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FUJITSU. 65, 3, p. 68-74 05, 201468 あらまし 現在,北米を中心にオープンエデュケーションと呼ばれる教育のイノベーションが広 がりを見せている。Webの特徴を生かして,教育者中心から学習者中心へ学びのスタイ ルが大きく変わる状況の中,米国富士通研究所(FLAFujitsu Laboratories of America, Inc.)は,Web上のコンテンツやサービスを組み合わせて,他者と協力しながら組織的に 学ぶ新しい学習手法「キュレーションラーニング」とそれを実現するプラットフォームの 研究開発を2011年より進めてきた。本手法は,単に知識の獲得だけを目指すのではなく, 能動的に「さがす」「まとめる」「ひろげる」といったサイクルを回しながら学習し,批判的 思考力,コミュニケーション&コラボレーション能力,情報リテラシーといった「21世紀 型スキル」も同時に養うことを目的としている。 本稿では,キュレーションラーニングによる学習手法とそのプラットフォームを活用 した北米の大学における実践事例について紹介し,今後の展望について述べる。 Abstract Currently, education innovation called open education, which originated in the United States, is becoming widespread all over the world. The style of learning is making a sea change from educator-centric to learner-centric learning through utilization of features of the Web. Therefore, we have been working since 2011 on research and development of curation learning,a new method in which content and services on the Web are combined for social learning through cooperation with others, and a platform for realizing the method. With this method, people learn through repeating a cycle of actively searching,creatingand engaging,with the aim of not only acquiring information but also cultivating 21st-century skillsincluding critical thinking, communication/collaboration ability and information literacy. This paper describes case studies at North American universities using the curation learning method and the platform, and presents a future outlook. 内野寛治   大久保祐子   渡辺拓郎 オープンコンテンツを活用した 教育イノベーションへの取組み Approach to Education Innovation Making Use of Open Content

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FUJITSU. 65, 3, p. 68-74 (05, 2014)68

あ ら ま し

現在,北米を中心にオープンエデュケーションと呼ばれる教育のイノベーションが広

がりを見せている。Webの特徴を生かして,教育者中心から学習者中心へ学びのスタイルが大きく変わる状況の中,米国富士通研究所(FLA:Fujitsu Laboratories of America, Inc.)は,Web上のコンテンツやサービスを組み合わせて,他者と協力しながら組織的に学ぶ新しい学習手法「キュレーションラーニング」とそれを実現するプラットフォームの

研究開発を2011年より進めてきた。本手法は,単に知識の獲得だけを目指すのではなく,能動的に「さがす」「まとめる」「ひろげる」といったサイクルを回しながら学習し,批判的

思考力,コミュニケーション&コラボレーション能力,情報リテラシーといった「21世紀型スキル」も同時に養うことを目的としている。

本稿では,キュレーションラーニングによる学習手法とそのプラットフォームを活用

した北米の大学における実践事例について紹介し,今後の展望について述べる。

Abstract

Currently, education innovation called open education, which originated in the United States, is becoming widespread all over the world. The style of learning is making a sea change from educator-centric to learner-centric learning through utilization of features of the Web. Therefore, we have been working since 2011 on research and development of “curation learning,” a new method in which content and services on the Web are combined for social learning through cooperation with others, and a platform for realizing the method. With this method, people learn through repeating a cycle of actively “searching,” “creating” and “engaging,” with the aim of not only acquiring information but also cultivating “21st-century skills” including critical thinking, communication/collaboration ability and information literacy. This paper describes case studies at North American universities using the curation learning method and the platform, and presents a future outlook.

● 内野寛治   ● 大久保祐子   ● 渡辺拓郎

オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み

Approach to Education Innovation Making Use of Open Content

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オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み

加えて,「課題発見」→「Web検索」→「情報の選択」→「獲得した情報の知織化」→「情報発信/他者との共有」といったサイクルを回しながら理解を深める学習スタイルを確立することが求められている。FLA(Fujitsu Laboratories of America, Inc.)ではこれを「さがす」→「まとめる」→「ひろげる」といったサイクルを回しながら学習を進める手法「キュレーションラーニング」として再定義した。元々キュレーター(Curator)とは一般的には学芸員を指し,キュレーション(Curation)とは,「人力で情報を収集,整理,要約,公開(共有)すること(ALC英辞郎Web)」を意味する。つまり,現実世界のキュレーションのサイクルを,非定型の学習(インフォーマルラーニング)に当てはめたのがキュレーションラーニングである。

オープンエデュケーションプラットフォーム(OEP)

