昭和52年5月20日 231

Nocardia asteroidesの 分 離 と そ の 感 染 例 に つ い て

千葉大学医学部附属病院検査部(感 染症)

小 林 章 男 久 保勢津 子 荒 木 正子

Key words: Nocardia asteroides, Nocardiosis, Minocycline

Nocardia asteroidesは 土 壌 に 存 在 し1),人 に は

常 在 して い な い7).吸 入 に よつ て 人 に 感 染 す る と

考 え られ,肺 に初 病 巣 を つ く り,脳,皮 下,そ の

他 に播 種 性 に病 巣 を生 じた り,足 に 菌 腫 を つ くる

こ と もあ る10).い つ ぽ う,こ の菌 が 分 離 され て も

臨 床 的 意 義 の不 明 の こ とも あ る7).

近 年,免 疫 系疾 患 や,長 期 ス テ ロイ ド療 法,免

疫 抑 制 療 法 な どに よつ て,感 染 防 御 能 の 減 退 した

患 者 が 多 く医 療 の対 象 となつ て 来 てい る.そ して

N. asteroidesの よ うな弱 毒 菌 がopportunistic(日

和 見 的)に 前 述 の 患者 に感 染す る こ とが 多 くな つ

た と思 わ れ て い る2).こ の菌 に よる感 染 症 の報 告

の多 くは1例 報 告 で,わ が 国 で も1969年 以 降,14

症 例 が 報 告 され て い る22)～36).し か しYoungら3)

は1960～1969年 間 に22症 例,Goodmanら4)は 上 と

同 じ期 間 に15症 例,Palmerら5)は1966～1972年 間

に13症 例 のN. asteroides症 を ま とめ てi報告 して

い る.最 近Frazier6)ら は1974年 か ら2年 間 に25

症 例 を記 載 して い る.わ れ わ れ も こ の2年 間 に8

症 例 か らN. asteroidesを 分 離 した の で 報 告 す

る.

材 料 と方 法

8症 例 のN. asteroidesは す べ て千 葉 大 学 病 院

検 査 部 に 依 頼 され た 検 体 か ら分 離 され た.こ の期

間 は1974年2月 か ら1976年3月 まで で,こ の 間 当

部 で は43,685検 体 の抗 酸 菌 を 含 む 細菌 培 養 検 査 を

行 つ て い る.

培 養-検 体 はす べ て 羊 血液 平 板,チ ョコ レー ト

平板,チ オ グ リ コ レー ト培 地,GAM平 板 に接 種

し,37℃ で好 気 性 また は嫌 気 性 に 培 養 した.ノ カ

ル ジ ア症 が と くに疑 わ れ た 場 合 は抗 生 剤 無 添 加 サ

ブ ロ ー培 地 も併 用 し,21日 間 以上 培 養 した.一 部

の 検 体 は 等量 の4%水 酸 化 ナ ト リウム 水溶 液 を加

え 均 等 化 し,3%小 川培 地 に接 種 し8週 間培 養 し

た.

同 定-発 育 が遅 く,乾 燥 した 白亜 な い しオ レ ソ

ジ色 を 呈 す る,し か も培 地 に 食 い こむ 傾 向 の あ

る,特 有 の 「土 壁 」 臭 の あ る集 落 で,集 落 が大 き

くな る と シ ワが 表 面 に み られ る もの をN. asteroi-

desを 疑 い 同 定 を 行 つ た.塗 抹 染 色 は,グ ラ ム染

色 お よび1%硫 酸 に よる脱 色 を 行 うKinyoun変

法 の抗 酸 染 色 に よつ た8)12).す べ て の 株 は カゼ イ

ソ,キ サ ンチ ン,チ ロジ ンを 含 む 平 板12)に 塗 抹

し,25℃ で21日 間 培 養 しそ の分 解 性 を 観 察 した.

