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1 目次 第一章 序 第二章 [4+1]型環形成による, -ジフルオロシクロペンタノン誘導体の合成 第一節 銅錯体の検討 第二節 反応機構の検討 第三節 反応条件の検討 第四節 銅触媒による, -ジフルオロシクロペンタノン誘導体の合成 第五節 フッ素置換五員環ケトンの合成 第三章 実験の部 総括 謝辞 3 13 13 24 27 32 37 45 47 34

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Page 1: [4+1] 13...CH 3–NH 2 273 こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。 しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

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目次

第一章 序

第二章 [4+1]型環形成による, -ジフルオロシクロペンタノン誘導体の合成

第一節 銅錯体の検討

第二節 反応機構の検討

第三節 反応条件の検討

第四節 銅触媒による, -ジフルオロシクロペンタノン誘導体の合成

第五節 フッ素置換五員環ケトンの合成

第三章 実験の部

総括

謝辞

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13

13

24

27

32

37

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47

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Page 2: [4+1] 13...CH 3–NH 2 273 こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。 しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

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第一章 序

フッ素化した生理活性物質は、フッ素置換基を導入したことによって、生理活性の増強や体内動態

の改善を示す場合が多い。これは以下に挙げる理由のよるとされる。フッ素原子は、水素原子に次い

で van der Waals 半径が小さい 1)。このため、フッ素化された化合物はその母体の化合物と区別されず、

生体内に取り込まれる(ミミック効果)1)。また、炭素-フッ素結合は極めて安定であるため(Table

1)1)、一般に体内での代謝を受け難い(ブロック効果)。さらに、フッ素置換基の導入によって化合物

の脂溶性が増大し、細胞内に侵入し易くなる。これらの効果から、医農薬の開発において、含フッ素

化合物が重要な位置を占めるようになっている。

Table 1.

結合 結合エネルギー / kcalmol-1

CH3–F 472

CH3–H 432

CH3–OH 329

CH3–NH2 273

こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。

しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

を、[1]フッ素導入 と[2]含フッ素ユニット導入 に分類し、その問題点とともに概観する。

まず、フッ素導入による合成法は、さらに[1-1]化学量論的な手法 と[1-2]遷移金属を用いる触

媒的な手法 に分類できる。化学量論的な手法において最も典型的なのは、有機化合物にフッ素ガス

(F2)を作用させ、その炭素-水素結合を炭素-フッ素結合に変換する手法である(式 1)2)。一段階で

目的化合物が得られる点で有用であるが、反応の制御が難しく、多くの異性体が生成するため収率は

一般的に低い。加えて、フッ素ガスの反応は爆発の危険性も問題である。

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この他、化学量論的な官能基変換を利用する手法もある。すなわち、有機化合物に対してフッ素化

剤(F+等価体あるいは F-等価体)を作用させ、基質の官能基を足がかりにフッ素置換基を導入する方

法である。Selectfluor®(F+等価体、式 2)3) や 三フッ化(ジエチルアミノ)硫黄(DAST、F-等価体、式

3)4) などは取り扱い易くよく用いられるが、いずれも高価であるため大量合成を行うには難がある。

最近では、遷移金属による触媒的なフッ素導入も報告されている。例えば、触媒的なアミノパラデ

ーションを利用するフッ素置換ピペリジン誘導体の合成法がある(式 4)5)。また、金(I)触媒を利用す

る内部アルキンのヒドロフッ素化も知られている(式 5)6)。さらに、パラジウム(II)触媒を用いる炭素

-水素結合活性化を利用する(2-ピリジル)ベンゼンのフッ素化反応も報告されている(式 6)7)。また、

触媒的なクロスカップリング型のフッ素導入法もある(式 7)8)。これらの触媒反応により、有機化合

物にフッ素を導入する方法の選択肢が増えている。

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一方、含フッ素ユニット導入による有機フッ素化合物の合成も盛んである。これらはフッ素置換基

を有する小分子(ビルディングブロック)を利用して、骨格構築を行ないながら標的とする含フッ素

有機化合物を合成する手法である。例えば、1,1-ジフルオロエチレンから 3 段階を経て合成される 1-

フルオロビニルスルホンとイソベンゾフランの Diels-Alder 反応により、フルオロナフタレンが得ら

れる(式 8)9)。また、安価かつ大量に入手可能な p-フルオロベンズアルデヒドのような出発物質とし

て用いることで、Crestor のような複雑な骨格を有する生理活性天然化合物を合成することができる

(式 9)10)。含フッ素ビルディングブロックはその種類が限られ、また、多段階合成ゆえの収率低下に

は問題もあるが、骨格構築を同時に行えるのは合成化学上の利点である。

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これまで述べてきた、化学量論的・触媒的フッ素導入ならびに化学量論的含フッ素ユニット導入に

よる有機フッ素化合物の合成法に比べて、遷移金属を利用した触媒的な含フッ素ユニット導入による

有機フッ素化合物の合成法は少ない。最近では、クロスカップリング型のトリフルオロメチル化反応

(式 10)11) などが報告されつつあるものの、その絶対数はやはり少ない。

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以下に、ここまでに述べた含フッ素化合物の合成法とその問題点をにまとめて示す(Table 2)。

Table 2.

手法 化学量論的手法 遷移金属を利用する触媒的手法

フッ素導入

C-H の変換 F2など。

反応制御が困難。

Pd 触媒等による炭素-水素活性

化を経るフッ素化。

官能基変換 Selectfluor®、DAST など。

反応剤が高価。

Pd 触媒等による炭素-ヘテロ原

子や炭素-(擬)ハロゲン結合

のフッ素化。

フルオロカーボン

ユニット導入

含フッ素ビルディングブロッ

クによる多段階合成。

多工程による収率低下。

Cu 触媒等によるトリフルオロメ

チル化等。

反応例は少ない

筆者はこうした現状を鑑み、触媒的な含フッ素ユニット導入法の開発を目指した。そのための活性

種として、ジフルオロメチレン錯体、ジフルオロビニリデン錯体、ジフルオロアレニリデン錯体、と

いう一連のフッ素置換カルベン錯体に着目した(Figure 1)。

これらのフッ素置換カルベン錯体には、活性中間体としての有用性が期待できる。フッ素置換メチ

レン錯体はジフルオロメチレン(CF2)供与体として機能するものと予想されるが、医農薬にはジフ

ルオロメチレン部位を有するものが多く存在する。例えば、ジフルオロシクロプロパン部位を有する

ラクトン 1は抗癌作用を示す 12)。また、ジフルオロメトキシ基を有する Desfluraneは麻酔薬として 13)、

gem-ジフルオロシクロペンタン骨格を有する Gemcitabine は抗癌剤として、それぞれ実際に利用され

ている(Figure 2)14)。ジフルオロビニリデン部位やジフルオロアレニリデン部位を有する有用化合物

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の実例は少ないが、これらの錯体は二炭素あるいは三炭素のフルオロカーボンユニット導入のための

