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「海外ガン・ジャンピング規制についての実態と対策調査」報告書(概要)
平成30年5月経済産業省
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競争法におけるガン・ジャンピングとは?
●100m走で、スタートの合図(銃声;Gun)の前に動き出して (Jump)しまうような、いわゆる「フライング」のことを一般的には「ガン・ジャンピング」と言う。
●競争法においては、①当局のOK(クリアランス)が出る前にM&A取引等を実行してしまうこと、もしくは②M&A取引を実行する前に「競争機微情報※」を交換してしまうことが「ガン・ジャンピング」とされる。
●M&A取引の当事会社が、企業結合規制によって必要とされる事前手続を取らないままにM&A取引を実行したことによる「届出義務」違反●M&A取引の当事会社が、事前手続の完了後でなければ許されない行為を、事前手続の完了前に実施することによる「待機義務」違反
●M&A取引の過程において、競争事業者間である当事会社間で不用意に競争機微情報を交換した場合のカルテル規制違反
①当局のOKが出る前にM&A取引等を実行とは?(企業結合規制違反)
②M&Aを実行する前に競争機微情報を交換とは?(カルテル規制違反)
※競争機微情報とは?一般的に、価格情報や入札情報、マーケティング戦略、生産・販売・売上情報、顧客情報等の「競争に影響を与える可能性が高い情報」を言うが、実際には個別具体的な検討が必要。
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(参考)我が国独禁法における手続法違反と実体法違反(イメージ図) ガン・ジャンピングに関する違反は、主に企業結合規制に違反(手続法違反)する場合と、カルテル規制に違反(実体法違反)する場合の2つに大別される。
手続法違反 実体法違反手続法と実体法の双方で違反
企業結合規制違反(事前届出義務違反、待機義務違反)
カルテル規制違反
●当事会社間で、クロージング前から、一方当事者が他方当事者に対して影響力を行使してしまう場合。→企業結合規制違反となる可能性(※カルテル規制違反となる可能性もある。)
※特に営業の現場にいる者は、クロージング前でもM&A取引が完了したと誤解し、他方当事者へ影響力を行使したり、自社への影響力行使を容認したりすることがある。
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どのようなことが違反になる? -1
●M&A取引実行(クロージング)前に当事会社間での、A.競争機微情報の交換、B.影響力の行使、C.共同・調整行為の実行等は、ガン・ジャンピングの問題を生じさせる可能性がある。
●また、M&A取引契約において、D.取引実行前に相手会社を拘束する規定を設けること、も問題となる可能性がある。
●M&A取引に際し、デュー・ディリジェンス等のために交換された情報に「競争機微情報」が含まれ、それが無限定に共有されていた場合。→カルテル規制違反となる可能性
※企業結合規制違反となったり、B~Dと一体・並行で行われていたりする可能性もある。
A.競争機微情報の交換とは?
B.影響力の行使とは?
●買主(他方の当事会社)の正当な利益を保護するため、M&A契約締結日からクロージングまでの期間において、一方又は双方の当事会社の「事業活動を制約※」する規定を取引契約に設ける場合。→企業結合規制違反となる可能性
※例えば「一定の行為を行うには相手方の事前同意を得なければならない」というコベナンツ条項を設け、一方(双方)の事業活動を過度に制約する場合が該当しうるが、コベナンツ条項を設けることが必ずしも違反とはならない。
※当事会社の事業活動を制約:経営陣による企業価値を大きく毀損するような事業運営を制限する等の行為。
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Q.2 どのようなことが違反になる? -2
●統合効果を早期に得る等のため、M&A取引のクロージング前から共同行為や調整行為を行う場合。→カルテル規制違反と企業結合規制違反の双方の可能性あり。
※例えば、当事会社間で重複する顧客や仕入先との取引を、いずれかの当事会社に一本化したり、取引条件について共同で交渉したりすることが該当しうる。
C.共同・調整行為とは?
D.取引実行前に相手会社を拘束する規定とは?
