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P-革新的デバイス創成のための物理基盤工学 プロジェクトリーダ: 斎木 敏治 総合デザイン工学専攻 准教授 事業推進担当者: 小原 総合デザイン工学専攻 教授 津田 裕之 総合デザイン工学専攻 教授 事業推進協力者: 松本 総合デザイン工学専攻 教授 神成 文彦 総合デザイン工学専攻 教授 山元 公寿 基礎理工学専攻 教授 栄長 泰明 総合デザイン工学専攻 准教授 白濱 圭也 基礎理工学専攻 准教授 石榑 崇明 総合デザイン工学専攻 准教授 齊藤 英治 基礎理工学専攻 専任講師 RA: 久保田 良輔 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年 坂井 哲男 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年 坂野 竜則 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年 武田 征士 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年 渡辺 剛志 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年 知久 昌信 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年 齋藤 広大 基礎理工学専攻 後期博士課程2年 S. Rahmah 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年 山下 基礎理工学専攻 後期博士課程 1 安藤 和也 基礎理工学専攻 後期博士課程 1 I 研究の概要 (1) 背景 人間支援を目的とした多元的でパーソナルな知覚ネットワーク空間を創出す るためには、高機能・高感度センシング技術と高速伝送、大容量記憶、低消費エ ネルギーを兼ね備えたデバイス開発が必須である。特に本 GCOE の主題の一つで

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P-1 革新的デバイス創成のための物理基盤工学

プロジェクトリーダ:

斎木 敏治 総合デザイン工学専攻 准教授

事業推進担当者:

小原 實 総合デザイン工学専攻 教授

津田 裕之 総合デザイン工学専攻 教授

事業推進協力者:

松本 智 総合デザイン工学専攻 教授

神成 文彦 総合デザイン工学専攻 教授

山元 公寿 基礎理工学専攻 教授

栄長 泰明 総合デザイン工学専攻 准教授

白濱 圭也 基礎理工学専攻 准教授

石榑 崇明 総合デザイン工学専攻 准教授

齊藤 英治 基礎理工学専攻 専任講師

RA: 久保田 良輔 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年

坂井 哲男 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年

坂野 竜則 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年

武田 征士 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年

渡辺 剛志 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年

知久 昌信 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年

齋藤 広大 基礎理工学専攻 後期博士課程2年

S. Rahmah 総合デザイン工学専攻 後期博士課程2年

山下 建 基礎理工学専攻 後期博士課程 1 年 安藤 和也 基礎理工学専攻 後期博士課程 1 年

I 研究の概要

(1) 背景

人間支援を目的とした多元的でパーソナルな知覚ネットワーク空間を創出す

るためには、高機能・高感度センシング技術と高速伝送、大容量記憶、低消費エ

ネルギーを兼ね備えたデバイス開発が必須である。特に本 GCOE の主題の一つで

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ある「人と環境の理解」のためには、人・環境と対話するための多数の埋込みデ

バイスが必要であり、個々のデバイスの省電力化は最重要の課題である。デバイ

ス動作の高効率化にあたっては、新しい材料・物性、構造、デバイス概念の導入

が不可欠な段階にある。 一方、本 GCOE が目指すところは人と人・環境のつながりを高度化・多様化し、

個人の生活を豊かにすることに尽きるが、その反作用も当然懸念される。特に個

人の履歴を含むプライバシーの問題が必ず付随する。個人の支援のためにはある

程度の履歴情報が必要であるが、忘却、秘匿の機能も欠かせない。これは環境の

情報についても当てはまる。システム、ネットワーク技術でこれらの問題に対処

することは困難であり、メモリ性、秘匿性を内在する自立したデバイスが必要で

あり、新しいデバイスとそれを実現する物理機構の導入が求められる。 P-1 プロジェクトでは、このような革新的デバイスの開発に向け、その物理基

盤工学の確立を目指し、萌芽的な研究を推進する。21 世紀 COE においては、電

子デバイスと光デバイスの融合を目的とした基礎研究を推進し、さらにハードと

システムの相互理解を深めてきた。一方、個々の研究者は独自にナノフォトニク

ス技術、ナノ物性制御技術、フェムト秒パルス制御技術などの要素技術の高度化

につとめてきた。これらの技術を結集し、さらにシステムからの要求を的確に把

握することにより、実用を見据えた革新的デバイスの提案と創成を目指す。

(2) 目的、計画

光と電子の融合を基本発想とし、物質のナノ物性とナノ構造化による機能発現

に着眼することで、高速性・大容量性・低消費エネルギー性など、デバイスの基

本性能の向上に寄与する。極限的なセンシング感度・選択性を実現し、さらにメ

モリ性・秘匿性を内在させることにより、環境理解・適応パーソナルデバイスを

創成する。また、磁性・スピンエレクトロニクスを中心とした新しい物性概念を

導入し、基本的な物理の解明とデバイス提案をおこなう。このような物理基盤の

確立と同時にデバイスとの間に大きな谷間が生じないよう、特に P-2 との連携を

密にとり、研究の方向性を常に明確にすることを心がける。 各事業推進担当者・協力者の具体的なテーマは以下のとおりである。

(A) ナノプラズモニクス支援ナノ構造作製技術の開発(小原)

(B) フォトニックネットワーク用光機能回路の研究(津田) (C) ナノフォトニクスを基盤としたナノ物性解明と制御(斎木)

(D) Si 基板の高機能化に向けた基盤技術の開発(松本)

(E) フェムト秒レーザ波形整形を用いた超高速プラズモニクスの時空間

分解計測と制御(神成)

(F) 室温光制御型磁性体の創製と高機能ダイヤモンドの合成・評価

(栄長)

(G) スピン流生成方法の研究(齊藤)

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(H) デンドリマーの有機 EL 材料への展開(山元)

(I) 極低温走査プローブ顕微鏡の開発と基礎科学への応用(白濱)

(J) 屈折率分布型ポリマー光導波路の研究開発(石榑)

(3) 意義(特色、国外の関連研究の中での位置づけ、社会への貢献等)

Si、GaN、GaAs、InAs/InP、相変化材料、ダイヤモンドなど個々の研究者が

得意とする物質と、光制御磁性やスピントロニクスなどの新しい物性物理の概念

に立脚し、さらにフェムト秒・ナノスケール光学技術を導入することにより、ア

クティブに動作するデバイスを創成する。これは、本 COE の基盤となる環境理

解・適応性、秘匿性を有するデバイスを目指したものである。 また本 P-1 プロジェクトは、材料開発、機能設計、計測、プロセスのそれぞれ

を専門とする研究者がバランス良く参画しており、有機的な連携のもと、斬新な

発想を追求している。 サブミクロン~ナノスケール の光学を利用した高機能デバイスが世界的に活

発に研究されている。ただしそのほとんどは金属の光学物性のみ(プラズモン)

を利用したパッシブな機能を追求するものである。ここで提案する、ナノ物性と

の融合によるアクティブデバイスを目指した研究は例を見ない。日本が得意とす

る磁性物理とフェムト秒・ナノスケール光学を融合することにより、世界をリー

ドする研究分野の開拓を目指す。

(4) 研究成果概要

(A) ナノプラズモニクス支援ナノ構造作製技術の開発 プラズモン導波路を利用した熱アシスト磁気記録用光ヘッドを設計し、

実用化が期待できる集光効率を得た。FDTD 法を用いて Random Lasingの発振特性、特に Anderson 局在モードの関連を明らかにした。パルスレ

ーザ堆積法による ZnO 薄膜・ナノロッド成長をおこない、薄膜に対して

は Mg ドーピングによるバンドギャップ制御、ナノロッドに対しては、

直径制御と成長位置制御に成功した。誘電体微粒子配列を基板として金

属ナノ周期構造を作製し、表面増強ラマン測定を通して、最適構造設計

の指針を得た。 (B) フォトニックネットワーク用光機能回路の研究

石英導波路に深溝を形成し、樹脂を充填することにより、多彩な光機能

を有する小型回路、特に今年度は偏光分離素子の設計、試作をおこない、

良好な結果を得た。 (C) ナノフォトニクスを基盤としたナノ物性解明と制御

近接場光学顕微鏡を用いた波動関数マッピングにより、量子ドット内に

形成された構造揺らぎによる弱局在ポテンシャルを可視化した。量子暗

号通信への応用を睨み、フォトニッククリスタルへ導入可能な低密度

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InAs/InP 量子ドットの最適成長条件の探索と特性評価をおこなった。相

変化材料のサブピコ秒高速応答のメカニズム解明と相変化を利用したナ

ノ光スイッチングの実証をおこなった。 (D) Si 基板の高機能化に向けた基盤技術の開発

MOSFET 極浅接合形成のため、Ge プレアモルファス化注入、プレアニ

ーリング、ならびにエキシマレーザによる非融解ポストアニーリングを

組み合わせる方法を提案し、ホウ素の拡散の評価をおこなった。 (E) フェムト秒レーザ波形整形を用いた超高速プラズモニクスの時空間分解

計測と制御 適切に設計されたナノ構造体に対し、周波数チャープによって局所プラ

ズモンの時空間制御が可能であることをシミュレーションにより確認し

た。また2次空間光変調器を用いたフェムト秒ベクトル波形整形器を開

発した。 (F) 室温光制御型磁性体の創製と高機能ダイヤモンドの合成・評価

実用化に向けた巨大な保持力実現に向け、垂直磁気異方性を有する強磁

性 FePt ナノ粒子集積膜の作製に成功し、良好な履歴曲線を確認した。ま

た有機・無機複合薄膜界面に発現する強磁性に着目し、金薄膜系にて磁

気異方性、巨大磁化率を確認した。 ダイヤモンドを電極として用いた電気化学センサー、特に電子移動によ

るタンパク質の立体構造変化の検出、ならびに Ni 電極との選択性を利用

したグルコースセンサーの開発をおこなった。 (G) スピン流生成方法の研究

逆スピンホール起電力の増大を目的として、Cu 不純物をドープした Pt薄膜を用いた起電力測定をおこない、ノンドープ Pt 薄膜に対し2倍の増

幅を確認した。また、スピンゼーベック効果における補償温度の存在を

確認した。さらに、熱揺らぎを取り入れたスピン歳差運動方程式の数値

解析により、スピンの逆相反性を利用した熱的スピンポンピングの可能

性を示唆する結果を得た。 (H) デンドリマーの有機 EL 材料への展開

従来のデンドリマー合成法を改良し、第4世代カルバゾールデンドロン

の合成、ならびにダブルレイヤー型デンドリマーの合成に成功した。ま

た、EL 素子のホール輸送材料への展開を目指し、素子作製・評価をおこ

なった。特に錯形成により素子特性が向上することを見出した。 (I) 極低温走査プローブ顕微鏡の開発と基礎科学への応用

1K 以下の極低温下で動作する走査プローブ顕微鏡の開発をおこなった。

超伝導表面におけるナノスケール摩擦現象の解明に向け、その予備実験

としてグラファイト表面での摩擦力による周波数と散逸の変化を観測す

ることに成功した。

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(J) 屈折率分布型ポリマー光導波路の研究開発 光配線における伝送損失、接続損失の低減のため、屈折率分布型ポリマ