活性種として、大きな潜在力を秘めている。

しかし、遷移金属フッ素置換カルベン錯体を利用する触媒的合成反応を実現するために、克服すべ

き課題は多い。まず、通常のカルベン錯体に比べ、フッ素置換カルベン錯体の調製例は圧倒的に少な

い(式 11,12)15,16)。また、これら錯体の反応性に関する知見はさらに少なく、しかも、それらは錯体

化学的な研究に限られ、有機合成反応への利用はほとんどない。例えば、ルテニウム(0)ジフルオロメ

チレン錯体 2 に対して塩化水素を作用させると、メチレン炭素上でプロトン化が進行して、錯体 3 が

生成する(式 13a)。一方、同じ錯体 2 に第一級アミンを作用させると、メチレン炭素へのアミンの求

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核攻撃が進行して錯体 4 が生成する(式 13b)16,17)。これらの知見は、同一の錯体が Schrock 型(メチ

レン炭素が電子豊富)と Fischer 型(メチレン炭素が電子不足)の両方の性質を備えていることを示す

という点で興味深いが、これらを合成のための触媒活性種として利用した例は見当たらない。例外的

に、ルテニウム(II)ジフルオロメチレン錯体 5 による開環メタセシス重合が報告されているが(式 15)

18)、これは 5 を重合開始剤として用いるものであり、ジフルオロカルベン錯体を用いる触媒反応は未

開拓と言ってよい。

これに対して当研究室では、ジフルオロカルベン錯体を反応活性種として利用する有機合成反応の

開発を行ってきた。例えば、ニッケル触媒を利用するシリル=エノール=エーテルのジフルオロシクロ

プロパン化反応といった[2+1]付加環化を見出している 19,20)。すなわち、ニッケル(II)-NHC 錯体 6 の存

在下、 (1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 7a に 2,2-ジフルオロ-2-(フルオロスルホニル)酢酸トリメ

チルシリル(TFDA)を 作用させると、シロキシ基が置換したアルケン部位のジフルオロシクロプロ

パン化([2+1]付加環化)が選択的に進行する。生成したビニルシクロプロパン 8a の環拡大(ビニル

シクロプロパン転位)により、五員環ジフルオロシロキシシクロペンテン 9a が得られる(式 16)19,20)。

この反応では、反応系中でジフルオロメチレン錯体(A)が発生していると考えている。

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これらの結果を踏まえて、筆者は修士課程においてジフルオロカルベン錯体を用いる新たな反応の

開発を目指した。式 16 の前半部分のように、ジエン 7a からビニルシクロプロパン 8a のみが選択的

に得られる理由は以下のように考えられる。ニッケルなどのメチレン錯体にアルケンを作用させると、

TS-1 を経てシクロブタン化(式 17a)が進行し、B が系中で生成する。ここからさらに還元的脱離が

進行し、シクロプロパンを与える(式 17a)。アルケンの代わりにジエンを用いても、同様の経路でビ

ニルシクロプロパンが得られる(式 17b)。

一方、銅メチレン錯体では異なる反応経路をたどると思われる。銅-炭素の二重結合は典型的なメ

チレン錯体より弱いため(Table 3 右)、D のような共鳴構造の寄与が大きいと考えた(式 18)。また、

銅-炭素の単結合も弱いため(Table 3 左)、TS-1 のような金属-炭素結合を作る遷移状態は不利であ

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金属-炭素結合エネルギー21,22)

り、ジエンとの反応では TS-2 のような遷移状態を経由して環形成が起こると予想した。すなわち、銅

メチレン錯体とジエンとの反応で、メチレン部位をジエンに供与することにより、シクロペンテン環

の形成を期待した(式 18)。

Table 3.

結合 結合エネルギー /

kcalmol1

結合 結合エネルギー /

kcalmol1

Fe–CH3 242 Fe=CH2 347

Co–CH3 205 Co=CH2 326

Ni–CH3 188 Ni=CH2 314

Cu–CH3 124 Cu=CH2 268

Rh–CH3 198 Rh=CH2 381

検討の結果、触媒量の銅(I)錯体 10 の存在下、 (1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 7a に対してブ

ロモジフルオロ酢酸ナトリウムを作用させると、9a(式 16)の異性体であるフッ素置換五員環シリル

=エノール=エーテル 11a が収率良く得られることを見出した(式 19)。ここでは、ブロモジフルオロ

酢酸ナトリウムがジフルオロメチレン源として作用し、ジエンとの形式的な[4+1]付加環化反応が進行

している。11a は、そのシリルエノールエーテル部位を利用して、含フッ素五員環ケトンに導くこと

ができた(第二章)。

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References

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13) Jones, R. M.; Cashman, J. N.; Mant, T. G. K. Br. J. Anaesth 1990, 64, 11.

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17) Clark, G. R.; Hoskins, S. V.; Jones, T. C.; Roper, W. R. J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1983, 719.

18) Trnka, T. M.; Day, M. W.; Grubbs, R. H. Angew. Chem., Int. Ed. 2001, 40, 3441.

19) 篠川恒, 修士論文, 筑波大学 (2010).

20) 青野竜也, 修士論文, 筑波大学 (2012).

21) Martinho Simoes, J. A.; Beauchamp, J. L. Chem. Rev. 1990, 90, 629.

22) Siegbahn, Per E. M. J. Phys. Chem. 1995, 99, 12723.

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第二章 [4+1]型環形成による, -ジフルオロシクロペンタノン誘導体の合成

第一節 銅錯体の検討

序論で述べた通り、銅ジフルオロメチレン錯体を活用することにより、そのメチレン部位をジエン

に供与し、,-ジフルオロシクロペンテン 4a が合成できるものと期待できる。しかしジフルオロメチ

レン銅錯体の報告例は皆無であり、その調製法の開発が必要である。筆者は、Ambler らによる以下の

アリル位トリフルオロメチル化反応に注目した。すなわち、N,N-ジメチルホルムアミド中、それぞれ

10 mol%のヨウ化銅(I)及び N,N’-ジメチルエチレンジアミン(DMEDA)、25 mol%のブロモジフルオロ

酢酸ナトリウムと過剰量のフッ化カリウム存在下、ブロモジフルオロ酢酸シンナミルを 50 oC におい

て加熱撹拌する。これにより、シンナミル基末端にトリフルオロメチル基が導入される(式 1)1)。

Ambler らは反応機構について、以下のように述べている(Scheme 1)。まず、ブロモジフルオロ酢

酸ナトリウム、フッ化カリウム、DMEDA-銅(I)錯体 A から脱炭酸を経て、トリフルオロメチル銅(I)

錯体 B が生じる。B がそのトリフルオロメチル配位子をブロモジフルオロ酢酸シンナミルに供与する

ことで、生成物が得られる。同時に発生するブロモジフルオロ酢酸銅(I)錯体 C とフッ化カリウムから

脱炭酸を経て、トリフルオロメチル銅(I)錯体 B が再生する。

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A 及び C からのトリフルオロメチル銅(I)錯体 B の生成機構に関して Ambler らは述べていないが、

