スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ a α活性制御 ......pyne,...

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スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A2α活性制御機構に関する研究 2006 中村 浩之

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Page 1: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

スフィンゴ脂質による細胞質型

ホスホリパーゼ A2α活性制御機構に関する研究

2006年

中村 浩之

Page 2: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

目次

緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

第 1章 セラミド-1-リン酸による cPLA2α活性化機構・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

1.1. 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

1.2. 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

1.3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

1.4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

第 2章 セラミド、スフィンゴシンによる cPLA2α活性抑制機構・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

2.1. 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

2.2. 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

2.3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

2.4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

第 3章 合成スフィンゴシン-1-リン酸誘導体によるアラキドン酸代謝と細胞死・・・・・・・・ 29

3.1. 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

3.2. 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

3.3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

3.4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

総括と展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41

論文目録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49

1

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緒言

脂質は細胞の構成要素としてだけでなく、細胞間・細胞内情報伝達分子としても機能して

いる。不飽和脂肪酸であるアラキドン酸 (AA) は、様々な生理機能を発揮するプロスタグラ

ンジン (PG) やロイコトリエン (LT)、トロンボキサン (TX) 等のエイコサノイドの前駆体であ

り、グリセロリン脂質にエステル結合した形で貯蔵されている。AAの産生は主にホスホリパ

ーゼA2 (PLA2) の活性化によって引き起こされる。PLA2はグリセロリン脂質を加水分解し、

遊離脂肪酸とリゾリン脂質を産生する酵素であり、生体組織に広く分布する。PLA2 は脂質メ

ディエーター産生や生体膜リン脂質再構築など広範な生理作用に関与することから、各種疾

患を対象とした薬剤開発の標的分子として注目されている。現在までにPLA2 活性を担う酵

素として、多様な分子種が同定されており、これらはその局在性、Ca2+要求性、基質特異性、

一次構造などにより、分泌型PLA2 (sPLA2)、細胞質型PLA2 (cPLA2)、Ca2+非依存性PLA2

(iPLA2)、PAFアセチルヒドロラーゼの 4つグループに分類されている。sPLA2 は 10種類の

分子種が同定されており、いずれも細胞外分泌のためのシグナル配列をもち、活性発現に

mM濃度のCa2+を必要とする。iPLA2 は 6 種類の分子種が同定されておりCa2+非依存的に

活性を示す。cPLA2 は細胞質局在性のPLA2 を主とした一群であり、6 種の分子種 (α, β,

γ, δ, ε, ζ) が同定されている。 このうちα, β, δ, ε, ζ は活性化にCa2+を必要とするが、γ の活

性化にはCa2+を必要としない。

多様な分子種が存在するPLA2 のうちcPLA2αはAA代謝と最も密接に関連した 85kDaの

PLA2分子種であり、さまざまな刺激に呼応した細胞応答に伴って活性化し、生体膜リン脂質

からAAを選択的に遊離する (Fig. 1)。cPLA2αは分子内にC2 ドメインと触媒ドメインをもち

(Fig. 2)、細胞活性化に伴う細胞内Ca2+濃度 ([Ca2+]i) 上昇に呼応してC2 ドメイン依存的に

細胞質から核膜や小胞体膜、ゴルジ体に移行する (Evans et al., 2001)。核膜や小胞体膜

にはAA代謝系の下流の酵素であるシクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼなどが存在し

ており、各酵素が互いに近傍に位置することがAAのエイコサノイドへの効率的な変換に重要

であると考えられている。また、ホスファチジルイノシトール 4, 5-ビスリン酸 (PIP2) は

cPLA2αの膜への結合をさらに高める (Mosior et al., 1998; Hixon et al., 1998 )。PIP2は

cPLA2αのリジン残基 (K488, K541, K543, K544) に結合しCa2+非依存的に酵素活性を増

強する (Das and Cho, 2002; Six and Dennis, 2003)。cPLA2αにはいくつかリン酸化される

セリン残基があり (Ser505, Ser515, Ser727)、Ser505 はextracellular signal-regulated

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kinase (ERK) や p38 mitogen-activated protein kinase (p38MAPK) 、 Ser515 は

Ca2+/calmodulin-dependent kinaseⅡ (CaMKⅡ)、Ser727はMAPK interacting kinase 1

(MNK1) によってそれぞれリン酸化され酵素活性が数倍に増大する (Hirabayashi et al.,

2004)。

cPLA2α欠損マウスではエイコサノイド産生の低下に起因する様々な表現型がみられる

(Uozumi et al., 1997)。例えば、cPLA2α欠損マウスから単離したマクロファージや肥満細胞

は PG、LT をほとんど産生しない。コラーゲン刺激に伴う血小板の TXA2産生はほぼ完全に

消失し、その結果血液凝固が遅延し、出血時間の延長をみる。PGE2産生が低下する結果、

コラーゲン誘導関節炎が顕著に軽減し、腸管ポリープの形成が抑制される。また、cPLA2α

欠損マウスではアレルギー性気道過敏症や肺線維症の軽減が認められ、これは主に LT の

低下に起因すると考えられる。さらに、PGI2 や PGF2αの低下によって分娩異常が認められ

る。また、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患や細胞死にも cPLA2α活

性が関与していることが知られている (Stephenson et al., 1996; Klivenyi et al., 1998)。こ

れらの知見から cPLA2αの活性化機構の解明、また活性制御物質を明らかにすることは

様々な病気の治療戦略に貢献できるものであることがわかる。

スフィンゴ脂質は細胞膜構成成分の一群であり、コレステロールなどと共に細胞膜上でラ

フトを形成し、シグナル伝達経路の場として働く。膜の構成成分の半分は脂質であるが、そ

の大部分はグリセロ骨格を持つリン脂質とコレステロールである。スフィンゴ脂質は最も多い

ミエリン鞘において 50%を超えるが、他のほとんどの細胞では全脂質量の 5~20%程度であ

る。スフィンゴ脂質の構造上の特徴としてはスフィンゴイド塩基 (長鎖塩基) を基本骨格とし

てもつことである。 動物細胞のスフィンゴ脂質の骨格はおもにスフィンゴシンであるが、植物

や真菌ではおもにフィトスフィンゴシン (4-ヒドロキシジヒドロスフィンゴシン) である。 しかし、

フィトスフィンゴシン型脂質は、哺乳動物でも腎臓や胃には豊富に見られる。 天然に存在す

るスフィンゴ脂質の炭素数は一般的に 18 であり、また、C-2, 3 位の立体化学構造は D-エリ

スロ体である。

スフィンゴ脂質生合成は L-セリンとパルミトイルCoAとの縮合で 3-ケトジヒドロスフィンゴシ

ンが生成する反応から始まる (Fig. 3)。次いで、ジヒドロスフィンゴシン、ジヒドロセラミド、セ

ラミドへと変換する。これらの反応を司る酵素群はすべて小胞体に局在した膜蛋白質であり、

その活性中心は細胞質側を向いていると考えられている。小胞体で合成されたセラミドは

CERT (セラミド輸送蛋白質) によって小胞体からゴルジ体に輸送され (Hanada et al.,

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2003)、ゴルジ体でスフィンゴミエリン (SM) やスフィンゴ糖脂質が合成される。また、セラミド

はSMがスフィンゴミエリナーゼ (SMase) によって加水分解されることによっても生成する。

さらにセラミドはスフィンゴシン、スフィンゴシン-1-リン酸 (S1P)、セラミド-1-リン酸 (C1P) な

どに代謝される。これらスフィンゴ脂質はアポトーシス、ストレス応答、細胞分化、老化など、

様々な生命現象に重要な役割を果たすことが知られている (Hannun, 1996; Pyne and

Pyne, 2000)。

これまでにスフィンゴ脂質が cPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

るが (Pfau et al., 1998; Kitatani et al., 2000; Huwiler et al., 2001)、詳細なメカニズムは不

明であり、その全容解明が待たれている。その詳細なメカニズムが明らかとなれば cPLA2α

活性調節ならびにスフィンゴ脂質の生理的役割の理解に大いに貢献できるものである。本研

究では cPLA2α活性調節におけるスフィンゴ脂質の役割について検討し、その詳細なメカニ

ズムの解明を試みた。

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Nucleus

cPLA2α

[Ca2+]i↑ MAPK, MNK1, CaMKⅡ

cPLA2α

COX 5-LOX

PTranslocation

Phosphorylation

Arachidonic acid

LeukotriensProstaglandins

Ca2+Stimuli

ReceptorsCa2+ channel

NucleusNucleus

cPLA2αcPLA2α

[Ca2+]i↑ MAPK, MNK1, CaMKⅡ

cPLA2αcPLA2α

COXCOX 5-LOX5-LOX

PPTranslocation

Phosphorylation

Arachidonic acid

LeukotriensProstaglandins

Ca2+Stimuli

ReceptorsCa2+ channel

Fig. 1. A model for the activation of cPLA2α in stimulated cells.

19 124 253 133 196 24

D43 D93 S228 S505 S515 S727

C2domain

Catalytic domain A

Catalytic domain B

Ca2+

PIP2

P P P

ERK/p38CaMKⅡ

MNK1

*

K541K543K544

K488

PIP2

19 124 253 133 196 24

D43 D93 S228 S505 S515 S727

C2domain

Catalytic domain A

Catalytic domain B

Ca2+

PIP2

PPP PPP PPP

ERK/p38CaMKⅡ

MNK1

*

K541K543K544

K488

PIP2

Fig. 2. Structure of cPLA2α.

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N,N-Dimethylsphingosine

Sphingomyelin

Sphingomyelinase

HO n-C13H27

N

OH

HO n-C13H27

NH2

OH

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

HO n-C13H27

HN R

O

OH

Ceramide

Sphingosine

Sphingosine-1-phosphate

Ceramidase

Sphingosine kinase

O n-C13H27

OH

HN R

O

PO

O

O

(H3C)3N

L-Serine + Palmitoyl CoA

3-Ketodihydro-sphingosine

Dihydrosphingosine

Dihydroceramide

de novo synthesis

PC

DAG

Ceramide-1-phosphate

Ceramidekinase

Dihydroceramidedesaturase

N,N-Dimethylsphingosine

Sphingomyelin

Sphingomyelinase

HO n-C13H27

N

OH

HO n-C13H27

NH2

OH

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

HO n-C13H27

HN R

O

OH

Ceramide

Sphingosine

Sphingosine-1-phosphate

Ceramidase

Sphingosine kinase

O n-C13H27

OH

HN R

O

PO

O

O

(H3C)3N

L-Serine + Palmitoyl CoA

3-Ketodihydro-sphingosine

Dihydrosphingosine

Dihydroceramide

de novo synthesis

PC

DAG

Ceramide-1-phosphate

Ceramidekinase

Dihydroceramidedesaturase

Fig. 3. Synthesis and metabolism of sphingolipids.

