title 研究活動報告 アフリカにおける女性性器切除 …...クリトリス,小...

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Title 研究活動報告 アフリカにおける女性性器切除と産科的合 併症 Author(s) 米田, 美由紀; 入山, 茂美; 高橋, 美和; 徳永, 瑞子 Citation 健康科学 : 京都大学医学部保健学科紀要 (2008), 4: 71-74 Issue Date 2008-03-31 URL https://doi.org/10.14989/53900 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Page 1: Title 研究活動報告 アフリカにおける女性性器切除 …...クリトリス,小 陰唇,大 陰唇の一部または全体を切除したのち,縫 合し膣口を狭める(infibulation)

Title 研究活動報告 アフリカにおける女性性器切除と産科的合併症

Author(s) 米田, 美由紀; 入山, 茂美; 高橋, 美和; 徳永, 瑞子

Citation 健康科学 : 京都大学医学部保健学科紀要 (2008), 4: 71-74

Issue Date 2008-03-31

URL https://doi.org/10.14989/53900

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

Page 2: Title 研究活動報告 アフリカにおける女性性器切除 …...クリトリス,小 陰唇,大 陰唇の一部または全体を切除したのち,縫 合し膣口を狭める(infibulation)

京都大学医学部保健学科紀要健康科学 第4巻2007

研究活動報告 一3一

アフリカにおける女性性器切除 と産科的合併症

米 田美 由紀*,入 山 茂美**,高 橋 美和***,徳 永 瑞子****

FemaleGenitalMutilationandComplicationofObstetricsinAfrica

MiyukiKoMEDA*,ShigemiIxirwMw"**,MIW&TAKAHASHI***,MizukoToKuNAGA****

AbslraM:[Objective]TheobjectiveofthisstudywastoexaminewhetherornotFemaleGenital

Mutilation(FGM)increases[heriskofobstetriccomplicationsinAfrica[Methods]Wesearched

articlesonFGMandcomplicationofobstetricsusingtwokeywordsof"FGM"and"complication"

through"SCOPUS"withinpasttenyearsfrom1996.[Results]Wefoundarticleswithstatisticaldata

andsummarizedthem.WefoundtwoarticlesrelatedtoFGMandcomplicationofobstetrics.FGM

signi丘cantlyincreasedtheriskofepisiotomy,per血ealtear,postpartumbloodloss,andcaesarean

section.WomenwithtypeIIFGMhadhigherriskofcomplicationsthanthosewithtypeIFGM.

Furthermore,womenwithtypeIIIFGMhadhadhigherriskofthecomplicationthantypeIIFGM.

[Conclusion]FGMappearstosignificantlyincreasetheriskofthecomplicationofobstetrics.

Therefore,obstetricspecialistssuchasmidwivesandmaternitynursesshouldcontributeknowtherisk

ofthesecomplicationandprovidehealtheducationtohelpAfricanwomenabandonthispractice.

