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医療のコンシェルジュと未病社会
日紫喜 光良
東邦大学理学部
情報科学科
自己紹介:研究分野
• 医療社会学/医療情報学– 診断論理(1992)
– インターネットとへき地医療(1993-1996)
– カルテ情報の内容解析と情報交換のフォーマット(1995-1998)
– 医学用語・文書(日本語)の解析(1996-1999)
– みんなの医学(2008-)
• バイオインフォマティクス– 遺伝子発現データベース(1999-)
– 遺伝子機能知識発見(2001-)
未病社会
高度化した健康状態のモニタリング
早期介入
健康な社会
できるだけ自然な状態でのモニタリング
主に市場経済活動として実施→未病ビジネス
大きな機会と大きな困難
予防医学 個別化医療
時間軸を大幅にさかのぼる。「超早期」
適用範囲をすべての人に広げる
未病社会
大きな機会 大きな困難
未病ビジネス:個人が相手
「自分にとって」「どの程度」必要かわからない
「未病社会」への誤解
• 科学的な誤解に基づくもの• まっとうな懸念
混在している。
概要• 未病社会での個人の自立
• 未病社会の個人をつなぐ ―
ソーシャル・ネットワークの役割
• 未病社会の情報案内
– 「医療コンシェルジュ」
未病社会ビジネスが必要とする社会システムとは?
そのシステムの萌芽はどこに?
未病社会ビジネスのキーパーソンは?
未病診断技術が社会に普及するために
「未病社会」のロジック
高度化した健康状態のモニタリング
早期介入
健康な社会
できるだけ自然な状態でのモニタリング
予防医学の枠組み:現在
一次予防:
二次予防:
健康増進(生活習慣の改善)
特異的予防(予防接種、事故防止、職業病対策、公害防止)
早期発見(マス・スクリーニング、健康診断、人間ドック)
早期治療
三次予防: 重症化した疾患から社会復帰するための治療・リハビリ
公衆への呼びかけにもかかわらず、参加は不十分
対策:個別的な呼びかけ(例:胃がんリスク診断)参加しやすさ(例:職場単位の参加)
未病社会の個別的アプローチ
個別的・ピンポイントな介入
大量のデータ
統計的信頼性
DNA情報:体の設計図
タンパク質(mRNA)の発現情報:
体で今働いているタンパク質分子のプロファイリング
一見同じ状態の人たちの個別性
多次元データ
未病社会の一側面
将来のベネフィット v.s. 今のコストとリスク
予防的介入の効果は、今、見えにくい
未病診断技術へのアクセス「私が受けるべき未病診断は何?どこで受けられる?」
「予防的介入の効果を実感できるのは、いつ?」
「お金と時間の無駄じゃない?予防薬の安全性は?」
自分で情報を求めて、これらの判断をしなくてはならない。
たくさんの情報から意味のあるものを見つける困難(情報爆発)
自分の判断基準をしっかりもつこと―意識の高さ―が要求される
⇔マス・スクリーニング
未病社会は面倒くさい
未病診断技術
医療
情報爆発
アクセス 予防的介入 リスクとベネフィット決められない…
個人がばらばらにアクセス
回答は専門分野に限定
未病段階の診断(チェック)をもって相談
?
?
判断をマスメディアに依存
マスメディアが取り上げた対象に殺到
マスメディア
「孤独な群衆」
TIME Magazine cover, Sep. 27, 1954
結局、アメリカ社会に「他人指向型」価値観は浸透した。
個性重視大勢に流されやすい自分らしさを失うことへの不安
柔軟であるが“孤独”
David Riesman (1909-2002)“The Lonely Crowd” (1950, 1961)
コミュニティにねざした伝統的な価値観
inner-directed people
other-directed people(他人指向型)
アメリカ人の価値観形成に影響する要因の変化を研究
(内部指向型)さまざまなビジネスの黎明期
工業化以前の時代
例:アイン・ランドAyn Randの小説の主人公
社会的流動性減少・消費社会の成熟期
激しい社会的流動性
社会生活での仲間集団の役割の増加
仲間が手本
没個性の回避:自分流にアレンジ
共通の価値観を形成
多数の患者団体
ソーシャルネットワーク化により、勢いを増す
ブログ, Facebook, Twitter, etc
アメリカの中流以上の社会を特徴づける諸団体の活動
マスメディアと異なる双方向性
未病社会で個人が活きるためのモデル
独裁的な社会を回避
未病社会とソーシャルネットワーク
• 2種類のモデル的ソーシャルネットワーク
システム(SNS)
– PatientsLikeMe http://www.patientslikeme.com/
– Keas http://keas.com/
PatientsLikeMe
http://www.patientslikeme.com/
Founded in 2004 by Benjamin and James Heywood.
PatientsLikeMeでできること
http://www.patientslikeme.com/about/tell_the_world
情報を共有する 似た患者を検索してつながる
仲間から学習する
PatientsLikeMeで患者を探す
Public patients: およそ1/8の患者はプロファイルをPatientsLikeMeの外にも公開
経過チャートの例(1)
InstantMe: 全般的な状態 Symptoms:症状の程度を色分け。“←”をクリックすると詳細情報を表示。
患者チャートの例(2)
Treatments: 線の上にマウスを載せると詳細情報を表示。
ALS症状経過チャートの例
総合的な状態悪化の時間的経過と、全体の中での位置
治療の経過
個々の症状の経過
Frost JH, Massagli MP, Wicks P, Heywood J.How the Social Web Supports patient experimentation with a new therapy: The demand for patient-controlled and patient-centered informatics. AMIA Annu Symp Proc. 2008 Nov 6:217-21.