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第 1章 セラミド-1-リン酸による cPLA2α活性化機構

1.1. 序論

C1Pはセラミドがセラミドキナーゼによってリン酸化されて産生される物質である。C1Pや

セラミドキナーゼ、C1Pフォスファターゼが哺乳動物に存在することは 10 年以上前から知ら

れていたが、その生体内での役割については不明であった。しかし、C1Pはホスファチジン酸

(PA) と構造が類似していることから、細胞内の酸性脂質として種々の機能を持つ可能性が

予想されていた。そして、ここ数年でC1Pが細胞内シグナル伝達経路や細胞機能に関与する

ことがいくつか報告されており、新規の生理活性脂質として注目されている (Gomez-Munoz,

2004)。例えば、C1P刺激はDNA合成を促進し、アポトーシスを抑制する。これはホスファチ

ジルイノシトール 3-キナーゼ / プロテインキナーゼB経路を介したNF-κBの活性化、また酸

性SMase抑制によるセラミド産生の抑制が関与する (Gomez-Munoz et al., 1997; 2004;

2005)。またC1P刺激は貪食作用 (Hinkovska-Galcheva et al., 2005) や細胞内Ca2+変動

を引き起こす (Hogback et al., 2003; Tornquist et al., 2004; Colina et al., 2005)。内在性

のC1Pの役割についても調べられており、セラミドキナーゼ欠損細胞においてはCa2+イオノ

フォアやIL-1β刺激によるAA遊離が起こらないことが報告された (Pettus et al., 2003)。

SMaseDはSMを加水分解してC1Pを産生するが、この刺激によってもAA遊離は増大する。

セラミドキナーゼはcPLA2αと同じようにCa2+によって活性化され、またその発現組織も類似

していることから、我々はC1PがcPLA2αの活性調節を担っている可能性を想定した。そこで、

本研究ではC1PがcPLA2αを活性化するか否かを検討し、その活性化メカニズムの解明を試

みた。本研究においてC1Pはin vitro、また細胞においてcPLA2α活性を増大し、AA遊離を引

き起こすことが示された。また、C1P刺激によるAA遊離はプロテインキナーゼC (PKC) 活性

を介していることが明らかとなった (Nakamura et al., 2006)。

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1.2. 材料と方法

1.2.1. 材料

[5,6,8,9,11,12,14,15-3H]AA (215 Ci / mmol, 7.96TBq / mmol) は Amersham

(Buckinghamshire, UK)、1-palmitoyl-2-[14C]arachidonyl-phophatidylcholine (48 mCi /

mmol, 1176 MBq / mmol) はPerkin-Elmer (Boston, MA, USA)、C1P (from bovine brain,

Lot: 063K4094) とGF109203XはSigma (St. Louis, MO, USA)、イオノマイシンと

phorbol-12-myristate-13-acetate (PMA) はCalbiochem (La Jolla, CA, USA)、C8-C1Pは

Biomol Res. Lab. (Plymouth Meeting, PA, USA) からそれぞれ購入した。ピロフェノンは塩

野義製薬株式会社から御供与して頂いた。C1PとC8-C1Pはクロロフォルム / メタノール

(2:1, v/v) で溶解し、実験に用いる有機溶媒の最終濃度が 0.1%以下となるよう調製した。溶

媒はAA遊離やカルシウム応答に影響しなかった。

1.2.2. 細胞培養

L929細胞 (マウス線維芽細胞) と C12細胞は摂南大学の辻本博士から御供与して頂い

た。両細胞は 5 % fetal bovine serum (FBS) を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium

(DMEM) で 95% air/5% CO2、37℃の条件下、培養した。Human embryonic kidney

(HEK) 293T 細胞 は 10 % FBS を含む DMEM で培養した。Chinese hamster ovary

(CHO)-K1細胞、CHO-W11A細胞は 10 % FBSを含む Ham’s F12 mediumで培養した。

1.2.3. AA遊離測定

L929細胞とC12細胞は12-wellプレートに4×104 cells播種し、24時間後0.1 µCi [3H]AA,

0.1% fatty acid-free bovine serum albumin (BSA) を含むDMEM 750 µLで 24時間培養し

た。PBSで細胞を 2回washし、500 µLのDMEM (薬物, 0.1 % BSA, 10 mM HEPESを含む)

で 37℃の条件で刺激した。刺激後、上清 300 µLをエッペンチューブに移し、遠心し (8000

rpm, 5 min, 4℃) 、その上清 250 µLの放射活性を測定した (count 1)。細胞は 2 % Triton

X-100 を 200 µL加える (最終濃度 1%) ことにより溶解し、250 µLの放射活性を測定した

(count 2)。AA遊離量 (% of total) は下記の式により算出した。

Release = count 1×2

Total = (count 1×1.2) + (count 2×1.6)

AA release (%) = Release / Total×100

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1.2.4. 細胞内カルシウム濃度測定

L929細胞 (4×104) はグラスボトムディッシュに播種し、24時間後、無血清培地 (0.1 %

fatty acid-free BSAを含む ) で 24 時間培養した。細胞をwashし、10 µM fura-2

acetoxymethyl ester , 0.01% cremophore EL, 0.1% BSAを含むHBSS bufferで 30分間イ

ンキュベートした。wash後、ARGUS (浜松フォトニクス) を用いてfura-2 由来の蛍光比

(F340 / F380) を測定した。

1.2.5. PLA2活性測定

HEK293T細胞にcPLA2α (pcDNA4/HisMax A-human cPLA2α) またはコントロールベク

ター (pcDNA4) を遺伝子導入した。遺伝子導入はLipofectAMINE PLUS (Invitrogen,

Carlsbad, CA, USA) を用いたリポフェクション法にて行った。遺伝子導入した 48時間後に

細胞をlysis buffer (0.34 M sucrose, 100 mM dithiothreitol (DTT), Complete tablet mini

(protease inhibitor cocktail; 1 tablet per 10 mL), 0.2% CHAPS, 10 mM HEPES, pH 7.4)

ではがし、ポッター型ホモジナイザーを用いて細胞をホモジナイズした。その後、遠心

(15000 rpm, 10 min, 4℃) し、上清を回収した。 cell lysateはprotein assay試薬

(Bio-Rad) を用いてタンパク質濃度を測定し、タンパク質量 0.5 µg/µLになるよう調製した。

PLA2 活 性 の 基 質 と し て は 1-palmitoyl-2-[14C]arachidonyl phosphatidylcholine

([14C]PAPC) を用いた。[14C]PAPCはガラスチューブにとり、窒素ガスを吹きかけて脂質フィ

ルムにし、そこに蒸留水とTritonX-100 を加えてソニケートすることによりリポソームを作製し

た。reaction buffer (50 µM HEPES; pH7.4, 0.1% fatty acid-free BSA, CaCl2, 10 mM

DTT) 175 µL、試薬 25 µL、基質 50 µL (~ 60000 dpm / tube) 、cell lysate (0.5 µg) 25 µL

を 37℃で 30分間インキュベートした。Dole試薬 (1N H2SO4 / n-heptane / isopropanol = 2

/ 20 / 78) を 1.25 mL加えて反応を停止し、n-heptane 0.75 mL、蒸留水 0.5 mL加えてボル

テックスした。 遠心分離 (3000 rpm, 5 min) 後、上層を 0.75 mLとり、シリカゲル 100 mgの

入ったチューブに移した。 n-heptaneを 0.75 mL加えてボルテックスした後、遠心分離

(3000 rpm, 5 min) した。 上層 1 mLをバイアルに移し、Microscinti-0 1 mLを加え、液体シ

ンチレーションカウンターを用いて14C放射活性を測定することによりPLA2活性を測定した。

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1.2.6. プラスミドの構築

cPLA2αの C2 ドメインと緑色蛍光タンパク (green fluorescent protein; GFP) のキメラプ

ラスミド (GFP-cPLA2αC2) 作製のため、pcDNA3.1/Zeo(+)-cPLA2αを鋳型として以下に示

すプライマーを用いて PCRを行い、5’側に BglⅡ、3’側に PstⅠを持つ C2 ドメインフラグメン

トを得た。

Up stream: GGAAGATCTATGTCATTTATAGATCCTT

Down stream: GGTCTGCAGTCAGTCTGGGCATGAGCAAAC

作製した C2 ドメインフラグメントは pEGFP-C1 (Clontech) のマルチクローニングサイトに挿

入した。作製したプラスミドの塩基配列は DNAシークエンスによって確認した。

1.2.7. GFP融合タンパク質の細胞内局在の観察

CHO-K1細胞、CHO-W11A細胞を 60 mm dishに 2×105 cells播種し、24時間培養した。

2 µgのプラスミドベクターをそれぞれ無血清のHam’s F12を用いて遺伝子導入し、3時間後

にグラスボトムディッシュに 1×104 cells播種し、48 ~ 72 時間後に共焦点レーザー顕微鏡

(Olympus) でアルゴンレーザーを用いて観察した。観察時のバッファーはTyrode HEPES

buffer (0.1% BSAを含む) を用い、薬物刺激は 450 µLのバッファーに 10倍濃度の薬物を

50 µL加えることにより行った。

1.2.8. ウエスタンブロッティング

L929細胞は 20 mM Tris-HCl, 250 mM sucrose, 1 mM EDTA, 100 µM leupeptin, 1 mM

phenylmethylsulfonyl fluorideを含むバッファーでディッシュからはがし、ポッター型ホモジナ

イザーを用いてホモジナイズした。遠心し (17400×g, 30 min, 4℃) 、上清を細胞質画分と

した。沈殿物は 1%Triton X-100 を含むバッファーで懸濁し、遠心し、その上清を膜画分とし

た。タンパク質濃度はBio-Rad Protein Assayによって測定した。それぞれ 10 µgのタンパク

質を電気泳動し、PVDF 膜にタンパク質を転写した。ブロッキング (5% FBS を含む TBS-T

で 1 時間) 後、抗 PKCαポリクローナル抗体、抗 PKCδ ポリクローナル抗体 (Santa Cruz

Biotechnology)、抗β-tubulin 抗体 (Sigma) を 1 時間反応させ、さらに抗 rabbit IgG

horseradish peroxidase抗体 (Amersham) を 1時間反応させた。wash後 ECL溶液に 1

分間浸して化学発光させ、イメージアナライザーを用いて画像を取り込んだ。

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1.2.9. 免疫染色

L929 細胞 (1×104) をグラスボトムディッシュに播種し、48 時間培養した。薬物で細胞を

刺激後、4% ホルムアルデヒドで固定した (室温, 10 min)。0.1% アルギニンを含むPBSで

wash後、メタノールで透過処理した (-20℃, 20 min)。1% BSA, 1% normal goat serum,

0.3% Triton X-100を含むPBSでブロッキング後、1次抗体として抗PKCαポリクローナル抗

体、抗PKCδポリクローナル抗体、抗PKCεポリクローナル抗体、抗PKCζポリクローナル抗体

を反応させ (300倍希釈, 37℃, 1時間) 、さらに 2次抗体としてAlexa Fluor 488 抗rabbit

抗体を反応させた (300倍希釈, 37℃, 1時間)。細胞内局在の観察は共焦点レーザー顕微

鏡でアルゴンレーザーを用いて行った。

1.3. 結果

1.3.1. L929、C12細胞における C1Pによる AA遊離

L929細胞を 30 µM C1Pで 30分刺激するとAA遊離が促進した (Fig. 4A)。C1Pの濃度は

2.5 µM~10 µMでも検討したが 6 時間刺激してもAA遊離は観察されなかった (data not

shown)。L929細胞におけるC1PによるAA遊離は、刺激時に 4 mM EGTAを添加しても変化

が見られなかったが、BAPTA-AM (細胞内Ca2+キレート剤) で細胞を処理すると抑制された。

このことから、C1PによるAA遊離は細胞外Ca2+に依存せず、細胞内Ca2+に依存する反応で

あることがわかる。C8-C1Pはいくつかの細胞において[Ca2+]iを上昇させることが報告されて

いる (Hogback et al., 2003; Tornquist et al., 2004; Colina et al., 2005)。しかしL929細胞

を 30 µM C8-C1Pで 30分刺激してもAA遊離は観察されなかった (data not shown)。

C1P による AA 遊離における cPLA2αの関与を検討するため、cPLA2α低発現株である

C12細胞を用いて検討した。C12細胞は L929細胞の変異株であり、TNF-αによる細胞死に

耐性をもつ細胞株として樹立された (Hayakawa et al., 1993)。C12細胞を 30 µM C1Pで刺

激するとわずかに AA 遊離が促進されたが、L929 細胞の反応に比べると弱く、両細胞間の

AA 遊離の差は有意であった (Fig. 4A)。さらに、cPLA2α選択的阻害剤であるピロフェノン

(Ono et al., 2002) は C1Pによる AA遊離を抑制した (Fig. 4B)。これらの結果から、L929

細胞における C1Pによる AA遊離は cPLA2α活性を介した反応であることが示唆される。

11

Page 13: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

A

A re

leas

e (%

of t

otal

)

0

1

2L929 C12

C1P (30 µM)

1.8 mM CaCl2 EGTA BAPTA-AM

+ + +

**

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

0

1

2L929 C12

C1P (30 µM)

1.8 mM CaCl2 EGTA BAPTA-AM

+ + +

**

(A) (B)

Fig. 4. C1P stimulates AA release from L929 cells. (A), effect of C1P on AA release from L929 cells andwith 30 µM C1P for 30 min. BAPTA-AM (50 µM) wawith vehicle or C1P. (B), effect of pyrrophenone on L929 cells were pretreated with vehicle (control)stimulated with vehicle (white column) or 30 mMrepresent means ± S.E.M. of three independent ex*P < 0.05, significantly different from the C1P-treate

1.3.2. C1Pの cPLA2α活性への影響

C1PはcPLA2αを活性化してAA遊離を引き起

の活性化はシグナル伝達を介さない直接的なも

PLA2 活性を測定した。0.1 mM CaCl2 存在下

(Fig. 5)。その増強作用は 1 mM CaCl2存在下で

見られなかった。また 4 mM EGTAでCa2+をキレ

った。これらの結果から、C1PはcPLA2αを直接

であることが示唆された。

12

22

C

C p

d

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

0

1

Control

C1P(30 µM)

Pyrrophenone(2 µM)

++

*

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

0

1

Control

C1P(30 µM)

Pyrrophenone(2 µM)

++

*

12 cells. [3H]AA-labeled cells were treated s pretreated for 15 min prior to stimulation 1P-stimulated AA release from L929 cells. or 2 µM pyrrophenone for 15 min then C1P (hatched column) for 30 min. Data eriments and each performed in duplicate.

