pic/s...
TRANSCRIPT
『PIC/S GMPガイドラインへの対応に向けて品質年次レビュー・マネジメントレビュー』
の発刊に際して
本書は平成24年12月に(一財)医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団主催の
第127回薬事エキスパート研修会『PIC/S GMPガイドラインへの対応について―「品質
年次レビュー」と「マネジメントレビュー」について考える―』に基づいていますが,平
成25年8月に発出された「GMP施行通知」(薬食監麻発0830第1号)の内容を確認し一部
修正・追加を加えています。
「品質年次レビュー」は製薬会社内における品質管理業務を効果的に行うため,又,行
政への効率的なコミュニケーション手法として長年にわたり国際的には求められてきたも
ので,「GMP施行通知」の冒頭部分に「製品品質の照査」の必須事項として位置づけられ
ました。
本書の第一章では「GMP施行通知」全般の改定作業の経緯及び論点をまとめ,続く第
二章では「品質年次レビュー(製品品質の照査)」の有用性を実施上の課題とともに解説
されています。さらに第三章では企業統括のためのマネジメントレビューのあり方が「品
質年次レビュー」の役割が強調し述べられています。
平成25年12月には(独)医薬品医療機器総合機構から,定期GMP査察の効率化のため,
「製品品質の照査」の概要の提出が求められるようになりました。
このような状況において,本書が品質保証担当の方のみならず管理者層の方のお役に立
つことを期待しております。
平成25年12月
(一財)医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団理事長
土井 脩
我が国のGMPガイドラインの系統化とGMP施行通知の改訂作業の論点. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
厚生労働科学研究班 国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員檜山 行雄
品質年次レビューの理解と有用性について~PQRの必要性,どのように作成して,どう活用するか~ . . . . . . . . . . . 17
協和発酵キリン株式会社 生産本部富士工場 品質保証室マネジャー日本PDA製薬学会 QAQC委員会委員
高橋 秀明
経営陣の責任とマネジメントレビューについて . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 35
協和発酵キリン株式会社 生産本部 堺工場長日本PDA製薬学会 QAQC委員会委員長
毛利 慎一郎
資 料
・PIC/SのGMPガイドラインを活用する際の考え方について. . . . . . . . . .60
・医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する 省令の取扱いについて . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .184
C O N T E N T S
我が国のGMPガイドラインの系統化とGMP施行通知の改訂作業の論点
厚生労働科学研究班国立医薬品食品衛生研究所 客員研究員
檜山 行雄
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我が国のGMPガイドラインの系統化とGMP施行通知の改訂作業の論点
はじめに
本項では,PIC/S加盟の意義,PIC/S加盟申請にあたり発出されたGMP調査要領通知,
PIC/S GMPガイドラインの活用に関する事務連絡について,GMPガイドラインの系統化,
GMP施行通知の改訂の論点について述べる。
なお,本項は厚生労働科学研究班の検討の結果に基づいているが,筆者個人の解釈によるも
ので,研究班の提案そのものがそのまま施行通知の改訂に反映されるものではないことに留意
いただきたい。
『平成25年8月30日に「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令
の取扱いについて」(薬食監麻発0830第1号)(以下,GMP施行通知)が発出された。本講演内
容からの主要な変更点を『 』内に追記した。』
1.PIC/S加盟の意義・課題
PIC/S加盟の意義としては,①使用者の保護(国民の安心・安全確保),②リソースの有効
活用,③日本の製薬業界の地位確保・サポート――である。①については,世界標準のGMP
をクリアした医薬品を日本国内に流通させる必要があるということで第一義の目的となってい
る。また②については,税金や企業からの拠出金,手数料を無駄遣いしないため,また企業側
