日系企業がタイ進出で成功する秘訣
DESCRIPTION
TRANSCRIPT
�
日系企業がタイ進出で�
成功する秘訣�
�株式会社せおん 代表取締役 越 純一郎 �
(元 バンクタイ シニア・アドバイザー) �
Eメールでお問い合わせをいただいた場合には、 必ず御返事いたします([email protected])
1
日系企業の進出の現状�タイには日系企業7000社が進出�
– インドネシアは1300社�– マレーシアは1400社�
�
インドネシアの人口はタイの4倍、マレーシアは2.5倍。�
人口1人当たりの日系企業数は、�
タイはインドネシアの21倍、マレーシアの2倍。���
�
2010年の日本からの投資は33億㌦以上�
– アセアンでは2位のベトナムの1.6倍�– 対中投資でさえ42億㌦�
�
中国の人口はタイの20倍強(6800万v.s.13。5億)�� だが、日本からの投資額はタイの1.2倍に過ぎ� ない(42億㌦v.s.33億㌦)。�� 人口1人当たりでは、日本からの投資額は、�
タイは中国の150倍。�
2011年上期(1-6月)の日系企業投資額は、前年同期比2.3倍�
– 対フィリピン投資(同1-3月)は40%減�– 対マレーシア投資(同1ー3月)は、54%減�
これらの背景には、本講で御説明することを含め、次のような事項が関連:�
– インフラの整備�
– 既存の産業集積�
– 親日性�
– 労働力のアベイラビリティ�
– 英語が不十分でも何とかなる�
– 産業政策��
本講は、「タイへの日系企業進出ラッシュが、ずっと続いてきた」背景を解き明かしつつ、(洪水にも触れつつ)今後を考えるものです。�
(主な結論は、「タイ重視路線は変わらないであろう」ということ、並びに、「人口動態問題と中国問題・ギリシャ問題等を軽
視してはならない」ということです。)
2
洪水問題について��• 今次の洪水は人災�
– タイの洪水は毎年のことであり、古くからのことであり、今年だけではない。国家的課題として、常に議論されていた。 �
– プミポン国王陛下は治水に思いを致され続けていらした�
– しかし、実際には治水対策はおろそかにされてきた。 �
– 「みんなで渡れば怖くない」日系企業は多くあった �
• 今後のポイントは? �– 今後も気象・地勢は変わらない。今後も治水対策は必要。 �– テロ/地震/原発/人治国家問題/強権政治等に比べると、洪水は; �
• 問題を明確に特定しやすい�• 確実な対策を立案し易い(対策の有効性を検証し易い)�
– したがって、今後の最大の問題は、タイ政府がやがて策定・公表するであろう治水対策の有効性を見極めることがポイント �
– 産業面への影響は、企業の規模・業種等によって異なる(次頁、次々頁)�
3
洪水によって変わるもの �
• 進出検討の方式 �– タイへの一極集中的な「ムード」�
• 大手サラリーマン企業では「タイに居続けるべき理由」を社内的に探そうとする動きも出るのではないか �
• オーナー企業では、オーナー自身が自分で考え直す契機となるのではないか �– 進出先選定における検討方式の精緻化�
• 各国を「メリット比較」ではなく、「リスク比較」で見る。予防法務、BCPも重視。 �• 信頼度の低い「各国 労賃比較」データなどの再検討�
• アセアンにおける供給体制�– 分散立地の発想の進展(特に、大手企業)?�– 大手がタイから移転した場合の影響�
4
洪水によっても変わらないもの � 7000社にも達した進出の容易性は大きくは変化せず �
• タイの地政学的状況、タイの特性�– 地理的位置�– 親日性 �– 国民性 �– 賄賂・腐敗等の問題が軽微、ないし無い�– 日本語でビジネスのできるという特性(中小企業にとっては重大問題)�– 制度(BOI、税制、労働法制、その他)��
• タイの経済状況�– 当面は継続する経済成長(今年の減速、来年の回復、治水公共工事の景気浮揚効果)�– 人口動態(後述)�– 産業集積、インフラ�– 産業政策、財政金融政策�– ハイウェイ(所謂「東西回廊」) �– 中進国としての課題 �
5
【 11月2日 タイ人の知人からのメール】�
現在のところ、弊社も自宅も無事です。連日の洪水ニュースがうそのように、この辺りは静かです。�
�
プミポン国王陛下が治水をお命じになった、という報道があったんですね。越さんのおっしゃる通り、もし本当にはっきりと国王陛下がそう命じられたのであれば、治水計画が進み、経済にもそれが寄与して大変いいと思います。多分、タクシンの妹である現首相のインラック氏が、ようやく国王陛下との面会を許して貰えて、お会いした時のことではないかと思います。でも国王陛下はずっと以前から、ご自身で治水の研究をされて、ダム建設を推奨・実践されてきた方ですからね。今度こそ本当に、国が一体となって治水対策に臨んでくれることを期待します。�
