日本の公的年金の現状と課題 ~給付と負担について~ · 2005-01-11 ·...

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日本の公的年金の現状と課題 ~給付と負担について~ 市田 亜希匡 河野 安希人 小柳 洋亮 田邉 健太 中村 行宏 川崎 乃枝 白藤 佐季 眞島 知美 吉永 桂奈 はじめに 日本の公的年金制度は長期に渡る制度であるため、社会経済情勢の変化で、事前に予想 していた将来の給付と負担の見通しが予想と乖離することがある。このため、財政再計算 という、5 年に一度の給付と負担の見通しを見直すことによって、必要な制度改正を行って いる。今年 2004 年は、その財政再計算の年に当たる。これまで年金制度の仕組み、現状や 課題などについて学んできたが、その中で気になるのは、やはり給付と負担の問題である。 そこで、これらの現状や課題を調べるに至った。 Ⅰ.給付と負担の現状と課題 1.日本の公的年金制度の仕組み 日本の公的年金制度は、国民年金、厚生年金、共済組合の 3 種類から成っている。下図 のように、国民年金は 20 歳以上 60 歳未満の全国民を対象としており、自営業者や学生、 会社員・公務員とその妻らが対象となる。この図ではこの加入者が 3 つに分けられている が、左から順に、第 1 号被保険者、第 2 号被保険者、第 3 号被保険者と呼ばれる。さらに、 この第 2 号被保険者のうち、会社員を対象とした厚生年金や、公務員を対象とした共済組 合は、職場を通して加入する年金で、それぞれの加入期間分の基礎年金に上乗せされて支 給される。そのために日本の年金制度は、家にたとえられて二階建て方式といわれる。 2.国民年金の給付と負担の現状 すでに記したように、国民年金は、20 歳以上 60 歳未満のものすべてが強制加入となり、 定額 1 万 3300 円の保険料を毎月負担している。40 年間きちんと納付した場合、月額 1 万 3300 円×40 年間で 638 万 4000 円の負担となる。また、国民年金の財源の 1/3 は国庫負担 1

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日本の公的年金の現状と課題 ~給付と負担について~

市田 亜希匡 河野 安希人 小柳 洋亮 田邉 健太 中村 行宏

川崎 乃枝 白藤 佐季 眞島 知美 吉永 桂奈

はじめに

日本の公的年金制度は長期に渡る制度であるため、社会経済情勢の変化で、事前に予想

していた将来の給付と負担の見通しが予想と乖離することがある。このため、財政再計算

という、5年に一度の給付と負担の見通しを見直すことによって、必要な制度改正を行って

いる。今年 2004 年は、その財政再計算の年に当たる。これまで年金制度の仕組み、現状や

課題などについて学んできたが、その中で気になるのは、やはり給付と負担の問題である。

そこで、これらの現状や課題を調べるに至った。

Ⅰ.給付と負担の現状と課題

1.日本の公的年金制度の仕組み

日本の公的年金制度は、国民年金、厚生年金、共済組合の 3 種類から成っている。下図

のように、国民年金は 20 歳以上 60 歳未満の全国民を対象としており、自営業者や学生、

会社員・公務員とその妻らが対象となる。この図ではこの加入者が 3 つに分けられている

が、左から順に、第 1号被保険者、第 2号被保険者、第 3号被保険者と呼ばれる。さらに、

この第 2 号被保険者のうち、会社員を対象とした厚生年金や、公務員を対象とした共済組

合は、職場を通して加入する年金で、それぞれの加入期間分の基礎年金に上乗せされて支

給される。そのために日本の年金制度は、家にたとえられて二階建て方式といわれる。

2.国民年金の給付と負担の現状

すでに記したように、国民年金は、20 歳以上 60 歳未満のものすべてが強制加入となり、

定額 1 万 3300 円の保険料を毎月負担している。40 年間きちんと納付した場合、月額 1 万

3300 円×40 年間で 638 万 4000 円の負担となる。また、国民年金の財源の 1/3 は国庫負担

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であり、税金で賄われている。さらに保険料を納めることが困難な人は、保険料免除制度

