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Title 個別の教育支援計画の活用促進の一考察 : システム教育 学の観点から Author(s) 城間, 園子; 緒方, 茂樹 Citation 高度教職実践専攻(教職大学院)紀要, 4: 11-24 Issue Date 2020-03-06 URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/45576 Rights

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Title 個別の教育支援計画の活用促進の一考察 : システム教育学の観点から

Author(s) 城間, 園子; 緒方, 茂樹

Citation 高度教職実践専攻(教職大学院)紀要, 4: 11-24

Issue Date 2020-03-06

URL http://hdl.handle.net/20.500.12000/45576

Rights

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1.はじめに

 「障害のある児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し,教育の視点から適切に対応していくとい

う考えの下,長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な教育的支援を行うこ

と」を目的に個別の教育支援計画の策定が「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」(2003)

で提示された。また,特別支援学校幼稚部教育要領及び小学部・中学部・高等部学習指導要領(2009告

示)において「家庭及び地域や医療,福祉,保健,労働等の業務を行う関係機関との連携を図り,長期

的な視点で児童又は生徒への教育的支援を行うために,個別の教育支援計画を作成すること」が義務づ

けられた。このことを受けてこれまで各都道府県及び市町村等では様式の検討を図るなど,特別支援教

育を推進する上でのツールとして個別の教育支援計画の作成・活用が特別支援学校並びに小中高等学校

【研究論文】

個別の教育支援計画の活用促進の一考察

― システム教育学の観点から ―

城間 園子1・緒方 茂樹2

A Study of Promoting the Utilization of Individual Education SupportPlans : From the Viewpoint of Systems Education

Sonoko SHIROMA1・Sigeki OGATA2

要 約

 特殊教育から特別支援教育に転換され,2003年の今後の特別支援教育のあり方では,「家庭及び地域や医療,福

祉,保健,労働等の業務を行う関係機関との連携を図り,長期的な視点で児童又は生徒への教育的支援を行うた

めに,個別の教育支援計画を作成すること」が義務づけられた。各都道府県及び市町村等では特別支援教育を推

進するツールとして個別の教育支援計画の作成と活用について取組を進めている。沖縄県においても同様に個別

の教育支援計画の作成と活用を図ってきた。特別支援学校においては様式の統一を図るための校務支援システム

への導入や作成マニュアルの提示。小中学校においては,各市町村及び中学校区単位で様式の統一や作成や活用

に関する研修に取り組んできた。しかし,個別の教育支援計画の作成においては,担任教師の負担感や保護者・

関係機関との連携の不十分さなど多くの課題が挙げられている。特に共生社会の実現のためのインクルーシブ教

育システムの構築では,個別の教育支援計画への合理的配慮の明記や家庭,福祉,教育が連携した体制づくり「ト

ライアングルプロジェクト」における活用の促進など法的な整備がなされる中,学校現場等ではその対応に苦慮

している状況がある。そのため,各地域において個別の教育支援計画の作成と活用における課題の解決を図っ

ているが十分であるとは言いがたく,改善策を模索しているのが現状である。本稿では個別の教育支援計画の作

成と活用における,全国及び沖縄県の現状と課題を探り,その活用促進についての課題の改善策として,緒方ら

(2008)が提唱しているシステム教育学のモデル図を参照に試案を作成し分析・考察を行い,個別の教育支援計画

の活用の促進に繋がるようなシステムの構築を図った。試案したモデル図とフローチャート図は,活用促進のた

めの情報共有ツールとしての機能を個別の教育支援計画に持たせたことで,有効的な目標の設定や支援方法の提

示,保護者及び関係機関との効果的な連携を促すことに繋がると考えられる。また,学校現場において個別の教

育支援計画の作成と活用が徒労感にならず支援の形骸化を防ぐことにも繋がると考える。

キーワード:個別の教育支援計画,活用・促進,システム教育学,境界関係システム(Ris)

1 琉球大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻  2 琉球大学教育学部

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琉球大学教職大学院紀要 第4巻

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においてすすめられてきた。さらに個別の教育支援計画を活用する上でキーパーソンとなる特別支援教