�
ただし、忘れてはいけないのは、今回の洪水は人災であるという側面です。せっかく国王陛下が東北部から中部にかけてダムを作ってくださったのに、それらのダムでの放水計画が予定通りに行われなかった点、アユタヤに工業団地を集中して造成しすぎた点(天然の貯水池がなくなってしまった)、以前は水の都だったバンコクの水路を埋め立てて道路を作りすぎた点、タクシン元首相も治水計画を実現しようとしたが、政治的対立で結局行われなかった点、そして、最悪の場合を想定したリスク管理が日系企業を含めて、今回被害の大きかった工業団地内ではおろそかにされていた点、などが上げられます。�
�
これらの点を深く反省と共に見直し、大国全体の治水計画を推し進めてくれる事を期待したいと思います。最近テレビなどで使われているNEW THAILAND計画の一部になろうかと思います。�
6
洪水に関するマル秘情報
• 日本のT大学の土木チームが極秘裏に、タイで調査を実施。
• その結果は、公表されなかった。
• その理由は、いったい何故か!?
これは、「洪水がコントロール可能」であることを示している。
7
洪水の影響をまとめると �
1. 当面�① 今年度経済成長率の鈍化、治水工事の景気浮揚効果�② 熱気の変化?�
2. 日系企業の進出動向�① 大手企業: 立地政策の見直し、供給体制変化?�② 中小企業: 大きくは変化しない(日本語問題、進出の容易性)�
�
3. 治水関係�① 政府は確実な治水対策を行なわざるを得ない(cf. NEW THAILAND計画)�② 治水対策の有効性は検証し易い(テロ対策等と比べて)�
4. 変化しないファクターのほうが多い�① 地政学的特徴、親日度、国民性、産業・インフラ、経済政策 ect. �② 「チャイナ・リスク」のほうがマグニチュードは大きいかも。要注意。�
8
タイにも多大な影響を及ぼす「チャイナ・ショック」の予感 �
中国経済の減速、崩壊、社会不安定化、中国は第3次富裕層国外流出ブーム �
• 社会の不安定化(暴動の激化など)によって中国社会が混乱・崩壊することを回避ためには:�
– これ以上の失業率の上昇を回避することが必要 �– そのためには、年間で新規雇用を1000~1200万人を創出することが必要。 �
• 上記のためには毎年9.5%の経済成長が必要だが・・・ �– これは、世銀による推計(2008年発表)�– このため、新聞報道でも、中国の成長率が9.5%を上回るか否かに焦点をあてたものが見られる �
• しかも、経済成長1%によって創出できる新規雇用の規模が年々縮小 �
– これを例えて、イアン・ブレマーは「ルームランナーのベルトの速度がだんだん早まるので、遅れずに走り続けなければならない状態」と言っている(「自由市場の終焉」日経)�
– 永遠に9.5%以上の成長を確保することは、現実的ではない。 �
• それに加えて、中国の人口ボーナス期がまもなく終了(遅くとも2015年)するので、その3年後、つまり遅くとも2018年頃から経済が失速する可能性を見ておかねばならない。 �
– 中国の場合、経済の減速が、それだけでは止まらず、暴動の激化などの社会不安定化要因となりえることが、他国と大きく異なる �
– 中国の経済規模は大きいので、混乱・崩壊の影響も大きい�– だが、現段階では、中国経済の崩壊・混乱の予測は多いが、具体的影響の予測・推定はほとんど無い�
9
タイを良く知ろう�
① 世界有数の親日国 例えば; ��リットン調査団報告書採択では棄権�
�クーカム(「君の名は」のような恋愛小説。主人公は日本人青年将校)�
�外人人気アンケートでは日本人がNo.1�
�プミポン国王陛下の手に日本製カメラ(1000バーツ札に印刷された国王陛下の肖像) �
�バンクタイのピラシン元頭取は横浜国大 �
�タイ中銀のタリサ元総裁は慶応義塾大学 �
��
�鎌倉の大仏(高徳院)には: ��
� �1902年ワシラウッド皇太子殿下(後のラーマ6世)お手植えの松 �
� �1931年プラチャティポック国王陛下(ラーマ7世)お手植えの松� � �1987年ワシラロンコーン皇太子殿下お手植えの松�
10
② 日本と同じだと思ってしまいがちな諸点 例えば;�
�司法試験制度は日本と同じか?�
�弁護士は日本と同じものか?�
�司法書士、行政書士、弁理士はあるのか?�
�不動産登記制度は有るのか?(日本と同様の登記制度がある国は極めて少ない)�
�土壌汚染対策法は有るのか?(後からできると厄介?)�
�病院や会計事務所の法人格は何か?�
�病院は上場できる? 法律事務所は上場できる?�
�バケーション前には、奥さんたちにボーナスの約束?�
�労働裁判所とは?�
�追徴課税を争う方法は?