C12 cells.

こすことがわかったが、C1PによるcPLA2α

かどうかを検討するため、in vitroにおける

C1PはcPLA2α活性を 2 倍程度増強した

はわずかであり、4 mM CaCl2存在下では

ートするとC1PはcPLA2α活性を増強しなか

に活性化し、この活性化にはCa2+が必要

Page 14: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

P

LA2

activ

ity (d

pm)

1000

2000

3000

4000

00 2.5 10 50 0 2.5 10 50 0 2.5 10 50 0 2.5 10 50C1P

(µM)4 M C Cl 1 M C Cl 4 M EGTA

P

LA2

activ

ity (d

pm)

1000

2000

3000

4000

00 2.5 10 50 0 2.5 10 50 0 2.5 10 50 0 2.5 10 50C1P

(µM)4 M C Cl 1 M C Cl 4 M EGTA

Fig. 5. C1P activates cPLA2α in vitro. The PLA2 activity in the cytosol fraction from HEK293T cells expressing human cPLA2α was measured as described in Materials and Methods. The assays were performed in the absence or presence of the indicated calcium concentrations and various concentrations of C1P. Data represent means ± S.D. of three determinations in a typical experiment.

1.3.3. C1Pによる cPLA2αのトランスロケーションの観察

C1PによるAA遊離におけるcPLA2αのトランスロケーションの関与を検討するため、

cPLA2αとGFPの融合蛋白質 (GFP-cPLA2α) の細胞内局在を観察した。L929 細胞は遺伝

子導入効率が悪いため、遺伝子導入効率の良いCHO-K1 細胞にGFP-cPLA2αを一過性に

発現させた。CHO-K1細胞に発現させたGFP-cPLA2αの細胞内局在は、無刺激では細胞質

に均一に発現しているが、Ca2+イオノフォアであるイオノマイシンで刺激すると、刺激後 1~2

分で[Ca2+]iが上昇したことによってGFP-cPLA2αは核周辺部にトランスロケーションした (Fig.

6A)。同様に、C1P刺激によって刺激後 1~2 分でGFP-cPLA2αは核周辺部にトランスロケー

ションした (Fig. 6B)。C1PによるGFP-cPLA2αのトランスロケーションは 4 mM EGTAで細胞

外Ca2+をキレートしても同様の結果が得られた (Fig. 6C)。

cPLA2αの C2 ドメインはトランスロケーションするのに必須であり、また脂質と相互作用し

13

Page 15: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

得る領域である。このようにアニオン性の脂質であるC1PとC2ドメインが相互作用する可能

性があるため、C2ドメインとGFPの融合タンパク質 (GFP-cPLA2αC2) のC1P刺激による

細胞内局在変化を観察した。イオノマイシン刺激と同様、C1P刺激によってGFP-cPLA2αC2

は核周辺部にトランスロケーションした (Fig. 6 D and E)。これらの結果から C1Pは C2 ドメ

インを介して GFP-cPLA2αのトランスロケーションを誘発していると考えられる。

(A) GFP-cPLA2α

5 µM Ionomycin Unstimulated

(B) GFP-cPLA2α

30 µM C1PUnstimulated

(C) GFP-cPLA2α (4 mM EGTA)

30 µM C1PUnstimulated

(D) GFP-C2 domain

5 µM IonomycinUnstimulated

(E) GFP-C2 domain

30 µM C1PUnstimulated

10 µm

(A) GFP-cPLA2α

5 µM Ionomycin Unstimulated

(A) GFP-cPLA2α

5 µM Ionomycin Unstimulated

(B) GFP-cPLA2α

30 µM C1PUnstimulated

(C) GFP-cPLA2α (4 mM EGTA)

30 µM C1PUnstimulated

(D) GFP-C2 domain

5 µM IonomycinUnstimulated

(E) GFP-C2 domain

30 µM C1PUnstimulated

10 µm

Fig. 6. cPLA2α is translocated by stimulation with C1P. CHO-K1 cells transiently transfected with the expression vector for GFP-cPLA2α (A , B, and C) or GFP-cPLA2αC2 (D and E) were stimulated with 5 µM ionomycin (A and D) or 30 µM C1P (B, C and E) for 1 min. The cells were stimulated in the presence of 4 mM EGTA (C). Data are representative of 3-4 independent experiments. Scale bars, 10 mm.

1.3.4. C1Pによる細胞内カルシウム応答

14

Page 16: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

cPLA2αのトランスロケーションや膜への結合にはCa2+が重要な因子である。C1Pが

[Ca2+]i上昇を引き起こすという報告がいくつかあることからも (Hogback et al., 2003;

Tornquist et al., 2004; Colina et al., 2005)、我々はC1P刺激によってL929細胞の[Ca2+]iに

変化があるかどうかを検討した。30 µM C1PはL929細胞の[Ca2+]iをわずかに上昇させたが、

その反応はATP刺激に比べると非常に弱いものであった (Fig. 7A)。また、10 µM C1P刺激

ではほとんど [Ca2+]iに変化は見られなかった (Fig. 7B)。このことから、C1Pによる

GFP-cPLA2αのトランスロケーションは[Ca2+]i上昇に非依存的であることが示唆される。

FFefr

1

c

2

(A) (B)

ig. 7. Effect of C1P on [Ca2+]i response in L929 ura-2-loaded cells were stimulated with 30 µMxtracellular CaCl2. ATP was used as a po

luorescence at 340 to 380 nm in individual cellsepresentative of two independent experiments.

.3.5. C1Pによる AA遊離へのシグナル伝達

C1PはcPLA2αの酵素活性を増大したが

々はC1PによるAA遊離促進作用はcPLA2

介したcPLA2αの活性化が関与している可

PLA2αをリン酸化し、AA遊離を促進すること

002)。本研究において、100 nM PMAでL9

1

2

3

4

5

5 10 10Time (min)

Rat

io(3

40 n

m/3

80 n

m)

5

30 µM C1P

10 µM ATP

1

2

3

4

5

5 10 10Time (min)

Rat

io(3

40 n

m/3

80 n

m)

1

2

3

4

5

55 10 10Time (min)

Rat

io(3

40 n

m/3

80 n

m)

5

30 µM C1P

10 µM ATP

cells. (A) and 10 µM (B) C1P in the presence of 1.8 mM sitive control. Each line represents the ratio of . Arrows indicate the point of stimulation. Data are

の関与

2 倍程度の増強作用であったため (Fig. 5)、

αを直接活性化するのとは別に、シグナル伝達

能性を考えた。PKC活性化剤であるPMAは

がいくつかの細胞で知られている (Xu et al.,

29細胞を 30分刺激するとAA遊離はわずかに

15

1

2

3

4

5

5 10 150Time (min)

Rat

io(3

40 n

m/3

80 n

m)

10 µM C1P

10 µM ATP

1

2

3

4

5

5 10 150Time (min)

Rat

io(3

40 n

m/3

80 n

m)

10 µM C1P

10 µM ATP

Page 17: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

促進し (約 1.5 倍) 、イオノマイシンとPMAの同時刺激ではAA遊離を有意に促進した (約 4

倍) (Table 1)。このように、cPLA2α活性に由来するAA遊離は[Ca2+]i上昇に伴うトランスロケ

ーションとリン酸化が同時に起こると顕著に観察される。L929 細胞において 10 µM C1P刺

激はAA遊離を引き起こさなかったが、イオノマイシンと同時刺激することによって有意にAA

遊離は促進した (Table 1)。しかし、C8-C1Pはイオノマイシンと同時刺激してもAA遊離を促

進しなかった。

Table 1. Effect of costimulation of C1P and ionomycin on AA release from L929 cells.

AA release (% of control)

Vehicle 10 µM Ionomycin

Vehicle 100 190 ± 35

10 µM C1P 122 ± 48 1172 ± 167*

10 µM C8-C1P 93 ± 8 176 ± 10

100 nM PMA 166 ± 27 436 ± 89* [3H]AA-labeled L929 cells were treated with vehicle, 10 µM C1P, 10 µM C8-C1P or 100 nM PMA in the presence and absence of 10 µM ionomycin for 30 min. Data represent means ± S.E.M. of three independent experiments performed in duplicate. *P < 0.05, significantly different from the vehicle-treated cells.

PKC阻害剤である GF109203Xは L929細胞において 30 µM C1P刺激による AA遊離

を抑制した (Fig. 8A)。また、10 µM C1P とイオノマイシン同時刺激による AA 遊離も

GF109203Xは抑制した (Fig. 8B)。細胞が PMAに長時間曝されると、細胞内に発現してい

るPMA感受性のPKCが欠損することが知られている。L929細胞において、刺激前にPMA

を 6 時間、12 時間処理すると PMA とイオノマイシン同時刺激による AA 遊離はそれぞれ

70%、90%抑制された (data not shown)。さらに、PMA長時間処理は 10 µM C1P とイオノ

マイシン同時刺激による AA 遊離を抑制した (Fig. 8B)。これらの結果から、L929 細胞にお

いて C1Pによる AA遊離は PKCの活性化を介している可能性が考えられる。

16

Page 18: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

C1P(30 µM)

GF109203X(10 µM)

0

0.5

1.0

2.0

2.5

1.5

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

+ +

*

C1P(30 µM)

GF109203X(10 µM)

0

0.5

1.0

2.0

2.5

1.5

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

+ +

*

(A) (B)

Fig. 8. C1P induces AA release through a PKCGF109203X on C1P-induced AA release from L92with vehicle or 10 µM GF109203X for 15 min threpresent means ± S.E.M. of three independent effects of GF109203X or PKC down-regulation orelease from L929 cells. [3H]AA-labeled cells were100 nM PMA for 12 h and then costimulation witmeans ± S.E.M. of three independent experimesignificantly different from the value without GF109

1.3.6. C1Pによる PKCの細胞内局在変化

PKCは活性化に伴ってトランスロケーション

る (Webb et al., 2000)。そこで C1Pは PKCの

討した。まず、CHO-K1細胞に PKCとGFPの

を観察した。C1P刺激によって GFP-PKCεは細

ら核内へ局在変化した (Fig. 9A)。次に、L929

ョンを検討した。ウエスタンブロッティングの結果

PKCαと PKCδが可溶性画分から膜画分へと

L929細胞に発現している PKCの細胞内局在

激によって PKCα、PKCδ、PKCεは細胞質か

変化した (Fig. 9C)。

(A) (C)

1

(a) GFP-PKCε0 min 1 min

(a) GFP-PKCε0 min 1 min

9een

h

7

0

20

40

60

80

100

GF109203X(10 µM)

PMA(100 nM, 12 h)

Control

AA

rele

ase

(% o

f con

trol)

*

*

0

20

40

60

80

100

GF109203X(10 µM)

PMA(100 nM, 12 h)

Control

AA

rele

ase

(% o

f con

trol)

*

*

-dependent pathway in L929 cells.(A), effect of cells. [3H]AA-labeled L929 cells were pretreated n stimulated with 30 µM C1P for 30 min. Data xperiments and each performed in duplicate. (B), 10 µM C1P plus 10 µM ionomycin-induced AA

treated with or without GF109203X for 15 min or C1P and ionomycin for 30 min. Data represent

nts and each performed in duplicate. *P < 0.05, 203X or PMA.

