小麦粉・食用色素・合成洗剤・コーヒー)を、0.2gずつ電子天秤で測り取る。 4.3で測りとった各試料を、2のビーカーに溶かす。このとき、小麦粉や、食用色素は、だまに

なりやすいので、ガラス棒でかき混ぜ、均一に混ざるようにする。 5.4のビーカーを実験前の溶液として吸光度を測定する。(波長 500nm で測定) 6.4の溶液を、200mL ずつに分け、アサリを入れないビーカー(コントロール用ビーカー)と、

アサリを入れるビーカー(実験用ビーカー)とする。 7.室温で25分間静置する。 ※静置する時間については、アサリの成体は 24 時間で約 10L の水を体内に取り込むことから、

200mL の水を浄化するために必要な時間は約20分と計算できるため、余裕をとって 25 分と時

間を設定している。 8.コントロール用ビーカーと実験用ビーカーの様子を比較して観察する。 9.25 分後、コントロール用ビーカーと実験用ビーカーの双方の溶液の吸光度を測定する。 ※静置後、実験用ビーカーの吸光度の値が下がっていれば、アサリは物質をろ過したとみなす。

<実験結果> ほとんどの物質では吸光度の減少が見られたため、ろ過されたと考えられる(図1参照)。特に、小

麦粉を溶かしたときに、吸光度の減少が最も大きかった。ただし、コーヒーを溶かしたときは、吸光

度の減少が見られなかったため、ろ過されなかったと考えられる。 <考察> コーヒー以外の試料では吸光度の減少が見られたので、アサリによってろ過されたのではないかと

考えられる。粒子の大きさとの関係については、食用色素は平均粒径が今回調べた試料の中では最も

小さい 10µm だったが、ろ過されている(図1、2参照)。このことから、今回の実験からは粒子の

大きさとアサリがろ過できる物質かどうかの関連性はあまり見られなかった。アサリは摂食の際にプ

ランクトンをエラにひっかけて摂食するが、餌となるプランクトンの大きさが 10μm~1000μmで

あるため、少なくとも 10μm~1000μmの間にある粒子は浄化できると考えられる。 一方、コーヒーの平均粒径は 30μmであるにも関わらず、ろ過できなかった(図1、2参照)。そ

の理由としては、コーヒーにアサリを入れたときには、入水管を伸ばしていなかったので、コーヒー

のカフェインに対して忌避反応を示し、海水をあまり取り込まなかったためと考えられる。 4 研究目的

先行実験を通してろ過する物質の種類だけではなく、環境条件も吸光度の変化に影響を与えている

のではないかと考えた。これを踏まえて、明暗条件・水温条件を変えて、アサリの水質浄化能力が高

まる環境を調べた。

生物③  アサリの水質浄化能力と環境条件 2

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3 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

5 研究方法

<実験で使用したもの> アサリ、ビーカー、砂(雁ノ巣海岸)海水(香椎浜)小麦粉、電子天秤、分光光度計、

セル、ピペット、ガラス棒 <実験手順> 1.海水を汲んでくる。 2.汲んできた海水を 400mL ずつにビーカーに分ける。 3.小麦粉を、0.2gずつ電子天秤で測り取る。 ※今回、試料に小麦粉を用いたのは、先行実験を行った試料の中で、アサリが普段エサとしている

プランクトンの大きさに最も近かったこと、先行実験の際に小麦粉を溶かしたとき、吸光度の変

化が最も大きかったからである。 4.3で測りとった小麦粉を、2のビーカーに溶かす。このとき、小麦粉は、だまになりやすいの

で、ガラス棒でかき混ぜ、均一に混ざるようにする。 5.4のビーカーを実験前の溶液として吸光度を測定する。(波長 500nm で測定) 6.別の2つのビーカーに砂を 100mL入れて、そこに4の溶液を 200mLずつ分ける。 ※今回砂を実験に用いたのは、アサリの通常の生息環境により近くするためである。 7.25 分間、下記の条件で静置する。 ・暗所 20℃ ・明所 20℃ ・明所 30℃ ・明所 10℃ ※静置する時間については、アサリの成体は 24 時間で約 10Lの水を体内に取り込むことから、

200mL の水を浄化するために必要な時間は約 20 分と計算できるため、余裕をとって 25 分と時

間を設定している。 8.コントロール用ビーカーと実験用ビーカーの様子を比較して観察する。 9.25 分後、コントロール用ビーカーと実験用ビーカーの双方の溶液の吸光度を測定する。 ※静置後、実験用ビーカーの吸光度の値がコントロール用ビーカーより下がっていれば、アサリは

その物質をろ過し、海水は浄化されたと見なす。 6 結果

今回はアサリがどれくらい水質浄化をおこなったかの指標として吸光度を用いて浄化率を求めた。 浄化率の式は下記のように表される。 A 実験前の吸光度 B 実験後の実験用ビーカーの吸光度 C 実験後のコントロール用ビーカーの吸光度

