在宅医療に向けた クラウド型地域連携医療システム

の研究開発

研究期間：平成25～26年度

研究機関：福井大学医学部

研究代表者：教授 井隼 彰夫

分担研究者：笠松 眞吾,江守 直美

木村 哲也,宇隨 弘泰

平成26年11月5日

中部ＩＴ融合セミナー ～ヘルスケア領域から新産業創出を目指す～

もくじ

研究開発の概要、目的

急性冠症候群、STEMI、12誘導心電図とは

シームレスな地域連携医療ネットワークとは

訪問介護および看護スタッフ向けモバイル機器

僻地および地方小都市のデータ通信環境

救急隊向け12誘導心電図と画像伝送システム

研究成果を社会実装するために

はじめに

少子高齢化・超高齢社会の医療と介護

2025年までに団塊の世代が75歳以上の後期高齢者

国民の4人に1人が65歳以上の高齢者になる

要介護の状態になる国民が急激に増加

生産人口の減少で介護・看護の人材が枯渇

ICTで在宅医療と介護の連携解決が望まれる

研究開発の概要

高齢化と過疎化が進む地方と地域

• 在宅介護と医療の連携が求められている

• 医療・介護連携では、多職種の専門分野が関係

• ＩCＴによる情報共有を実現することが必須

• 地域内外の複数の訪問介護ステーション、医療機関、

救急隊がクラウド型のデータベースで広域連携

• 参加機関全体として総合的な地域住民への医療福祉

サービスを提供する。

研究開発の目的

• 訪問介護および看護スタッフが在宅患者訪問時

にクラウド接続型12誘導心電図を測定

• かかりつけ医師や循環器専門医とバイタルデー

タをクラウドで共有するシステムを開発

• 体温計、血圧計、血糖計、体重計、などを測定

• 訪問介護、在宅医療、遠隔医療及び救急医療を

シームレスにICTで結びつけた地域連携医療シ

ステムの構築を目的とする

期待される研究成果及び その社会的意義

どこでもMY病院地域連携カード

• 救急医療情報キットの“命のバトン”として活用

• 地域医療連携ネットワーク、クリティカルパスの共通化

• クラウド化で費用負担が難しい小規模自治体に対応

• 在宅医療・介護にあっても、療養所や病院と遜色のない

サポートを受けることで、安全安心な生活が可能

“命のバトン”に医療情報を保管

福井県大野市 ２０１３年より無償配布

2010年 ノートPC型１２誘導心電計による院内共有シ

ステム

2011年 福島県の避難所からの遠隔12誘導心電図

2012年 総務省SCOPEによるAED付き１２誘導心電

計での情報共有

2013年 タブレット型12誘導心電計によるプライベー

トクラウド共有システムの研究開発

2014年 既設救急車用生体モニタから12誘導ECGのク

ラウド共有システムの開発

これまでの取り組み

１２誘導心電図

単一波形の心電図だけでは、STEMIの早期判定が難しい

出典：CMC EMS System ECRN

CE12 Lead EKG’s

Mod I 2009 CE

Prepared by:Sharon Hopkins, RN,

BSN

• Precordial

leads

2nd ICS

1st ICS

3rd ICS

出典：CMC EMS System ECRN CE12 Lead EKG’s

Mod I 2009 CE

Prepared by:Sharon Hopkins, RN, BSN

http://www.nhlbi.nih.gov/health/health-topics/images/heart_coronary_artery.gif

ST上 昇 型 心 筋 梗 塞（STEMI）

一刻も早い血流の再開が最高の治療手段

Symptoms to balloon inflation (minutes)

On

e-y

ear

mo

rtal

ity,

%

6 RCTs of Primary PCI by Zwolle Group 1994 – 2001 N = 1791

RR = 1.08 [1.01 – 1.16] for each 30 min delay (P = 0.04)

P < 0.0001 12

10

8

6

4

2

0 0 60 120 180 240 300 360

STEMI でのバルーン開始時間（プライマリ PCI） と一年死亡率

DeLuca et al. Circulation 2004;109:1223.

経過分

１年死亡率

This slide set was adapted from the ACC/AHA Guidelines for Management of Patients With ST-Elevation Myocardial Infarction (Journal of the American College of Cardiology 2004;44:671-719, e1-e211 and Circulation 2004;44:671-619, e82-e292) The full-text guidelines and executive summary are also available on the Web sites: ACC (www.acc.org) and, AHA (www.americanheart.org)

引用元：

救急隊による一次搬送先選択のジレンマ

救急車 搬送

胸痛

STEMI

の兆候

119

救急隊

到着

救急隊

• 12誘導心電図

• 専門医の指示が可能

START

緊急PCI 対応 施設

非PCI 対応 施設

血栓溶解剤の投与

30 min.以内

PCI可能な病院に

再転送が

必要

60分以内では、特に効果大 心筋の有効保存時間: 120分以内

救急要請者 臨場 病院到着

救急隊-to-balloon 90 min.以内

病院 door-to-balloon 90 min.以内 収容1 min.