この さ い 千 葉 大 生 物 活 性 研 究 所 よ り分 与 され た

N. asteroides LFM-3W株 とN. brasiliensis IFM-

16株 を対 照 株 と して用 い た.株 の あ る もの は 同

研 究所 に依 頼 し,細 胞 壁diaminopimelic acid分

析9),糖 分 解,そ の 他 の 性 状 か らN. asteroidesと

確 認 され た.

感 受 性 試 験 分 離 菌 お よび 標 準 菌株 を そ れ ぞ

れ,Tween 8.0を0.1%に 含 む ブ レイ ンハ ー トイ

ンフ ジ ョ ン培 地(栄 研)に 接 種 し37℃ で3日 間培

養 し,そ の 後 激 し くか くは ん し,一 夜 室 温 に お

き大 き な菌 塊 を 沈 殿 させ,上 清 を 多 目的 アパ ラ タ

ス(レ プ リカ法)で,ミ ノサ イ ク リ ン,エ リス ロ

マ イ シ ン,ア ソ ピシ リ ソ,お よび ス ル フ ァメ トキ

サ ゾー ル と トリ メ トプ リ ソ合 剤 を 種 々 の濃 度 に 含

む感 受 性 培 地(ニ ッス イ)に 接 種 し,3日 間 培 養

し,菌 発 育 の み られ な い最 小 の濃 度 を菌 発 育 最 小

阻 止 濃 度 と した.た だ し前 述合 剤 の測 定 に は培 地

に さ らに 馬 溶 血 液 を7.5%に な る よ うに加 えた.

232 感 染症学 雑誌 第51巻 第5号

成 績

分離株の性状 すべての株はグラム陽性で長桿

菌であ り,と きに分岐が見 られた,Kinyoun染 色

では淡赤色に染色され,と ころどころにビーズ様

の顆粒が認め られることもあつた.Ziehl-Neelsen

染色では染色 されない 場合が 多かつた.カ ゼイ

ン,チ ロジン,キ サ ンチンは分解されなかつた.

サブロー培地では血液平板と同様に発育した.株

によつて発育程度に差があるのが特長であ り,一

部の株は血液平板で24時間でかなり厚い菌苔をつ

くつたが,他 の株では3日 以上培養 してもなお菌

苔が薄かつた.ま た多 くの株はハー トインフジョ

ソ液体培地で菌膜を形成し発育 したが,形 成 しな

い株 もみ られた.株 によつて集落の色が異なり白

亜か らうす レソガ色,オ レンジ色など種々であつ

た.1%小 川培地上でも血液平板 と同様に発育す

るが,培 養が古 くなると同一培地上での集落の色

が異なることがあつた.好 気性で37℃ で発育する

が,25℃ 培養,湿 潤培養,炭 酸がス培養を行 って

もとくに発育を促進することはできなかつた.

集落の検出 ノカルジアは一般に発育が遅 く,

長期間の培養を要 し,検 出が困難 とされている.

そこでわれわれがN. asteroidesの 集落を発見し

た日と培地の種類,集 落数 との 関係を 調べて み

た.Table1に 示したように,一 般に 分離菌数が

多かつた り,純 培養状の発育の 時には,培 養1

日,2日 でも集落が認められていた.大 部分の症

例では培養2日 迄で発見 されていたが,3日 目,

5日 目に初めて発見 された例 もあつた.血 液平板

とチ ョコレート平板ではとくに菌発育に差がなか

つた.抗 生剤無添加サブロー培地,チ オグリコレ

ー ト,GMA寒 天はすべての検体には用いていな

いので陽性検体数は少なかつた.症 例4で は培養

9日 目に初めてN. asteroidesの集落が血液平板お

よびチョコレー ト平板で少数認め られたが,こ れ

はABPCが 投与されていたためと考え られた.

症例7で も9日 目 に比較的多数 のN. asteroides

の集落が認められたが,こ れは口腔内常在菌が過

Table 1. Relationship between date of detection in culture and number of

colony of N. asteroides isolated from the patients in various media.

Number in the table indicates the number of colony, +indicates heavy growth.

*=7 th day, **;9 th day

昭 和52年5月20日 233

Table 2 Nocardial isolates of 8 patients.

