r&d news kansai 2013年9月号(475号)

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Page 1: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

2013.SeptemberVol.475

9R&D NEWS KANSAI

■巻頭言 宿泊施設の給湯システム

■研究紹介 ユニット式計器(スライド型)の開発 他

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2013.SeptemberVol.475

9CONTENTS宿泊施設の給湯システム

研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(流通)

CVケーブル接続部における絶縁体シュリンクバック発生量および影響検討

電力システム技術センター 架空送電グループ

傾斜地における拡底基礎の引抜き試験と支持力特性の評価

電力流通事業本部 ネットワーク技術高度化グループ

ユニット式計器(スライド型)の開発

研究開発室 電力技術研究所 ITサービス研究室

情報共有システムへのオープンソースソフトウェアの活用に関する研究

電力システム技術センター 水力グループ

保全センサを用いた機器異常診断に関する研究

電力システム技術センター 水力グループ

発電機固定子巻線取替え基準見直しに関する研究

電力システム技術センター変電グループ

三菱電機製GCB(ガス遮断器)油圧操作機構部取替え部品の保全評価研究

土木建築室 建築設備エネルギーグループ

空調・照明設備を対象とした連続デマンド制御の開発

研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター

外生菌根菌と炭化物を活用したクロマツ育成手法

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 ホームエネルギー分野

蓄電池を併設した住宅用太陽光発電システムの実用性評価研究

研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室

SiCモジュールの長時間動作評価

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 都市産業エネルギー分野

高温ヒートポンプの要素技術研究

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 電池プロジェクト

リチウム電池資源のリサイクル

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 電池プロジェクト

負荷平準化装置のフィールド試験

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 新エネルギー分野

次数間高調波を用いた単独運転検出装置の開発

リレー応動シミュレーションシステムの開発けいはんな実験ハウスプロジェクト

巻 頭 言

トピックス

研究紹介

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1.給湯エネルギーの削減 住宅では給湯によるエネルギー消費が全エネルギー消費の 30~ 40% 程度を占めるため、その削減が重要であることは良く認識されているが、残念ながら我々日本人にとって入浴に要するエネルギーの削減は容易ではない。一方、事務所建築ではもともと給湯エネルギー消費は少なく、省エネルギーというと空調や照明などが中心となる。ただ、ホテルや病院においては給湯が占める割合は大きく、様々な省エネルギー対策が検討されてきている。

2.ホテルにおける給湯エネルギー消費の実態調査 ホテルにおいては、宿泊客の要求に即時に対応するために常に湯を循環しておく必要があり、かつレジオネラ菌の繁殖を防ぐため低温にすることができない。そのため、給湯配管系からの熱損失が多い可能性があるが、その実態は必ずしも明確にされていない。 今回、関西電力との共同研究としてビジネスホテルの給湯システムについて調査をする機会に恵まれた。ホテルでは湯が常に循環しておりシステム内に生じる温度差は小さいと考えられたため、湯温をできるだけ精度よく測定し、解析により測定誤差を捕捉することにより熱損失を評価することとした。従って、配管内に挿入する温度計を通しての熱損失にも気を使い、温度センサーの断熱をできるだけしっかりと行った。この温度計の断熱の際に、通常配管ではグラスウール断熱材が固く巻かれていること、それは(温水配管にも拘わらず)結露防止や、緩い断熱は施工が不十分と見なされることへの対応などであることを知った。パイプシャフト内の暖かさ、触るとやけどしそうなバルブや接合フランジなども気になった。実際、配管やバルブ表面、屋上に設置された貯湯槽周りの温度を放射温度計により調べると、高温の箇所が散見された。また温度計測をすると、想像をは

京都大学大学院 工学研究科 建築学専攻 教授

1951年生まれ、博士 (工学)

1975年 京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了住宅における室内環境とエネルギー消費、文化遺産の維持・保全、温熱生理と快適性、調湿建材の利用および湿害防止などの研究に従事。日本建築学会賞、日本生気象学会論文奨励賞、空気調和・衛生工学会功績賞などを受賞。

主な著書(共著)に、『建築環境学2』(丸善)、『木造都市の設計技術』(コロナ社)、『低炭素社会への挑戦』(オーム社)など。

略 歴

京都大学大学院 工学研究科 建築学専攻教授 鉾 井 修 一

宿泊施設の給湯システム巻頭言

るかに超える温度低下があった。そこでこれらの部位の一部に断熱改修を施したところ、表面温度の低下とともに、少なからぬ熱損失の減少が得られた。以前、「蒸気配管システムにおけるエネルギーの出入りを算定すると、どうも収支が取れない。その熱はどこに行ったのか…」という話を聞いたことがある。蒸気配管ピットが非常に高温であることも半ば常識になっており、程度こそ違え温水配管についても同様なことが言えそうである。

3.実態調査から学ぶこと 勿論、熱損失の全てを無くすことができるわけでは無いが、実態を把握することにより、少なくとも今後どのような対応ができるか、その可能性を探ることができ、留意すべき点が分かる。給湯システムでは、熱源を中心とする機器効率の向上、搬送エネルギーの削減などへの取り組みがなされている。様々な要因を考慮して総合的に省エネルギー対策を施すことが必要であるが、住宅分野では常識となっている断熱という実に古典的、基本的な事項にも気を配る必要があると言える。配管内部の温度計測や流量測定はなかなか大変で実態把握は必ずしも容易ではないが、今回の調査を通して実態を知ることの重要さをあらためて勉強させられた。病院建築における給湯システム、事務所ビルの空調における熱源機器を含めた搬送系からの熱損失は大丈夫なのか、気になり始めている。

R&D NEWS KANSAI 1

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1.はじめに テープ巻き式接続箱(以下、TJ)は、第1図に示すように、ケーブル絶縁体である架橋ポリエチレン上に絶縁テープで補強絶縁体を構成しています。当社では、TJの経年劣化特性を把握するために撤去品調査を進めており、一部の撤去品において絶縁体ペンシリング部におけるシュリンクバック(以下、SB)の発生を認めました。 そこで、本研究では SB の発生量および絶縁性能に与える影響を検討しましたので、報告します。

2.推定されるSBによる影響 第 1 図に示すように、絶縁体の SB は、絶縁性能に対して、次の 2 つの影響を及ぼすと推定されます。  1 つ目は、ケーブル内部半導電層(以下、内導)と導体上の半導電性 C テープのラップが解消し、

内導と導体間との段差が生じ絶縁性能が低下する影響が考えられます。2 つ目は、ケーブル絶縁体と補強絶縁体との間に空隙が生じ絶縁性能が低下する影響が考えられます。 3.SBの発生量・条件 第 2 図に撤去品調査におけるSB 発生量別の頻度を示します。図から、SB 発生量が 40mm 以上となるようなものが一部ありますが、大半は 20mm 以内であることが分かりました。 次に、絶縁体のヒートサイクル試験を行い、SB 発生条件について、検証を行いました。試験は、ケーブル中間部分より絶縁体試験片(100mm)を取り出し、恒温槽にて次の条件でヒートサイクル(On 4 時間、Off 20 時間)を行い試験片長の変化を測定しました。

条件 (A) On 60℃/Off 5℃条件 (B) On 60℃/Off 30℃条件 (C) On 90℃/Off 5℃条件 (D) On 90℃/Off 30℃第 3 図に各サイクルにおける絶縁体収縮率を示します。ヒートサイクル試験より①ヒートサイクルの温度差が大きい方が収縮量は大きい、②ヒートサイクルオフ時の温度が低い方が収縮量は大きいことが分かりました。各条件における伸縮量(0.4 ~ 2.6%)は、絶縁体の線膨張係数から計算される伸縮量(0.4 ~ 1.2%)よりも大きく、かつ伸縮が収縮側にシフトしていることから、残留応力が開放されシュリンクバックしたものと考えられます。通常の線路において、実際の送電線路運用は、条件 (A) 収縮率 1.5%、(B) 収縮率0.0% に近いと考えることができます。絶縁体の不動点を 500~1,000mm とすると、発生する

SB は 8mm~ 15mm 程度と推定され、 第 3 図の SB 発生頻度の高い区間と概ね一致することが分かります。

4.SBが絶縁性能に与える影響検証(1)半導電性テープ有無による検証  SB により半導電性 Cテープとケーブル内導とのラップが解消された場合の絶縁性能を検証するため、第4図に示すモデルを製作し、写真 1 に示すように、課電試験および解体調査を行いました。試験には、絶縁テープ別(油浸式、乾式)、半導電性 C テープの有無別の 4 試料を用いました。第 1表に課電試験・解体調査結果を示します。No.2 試料は、内導端を基点に絶縁破壊しており、張力が低い油浸式テープでは、内導付近に生じた段差を埋めることができず、段差で生じたボイドが起点となり破壊する可能性が分かりました。ただし、77kV ケーブルの100sq サイズにおける運転電界(3.4kV/mm)、一線地絡時電界(5.9kV/mm) と比較して、今回の破壊電界は十分高いことから、内導と半導電性Cテープとのラップ解消により即座に絶縁破壊に至る可能性は低いと考えられます。

(2)SB再現による検証 SB によるペンシリング部の絶縁性能を検証するため、ヒートサイクルで強制的に SB させた第 4図と同様のモデルについて、課電試験および解体調査を行いました。試験には、絶縁テープ別、SB 量別に 8 試料を用いました。第 2 表に課電試験・解体調査結果を示します。試験結果より全ての試料で SB が要因と考えられる破壊は認められず、SB が 5mm程度であれば運転電界、一線地絡

電界と比較して余裕があることが分かりました。

5.まとめ 本研究の結果、SB が発生した場合においても、内導と半導電性C テープとのラップ状態が保たれている場合、絶縁性能の大きな低下は発生しないことが分かりました。今後は引き続き、今回の検証よりも大きな SB が発生した場合について、TJ に与える影響を検証する予定としています。

CV ケーブルの接続部は、CV ケーブルが適用され始めた 1970 年代から 2000 年頃までテープ巻式中間接続部(TJ)が主に採用されています。当社では TJ の撤去品調査を進めており、一部の調査においてペンシリング部におけるシュリンクバック※の発生を認めました。TJ においてシュリンクバックが発生すると、絶縁性能が低下することが懸念されます。そこで今回、シュリンクバックの発生量および絶縁性能に与える影響について、評価を行いました。(※ケーブル製造時の残留応力が、ケーブル切断および運転開始後の熱伸縮により徐々に開放され、ケーブル絶縁体が長手方向に収縮する現象)

CVケーブル接続部における絶縁体シュリンクバック発生量および影響検討

第 1図 テープ巻き式接続箱の構造および想定されるシュリンクバックの影響 第 2図 シュリンクバック発生頻度

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[mm]

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CV

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研究紹介 研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(流通)

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1.はじめに テープ巻き式接続箱(以下、TJ)は、第1図に示すように、ケーブル絶縁体である架橋ポリエチレン上に絶縁テープで補強絶縁体を構成しています。当社では、TJの経年劣化特性を把握するために撤去品調査を進めており、一部の撤去品において絶縁体ペンシリング部におけるシュリンクバック(以下、SB)の発生を認めました。 そこで、本研究では SB の発生量および絶縁性能に与える影響を検討しましたので、報告します。

2.推定されるSBによる影響 第 1 図に示すように、絶縁体の SB は、絶縁性能に対して、次の 2 つの影響を及ぼすと推定されます。  1 つ目は、ケーブル内部半導電層(以下、内導)と導体上の半導電性 C テープのラップが解消し、

内導と導体間との段差が生じ絶縁性能が低下する影響が考えられます。2 つ目は、ケーブル絶縁体と補強絶縁体との間に空隙が生じ絶縁性能が低下する影響が考えられます。 3.SBの発生量・条件 第 2 図に撤去品調査におけるSB 発生量別の頻度を示します。図から、SB 発生量が 40mm 以上となるようなものが一部ありますが、大半は 20mm 以内であることが分かりました。 次に、絶縁体のヒートサイクル試験を行い、SB 発生条件について、検証を行いました。試験は、ケーブル中間部分より絶縁体試験片(100mm)を取り出し、恒温槽にて次の条件でヒートサイクル(On 4 時間、Off 20 時間)を行い試験片長の変化を測定しました。

条件 (A) On 60℃/Off 5℃条件 (B) On 60℃/Off 30℃条件 (C) On 90℃/Off 5℃条件 (D) On 90℃/Off 30℃第 3 図に各サイクルにおける絶縁体収縮率を示します。ヒートサイクル試験より①ヒートサイクルの温度差が大きい方が収縮量は大きい、②ヒートサイクルオフ時の温度が低い方が収縮量は大きいことが分かりました。各条件における伸縮量(0.4 ~ 2.6%)は、絶縁体の線膨張係数から計算される伸縮量(0.4 ~ 1.2%)よりも大きく、かつ伸縮が収縮側にシフトしていることから、残留応力が開放されシュリンクバックしたものと考えられます。通常の線路において、実際の送電線路運用は、条件 (A) 収縮率 1.5%、(B) 収縮率0.0% に近いと考えることができます。絶縁体の不動点を 500~1,000mm とすると、発生する

SB は 8mm~ 15mm 程度と推定され、 第 3 図の SB 発生頻度の高い区間と概ね一致することが分かります。

4.SBが絶縁性能に与える影響検証(1)半導電性テープ有無による検証  SB により半導電性 Cテープとケーブル内導とのラップが解消された場合の絶縁性能を検証するため、第4図に示すモデルを製作し、写真 1 に示すように、課電試験および解体調査を行いました。試験には、絶縁テープ別(油浸式、乾式)、半導電性 C テープの有無別の 4 試料を用いました。第 1表に課電試験・解体調査結果を示します。No.2 試料は、内導端を基点に絶縁破壊しており、張力が低い油浸式テープでは、内導付近に生じた段差を埋めることができず、段差で生じたボイドが起点となり破壊する可能性が分かりました。ただし、77kV ケーブルの100sq サイズにおける運転電界(3.4kV/mm)、一線地絡時電界(5.9kV/mm) と比較して、今回の破壊電界は十分高いことから、内導と半導電性Cテープとのラップ解消により即座に絶縁破壊に至る可能性は低いと考えられます。

(2)SB再現による検証 SB によるペンシリング部の絶縁性能を検証するため、ヒートサイクルで強制的に SB させた第 4図と同様のモデルについて、課電試験および解体調査を行いました。試験には、絶縁テープ別、SB 量別に 8 試料を用いました。第 2 表に課電試験・解体調査結果を示します。試験結果より全ての試料で SB が要因と考えられる破壊は認められず、SB が 5mm程度であれば運転電界、一線地絡

電界と比較して余裕があることが分かりました。

5.まとめ 本研究の結果、SB が発生した場合においても、内導と半導電性C テープとのラップ状態が保たれている場合、絶縁性能の大きな低下は発生しないことが分かりました。今後は引き続き、今回の検証よりも大きな SB が発生した場合について、TJ に与える影響を検証する予定としています。

執筆者

第 3図 各サイクルにおける収縮率

第 4図 半導電性Cテープの影響検証モデル

写真 1 半導電性Cテープの影響検証モデルにおける課電試験および解体調査

第 1表 半導電性Cテープの影響検証モデルにおける試験結果

第 2表 シュリンクバック再現モデルにおける試験結果

執 筆 者:山本 隆喜所   属:研究開発室 電力技術研究所     電力基盤技術研究室(流通)主な業務:地中送電技術、設備に関する研究に従事

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[%]

(A)(B)(C)(D)

No. C 1 17.9 kV/mm 2 15.9 kV/mm 3 21.2 kV/mm 4 20.7 kV/mm

No. SB 1 5 mm

8.2 kV/mm * 2 5 mm 9.5 kV/mm 3 0 mm 8.6 kV/mm 4 1 mm 10.3 kV/mm 5 3 mm

9.5 kV/mm 6 5 mm 10.5 kV/mm 7 0 mm 9.7 kV/mm 8 0 mm 8.2 kV/mm

* SB

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研究開発室 電力技術研究所 電力基盤技術研究室(流通)CVケーブル接続部における絶縁体シュリンクバック発生量および影響検討

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1.目的 これまで、架空送電鉄塔基礎(拡底基礎)のミニチュア模型を用いた遠心模型実験を行い、斜面傾斜角と基礎の引抜き支持力との関係を調べてきました(第1図、第2図)。 その結果、山頂地形(シリーズC)を除いて、現行設計法から得られる引抜き支持力よりも 1.5倍程度の支持力が得られることがわかりました。

 本研究では、傾斜地に施工した実規模拡底基礎の引抜き試験を行い、引抜き荷重と地中内ひずみおよび地表面変位、ならびに基礎変位の関係を把握することで、遠心模型実験結果の信頼性を確認しました。

2.拡底基礎の引抜き試験概要 試験を実施した傾斜地盤と基礎の概要を第 3図に示します。

 試験は、傾斜角 40 度の一面斜面で実施しました(第 2 図のシリーズAに対応)。斜面の地層は主に砂礫層(風化した土砂)であり基礎の底面付近のN値は 30~40 です。基礎は、拡底部で直径3m、深さ(根入れ)4.8m の実規模の拡底基礎で、現行設計法に基づく極限支持力は 1,170kN となります。 引抜き荷重載荷装置を第 4 図に示します。主桁と反力杭を用いて、油圧ジャッキにより基礎の頭

部を引抜く仕組みです。載荷装置の引抜き能力は装置の構造上2,300kN です。試験では、地中内に設置した 5 本のパイプひずみ計により地中内のひずみの発生状況、周辺の地表面変位、基礎底部の傾斜、および基礎頭部の変位量を調べました。

3.拡底基礎の引抜き試験結果(1)引抜き荷重と地中内ひずみ 地中内に設置した5本(A~E)のパイプひずみ計により、基礎の引抜きに伴う地中内のひずみの発生状況をとらえました(第 5図)。 引 抜 き 荷 重 が 小 さ い 段 階(300kN)より、山側の拡底部付近(第 5 図①)でひずみが発生しました。その後も同領域でのひずみは発達していきますが、引抜き荷重が 1,600kN 時点から、拡底部直上の領域②,③,④および谷側拡底部水平方向の領域⑤,⑥のひずみが発達し始めました。この結果より予想した破壊線を第 5図中に点線で示します。地盤が傾斜すると引抜き時の破壊線は斜面山側で鉛直方向、斜面谷側でほぼ水平方向となる傾向は遠心模型実験結果と整合しています。 また、基礎引抜き試験後に斜面

の一部を掘削し内部の破壊線を観察したところ(第 6 図)、斜面谷側の破壊線がほぼ水平方向に発達していることを確認しました。

(2)引抜き荷重と地表面変位 基礎を中心として放射状に地表面変位計を設置し、基礎の引抜きに伴う地表面変位の発達過程を調べました(第 7図)。 同図には、代表的な荷重段階における鉛直変位量 1mm以上の発生領域を示しています。引抜き荷重 1,200kN 程度までは、すべての箇所で 1mm未満の小さい変位にとどまりました。 引抜き荷重 1,300kN の時点から、基礎位置より斜面下方の領域を中心に 1mm以上の有意な変位が発生し、その後の荷重増加で著しくその領域が拡大していくことがわかります。引抜き荷重2,100kN(最大引抜き荷重)では、斜面下方の広い領域で 1mm 以上の変位が発生しました。斜面における基礎引抜き時の、地表面変位の中心は、斜面下方に移りました。この傾向は、遠心模型実験の結果と整合しています。(3)引抜き荷重と基礎変位 試験で得られた引抜き荷重-基礎変位の関係を第8図に示します。 引抜き荷重は 2,100kN でピークをむかえ、その後減少しました。ただし、このピーク荷重の時点で基礎頭部は 50mm 以上の著しい変位が発生しています。通常、鉄

塔基礎の設計では、上部構造物への影響を考慮し、25mm の変位が発生した時点を極限支持力としています。

 この点から第 8 図をみると、当 該 基 礎 の 極 限 支 持 力 は1,920kN となり、現行設計法に基 づ く 極 限 支 持 力 の 1.6 倍(=1,920/1,170)という結果が得られました。 また、遠心模型実験(シリーズA,B)から期待される極限支持力(現行設計法 ×1.5 倍)を上

回り、遠心模型実験結果の信頼性を確認することができました(第2 図に本試験の結果を★印で示しています)。

4.まとめ 斜面での実規模拡底基礎の引抜き試験を行い、引抜き時の地中内ひずみの発生状況や地表面変位を捉えた結果、それらの傾向は過年度の遠心模型実験とよく整合しました。また、基礎の極限支持力についても、現行設計法の 1.6 倍という結果が得られたことから、遠心模型実験での支持力特性の信頼性を確認することができ、現行設計法よりも高い支持力を見込めることがわかりました。 以上より、架空送電鉄塔基礎の設計において、傾斜地での拡底基礎の深さを浅くすることが可能となり、基礎工事費の低減につながります。

傾斜地において実規模拡底基礎の引抜き試験を行い、斜面における引抜き支持力特性を調べました。その結果、現行設計法よりも高い支持力が得られることがわかりました。このことから、架空送電鉄塔基礎の設計において、傾斜地での拡底基礎の深さを浅くすることが可能となり、基礎工事費の低減につながります。