Keywords:Female,Genitalmutilation,Complicationofobstetrics,Africa

は じ め に

2005年 現 在,ア フ リ カ と 中 東 の 諸 国 で は,1億

3,000万 人 以 上 が女 性 性 器 切 除(FemaleGenitalMuti-

lation以 下FGMと す る)を 受 け て お り,毎 年200万

人 の女 性 がFGMを 受 け る危 険 に さ ら され てい るD。

FGMを 受 け る こ とが 出 産 に 悪 影 響 を及 ぼ す こ と を

知 って い る女 性 は多 い 。 しか し,ど の く らい リス クが

高 くな る の か,具 体 的 に知 らない ま ま,毎 年 数 百 万 の

女 性 た ちが 出産 を迎 え てい る2)。

FGMと は,文 化 的理 由 あ る い は非 治 療 的理 由 に よ

る女 性 外 性 器 の 一 部 ま た は全 体 の 切 除 や 縫 合,再 切

除,再 縫 合 な ど,そ の他 の 損 傷 も含 め た 女 性 性 器 へ の

*健 康 保 険 諌 早 総 合 病 院

〒854-8501長 崎 県 諌 早 市 永 昌 東 町24番1号

IsahayaHealthInsuranceGeneralHospital

**長 崎大 学 大 学 院 医 歯 薬 学 総 合 研 究 科 保 健 学専 攻

〒852-8520長 崎 市 坂 本1-7-l

DepaztmentofNursing,SchoolofHealthSciences,

FacultyofMedicine,NagasakiUniversity

(Co皿espondingauthor)***京 都 大 学 大 学 院 医 学 研 究 科 人 間 健 康 科 学 系専 攻

〒606-8507京 都 市 左 京 区 聖 護 院 川 原 町53

HumanHealthSciences,GraduateSchoolofMedicine,

KyotoUniversity

****聖 母 大 学

〒161-8550東 京 都 新 宿 区 下 落 合4-16-11

DepaztmentofNursing,FacultyofNursing,SeiboCollege

受 稿 日2007年ll月19日

受 理 日2∞8年2月7日

すべての障害行為を意味する3)。そして現在行われて

いるFGMの タイプは表1に 示 したように4種 類あ

る4)。そのFGMに よる損傷は不可逆的な ものであ

り,女 性のリプロダクティブ ・ヘルスに及ぼす影響は一生残る4))。

そのリプロダクティブ ・ヘルスに及ぼす影響は,特

に産科的合併症 を引 き起こす可能性が高い。初産婦の

場合,FGM後 の縫合部が搬痕化 しているため会陰が

伸展せず,分 娩時には会陰切開が必要になること,ま

た会陰切開術 を施 さなければ,裂 傷を引 き起こし,そ

の処置の遅れによる分娩時の出血量の増加か ら,母 体

の死亡率や罹患率の増加を招 くと丹野5)は述べてい

る。しかし,そ れらの主張の多 くはFGMと 産科的合

併症の関係 を,統 計処理を行い明確にはしていない。

本稿ではFGMが 出産に及ぼす影響について統計処

理 をした研究を取 り上げ,FGMを 受けた女性 と受け

ていない女性では,分 娩お よび産褥期の母親の合併症

のリスクが どのくらい違 うかについてまとめた。

方 法

1996-2006"一 年 のis年 間 に 出版 され たFGMを 受 け た

女 性 の 産 科 的 合 併 症 に 関 す る 文 献 を"FGM",

"。omplication"を 掛 け 合 わ せ,2007年7-11月 に

SGOPUSに よ り検 索 した 結 果,41件 あ っ た。 そ の 中

で統 計 処 理 を行 っ て い る文 献 を探 し,ま とめ た 。 医 学

中央 雑 誌 で は 「女 性 性 器 切 除 」 と 「合 併 症 」 を掛 け 合

一n一

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健康科学 第4巻2007年

表1WHOに よるFGMの 分類

タイプ1

タイプ2

タイプ3

タイプ4

ク リ トリス の一部 または全体の切除 を伴 う包 皮の切除(clitoddectomy)

小 陰唇の一部 また は全体の切除 を伴 う,ク リ トリスの切 除(excision)

ク リ トリス,小 陰唇,大 陰唇の一部 または全体 を切除 したのち,縫 合 し膣 口を狭 める(infibulation)

その他未分類の もの。 クリ トリス と周辺組織 を焼 却す る。膣 口の周辺 を削 りと り,膣 に切 り込み をいれ るなど

表2国 別 に よるFGMの 状況

FGMな し タイプ1 タイプ2 タイブ3 合計

ソア

938(19%)

1,841(60%)

1,681(40%)

sasp2%)

733(21%)

i,szsOa%)

1,097(23%)

358(--%)

865(21%)

3,369(63%)

837(24%)

335(5%)

2,172(45%)

asp(zs%)

i,20i(zs%)

1,310(240)

1,S50(54%)

371(5%)

609(13%)

33(1%)

azoUo%)

41(1%)

2s(i%>

5,963(73%)

4,816

3,094

4,167

5,366

3,499

7,501

合 計 7,171(25%) 6,856(24%) 7,771(27%) 6,595(23%) 28,393

わせて検索 したが,該 当するものはなかった。

結 果

FGMが 出産 に及 ぼ す 影 響 につ い て統 計 処 理 を行 っ

た研 究 は2件 で あ っ た 。一 つ はWHOス タ デ ィー グ

ル ー プs)が ア フ リ カ6力 国(ブ ル キ ナ フ ァ ソ ・ガ ー

ナ ・ケ ニ ヤ ・ナ イ ジ ェ リア ・セ ネ ガル ・ス ー ダ ン)に

つ い て行 っ た もの で あ り,も う一 つ はLarsen7)が ナ

イ ジ ェ リア につ い て述 べ た もの で あ った 。

WHOの ス タデ イー グ ル ー プ は2001年10月 か ら2W3

年3月 にか け て ア フ リカ6ヶ 国 の 合 計28ヶ 所 の 産科 セ

ン ター にお い て,28,509人 の 女 性 を対 象 に コホ ー ト研

究 を行 っ た。 そ してFGMが 母 親 の 産 科 的 合 併 症(会

陰切 開 ・会 陰裂 傷,帝 王 切 開,出 産 後 の 出 血 量,入 院

期 間 の 延 長 な ど)に 及 ぼ す 影 響 をRelativeRisk

(RR);相 対 危 険 度 と95%ConfidenceInterval(CI);

