消費者ニーズに基づいたイチゴの商品アイテムとその評価 大 …psm...

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─ 113 ─ 消費者ニーズに基づいたイチゴの商品アイテムとその評価 ○大西千絵 (九州沖縄農研) 【目的】 我が国の主要な施設園芸品目の中で,重要な位 置を占めているのがイチゴ生産である。技術開発 においても,多様な新品種の開発による地域ブラ ンド化や,育苗・栽培技術の開発による収穫期の 拡大など,研究開発が急速に進められている。こ のような背景のもと,イチゴは,市場における競 争力強化が求められている。 本研究では,まず,消費者がどのようなイチゴ を求めているか,アンケート調査結果に基づいて 整理する。そして,その結果をもとに付加価値を つけたイチゴについて,消費者による評価を行う。 【対象および方法】 まず,2011 1 月に 6 大都市在住者を対象に 実施されたアンケート調査結果[1]をもとに,イチ ゴの消費者ニーズを整理する。 次に,消費者ニーズに基づき付加価値をつけた イチゴについて,消費者による評価を行う。調査 は,2012 11 月,JA からつファーマーズマー ケットにおいて対面で行い,回答数は 401 件であ った。 調査では,A:蓋つきパック 3 玉入り,B:蓋つ きパック 5 玉入り,C:通常のパックの 3 タイプ のイチゴのセットを作成した。それぞれのセット には,「初物」「光センサー使用 糖度保証」のシ ールを貼り,「中身は同じ,初物で,糖度保証され た商品」という仮定で評価してもらった。 調査結果について,まず, PSM 分析により適正 価格を明らかにした。次に,ロジスティック回帰 分析により,それぞれのイチゴの購入確率とター ゲットとなりうる消費者属性を明らかにした。 【結果および考察】 消費者ニーズ調査の結果,イチゴに「甘さ」を 求める消費者が最も多く,消費者ニーズは地域に よって差があることを明らかにした(。さら に,最高級のイチゴ,珍しい品種のイチゴ,地場 産イチゴを少量パックで購入したいとする消費 者が少なくなかった。 消費者ニーズ調査の結果から,糖度保証と少量 パックによる有利販売が可能であると考えられ る。また,イチゴの収穫前進化技術を導入するこ とにより,初物であることも付加価値として提示 できる。そこで,糖度保証・初物・少量パックの イチゴに関する消費者による評価を行った。 PSM 分析の結果, A が最も割高で売れることが 分かった(理想価格〜妥協価格 200 )B も,通 常パックに比べると割高で販売可能であった (240~260 )。しかし,C は「初物」「糖度保証」 という付加価値にも関わらず,出回り期の一般的 なイチゴと同程度の価格でしか評価されないこと が明らかとなった(330~400 )ロジスティック回帰分析の結果,購入確率は, それぞれの回答者の購入確率の平均で, A 35%B 42%C 66%であった。A は,「一人暮ら し」「幼児または小学生がいる」「初物であること を評価する」という消費者の購入確率が高かった。 B は,「男性」「一人暮らし」という消費者の購入 確率が高かった。C は,「女性」「一人暮らしでは ない」「価格を気にする」「イチゴの痛みを気にし ない」という消費者の購入確率が高かった。 以上のことから,A B などの少量パックは, 主に一人暮らしの人をターゲットとして,初物・ 糖度保証などで付加価値をつけ,割高で販売する ことで有利販売を行えると考えられる。 本研究は,農林水産省「新たな農林水産政策を 推進する実用技術開発事業」により実施された。 【参考文献】 [1] 大西千絵「イチゴの生果およびパッケージ等 に関する消費者調査結果」,『九州沖縄農研農業 経営研究資料』132011 年,pp.1-31

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Page 1: 消費者ニーズに基づいたイチゴの商品アイテムとその評価 大 …PSM 分析の結果,A が最も割高で売れることが 分かった(理想価格〜妥協価格

─ 113 ─

消費者ニーズに基づいたイチゴの商品アイテムとその評価

○大西千絵

(九州沖縄農研)

【目的】 我が国の主要な施設園芸品目の中で,重要な位

置を占めているのがイチゴ生産である。技術開発

においても,多様な新品種の開発による地域ブラ

ンド化や,育苗・栽培技術の開発による収穫期の

拡大など,研究開発が急速に進められている。こ

のような背景のもと,イチゴは,市場における競

争力強化が求められている。 本研究では,まず,消費者がどのようなイチゴ

を求めているか,アンケート調査結果に基づいて

整理する。そして,その結果をもとに付加価値を

つけたイチゴについて,消費者による評価を行う。 【対象および方法】 まず,2011 年 1 月に 6 大都市在住者を対象に

実施されたアンケート調査結果[1]をもとに,イチ

ゴの消費者ニーズを整理する。 次に,消費者ニーズに基づき付加価値をつけた

イチゴについて,消費者による評価を行う。調査

は,2012 年 11 月,JA からつファーマーズマー

ケットにおいて対面で行い,回答数は 401 件であ

った。 調査では,A:蓋つきパック 3 玉入り,B:蓋つ

きパック 5 玉入り,C:通常のパックの 3 タイプ

のイチゴのセットを作成した。それぞれのセット

には,「初物」「光センサー使用 糖度保証」のシ

ールを貼り,「中身は同じ,初物で,糖度保証され

た商品」という仮定で評価してもらった。 調査結果について,まず,PSM 分析により適正

価格を明らかにした。次に,ロジスティック回帰

分析により,それぞれのイチゴの購入確率とター

ゲットとなりうる消費者属性を明らかにした。 【結果および考察】 消費者ニーズ調査の結果,イチゴに「甘さ」を

求める消費者が最も多く,消費者ニーズは地域に

よって差があることを明らかにした(図 1)。さら

に,最高級のイチゴ,珍しい品種のイチゴ,地場

産イチゴを少量パックで購入したいとする消費

者が少なくなかった。

消費者ニーズ調査の結果から,糖度保証と少量

パックによる有利販売が可能であると考えられ

る。また,イチゴの収穫前進化技術を導入するこ

とにより,初物であることも付加価値として提示

できる。そこで,糖度保証・初物・少量パックの

イチゴに関する消費者による評価を行った。

PSM 分析の結果,A が最も割高で売れることが

分かった(理想価格〜妥協価格 200 円)。B も,通

常パックに比べると割高で販売可能であった

(240~260 円)。しかし,C は「初物」「糖度保証」

という付加価値にも関わらず,出回り期の一般的

なイチゴと同程度の価格でしか評価されないこと

が明らかとなった(330~400 円)。 ロジスティック回帰分析の結果,購入確率は,

それぞれの回答者の購入確率の平均で,A は 35%,

B は 42%,C は 66%であった。A は,「一人暮ら

し」「幼児または小学生がいる」「初物であること

を評価する」という消費者の購入確率が高かった。

B は,「男性」「一人暮らし」という消費者の購入

確率が高かった。C は,「女性」「一人暮らしでは

ない」「価格を気にする」「イチゴの痛みを気にし

ない」という消費者の購入確率が高かった。 以上のことから,A や B などの少量パックは,

主に一人暮らしの人をターゲットとして,初物・

糖度保証などで付加価値をつけ,割高で販売する

ことで有利販売を行えると考えられる。 本研究は,農林水産省「新たな農林水産政策を

推進する実用技術開発事業」により実施された。

【参考文献】 [1] 大西千絵「イチゴの生果およびパッケージ等

に関する消費者調査結果」,『九州沖縄農研農業

経営研究資料』13,2011 年,pp.1-31

図 1 地域別の消費者ニーズ

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