により、申請すれば、全額免除・半額免除といった保険料免除を受けられることもあるが、

この場合、減額された年金を受給することになる。そして国民年金に加入していた期間が

原則として 25 年以上の者が 65 歳から年金を受給できる。年金額は満額で 79 万 4500 円が 1

年間で受給できることになる。

3.国民年金の給付と負担の課題

国民年金の給付と負担の課題には少子高齢化や未納・未加入による財源不足があげられ

る。その財源を補う対策として、まず保険料の引き上げがある。現在の保険料は月額 1 万

3300 円であるが、これを毎年 280 円ずつ引き上げ、2017 年度までに月額 1 万 6900 円の水

準にし、以後は固定するというものである。しかし、この金額は現役世代の賃金水準が今

のままだとした場合の 2004 年度価格であり、実際の保険料は、この金額を名目賃金上昇率

に応じて引き上げた金額となる。下の左図が示すように、厚生労働省の当初の説明では、

2017 年度からは 1 万 6900 円で固定であったのに対し、実際には 2017 年度は 2 万 860 円、

2027 年度には 2万 5680 円、また 2037 年度には 3万 1610 円にまで上がることになる。

また現在、基礎年金の財源の 1/3 を占める国庫負担を 2009 年度までかけて段階的に 1/2

に引き上げることも決定している。しかし、この国庫負担割合引き上げに必要な財源は、

年間 2 兆 70000 億円に上るといわれており、その確保が難しく、そのためにこのような段

階的な引き上げになったと考えられる。この国庫負担は税によって賄われているが、下の

右図は、国庫負担割合を引き上げ、その引き上げ分をすべて消費税率の引き上げで賄った

場合の税率を示している。この図によれば、国庫負担割合が 1/3 のままであっても、税率

を 2010 年度には 6.8%2025 年度には 7.9%とする必要が出てくる。そして、国庫負担割合

を 1/2 に引き上げた場合には、2010 年度には 10.0%、2025 年度には 11.6%となる。現在、

国庫負担割合引き上げの財源として有力視されているのが、この消費税率の引き上げであ

るが、税率 1%当たり、年に約 2 兆 4000 億円の税収が見込まれる。しかし、この消費税率

引き上げは、小泉首相が「在任中は引き上げない」と表明しており、難しいと考えられる。

しかし先日、首相の諮問機関である政府税制調査会は、来年度税制改正の答申を小泉首

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相に提出した。この答申は個人所得税の定率減税の 2006 年度までの段階的な廃止や消費税