(A − B)

C× 100

※小麦粉は粒子が大きく重いため、静置すると自然に沈殿する。今回はコントロール用ビーカーの

吸光度の値を用いて、自然に沈殿したことによる吸光度の変化を除き、アサリのはたらきによる

吸光度の変化の値を求めるために、上記の式を用いた。 <測定結果> 測定した吸光度と上記の式を用いて浄化率を求めると、以下のような値になった(図3参照)。

暗所 20℃ 57.8 % 明所 20℃ 40.0 %

生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件3

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3 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

5 研究方法

<実験で使用したもの> アサリ、ビーカー、砂(雁ノ巣海岸)海水(香椎浜)小麦粉、電子天秤、分光光度計、

セル、ピペット、ガラス棒 <実験手順> 1.海水を汲んでくる。 2.汲んできた海水を 400mL ずつにビーカーに分ける。 3.小麦粉を、0.2gずつ電子天秤で測り取る。 ※今回、試料に小麦粉を用いたのは、先行実験を行った試料の中で、アサリが普段エサとしている

プランクトンの大きさに最も近かったこと、先行実験の際に小麦粉を溶かしたとき、吸光度の変

化が最も大きかったからである。 4.3で測りとった小麦粉を、2のビーカーに溶かす。このとき、小麦粉は、だまになりやすいの

で、ガラス棒でかき混ぜ、均一に混ざるようにする。 5.4のビーカーを実験前の溶液として吸光度を測定する。(波長 500nm で測定) 6.別の2つのビーカーに砂を 100mL入れて、そこに4の溶液を 200mLずつ分ける。 ※今回砂を実験に用いたのは、アサリの通常の生息環境により近くするためである。 7.25 分間、下記の条件で静置する。 ・暗所 20℃ ・明所 20℃ ・明所 30℃ ・明所 10℃ ※静置する時間については、アサリの成体は 24 時間で約 10Lの水を体内に取り込むことから、

200mL の水を浄化するために必要な時間は約 20 分と計算できるため、余裕をとって 25 分と時

間を設定している。 8.コントロール用ビーカーと実験用ビーカーの様子を比較して観察する。 9.25 分後、コントロール用ビーカーと実験用ビーカーの双方の溶液の吸光度を測定する。 ※静置後、実験用ビーカーの吸光度の値がコントロール用ビーカーより下がっていれば、アサリは

その物質をろ過し、海水は浄化されたと見なす。 6 結果

今回はアサリがどれくらい水質浄化をおこなったかの指標として吸光度を用いて浄化率を求めた。 浄化率の式は下記のように表される。 A 実験前の吸光度 B 実験後の実験用ビーカーの吸光度 C 実験後のコントロール用ビーカーの吸光度

(A − B)

C× 100

※小麦粉は粒子が大きく重いため、静置すると自然に沈殿する。今回はコントロール用ビーカーの

吸光度の値を用いて、自然に沈殿したことによる吸光度の変化を除き、アサリのはたらきによる

吸光度の変化の値を求めるために、上記の式を用いた。 <測定結果> 測定した吸光度と上記の式を用いて浄化率を求めると、以下のような値になった(図3参照)。

暗所 20℃ 57.8 % 明所 20℃ 40.0 %

4 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

明所 30℃ 13.0 % 明所 10℃ 13.3 %

明暗条件において、明所 20℃と暗所 20℃の浄化率を比較すると,暗所のほうが浄化率が高かった

ので、明所よりも暗所のときの方がアサリの水質浄化能力が高いと考えられた。また、温度条件に関

しては、10℃、20℃、30℃の中では、20℃の時が最も水質浄化能力が高まった。 その他に、暗所 20℃、明所 20℃の時にアサリは偽糞を排出しているのが観察された(図4参照)。

このことからもアサリが活発に水質浄化を行っていたことがわかる。 7 考察

まず、明暗条件について、暗所のほうが明所よりもアサリの水質浄化能力が高まった。その理由と

しては、砂浜にいるアサリは通常砂の中で生活しているため、暗所の状態に慣れている。そのため、

砂の外すなわち明所に出たときは外の光の影響を受け、何らかのストレスを感じてアサリの活動が低

下し、それに伴って、水質浄化能力も低下したのではないかと考えられる。 また、温度条件に関しては、水温 20℃のときが最も水質浄化能力が高まった。その理由としては、