のGMP査察に関わる人,コストを考慮する上で,適切で効率のよいGMP調査を実施する必要
がある。③については必ずしも製薬企業だけではなく,国としての制度を認めてもらうことは
非常に重要である。
PIC/S加盟にあたっての課題は,①GMP調査当局〔PMDAと47都道府県(収去品の試験施
設含む)〕の品質システムの整備,連携,②個々のGMP調査員の質の確保(査察のパフォーマ
ンスが国際レベルである必要がある),③国内GMP関連規制とPIC/S GMPガイドの同等性確
保――である。
①については,国内調査権者が同一の品質システムで動いていることを示す必要がある。そ
こで議論を重ねた結果,通知として「GMP調査要領の制定について」(薬食監麻発0216第7号,
平成24年2月6日)(以下,GMP調査要領)を発出し,調査権者が同一の品質システムの下で
査察することを求めた。
また②については,査察官の質を国際レベルに維持する必要がある。そのためには資格の要
件設定や教育訓練プログラムの構築が求められることになる。しかし,わが国の行政当局の多
くでは2~ 3年ごとの人事異動が行われていることから,異動が行われても査察のレベルが維
持できるシステムが必要である。また,そのようなシステムを構築した場合には,国際的に納
得が得られる説明も必要になる。そこで本件について調査要領の中に資格要件およびシステム
の要件を記述することとなった。さらに,調査当局間の連携のためにGMP当局会議を2011年
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夏からスタートさせている。
③については,PIC/S GMPガイドと同等のガイド・規制を日本国内で使用することが求め
られる。これについては事務連絡「PIC/SのGMPガイドラインを活用する際の考え方」(平成
24年2月1日)(以下,PIC/S GMPガイド活用に関する事務連絡)の中に記載されている。また,
GMP省令の施行通知の改訂が現在行われている。
2.PIC/S申請への経緯
PIC/S申請への経緯の私観を表1に示す。個人的には,約10年前から加盟の勧めを聞いてい
た。
2005年に米国FDAが加盟申請し,米国へのPIC/Sによる現地評価が2009年,2010年に2回
行われ,米国FDAが加盟する方向性が決まったころから,急激に日本国内からPIC/Sに加盟
すべきだという意見が強くなり,準備を加速させ,2012年2月にGMP調査要領を改訂し,
PIC/S GMPガイド活用に関する事務連絡を発出し,同年3月に加盟申請をした。
図1に当局間の連携機能について示す。日本にはPMDAと47都道府県の48の調査権者が存
在するため,その間での連携の機能が不可欠であることを提案したことから,PMDA内に事
務局を置き,「GMP当局会議」の活動を始めている。
役割としては,①調査権者間の品質システムの共通化,②GMPガイドラインの継続的アッ
プデート,③継続的トレーニングの立案,教育資料提供,④国際整合性に関する情報入手と調
査権者への情報提供,⑤全体会議の開催,⑥PIC/S申請資料作成――などである。
表1 PIC/S申請への経緯(私観)
● PIC/Sメンバーからの個人的な推奨(2003年ころ~)● 製薬協の加盟提案(2004年ころ~)● 米国の加盟申請(2005年)● 情報収集の開始(2008年)● 研究班による活動(2009年~)● 米国申請へのPIC/Sによる現地評価(2009~ 2010年)● GMP調査強化体制検討会(2010年~)● GMP当局会議の開催(2011年~)● GMP調査要領の改訂,PIC/S GMPガイド活用の考え方(2012年2月)● 申請準備の完了・申請(2012年3月)
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我が国のGMPガイドラインの系統化とGMP施行通知の改訂作業の論点
3.GMP調査要領
GMP調査要領は,GMP調査を適切に実施できるように,調査権者の品質管理監督システム
に関連した事項を規定している。調査要領の分類および法的な位置づけは,調査要領の2ペー
ジ目に書かれている。なお,今回の調査要領の中で大きく変更があったのは,「品質マニュアル」
の設定である。約7ページを割いて記載されている。続いて,従来からあったGMP調査の実
施に関する手順に約30ページが割かれている。「調査員の資格要件」,「公的試験機関の要件」
がそれぞれ別添1,別添2に新規に示された。
調査要領の本文の中には,従来は記載がなかった用語として「マネジメントレビュー」など
が使われており,それらの用語の定義はICH Q10を参照のこととされている。
「品質マニュアル」は,行政側が保有しなければならない業務上の上位方針を整理したもの
図1 GMP当局会議ー当局間の連携機能