LLL= left lower lobe, BUL= bilateral upper lobe, LUL= left upper lobe

剰 発 育 した た め と考 え られ た.症 例1で は チ オ

グ リ コ レー トで,7日 目に少 数 の集 落 が 認 め られ

た.

喀 痰 を4%NaOHで 処 理 し3%小 川 培 地 で 培

養 した 時 は,結 核菌 の 検 出 を 目的 と した もので あ

つ た が,N. asteroidesが 培 養1週 間 目で症 例3か

ら,10日 目で 症 例8か ら,3週 間 目で症 例2,症

例4,症 例5か ら,4週 間 目で症 例2か ら,5週

間 目では 症 例7か らそ れ ぞ れ1～76コ の集 落 が 検

出 され た.

症 例N. asteroidesが1回 で も分 離 され た症 例

はTable 2に ま とめ た.馬

症 例1と2は とも に 腎 移 植 後 の患 者 で 分 離N.

asteroidesが 明 らか に原 因菌 となつ て い た.症 例

1は 生 体 腎 移 植 後 イ ム ラ ン,プ レ ドニ ン,ALGG

の投 与 を受 け て いた が,115日 目に 発 熱 し,左 側

胸 痛 出 現 し左第6肋 骨 部 皮 下 に波 動 を 伴 う腫 脹 を

認 め た.ア ン ピ シ リン,セ フ ァ ロ リジ ンを 投 与 し

た が 改 善 が み られ な か つ た.140日 目に同 部 を 切

開 し膿 汁 を 得,こ れ か らN. asteroidesが 純 培 養

状 に 検 出 され た.デ ィス ク感 受性 検 査 で適 合 抗 生

剤 で あ つ た ミノサ イ ク リ ン を200mg/日 投 与 し,

そ の投 与12日 目 よ りN. asteroidesの 膿 汁 か らの

分 離 が陰 性 化 した.発 熱 は ミノサ イ ク リン投 与 数

日で解 熱 した.38日 間 同剤 を 投 与 し中 止 した が再

発 な く,3年 後 の現 在 社 会 復 帰 してい る.

症 例2は 死体 腎移 植 を受 け,前 症 例 と同 じ免 疫

抑 制 剤 を投 与 され た.240日 後 に38℃ の発 熱 と右

側 胸 部 痛 で再 入 院 した.263日 目の胸 部 レ ソ トゲ

ン線 像 で は,右 肺 中野 に3コ の均 一 な結 節 性 陰 影

を 認 め た.喀 痰 か らN. asteroidesが 分 離 され,

268日 か ら出 現 して きた 右第10, 11肋 骨 部 の胸 膜

外 膿 瘍 か ら も同菌 が 分 離 され た.適 合 抗 生 剤 で あ

つ た ミノサ イ ク リ ン を200mg/日 を3日 間,400

mg/日 を2日 間,200mg/日 を 再 び9日 間,さ らに

100mg/日 を24日 間,計38日 間 投 与 した.発 熱 は こ

の 治療 開始5日 目で解 熱,そ れ と期 を 同 じく して

N. asteroidesの 培 養 も陰 性 化 し胸 部 陰 影 も消 失 し

た.腎 移 植後1年7ヵ 月後 他 の原 因で 死 亡 し剖 検

が 行 わ れ た が,N. asteroidesは 検 出 され なか つ

た.こ の2症 例 は 他 の論 文 で さ らに詳 述 す る11).

症 例3は 分 離N. asteroidesの 病 原 的解 釈 が か

な り困 難 な例 で あつ た.気 管 支 鏡 に よつ て得 られ

た 左 気 管 支 分 泌 物 か らN. asteroidesが 比 較 的 多

234 感染症学 雑誌 第51巻 第5号

Table 3. Susceptibility of N. asteroides isolated from the patients.