、細胞内局在を変化させることが知られてい

トランスロケーションを誘導するかどうかを検

融合タンパク質を一過性発現させてその挙動

胞質から細胞膜へ、GFP-PKCζは細胞質か

細胞に発現している PKCのトランスロケーシ

から、L929細胞において C1P刺激によって

トランスロケーションした (Fig. 9B)。さらに、

変化を免疫染色法によって観察した。C1P刺

細胞膜へ、PKCζは細胞質から核内へ局在

Page 19: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

Unstimulated 10 µM C1P 100 nM PMAUnstimulated 10 µM C1P 100 nM PMA

Fi(AinThδ 20th

1.

PKCα

PKCε

PKCζ

PKCδ

PKCα

PKCε

PKCζ

PKCδ

Vehicle 10 µM C1P 100 nM PMA10 µM C1PVehicle 10 µM C1P 100 nM PMA10 µM C1P(B)

PKCα

PKCδ

β-tubulin

S SM M

(20 min) (10 min)

PKCα

PKCδ

β-tubulin

S SM M

(20 min) (10 min)

g. 9. Translocation of PKC on C1P stimu), CHO-K1 cells expressing GFP-PKCε (adicated time. (B), L929 cells were treated e soluble (S) and the membrane (M) fract

and β-tubulin were performed. (C), L929 c min later, cells were fixed and strained f

ree independent experiments.

4. 考察

(20 min)(20 min) (20 min)(20 min)

la) wioeo

S SM MS SM M

ted L929 cells. or GFP-PKCζ (b) were treated with 10 µM C1P for the ith 10 µM C1P or 100 nM PMA for the indicated time. ns were prepared above, and western blots for PKCα,

lls were treated with 10 µM C1P or 100 nM PMA. After r PKCα,δ,ε and ζ. Data represent similar results from

18

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本研究ではC1PがAA遊離を引き起こすメカニズムの解明を試み、C1PはcPLA2αを活性

化することを明らかにした。この活性化メカニズムには直接的な活性化とPKC活性を介した

活性化が存在することがわかった。本研究の投稿論文を作成中に、PettusらはC1Pが

cPLA2αのC2 ドメインを介して直接活性化し、AA遊離を引き起こすことを報告した (Pettus

et al., 2004)。本研究においてもC1PはcPLA2αを直接活性化した。この活性化には 0.1 mM

程度のCa2+を必要とし、4 mM CaCl2存在下では活性化はみられなかった。PettusらはC1P

がcPLA2αのCa2+との親和性を増大することを示しているが、これは我々の結果からも支持

される。しかし、彼らの結果はCa2+によるcPLA2αの最大活性をC1Pが増強した。この結果の

相違の理由は今のところわからないが、実験条件や試薬の違いによるものかもしれない。ア

ニオン性の脂質であるPIP2 などはcPLA2αの膜結合への安定性を高め、酵素活性を増大す

る。このように、C1PはcPLA2αのCa2+との親和性を増大することによってトランスロケーショ

ンを引き起こし、また膜への結合を安定化することなどによってcPLA2α活性を増大している

のかもしれない。

C1PがPKC活性を介してcPLA2αを活性化することを本研究で初めて明らかにした。

cPLA2αの活性化には[Ca2+]iの上昇とリン酸化が重要であることが知られている。PKCの活

性化によってERKなど、様々なキナーゼが活性化し、cPLA2αのリン酸化は亢進される。

L929細胞においてPMAはAA遊離を促進しなかったが、イオノマイシンによるAA遊離を顕著

に増大した。[Ca2+]iの上昇がPKCの活性化に関与することも知られているが、L929 細胞に

おいてはイオノマイシンによるAA遊離へのPKCの関与は限定的であることがわかる。L929

細胞において 10 µM C1Pは[Ca2+]iやAA遊離を促進しなかったが、PMAと同様にイオノマイ

シンによるAA遊離を顕著に促進した。またC1PによるcPLA2α活性の増大は 2倍程度であっ

た。このようにC1Pはリン酸化シグナルを亢進させる可能性が考えられ、PKC阻害剤

(GF109203X) やPKC欠損はC1PによるAA遊離を抑制した。 L929 細胞において

conventional PKC (α, β)、novel PKC (δ, ε)、atypical PKC (ζ) の発現が確認されており

(O’Connell et al., 1997)、我々の免疫染色の結果からC1PはPKCα, δ, εを細胞質から細胞

膜へ、PKCζを細胞質から核内へ局在変化させることがわかった。これらの結果はL929細胞

におけるC1P刺激によるAA遊離にはPKC活性が関与している可能性を示唆している。

C1P刺激によるAA遊離に関与するPKCアイソフォームを明らかにすることは重要である。

GF109203Xは多くの PKCを阻害することが知られており、atypical PKC も抑制する。C1P

刺激による AA遊離を GF109203Xは約 70%抑制したが、PMA長時間処理による PKC欠

19

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損は約 50%の抑制だった。また、イオノマイシンと PMA同時刺激による AA遊離を C1Pは

増大した (data not shown)。これらの結果から C1P刺激による AA遊離には PMA非感受

性の atypical PKCζの関与も考えられる。今後は選択的に PKC活性を抑制した条件での検

討が必要であると思われる。C1PがPKCを活性化するメカニズムは知られていない。ジアシ

ルグリセロールはconventional PKCとnovel PKCを細胞膜へ局在変化させるため、本研究

の免疫染色の結果から、C1P は PLC を活性化するなどしてジアシルグリセロールの産生を

促進しているのかもしれない。セラミドはいくつかの PKC 活性を間接的に、また直接的に調

節することが知られている (Lee et al., 1996; Kajimoto et al., 2001; Aschrafi et al., 2003;

Wang et al., 2005)。PKCには疎水性の領域 (C1、C2 ドメイン) が存在するため、セラミドと

同様 C1Pも PKCを直接活性化するのかもしれない。また、C1Pは未知の受容体のリガンド

として作用するのかもしれない。

C1P刺激によってcPLA2αのリン酸化は亢進しているのだろうか。本研究においてこの問

いに明確に答えられる結果は得られていない。Pettusらの報告 (2004) ではC1P刺激によ

ってcPLA2αのSer505 はリン酸化していなかった。本研究においてもU0126 (MEK阻害剤)

やSB203580 (p38MAPK阻害剤) がC1P刺激によるAA遊離を抑制しなかったため (data

not shown)、C1PはcPLA2αのSer505 はリン酸化しないと思われる。しかし、PKC活性を介

するcPLA2αのリン酸化にはMAPKに依存しない経路も存在する (Xu et al., 2002)。また、フ

ォスファターゼ阻害剤であるオカダ酸はcPLA2αのSer727 をリン酸化し、[Ca2+]i上昇なしに

cPLA2αのトランスロケーションを引き起こし、またAA遊離を促進する (Gijon et al., 1999)。

このように、C1PはcPLA2αのSer515やSer727のリン酸化を亢進するのかもしれない。

まとめると、C1P 刺激による AA 遊離は cPLA2αの活性化によるものであり、C1P は

cPLA2αを直接的に、また PKC活性を介して活性化することを我々は明らかにした。また、こ

の活性化には cPLA2αの C2 ドメインを介したトランスロケーションも関与していることが明ら

かとなった。

第 2章 セラミド、スフィンゴシンによる cPLA2α活性抑制機構

20

Page 22: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

2.1. 序論

スフィンゴ脂質の基本骨格をなすセラミドは、アポトーシス、細胞分化、発生、老化などの

重要な生命現象に関与する細胞内脂質メディエーターである (van Blitterswijk et al., 2003)。

セラミドは L-セリンとパルミトイル CoAの縮合反応から始まる de novo合成や、SMaseによ

る SMの加水分解によって産生される。このセラミド産生は TNF-α、Fas-リガンド、インターフ

ェロンγ、放射線、熱ショックなどさまざまな細胞外の刺激によって促進される。セラミドは全て

のスフィンゴ脂質生成に関与しており、セラミドの代謝によってスフィンゴシンや S1P が産生

される。スフィンゴシンや S1P は細胞死や細胞増殖、細胞運動を制御していることが示され

ている (Kupperman et al., 2000)。

本論文の第 1章において C1Pが cPLA2αを活性化することを示した。さらに C1P以外の

スフィンゴ脂質もcPLA2α活性を制御している可能性が考えられる。本研究ではセラミド、スフ

ィンゴシン、S1P が cPLA2α活性に関与するかどうかを検討し、セラミドとスフィンゴシンが

cPLA2α活性を抑制することを明らかにした (Nakamura et al., 2004a)。また、セラミドやスフ

ィンゴシンの cPLA2α活性抑制作用は cPLA2αのトランスロケーションの抑制が関与している

ことが明らかとなった (manuscript in preparation)。

2.2. 材料と方法

2.2.1. 材料

C2-セラミドとスフィンゴシンは Sigma (St. Louis, MO, USA)、S1Pは Biomol Res. Lab.

(Plymouth Meeting, PA, USA) からそれぞれ購入した。

2.2.2. 細胞培養

L929細胞、C12細胞は 5% FBSを含む DMEMで、HEK293T細胞は 10% FBSを含む

DMEMでそれぞれ 95% air/5% CO2、37℃の条件下、培養した。

2.2.3. GFP-cPLA2αの細胞内局在の観察

HEK293T細胞を 60 mm dishに 2×105 cells播種し、24時間培養した。 2 µgのプラスミド

ベクターをそれぞれ無血清のDMEMを用いて遺伝子導入し、3 時間後にグラスボトムディッ

シュに 1×104 cells播種し、48 ~ 72時間後に共焦点レーザー顕微鏡 (Olympus) でアルゴ

21

Page 23: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

ンレーザーを用いて観察した。 観察時のバッファーはTyrode HEPES buffer (0.1% BSAを

含む) を用い、薬物刺激は 1.8 mLのバッファーに 10倍濃度の薬物を 200 µL加えることによ

り行った。

2.2.4. プラスミドの構築

cPLA2αの欠損変異体 (Δ397-749、Δ530-749、Δ726-749) とGFP のキメラプラスミド

(GFP-cPLA2αΔ397-749、GFP-cPLA2αΔ530-749、GFP-cPLA2αΔ726-749) 作製のた

め、GFP-cPLA2αを鋳型として以下に示すプライマーを用いてPCRを行い、5’側にBglⅡ、3’

側に PstⅠを持つフラグメントを得た。

Up stream: GGAAGATCTATGTCATTTATAGATCCTT

Down stream: CAACTGCAGGGCACTGCCCCAGACACC (Δ397-749)

CAACTGCAGATCAGGATCTGCTACAGC (Δ530-749)

CAACTGCAGACGAGATGGATTCTGTCT (Δ726-749)

それぞれのフラグメントは pEGFP-C1のマルチクローニングサイトに挿入した。作製したプラ

スミドの塩基配列は DNAシークエンスによって確認した。

2.3. 結果

2.3.1. セラミド、スフィンゴシン、スフィンゴシン-1-リン酸の cPLA2α活性への影響

セラミドやスフィンゴシン、S1P が cPLA2α活性に影響を与えるかどうか検討するため in

vitroにおけるcPLA2α活性の測定を試みた。cPLA2α活性の測定はcPLA2αを一過性発現さ

せたHEK293T細胞の cell lysateに薬物を添加することによって行った。セラミドは細胞透過

性のセラミドである C2-セラミドを用いた。4 mM CaCl2存在下の PLA2活性 (約 3000 dpm)

を 50 µM C2-セラミドは約 75%抑制した (Fig. 10)。5 µM C2-セラミドは PLA2活性に影響し

なかった。スフィンゴシンは PLA2活性を 5 µMでは約 50%、20 µMでは約 95%それぞれ抑

制した。一方、S1Pは 50 µMの濃度を用いても PLA2活性に影響しなかった。これらの結果

は、C2-セラミドやスフィンゴシンはシグナル伝達を介さずに cPLA2α活性を抑制する可能性

を示唆している。

22

3000

4000

vity

(dpm

)

3000

4000

vity

(dpm

)

Page 24: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

Fig. 10. Effect of sphingolipids on cPLA2α activity in vitro. The PLA2 activity in the soluble fraction from HEK293T cells expressing human cPLA2α was measured as described in Materials and Methods. The assays were performed in the presence of vehicle or the indicated concentrations of C2-ceramide (C2-Cer), sphingoinse (Sph), and S1P. Data represent means ± S.D. of three determinations in a typical experiment from two independent experiments.