ー光導波路の開発をおこなった。コア形状を自由に形成できることを確

認し、さらに光がコア中心に強く閉じ込められていることを確認した。

(5) 国際連携実施状況

コアパートナーであるハーバード大学へのインターンシップに2名のRA(坂

井哲男、坂野竜則)が約半年間参画した。金属ナノ周期構造を利用した表面増強

ラマン計測用基板の開発、ZnO の3次元構造作製技術の開発に関する共同研究を

おこなった。同じくコアパートナーであるエコール・セントラル・リヨンへのイ

ンターンシップに1名のRA(久保田良輔)が参画し、InAs/InP 低密度量子ドッ

トの作製と評価に関する共同研究をおこなった。いずれのRAも共著の国際会議

発表・投稿をおこなっており、共著論文の執筆にもとりかかっている。 ブルガリア科学アカデミーの Petar Atanasov 教授、Nikolay Nedyalkov 博士

を招聘し、プラズモニクスに関する共同研究をおこない、多くの共著論文を刊行

した。

II 研究成果

A: ナノプラズモニクス支援ナノ構造作製技術の開発

(1) 研究目的

プラズモニクス導波路設計、ナノ構造作製、レーザ堆積法(PLD)による ZnO 薄

膜・ナノロッド作製、微粒子散乱場における Random Lasing 特性の解明、なら

びにレーザ誘起音響波駆動遺伝子導入を目的に研究を実施した。

(2) 研究成果

(1) 新規構造の熱アシスト磁気記録用光ヘッド

図 1 に本研究の1つのスリットと二つの微小開口があるという構造の基本概

念を示している。二つの微小開口が gold transducer における1つのスリットの

そばに配置されている。このスリットと開口の間隔は波長より十分に小さい。こ

の基本構造において、後方に屈折率 n1=1.45 の誘電体導波路が接続されており、

y 方向に偏光した平面波がその導波路を通して照射される。波長は空気中で 850 nm であり、金の光学定数 n=0.17, k=5.30 を利用した。

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図 1:矩形微小開口とスリットを備えた集光素子

スリット内部とホール内部の透明材料はそれぞれ、屈折率が n=1.45(SiO2)の物

質と、屈折率が n=2.1(Ta2O5)の物質であるとした。磁気ヘッドに組み込まれる時

は、x 方向が Cross-track 方向(cross-track direction)であり、y 方向が downtrack方向(downtrack direction)である。スリットの開口径は WT であり、長さは L で

ある。微小開口の開口径は wt であり、深さは l である。スリットと微小開口の間

隔は d とした。このスリットは金属の中を貫く長さ L で WT の開口大きさを持つ

矩形コアのプラズモン導波路である。このスリットは x 方向に関してカットオフ

よりも広い幅 W を持っているため伝搬モードが存在する。y 方向に関するスリッ

トの厚さ T は波長よりも十分に小さい。ここでの構造は、W=340nm, T=20nm, L=260nm, t=60nm, l=140nm である。

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図 2:(a),(b),(c) 本構造の中央での y-z 平面における光強度分布 それぞれ微小開口がな

い場合、スリットから 20nm 離れている場合、120nm 離れている場合を示してい

る (d) コバルト層に形成される光スポットの半値全幅とピーク光強度に対する

スリットと微小開口の距離依存性 図 2 の(a)から(c)では、本構造の中央での y-z 平面における光強度分布を示し

ている。それぞれ微小開口がない場合、スリットから 20 nm 離れている場合、120 nm 離れている場合を示している。金属構造とコバルト層が白線で示されている。

図 2(a)の構造では金属スリットから出射した近接場光の光強度分布は素子表面

と記録媒質の間隔に比較的均一な強度で広く分布、つまりこの間隔を低い伝搬損

失で伝搬して横に流れている。それに対し、図 2(b) の構造では出射面でのスリ

ットと開口との間に金属リッジ (ridge)(x方向に長さ 80 nmである)のような形状

ができるので、 その先端部分周辺に光が局在し、電界増強が起きている。図 2(c) においては、スリットと微小開口との距離が大きくなっているため、光が局在す

る範囲は広くなり電界増強が弱くなっていることが分かる。これら結果から、開

口が出射光の存在範囲を小さくする働きを持っていることが分かる。 加熱が起こる場所はコバルト層内部の光強度分布を見ることで評価できる。図

2(a)の微小開口がない場合にはコバルト層内に幅広くスポットが分布しているが、

図 2(b)で微小開口がスリットに近い場合にはスリットの正面にスポットが集中

していることが分かる。つまり、スリットに非常に近く配置された微小開口はコ

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バルト層を加熱する光スポット径を小さくしている。 図 2(d)はコバルト層の最表面に形成される光スポットの半値幅とピーク光強

度の slit と hole 間距離依存性を示している。微小開口を配置していない場合のピ

ーク光強度を1としている。x 方向と y 方向の両方とも半値幅は距離が小さいと

きほど小さいことが分かり、コバルト層内に小さい光スポットを得るためには距

離が小さいほうが良い。しかし、光スポットのピーク強度は距離が 20 nm のとき

に高い値になっており、それよりも小さい距離ではピーク強度は急激に減少して

いるので、20nm 以下の距離を利用した場合の集光の効率は低いと言える。集光

素子として利用するときは、高いピーク強度と小さいスポットサイズが両立した

20 nm を利用するのが適している。 ピーク強度と半値幅のホール幅依存性は、hole と slit によってできる金リッジ

部分での表面プラズモンによる電界増強と、ホールへの光進入しやすさの両方に

起因している。素子表面とディスク間での広範囲への光の伝搬はホールを置くこ

とで防ぐことができ、x-FWHM が低減することはすでに示したが、波長に比べて

非常に小さい開口には光は進入しにくいので、ホール内部へ十分に光を侵入させ

るためにはある程度大きいホール幅を用いる必要がある。しかし、ホール幅を広

くするとホールとスリットの間にできる金リッジ部分も z 方向に関して長くなる

ので、表面プラズモンによる電界増強が起こる範囲が広くなり、z-FWHM の増加

につながる。そのため、両方の FWHM を小さい値にするためには、適切な hole幅を選ばなくてはならない。

図 3:新規熱アシスト磁気記録のための光ヘッド

熱アシスト磁気記録の光素子においては、廃熱がその素子の融解を引き起こす

可能性があるので、光利用効率が非常に重要である。この本構造は非常に薄いス

リットを使用しているので、このスリットに効率良く光を導入しなければならな

い。この要求を満たす構造として、前後のプラズモン導波路を中間の厚さを持つ

短いプラズモン導波路で接続したインピーダンスマッチング構造が提案されてい

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る。なおこの構造は連続的にコア厚さを変化させる構造よりも薄膜プロセスに適

している。 このインピーダンスマッチング構造を利用して slit と厚い導波路を接続した本

構造による新規光ヘッドを図 3 に示す。スリットやホールの大きさは前述のまま

である。インピーダンスマッチング構造として、コア厚さ 80nm で長さ 80 nm の

区間を配置している。それにコア厚さ 200 nm の厚いプラズモン導波路が接続さ

れており、数µm 程度の長距離伝送用として用いている。 今回提案した光ヘッドの大きな利点は、表面プラズモンを導波路と集光素子に

用いることで、素子全体の薄さを従来の誘電体クラッドを持つ熱アシスト磁気記

録の光ヘッドよりも薄くすることができることである。なぜならば光素子が薄い

と既存の磁気薄膜ヘッドに組み込みやすいと思われるためである。上述の大きさ

では、スリットと二つの微小開口が必要とする厚さは合計で 180 nm であり、上

下の層にそれぞれクラッドとしての 100 nm の金層を配置するので、この光素子

に必要な厚みは 380 nm である。同様に、長距離伝搬用の矩形プラズモン導波路

は厚さ 200 nm の誘電体コアに 100 nm の金クラッドを持っているので、合計 400 nm の厚みである。これは誘電体クラッドを利用する光導波路よりも十分に薄い。

(2) Random Lasing の発振モード解析

Random Lasing(RL)とは、ランダムなナノ構造体内部において観測される、レ

ーザと類似した発振現象である。増幅媒質内の屈折率が空間的にランダムな分布

形状を有するとき、発光は複雑な散乱過程を経て媒質から漏出する。このとき発

光の波長と媒質内における輸送平均自由行程とがほぼ同程度である場合、発光の

一部は再帰的な散乱光路を描きつつ定在波として空間的に局在する (光の

Anderson 局在)。増幅媒質内におけるこのような局在領域は周回状のレーザ共振

器として機能するため、媒質への励起光強度が或る発振閾値を上回ると、発光ス

ペクトル上にはレーザの縦モード発振を示唆する無数のスパイクが出現する。RLにおいては、屈折率の分布形状、すなわち媒質の「ランダムさ」により異なる形

状の局在領域が形成され、またその局在領域に応じて異なる縦モードが発振する

ことが知られている。RL はこのようなモード選択性により、「発光素子」や「光

ラベル」等、新たな光学素子応用への期待が高い。しかしながら、媒質の「ラン

ダムさ」と局在モードとの相関、並びにその発振特性はいまだに未解明の状態に

ある。本研究では RL 計算モデルを独自に構築することで、RL の発振特性につい

て詳細に調べた。またさらに FDTD (Finite-Difference Time-Domain)法を利用

することで、ランダム媒質内に閉じ込められる電磁波の Anderson 局在モードに

ついて調べた。

(a) 準 2 次元計算モデルによる RL 発振特性解析

RL のモード発振特性を調べる為に、準 2 次元格子状の計算モデルを独自に構

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築した。本計算ではシステムの散乱状態(=「ランダムさ」)を調節することで発光

スペクトルの経時変化を観測し、どのような散乱状態において最も選択的なモー

ド発振が得られるのかを明らかにした。

まず光の輸送・散乱を記述する格子状「2次元散乱モデル」を構築した。格子

点上に分布した散乱体により、発光は散乱および干渉しつつシステム内を伝搬す

る。[図 4(a)] さらにレーザ利得を記述するために、反転分布密度、基底準位密度、

光子密度について Rhodamine-6G の光学パラメータを使用したレート方程式を

たて、散乱モデルに導入した。 システム内に、ループ経路を描くような 4 個の散乱体を布置し、その周囲にラ

ンダムに散乱体を布置した。[図 4(b)] このシステム状態は、典型的な RL 媒質を

模擬している。4 個の散乱体はそのままに、周囲の散乱体の個数を変化させてシ

ステムを励起し、発光スペクトルを観測した。

0

2

4

6

8

10

12

14

0

5

10

15

20

25

30

13 ps

26 ps40 ps

53 ps

66 ps

縦モード(590 nm)

(a)

585 600 585 600

縦モード

(b)

ASE

13 ps

26 ps

40 ps

53 ps

66 ps

585 6000

2

4

6

8

10

12

14

16

18

13 ps

26 ps

40 ps

53 ps

66 ps

(c) 縦モード(590 nm)

波長 [nm] 波長 [nm] 波長 [nm]

発光

強度

[A.U

.]