傾斜地における拡底基礎の引抜き試験と支持力特性の評価

第 1図 遠心模型実験での地中破壊線

第 2図 斜面の傾斜角と引抜き支持力

破壊線

破壊線

破壊線

破壊線

第 3図 傾斜地盤と試験基礎

第 4図 引抜き荷重載荷装置の概要

第 5図 地中内ひずみの発生過程

R&D NEWS KANSAI

研究紹介 電力システム技術センター 架空送電グループ

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1.目的 これまで、架空送電鉄塔基礎(拡底基礎)のミニチュア模型を用いた遠心模型実験を行い、斜面傾斜角と基礎の引抜き支持力との関係を調べてきました(第1図、第2図)。 その結果、山頂地形(シリーズC)を除いて、現行設計法から得られる引抜き支持力よりも 1.5倍程度の支持力が得られることがわかりました。

 本研究では、傾斜地に施工した実規模拡底基礎の引抜き試験を行い、引抜き荷重と地中内ひずみおよび地表面変位、ならびに基礎変位の関係を把握することで、遠心模型実験結果の信頼性を確認しました。

2.拡底基礎の引抜き試験概要 試験を実施した傾斜地盤と基礎の概要を第 3図に示します。

 試験は、傾斜角 40 度の一面斜面で実施しました(第 2 図のシリーズAに対応)。斜面の地層は主に砂礫層(風化した土砂)であり基礎の底面付近のN値は 30~40 です。基礎は、拡底部で直径3m、深さ(根入れ)4.8m の実規模の拡底基礎で、現行設計法に基づく極限支持力は 1,170kN となります。 引抜き荷重載荷装置を第 4 図に示します。主桁と反力杭を用いて、油圧ジャッキにより基礎の頭

部を引抜く仕組みです。載荷装置の引抜き能力は装置の構造上2,300kN です。試験では、地中内に設置した 5 本のパイプひずみ計により地中内のひずみの発生状況、周辺の地表面変位、基礎底部の傾斜、および基礎頭部の変位量を調べました。

3.拡底基礎の引抜き試験結果(1)引抜き荷重と地中内ひずみ 地中内に設置した5本(A~E)のパイプひずみ計により、基礎の引抜きに伴う地中内のひずみの発生状況をとらえました(第 5図)。 引 抜 き 荷 重 が 小 さ い 段 階(300kN)より、山側の拡底部付近(第 5 図①)でひずみが発生しました。その後も同領域でのひずみは発達していきますが、引抜き荷重が 1,600kN 時点から、拡底部直上の領域②,③,④および谷側拡底部水平方向の領域⑤,⑥のひずみが発達し始めました。この結果より予想した破壊線を第 5図中に点線で示します。地盤が傾斜すると引抜き時の破壊線は斜面山側で鉛直方向、斜面谷側でほぼ水平方向となる傾向は遠心模型実験結果と整合しています。 また、基礎引抜き試験後に斜面

の一部を掘削し内部の破壊線を観察したところ(第 6 図)、斜面谷側の破壊線がほぼ水平方向に発達していることを確認しました。

(2)引抜き荷重と地表面変位 基礎を中心として放射状に地表面変位計を設置し、基礎の引抜きに伴う地表面変位の発達過程を調べました(第 7図)。 同図には、代表的な荷重段階における鉛直変位量 1mm以上の発生領域を示しています。引抜き荷重 1,200kN 程度までは、すべての箇所で 1mm未満の小さい変位にとどまりました。 引抜き荷重 1,300kN の時点から、基礎位置より斜面下方の領域を中心に 1mm以上の有意な変位が発生し、その後の荷重増加で著しくその領域が拡大していくことがわかります。引抜き荷重2,100kN(最大引抜き荷重)では、斜面下方の広い領域で 1mm 以上の変位が発生しました。斜面における基礎引抜き時の、地表面変位の中心は、斜面下方に移りました。この傾向は、遠心模型実験の結果と整合しています。(3)引抜き荷重と基礎変位 試験で得られた引抜き荷重-基礎変位の関係を第8図に示します。 引抜き荷重は 2,100kN でピークをむかえ、その後減少しました。ただし、このピーク荷重の時点で基礎頭部は 50mm 以上の著しい変位が発生しています。通常、鉄

塔基礎の設計では、上部構造物への影響を考慮し、25mm の変位が発生した時点を極限支持力としています。

 この点から第 8 図をみると、当 該 基 礎 の 極 限 支 持 力 は1,920kN となり、現行設計法に基 づ く 極 限 支 持 力 の 1.6 倍(=1,920/1,170)という結果が得られました。 また、遠心模型実験(シリーズA,B)から期待される極限支持力(現行設計法 ×1.5 倍)を上

回り、遠心模型実験結果の信頼性を確認することができました(第2 図に本試験の結果を★印で示しています)。

4.まとめ 斜面での実規模拡底基礎の引抜き試験を行い、引抜き時の地中内ひずみの発生状況や地表面変位を捉えた結果、それらの傾向は過年度の遠心模型実験とよく整合しました。また、基礎の極限支持力についても、現行設計法の 1.6 倍という結果が得られたことから、遠心模型実験での支持力特性の信頼性を確認することができ、現行設計法よりも高い支持力を見込めることがわかりました。 以上より、架空送電鉄塔基礎の設計において、傾斜地での拡底基礎の深さを浅くすることが可能となり、基礎工事費の低減につながります。

執筆者

基礎底部

地表面変位範囲

基礎底部

地表面変位範囲

地中の谷側破壊線

第 6図 基礎引抜き後の地中内部観察

第 8図 引抜き試験結果

第 7図 地表面変位の発達過程

執 筆 者:草間 博所   属:電力システム技術センター 架空送電グループ主な業務:超高圧架空送電線路の鉄塔基礎設計に従事

(研究に携わった人)電力システム技術センター 架空送電グループ長尾 修二

R&D NEWS KANSAI 5

電力システム技術センター 架空送電グループ傾斜地における拡底基礎の引抜き試験と支持力特性の評価

Page 8: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.背景および目的 当社管内にはお客さまとの取引の根幹を支えている約 1,300 万台の低圧計器が稼動し、計器に関連する膨大な量の業務が日々処理されています。計量周辺業務におけるお客さまサービス・作業安全性の向上、業務の効率化、将来のお客さまに対する新たなサービスの実現を達成するため、現在当社では新計量システムの導入に取り組んでおり、平成 25 年 6 月末で約 200 万台のユニット式計器を導入しています。 ユニット式計器は、計量機能の他に通信機能やオプション機能を付加できるユニット構造となっています。従来の仕様は机上検討をベースとして開発してきましたので、構造や材料は安全率を見込んだ仕様となっていました。平成20 年度からの導入および実運用を経て知見が得られたことから、コストダウンと安全・品質の確保ならびに作業性向上を目的として仕様の見直しを行いました。

2.ユニット式計器の概要と課題 ユニット式計器は、将来の通信技術革新への柔軟な対応、開閉器取付箇所の選択等、ニーズに応じた機能の組合せを容易に実現するため、機能別にユニット化し、各ユニットの接続は、安全かつスピーディに作業が行えるよう、配線の付外しを排除し、ソケット方式による接続構造としています。 国内初のソケット構造であったため、従来仕様の筐体には細部にわたる構造規定を設けるとともに、実績のある従来式計器の鉄筐体を採用しました。 一方、運用を行う中で課題が明確になってきました。主な課題は、国内初のソケット構造であり品質を重視した構造規定を行ったことによるコストの高止まりや、鉄筐体の採用により計器重量が重くなってしまい、作業性が悪いといった点です。 これらの全ての課題を解決することを今回の開発目標としました。

3.開発の概要(1)開発コンセプト ユニット式計器の仕様を「継続するコンセプト」と「改善すべきコンセプト」に分類し、開発コンセプトを表1のとおり決定しました。

(2)材料変更 製造の容易性、部品点数削減への寄与度、重量等を考慮し、樹脂を採用することとしました。その際、樹脂の特性より候補材を抽出し、「電気的特性」,「強度」,「燃焼性」,「変色性能」の評価検証を経て採用樹脂を選定しました。(3)構造変更 最もシンプルな構造を実現できる「ネジレス」「パッキンレス」とし、試作・検証を繰返し、高い品質を担保できる構造を追求しました。 「ネジレス」実現にあたっては、作業性の向上も踏まえスナップフィット(爪状の引っ掛け構造)を採用しました。(「図2」参照)

 また、「パッキンレス」の実現にあたっては、カバーとベースに隙間を設けて水の流れをつくることにより、防水性を高め良好な品質を確保しました。(「図3」参照)

(4)性能規定化 実運用にて得られた知見や長期間の運用を踏まえ、信頼性試験をより明確化しました。今回、各試験に合格することを条件に詳細構造規定をなくしたため、品質を確保できるギリギリまでの削減部品の見極めが可能となりました。

(5)更なるコストダウン 多数のコストダウンアイデアから、実現可能で効果的なものを詳細検討し、機器のラインナップ統一や小型化によるコストダウンを実現しました。

4.まとめ これまでの導入および実運用で得られた知見を踏まえ、コストダウンと安全・品質確保の両立および作業性を大きく向上させた新仕様の開発が完了し、導入を開始しています。 主な特徴として、筐体材料に樹脂を採用し、ネジレス・パッキンレスを実現することで、材料費低減や部品点数削減、軽量化による作業性の大幅な向上を達成しました。また直結ユニットのコンパクト化等によるコストダウンも合わせて実現しました。

H20 年度から、計量周辺業務におけるお客さまサービス・作業安全性の向上等を実現するため、計量機能に加え通信機能やオプション機能を付加できるユニット式計器の導入を開始しています。今回、導入および実運用を経て得られた知見を踏まえ、コストダウンと安全・品質確保の両立および作業性向上を目的とした開発を行いましたので紹介いたします。

ユニット式計器(スライド型)の開発

図1 従来仕様ユニット式計器の構成

表1 開発コンセプト

・「ユニット構造による拡張性と柔軟性の確保」

・「ソケット構造による活線作業の廃止」

・「安価な材料への変更」・「より簡素な構造への変更」・「性能規定化」

継続するコンセプト

改善するコンセプト

ユニットケース通信端局ユニット

電力量計ユニット

直結ユニット(オプションユニット)

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研究紹介 電力流通事業本部 ネットワーク技術高度化グループ

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1.背景および目的 当社管内にはお客さまとの取引の根幹を支えている約 1,300 万台の低圧計器が稼動し、計器に関連する膨大な量の業務が日々処理されています。計量周辺業務におけるお客さまサービス・作業安全性の向上、業務の効率化、将来のお客さまに対する新たなサービスの実現を達成するため、現在当社では新計量システムの導入に取り組んでおり、平成 25 年 6 月末で約 200 万台のユニット式計器を導入しています。 ユニット式計器は、計量機能の他に通信機能やオプション機能を付加できるユニット構造となっています。従来の仕様は机上検討をベースとして開発してきましたので、構造や材料は安全率を見込んだ仕様となっていました。平成20 年度からの導入および実運用を経て知見が得られたことから、コストダウンと安全・品質の確保ならびに作業性向上を目的として仕様の見直しを行いました。

2.ユニット式計器の概要と課題 ユニット式計器は、将来の通信技術革新への柔軟な対応、開閉器取付箇所の選択等、ニーズに応じた機能の組合せを容易に実現するため、機能別にユニット化し、各ユニットの接続は、安全かつスピーディに作業が行えるよう、配線の付外しを排除し、ソケット方式による接続構造としています。 国内初のソケット構造であったため、従来仕様の筐体には細部にわたる構造規定を設けるとともに、実績のある従来式計器の鉄筐体を採用しました。 一方、運用を行う中で課題が明確になってきました。主な課題は、国内初のソケット構造であり品質を重視した構造規定を行ったことによるコストの高止まりや、鉄筐体の採用により計器重量が重くなってしまい、作業性が悪いといった点です。 これらの全ての課題を解決することを今回の開発目標としました。

3.開発の概要(1)開発コンセプト ユニット式計器の仕様を「継続するコンセプト」と「改善すべきコンセプト」に分類し、開発コンセプトを表1のとおり決定しました。

(2)材料変更 製造の容易性、部品点数削減への寄与度、重量等を考慮し、樹脂を採用することとしました。その際、樹脂の特性より候補材を抽出し、「電気的特性」,「強度」,「燃焼性」,「変色性能」の評価検証を経て採用樹脂を選定しました。(3)構造変更 最もシンプルな構造を実現できる「ネジレス」「パッキンレス」とし、試作・検証を繰返し、高い品質を担保できる構造を追求しました。 「ネジレス」実現にあたっては、作業性の向上も踏まえスナップフィット(爪状の引っ掛け構造)を採用しました。(「図2」参照)

 また、「パッキンレス」の実現にあたっては、カバーとベースに隙間を設けて水の流れをつくることにより、防水性を高め良好な品質を確保しました。(「図3」参照)

(4)性能規定化 実運用にて得られた知見や長期間の運用を踏まえ、信頼性試験をより明確化しました。今回、各試験に合格することを条件に詳細構造規定をなくしたため、品質を確保できるギリギリまでの削減部品の見極めが可能となりました。

(5)更なるコストダウン 多数のコストダウンアイデアから、実現可能で効果的なものを詳細検討し、機器のラインナップ統一や小型化によるコストダウンを実現しました。

4.まとめ これまでの導入および実運用で得られた知見を踏まえ、コストダウンと安全・品質確保の両立および作業性を大きく向上させた新仕様の開発が完了し、導入を開始しています。 主な特徴として、筐体材料に樹脂を採用し、ネジレス・パッキンレスを実現することで、材料費低減や部品点数削減、軽量化による作業性の大幅な向上を達成しました。また直結ユニットのコンパクト化等によるコストダウンも合わせて実現しました。

執筆者

表2 主な信頼性試験

図2 ユニットケース(スライド式)

図3 水の流れ

図4 新仕様ユニット式計器

耐候性能、劣化状況を確認 雷サージを印加し耐雷性能を確認 破壊強度を確認 微振動による特性変化を確認 衝撃の影響を確認 「温度上昇試験」「電力損失」「高温高湿試験」等の試験を実施

屋外暴露試験

主な試験 内容

振動試験

衝撃試験

その他[スナップフィット部]爪状の引っ掛け構造

破壊試験

耐雷試験

[主な効果]・コストダウン:▲37%・軽  量  化:▲50%・部品点数削減:▲50%

カバー ベース 直結ユニット

従来仕様

新仕様

部品:9個、重量:1000g 部品:70個、重量:1300g

部品:1個、重量:330g 部品:40個、重量:770g コンパクト化

ベース

ケース

表 3 従来仕様と新仕様の比較

執 筆 者:織田 俊樹所   属:電力流通事業本部 ネットワーク技術高度化グループ主な業務:電力量計の開発に従事

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電力流通事業本部 ネットワーク技術高度化グループユニット式計器(スライド型)の開発

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1.研究の背景とねらい プロジェクトを円滑に推進するためには、業務プロセスにおいて必要な情報を関係者間で相互利用できるようにする必要があります。相互に情報を共有することで業務プロセスをスムーズに連係でき、業務効率化や、業務改善の新たな発想を得やすくなります。現在は、社内業務を対象に SPS やノーツを活用していますが、社外との情報共有においては主に電子メールを活用しており、十分な情報共有が行えていない状況であります。今回、社外との情報共有ニーズに低コストでスムーズに対応することを目的に、OSSアプリケーションに対して利用評価を行いました。

2.OSSの特徴と課題 OSS は自由な再頒布ができライセンス費用が不要です。プログラムコードが公開されているため、カスタマイズ性に優れ、技術的な中立を保っている OSS では特定ベンダへの依存を回避することができます。近年では IT システムの基盤部分だけでなく、データベースやアプリケーションサーバにおいても利用が進むなど、商用ソフトウェアに取って代わることが可能なほど OSS が成熟してきました。OSS の活用は企業に多くのメリットをもたらします

が、一方で有償サポートがある製品は限られ、数あるOSSの中で、どの OSS を使えばよいか、どのような手順でインストールし、環境設定すればよいか、OSS 同士の組合せにおいてその稼動をどう担保するかなど解決すべき課題があります。

3.情報共有OSSの調査 情報共有に必要な機能としては、SNS 機能、文書管理機能、プロジェクト管理機能、Web 会議機能、Web コミュニケーション機能が考えられます。これらの機能を持つインターネット上に公開された情報共有 OSS を調査しました。 数多く存在する情報共有 OSSに対して、Web 上での情報の多さや、今後の発展性で比較を行い、調査対象を選定しました。有償サポートのないOSSの利用に際し、Web上の情報の多さの観点では、どのような動作環境で、どのようにインストールを行い、環境設定を行わなければならないかなど机上検討を実施するために必要な情報が十分に得られるか否かを評価します。また、今後の発展性の観点では、開発コミュニティの活動が活発に継続されているか否かを評価します。 これらの条件で選定した情報共有OSSは次のとおりです。

 これらの情報共有 OSS をサーバ環境へ導入し、環境構築方法や機能および運用性の評価を行いました。その結果、環境構築に関しては、情報共有 OSS と連携して動作するデータベースなどのソフトウェアのバージョンが、それぞれの情報共有 OSS が指定するバージョンでないと動作しない事象が多く発生しました。このため複数の情報共有 OSS を導入する場合には、共通で利用するデータベースなどのソフトウェアがあってもバージョン制約で1台にまとめられないので、それぞれの情報共有 OSS ごとに専用サーバで構築する必要があると考えられます。導入するOSSによってはサーバのリソースをあまり使用しないものや、運用を続けるうちに肥大化してリソースを圧迫していくものがあります。リソースの有効活用を考えると仮想サーバで構築するのが望ましいと考えられます。 第1図にWeb会議のOpenMeetingsの会議室一覧画面の例を示します。OpenMeetings に登録されたユーザであれば誰でも利用できる公開会議室、グループに所属するユーザのみ入室できる非公開会議室など用途に応じた会議室を選

択でき、ホワイトボードやデスクトップ共有機能などが使えます。機能に関しては、他の情報共有OSS も同様に一般ユーザが情報共有を行うのに十分な機能を持っていることがわかりました。

 運用管理に関しては情報セキュリティの確保、ユーザ管理の一元化、ユーザビリティ向上の観点から、情報共有 OSS のみでは機能が不足しており、これらの機能を補足するOSS(機能補足OSS)と組合せた、1つのパッケージとして適用を検討する必要があります。

4.機能補足OSSの調査 機能補足 OSS に必要な機能としては、シングルサインオン(SSO)機能、ユーザ管理機能、ポータル機能が考えられます。これらの機能を持つ、インターネット上に公開された機能補足 OSS を調査しました。 機能補足 OSS の調査も情報共有 OSS と同様に、Web 上での情報の多さ、今後の発展性で比較を行い、調査対象を選定しました。選定した機能補足 OSS は次のとおりです。

 これらの機能補足 OSS をサーバ環境へ導入し、機能や環境構築方法などの評価を行いました。その結果、SSO 機能においては、OpenAM、ユーザ管理機能においては、OpenDJ と OpenLDAP、ポ ー タ ル 機 能 に お い て は、

Liferay Portal が十分な機能を持っていることがわかりました。環 境 構 築 を 行 っ た 結 果、OpenAM のインストール時にOpenDJ が自動的に一括してインストールされ、同一サーバ内に構築されることがわかりました。

5.組合せ検証 情報共有 OSS と機能補足 OSSとを組合せてサーバ環境へ導入し、組合せによる稼動の担保、利用上の課題抽出を行いました。 情報共有 OSS と機能補足 OSSの調査結果に基づき、仮想サーバ上で、OpenAM と OpenDJ を同一サーバで構築し、Liferay Portalとそれぞれの情報共有OSSを別々のサーバで構築しました。情報共有 OSS が独立した環境になっているため、それぞれの OSS の単体起動は問題なく実施できました。SSO の連携においては OpenAMのエージェントを各サーバにインストールし、連携設定を行いました。その結果、Liferay Portal において起動画面は表示されるものの SSO 機能が動作しない状態が発生しました。(第2図)

 そこで、OpenAM のエージェントを使わずに連携する方法を検討しました。Liferay Portal に

OpenAM との連携機能が実装されており、この機能を使って連携設定を行いましたが、エラーとなり連携できませんでした。これはLiferay Portal の サ ー バ とOpenAM のサーバとのセキュリティポリシーの不整合によりエラ ー と な っ た と 考 え ら れ、Liferay Portal と OpenAM とを同じサーバ上に構築しました。その結果、第3図のように連携することができました。

 また、OpenMeetings においては、FlashストリーミングサーバのRed5 上で動かす必要がありますが、OpenAM に Red5 用のエージェントが実装されていないため、そのままの状態では連携できません。そこで、OpenMeetings の連携機能の調査を行った結果、SSO連携のためのインタフェースが用意されており、この機能を活用することで比較的簡単な改造で連携が可能であることがわかりました。