率の引き上げなどを求めたものである。この定率減税というのは、1999 年に金融機関の相

次ぐ破綻や株価低迷を受け、景気対策として小渕内閣が導入した、本来の納税額から所得

税は 20%、住民税は 15%を割り引くというもので、全廃されれば年収 1300 万円超の世帯

で、上限 29 万円の実質増税となる。この税収を国庫負担割合引き上げの財源とする案が出

ている。

さらに、消費税率引き上げに関しては、財政破綻間際になって大きな税負担を求めるよ

りも今のうちから負担を少しずつ増やしたほうがいいとして、小泉首相の任期切れを待ち、

早ければ 2007 年 4 月に消費税率を引き上げるとしている。さらに財源不足のために、給付

水準が引き下げられる。これは、公的年金加入者数の減少や平均余命の延びに応じて給付

水準を自動的に引き下げるというものである。これによって 2031 年度には、満額受給で月

額 6 万 6000 円が 4 万 5000 円に、また平均受給額の月額 4 万 6000 円が 3 万 2000 円まで、

約 3割カットされるという試算が出されている。

参考文献

「美麻村ホームページ」

http://www.vill.miasa.nagano.jp/kt/nenkin-sikumi.html

「Yomiuri On Line 医療と介護」

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an462301.htm

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an412702.htm

「日本共産党ホームページ」

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik3/2004-06-03/03_01.html

4.厚生年金の給付と負担の現状

厚生年金は、2階建てといわれている公的年金の2階部分に当たるもので、民間の給与

所得者が加入するものである。

保険料は、以前までは賃金を 30 等級に区分し、その自分の該当する区分の報酬に保険料

率である 17.35%をかけたものを労使折半で負担、ボーナスには 1%の特別保険料をかける

という標準報酬制をとっていたが、2003 年 4 月以降は、ボーナスを含めた年間の賃金総額

に保険料率である 13.58%を労使折半で負担するという総報酬制へ移行した。しかし年金改

正で、2004 年 10 月から毎年 0.354%引き上げていき、2017 年以降の保険料水準を 18.3%

に固定することになった。現在の保険料率は 13.934%である。

老齢厚生年金の給付要件は 25 年以上国民年金に加入していることと、厚生年金に1ヶ月

以上加入していることである。ただし、60 歳台前半に年金を受給するためには1年以上加

入していることが必要になる。報酬比例部分の給付額は、現役時代の平均標準報酬月額×

生年月日に応じて異なる給付乗数×加入期間の月数×消費者物価変動に応じて年1回変更

される物価スライド率である。しかし、新規裁定年金だけは賃金水準の上昇に合わせて年

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金額を引き上げる賃金スライド制を取り入れ、現役時代の標準報酬月額を現在の価値に修

