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Page 1: Title 掌蹠膿疱症の病因と治療 Author(s) URLir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/646/1/108_431.pdfJournal 歯科学報, 108(5): 431-436 URL Right 1.掌蹠膿疱症の定義と皮疹の特徴

Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title 掌蹠膿疱症の病因と治療

Author(s) 高橋, 愼一

Journal 歯科学報, 108(5): 431-436

URL http://hdl.handle.net/10130/646

Right

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1.掌蹠膿疱症の定義と皮疹の特徴

掌蹠膿疱症は手掌と足底に無菌性小膿疱(細菌が培養されない)が多発し,緩解・増悪を繰り返しながら炎症性角化局面を形成する慢性,難治性の皮膚疾患である。中年男女,特に喫煙者に好発する炎症性角化症の一つで,代表的皮膚疾患である乾癬の類縁疾患に分類されている。後述のように,近年,歯科金属アレルギーとの関連がクローズアップされているので,歯科医師にとっても関わりの深い疾患である。

特徴は小膿疱が掌蹠に出現すること(図1)で,その所見は診断に極めて有用である。しかし,前述のように出没を繰り返すため,診察時に必ずしも小膿疱が認められないことがあるので注意が必要である

(図2)。すなわち,他の湿疹や白癬などと誤診する可能性があることと,一時点のみで皮疹の病勢を判断すると,治療効果の判定を誤ることがある。このようなことを避けるためには,診断が明らかでない場合は,皮疹の経過を観察あるいは必要に応じた真菌の鏡検による真菌症の否定や皮膚生検などを施行して,視診のみによらない診断を行う。病理組織検査では,皮膚の最も外層である角層への好中球浸潤が特徴的である(図3)。病勢の判定は少なくとも3ヶ月できれば半年間は経過観察する必要がある。また,6月頃に悪化しやすいという季節的変動も考慮

せねばならない。また,手足の爪病変が認められることが多いこと

も特徴の一つである。さらに膝など掌蹠以外の部位に鱗屑を伴う紅斑を認めることがある。これを掌蹠外皮疹という。

しかし,本症では皮疹は手足に限局することが多い。従って,皮疹の面積としては少ないので軽症と考えられることもあるが,手を人前に見せられない,歩行しにくいなど QOL がかなり損なわれる事に留意しなければならない。

2.掌蹠膿疱症に特徴的な骨関節炎の合併

本症では骨・関節症(掌蹠膿疱性骨関節炎という)を約10%の患者に合併する。特に前胸部痛(胸肋鎖骨間骨化症)を認めることが多いのが特徴であるが,その他,椎骨,仙腸関節,末梢関節にも病変を認めることがある。欧米ではざ瘡の症例が多く,滑膜炎,前胸壁の骨化,鎖骨の無菌性骨髄炎等と合わせて SAPHO 症候群(synovitis, acne, pustulosis, hy-perostosis, osteitis)という概念が 提 唱 さ れ て いる1)。本邦ではざ瘡の合併例が少なく,掌蹠膿疱症に合併する症例が多いが,皮膚症状を伴わないものも含まれる。前述のように前胸壁の関節包,靱帯,骨に慢性炎症を生じ,疼痛・腫脹を来す(図4)。やがては骨化したり,骨髄炎を生じることもある。X線撮影で変化が明らかになることもあるが,骨シン

キーワード:掌蹠膿疱症,骨関節炎,病巣感染,金属アレルギー

東京歯科大学市川総合病院皮膚科(2008年9月22日受付)(2008年9月26日受理)別刷請求先:〒272‐8513 千葉県市川市菅野5-11-13

東京歯科大学市川総合病院皮膚科 高橋愼一

Shin-ichi TAKAHASHI : The etiology and treatment ofpalmoplantar pustulosis(Department of Dermatology Ichi-kawa General Hospital of Tokyo Dental College)

関連医学の進歩・現状

掌蹠膿疱症の病因と治療

高橋愼一

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チが最も有用な検査と考えられる(図5)。本検査で胸鎖関節などの前胸壁に集積が認められれば,本症であると診断できる。