育コーディネーター(以下,コーディネーターとする)が配置され,その役割については,①校内支援

体制の構築,②関係機関との連絡・調整,③保護者の相談窓口の他,特別支援学校ではセンター的役割

としての④小・中・高等学校への支援,⑤地域内の特別支援教育の核として関係機関との連絡調整が挙

げられている。換言するならば,特別支援教育コーディネーターが保護者をはじめ関係者や関係機関と

の連携・協働を推し進めていくための情報共有ツールの一つとして「個別の教育支援計画」を活用し,

子どもの教育的ニーズを踏まえた目標及び支援方法等の共有化を図っている。加えてその活用促進は子

どもの支援体制の構築及び支援の一貫性や継続性(支援が途切れない)には欠くことのできないもので

あると言える。

 特殊教育から特別支援教育に転換して久しい,その間さらなる特別支援教育を推進しインクルーシブ

教育支援システムの構築を目指した取組がなされてきた。就学における個別の教育支援計画の作成と活

用は障害のある子どもの支援体制の整備につなげ,保護者の就学に関する不安の軽減を図る方策となっ

ている。かつ共生社会を実現するための合理的配慮の提供においても個別の教育支援計画に明記するこ

とが提唱されている。このように支援が必要な子どもにとっての個別の教育支援計画は,支援を進めて

いくための中核となっていることは言うまでもない。これらのことから,個別の教育支援計画の作成に

おいてはニーズを踏まえた作成が求められ,今後のさらなる積極的な活用を促進していくことが肝要で

ある。しかしながら一方で,個別の教育支援計画は多くの学校で作成されているものの,その活用にお

いては十分とは言いがたく,教師の負担感をもたらし結果的に作成すること自体が目的となっているケー

スも少なくない。藤井ら(2017)は特別支援学校教師の調査結果から「個別の教育支援計画は,教師の

多忙極まる時期の年度当初に作成されていることから負担感を感じる教員が多かった。そのわりに学校

と関係機関の連携に寄与していない」と述べている。さらに絹見(2012)らは「個別の教育支援計画の

中身や活用については各学校に任されており,一般化されていないとし,①関係機関との連携の難しさ,

②校内連携・役割分担の難しさ,③保護者の参画の難しさ,④多忙感」などを課題として挙げている。

 ここで沖縄県(以下,県内とする。)の現状に目を向ければ,県内でも同様な現状があると言える。

特別支援学校においては校務支援システムとして個別の教育支援計画の様式の統一を図り作成に取り組

んでいるが,目標の設定や関係機関との連携,保護者の参画では多くの学校や担任が苦慮している。目

標の設定から支援の実施,評価をしていくPDCAのサイクルが機能していないことがその要因の一つで

はないかと考える。小中学校でも,特別支援学級等での個別の教育支援計画の作成・活用が義務づけら

れてはいるものの,個別の教育支援計画の目的や作成の意義への理解が教師個々によって異なり,作成

し活用するまでに至っていないケースが多い。保護者の参画についても共に作るという意識ではなく,

作成の主体は学校であり,本人や保護者は作成された計画を了解するのみとなっている状況も見受けら

れる。さらに,関係機関との連携においても情報の共有を意識した個別の教育支援計画の活用を十分に

図っているとは言いがたい。

 以上のことから,本研究では個別の教育支援計画の現状と課題を文部科学省(以下,文科省とする)

