rieti letter11月号 表紙exploration といい、私は「知の...

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3 2019. 11 RIETI LETTER Exploration ※本コーナーは、弊会ホームページでもご覧いただけます。 次号は、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス(株)取締役人事総務本部長の島田由香氏にお願いいたします。 慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済 学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、 主に自動車メーカー・国内外政府機関へ の調査・コンサルティング業務に従事し た後、2008年に米ピッツバーグ大学経営 大 学 院 よ りPh.D.を 取 得。同 年 よ り 米 ニューヨーク州立大学バッファロー校ビ ジネススクール助教授。2013年より早稲 田大学大学院 早稲田大学ビジネススクー ル准教授。2019年より現職。「Strategic Management Journal」「Journal of International Business Studies」など 国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。 リレーエッセイ 今月のご執筆者に次号のご執筆者をご紹介いただいております。

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Page 1: RIETI LETTER11月号 表紙Exploration といい、私は「知の 探索」と呼んでいます。イノベーション に必要なのは知の探索なのです。しかし、オペレーション標準化が極度

3 2019. 11 RIETI LETTER

私は二〇〇三年から渡米し、二〇一三

年に帰国するまで米国で経営学の研究を

行ってきました。帰国してからは世界標

準の経営学の知見を「翻訳」して、様々

なメディアを通じて日本のビジネスパー

ソン・政策担当者に伝えることも行って

います。

その背景もあり、多くの企業・経済団

体などから講演のご依頼をいただきます。

そして、その多くで「話してほしい」と

言われるテーマは同じです。それは「イ

ノベーションの創出」です。これからの

変化と競争が激しい時代に、企業が新し

い価値(=イノベーション)を何も生み

出せずにいれば、淘汰されてしまいます。

ですから、私のような者に「イノベーショ

ンを起こすにはどうすればいいのか」に

ついて悩む経営者さん・企業からお声が

かかるのでしょう。

では、イノベーションの本質は何かと

いえば、その根元は「既存知と既存知の

新しい組み合わせ」です。これは「イノベー

ションの父」と呼ばれたジョセフ・シュ

ンペーターが「新結合」という名で八〇

年以上前から主張していることです。

しかし、人間には「認知」に限界があ

ります。したがって、どうしても目の前

で認知できるものだけを組み合わせる傾

向があるのです。すると同じ業界に何十

年もいたり、あるいは同じような人に何

十年も囲まれていれば、目の前の知と知

の組み合わせはその間に散々やりつくし

ますので、知と知の組み合わせが尽きて

しまうのです。ですから、日本の大手・

中堅企業は多くは同じ業界に何十年もい

ますし、新卒一括採用・終身雇用制度の

企業も多いですから、そこからイノベー

ションが生まれないのは必然なのです。

しかし、そのままだと企業は淘汰されて

しまいます。

したがって、それを脱却するには、な

るべく自分から離れた遠くの知を幅広く

見て、まだ組み合わさっていない知と知

を新しく組み合わせることが不可欠です。

これをExploration

といい、私は「知の

探索」と呼んでいます。イノベーション

に必要なのは知の探索なのです。

しかし、オペレーション標準化が極度

に進んだ日本企業には、それは一見非常

に「無駄」に見えます。しかも知と知の

新しい組み合わせは失敗も多い。結果、

知の探索がなおざりになるのです。これ

は短期的な効率性という意味ではいいの

ですが、長い目で見ると、イノベーショ

ンを生む力を企業から奪っていきます。

ではどうすればいいのか、詳しくは本

年一二月に刊行予定の拙著﹃世界標準の

経営理論﹄(ダイヤモンド社)を読んでい

ただきたいのですが、一つだけ挙げれば、

例えば積極的なAI・RPAの導入で

しょう。これらはルーティンワークの作

業効率性を高めてくれるわけですから、

これでルーティンワークから解放された

従業員が、一見無駄に見える「知の探索」

に力を割けるからです。このようにAI

やRPAは、実はイノベーションの土台

として不可欠なのであり、大企業や多く

の中小企業にもこれから求められるで

しょう。

※本コーナーは、弊会ホームページでもご覧いただけます。

次号は、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス(株)取締役人事総務本部長の島田由香氏にお願いいたします。

入いりやま山 

章あきえ栄

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大 学 院 よ りPh.D.を 取 得。同 年 よ り 米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。2019年より現職。「Strategic Management Journal」「Journal of International Business Studies」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。

早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授

日本企業に不可欠なのは

﹁知の探索﹂に尽きる

リレーエッセイ 今月のご執筆者に次号のご執筆者をご紹介いただいております。