�昇格、昇任、昇給�
11
③ 「タイ通のタイ知らず」に伴う風景��タイ人と御結婚されている方が、タイの文化・ビジネスを良く理解されているとは限らない�
�タイに永住されている方がタイに精通されているとは限らない�
�
④ 「タイには怪しげな日本人が多い」という実感を�
共有している方々はたくさんいます。�
�このことは非常に残念であり、また、注意が必要。�
�よく言われるのは『日本人を騙すのも、同じ日本人』。�
�グーグル検索で「詐欺」と出てくるタイ在住者が、日本では「タイの〇〇先生」だった�
��
⑤ 「タイで長らく事業をされている日系企業」が�
タイに精通されているとは断言できません。�
�「地図無しに地雷原を歩いたが、偶然、今までは無事だった」だけのケース�
�「本当は痛い目に会ったが、表には出さない」ケース(表に出るのは「成功例」と自慢話)�
12
日系企業のサクセス・ストーリーの�背景にある要因を分類して考えると・・・�
今後も変化しない要因�
① 親日性、国民性�
② 地政学的、地理的状況�
③ 産業集積とインフラ�
④ 社会の腐敗が少ない、ほか�
変化し得る要因�
① タイの人口動態�
② 周辺国の人口動態*�
③ 中国、ギリシャなどの� 世界的な不況等の影響 �
*周辺国はタイにとって輸出市場�
13
日系企業のタイにおける成功を願って� 以下は、タイで事業をしたいと考えている私の認識ですが、同様に タイでの事業展開を御考えの方々の御参考に供したく存じます。
客観的検証を積み重ねると、タイにおける事業成功のパターン、コツ、必須事項が見えてくるように思えます。それを考える前提として、次の2つを指摘したいと思います。�
• タイ進出企業に多くみられる(失敗に繋がり易い)傾向を、一人相撲と表現したくなる時があります。それには、次のような幾つかのパターンや傾向があるように思います。�
– 日の丸連合(日本人関係者だけに依拠した事業推進)�– 先行例や前任者の延長線上の発想�– 「自分の場合は、こうだった」という経験値への依存が高い�– 外部専門家(弁護士、会計士など)への依存が少ない�– 分かったような気持ちになり易く、いったん安定航行状態になると気楽で快適�
• タイには日系企業が多いにもかかわらず、ニューヨーク、ロンドン、シンガポールなどに比べて:�
– 市場における(日本人社会における、ではなく)日系の金融機関の存在感は小さいようです�– 日系企業の、タイの地元財界に対する食い込みは浅いように思われます�– 日本の専門家(弁護士、会計士等)の存在感が非常に希薄です�
以下では、上記を踏まえて留意頂きたい事項を5点に分けて御説明いたします。
14
留意頂きたい事項�
単独進出や日の丸連合に伴う落とし穴には、よくよく注意されて下さい�
�
– 間接部門(特に、労務、法務、税務、総務)を日本人駐在員が完璧に把握・習熟し、それらのすべてを十全に行うことは不可能に近いのではないでしょうか。�
– 「優秀な現地スタッフを活用すれば良いのだ。それしかない。」という甘い考えでは、乗り切れません。今後、間接部門関係のリスクには注目が集まると見ています。�
– この面でも、信頼性の高い現地パートナーとの連携・合弁は、確かにある意味ではベストでしょう。�
�
– しかし、だからこそパートナー選定の誤りは、まさに命取り(!)になってしまうのです。私は間接的ながら10年近くにわたってタイと日系企業を見てきましたが、私の肌感覚では、日本人・日系企業(金融機関、商社、大手企業を含む)の大多数はタイの財界・産業界に良く食い込んでいるとは言い難い面があるし、バ
ック・グラウンド・チェック能力や判断能力には限界がある(多くの場合には無理)と思っています。�
15