6.おわりに 社外との情報共有ニーズに対して、OSS は十分な機能を持っていることが確認できました。今後、バージョンアップへの対応など関連情報の更新を行い、業務効率化に寄与していく予定です。

OSS(オープンソースソフトウェア)は自由な再頒布ができライセンス費用が不要です。OSS の活用はコスト低減等のメリットをもたらしますが、一方でサポートを受けられる製品は一部にとどまり、どの OSS を使えばよいか、OSS の組合せにおいてその稼動をどう担保するかなど解決すべき課題があります。そこで、情報共有およびその機能を補足する OSS をサーバ環境で動作させ、利用の側面から研究を行い、課題と対策を明確化しました。

情報共有システムへのオープンソースソフトウェアの活用に関する研究

第1表 情報共有OSSSNS文書管理プロジェクト管理Web会議Webコミュニケーション

:OpenPNE、MyNETS、SKIP:Alfresco、KnowledgeTree:Redmine、Trac:OpenMeetings、BigBlueButton:DokuWiki

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研究紹介 研究開発室 電力技術研究所 IT サービス研究室

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1.研究の背景とねらい プロジェクトを円滑に推進するためには、業務プロセスにおいて必要な情報を関係者間で相互利用できるようにする必要があります。相互に情報を共有することで業務プロセスをスムーズに連係でき、業務効率化や、業務改善の新たな発想を得やすくなります。現在は、社内業務を対象に SPS やノーツを活用していますが、社外との情報共有においては主に電子メールを活用しており、十分な情報共有が行えていない状況であります。今回、社外との情報共有ニーズに低コストでスムーズに対応することを目的に、OSSアプリケーションに対して利用評価を行いました。

2.OSSの特徴と課題 OSS は自由な再頒布ができライセンス費用が不要です。プログラムコードが公開されているため、カスタマイズ性に優れ、技術的な中立を保っている OSS では特定ベンダへの依存を回避することができます。近年では IT システムの基盤部分だけでなく、データベースやアプリケーションサーバにおいても利用が進むなど、商用ソフトウェアに取って代わることが可能なほど OSS が成熟してきました。OSS の活用は企業に多くのメリットをもたらします

が、一方で有償サポートがある製品は限られ、数あるOSSの中で、どの OSS を使えばよいか、どのような手順でインストールし、環境設定すればよいか、OSS 同士の組合せにおいてその稼動をどう担保するかなど解決すべき課題があります。

3.情報共有OSSの調査 情報共有に必要な機能としては、SNS 機能、文書管理機能、プロジェクト管理機能、Web 会議機能、Web コミュニケーション機能が考えられます。これらの機能を持つインターネット上に公開された情報共有 OSS を調査しました。 数多く存在する情報共有 OSSに対して、Web 上での情報の多さや、今後の発展性で比較を行い、調査対象を選定しました。有償サポートのないOSSの利用に際し、Web上の情報の多さの観点では、どのような動作環境で、どのようにインストールを行い、環境設定を行わなければならないかなど机上検討を実施するために必要な情報が十分に得られるか否かを評価します。また、今後の発展性の観点では、開発コミュニティの活動が活発に継続されているか否かを評価します。 これらの条件で選定した情報共有OSSは次のとおりです。

 これらの情報共有 OSS をサーバ環境へ導入し、環境構築方法や機能および運用性の評価を行いました。その結果、環境構築に関しては、情報共有 OSS と連携して動作するデータベースなどのソフトウェアのバージョンが、それぞれの情報共有 OSS が指定するバージョンでないと動作しない事象が多く発生しました。このため複数の情報共有 OSS を導入する場合には、共通で利用するデータベースなどのソフトウェアがあってもバージョン制約で1台にまとめられないので、それぞれの情報共有 OSS ごとに専用サーバで構築する必要があると考えられます。導入するOSSによってはサーバのリソースをあまり使用しないものや、運用を続けるうちに肥大化してリソースを圧迫していくものがあります。リソースの有効活用を考えると仮想サーバで構築するのが望ましいと考えられます。 第1図にWeb会議のOpenMeetingsの会議室一覧画面の例を示します。OpenMeetings に登録されたユーザであれば誰でも利用できる公開会議室、グループに所属するユーザのみ入室できる非公開会議室など用途に応じた会議室を選

択でき、ホワイトボードやデスクトップ共有機能などが使えます。機能に関しては、他の情報共有OSS も同様に一般ユーザが情報共有を行うのに十分な機能を持っていることがわかりました。

 運用管理に関しては情報セキュリティの確保、ユーザ管理の一元化、ユーザビリティ向上の観点から、情報共有 OSS のみでは機能が不足しており、これらの機能を補足するOSS(機能補足OSS)と組合せた、1つのパッケージとして適用を検討する必要があります。

4.機能補足OSSの調査 機能補足 OSS に必要な機能としては、シングルサインオン(SSO)機能、ユーザ管理機能、ポータル機能が考えられます。これらの機能を持つ、インターネット上に公開された機能補足 OSS を調査しました。 機能補足 OSS の調査も情報共有 OSS と同様に、Web 上での情報の多さ、今後の発展性で比較を行い、調査対象を選定しました。選定した機能補足 OSS は次のとおりです。

 これらの機能補足 OSS をサーバ環境へ導入し、機能や環境構築方法などの評価を行いました。その結果、SSO 機能においては、OpenAM、ユーザ管理機能においては、OpenDJ と OpenLDAP、ポ ー タ ル 機 能 に お い て は、

Liferay Portal が十分な機能を持っていることがわかりました。環 境 構 築 を 行 っ た 結 果、OpenAM のインストール時にOpenDJ が自動的に一括してインストールされ、同一サーバ内に構築されることがわかりました。

5.組合せ検証 情報共有 OSS と機能補足 OSSとを組合せてサーバ環境へ導入し、組合せによる稼動の担保、利用上の課題抽出を行いました。 情報共有 OSS と機能補足 OSSの調査結果に基づき、仮想サーバ上で、OpenAM と OpenDJ を同一サーバで構築し、Liferay Portalとそれぞれの情報共有OSSを別々のサーバで構築しました。情報共有 OSS が独立した環境になっているため、それぞれの OSS の単体起動は問題なく実施できました。SSO の連携においては OpenAMのエージェントを各サーバにインストールし、連携設定を行いました。その結果、Liferay Portal において起動画面は表示されるものの SSO 機能が動作しない状態が発生しました。(第2図)

 そこで、OpenAM のエージェントを使わずに連携する方法を検討しました。Liferay Portal に

OpenAM との連携機能が実装されており、この機能を使って連携設定を行いましたが、エラーとなり連携できませんでした。これはLiferay Portal の サ ー バ とOpenAM のサーバとのセキュリティポリシーの不整合によりエラ ー と な っ た と 考 え ら れ、Liferay Portal と OpenAM とを同じサーバ上に構築しました。その結果、第3図のように連携することができました。

 また、OpenMeetings においては、FlashストリーミングサーバのRed5 上で動かす必要がありますが、OpenAM に Red5 用のエージェントが実装されていないため、そのままの状態では連携できません。そこで、OpenMeetings の連携機能の調査を行った結果、SSO連携のためのインタフェースが用意されており、この機能を活用することで比較的簡単な改造で連携が可能であることがわかりました。

6.おわりに 社外との情報共有ニーズに対して、OSS は十分な機能を持っていることが確認できました。今後、バージョンアップへの対応など関連情報の更新を行い、業務効率化に寄与していく予定です。

執筆者

第1図 OpenMeetings の画面例

SSOユーザー管理ポータル

:OpenAM、JOSSO:OpenDJ、OpenLDAP:Liferay Portal、Gateln Portal

第2表 機能補足OSS

第3図 正常な起動画面

執 筆 者:太田 弘所   属:研究開発室 電力技術研究所 IT サービス研究室主な業務:情報関係の研究に従事

第2図 SSO連携エラー画面

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研究開発室 電力技術研究所 IT サービス研究室情報共有システムへのオープンソースソフトウェアの活用に関する研究

Page 12: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.新しい機器異常診断方法の概念 新しい異常診断は、発電所に設置されたディジタル式記録計により取得した保全センサ(以降センサという)データ(電子データ)を、異常診断アルゴリズムを適用したツールに落とし込み、絶対値管理では気付きにくい異常を診断するというものです。 アルゴリズムの概念は、評価したいセンサデータの実測値と、それ以外のセンサデータを用いた理論式(以降異常評価式という)から求められる理論値とを比較することにより異常検出を行うというものです。ここで異常評価式は y(目的変数)を評価したいセンサデータの理論値、x1 、x2(説明変数)を y 以外のセンサデータの実測値、a および b を係数、z を定数項として y=a・x1+b・x2+z で表すこととしました。

2.異常評価式の作成(1)代表ユニットおよびセンサ   項目の選定 異常評価式については、発電機毎に必要となりますが、全発電機に対して一から作成することは現実的ではないため、代表発電機において作成した異常評価式の係数、定数項および閾値を容易にチューニングし、他発電機へ展開できる手法を開発することとしました。代表発電機は、状態監視装置が設置されており、センサ項目が多くデータが充実している奥

多々良木発電所6号機とし、第1図の設備異常進展メカニズムにより抽出されたセンサの中から、早い段階で異常検知でき、技術的にも確立されているセンサを第1表の通り選定しました。

(2)センサ項目の組合せの検討 異常評価式に使用するセンサ項目の組合せ(yに対する x1と x2)を決定するため、設計的見地から各センサデータの関連付けを第2図の通り整理しました。(3) 異常評価式の係数および定数項の    導出方法および異常検出の考え方 異常評価式の係数(a、b)および定数項(z)は、第3図に示す異常評価式から算出される理論

値と実測値のずれ(偏差)の二乗の平均が最小となる時の値を採用します。 係数および定数項の導出については、年間を通したより多くの実測値を用いることにより、季節的な温度変化への対応等、高精度化を図ることができるため、代表発電機の異常評価式作成にあたっては、平成 21 年 5 月~平成 24 年3 月までの運転データ(運転回数

956 回分)を使用しました。今回大量のデータ処理が必要なことから、メーカ保有のシステムモデル化技術(データの分析、分類を高速かつ高精度で処理可能)を用いて、異常評価式の係数および定数項の導出を行い、設計的見地および数学的精度から代表発電機における異常評価式を第2表の通り作成しました。

 なお、異常検出は、第4図に示すようにセンサデータの実測値が、理想直線と閾値の範囲(正常域)を逸脱した場合、異常と判定されます。

(4) 閾値の設定 閾値については、目的変数のセンサ項目毎に理論値と実測値のずれ(偏差)を求め、その「偏差の平均値+nσ」を閾値としました。nは手動設定可能とするとともに、異常評価式作成用データが、全て「正常」と判定されるような値を自動で設定する機能をツールに組み込みました。

3.異常診断の検証 奥多々良木発電所6号機をベースに作成した異常診断兼チューニング

ツールを用いて、平成 19年 7月に奥多々良木発電所3号機の揚水運転中に発生した水車軸受温度上昇事象(第5図参照)について、異常検出できるか否か検証を行いました。平成 18年 1月から 12月の揚水運転データから、ほぼ等間隔で抜粋した35 日分のデータを用いてチューニングを実施し、異常診断を行った結果、水車軸受温度の異常検出はできませんでした。   その原因は、チューニングに使用したデータの中に、第6図に示すように、水車軸受温度の理論値と実測値の偏差が大きなものが含まれており、閾値が大きく設定されたためでした。この理論値と実測値の偏差の大きなデータは、軸受温度上昇の変化幅の大きい並列後 15 分以内のものが主であったため、各日、並列後

15分間以降のデータのみで、再度チューニングを行いました。その結果、チューニングに使用した水車軸受温度データの理論値と実測値の偏差および閾値の幅は、第7図に示す通り小さくなり、再チューニング後の異常診断の結果は、第8図の通り、異常として検出することができました。

4.まとめ 今回作成したツールにて異常診断を実施することは可能ではありますが、閾値設定の考え方の確立には至らなかったため、現時点での現場への適用は難しいと考えます。今後は、設備異常事例を用いて、異常評価式の精度向上と最適な閾値設定の検討を行い、状態監視保全のサポートツールとして、現場への適用を目指したいと思います。

水車発電機の状態監視保全の高度化および保全業務の効率化に寄与できる機器異常診断技術の開発を目指し、水車発電機に設置されている保全センサ(温度、油面、振動等)のデータを活用して、容易に高い精度で設備状態を診断できる手法の構築に、日立三菱水力(株)と共に取り組みました。

保全センサを用いた機器異常診断に関する研究

第 1表 センサ項目一覧表

  :評価対象(目的変数)から除外

第2図 異常診断センサの関連図

第3図 理論値と実測値のずれの概念

第1図 設備異常進展メカニズム

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研究紹介 電力システム技術センター 水力グループ

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Page 13: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.新しい機器異常診断方法の概念 新しい異常診断は、発電所に設置されたディジタル式記録計により取得した保全センサ(以降センサという)データ(電子データ)を、異常診断アルゴリズムを適用したツールに落とし込み、絶対値管理では気付きにくい異常を診断するというものです。 アルゴリズムの概念は、評価したいセンサデータの実測値と、それ以外のセンサデータを用いた理論式(以降異常評価式という)から求められる理論値とを比較することにより異常検出を行うというものです。ここで異常評価式は y(目的変数)を評価したいセンサデータの理論値、x1 、x2(説明変数)を y 以外のセンサデータの実測値、a および b を係数、z を定数項として y=a・x1+b・x2+z で表すこととしました。

2.異常評価式の作成(1)代表ユニットおよびセンサ   項目の選定 異常評価式については、発電機毎に必要となりますが、全発電機に対して一から作成することは現実的ではないため、代表発電機において作成した異常評価式の係数、定数項および閾値を容易にチューニングし、他発電機へ展開できる手法を開発することとしました。代表発電機は、状態監視装置が設置されており、センサ項目が多くデータが充実している奥

多々良木発電所6号機とし、第1図の設備異常進展メカニズムにより抽出されたセンサの中から、早い段階で異常検知でき、技術的にも確立されているセンサを第1表の通り選定しました。

(2)センサ項目の組合せの検討 異常評価式に使用するセンサ項目の組合せ(yに対する x1と x2)を決定するため、設計的見地から各センサデータの関連付けを第2図の通り整理しました。(3) 異常評価式の係数および定数項の    導出方法および異常検出の考え方 異常評価式の係数(a、b)および定数項(z)は、第3図に示す異常評価式から算出される理論

値と実測値のずれ(偏差)の二乗の平均が最小となる時の値を採用します。 係数および定数項の導出については、年間を通したより多くの実測値を用いることにより、季節的な温度変化への対応等、高精度化を図ることができるため、代表発電機の異常評価式作成にあたっては、平成 21 年 5 月~平成 24 年3 月までの運転データ(運転回数

956 回分)を使用しました。今回大量のデータ処理が必要なことから、メーカ保有のシステムモデル化技術(データの分析、分類を高速かつ高精度で処理可能)を用いて、異常評価式の係数および定数項の導出を行い、設計的見地および数学的精度から代表発電機における異常評価式を第2表の通り作成しました。

 なお、異常検出は、第4図に示すようにセンサデータの実測値が、理想直線と閾値の範囲(正常域)を逸脱した場合、異常と判定されます。

(4) 閾値の設定 閾値については、目的変数のセンサ項目毎に理論値と実測値のずれ(偏差)を求め、その「偏差の平均値+nσ」を閾値としました。nは手動設定可能とするとともに、異常評価式作成用データが、全て「正常」と判定されるような値を自動で設定する機能をツールに組み込みました。

3.異常診断の検証 奥多々良木発電所6号機をベースに作成した異常診断兼チューニング

ツールを用いて、平成 19年 7月に奥多々良木発電所3号機の揚水運転中に発生した水車軸受温度上昇事象(第5図参照)について、異常検出できるか否か検証を行いました。平成 18年 1月から 12月の揚水運転データから、ほぼ等間隔で抜粋した35 日分のデータを用いてチューニングを実施し、異常診断を行った結果、水車軸受温度の異常検出はできませんでした。   その原因は、チューニングに使用したデータの中に、第6図に示すように、水車軸受温度の理論値と実測値の偏差が大きなものが含まれており、閾値が大きく設定されたためでした。この理論値と実測値の偏差の大きなデータは、軸受温度上昇の変化幅の大きい並列後 15 分以内のものが主であったため、各日、並列後

15分間以降のデータのみで、再度チューニングを行いました。その結果、チューニングに使用した水車軸受温度データの理論値と実測値の偏差および閾値の幅は、第7図に示す通り小さくなり、再チューニング後の異常診断の結果は、第8図の通り、異常として検出することができました。

4.まとめ 今回作成したツールにて異常診断を実施することは可能ではありますが、閾値設定の考え方の確立には至らなかったため、現時点での現場への適用は難しいと考えます。今後は、設備異常事例を用いて、異常評価式の精度向上と最適な閾値設定の検討を行い、状態監視保全のサポートツールとして、現場への適用を目指したいと思います。

執筆者

第2表 異常評価式一覧表(抜粋)

執 筆 者:奥野 光雄所   属:電力システム技術センター 水力グループ主な業務:水力技術、設備に関する研究開発に従事

理論値理論値

異常域 異常域

理想直線

実測値

実測値

理想直線

異常域

異常データ正常データ

異常域

正常域正常域

閾値

閾値 閾値

閾値

第4図 異常検出の考え方

第6図 理論値-実測値分布図(チューニング用元データ)

第7図 理論値-実測値分布図(元データ精査後)

第 8図 理論値-実測値分布図(異常診断用データ)

第5図 水車軸受温度記録異常

R&D NEWS KANSAI 11

電力システム技術センター 水力グループ保全センサを用いた機器異常診断に関する研究

Page 14: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.従来法 W95517 の固定子巻線絶縁余寿命推定法(以下、従来法)は、最初に非破壊絶縁診断(EIC:Electric Insulation Checker)にて測定した最大放電電荷量を用いて、固定子巻線が現在有している絶縁耐力を第 1 図から推定します。

 次に、現在の固定子巻線の経年と第 1 図で求めた絶縁耐力から、現在の固定子巻線の劣化状態を第2図にプロットし、第 2図の劣化曲線に従い劣化していくものとして 絶 縁 耐 力 値 が(2E+1)kV

(E:発電機定格電圧)となった時点を取替時期として、寿命を評価しています。

2.研究内容 本研究は、従来法の固定子巻線取替時期の推定に必要な第 1 図と第 2 図の精度向上をひとつの目的としています。そのために、従来法が確立された 1996 年以降の発電機固定子巻線の破壊試験とEICのデータを全電力会社から集約しました。そのデータを第1図と第 2図に追加し、分析することで精度向上を図りました。 さらに、従来法では絶縁耐力値が(2E+1)kV(E: 発電機定格電圧)となった時点を取替時期としています。しかし、この値は、いかなる水力発電所においても一律に適用されており、発電所によっては過大な裕度を含んでいる可能性があります。そのために、系統から固定子巻線に侵入する雷サージによる過電圧を EMTP(電力系統過渡現象解析プログラム) によるシミュレーション解析で予測することで必要な運用できる絶縁耐力を評価しました。

3.研究成果(1)「絶縁耐力と最大放電電荷量の関係」

の見直しについて  第 1 図の見直しについて、更なる信頼度向上を目指し、W95517 で用いた 29 台分のデータに 45 台分を追加し、延べ 74

台のデータ分析を実施しました。 結果としては、45 台データを追加したものの、関係式の精度向上には繋がりませんでした。その要因としては、絶縁種別や絶縁設計の違いによるデータのバラツキが考えられます。そのため、その要因を排除すべく分類毎に関係式を整理しました。その例として、絶縁種別がエポキシの固定子巻線において発電機電圧 11kV 以上で分類したグラフを第 3 図に示します。

 結果としては、絶縁種別がエポキシの固定子巻線において、従来法と同程度の精度があることを確認しました。また、絶縁種別がポリエステルの固定子巻線および発電機電圧 6kV級のものについて、絶縁耐力と最大放電電荷量の相関係数が小さいことを確認しました。前者の要因は、絶縁種別がポリエステルにおいて、加水分解現象により絶縁耐力と最大放電電荷量の相関が失われたためと考えられます。精度を向上させるため

には、絶縁種別がポリエステルの固定子巻線において、加水分解現象が発生していないことが重要ですが、現状では加水分解の有無を非破壊で診断できません。後者の要因は、EICの試験電圧が低いため、最大放電電荷の正確な値を捉えられていないことが考えられます。発電機電圧が 6kV級のものについては、EICの試験電圧最高値を 6.6kVまで課電することで従来法の統計的バラツキの範囲内に収まることを確認しています。 結論として、データ追加により関係式の精度向上には繋がりませんでしたが、従来法の妥当性が確認できました。(2)「絶縁耐力と経年の関係」の

見直しについて 第 2 図の見直しのため、絶縁耐力の経年変化に使用できる発電機 5 台分のデータを活用し、分析を行いました。第 4 図に従来の関係式に発電機 5 台分の絶縁耐力の経年変化データを加えたグラフを示します。