の調査及び特別支援学級担任等の聞き取りから探り,個別の教育支援計画の活用促進についての課題を

緒方ら(2008)が提唱したシステム教育学の観点から検討を加え,解決のための方策について提案して

いきたい。

2.目的

 個別の教育支援計画の活用を促進していくため,個別の教育支援計画の作成・活用に関する現状と課

題を探り,システム教育学の観点から個別の教育支援計画の活用促進のための方策を提示する。

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城間ほか:個別の教育支援計画の活用促進の一考察

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3.研究方法

 ⑴ 県内における個別の教育支援計画・個別の指導計画の現状・課題

 特別支援教育に関する体制整備状況調査を文科省は年度ごとに実施している。その調査項目の内

容の中から「個別の教育支援計画の作成状況」「個別の指導計画の作成状況」に焦点をあて,全国と

沖縄県の現状について把握・分析を行い県内における個別の教育支援計画の現状について考察する。

 さらに県内の小中学校における個別の教育支援計画への目的等の理解や作成・活用についての現

状把握をA市を対象に聞き取り調査を実施する。得られた調査結果の分析を行い,県内における個

別の教育支援計画の現状の一指標として課題を見いだし考察する。

① 特別支援教育体制整備状況調査結果(文部科学省調査)からの分析・考察

 文科省における体制整備状況調査の項目の内容は「校内委員会の設置状況」「特別な支援を必

要とする幼児児童生徒の実態把握」「コーディネーターの指名」「個別の教育支援計画・個別の指

導計画の作成状況」「巡回相談員・専門家チームの活用状況」「特別支援教育に関する研修の受講

状況」である。本稿では年度ごとに示された「個別の教育支援計画」の作成状況の把握と,学校

における教育実践への活用として「個別の教育支援計画」を視野に入れて作成する「個別の指導

計画」の作成状況に焦点をあて,県内の「個別の教育支援計画」の作成と活用について考察し課

題を明らかにする。

② A市におけるコーディネーター・特別支援学級担当者等への調査結果の分析・考察

 県内において中規模の都市であるA市の小中学校全てのコーディネーター及び特別支援学級担当

者を対象に,個別の教育支援計画に関する理解や作成・活用状況について聞き取り調査を実施する。

 A市は筆者が管内の特別支援教育の推進に関わり,コーディネーター及び特別支援学級・通級

による指導担当者の資質の向上の研修等の実施をはじめ管内の小中学校の特別支援教育に関する

専門性を高めるための研修も実施している。また,就学支援委員として各学校への助言及び教育

相談を行っている都市である。そのため個別の教育支援計画の作成と活用についての現状把握が,

調査結果と小中学校における実際の実状との照合から得られるため,本稿ではA市の調査結果を

県内における事例としてあげ,個別の教育支援計画の作成と活用状況における県内の一指標とし

て捉え,分析を行い,課題を明らかにしていく。

 ⑵ 県内における個別の教育支援計画活用促進のための図形モデルの提示

 県内の体制整備状況調査及びA市の個別の教育支援計画の作成と活用状況調査から分析した課題の

解決として,緒方ら(2008)が提唱しているシステム教育学を観点に入れ,個別の教育支援計画の

活用促進の方策を探る。

 本稿では,緒方ら(2008)が提示したネットワーク構築のための基本モデルを基に,個別の教育

支援計画の活用について再考・整理し,促進を目指し下記のようなモデル図を試案する。さらに,

支援システムを構築するためのプロセス図を参照に,連携を円滑にするための個別の教育支援計画

の作成と活用のプロセスモデル図を提案する。

① 個別の教育支援計画の活用促進のためのモデル図

   1) システム教育学における境界関係システム(以下,Risとする)と個別の教育支援計画の役

割のモデル図 

   2)個別の教育支援計画をRisとした活用促進のためのシステム図

② 個別の教育支援計画の作成と活用のプロセスモデル図

   ・個別の教育支援計画における目標の設定と支援体制構築のためのフローチャート図

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琉球大学教職大学院紀要 第4巻

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4.研究内容

 ⑴ 県内における個別の教育支援計画・個別の指導計画の現状・課題

① 特別支援教育体制整備状況調査結果(文部科学省調査)から

 図1及び図2は,文科省が年次推移別に実施した個別の教育支援計画と個別の指導計画の作成

状況(特別支援教育体制整備状況調査結果より)についての結果である。

 個別の教育支援計画の作成については,特別支援教育がスタートした平成19年度から僅かずつ

ではあるが増加をしている。さらに,県内では全国と比較しその作成率はほとんどの年度におい

ても高い値を示していた。

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平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度 平成28年度 平成29年度

全国 沖縄

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平成19年度 平成20年度 平成21年度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 平成26年度 平成27年度 平成28年度 平成29年度

沖縄 全国

図1 沖縄県における個別の教育支援計画の作成状況(特別支援教育体制整備状況調査結果より)

図2 沖縄県における個別の指導計画の作成状況(特別支援教育体制整備状況調査結果より)

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城間ほか:個別の教育支援計画の活用促進の一考察

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 個別の指導計画(図1)においては,平成29年度を除くどの年度においてもその作成率は全

国と比較し低い値となっている。平成29年度のみ微少ではあるが県内の作成率が高くなってい

た。個別の教育支援計画は「障害のある幼児児童生徒一人一人のニーズを把握し,保護者を含め

た教育,医療,福祉,労働等の関係機関が連携して支援するツール」であるならば,障害のある

児童生徒個々の支援体制の構築においては作成がなされていなければならないはずである。しか

しながら全国,県内ともその作成率の増加については大きく変化していなかった。県内において

は平成29年度の調査結果から障害のある子どもの実態把握(95.4%)やコーディネーターの指名

(99.9%)校内支援委員会の開催(95.4%)についてはほぼ100%に近い値を示しているのにも

かかわらず,個別の教育支援計画の作成は障害のある子どもの実態把握とは約20%程度かけ離れ

ていた。このことから障害のある子どもの実態の把握はしたものの支援についての整備が明示さ

れていない。あるいは支援体制は構築されているが,連携のためのツールとして個別の教育支援

計画の作成がなされていない可能性を考えることができる。加えて現場においては障害のある子

どもの支援体制構築において,学校や関係する機関等が個別の教育支援計画を作成した上で連携

を進めていくということの理解が十分ではないと推察できる。小坂ら(2011)と保田ら(2012)

は小・中学校における個別の教育支援計画の作成と活用が十分ではないという理由について①

チーム支援に不慣れである②教師の多忙感が大きく,計画の良さの実感が不足している(作成に

時間がかかりすぎる)③明確かつ具体的な計画が作成されにくく(具体的な支援方法が見つから

ない),実践に活用されない④保護者との関係が困難なケースが多い⑤関係機関との連携のため

の経験・スキルが不足している⑥努力の大きさ(作成に要する時間)に比べ,成果が小さいと述

べている。このような作成と活用が十分行えない理由は県内においても同様の現状として学校及

び関係機関で認識されているのではないかと考える。つまり障害のある児童生徒の実態の把握や

校内委員会の開催と比較し,個別の教育支援計画の作成状況の値が低いことは,上記のような理

由が影響を及ぼしているための結果ではないかと考察する。 

 さらに,個別の指導計画(図2)は保護者や本人のニーズを踏まえて,学習指導要領や学校教

育目標等を加味しながら,児童生徒の実態に応じて適切な指導を行うために作成され,教育実践

において一人一人の指導目標・内容・方法を明確に示したものであり,教育課程上障害のある子

どもにとっては必須の計画であると考える。しかし,調査結果からは個別の教育支援計画の作成

状況とほぼ同様の様相を呈していた。このことは個別の教育支援計画の保護者及び本人のニーズ

を踏まえて作成をすすめていく個別の指導計画が,個別の教育支援計画の作成が十分になされて

いないことによりその具体的な指導のための作成には至っていないことを示している。一方,保

護者の参画がなくても作成ができる個別の指導計画ではあるが,児童生徒の実態等から教育的

ニーズを導き出し,具体的な目標を設定し指導・支援に活かしていく点で苦慮している学校現場

があることや個別の指導計画に関する目的等の理解が十分とは言いがたい現状があり,個別の教

育支援計画の作成と類似した結果になっているのではないかと推察できる。

 上述した結果については文科省の調査に基づくものであったため,作成の結果のみであり活用

に関する記述ではないことから,個別の教育支援計画の作成から活用までの詳細は明らかにでき

なかった。児童生徒の教育的ニーズに応じた支援体制の構築を明確にしていくためには,今後は

文科省における調査の焦点を作成から活用状況の把握にシフトを変えていくことが重要となろ

う。そうすることが個別の教育支援計画の意義や活用への理解を深化させ,作成状況の改善にも

つながることが考えられる。

② A市におけるコーディネーター・特別支援学級担当者等への悉皆調査

 前述したようにA市は,筆者が管内の特別支援教育の推進に関与し,コーディネーター及び特

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別支援学級・通級による指導担当者やその他の教職員へ特別支援教育に関する資質の向上のための