3.本症の病因

本症の病因として表1にあげる疾患・病態が指摘されている。1)病巣感染⑴ 病巣感染と皮膚疾患

本症の病因として古くから病巣感染の関与が示唆されている。病巣感染とは慢性あるいは再発を繰り返す細菌性の口蓋扁桃炎,歯周炎(その他副鼻腔炎,中耳炎,胆嚢炎など)などが病巣となり,遠隔

臓器に糸球体腎炎などの二次的炎症を起こす病像をいう2)。病巣感染と関連のある皮膚疾患としてアナフィラクトイド紫斑,慢性じんま疹,結節性紅斑な

表1 掌蹠膿疱症の病因

1)病巣感染扁桃炎、歯性病巣など

2)金属アレルギー3)喫 煙

図1 小膿疱が主体の足底皮疹

図2 紅斑と鱗屑が主体の足底皮疹

図3 小膿疱の病理学的所見:角層下膿疱が認められる。 図4 左胸鎖関節部の腫脹が認められる。

図5 骨シンチで両側胸鎖関節および胸骨に集積を認める。

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ど様々な疾患が報告されているが,掌蹠膿疱症はその中でも代表的な疾患である。特に扁桃炎との関連については皮膚科領域のみならず,耳鼻科領域からの積極的な研究が行われている。⑵ 扁桃炎と掌蹠膿疱症の関係

扁桃摘出(以後扁摘と略す)の有用性は既に広く認められており,その有効率は約60%~90%といわれている。疫学的調査も行われているが,エビデンスレベルの高い調査はなく,現時点では EBM としてはレベルBである3)。確かに経験的には効果がある症例が多いといえる。しかし,全例で有効でないばかりか,有効な症例でも症状が軽減するだけで完治しない可能性がある。さらに,扁摘が有効かあらかじめ判断できる客観的な検査法が確立していないことに注意する必要がある。すなわち,扁摘後軽快あるいは治癒するか否かで扁桃炎が関与しているかを判定する治療後診断の域を出ていないのが現状である。現在の本症における扁摘の適応やその後の経過観察などについては本症の治療の項で説明する。⑶ 歯性病巣と掌蹠膿疱症の関係

扁桃炎の次に重要なのが歯性病巣である。皮膚科および歯科領域で臨床研究が行われており,歯性病巣治療が本症に有用であるとの報告が散見される。当研究室とオーラルメディシン・口腔外科学講座との共同研究では,約2/3の患者で歯性病巣が認められた。さらに歯性病巣を有する患者では約2/3の症例で歯周病治療が本症の改善をもたらしていた4)。しかも,扁摘との比較で,治癒例はないが,扁摘に近い効果が得られるとの報告があり3),扁桃炎の治療と同様に重要であると言える。しかし,歯性病巣においても扁桃炎の場合と同様に,歯周病治療が有効か否かをあらかじめ検査する方法は確立されておらず,治療後診断となっている。この他少数例であるが,副鼻腔炎,胆嚢炎,骨髄炎などその他の病巣感染が関与する症例も報告されている。⑷ 掌蹠膿疱症における病巣感染の位置づけ

上述のように病巣感染は本症の病因として有力であるが,絶対的ではない。というのは,治療しても完治せず軽快するだけの場合も多いことや扁摘や抜歯を行って完治した症例で,その後再燃すること(数年以上後のこともある)を経験するからである。もちろん,残存した舌扁桃や歯性病巣が悪化したため

再燃する症例もあるが,必ずしも病巣感染が再燃に関与していない場合もある。病巣感染はむしろ悪化要因あるいは随伴現象と考えた方がよいのかもしれない。2)金属アレルギー

金属アレルギーの関与も示唆されている。中山らが歯科金属の感作による発症の可能性を報告してから5),各施設より歯科金属除去により治癒ないし軽快した症例の報告がなされている。また,掌蹠膿疱症患者では金属シリーズのパッチテストで陽性率が高いとの報告もある。当院での症例研究においても歯性病巣治療無効例の中に歯科金属除去が有用である症例が散見される。しかし,症例数は少なく,その頻度は低いものと思われる。また,注意しなければならないのは,歯科金属除去においてあわせて歯性病巣も治療される可能性があり,歯科金属除去で治癒したとしても,本当に金属除去のみであったか検証する必要がある。掌蹠膿疱症と金属アレルギーとの関連を初めて報告した中山によれば,あくまで病巣感染を認めない症例あるいは病巣感染治療を行っても軽快しない症例で金属アレルギーの関与を検証しており,本症の病因検索・治療としてまず病巣感染から取りかかるべきと考えられる。