正するために賃金再評価を行っている。

給付と負担の基本的な考え方は、改正前はまず給付水準を設定し、必要な保険料である負

担の水準を設定するというものだったが、改正後は将来の負担の上限を先に設定し、その

範囲内で給付水準を調整する方針になった。

給付水準は改正前までは現役世代の平均収入の 70%近い時代もあったが、現在は 59.3%

である。改正後は現役世代の人口の減少とともに水準を調整され、2023 年以降は 50.2%ま

で下がる。 ただし、もらっている年金額は下げない。

5.厚生年金の給付と負担の課題

年金改正では給付水準を 50%維持するとしている。だが、それはあくまで平均的な賃金

で 40 年間勤めた会社員と、ずっと専業主婦だった妻というモデル世帯の 65 歳時点のこと

で、受給が始まってからも水準は年々下がり続け、どの世代の年金も最終的には 50%を大

きく下回る。モデル年金について問題なのは、近年サラリーマン世帯のうち共働きの割合

が専業主婦を上回るようになったにもかかわらず、妻が一度も厚生年金に加入したことが

ないと想定していることである。厚生労働省の試算によると、妻が 40 年間働いた共働き世

帯の所得代替率はすでに 46%で、将来は 39%に下がる見通しである。

給付水準が下がり続ける原因として、マクロ経済スライドはいったん受け取り始めた年

金にも適用されることや、今までは物価が上昇したらその分増額してもらえたが、今後は

物価が上昇してもマクロ経済スライドによって 0,9%程度と予想される調整率が差し引か

れるため、引き上げ幅が小幅にとどまったりゼロになったりする。そのため、実質的な価

値が目減りすることがあげられる。また、マクロ経済スライドが終了し、物価が上昇すれ

ば年金額がその分だけ増える従来の仕組みが復活したとしても、厚生労働省は物価が今後

長期的に年 1%ずつ上昇する一方で、現役世代の名目賃金上昇率はそれを上回る 2.1%にな

ると見込んでいるので、現役世代の賃金と比べた給付水準は、その後も下がり続けるので

ある。下記にあるモデル世帯の給付水準のグラフを見ればわかるように、今年 65 歳の人も

55 歳の人も 45 歳の人も、年金を受給し始める 65 歳時点では給付水準は 50%を上回ってい

るが、歳をとるごとに下がり続けている。カッコ内の年金月額の試算は、どの年代も 65 歳

の時より 85 歳の時の方が増えている。しかし、現役世代の平均的な所得の人に対して、給

付水準が下がり続けているということは、現役世代の名目賃金上昇率に給付世代の物価上

昇分が追いつかず、年金の名目額は減らないが、現在の貨幣価値に換算した実質的な年金

額が減っていることがわかる。

これらの厚生労働省の試算は、合計特殊出生率が 1.39 に上回るとしたものであって、出

生率の落ち込みが今後も続いた場合、給付水準を 50%以上に維持しようとすれば、将来の

保険料率を 18.3%より高くするなどの対応が必要となる。そのため、将来の給付水準への

不透明感や、国民の不安感が強まっている。

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参考文献

「年金給付インデックス」

http://www.shakaihoken.org/sumikin/nenkin/kyuhu_index.html

「MINATO アラカルト・中小企業お役立ち大百科」

http://www.minato-ala.net/oyakudachi/hoken/1_8.html

「厚生年金・国民年金の財政」

http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/zaisei/04/04-00.html

「2004 年 6 月 16 日読売新聞」

Ⅱ.支給開始年齢の現状と課題

1.国民年金の支給開始年齢

国民年金の支給開始年齢は、原則としては 65 歳からとなっている。ただし、60 歳から減

額された年金の繰上げ支給や、66 歳から 70 歳までの希望する年齢から増額された年金の繰

り下げ支給を請求できる。年金額は満額で 794500 円となり月額 66208 円もらうことができ

る。もらえる金額は保険料納付済月数や保険料半額免除月数、保険料全額免除月数によっ

て左右される。また、加入可能年数については、大正 15 年 4 月 2日から昭和 2年 4月 1日

までに生まれた人については、25 年に短縮されており、以降昭和 16 年 4 月 1日生まれの人

まで生年月日に応じて 26 年から 39 年に短縮されている。

まず、全部繰上げをした場合は 0.5%に繰上げ請求月から 65 歳になる月の前月までの月

数をかけて年金額の減額率を出すことができる。例えば 60 歳 0 ヶ月の場合は約 30%、64

歳 0 ヶ月の場合は 6.0%となる。一部繰上げをした場合は、昭和 16 年 4 月 2日から昭和 24

年 4 月 1日(女子は昭和 21 年4月2日から昭和29年4月1日生まれの人)は、老齢厚生

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年金の定額部分の支給開始年齢が段階的に引き上がることから、この支給開始年齢に到達