アサリの旬である 3 月~5 月、9 月に関東地方の太平洋側の海水温は平均 20℃前後であることから、

それにもっとも近い温度である水温 20℃で一番高まったと考えられる。旬の季節がアサリにとって適

している環境条件だと判断した理由は以下のことが考えられる。アサリの産卵期は 5 月と 10 月にな

っており、旬の時期にはアサリは通常時よりもエサをとり、身が大きくなる。逆に旬の時期でない冬

では、アサリの身が痩せている。そのため、旬の時期はアサリの生育において適した環境条件であり、

呼吸、摂食などのとの関連の深い水質浄化能力も同様に高まると考えられる。 8 結論

今回の実験の問題点は、各条件での計測を各 1 回しか行っていないためデータ数が少なく、得られ

た結果の再現性が十分にとれていないことである。よって、各条件で 5 回以上データを取るなど、デ

ータ数を増やし、より正確なデータにしていきたい。 また温度設定において、設定温度条件の幅が 10℃間隔と大きすぎるので、より詳しくアサリの水質

浄化能力に適した環境を知るために、例えば 5℃刻みのデータを取り、細かい設定条件でデータをと

っていきたい。その他にも、実験を行っている 20 分間に温度が±1~2℃程度のブレがあったため、

サーモスタッド等で温度を一定に保つ工夫をする必要がある。 今回の実験の結果として、アサリが通常生活している環境、特に旬の時期に近い環境で最も水質浄

化能力が高まるということがわかった。しかし、1970 年以降地球温暖化による異常気象などの影響で

旬の時期のズレが起こっている。今年の夏の博多湾での海水温度も平年より高かった。このことは地

球温暖化などの影響によるものと思われる。今回私たちが行った研究は、最終的にはアサリなどの二

枚貝類を用いて赤潮の解消をすることに貢献できるのではないかと考えている。しかし、地球温暖化

などが進み、海洋を含め地球の環境変化やそれに伴う生態系のバランスの崩壊などが進めば、アサリ

の水質浄化能力による赤潮の解消はより難しくなる。なぜなら、そのような環境下では、アサリ自身

が生育しにくくなっており、またアサリの水質浄化能力が十分に発揮できないためである。 地球が長い年月をかけて築き上げてきた環境を一瞬にして壊すことは容易になりつつあるが、一度

壊してしまった環境を元通りに修復することは非常に困難であり、また長い年月を要する。そうなら

ないためにも私たちは美しい海やそこに生活する生物を大切にし、守っていく必要があると考える。

人間の営みによって環境を壊してしまったならば、人間の手によって守る努力をしていくべきである。 9 参考文献

フォトサイエンス生物図録 数研出版 気象庁 http://www.jma.go.jp/jma/index.html

生物③  アサリの水質浄化能力と環境条件 4

-71-

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5 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