研修の実施,就学支援委員として各学校への助言及び教育相談を行っている都市である。そのため

管内の小中学校の現状を確認することができる。本稿では,県内中規模のA市での個別の教育支援

計画の作成と活用の実施に関係する小・中学校のコーディネーターや特別支援学級の担当者全てに

「個別の教育支援計画の作成と活用に関する疑問や課題について」聞き取り調査を実施した(表1)。

 個別の教育支援計画の「作成の目的」「個別の指導計画との違い」等個別の教育支援計画への

理解や,作成時における「児童生徒の実態把握」,「目標の設定」や「支援方法に関する合理的配

慮の提供」,「保護者の参画」についての疑問や課題が示されている。また,様式についての疑問

や質問項目等についての記述方法の課題も挙げられている。加えて「校内委員会での提供」,「関

係機関との連携方法」等への活用についての苦悩がコーディネーターを中心に述べられていた。

加瀬(2011)は個別の教育支援計画の策定に関し「支援に必要な関連専門機関等を交えた『策定』

にはほど遠く,コピー&ペーストで『作成』した計画は校内の金庫に保管されて活用できないと

いうように,教員に少なからぬ徒労感を生みだすツールとなっているといった実態」や「有効に

機能しているが,中心となっている特別支援教育コーディネーターの多忙さを危惧する声が少な

くないといった実態が浮かび上がってきた」と述べている。かつ絹見ら(2012)は,個別の教育

支援計画が有効に活用されていない理由として,保護者が個別の教育支援計画と個別の指導計画

の違いを十分に理解していないことや,最初に支援計画を策定する会において関係機関が集まり

支援内容について確認することで活用がスタートするが十分になされていないことを指摘してい

る。A市における個別の教育支援計画の作成・活用における課題は,加瀬(2011)や絹見ら(2012)

表1 A市における個別の教育支援計画の作成・活用における課題点小中学校特別支援教育コーディネーター及び特別支援学級・通級指導教室担任への聞き取り調査から

調査対象者:59名

課題・疑問点

・個別の教育支援計画の作成の目的がはっきりわからない。またどのように活用していくのか

がよくわからない

・実態の把握が十分ではない(子どもの状況把握がうまくできない)

・目標の設定をどのようにしたらよいのかわからない

・記入する項目が多くどこまで記入していけばよいのかわからない

・特別支援学級担任の負担が大きいと感じる

・保護者の参画と言うが,保護者の希望をすべて聞く必要があるのか

・校内支援委員会での情報を整理するときに活用できるのではないかと思った

・関係機関との連携において関係機関のできることがよくわからない

・合理的配慮はどのような事を記載すればよいのかわからなかった

・様式を統一したのは良いが,記入例がなければわかりにくい

・様式は1枚にまとめたほうが見やすい

・特別支援学級の子どもの実態を一人で確認するのは不安である

・保護者と連携をしてすすめていきたいが何をどのように話をしてよいのかわからない

・目標を設定するが,現在のことなのか将来を見据えたものなのかはっきりしない

・個別の教育支援計画と個別の指導計画の違いがよくわからない

・合理的配慮の記載とあるが,誰が決定して記載するのかわからない

・校内支援委員会で提出をするが,その後どのようにしていってよいのかわからない

・個別の教育支援計画を活用した関係機関との連携がよくわからない

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城間ほか:個別の教育支援計画の活用促進の一考察

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の提示した有効的な活用の妨げとなる要因に類似している。特に①個別の教育支援計画に関する