する前に希望すれば一部繰上げ支給の老齢基礎年金を受け取ることができる。一部繰上げ

を請求した場合には年金額に繰上げ請求月から特例支給開始年齢になる月の月数を繰上げ

請求月から65歳になる月の前月までの月数で割り、そこに1-0.005 と繰上げ請求月から

65 歳になる月の前月までの月数をかければよい。そしてこの二つをまたかければ求めるこ

とができる。ここでの特例支給開始年齢とは、老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢で

あり、65 歳からは老齢基礎年金の金額が加算される。

次に繰り下げ請求では繰り下げの請求を行う月によって増額率は異なり、65 歳になった

月から繰り下げの申し出を行った月の前日までの月数に応じて1ヶ月増すごとに0.7%ずつ

高くなる。66 歳 0 ヶ月の場合増額率は 8.4%となる。ここで気をつけなければならないの

は、繰り下げ支給も繰上げ支給も一度決まった年金額は、その後増減されることはなく一

生変わらないということである。

請求時の年齢 請求月から65歳になる月の

前月までの月数 新減額率

60 歳 0 ヵ月~60 歳 11 ヵ月 60 ヵ月~49 ヵ月 30.0%~24.5%

61 歳 0 ヵ月~61 歳 11 ヵ月 48 ヵ月~37 ヵ月 24.0%~18.5%

62 歳 0 ヵ月~62 歳 11 ヵ月 36 ヵ月~25 ヵ月 18.0%~12.5%

63 歳 0 ヵ月~63 歳 11 ヵ月 24 ヵ月~13 ヵ月 12.0%~ 6.5%

64 歳 0 ヵ月~64 歳 11 ヵ月 12 ヵ月~ 1 ヵ月 6.0%~ 0.5%

請求月から65歳になる月の

前月までの月数 新減額率

60 ヵ月~49 ヵ月 30.0%~24.5%

48 ヵ月~37 ヵ月 24.0%~18.5%

36 ヵ月~25 ヵ月 18.0%~12.5%

24 ヵ月~13 ヵ月 12.0%~ 6.5%

12 ヵ月~ 1 ヵ月 6.0%~ 0.5%

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参考文献

「社会保険庁・老齢年金」

http://www.sia.go.jp/seido/nenkin/shikumi/shikumi02.htm

2.厚生年金の支給開始年齢について

厚生年金の支給開始年齢については、まず60歳代前半の厚生年金は、「定額部分」と「報

酬比例部分」の2つに分かれている。そのうち「定額部分」は1994年の年金改正で6

5歳まで段階的に引き上げが決定しており、「報酬比例部分」は2000年改正で65歳ま

で段階的に引き上げが決定している。

また2004年4月以降、「定額部分」の支給開始年齢が62歳に引き上げられている。

「報酬比例部分」の引き上げは男性の場合、2013年度から始まる。「定額部分」は加

入していた期間が長い人ほど年金額が多く、40年間加入した人で月額約7万円である。

「報酬比例部分」は加入期間の長さに加え、給与水準が高く保険料をたくさん支払った人

ほど年金額が多くなる仕組みで、厚生労働省の試算では、平均的な給与で40年間勤務し

た男性で月額約10万円である。「定額部分」は2001年から3年たつごとに1歳ずつ

引き上げ、2013年に65歳まで引き上げる。また、「報酬比例部分」も2013年から

3年たつごとに1歳ずつ引き上げ、2025年に65歳まで引き上げる。女性については

これを5年遅れで実施する。

厚生年金は、これまで65歳になると支給されていたので、60歳定年制で企業を退職

した人は直ちに年金生活に入ることができた。しかし、60歳定年が維持されたままで年

金の支給開始年齢が65歳に引き上げられると、定年から年金受給までの期間の生活をど

うやって支えるかが問題になる。

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3.65歳までの雇用確保

この年金の支給開始年齢を引き上げによっておこる65歳までの雇用確保についてだが、

65歳雇用継続義務法が2006年度から施行されることとなった。厚生労働省は厚生年

金の支給開始年齢を65歳に引き上げるのに合わせ、定年引上げ、再雇用など継続雇用制

度の導入のいずれかを実施し、年金支給開始年齢までの雇用を段階的に義務付ける方針で

ある。しかし、企業側の準備が必要であるため、大企業は当初3年間、中小企業は当初5

年間を「努力期間」に設定している。

4.支給開始年齢の引き上げに伴う継続雇用

厚生年金を満額もらえる年齢は、2004年4月から段階的に引き上げられており、2

013年4月には、原則65歳になるまで定額部分が支給されなくなる。完全65歳支給

となるのは、2025年4月で、1961年4月2日以降に生まれた男性が対象だが、定

年から年金受給までの期間をどうするか、高齢者雇用対策の在り方が、現在、問われてい

る。厚生労働省は、65歳まで働き続けられる社会の実現を目指して、1990年代初め

からさまざまなキャンペーンを展開してきた。また、労働組合も、1990年代半ば頃か

ら、65歳までの雇用確保を目指して、経営側との話し合いを続けてきた。その結果、2

000年には多くで企業が60歳代前半層の継続について一定の合意が得られ、今日実施

されている。継続雇用に取り組んでいる多くの企業は、定年時(もしくは定年前)に一旦

契約を打ち切り、その後一定期間雇用を延長する「再雇用制度」を導入している。しかし

この「再雇用制度」では、「対象者限定なし」という全従業員を対象としたものだけでなく、

「対象者限定あり」として、組合員限定や職種限定など、特定の従業員層を対象としてい

る企業もあるという問題がある。また雇用年齢については、エイジレス(またはエイジフリ

ー)という「年齢に関係なく、働くことができる環境」が望ましいものの、雇用は「65 歳ま

で」、「公的年金支給開始年齢に連動」、「64 歳以下」など企業によって多様であり、またこ