 結果としては、第 4 図に示すように従来法の絶縁耐力と固定子巻線の経年との関係を示した推定式上にプロットされることが確認できました。(3)雷サージ解析に基づく運転に必要な

絶縁耐力(取替基準)の見直しについて 従来の運転に必要な絶縁耐力値

は、いかなる発電所でも一律に(2E+1)kV(E: 発電機定格電圧)としており、過大な裕度を含んでいる可能性があります。その一方で運転に必要な絶縁耐力は、法令上必要な絶縁耐力を満たすとともに、発電機に発生する異常電圧(一線地絡時や負荷遮断時の過電圧や、雷サージの過電圧等)よりも大きい値に設定しなければなりません。これらのうち、雷サージ過電圧以外は一義的に決まります。雷サージ過電圧については、発電所の回路構成により決まり、個別に解析して求める必要があります。ただし、雷サージ過電圧を解析するにあたり、全発電所を個別に EMTP 解析することは効率的ではないため、今回の研究では、第 5 図のような水力発電所の設備構成を標準とし、雷サージ解析を実施しました。

 その結果を系統電圧と発電機電圧で分類し、各々の雷サージ過電圧の最大値を整理したものを第 1表に示します。 解析の結果から、雷サージが系統電圧 33kV 以上の標準的な雷サージ解析モデルにおいて、従来法の固定子巻線の取替基準である

(2E+1)kV (E: 発電機定格電圧)より低くなることを確認しました。

4.まとめ 「絶縁耐力と最大放電電荷量との関係」の見直しついては、従来法の妥当性を確認することができました。今後は、精度向上のためにデータの統計的バラツキが発生する要因のひとつである、発電機電圧 6.6kV 以下のEICにおける試験電圧の見直しを検討したいと考えています。 「絶縁耐力と経年の関係」の見直し結果については、本研究で追加したデータが従来法の絶縁耐力と固定子巻線の経年との関係を示した推定式上にプロットされたことにより、従来法の妥当性を確認することができました。 「雷サージ解析に基づく運転に必要な絶縁耐力(取替基準)の見直し」については、雷サージが系統電圧 33kV 以上の標準的な雷サージ解析モデルにおいて、従来法の固定子取替巻線の取替基準である (2E+1)kV(E: 発電機定格電圧)より低くなることを確認しました。今後は、発電機固定子巻線の取替基準を見直します。

現在、当社の水車発電機固定子巻線の寿命推定は、電力中央研究所報告W95517「水車発電機コイルの劣化予知と寿命予測の調査研究」に基づき評価しています。しかしながら、W95517 は少ないデータで統計処理しており、余寿命推定の信頼度が低いという問題があります。また、取替基準 の絶縁耐力値 (2E+1)kV(E:発電機定格電圧)は、いかなる水力発電所でも一律に決められており、過大な裕度を含んでいる可能性があります。本研究はこれらの点を考慮し、電力中央研究所、中部電力、四国電力および電源開発と共同で余寿命の推定精度および取替基準を再評価し、固定子巻線取替時期の最適化を図りました。

発電機固定子巻線取替え基準見直しに関する研究

第 1図 絶縁耐力と最大放電電荷量の関係【電力中央研究所報告W95517(※1)に基づく】

第 2図 絶縁耐力と経年の関係【電力中央研究所報告W95517(※1)に基づく】

第 3図 絶縁耐力と最大放電電荷量の関係(データ追加前と追加後の比較)

※1:W95517は非公刊ですが、概要は電気学会技術報告 第1062号「同期機の寿命評価と保守技術」などに記載されています。

tan 0 1 0 %0 0.05 0.075 0.10tan 0 1 0 %0 0.05 0.075 0.10tan 0 1 0 %0 0.05 0.075 0.10

V)

tan 0 1 0 %0 0.05 0.075 0.10

最大放電電荷量(pC)

絶縁耐力と定格電圧との比

最大放電電荷量(pC)

絶縁耐力と定格電圧との比

経年(年)

(現在の絶縁耐力)/(製造時の絶縁耐力)〔%〕

( : 27 )

R&D NEWS KANSAI

研究紹介 電力システム技術センター 水力グループ

12

Page 15: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.従来法 W95517 の固定子巻線絶縁余寿命推定法(以下、従来法)は、最初に非破壊絶縁診断(EIC:Electric Insulation Checker)にて測定した最大放電電荷量を用いて、固定子巻線が現在有している絶縁耐力を第 1 図から推定します。

 次に、現在の固定子巻線の経年と第 1 図で求めた絶縁耐力から、現在の固定子巻線の劣化状態を第2図にプロットし、第 2図の劣化曲線に従い劣化していくものとして 絶 縁 耐 力 値 が(2E+1)kV

(E:発電機定格電圧)となった時点を取替時期として、寿命を評価しています。

2.研究内容 本研究は、従来法の固定子巻線取替時期の推定に必要な第 1 図と第 2 図の精度向上をひとつの目的としています。そのために、従来法が確立された 1996 年以降の発電機固定子巻線の破壊試験とEICのデータを全電力会社から集約しました。そのデータを第1図と第 2図に追加し、分析することで精度向上を図りました。 さらに、従来法では絶縁耐力値が(2E+1)kV(E: 発電機定格電圧)となった時点を取替時期としています。しかし、この値は、いかなる水力発電所においても一律に適用されており、発電所によっては過大な裕度を含んでいる可能性があります。そのために、系統から固定子巻線に侵入する雷サージによる過電圧を EMTP(電力系統過渡現象解析プログラム) によるシミュレーション解析で予測することで必要な運用できる絶縁耐力を評価しました。

3.研究成果(1)「絶縁耐力と最大放電電荷量の関係」

の見直しについて  第 1 図の見直しについて、更なる信頼度向上を目指し、W95517 で用いた 29 台分のデータに 45 台分を追加し、延べ 74

台のデータ分析を実施しました。 結果としては、45 台データを追加したものの、関係式の精度向上には繋がりませんでした。その要因としては、絶縁種別や絶縁設計の違いによるデータのバラツキが考えられます。そのため、その要因を排除すべく分類毎に関係式を整理しました。その例として、絶縁種別がエポキシの固定子巻線において発電機電圧 11kV 以上で分類したグラフを第 3 図に示します。

 結果としては、絶縁種別がエポキシの固定子巻線において、従来法と同程度の精度があることを確認しました。また、絶縁種別がポリエステルの固定子巻線および発電機電圧 6kV級のものについて、絶縁耐力と最大放電電荷量の相関係数が小さいことを確認しました。前者の要因は、絶縁種別がポリエステルにおいて、加水分解現象により絶縁耐力と最大放電電荷量の相関が失われたためと考えられます。精度を向上させるため

には、絶縁種別がポリエステルの固定子巻線において、加水分解現象が発生していないことが重要ですが、現状では加水分解の有無を非破壊で診断できません。後者の要因は、EICの試験電圧が低いため、最大放電電荷の正確な値を捉えられていないことが考えられます。発電機電圧が 6kV級のものについては、EICの試験電圧最高値を 6.6kVまで課電することで従来法の統計的バラツキの範囲内に収まることを確認しています。 結論として、データ追加により関係式の精度向上には繋がりませんでしたが、従来法の妥当性が確認できました。(2)「絶縁耐力と経年の関係」の

見直しについて 第 2 図の見直しのため、絶縁耐力の経年変化に使用できる発電機 5 台分のデータを活用し、分析を行いました。第 4 図に従来の関係式に発電機 5 台分の絶縁耐力の経年変化データを加えたグラフを示します。

 結果としては、第 4 図に示すように従来法の絶縁耐力と固定子巻線の経年との関係を示した推定式上にプロットされることが確認できました。(3)雷サージ解析に基づく運転に必要な

絶縁耐力(取替基準)の見直しについて 従来の運転に必要な絶縁耐力値

は、いかなる発電所でも一律に(2E+1)kV(E: 発電機定格電圧)としており、過大な裕度を含んでいる可能性があります。その一方で運転に必要な絶縁耐力は、法令上必要な絶縁耐力を満たすとともに、発電機に発生する異常電圧(一線地絡時や負荷遮断時の過電圧や、雷サージの過電圧等)よりも大きい値に設定しなければなりません。これらのうち、雷サージ過電圧以外は一義的に決まります。雷サージ過電圧については、発電所の回路構成により決まり、個別に解析して求める必要があります。ただし、雷サージ過電圧を解析するにあたり、全発電所を個別に EMTP 解析することは効率的ではないため、今回の研究では、第 5 図のような水力発電所の設備構成を標準とし、雷サージ解析を実施しました。

 その結果を系統電圧と発電機電圧で分類し、各々の雷サージ過電圧の最大値を整理したものを第 1表に示します。 解析の結果から、雷サージが系統電圧 33kV 以上の標準的な雷サージ解析モデルにおいて、従来法の固定子巻線の取替基準である

(2E+1)kV (E: 発電機定格電圧)より低くなることを確認しました。

4.まとめ 「絶縁耐力と最大放電電荷量との関係」の見直しついては、従来法の妥当性を確認することができました。今後は、精度向上のためにデータの統計的バラツキが発生する要因のひとつである、発電機電圧 6.6kV 以下のEICにおける試験電圧の見直しを検討したいと考えています。 「絶縁耐力と経年の関係」の見直し結果については、本研究で追加したデータが従来法の絶縁耐力と固定子巻線の経年との関係を示した推定式上にプロットされたことにより、従来法の妥当性を確認することができました。 「雷サージ解析に基づく運転に必要な絶縁耐力(取替基準)の見直し」については、雷サージが系統電圧 33kV 以上の標準的な雷サージ解析モデルにおいて、従来法の固定子取替巻線の取替基準である (2E+1)kV(E: 発電機定格電圧)より低くなることを確認しました。今後は、発電機固定子巻線の取替基準を見直します。

執筆者

第 4図 絶縁耐力と経年の関係(データ追加後)

※2:雷サージ過電圧値を商用周波過電圧と同様にE(発電機定格電圧)ベースに換算した。

第 1表 雷サージ過電圧値(※2)

経年(年)

(現在の絶縁耐力)/(製造時の絶縁耐力)〔%〕

第 5図 標準的な雷サージ解析モデル

執 筆 者:山下 奉也所   属:電力システム技術センター 水力グループ主な業務:水力技術、設備に関する研究開発に従事

R&D NEWS KANSAI 13

電力システム技術センター 水力グループ発電機固定子巻線取替え基準見直しに関する研究

Page 16: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. 研究の背景とねらい    当社では、安全・安定供給の確保を最優先に、より低廉な電気料金の実現とさらなる経営効率化を目指し取組んでいます。  送変電設備においてもこれまでの周期管理保全(一定周期で点検を行うTBM)から、点検省力化を目的とした最適な保全施策の検討を行っており、その取組みの一つに設備をデータから評価し、最適な時期に点検・修繕を行う、状態監視保全(CBM)化が進められています。 今回は、この状態監視保全化に向けた取組みとして、275kV 遮断器(三菱製:250-SFMT-50B)除却機器 ( 経年 20 年 ) を活用して、遮断器の動力源となっている油圧操作機構の部品取替時期と点検頻度を見直すことを目的に、メーカ(三菱電機株式会社)と協同研究を行いました。

2. 窒素ガス封入装置の劣化評価 遮断器の操作動力源である油圧を発生する装置に、油圧ポンプと

窒素ガスを圧縮し定格油圧を保持する窒素ガス封入装置があります。 この内、窒素ガス封入装置は、高圧下の蓄圧と放圧を繰り返すことにより、シール部の磨耗や経年による状態変化等の劣化が想定されることから、メーカ推奨の 15年を目安に取替えを行っています。(1)劣化評価 模擬試験装置を作成し、窒素ガス封入装置の多数回動作試験を行い、シール材などの内部構成部品の劣化評価を行いました。

 3000回ごとに窒素圧力を測定した結果を表1に示します。 また多数回動作試験後に、窒素ガス封入装置を解体し各部位ごとに劣化評価を行った結果を表2に示します。

(2)評価結果 窒素封入圧は、性能基準を維持しており、また窒素ガス封入装置については、動作6万回にて問題のないことが確認でき、動作回数から想定する遮断器寿命相当までの使用が可能であることが評価されました。 また解体部位劣化評価では、油側Oリング以外は劣化が見られなかったことから、定期的に油漏れの確認と窒素圧力を確認する状態監視を行い、不具合の兆候が見られてから取替えることで、窒素ガス封入装置の 15 年での定期取替えを実施しなくても対応可能であることが分かりました。 3. スローリークの劣化評価

 油圧操作機構には、温度上昇による高油圧化現象などを防止する、スローリーク装置があります。(図 1) スローリーク装置内にはフィルターがあり、このフィルター目詰まりによるスローリーク量低下を防止するため、12 年ごとに定期点検を行い、フィルターなどの部品交換も行っています。

(1)劣化評価 除却したスローリーク装置(経年 20 年)を分解し、各部位の劣化評価を実施、その結果を表5に示します。(2)評価結果 分解劣化評価の結果、外観に問題はなく、異物についても非常に微量であり、不具合を発生させるものではありませんでした。 また、スローリーク量が減少すると、ポンプ動作回数も減少する相関性を用いて、スローリークの目詰まりをデータより評価できます。 今後は、ポンプの動作回数を管理(1回 /1 日以上)することで、適正な時期に点検を行っていきます。

4.作動油の劣化評価 遮断器操作動力源として作動油が使用されており、作動油の酸化劣化現象などにより、異物が生成されます。異物がフィルターに付着すると、操作性能に影響を与える恐れがあり、12 年周期で新油に取替えしています。(1)劣化評価 作動油評価として、混入異物と油の成分・性能評価を実施、その

結果を表6・7に示します。(2)評価結果 異物は点検時に混入したものと、内部構成物から出た物と推定され、非常に小さく、不具合を発生させるものではありませんでした。 また水分は若干増加傾向にありますが、ほぼ新油と同等の成分・性能を有しており、12 年で新油へ交換する必要なく、空気に暴露する抜油時に取替えを行うこととしました。

5.まとめ 研究結果まとめとして、下記の通り、保全施策を見直しています。(1) 窒素ガス封入装置 現状 15 年での取替を、今後は油漏・窒素圧を確認することで、適宜取替えとします。(2)スローリーク分解点検 12 年周期での分解を、今後は、ポンプ動作回数(1回/ 1日未満)で点検を実施します。(3)作動油 12 年周期での交換を、今後は、抜油時のみ新油と交換します。

機能維持を目的に定期点検では、メーカ推奨周期で部品交換および点検を行う周期管理保全を行っています。今回、点検省力化を目的とし、データ評価に基づく保全実施の観点から、部品取替周期や点検頻度の状態監視保全に向け、メーカ(三菱電機株式会社)と除却機器を活用した、保全評価に関する共同研究を実施した事例をご紹介します。

三菱電機製GCB(ガス遮断器)油圧操作機構部取替え部品の保全評価研究

写真(1) 研究遮断器外観

写真(2) 模擬試験装置

表2 解体部位劣化評価結果

表1 多数回動作試験結果

・油圧を強制的に降下し、くり返し動作させる。

試験対象設備

・油圧を強制的に降下し、くり返し動作させる。

試験対象設備

・寸法、ばね力共に製作公差内であり、初期性能を維持しており、良好な状態。押さえバネ

・外観上はシール機能に影響するような変形・傷は見られず、良好な状態。

・シール性能を把握するために体積変化から磨耗度合いを評価した結果、消耗は極

僅かであり機能上問題ない。(表3参照)

シールパッキン部

(ゴム・テフロン)

・圧縮永久歪率からの寿命評価(窒素側:約85年、作動油側:約32年)として

高経年での油漏れが懸念される。(表4参照)

外部Oリング

検証結果

・寸法、ばね力共に製作公差内であり、初期性能を維持しており、良好な状態。押さえバネ

・外観上はシール機能に影響するような変形・傷は見られず、良好な状態。

・シール性能を把握するために体積変化から磨耗度合いを評価した結果、消耗は極

僅かであり機能上問題ない。(表3参照)

シールパッキン部

(ゴム・テフロン)

・圧縮永久歪率からの寿命評価(窒素側:約85年、作動油側:約32年)として

高経年での油漏れが懸念される。(表4参照)

外部Oリング

検証結果

窒素封入圧力の変化状況【試験装置1】

窒素封入圧力の変化状況【試験装置2】

17.5

18.0

18.5

19.0

19.5

20.0

20.5

21.0

21.5

22.0

22.5

23.0

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000

ポンプ動作回数

アキュムレータ封

入圧

[M

Pa]

17.5

18.0

18.5

19.0

19.5

20.0

20.5

21.0

21.5

22.0

22.5

23.0

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000

ポンプ動作回数

]aP

M[ 圧

入封

ター

レム

ュキ

約23000回 約60000回

約23000回 約65000回

R&D NEWS KANSAI

研究紹介 電力システム技術センター変電グループ

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Page 17: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. 研究の背景とねらい    当社では、安全・安定供給の確保を最優先に、より低廉な電気料金の実現とさらなる経営効率化を目指し取組んでいます。  送変電設備においてもこれまでの周期管理保全(一定周期で点検を行うTBM)から、点検省力化を目的とした最適な保全施策の検討を行っており、その取組みの一つに設備をデータから評価し、最適な時期に点検・修繕を行う、状態監視保全(CBM)化が進められています。 今回は、この状態監視保全化に向けた取組みとして、275kV 遮断器(三菱製:250-SFMT-50B)除却機器 ( 経年 20 年 ) を活用して、遮断器の動力源となっている油圧操作機構の部品取替時期と点検頻度を見直すことを目的に、メーカ(三菱電機株式会社)と協同研究を行いました。

2. 窒素ガス封入装置の劣化評価 遮断器の操作動力源である油圧を発生する装置に、油圧ポンプと

窒素ガスを圧縮し定格油圧を保持する窒素ガス封入装置があります。 この内、窒素ガス封入装置は、高圧下の蓄圧と放圧を繰り返すことにより、シール部の磨耗や経年による状態変化等の劣化が想定されることから、メーカ推奨の 15年を目安に取替えを行っています。(1)劣化評価 模擬試験装置を作成し、窒素ガス封入装置の多数回動作試験を行い、シール材などの内部構成部品の劣化評価を行いました。

 3000回ごとに窒素圧力を測定した結果を表1に示します。 また多数回動作試験後に、窒素ガス封入装置を解体し各部位ごとに劣化評価を行った結果を表2に示します。

(2)評価結果 窒素封入圧は、性能基準を維持しており、また窒素ガス封入装置については、動作6万回にて問題のないことが確認でき、動作回数から想定する遮断器寿命相当までの使用が可能であることが評価されました。 また解体部位劣化評価では、油側Oリング以外は劣化が見られなかったことから、定期的に油漏れの確認と窒素圧力を確認する状態監視を行い、不具合の兆候が見られてから取替えることで、窒素ガス封入装置の 15 年での定期取替えを実施しなくても対応可能であることが分かりました。 3. スローリークの劣化評価

 油圧操作機構には、温度上昇による高油圧化現象などを防止する、スローリーク装置があります。(図 1) スローリーク装置内にはフィルターがあり、このフィルター目詰まりによるスローリーク量低下を防止するため、12 年ごとに定期点検を行い、フィルターなどの部品交換も行っています。

(1)劣化評価 除却したスローリーク装置(経年 20 年)を分解し、各部位の劣化評価を実施、その結果を表5に示します。(2)評価結果 分解劣化評価の結果、外観に問題はなく、異物についても非常に微量であり、不具合を発生させるものではありませんでした。 また、スローリーク量が減少すると、ポンプ動作回数も減少する相関性を用いて、スローリークの目詰まりをデータより評価できます。 今後は、ポンプの動作回数を管理(1回 /1 日以上)することで、適正な時期に点検を行っていきます。

4.作動油の劣化評価 遮断器操作動力源として作動油が使用されており、作動油の酸化劣化現象などにより、異物が生成されます。異物がフィルターに付着すると、操作性能に影響を与える恐れがあり、12 年周期で新油に取替えしています。(1)劣化評価 作動油評価として、混入異物と油の成分・性能評価を実施、その

結果を表6・7に示します。(2)評価結果 異物は点検時に混入したものと、内部構成物から出た物と推定され、非常に小さく、不具合を発生させるものではありませんでした。 また水分は若干増加傾向にありますが、ほぼ新油と同等の成分・性能を有しており、12 年で新油へ交換する必要なく、空気に暴露する抜油時に取替えを行うこととしました。

5.まとめ 研究結果まとめとして、下記の通り、保全施策を見直しています。(1) 窒素ガス封入装置 現状 15 年での取替を、今後は油漏・窒素圧を確認することで、適宜取替えとします。(2)スローリーク分解点検 12 年周期での分解を、今後は、ポンプ動作回数(1回/ 1日未満)で点検を実施します。(3)作動油 12 年周期での交換を、今後は、抜油時のみ新油と交換します。

