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437 ●症 要旨:症例は 42 歳,女性.全身倦怠感,労作時呼吸困難が出現したために 2009 年 10 月に近医を受診.貧 血及び胸部 X 線写真にて両側のすりガラス影を認めたため当科紹介となった.血液検査では多クローン性 高ガンマグロブリン血症を認め,また血清 IL-6 値と血清 IgG4 値はともに高値を示した.胸部 CT では肺門・ 縦隔リンパ節腫脹及び両側びまん性の小葉中心性小粒状影,結節影,小葉間隔壁の肥厚を認めた.診断のた めに胸腔鏡下肺及び縦隔リンパ節生検を行ったところ,病理組織所見では気管支血管周囲にリンパ濾胞形成 と形質細胞浸潤を認め multicentric Castleman 病(MCD)に合致する所見とともに,IgG4 陽性形質細胞の 浸潤も多数認めた.本症例は血清 IL-6 が高値で強い炎症反応を認めており,臨床像,病理像から MCD の 病態に近いと考えられたが,IgG4 関連肺疾患の合併も否定できず,両疾患の関連性が示唆される症例と考え られた. キーワード:IgG4 関連肺疾患,Castleman 病 IgG4-related lung disease,Multicentric Castleman’s disease multicentric Castleman 病(MCD)は縦隔リンパ節腫 脹や間質性肺病変を呈する疾患として,また IgG4 関連 肺疾患は血清 IgG4 高値と肺組織での IgG4 陽性細胞の浸 潤を特徴とした,間質性肺疾患の一群として認識される ようになり,近年報告が増加している.MCD と IgG4 連肺疾患は共に良性の多クローン性リンパ増殖性疾患で あり,両疾患が重複して存在する可能性がある.しかし ながら,MCD と IgG4 関連肺疾患を比較検討した報告は 少なく,両疾患の臨床像には不明な点も多い.本症例は IgG4 陽性形質細胞の浸潤を認めた MCD と考えられ, MCD と IgG4 関連肺疾患の概念及び臨床像を考える上で 示唆に富む症例と考えられたため,若干の文献的考察を 加え報告する. 患者:42 歳,女性. 主訴:全身倦怠感,労作時呼吸困難(Fletcher-Hugh- JonesII). 既往歴:16 歳時にてんかんと診断され,以降バルプ ロ酸ナトリウム(Sodium valproate)とカルバマゼピン (Carbamazepine)の内服治療継続により,てんかん発 作は認めていない.36歳時より近医で貧血(Hgb9.2mg! dl)を指摘され,鉄剤の内服治療を受けていた. 家族歴:なし. 粉塵曝露歴:なし. 喫煙歴:なし. 現病歴:2009 年 3 月頃から労作時呼吸困難や全身倦 怠感を自覚したため,同年 11 月に近医を受診.血液検 査で貧血と IgG 高値を認め, 当院血液内科を紹介受診. 胸部 X 線写真で両側にすりガラス状陰影を認めたため, 精査目的で当科に紹介入院となる. 入院時身体所見:身長 160cm,体重 71kg(この 1 年 間で大きな体重の増減はない).体温 36.8℃,呼吸数 16 ! 分,血圧 140! 88mmHg,脈拍 85! 分・整.意識清明. 胸部聴診上,心音は清で呼吸音では両側下肺野背側優位 に fine crackles を聴取した.腹部では肝を 2 横指,脾 を 2 横指触知した.四肢にばち指や関節腫脹は認めず, 神経学的異常所見は認めなかった. 入院時検査成績(Table 1):血液検査では白血球数 10,950! μl,CRP 4.7mg! dl,赤沈 96mm! hr と炎症所見を 認めた.血液生化学検査では総蛋白の増加(TP12.2g! dl) とA! G 値の低下(0.35)を認めた.また,IgG 6,910mg! dl,IgM 262mg! dl,IgA 767mg! dl と多クローン性高ガ ンマグロブリン血症を認め,IgG4(867mg! dl)及び IL- 6(19.9pg! ml)はともに高値であった.呼吸機能検査は 拘束性障害(%VC 79%),及び拡散能の低下(%DLco IgG4 陽性形質細胞の浸潤を認めた multicentric Castleman 病の 1 例 生越 貴明 矢寺 和博 長田 周也 西田 千夏 山崎 川波 敏則 石本 裕士 吉井 千春 〒8078555 北九州市八幡西区医生ヶ丘 1―1 産業医科大学医学部呼吸器内科学 (受付日平成 22 年 11 月 1 日) 日呼吸会誌 49(6),2011.