95%信 頼 区 間 に て示 した。 そ のRRは,FGMの タイ

プ ・年 齢 ・宗 教 ・教 育 ・社 会 経 済 的 地 位 ・宗 教 ・出 産

経 験 ・居 住 ・病 院 まで の 時 間 ・出 生 前 の ケ アの 回 数 ・

母 親 の 体 重 ・身 長 ・BMI・ 病 気 の 有 無 な ど の 変 数 を

調 整 した もの で あ っ た。 調 査 は母 親 が 妊 婦 健 診 中 と入

院期 間 中 に行 っ た もので あ り,合 併 症 は専 門 家 に よ り

把 握 され た もの で あ っ た。 各 国 で どの く らい の 女 性 が

FGMを 受 け て い た か を表2に 示 した。 タ イ プ2と3

が50%以 上 を 占 め た 国 は,ブ ル キ ナ フ ァ ソ,セ ネ ガ

ル,ス ー ダ ン で あ っ た。FGMを 受 け て な い 女 性 が

50%以 上 を 占 め た 国 は,ガ ー ナ の み で あ っ た。 ナ イ

ジ ェ リア で は タイ プ1が63%を 占め た。

Larsen7)の 研 究 は ナ イ ジ ェ リ ア の3ヶ 所 の 病 院 で

1998年8月 か ら1999年3月 に1,861人 の 女 性 を対 象 に

横 断研 究 を行 い,FGMが 母 親 に も た らす 産 科 的合 併

症(会 陰 切 開 ・会 陰 裂 傷,帝 王 切 開,分 娩 時 間 の 延

長)に つ い てAdjustedOddsRatio(AOR):調 整 ず み

オ ッズ比,95%CIに て示 した 。 そ のAORは,FGM

の タイ プ ・年 齢 ・宗 教 ・教 育 ・夫 の 教 育 ・夫 と一 緒 に

住 ん で い る か ・初 産 時 の 年 齢 ・出 産 場 所 ・分 娩 に 関

わ っ た 人 な どの 変 数 を調 整 し た も の で あ っ た。 ナ イ

ジ ェ リア で は タイ プ1や タイ プ2の 女 性 が 大 多 数 を 占

め,タ イ プ3の 女 性 は少 ない ため,タ イ プ3の デ ー タ

は研 究対 象 か ら除外 され た。 そ の 合 併 症 の 調 査 は,自

己 申告 に よる もの で あ っ た。

WHOス タデ ィー グ ル ー プの 結 果 で は,ど の タイ プ

表3FGMと 会 陰切 開 ・裂傷 の関係

会陰切開 会陰裂傷

RR(95%CI) AOR(95%CI) RR(95%CI) AOR(95%CI)

初産婦FGMな し

タイプ1

タイプ2

タイプ3

1.00

1.31(1.209.44)

1.47(1.34-1.60)

1.84(1.70-1.97)

0.73(0.49-1.07)

1.16(0.67-1.99)

1.00

1.31(1.03-1.66)

L92(1.50-2.47)

3.19(1.91-4.74)

1.63(0.59-4.50)

0.75(0.17-3.40)

経産婦FGMな し

タイプ1

タイプ2

タイプ3

1.00

1.75(1.47-2.09)

2.12(1.69-2.42)

2.16(1.91-2.44)

0.98(0.48-2.01)

1.09(0,47-2.51)

1,00

1.37(1.07-1.75)

2.17(1.69-2.82)

L93(1.07-3.38)

1.S6(0.57-2.69)