10 謝辞

今回の実験において、私たちがアサリの水質浄化に興味をもつきっかけとなる講義をしてくださっ

た福岡女子大学国際文理学部環境科学科の山田真知子教授、そしてさまざまな指導やアドバイスをく

ださった香住丘高校の先生方、本当にありがとうございました。 私たちは今回の研究で、疑問にぶつかり、悩み、試行錯誤し、先生方に相談し、解決するというこ

とを体験しました。そして、このサイクルを通して課題解決能力を培い、先生たちとの関係を築くこ

とができたように思います。また、思考することの楽しさ、一つの課題を追究する楽しさを学ぶこと

ができました。今回の経験はきっと高校生活の思い出だけには留まらず、大学での研究に活かされる

と思います。本当にありがとうございました。 図1 各試料と吸光度の変化

試 料 小麦粉 食用色素 合成洗剤 コーヒー アサリの有無 有 無 有 無 有 無 有 無 吸光度 実験前 0.878 0.113 0.290 0.092

実験後 0.231 0.475 0.037 0.050 0.135 0.148 0.115 0.092 図2 各試料の平均粒径

図3 環境条件と浄化率

図4 ビーカー内で観察された偽糞

小麦粉 50μm 食用色素 10μm以下 合成洗剤 - コーヒー 30μm

生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件5

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5 生物③ アサリの水質浄化能力と環境条件

10 謝辞

今回の実験において、私たちがアサリの水質浄化に興味をもつきっかけとなる講義をしてくださっ

た福岡女子大学国際文理学部環境科学科の山田真知子教授、そしてさまざまな指導やアドバイスをく

ださった香住丘高校の先生方、本当にありがとうございました。 私たちは今回の研究で、疑問にぶつかり、悩み、試行錯誤し、先生方に相談し、解決するというこ

とを体験しました。そして、このサイクルを通して課題解決能力を培い、先生たちとの関係を築くこ

とができたように思います。また、思考することの楽しさ、一つの課題を追究する楽しさを学ぶこと

ができました。今回の経験はきっと高校生活の思い出だけには留まらず、大学での研究に活かされる

と思います。本当にありがとうございました。 図1 各試料と吸光度の変化

試 料 小麦粉 食用色素 合成洗剤 コーヒー アサリの有無 有 無 有 無 有 無 有 無 吸光度 実験前 0.878 0.113 0.290 0.092

実験後 0.231 0.475 0.037 0.050 0.135 0.148 0.115 0.092 図2 各試料の平均粒径

図3 環境条件と浄化率

図4 ビーカー内で観察された偽糞

小麦粉 50μm 食用色素 10μm以下 合成洗剤 - コーヒー 30μm

1 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

1 要旨、概要

私たちは、食品から抽出した殺菌成分を用いた新しい洗剤を作製しようと考えた。そして今回は、

第1段階として身の回りの食品に着目し食品の持つ殺菌作用について調べた。今回私たちが行った実

験は大きく分けて2種類の実験を行った。一つは予備実験として洗剤を試料として洗剤の殺菌作用に

ついて調べた。殺菌の対象に学校のトイレから採取し培養した大腸菌を用いて試料の塗布後の菌の有

無で判断した。培地に生息する菌が残ったままの場合は殺菌作用が確認できないとし、培地に生息す

る菌が無くなった場合は殺菌作用が確認できたとした。もう一つは洗剤の殺菌作用を調べると同時に

食品の殺菌作用も調べた。試料とする食品は、一般的によく使用される食品のなかでも殺菌作用があ

ると噂されるものや、私たちが殺菌作用があるのではないかと考えたものを使用した。また、対象と

する菌を大腸菌からレバーに変えて実験を行った。レバーから得た菌に試料を塗布したものを培地に

うつし、菌の出現の有無で判断した。培地に菌が出現した場合は殺菌作用が確認できなかったとし、

菌が出現しなかった場合は殺菌作用が確認できたとした。

2 問題提起・研究目的

普段私たちが使っている洗剤には殺菌作用のある化学物質が含まれている。その化学物質は人体に

悪影響のないように改善されてはいるが、やはり不安が残る。また、洗剤の正しい使い方を知らない

国もあり、食器に洗剤をつけたまま洗い流さずそのまま使用するという国もある。そこで私たちは、

洗剤に入っている化学物質を食品の持つ殺菌成分の抽出物に変え、安全でそのような使用方法でも安

心できる新しい洗剤を作ろうと考えた。そして今回は新しい洗剤作製の第1段階として、まずはどの

食品がもつ殺菌作用が新しい洗剤の作製に適するのかを研究することにした。その際に対象とする食

品は、今までに殺菌作用があると聞いた事がある食品を用いることとした。さらに、香りの強い食品

に殺菌作用が多くあるのではないかと考え、今までに殺菌作用があると聞いた事がある食品に加えて

香りの強い食品を用いることにした。そして、今回の目的は新しい洗剤の作製に用いるのに適する食

品を調べることが目的であるので、同時に市販の洗剤の殺菌作用についても調べることとした。

洗剤の殺菌成分は界面活性剤であり、これはいわゆる逆性石鹸と称され、現在広い分野で殺菌剤

として使用されている。この殺菌剤と同様の効果が期待される食品を4点あげる。1つ目の梅干は、

かなり強い殺菌作用を持つクエン酸を含んでいる。2つ目のレモンもこのクエン酸を含んでおり、さ

らにレモンでは皮の部分と果実の部分でクエン酸の含有率が異なる。一般には果実よりも皮の部分に

多く含まれている。3つ目の生姜の殺菌成分は辛み成分であるショウガオールとジンゲルロールであ

る。最後に、ネギはアリシンという殺菌成分を含んでいる。これらの食品の殺菌作用と洗剤の殺菌作

用を比較する。

3 研究方法

初めに培地づくりや、無菌状態を保つために必要な滅菌について述べる。滅菌する際の物理的方法

には火炎滅菌、乾熱滅菌、常圧蒸気滅菌、高圧蒸気滅菌、煮沸滅菌、濾過除菌、各種電磁波の7つが

ある。今回はその中の乾熱滅菌と高圧蒸気滅菌を用いた。

乾熱滅菌はガスや電気ヒーターを熱源とした乾熱滅菌器中で、160~180℃、30分間加熱する方法で

ある。シャーレを新聞紙などで包んで高熱に耐えられるようにして滅菌を行う。温度が 200℃以上に

なると新聞紙が燃えるので注意が必要である。また、滅菌器内の壁面に新聞紙が接触するとやはり燃

える場合があるが、扉を開いてはならない。加熱が終了したら熱源を切り、内部の温度が低下するま

食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

3年 鬼束 由梨、片岡 聡、木村 紗己、久地浦 将、谷口 彩、吉村 恵理、熊谷 茜

生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~ 1

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2 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

で待つ。熱い時に扉を開くとガラス器具が急冷されて破損する場合がある。乾熱滅菌を行うと新聞紙

はきつね色となる。この滅菌操作によって微生物の栄養細胞はもちろん、耐熱性の強い胞子までも殺

菌できる。

次に高圧蒸気滅菌は高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)を用いて、加圧することにより 100℃以上