これら違反により、欧米では数十億円単位の高額な制裁金・罰金が課された先例が存在。また、そのような処分に至らなくとも、以下のような可能性がある。●企業結合審査の過程で、当事会社に対する立ち入り調査(欧州)●企業結合審査の長期化、心証悪化による審査結果への影響●民事上の訴訟リスク(カルテル規制違反)●当局による調査・処分への対応コスト
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各国・地域の企業結合規制とガン・ジャンピング規制 日本の独禁法とは異なり、他の国・地域では「支配」や「受益的所有権」で届出要否が判断される場合があります。
届出基準 審査基準等 ガン・ジャンピング規制の評価
日本 ●一定の規模要件を満たす企業結合。
※株式取得、合併、会社分割など、届出すべき行為を具体的文言で明記。
●「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」かどうか。
●規定が明確なため、これまで正式な処分事例はない。
●キヤノンによる東芝メディカルの株式取得を受けて、公取委は文書を公表しており、今後は手続法違反にも注意が必要。
EU ●一定の規模要件を満たす企業結合(concentration)。
※企業結合:合併と「支配の取得」※支配:決定的な影響力(decisive
influence)をもたらすような権利、契約その他方法
●「有効な競争を著しく阻害する(would impede)」かどうか。
●「支配」の有無に注目。●ガン・ジャンピングについて一定の執行実績あり。
米国 ●一定の規模要件を満たす議決権付証券又は資産の「保有(hold)」をもたらすような、証券・資産の取得。
※保有:受益的所有権(beneficialownership)の保持
●「競争を実質的に減殺(may be)し、又は
独占を形成するおそれ(tend to)がある」かどうか。
●「支配」に加え、経済的利益関係の有無も考慮。
●受益的所有権の有無は、明確な線引きはできず、個々の事実関係に基づき、「徴候(indicia)」が移転したかを確認して決定すべきものとされている。
●ガン・ジャンピングについて一定の執行実績あり。
中国 ●一定の規模要件を満たす企業結合(経営者集中)。
※経営者集中:合併、他の事業者の支配権の取得、決定的な影響を与えうるようになる場合
●「競争を排除又は制限する企業結合及びその可能性のある企業結合」かどうか。
●EU競争法を参考としているため、EUと同様に「支配」の取得の有無が検討のポイント。
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ガン・ジャンピングの4類型 ガン・ジャンピングの問題があるとされた個別事例を、米、EU、独、仏、蘭、デンマーク、中、韓、印、ブラジル、メキシコ、及び日本の12カ国・地域の21事例について調査。
これら21事例を以下4類型に分類し、事案の概要や特筆すべき事項を取りまとめた。類型①●事前届出制度に基づく届出が適時に行われなかったことによる届出・待機義務違反
(手続法違反)
類型②●複雑なスキームを使ったM&A取引に関する届出・待機義務違反
(手続法違反)
類型③●クリアランス取得前に、M&A取引の対象会社に対する支配が買主に移転したことや対象会社に対する影響力の行使が発生したことによる届出・待機義務違反
※当事会社が競争事業者である場合、競争事業者の間で情報交換が行われることによって同時にカルテル規制違反(類型④)にもなりうる。
(手続法違反)
●M&A取引の過程における競争事業者である当事会社間の行き過ぎた情報交換に伴うカルテル規制違反
類型④ (実体法違反)
日本 米国 EU 欧州各国 中国 その他地域1 6 5 4 2 5
(参考)紹介した事例の国別審査件数。世界的にガン・ジャンピングへの関心は高まってきている。
※同一案件を複数の当局が審査している事例があるため、合計数は上段の取り上げ事例数(21事例)と一致しない。
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(参考)紹介した個別事例類型①●フォルクスワーゲン/エム・アー・エヌ(韓国:2007年)●フランクフルト・アム・マイン印刷発行所/フランクフルト都市官報(ドイツ:2009年)●エレクトラベル/ローヌ公共企業(欧州:2009年)●マリンハーベスト/モーポル(欧州:2014年)●復星医薬/二葉製薬(中国:2015年)●パナソニック/パナソニックヨーロッパ/フィコサ・インバージョン(メキシコ:2017年)
類型② 複雑なスキームを使ったM&A取引に関する届出・待機義務違反
類型③クリアランス取得前に、M&A取引の対象会社に対する支配が買主に移転したことや対象会社に対する影響力の行使が発生したことによる届出・待機義務違反
M&A取引の過程における競争事業者である当事会社間の行き過ぎた情報交換に伴うカルテル規制違反類型④
事前届出制度に基づく届出が適時に行われなかったことによる届出・待機義務違反