執筆者

図1 スローリークの構造図

表4 Oリング圧縮永久歪率

表5 スローリーク分解評価結果

表3 パッキン体積変化

表6 異物分析結果

表7 油成分・性能試験結果

執 筆 者:竹雅 孝徳所   属:電力システム技術センター変電グループ主な業務:保全業務に従事

(研究に携わった人)技術センター変電グループ  宮嶋 勲三菱電機株式会社      小松 健

ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(テフロン)

7000

7500

8000

8500

9000

9500

10000

10500

11000

0 20000 40000 60000 80000

ポンプ動作回数

パッキ

ン(テフ

ロン)容

29,000回動作(C相)

図面中央

図面最大

図面最小

58,000回動作(B相1/2)

63,000回動作(B相2/2)

ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(テフロン)ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(テフロン)

7000

7500

8000

8500

9000

9500

10000

10500

11000

0 20000 40000 60000 80000

ポンプ動作回数

パッキ

ン(テフ

ロン)容

29,000回動作(C相)

図面中央

図面最大

図面最小

58,000回動作(B相1/2)

63,000回動作(B相2/2)

ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(テフロン)

ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(ゴム)

7000

7500

8000

8500

9000

9500

10000

10500

11000

0 20000 40000 60000 80000

ポンプ動作回数

パッキン(ゴム)容

29,000回動作(C相)

図面中央図面最大

図面最小58,000回動作(B相1/2)

63,000回(B相2/2)

ポンプ動作回数が多くても製作管理値内である

ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(ゴム)ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(ゴム)

7000

7500

8000

8500

9000

9500

10000

10500

11000

0 20000 40000 60000 80000

ポンプ動作回数

パッキン(ゴム)容

29,000回動作(C相)

図面中央図面最大

図面最小58,000回動作(B相1/2)

63,000回(B相2/2)

ポンプ動作回数が多くても製作管理値内である

ポンプ動作回数とパッキン体積変化の関係(ゴム)

圧縮永久歪率の算出式

Oリング使用経年と圧縮永久歪率

10

100

1 10 100経年(年)

圧縮永久歪率(%)

80

寿命予測線 上ブタ(窒素側)平均

80

寿命予測値 下ブタ(作動油側)平均

85%ライン

32年 85年

・電協研等と同様に油中の0リングは経年30年程度であった。

・窒素側は、熱・酸素・油・水分の劣化影響が少ないと考えられる。

圧縮永久歪率の算出式

Oリング使用経年と圧縮永久歪率

10

100

1 10 100経年(年)

圧縮永久歪率(%)

80

寿命予測線 上ブタ(窒素側)平均

80

寿命予測値 下ブタ(作動油側)平均

85%ライン

32年 85年

・電協研等と同様に油中の0リングは経年30年程度であった。

・窒素側は、熱・酸素・油・水分の劣化影響が少ないと考えられる。

低圧油

高圧油

多層フィルター

絞り油通部

低圧油

高圧油

多層フィルター

絞り油通部

・外観検査にて、目立った目詰まりや変形等は無かった。

・異物分析において、極僅かな金属表面処理剤+グリース増ちょう剤があった。

フィルター部

・外観検査にて、しぼり、ピンに傷やへこみ等は無く、構造寸法も良好であった。

・異物分析において、極僅かな金属異物(アルミ片)があった。

ピン絞り部

分析結果

・外観検査にて、目立った目詰まりや変形等は無かった。

・異物分析において、極僅かな金属表面処理剤+グリース増ちょう剤があった。

フィルター部

・外観検査にて、しぼり、ピンに傷やへこみ等は無く、構造寸法も良好であった。

・異物分析において、極僅かな金属異物(アルミ片)があった。

ピン絞り部

分析結果0.03

0.06~0.07

全酸価

0.877

0.864

比重

2.1719.9144新品

2.2~2.3718.15~19.9080~85分析品

色相汚損等級粘度水分

(ppm)

0.03

0.06~0.07

全酸価

0.877

0.864

比重

2.1719.9144新品

2.2~2.3718.15~19.9080~85分析品

色相汚損等級粘度水分

(ppm)

・セルロース(ウエスの繊維)、黄銅(真鍮)高圧作動油

・塩化ビニル系塗装(Oリングマーカ)、ゴム片低圧作動油

分析結果

・セルロース(ウエスの繊維)、黄銅(真鍮)高圧作動油

・塩化ビニル系塗装(Oリングマーカ)、ゴム片低圧作動油

分析結果

R&D NEWS KANSAI 15

電力システム技術センター変電グループ三菱電機製GCB(ガス遮断器)油圧操作機構部取替え部品の保全評価研究

Page 18: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.はじめに 一般的なデマンド制御は、あらかじめ設定された停止可能機器を手動または自動で停止し、30 分間の使用電力量が契約値を超えないようにする制御方法です。この制御は、機器の ON/OFF を伴うため、室内環境が急に悪化し、居住者の不快感が高まることが、導入を妨げる要因の 1 つとなっていました。そこで、本研究では、室内環境を緩やかに変化させるとともに、デマンド抑制を達成できる連続デマンド制御の開発を行いました。制御の対象設備としては、近年、中小規模建物に採用事例の多いビル用マルチ空調機(以下、EHP)と点消灯・調光機能を備えた照明設備を選定し、汎用性に配慮しました。

2.連続デマンド制御および  制御システムの概要 本研究で開発した連続デマンド制御の制御イメージ図を第1図に示します。連続デマンド制御は、制御の判定に用いる過去 t1 分の電力量を 60 分換算した値が、デマンドの目標上限値を上回ると、デマンドレベルを1上げ、目標下

限値を下回るとデマンドレベルを1下げます。0~ 5 までのデマンドレベルに、室外機出力や室内温度、照度を段階的に設定することで、目標上限値を越えない範囲で電力負荷を制御しつつ、室内環境の急激な変化を抑えることができます。本研究では t1 およびデマンドレベルの効果待ち時間 t3を 5分、デマンドの超過判定待ち時間t2を1分に設定しました。 連続デマンド制御を導入した空調・照明統合制御システムの概略図を第2図に示します。空調・照明統合制御システムは情報を取得する計測システムと連続デマンド制御の判定値に基づき制御指令を出力する制御システムに分類されます。連続デマンド制御のための演算ソフトはローカル制御プログラマブルロジックコントローラ(以下、PLC) 内に導入されており、空調制御システムおよび照明制御システムにデマンドレベルの信号を送ります。各設備の制御システムは受け取ったレベル信号に基づき出力調整を行います。PLC から各設備へ送ることのできる制御信号の一覧を第 1表に示します。

3.連続デマンド制御の検証3.1.検証実験の概要 暖房期において、連続デマンド制御の効果を検証しました。検証期間は 2013 年 1 月 7 日~ 2 月8 日の暖房ピーク期間としました。対象建物の概要を第2表に、対象建物の EHP 室外機の消費電力の合計値を第3表に示します。

 連続デマンド制御のデマンドレベルの設定一覧を第4表、第5表、第6表に示します。デマンドレベルの設定は、常時人のいる範囲よりも廊下やエレベーターホールなど常時人のいない範囲の負荷を優先して抑制できるように調整し、居住域の環境変化を最小限にとどめる計画としました。3.2.デマンド抑制効果の検証 空調・照明それぞれで、連続デマンド制御のデマンド抑制効果を確認するため、①制御なし、②空調設備のみの連続デマンド制御、③照明設備のみの連続デマンド制御、④空調・照明統合連続デマンド制御の 4 パターンで検証しました。各パターンの代表日におけるデマンド値を第7表に、時刻別のデマンドの推移を第3図に示します。制御無効日は最大 300kWのデマンドを計測したのに対して、空調のみによるデマンド制御、空調・照明統合デマンド制御を実施した日はいずれも 48kW 以上デマンドが抑制され、デマンド上限目標値の 260kW 以下で制御できました。 一方で、照明のみに

よるデマンド制御では、8kW のデマンド抑制に止まりました。大幅なデマンド抑制を達成するためには、空調設備の負荷を抑制する必要があることが示唆されます。3.3.室温の推移 ここでは、連続デマンド制御有効時の室温の推移について確認します。空調・照明統合連続デマンド制御の代表日 (1/17) における建物 2 階の室温の推移を第4図に示します。暖房運転時は、午前中の 9:00 ~ 10:00 にデマンドレベルが1上昇しましたが、この時間帯において室温は設定温度の19℃が確保されています。全般的に夕方に向かって室温が上昇していますが、これは外気処理機が室温制御機能を持たず、吹出し温度が 20℃以上となっていたことが要因です。この時、EHP の室

外機は低負荷率で運転しており、外気処理機のみで熱負荷が賄えている状況でした。 一方で、デマンドレベルが1の上昇に止まったこと、室温も設定よりも高めに推移していたことを考慮すると、デマンドの上限目標値をさらに下げることで、デマンド抑制の余地があると考えられます。

4.まとめ 本研究では、空調・照明設備を対象とする連続デマンド制御を開発し、実建物においてその効果を検証しました。その結果、室内環境を急激に変化させることなく、デマンドを抑制できることが分かりました。今後は、盛夏期を含む連続デマンド制御の有効性および室内環境の推移について検証する予定です。

近年、電力需給の逼迫を受け、ピーク電力の抑制は供給側と需要家側の双方において重要な関心事になっています。建物のデマンド抑制対策の一つに、デマンド監視装置の活用によるデマンド制御があります。本研究では、空調・照明設備を外部からの指令によって制御することができるシステムを構築し、これを用いて室内環境を急激に変化させることなくデマンド抑制を達成できる連続デマンド制御を開発しました。本報では、この連続デマンド制御の概要とデマンド抑制効果の検証結果について紹介します。

空調・照明設備を対象とした連続デマンド制御の開発

第1図 連続デマンド制御の概念図 第2図 空調・照明統合制御システム図

第1表 制御信号の一覧

第2表 対象建物の概要

第3表 EHP室外機全台数の能力および消費電力

R&D NEWS KANSAI

研究紹介 土木建築室 建築設備エネルギーグループ

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Page 19: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.はじめに 一般的なデマンド制御は、あらかじめ設定された停止可能機器を手動または自動で停止し、30 分間の使用電力量が契約値を超えないようにする制御方法です。この制御は、機器の ON/OFF を伴うため、室内環境が急に悪化し、居住者の不快感が高まることが、導入を妨げる要因の 1 つとなっていました。そこで、本研究では、室内環境を緩やかに変化させるとともに、デマンド抑制を達成できる連続デマンド制御の開発を行いました。制御の対象設備としては、近年、中小規模建物に採用事例の多いビル用マルチ空調機(以下、EHP)と点消灯・調光機能を備えた照明設備を選定し、汎用性に配慮しました。

2.連続デマンド制御および  制御システムの概要 本研究で開発した連続デマンド制御の制御イメージ図を第1図に示します。連続デマンド制御は、制御の判定に用いる過去 t1 分の電力量を 60 分換算した値が、デマンドの目標上限値を上回ると、デマンドレベルを1上げ、目標下

限値を下回るとデマンドレベルを1下げます。0~ 5 までのデマンドレベルに、室外機出力や室内温度、照度を段階的に設定することで、目標上限値を越えない範囲で電力負荷を制御しつつ、室内環境の急激な変化を抑えることができます。本研究では t1 およびデマンドレベルの効果待ち時間 t3を 5分、デマンドの超過判定待ち時間t2を1分に設定しました。 連続デマンド制御を導入した空調・照明統合制御システムの概略図を第2図に示します。空調・照明統合制御システムは情報を取得する計測システムと連続デマンド制御の判定値に基づき制御指令を出力する制御システムに分類されます。連続デマンド制御のための演算ソフトはローカル制御プログラマブルロジックコントローラ(以下、PLC) 内に導入されており、空調制御システムおよび照明制御システムにデマンドレベルの信号を送ります。各設備の制御システムは受け取ったレベル信号に基づき出力調整を行います。PLC から各設備へ送ることのできる制御信号の一覧を第 1表に示します。

3.連続デマンド制御の検証3.1.検証実験の概要 暖房期において、連続デマンド制御の効果を検証しました。検証期間は 2013 年 1 月 7 日~ 2 月8 日の暖房ピーク期間としました。対象建物の概要を第2表に、対象建物の EHP 室外機の消費電力の合計値を第3表に示します。

 連続デマンド制御のデマンドレベルの設定一覧を第4表、第5表、第6表に示します。デマンドレベルの設定は、常時人のいる範囲よりも廊下やエレベーターホールなど常時人のいない範囲の負荷を優先して抑制できるように調整し、居住域の環境変化を最小限にとどめる計画としました。3.2.デマンド抑制効果の検証 空調・照明それぞれで、連続デマンド制御のデマンド抑制効果を確認するため、①制御なし、②空調設備のみの連続デマンド制御、③照明設備のみの連続デマンド制御、④空調・照明統合連続デマンド制御の 4 パターンで検証しました。各パターンの代表日におけるデマンド値を第7表に、時刻別のデマンドの推移を第3図に示します。制御無効日は最大 300kWのデマンドを計測したのに対して、空調のみによるデマンド制御、空調・照明統合デマンド制御を実施した日はいずれも 48kW 以上デマンドが抑制され、デマンド上限目標値の 260kW 以下で制御できました。 一方で、照明のみに

よるデマンド制御では、8kW のデマンド抑制に止まりました。大幅なデマンド抑制を達成するためには、空調設備の負荷を抑制する必要があることが示唆されます。3.3.室温の推移 ここでは、連続デマンド制御有効時の室温の推移について確認します。空調・照明統合連続デマンド制御の代表日 (1/17) における建物 2 階の室温の推移を第4図に示します。暖房運転時は、午前中の 9:00 ~ 10:00 にデマンドレベルが1上昇しましたが、この時間帯において室温は設定温度の19℃が確保されています。全般的に夕方に向かって室温が上昇していますが、これは外気処理機が室温制御機能を持たず、吹出し温度が 20℃以上となっていたことが要因です。この時、EHP の室

外機は低負荷率で運転しており、外気処理機のみで熱負荷が賄えている状況でした。 一方で、デマンドレベルが1の上昇に止まったこと、室温も設定よりも高めに推移していたことを考慮すると、デマンドの上限目標値をさらに下げることで、デマンド抑制の余地があると考えられます。

4.まとめ 本研究では、空調・照明設備を対象とする連続デマンド制御を開発し、実建物においてその効果を検証しました。その結果、室内環境を急激に変化させることなく、デマンドを抑制できることが分かりました。今後は、盛夏期を含む連続デマンド制御の有効性および室内環境の推移について検証する予定です。

執筆者

第4図 空調・照明統合デマンド制御有効時 (1/17) の室温推移

第3図 連続デマンド制御の時刻別デマンドの推移

第4表 室外機出力デマンドレベルの設定

第5表 室内機デマンドレベルの設定

第6表 照明デマンドレベルの設定

第7表 連続デマンド制御のデマンドの比較表

執 筆 者:岩井 良真所   属:土木建築室 建築設備エネルギーグループ主な業務:建築設備に関する研究・保全に従事

デマンド設定:260kW

設定温度:19℃

R&D NEWS KANSAI 17

土木建築室 建築設備エネルギーグループ空調・照明設備を対象とした連続デマンド制御の開発

Page 20: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. はじめに 菌根菌は、植物から糖類などの光合成産物を受ける見返りとして、植物に対し養水分吸収などを助ける微生物で、菌糸を土壌中に縦横無尽に張り巡らせ、根では吸収しきれない養水分を植物に供給することにより、生長促進や病害に対する抵抗力を増大させる働きを持っています。 今回の研究開発は、震災により津波の被害を受けた、海岸クロマツ林の再生等に活用できる菌根菌を活用したクロマツ育成手法を開発することとしました。 具体的には、まず、海沿いの土壌環境に適合し、かつクロマツと共生する外生菌根菌を選抜しました。 次に、この選抜した外生菌根菌の菌糸体を、クロマツの根の成長を促す働きを有する炭化物資材に保持させた、クロマツ育苗資材を試作しました。

 最終、試作したクロマツ育苗資材にて、クロマツの育苗試験を実施し、良好な結果を得ることができました。

2. 研究の概要(1) クロマツに利用可能な外生菌  根菌の選抜試験 海岸クロマツ林を再生するには、塩分を含む土壌でも生育可能な外生菌根菌を利用することが好ましく、クロマツに共生する数種類 の 外 生 菌 根 菌 を 用 い て200mM の塩化ナトリウムを添加した培地上で培養しました。 その結果、写真1の通り、塩化ナトリウム添加培地において、ショウロの菌糸成長量が最も良好でありました。 次に、各地で採集した 30 菌株のショウロを用いて、塩化ナトリウム添加量を変えた培地での 20日間の菌糸成長量を測定しました。 その結果、菌糸成長量の特徴が異なる4パターンに分類することができ、その4パターンの中からそれぞれ代表菌株を選抜しました。第1図は、菌糸成長量の特徴が異なる4パターンの代表菌株の菌糸成長量を示します。

(2) クロマツに対するショウロの  接種試験 第1図のショウロ4菌株につい

て、木炭を含む培地を用いて菌糸体を増殖させ、クロマツに対するショウロの接種効果を検証しました。 その結果、第2図の通り、いずれのショウロ菌株を接種した場合にも窒素肥料を多く施用した「施肥区1」と同等程度クロマツの苗木を育成させることができました。また、ショウロA、B、Cと同量の窒素肥料を施用した「施肥区2」よりも良好に育成しました。 以上のことから、いずれのショウロ菌株も接種効果を有していることが確認できました。 なお、選抜したショウロ菌株の菌糸体の増殖には、木炭を含む培地を用いましたが、木炭を用いた理由は、クロマツの発根促進効果を有する資材を活用するために、第3図のように、数種類の資材を用いてクロマツ幼苗を育成し、育成後の細根量の乾燥重量を比較しました。 その結果、木炭による発根促進

効果が最も大きかったことから、木炭を含む培地をショウロ菌株の菌糸体の増殖に用いました。

(3) ショウロ接種苗に対する塩化  ナトリウム溶液の施用試験 接種試験で得られたショウロ接種苗と施肥苗に 3.5%塩化ナトリウム溶液を施用してクロマツ苗が

枯死に至る経過を観察しました。 その結果、塩化ナトリウム溶液の施用の影響により、土壌中の電気伝導度が 15mS/cm 程度まで上昇した環境下において、第4図のように、ショウロを接種したクロマツ苗は、塩化ナトリウム溶液を施用した後も生存率が高いことが認められました。また、第1図に示すように、ショウロ菌株の菌糸成長量の違いから、ショウロC菌株に比べて耐塩性が高いと考えられるショウロB菌株を接種したクロマツ苗では、より生存率が高まる傾向が認められました。

3.まとめ 今回の研究成果から、クロマツと共生する外生菌根菌であるショウロと木炭を活用することにより、海岸クロマツ林の再生等に活用できる可能性があることを見出すことができました。 現在、本研究成果を活用し、温室にてクロマツ苗木を育成しており、来年の春頃、津波により大きな被害を受けた地域に定植し、研究成果の効果の検証を実施する予定としております。

日本各地のクロマツ林などにおいては、樹木の枯死や樹勢衰退現象が数多く報告されています。それらの樹勢回復の対策として、農薬や化学肥料等をできるだけ使用しない、自然界に存在する菌根菌を活用した樹勢回復資材の研究開発について、R&D平成 23年 1月 460 号におきましてご紹介させていただきました。今回は、震災により津波の被害を受けました海岸クロマツ林の再生等に活用できる、菌根菌を活用したクロマツ育成手法の研究開発についてご紹介します。

外生菌根菌と炭化物を活用したクロマツ育成手法

写真1 外生菌根菌の菌糸成長    上段:塩化ナトリウム添加培地    下段:無添加培地

第1図 塩化ナトリウムを含む培地に    おけるショウロの菌糸成長量

ショウロ  ホンシメジ  チチアワタケ  アミタケ

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0 25 50 200 500 1000塩化ナトリウム濃度(mM)

菌糸成長量(mm)

ショウロA

ショウロB

ショウロC

ショウロD

R&D NEWS KANSAI

研究紹介 研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター

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Page 21: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. はじめに 菌根菌は、植物から糖類などの光合成産物を受ける見返りとして、植物に対し養水分吸収などを助ける微生物で、菌糸を土壌中に縦横無尽に張り巡らせ、根では吸収しきれない養水分を植物に供給することにより、生長促進や病害に対する抵抗力を増大させる働きを持っています。 今回の研究開発は、震災により津波の被害を受けた、海岸クロマツ林の再生等に活用できる菌根菌を活用したクロマツ育成手法を開発することとしました。 具体的には、まず、海沿いの土壌環境に適合し、かつクロマツと共生する外生菌根菌を選抜しました。 次に、この選抜した外生菌根菌の菌糸体を、クロマツの根の成長を促す働きを有する炭化物資材に保持させた、クロマツ育苗資材を試作しました。