北米では既存のWebサービスやソーシャルメディアを組み合わせて,授業でキュレーションラーニングを実践する例がいくつか報告されている。(9)

「さがす」:Googleなどの検索エンジン「まとめる」:Pinterest,Storifyなどの画像メディア対象のキュレーションサービス「ひろげる」:Twitter,FacebookなどのSNSSNSの活用に関しては,メディアリテラシーが比較的に低い小中学生の利用は,極度の依存によって学業に専念できなくなるなど不安視する向きもあるが,使い方や指導方法を工夫することで協働問題解決などのスキル養成の効果が期待されている。(10)また,米国においてStorifyなどのキュレーションサービスを批判的思考力やメディアリテラシーを養うツールとして授業の中で導入する例も出てきている。(11)FLAでは,以下のような特長を備え,キュレーションラーニングをワンストップのサービスで実現するオープンエデュケーションプラットフォーム(OEP)を開発した(図-1)。OEPは,Web上に散在するオープンコンテンツを収集・整理し,ユーザーがまとめて学習する環境や,コンテンツや学習における気づきをユーザー間で共有し,互いに学び合う環境を提供する。具体的には,OEPでは,「さがす」「まとめる」「ひろげる」といったキュレーションラーニングに必要な機能を一つのプラットフォーム上で実現することにより,

オープンエデュケーションプラットフォーム(OEP)

ま え が き

現在,北米を中心にオープンエデュケーションと呼ばれる教育のイノベーションが広がりを見せている。この流れは,2001年のMITオープンコースウェア(1)の公開に端を発し,その後2006年のカーン・アカデミー(2)のサービス開始を経て,2012年の Coursera,(3)Udacity,(4)edX(5) な ど の MOOCs(Massive Open Online Courses)の勃興と続いている。このようにオープンかつ多くの利用者が参加できるといったWebの特徴を生かした「Webで学ぶ」(6)ためのソリューションが次々と開発されてきている。これらの学習ソリューションは個人が「PCで学ぶ」ことを目的としていた旧来型のe-learningからは,明らかに一線を画す大きな進化となっている。本稿では,Webの特徴を積極的に活用した新しい学習手法である「キュレーションラーニング」と,それを北米の大学を中心に適用した実証実験について述べる。

検索から学習へ-キュレーションラーニング-

Googleのような検索エンジンが知識流通のための社会インフラとなった現在,知識や情報獲得のために検索という行為が一般化している。現実的な課題に対して,「課題発見」→「Web検索」→「情報の選択」→「獲得した情報の知織化」といったサイクルを経て問題解決を図る場合が多い。米国では,高校生が肉親のがん罹

りか ん

患を契機にがん診断に興味を持ち,Web検索を駆使して論文などの情報を調べ上げて独学で学習し,すい臓がんの早期発見を可能にする有望な技術を開発した例なども出てきている。(7)このように検索は問題解決のための重要な手段であり,探し出した情報をいかに学習して知識化するかが鍵となる。その知識化の有効な手段としては,獲得した情報や習得した知識を他者と共有/フィードバックを得ることで,理解を深める方法がある。実際に米国では,Twitterに似たユーザーインターフェースで学習者同志が協調しながら学び教え合うOpenStudy(8)のような学習に特化したSNSが学生の学習課題解決に積極的に活用されている。すなわち,前述の問題解決のサイクルの最後に「情報発信/他者との共有」を

ま え が き

検索から学習へ-キュレーションラーニング-

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オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み

21世紀型スキルとキュレーションラーニング

21世紀型スキルとは,Microsoft,Intel,Ciscoが主導して作成した,21世紀の新たなニーズに応えるために定義したスキルセットであり,日本でも文部科学省が制定した「新学習指導要領・生きる力」(12)の中で同様のスキルセットの重要性が謳うた

われている。具体的には,協働問題解決力やメディアリテラシーは,これからの知識経済社会において必須である{ATC21s(Assessment and Teaching of 21st Century Skills)}(13)とあり,デジタルネイティブと呼ばれるこれからの世代には欠かせないスキルセットとなっている。その中で求められているスキル要素をキュレーションラーニングの各プロセスに対応させると以下のようになる。(1) さがす(Find,Select)データの価値・意義を見出す力,複数の領域から概念を理解する力,データの選別・概念化(テーマ,トピック探し),分析,批判的思考,デザイン思考・問題解決力の育成など。(2) まとめる(Editorialize,Arrange,Create)上記(1)および異文化理解,学習能力,創造力など。(3) ひろげる/きづく(Share,Engage,Track)コミュニケーション,コラボレーションによる問題解決,データの価値・意義の再発見など。