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437

●症 例

要旨:症例は 42歳,女性.全身倦怠感,労作時呼吸困難が出現したために 2009 年 10 月に近医を受診.貧血及び胸部X線写真にて両側のすりガラス影を認めたため当科紹介となった.血液検査では多クローン性高ガンマグロブリン血症を認め,また血清 IL-6 値と血清 IgG4値はともに高値を示した.胸部CTでは肺門・縦隔リンパ節腫脹及び両側びまん性の小葉中心性小粒状影,結節影,小葉間隔壁の肥厚を認めた.診断のために胸腔鏡下肺及び縦隔リンパ節生検を行ったところ,病理組織所見では気管支血管周囲にリンパ濾胞形成と形質細胞浸潤を認めmulticentric Castleman 病(MCD)に合致する所見とともに,IgG4陽性形質細胞の浸潤も多数認めた.本症例は血清 IL-6 が高値で強い炎症反応を認めており,臨床像,病理像からMCDの病態に近いと考えられたが,IgG4関連肺疾患の合併も否定できず,両疾患の関連性が示唆される症例と考えられた.キーワード:IgG4関連肺疾患,Castleman 病

IgG4-related lung disease,Multicentric Castleman’s disease

緒 言

multicentric Castleman 病(MCD)は縦隔リンパ節腫脹や間質性肺病変を呈する疾患として,また IgG4関連肺疾患は血清 IgG4高値と肺組織での IgG4陽性細胞の浸潤を特徴とした,間質性肺疾患の一群として認識されるようになり,近年報告が増加している.MCDと IgG4関連肺疾患は共に良性の多クローン性リンパ増殖性疾患であり,両疾患が重複して存在する可能性がある.しかしながら,MCDと IgG4関連肺疾患を比較検討した報告は少なく,両疾患の臨床像には不明な点も多い.本症例はIgG4陽性形質細胞の浸潤を認めたMCDと考えられ,MCDと IgG4関連肺疾患の概念及び臨床像を考える上で示唆に富む症例と考えられたため,若干の文献的考察を加え報告する.

症 例

患者:42 歳,女性.主訴:全身倦怠感,労作時呼吸困難(Fletcher-Hugh-

Jones II̊).既往歴:16 歳時にてんかんと診断され,以降バルプ

ロ酸ナトリウム(Sodium valproate)とカルバマゼピン

(Carbamazepine)の内服治療継続により,てんかん発作は認めていない.36 歳時より近医で貧血(Hgb 9.2mg�dl)を指摘され,鉄剤の内服治療を受けていた.家族歴:なし.粉塵曝露歴:なし.喫煙歴:なし.現病歴:2009 年 3 月頃から労作時呼吸困難や全身倦

怠感を自覚したため,同年 11 月に近医を受診.血液検査で貧血と IgG高値を認め, 当院血液内科を紹介受診.胸部X線写真で両側にすりガラス状陰影を認めたため,精査目的で当科に紹介入院となる.入院時身体所見:身長 160cm,体重 71kg(この 1年

間で大きな体重の増減はない).体温 36.8℃,呼吸数 16回�分,血圧 140�88mmHg,脈拍 85�分・整.意識清明.胸部聴診上,心音は清で呼吸音では両側下肺野背側優位に fine crackles を聴取した.腹部では肝を 2横指,脾を 2横指触知した.四肢にばち指や関節腫脹は認めず,神経学的異常所見は認めなかった.入院時検査成績(Table 1):血液検査では白血球数

10,950�μl,CRP 4.7mg�dl,赤沈 96mm�hr と炎症所見を認めた.血液生化学検査では総蛋白の増加(TP 12.2g�dl)とA�G値の低下(0.35)を認めた.また,IgG 6,910mg�dl,IgM 262mg�dl,IgA 767mg�dl と多クローン性高ガンマグロブリン血症を認め,IgG4(867mg�dl)及び IL-6(19.9pg�ml)はともに高値であった.呼吸機能検査は拘束性障害(%VC 79%),及び拡散能の低下(%DLco