 最終、試作したクロマツ育苗資材にて、クロマツの育苗試験を実施し、良好な結果を得ることができました。

2. 研究の概要(1) クロマツに利用可能な外生菌  根菌の選抜試験 海岸クロマツ林を再生するには、塩分を含む土壌でも生育可能な外生菌根菌を利用することが好ましく、クロマツに共生する数種類 の 外 生 菌 根 菌 を 用 い て200mM の塩化ナトリウムを添加した培地上で培養しました。 その結果、写真1の通り、塩化ナトリウム添加培地において、ショウロの菌糸成長量が最も良好でありました。 次に、各地で採集した 30 菌株のショウロを用いて、塩化ナトリウム添加量を変えた培地での 20日間の菌糸成長量を測定しました。 その結果、菌糸成長量の特徴が異なる4パターンに分類することができ、その4パターンの中からそれぞれ代表菌株を選抜しました。第1図は、菌糸成長量の特徴が異なる4パターンの代表菌株の菌糸成長量を示します。

(2) クロマツに対するショウロの  接種試験 第1図のショウロ4菌株につい

て、木炭を含む培地を用いて菌糸体を増殖させ、クロマツに対するショウロの接種効果を検証しました。 その結果、第2図の通り、いずれのショウロ菌株を接種した場合にも窒素肥料を多く施用した「施肥区1」と同等程度クロマツの苗木を育成させることができました。また、ショウロA、B、Cと同量の窒素肥料を施用した「施肥区2」よりも良好に育成しました。 以上のことから、いずれのショウロ菌株も接種効果を有していることが確認できました。 なお、選抜したショウロ菌株の菌糸体の増殖には、木炭を含む培地を用いましたが、木炭を用いた理由は、クロマツの発根促進効果を有する資材を活用するために、第3図のように、数種類の資材を用いてクロマツ幼苗を育成し、育成後の細根量の乾燥重量を比較しました。 その結果、木炭による発根促進

効果が最も大きかったことから、木炭を含む培地をショウロ菌株の菌糸体の増殖に用いました。

(3) ショウロ接種苗に対する塩化  ナトリウム溶液の施用試験 接種試験で得られたショウロ接種苗と施肥苗に 3.5%塩化ナトリウム溶液を施用してクロマツ苗が

枯死に至る経過を観察しました。 その結果、塩化ナトリウム溶液の施用の影響により、土壌中の電気伝導度が 15mS/cm 程度まで上昇した環境下において、第4図のように、ショウロを接種したクロマツ苗は、塩化ナトリウム溶液を施用した後も生存率が高いことが認められました。また、第1図に示すように、ショウロ菌株の菌糸成長量の違いから、ショウロC菌株に比べて耐塩性が高いと考えられるショウロB菌株を接種したクロマツ苗では、より生存率が高まる傾向が認められました。

3.まとめ 今回の研究成果から、クロマツと共生する外生菌根菌であるショウロと木炭を活用することにより、海岸クロマツ林の再生等に活用できる可能性があることを見出すことができました。 現在、本研究成果を活用し、温室にてクロマツ苗木を育成しており、来年の春頃、津波により大きな被害を受けた地域に定植し、研究成果の効果の検証を実施する予定としております。

執筆者

第2図 クロマツ幼苗に対する    ショウロ接種効果    (平均+標準偏差 n=15)

第3図 クロマツ苗における発根    促進効果

第4図 塩化ナトリウム溶液を施用した    後のクロマツ苗の生存率

執 筆 者:羽田 雄一前 所 属:研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター現 所 属:火力事業本部 火力運営部門 環境管理グループ主な業務:環境保全・リサイクル研究に従事

(研究に携わった人)土木建築室 原子力土木建築グループ:奥田 英治

0

20

40

60

80

100

0 5 10 15 20

塩化ナトリウム溶液施用後の日数

)%

(率

存生

の苗

ツマ

ロク

ショウロA

ショウロB

ショウロC施肥区1

施肥区2

0

2

4

6

8

10

12

ウロA

ウロB

ウロC

施肥区1

施肥区2

処理区

苗丈(

cm)

0.00.20.40.60.81.01.21.41.61.8

5

m

m

)g

(量

重燥

乾の

根細

の苗

ツマ

ロク

R&D NEWS KANSAI 19

研究開発室 電力技術研究所 環境技術研究センター外生菌根菌と炭化物を活用したクロマツ育成手法

Page 22: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. 研究の背景とねらい 太陽光発電は太陽光が降りそそぐ昼間帯は発電できますが、荒天時や夜間は発電できません。 今後は、荒天時や夜間にも電気を供給できる蓄電池の普及が想定されるため、太陽光発電と蓄電池を併設した住宅で家電機器を組み合わせて、様々な状況における性能を把握しておくことが必要です。 特に、災害時に、蓄電池と家電機器で自立運転できることを確認しておくことは重要で、系統連系時と自立運転時の応答を把握することをねらいとしました。                2. 試験の概要 試験に使用した実験設備(第1図)は、太陽光発電システム(3.6kW)と蓄電池システム(リチウムイオン電池、2kW、6kWh)に各種家電機器を接続したものです。 電力系統は発電機による模擬とし、系統電源とは切り離した単独の系統としました。 試験は、常時の運用を想定した太陽光発電の出力変動を蓄電池が吸収して合計出力が一定値を維持できるかを検証する「(1)太陽光発電と蓄電池の連携確認試験」、災害時を想定した蓄電池システムを系統連系状態から自立運転に急変させた時の動作を検証する「(2)蓄電池システムの自立運転試験」の 2項目を実施しました。

3. 試験結果の一例(1)太陽光発電、蓄電池の連携確認  試験(第2図 試験回路) 家電機器(掃除機)と組合わせたときの試験結果を第3図 a に示します。太陽光発電の電力①が変動しているのに対して、それを吸収するように蓄電池の電力②が制御されており、太陽光発電と蓄電池の電力合計③はほぼ一定値を維持しています。 家電機器がドライヤーの場合(第3図 b)も同様に、太陽光発電と蓄電池の電力合計③はほぼ一定値を維持しており、蓄電池システムの電力は速いスピードで制御されています。

(2)蓄電池システムの自立運転   試験 試験手順を第4図に示します。 蓄電池システムを系統に連系して家電機器を自立コンセントに接続した状態から、系統電源(発電

機)側のブレーカを開放して、蓄電池システムと家電機器の自立運転状態に急変させました。家電機器は、ヒーターやエアコンなどを個別に接続しました。 第5図の試験結果に示すとおり、系統電源側ブレーカの開放による電力供給停止から、蓄電池システムが自立運転に切替るまでの時間は、作業用照明器具を除いて、約1.8秒です。 蓄電池システムが自立運転に切替った後の電流波形をみると、

ヒーターの場合は直ぐに電流が流れ稼動していますが、エアコンの場合はほとんど電流が流れていません。これは一時的(約 1.8 秒)に停電が発生したことにより、エアコンが待機状態になったためです。 ドライヤーを接続した場合は、蓄電池システムは一旦自立運転になりましたが、直ぐに停止しました。また、作業用照明器具(充電機能付)の場合には、自立運転に切替るまでの時間が約 3.2 秒の時間を要しています。 このように、蓄電池システムの自立運転時において、家電機器によって応答が違うことがわかりました。

4. まとめ 太陽光発電の出力変動を蓄電池システムが吸収できることを検証できました。 また、災害時を想定した蓄電池システムの自立運転機能の動作検証を行い、基礎データの取得ができました。 今後は、複数の家電機器を接続しての自立運転性能の評価など、非常災害時にも通常の生活を出来る限り維持できる電気エネルギー確保方策の検討を進めていきます。

家庭においても太陽光発電などの自然エネルギーを活用した機器の普及が進んでおり、東日本大震災以降は、非常災害時の電気エネルギー確保への関心が高まっています。そこで、今後普及が予想される蓄電池と太陽光発電を併設した住宅で、災害時を想定した機器の動作検証を実施しました。その概要を報告します。

蓄電池を併設した住宅用太陽光発電システムの実用性評価研究

テレビ

第1図 実験設備の概要

第3図 太陽光発電と蓄電池の連携確認試験結果

第2図 連携確認試験回路

a.分電盤に掃除機(強運転)を接続

b.蓄電池自立コンセントにドライヤー(HOT-TURBO運転)を接続

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研究紹介 研究開発室 エネルギー利用技術研究所 ホームエネルギー分野

20

-①:太陽光発電電力[W]、-②:蓄電池電力[W]、-③:太陽光発電+蓄電池電力[W]

-①:太陽光発電電力[W]、-②:蓄電池電力[W]、-③:太陽光発電+蓄電池電力[W]

時間(分)

時間(分)

Page 23: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. 研究の背景とねらい 太陽光発電は太陽光が降りそそぐ昼間帯は発電できますが、荒天時や夜間は発電できません。 今後は、荒天時や夜間にも電気を供給できる蓄電池の普及が想定されるため、太陽光発電と蓄電池を併設した住宅で家電機器を組み合わせて、様々な状況における性能を把握しておくことが必要です。 特に、災害時に、蓄電池と家電機器で自立運転できることを確認しておくことは重要で、系統連系時と自立運転時の応答を把握することをねらいとしました。                2. 試験の概要 試験に使用した実験設備(第1図)は、太陽光発電システム(3.6kW)と蓄電池システム(リチウムイオン電池、2kW、6kWh)に各種家電機器を接続したものです。 電力系統は発電機による模擬とし、系統電源とは切り離した単独の系統としました。 試験は、常時の運用を想定した太陽光発電の出力変動を蓄電池が吸収して合計出力が一定値を維持できるかを検証する「(1)太陽光発電と蓄電池の連携確認試験」、災害時を想定した蓄電池システムを系統連系状態から自立運転に急変させた時の動作を検証する「(2)蓄電池システムの自立運転試験」の 2項目を実施しました。

3. 試験結果の一例(1)太陽光発電、蓄電池の連携確認  試験(第2図 試験回路) 家電機器(掃除機)と組合わせたときの試験結果を第3図 a に示します。太陽光発電の電力①が変動しているのに対して、それを吸収するように蓄電池の電力②が制御されており、太陽光発電と蓄電池の電力合計③はほぼ一定値を維持しています。 家電機器がドライヤーの場合(第3図 b)も同様に、太陽光発電と蓄電池の電力合計③はほぼ一定値を維持しており、蓄電池システムの電力は速いスピードで制御されています。

(2)蓄電池システムの自立運転   試験 試験手順を第4図に示します。 蓄電池システムを系統に連系して家電機器を自立コンセントに接続した状態から、系統電源(発電

機)側のブレーカを開放して、蓄電池システムと家電機器の自立運転状態に急変させました。家電機器は、ヒーターやエアコンなどを個別に接続しました。 第5図の試験結果に示すとおり、系統電源側ブレーカの開放による電力供給停止から、蓄電池システムが自立運転に切替るまでの時間は、作業用照明器具を除いて、約1.8秒です。 蓄電池システムが自立運転に切替った後の電流波形をみると、

ヒーターの場合は直ぐに電流が流れ稼動していますが、エアコンの場合はほとんど電流が流れていません。これは一時的(約 1.8 秒)に停電が発生したことにより、エアコンが待機状態になったためです。 ドライヤーを接続した場合は、蓄電池システムは一旦自立運転になりましたが、直ぐに停止しました。また、作業用照明器具(充電機能付)の場合には、自立運転に切替るまでの時間が約 3.2 秒の時間を要しています。 このように、蓄電池システムの自立運転時において、家電機器によって応答が違うことがわかりました。

4. まとめ 太陽光発電の出力変動を蓄電池システムが吸収できることを検証できました。 また、災害時を想定した蓄電池システムの自立運転機能の動作検証を行い、基礎データの取得ができました。 今後は、複数の家電機器を接続しての自立運転性能の評価など、非常災害時にも通常の生活を出来る限り維持できる電気エネルギー確保方策の検討を進めていきます。

執筆者

執 筆 者:菅 秀樹所   属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所            ホームエネルギー分野(商品評価研究室)主な業務:高齢者施設へのエネルギーマネジメントシステム     実用化研究に従事

第4図 試験手順

第5図 蓄電池自立運転に急変時の    電圧・電流波形

R&D NEWS KANSAI 21

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 ホームエネルギー分野蓄電池を併設した住宅用太陽光発電システムの実用性評価研究

Page 24: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.はじめに 電気エネルギーを制御するパワーエレクトロニクス技術は基幹産業において重要性を増しています。インバータなどのパワーエレクトロニクス機器の心臓部にはシリコン(Si)の半導体素子が用いられていますが、その性能向上は物性値に基づく限界に近づきつつあることから、Si に比べて物理特性が優れているシリコンカーバイド(SiC)が、次世代パワー半導体用材料として期待されています。 当社ではこれまでSiCスイッチング素子SiCGT(SiC Commutated Gate turn-off Thyristor)およびSiC pin ダイオードを開発し、その性能向上に取り組むとともに、それらを用いた SiC インバータの開発を進めてきました。しかし、SiCGT や SiC pin ダイオードのような SiC バイポーラ素子には通電によりオン電圧(通電時に主電極間に発生する電圧)が増大する問題があり、これにより通電損失が増大しインバータの故障に繋がる可能性があります。今回、通電によりオン電圧が増大する現象の対策として、その原因となる素子中の結晶欠陥を低減する技術を適用した SiCGT および SiC pin ダイオードを開発しました。さらに、これらの素子を組み込んだ SiC モジュールをインバータ動作させて信頼性を評価しました。

2.素子の試作と初期評価 SiCGTおよびSiC pinダイオードは、SiC 基板上にエピタキシャル成長と呼ばれる薄膜結晶成長技術を用いて作製しています。SiCバイポーラ素子の通電によるオン電圧の増大は、デバイス製作時に基板に存在している線状の結晶欠陥がエピタキシャル膜に伝搬し、通電によりその結晶欠陥が面状に広がることが原因とされています。結晶欠陥の部分には電流が流れないため、欠陥の拡大により通電領域が狭まり、そこに同じだけの電流を流すためにより大きな電圧を印加する必要が出てくることからオン電圧の増大が起きます。そのため、オン電圧の増大を抑制するためにはデバイス中の結晶欠陥を減らすことが重要となります。SiC デバイスの作製では、均

一なエピタキシャル膜を得るため基板を成長面に対して一定角度( オフ角 ) 傾くように加工することが必要です。一般的には、エピタキシャル成長の制御が容易であるため、8°オフ基板が用いられてきましたが、4°オフ基板を適用することにより、エピタキシャル成長中に基板からの結晶欠陥の伝搬を抑制することが出来ることを発見しました。そこで、4°オフ基板を用いて SiCGT(第 1 図)を作製し、10 時間の通電試験により通電初期におけるオン電圧を評価しました。第 2 図に通電初期における SiCGT のオン電圧の推移を示します。4°オフ基板を用いた SiCGT では、8°オフ基板を用いた場合に見られるようなオン電圧の増大を抑制することが出来ました。また、SiC pin ダイ

オードについても 4°オフ基板を用いることで、SiCGT と同様、通電初期におけるオン電圧の増大が抑制されました。

3.SiC モジュールの長時間  信頼性評価 通電初期におけるオン電圧の増大が見られなかったため、4°オフ基板上に形成した SiCGT、SiC pin ダイオードを用いて SiC モジュールを製作し、インバータ動作の評価を行いました。第 3 図に SiC モジュールの構成を示します。SiC モジュールは SiCGT およびこれに逆並列接続した SiC pin ダイオードからなるスイッチ部と、保護回路の電子線照射した高抵抗 SiC pn ダイオードで構成されています。この SiC モジュールを出力 120kVA の SiC インバータ(写真 1)に組み込み、BTB(Back to Back)システム(第4 図)を構成して動作検証を実施しました。SiC インバータのフィルタを通す前の出力波形は第 5図に示すとおりです。 さらに、長時間のインバータ動作を行い、モジュールの信頼性を評価しました。動作検証期間中のSiCGT のオン特性を第 6 図に示し ま す。動 作 検 証 期 間 中 のSiCGT のオン特性は 1111 時間のインバータ動作後においても安定しており、オン電圧の増大は見られませんでした。また、SiC pin ダイオードについても 1111時間動作後もオン特性は安定しており、SiCGT と同様オン電圧は増大しませんでした。これにより、世界初となる 1000 時間を超える SiC モジュールのインバータ動作を達成しました。

4.今後の予定 今回、素子中の結晶欠陥を低減する技術を適用することで、SiCバイポーラ素子の通電によるオン電圧の増大を抑制することに成功し、SiC モジュールにおけるインバータ動作の長時間安定性が検証できました。今後は、この SiC バイポーラデバイスや SiC モジュールを用いた SiC インバータのアプリケーションとして、SiC 素子の大電力容量化の進展に伴い、STATCOM 等の電力用変換装置への展開を検討します。

当社では、次世代パワー半導体として期待されているシリコンカーバイド (SiC) を用いたスイッチング素子 SiCGT を開発し、その性能向上に取組むとともに、これを用いた SiC インバータの開発に取り組んできました。今回、通電により素子特性が劣化し損失が増大する現象の対策として、その原因となる素子中の結晶欠陥を低減する技術を適用した SiCGTおよび SiC pin ダイオードを開発し、これらを組み込んだ SiC モジュールの出力 120kVAにおけるインバータ動作で 1000時間以上の安定した動作に成功しました。

SiC モジュールの長時間動作評価

第 1図 SiCGT の素子構造第 2図 通電初期におけるSiCGT のオン電圧推移

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研究紹介 研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室

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K

p-

n

p+

A

n+ 4H-SiC substrate

n+GG

n+

p

n+n+

60μm

n+ 4H-SiC 0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

0 2 4 6 8 10

8o

4o

100A, RT

通電時間 [hr]

オン電圧 V

ON [V]

Page 25: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.はじめに 電気エネルギーを制御するパワーエレクトロニクス技術は基幹産業において重要性を増しています。インバータなどのパワーエレクトロニクス機器の心臓部にはシリコン(Si)の半導体素子が用いられていますが、その性能向上は物性値に基づく限界に近づきつつあることから、Si に比べて物理特性が優れているシリコンカーバイド(SiC)が、次世代パワー半導体用材料として期待されています。 当社ではこれまでSiCスイッチング素子SiCGT(SiC Commutated Gate turn-off Thyristor)およびSiC pin ダイオードを開発し、その性能向上に取り組むとともに、それらを用いた SiC インバータの開発を進めてきました。しかし、SiCGT や SiC pin ダイオードのような SiC バイポーラ素子には通電によりオン電圧(通電時に主電極間に発生する電圧)が増大する問題があり、これにより通電損失が増大しインバータの故障に繋がる可能性があります。今回、通電によりオン電圧が増大する現象の対策として、その原因となる素子中の結晶欠陥を低減する技術を適用した SiCGT および SiC pin ダイオードを開発しました。さらに、これらの素子を組み込んだ SiC モジュールをインバータ動作させて信頼性を評価しました。

2.素子の試作と初期評価 SiCGTおよびSiC pinダイオードは、SiC 基板上にエピタキシャル成長と呼ばれる薄膜結晶成長技術を用いて作製しています。SiCバイポーラ素子の通電によるオン電圧の増大は、デバイス製作時に基板に存在している線状の結晶欠陥がエピタキシャル膜に伝搬し、通電によりその結晶欠陥が面状に広がることが原因とされています。結晶欠陥の部分には電流が流れないため、欠陥の拡大により通電領域が狭まり、そこに同じだけの電流を流すためにより大きな電圧を印加する必要が出てくることからオン電圧の増大が起きます。そのため、オン電圧の増大を抑制するためにはデバイス中の結晶欠陥を減らすことが重要となります。SiC デバイスの作製では、均

一なエピタキシャル膜を得るため基板を成長面に対して一定角度( オフ角 ) 傾くように加工することが必要です。一般的には、エピタキシャル成長の制御が容易であるため、8°オフ基板が用いられてきましたが、4°オフ基板を適用することにより、エピタキシャル成長中に基板からの結晶欠陥の伝搬を抑制することが出来ることを発見しました。そこで、4°オフ基板を用いて SiCGT(第 1 図)を作製し、10 時間の通電試験により通電初期におけるオン電圧を評価しました。第 2 図に通電初期における SiCGT のオン電圧の推移を示します。4°オフ基板を用いた SiCGT では、8°オフ基板を用いた場合に見られるようなオン電圧の増大を抑制することが出来ました。また、SiC pin ダイ

オードについても 4°オフ基板を用いることで、SiCGT と同様、通電初期におけるオン電圧の増大が抑制されました。

3.SiC モジュールの長時間  信頼性評価 通電初期におけるオン電圧の増大が見られなかったため、4°オフ基板上に形成した SiCGT、SiC pin ダイオードを用いて SiC モジュールを製作し、インバータ動作の評価を行いました。第 3 図に SiC モジュールの構成を示します。SiC モジュールは SiCGT およびこれに逆並列接続した SiC pin ダイオードからなるスイッチ部と、保護回路の電子線照射した高抵抗 SiC pn ダイオードで構成されています。この SiC モジュールを出力 120kVA の SiC インバータ(写真 1)に組み込み、BTB(Back to Back)システム(第4 図)を構成して動作検証を実施しました。SiC インバータのフィルタを通す前の出力波形は第 5図に示すとおりです。 さらに、長時間のインバータ動作を行い、モジュールの信頼性を評価しました。動作検証期間中のSiCGT のオン特性を第 6 図に示し ま す。動 作 検 証 期 間 中 のSiCGT のオン特性は 1111 時間のインバータ動作後においても安定しており、オン電圧の増大は見られませんでした。また、SiC pin ダイオードについても 1111時間動作後もオン特性は安定しており、SiCGT と同様オン電圧は増大しませんでした。これにより、世界初となる 1000 時間を超える SiC モジュールのインバータ動作を達成しました。