筆者は以下のように考えた(Scheme 2)。まず、A とブロモジフルオロ酢酸ナトリウムから、または B

のトリフルオロメチル置換により、ブロモジフルオロ酢酸銅(I)-DMEDA 錯体 C が生成する。C の脱

炭酸で生じたブロモジフルオロメチル銅(I)錯体 D から臭化物イオンが脱離し、銅(I)-ジフルオロメチ

レン錯体 E が生じる。E とフッ化物イオンから、トリフルオロメチル銅(I)錯体 B が発生する。

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筆者は、このように生成する銅(I)-ジフルオロメチレン錯体 E の利用を考えた(Table 1)。まず、50

oC において N,N-ジメチルホルムアミド中、 (1,3-ジエン-2-イル)エーテル 1a に対し、1.1 倍モル量のブ

ロモジフルオロ酢酸ナトリウムを作用させたが、目的とする,-ジフルオロシクロペンテン 4a は得ら

れず、シクロプロパン化生成物 2a が収率 37%、1a の加水分解生成物 3 が収率 51%で得られた(Entry

1)。2a はブロモジフルオロ酢酸ナトリウムの熱分解で生成した遊離ジフルオロメチレン(:CF2)で生

成したと考えられる。次にこの反応を、ヨウ化銅(I)及び N,N’-ジメチルエチレンジアミン存在下で行っ

た(Entry 2)。しかし目的化合物 4a は得られず、シクロプロパン化生成物 2a が収率 39%、加水分解生

成物 3 が収率 45%で得られた。これらの結果がほとんど同じであったことから、銅(I)-ジフルオロメ

チレン錯体は発生しなかったと考えた。他のジアミン配位子を種々検討した結果、いずれの場合も 1a

とジフルオロメチレン源であるブロモジフルオロ酢酸ナトリウムが 90 分以内に消失し、2a と 3 があ

る程度得られるものの、目的とする 4a は得られなかった(Entries 312)。すなわちジフルオロシクロ

プロパン化反応が一部進行するだけで、期待した[4+1]環形成反応は進行しなかった。

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筆者は、ブロモジフルオロ酢酸ナトリウムが N,N-ジメチルホルムアミドに溶け易く、その熱分解に

より遊離ジフルオロメチレンが優先して発生することが問題の 1つと考えた。そこで、反応溶媒を N,N-

ジメチルホルムアミドより極性が低く、ブロモジフルオロ酢酸ナトリウムが少量ずつ溶けるようなア

セトニトリルに変更した(Table 2)。まず、アセトニトリル中でヨウ化銅(I)及び N,N’-ジメチルエチレ

ンジアミン存在下、(1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 1a に対し 1.1 倍モル量のブロモジフルオロ

酢酸ナトリウムを作用させた。その結果、1a の消失に要する反応時間は Table 2 に示した 90 分から 15

時間へと長くなり、シクロプロパン化生成物 2a が収率 35%、目的とする 4a の異性体である 5a が収

率 5%、加水分解生成物 3 が収率 44%で得られた(Entries 1)。しかし、ヨウ化銅(I)及び N,N’-ジメチル

エチレンジアミン存在下であっても、期待した[4+1]環形成反応は進行せず、目的化合物 4a は得ら

れなかった(Entry 2)。なお、5a は、2a のビニルシクロプロパン転位(式 2)により生成している。

この他、ヘキサフルオロリン酸テトラ(アセトニトリル)銅(I)または銅(I)-tert-ブトキシドを用いると、

1a の加水分解生成物 3 のみが得られた(Entries 3,4)。

ここで、電子豊富な銅錯体を利用することで銅(I)-ジフルオロメチレン錯体が安定化されると考え、

シアン化銅(I)、チオシアン酸銅(I)を用いたが、シクロプロパン化反応が一部進行するだけで、期待し

た[4+1]環形成反応は進行しなかった(Entries 5,6)。メチル銅(I)あるいはリチウムジメチルクプラー

トを用いても反応は進行しなかった(Entries 7,8)。一方、銅(I)アセチリドを用いることで初めて、目

的化合物である,-ジフルオロシクロペンテン 4a が収率 37%で得られた(Entry 9)。

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銅(I)アセチリドの構造は単純であり、構造を変更する余地が少ない。そこで筆者は、これ以外の電

子豊富な銅(I)錯体を探索した(Table 3)。まず、N-ヘテロ環状カルベン(NHC)配位子を持つ銅(I)錯体

を用いると、この場合も予想通りジフルオロシクロペンテン 4a が得られた。しかし、収率は銅(I)アセ

チリドの場合を下回り(1016%, Entries 1,2)、しかも副生成物であるシクロプロパン 2a が多く得られ

るのも問題であった。また、チオフェン-2-カルボン酸銅(CuTC)を用いると、目的反応は進行しなか

った(Entry 3)。これらに対し、フェナントロリン(トリフェニルホスフィン)-銅(I)錯体 6a を用いる

と、銅(I)アセチリドを用いた時と同程度の収率 34%で 4a が得られた(Entry 4)。錯体 6a は、臭化物イ

オン、トリフェニルホスフィン、フェナントロリンという三種類の配位子を有しており、収率改善の

ために構造を変更する余地が十分にある。

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[4+1]環形成反応の進行に、銅(I)錯体 6a のどの部分が有効に作用しているかを確認した(Table 4)。

まず、臭化リチウム、トリフェニルホスフィン、フェナントロリンそれぞれ単独で反応を試みたが、

ジフルオロシクロペンテン 4a は全く得られなかった(Entries 13)。一方、臭化銅(I)のみで反応を行

うと、4a が収率 25%で得られた(Entry 4)。すなわち、本[4+1]環形成反応を進行させるためには銅

(I)が必要である。ただし、トリス(トリフェニルホスフィン)-銅(I)錯体では、ジフルオロシクロプロ

パン 2a が得られるのみであった(Entry 5)。また、系中でのフェナントロリン-銅(I)錯体の発生を期

待して臭化銅(I)とフェナントロリンで反応を試みたが、この場合も目的化合物 4a は全く得られなか

った(Entry 6)。さらに、臭化銅(I)、トリフェニルホスフィン、フェナントロリンの三成分を系中で混

合し、系中で銅(I)錯体 6a が生成することを期待したが、この場合は加水分解生成物 3 のみが得られ

た(Entry 7)。このように、[4+1]環形成反応を進行させるには、予め調製したフェナントロリン(ト

リフェニルホスフィン)-銅(I)錯体を用いる必要がある。なお銅(II)錯体として、臭化銅(II)のみや、臭

化銅(II)、トリフェニルホスフィン、フェナントロリンの三成分による反応も試みたが、ジフルオロシ

クロペンテン 4a は得られなかった(Entries 89)。

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ここで筆者は、この反応の触媒化を試みた(Table 5)。すなわち、5100 mol%の銅(I)錯体 6a の存在

下、(1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 1a に対し 1.1 倍モル量のブロモジフルオロ酢酸ナトリウム