Cブロックトレーナー
Bブロックトレーナー
役割:(1)調査権者間の品質システムの共通化(SOP改訂作業,自己点検実施等)(2)GMPガイドラインの継続的アップデート(3)継続的トレーニングの立案,教育資料提供(4)国際整合性に関する情報入手と調査権者への情報提供 (5)全体会議の開催(6)PIC/S申請資料作成 等
調整組織 (仮 )(各ブロックから召集)
PMDA・GMPグループ
トレーナーチーム トレー
ナー
Aブロックトレーナー
※トレーナーは認定制
整合性検討会
厚生労働省提案
指示すり合わせ
情報提供と支援
各ブロック単位での調整を基本とする:教育,自己点検,調査サポート等。ただし,要望によりPMDA所属トレーナーのサポートも可能。
役割:(1)調査のテクニカル面での指導・サポート(2)国際標準への寄与(3)海外情報入手(4)自己点検,教育支援 等
嘱託,専門委員,ベテラン職員でトレーナーチーム構成(※)
PMDA内に設置
品質年次レビューの理解と有用性について~PQRの必要性,どのように作成して,どう活用するか~
協和発酵キリン株式会社 生産本部富士工場 品質保証部マネジャー日本PDA製薬学会 QAQC委員会委員
高橋 秀明
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品質年次レビューの理解と有用性について~PQRの必要性,どのように作成して,どう活用するか~
普段からの取り組みを最大限に活用し,それらをまとめ,評価する流れを作り,効率的に実
施することで万遍なくレビューを行い,恒常性の確認と重要な課題のクローズアップこそが大
切と考える。
5.PQRの実施方法
(1)PQRの流れと実務上のポイント 実際にPQRを実施するにあたって,PQRの流れと実務上のポイントを図4に示した。まず
は準備段階,次にデータの収集段階,データの解析・評価段階,レポート作成段階,評価結果
の活用段階に分けている。
準備段階では,あらかじめ管理パラメータ(どのような照査の対象とするか)を選定する。
また,実際の実施体制は非常に手間がかかるので,担当部署,スケジュール等をしっかり組ん
でおく。
データの収集・評価はどのくらいの頻度で行うか,収集においてはどんなシステムやテンプ
レートを利用するか,どの部署が担当するかも決めておく。また,解析の頻度は,製造所によっ
てはロットごととか,月単位,週単位で実施するなど,製造品目や製造キャンペーンなどを勘
案して体制が組まれている。レポートの作成では,製造部門と品質管理部門が連携してQAに
集約することと,テンプレートの利用が便利である。
評価の結果の活用では,会議体での報告や承認をふまえ,マネジメントレビューに結びつけ
るとよい。
図4 PQRの流れと実務上のポイント
*管理パラメータ(照査対象)の選定*実施体制の確立(担当部署,スケジュール)準 備
*頻度(ロットごと,週/月単位などの定期)*システム,テンプレート(データ収集解析)の利用*製造,品管の連携,役割分担
データ収集
*頻度(ロットごと,週/月単位などの定期)*解析,評価方法の手順化*製造,品管の連携(QAが加わる場合も)
データ解析・評価
*QAへ集約*テンプレート(レポートフォーマット)の利用レポート作成
*会議体での報告,承認*マネジメントレビュー評価結果の活用
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(2)モニタリングとPQRの違い ここでモニタリングとPQRについて説明する(図5)。モニタリングというのは,日々の活
動としての項目があがっているが,これらは当然異常が発生すればすぐ対応して,是正措置,
予防措置,あるいは重大性によっては,経営層への報告がなされる。一方PQRは,計画され
た定期的な活動を指し,製品ごとの総合的な製造工程や品質の恒常性が評価でき,それらは総
括され,レポートとして毎年蓄積されるというメリットがあるので,後からもわかりやすく使
いやすいものになる。日本においてもバリデーション基準の中で工程管理の定期調査が要件化
されてきた経緯があり,改訂されたバリデーション基準(薬食監麻発0830第1号)では削除さ
れ,製品品質の照査へ移行されたと理解できる(図6)。
(3)グループ化による省略化,効率化 なお,前述のPIC/S GMPの記述の中でグループ化について触れているが,このグループ化
ということについても当委員会で多少議論をしている。グループ化することによって,省力化
を図れるのではないかという観点で議論を始めた。科学的な根拠があればグループ化も認めら
れるが,解析は個々の品目でレビューをしてみないと,その結果が得られないということで,
結局はレビューを個々にする必要があるのではないかということになっている。