21世紀型スキルとキュレーションラーニング学習者の様々な行動のログ(検索行動,サイトやビデオコンテンツのアクセス,他者とのコミュニケーション)が把握可能となっている。また,それらのデータを分析することで,一般的な検索やSNSなどのWebサービスの組合せだけでは把握できない学習行動を明らかにし,以下のような学習者が中心となる学習環境の構築に役立てることができる。(1) 検索先のカスタマイズ

GoogleではWeb上の全てが検索できてしまうため,授業目的に沿ったコンテンツのみ,学習者が検索できるようにする。(2) キュレーション結果の検索学習者がまとめた結果を検索できるようにすることで,キュレーションラーニングのサイクルを容易に回せるようにする。(3) 獲得した知識の可視化学習者がまとめた結果を分析してキーワードレベルで可視化することで,獲得した知識を容易に把握できるようにする。(4) 学習者のコミュニティ学習者がまとめた結果を分析して興味や嗜好の近い学習者を推薦し,コミュニティ形成をサポートする。(5) グループによる協同作業一つの課題に対して複数の学習者が協力してまとめを作成できるようにする。

図-1 オープンエデュケーションプラットフォーム(OEP)の概要

オープンエデュケーションプラットフォーム (OEP)

Web上に散在するコンテンツ 目的に合わせてコンテンツをまとめて学習(キュレーションリスト)

学習者の記録 整理したコンテンツ

①さがす

序論 結論

関連1 関連2

本論

学習記録の分析

ほかの学習者からのフィードバック

②まとめる

③ひろげるインテリジェントクローリングメタ情報抽出,整理

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オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み

度の頻度で増加するかとその効果について検証した。そのため,まず,キュレーションラーニングのコンセプトや方法論をコーディネーターおよびチューターに説明し,希望者に限定してOEPを用いて教材を作成して,作成した教材を共有してもらった。第二フェーズについては,現在実験中であるが,実際に学生に「さがす」「まとめる」「ひろげる」のキュレーションラーニングの方法論に従った学習を行ってもらい,その学習効果を検証する予定である(図-2)。以下,第一フェーズの実験結果および考察を記述する。(1) コーディネーターおよびチューター間でオープンな教材を組み合わせたまとめ教材を共有することができた。この教材の共有を通じ,チューター間でのディスカッションが以前より活発になったり,オンライン上で教材を協力して作成するようになったりするなどの変化も見られた。

(2) 学生のニーズにきめ細かく対応するためのカスタム教材を用意できた。これは,チュートリアルプログラムで教える基礎学習スキル(ライティング,リーディング,タイムマネジメントなど)や学習科目(数学,物理学,哲学など)ごとに学習トピックを細分化し,対象となる学生の学力に合わせた教材を作成したことによるものである。結果,LMS(Learning Management System)上の扱うトピック数が多く,細分化されていない既存の教材と比較して,今回作成したまとめ教材はより多くの閲覧数を得ることができた(図-3)。第一フェーズを終えた現在,ASCのLMS上には約70のまとめ教材が配置され,学生に対するチュー

OEPを使ったキュレーションラーニングの実践:チュートリアルプログラムにおける適用実験

本章では,カリフォルニア大学バークレー校でスポーツ特待生に対する学習サポートを行うアスレチックスチューデントセンター(以下,ASC)のチュートリアルプログラムにおける適用実験について紹介する。カリフォルニア大学は10の大学からなり,なかでも,カリフォルニア大学バークレー校は,最も古い大学で,ノーベル賞受賞者を多数輩出する全米でも屈指の大学である。また,ほかのアメリカの大学と同様,スポーツに非常に力を入れており,毎年,積極的にスポーツ特待生を受け入れている。このスポーツ特待生は,通常の学生と比較して,学力だけでなく,学習意欲も低いという傾向があり,カリフォルニア大学バークレー校だけでなく,多くの大学がスポーツ特待生に対する学業面のサポートを行う機能を設置している。カリフォルニア大学バークレー校のASCでは,チュートリアルプログラムを通じて,スポーツ特待生のキャンパス生活への適応,自立的に学習するための基礎学力の向上を支援している。