を作用させた(Entries 14)。その結果、一度再結晶しただけの 6a では触媒的に反応が進行するもの

のその収率は十分でなく、しかも再現性に問題があった。筆者は、錯体 6a に含まれる不純物に原因が

あると考え、いったん単離した 6a を 2 回再沈殿(クロロホルム/ヘキサン)により精製して反応に用

いた。その結果、5 mol%の銅(I)錯体 6a の存在下、再現性良く 4a が収率 65%で得られた(Entries 57)。

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次に筆者は、銅(I)錯体の配位子効果を検討した。まず、種々のフェナントロリン及びホスフィン配

位子を持つ銅(I)錯体を合成した(Table 6)2)。具体的には、メタノール中で臭化銅(II)に対し 4.2 倍モ

ル量のトリフェニルホスフィンを加え、15 分間還流することによりトリフェニルホスフィン-銅(I)錯

体 7a を収率 98%で得た(Entry 1)。銅(I)錯体 7a に対し、クロロホルム中で等モル量の 1,10-フェナン

トロリンを作用させ、室温で終夜撹拌することで、フェナントロリン(トリフェニルホスフィン)-銅

(I)錯体 6a を収率 95%で得た(Entry 1)。その他のフェナントロリンまたはビピリジン(トリフェニルホ

スフィン)-銅(I)錯体 6bk も同様な手法で合成した(Entries 211)。

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このようにして合成した種々の銅(I)錯体を用い、[4+1]環形成反応を試みた(Table 7)。すでに述べ

たように、5 mol%の 6a の存在下で(1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 1a に対し 1.1 倍モル量のブ

ロモジフルオロ酢酸ナトリウムを作用させると、目的化合物である,-ジフルオロシクロペンテン 4a

が収率 65%で得られる(Entry 1)。これに対し、電子豊富な 4,7-ジメチル-1,10-フェナントロリン配位

子を有する銅(I)錯体 6b を用いると、目的化合物 4a が収率 82%で得られた(Entry 2)。6b は、電子豊

富なフェナントロリン配位子により銅(I)-ジフルオロメチレン錯体が安定化され、[4+1]環形成反応

が促進されると考えられる。また、6b より電子豊富だと考えられる 3,4,7,8-テトラメチル-1,10-フェナ

ントロリン配位子を有する銅(I)錯体 6c を用いて反応を試みたが、4a の収率は 59%となり、改善は見

られなかった(Entry 3)。錯体 6c は、アセトニトリルへの溶解度が低く、このため目的化合物の収率

が中程度になったと考えた。その他、電子豊富な 2,9-ジブチル-1,10-フェナントロリン配位子を有する

銅(I)錯体 6d を用いると、4a の収率は 16%に低下した(Entry 4)。6d は、ブチル基の置換位置が銅(I)

中心に近く、立体障害により[4+1]環形成反応が進行し難いと考えた。一方、2,9-ジクロロ-1,10-フェ

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ナントロリン配位子を有する銅(I)錯体 6e を用いると、4a の収率が 33%まで低下した(Entry 5)。電子

不足な配位子により、銅(I)-ジフルオロメチレン錯体が不安定化されるためと考えられる。なお、フ

ェナントロリンの代わりにビピリジン配位子を有する銅(I)錯体 6f を用いても 4a が収率 39%で得られ

たが、副生成物であるシクロプロパン 2a が増加し、収率 40%で得られた(Entry 6)。ビピリジン配位

子はフェナントロリン配位子より剛直性が低く、銅(I)ジフルオロメチレン錯体の安定化が不十分であ

るためと考えている。

次に筆者は、銅(I)錯体のホスフィン配位子部位を変更した。具体的には、電子豊富なトリス(p-メチ

ルフェニル) ホスフィン配位子を有する 6g やトリス(p-メトキシフェニル) ホスフィンを有する 6h、

電子不足なトリス(p-クロロフェニル) ホスフィンを有する 6i やトリス(p-トリフルオロメチルフェニ

ル) ホスフィンを有する 6j を検討した。これらの他、アルキルホスフィンであるトリシクロヘキシル

ホスフィンを有する 6k を用い、それぞれ反応を試みたが、いずれの場合も銅(I)錯体 6b を用いた際の

目的化合物 4a の収率に及ばなかった(Entries 711)。

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最後に、銅(I)錯体 6b について触媒量の検討を行った(Entries 12,13)。その結果、1 mol%の 6b を用

いると,-ジフルオロシクロペンテン 4a の収率は 62%に低下したが、2 mol%の 6b を用いれば 4a の

収率は 84%に回復し、十分であることが分かった。

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第二節 反応機構の検討

ここで、4a の生成経路について述べる。筆者はまず、4a がジフルオロシクロプロパン 2a から生成

している可能性を考えた(式 3)。

この可能性を確認するため、当研究室で開発した有機触媒によるジフルオロシクロプロパン化で、

2a を合成した(式 4)3)。すなわち、5 mol%の 1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン(プロトンスポン

ジ)存在下、(1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 1a に対し 1.5 倍モル量の 2,2-ジフルオロ-2-(フルオ

ロスルホニル)酢酸トリメチルシリル(TFDA)を 作用させた。これにより、2a を収率 77%で得た。

調製したジフルオロシクロプロパン 2a を、,-ジフルオロシクロペンテン 4a が得られた条件に付

した(Table 8)。具体的には、触媒として銅(I)アセチリド(Entries 13)またはフェナントロリンホス

フィン銅(I)錯体 6b(Entries 46)の存在下で 2a を加熱した。しかしいずれの場合も、4a は得られな

かった。なお、同時に生成した,-ジフルオロシクロペンテン 5a は、式 2 に示したビニルシクロプロ

パン-シクロペンテン転位で得られ、ジビニルケトン 9a は式 5 に示す脱離反応で生成している 4)。

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Table 8 の結果からわかるように、,-ジフルオロシクロペンテン 4 は全く得られず、シクロプロパ

ン 2 を経由して生成しているのではない。本反応の推定反応機構を、Scheme 3 に示す。まずブロモ

ジフルオロ酢酸ナトリウムがフェナントロリンホスフィン銅(I)錯体 6b との間で対アニオンを交換

し、ブロモジフルオロ酢酸銅(I) A が生じる。A から脱炭酸と臭化物イオンの脱離が進行し、ジフル

オロメチレン銅(I)錯体 B が発生する。電子豊富なフェナントロリン配位子とホスフィン配位子は、

カチオン性錯体である B を安定化していると考えた。銅(I)錯体 B が、そのジフルオロメチレン配位

子を基質である(1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 1 のジエン部位に供与することにより[4+1]型環