図 5:ループ経路周囲の散乱体数を変えたときの、発光スペクトルの経時変化の様子

(a)は 0 個、(b)は 100 個、 (c)は 120 個 周囲の散乱体数を 0 個から 100 個に増やすと、ループ上の周回共振器に由来す

(a)

50 sites

100 nm

Scattering points50

site

s

(b)

図 4:(a) 2 次元散乱モデルの概要 発光は散乱体により、等方的に散乱

(b) 計算時における散乱体の布置の仕方

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る縦モードに加え、周囲の散乱システムにおける ASE 曲線が観測された。[図 5(a), (b)] しかし散乱体数を 120 個以上に増やすと、ASE 成分が喪失し、縦モードの

みが観測された。これは縦モード成分と ASE 成分間で起きる或る種のモード競

合に由来するものと考えられる。本成果は、Anderson 局在領域の周辺における

散乱状態を強くすることで、局在モードの発振を促進させ、より選択性の強いモ

ード発振が得られる可能性を示唆している。

(b) FDTD 法による局在モードの散乱状態依存性の解析

FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて、2 次元系におけるランダ

ムなシステムのサイズと局在モードの Q 値との相関を調べた。粒径 100 nm、屈

折率 2.2 の粒子を、空間充填率 55.8%で円状の領域にランダムに配置する。領域

の中心にインパルスを入射し、十分な時間に渡りシステム全体において電界振幅

値の時間応答を取得し、フーリエ変換を施すことでシステム中に局在する電磁波

のスペクトルを得た。その結果、各局在モードは孤立して存在するのでなく、複

数の周波数グループとして存在することが分かった。さらに各グループにおける

代表的な局在モードの Q 値を、システムのサイズ(円領域の半径)に対してプロ

ットしたのが図 6 である。図 6 より、Q 値は或る閾値サイズにおいて急激に上

昇する。また電界強度分布図より、閾値前後における局在の有無が鮮明に判別で

きる。これより、Anderson 局在が起きるには或る程度のシステムサイズが必要

であり、その閾値サイズは局在モードの周波数により異なることが明らかとなっ

た。

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

14000

16000

0 500 1000 1500

R [nm]

Q fac

tor

2.015 PHz2.005 PHz1.995 PHz1.993 PHz1.973 PHz1.429 PHz1.394 PHz1.383 PHz1.375 PHz1.371 PHz0.795 PHz0.787 PHz

図 6:局在モードの Q 値とシステムサイズとの相関 右図(a)、 (b)はシステムサイズが 400 nm、 700 nm 時の電界強度分布

(b)

(a)

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(3) パルスレーザ堆積法(PLD 法)による ZnO 薄膜成長

ZnO(酸化亜鉛)はバンドギャップ 3.37 eV の直接遷移型半導体であり、GaNに代わる新たな青色 LED や LD の材料として注目されている。ZnO の励起子結

合エネルギーは GaN の 24 meV や室温の熱エネルギー25 meV と比較しても 60 meV と大きく、より高効率な発光が期待される。本研究は PLD 法を利用して、

発光デバイスへ応用可能な高品質 ZnO の作製を行う。さらにナノ構造体にも注目

し、様々な機能を組み合わせたデバイス作製を目指している。

(a) ZnO 薄膜の結晶評価とバンドギャップエンジニアリング

デバイス応用に向けた ZnO 薄膜を作製するには結晶成長技術を完成させ、伝導

性制御を可能にする必要がある。また半導体内で形成されたホールと電子を効率

的に再結合させる為にバンドギャップエンジニアリング技術が必要である。故に、

まず PLD 法によって作製した undoped ZnO の結晶評価を行い、Mg ドーピング

によるバンドギャップシフトの評価を行った。

34.0 34.2 34.4 34.6

10

100

1000

∆ω-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

0

100

200

300

400

Inten

sity

2Theta320 360 400 440

0.00.20.40.60.81.0

Inten

sity

Wavelength (nm)

ZnO

GaNRC

(a)

(b)

undope

3 at.%10 at.%

20 at.%

34.0 34.2 34.4 34.6

10

100

1000

∆ω-1.0 -0.5 0.0 0.5 1.0

0

100

200

300

400

Inten

sity

2Theta320 360 400 440

0.00.20.40.60.81.0

Inten

sity

Wavelength (nm)

ZnO

GaNRC

(a)

(b)

undope

3 at.%10 at.%

20 at.%

図 7:(a)作製した ZnO 薄膜の HRXRD スペクトル

(b)作製した ZnMgO 薄膜の CL スペクトル

これまでの研究により epi-ZnO/buffer ZnO/epi-GaN/Sapphire 構造にすること

で epi-ZnO 薄膜中の欠陥由来発光が減少することを明らかにした。従来の薄膜作

製は Ar 雰囲気中 700 度での成長であった。結晶性をより向上させるためには 700度以上の環境が必要であったが、Ar 雰囲気下では薄膜が 3 次元成長してしまうと

いう問題があった。そこで我々は Ar から O2 雰囲気にすることで 700 度以上の高

温下でも薄膜表面のマイグレーションを促進できることを明らかにした。この薄

膜に対して HRXRD 測定を行った結果を図 7(a)に示す。図 7(a)中の図はωロッキ

ングカーブ測定であり、成長膜厚 300 nm の薄膜は良い結晶性を持つことが分か

(b)

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った。 次に Mg 組成の異なる 4 種の ZnMgO 薄膜を作製した(Mg: 0, 3, 10, 20 at.%)。

それぞれの薄膜に対して CL 測定を行った結果が図 7(b)である。相分離を起こす

ことなくバンドギャップシフトしていることが XRD および CL 測定より確認で

きた。以上の結果は本成長法でドーパントが入ったとしても高品質な薄膜が作製

できることを意味している。

(b) ZnO ナノロッドの新規成長制御

ナノ構造体の大きな長所として、表面積が大きいことやアスペクト比が高いこ

とが挙げられる。しかしナノロッドの応用にあたって、まずナノロッドの成長制

御や再現性の問題を改善する必要がある。我々は従来の PLD 法に off-axis 法を適

用しナノロッドの直径制御と catalyst-free プロセス(seed 層利用)によるナノ

ロッドの位置制御を組み合わせることでロッドの構造制御を可能にした。図 8(a)-(d)は直径制御された ZnO ナノロッドの SEM 像である。ロッドの直径は off距離で 100~400 nm までの制御可能であることを示した。また図 8(e)は seed 層

上のみに ZnO ナノロッドが成長していることを示しており seed 層をどこに配置

するかによってロッドの成長位置を制御できる。

(a) (b)

(d)(c)

(e) Seed layer無し Seed layer有り

10 µm

(a) (b)

(d)(c)

(e) Seed layer無し Seed layer有り

10 µm

図 8:ZnO ナノロッドの(a)-(d)直径制御と(e)位置制御を示す SEM 像

(4) 誘電体微粒子を用いたナノ周期構造の電界増強効果

微粒子上に金属膜をコーティングしたナノ周期構造は、その構造表面で非常に

強い電界増強を引き起こすことで知られている。この現象は、特にラマン信号の

増強方法に適しているとされ、1990 年代から盛んに実験されている。また、この

周期構造は簡単に作製することが可能で、特定の入射波長のみに反応し、波長選

択性に優れていることから、ラマン分光の分野のみならず様々な分野で注目され

ている。本研究では、表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)とフェムト秒レーザによるマイクロ・プロセシング技術を利用して、

ナノスケール周期構造と可視光の物理的反応機構の解析を目的とする。

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(a) ナノ周期構造の光学特性

ガラス基板上に直径 450nm のポリスチレン微粒子を六方格子状に単層配列す

る。この上に金を 20, 25, 30, 50, 70, 100, 200 nm ずつ蒸着した。図 9 は上記の

ナノ周期構造の消光比を測定したもので、金を蒸着する前のナノ周期構造(水色)

と金のみをガラスに蒸着した(黄緑)測定結果も載せた。蒸着後のスペクトルを

見ると、ピークが大きく分けて 4 種類ある。ここで、波長 250, 400, 560 nm の箇

所でピークを持つ 3 種類の山は金薄膜と配列されたポリスチレン微粒子の影響に

よるものである。一方、波長 780nm 付近にもう一つピークが存在する。これは、

特定の波長をナノ周期構造が吸収すると同時に強い近接場光を励起していると予

測される。

(b) ナノ周期構造の電界増強効果

図 9 の周期構造は、波長 780nm 付近で強い電界強度を持った近接場光を励起

していると予測した。実際にラマン測定を行うことで、どの程度、電界が増強さ

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

200 400 600 800 1000 1200Wavelength [nm]

Ext

inct

ion

(Sca

tterin

g +

Abs

orpt

ion)

15nm20nm25nm30nm50nmAu25nmPS370nm100nm150nm200nmλ=511nmλ=633nmλ=782nm

図 9:入射波長と消光比の関係 金膜厚は、20, 25, 30, 50, 70, 100, 200 nm の 7 種類を

蒸着 水色の線は蒸着前のポリスチレンのスペクトル 黄緑の線は、金をガラスに 25nm 蒸

着したスペクトル

れているのか分かる。ラマン測定には、金属表面に単層配列する特性を持つ分子、

BTH(Benzene Thiorl)を利用した。励起光源は、511, 633, 780nm の 3 種類を利

用した。また、測定試料には、最も消光比が高かった膜厚 70nm の構造を用いた。

波長 780nm で励起しラマン信号を測定すると、約 2×106 程度の増強度が得られ

た。また、他 2 波長で励起したところ、増強は得られなかった。これより、作製

したナノ周期構造は特定の波長の励起のみによって非常に強い電界強度を持った

近接場光を励起することが確認できた。

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(3) まとめ

プラズモニクス導波路設計、ナノ構造作製、PLD による ZnO 薄膜・ナノロッ

ド作製、微粒子散乱場における Random Lasing 特性の解明などを目的に研究を

実施した。ブルガリア科学アカデミーの Prof. Petar Atanasov, Dr. Nikolay Nedyalkov(慶應義塾大学理工学研究科特別研究員)との国際連携研究を通じて

水平統合された新規分野の研究が進展し多くの原著論文を刊行した。並びに

Harvard の Prof. Eric Mazur との国際連携研究(インターンシップ:2名のRA)