*100μg contains 4.8μg Trimethoprim and 95.2μg Sulfamethoxazole

数 分 離 され た が,両 肺 野 に レ ン トゲ ン線 像 上,限

局 性 肺 病 変 は み られ ず,両 肺 下 野 に気 管 支 像 の増

強 が 見 られ るの み で あつ た.そ の 後 も喀 痰 か ら

N. asteroidesが4回 分 離 され た の で,ア ン ピシ リ

ンを 投 与 した とこ ろ菌 が 陰 性 化 した.そ こでN.

asteroidesの 原 因性 は 不 明 の ま ま 経 過 を 観 察 し

た.5カ 月後 気 管 支 拡 張症 の 手術 の た め喀 痰 を培

養 した と ころ1回 の み1白 金 耳 量 塗 抹 で10コ の

N. asteroidesが 再 び 分 離 され た.こ の 時 点 で も限

局 性 肺 病 変 や 播 種 性 病 変 は 見 られ な か つ た.手 術

中 シ ョッ クで死 亡 し剖 検 は 行 わ れ な か つ た.

症 例4は 急 性 骨 髄 性 白血 病 で39℃ に 発 熱 し,喀

痰 か ら抗 生 剤 投 与 前2回 続 け て 少 数 ず っN. aste-

roidesが 分 離 され た.後2回 は 培 養 陰 性 で あ つ た

が痰 のKinyoun染 色 で 同菌 と思 わ れ る 菌 が 鏡 検

で認 め られ た.ミ ノ サ イ ク リ ンお よび サ ル フ ァ剤

で 治療 し,喀 痰 か らのN. asteroidesは 数 日で 陰

性 化 した.し か し発 熱 は いぜ ん持 続 し,緑 膿 菌 が

痰 か ら分 離 され る よ うに なつ た.N. asteroidesの

分 離 と発 熱 との 関係 は不 明 に終 つ た.

症 例5と6は,と もに喀 痰 か ら1回 のみ 少 数 の

N. asteroidesが 分 離 され た が,そ の後 患 者 が 来 院

せ ず,追 跡 不 能 で病 原性 を 明確 に で きなか つ た.

す な わ ち症 例5は 気 管 支 拡 張 症 の臨 床 診 断 で 喀 痰

の 結 核 菌培 養 を 行 い,小 川 培 地 で3週 目に18コ の

N. asteroidesが 発 育 した.レ ン トゲ ン線 像 で は両

肺 尖 に 浸 潤 像 が 認 め られ た.症 例6は 肺 結 核 の疑

いで 前 例 と同様 の培 養 を 行 い3週 目に 小川 培 地 で

5コ のN. asteroidesが 発 育 して きた,レ ン トゲ

ン線 像 で は 左 肺 上 野 に空 洞 が認 め られ た.

症 例7は 腎 移植 後 発 熱 あ り,右 肺 中野 に辺 縁 明

瞭 な小 指 頭 大 の陰 影 を レ ソ トゲ ソ線 で証 明 した.

喀 痰 の培 養 でN. asteroidesを2回 検 出 した が そ

の後 繰 り返 し培 養 を 行 つ た がN. asteroidesは 検

出で きず,ミ ノサ イ ク リソ,サ ル フ ァ剤 を投 与 し

た が 肺 の陰 影 は 不 変 で,発 熱 も 持 続 し,治 癒 さ

せ 得 な かつ た.症 例8は 以 前結 核菌 が 検 出 され

た こ との あ る患 者 で あ るが,1回 の み 小 川培 地 で

N. asteroidesが5コ 検 出 され た.そ の 後 繰 り返 し

喀 痰 培 養 を続 け た がN. asteroidesも 結 核 菌 も検

出 され な かつ た.症 例7, 8は 病 原 的 意 味 は ない

と考 え られ た.