理解②実態の把握・目標の設定・支援方法・評価の記述をどのように行っていいのかわからない

③関係機関と連携した個別の教育支援計画の策定④保護者の参画方法がわからないといった内容

は,加瀬(2011)が示したコピー&ペーストでの作成につながること,保護者や関係機関と連携

内容の共通確認がなされず支援が開始されるといった状況を招くことが考えられる。とりわけ,

コーディネーターや特別支援学級担当者としての経験が大きく関与する「個別の教育支援計画へ

の理解」や「支援のリソースとなる関係機関の存在」については,児童生徒の支援体制の整備に

おいて個別の教育支援計画の活用の意識にはつながらないと考える。個別の教育支援計画の有効

的な活用を促すためには上述のような課題の改善策が必須の条件となり明確な提示をしていくこ

とが求められよう。

 以上のように,両調査から得られた個別の教育支援計画の活用に関する課題の分析から,解決

のための改善策案として以上の2点を明確に提示していくことが,活用促進の解決につながると

考える。

1)保護者及び関係者・関係機関との連携における個別の教育支援計画の役割の明確化

2)支援体制構築における個別の教育支援計画の目的を明確にした作成と活用のプロセスの提示

 ⑵ システム教育学を観点に入れた個別の教育支援計の活用促進

 前述した個別の教育支援計画の活用を促進するための課題の改善策案,①保護者及び関係者・関

係機関との連携における個別の教育支援計画の役割の明確化,②支援体制構築における個別の教育

支援計画の目的を明確にした作成と活用のプロセスの提示を,緒方ら(2008)が提唱しているシス

テム教育学を観点に入れ課題の解決を図る。

① 個別の教育支援計画の活用促進のためのモデル図

 個別の教育支援計画が「障害のある児童生徒一人一人のニーズを把握し,保護者を含めた教育,

医療,福祉,労働等の関係機関が連携して支援するツール」とするならば,関係機関が連携して

いくためのツールとしての役割を明確にした上で支援体制を構築していくことが求められる。即

ち個別の教育支援計画のツールとしての役割を明示することで,関係者及び関係機関が児童生徒

の支援において「何を目指しているのか(目標)」「誰がどのように支援するのか(支援方法)」「支

援の結果,どのような変容があったのか(評価)」を確認することができるようになり,このこ

とが結果的に,支援の一貫性と継続性につながり関係する機関との円滑な連携となる。言い換え

るならば個別の教育支援計画の役割を明らかにすることが支援体制の構築のためには必要不可欠

であり,その円滑な連携を維持していくことが個別の教育支援計画の活用促進につながるもので

あると考えられる。これらのことから個別の教育支援計画の役割を明確にすることが活用促進に

つながることは自明であると言える。そこで本稿ではその改善策案として,緒方ら(2018)が提

唱しているシステム教育学におけるネットワーク構築のための基本モデル(図3)を基に試案を

作成していくことにする。この基本モデルはターゲットを「核(Core)」として中心においた場

合,その対象が所属する最も近いリソースを内部システム(Is),外部で関係するリソースを外

部システム(Es)とし,内部システムと外部システムを媒体としてつなぐ役割を境界関係シス

テム(Ris)としている。この基本モデルの構成においてつなぐ役割であるRisの存在は最も重

要である。緒方ら(2008)は「境界関係システムRisは内部システムや外部システムの一部であり,

人には限定せず,システムとして捉える大きなアプローチ」として,一貫し,継続した支援(途

切れない支援)につながると述べている。これまで筆者ら(2018)や緒方ら(2018)は,実際の

関係機関との連携構築を基本モデルに当てはめ,「つなぐ」をRisのキーワードとしておきその

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琉球大学教職大学院紀要 第4巻

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果たす役割について述べている。Risをつなぐ役割として意識し,関係する機関の円滑な連携促

進役として捉えた場合,関係者同士の情報の交換・共通確認・共通の認識の基で支援体制の構築

が可能となる。つまり,連携・協働のための情報を共有するツールとしての機能をRisが備えた

場合には,Coreのニーズに応じた支援体制が空間的にも時間的にも整っていると考えられてい

る。また。緒方ら(2008)は,基本モデル図において,専門家や関係機関がスムースに連携し協

働していくためには事例の検討やケース会議等カンファレンスは欠くことのできないものである

と捉え,カンファレンスにおけるRisを,「カンファレンスをネットワークとして時系列で組織化

図3 教育システム学における境界関係システム(Ris)と個別の教育支援計画の役割

Ris-M

Ris2 Ris1

Ris3 Ris4

基本モデル・空間モデル

緒方ら(2018)

図4 個別の教育支援計画をRisとした活用促進のためのシステム図(教育システム学の観点から)

個別の指導計画 個別支援計画

サービス等利用計画 カルテ

個別の教育支援計画

RisM

図3 教育システム学における境界関係システム(Ris)と個別の教育支援計画の役割

図4 個別の教育支援計画をRisとした活用促進のためのシステム図(教育システム学の観点から)

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城間ほか:個別の教育支援計画の活用促進の一考察

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していく場合には,Risの役割の中からシステム統括・維持・運営するための旗振りとしてマネ

ジメントするRis-O:Ris-Mの存在を明らかにし,スムースなシステムの構築においては欠かせ

ない存在」としている。以上のことから支援体制・支援ネットワークシステムの構築のため,関

係機関同士の密接な連携を図る存在としてRis-Mを導入することによって,関係する機関同士の

カンファレンス等において,個別の教育支援計画を旗振り役として捉えたモデル図の作成を試み

る(図4)。このモデル図は関係する機関の連携においてつなぐ役割を挿入し,学校現場が支援

体制構築のためのカンファレンスの主体者となった場合のRis-Mの存在を個別の教育支援計画に

担わせた例である。個別の教育支援計画の果たす役割はそれぞれの関係機関が持っているCore

の情報を一つにまとめている。例えば医療機関では,病歴や家族の医療情報等が記載されたカル

テ,福祉機関では,家族構成やその機能が記載されたサービス計画,各機関がそれぞれで持って

いるCoreの個人情報がある。Ris-Mは,その情報を支援体制構築に必要な目的をもって精選し,

共通確認や共通認識が得やすく,どの機関からも理解できるよう視覚的に提示していかなければ

ならない。個別の教育支援計画は様式こそ各都道府県及び市町村で異なるもののRis-Mとしての

機能を十分に果たすことが期待できると考える。さらに,個別の教育支援計画の目的や内容を踏

まえるならば,支援体制における目標の設定や支援方法の提示,支援の評価を関係する機関で模

索・確認・実施することへの情報共有が容易にでき,Coreのニーズに応じたより効果的な支援

を進めていくことにつながるのではないかと考える。図5はRis-Mの役割・機能を明示した事例

である。図5からは個別の教育支援計画が各機関で持っている情報やニーズを踏まえた支援方法

をまとめる形となり,連携・協働で最も重要な各機関が目標や支援内容・方法,支援への評価に

向かってベクトルを一つにしていることが明らかである。このことは試案したモデル(図5)よ

り,各機関が支援についてそれぞれの考えで動くといった連携・協働の形骸化を招くといったケー

スを防ぐと言える。個別の教育支援計画をつなぐ役割としての機能を持たせることで,有効な目

標の設定と支援方法を提示し,関係する全ての者や機関の動きが明確となった。円滑な支援体制

の構築につながるものと考えられ,それが個別の教育支援計画を作成・活用することへの徒労感

の回避となり,支援の形骸化を防止することにもつながると明言できる。

図5 個別の教育支援計画をRisとした活用促進のためのシステム図(特別支援学校の事例から)