しかし,2005年,明らかに亜鉛アレルギーで発症した症例が報告された。その症例ではパッチテスト部に本症に特徴的な小膿疱が多発し,リンパ球幼若化試験が強陽性で,歯科金属除去により皮疹は著明に改善した。さらに別の症例で,全身性接触皮膚炎における亜鉛の関与を証明した。その患者血清およびリンパ球を用いてマクロファージ遊走阻止因子および TNF-α といった炎症性サイトカインの関与を報告している6)。このように,金属アレルギーも病因の一つであり,本症は多因性の疾患と考えた方がよい。3)喫 煙

本症では喫煙率が95%と非常に高く,喫煙が発症に関与しているとされている7)。その機序の一つとして,喫煙が病巣感染を悪化させる可能性が考えられる。また,喫煙により手掌の汗管のアセチルコリン受容体発現の変調を来し,炎症を来しやすくなるという報告もある8)。ただし,禁煙をしたからといって治癒あるいは明らかに軽快する症例はあまり

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ない。その一方で,いったん治癒したのち,再度喫煙して再燃した症例を経験したことがある。すなわち発症原因というより悪化要因と考えられる。

4.掌蹠膿疱症の発症機序(仮説)

前述した皮疹の成り立ちからのアプローチ,臨床的病因からのアプローチ,免疫遺伝学的アプローチから様々な仮説が提唱されている。1)扁桃炎において α レンサ球菌に対する免疫寛

容破綻から過剰免疫反応や自己免疫反応が引き起こされるという仮説掌蹠膿疱患者において,末梢リンパ球の TCR レ

パトアの研究,抗ケラチン抗体の研究,扁桃の研究が行われた。その結果,以下の仮説が報告されている(図6)9)。患者扁桃では細菌感染による慢性炎症により,陰窩上皮の角化が高度となり,掌蹠と共通の高分子量ケラチンが増加する。次に,陰窩のリンパ上皮共生部位において扁桃リンパ球に対して高分子量ケラチンなどの遷延感作が行われ,感作リンパ球や自己抗体の産生に至る。そこでまず掌蹠において TCR V β6 を中心とする CD4 陽性細胞が浸潤し,水疱が形成される。そこで高分子量ケラチンと抗ケラチン抗体の反応が起こり,補体が活性化され,膿疱が形成されるというものである。2)病巣感染菌の熱ショックタンパク(HSP)に対す

る交叉反応による自己免疫疾患という仮説掌蹠膿疱症患者で好酸菌由来熱ショックタンパク

(HSP65)に対する抗体価が健常者に比べ有意に高値を認め,明らかな病巣感染を有する患者が特に高値であったとの報告がある2)。さらに我々は微生物学

教室との共同研究で,本症では Actinobacillus actino-

mycetemcomitans の HSP に対する抗体価が上昇し,歯性病巣治療と共に抗体価が減少することを報告している10)。熱ショック蛋白とは原核細胞である細菌などの細胞から哺乳類などの真核細胞に至る進化の過程で高度に保存された,すなわちそれぞれ相同性の高い蛋白で,高温,低温,虚血,ウイルス感染などのストレスに対応して産生される。細菌もストレス蛋白を有し,感染時に大量に産生され,抗原性を有する。宿主の細胞はこれを認識し,免疫反応を生じる。しかし,この HSP は宿主の HSP と相同性が高く,一種の交叉反応が生じる危険がある。ベーチェット病などで提唱されている HSP を介した免疫変調が発症に関わっている可能性が考えられる2)。3)特定のサイトカイン産生にかかわるプロモー

ター領域の遺伝子多型によるという仮説掌蹠膿疱症で扁桃炎を有する患者では血中 TNF-

α 濃度が高く,摘出した扁桃単核細胞で α 連鎖球菌刺激によるサイトカイン産生レベルも高くなる。さらに近年 TNF-α 産生は遺伝子多型に支配され,刺激後に産生される TNF-α には個人差があることに着目し,TNFA 遺伝子プロモーターの多型の研究がなされ,扁桃刺激試験に対する反応と関連があることが示された。つまり,扁桃病巣感染を有する掌蹠膿疱症患者での TNF-α 産生能亢進は遺伝的背景があることが示唆されている11)。