4.今後の予定 今回、素子中の結晶欠陥を低減する技術を適用することで、SiCバイポーラ素子の通電によるオン電圧の増大を抑制することに成功し、SiC モジュールにおけるインバータ動作の長時間安定性が検証できました。今後は、この SiC バイポーラデバイスや SiC モジュールを用いた SiC インバータのアプリケーションとして、SiC 素子の大電力容量化の進展に伴い、STATCOM 等の電力用変換装置への展開を検討します。

執筆者

第6図 動作検証期間中のSiCGT のオン特性

執 筆 者:逸見 哲郎所   属:研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室主な業務:SiC の研究に従事

(研究に携わった人)研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室浅野 勝則、泉 徹、林 利彦、中山 浩二、緒方 修二、田中 篤嗣

R&D NEWS KANSAI 23

研究開発室 電力技術研究所 プロジェクト研究室SiC モジュールの長時間動作評価

0

20

40

60

80

100

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

505hr 0hr

1111hr

RT

AC 200 V

SiCSi

写真 1 SiC インバータ 第 5図 SiC インバータ出力波形

第 3図 SiC モジュールの構成 第 4図 BTBシステム

-600-500-400-300-200-100

0100200

Page 26: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. 研究の背景 産業部門で使用されているプロセス蒸気の供給元は、これまで燃料を燃焼させるボイラーによって行なわれてきました。一部では電気式ヒーターも市販化されており、最近では温排水など未利用エネルギーを使った高効率なヒートポンプ式の蒸気生成装置もでてきました。しかし生成できる水蒸気はヒートポンプ単体で 120℃程度が限界となっています。 一方、工場の蒸気ラインは過熱水蒸気域 120~ 180℃の利用ニーズがあり、より高効率で高温に対応した機器の開発が求められています。そこで当社ではヒートポンプで 200℃まで加熱できる装置の開発に着手することとしました。

2. 実験装置 市販ヒートポンプ単体で蒸気温度上限が 120℃程度になっている主な要因は冷媒の選定にあります。一般的に選定には、毒性や燃焼性といった安全性の要因が重要になりますが、該当するものは一部の自然冷媒とフロン系冷媒に限定されるため、市販されている高温向け冷媒の中には該当がありませんでした。そこで実験室での限定的な使用として、安全性の制限を緩和して、臨界温度が 200℃を超えるメタノールを選定しました。

 次にヒートポンプシステムを構成する圧縮機について検討を行いました。既存の空調機に用いられているロータリ式やスクロール式は、圧縮機を駆動する巻線コイル部分を冷媒が通過する密閉構造になっており、高温仕様では巻線の耐久性に問題があります。そこで密閉構造とならないレシプロ式を採用することとしました。圧縮機の構造を第1図、外観を写真1に示します。圧縮機は圧縮比を大きくとれる市販の汎用二段圧縮機を一部改造しました。

 潤滑油は冷媒への適合性を検証するため、鉱油、冷凍機油 PAG、冷凍機油 POE、水、シリコン油に適量の冷媒を入れて攪拌したのち、静置して観察しました。結果を写真2に示します。鉱油、POE、シリコン油は分離しましたが、PAG、水は混合しました。鉱油には白濁している混合層が見られました。シリコン油は異なる動粘度の油が容易に入手できるので、冷媒に溶解しないシリコン油を選定しました。

 実験装置は圧縮機、プレート式熱交換器である凝縮器、管内部にシーズヒータを入れた蒸発器と、膨張弁で構成しています。また凝縮器は、シリコンオイルにより冷却することにしました。実験装置の概略図を第2図に示します。

3. 実験結果 温度は配管外部表面に熱電対を貼付けて計測し、圧力は測定点近傍からキャピ管で引き出して圧力計にて測定しました。凝縮器のシリコンオイル温度は、配管内部に熱電対を挿入して直接測定しています。また、シリコンオイル流量は羽根車式計測器にて測定しました。実験結果を第1表に示します。 結果、圧縮機入口88.7℃/圧縮機出口202.0℃を確認できました。この時の凝縮器のシリコンオイル温度は入口7 1 . 2℃/出口199.6℃、循環流量0.559kg/minで、凝縮器から得られた熱量は2.45kWでした。圧縮機の消費電力1.493kWで、凝縮熱量を圧縮機の消費電力で除したCOPは1.6でした。

 今回、冷媒循環量は計測していないため、蒸発器ヒータ消費電力から求めた値と圧縮機の排除容積から求めた値にて比較しました。前 者 は 0.087kg/min。後 者 は0.167kg/min となっています。この2つの値の違いについては、ピストンリング保護のため相当量の油をサイクル内に投入しており、油の循環によるところが大きいと予想されます。得られた計測値をもとに横軸を エンタルピー、縦軸を圧力としたP-h 線図を第3図に示します。実線はメタノールの飽和曲線、実験したサイクル線図を1点鎖線とし、蒸発温度 100℃、凝縮温度200℃とする目標サイクル線図を破線で示します。実験は目標サイクルに対して高圧側(d3・d4)の圧力温度はでましたが、低圧側

(d1・d7)の圧力温度は到達しませんでした。これは蒸発器ヒータの調整不足と考えられます。仮に目標サイクルとなれば、高圧/低圧の圧縮比は実験値の 70%に低減でき、COP は向上すると思われます。

4. まとめと今後の予定 工場等の未利用エネルギーの新たな有効手法として、100℃の廃棄熱源を利用して、200℃に加熱するヒートポンプシステムを開発しました。実運転装置としてのCOP はまだ高くありませんが、メタノール冷媒を用いた本実験により大きな潜熱課程を有したヒートポンプサイクルを実証しました。 今後は圧縮機、蒸発器、凝縮器等の課題を解決して、さらなるCOP向上策の検討を進める予定です。

食品工場など産業分野では殺菌、濃縮、乾燥工程で過熱水蒸気が広く利用されています。一方、電気式の過熱水蒸気発生装置は既に販売されていますが、もっぱら電気ヒーターによる加熱となっているため、さらなる高効率化が求められていました。そこで本研究では省エネルギー技術であるヒートポンプ方式による過熱水蒸気発生装置について検討をしましたので、その一部をご紹介いたします。

高温ヒートポンプの要素技術研究

第1図 圧縮機構造

写真2 冷媒溶解実験結果    1- 鉱油、2-PAG、3-POE、    4- 水、5- シリコン油

第2図 装置概略図

写真1 圧縮機外観

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研究紹介 研究開発室 エネルギー利用技術研究所 都市産業エネルギー分野

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Page 27: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. 研究の背景 産業部門で使用されているプロセス蒸気の供給元は、これまで燃料を燃焼させるボイラーによって行なわれてきました。一部では電気式ヒーターも市販化されており、最近では温排水など未利用エネルギーを使った高効率なヒートポンプ式の蒸気生成装置もでてきました。しかし生成できる水蒸気はヒートポンプ単体で 120℃程度が限界となっています。 一方、工場の蒸気ラインは過熱水蒸気域 120~ 180℃の利用ニーズがあり、より高効率で高温に対応した機器の開発が求められています。そこで当社ではヒートポンプで 200℃まで加熱できる装置の開発に着手することとしました。

2. 実験装置 市販ヒートポンプ単体で蒸気温度上限が 120℃程度になっている主な要因は冷媒の選定にあります。一般的に選定には、毒性や燃焼性といった安全性の要因が重要になりますが、該当するものは一部の自然冷媒とフロン系冷媒に限定されるため、市販されている高温向け冷媒の中には該当がありませんでした。そこで実験室での限定的な使用として、安全性の制限を緩和して、臨界温度が 200℃を超えるメタノールを選定しました。

 次にヒートポンプシステムを構成する圧縮機について検討を行いました。既存の空調機に用いられているロータリ式やスクロール式は、圧縮機を駆動する巻線コイル部分を冷媒が通過する密閉構造になっており、高温仕様では巻線の耐久性に問題があります。そこで密閉構造とならないレシプロ式を採用することとしました。圧縮機の構造を第1図、外観を写真1に示します。圧縮機は圧縮比を大きくとれる市販の汎用二段圧縮機を一部改造しました。

 潤滑油は冷媒への適合性を検証するため、鉱油、冷凍機油 PAG、冷凍機油 POE、水、シリコン油に適量の冷媒を入れて攪拌したのち、静置して観察しました。結果を写真2に示します。鉱油、POE、シリコン油は分離しましたが、PAG、水は混合しました。鉱油には白濁している混合層が見られました。シリコン油は異なる動粘度の油が容易に入手できるので、冷媒に溶解しないシリコン油を選定しました。

 実験装置は圧縮機、プレート式熱交換器である凝縮器、管内部にシーズヒータを入れた蒸発器と、膨張弁で構成しています。また凝縮器は、シリコンオイルにより冷却することにしました。実験装置の概略図を第2図に示します。

3. 実験結果 温度は配管外部表面に熱電対を貼付けて計測し、圧力は測定点近傍からキャピ管で引き出して圧力計にて測定しました。凝縮器のシリコンオイル温度は、配管内部に熱電対を挿入して直接測定しています。また、シリコンオイル流量は羽根車式計測器にて測定しました。実験結果を第1表に示します。 結果、圧縮機入口88.7℃/圧縮機出口202.0℃を確認できました。この時の凝縮器のシリコンオイル温度は入口7 1 . 2℃/出口199.6℃、循環流量0.559kg/minで、凝縮器から得られた熱量は2.45kWでした。圧縮機の消費電力1.493kWで、凝縮熱量を圧縮機の消費電力で除したCOPは1.6でした。

 今回、冷媒循環量は計測していないため、蒸発器ヒータ消費電力から求めた値と圧縮機の排除容積から求めた値にて比較しました。前 者 は 0.087kg/min。後 者 は0.167kg/min となっています。この2つの値の違いについては、ピストンリング保護のため相当量の油をサイクル内に投入しており、油の循環によるところが大きいと予想されます。得られた計測値をもとに横軸を エンタルピー、縦軸を圧力としたP-h 線図を第3図に示します。実線はメタノールの飽和曲線、実験したサイクル線図を1点鎖線とし、蒸発温度 100℃、凝縮温度200℃とする目標サイクル線図を破線で示します。実験は目標サイクルに対して高圧側(d3・d4)の圧力温度はでましたが、低圧側

(d1・d7)の圧力温度は到達しませんでした。これは蒸発器ヒータの調整不足と考えられます。仮に目標サイクルとなれば、高圧/低圧の圧縮比は実験値の 70%に低減でき、COP は向上すると思われます。

4. まとめと今後の予定 工場等の未利用エネルギーの新たな有効手法として、100℃の廃棄熱源を利用して、200℃に加熱するヒートポンプシステムを開発しました。実運転装置としてのCOP はまだ高くありませんが、メタノール冷媒を用いた本実験により大きな潜熱課程を有したヒートポンプサイクルを実証しました。 今後は圧縮機、蒸発器、凝縮器等の課題を解決して、さらなるCOP向上策の検討を進める予定です。

執筆者

第1表 各部の計測結果

第3図 P-h線図

執 筆 者:土居 信一所   属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所     都市産業エネルギー分野(商品開発研究室)主な業務:ヒートポンプに関する研究に従事

(研究に携わった人)都市産業エネルギー分野(商品開発研究室):式地 千明 シニアリサーチャー

R&D NEWS KANSAI 25

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 都市産業エネルギー分野高温ヒートポンプの要素技術研究

Page 28: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1. はじめに 二次電池の大量導入時代に備えるには、電池ユーザーである電力会社も、電池供給の安定性や使用後の処理法を知っておく必要があります。そこで、リチウムイオン電池の原材料のリサイクル技術について現状を調査しました。対象としたのは、すでに事業化またはパイロットスケール程度まで実証された技術です。 電気自動車用など大型のリチウムイオン電池はいまだリサイクルされていないため、小型電池の状況を調査しました。さらに国内の代表的なリチウムイオン電池のリサイクル技術について、コスト推定を行ないました。

2. リサイクル技術の概要 特許や技術文献の調査から、日本国内でリチウムイオン電池のリサイクルを手がけている企業として、10社が抽出されました。第1 表に調査結果をまとめて示します。実際にリサイクル事業を行なっているのは8社で、いずれもリサイクル原料は電池メーカーや電池材料の製造会社から引き取った工程スクラップが多く、回収された使用済み電池は少ないことがわかりました。工程スクラップとは、リチウムイオン電池の電極合剤(電池の活物質や導電剤の混合物)、これを集電体に塗布した電極シート、規格外の部品などです。リサイクル企業はこれらを購入し

て、原料としています。 リサイクルされているのは、電池の電極や容器に含まれるコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などの金属です。 リサイクル原料から有用な金属を再生する方法は、化学的な処理を施す湿式法と、機械的な分別や熱処理を主体とする乾式法に大別され、いずれもほぼ完成された技術です。 リサイクルされたコバルトなどの金属の純度は新品の金属製品と同等であり、金属/合金メーカーや化学薬品メーカーに販売されています。

3. リサイクルの経済性評価 リサイクル製品としてはコバルトが多く扱われています。コバルトはリチウムイオン電池の正極材料の成分で、リサイクルされる金属成分のうち最も高価なものです。 第1表に示したリサイクル企業のうちシェア最大のTMC株式会社の例を参考に、コバルトのリサイクルコストを試算してみました。リサイクルのコストは、①原材料費(リサイクル原料費と薬品等のその他材料費)、②経費(電気代や設備の減価償却費、その他輸送費・水道光熱費等)および③労務費の和になります。TMC株式会社の金属コバルトの生産量300 t /年のリサイクル規模を前提として使用する薬品量や労務費を算定し、電解精錬の電力量から電気代を推定しました。減価償却費の計算には、Umicore 社ほかのリチウム電池事業関連投資額も考慮に入れました。コバルト 1 kg をリサイクル製品として製造するのに必要な①原材料費は、およそ 2,100 円であることがヒアリング調査で判明しました。また、②経費は 695~ 915円(電気代:85 円、減価償却費:110~ 330円、その他経費:500 円)、③労務費は 333 円と推定されました。合計すると、リサイクルにより金属コバルト 1 kg を製造するコストは 3 千円強と見積もられました。 リサイクル製品である金属コバルトの価格は、2008 年頃には 1万円/ kg 程度でしたが、最近では2千数百円/ kg 程度で推移しており、リサイクル事業で利益を上げるのは難しい状況となってい

ます。 一方、電池メーカーではリチウムイオン電池の低コスト化のために、コバルトの替わりに安価なニッケルやマンガン、鉄を含む正極材料の開発を進めています。電池の製造工程スクラップから金属を回収する工程コストは、コバルト以外の金属でもほぼ同様ですから、最も高価なコバルトでさえ採算が厳しいのに、他の金属をリサイクルすることに経済的利得はありません。

4. リチウム資源の状況 電池メーカーの努力により、電池の電極については安価な代替材料の開発が進んでいます。しかし、リチウムイオン電池にはリチウムが必須であり、その供給が不充分であればリサイクルが必要になります。そこで、資源としてのリチウムの状況についても調査しました。

 リチウム資源は南米に偏在しており、第 1 図に示すように日本はチリからの輸入に頼っています。今後の電池用リチウムの需要増大には、南米で進められている新たな資源開発で対応できる見込みであり、リチウムのリサイクルは特に必要ではありません。

5. おわりに 電池の低価格化は電気自動車の普及の前提であり、メーカーもコスト低減に努めています。材料の供給量に不安がなければ、リサイクルの経済的メリットは乏しいといえます。 ただし、環境保全などを目的とした社会的要請から、リサイクルが義務付けられる可能性もありますので、電池ユーザーとしては、今後は技術以外の側面にも注意を払っていくべきでしょう。

電気自動車の普及やスマートグリッド社会を実現するためには、電気エネルギーを蓄える高性能な二次電池が多く必要です。地球環境保全および資源セキュリティの観点からも、電池を回収して再利用することが望ましいと考えられます。そこで、今後さらに生産量が増加すると見込まれるリチウムイオン電池について、リサイクルの技術と経済性などの現状について調査しました。

リチウム電池資源のリサイクル

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研究紹介 研究開発室 エネルギー利用技術研究所 電池プロジェクト

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Page 29: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

第1図 リチウムの輸入量/t (2009年)

EU, 8ロシア, 13 カナダ, 4

中国, 221

チリ, 1309米国, 648

チリ

米国

中国

ロシア

EU

カナダ

1. はじめに 二次電池の大量導入時代に備えるには、電池ユーザーである電力会社も、電池供給の安定性や使用後の処理法を知っておく必要があります。そこで、リチウムイオン電池の原材料のリサイクル技術について現状を調査しました。対象としたのは、すでに事業化またはパイロットスケール程度まで実証された技術です。 電気自動車用など大型のリチウムイオン電池はいまだリサイクルされていないため、小型電池の状況を調査しました。さらに国内の代表的なリチウムイオン電池のリサイクル技術について、コスト推定を行ないました。

2. リサイクル技術の概要 特許や技術文献の調査から、日本国内でリチウムイオン電池のリサイクルを手がけている企業として、10社が抽出されました。第1 表に調査結果をまとめて示します。実際にリサイクル事業を行なっているのは8社で、いずれもリサイクル原料は電池メーカーや電池材料の製造会社から引き取った工程スクラップが多く、回収された使用済み電池は少ないことがわかりました。工程スクラップとは、リチウムイオン電池の電極合剤(電池の活物質や導電剤の混合物)、これを集電体に塗布した電極シート、規格外の部品などです。リサイクル企業はこれらを購入し

て、原料としています。 リサイクルされているのは、電池の電極や容器に含まれるコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などの金属です。 リサイクル原料から有用な金属を再生する方法は、化学的な処理を施す湿式法と、機械的な分別や熱処理を主体とする乾式法に大別され、いずれもほぼ完成された技術です。 リサイクルされたコバルトなどの金属の純度は新品の金属製品と同等であり、金属/合金メーカーや化学薬品メーカーに販売されています。

3. リサイクルの経済性評価 リサイクル製品としてはコバルトが多く扱われています。コバルトはリチウムイオン電池の正極材料の成分で、リサイクルされる金属成分のうち最も高価なものです。 第1表に示したリサイクル企業のうちシェア最大のTMC株式会社の例を参考に、コバルトのリサイクルコストを試算してみました。リサイクルのコストは、①原材料費(リサイクル原料費と薬品等のその他材料費)、②経費(電気代や設備の減価償却費、その他輸送費・水道光熱費等)および③労務費の和になります。TMC株式会社の金属コバルトの生産量300 t /年のリサイクル規模を前提として使用する薬品量や労務費を算定し、電解精錬の電力量から電気代を推定しました。減価償却費の計算には、Umicore 社ほかのリチウム電池事業関連投資額も考慮に入れました。コバルト 1 kg をリサイクル製品として製造するのに必要な①原材料費は、およそ 2,100 円であることがヒアリング調査で判明しました。また、②経費は 695~ 915円(電気代:85 円、減価償却費:110~ 330円、その他経費:500 円)、③労務費は 333 円と推定されました。合計すると、リサイクルにより金属コバルト 1 kg を製造するコストは 3 千円強と見積もられました。 リサイクル製品である金属コバルトの価格は、2008 年頃には 1万円/ kg 程度でしたが、最近では2千数百円/ kg 程度で推移しており、リサイクル事業で利益を上げるのは難しい状況となってい

ます。 一方、電池メーカーではリチウムイオン電池の低コスト化のために、コバルトの替わりに安価なニッケルやマンガン、鉄を含む正極材料の開発を進めています。電池の製造工程スクラップから金属を回収する工程コストは、コバルト以外の金属でもほぼ同様ですから、最も高価なコバルトでさえ採算が厳しいのに、他の金属をリサイクルすることに経済的利得はありません。

4. リチウム資源の状況 電池メーカーの努力により、電池の電極については安価な代替材料の開発が進んでいます。しかし、リチウムイオン電池にはリチウムが必須であり、その供給が不充分であればリサイクルが必要になります。そこで、資源としてのリチウムの状況についても調査しました。

 リチウム資源は南米に偏在しており、第 1 図に示すように日本はチリからの輸入に頼っています。今後の電池用リチウムの需要増大には、南米で進められている新たな資源開発で対応できる見込みであり、リチウムのリサイクルは特に必要ではありません。

5. おわりに 電池の低価格化は電気自動車の普及の前提であり、メーカーもコスト低減に努めています。材料の供給量に不安がなければ、リサイクルの経済的メリットは乏しいといえます。 ただし、環境保全などを目的とした社会的要請から、リサイクルが義務付けられる可能性もありますので、電池ユーザーとしては、今後は技術以外の側面にも注意を払っていくべきでしょう。