IgG4陽性形質細胞の浸潤を認めたmulticentric Castleman 病の 1例

生越 貴明 矢寺 和博 長田 周也 西田 千夏 山崎 啓川波 敏則 石本 裕士 吉井 千春 迎 寛

〒807―8555 北九州市八幡西区医生ヶ丘 1―1産業医科大学医学部呼吸器内科学

(受付日平成 22 年 11 月 1 日)

日呼吸会誌 49(6),2011.

日呼吸会誌 49(6),2011.438

Fig. 1 Chest radiograph on admission (A), showing ground-glass opacities in bilateral lung fields. Chest computed tomography on admission (B, C, D), demonstrating mediastinal lymphadenopathies, interlobu-lar septal thickening with peribronchovascular consolidations, patchy ground-glass and nodular opaci-ties in bilateral lungs.

Table 1 Laboratory data on admission

<CBC> Glucose 115 mg/dlWBC 4,000/μl T-cho 125 mg/dlNeut 57.7% TG 97 mg/dlEos 3.0% BUN 10 mg/dlLymph 28.3% Cre 0.6 mg/dlMono 11.0% LDH 138 IU/lRBC 403×104/μl ALP 452 IU/lHgb 9.6 g/dlHct 32.3% <Serology >PLT 20.0×104/μl CRP 4.56 mg/dl

IL-6 19.9 pg/ml<Biochemistry > RF 2.9 IU/mlTP 11.3 g/dl ANA ×40Alb 2.2 g/dl ACE 9.9 IU/ml

α-1 2.0% IgG 6,910 mg/dlα-2 4.9% IgG4 867 mg/dlβ 6.7% IgA 767 mg/dlγ 60.3% IgM 262 mg/dlAST 120 U/l IgE 540 IU/mlALT 91 U/l HIV-Ab (-)T-Bil 0.2 mg/dl HHV-8 PCR (-)

<Pulmonary Function Test >VC 2.42 L%VC 79%FEV1.0 1.97 LFEV1.0% 81%DLCO/VA 12.5 ml/min/Torr%DLCO 55%

<Arterial Blood Gas Analysis >(room air)pH 7.47PaCO2 33.6 TorrPaO2 86.0 TorrHCO3- 24.3 mmol/lBE 1.4 mmol/l

55%)を認めた.胸部X線写真(Fig. 1A):両側にびまん性すりガラス

陰影と両側肺門・縦隔リンパ節腫大を認めた.

胸部CT(Fig. 1B~D):胸部CTでは両側肺門・縦隔リンパ節腫脹,両側びまん性の小葉中心性の粒状影,結節影,小葉間隔壁の肥厚を認め,腹部CTでは肝脾腫を

IgG4陽性細胞浸潤を認めたMCDの 1例 439

Fig. 2 Histopathological findings of the lung tissue (right-S8, hematoxylin-eosin stain). Low magnification view of the specimen showed peribronchovascular inflammatory cell infiltration and follicular hyperpla-sia (A). High magnification view of the specimen showed plasma cell infiltration surrounding the bron-chioles, additionally surrounded by lymphocytes (B). Obstructive phlebitis was seen in parts (C). Immu-nohistochemically, infiltrating plasmacytes are highly positive for IgG4 (IgG4/IgG>50%) (D). (Scale bar=A: 250 μm, B.C.D: 25 μm)

認めた.ガリウムシンチグラフィー(67Ga citrate):縦隔リン

パ節に中等度の集積を認める他は,特に有意な集積は認めなかった.気管支鏡検査:可視範囲に異常を認めず,右B5より

気管支肺胞洗浄(BAL)を施行した.気管支肺胞洗浄液(BALF)の総細胞数は 5.02×105�ml と増加し,分画では肺胞マクロファージ 50%,リンパ球 47%,好酸球3%であった.またCD4�CD8 比は 0.87 と低下していた.経気管支肺生検(右 S2,S8)の組織所見では肺胞壁にリンパ球を主体とした炎症細胞浸潤と軽度の線維化を認めた.血清 IgG4が高値であるものの膵病変などの他臓器病