ASCのチュートリアルプログラムは,1名のプログラムコーディネーターと文学,数学,科学,物理学など,各科目を専門に持つ約60名のチューターによって運営され,約900名のスポーツ特待生に対して提供されている。本チュートリアルプログラムには,大きく二つの課題がある。一つは,チュートリアルプログラムを実施するコーディネーター,チューター側で抱えていた課題である。チュートリアルプログラムで用いる教材はチューターが各自で用意しており,組織内で共有されていないため,チューターの任期が終了する学期ごとに,そのノウハウが失われてしまっていた。もう一つは,学生の学習に関するものである。学力,学習意欲の低い学生に対し,いかに基礎的な学習スキルを習得させ,また,学習意欲を向上させるか,という課題である。このような課題に対し,FLAでは大きく二つのフェーズに分けて実証実験を行っている。第一フェーズでは,コーディネーターとチューター間のノウハウ共有が,キュレーションラーニングのフレームワークを導入することで,どの程

OEPを使ったキュレーションラーニングの実践:チュートリアルプログラムにおける適用実験

図-2 ASCのチュートリアルプログラム

コーディネーター

チューター

学生 (スポーツ 特待生)

オープンな教育コンテンツの「まとめ」の共有

オープンコンテンツの「まとめ」を使った

学習指導

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オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み

(2) グループワークと発表(コース全体の5%を占める)学生は4~ 5人のグループごとに分かれ,若者,ジェンダー,民族性,社会階層を扱った教材から導かれるテーマや疑問点を取り上げ,こちらが用意した考察点をグループで検討し,15分ほどの発表内容を準備して発表する活動である。二つの読み物を熟読し,グループで協力しながら関連情報を検索し,議論を通じて各テーマに対する理解を深め,学習成果をキュレートすることが目標とされた。発表にはキュレーションが用いられた。発表は動画をうまく駆使したものであった。スクリーン上での多様なリソースへの容易な切替えがキュレーションを用いた発表の利点と言える。(3) コースで扱ったテーマから自分の関心を発見し,キュレートする学習(コース全体の15%を占める)コースで扱ったテーマから自分の興味・関心に沿ったキュレーションを三つ作成してテーマへの理解を深め,自分の視点を見つけ,ほかの学生のキュレーションにもコメントする活動である(図-5)。学習目標としては,教材をよく理解し,自分が選んだテーマに関連した情報を収集し,その中から重要な情報を吟味・選択し,テーマに関する自分の意見を見つけ,ほかの学習者に自分の視点が分かるようにコンテキストを足しながらキュレートすること,また,ほかの学習者のキュレーションからも学ぶこと,が挙げられる。自分の興味・関心からスタートでき,コース開講中にいつでも提出でき,気負わずに取り掛かれる課題

トリアルプログラムの中での利用が始まっている。今後は,第一フェーズでチューターが作成したまとめ教材を用いながら,第二フェーズの中で,実際に学生にキュレーションラーニングの方法論に従った学習を行ってもらい,学力および学習意欲の向上に対する効果を検証する予定である。

OEPを使ったキュレーションラーニングの実践:人類学ハイブリッドコースにおける実践

本章では,2013年1月から3月に行った,ベイエリアにある公立大学の人類学ハイブリッドコースにおけるキュレーションラーニングの実践を紹介する。この実践は,教室内実践とオンライン学習を組み合わせたブレンデッドラーニングの適用実験として実施された。オンライン学習にはLMSであるMoodleとOEPが使用され,実施において,以下の三つの活動への適用を図った。(1) 日本への旅行プロジェクト(配点はコース全体の10%を占める)1週間日本に滞在し,その間に2都市を訪問する旅行プランを立てる活動である。学習目標としては,インターネット検索などを通じて日本の地理や観光地,各地の名物に親しむこと,旅行プランを立てるための情報収集を通じて日本の交通機関,宿泊や食事について知ること,日本旅行をバーチャルに体験することによって日本に対する新たな視点を得ること,多様なメディアを組み合わせて旅行プランを立て,ほかの学生に効果的に伝えるスキルを学ぶことである(図-4)。新たな視点の獲得,メディアリテラシー,コミュニケーション力は近年,高次の学習スキルとして注目されるものである。

OEPを使ったキュレーションラーニングの実践:人類学ハイブリッドコースにおける実践

図-4 キュレーションラーニング課題1̶文化人類学コース(日本を旅するときの旅程)

図-3 学生ニーズに合わせたカスタム教材の提供

④旅行の趣旨や経験を 踏まえて結論

① 旅程の概略②イメージと文章を組み合わせて 魅力的に解説

③ホテルや交通の チケット代などを Webで検索して 概算を見積り

LMSとの連携

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オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み