の蒸気中で加熱し微生物を死滅させる方法で、通常は 1気圧加圧(2気圧、120℃)、15~30分間行う。

この滅菌操作により、微生物の栄養細胞のみならず胞子も一回の加熱で完全に殺菌できることから、

ほとんどの培地はこの方法で滅菌を行う。高圧蒸気滅菌器を使用する場合、内部を加圧にするので蓋

を確実に閉じることと、加熱終了後に圧力が大気圧になってから蓋を開けることについて特に注意が

必要である。加熱時に蓋が閉じていないと危険であると同時に十分に加圧が行われず、また内部の圧

力が大気圧以上の時に蓋を開けると、培地などが沸騰してしまいシャーレから飛び出したり綿栓が飛

びぬけたりする。

実験1

私たちは生活をする中で多くの生き物と関わっている。その中で私たちが肉眼で見ることが難しく

様々な関わりを持つ生物は細菌類だ。その中には様々な有機化合物を生産するものがいる。今回は「食

器用の新しい洗剤作製」を目標としているので、身近に存在する大腸菌に着目した。

使用道具

〈*1〉 寒天培地(組成は酵母エキス 2.5ℊ/ℓ、カゼイン製ペプトン 5.0 ℊ/ℓ、ブドウ糖 1.0 ℊ/ℓ、

カンテン 15.0 ℊ/ℓ)、圧力鍋、ガスバーナー、シャーレ、恒温機、インキュベーター、コニカルビ

ーカー、ろ紙、洗剤(ナツメヤシ、ジョイ、キレイキレイ、食用洗剤、エコベール)、ブリーチ(漂

白剤)、ハンドソープ、フードスタンプ(大腸菌採取用)

実験手順

1. 使用器具の加熱殺菌(加熱殺菌をすることで器具に付着している菌を殺す事ができる)

2. 培地の作製

① コニカルビーカーに粉末状の寒天培地を 1.2gとる

② ①のコニカルビーカーに蒸留水を 50mlいれ、コニカルビーカーの口をアルミホイルで包

③ 水を入れた圧力鍋にコニカルビーカーをいれ圧力が上昇してから 20分加熱する

④ 火をつけたガスバーナーの周りで加熱殺菌したシャーレにとかした培地を入れる

⑤ 培地が固まったら上下逆さまにして恒温器に入れ 1日放置し、コンタミしていないかを確

認する

3. フードスタンプを用いて学校内のトイレなどから大腸菌を採取、恒温機に入れ1日置いて培養

4. 2で作った培地に大腸菌を植え付け、恒温機に入れ1日置いて培養する

5. 4で培養した大腸菌に用意した洗剤を染み込ませたろ紙をのせる

6. 5の培地を恒温機に入れ1日置く

7. 観察

実験2

実験1の結果をふまえ、実験2はろ紙を用いた実験を改め、大腸菌の耐性が強いことを考慮し抗菌

作用に対しての耐性がトイレから採取した大腸菌より弱く、より身近にある食品としてレバーから菌

を採取することにした。また、今回は食品の殺菌作用も実際に調べることにした。対象となる食品は

レモン、梅干し、長ネギを使用した。レモンは事前調査で殺菌成分が皮に多く含まれることを知った

ので、皮のみを用いることとした。梅干しは食材として果肉を用いることが多いので種を取り果肉の

生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~2

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2 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

で待つ。熱い時に扉を開くとガラス器具が急冷されて破損する場合がある。乾熱滅菌を行うと新聞紙

はきつね色となる。この滅菌操作によって微生物の栄養細胞はもちろん、耐熱性の強い胞子までも殺

菌できる。

次に高圧蒸気滅菌は高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)を用いて、加圧することにより 100℃以上

の蒸気中で加熱し微生物を死滅させる方法で、通常は 1気圧加圧(2気圧、120℃)、15~30分間行う。

この滅菌操作により、微生物の栄養細胞のみならず胞子も一回の加熱で完全に殺菌できることから、

ほとんどの培地はこの方法で滅菌を行う。高圧蒸気滅菌器を使用する場合、内部を加圧にするので蓋

を確実に閉じることと、加熱終了後に圧力が大気圧になってから蓋を開けることについて特に注意が

必要である。加熱時に蓋が閉じていないと危険であると同時に十分に加圧が行われず、また内部の圧

力が大気圧以上の時に蓋を開けると、培地などが沸騰してしまいシャーレから飛び出したり綿栓が飛

びぬけたりする。

実験1

私たちは生活をする中で多くの生き物と関わっている。その中で私たちが肉眼で見ることが難しく

様々な関わりを持つ生物は細菌類だ。その中には様々な有機化合物を生産するものがいる。今回は「食

器用の新しい洗剤作製」を目標としているので、身近に存在する大腸菌に着目した。

使用道具

〈*1〉 寒天培地(組成は酵母エキス 2.5ℊ/ℓ、カゼイン製ペプトン 5.0 ℊ/ℓ、ブドウ糖 1.0 ℊ/ℓ、

カンテン 15.0 ℊ/ℓ)、圧力鍋、ガスバーナー、シャーレ、恒温機、インキュベーター、コニカルビ

ーカー、ろ紙、洗剤(ナツメヤシ、ジョイ、キレイキレイ、食用洗剤、エコベール)、ブリーチ(漂

白剤)、ハンドソープ、フードスタンプ(大腸菌採取用)