形成反応が進行し、,-ジフルオロシクロペンテン 4 が生成する。同時に生成した銅(I)錯体 C とブロ

モジフルオロ酢酸ナトリウムから、A が再生する。

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第三節 反応条件の検討

第一項 溶媒・反応温度の検討

まず、溶媒の検討を行った(Table 9)。5 mol%の銅(I)錯体 6a 存在下でアセトニトリル中、(1,3-ジエ

ン-2-イル)=シリル=エーテル 1aに対し 1.1倍モル量のブロモジフルオロ酢酸ナトリウムを作用させた。

50 oC において 12 時間加熱すると、ブロモジフルオロ酢酸ナトリウムと 1a が消失し、,-ジフルオロ

シクロペンテン 4a が収率 65%で得られた(Entry 1)。次に溶媒としてプロピオニトリルを用いたとこ

ろ、12 時間加熱してもブロモジフルオロ酢酸ナトリウムと 1a が一部残っており(Entry 2)、両者の完

全消失まで 48 時間を要し、4a の収率も 50%に留まった(Entry 3)。イソブチロニトリルを用いて 12

時間加熱した結果、ブロモジフルオロ酢酸ナトリウムと 1a が一部残っており、しかも 4a は得られな

かった(Entry 4)。ニトリル系溶媒の中でも、アセトニトリルは無機塩であるブロモジフルオロ酢酸ナ

トリウムをよく溶かすため、4a が得られ易い。これに対してプロピオニトリルやイソブチロニトリル

はブロモジフルオロ酢酸ナトリウムを溶かし難く、反応に時間がかかる上、1a の加水分解(3 になる)

が進行した。一方、テトラヒドロフランを用いると 4a は全く得られず、1a がほぼ定量的に回収され

た(Entry 5)。また、アセトニトリルとテトラヒドロフランの混合溶媒中でも、ブロモジフルオロ酢酸

ナトリウムと 1a の消失は遅くなり、4a の収率も低下した(Entry 6)。テトラヒドロフランにもブロモ

ジフルオロ酢酸ナトリウムはあまり溶けておらず、プロピオニトリル(Entry 2)やイソブチロニトリ

ル(Entry 4)を用いた時と同じ結果となったと考えられる。なお、溶媒としてニトロメタンを用いる

と 1a が 12 時間以内で消失したが、4a は全く得られなかった(Entry 7)。

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次に筆者は、反応温度の検討を行った(Table 10)。合成化学上、低い温度で反応が進行することが

望ましいため、まず 40 oC で反応を行った。その結果、48 時間加熱してもブロモジフルオロ酢酸ナト

リウムが残っており、かつ目的化合物 4a の収率が 25%と不十分であった(Entry 1)。これに対し 50 oC

では、ブロモジフルオロ酢酸ナトリウムと 1a が 12 時間で消失し、4a が収率 63%で得られた(Entry

2)。50 oC において加熱時間を延長しても 4a の減少が見られなかったことから、生成した 4a は 50 oC

において安定であることがわかる(Entry 3)。反応温度をさらに 60 oC または 70 oC に上げるとブロモ

ジフルオロ酢酸ナトリウムと 1a がそれぞれ 6 時間、3 時間で消失した。しかし反応速度は速くなった

ものの、収率はそれぞれ 61%、59%と向上しなかった(Entries 4,6)。なお、60 oC 以上では反応時間の

延長に伴い、4a の収率が減少した(Entries 4 vs 5, Entries 6 vs 7)。すなわちこれらの温度では 4a が徐々

に分解する。このように、最適温度は 50 oC であることが分かった。

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第二項 ジフルオロメチレン源の検討

筆者は、前節で述べた推定反応機構の中でジフルオロ酢酸銅(I)A からの脱炭酸に熱が必要と考えた。

その場合、脱炭酸を必要としないジフルオロメチレン源を用いることで反応温度を下げることができ

る。これにより、遊離のジフルオロメチレンによる望まないシクロプロパン化等の副反応を抑えられ

る可能性がある。そこで、ジブロモジフルオロメタンと金属亜鉛から系中で発生させたブロモジフル

オロメチル亜鉛(II)ブロミド 85)をジフルオロメチレン源として用いることを検討した(Table 11、式

6)。具体的には、銅(I)錯体 6a を加えずまたは 5 mol%加えて、1a に 8 を作用させた。その結果、6a 存

在下 60 oC で反応を行った時のみ目的化合物 4a がかろうじて得られたが、その収率は 3%であった

(Entry 6)。このため、ブロモジフルオロメチル亜鉛(II)ブロミド 8 はジフルオロメチレン源として不

適当と判断した。

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この他、脱炭酸を必要とするものの、有機溶媒への溶解性が期待できるブロモジフルオロ酢酸シリ

ルエステルや(トリフェニルホスホニオ)ブロモジフルオロアセタートもジフルオロメチレン源として

用いてみたが、いずれの場合も 4a は得られなかった(Table 12)。

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第三項 モル比の検討

最後に筆者は、ジエノールシリルエーテルとブロモジフルオロ酢酸ナトリウムのモル比について検

討した(Table 13)。まず、ブロモジフルオロ酢酸ナトリウムを(1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 1a

に対し 1.5 倍モル量と用いたところ、目的化合物 4a の収率は向上しなかった(Entries 1 vs 2)逆に、

1a を増やすことで活性種を効率良く捕捉しようと考え、ブロモジフルオロ酢酸ナトリウムに対し 1.5

倍モル量としたところ、目的化合物 4a の収率は 53%と低下した(Entry 3)。本反応には、ジフルオロ

メチレン源対ジフルオロメチレン受容体のモル比は 1.1:1 が適していることが分かった。

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第四節 銅触媒による, -ジフルオロシクロペンタノン誘導体の合成

これまでに得た最適条件を用いて、種々の,-ジフルオロシクロペンテンを合成した。すなわち、ア

セトニトリル溶媒中 2 mol%の銅錯体 6b 存在下、(1,3-ジエン-2-イル)=シリル=エーテル 1 に対して 1.1

倍モル量のブロモジフルオロ酢酸ナトリウムを作用させた。50 oC で 12 時間反応させることにより、

フッ素置換五員環シリルエノールエーテルである,-ジフルオロ-1-シロキシシクロペンテン 4 を得た

(Table 14)。

まず、置換基 R1としてフェニル基を有する 1a の場合、4a が収率 77%で得られた(Entry 1)。置換

基 R1のフェニル基に加えて、置換基 R2としてメチル基を有する 1b も、対応する 4b を 80%という高

い収率で与えた(Entry 2)。一方、置換基 R1のフェニル基に加えて、置換基 R3としてエチル基を有す

る 1c では、4c の 19F NMR 収率が 21%にまで低下した(Entry 3)。すなわち本反応は、シロキシ基が置

換したアルケン部位の嵩高さに大きな影響を受ける。ジエノールシリルエーテルが前節に述べたジフ

ルオロメチレン錯体 B に接近する際、立体障害が生じるためと考えられる。

置換基 R3が水素基であれば、種々の置換基 R1が利用できる。R1として p-ブロモフェニル基を有す

る 1d からは、対応する 4d が問題なく収率 72%で得られた(Entry 4)。置換基 R1としてアルキル基を

有する 1e の場合、12 時間反応させても 4e の収率は 41%にであったが、反応時間を 36 時間に延長す

ることにより、収率は 71%にまで向上した(Entries 5,6)。なお、反応温度を 50 oC から 60 oC まで上げ

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ると反応が加速されるが、4e の収率は 67%と若干低下した(Entry 7)。これらの結果から置換基 R1と