「まとめ」,教材理解が深まることも判明した。更に,各自の学習成果をほかの学習者に分かるように伝え,理解や見解を共有することによって新たな知見を獲得し,学びを更に「ひろげ」ていく可能性があることも明らかになった。

む  す  び

本稿では,キュレーションラーニングとそのプラットフォーム(OEP)を使った北米の大学における実践例を紹介した。今後は,実験から得られたフィードバックをベースにWebの学習プラットフォームとしての改良を進めるとともに,実践先を日本国内の大学にまで広げる。その中でMOOCsの活用事例として実証実験が始められている反転授業のように,OEPを使った教室での授業とオンライン授業をうまく組み合わせた学習手法のデザインについても,研究開発を進める予定である。

参 考 文 献

(1) MIT:OpenCourseWare. http://ocw.mit.edu/(2) Khan Academy. https://www.khanacademy.org/(3) Coursera. https://www.coursera.org/(4) Udacity. https://www.udacity.com/(5) edX. https://www.edx.org/(6) 飯吉 透ほか:ウェブで学ぶ̶オープンエデュケーションと知の革命.ちくま新書,2010.

(7) ジャック・アンドレイカ:有望な膵臓がん検査̶なんとティーンエージャーが開発.

http://www.ted.com/talks/lang/ja/jack_andraka_a_promising_test_for_pancreatic_cancer_from_a_teenager.html

(8) OpenStudy. http://openstudy.com/(9) Students Becoming Curators of Information?. http://langwitches.org/blog/2011/06/12/

students-becoming-curators-of-information/(10) S. Krishnan et al.:Using a Social Media Platform

to Explore How Social Media Can Enhance Primary

む  す  び

であったと言える。この活動では59個のキュレーションが作成された。今回,以上の三つの活動へのキュレーションラーニングの適用によって,76個のキュレーションが作成され,授業課題としてキュレーションラーニングが実践し得る点が確認できた。通常,学期終盤に脱落する者が数名出るが,今回は皆,最後までキュレーションラーニングを用いた課題に取り組み,コースを修了できた。また,最終日に実施したアンケート結果より,20人中12人の学生がエッセー課題よりもキュレーションラーニングを好む点が判明した。そのため,キュレーションラーニングは,学生が楽しく学べる課題を提供できると言えるだろう。しかし,学習効果の具体的な検証は次回の課題として残されている。学生の思考力を鍛え,理解を掘り下げるためには,授業全体の中での活動の位置づけや課題のデザインに工夫が求められる。また,キュレーションの評価方法も,今後,検討していく必要がある。上記,二つの適用実験の結果から,キュレーションラーニングにより,学生のニーズに即した教材を「さがし」,それをカスタム教材としてオンライン上で協力しながら「まとめ」,「まとめ」た教材を他者と共有して各自の学びを「ひろげ」,そのプロセスから更に作成したまとめの理解を深め,学習者間のコミュニケーションの活性化にもつながることが分かった。また,授業の課題にキュレーションラーニングを取り入れることにより,教材に関連する情報を学生が気負わずに楽しみながら「さがし」,それに自分の視点を加えながら的確に

図-5 キュレーションラーニング課題2̶文化人類学コース(日本のコンビニに関する考察)

.

①コンビニに関する画像や動画, テキストを効果的に組み合わせ て解説

②自分の視点や日本に関する発見を明記

③ほかの学生からのコメント

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オープンコンテンツを活用した教育イノベーションへの取組み

and Secondary Learning. The Sixth Conference of MIT’s Learning International Networks Consortium. (2013).

(11) P. Mihailidis et al.:Exploring Curation as a Core Competency in Digital and Media Literacy Education. Journal of Interactive Media Education.

http://www-jime.open.ac.uk/jime/article/viewArticle/2013-02/html

(12) 新学習指導要領・生きる力. http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/(13) Assessment & Teaching of 21st Century Skills. http://atc21s.org/

内野寛治(うちの かんじ)

Fujitsu Laboratories of America, Inc. 所属現在,オープンエデュケーションを活用した企業内教育,高等教育のソリューション設計に従事。

大久保祐子(おおくぼ ゆうこ)

Fujitsu Laboratories of America, Inc. 所属現在,Social Research Scientistとしてオープンエデュケーションを活用した企業内教育,高等教育のソリューション設計に従事。

渡辺拓郎(わたなべ たくろう)

Fujitsu Laboratories of America, Inc. 所属現在,社内の海外派遣制度により米国駐在中。OEPの設計・開発およびEdTechスタートアップの研究に従事。

著 者 紹 介