実験手順

1. 使用器具の加熱殺菌(加熱殺菌をすることで器具に付着している菌を殺す事ができる)

2. 培地の作製

① コニカルビーカーに粉末状の寒天培地を 1.2gとる

② ①のコニカルビーカーに蒸留水を 50mlいれ、コニカルビーカーの口をアルミホイルで包

③ 水を入れた圧力鍋にコニカルビーカーをいれ圧力が上昇してから 20分加熱する

④ 火をつけたガスバーナーの周りで加熱殺菌したシャーレにとかした培地を入れる

⑤ 培地が固まったら上下逆さまにして恒温器に入れ 1日放置し、コンタミしていないかを確

認する

3. フードスタンプを用いて学校内のトイレなどから大腸菌を採取、恒温機に入れ1日置いて培養

4. 2で作った培地に大腸菌を植え付け、恒温機に入れ1日置いて培養する

5. 4で培養した大腸菌に用意した洗剤を染み込ませたろ紙をのせる

6. 5の培地を恒温機に入れ1日置く

7. 観察

実験2

実験1の結果をふまえ、実験2はろ紙を用いた実験を改め、大腸菌の耐性が強いことを考慮し抗菌

作用に対しての耐性がトイレから採取した大腸菌より弱く、より身近にある食品としてレバーから菌

を採取することにした。また、今回は食品の殺菌作用も実際に調べることにした。対象となる食品は

レモン、梅干し、長ネギを使用した。レモンは事前調査で殺菌成分が皮に多く含まれることを知った

ので、皮のみを用いることとした。梅干しは食材として果肉を用いることが多いので種を取り果肉の

3 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

みを用いることとした。ネギは緑色の部分と白色の部分で含まれる殺菌成分の量が異なると考え、今

回は緑色の部分が多い長ネギの白色の部分を取り除き、緑色の部分のみを用いることとした。

使用道具

(*1)と同様、洗剤、蒸留水、粘着綿棒

使用食材

(*2)レバー,レモン,梅干し,長ネギ

実験手順

1. 使用器具を加熱殺菌(加熱殺菌をすることで器具に付着している菌を殺す事ができる)

2. 培地の作製(実験1と同様)

3. シャーレにレバーを置き菌を繁殖させ、恒温機に入れ 30分置く

4. 試料の準備

ネギ…根に近い部分を切り落とし、緑色の部分をミキサーで粉砕する。そして、ガーゼと

ビーカーを用いて抽出液を得る

レモン…皮をミキサーで粉砕しネギと同様に抽出液を得る

梅干し…種を取り、蒸留水を少量入れミキサーで粉砕しネギと同様に抽出液を得る

5. 3のシャーレに蒸留水と4の試料を塗り1日置く(このときコントロールとして、何も塗らな

いシャーレを作っておく。)

6. 粘着綿棒で4のシャーレをこすり、2の培地に塗る

7. 5の培地を恒温機に入れ1日置く

8. 観察

実験3

実験2の結果をふまえ、今回は乾燥に対して水で湿らせた綿棒で菌をすくうことや試料塗布後の時

間を短縮して作業を行うことで対処し、レモンは皮の代わりに果実から絞った果汁を使用し、ネギは

太く白い部分をもつ万能ネギを使用することとする。また、類似した先行研究の中で生姜を用いてお

り、殺菌作用があるとされている生姜を用いることにした。

使用器具

(*1)と同様、洗剤、粘着綿棒

使用食材

(*2)と同様,万能ネギ,生姜

実験手順

1. 使用器具の加熱殺菌(加熱殺菌をすることで器具に付着している菌を殺す事ができる)

2. 培地の作製(実験1と同様)

3. シャーレにレバーを置き、菌を付着させ、恒温機にいれ 30分置く

4. 試料の準備

ネギ・梅干し…実験2と同様に抽出液を得る

レモン…果実を用いて実験2と同様に抽出液を得る

生姜…ネギ・梅干しと同様に抽出液を得る

5. 3のシャーレに蒸留水と4の試料を塗り 15分置く

6. 粘着綿棒で4のシャーレをこすり、培地に塗る

7. 5の培地を恒温機に入れ一日置く

8. 観察

生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~ 3

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4 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