変は認めず,縦隔リンパ節腫大や肺野病変などの画像所見に加え,強い炎症所見,血清 IL-6 高値などからmulti-centric Castleman 病(MCD)を疑ったが確定診断には至らず,第 30 病日に胸腔鏡下肺及び縦隔リンパ節生検を行った.胸腔鏡下肺生検組織(Fig. 2):気管支血管周囲を中心

としてリンパ濾胞形成,形質細胞の浸潤及び軽度の線維化を認めた.増生した形質細胞は異型性を認めず多ク

ローン性であり,IgG4陽性形質細胞の高度な浸潤を認めた(IgG4�IgG 比 50%以上)(Fig. 2D).また,IgG4関連疾患に特異的とされる閉塞性静脈炎の所見(Fig. 2C)も認められた.胸腔鏡下縦隔リンパ節生検組織(Fig. 3):肺組織と同

様にリンパ濾胞形成,形質細胞の浸潤及び,一部に胚中心を認めた.また同様に IgG4陽性形質細胞の高度な浸潤を認めた(IgG4�IgG 比 50%以上)(Fig. 3D).以上の所見から,IgG4陽性形質細胞の高度な浸潤を認

めるMCDと診断し,第 51 病日よりプレドニゾロン(PSL)0.6mg�kg�日(40mg�日)の内服を開始した.投与 3カ月で肺野のすりガラス陰影,貧血および息切れは速やかな改善を認めた.しかし IgG 5,813mg�dl と未だ高値であり,胸部画像所見では縦隔リンパ節腫大及び肝脾腫は改善するも残存しており,外来で慎重にプレドニゾロンの減量を行っている.

考 察

Castleman 病は良性のリンパ増殖性疾患で,1956 年Castleman らにより最初に報告された疾患である1).正形成~過形成のリンパ濾胞を伴い,リンパ節の基本構造

日呼吸会誌 49(6),2011.440

Fig. 3 Histopathological findings of the mediastinal lymph node, showing hyperplastic germinal centers and hypercellular interfollicular spaces (A). High magnification view of the specimen also showed plas-ma cell infiltration (B), and mildly atrophic concentric germinal centers containing hyalinized blood ves-sels without fibrosclerotic changes (C). Immunohistochemically, infiltrating plasmacytes are also highly positive for IgG4 (IgG4/IgG>50%) (D). (Scale bar=A: 250 μm, B.C.D: 25 μm)

は保たれるが,濾胞間,髄質に著明な形質細胞の浸潤を認めることが特徴であり,限局型と全身性に病変が認められるMCDに分類される.MCDの病態としては,腫大したリンパ節から産生される IL-6 がガンマグロブリン異常産生などの免疫異常を持続的に引き起こすために,呼吸不全や腎不全,二次性アミロイドーシス,二次的な感染症などを引き起こし,多彩な症状を呈すると考え ら れ て い る2).一 方,欧 米 で はMCDが humanherpesvirus-8(HHV-8)感染と関連して発症する疾患と認識されており,特に human immunodeficiency virus(HIV)陽性のCastleman 病ではほぼ全例でHHV-8 が陽性であり,HIV陰性例でも約 4割がHHV-8 陽性であったと報告されている3).本症例を含め,本邦でのMCD報告例はそのほとんどがHIV及びHHV-8 陰性であることより,欧米でのMCDと病態が異なる可能性が推測される.一方,IgG4関連肺疾患は,2004 年に Taniguchi ら4)が,

多数の IgG4陽性細胞の浸潤を伴う間質性肺炎を合併した自己免疫性膵炎の症例を報告し,IgG4陽性細胞の浸潤が病態に関与する肺疾患として近年認識された疾患概念である.その後,膵病変合併のない IgG4陽性間質性肺

炎や炎症性偽腫瘍の症例が報告されている.組織へのびまん性のリンパ球,IgG4陽性の形質細胞の浸潤の程度で診断され,組織の線維化及び動静脈の閉塞などの硬化性病変像は IgG4陽性肺疾患に特徴的であるとされる.MCDの治療としては,副腎皮質ステロイド薬単独で