薬 剤 感 受 性 検 査 対 象 と した4抗 菌 剤 の うち で

は,Table 3に 示 した よ うに ミノサ イ ク リ ン が

い ず れ の 株 に も 平 均 して 低 い 最 小 発 育 阻 止 濃 度

(MIC)を 有 して い た.エ リス ロマ イ シ ソ も株 に

よつ ては か な り低 いMICを 示 した が被 検 株 の2

株 は100μg/ml以 上 の 耐 性 を示 した.ス ル フ メ ト

キサ ゾール ・ トリメ トプ リン 合 剤 も比 較 的MIC

は低 く,常 用 量 の 血 中 濃 度 か らみ て有 効 な 株 が 多

か つ た が1株 は100μg/ml以 上 の 耐 性 株 で あ つ

た.ア ソ ピシ リ ソが 最 も効 果 が 劣 り3株 が 高 度 耐

性 菌 で あつ た.

考 察

N. asteroidesは 好 気 性 の放 線 菌 類(actinomyc-

etes)で,一 般 に は 異 つ た 群 か ら 成 つ て い る と

考 え られ て い る.形 態 ・生 理 ・化 学 的 性 状 に よつ

て,2つ の亜 群 に分 け る研 究 者 が あ る13)14).本 報

昭 和52年5月20日235

Table 4. Nocardia asteroides infections reported in Japan since 1969.

LUL=left UpPer lobe of lung, RUL= right upPer lobe of lung, SM= streptomycin, CP= chloramphenicol,

EM= erythromycin, ABPC= ampicillin, KM= kanamycin, ST= sulfamethoxazole & trimethoprim, CL=

colistin, TOLM= Triacetyloleandomycin

で は亜 群 に まで は分 類 しな か つ た が,菌 の発 育 状

態,色 な どが 株 に よ り著 し く異 な つ た の は,上 述

の事 実 に よる のか も知 れ ない.

N. asteroidesが 人 に 病 原 性 の あ る こ とは,

Eppinger16)が1890年 人 の脳 膿 瘍 か らこの菌 を初 め

て分 離 して 以来 広 く知 られ て い る.最 近 の 米 国 に

お け る4病 院 か ら3)～6)の,ま とまつ た 報 告 を 検 討

す る と,肺 に病 変 の認 め られ た 症 例 は42で,こ の

うち肺 の み に 病 変 の あ つ た もの21,肺 と胸 膜 に 病

変 の あつ た症 例 は10,肺 と脳 膿 瘍 の合 併 した 症 例

は12,肺 と皮下,腎,肝,甲 状 腺,陰 嚢,創,筋,

心 臓,胃 のい ず れ か に 合併 病 巣 を有 した 症 例 が 各

1な い し2例 にみ られ てい る.肺 と関 係 の な い,

肺 以 外 の感 染 と してFrazierら6),Goodmanら4)

は 各5例 を 報 告 して お り,脳,四 肢 皮 下,骨 髄 な

どの病 巣 を あげ て い る.わ が 国 で は 福 代 ら10)が

1969年 まで の 内臓 ノ カル ジア症 を15症 例 紹 介 して

い るがN. asteroidesが 分 離 同 定 され て い る の は

2例 のみ で あ る.1969年 以 降 のN. asteroides症

例 は,学 会 報 告 の要 旨 も含 め 表 記 す る とTable 4

に示 す14症 例 で あ る.肺 のみ に 病 変 が 認 め られ た

もの は3,肺 と脳 に病 変 の あつ た もの1,肺,脳

と骨 髄 炎 ま た は他 の臓 器 に病 変 の あつ た もの2,

脳 膿 瘍 の み ま た は髄 膜 炎 は各1,そ の他6で あ つ

た.わ が 国,米 国 の例 で肺,脳 膿 瘍 の多 い こ とは

共 通 し,わ が 国 で骨 髄 炎 の症 例 が 比 較 的 多 い こ と

は興 味 深 い.

N. asteroidesが 痰 か ら分 離 され れ ば ノ ヵ ル ジ ア

236 感 染症学雑 誌 第51巻 第5号

症 と考 え られ て いた が17),Hostyら77)は この 分 離

の み で他 に所 見 が な い ときは ノ カル ジ ア症 と診 断

で きぬ こ とを 報 告 した.彼 らは134名 の痰 か ら

N. asteroidesを 分 離 した が,こ れ らは 肺 ノ カル ジ

ア症 とは診 断 で きなか つ た.こ の うち の1例 は3

年 間 に21回N. asteroidesが 検 出 され た に もか か

わ らず,肺 組 織 に は この菌 を証 明で き なか つ た.