●マース/ニュートロ(ドイツ:2008年)●エティハド航空/ジェットエアウェイズ(インド:2013年)●トーマス・クック/トーマス・クック保険/スターリング・ホリデー・リゾート(インド:2014年)●シスコシステムズ/テクニカラー(ブラジル:2016年)●キヤノン/東芝メディカル/東芝(日本、中国:2016年、欧州:2017年(調査中))●KPMGデンマーク/EY(欧州:2018年)(係属中)
●コンピュータ・アソシエイツ/プラチナム・テクノロジー(米国:2001年) ※類型④にも記載。●ジェムスター/テレビガイド(米国:2003年) ※類型④にも記載。●スミスフィールド・フーズ/プレミアム・スタンダード・ファームズ(米国:2010年)●フレークボード/シエーラパイン(米国:2014年) ※類型④にも記載。●アルティス/エス・エフ・アール(SFR)/オメール・テレコム(OTL)(フランス:2016年)●デューク・エナジー/カルパイン(米国:2017年)●アルティス/ポルトガル・テレコム(欧州:2017年)(調査中)
●コンピュータ・アソシエイツ/プラチナム・テクノロジー(米国:2001年) ※類型③にも記載。●ジェムスター/テレビガイド(米国:2003年) ※類型③にも記載。●オムニケア/ユナイテッド・ヘルス/パシフィケア(米国:2011年)(原告・控訴人が競争法違反主張も、立証できなかったことにより訴え棄却)●フレークボード/シエーラパイン(米国:2014年) ※類型③にも記載。●エイムスキップ/クルーズべへーア/サムスキップ/バンボン(オランダ:2016年)
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具体的事例
2012年12月、ノルウェーのサーモン養殖加工会社であるマリンハーベスト社は、ノルウェーの競争事業者であるモーポル社の株式の48.5%を取得した。
8ヶ月後、マリンハーベスト社は欧州委員会へ正式に届出を行ったが、当局のクリアランスの取得は、取引実行の9ヶ月後。
欧州委員会は、届出・待機義務違反であるとして2000万ユーロ(約26億円)の制裁金を課す決定。
類型① マリンハーベスト/モーポル(欧州:2014年)
2012年12月 8日 マリンハーベスト社がモーポル社の株式48.5%を取得。2013年 8月 9日 マリンハーベスト社が欧州委員会に対して正式に届出2013年 9月30日 欧州委員会が、当該結合に対して条件付承認2014年 1月30日 欧州委員会が、ガン・ジャンピングの懸念があり調査が継続している旨を当事会社に通知2014年 3月31日 欧州委員会が、本件について異議告知書(Statement of Objection)を当事会社に送付2014年 7月23日 欧州委員会が、2000万ユーロの制裁金賦課を決定
経緯
考慮要素●マリンハーベスト社は、モーポル社に対する議決権を行使しなかったこと。
●マリンハーベスト社は、本株式取得直後に事前相談制度を通じて本株式取得を欧州委員会に通知したこと。
審査結果●本件結合は、審査の結果、条件付でのクリアランスとなった競争法上重大な懸念を生じさせる案件であり、本件の届出・待機義務違反は重大な違反である。
●本株式取得からクリアランスを取得するまでの9か月の間に、マリンハーベスト社がモーポル社の議決権を行使しなかったことは、届出・待機義務違反を免れさせるものではない。
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具体的事例
2016年3月、東芝メディカル(東芝M)は、①議決権のある株式20株、②無議決権株式1株、③新株予約権100個を発行して東芝に交付。
東芝は翌日、②と③を、キヤノンに譲渡(対価は約6665億円)し、①をMSホールディング(MSH)に譲渡(対価は9万8600円)。
上記譲渡契約では、必要な競争当局からのクリアランス取得後に、東芝Mは①をMSHから、②をキヤノンから取得すること、及びキヤノンは③を行使(行使価格は100円)して東芝Mの議決権付き株式を取得すること、が定められており、全取引を通じて東芝Mはキヤノンの完全子会社となった。
キヤノン/東芝メディカル/東芝(日本、中国:2016年、欧州:2017年(調査中))類型②
東芝
東芝M
MSH キヤノン①、②、③
①
98,600円 6,665億円
②、③
第一段階(届出前) 第二段階(クリアランス後)
東芝
東芝M
MSH キヤノン
①100円、② 新株
→完全子会社化
各国審査
※いずれの取引も届出基準に達していない。
※前年度売り上げなし。
※新株予約権を取得したのみで、議決権を保有していない。
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具体的事例
公正取引委員会は2016年6月、一連の取引は、第三者(MSH)を通じてキヤノンと東芝Mの間に一定の結合関係が形成されるおそれを生じさせるものであり、事前届出制度の趣旨を逸脱し、独禁法違反につながるおそれがあるとして、当事会社に注意を行った。(結合審査そのものは無条件承認)