筋萎縮性側索硬化症
PatientsLikeMeの成長
Nature 478,312–313(20 October 2011)
神経難病中心-とくに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)
移植、HIV感染症などに拡大
すべての疾患に拡大
10万人を突破(2011年)
疾患カテゴリー数:1200以上
投資を得る: $8M (2010)
株式発行: $2M (2012)
PatientsLikeMeの組織
【投資者】 CommerceNet (Tenenbaum, JM)など
Public Library of Science (PLoS)にも投資人工知能(AI)研究者J.M. Tenenbaum
【運営チーム】 Management
Patient Experience
Research, Clinical, and Analytics
Marketing, Business Development & Client Services
【パートナー】 Nonprofits
Research and Academia
Industry
PatientsLikeMeの患者コミュニティの特徴
• Opennessの奨励– 3-stars: 情報をもっとも開示している患者
• PatientsLikeMeのTシャツをもらえる。
• Mentorプログラムを受講後、Mentorになれる。
• コミュニティへの貢献度で特徴づけ
–患者検索結果の並べ替えで利用• Profile Views
• Helpful Marks ( いいね!の数)
• ☆の数(情報公開度→Tシャツ)
• Forum Posts (投稿数)
Keas: 職場の健康増進プログラム
Keasの原則:ゲーミフィケーションKeas創始者:Adam Bosworth
Google Health (2008-2012) Personal Health Record
Mint.com(個人向け財務サイト)のようなもの
現状
目標との差
努力目標の提示
アイデアの変遷
健康づくりに関しては、ネガティブなメッセージは聞き入れられない。ポジティブな強化だけが有効。
到達した結論
=「ゲーム」の利用: ゲーミフィケーションGamification
従業員の参加度が時間の経過とともに急減
BtoBに方針転換
BtoCのビジネスモデル
Keasの特徴企業の健康づくりプログラム:職場/企業ごとの加入
多様な目標:食事、運動、睡眠、etc
メンバーは自分で目標を設定→システムは、達成した場合のポイントを決定
SNSによるフィードバックとチーム間の競争
チームプレーで健康づくり
目標の難易度ごとに異なるポイント
健康知識のチェック
未病社会でのソーシャルネットワークの役割
SNS上の患者仲間
仲間内の健康づくりSNS
未病診断技術
医療
SNSを意識した積極的な情報提供
悩みの共感・相談の場目標の共有の場情報の共有の場
!
!
未病社会でのソーシャルネットワークの条件
匿名での参加が可能であること
複数のSNSに登録できること
未病社会の新たな仕事:個人をネットワークにつなぐ
「医療のコンシェルジュ」
「かかりつけ医」との違い
医療へのアクセスまでが問題
• 問題の所在:困っていることを医学的な枠組みで理解してもらえるように、最初に受診する医師に説明することが容易ではない。
–かかりつけ医の仕事?
–かかりつけ医も結局は専門医
「医療コンシェルジュ」の仕事
• 相談者が気づき、行動することを後押しする
• 相談者に情報を提供する
–情報の海から意味のある情報を見つけて示す
診断がついていないと医学情報へのアクセスは難しい
医学(文献)情報
個別の雑誌 公共データベース
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参照
参照全文の預託
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疾患名で検索
Web上の情報
受診/相談・指導
Webに発信
疾患名で検索
未病状態の人
診断がついていない有症状の人
症状名や一般的な言葉で検索
投稿
同一検索語群による比較の例検索語群: 「手 痛み」
【教えて!goo 】 【Yahoo質問箱】
症例:77歳女性
同一検索語群による比較の例
手根管症候群の可能性を強く想起。
(ただし、誰にでも自明というほどではない)
【教えて!goo 】
【Yahoo質問箱】
検索語群: 「手 痛み 夜間」
情報はあるところにはある
日本整形外科学会 症状・病気を調べる手関節の症状 「手根管症候群」
http://www.joa.or.jp/jp/public/sick/condition/carpal_tunnel_syndrome.html
病名で探索すると簡単に見つかる
人を介した情報入手の現状
*NPO法人キャンサーネットジャパンが認定する資格
• 「がん情報ナビゲータ」*– がん対策に従事する(これから従事する)人が対象– 科学的根拠に基づくがん医療情報を理解– 最新のがん医療情報にアクセス– 医療情報を患者の言葉に置き換えて説明
• 問題点– がん医療の枠組み内での活動
• 他の種類の疾患でも同様の活動を行う人たちが必要
– どういう疾患かわからない段階こそ人の対応が必要• 手の痛みは内科(リウマチ・膠原病)か整形外科か• 整形外科でも脊椎の外科か手の外科か?
ソーシャル・ネットワーク的情報入手の展開
• クローズドなSNSへ– 例:GEヘルスケア「healthymagination.jp」
• 問題点:– ひとつのSNSで十分な回答者を集められるか?– ひとつのSNSでは十分なQ&A集を構築できない
ヘルシーマジネーション
独自の情報収集能力
ネットワーク横断的なつながり
医療コンシェルジュによる回答力の補強
医療コンシェルジュの情報収集力
医学(文献)情報
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Webに発信
未病状態の人
診断がついていない有症状の人
専門医の情報発信を持続的に収集・整理
初期診断に関する総説の収集・整理
情報の選別
専門医とのチャンネル
結語:未病診断技術の普及に向けて• 一般への情報提供
– 製品の情報ではなく、健康と病気の情報
• 未病コミュニティの形成– 関心のある疾患別– 基礎研究・臨床研究の支援– 患者SNSとの連携– 未病診断の案内
• 「医療コンシェルジュ」向けの情報提供– 詳細な専門医情報
• 企業・未病コミュニティ向け健康増進プラットフォーム– 多様な健康増進プログラムにゲーミフィケーションシステムへのインターフェースを提供(ポイントの発行と管理)
– 未病診断の案内