とリヨン大学ナノテクセンターとの連携研究を通じて、新しい成果が創出されて

いる。

B: フォトニックネットワーク用光機能回路の研究

石英導波路に深溝を形成し、樹脂を充填することにより、フォトニックネット

ワークに適用可能な、多彩な光機能回路を小型に構成することが可能である。今

年度は、導波路型偏光分離素子に関する研究を実施した。

port 1

port 2

port 3

port 4

MMI MMI

∆trench+d

d

I1

I4

I3 Arm 1

Arm 2

図 10:対称アーム型 PBS の概要図

対称アーム型 PBS の概要図を図 10 に示す。アームは溝の直線距離が∆trench だ

け異なる低屈折率材料充填導波路と従来導波路で構成されている。低屈折率材料

充填導波路は従来導波路との接合損失を低減するためテーパー状に溝を作製して

いるが、接合部分ではフレネル反射が存在する。アーム間で光強度が異なること

は消光比の劣化につながる。アーム間での光強度を等しくするため両側のアーム

に溝を作製した。 入力を port 1 としたとき port 3、port 4 の透過率はそれぞれ(1)式、(2)式で表

される。

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( )23

1

sinnLI

λ ∆

=

(1)

( )24

1

cosnLI

λ ∆

=

(2)

ここで、I1 は入力光のパワー、I3 、I4 はそれぞれ port 3、port 4 における出力

光のパワー、∆nL はアーム間の光路長差である。アーム間の光路長差は TE モー

ドと TM モードで異なり、それぞれ(3)式、(4)式を満たす。

( )TEnL mλ∆ = (3)

( ) 12TM

nL n λ ∆ = +

(4)

m、n は整数である。Arm 1、Arm 2 における従来導波路長をそれぞれ L1、L2、

その屈折率を n1 とし、低屈折率材料充填導波路屈折率を n2 とすると ( )TEnL∆ 、

( )TMnL∆ は(5)式、(6)式で表される。

( ) ( ) ( ) ( )1 2 1 1 2 trenchTEnL n TE L n TE L n TE∆ = − + ∆ (5)

( ) ( ) ( ) ( ) ( )1 2 1 1 21 2trenchTM

nL n TM L n TM L n TM n λ∆ = − + ∆ = + (6)

ただし、対称アーム型のため 1 2trenchL L+ ∆ = である。(3)及び(6)式を同時に満たす

∆trench を導出する。BPM シミュレーションによって算出された∆trench を表1に示

す。 表 1:∆trench のメサ幅依存性

メサ幅 2.3 µm 2.4 µm 2.5 µm 2.6 µm 2.7 µm ∆trench 479 µm 518.5 µm 563 µm 608 µm 657 µm

メサ幅が細いほど複屈折が大きくなるため偏光分離に必要な∆trench が短くなり、

デバイスサイズの小型化が可能になる。しかし、細いメサ幅になるほど作製が困

難になり、高い作製精度が要求される。メサ幅 2.5 µm、∆trench=563 µm における

BPM シミュレーションによる TE モード及び TM モードの伝搬の様子を図 11 に

示す。また、波長特性を図 12 に示す。

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(b) (a)

図 11:(a)TM モード (b)TE モードの伝搬

(a)

(b)

図 12:(a)Bar 接続の波長-損失特性 (b)Cross 接続の波長-損失特性

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損失は 3.4 dB 以下、中心波長 1550 nm における偏波消光比は-40.7 dB 以上で

あった。BPM シミュレーションの結果を基に実際にチップを作製した。チップ

サイズは 0.2×9.5 mm2 である。溝の作製誤差によってメサ幅が変化すると最適

な∆trench の値も変化してしまう。そのため、∆trench=563 µm を中心に様々な∆trench

について作製を行った。

9.5 mm

0.2 mm

図 13:対称アーム型 PBS のマスク図とその拡大写真

試作した様々な∆trench を持つチップに関して透過特性を測定したところ

∆trench=535 µm の PBS がバー方向・クロス方向ともに偏光が分離できているのが

確認できた。透過特性を図 14 に示す。最小損失は 5.6 dB、中心波長付近で最大

偏波消光比-28.9 dBであった。損失にはシングルモードファイバとの接合損失 1.8 dB が含まれている。レファレンスとしてアーム部分に溝を作製していない通常

の MZI 型光導波路を対称アーム型 PBS と同じウェハ上に作製した。このレファ

レンスMZI型導波路はアーム間での位相差が 0であるため光は必ずクロス方向に

出力され、クロス方向の最小損失が 6.2 dB であった。このことから低屈折率材料

充填導波路を挿入することによる損失は非常に僅かなことがわかる。

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(a)

(b)

図 14:試作した PBS の損失-波長特性 (a)Bar 接続 (b)Cross 接続

BPM シミュレーションと測定結果で最適な∆trench の値が異なった原因として

はいくつかの要因が挙げられる。(1)溝幅に作製誤差があること、(2) 溝が垂直で

ないため、等価屈折率の値に差異があること、(3) 低屈折率材料の屈折率の値に

誤差があることなどである。

C: ナノフォトニクスを基盤としたナノ物性解明と制御

(1) 波動関数マッピングによる量子ドット内弱局在状態の可視化

半導体量子ドットを量子情報デバイスに応用するにあたり、光との相互作用の

大きさは演算時間などを決定する非常に重要な性能パラメータである。サイズの

大きな量子ドットは並進運動の広がりに比例した振動子強度をもつため光との強

い相互作用を得る上で有利である。具体的な系として GaAs 量子井戸内に自然形

成される界面揺らぎ量子ドット(以下単に GaAs 量子ドット)は、100nm を越え

る大きさを持つため、材料自身の光学特性と合わせて、大きな振動子強度を提供

する。しかし量子ドット内のわずかな領域に界面の揺らぎや界面の組成揺らぎが

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存在すると、励起子は量子ドット内のさらに狭い領域で弱い局在を起こし、本来

の大きな振動子強度を得ることができない。一方このような弱局在状態は、テラ

ヘルツ光までを含む長波長の電磁波の検出や、ごく少数の不純物、ドーパントの

モニターとして積極的に利用することも期待できる。しかし、このような弱局在

状態を単一量子ドットに対するエネルギー分光だけで解明することは容易ではな

い。ここでは、近接場光学顕微鏡を用いた波動関数マッピングにより、弱局在状

態の可視化とポテンシャル構造の推定をおこなった結果を報告する。 用いた試料は AlAs、AlGaAs 層をバリア層とした GaAs 量子井戸である。界面

には一原子層の揺らぎがあり、井戸厚の不均一性をもたらしている。井戸層が周

囲よりも局所的に厚い領域(島構造)は量子閉じ込めエネルギーが小さいため、

3次元的に励起子を局在化させ、量子ドットとして振舞う。[図 15(a)] 井戸層の

成長中に中断時間を適切に設けることにより、大きな島構造、すなわち大きな量

子ドットを得る。この試料に対して、NSOM を局所励起・局所集光モードで動作

させ、NSOM プローブを適当なステップで2次元的に走査しながら、各点で発光

スペクトルを計測した。

AlGaAs

AlAs

GaAs

Quantum island

(a)

(b)

図 15:(a)GaAs 量子井戸内に形成された島構造(量子ドット) (b)単一量子ドットから

の発光スペクトル (c)、(e)励起子 (d)、(f)励起子分子の波動関数マッピング (c)、(d)では

励起子分子の波動関数が励起子のそれに対して等方的に収縮している (e)、(f)では非等方的

な収縮が観測されている 図 15(b)はある点で測定した発光スペクトルである。X、BX と示した2つの発

光ピークは、その発光強度の励起強度依存性から単一の量子ドットからの励起子、

励起子分子発光であると考えられる。また、図 15(c)-(f)はそれぞれの発光の空間

分布であり、励起子分子発光の方が若干強く局在していることが確認できる。わ

れわれはこのような空間分布の違いは励起子、励起子分子の波動関数(励起子と

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励起子分子の有効質量の違い)を反映してものであることを既に明らかにしてい

る。一般に単純なポテンシャル構造をもつ量子ドットの場合、図 15(c)、(d)のよ

うに励起子分子の波動関数は励起子のそれに対して等方的に強い局在を示し、実

際多くの量子ドットに対してその事実を確認している。しかし図 15(e)、(f)の結

果では、励起子分子の波動関数が励起子に対して非等方的な局在を示している。 この一見奇妙な結果を FDTD 法を用いた波動関数の数値計算により再現する

ことを試みた。結果を図 16 に示す。島構造の形状そのものをいかに変化させて

も励起子と励起子分子の波動関数の間には実験結果ほどの違いは生じず、図 16(a)-(c)のように等方的な収縮しか再現されない。しかし、量子ドット内に新た

にごく浅いポテンシャル(深さ 0.3meV)を導入すると、図 16(d)-(f)のように励

起子と励起子分子の有効質量の違いを反映して、波動関数の非等方的な収縮が再

現できた(深いポテンシャルを導入すると、図 16(g)-(i)のように励起子、励起子

分子ともにそのポテンシャルに強く局在するので、やはり等方的な収縮となる)。

図 16:(a)FDTD 計算のための量子ドットのポテンシャルプロファイルのモデル

(b)励起子 (c)励起子分子の波動関数の計算結果、(d)-(f)、(g)-(i)も同様 以上より、今回得られた実験結果は量子ドット内に形成されたごく浅いポテン

シャルによるものと考えるのが妥当である。0.3meV という深さは一層分の量子

井戸厚さの違いによるエネルギー差よりも遥かに小さい。しかし、量子ドット内

に励起子サイズよりも小さな空間スケールで界面揺らぎがある場合、励起子はそ

れを平均値として感じ、実効的なポテンシャル深さは任意の大きさをとることが

できる。今回観察した励起子もこのような局所的な界面揺らぎによって発生した

ごく浅いポテンシャルに緩く閉じ込められていると考えられる。

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(2) 量子暗号通信のための低密度量子ドットの作製と評価