5 min.

8 min.

This slide set was adapted from the ACC/AHA Guidelines for Management of Patients With ST-Elevation Myocardial Infarction (Journal of the American College of Cardiology 2004;44:671-719, e1-e211 and Circulation 2004;44:671-619, e82-e292) The full-text guidelines and executive summary are also available on the Web sites: ACC (www.acc.org) and, AHA (www.americanheart.org)

病院前に救急隊員により STEMI と判断された患者において

救急隊接触から PCI まで 90 分以内のシステムでは、

必要に応じて直近の救急施設を飛び越えて、プライマリーPCI

実施施設へ直接搬送を考慮することは理にかなっている

（Class Ⅱa エビデンス 見解から有効、有用である可能性が高い）

日本蘇生協議会（JRC）ガイドライン

急性冠症候群（ACS）２０１０確定版

救急医療とICT

• これまでの試み

– 救急業務用高度医療情報伝送システムに関する調査検討会

• 平成１８年 北陸総合通信局

– 救急業務におけるICTの活用に関する検討会

• 平成２２年 消防庁

• モバイル・テレメディシン・システム

– 吹田市消防本部、国立循環器病センター

画像伝送を重視し、高速なネットワークを想定

高額な初期費用、維持費を必要とし、大型自治体の予算規模を想定 初年度 ６００万円/台

架台 表示装置懸架装置 設置場所： 救急部受付室

救急表示用懸架装置一式

出典 「2025年問題」の解決へ、ITに期待される在宅医療と介護の連携 田中 智康 http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140507/555142/