4 結果

実験1

すべての試料において大腸菌は死滅しなかった。

写真2、表1

実験2

水、コントロール、梅干し、洗剤の培地には菌は全く生育しなかった。

レモン、ネギの培地には菌が生育していた。

写真3、表2

実験3

レモン、梅干し、水、洗剤の培地には菌が生育していなかった。

ネギ、生姜の培地には菌が生育していた。

写真4、表3

5 考察

実験1

実験1ではすべての試料において大腸菌は死滅しなかった。今回大腸菌が死滅しなかったのは洗剤

がろ紙に十分にしみこんでいなかったこと、洗剤に含まれていた水分が蒸発して洗剤に含まれている

物質が固まって効果がなかったこと、そしてトイレから採取した大腸菌は使用した洗剤に対しての耐

性が強いためだと考えた。

大腸菌の耐性が強いことを考慮し2回目の実験からは抗菌作用に対しての耐性がトイレから採取し

た大腸菌より弱く、より身近な食品(レバー)から菌を採取することにする。そして、次回から洗剤だ

けでなく同時に食品の殺菌作用も調べることとする。

実験2

実験2では、水、コントロール、梅干し、洗剤の培地には菌は全く生育していなかった。水、コン

トロールは、試料を塗ったシャーレが乾燥していて菌が綿棒に付着しなかったので菌が生育していな

かったと考えた。梅干しはまだ1回目なので断定はできないが殺菌作用がある可能性があるのではな

いかと考えた。ネギの培地は小さい点々という形で菌が生育していた。今回は長ネギの緑の部分で実

験を行ったので、殺菌作用は太いネギの白い部分にあるのではないかと考えた。レモン(皮)は全面に

菌が繁殖していた。これは、培地に塗布する際に培地を傷つけたことが原因であると考えられる。も

しくは、レモン(皮)は細菌、雑菌に対して殺菌作用が作用しないのではないかと考えた。

また、最近レバーを市場に出す際の規制が厳しくなり、加工の際に殺菌処理がなされているため菌

が生育していなかったのではないかとも考えられる。

次回は乾燥に対して水で湿らせた綿棒で菌をすくうことや試料塗布後の時間を短縮して作業を行う

ことで対処し、レモンは皮の代わりに果実から絞った果汁を使用し、ネギは太く白い部分をもつ万能

ネギを使用することとする。また、類似した先行研究の中で生姜を用いており、結果が出ていたので

生姜(*)を用いることにした。

実験3

実験3では、レモン、梅、水、洗剤の培地には菌が生育していなかった。今回レモンは果汁を使用

した。ネギには菌が生育していて、生姜はどの培地よりも菌が生育していた。

2回目と3回目の実験を比較すると、レモンの皮には殺菌作用が含まれておらず、果汁に含まれて

いると考えられる。梅は二回目も三回目も菌が生育していなかったので梅は殺菌作用をもつと考えら

生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~4

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4 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