中国商務部は2016年12月、キヤノンが届出を行う前に、東芝に買収代金を支払って、第三者(MSH)に東芝Mの議決権を移転させたことが届出義務違反であるとして、30万人民元(約510万円)の罰金を賦課。
欧州委員会は2017年7月、中間買主を介したウェアハウジング(二段階買収)方式により、クリアランス取得前に東芝Mを買収することが可能となったことが、届出義務違反の疑いがあるとして異議告知書を送付。
キヤノン/東芝メディカル/東芝<各国の対応>類型②
各国当局のクリアランスの前後を一連の取引とみた場合の取引関係図
東芝
東芝M
MSH キヤノン①、②、③
①
98,600円 6,665億円
②、③
①100円、②
新株
具体的事例 2014年、大手通信事業者のアルティス社は、子会社のニュメリカブル社を通じて、①SFR社と②OTL社(ヴァージン・モバイル)を買収し、同年中にクリアランスを取得。
2015年4月、当局はアルティス社の競争事業者からの通報を受けて各社に立ち入り検査を実施。以下の行為はクリアランス取得前にアルティス社が①、②に対して決定的な影響力を行使することにつながり、また①、②の大量の戦略的情報にアクセスできるようになっていたことから、8000万ユーロ(約105億円)の罰金が課された。
アルティス/SFR/OTL(フランス:2016年)
SFR社への決定的な影響力の行使●SFR社グループが行う入札の条件がアルティス社に提供されていたこと。
●競争事業者との契約再交渉について、SFR社がアルティス社の承諾を取得していたこと。
●価格戦略やキャンペーン等のSFR社の商業戦略にアルティス社が直接関与していたこと。
●SFR社が進めていたOTL社に対する公開買付けについて、途中からアルティス社が調整を行っていたこと。
●統合準備として、個別データや直近の業績、将来の予測等の競争機微情報をアルティス社とSFR社が交換していたこと。
●アルティス社がOTL社の戦略的決定を行っていたこと。●OTL社の業績を週単位でアルティス社に報告させていたこと。●クリアランス前から、OTL社がSFR社の新プロジェクトに関与し、競争機微情報の受領等、SFR社内の職務を開始していたこと。
類型③
2014年 6月 5日 ①買収について届出2014年 9月25日 ②買収について届出2014年10月30日 ①買収について条件付クリアランス取得
2014年11月27日 ②買収についてクリアランス取得2015年 4月 2日 当局が各社に立入検査を実施2016年11月 8日 8000万ユーロの罰金賦課決定
OTL社への決定的な影響力の行使
経緯
以下の点を鑑み、高額な罰金額となった。●本買収の取引金額及び通信分野に与えた影響。●審査の際の当局の懸念に直接関連するものであったこと。●SFR社及びヴァージン・モバイルブランドの活動の規模。●行為は届出前から待機期間を通じて継続していたこと。●アルティス社が2014年に届け出た他のM&A取引でも同様の行為が見られ、故意になされたものであること 11
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2014年1月、木工品製造会社のフレークボード社は、繊維板等製造会社のシエーラパイン社が保有するスプリングフィールド(SF)工場等の取得に合意し、届出を行った。
審査において司法省から競争法上の懸念が示されたことから、2014年9月、フレークボード社とシエーラパイン社は本取引を中止。
待機期間中に、フレークボード社がシエーラパイン社へ影響力を行使(受益的所有権の取得)したことは待機義務違反(類型③)であり、特に工場閉鎖、顧客移転等の協調行為はカルテル規制違反(類型④)でもあるとして、フレークボード社側とシエーラパイン社側双方にそれぞれ190万ドル(約2億円)の制裁金が課された。
具体的事例 フレークボード/シエーラパイン(米国:2014年)類型③類型④
考慮要素以下を待機義務違反及びカルテル規制違反と認定。●SF工場の閉鎖。●SF工場の顧客の自社の工場への移転。●SF工場の顧客に関する機微情報の自社の営業担当者への提供。
●SF工場の顧客に対する工場閉鎖情報公表の遅延。●フレークボード社によるシエーラパイン社営業担当者への指示(シエーラパイン社の価格に合わせた取引を行う意向のSF工場顧客への伝達)。
●シエーラパイン社の営業担当者に対する、フレークボード社での雇用を保障する提案。
審査・判決結果●以下の点から、審査完了前に本取引を中止したとしても、既に行われた待機義務違反はなくならない。・SF工場は閉鎖されたままであること。・SF工場のほぼ全ての従業員が既に退職しており、SF工場再開には時間と費用がかかること。・シエーラパイン社もSF工場再開の意向はないこと。
●他方、以下は「許容された行為」とされた。・通常の業務の範囲内の事業活動を継続することを義務づける契約の締結。・取得対象となる資産の価値に重大な悪影響を及ぼす行為をしないことを内容とする契約の締結。・クロージング(又は中止)前のデュー・ディリジェンスの実施。