2.3.2. セラミド、スフィンゴシンの AA遊離への影響

C2-セラミドやスフィンゴシンが cPLA2α活性に由来する AA 遊離を抑制するかどうかを検

討した。H2O2 は様々なキナーゼをリン酸化することによって cPLA2αを活性化することが知

られている。本研究において、H2O2とイオノマイシン同時刺激は L929 細胞からの AA 遊離

を促進し、それはcPLA2α低発現株であるC12細胞からのAA遊離と比べて大きかった (Fig.

11A)。この両細胞間における AA遊離の差は cPLA2α活性に由来するものであると考えられ

る。実際に、cPLA2α選択的阻害剤であるピロフェノンは H2O2とイオノマイシン同時刺激によ

る L929、C12 細胞からの AA 遊離の差を抑制した。同様に、スフィンゴシンは cPLA2α活性

に由来する AA遊離を抑制した。また、30 µM C2-セラミドも L929細胞においてH2O2とイオ

ノマイシン同時刺激による AA遊離を抑制した (Fig. 11B)。

セラミドは cPLA2αを活性化し、AA遊離を促進するという報告があることから (Huwiler et

al., 2001)、C2-セラミドがAA遊離を促進するかどうか検討した。L929細胞において 100 µM

C2-セラミドは AA 遊離を促進し、またイオノマイシン刺激による AA 遊離をさらに増大した

(Fig. 11C)。

23

Page 25: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

of t

otal

)

12

16 L929C12

(A) (B)

of t

otal

)

12

16VehicleCer (3 µM)Cer (30 µM)

of t

otal

)

12

16 L929C12

(A) (B)

of t

otal

)

12

16VehicleCer (3 µM)Cer (30 µM)

F([(ecsA1e

2

AA

rele

ase

(%

0

4

8

Vehicle Vehicle Sph(30 µM)

Pyrr(3 µM)

H2O2 (2 mM) + Iono (10 µM)

AA

rele

ase

(%

0

4

8

Vehicle H2O2 (2 mM) + Iono (10 µM)

Vehi Iono(5 µM)

C2-Cer(100 µM)

C2-Cer+ Iono

(C)

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

0

4

8

12

AA

rele

ase

(%

0

4

8

Vehicle Vehicle Sph(30 µM)

Pyrr(3 µM)

H2O2 (2 mM) + Iono (10 µM)

AA

rele

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(%

0

4

8

Vehicle H2O2 (2 mM) + Iono (10 µM)

Vehi Iono(5 µM)

C2-Cer(100 µM)

C2-Cer+ Iono

(C)

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

0

4

8

12

Vehi Iono(5 µM)

C2-Cer(100 µM)

C2-Cer+ Iono

(C)

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

0

4

8

12

ig. 11. Effects of sphingosine and C2-ceramide on AA release from L929 cells. A), effect of sphingosine on H2O2 plus ionomycin-induced AA release from L929 and C12 cells. 3H]AA-labeled cells were pretreated with vehicle, 30 µM sphingosine (Sph) or 3 µM pyrrophenone Pyrr) for 15 min then stimulated with vehicle or 2 mM H2O2 plus 5 mM ionomycin for 30 min. (B), ffect of C2-ceramide on H2O2 plus ionomycin-induced AA release from L929 cells. [3H]AA-labeled ells were pretreated with vehicle or the indicated concentrations of C2-ceramide for 15 min then timulated with vehicle or 2 mM H2O2 plus 5 mM ionomycin for 30 min. (C), effect of C2-ceramide on A release from L929 cells. [3H]AA-labeled cells were stimulated with vehicle, 5 µM ionomycin and 00 µM C2-ceramide for 30 min. Data represent means ± S.E.M. of three independent xperiments and each performed in duplicate.

.3.3. cPLA2αのトランスロケーションにおけるセラミド、スフィンゴシンの影響

cPLA2αのトランスロケーションにおけるスフィンゴシンや C2-セラミドの影響を検討するた

、HEK293T 細胞に GFP-cPLA2αを一過性発現させ、その細胞内局在を観察した。スフィ

24

Page 26: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

ンゴシンや C2-セラミドの添加は 5分経過しても GFP-cPLA2αのトランスロケーションは観察

されず (Fig. 12)、30分経過しても同様だった (data not shown)。逆にスフィンゴシンと C2-

セラミドとはイオノマイシン刺激による GFP-cPLA2αのトランスロケーションを抑制した (Fig.

12A)。この抑制作用は C1P による GFP-cPLA2αのトランスロケーションと同様に、cPLA2α

のC2ドメインを介した反応であるかどうかを検討した。C2-セラミドとスフィンゴシンはイオノマ

イシン刺激による GFP-cPLA2αC2 のトランスロケーションを抑制しなかった (Fig. 12B)。こ

れらの結果からスフィンゴシンや C2-セラミドとは cPLA2αの C2 ドメイン以外の領域と相互作

用してトランスロケーションを抑制している可能性が考えられる。

0 s 40 s

300 s0 s

300 s0 s

60 s0 s

60 s0 s

0 s 120 s

Iono(5 µM)

Sph (5 µM)+

Iono

C2-Cer(10 µM)

+Iono

(A) GFP-cPLA2α (B) GFP-cPLA2αC2

0 s 40 s

300 s0 s

300 s0 s

60 s0 s

60 s0 s

0 s 120 s

Iono(5 µM)

Sph (5 µM)+

Iono

C2-Cer(10 µM)

+Iono

(A) GFP-cPLA2α (B) GFP-cPLA2αC2

Fig. 12. Effects of C2-ceramide and sphingosine on ionomycin-induced translocation of cPLA2α. HEK293T cells transiently transfected with the expression vector for GFP-cPLA2α (A) or GFP-cPLA2αC2 (B) were pretreated with vehicle, 5 µM sphingosine or 10 µM C2-ceramide for 5 min (0 s) then stimulated with 5 µM ionomycin for the indicated time. Data are representative of three independent experiments.

次に、スフィンゴシンや C2-セラミドによる cPLA2αのトランスロケーション抑制に関与する

cPLA2αの領域を明らかにするため、GFP-cPLA2αの欠損変異体をいくつか作製し(Fig.

13A)、そのトランスロケーションに対するスフィンゴシンや C2-セラミドの影響を検討した。

25

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GFP-cPLA2αΔ397-749、GFP-cPLA2αΔ530-749、GFP-cPLA2αΔ726-749 のイオノマイ

シン刺激によるトランスロケーションはいずれもスフィンゴシン、C2-セラミドによって抑制され

なかった (Fig. 13B)。これらの結果は、スフィンゴシンや C2-セラミドは cPLA2αの C末端領

域と相互作用することによってトランスロケーションを抑制することを示唆している。

0 s 0 s 0 s80 s

0 s 0 s 0 s60 s 120 s 180 s

90 s 90 s

0 s 0 s 0 s120 s 180 s 90 s

Iono(5 µM)

Sph (5 µM)

+Iono

C2-Cer(10 µM)

+Iono

GFP-cPLA2αΔ397-749

(A)

S505

S515 S727

C2 Domain CatalyticDomain A

CatalyticDomain B

GFP

GFP-cPLA2α

GFP-cPLA2αΔ397-749

GFP-cPLA2αΔ530-749

GFP-cPLA2αΔ726-749

GFP-cPLA2αΔ530-749 GFP-cPLA2αΔ726-749

(B)

0 s 0 s 0 s80 s

0 s 0 s 0 s60 s 120 s 180 s

90 s 90 s

0 s 0 s 0 s120 s 180 s 90 s

Iono(5 µM)

Sph (5 µM)

+Iono

C2-Cer(10 µM)

+Iono

GFP-cPLA2αΔ397-749

(A)

S505

S515 S727

C2 Domain CatalyticDomain A

CatalyticDomain B

GFP

GFP-cPLA2α

GFP-cPLA2αΔ397-749

GFP-cPLA2αΔ530-749

GFP-cPLA2αΔ726-749

GFP-cPLA2αΔ530-749 GFP-cPLA2αΔ726-749

(B)

Fig. 13. Effects of C2-ceramide and sphingosine on ionomycin-induced translocation of cPLA2α deletion mutants. (A), structures of cPLA2α deletion mutants fused GFP. (B), HEK293T cells transiently transfected with the expression vector for GFP-cPLA2αΔ397-749, GFP-cPLA2αΔ530-749 or GFP-cPLA2αΔ726-749 were pretreated with vehicle, 5 µM sphingosine or 10 µM C2-ceramide for 5 min (0 s) then stimulated with 5 µM ionomycin for the indicated time. Data are representative of 3-4 independent experiments. 2.4. 考察

本研究ではスフィンゴシンや C2-セラミドが cPLA2α活性を抑制することを示し、それは

cPLA2αのトランスロケーションの抑制が関与していることを明らかにした。我々は C1P と同

26

Page 28: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

様に、スフィンゴシンや C2-セラミドは cPLA2αの C2 ドメインに作用する可能性を疑ったが、

これらのスフィンゴ脂質は GFP-cPLA2αC2 のトランスロケーションを抑制しなかった。さらに、

GFP-cPLA2αの欠損変異体を用いた検討から、スフィンゴシンやC2-セラミドは cPLA2αのC

末端領域 (726-749) と相互作用する可能性が示唆された。その詳細なメカニズムは今のと

ころわからないが、スフィンゴシンやセラミドは cPLA2αに結合しないと報告されているため

(Pettus et al., 2004)、これらのスフィンゴ脂質は C末端領域と結合しないで相互作用してい

るのかもしれない。これは細胞外から添加したセラミドはゴルジ体に集積する (Fukusawa et

al., 1999) という事実からも支持される。なぜなら、セラミドと cPLA2αが結合するならば、

cPLA2αはゴルジ体に局在変化する可能性が高い。いくつかの PKC はセラミド添加によって

ゴルジ体に局在変化する (Kajimoto et al., 2001; Aschrafi et al., 2003)。

cPLA2αは膜との結合にC2 ドメインを必要とするが、それだけでは不十分であることが知

られている。cPLA2αはアニオン性のホスファチジルエタノールアミンベジクルやPIP2 を含む

PCベジクルにCa2+非存在下でも結合することができる (Hixon et al., 1998; Mosior et al.,

1998)。また、cPLA2αの触媒ドメインに存在するアニオン性残基 (Glu419, Glu420, Asp436,

Asp438, Asp439, Asp440) の変異体はワイルドタイプに比べて膜との親和性が高く、また

疎水性残基 (Ile399, Leu400, Leu522) の変異体は膜との親和性が低い (Das and Cho,

2002)。このように、Ca2+依存的にPCと結合するC2 ドメインとは独立して触媒ドメインは膜と

相互作用する。cPLA2αのC末端領域にはアニオン性残基 (Glu734, Glu742) とカチオン性

残基 (Arg736, Arg737, Lys741, Lys746, Lys748) がそれぞれ存在する。スフィンゴシンは

カチオン性の脂質であることから、cPLA2αのC末端領域に存在するカチオン性残基と反発

的に相互作用することによってトランスロケーションを抑制するのかもしれない。スフィンゴシ

ンと類似した構造で、カチオン性の脂質であるジヒドロスフィンゴシンやジメチルスフィンゴシ

ンもイオノマイシン刺激によるGFP-cPLA2αのトランスロケーションを抑制した (data not

shown)。一方、C2-セラミドは非荷電性の脂質であるため静電的な相互作用はしない。C2-

セラミドは細胞内でスフィンゴシンに代謝されてcPLA2αのトランスロケーションを抑制してい

る可能性も考えられる。また、C2-セラミドやスフィンゴシンが存在することによって相対的に

膜のアニオン性が低下し、cPLA2αのトランスロケーションは抑制されるのかもしれない。今

後はcPLA2αのC末端領域に存在する荷電性残基の点変異体を用いた検討や、in vitroの

cPLA2α活性において基質であるPAPCを高濃度用いた条件での検討が必要である。

C2-セラミドは cPLA2α活性に由来する AA 遊離を抑制する一方で、AA 遊離を促進した

27

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(Fig. 11)。セラミドはPKC活性を抑制することが知られている (Lee et al., 1996)。L929細胞