量子暗号通信は盗聴不可能な通信手段として注目されている。光ファイバ通信

技術をベースに量子暗号通信を行うには光通信波長帯での発光が可能な単一光子

源が必要であり、材料選択、量子構造化、素子化といったさまざまなレベルの研

究が並行して進められている。中でも単一量子ドット(QD)は有力な候補の一つで

ある。これは他の候補に比べ光学的に優位な性質を有しているためである。特に

InAs/InP QD は光通信波長帯での発光が可能であるため、注目を集めている。 QD の発光波長はそのサイズを調節することにより制御できる。しかし通常の

方法で作製された QD はサイズがばらついているため、結果として発光波長も広

い分布をもつ。このばらつきの抑制にはダブルキャップ法が有効である。

InAs/InP QD は高さが横方向に比べ1桁小さいため発光波長は基本的に高さに

よって支配されている。ダブルキャップ法は QD 高さを精密に調整する手法であ

るので、発光波長の制御が容易である。 InAs/InP QD から発生した光子の多くは表面で反射され、取り出し効率が低下

する。そこで本研究ではフォトニッククリスタル(PhC)内に QD を閉じ込めるこ

とでこの問題の解決を試みる。PhC 内では特定の波長領域の光は存在が許されな

い。逆にこの中に欠陥を作製することで、欠陥部分にのみ光を閉じ込めることが

できる。この欠陥部分がキャビティとなる。この性質を利用し、一方向にのみ周

期構造を持たない(2.5 次元)PhC 内に QD を配置する。これによりキャビティ内

で増強された光は一方向にのみ放出されるため、取り出し効率の改善が期待され

る。この PhC 内 QD を実現するためには、低密度 QD の作製(1 ドット/μm2 程度)及び最適な位置への配置が必要となる。同じ発光波長を持つ QD が複数キャビテ

ィ内に存在している場合、単一光子源として機能しない。また特定の位置でのみ

QD とキャビティモードと強くカップリングするため、位置制御が重要となる。 本研究では分子線エピタキシー(MBE)を用いた InAs/InP QD の作製から近接

場光学顕微鏡(NSOM)を用いた超高空間分解能での光学測定までを行い、PhC 内

QD に向けた波長制御された低密度 QD の実現を目指す。 試料には InAs 供給量 0.8 及び 1.0ML の MBE 成長 InAs/InP QD を用いた。

QD の作製には ripening プロセス及びダブルキャップ法を利用した。前者は InAs堆積後 As 雰囲気中でアニーリングを行う手法である。InAs 供給量 1.0ML の試

料に関しては原子間力顕微鏡(AFM)測定用にキャップのない試料も作製した。 実験は AFM による QD 表面の観察、低温でのマクロ発光測定、NSOM による

イメージング分光を行った。まず AFM 測定により、InAs 供給量 1.0ML の時に

は 5/μm2 という低密度で QD が形成されていることが確認できた。次に NSOMを用いた InAs 供給量 1.0ML の試料の測定において、単一の 3 次元閉じ込め構造

からの発光スペクトルを確認した。さらに InAs 供給量 0.8ML の試料においても

3 次元閉じ込め構造からの発光を取得し、その密度が 1.0ML で得られた QD 密度

よりも高いことを確認した。これより QD 以外に As/P の置換により InAsP 3 次

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元閉じ込め構造が形成されたと考えられる。これはマクロ発光測定の結果からも

予測できた。QD の発光波長は高さに強く依存するため、1 原子層の高さの違い

を反映して、マクロ発光スペクトルには明確なピークの集団が現れる。しかし得

られた発光スペクトルは予想よりも不明瞭だった。これは InAsP 閉じ込め構造か

らの発光が重なったことが原因であると考えられる。InAsP の形成には ripeningプロセス及び/又はダブルキャップ法が関係していると思われる。

上記のように QD の作製過程が As/P の置換を引き起こしていると考えられる。

そこで次にシングルキャップ、ダブルキャップ InAs/InP QD を比較し、キャップ

法の違いによる影響を考察した。さらに通常の手法で作製した QD と ripeningによって形成された QD を比較し、ripening の影響を考察した。

試料にはシングルキャップ又はダブルキャップを施した MBE 成長 InAs/InP QD を用いた。さらに ripening プロセス及びダブルキャップ法を適用させた QDを作製した。InAs 供給量はどれも 2.0ML である。

実験は低温でのマクロ発光測定及び NSOM によるイメージング分光を行った。

後者の測定において、シングルキャップとダブルキャップの試料ではダブルキャ

ップの方が小さな線幅を示した。また発光強度に関しては、後者の方が 1 オーダ

ー強い値を示した。マクロ発光測定及び ripening プロセスを適用させた試料の結

果については現在比較検討中である。

(3) フェムト秒パルスによる超高速構造変化の誘起

高速光通信を目指し、全光スイッチング技術の開発が急務となっており、フェ

ムト秒の応答速度をもつ材料、構造の研究が盛んに進められている。その一方で、

光ネットワーク技術には光バッファに代表されるように記憶保持という機能が必

ず要求され、高速応答性とメモリー性を兼ね備えた材料を基盤とした光デバイス

の出現が待たれている。そこで本研究では、この二つの特性を潜在的にもつ相変

化材料に着目する。 相変化材料を用いた光記録メディアでは、通常ナノ秒の光パルスによって書き

込みがなされる。しかし最近、100fs 程度の単一パルスによって相変化が誘起さ

れることが実験的に確認されている。この結果は、相変化材料が高速情報処理に

要求される物性を内在していることを示唆している。しかし、フェムト秒という

高速な相変化のメカニズムは未解明であり、電子励起領域の空間スケールや材料

の構造と合わせた理解が不可欠であると考えられている。また、構造変化にあた

って熱発生ではなく、電子励起そのものが本質的である場合、ナノスケールの構

造変化誘起の可能性も考えられ、高密度光情報記録の分野へも大きな波及効果を

もたらすと期待される。 以上の背景のもと、本研究では、フェムト秒パルスによる構造変化のダイナミ

クス観察、ならびに構造解析を精密におこない、そのメカニズムを解明する。さ

らに光スイッチング・メモリーデバイス、ならびに情報記録の高密度化への応用

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の道を探ることを目指す。 相変化にともなう過渡的な光学定数変化をフェムト秒パルスによるポンプ・プ

ローブ分光によっておこなった。試料ガラス基板上の GeSbTe 薄膜である。相変

化を誘起するポンプパルスに対して時間遅延をもたせたプローブ光を照射しその

反射光強度を時間遅延の関数として測定する。結果を図 17 に示す。いずれの照

射フルエンスに対しても、まず 500fs 程度の時間内に急激に反射率が低下し、そ

の後 5ps 程度の時間をかけて照射フルエンスごとに異なる小さな変化が起こって

いる。これらの時間スケールはフォノン振動数の逆数、電子のバンド内緩和時間

に相当しており、現時点では以下のように解釈している。最初の 500fs では原子

間の結合の切断(最も弱い Ge-Te の結合と考えられる)、原子(Ge)のわずかな

移動が起こり、その後の 5ps では、フルエンスに応じて、原子の移動によって生

じた欠陥が埋められるか否かが決まり、その結果、移動した原子が固定化される

か元の位置に戻るかという2つの道をたどることになる。この解釈では、瞬間的

な電子励起密度が構造変化のしきい値を決定していると考えられ、これまでに測

定したパルス幅依存性やダブルパルスによる測定結果はこれを支持している。さ

らに、この解釈が成り立つ場合、構造変化はきわめて局所的に起こる可能性があ

る。そこでマルチパルス測定をおこない、そのフルエンス依存性から、空間的に

最小単位の構造変化をもたらす励起電子数を見積もることも試みた。

0.80

0.84

0.88

0.92

0.96

1.00

-5 0 5 10 15 20 25

Ref

lect

ivity

(nor

mal

ized

)

Delay time (ps)

19.4 mJ/cm2

18.1 mJ/cm2

16.6 mJ/cm2

12.8 mJ/cm2

図 17:フェムト秒ポンプ・プローブ分光による GST 薄膜反射率の過渡的変化

4種類のポンプ光フルエンスに対して測定をおこなった また、光学的に変化が見られた(構造変化が生じた)と判断される試料に対し

て、電子顕微鏡(SEM)観察をおこなったところ、溶融過程を経たと考えられる

痕跡は見られなかった。また XRD 測定によっても、パルス照射によって誘起さ

れた構造は結晶状態ときわめて近いものであるこを確認している。いずれの結果

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もこれまでの議論と整合性をもつ。

(4) 相変化材料を用いたプラズモン共鳴のスイッチング

金属ナノ粒子のプラズモン共鳴は、粒子の環境、例えば粒子が置かれた基板の

屈折率に依存する。したがって、金属ナノ粒子を相変化材料上に配置すると、相

変化にともなってその共鳴波長をスイッチングすることが可能である。しかも前

項で述べたように、相変化はサブピコ秒で起こるため、非常に高速なプラズモン

スイッチが期待される。 直径 100nm の単一金粒子を表面に分散させた GST 基板に CW 光を照射して基

板をアモルファス状態から結晶状態へと変化させた。白色光で暗視野照明し、金

粒子からの散乱光をカラーCCD カメラ検出、ならびにそのスペクトル測定をおこ

なった。図 18 のように、GST 膜がアモルファス状態にあるとき、金粒子は緑色

を呈しているが、加熱レーザにより GST 膜を結晶状態に変化させると、金粒子

群は黄色へと変化する。つまり、基板である GST 膜の屈折率の変化により、プ

ラズモン共鳴を制御できることを実証した。

Amorphous

Crystal

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

440 480 520 560 600 640Wavelength [nm]

Scat

tere

d lig

ht in

tens

ity [a

.u.]

Amorphous Crystal

(a)

(b)

(c)

図 18: (a)アモルファス状態にある GST 膜上に分散させた金ナノ粒子の暗視野顕微鏡像

(b)点線で囲んだ粒子近傍に加熱レーザを照射し、結晶状態に変化させた後の暗視野顕微鏡

像 (c)加熱レーザを照射する前後での点線で囲んだ粒子の散乱光スペクトル

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D: Si 基板の高機能化に向けた基盤技術の開発 Boron Diffusion Behavior during the Formation of Shallow p+/n Junction using the combination of Ge Pre-amorphization Implantation, Pre-Annealing RTA and Post-Annealing Non Melt Excimer Laser (NLA) Processes

(1) Introduction

Formation of shallow p+/n junction for Source/Drain/Extension (SDE) is one of the promising methods to minimize the short-channel effect in ULSI. Low-energy ion-implantation is widely used for the formation of shallow junction. However, this process is difficult in p-MOSFETs due to the channeling of Boron ions during implantation and anomalous diffusion of Boron during subsequent annealing. In this study, we report the formation of shallow p+/n junction using the combination of Ge- Pre-amorphization ion-implantation (PAI) with nanosecond Non-Melt Excimer Laser Annealing (NLA) and the behavior of Boron diffusion during the subsequent annealing process.

(2) Experimental

First, Ge-PAI was performed on 10Ω・cm n-type Si (100) wafer at 3keV to a dose of 3E14 cm-2 with 7o tilt angle producing surface amorphous layer thickness of 10nm. Then Boron low-energy ion- implantation was performed at 0.3keV to a dose of 1.2E15 cm-2 at 0o tilt. Rapid pre-annealing (RTA) in N2 ambient at 500oC 10s was performed prior to the NLA. Then, NLA was performed in N2 ambient using a 248nm KrF excimer laser with a pulse width of 20ns, oscillated at a frequency of 20Hz. The laser formed homogenized 5mm×100mm line beam and samples were irradiated overlap ratio of 98%.Laser energy densities were selected between 250-500mJ/cm2 with 10 shots in order to anneal without melting. Boron dopant depth profiles were obtained by secondary ion ass spectrometry (SIMS) using ATOMIKA 4500 with 0.5keV O2+ as primary ions. The sheet resistances (Rs) were measured by Hall measurement. Plan-View TEM analysis was performed on H-9000NAR using the weak beam dark field technique.