生徒A Core

母親 姉 祖母

個別の教育支援計画

Ris

特別支援学校

コーディネーター

担任

進路担当

生徒指導担当

学年担当

市町村福祉機関

児童ディサービス

地域相談支援専門員

ショートステイ事業所

児童相談所

通院クリニック

主治医

看護師

ケースワーカー

障害者職業センター

就労移行事業所

ジョブコーチ

ハローワーク

図5 個別の教育支援計画をRisとした活用促進のためのシステム図(特別支援学校の事例から)

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② 個別の教育支援計画の作成と活用のプロセスモデル図

 前述した個別の教育支援計画の作成と活用の課題として挙げられたことに「個別の教育支援計

画への理解」と支援体制の構築への理解が十分でないことがあった。中でも個別の教育支援計画

における実態把握からのニーズに応じた目標の設定とその目標を達成するための支援方法やその

方法の内容に含まれる関係機関との連携と評価については,学校現場においてコーディネーター

も特別支援学級の担任も苦慮していた。筆者も学校現場においてコーディネーターとして個別の

教育支援計画の策定をする際,個別の教育支援計画の作成の目的や活用について教職員の理解が

十分であるとは言えず,何度も個別の教育支援計画の目的等に関する説明や支援方法への助言等

に時間を費やした。その課題を解決する方策として作成したのが表2(様式)と表3(事例)で

ある。その様式は「個別の教育支援計画の作成と活用におけるプロセス:個別の教育支援計画の

理解への促し」として設定したが,これまで目標の整理や支援方法の可能性を探ることにおいて,

支援方法や関係機関(リソース)の理解を十分に促すことができずにいた。特に「誰に相談し,

計画を立案するのか」「支援内容や方法についての専門的な知識が十分ではない」「関係機関はど

こにあり,何ができるのかわからない」と言ったように,作成・活用する担任の専門性や経験に

左右されることが多かった。また,個別の教育支援計画の活用における時間的な流れや関わる者

や機関についても経験に基づいて対応してきたものの,それらの関係性やプロセス等について明

確に整理してこなかった。

表2 個別の教育支援計画における目標及び教育的ニーズの設定表

願  い アセスメント1 目標の整理 アセスメント2 長期目標 アセスメント3 短期目標

生  

生活学習支援における調査表から抜粋

①S-M社会生活能力検査参照

②指導内容要素表参照

③行動観察(障害の特性,発達段階)

①実行の可能性②必要性の確認(将来的に必要かどうかの確認)

1年間で達成できる内容かどうか

余  

生活学習支援における調査表から抜粋

就 

生活学習支援における調査表から抜粋

教育的ニーズの整理表

短期目標 アセスメント4 予測した可能性 保護者及び関係機関との連携 教育的ニーズ

生  

①短期目標に対する実態の確認

余  

②スモールステップが図られるかどうか

就  

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 以上のことから本稿では,障害のある子どもの支援体制を構築する上で,前述した「個別の教

育支援計画をRisとした活用促進図(図4)」における「Ris-M:個別の教育支援計画」の動きを

明らかにし活用を促すための改善策を見いだしていく。換言するならば「個別の教育支援計画の

目的を踏まえ,その作成と活用についての時系列を明示したプロセス」を提示する。提示するモ

デル図は,緒方ら(2008)が提唱している「支援システムを構築するためのプロセス図(システ

ム教育学)」を参照に再考し試案していく。

 個別の教育支援計画の目的は「障害のある子ども個々の教育的ニーズの把握」,「教育的ニーズ

に応じた保護者を含めた教育,医療,福祉,労働等の関係機関が連携して支援する」である。そ

のことを前提として工学の分野で使われているフローチャート図(以下,フロー図とする)を考

えるならばもっとも重要なポイントは子どもの教育的ニーズを的確に把握することである。前述

のように教育的ニーズを把握するためには,保護者からのニーズの聞き取りや子どもの実態把

握,子どもがおかれている状況の把握が必須となる。さらに,フロー図においては,保護者を含

表3 個別の教育支援計画目標及び教育的ニーズの設定表(事例)

願  い アセスメント1 目標の整理 アセスメント2 長期目標 アセスメント3 短期目標

生  

・自分の考えを言葉で伝えることができて欲しい

・親しい人に対して,指さしや動作で要求する

・自分の要求を相手に分かるように伝えることができる

・トイレやエレベーターなど行きたいときには合図ができる

・尿意や便意を伝えることができる(できれば言葉で)