必ずしも病巣感染のみで多数の患者に本症が引き起こされるのでない。すなわち,遺伝的に感染症における炎症性サイトカインなどの過敏反応が生じやすい素因を有する患者に病巣感染などの病因が加わって発症するという仮説は本症の臨床的事実を説明しやすく,魅力的である。ただし,ベーチェット病と HLA-B51 の関連のように証明されておらず,今後のさらなる研究が期待される。

5.掌蹠膿疱症の治療

1)乾癬に対する皮膚科治療の適用本症の類縁疾患である乾癬の治療の大半は本症に

おいても有効とされている。教科書などに記載のある治療として,通常はステロイド外用,活性型ビタミン D3 外用,必要に応じて抗アレルギー剤内服が図6 扁桃炎から掌蹠膿疱症が引き起こされる機序(仮説)

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まず行われる。しかし,手掌の角層が他の部位より厚いこともあり,外用剤が効きにくい。また,抗アレルギー剤も痒みを軽減する程度の作用である。そのため,通常の皮膚科治療では満足できる治療結果は得られていない事が多い。

その他に試みられる方法として,病巣感染を制御するばかりでなく,金属アレルギーに対する金属キレート作用や消炎作用を期待してミノマイシン内服療法が試みられる。症例によっては有用なことがある。

難治例では,乾癬の中等症以上に使用される紫外線療法,さらにシクロスポリン,レチノイドなどが用いられる。紫外線は効きにくいし,他の2剤も完治させられることは少ないので長期に使用しなければならない事が多い。この場合,それぞれ発癌,腎毒性,催奇形性,高脂血症など副作用の問題がある。

重症例ではステロイド内服も行われることがあるが,長期使用により膿疱が汎発化し,膿胞性乾癬に移行する可能性もあるので短期間の使用にとどめるべきである。

また,掌蹠膿疱症性関節炎の治療も課題となっている。通常は消炎鎮痛剤の内服や湿布で経過観察され得ることが多いが,十分に効果が得られないことが多い。重症例ではステロイド内服が用いられるが,長期使用は避けるべきである。前述のシクロスポリンやビスフォスフォネート静注あるいは経口製剤が有用との報告がある。2)病因に対する治療

前述したように,喫煙,病巣感染が発症に関与しているので,禁煙し,歯性病巣・扁桃の病巣感染の有無を歯科・口腔外科,耳鼻科受診していただき,客観的に評価する。前述のように,病巣感染関与を治療前に予測する確実な方法は未だ確立されていない。扁桃については表2のような診断基準がある。基本的には掌蹠膿疱症の診断が確実で,中等症以上であれば扁摘の適応がある12)。これまでの疫学調査において,高齢者,骨関節炎を有する患者,発症後のより早期の治療では有効率が高いことが知られている。また,喫煙は効果を相殺すること,扁摘後半年から1年でその効果が頭打ちになることが知られている13)。一方,歯性病巣については,掌蹠膿疱症

においての歯周病治療適応基準は確立されていない。根端病巣や歯周病があり,保存不可能な場合は積極的に抜歯を勧めている。その他の症例については,通常の歯科治療を施行し,経過観察している。

ただし,病巣感染が関与する場合,その治療により一時的な悪化の可能性があること(Flare という)や治療効果を見極めるのに最低6ヶ月はかかることに留意すべきである。3)ビオチン療法