(3) Results and Discussion

図 19 shows the SIMS profiles of annealed samples. A comparison of SIMS between the sample after RTA and the samples receiving NLA after RTA shows that Boron diffused faster after post-annealing which lead to the increment of the junction depth. Striking fact is that boron diffuses deep

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within the very short time of 20 ns. Such a fast diffusion of boron has not been reported until now and the mechanism of this fast diffusion might be due to the presence of a lot of Si self-interstitials after RTA.

1.E+17

1.E+18

1.E+19

1.E+20

1.E+21

1.E+22

0 10 20 30 40 50 60Depth (nm)

Boro

n C

once

ntra

tion

(cm

-3)

as-implant

RTA500300mJ/cm2 350mJ/cm2

400mJ/cm2

500mJ/cm2

図 19:SIMS profiles of boron in various annealing conditions

図 20 shows the plan-view TEM results in order to determine the cause of

very fast boron diffusion. Results show that no defect was detected during RTA and NLA process until the energy reach to 500mJ/cm2 where the very small density of small defects was detected.

(4) Conclusion

We found that the combination of Ge-PAI with low-energy Boron implantation, pre-annealing RTA and post-annealing NLA processes showed the fast boron diffusion, in spite of nanosecond annealing and defectless condition. Boron shows an ultra-fast-diffusion behavior, which can lead to the increment in junction depth.

図 20:Plain TEM Views of samples annealed in different conditions

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E: フェムト秒レーザ波形整形を用いた超高速プラズモニクスの

時空間分解計測と制御

(1) 広帯域光パルスによるナノ微細構造の局所プラズモン制御

ナノ金属構造の局所プラズモン場を用いることで、我々は光の回折限界サイズ

以下の空間において空間に依存した光励起を実現することが可能である。ナノ構

造のプラズモン共鳴波長は、サイズ、形状に依存し、その電場像強度は光の偏光

にも依存する。したがって、ナノ構造設計に加えて励起光の波長と偏光によって

局所プラズモン場は制御できる。我々は、スペクトル幅が 450nm におよぶ超広

帯域光パルスの瞬時周波数をチャープさせ、かつ偏光波形を整形することによっ

てフェムト秒局所プラズモンを時空間制御する研究を進めた。図 21 は、FTDT法によって計算した、スペクトル幅 400nm、中心波長 800nm のパルスで励起し

た金ナノ構造の各波長成分のプラズモン増強分布である。ナノ構造の大きさは同

じであるが、間隔の違いによってプラズモン増強が起きる波長がシフトできるこ

とがわかる。この結果から、周波数チャープによって局所プラズモンの時空間制

御が可能となることが確かめられた。

図 21:異なる間隔で配置したナノ構造における プラズモン増強の励起波長依存性

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(2) 局所プラズモン時空間制御用フェムト秒ベクトル波形整形器の開発

フェムト秒レーザパルスの瞬時偏光特性を整形できるベクトル整形器を 2 次元

液晶空間光変調器を用いて開発した。この波形整形器は 3 回の反射を利用してお

り、各波長成分における S 偏光と P 偏光の強度比、S 偏光の位相、P 偏光の位相

を整形することで、任意のベクトル波形整形が可能である。

F: 室温光制御型磁性体の創製と高機能ダイヤモンドの合成・評価

近年、光磁気デバイスへの応用という観点から光制御型磁性材料の開発が待望

されている。これまで我々は有機フォトクロミック分子と無機磁性体による有機-無機複合化という戦略を提案し、室温強磁性領域における FePt ナノ粒子の光磁

気制御を世界で初めて実現した[1]。このような光磁気制御は、光による磁性体界

面における電子密度の変化が原因であることが明らかとなっており、本研究では、

この界面光制御の考え方をさまざまな磁性体界面に展開、応用することで、本戦

略を一般化した概念として提示することを一つの目的として、いくつかのシステ

ム創製を試みた。

(1) 垂直磁気異方性をもつ強磁性 FePt ナノ粒子集積膜[2]

磁気記録媒体への応用という観点では、実用化に耐えうる巨大な保磁力の実現、

さらにその二次構造の制御、すなわち磁気モーメントの配向を制御した集積化が

必要不可欠である。ここでは、「外部磁場アシストによる交互積層法」という新戦

略により、巨大垂直磁気異方性及び光応答性を有する FePt ナノ粒子集積膜の創 製を実現した。外部磁場印加条件下における交互積層法により、水溶性 FePt

ナノ粒子とフォトクロミック分子であるアゾベンゼン高分子電解質の交互積層膜

図 22:2 次元空間光変調器を用いたフェムト秒ベクトル波形整形器

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を作製したところ、out-of-plane方向の磁化曲線は in-plane 方向と

比較し格段に大きな角型履歴曲線を

示し[図 23]、極めて垂直磁気異方性

の高い集積膜の生成が示された。

(2) Au-S 界面強磁性を利用

したシステム[3,4]

近年、Au-S 界面などの、元来非

磁性である物質からなる有機 -無機

複合薄膜界面において強磁性が発現

する現象が注目を集めている。ここ

では、このような二次元性に起因する磁性に着目し、フォトクロミック分子を界

面に修飾することにより光機能化を目指した。実際には、チオール基を有するフ

ォトクロミック配位子によって被覆した金ナノ粒子[3]と金薄膜[4]をそれぞれ設

計し、その強磁性化と光機能化を試みた。その結果、それぞれの系で室温にて明

瞭な光磁気効果が観測され、これらの光磁気効果はアゾベンゼン配位子の光異性

化に伴う電荷移動度の変化により、正孔密度が増減したことによるものと推察さ

れる。特に薄膜の系では、磁気異方性が観測されただけでなく、巨大な磁化率を

示すという興味深い現象も観測した。 文献 Y. Einaga, et. al., [1] J. Am. Chem. Soc., 129, 5538, 2007., [2] Angew.

Chem. Int. Ed., in press, 2009., [3] Angew. Chem. Int. Ed., 47, 160, 2008., [4] J. Am. Chem. Soc., 131, 865, 2009.

(3) ダイヤモンド電極を使用したタンパク質立体構造変化の検出 及びその応用

(1) ダイヤモンド電極を使用した直接電子移動による無金属タンパク質の立

体構造変化の検出

生命の大部分を構成するタンパク質は立体構造が機能に大きな影響を与える

ためフォールディングについて非常に多くの研究がなされている。変性状態の検

出には NMR、蛍光分光などが用いられてきたが、より簡便かつ鋭敏な手法とし

て電気化学センサーが注目されている。一方でダイヤモンド電極(BDD)は広い電

位窓、小さなバックグラウンド電流など優れた特性をもつため近年生体関連物質

などの高感度検出が研究されている。当研究室では、この BDD 電極を使用する

ことにより比較的大きな分子量をもち金属を含まないタンパク質、ウシ血清アル

図 巨大保磁力かつ磁気異方性を示すFePtナノ微粒子

室温

図 巨大保磁力かつ磁気異方性を示すFePtナノ微粒子

室温

図 23:

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ブミン(BSA)の定量分析をアミノ酸残基の酸化により行うことに成功した[5]。こ

れを踏まえ、本研究では BDD 電極を使用した直接電子移動による BSA のコンフ

ォメーション変化を検出することを目的とした。 タンパク質は高濃度の尿素により変性する。変性によりタンパク質内部に隠れ

ていたアミノ酸が表面へ露出して酸化可能なアミノ酸残基が増加し酸化電流の増

大が期待できる[図 24]。

図 24:タンパク質立体構造変化検出の基本原理

0、8M 尿素を含む 50μg/ml BSA 水溶液を対象に BDD 電極を使用した FIA を

行ったところ、8M 尿素により変性した BSA は自然状態と比較して高い酸化電流

を示した。一般に変性状態の検出に用いられる蛍光分光法と FIA による測定結果

を図 25 に示した。この結果両者に良い一致が見られた。これは BDD 電極によ

りタンパク質の変性状態を検出可能であることを示唆する[6]。

図 25:蛍光分光、及び BDD 電極によるタンパク質変性状態の検出

(2) ダイヤモンド電極を使用したタンパク質論理回路の開発

コンピューターなどの計算機は多数の論理回路を集積させることにより計算

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を行っているが、現在行われているシリコンの微細加工は物理的限界が近いとさ

れている。そこで本研究ではボトムアップにより高度な微細化が望めるタンパク

質とダイヤモンド電極を使用したタンパク質論理回路の作製を行った。 基本的な動作原理はタンパク質の立体構造変化により酸化電流が変化するこ

とを利用している。入力信号として 2 つの化合物、タンパク質(50ug/ml ウシ血

清アルブミン)、タンパク質変性剤(8M 尿素)を利用した。出力信号は得られた

酸化電流が 200nA 以下を 0、400nA 以上を 1 として処理を行った[図 26]。その

結果、タンパク質、変性剤単体では 200nA 以下のシグナルであったが、両者が同

時存在することで 400nA 以上の大きな酸化電流を得た。結果として、タンパク質

を利用したロジックゲートを AND 回路として動作させることに成功した。

図 26:タンパク質を使用した AND ロジックゲート

[5] M. Chiku, Y. Einaga, et al, J Electroanal Chem, vol. 612, pp. 201-207, 2008

[6] M. Chiku, Y. Einaga, et al, Anal Chem, vol. 80, pp. 5783-7, 2008

(4) ホウ素ドープダイヤモンドの物性評価と電気化学センサー応用

(1) 高濃度ホウ素ドープダイヤモンドの作製と電気化学特性の評価

ホウ素をドープしたダイヤモンド(BDD)は、そのホウ素濃度に応じ電気伝導

性が絶縁体から金属様導電体まで変化することが知られる。また水素終端表面の

ダイヤモンドは負電子親和性を有しており、表面伝導性などのユニークな性質を

示すことが知られる。一方で、BDD 電極はバックグラウンド電流が小さいことや

電位窓が広いなどの電気化学特性を示すことから、電気化学センサーに適した新

たな炭素電極材料として注目されている。小さなバックグラウンド電流は電極-溶液界面に形成される電気二重層容量の小さいことを意味しており、BDD のフェ

ルミ準位付近の状態密度が小さいからであると考えられている。しかしながら、

このフェルミ準位の状態密度が小さいということは、ダイヤモンドの化学的安定

性を活かした排水処理のような大電流を必要とする応用にとっては好ましくない

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特徴ともいえる。また表面酸化により水素終端での表面伝導層が消失し、電極の