4.20(1.24-14.2Q

一72一

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米田,他:女 性性 器切 除 と合併症

のFGMを 受けた女性 もFGMを 受けていない女性と

比べると,初 産婦 ・経産婦の どちらにおいて も,会 陰

切開 ・会陰裂傷のリスクが高かった(表3)。 また切

除範囲が狭いタイプ1に 比べ,切 除範囲が広いタイプ

2は,そ のリスクが高 くなった。さらに切除範囲が広

く,縫 合 し膣口を狭めるタイプ3は,タ イプ1や2よ

りも,そ のリスクがより高 くなった。Larsenの 調査

では,FGMは 会陰切開のリスクを高めることは無

かった。 しかし,経 産婦でタイプ2のFGMを 受けた

女性はFGMを 受けていない女性 と比べると会陰裂傷

のリスクが高かった(表3)。

FGMタ イプ3を 受けた女性 では,FGMを 受けて

ない女性 と比べると出産後の出血量増加のリスクが高

かった(表4)。 特 に帝王切開の場合を除 くと出血量

増加のリスクはさらに高 くなった。またタイプ1に 比

べ,切 除範囲が広い タイプ2は,出 血量増加のリスク

が高 くなった。 さらに切除範囲が広 く,縫 合 し膣口を

狭めるタイプ3は,タ イプ1や2よ りも,出 血量増加

のリスクが より高 くなった。

タイプ2・3の 女性は,FGMを 受 けていない女性

と比べると帝王切開のリスクが高い傾向にあった(表

5)。FGMを 受けた女性は どのタイプにおいても入

院期間が長い傾向にあり,初 産婦ではそのリスクはさ

らに高 くなった(表6)。 切除範囲が狭いタイプ1に

比べ,切 除範囲が広い タイプ2は,入 院期間延長のリ

スクが高 くなった。 さらに切除範囲が広 く,縫 合 し膣

口を狭めるタイプ3は,タ イプ1や2よ りも,入 院期

表4FGMと 出産後の出血量(500m1以 上)の 関係

間延 長 の リス クが よ り高 くな っ た。

帝王切 開を含 むRR(95%CI)

帝王切開 を除 くRR(95%OI)

FGMな し1.00LOO

タ イ プlLO3(0.87-L21)1.04(0.83-1.28)

タ イ プ2LO3(1.01-L43)1.22(o.ss-1.54)

タ イ プ3L69(1.34-2」2)1.96(1.45一 一2,65)

表5FGMと 帝王切開の関係

帝王切開RR(95%CI)

帝王切開AOR(95%CI)

FGMな し1.00LOO

タ イ プ11.03(0.88-L21)1.02(0.66-1.56)

タ イ プ2L29(1,09-L52)1,20(o.n-2,03)

タ イ プ31.31(1.01-L70)

表6FGMと 入院期間の延長の関係

全産婦RR(95%41)

初産婦 のみRR(95%OI)

FGMな し1.00LOO

タ イ プlL15(0.97-L35)1.19(LOI-1.4])

タ イ プ2L51(1,29-L76)1,55(L31-1.83)

タ イ プ3L98(1.54-2,54)2.34(L59-3.45)