本症に特に有効な薬剤としてビオチン(ビタミンH)が注目されている。掌蹠膿疱症患者の血清アミノ酸分析でセリンが高値であることから,セリン代謝に関係するビオチンの血中濃度の測定がなされ,健常人に比べ低値であることが判明し,さらにビオチン欠乏ラットに皮膚炎が生じることから,約20年前にビオチン療法が提唱された14)。ビオチンと本症の関係については,本症の一部の患者に見られる胸肋鎖骨間骨化症の治療にビオチンが有用であるとの報告がある15)が,本症の皮疹に対する効果について検証した報告はない。東京歯科大学市川総合病院皮膚科および歯科・口腔外科受診され,掌蹠膿疱症と診断された患者約20名においてビオチンの有効性を半年以上の経過で確認したところ,約80%の症例で有効であった。また合併する骨関節炎についてもほとんどの症例で有用であった(図7,図8)。効果が現れるまで時間がかかるのが欠点であるが,副作用は,少数例に消化器症状が認められることがあるのみで安全な治療法である。ただし,EBM の観点から,ビオチン療法の有用性については,今後多数の施設で検証されなければならない。

表2 掌蹠膿疱症における扁摘適応基準

必須項目1)掌蹠膿疱症が確定診断されていること

(専門医による診断)2)掌蹠膿疱症の重症度:中等症以上

参考項目3)病歴:扁桃炎または急性上気道炎時に皮疹の発症

または増悪を認める4)扁桃の局所所見:埋没型で陰窩内に膿栓貯留が認め

られる5)扁桃誘発試験:陽性6)扁桃打ち消し試験:皮疹の改善

歯科学報 Vol.108,No.5(2008) 435

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本論文の要旨は第285回東京歯科大学学会(2008年6月7日,千葉市)において特別講演したものである。

文 献1)久我芳昭:掌蹠膿疱症骨関節炎(SAPHO 症候群)の病態,診断,治療.Clin Calcium,13:716~720,2003.

2)伊崎誠一:掌蹠膿疱症と病巣感染,皮膚臨床,41:1106~1112,1999.

3)古川福美,米井 希:掌蹠膿疱症に扁桃摘出は有効か?EBM 皮膚疾患の治療 2008-2009(宮地良樹,幸野 健著).中外医学社,2008.

4)高橋慎一,川島淳子,森本光明,山根源之:掌蹠膿疱症患者の歯性病巣感染とその治療効果,日本皮膚科学会雑誌,111:426,2001.

5)Nakayama, H. : Dental metal allergy, J Environ Derma-tol,13:57~65,2006.

6)清水忠道:金属アレルギーと皮膚疾患 ―亜鉛アレルギーの症例に学ぶ― 皮膚臨床,48:505~510,2006.

7)Gimērz-Garcia, R., Sánchez-Ramôn, S., Cuellar-Oimedo,LA. : Palmoplantar pustulosis : a clinicoepidemiologicalstudy. The relationship between tobacco use and thyroidfunction, J Eur Acad Dermatol Venereol,17:276~279,

2003.8)Hagforsen, E., Edvinsson, M., Nordlind, K., Michaēlsson,G. : Expression of nicotinic receptors in the skin of pa-tients with palmoplantar pustulosis, Br J Dermatol,146:383~391,2002.

9)林 泰弘,山中 昇:病巣感染と扁桃摘出,臨皮,50:143~148,1996.

10)Takahashi, S., Kawashima, J., Morimoto, M., Yamane,G., Ishihara, K., Okuda, K. : Remission of palmoplantarpustulosis after periodontal treatment : Role of oral bac-terial heat shock proteins, Ann Dermatol Venereol,129:768,2002.

11)新関寛徳,横山真紀,橋口一弘:掌蹠膿疱症,扁桃病巣感染,JOHNS,22:1753~1756,2006.

12)原渕保明,岸部 幹:掌蹠膿疱症における扁桃摘出術の効果と扁摘の役割,JOHNS,20:717~723,2004.

13)形浦昭克:扁桃病巣感染症の臨床,耳鼻臨床,95:763~772,2002.

14)牧野好夫,前橋 賢,古川勇次,佐藤隆夫:ビオチン療法,皮膚科 MooK No2 乾癬とその周辺疾患(今村貞夫,小川秀興),金原出版,237~244,1985.

15)前橋 賢,牧野好夫,古川勇次,大日向耕作,木村修一,佐藤隆夫,齋藤英一:掌蹠膿疱症性関節炎とビオチン,診断と治療,80:1397~1402, 1992.

図7 ビオチン投与前の手の臨床像:爪の変形と手掌の鱗屑が著明 図8 ビオチン投与約1年後の手の臨床像:略治している。

高橋:掌蹠膿疱症の病因と治療436

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