表面キャリヤが減少してしまうこともこれらの応用には問題である。最近、我々

は B/C=5%以上となるホウ素濃度が高い条件で作製した BDD 電極において、表

面酸化後に電気二重層容量が著しく増加することを観測した[図 27]。この電気二

重層容量の増加は酸化により表面キャリヤが増加したことを示唆しており、電極

材料としての可能性が広がった。

図 27:5% BDD の 0.1 M Na2SO4 中での CV

(2) Ni アレイ修飾 BDD 電極のグルコースセンサーへの応用

BDD 電極は電気化学センサーに適した特性を有する反面、触媒作用は低く吸着

過程を必要とするような電極反応は生じにくい。グルコースの電気化学酸化も金、

白金、銅、ニッケルなど特定の金属電極に限られる。そのため、市販のものを含

めこれまで電気化学的なグルコースセンサーにはグルコースオキシダーゼなどの

酵素を修飾したものが主流となっている。しかしながら、酵素の利用は失活など

安定性の面で問題を残す。そのため、酵素非依存型のグルコースセンサーが注目

されている。一方、電気化学センサーには選択性が課題となることが多く、血糖

値測定用のグルコースセンサーにおいては血中に存在するアスコルビン酸や尿酸

などの物質が問題となる。本研究では、酵素非依存型のグルコースセンサーとし

て、BDD 電極上に直径 10µm の Ni マイクロディスクをアレイ状に修飾した Niアレイ修飾 BDD 電極(Ni-BDD)を作製した。この電極におけるグルコースへの選

択性は物質の拡散の違いを利用した。妨害物質となるアスコルビン酸や尿酸は

BDD 電極上で反応するため平面拡散が生じる。一方、グルコースは BDD 電極で

は反応が起きず、Ni マイクロディスク電極上でのみ反応が生じるため半球面状の

拡散層が生じる。この拡散の違いは、電流の時間依存性の差を生む。すなわち妨

害物質の応答電流は時間の平方根に反比例して減衰し、グルコースの応答は定常

電流となる。図 29 は異なる濃度の妨害物質共存下において行った 3 mM グルコ

ースのコットレルプロットである。縦軸切片の電流値は妨害物質濃度に依存せず、

ほぼ同じ値を示しておりグルコース濃度のみを反映する結果となった。この結果

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から、電極デザインによる物質拡散制御が電気化学センサーの選択性付与に有効

であることが示された。

図 28:Ni-BDD の EDX マッピング像(左)と拡散層のイメージ(右)

図 29:Ni-BDD 電極で行ったコットレルプロット

G: スピン流生成方法の研究

(1)スピンゼーベック効果の温度依存性測定

広範な応用が可能なスピン流・スピン圧(電気化学ポテンシャルのスピンサブ

バンド間の差)生成法の一つに、最近発見された熱流によるスピン圧生成現象:

スピンゼーベック効果がある。しかし、スピンゼーベック効果の微視的な起源は

未解明であり、系統的な実験が求められている。そこで本研究では、Pt 薄膜中の

逆スピンホール効果を用いたスピン検出技術を用いて、Ni81Fe19 薄膜中のスピ

ンゼーベック効果の温度依存性を測定した。

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図 30 に Pt 端子に発生した起電力の

測定結果を示した。Pt 端子が高温側の場

合、低温側の場合にそれぞれ発生した逆

符号の起電力がスピンゼーベック効果に

誘起された逆スピンホール起電力の特徴

であるが、これらの起電力は 250 K 付近

で符号反転することが観測された。生じ

た起電力はスピンゼーベック係数に比例

するため、以上の結果はスピンゼーベッ

ク効果に補償温度が存在することを示す

ものである。本研究の測定結果は、スピ

ンゼーベック効果の起源解明にあたり、

非常に重要な役割を果たすと期待される。

(2) NiFe/Cu ドープ Pt 接合における逆スピンホール効果

スピントロニクスにおいて、その基礎となるスピン流の高効率な生成・検出・

制御技術の確立が急務である。特に、スピン流-電流変換現象である逆スピンホ

ール効果は、高効率なスピン流検出技術として重要である。現在逆スピンホール

効果が観測されている物質の中では Au が最も大きなホール角(スピン流-電流

変換効率)を示している。一方で、磁性不純物散乱モデルにもとづき、不純物を

ドープすることによりホール角が増強され得ることが示唆されており、逆スピン

ホール効果の不純物依存性について系統的な研究が望まれている。本研究では Cu不純物をドープした Pt 薄膜における逆スピンホール起電力の不純物濃度依存性

を測定した。 Cu 不純物濃度の異なる 7 種類の NiFe/Pt1-xCux 複合膜を作成し、強磁性共鳴

状態において常磁性層の両端に生じる起電力を測定した。その結果、逆スピンホ

ール起電力は Pt1-xCux 膜の電気抵抗率に依存して増大し、この変化はサイドジ

ャンプ効果の予言と一致した。既に、この効果を利用して Pt の逆スピンホール

起電力を従来の 2 倍程度まで増幅することに成功しており、さらなるスピン流検

出技術の高効率化が期待される。

図 30:(a) 逆スピンホール効果を用い

たスピンゼーベック効果の観測 (b) Ni81Fe19/Pt 系におけるスピンゼーベック

効果の温度依存性

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10 20 30 40 50 60

1

2

3

0VISHE (µV)

ρ (1

0-6 Ω

m)

VISHE

CuPt Pt1-xCux

ISHE

100 200

10

20

30

40

50

0Microwave Power (mW)

V ISH

E (µV

)

1.58 µΩ m

0.35 µΩ m

2.48 µΩ m

0.75 µΩ m

VISHEISHE

図 31:NiFe/Pt1-xCux 複合膜における 逆スピン起電力の常磁性層抵抗率依存性

図 32:逆スピンホール起電力の マイクロ波強度依存性。

(3) スピンダイナミクスにおける熱的逆相反効果の数値解析

スピンの逆相反性を利用した熱的スピンポンプの生成について、数値解析を行

った。静磁場Hを与えた系でのスピンの歳差運動は、現象論的に緩和項を考慮し

た Landau-Lifshitz-Gilbert(LLG)方程式

dtd

Mαγ

dtd

S

MMHMM×+×−=

により記述される(右辺第二項が緩和項)。このスピン角運動量の緩和項をス

ピン流として外部に取り出すのがスピンポンピングであり、電磁気的なスピン流

生成手法として、強磁性/常磁性接合にマイクロ波を照射し連続的にスピンを歳差

運動させることで定常的にスピンポンピングが駆動できる。スピンが時間反転対

称性のない自由度であることに着目すれば、マイクロ波を照射しなくても熱平衡

下でのランダムな熱揺らぎからであっても一方向のみの歳差運動を誘起できるこ

とが期待される。ランジュバンの方法で熱揺らぎを取り入れたLLG方程式を用

いて、磁化の運動を数値シミュレーションで解析した結果を下図に示す。この結

果は、スピン歳差運動が誘起されること、および温度の上昇・セル体積の減少に

伴ってスピン角運動量のポンプが増大することを示している。この結果は有限温

度におけるスピン系とスピンポンピングを融合させることで従来にない熱的なス

ピン流生成の手法を構築できる可能性を示唆するものである。

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図 33:ランジュバン-LLG 方程式によって計算したスピンポンプの z 成分の温度依存性

H: デンドリマーの有機 EL 材料への展開

(1) ダブルレイヤー型デンドリマーの合成

従来までのウルマン反応を用いるカルバゾールデンドロンの合成法では、カッ

プリング等の副反応の問題から第 3 世代以上の合成は困難とされてきた。近年報

告された N アリール化反応[J. Am. Chem. Soc.,vol. 123, pp. 7727, 2001]に着目し、こ

の反応を鍵として新規なカルバゾールデンドロンの合成法を開発した。Boc 保護

したジヨードカルバゾールとカルバゾールのヨウ化銅を用いた N-Arylation と脱

保護を繰り返すことで初めてカルバゾール G4 デンドロンの合成に成功した。ま

た、これらのデンドロンとジヨードベンゾフェノンを反応させることでフェニル

アゾメチンを内層に持つようなレイヤー型デンドリマーのデンドロンを合成した。

最後に、コア(亜鉛ポルフィリン、テトラフェニルメタン)のアミンと四塩化チタ

ンにより脱水縮合を行うことでダブルレイヤー型デンドリマーを得た[図 34]。

図 34:ダブルレイヤー型デンドリマーの構造

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(2) ダブルレイヤー型デンドリマーの基礎物性

(1) 耐熱性

得られた全てのデンドリマーは 10%熱重量減少温度が 550以上と極めて高

い耐熱性を持っており、カルバゾールの世代が上昇すると耐熱性も向上して

TPMG1-3 デンドリマーでは 653に達した[図 35]。また、各デンドリマーは高

い溶解性を持ち、スピンコートすることで安定でアモルファスな薄膜が得られた。

(2) 金属錯形成能

TPMG1-3 デンドリマーのベンゼン:アセトニトリル=4:1 溶液に対して SnCl2

を滴下したところイミン吸収の減少と錯体吸収の増加というイミン部位への錯形

成に基づく UV-vis スペクトルの変化が見られた[図 36]。全てのデンドリマー

で同様の変化が見られたことからダブルレイヤー型デンドリマーも金属集積能を

持つことが明らかとなった。

図 35:ダブルレイヤー型デンドリマーの熱重量減少

TPMG1-1

TPMG1-3

Temperature

Wei

ght l

oss

(%)

TPMG1-2

0 200 400 600 800 1000

-50

-40

-30

-20

-10

0

Dendrimer TPM ZnPG1-1 553 556G1-2 605 667G2-2 - 603G1-3 653 -

()

=SnCl2

Abs

.