れらを維持するのが困難であるという企業も少なくない。しかし、松下電器産業のように、

60歳になった人たちも、企業の重要な戦力と考え、60歳になるまでに能力開発を行っ

たり、ネクスト・ステージ・プログラムといった定年後も働きたい人々と求人側を結びつ

けるなどの努力を行う企業もでてきている。

参考文献

「Yomiuri On Line 変わる年金」

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/34/nenkin05.htm

「帝人厚生年金基金ホームページ」

http://www1.e-machisite.net/teijinkn/1nenkinkikin/sono3/3-2.htm

「独立行政法人・労働政策研究・研修機構」

http://www.jil.go.jp/seika/fujimura.htm

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「連合総研」

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no183/houkoku1.htm

5.支給開始年齢改革案

財務省が検討を始めた「67歳案」とは、平成16年の年金制度改革で、国民年金・厚

生年金などすべての年金支給開始年齢を、2025年度以降、これまでに決まっていた「6

5歳支給」から「67歳支給」へと2歳引き上げるというものである。この結果、長期的

には年間数兆円の財政負担が軽減できるものと見られている。これまでの年金支給開始年

齢は「60歳」だが、少子高齢化の進展と年金財政の悪化から、ここ数度の年金改革によ

り年金支給開始年齢は「65歳」に延長された。対象は2020年前後に60歳となる世

代からである。

急速な少子高齢化に伴う年金財政の悪化に歯止めを掛けるため、抜本的な制度改正を迫

るのが目的だが65歳定年制のめどすら立っていないという問題があるため年金加入者に

とっては納得できないものである。

財務省案の根拠は、国立社会保障・人口問題研究所が昨年1月公表した平均寿命で、2

050年時点で男性80.95年、女性89.22年と前回年金改正の前提だった5年前

の数値より平均約2年延びたことで、65歳支給開始を続ければ、2年分の給付が年金財

政の負担となる。年金保険料や税金で国民に負担が跳ね返るのを防ぐため、67歳支給開

始が避けられないとの見方である。

財務省は今回の改革案で、長期的には年間数兆円の財政負担軽減が図れると試算してい

て、持続可能な年金制度の安定財源に有力視される消費税率の引き上げなしに、基礎年金

の国庫負担率(現行3分の1)を2分の1に引き上げる財源(16年度で2.7兆円相当)

を捻出できるとしている。

参考文献

週間税ニュース 03/9/5〔制作・著作 (株)エヌピー通信社〕

Ⅲ.在職老齢年金の現状と課題

1.在職老齢年金の現状

在職老齢年金とは、60歳以上で会社に「在職」し厚生年金の加入者に支給される年金

のことである。厚生年金における「在職」とは、現に働きながら厚生年金保険料を負担し

ている状況のことをいう。働いて収入を得ていても、自営業や短期の臨時的雇用、短時間

パートなどのときは厚生年金に加入できないので「在職」に該当しない。したがって、収

入の高低に関係なく、年金はカットされず全額支給される。厚生労働省は、年金財政を少

しでも楽にし、少子高齢化で負担が重くなっていく若い世代の理解を得るためには、定年

後も働く人の年金を減額することはやむを得ないとしている。ただ、働くと年金が減るの

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で、定年を過ぎた人のせっかくの勤労意欲を失わせるという“副作用”がある。

在職老齢年金の仕組みは、60歳代前半と後半、そして70歳以降を対象とした3つに

分けられている。まず、60歳代前半の人を対象にした現行制度では、どんなに賃金が低

くても年金の受給額は一律に2割減額され、その残りと賃金の合計が28万円を超えたら

超過額の半分がさらに減額される。次頁の図の年金額を月10万円とした試算では、賃金

が10万円のとき、年金額は一律に2割減額され8万円となり、収入は賃金と合わせて1

8万円となる。賃金が20万円のときも年金は2割減額され、収入は計28万円となる。

賃金が30万円のときは、年金が2割減額されても収入は計38万円となり28万円を超

えるので、その超過額10万円の半分の5万円が減額され、収入は33万円となる。しか

し、2005年4月からの新制度では、受給者が働く意欲を失わないよう一律2割減額が

廃止される。賃金と年金の合計額が28万円を超える場合、超過額の半分を減額する仕組

みは継続される。現行制度と2005年 4 月からの新制度の試算を比べてみると、新制度

では低賃金の人ほど減額が小さくなり、賃金と年金の合計金額が増えている。次に、60

歳代後半の人を対象とした現行制度では、年金と賃金の合計が48万円を超えたら超過分

の半分が減額され、基礎年金は減額されない。そして、60歳代後半を対象とした制度の

改正は現在のところない。しかし、70歳以上の人は現在働いて賃金を得ていても減額の

対象にならないが、2007年4月からは、60代後半の人と同じ減額方法が適応される。

また、減額の試算には従来、月給が使われていたが、今年の4月から月給に年間賞与の1

2分の1を加えた賃金を基準とする仕組みに変わった。賞与が少ない人は年金額がやや増

える一方、賞与の多い人は年金額が以前より減る場合がある。

2.在職老齢年金の課題

在職老齢年金の課題としては以下のようなものがあげられる。第1に、在職老齢年金に

算入される賞与は「過去1年間」を反映するため、59歳時の大きな賞与が一定期間年金

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受給額に影響を及ぼすことになる。第2に、賞与とは本来支給が決まっていないが、賞与