においてH2O2とイオノマイシン同時刺激によるAA遊離にはPKC活性が関与することから、

C2-セラミドはPKC活性を抑制することによって結果的にcPLA2α活性を抑制しているのかも

しれない。C2-セラミドは細胞内 C1P 量を減少させることが知られており (Mitsutake et al.,

2004)、細胞内 C1P量の減少は AA遊離を抑制する (Pettus et al., 2003)。さらに本研究に

おいてC2-セラミドは cPLA2αのトランスロケーションを抑制し、また in vitroにおいて cPLA2α

活性を抑制したことから、C2-セラミドはシグナル伝達を介さずに cPLA2α活性を抑制し、AA

遊離を抑制したとも考えられる。一方で、セラミドは PKC活性を増大することや cPLA2αを直

接活性化することが報告されている (Huwiler et al., 2001; Kajimoto et al., 2001; Wang et

al., 2005)。本研究における C2-セラミドの AA遊離促進作用はこれに起因するものなのかも

しれない。C2-セラミドや C6-セラミドは THP-1細胞やメサンギウム細胞において AA遊離を

促進することや (Pfau et al., 1998)、C6-セラミドは血小板においてトロンビンによる AA遊離

や cPLA2α活性化を増大することが報告されている (Sato et al., 1999)。このように C2-セラ

ミドは実験条件によって AA遊離に対して相反する影響を及ぼすのかもしれない。

まとめると、本研究では cPLA2α活性調節における C2-セラミドやスフィンゴシン、S1P の

役割について検討し、C2-セラミドとスフィンゴシンが cPLA2α活性を抑制することを明らかに

した。さらに、これらのスフィンゴ脂質は cPLA2αの C末端領域と相互作用することによってト

ランスロケーションを抑制する可能性が示唆された。

第 3章 合成スフィンゴシン-1-リン酸誘導体によるアラキドン酸代謝と細胞死

3.1. 序論

28

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S1Pは細胞膜の主要な構成成分であるSMからセラミド、スフィンゴシンを経て派生するリ

ン脂質である (Ishii et al., 2004)。同様に細胞膜のホスファチジン酸 (PA) から派生するリ

ゾPAとともに、生理活性をもつリゾリン脂質の代表的なものである。S1Pは通常の血清中に

数百nmolの高濃度で存在しているが、血小板中に豊富に貯蔵され、刺激に応じて局所に放

出される (Yatomi et al., 2001)。その生理機能は多彩で、増殖・分化・アポトーシス・形態変

化・遊走・浸潤などの細胞の基本的なプロセスに影響を与える。当初S1Pには、細胞外から

の刺激に応じて細胞内に産生されてCa2+動員などを惹起するセカンドメッセンジャー様の作

用機構が考えられていた。しかし 1998 年にS1P高親和性細胞膜受容体としてS1P1受容体

が同定されて (Lee et al., 1998) 以降、S1P1と相同性の高いS1P高親和性受容体サブタイ

プ (S1P2-S1P5) が同定され、現在は細胞膜受容体を介するS1Pシグナル伝達系が引き起

こす多彩な生理機能が明らかになりつつある (Ishii et al., 2004)。

S1P 受容体はほとんどすべての細胞に 2 種類以上発現しているため、ほとんどすべての

細胞、臓器、組織に作用する。各受容体の生理的役割が受容体欠損マウスの解析により明

らかとなりつつある一方で、S1P 受容体アゴニスト・アンタゴニストの臨床応用に向けた開発

が続けられている。2002 年に既存の免疫抑制薬とは異なる機序の新規免疫調節薬

FTY720が生体内で代謝されS1P受容体に作用して働くことが報告された (Mandala et al.,

2002; Brinkmann et al., 2002)。S1P受容体の選択的アゴニスト・アンタゴニストの開発は

S1P受容体を介した生理的役割の理解に有用である。加えて、S1P受容体に親和性のない

S1P誘導体は細胞内でのスフィンゴ脂質代謝や機能の理解に有用である。

本論文において、cPLA2α活性調節における C1Pやセラミド、スフィンゴシンの役割が明ら

かとなり、これは細胞内でのスフィンゴ脂質代謝が cPLA2α活性や AA代謝を調節することを

示唆している。S1PはAA遊離を引き起こすという報告 (Vasta et al., 2000) がある一方で、

AA 遊離を引き起こさないという報告もある (Tornquist et al., 1997; Hashizume et al.,

1997)。また、AA 代謝における細胞内の S1P の役割はわかっていない。本研究では、千葉

大学大学院薬学研究院薬品合成化学研究室 (西田篤司教授) で合成された各種の合成

S1P 誘導体の AA 遊離に対する影響を PC12 細胞、L929 細胞、C12 細胞を用いて検討し

た。また、合成 S1P誘導体の細胞死に対する影響も検討した (Nakamura et al., 2004b)。

29

OBnOOH

O

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

D-erythro-S1P(D-e-S1P)

L-threo-S1P(L-t-S1P)

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

OBnO

OBnOOH

OOH

O

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

D-erythro-S1P(D-e-S1P)

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

D-erythro-S1P(D-e-S1P)

L-threo-S1P(L-t-S1P)

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

L-threo-S1P(L-t-S1P)

(HO)2PO n-C13H27

NH2

OHO

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Fig. 14. Formulae of tested S1P analogs.

3.2. 材料と方法

3.2.1. 材料

RHC80267は Biomol Res. Lab. (Plymouth Meeting, PA, USA)、アラキドニルトリフルオ

ロメチルケトンは Research Biochemicals (Natick, MA, USA)、ブロモエノールラクトンは

Cayman Chemicals (Ann Arbor, MI, USA)、ジチオスレイトールはWAKO (Osaka, Japan)、

Go6976 と U0126は Calbiochem (La Jolla, CA, USA)、D-e-ジメチルスフィンゴシン、D-e-

ジヒドロスフィンゴシン、DL-t-ジヒドロスフィンゴシンは Sigma (St. Louis, MO, USA) からそ

れぞれ購入した。

3.2.2. 細胞培養

PC12細胞 (ラット副腎髄質腫瘍化細胞) は 5% FBS と 5% horse serum (HS) を含む

DMEMで 95% air/5% CO2、37℃の条件下、培養した。L929細胞、C12細胞は 5% FBSを

30

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含む DMEMで、HEK293T細胞は 10% FBSを含む DMEMでそれぞれ培養した。

3.2.3. AA遊離測定

70~80% confluentになった細胞を 0.33 µCi/mLの[3H]AAを含むDMEM (serum-free) で

24 時間培養することにより、細胞に[3H]AAを取り込ませた。[3H]AAを含んだDMEMを取り除

き、PBS (137 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 8.1 mM Na2HPO4, 1.5 mM KH2PO4, pH 7.4) で 1

回washし、その後PBSを用いて細胞をはがし、遠心 (1200 rpm, 2 min, 4℃) した。上清を

取り除いた後、Tyrode HEPES buffer (137 mM NaCl, 5 mM KCl, 5 mM glucose, 20 mM

HEPES, pH 7.4) で細胞を懸濁し、遠心 (1200 rpm, 2 min, 4℃) した。上清を取り除き、

Tyrode HEPES bufferで細胞懸濁液を作製した。1.5 mLのエッペンチューブにあらかじめ

reaction buffer [137 mM NaCl, 5 mM KCl, 5 mM glucose, 20 mM HEPES, 4 mM (final 2

mM) MgSO4, 4 mM (final 2 mM) CaCl2, 0.2% (final 0.1%) BSA (fatty acid-free), 薬物]

を 100 µL用意しておき、そこに細胞懸濁液を 100 µL 加え、37℃でインキュベートした。同様

にインキュベーション中、vehicle + 細胞懸濁液のサンプルを氷上に静置した (前値)。その

後、stop buffer (137 mM NaCl, 5 mM KCl, 5 mM glucose, 20 mM HEPES, 5 mM EDTA・

2Na, 5 mM EGTA, pH 7.4) を 500 µM加え、反応を停止し、遠心 (8000 rpm, 30 sec, 4℃)

した。 上清を 500 µLガラスバイアルに取り放射活性を測定した (sample ; count 1, 前値 ;

count 2)。同様に細胞懸濁液 100 µLの放射活性も測定した (total ; count 3)。AA遊離量

(%) は下記の式によって算出した。

Release = (count 1-count 2)×700 / 500

Total = count 3

AA release (%) = Release / Total×100

3.2.4. LDH leakage測定

PC12細胞を 12-well collagen-coated dish で 70~80% confluentまで培養し、薬物を含

む無血清培地で刺激した。培養上清を回収し、遠心 (1000×g, 3 min, 4℃) し、その上清と

沈殿物の LDH活性を測定した (count 1, count 2)。細胞を 0.1% Triton-Xを含む PBSでは

がし、LDH活性を測定した (count 3)。LDH活性は細胞障害性キット (Roche) を用いて測

定した。LDH leakage (%) は下記の式によって算出した。

LDH leakage (%) = (count 1 / (count1 + count 2 + count 3))×100

31

Page 33: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

3.2.5. プロスタグランジン生成測定

70~80% confluentになった細胞を PBSで wash した後、細胞をディッシュからはがし、遠

心 (1200 rpm, 2 min, 4℃) した。上清を取り除き、0.1 % BSA と 10 mM HEPESを含んだ

DMEM で細胞懸濁液を調製した。1.5 mL のマイクロチューブに薬物を含んだ DMEM 100

µLをあらかじめ用意しておき、そこに細胞懸濁液 100 µLを加え、37℃で 30分間インキュベ

ートした。その後、遠心 (8000 rpm, 30 sec, 4℃) し、上清 50 µL中に含まれる PG生成量

を Enzyme Immunoassay kit (Cayman) を用いて測定した。

3.3. 結果

3.3.1. 合成スフィンゴシン-1-リン酸誘導体による AA遊離

新規に合成された各種合成S1P誘導体の構造をFig. 14 に示した。内在性生理活性脂質

であるD-e-S1Pと合成S1P誘導体のPC12 細胞におけるAA遊離を検討した。D-e-S1Pや炭

素鎖の短いD-e-C13-S1P、D-e-C8-S1PはAA遊離を引き起こさなかった (Table 2)。

D-e-TM-S1Pは有意にAA遊離を促進したが、D-e-MM-S1PはAA遊離を引き起こさなかった。

スレオ体の中ではL-t-DM-S1P、L-t-DMBn-S1Pが有意にAA遊離を促進したが、L-t-S1P、

L-t-Bn-S1PはAA遊離を促進しなかった。L-t-DMBn-S1PによるAA遊離は細胞を刺激後 1分

で観察され、5 分後には頭打ちとなった (Fig. 15A)。L-t-DMBn-S1PとL-t-TM-S1Pは濃度依

存的にAA遊離を促進した (Fig. 15C)。また、L-t-DMBn-S1P (Fig. 15B) とL-t-TM-S1P

(data not shown) によるAA遊離は細胞外Ca2+には依存しないが、イオノマイシンと同時刺

激することによってAA遊離はさらに促進した (Fig. 15C)。これ以降はS1P誘導体のうち最も

AA遊離促進作用の強かったL-t-DMBn-S1Pを用いてさらなる検討を行った。PC12 細胞にお

いてL-t-DMBn-S1PはPGE2やPGF2αの生成を促進した (Table 3)。また、L-t-DMBn-S1Pは

Na3VO4とイオノマイシン同時刺激によるPGE2、PGF2α生成を増大した。

Table 2. Effects of the tested S1P analogs on AA release.