しては、アルキル基よりもアリール基の場合に反応性が高いことが分かった。

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第五節 フッ素置換五員環ケトンの合成

次に筆者は、,-ジフルオロ-1-シロキシシクロペンテン 4 を用いて,-ジフルオロシクロペンタノ

ンの合成を試みた(Table 15)。まずジフルオロシクロペンタノン 10 の合成を目指して、4a に対し 2

倍モル量のフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)を 0 oC で加えて、15 分撹拌した。その後室

温までに昇温し、12 時間撹拌した(Entry 1)。4a は消費されたものの、目的とした 10a は得られなか

った。ここで、過剰量のギ酸水溶液を加えて同様に TBAF で処理すると、-フルオロシクロペンテノ

ン 11a が収率 81%で得られた(Entry 2)。シクロペンテン 4d からは、対応するフルオロシクロペンテ

ノン 11d が収率 85%で得られた(Entry 3)。ただし、この場合もジフルオロシクロペンタノン 10 は得

られなかった。

これらの結果は、フッ素置換によりケトンの-プロトンの酸性度が向上したことで説明できる。ま

ず生成すると考えられるケトン 10 では、フッ素の電子求引性誘起効果により、カルボニル基とジフル

オロメチレン基に挟まれたメチレン水素の酸性度が上がっている。このため、ギ酸存在下であっても

フッ化物イオンにより速やかに脱プロトンされ、フルオロシクロペンテノン 11 を与える。逆に、この

反応をギ酸下で行わないと、フッ化物イオンの塩基性が過度に作用し、生成した 11 の残った位メチ

レン水素の引き抜きまで進行する。生じたエノラートがマイケル型の 11 の重合を誘発し、マスバラン

スが低下したものと考えている(Scheme 4)。

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このように筆者は、,-ジフルオロ-1-シロキシシクロペンテン 4 のシリルエノールエーテル部位を

利用して、-フルオロシクロペンテノンの合成に成功した。

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References

1) Ambler, B. R.; Altman, R. A. Org. Lett., 2013, 15, 5578.

2) Ignatenko, V. A.; Deligonul, N. and Viswanathan, R. Org. Lett. 2010, 12, 3594.

3) 髙山亮, 卒業論文, 筑波大学(2012).

4) Unpublished data.

5) Allied Chem. Co. U.S. Patent 1959, 2 885 450 (CA 1959, 53, 16 961d).

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第三章 実験の部

1. General information

NMR spectra were recorded on Bruker Avance 500 spectrometers in CDCl3, at 500 MHz (1H NMR), at 126

MHz (13C NMR), and at 470 MHz (19F NMR). Chemical shift values were given in ppm relative to internal Me4Si

(for 1H NMR: = 0.00), CDCl3 (for 13C NMR: = 77.0), and C6F6 (for 19F NMR: = 0.0) and (CF3)2C(C6H4CH3)2

(for 19F NMR: = 97.9). IR spectra were recorded on a Horiba FT-300S spectrometer by ATR (attenuated total

reflectance) method. High resolution mass spectroscopy (HRMS) was measured on a JEOL JMS-T100GCV

spectrometer.

All the reactions were conducted under argon. Column chromatography was performed on silica gel and

alumina gel. Gel permeation chromatography (GPC) was performed on a JAI LC-908 apparatus equipped with a

JAIGEL-1H and -2H assembly.

Unless otherwise noted, materials were purchased used without further purification. Ethyl

bromodifluoroacetate was donated by Central Glass Co., Ltd. tert-Butylchlorodimethylsilane was donated by

Toray Industries, Inc. Acetonitrile was dried with CaH2 overnight, then distilled from P2O5 and CaH2, and stored

over molecular sieves 3A. Methanol was distilled from Mg and I2, and stored over molecular sieves 3A.

Triethylamine was distilled from CaH2 and stored over molecular sieves 4A. Tetrahydrofuran (THF) was

purchased from Kanto Chemical Co., Inc. N,N-Dimethylformamide (DMF) was purchased from Sigma-Aldrich

Co. LLC. THF and DMF were dried by passing over a column of activated alumina followed by a column of Q-

5 scavenger (Engelhard). Tetrabutylammonium fluoride solution (1.0M in THF) was purchased from Sigma-

Aldrich Co. LLC. Triphenylphosphine was purified by recrystallizing from ethanol.

Sodium bromodifluoroacetate was prepared according to the procedure described by Oshiro.1) tert-

Butyldimethylsilyl trifluoromethanesulfonate was prepared according to the procedure described by Gille.2)

Phenantholine-(phosphine)-Cu(I) complexes 6ak were prepared according to the literature.3)

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2. Preparation of dienol silyl ethers

Silyl enol ethers 1ae were prepared according to the literature with some modification.46) To a

tetrahydrofuran (50.0 mL) solution of 4-phenyl-3-buten-2-one (7.31 g, 50.0 mmol) and triethylamine (21.0 mL,

150 mmol), tert-butyldimethylsilyl trifluoromethanesulfonate (19.8 g, 75.0 mmol) was added dropwise at 0 oC

over 30 min. The reaction mixture was stirred at 0 oC for 90 min, diluted with ice-cold hexane (100 mL), and

poured into ice-cold saturated aqueous NaHCO3 (200 mL) to quench the reaction. Organic materials were

extracted with hexane three times and combined extracts were washed with water twice and brine three times,

dried over anhydrous Na2SO4, filtered, and then concentrated in vacuo. The residue was purified by column

chromatography (Al2O3, hexane) to give dienol silyl ether 1a (12.11 g, 93%) as a colorless liquid.

Spectra data of dienol silyl ethers

(E)-2-(tert-Butyldimethylsiloxy)-4-(p-bromophenyl)-1,3-butadiene (1d)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 0.22 (s, 6H), 1.02 (s, 9H), 4.44 (s, 1H), 4.46 (s, 1H), 6.56 (d, J = 15.6 Hz, 1H),

6.78 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 7.27 (d, J = 8.5 Hz, 2H), 7.43 (d, J = 8.5 Hz, 2H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 4.6, 18.4, 25.9, 97.2, 121.4, 127.3, 127.9, 128.2, 131.7, 135.8, 155.0.

IR (neat);~ = 2929, 1487, 1321, 1254, 1024, 1009, 810 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C16H23BrOSi ([M]+): 338.0702; found: 338.0705.

Page 39: [4+1] 13...CH 3–NH 2 273 こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。 しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

39

(E)-2-(Triisopropylsiloxy)-4-phenyl-1,3-butadiene (1g)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 1.15 (d, J = 7.4 Hz, 18H), 1.28 (sep, J = 7.4 Hz, 3H), 4.41 (s, 1H), 4.42 (s, 1H),

6.58 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 6.94 (d, J = 15.6 Hz, 1H), 7.23 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 7.32 (dd, J = 7.7, 7.3 Hz, 2H),

7.42 (d, J = 7.7 Hz, 2H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = , 18.1, 95.8, 126.6, 126.8, 127.6, 128.6, 129.1, 136.9, 155.4.