考 察

FGMは 会陰切開 ・会陰裂傷の増加,出 産後の出血

量増加,帝 王切開の増加,入 院期間の延長などの産科

的合併症 を起 こす ことが,WHOス タディーグループ

とLarsenの 調査結果から明らかとなった。またタイ

プ別 にリスクをみると,ど の合併症において もタイプ

2や3は,タ イプ1に 比べてリスクが高 くなった。こ

の結果から,FGMの 切除範囲が広がることや縫合 を

することは,産 科的合併症の リスクをより増大させる

と示唆 された。

FGMを 受けた女性 は,FGMを 受けていない女性

と比べ,会 陰切開 ・会陰裂傷の リスクが増加するの

は,FGMに よる会陰組織の疲痕化のために,会 陰が

十分伸展 しないためと考えられる。丹野は,FGM後

の縫合部のi痕 化は会陰の伸展を制限すると述べてい

る5)。FGMタ イプ2・3が タイプ1よ りリスクが高 く

なるのは,タ イプ2・3で は小陰唇や大陰唇の切除や

膣口の縫合 も行ってお り,さ らに会陰の伸展を大 きく

制限するためであると考えられる。

しか し,Larsenの 研究では会陰切開で有意にリス

クが高 くなることはなかった。その理由 として,次 の

2点 の要因が考えられる。1点 目は,出 産時の情報や

合併症が自己申告によるものであ り,昔 の記憶にあい

まいな部分があったことである7)。2点 目は,Larsen

の研究は調査対象が タイプ1・2と 限られてお りリス

クの高いことが予想 されるタイプ3を 分析 していない

ことである。

FGMを 受 けた女性では,受 けなかった女性 に比

べ,出 産後の出血量が増加 した理由 として,次 の2点

の要 因が考えられる。1点 目は,FGMに より会陰切

開 ・会陰裂傷 を起 こしやすいために,出 血量が増加す

ることである。2点 目は,産 婦の疲痕組織への裂傷の

不安や痛みが微弱陣痛の原因となり,弛 緩出血を微弱

陣痛が引 き起 こしたのではないか ということである。

分娩 に対する不安や恐怖は,微 弱陣痛の原因 となると

報告 されている8>。

FGMタ イプ2や3を 受けた女性では,受 けなかっ

た女性 に比べ帝王切開が多い理由は,会 陰の伸展制限

による産道狭窄が胎児の娩出を困難にするため,児 の

生命の危険を考慮 し,帝 王切開を選択する必要があっ

たと考えられる。

FGMと 入院期間の延長の関係は,会 陰切開や会陰

裂傷,帝 王切開などの合併症のために,入 院期間が延

長 したと考えられる。

本稿 で取 り上げた研究の限界 は,Larsenの 研究で

は3点,WHOの 研究では1点 ある。Larsenの 研究

では1点 目はサ ンプルサイズが小さいこと,2点 目は

一73一

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健康科学 第4巻2007年

合併症が 自己申告であり医療者が実際に把握 した結果

でないことである。2つ の研究に共通する限界として

は,合 併症の調査が短期的合併症に限定されているこ

とである。若杉 は3)出産後の障害(特 に膣ろう孔)に

ついて,病 院で何万人 もの女性がろう孔閉鎖手術 をし

ているが,手 術を受けた女性の何倍 もの女性がこの合

併症で苦 しんでいることを報告 している。今後は,十

分なサンプルサイズで長期的な合併症を調査 した研究

が必要 である。 このような研 究の限界があ るが,

WHOス タディーグループが行った研究はFGMが 出

産に及ぼす影響について述べた初めての信頼性のある

研究9)と高 く評価されている。

結 論

FGMは 母親の産科的合併症の リスクを高める。そ

れゆえ出産に立ち会 う助産師や産科看護師などの専門

職が,FGMの 産科的合併症を熟知 した上で出産ケア

をすることは大変重要である。また今後,FGMの 合

併症 に苦 しむ女性を減 らすため,助 産師や産科看護師

などの専 門職が,FGMタ イプ3を 繰 り返さないよう

に,褥 婦への健康教育をしてい くことが必要である。

謝 辞

本 稿 の英 文 抄 録 作 成 に,貴 重 な助 言 をい た だ き ま し

たSaulHelfenbein先 生(ResearchTriangleInstitute

International,WashingtonDC)に 深 謝 い た し ます 。

引 用 文 献

1)UNIGEF:Femalegenitalmutilation/cuttingastatistical

explosion.NewYork:UNICEF,2005:1-2

2)若 杉 な お み:FemaleGenitalMutilation(FGM=女 性 性

器 切 除)の ア フ リ カ に お け る 実 態 と 母 子 保 健 に 与 え る 影

響.国 際 保 健 医 療,1999;13(2);65-75

31)若 杉 な お み:女 性 性 器 切 除 一 文 化 と い う 暴 力,出 産 前 後

の 環 境 一 か ら だ ・文 化 ・近 代 医 療 一,吉 村 典 子 編.昭 和

堂,1997:282-303

4)WHO:Femalegenitalmutilation:AjointWHO/

UNICEF/UNFPAstatementGeneva:WHO,1997:1-

12

5)丹 野 か ほ る:国 際 看 護 活 動 に お け る 女 性 性 器 切 除 へ の 対

応.QualityNursing,2002;8(9)=765-772

6)WHOstudygrouponfemalegenitalmutilationand

obstetricoutwore:FemalegenitalmuWationandobstetric

outcome:WHOcollaborativeprospectivestudyinsix

Africancountries.TheLancet,2006;367:1535-1841

7)LarsenU,OkonofuaFE:Femalecircumcisionand

obstetriccomplications.InternationalJournalofGyne-

cology&obstetrics,2002;77:255-265

8)加 藤 宏 一:産 婦 人 科 学.東 京1へ る す 出 版,1999;209

9)SaxenaP:FemaleGenitalMutilationcausesdificulties

duringchildbirth.(ht[p://www.rxpgnews.com/research/

obsteric/article_4357sbtml)Accessedat2November

zoos

一74_