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類型ごとの注意点と対策類型①●「支配権の取得」や「決定的な影響力の取得」等、届出基準が不明確である国・地域(EUや中国等)や届出基準が頻繁にアップデートされる国・地域(東南アジア諸国等)で問題となりやすい。●届出に際しては、主要かつ執行も活発な国・地域(米・EU・中・韓等)への対応を優先し、他の国・地域については、自社にとって重要か、子会社や資産があるか、実際に執行が活発であるか、等の状況を勘案して対応方針を検討。●競争当局は意図的な届出懈怠に対して厳しい姿勢で法執行を行っていることに留意。
類型②
●多くの競争当局は、以下のような企業結合規制を回避する手法を認めていないことに注意。●取引段階を個別に見て判断せず、一連の取引を単一の取引として届出が必要か慎重に判断。●事前届出の準備や審査期間を見込んだスケジュールを策定。
【違法とされている企業結合規制を回避する手法】・ウェアハウジング方式の買収手法:単一のM&A取引を、あえて個別の取引・ステップに細分化・分
解し、一部の取引について届出・待機義務を回避する行為。・カーブアウト合意:クリアランス未取得の国・地域の事業を一時的に除外して取引を実行する行為。
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類型ごとの注意点と対策
●欧米等諸外国では、「受益的所有権の移転」や「支配権の取得」、「決定的な影響力の取得」といった抽象的な基準に基づく判断枠組みを採用していることから、取引契約の規定のみならず、当事会社の意図とそれに基づく行為等も含め、ケース・バイ・ケースで判断。●一般的に、合理的な範囲内でのデュー・ディリジェンス実施や、クロージング時に対象会社の企業価値に重大な悪影響がないことを条件とすることは、問題があるとは考えられていない。●「買主が対象会社の事業の独立性を失わせること」や「買主が対象会社の実質的な支配や業務上の決定権を取得すること」のないよう、コベナンツ条項やクロージングの前提条件を検討。
●競争機微情報の交換は、①取引の検討・実施に必要な情報を、②必要がある者にのみ開示し、③競争に影響を与えないように適切な措置を講じた場合は、カルテル規制に抵触する可能性は低い。①必要な情報 :抽象的ではなく、時期及び内容の両面から当該時点において正当化できるもの。②必要がある者:競争機微情報は日々の営業活動又は事業上の意思決定に直接関与しない者
(非現業者)等(バックオフィス業務者、M&A取引専任者、弁護士等の外部アドバイザー、等)に限定した「クリーンチーム」のみで共有。
③適切な措置 :共有する際の競争機微情報を加工(抽象化、概括化、マスキング、数値の合計化等)。
類型③
類型④
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M&A取引のプロセスとガン・ジャンピングの類型及びその対策
M&A取引のプロセスとガン・ジャンピングの類型・対策
秘密保持契約締結
基本合意
事前届出
クリアランス
クロージング
初期的接触・協議
基本的情報の交換 基本的な取引条件の交渉
デュー・ディリジェンス・ 最終契約の交渉
類型①~③: 届 出 ・ 待 機 義 務 違 反 (手続法規制違反)
類型④: カルテル規制違反 (実体法規制違反)
情報交換を行う際は以下に留意する ①M&A取引の検討・実施にあたり必要な情報か ②当該情報を入手する必要がある者にのみ開示されているか ③競争に影響を与えないよう適切な措置が講じられているか
類型①
事前届出の要否を慎重に検討する
類型② 類型③
複雑なスキームを組む場合、その一部の実行が届出・待機義務に違反するものになっていないか慎重に検討する
最終契約締結
①対象会社の事業の独立性を失わせたり、 ②対象会社の実質的な支配や業務上の決定権を取得したりすることのないように留意する
※国・地域によっては最終契約締結前
に事前届出をすることができる
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最後に●ガン・ジャンピング違反は、競争機微情報の交換など、意図せずに違反行為を行い、当局から指摘を受けて初めて当事会社が認識することが多い。●昨今、欧米を中心にガン・ジャンピングへの執行は強化されつつあり、巨額の制裁金が課された事例も存在。●届出に際しては、主要かつ執行も活発な国・地域への対応を優先し、他の国・地域については、自社にとって重要か、子会社や資産があるか、実際に執行が活発であるか等を勘案し、対応方針を検討することが重要。●いたずらにガン・ジャンピング違反を恐れて萎縮するのではなく、適切なリスク管理により、ガン・ジャンピング違反となる可能性を限りなく低下させることも可能。●本報告書で紹介した事例や対策を参考にして、ガン・ジャンピングのリスクに対して適切な対応を行い、公正かつ適正なM&A取引が推進されることを期待。