IR (neat);~ = 2943, 2866, 1587, 1464, 1325, 1024, 731 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C16H23OSi ([M]+i-Pr): 259.1518; found: 259.1516.

3. Synthesis of five-membered difluoroenol silyl ethers

To an acetonitrile (1.00 mL) suspension of (4,7-dimethyl-1,10-phenanthroline)-(triphenylphosphine)copper

bromide 6b (2.5 mg, 0.0041 mmol) and sodium bromodifluoroacetae (43.5 mg, 0.221 mmol), was added an

acetonitrile (1.00 mL) solution of dienol silyl ether 1a (52.0 mg, 0.200 mmol) at room temperature. The reaction

mixture was stirred and heated at 50 oC. After the reaction mixture was stirred for 12 h at 50 oC, hexane (5.0 mL)

and saturated aqueous NaHCO3 (5.0 mL) were added to quench the reaction at room temperature. Organic

materials were extracted with hexane three times, the combined extracts were washed with water twice and brine

three times, dried over anhydrous Na2SO4, filtered, and then concentrated in vacuo. The residue was purified by

column chromatography (SiO2, hexane to 100:1 hexaneethyl acetate) and then by gel permeation

chromatography (CHCl3) to give five-membered difluoroenol silyl ether 4a (47.8 mg, 77%) as a colorless oil.

Page 40: [4+1] 13...CH 3–NH 2 273 こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。 しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

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Spectra data of five-membered difluoroenol silyl ethers

tert-Butyl(4,4-difluoro-3-phenylcyclopent-1-enyloxy)(dimethyl)silane (4a)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 0.23 (s, 3H), = 0.25 (s, 3H), 0.97 (s, 9H), 2.86 (t, J = 14.0 Hz, 2H), 4.17 (dd,

J = 19.5, 7.8 Hz, 1H), 4.684.74 (m, 1H), 7.227.27 (m, 2H), 7.227.31 (m, 1H), 7.317.37 (m, 2H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 4.6, 18.1, 25.6, 43.5 (t, 2JC-F = 27 Hz), 56.1 (dd, 2JC-F = 27, 24 Hz), 103.3 (d,

3JC-F = 3 Hz), 127.0 (dd, 1JC-F = 256, 253 Hz), 127.5, 128.3, 128.7, 136.8, 151.0.

19F NMR (470 MHz, CDCl3): = 63.9 (dtdd, J = 228, 14, 8, 2 Hz, 1F), 71.6 (ddtd, J = 228, 20, 14, 2 Hz, 1F).

IR (neat);~ = 2931, 1645, 1255, 906, 731 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C17H24F2OSi ([M]+): 310.1565; found: 310.1580.

tert-Butyl(4,4-difluoro-2-methyl-3-phenylcyclopent-1-enyloxy)(dimethyl)silane (4b)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 0.208 (s, 3H), 0.214 (s, 3H), 0.99 (s, 9H), 1.48 (s, 3H), 2.75 (m, 1H),

2.85 (m, 1H), 3.91 (dd, J = 21.5, 4.5 Hz, 1H), 7.147.18 (m, 2H), 7.277.37 (m, 3H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 4.1, 4.0, 10.3, 18.1, 25.6, 43.3 (t, 2JC-F = 27 Hz), 60.1 (dd, 2JC-F = 27, 23

Hz), 113.5 (d, 3JC-F = 1 Hz), 126.3 (dd, 1JC-F = 256, 251 Hz), 127.5, 128.3, 129.1, 135.6 (t, 3JC-F = 4 Hz), 143.3

(dd, 3JC-F = 8, 4 Hz).

19F NMR (470 MHz, CDCl3): = 63.0 (ddt, J = 228, 15, 5 Hz, 1F), 74.2 (dtd, J = 228, 22, 15 Hz, 1F).

IR (neat);~ = 2931, 1687, 1254, 1124, 881, 698 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C18H26F2OSi ([M]+): 324.1721; found: 324.1722.

Page 41: [4+1] 13...CH 3–NH 2 273 こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。 しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

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tert-Butyl[3-(4-bromophenyl)-4,4-difluorocyclopent-1-enyloxy](dimethyl)silane (4d)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 0.22 (s, 3H), 0.24 (s, 3H), 0.96 (s, 9H), 2.762.92 (m, 2H), 4.12 (dd, J = 19.2,

8.2 Hz, 1H), 4.644.69 (m, 1H), 7.11 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 8.4 Hz, 2H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 4.60, 4.57, 18.1, 25.6, 43.5 (t, 2JC-F = 27 Hz), 55.6 (dd, 2JC-F = 27, 24 Hz),

102.7, 121.5, 126.6 (dd, 1JC-F = 256, 254 Hz), 130.3, 131.4, 135.8, 151.4 (t, 3JC-F = 7 Hz).

19F NMR (470 MHz, CDCl3): = 64.1 (dtdd, J = 228, 14, 8, 3 Hz, 1F), 71.3 (ddtd, J = 228, 19, 14, 3 Hz, 1F).

IR (neat);~ = 2931, 1645, 1487, 1342, 904, 729 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C17H23BrF2OSi ([M]+): 388.0670; found: 388.0667.

tert-Butyl(4,4-difluoro-3-propylcyclopent-1-enyloxy)(dimethyl)silane (4e)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 0.16 (s, 3H), 0.17 (s, 3H), 0.870.95 (m, 12H), 1.231.32 (m, 1H), 1.311.41

(m, 2H), 1.531.63 (m, 1H), 2.682.78 (m, 2H), 2.792.90 (m, 1H), 4.55 (m, 1H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 4.7, 14.2, 18.1, 20.5, 25.5, 31.4 (dd, 3JC-F = 8, 2 Hz), 43.7 (t, 2JC-F = 27 Hz),

49.6 (dd, 2JC-F = 25, 22 Hz), 104.2 (d, 3JC-F = 4 Hz), 128.6 (dd, 1JC-F = 256, 251 Hz), 149.1 (t, 3JC-F = 7 Hz).

19F NMR (470 MHz, CDCl3): = 56.6 (dtd, J = 229, 15, 8 Hz, 1F), 71.7 (ddtd, J = 229, 20, 15, 2 Hz, 1F).

IR (neat);~ = 2931, 1647, 1340, 1254, 1122, 835, 781 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C14H26F2OSi ([M]+): 276.1721; found: 276.1710.