Youngら3), Frazierら6)も そ れ ぞ れ9症 例 ず つ

で,Goodmanら4)は2症 例 で,痰 か らN. asteroides

が検 出 され て も,レ ン トゲ ン線 像 上 特 有 な 病 変 が

見 られず,自 然 に治 癒 した り,そ の 後 の経 過 で も

症 状 が 出現 しなか つ た り,1回 の 分 離 だ け で あ つ

た りした症 例 を報 告 して い る.

わ れ わ れ の8症 例 で も,N. asteroidesが 確 か に

病 原 とな つ た と 考 え られ た 例 は 症 例1お よび2

の2例 に過 ぎなか つ た.症 例3, 4は 病 原 的 意 味

は か な りあ る と思 わ れ るが 経 過 か らみ て 確 証 は 得

られ な か つ た.症 例5, 6は 病 変 が 肺 に み られ,

N. asteroidesが 検 出 され た が 追跡 が 不 能 で あ つ

た.症 例8は1回 の検 出 のみ で あ と10数 回 の 培 養

に もか か わ らず 菌 が検 出 され ず,病 原 性 は な い と

思 わ れ る.

こ こで注 意 す べ き こ とは,N. asteroidesの 検 出

が 必 ず し もノ カル ジア症 を示 さ な いに して も,脳

そ の 他 へ の転 移 もあ る の で,や は り予 防 的 意 味 で

抗 ノ カル ジ ア剤 を投 与 す べ き と考 え られ る.

N. asteroidesは 弱毒 菌 と考 え られ,多 くの 症 例

で は感 染 を促 進 す る基 礎 疾 患 や 医 療,す な わ ち 悪

性 腫 瘍,ス テ ロイ ド剤 使 用,糖 尿 病,免 疫 抑 制 剤

治 療 を受 け て い る結 合 織 疾 患 あ るい は臓 器移 植 に

併 発 して い る18).ま た,気 管 支 炎,喘 息,肺 結

核,肺 胞 蛋 白症 な どに も合 併 す る18).わ が 国 の

1969年 以降 の14症 例 で も,4例 で 副 腎 皮 質 ホ ル モ

ンの使 用 が記 載 され てお り,わ れ わ れ の8症 例 中

4例 に も これ が 使 用 され て いた.

しか しも ち ろん これ ら感 染 促 進 因 子 が存 在 しな

く と も発 生 してお り,Goodmanら4)の15例 中9,

Frazierら6)の25例 中7, Palmerら5)の243例 の

文 献 に よる症 例 では49%に この よ うな促 進 因子 が

み られ ず 発 症 して い る.ノ カル ジア が土 壌 に存 在

することか ら,こ の吸入によつて肺に初感染巣を

つ くると考え られているが,ま た足にノ カルジァ

菌腫が発生 しやすいことはよく知 られてお り10),

わが国の症例では皮膚面が侵入門戸 となつたと考

えられる症例が少な くない23)29)30)31)32)35)36)のは興

味深い.と くに阿部 ら29)は眼窩上部に突 きささつ

た木片が誘因とな り化膿性髄膜炎が起 こつた症例

を報告 してお り,こ れは皮膚面が内臓ノカルジア

症の侵入門戸となり得ることを示唆 している.