地域医療連携ネットワークと救急医療・救急搬送の連続性

データ共有 VPNルーター

プライベートクラウド L2TP/IPsec-IKE

訪問介護・看護スタッフが 在宅患者の12誘導心電図を クラウドサーバに保存

地域の診療所 かかりつけ医師の検診とサポート

ユビキタス救急救命システムで

PCI治療開始時間を短縮

大規模災害への対応

二次医療圏の24時間

PCI治療可能なハブ病院

救急医の メディカルコントロール 下で的確な救命処置

STEMI患者の判定と

受け入れ指示

PCI治療システムの起動

地域連携医療を ICT化し 在宅・訪問医療を高度化する

クラウド型モバイル

12誘導心電計

救急専門医

救急隊

他の二次医療圏 中核病院

二次医療圏ユニット同士が 相互に連携する

広域連携ネットワークを構築

訪問看護師 ケアマネージャー

循環器専門医

ICTでシームレスな地域連携医療ネットワークを実現する

心疾患で

在宅療養中の高齢者

パブリッククラウド

VPNと2段階認証で セキュアーなデータ共有

急性心筋梗塞地域連携 医療クリティカルパス

ICTによりムダのない経済的で 安全安心な在宅療養生活の

実現

訪問介護および看護スタッフ向け モバイル機器

スタッフおよび利用者の識別と情報保護

• NFCカードを利用

• サービススタッフ、利用者とも同一構成

• “どこでもMY病院地域連携カード”を使用

• スマートフォン、タブレットを利用可能

• NFC付きバイタルサイン収集機器でデータの転記ミ

スを削減、省力化、簡便化

12誘導心電図

タブレット端末

血糖計

血圧計

酸素飽和度計

体組成計

体温計

活動量計

医療連携クラウド

どこでもMY病院地域連携カード 訪問者向けタブレット端末

訪問者向けＮＦＣ付き バイタルサイン収集機器

訪問者向け12誘導心電計システム

訪問者向け12誘導心電計 システムの特徴

• ワイヤレスでタブレット端末とアンプを接続

• 旧タイプのPC型と比べて、バッテリーが4倍長持ち

• 小型軽量、従来比1/2以下の体積、重量

• 本体内にLTE・３Gモバイルルータを搭載可能

• NFC付きバイタルサイン収集機器との連携が可能

• どこでもMY病院地域連携カードの読み取りが可能

通信速度分布１

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

0 500 1000 1500 2000

下り方向

上り方向 UPLOAD

（ｋｂｐｓ）

DO

WN

LOA

D

地方都市周辺や僻地での上り送信速度は、 ４００kbpsに満たない場合が多い

通信速度分布2

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

2000

1 101 201 301 401

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

1 101 201 301 401

（ｋｂｐｓ） （ｋｂｐｓ）

下り DOWNLOAD 上り UPLOAD

（sample） （sample）

モバイル通信の上り送信速度と下り受信速度は、非対称性が高い

地方小都市の救急救命ユニットが 継続的に運用可能なシステムとは

× 200kbps以上の高速なデータ通信環境が必要

× 通信費、サーバーなどに高額な経費がかかるシステム

× 運用にITスキルを持ったオペレータが必要

× 救急隊が現場で扱うと、落下などで壊れやすい機器

× 動作不良や故障など現場で原因究明が難しい装置

× 複雑な操作や高い習熟が必要なシステム

救急隊向け12誘導心電計 伝送システム 車内設置例

救急隊向け12誘導心電計 伝送システムの特徴

• モバイル通信で心電計をインターネットに接続

• L2TP/IPsecからSSL-VPNに変更

• 12誘導心電図の送信が本体プリンタと同様に操作可

• 心電図/呼吸・SpO2・血圧・体温・IBP・ETCO2な

どが同時測定可能

• リモートメンテナンスが可能

• MIL規格に準拠した試験を繰り返した堅牢設計

救急医療機関向け情報共有システム

福井大学病院救急部に設置

緊急ＰＣＩ情報共有システム

１２誘導心電図受信画面

「マイナンバー」制度に対応可能な 患者情報入力画面

コンサル・緊急招集依頼画面

勝山消防署向けスマートフォン

救急画像表示アプリケーション

• 救急画像を救急隊本部と 福井大学病院に送信できます。 • 病院宛に送信した場合、自動的に 救急隊本部にも、送信されます。 • GPS位置情報が含まれている場合、 Googleマップで表示されます。

スマートフォン送信側

救急隊本部 福井大学病院受信側

今後の展開

クラウド型地域連携医療システム

• パブリック・クラウド化を進め僻地の小規模自治体が

50万円以下/台の少ない負担で導入可能にする

• 運用経費は、月3万円程度を目指す

• 消防隊からの要請を受け、救急画像にも対応

• 平成26年12月中に福井県内４消防署にて社会実装に

向けた実証試験を行う

公募型研究成果を 社会実装するためには

研究開発として

• 新規性の高い、チャンピオンデータ 研究者の本能

実証フェーズでは

• 社会で通用するシステムに仕上げるのは、開発だけよ

りはるかに難しい

社会実装までに立ちはだかる壁

人的要因

• ITスキルは、様々 使う人は、研究者ではない

地理的要因

• 通信環境や経路、良い状態を保てない

費用、経費

• ユーザー規模によって費用対効果が大きく異なる

堅牢性

• 実装技術、耐落下、水没、耐衝撃、バッテリーなど救急

隊に通用するシステム設計

今後の展開

クラウド型地域連携医療システム

• パブリック・クラウド化を進め僻地の小規模自治体が

50万円以下/台の少ない負担で導入可能にする

• 運用経費は、月3万円程度を目指す

• 消防隊からの要請を受け、救急画像にも対応

• 平成26年12月中に福井県内４消防署にて社会実装に

向けた実証試験を行う

医療機器

シリンジポンプ

輸液ポンプ

人工呼吸器

酸素吸入装置

リアルタイムバイタルサイン

１２誘導心電計

応用範囲

ICU

病院内

地域医療、訪問看護、

在宅介護

救急搬送

災害救助

通信速度の向上

通信範囲の拡大

少子高齢化、医療ニーズの変化

• 効率的で良質な医療の供給

地域密着型医療・在宅介護の促進

• 医療安全管理体制の整備

• 訪問看護、在宅介護、人工呼吸器

病院勤務医の負担軽減

• 呼吸ケアチームのサポート

• 心電図のIT化

救急医療体制の充実

• 救急搬送時のバイタルサイン 防災

・病院、介護施設 の逃げ遅れ者 救出

謝辞

福井県勝山市消防本部

福井県嶺北消防組合 嶺北消防本部

日本光電中部株式会社 北陸支社福井営業所

本研究は、戦略的情報通信研究開発推進制度（SCOPE）の委託研究に基づく成果である

SCOPE課題名：在宅医療に向けたクラウド型地域連携医療システムの研究開発 研究期間：平成25～26年度 研究機関：福井大学医学部 研究代表者：教授 井隼 彰夫 分担研究者：笠松 眞吾,江守 直美 ,木村 哲也,宇隨 弘泰

ご清聴ありがとうございました