は効果が限定的であるとされている.近年抗 IL-6 レセプター抗体治療薬(Tocilizumab)が認可され副腎皮質ステロイド薬との併用,もしくは単剤での有効例が報告されている5)~8).しかし,MCD症例に対する抗 IL-6 レセプター抗体治療薬の投与の適応基準や投与期間などに関しては未だに明確な目安はなく,Matsuyama8)らの報告のように副腎皮質ステロイド薬の効果が限局的な症例に併用して使用されることが多いと考えられる.一方,IgG4関連肺疾患は副腎皮質ステロイド薬が有効で治療反応性は良好とされるが,投与量及び投与期間は未だに明確な基準は確立していない.本症例では,病理所見でIgG4陽性形質細胞の浸潤を強く認めていたこともあり,まずは副腎皮質ステロイド薬単独による治療を試みた.MCDおよび IgG4関連肺疾患は,ともに診断基準には

あいまいな部分があり,鑑別が困難な症例や両疾患が重複する可能性も考えられる.近年一部のMCD,特に血

IgG4陽性細胞浸潤を認めたMCDの 1例 441

清 IL-6 が正常値の症例では IgG4関連疾患との関係を示唆するような報告が散見され,両疾患の関連性が注目されている.Ikari ら9)はMCDに IgG4関連肺疾患と肺癌を合併した症例を報告し,MCDと IgG4関連肺疾患が重複する可能性を指摘し,三輪ら10)は血清 IgG4と血清 IL-6が共に高値な形質細胞型Castleman 病の症例を報告しているが,この報告例ではリンパ節に IgG4陽性形質細胞浸潤は認めなかった.IgG4関連疾患とMCDの鑑別に関しては,Sato ら11)は,病理像だけでは鑑別困難であるが,MCDは臨床的に過剰な IL-6 産生に基づくCRP高値,Alb 低値,貧血などの多彩な臨床像がみられ,これらの所見が IgG4関連疾患と異なると報告している.本症例では高度な形質細胞の浸潤を認め,IL-6 高値に

伴う強い炎症反応による多彩な臨床所見を認めたことより,病態はMCDに近いものと考えられた.一方では,肺,リンパ節組織で IgG4陽性形質細胞の高度な浸潤を認めたことや,肺組織にて閉塞性静脈炎の所見を認めたこと,副腎皮質ステロイド薬の投与のみで比較的短期間で肺野のすりガラス影,貧血などの症状が改善したことは IgG4関連肺疾患の副腎皮質ステロイド薬に対する良好な治療反応性の特徴にも一致すると考えられ,IgG4関連肺疾患の関与を完全には否定できなかった.当初はCastleman 病と診断され 6年後に自己免疫性膵炎を合併した報告12)もあり,今後は自己免疫性膵炎,Mikulicz 病などの他臓器の IgG4関連疾患を合併する可能性も念頭に置きながら治療及び経過を観察していく必要がある.MCDと IgG4関連肺疾患は重複する可能性があり9)13),

本症例のように鑑別が非常に困難な症例も存在するが,予後や治療方針が異なるため,可能な限り両者の鑑別を行う必要性があると考えられる.今後MCDを疑う場合は,特に全身症状の乏しいもの,血清 IL-6 の値が高値ではないものなどでは,積極的に IgG4関連肺疾患も鑑別に挙げ,血清 IgG4の計測や肺及びリンパ節の IgG4免疫染色などの検査を追加する必要があると考えられた.謝辞:本症例の病理組織所見についてご教示頂きました産業医科大学第一病理学松山篤二先生に深謝致します.

文 献

1)Castleman B, Iverson L, Menendez VP, et al. Local-ized mediastinal lymphnode hyperplasia resemblingthymoma. Cancer 1956 ; 9 : 822―830.

2)Yoshizaki K, Matsuda T, Nishimoto N, et al. Patho-genic significance of interleukin-6 (IL-6�BSF-2) inCastleman’s disease. Blood 1989 ; 74 : 1360―1367.