の支給額の変動はその都度年金受給額の変動を意味する。年2回の賞与を支給する企業で

は、賞与に関連して年2回年金受給額が改定される。このため高齢者の生活設計上、年金

額が安定しないという問題が生じる。第3に、賞与の支給月が前年と異なる場合、年2回

の賞与支給の企業でも「その月以前1年間」の賞与の回数が月によっては2回になったり

3回になったり1回になったりして、これも年金受給額変動の要因になることなどである。

少子高齢化への対応で大事なことは、意欲のある高齢者が、できるだけ長く働き続けら

れる環境をつくることである。高齢者の能力を活用することで社会全体の生産力が高まり、

経済にプラスの効果があるのだ。年金の減額で働く人に大きなペナルティーを科すべきで

はないとの指摘がある。しかし、減額を廃止しても、就労の増加で税収がどれだけ増える

かは未知数だ。その一方、在職老齢年金制度で支給停止になっている厚生年金は、「総額で

1年間に約5000億円程度」(厚労省幹部)で、この金額は、厚生年金の支給総額(年約

20兆円)の約2.5%に相当する。もし税収増のほかに年金課税を強化し、その分も合わ

せて年金財源に回したとしても、年金給付の増加分をすべて補うことは難しいという見方

が強い。だが、日本の総人口は2006年を頂点として減少に転じる見通しで、労働力人

口もしだいに減っていく。超高齢時代に社会の活力を維持するためには、年金の減額をさ

らに緩和して、受給者の働く意欲を引き出す案も十分検討に値するのではないだろうか。

今後の年金改革は、税制などを含めたもっと広い視野で考える必要があると思われる。

参考文献

「Yomiuri On-Line @Money」

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/34/nenkin08.htm

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/43/kaikaku43.htm

「NIKKEI NET Biz Plus」

http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/jinji/media/index.cfm?i=j_jinjiroumuqa044

Ⅳ.世代間格差の現状

給付と負担において、今、国民の間で重要視されている問題の1つとして世代間格差問

題が挙げられる。2004 年の年金改革関連法に基づいて、厚生労働省が保険料負担額と年金

受給額を各世代で試算した結果が公表された。すでに年金受給世代である昭和 10 年生まれ

(2005 年に 70 歳)は、厚生年金のモデル世帯の場合には、生涯で負担した厚生年金険料額

の 4.1 倍の年金を受給できるのに対し、昭和 30 年生まれ(同 50 歳)の場合は 1.6 倍、昭

和 50 年生まれ(同 30 歳)では 1.2 倍…となる。

そして、このような世代間の格差が生じる原因として1つ目に、制度創設以降、加入期

間の短い人(保険料を十分に払っていない人)にも一定水準の給付を、物価や賃金の上昇

に応じた給付改善を行う一方で、これまでの給付水準に見合った保険料を徴収しなかった

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こと(給付改善に必要な費用は将来世代の負担とし、先送りにしてきたこと)、2つ目に、

保険料について将来にわたり段階的に引き上げていくこととしているため、生年月日が遅

くなるにつれて保険料負担は増加すること、3つ目に、生年月日が遅くなるほど、特別支

給の老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられるなどのために、年金給付額が少なくな

っていることなどがあげられる。

今後どのようにしてこの世代間格差の問題を解決させていくかが政府に問われている大

きな課題である。

参考文献

「All About・年金」

http://allabout.co.jp/finance/nenkin/closeup/CU20040225/

さいごに

ゼミに入る前は、年金についてのイメージはただ漠然としたものであったが、ゼミに入

ってから今まで「年金」を勉強してきて、年金の全体像を理解することができ、また、年

金に対する正確な知識も身に付いたのではないかと思う。この研究内容は、卒業論文ある

いは、その他の場所で是非とも活かしていきたい。

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