・腹部を押さえるなどでトイレの合図を伝えることができる

・合図をして排泄することができる

余  

・絵本をたくさん読んで欲しい

・音楽をたくさん聴きたい

・好きなものへは手を引いたり,目的物に向かうなど要求を通そうとする

・絵本を読む時間や音楽を聴く時間がわかり,楽しむことができる

・途中で音楽を や め たり,好きな遊びをやめても次の活動を提示すると我慢することができる

・好きな遊びの中でルールを守り楽しむことができる

・決められた時間待つことができる

・好きな遊びの中で順番を交代することができる

就  

・一人でいろんなことができるようになってほしい

・卵を割るなど好きなことは上手にできる

・当番活動ができる

・活動内容が理解できると一人で活動する

・継続した活動で定着できる

・決められた当番活動ができる

・物を袋に入れたり,決められたところに置くことができる

・頼まれたものをもってくることができる

教育的ニーズの整理表

短期目標 アセスメント4 予測した可能性 保護者及び関係機関との連携 教育的ニーズ

生 

・合図をして排泄することができる

・肩をたたくなどの合図ができる

・肩たたきでトイレの合図を行い,排泄ができる

・家庭でもトイレの要求の合図(肩たたき)をする

・デイサービスの職員の肩をたたきトイレに行く

・教師に肩たたきの合図をしてトイレに行くことができる

余 

・好きな遊びの中で順番を交代することができる

・順番カードを提示すると待つことができる

・写真カードで順番を理解すると待つことができる

・家庭でも決められた時間絵本の読み聞かせをする

・おやつの順番をデイサービスでまつことができる

・自分の順番がくるまでまつことができる

就 

・頼まれたものをもってくることができる

・言葉や写真で示したものは持ってくることができる

・頼まれたものを言葉や写真で理解するともってくることができる

・家庭でもおはしなどの配膳を手伝う

・デイサービスで決められた場所に片付けることができる

・決められたものをトレイに置くことができる

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め関係機関と連携をしていくために必要な情報やその支援内容等を理解し提示しなければならな

い。「個別の教育支援計画における目標の設定と支援体制構築のためのフローチャート図(図6)」

は以上のことを加味して提示している。 

 関係機関等との連携を構築するためには,前述のシステムモデル図(図4)で示したRis-Mの

ように情報を共有するツールとしての役割を果たす機能が求められる。その機能には,関係者及

び関係機関が目標の設定から評価まで共通理解を図ることが不可欠であり,支援の一貫性やシス

テムの形骸化を防ぐといったことも求められる。図6のフロー図では,その役割と機能を個別の

教育支援計画として設定し,そのプロセスを視覚的に提示し,Coreの実態把握から支援方法の

模索,支援の実施,支援方法の評価までを,実態把握(ステージ1),支援方法の模索(ステージ2),

実施と評価(ステージ3)の時系列に分けて示した。さらに,前述したRis,Is,Es等の関わる者や

機関を明示することで各々が役割を意識して機能できるようにした。特段ニーズの把握から教育

的ニーズを設定し,支援方法の確認検討においては,担任や特別支援教育コーディネーターの経

験年数に関係なく設定が可能となるようにしている。また,支援方法についても関わる全ての人

がケース会議等において,何を情報として提供し,支援方法について協議していけば良いのかを

明確に示した(図中網掛けの部分)。加えて的確な支援体制の整備を行えるような仕組み(シュ

ミレーション)を加えよりCoreのニーズを捉えた支援体制の構築が可能となるようにした。

 以上のように,個別の教育支援計画の目標設定から支援体制の構築のプロセスをフロー図とし

て考えることで,より有効な個別の教育支援計画の作成と活用に繋がるのではないかと考える。

和田ら(2015)も「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」を効果的に活用していくには「ア

セスメント→目標設定→実践→評価→改善の流れと,関係機関による支援会議を含む効果的な連

携と連携システムを構築する」ことであると述べている。またそのことを地域における特別支援

教育のあり方として発信することが今後は求められると提示している。本稿で示した個別の教育

支援計画のフロー図は,個別の教育支援計画の活用促進として試案したが,今後このフロー図を

担任・保護者

特別支援教育コーディネーター

関係職員(教育相談・生徒指導・進路指導担当等)

関係機関(福祉・医療・労働)

ステージ3

担任

保護者 ステージ1

担任・保護者 特別支援教育コーディネーター

ステージ2

教育的ニーズの

設定 実施

ニーズの把握

本人の願い、保

護者の願いから

ニーズを掘り起こしていく

検査、行動観察

家庭、学校、地域

のリソース確認

実態把握のた

めの情報収集

現在の社会情勢

特別支援教育

学力対策

文科省の動き

県の動き

境界関係システム

の導入

支援方法決定

ケース会議等

支援チームの

検討

支援方法の

確認検討

目標(長期・短

期・優先)等

シミュレーション

支援に

対する

実態把握

リソース

(資源)の

あらいだ

システム

構築

システム

分析

評価

Ris

Is

Es

図6 個別の教育支援計画における目標の設定と支援体制構築のためのフローチャート図

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基に個別の教育支援計画の作成と活用をすすめていくならば,関係機関との効果的な連携を生み