ただ,ユーティリティーなどの共通的な部分を共通化することはできるのではないかとか,
同じ剤形や同じ工程,同じ装置の場合には,共通部分の評価については適用できるとか,ある
いは製品の含量の違いをまとめることは可能な場合もあるとか,レポート作成において共通化
図5 モニタリングとPQR
・重要工程管理値・環境モニタリング・原材料,製品の試験結果・装置のキャリブレーション,点検・出荷判定のための記録レビュー・品質情報・安定性モニタリング など
モニタリング(日々の活動)
VS
・PQR報告書・作成前,作成後の会議体・マネジメントレビュー・次年度のアクションプラン
PQR(計画された定期的な活動)
PQRの必要性(メリット)①製品にごとの,総合的な製造工程及び品質の恒常性の評価ができる②総括され,レポートとして残る → 毎年,知識として蓄積される
異常逸脱が発生すれば即対応 →是正/予防措置 →重大性により経営層へ報告
経営陣の責任とマネジメントレビューについて
協和発酵キリン株式会社 生産本部 堺工場長日本PDA製薬学会 QAQC委員会委員長
毛利 慎一郎
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①苦情,逸脱,CAPA及び変更マネジメントプロセス
②外部委託作業のフィードバック
③リスクアセスメント,トレンド解析及び監査を含む自己評価プロセス
④当局の査察及び指摘事項並びに顧客監査などの外部の評価
Performance Indicatorの活用も,マネジメントレビューにおいて品質システムの有効性を
評価する上で重要である。
以上,Q10に記載されていることを簡単にレビューした。
3.事例研究:想定モデル企業におけるマネジメントレビュー
(1)マネジメントレビューのモデル 実際にマネジメントレビューをするにあたって,具体的にどのようなことを考えたらいいの
か,当委員会で実施した事例研究の結果を紹介する。
まず,工場を中心としたマネジメントレビューの想定事例を検討することとした。工場で従
来のGMP管理を推進していたが,その延長線上で医薬品品質システム(PQS)を構築した,
という想定である。全社的には工場から上がってきた情報をもとに,本社でレビューすること
になるが,基本となる工場でのマネジメントレビューを中心に検討した。工場長,すなわち工
場での上級経営陣がマネジメントレビューを実施するにあたって,どのようなシステムが適切
であるかという観点である。
ポイントとしては,①リスクに基づいて評価,判断,処置ができるシステム,②適切な情報
が整理されたかたちで経営陣に提供されるシステム――となる。
図3に「モデル企業における組織概略」をまとめた。モデルを設定するにあたり,会社のサ
イズや組織の形態によって,さまざまなパターンが考えられる。それら全てにおいて検討する
のは難しいので,ここではごく一般的と思われる製造販売業と製造業,両方を有しているよう
な国内の製薬企業というモデルとした。
想定した組織は以下のとおり。
①社長のもとに,生産本部,研究本部,信頼性保証本部などがある。
②生産本部長の配下に工場がいくつかある。
③信頼性保証本部長を総括製造販売責任者として,GQPとGVPの体制がある。
④工場は当然,研究所やGQPとの間に部門間コミュニケーションがある。
⑤工場の運営に関しては,工場長が生産本部長にレポートするレポートラインがある。
⑥ GQPの体制があるので,工場のQA長からGQPの品質保証責任者に情報を上げるという
レポートラインもある。
経営陣の責任を,図4「目標管理とマネジメントレビュー」で整理した。まず会社の品質方
針に基づいて全社の品質目標を立てることになる。それに基づき,工場の品質目標を立て,さ
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経営陣の責任とマネジメントレビューについて
図3 モデル企業における組織概略(想定)
社長
研究開発本部長
研究所
工場
生産本部長
工場長
製造部長
品質管理部長
営業本部長
総務人事その他
信頼性保証本部長
(総括製造販売責任者)
レポートライン●工場長 生産本部長 社長●QA長 品質保証責任者 信頼性保証本部長 社長
QA長製造管理者
GQP品質保証責任者
GVP安全管理責任者
製造販売業と製造業を有している国内製薬企業
図4 目標管理とマネジメントレビュー
工場におけるGMP活動
2.経営陣の責任2.1 経営陣のコミットメント2.2 品質方針2.3 品質計画2.4 資源管理2.5 内部の情報伝達2.6 マネジメントレビュー2.7 外部委託作業及び購入原材料の管理2.8 製品所有権における変更の管理工場品質目標
部署品質目標
目標管理システム
品質方針
全社品質目標
計画,実行
マネジメントレビュー
モニタリング
ICH Q10 医薬品品質システム