3)Soulier J, Grollet L, Oksenhendler E, et al. Kaposi’ssarcoma-associated herpesvirus-like DNA sequencesin multicentric Castleman’s disease. Blood 1995 ; 86 :1276―1280.

4)Taniguchi T, Ko M, Seko S, et al. Interstitial pneu-monia associated with autoimmune panreatitis. Gut2004 ; 53 : 770.

5)大納伸人,藤山小百合,大井正臣,他.抗 IL-6 レセプター抗体(tocilizumab)が著効した肺野病変主体 のCastleman 病 の 1例.日 内 会 誌 2007 ; 96 :988―990.

6)Nishimoto N, Honda O, Sumikawa H, et al. A long-term (5-Year) sustained efficacy of Tocilizumab formulticentric Castleman’s Disease and the effect onpulmonary complications. Blood 2007 ; 199a : 110.

7)原田尚子,佐山宏一,田中希宇人,他.抗 Interleukin-6 受容体抗体により肺病変が改善した多中心性キャッスルマン病の 1例.日呼吸会誌 2010 ; 48 :145―150.

8)Matsuyama M, Suzuki T, Tsuboi H, et al. Anti-interleukin-6 receptor antibody (tocilizumab) treat-ment of multicentric Castleman’s disease. InternMed 2007 ; 46 : 771―774.

9)Ikari I, Kojima M, Nakamura H, et al. A case of IgG4-related lung disease associated with multicentricCastleman’s Disease and lung cancer. Intern Med2010 ; 49 : 1287―1291.

10)三輪一太,丸山保彦,景岡正信,他.高 IgG4血症を認めたCastleman 病,後腹膜線維症の 2例.日消誌 2008 ; 105 : 1087―1092.

11)Sato Y, Kojima M, Katsuyoshi T, et al. Systemic IgG4related lymphadenopathy. Modern Pathology 2009 ;22 : 589―599.

12)三輪一太,渡辺文利,甲田賢治,他.Castleman 病(形質細胞型)と診断され 6年後自己免疫性膵炎を発症した 1例.日消誌 2007 ; 104 : 239―244.

13)Yamamoto M, Takahashi H, Hasebe K, et al. Theanalysis of interleukin-6 in patients with systemicIgG4-related plasmacytic syndrome-expansion ofSIPS to the territory of Castleman’s disease. Rheu-matology 2009 ; 48 : 860―862.

日呼吸会誌 49(6),2011.442

Abstract

A case of multicentric Castleman disease with massive infiltration of plasmacytes presenting IgG4

Takaaki Ogoshi, Kazuhiro Yatera, Shuya Nagata, Chinatsu Nishida, Kei Yamasaki,Toshinori Kawanami, Hiroshi Ishimoto, Chiharu Yoshii and Hiroshi Mukae

Department of RespiratoryMedicine, University of Occupational and Environmental Health, Japan

A 42-year-old Japanese woman was referred to our university hospital due to progressive anemia and bilat-eral hilar lymphadenopathy with diffuse ground-glass attenuation on chest computed tomography in December2009. She had suffered from exertional dyspnea and fatigue for several months. Laboratory findings on admissiondemonstrated leukocytosis (10,950�ul), elevation of C-reactive protein (4.7mg�dl), IL-6 (19.9pg�ml), IgG4 (567mg�dl)and polyclonal hyper gamma-globulinemia. Chest computed tomography represented mediastinal and bilateral hi-lar lymphadenopathy with diffuse centrilobular fine nodules and intralobular septal thickening. Histopathologicalfindings of the specimens obtained by thoracoscopic lung and mediastinal lymph node biopsies revealed massiveinfiltration of IgG4-positive plasma cells in lung tissue and lymph nodes. Pathological findings and high levels of C-reactive protein and interleukin-6 suggested a diagnosis of multicentric Castleman’s disease (MCD). In addition,pathological findings of peribronchiolar infiltration of IgG4-positive plasma cells and lymphoid follicles with infiltra-tion of IgG4-positive plasma cells with a high level of IgG4 were indicative of the complication of IgG4-related lungdisease. Radiological and serological findings improved rapidly soon after the initiation of oral corticosteroid treat-ment. It was speculated that this case indicated the close relationship between MCD and IgG4-related lung dis-ease.