Wavelength(nm)

400 500 6000

1

2

TPM

Carbazole Imine

図 36:TPMG1-3 デンドリマーに SnCl2 を滴下した際の UV-vis スペクトル

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(3) HOMO 準位

各デンドリマー及びデンドロンの HOMO 準位を DPV(differential pulse voltammetry)測定より見積もった [表 2]。カルバゾールの世代の上昇と共に

0.2eV 以上 HOMO 準位は上昇した。これは、有機 EL などのホール輸送層として

展開する際に電荷注入が容易になることを示しており、優れたホール輸送材料と

して機能することを示唆する結果である。

(4) ダブルレイヤー型デンドリマーのホール輸送材料への展開

亜鉛ポルフィリンをコアとするダブルレイヤー型デンドリマーをホール輸送

材料とする有機 EL 素子を作成し、特性を評価した[図 37]。G1-2 と G2-2 デンド

リマーを使った素子の特性はほぼ同じであった。一方で、G1-1 デンドリマーの素

子特性は低く止まった。この結果はカルバゾールの世代が素子特性に大きな影響

を与えることを示唆している。さらに、G2-2 デンドリマーに対して塩化スズを

0.5 当量加えた状態で素子を作成した。発光効率の上昇が見られた。これは、金

属のアゾメチン部位への錯形成によって素子の電荷バランスが改善されたことを

示唆している。単純な錯形成という簡便な方法で素子特性が向上することは積層

による高効率化が困難な高分子系材料において極めて有用な特性であると考えら

れる。

DPA-Cbz dendron ZnP core TPM coreG1-1 5.65 5.59 5.59G1-2 5.47 5.44 5.43G1-3 5.42 - 5.40G1-4 5.40 - -G2-2 5.45 5.42 -

表 2:デンドリマー及びデンドロンの HOMO 準位(eV)

Voltage / V

Lum

ines

cenc

e / C

d/m

2

ZnPG1-1ZnPG1-2ZnPG2-2

4 6 8 100.01

0.1

1

10

100

1000ZnPG2-2ZnPG2-2 with 0.5eq SnCl2

4 6 8 100

0.5

1

1.5

Voltage / V

Effic

ienc

y / C

d/A

(a) (b)

図 37:ダブルレイヤー型デンドリマーを用いた有機 EL 素子の電流 -輝度特性(素子構成は ITO/デンドリマー/Alq3/CsF/Al)

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I: 極低温走査プローブ顕微鏡の開発と基礎科学への応用

絶対温度 1 ケルビン(K)以下の極低温度では、固体中電子の超伝導、液体ヘリ

ウムの超流動など、「対称性の破れ」を伴う劇的な量子現象が観測される。これら

の現象は通常、電磁波を遮断した低温環境で実現されるため、目視による測定が

困難である。発熱を伴わない走査プローブ顕微鏡(SPM)は、極低温での革新的な

顕微手法となることが期待される。本研究は、極低温使用に特化した SPM を開

発して、超伝導・超流動をはじめとする様々な極低温量子現象の探索・解明に役

立てることを目指すものである。

(1) 極低温走査プローブ顕微鏡の開発

本研究では絶対温度数十ミリケルビン(mK)に及ぶ極低温環境での動作を目標

とした、走査プローブ顕微鏡(SPM)の開発を行っている。数 K 以下という極低温

環境は、熱揺らぎの抑制により物質本来の性質が現れるため、物性物理学を研究

する格好の舞台の1つと言える。このような極低温環境において実験をする上で、

従来の電気伝導度測定や熱容量測定といった試料全体の平均的な応答を測定する

手法に加え、近年 SPM を用いた局所物性の実空間マッピングが新たな実験手法

として注目されている。SPM は、鋭い探針を試料表面で走査しながら、トンネル

電流や原子間力といった探針‐試料間の相互作用を測定し、試料表面のナノスケ

ールに及ぶ局所物性を実空間に描き出す手法であり、ナノテクノロジーを支える

基盤解析技術の1つである。極低温下で動作する SPM は、従来の測定手法では

得ることができなった、低温物理現象に対する微視的な知見を与えてくれる可能

性があり、また新たな実験手法の開拓にも役立つと期待される。

周波数変化

(Hz)

0 5 10

0

-20

-40

-6000.20.40.60.81.01.21.4

高さ

(nm

)

共振回路

電流アンプ

試料

振動

探針 相互作用する力

音叉形水晶振動子

チップ‐試料間距離 (nm)

(a) (b) (c)

走査範囲:500nm×500nm 図 38:(a)水晶振動子を用いた FM-AFM の概念図 (b)77 K における周波数変化のチップ

‐試料間距離依存性 (c)室温・真空下における SrTiO3 の原子ステップ 本 SPM は極低温下での動作を考慮して、水晶振動子をセンサーとした周波数

変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を装置の雛型としている[図 38(a)]。FM-AFM で

は、センサーを共振周波数で振動させ、試料との間に働く原子間力による共振周

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波数の変化を測定する。本方式では共振周波数の安定性が求められるため、機械

振動の Q 値が高くなる低温環境は、動作環境として適合している。また圧電性を

もつ水晶振動子は、機械的変位を電気信号に直接変換できるため、熱の発生が少

なく、1K 以下の低温環境を乱さないセンサーとなることが期待される。 これまで上記の SPM システムを自作し、1.3K までの極低温環境において動作

実験としてサブミクロンスケールの形状測定に成功してきた。今年度の研究にお

いてはシステムに改良を加え、原子スケールの形状測定を試みた。水晶振動子を

用いた FM-AFM の場合、振動子の振幅を 1 nm 以下まで小さくすることでチッ

プ‐試料間に働く引力を感度よく検出し、原子分解能が実現できる。本研究では

まず 1 nm 程度の小振幅を実現し、引力の測定を行った。77 K においてチタン酸

ストロンチウム (SrTiO3)基板表面にチップを近づけたときの周波数変化を図 38(b)に示す。チップ‐試料間距離が数 nm の地点から周波数は負の方向へ変化し、

その後、正の方向へ変化した。これはファンデルワールス力の測定に成功したこ

とを示唆している。同様の振る舞いは 4.2 K まで観測された。室温・真空下

(10-3 Pa)において、引力領域で周波数変化が一定になるようにフィードバックを

かけて走査したところ SrTiO3 の原子ステップを測定することに成功した [図 38(c)]。低温下における原子スケールの形状測定が課題であるが、引力の測定に

成功したことで AFM としての基本性能を満たすことができたと考えている。

(2) 超伝導体表面におけるナノスケール摩擦研究への応用

これまで開発してきた極低温 SPM の物理系に対する最初の応用として、超伝

導体表面における摩擦研究を行っている。超伝導転移と力学物性の関係は古くか

ら調べられているが、興味深い現象の一つとして、超伝導転移に伴う超伝導体表

面の摩擦減少が挙げられる。この現象は電子系が関与した摩擦機構の存在を示唆

しているが、未だ議論の余地が残されている。本研究では当該摩擦現象に対して、

低温 SPM を用いた新しい実験を試みる。 本研究でセンサーとして使用している音叉形水晶振動子は、試料表面と水平な

方向に振動させることで、試料の面内方向の力をナノスケールで測定することが

できると考えられる[図 39(a)]。この手法を用いて超伝導体表面の水平力を測定

することで、超伝導転移と摩擦の関係解明が期待される。動作実験として 4.2 Kにおいて、高配向性熱処理黒鉛(HOPG)表面にチップを近づけたときの周波数変

化およびエネルギー散逸の様子を図 39(b)に示す。横軸は周波数が正に変化する

地点を原点としているが、チップが試料に近づくにつれて周波数・エネルギー散

逸は共に上昇している。この振る舞いはシリコンカンチレバーを捩れ振動させる

水平力顕微鏡と定性的に一致しており、チップ及び試料の水平方向の弾性変形に

起因する力を測定していると考えられる。現在、超伝導体である二セレン化ニオ

ブ(NbSe2)表面において、周波数変化・散逸の温度依存性を測定している。

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NbSe2(or HOPG)

周波数変化

(Hz)

散逸

(V)

周波数変化

散逸

-20 0 20

0

2

4

6

0

1

2

3測定システム

水晶振動子

チップ

振動

スキャナー チップ‐試料間距離 (nm)

(a) (b)

図 39:(a)超伝導体表面における摩擦測定の概念図

(b)HOPG 表面における周波数変化・散逸のチップ‐試料間距離依存性(4.2 K)

(3) 超流動液体ヘリウムのナノスケール物性研究への応用

液体ヘリウムの超流動は、超伝導と本質を同じくする低温特有の量子現象であ

る。しかし超流動に対するナノスケールの研究手法はこれまで存在しなかった。

本研究では開発した極低温 SPM を、超流動ヘリウムのナノスケール物性を調べ

る初めての手法として用いる。SPM を金属容器中に密閉して少量の液体ヘリウム

を入れると、超流動状態では数十ナノメートルの厚みの液体ヘリウム薄膜が基盤

表面を覆う。この薄膜の粘性等の動的性質を水平力 SPM で調べることを試みて

いる。この実験により、超流動に特有な量子渦の構造や流れ場の観測、励起粒子

のスペクトルの測定などが可能になり、超流動ナノフルイディックス(Super - Nanofluidics)という全く新しい研究分野開拓への道が開けると期待される。

J: 屈折率分布型ポリマー光導波路の研究開発

ハイエンドサーバ等の筐体内ボードレベルやチップレベルにまで光配線化を

目指す光インターコネクションへの期待が高まっている。特に、低コスト化が可

能であるとの理由から、マルチモードポリマー光導波路をプリント配線板へ実装

した「光配線板」の開発が広く進められており、近年我々は、新たに屈折率分布

(GI)型コアを有するポリマー並列光導波路を提案した。従来のポリマー光導波路

は、フォトリソグラフィ法やインプリント法にて作製され、矩形状で均一屈折率

のコアを有する SI 型構造をとっている。このため、コア-クラッド界面の平滑性

が、伝送損失等の導波路の光学特性に大きく影響し、さらに、円形状コアを有す

る既存の光ファイバとの接続時に、モードプロファイルの相違による接続損失が

懸念される。これに対し本研究では、SI 型導波路に対する GI 型光導波路の利点

を具体的に明らかにすることを主目的に検討を行った。 検討開始にあたり、この GI 型ポリマー光導波路を直接回路基板に埋め込んだ

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光配線板開発過程で、強く望まれる「矩形コア形状」について検討した。ポリマ

ー導波路の前駆体となるプリフォーム作製時に、チャネル形状を最適設計するこ

とで、コア形状を円形・矩形自在に変えることに成功した[図 40(a)]。試作した

GI 型円形・矩形コアポリマー導波路の 1 つのコアからの出射ニアフィールドパタ

ーン(NFP)を図 40 に示す。

図 40:(a)GI 型矩形コア並列光導波路の断面 (b)円形コア及び

(c)矩形コアポリマー導波路のニアフィールドパターン 点線はコア-クラッド界面

図内の白色点線で示した形状は、コア-クラッド界面を示している。これらの

結果から、GI 型屈折率分布により出射光はコア中心に強く閉じ込められた形状と

なっており、コア-クラッド界面の影響が小さく、さらに、コア外形状にも依存

していないことが分かる。これは、リソグラフィー法やインプリント法など、従

来のポリマー光導波路の作製法にて得られる矩形形状コアに、屈折率分布形成を

行えば、GI 型円形コア導波路と同一の機能を発現できることを意味している。 この GI 型屈折率分布の光閉じ込め効果により、実際にコア-クラッド界面不整

の影響を受けず、低損失化(0.028 dB/cm @ 850 nm)が可能となり、高密度(コア

径 50 µm、ピッチ 50 µm)配列時にも、十分な低クロストーク(-20 dB 以下)が

実現された。

100 µm

(b

(c)

100 µm

(a)