32

Vehicle

D-e-S1P

D-e-C13-S1P

D-e-C8-S1P

D-e-MM-S1P

D e TM S1P

0.88 ± 0.13

0.48 ± 0.17

0.62 ± 0.20

0.78 ± 0.21

1.52 ± 1.02

4 34± 0 42

5.3 ± 0.6

27.6 ± 2.6

N.D.

N.D.

59.8 ± 3.9

17 3± 3 9

20.5 ± 4.2

43.7 ± 4.1

15.2 ± 1.9

17.6 ± 0.5

84.9 ± 11.0

32 7± 10 3

4.89

2.24

-0.40

5.35

5 38

Compounds AA release(% of total)

LDH leakage (%)(4 h)

LDH leakage (%)(24 h)

Lipophilicity(CLOG P)

*

*

*

Vehicle

D-e-S1P

D-e-C13-S1P

D-e-C8-S1P

D-e-MM-S1P

D e TM S1P

0.88 ± 0.13

0.48 ± 0.17

0.62 ± 0.20

0.78 ± 0.21

1.52 ± 1.02

4 34± 0 42

5.3 ± 0.6

27.6 ± 2.6

N.D.

N.D.

59.8 ± 3.9

17 3± 3 9

20.5 ± 4.2

43.7 ± 4.1

15.2 ± 1.9

17.6 ± 0.5

84.9 ± 11.0

32 7± 10 3

4.89

2.24

-0.40

5.35

5 38

Compounds AA release(% of total)

LDH leakage (%)(4 h)

LDH leakage (%)(24 h)

Lipophilicity(CLOG P)

*

*

*

Page 34: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

For the measurement of AA release, labeled PC12 cells were incubated with vehicle or the indicated S1P analogs (100 µM) for 30 min. Data are presented as percentages of the total incorporated [3H]AA, and are the means ± S.E.M. for three independent experiments done in triplicate. *P < 0.05, significantly different from the control value. For the measurement of LDH leakage, PC12 cells were cultured with vehicle, D-e-S1P analog (50 µM) or the indicated S1P analogs (30 µM) for 4 h. The cells were washed with S1P analog-free DMEM and then cultured for an additional 20 h without S1P analogs. Data are the means ± S.E.M. for four to eight independent experiments done in triplicate. *P < 0.05, significantly different from the control value. In some experiments, PC12 cells were cultured with vehicle or the indicated S1P analogs (50 µM) for 24 h. Data are the means ± S.D. for a typical experiment. The data are representative of three independent experiments. Values of calculated octanol-water partition coefficient (CLOG P) are shown as the lipophilicity.

Table 3. PGE2 and PGF2α formation induced by L-t-DMBn-S1P in PC12 cells. Addition PGE2 (pg/mL) PGF2α (pg/mL)

Vehicle 14 ± 1 165 ± 12

L-t-DMBn-S1P 112 ± 9 237 ± 16

Na3VO4 / ionomycin 188 ± 15 537 ± 29

Na3VO4 / ionomycin + L-t-DMBn-S1P 358 ± 3 1737 ± 128 PC12 cells were incubated with DMEM in the presence 0.2% fatty acid-free BSA for 20 min (PGE2) or 10 min (PGF2α) at 37℃ . The medium was further supplemented with vehicle, 20 µM L-t-DMBn-S1P and/or 5 mM Na3VO4 plus 5 µM ionomycin. The amount of PGE2 and PGF2α in the medium was measured by respective EIA kits. Values are the means ± S.D. in a typical experiment. The data are representative of two independent experiments.

33

0 5 10 15 200

4

8

12

AA

rele

ase

(% o

f tot

a l)

Vehicle

L-t-DMBn-S1P

Time (min)- + - -+ +

(A) (B)

0

4

8

12

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

CaCl2

0 5 10 15 200

4

8

12

AA

rele

ase

(% o

f tot

a l)

Vehicle

L-t-DMBn-S1P

Time (min)- + - -+ +

(A) (B)

0

4

8

12

AA

rele

ase

(% o

f tot

al)

CaCl2

Page 35: スフィンゴ脂質による細胞質型 ホスホリパーゼ A α活性制御 ......Pyne, 2000)。 これまでにスフィンゴ脂質がcPLA2α活性に関与する可能性を示唆する報告はいくつかあ

F(iwTwalm

3

ig. 15. AA release induced by L-t-DMBn-S1P and D-e-TM-S1P in PC12, L929 and C12 cells. A), PC12 cells labeled with [3H]AA were incubated with vehicle or 100 µM L-t-DMBn-S1P for the ndicated time. Values are the means±S.D. in a typical experiment. (B), PC12 cells were incubated ith vehicle or 50 and 100 µM L-t-DMBn-S1P for 30 min in the absence and presence of 2 mM CaCl2. he assay mixture was further supplemented with 0.2 mM EGTA. (C), PC12 cells were incubated ith the indicated concentration of L-t-DMBn-S1P (○, ●) and D-e-TM-S1P (△, ▲) for 30 min. The ssay mixture was further supplemented with vehicle or 5 µM ionomycin. (D) L929 and C12 cells

abeled [3H]AA were incubated with vehicle or 100 µM L-t-DMBn-S1P for 30 min. (B)-(D) Data are the eans ± S.E.M. for three independent experiments done in triplicate.

.3.2. L-t-DMBn-S1Pによる AA遊離に対する cPLA2αの関与の検討

L-t-DMBn-S1PによるAA遊離に cPLA2α活性が関与しているかどうかを検討するため、ま

cPLA2α低発現株であるC12細胞と、その親株である L929細胞におけるAA遊離を検討

た。L929細胞、C12細胞ともに L-t-DMBn-S1P刺激によって AA遊離が促進され、両細胞

における AA遊離量に差はみられなかった (Fig. 15D)。

次に L-t-DMBn-S1Pが cPLA2αに直接的に作用するかどうかを検討するため in vitroにお

るcPLA2α活性を測定した。PC12細胞の可溶性画分におけるcPLA2α活性は非常に低か

た (100-200 dpm) ため、cPLA2αを一過性発現させた HEK293T細胞の可溶性画分を用

た。その酵素活性は 4 mM CaCl2存在下 2000-3000 dpmであった。この条件下において

34

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L-t-DMBn-S1Pは5 µM、20 µMでは cPLA2α活性に影響しなかったが、50 µMでは cPLA2α

活性を抑制した (Fig. 16A)。一方、D-e-S1Pは 50 µM の濃度を用いても cPLA2α活性に影

響しなかった。

L-t-DMBn-S1P が cPLA2αの細胞内局在に影響するかどうかを検討するため、

GFP-cPLA2αを HEK293T 細胞に発現させ、その細胞内局在を観察した。イオノマイシンは

GFP-cPLA2αを細胞質から核周辺部へ局在変化させたが、L-t-DMBn-S1PはGFP-cPLA2α

の局在変化を誘発しなかった (Fig. 16B)。また、L-t-DMBn-S1P はイオノマイシンによる

GFP-cPLA2αの局在変化に影響しなかった。これらの結果から、L-t-DMBn-S1P は cPLA2α

を介さないで AA遊離を引き起こすと考えられる。

(A) Vehicle L-t-DMBn-S1PVehicle L-t-DMBn-S1P(B)

2000

3000

(dpm

)

2000

3000

(dpm

)

F(mLetµfin

3

i ty

i ty

Vehicle

1000

5 µM 50 µM 50 µM 5 µM

L-t-DMBn-S1P D-e-S1P

0

PLA

2ac

t iv

Vehicle

1000

5 µM 50 µM 50 µM 5 µM

L-t-DMBn-S1P D-e-S1P

0

PLA

2ac

t iv

ig. 16. L-t-DMBn-S1P does not activate cPLA2α. A), the activity of PLA2 in the soluble fraction freasured. The assay mixture was further supple

-t-DMBn-S1P and D-e-S1P. Value are the means ±xperiment. (B), translocation of GFP-cPLA2α byransiently transfected with the expression vector codiM ionomycin, 20 µM L-t-DMBn-S1P and 5 µM

luorescence images were recorded at 10 min after dependent experiments.

.3.3. L-t-DMBn-S1Pによる AA遊離に対する各

L-t-DMBn-S1P による AA 遊離に関与する分子

討した。まず、PLA2関連の阻害剤を検討した。

シルブロマイド (50 µM) とメパクリン (100 µM

35

Ionomycin L-t-DMBn-S1P+ Ionomycin

Ionomycin L-t-DMBn-S1P+ Ionomycin

om HEK293T cells expressing cPLA2α was mented with the indicated concentrations of

S.D. for the duplicate samples in a typical ionomycin was examined. HEK293T cells ng GFP-cPLA2α was stimulated with vehicle, 5 ionomycin / 20 µM L-t-DMBn-S1P. Confocal the treatment. The panels are typical of three

種阻害剤の影響

を調べるため、さまざまな阻害剤を用いて

非特異的 PLA2阻害剤である p-ブロモフェ

) は L-t-DMBn-S1Pによる AA遊離をわず

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かに抑制した (それぞれ 20%、13%抑制)。しかし、比較的選択性の高い iPLA2阻害剤 (ブ

ロモエノールラクトン; 50 µM)、cPLA2 阻害剤 (アラキドニルトリフルオロメチルケトン; 20

µM)、sPLA2阻害剤 (ジチオスレイトール; 5 mM) は L-t-DMBn-S1Pによる AA遊離を抑制

しなかった。次に、PLA2 活性化に関与する分子の阻害剤を用いて検討した。ジアシルグリセ

ロールリパーゼ阻害剤 (RHC80267; 50 µM)、MEK阻害剤 (U0126; 20 µM)、p38MAPK

阻害剤 (SB203580; 10 µM)、PKC阻害剤 (Go6976; 10 µM)、Gi蛋白質阻害剤 (百日咳

毒素; 10 µM) はいずれも L-t-DMBn-S1P による AA 遊離に影響しなかった (data not

shown)。

我々は以前、D-e-スフィンゴシンや D-e-ジヒドロスフィンゴシンが AA遊離を抑制することを

報告した (Nakamura et al., 2004a)。D-e-スフィンゴシンや D-e-ジヒドロスフィンゴシン、D-e-

ジメチルスフィンゴシンは L-t-DMBn-S1Pによる AA遊離を濃度依存的に抑制した (Fig. 17)。

一方、DL-t-ジヒドロスフィンゴシン、D-e-S1Pは AA遊離を抑制しなかった。

0 20 50 1000

20

40

60

80

100

120

AA

rele

ase

(% o

f con

trol)

D-e-Sphingosine

D-e-DMS

D-e-DHS

DL-t-DHS

D-e-S1P

Sphingosine analogs (µM)

0 20 50 1000

20

40

60

80

100

120

AA

rele

ase

(% o

f con

trol)

D-e-Sphingosine

D-e-DMS

D-e-DHS

DL-t-DHS

D-e-S1P

Sphingosine analogs (µM)

Fig. 17. Inhibitory effects of D-e-sphingosine analogs on L-t-DMBn-S1P stimulated AA release from PC12 cells. Labeled PC12 cells were incubate with 100 µM L-t-DMBn-S1P in the presence of the indicated concentrations of D-e-sphingosine, D-e-DHS, D-e-DMS, DL-t-DHS and D-e-S1P. The data are normalized as the percentage of AA release induced by 100 µM L-t-DMBn-S1P alone. Values are the means ± S.E.M. for three independent experiments done in triplicate.