喀痰か らのN. asteroidesの分離検出は,口 腔常

在菌の過剰発育に よつてかな り困難であ り,ま た

培養は少なくとも2週 間は行 うべきことが薦め ら

れている18).し か し痰の培養をすべて2週 間行 う

ことは 日常検査では不可能である.わ れわれの成

績が示 したように,実 際には3日 以内にかな りの

菌株は発育が認め られ分離 されていた.し たがつ

て微小な白色の乾燥 した,培 地に食いこむ集落を

注意 しさらに拡大鏡を用いれば,検 出率は上昇す

ると考えられる.抗 生剤無添加サブロー培地をす

べての検体に併用 し少 くも3日 間は培養すればさ

らに有益であろ う.も ちろん臨床的にノカルジア

の検出が予想されれば,わ れわれの経験 した よう

に培養期間を 延長 し,培 養9日 目で初 めて検出

するといつたこともできよう.痰 のNaOH処 置

によつても,N. asteroidesは かなり生存 するの

で7),こ の点を考慮 して検出に努めるべ きで,非

定型抗酸菌 とも鑑別すべきである.わ れわれの成

績で小川培地での発見がおそいのは,一 部は見な

れぬ集落があ り菌記載にちゅうちょしたためと思

われる.

治療にはサルファ剤を初めとして多くの抗生剤

が用い られている5)18).こ れは著効を示す薬剤が

ないことを示 していると考えられる.Bachら19),

Lernerら20)は 最近 ミノサイクリンが 試験管内で

N. asteroidesに 最も有効であ る ことを示 し,1

症例に用いても有効であつた と報告 している21).

われわれの成績も少数株であるが これを確認 し,

2症 例で満足すべき効果が得 られた.従 来サル フ

ァ剤は長期間使用することが薦められているが,

ミノサイクリンにより本報で示 したように比較的

昭和52年5月20日 237

短 期 間 で治 癒 さ せ うるか も知 れ な い.今 後 検 討 す

る価 値 が あ る と考 え られ る.

結 語

Nocardia asteroidesが 千葉 大 学 病 院 で,最 近2

年 間 に8症 例 か ら検 出 され た.こ の うち2症 例 は

明 らか に この 菌 が 病 原 とな つ て お り,ミ ノ サ イ ク

リ ンで 治 癒 させ え た.2症 例 で は病 原 性 がか な り

疑 わ れ た が 確 認 は で きな か つ た.2症 例 は 明 らか

に病 原 とは なつ て い なか つ た.他 の症 例 は追 跡 が

不 能 で あつ た.N. asteroidesの 集 落 は 大 部分 は培

養1～3日 で認 め られ てい た.ま た 試 験 管 内 で は

ミノサ イ ク リンが最 も有 効 で あつ た.

謝辞 分離菌の確認 を して 頂 いた 千葉大生物活性研

究所新井正教授,三 上 裏博 士に感謝致 します.本 研究

は 「続発 した感染症 の 実態 とその 臨床細菌 学的分析 に

関す る研 究」の厚生省特別研究費の支援を受け ました.

文 献

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The Isolation of Nocardia asteroides and its Infection Cases

Akio Kobayasi, Setuko Kubo and Masako Araki

Department of Laboratory Medicine, Chiba University Hospital, Chiba, Japan

N. asteroides was recovered from 8 patients during recent two-year period. In two patients who

had been transplanted the kidneys, this microorganism was confirmed to be the pathogen causing the

lesions of the lung and the chest wall. The both patients recovered by the treatment of minocycline with

surgical drainage. On the other hand, the organism isolated was considered to be transient colonization

in the other two patients. In the remaining 4 patients, N. asteroides isolated was suspected to be pa-

thogenic. A patient with AML had N. asteroides repeatedly in her sputa, and the organism was

eliminated rapidly by the treatment of minocycline, but she was superinfected by the other bacteria.

Repeated isolations and reappearring of N. asteroides after discontinuation of the therapy were observed

in a patient with bronchiectasis, but it never became manifested. The 2 patients having abnormal findings

of chest roentogenogram had isolation of the organisms only once, but the follow up was failed.

The colonies of N. asteroides mostly became recognizable within 3 days after inoculation of the speci-

mens onto blood agar plates. Minimal inhibitory concentration of minocycline to the organisms isolated

was in the range between 0.05 to 0.8μg per ml.

Erythromycin, ampicillin and trimethoprim-sulfomethoxazole had higher MIC compared with

minocycline. The Japanese literatures describing 14 cases of N. asteroides infection since 1969 were

reviewed.