執筆者

執 筆 者:矢ヶ崎 えり子所   属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所     電池プロジェクト(総合エネルギー研究室)主な業務:二次電池の研究に従事

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研究開発室 エネルギー利用技術研究所 電池プロジェクトリチウム電池資源のリサイクル

Page 30: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.はじめに 負荷平準化は、電力設備の効率利用により二酸化炭素の削減や経費削減に貢献でき、またお客さまにとっても電気料金の低減につながるため、古くから行われてきました。平成23年3月に東日本大震災が起こって以来、原子力発電所の運転がストップし、電気の供給量が限られる中、その重要性はより一層増しています。当社では二次電池を用いた負荷平準化装置を製作しフィールド試験を行ってきました。その中で二次電池の充放電方法について検討しましたので、その事例を紹介します。

2.負荷平準化装置の概要 第1図に負荷平準化装置の概要を示します。装置は日新電機㈱本社構内に設置しました。電池盤は川崎重工業㈱製で、ニッケル水素電池スタックを48個直列接続して、収納しています。電池容量は102kWhです。監視装置では、電池の電圧、電流、温度等を監視します。電力変換器は日新電機㈱製で、中にサイリスタSW、変換器等を収納しています。負荷平準化は定格出力時で、最大約2時間行えます。

3.フィールド試験 フィールド試験は日新電機㈱本社構内の負荷に対して行いました。試験構成を第2図に示します。負荷から負荷データが1分間隔で

装置に送られます。その送られたデータに対して、電池が充放電を行います。充電は電池の充電状態(以下SOCといいます)70%まで行い、放電はSOC30%まで行います。SOCが30%を下回り、負荷データが160kWを超えている場合は、節電を行い、160kW以下に抑制します。負荷データは2012年8月31日のデータを使用し、このデータに対して様々な充放電を行い、その効果を検証しました。まず、第3図では通常の負荷平準化を模擬した充放電を行いました。充電は夜間に行い、SOC70%まで充電します。そして昼間になり、負荷データが160kWを上回ると、

その超過分を遂次放電していきます。その様子を装置出力に示します。放電が始まるとSOCは徐々に減少し、SOC30%になると放電を終了します。放電は13時30分頃まで行っており、それ以降は節電により対応します。節電とは、空調や電灯をオフすることをいいます。次に、第4図では夜間だけでなく昼休みにも充電を行うことで、午後の放電時間を通常の場合より延ばすことを目指しました。昼休みに充電を行っているのが、SOCが増加していることが分かります。13時までにSOC70%近くまで充電することができ、ここから午後の放電を行います。その結果、第4図では放電

を13時45分頃まで行うことができ、第3図より放電時間が延びたため、その後の節電を減らせることが分かります。第5図では、装置出力を 30kW以上で放電することで、変換器のロスを減らし、蓄電したエネルギーを効率的に利用することを検討しました。変換器のロスは出力により異なり、30kW以上ではロスが小さいことがわかっています。そこで、負荷データの160kW超過分を積算し、その積算値が 30kW以上になったときにはじめて放電するようにしました。その結果、第5図では13時45分頃まで放電できており、第3図より放電時間が延び、蓄電したエネルギーを効率的に利用できていることが分かります。

4.まとめ フィールド試験は平成25年3月に終了しました。今後は9月に装置を撤去し、成果のとりまとめを行う予定です。

二次電池を用いた負荷平準化装置を製作し、フィールド試験を行いました。夜間だけでなく昼休みにも充電することで節電を減らす方法や、変換器のロスを減らした放電を行い二次電池に蓄電されたエネルギーを効率的に利用する方法を検討しました。

負荷平準化装置のフィールド試験

第1図 負荷平準化装置の概要

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電池スタック→電力変換器(日新電機㈱製作)電池盤(川崎重工業㈱製作)電池盤(川崎重工業㈱製作)

Page 31: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.はじめに 負荷平準化は、電力設備の効率利用により二酸化炭素の削減や経費削減に貢献でき、またお客さまにとっても電気料金の低減につながるため、古くから行われてきました。平成23年3月に東日本大震災が起こって以来、原子力発電所の運転がストップし、電気の供給量が限られる中、その重要性はより一層増しています。当社では二次電池を用いた負荷平準化装置を製作しフィールド試験を行ってきました。その中で二次電池の充放電方法について検討しましたので、その事例を紹介します。

2.負荷平準化装置の概要 第1図に負荷平準化装置の概要を示します。装置は日新電機㈱本社構内に設置しました。電池盤は川崎重工業㈱製で、ニッケル水素電池スタックを48個直列接続して、収納しています。電池容量は102kWhです。監視装置では、電池の電圧、電流、温度等を監視します。電力変換器は日新電機㈱製で、中にサイリスタSW、変換器等を収納しています。負荷平準化は定格出力時で、最大約2時間行えます。

3.フィールド試験 フィールド試験は日新電機㈱本社構内の負荷に対して行いました。試験構成を第2図に示します。負荷から負荷データが1分間隔で

装置に送られます。その送られたデータに対して、電池が充放電を行います。充電は電池の充電状態(以下SOCといいます)70%まで行い、放電はSOC30%まで行います。SOCが30%を下回り、負荷データが160kWを超えている場合は、節電を行い、160kW以下に抑制します。負荷データは2012年8月31日のデータを使用し、このデータに対して様々な充放電を行い、その効果を検証しました。まず、第3図では通常の負荷平準化を模擬した充放電を行いました。充電は夜間に行い、SOC70%まで充電します。そして昼間になり、負荷データが160kWを上回ると、

その超過分を遂次放電していきます。その様子を装置出力に示します。放電が始まるとSOCは徐々に減少し、SOC30%になると放電を終了します。放電は13時30分頃まで行っており、それ以降は節電により対応します。節電とは、空調や電灯をオフすることをいいます。次に、第4図では夜間だけでなく昼休みにも充電を行うことで、午後の放電時間を通常の場合より延ばすことを目指しました。昼休みに充電を行っているのが、SOCが増加していることが分かります。13時までにSOC70%近くまで充電することができ、ここから午後の放電を行います。その結果、第4図では放電

を13時45分頃まで行うことができ、第3図より放電時間が延びたため、その後の節電を減らせることが分かります。第5図では、装置出力を 30kW以上で放電することで、変換器のロスを減らし、蓄電したエネルギーを効率的に利用することを検討しました。変換器のロスは出力により異なり、30kW以上ではロスが小さいことがわかっています。そこで、負荷データの160kW超過分を積算し、その積算値が 30kW以上になったときにはじめて放電するようにしました。その結果、第5図では13時45分頃まで放電できており、第3図より放電時間が延び、蓄電したエネルギーを効率的に利用できていることが分かります。

4.まとめ フィールド試験は平成25年3月に終了しました。今後は9月に装置を撤去し、成果のとりまとめを行う予定です。

執筆者

執 筆 者:池田 敬一所   属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所 電池プロジェクト     (総合エネルギー研究室)主な業務:二次電池に関わる業務に従事

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研究開発室 エネルギー利用技術研究所 電池プロジェクト負荷平準化装置のフィールド試験

日新電機㈱本社構内系統

第 2図 試験構成

その他負荷 負荷 装置

関電系統

試験範囲

装置出力

節電

負荷データ

*2*1

*1 充電、 *2 放電

0

50

100

150

200

250電力(kW) SOC(%)

(時)9 10 11 12 13 1410

30

50

70

90

110

装置出力

SOC

160kW

負荷データ

節電→

0

50

100

150

200

250電力(kW) SOC(%)

(時)

0

50

100

150

200

250電力(kW) SOC(%)

(時)9 10 11 12 13 1410

30

50

70

90

110

装置出力

SOC

160kW

負荷データ

節電→

第3図 負荷平準化の例(通常)

第5図 負荷平準化の例(変換ロスを減らした放電)

第4図 負荷平準化の例(昼休みに充電)

装置出力

SOC

160kW

負荷データ

節電→

9 10 11 12 13 14

10

30

-50 -10

50

70

90

110

Page 32: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.研究の概要(1)高速検出を可能とする単独運転検出方式 単独運転検出方式は、高圧連系用に当社が日新電機と共同開発した次数間高調波注入方式を採用しました。本方式は、系統に殆ど存在しない次数間高調波(第1図)電流を 6.6kV 配電系統に微少注入することで、発生する次数間高調波電圧成分からインピーダンスの増分比を監視するものです。系統健全時は、次数間高調波電流はインピーダンスの小さい上位系統へ流れますが、事故時(単独運転時)即ち系統遮断器が開放されたときは、負荷側へ次数間高調波電流が流れ込み、それに伴い、分散型電源が監視するインピーダンスが急激に増加することにより単独運転の高速検出が可能となります(第2図)。 (2)不要動作の回避について

 系統擾乱が発生すると、6.6kV配電系統における 2 次調波(系統基本波に近い周波数)成分は過渡的に変動し、単独運転検出装置が不要動作を起こす原因となります。一方、単独運転時の 2 次調波成分は連続的に増加する特性を有することから、単独運転時における次数間高調波成分の増分比監視と並列して、系統擾乱時における 2 次調波成分の連続的な変動を監視し、不要動作を回避する方法を考案しました(第3図)。

2.試作機の開発 開発した単独運転検出装置を10kW パワーコンディショナに組み込み、試作機としました(第4図)。

3.実証評価試験結果 電力中央研究所・赤城実験センター内の模擬系統(第5図)に、試作機4台を連系し、線路インピーダンスや次数間高調波電流量を増加することで集中連系を模擬し、各種試験を実施しました。(1)単独運転試験 結果を第6図に示します。6.6kV 配電線末端に集中連系した状態で発電量と負荷量を平衡させ、系統遮断器(CB)を開放したところ、試作機 4 台は 0.1 秒以内に単独運転を検出することを確認しました。(2)系統擾乱時の不要動作試験 系統擾乱を模擬的に起こすため、第5図の BTB を連系して試験を行い ま し た。試 験 は FRT(Fault Ride Through)技術要件に基づいた瞬低・周波数変動試験を行いました。第7図に瞬低試験の結果を示します。瞬低が発生し、復帰するまでに全ての試作機は不要動作に至らないことを確認しました。 なお、周波数変動試験においても不要動作が発生していないことを確認しました。

4.おわりに 集中連系において 0.1 秒以内の単独運転検出と、FRT 要件を満たした不要動作回避性能を具備した単独運転検出装置(非住宅用 3相接続型)を開発しました。この低圧型においては今後の市場動向を見据え、商品化時期を検討中ですが、本研究で得られた技術は、現在商品化されている次数間高調波注入方式の高圧型パワーコンディショナに導入され、リニューアルされることとなりました。

配電系統で事故が発生して系統遮断器が開放された場合に分散型電源が系統から解列されずに運転を継続すると、本来無電圧であるべき範囲が充電されることを、単独運転といいます。分散型電源が配電系統に局所集中的に連系(以下、集中連系)する状況では、高低圧混触時における単独運転の検出遅延や、上位系統事故(以下、系統擾乱)時に単独運転機能の不要動作による一斉停止の課題が懸念されます。このような課題に対応した単独運転検出方式として、本稿では、分散型電源の集中連系時に高速に単独運転を検出し、系統擾乱時に不要動作を回避する単独運転検出装置の開発および実証試験結果について報告致します。

次数間高調波を用いた単独運転検出装置の開発

第2図 次数間高調波方式による 単独運転検出原理

第1図 注入する次数間高調波

第3図 不要動作防止機能

第4図 試作機

連系点電圧

アナログフィルタ A/D変換

単独判定

次数間高調波成分

監視

2次調波成分連続的変動監視

AND

インピーダンス増分比

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研究紹介 研究開発室 エネルギー利用技術研究所 新エネルギー分野

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Page 33: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.研究の概要(1)高速検出を可能とする単独運転検出方式 単独運転検出方式は、高圧連系用に当社が日新電機と共同開発した次数間高調波注入方式を採用しました。本方式は、系統に殆ど存在しない次数間高調波(第1図)電流を 6.6kV 配電系統に微少注入することで、発生する次数間高調波電圧成分からインピーダンスの増分比を監視するものです。系統健全時は、次数間高調波電流はインピーダンスの小さい上位系統へ流れますが、事故時(単独運転時)即ち系統遮断器が開放されたときは、負荷側へ次数間高調波電流が流れ込み、それに伴い、分散型電源が監視するインピーダンスが急激に増加することにより単独運転の高速検出が可能となります(第2図)。 (2)不要動作の回避について

 系統擾乱が発生すると、6.6kV配電系統における 2 次調波(系統基本波に近い周波数)成分は過渡的に変動し、単独運転検出装置が不要動作を起こす原因となります。一方、単独運転時の 2 次調波成分は連続的に増加する特性を有することから、単独運転時における次数間高調波成分の増分比監視と並列して、系統擾乱時における 2 次調波成分の連続的な変動を監視し、不要動作を回避する方法を考案しました(第3図)。

2.試作機の開発 開発した単独運転検出装置を10kW パワーコンディショナに組み込み、試作機としました(第4図)。

3.実証評価試験結果 電力中央研究所・赤城実験センター内の模擬系統(第5図)に、試作機4台を連系し、線路インピーダンスや次数間高調波電流量を増加することで集中連系を模擬し、各種試験を実施しました。(1)単独運転試験 結果を第6図に示します。6.6kV 配電線末端に集中連系した状態で発電量と負荷量を平衡させ、系統遮断器(CB)を開放したところ、試作機 4 台は 0.1 秒以内に単独運転を検出することを確認しました。(2)系統擾乱時の不要動作試験 系統擾乱を模擬的に起こすため、第5図の BTB を連系して試験を行い ま し た。試 験 は FRT(Fault Ride Through)技術要件に基づいた瞬低・周波数変動試験を行いました。第7図に瞬低試験の結果を示します。瞬低が発生し、復帰するまでに全ての試作機は不要動作に至らないことを確認しました。 なお、周波数変動試験においても不要動作が発生していないことを確認しました。

4.おわりに 集中連系において 0.1 秒以内の単独運転検出と、FRT 要件を満たした不要動作回避性能を具備した単独運転検出装置(非住宅用 3相接続型)を開発しました。この低圧型においては今後の市場動向を見据え、商品化時期を検討中ですが、本研究で得られた技術は、現在商品化されている次数間高調波注入方式の高圧型パワーコンディショナに導入され、リニューアルされることとなりました。

執筆者

第5図 実規模大模擬系統

第6図 単独運転試験結果

第7図 不要動作評価試験結果

執 筆 者:大類 正洋所   属:研究開発室 エネルギー利用技術研究所     新エネルギー分野(総合エネルギー研究室)主な業務:風況予測に関する研究、次数間高調波を用いた系統安定性     向上に関する研究に従事

瞬低(電圧20%残 ,1.0秒継続)

時間[sec]0.00-0.80

0

0-300

300

0-200-400

200400

246

0246

0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 1.20

時間[sec]-0.05-0.10 0.00 0.05 0.10 0.15

信号電圧[V]系統電圧[V]

信号電圧[V]系統電圧[V]

単独運転検出トリガ

遮断機開放

単独運転

66kV/6.6kV

6.6kV 1600kVA

CB

上位系 有効電力P=0無効電力Q=0

線路インピーダンス(可変)

負荷インピーダンス

分散型電源は、v/iからインピーダンスを計算

BTB

Z

DC DC DC DC

6.6kV/210V

Z

PCS_1 PCS_2 PCS_3 PCS_4

R&D NEWS KANSAI 31

研究開発室 エネルギー利用技術研究所 新エネルギー分野次数間高調波を用いた単独運転検出装置の開発

Page 34: R&D News Kansai 2013年9月号(475号)

1.はじめに 保護リレーは、電力系統に事故が発生すれば、保護範囲内では動作し、保護範囲外では動作してはいけません(これを保護協調と言います)。そして、その動作値である整定値を検討する整定検討業務はとても重要です。 整定検討には、関連する保護リレーの整定値や、系統定数の情報収集が必要です。これには関係各所への問い合わせなど、多くの時間を要しています。 手計算での検討は計算ミスの要因となります。また、零相循環電流の算出には、鉄塔形状、不平衡電流などを考慮する必要があり、手計算で行うには限界があります。 系統全体を考慮した保護協調の確認には、事故種類(短絡、地絡)や、事故点(保護範囲内、範囲外)等を変更し、複数ケースを行うことが必要です。しかし、これには膨大な時間が必要となるため、代表的なケースに限定して確認を行っています。 そこで、整定検討業務の支援をするため、リレー応動シミュレーションシステムの開発を行いました。

2.リレー応動シミュレーションシステムの特徴(1)システムの概要 独立したLANで構成され、サーバには整定情報(整定値、系統図、系統定数)が保存されています。各所に設置されたリレー応動シミュレーション用PC(専用PC)から整定情報を取込み、故障計算、リレー応動の確認などを行うことができます。 

(2)整定情報の収集強化 系統図には、500/275kV系、154kV系、77kV系の3種類があります。系統図には整定値、系統定数が関連付けされており、これらの情報を、即座に専用PCへ取り出せるようにしました。これにより、情報収集にかかる時間短縮を図ることができました。

(3)故障計算の精度向上 専用PCに取り込んだ系統図に、模擬事故を発生させ、事故電流などを自動計算できるようにしました。これにより、手計算ミスの未然防止を図ることができました。また、零相循環電流は、併架区間の鉄塔情報をシステムに集約したことや、相ごとの負荷量設定による三相不平衡の電流位相を考慮した計算ができるようにしたことで、精度向上や、計算時間の短縮を図ることができました。

(4)保護協調確認の強化 系統図上では、事故種類や事故点等を変更し、シミュレーションを行うことにより、系統全体での保護協調を瞬時に確認することができるようになりました。また、特異な事故や、負荷潮流を考慮した事故もシミュレーションできるようになり、これまで確認できていなかった事故ケースでの保護協調も、容易に確認することができるようになりました。

3.今後の予定 リレー応動シミュレーションシステムを2012年4月に導入し、運用を開始しました。 本システムの導入により、整定検討業務の時間短縮と、検討内容の精度向上を図ることができました。今後、使用者からの評価に対するフォロー、また活用事例の展開を行い、引き続き整定検討業務の効率化・精度向上に取組んでいきます。

        執筆者名  大西 真一朗

リレー応動シミュレーションシステムの開発

第1図 システム概要

保護リレー整定検討業務の効率化・精度向上

PCPC

トピックス 電力システム技術センター 制御グループ

R&D NEWS KANSAI32

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けいはんな実験ハウスプロジェクト

1.プロジェクトの目的 省エネルギーで快適な生活空間を実現するために、けいはんな学研都市にある精華・相楽地区で先進的なエネルギーマネジメントの実証研究への取り組みを実施しています。 このプロジェクトは家庭用の太陽光発電システム(太陽電池)、燃料電池コージェネレーションシステム(固体酸化物形)、蓄電池システム、エコキュート(自然冷媒 CO2ヒートポンプ給湯機)を対象とし、これらの機器を組み合わせて省エネルギーやピーク抑制等を実現するための運転方法を確立し、エネルギーマネジメント提案に活かすことを目的としています。

2.エネルギー消費を模擬する実験ハウス 実験ハウス(写真1)では、生活者のエネルギー消費行動を無人で再現できるようになっています。

 照明とエアコン、換気設備は生活パターンに合わせて入り切りします。お湯は生活パターンに合わせて吐水し、風呂の浴槽のお湯はりは自動です。また、人が在室していると体温による熱や汗・呼吸からの水分でエアコンの動きに影響を与えますので、これを正確に模擬するために発熱発湿装置(写真2)を人の在室スケジュールに合わせて運転します。 これらの装置により、人が生活しているのと同じ環境で、実験対象機器を長期間に亘り自動で実験することができます。

3.技術実証の概要(1)三電池とエコキュートの組合せ運用 太陽電光発電システムは昼間に多くの電力を発電しますが、蓄電池システムに充電し電気をたくさん使うときに放電して使うことが出来ます。 燃料電池コージェネレーションシステムは、電気の使用量が少ない時には蓄電池システムに充電させて発電を増やして、同時にお湯を作って溜めておくことができます。 これにエコキュートを組み合わせて、ガスと電気を総合的に利用しながら最もエネルギー効率の良い運転方法や電力消費のピーク抑制が実現できる運転方法を実証します。(2)災害時の電気の自立システム ライフラインが途絶した場合に、蓄電池や電気自動車に蓄えた電気、太陽光発電システムを組み合わせて、家庭で最低限必要な電気を確保するための技術を実証します。(3)HEMS(Home Energy Management System) によるピーク抑制制御 ピーク抑制が求められる場合に、HEMS が家電機器を制御して電気の消費を抑制する技術を実証します。

4.研究スケジュール 平成24年度には実験ハウスの設置と実験の対象となる機器の基礎試験を実施しました。平成27年2月まで実験を実施し、その結果を評価していきます。

執筆者名  中西 弘

写真1 実験ハウス

写真2 発熱発湿度装置

トピックス 研究開発室 エネルギー利用技術研究所 ホームエネルギー分野

R&D NEWS KANSAI 33

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R&D NEWS KAN

SAI  2013年

9月号 Vol.475

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