だし,障害のある子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援が可能となる。このことは関係機

関等を含めた地域における特別支援教育の理解と推進に繋がり,ひいては障害のある子どもが地

域で暮らすと言った共生社会の実現(インクルーシブの構築)につながるものであると十分に期

待できる。

5.まとめ

 特別支援教育の推進において,個別の教育支援計画の作成と活用は必要不可欠なものであるされてい

る。しかしながら,個別の教育支援計画の作成に関しては,特殊教育から特別支援教育へと転換がなさ

れて久しいが,未だ策定が義務づけられた頃と同様の課題があり,各都道府県・市町村ではその改善に

奮闘し,その課題の解決のため模索をし続けている。沖縄県においても同様な課題があり,教育委員会

が主導となり改善策を提案してきた。特別支援学校における校務支援システムを介した個別の教育支援

計画の活用,小中学校では,市町村単位や中学校区単位で様式を統一するなどの改善策が提案されてい

る。しかし,そのどちらも個別の教育支援計画の作成と活用を促進するための有効的な手立てとは言い

がたい。事実沖縄県における個別の教育支援計画の作成率はほぼ停滞状態であると言わざるを得ない。

そこで本稿では,県内の課題を①保護者及び関係者・関係機関との連携における個別の教育支援計画の

役割の明確化,②支援体制構築における個別の教育支援計画の目的を明確にした作成と活用のプロセス

の提示として整理し,緒方ら(2008)が提唱しているシステム教育学を観点として,そのモデル図を参

照に解決策を試案した。試案のモデル図は,個別の教育支援計画を情報共有ツールとしての役割と機能

を持たせ,作成から活用までのプロセスを明確に示した。情報共有ツールとしての機能を持たせたモデ

ル図においては,個別の教育支援計画の有効的な目標の設定と支援方法を提示し,関係する全ての者や

機関の動きが明確となり,円滑な支援体制の構築につながるものと考える。さらに,学校現場等におい

て個別の教育支援計画を作成・活用することへの徒労感の回避となり,支援の形骸化を防ぎ,そのこと

が活用の促進に繋がっていくものであると考察できる。一方,個別の教育支援計画における目標の設定

と支援体制構築のためのフローチャート図(図6)」は,教育的ニーズを的確に捉えることにより,関

係機関との効果的な連携を生みだし,障害のある子どもへの有効な支援になると考える。ひいてはその

ことが地域での特別支援教育の理解と推進に繋がり,共生社会の実現をもたらすものであると考える。

[文献]

1) 『糸川英夫の創造性組織工学講座』糸川英夫 (1993) プレジデント社

2) 『インクルーシブ教育システムの構築に向けた地域における体制づくりのグランドデザイン』 独立行政法人

国立特別支援教育総合研究所 (2016) 東洋館出版社  

3) 『特別支援教育 「連携づくり」ファシリテーション』 堀公俊 監修 (2008) 金子書房

4) 『ネットワーク組織論』 朴 容寛(2003) ミネルヴァ書房 p8

5) 『システム教育学のすすめ −特別支援教育ネットワークシステム構築に向けた空間型,時間型モデルの試作−』 

緒方茂樹,城間園子,佐和田聡,大城由美子 (2008) 琉球大学教育学部紀要 第73集 p151〜163

6) 『近年の「個別の教育支援計画」をめぐる実践・研究・政策の動向と課題』 加瀬進(2014)  東京学芸大学紀要 

総合教育科学系Ⅱ 第65集 p157〜164

7) 『特別支援学校における「個別の教育支援計画」の有効活用 -保護者への質問紙調査より-』 絹見睦美,寺川志

奈子(2012) 鳥取大学地域学論集 第9巻 p25〜51

8) 『小学校における「個別の教育支援計画」及び「個別の指導計画」の作成・策定と活用 -有機的な支援の連携を

めざして-』 小坂みゆき,柿崎弘(2011)  三重大学教育学部研究紀要 第62巻 教育科学 p153〜159

9) 『関係機関の連携に基づく特別支援教育ネットワークシステムに関する一考察 -連携と協働を担う境界関係

システム(Ris)の機能に着目して-』 城間園子,緒方茂樹 (2018) 琉球大学大学院教育学研究科 高度教職

実践専攻紀要 第2巻 p35〜45

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琉球大学教職大学院紀要 第4巻

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10) 『小中学校における特別な配慮を必要とする児童生徒への個別の教育支援計画の作成状況と「合理的配慮」に関す

る教員の意識 -和歌山県紀の川市における「つなぎ愛シート(個別の教育支援計画)作成に関するアンケート調

査より-』 藤井多江子,古井克憲 (2018)  和歌山大学教育学部紀要 第68集 第2巻 教育科学 p29〜34

11) 『個別の教育支援計画の作成と活用に関する現状と今後の方策 -特別支援学校教員に対する質問調査から-』 

藤井慶博,高田屋陽子 (2017) 秋田大学教育文化学部研究紀要 教育学部門 第72集 p93〜101

12) 『中学校における特別支援教育体制のあり方について -「個別の教育支援計画」及び「個別の指導計画」の作成

と活用を通して-』 保田英代,柿崎弘 (2012)  三重大学教育学部研究紀要 第63巻 教育科学 p79〜86

13) 『特別支援学校における「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の活用に関する一考察』 和田充紀,栗林睦

美,池田弘紀 (2015) 富山大学人間発達科学部紀要 第10巻第1号 p203〜216

14) 『今後の特別支援教育の在り方(最終報告)』 文部科学大臣 平成15年3月28日 (2003)

15) 『特別支援学校幼稚園教育要領』 文部科学省 (2009)

16) 『特別支援学校小学部・中学部学習指導要領』 文部科学省 (2009)

17) 『特別支援学校高等部学習指導要領』 文部科学省 (2009)

18) 『平成29年度特別支援教育体制整備状況調査』文部科学省 (2017)

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城間ほか:個別の教育支援計画の活用促進の一考察