Page 42: [4+1] 13...CH 3–NH 2 273 こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。 しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

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4. Transformation of five-membered difluoroenol silyl ethers

To a tetrahydrofuran (THF) solution (10.0 mL) of tert-butyl(4,4-difluoro-3-phenylcyclopent-1-

enyloxy)(dimethyl)silane 4a (62.2 mg, 0.201 mmol), was added aqueous formic acid (87 wt%, 1.0 mL, 19 mmol)

at room temperature. The reaction solution was cooled to 0 oC and tetrabutylammonium fluoride solution (1.0 M

in THF, 0.40 mL, 0.40 mmol) was added dropwise over 5 min. After the reaction mixture was stirred for 15 min

at 0 oC, it was allowed to be warmed up to room temperature. After the reaction mixture was stirred for 12 h at

room temperature, pH=7 phosphate buffer (10 mL) was added to quench the reaction at room temperature.

Organic materials were extracted with ethyl acetate four times, the combined extracts were washed with brine

three times, dried over anhydrous Na2SO4, filtered, and then concentrated in vacuo. The residue was purified by

column chromatography (SiO2, hexaneethyl acetate, 10:1 to 4:1) to give fluorocyclopentenone 10a (28.5 mg,

81%) as a pale yellow oil.

Spectra data of fluorocyclopentenones

3-Fluoro-4-phenylcyclopent-2-en-1-one (10a)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 2.58 (dt, J = 18.5, 2.5 Hz, 1H), 3.10 (ddd, J = 18.5, 7.5, 1.5 Hz, 1H), 4.18 (d, J

= 7. 5 Hz, 1H), 5.83 (d, J = 1.5 Hz, 1H), 7.22 (d, J = 7.0 Hz, 2H), 7.32 (t, J = 7.0 Hz, 1H), 7.38 (dd, J = 7.0, 7.0

Hz, 2H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 45.1 (d, 2JC-F = 16 Hz), 45.6, 112.2 (d, 2JC-F = 5 Hz), 127.1, 128.0, 129.2, 137.4,

191.2 (d, 1JC-F = 309 Hz), 202.6 (d, 3JC-F = 15 Hz).

19F NMR (470 MHz, CDCl3): = 81.6 (s, 1F).

IR (neat);~ = 1714, 1637, 1323, 912, 742 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C11H9FO ([M]+): 176.0637; found: 176.0638.

Page 43: [4+1] 13...CH 3–NH 2 273 こうしたな背景から、望みの位置をフッ素で置換した化合物の効率的な合成手法が必要とされる。 しかし、現行の方法を見るとまだ問題点も多い。ここでは、報告されている含フッ素化合物の合成法

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4-(4-Bromophenyl)-3-fluorocyclopent-2-en-1-one (10d)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 2.52 (dt, J = 18.5, 2.5 Hz, 1H), 3.10 (ddd, J = 18.5, 7.5, 1.5 Hz, 1H), 4.15 (d, J

= 7.5, 1H), 5.83 (d, J = 1.5 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.50 (d, J = 8.4 Hz, 2H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 44.5 (d, 2JC-F = 16 Hz), 45.4, 112.4 (d, 2JC-F = 5 Hz), 122.1, 128.9, 132.4, 136.5

(d, 3JC-F = 2 Hz), 190.5 (d, 1JC-F = 313 Hz), 202.0 (d, 3JC-F = 16 Hz).

19F NMR (470 MHz, CDCl3): = 81.1 (s, 1F).

IR (neat);~ = 2925, 1712, 1635, 1489, 912, 748 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C11H8BrFO ([M]+): 253.9743; found: 253.9753.

3-Fluoro-4-propylcyclopent-2-en-1-one (10e)

1H NMR (500 MHz, CDCl3): = 0.96 (t, J = 7.0 Hz, 3H), 1.351.47 (m, 2H), 1.761.85 (m, 1H), 2.24 (dt, J =

18.3, 2.3 Hz, 1H), 2.71 (ddd, J = 18.3, 6.9, 0.8 Hz, 1H), 2.953.01 (m, 1H), 3.48 (d, J = 0.8 Hz, 1H), 5.61 (s,

1H).

13C NMR (126 MHz, CDCl3): = 13.9, 20.2, 33.6, 38.9 (d, 2JC-F = 15 Hz), 41.8, 111.1 (d, 2JC-F = 5 Hz), 193.9 (d,

1JC-F = 310 Hz), 203.1 (d, 3JC-F = 19 Hz).

19F NMR (470 MHz, CDCl3): = 81.1 (s, 1F).

IR (neat);~ = 2960, 1714, 1635, 1344, 1155, 914, 744 cm1.

HRMS (70 eV, EI): m/z calcd. for C8H11FO ([M]+): 142.0794; found: 142.0799.

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References

1) Oshiro, K.; Morimoto, Y.; Amii, H. Synthesis 2010, 2080.

2) Gille, A.; Hiersemann, M. Org. Lett. 2010, 12, 5258.

3) Ignatenko, V. A.; Deligonul, N.; Viswanathan, R. Org. Lett. 2010, 12, 3594.

4) Fang, J.; Ren, J.; Wang, Z. Tetrahedron Lett. 2008, 49, 6659.

5) 青野竜也, 修士論文, 筑波大学(2012).

6) 髙山亮, 卒業論文, 筑波大学(2012).

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総括

筆者は修士課程において、銅触を用いることで[4+1]型,-ジフルオロシクロペンタノン誘導体の合

成法を開発した(式 1)。すなわちアセトニトリル溶媒中 2 mol%の銅錯体1の存在下で、(1,3-ジエン-

2-イル)=シリル=エーテル 2 に対して 1.1 倍モル量のブロモジフルオロ酢酸ナトリウムを作用させた。

50 oC で 1236 時間反応させることにより、4,4-ジフルオロ-1-シロキシシクロペンテン 3 を良好な収率

で得た。銅触媒 1 とブロモジフルオロ酢酸ナトリウムから銅(1)-ジフルオロメチレン錯体が系中で発

生し、これによって[4+1]型環形成反応が進行していると考えている。

3 は環状シリルエノールエーテルであり、例えばギ酸存在下で TBAF 処理することにより、プロト

ノリシスと脱フッ化水素を一挙に行い、医農薬の合成中間体として有望な-フルオロシクロペンテノ

ン 4 に導くことができる(式 2)。

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謝辞

本研究を進めるに当たり、終始ご指導ご鞭撻を賜りました、本学教授 市川 淳士 先生に心から

感謝の意を表します。

また、本研究を進めるに当たり、直接ご指導を賜り、適切な助言によって研究を支えてくださいま

した、本学准教授 渕辺 耕平 博士に深く感謝致します。

本研究を進める上で数々の有益なご助言を頂きました、本学助教授 藤田 健志 博士に心から御

礼申し上げます。

本研究を進める上で、懇切丁寧な御指導を下さいました、青野 竜也 修士に心から感謝致します。

研究室に配属されてから今日に至るまで、実験の方法や研究姿勢を教えていただいた諸先輩方、研

究の苦楽を共にした同輩、後輩の皆様に深く感謝申し上げます。

最後に、筆者の研究生活を暖かく見守り、支えてくださいました両親をはじめ親戚の方々に心から

感謝申し上げます。

2015 年 3 月