3.3.4. 合成スフィンゴシン-1-リン酸誘導体による細胞死

PC12細胞において 100 µM S1P誘導体で 30分間処理しても LDH漏出は促進しなかっ

た。PC12 細胞は無血清培地で 24 時間培養すると細胞障害を引き起こすことが知られてい

る (Shimma et al., 2003)。本研究において、vehicle (2.5% DMSO) を含む無血清培地で

36

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PC12細胞を 24時間培養した時の LDH漏出は 20%だった。各種 S1P誘導体を 24時間作

用させた時の LDH漏出を測定したところ、D-e-S1P、D-e-MM-S1P、D-e-TM-S1P、L-t-S1P、

L-t-DMBn-S1Pは LDH漏出を促進し、その他の S1P誘導体は LDH漏出に影響しなかった

(Table 2)。次に、各種 S1P誘導体を 4時間作用させた時の LDH漏出を測定した。この実験

では PC12細胞を S1P誘導体で 4時間刺激し、薬物を wash out後、通常の培地で 20時

間培養した時の LDH 漏出を測定した。この条件において D-e-S1P、D-e-MM-S1P、

L-t-DMBn-S1Pは有意に LDH漏出を促進した。

3.4. 考察

本研究では AA 遊離や細胞死における様々な合成 S1P 誘導体の影響を検討し、

D-e-TM-S1P、L-t-DM-S1P、L-t-DMBn-S1Pは AA遊離を促進し、D-e-MM-S1Pは細胞死を

引き起こした。このように、合成 S1P誘導体による AA遊離と細胞死には相関関係はみられ

なかった。

D-e-S1Pは G蛋白共役型受容体である S1P受容体 (S1P1~S1P5) のリガンドであり、こ

の受容体には D-e-S1P の他に D-e-dihydro-S1P も高い親和性を持つ。PC12 細胞には

S1P2 と S1P5 受容体の発現が確認されている (Pyne and Pyne, 2000; Spiegel and

Milstien, 2002)。しかし、本研究において D-t-DMBn-S1PによるAA遊離はS1P受容体を介

した反応ではない可能性が考えられる。その理由として、D-e-S1PはAA遊離を促進しなかっ

たこと、S1P受容体からの Gi を介したシグナルを抑制する百日咳毒素が L-t-DMBn-S1Pに

よる AA遊離を抑制しなかったことなどが上げられる。また、S1Pの構造異性体と S1P受容

体との親和性の関係がわかっており、D-エリスロ体は S1P受容体に高い親和性を示し、L-エ

リスロ体、D-スレオ体、L-スレオ体は親和性を持たない (Lim et al., 2003)。このように、

D-t-DMBn-S1Pによる AA遊離は S1P受容体を介した反応ではない可能性が高いが、未知

の受容体のリガンドである可能性も考えられる。

D-e-S1P は細胞内に取り込まれてセカンドメッセンジャーとしても働く。本研究において AA

遊離を促進した S1P誘導体は 50 µM という高い濃度を必要としたことから、これらの化合物

は細胞内に取り込まれて AA 遊離を促進している可能性も考えられる。AA 遊離を促進した

S1P誘導体はいずれも脂溶性の高い化合物 (log P > 4.92) であり、L-t-DMBn-S1Pは最も

脂溶性の高い化合物であった。しかし、L-t-DMBn-S1Pと脂溶性が同程度である L-t-Bn-S1P

37

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は AA遊離を促進しなかった。このように、S1P誘導体による AA遊離は化合物の脂溶性に

非依存的であった。

L-t-DMBn-S1P による AA 遊離にはどのような分子が関与しているのだろうか。スフィンゴ

シンが cPLA2α活性を抑制することはすでに述べたが、本研究においてスフィンゴシンは

L-t-DMBn-S1Pによる AA遊離を抑制した。この事実から L-t-DMBn-S1Pが cPLA2αを活性

化する可能性も考えられるが、L-t-DMBn-S1Pは in vitroにおける cPLA2α活性を増大せず、

また GFP-cPLA2αのトランスロケーションも引き起こさなかった。さらに、L-t-DMBn-S1P は

C12細胞においても AA遊離を促進した。このように L-t-DMBn-S1Pは cPLA2αに依存しな

いメカニズムで AA遊離を引き起こしているのだろう。

iPLA2 やsPLA2 は普遍的に発現している酵素であり、様々な細胞に発現している。

L-t-DMBn-S1PによるAA遊離は細胞外カルシウムに依存しないが、イオノマイシンによって

促進された。また、iPLA2 阻害剤はL-t-DMBn-S1PによるAA遊離を抑制しなかったことから

L-t-DMBn-S1PはiPLA2を活性化しないと思われる。sPLA2の活性化にはmMレベルのCa2+

を必要とする。またsPLA2活性を抑制するDTTはL-t-DMBn-S1PによるAA遊離を抑制しなか

った。このように、sPLA2 も L-t-DMBn-S1PによるAA遊離に関与しないと思われる。

L-t-DMBn-S1Pの標的分子の探索は今後の課題である。

薬物刺激やストレスによる細胞障害やアポトーシスに PLA2 活性が必要な場合がある

(Yamamoto et al., 1997; Yasuda et al., 1999; Capper and Marshall., 2001)。PC12細胞

において AAを 24時間処理すると LDH漏出を引き起こす (Macdonald et al., 1999)。L929

細胞においてTNFαによる細胞死はcPLA2α活性を介している (Hayakawa et al., 1993)。し

かし本研究において S1P誘導体による AA遊離と細胞障害には相関関係が見られなかった。

加えて、D-e-MM-S1Pは cPLA2α低発現細胞である C12細胞においても L929細胞と同様

に LDH漏出を引き起こした (data not shown)。これらの結果は、D-e-S1Pや D-e-MM-S1P

は AA遊離とは無関係に細胞死を引き起こすことを示唆している。

S1Pは抗アポトーシス作用をもっている (Pyne and Pyne, 2000; Spiegel and Milstien,

2002)。PC12 細胞において、S1P の添加やスフィンゴシンキナーゼの発現はセラミドによる

アポトーシスを抑制する (Edsall et al., 2001)。しかし、S1Pはアポトーシスを引き起こすこと

も知られている (Van Brocklyn et al., 1998; Davaille et al., 2002)。このように細胞内スフィ

ンゴ脂質のバランスが細胞の生存や細胞死に関与しているのかもしれない。本研究におい

て、D-e-S1Pや D-e-MM-S1Pは 20 µM以上の濃度で細胞死を引き起こし、この細胞死は神

38

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経成長因子やカスパーゼ阻害剤によって抑制された。D-e-S1Pや D-e-MM-S1Pは PC12細

胞において p38MAPKの活性化を引き起こした (Takashiro et al., 2005)。p38MAPKの活

性化は PC12細胞などの神経細胞においてアポトーシスを誘導することが知られているので

(Eilers et al., 1998; Chen et al., 2003)、D-e-S1Pや D-e-MM-S1Pは S1P受容体非依存的

にアポトーシスを誘導するのかもしれない。興味深いことに D-e-MM-S1P による細胞死は

D-e-S1P による細胞死よりも低濃度で観察された。S1P フォスファターゼなどで代謝される

D-e-S1P と比べて D-e-MM-S1P は細胞内での安定性が高いのかもしれない。このように合

成S1P誘導体はスフィンゴ脂質によって引き起こされるAA代謝や細胞死の理解に有用なツ

ールとなり得るものである。

総括と展望

本研究では、cPLA2α活性調節におけるスフィンゴ脂質の役割について検討した。C1Pは

cPLA2αを直接的に、またPKC活性を介して間接的に活性化してAA遊離を引き起こすことが

39

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明らかとなった。また、C1PはcPLA2αのC2 ドメインを介して核周辺部へのトランスロケーショ

ンを引き起こすことがわかった。直接cPLA2αの活性調節をし得る脂質はこれまでにアニオン

性脂質であるPIP2が知られており、PIP2はcPLA2α活性をCa2+非依存的に増強する。しかし、

C1PはcPLA2α活性をCa2+依存的に増強した。これはcPLA2α活性調節におけるアニオン性

脂質の新たな役割を提唱するものである。今後、C1Pが結合するアミノ酸残基の特定が望ま

れる。また、C1PはPKCの局在変化を引き起こすことが明らかとなり、PKCはC1Pの新たな

標的分子である可能性がある。PKCは細胞の増殖・分化・癌化・アポトーシスなどに関与して

いるため、本研究の結果からC1Pの新たな生理的役割の理解が期待される。

C2-セラミドやスフィンゴシンは cPLA2αのトランスロケーションを抑制し、また酵素活性を

抑制することがわかった。さらに、C2-セラミドやスフィンゴシンは cPLA2αの C 末端領域と相

互作用することによってトランスロケーションを抑制することが示唆された。これは cPLA2αの

C 末端領域がトランスロケーションや膜との結合に重要である可能性を示唆するものでもあ

り、C末端領域が cPLA2α活性調節の新たな標的となることが期待される。今後は C末端領

域の点変異体を用いた検討が望まれる。

合成 S1P 誘導体のいくつかは cPLA2α非依存的に AA 遊離を引き起こし、また細胞死を

誘導した。本研究において AA遊離と細胞死には相関関係は見られなかった。今後は AA遊

離を引き起こした L-t-DMBn-S1Pの標的分子の探索が望まれる。

本研究によって細胞内スフィンゴ脂質の量的、質的バランスが cPLA2α活性に大いに影響

する可能性が示唆された。cPLA2α活性は急性呼吸促迫症、アレルギー性気管支喘息、関

節リュウマチ症状、大腸ポリープ、骨粗鬆症、多発性硬化症、虚血再灌流障害など多様な症

状の原因となる。本研究の結果から、細胞内スフィンゴ脂質の量的、質的バランスのコントロ

ールが各種疾患の治療戦略となることが期待される。

参考文献

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induces translocation of protein kinase Cα to the Golgi compartment of human

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論文目録 主論文目録

1. Nakamura H, Hirabayashi T, Shimizu M, Murayama T. Ceramide-1-phosphate

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2. Nakamura H, Takashiro Y, Hirabayashi T, Horie S, Koide Y, Nishida A, Murayama T.

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3. Nakamura H, Hirabayashi T, Someya A, Shimizu M, Murayama T., Inhibition of

arachidonic acid release and cytosolic phospholipase A2 alpha activity by D-erythro-sphingosine. Eur. J. Pharmacol. 2004; 484: 9-17.

副論文目録

1. Taniguchi T, Shimizu M, Nakamura H, Hirabayashi T, Fujino H, Murayama T. Hydrogen peroxide-induced arachidonic acid release in L929 cells; roles of Src, protein kinase C and cytosolic phospholipase A2α. Eur. J. Pharmacol. 2006. In press.

2. Akiyama N, Nabemoto M, Hatori Y, Nakamura H, Hirabayashi T, Fujino H, Saito T,

Murayama T. Up-regulation of cytosolic phospholipase A2α expression by N,N-diethyldithiocarbamate in PC 12 cells; involvement of reactive oxygen species and nitric oxide. Toxicol. Appl. Pharmacol. 2006. In press.

3. Takashiro Y, Nakamura H, Koide Y, Nishida A, Murayama T. Involvement of p38

MAP kinase-mediated cytochrome c release on sphingosine-1-phosphate (S1P)- and N-monomethyl-S1P-induced cell death of PC12 cells. Biochem. Pharmacol. 2005; 70, 258-265.

4. Nabemoto M, Ohsawa K, Nakamura H, Hirabayashi T, Saito T, Okuma Y, Nomura

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謝辞

本研究の遂行に際し、終始適切な御指導御鞭撻を賜りました千葉大学大学院薬学研究院

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薬効薬理学研究室 村山俊彦教授に謹んで御礼申し上げます。

本研究に際し、多大なる御協力、御助言を頂きました千葉大学大学院薬学研究院 藤野

裕道助教授、堀江俊治助教授、平林哲也助手、土屋静子助手に厚く御礼申し上げます。

各種合成 S1P 誘導体を御供与して頂きました千葉大学大学院薬学研究院薬品合成化学

研究室 西田篤司教授、小出友紀博士、ピロフェノンを分与して頂きました塩野義製薬株式

会社 花崎浩二博士、プラスミド DNA を御供与して頂きました神戸大学バイオシグナル研究

センター 斉藤尚亮先生に深く感謝致します。

また、本研究を通じ御協力を頂きました千葉大学大学院医学薬学府薬効薬理学研究室の

卒業生ならびに在校生の皆様に深く感謝致します。

本学位論文の審査は千葉大学大学院薬学研究院で指名された下記の審査委員により行わ

れた。

主査 千葉大学教授 (薬学研究院) 薬学博士 山口直人

49

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副査 千葉大学教授 (薬学研究院) 薬学博士 矢野眞吾

副査 千葉大学教授 (薬学研究院) 薬学博士 小林弘

50