4 結果

実験1

すべての試料において大腸菌は死滅しなかった。

写真2、表1

実験2

水、コントロール、梅干し、洗剤の培地には菌は全く生育しなかった。

レモン、ネギの培地には菌が生育していた。

写真3、表2

実験3

レモン、梅干し、水、洗剤の培地には菌が生育していなかった。

ネギ、生姜の培地には菌が生育していた。

写真4、表3

5 考察

実験1

実験1ではすべての試料において大腸菌は死滅しなかった。今回大腸菌が死滅しなかったのは洗剤

がろ紙に十分にしみこんでいなかったこと、洗剤に含まれていた水分が蒸発して洗剤に含まれている

物質が固まって効果がなかったこと、そしてトイレから採取した大腸菌は使用した洗剤に対しての耐

性が強いためだと考えた。

大腸菌の耐性が強いことを考慮し2回目の実験からは抗菌作用に対しての耐性がトイレから採取し

た大腸菌より弱く、より身近な食品(レバー)から菌を採取することにする。そして、次回から洗剤だ

けでなく同時に食品の殺菌作用も調べることとする。

実験2

実験2では、水、コントロール、梅干し、洗剤の培地には菌は全く生育していなかった。水、コン

トロールは、試料を塗ったシャーレが乾燥していて菌が綿棒に付着しなかったので菌が生育していな

かったと考えた。梅干しはまだ1回目なので断定はできないが殺菌作用がある可能性があるのではな

いかと考えた。ネギの培地は小さい点々という形で菌が生育していた。今回は長ネギの緑の部分で実

験を行ったので、殺菌作用は太いネギの白い部分にあるのではないかと考えた。レモン(皮)は全面に

菌が繁殖していた。これは、培地に塗布する際に培地を傷つけたことが原因であると考えられる。も

しくは、レモン(皮)は細菌、雑菌に対して殺菌作用が作用しないのではないかと考えた。

また、最近レバーを市場に出す際の規制が厳しくなり、加工の際に殺菌処理がなされているため菌

が生育していなかったのではないかとも考えられる。

次回は乾燥に対して水で湿らせた綿棒で菌をすくうことや試料塗布後の時間を短縮して作業を行う

ことで対処し、レモンは皮の代わりに果実から絞った果汁を使用し、ネギは太く白い部分をもつ万能

ネギを使用することとする。また、類似した先行研究の中で生姜を用いており、結果が出ていたので

生姜(*)を用いることにした。

実験3

実験3では、レモン、梅、水、洗剤の培地には菌が生育していなかった。今回レモンは果汁を使用

した。ネギには菌が生育していて、生姜はどの培地よりも菌が生育していた。

2回目と3回目の実験を比較すると、レモンの皮には殺菌作用が含まれておらず、果汁に含まれて

いると考えられる。梅は二回目も三回目も菌が生育していなかったので梅は殺菌作用をもつと考えら

5 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

れる。生姜は殺菌成分が揮発性であるため、すりおろした時に成分がとんでしまい、殺菌できなかっ

たと考える。

6 結論

実験2、実験3の水でうまく観察されなかったのは、作製した培地が菌が生育するために必要な養

分が十分になかったか、レバーに菌が付着していなかったためではないかと考えられる。しかし、レ

モン(皮の部分)やネギ、生姜で菌が生育したのは、それぞれの食品に付着していた菌が生育したもの

と考えられる。従って、再度同じ実験を行い、その実験でもうまく観察されない場合は培地の成分組

成や、菌を採取食品を変更するか考える必要がある。

次に、最終目標である洗剤作製に関しては、容易な洗剤の作り方として水500mlに重曹を大さじ

一杯加えよく振り、殺菌作用を持つ食品のエキスを加える方法を考えている。

今回は十分な回数実験を行えなかったため正確なデータをとることができなかった。しかし、その中

でも梅干しは、実験2、実験3ともに培地に一切菌が繁殖しなかった事から、今回使用した食材の中

では「新しい洗剤作製」に適した食品に最も近いのではないかと思われる。今後も継続して実験を行

い、新たな洗剤の作製につなげていきたい。

7 参考文献

薬膳の書~第 30弾葱

梅の医学的効果

「レモンと健康」に関する研究の動向

植物の殺菌効果とそのメカニズム

微生物実験マニュアル

生活微生物基礎実験

8 謝辞

本研究を行うにあたり、危機管理や研究発表原稿の確認など多くの面で御尽力賜りました松山先生

を始めとする香住丘高等学校教職員の方々及び、専門的かつ高度な視点から指導して頂きました大学

教授の方々に厚く御礼申し上げます。

9 図表・画像

写真1(大腸菌を観察したフードスタンプ)

写真2(実験1の結果)

生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~ 5

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6 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

試料 菌の有無

コントロール① -

コントロール② -

水① -

水② -

洗剤① -

洗剤② -

梅干し① -

梅干し② -

レモン① +

レモン② +

ネギ① +

ネギ② +

表 1(実験1の結果)

写真3(実験2の結果)

表2(実験2の結果)

写真4(実験3の結果)

表3(実験3の結果)

試料 菌の有無

水① -

水② -

洗剤① -

洗剤② -

梅干し① -

梅干し② -

レモン① -

レモン② -

ネギ① +

ネギ② +

生姜① +

生姜② +

試料 菌の有無

ナツメヤシ

ジョイ +

キレイキレイ +

食用洗剤 +

エコベール +

ブリーチ(漂白剤) +

ハンドソープ +

生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~6

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6 生物④ 食品の殺菌作用 ~新しい洗剤を作ろう~

試料 菌の有無

コントロール① -

コントロール② -

水① -

水② -

洗剤① -

洗剤② -

梅干し① -

梅干し② -

レモン① +

レモン② +

ネギ① +

ネギ② +

表 1(実験1の結果)

写真3(実験2の結果)

表2(実験2の結果)

写真4(実験3の結果)

表3(実験3の結果)

試料 菌の有無

水① -

水② -

洗剤① -

洗剤② -

梅干し① -

梅干し② -

レモン① -

レモン② -

ネギ① +

ネギ② +

生姜① +

生姜② +

試料 菌の有無

ナツメヤシ

ジョイ +

キレイキレイ +

食用洗剤 +

エコベール +

ブリーチ(漂白剤) +

ハンドソープ +

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平成25年度スーパーサイエンスハイスクール

生徒課題研究論文集発行日 平成26年2月21日発行者 福岡県立香住丘高等学校住 所 〒813-0003 福岡市東区香住ヶ丘1丁目26番1号電 話 092-661-2171FAX 092-673-1567E-mail [email protected]

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