解説1 ケーススタディでわかる公差設計の手 順とポ …...第59巻 5号(2015年...

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19 59 5 号(2015 5 月号) 解説 1   ケーススタディでわかる公差設計の手 順とポイント―公差設計+幾何公差 (GD & T)の勘どころ PLANER 栗山 晃治 監修・事例提供/ローランドディー.ジー. 杉山 裕一 ** 岡田・品質経営コンサル 岡田 高美 *** *くりやま こうじ:代表取締役社長 URL:http://www.planer.jp **すぎやま ゆういち:第 1 製品開発部プロデューサー  ***おかだ たかみ:代表 グローバル時代に対応! 事例でわかる公差設計の基礎知識 特集 総論では,公差設計およびその図面への表記・ 表現である幾何公差スキルの意義を述べると同時 に,公差を取り入れた設計の全体像を解説した。 図面は,加工現場に設計の意図を正しく伝える ためのツールであり,公差はその内容である。設 計と製造が離れ離れとなるグローバルなものづく りを実践すればするほど,作り手側に正しい情報 が伝えられるか否かが重要になってくる。そのた め,基本中の基本である公差設計を学び直すこと が急務となる。一方,公差の質を高めるためには, 正しく計算された公差をきちんと図面に反映させ, さらに実際にできあがったものの測定と評価を通 じて,次の設計に反映させていく,(公差設計の 全体の) PDCA の実践が不可欠となる。 公差設計を実施する上では,身に付けておくべ き知識は幅広い。漫然と解説書で学習していくよ りも,百聞は一見にしかず,事例でポイントを掴 んでいくのが手っ取り早い。本稿では,公差の設 定から解決策までその手順を踏まえて,各段階で おくべきポイントをケーススタディ(機械装置 A の事例)をもとに紹介していきたい。 なお,本ケーススタディは,ローランドディー. ジー.の杉山裕一氏が13年前に作成したものであ り,公差設計のプロセスとして非常に優れた流れ を演出している。後述する設問に基づき 3 つのス テップで公差設計への理解を確認できる。 Step.1 では現状図面の公差計算を間違いなく出 来ることが重要であり,本ケーススタディでは公 差計算が破綻していることが確認できる。実はた いていの設計現場で正しく公差計算を行うと破綻 している事が多い。 Step.2 ではその改善案を考えるわけであるが, 従来構造の延長線上で何とかしようとすると,無 理のある設計(現場に負担をかける)になってし まうケースが多い。本ケーススタディもその事が 確認できる。 Step.3 では構造変更まで考えることで,設計も しやすく,かつ現場でも作りやすい,という設計 が実現できる(品質向上とコストダウンの両立)。 そのことを体感してほしい。 ケーススタディ―機械装置 A の事例 読者諸氏は,図1 のような機械装置 A (ケース スタディ用に簡略化した図を用いている)を設計 図1 機械装置 A 隙間

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Page 1: 解説1 ケーススタディでわかる公差設計の手 順とポ …...第59巻 5号(2015年 月号) 19 解説1 ケーススタディでわかる公差設計の手 順とポイント―公差設計+幾何公差

19第 59 巻 第 5 号(2015 年 5 月号)

解説1 ‌‌ケーススタディでわかる公差設計の手順とポイント―公差設計+幾何公差(GD&T)の勘どころ

PLANER 栗山 晃治*監修・事例提供/ローランドディー.ジー. 杉山 裕一**

岡田・品質経営コンサル 岡田 高美***

*くりやま こうじ:代表取締役社長 URL:http://www.planer.jp**すぎやま ゆういち:第1製品開発部プロデューサー  ***おかだ たかみ:代表

グローバル時代に対応! 事例でわかる公差設計の基礎知識特集

 総論では,公差設計およびその図面への表記・表現である幾何公差スキルの意義を述べると同時に,公差を取り入れた設計の全体像を解説した。 図面は,加工現場に設計の意図を正しく伝えるためのツールであり,公差はその内容である。設計と製造が離れ離れとなるグローバルなものづくりを実践すればするほど,作り手側に正しい情報が伝えられるか否かが重要になってくる。そのため,基本中の基本である公差設計を学び直すことが急務となる。一方,公差の質を高めるためには,正しく計算された公差をきちんと図面に反映させ,さらに実際にできあがったものの測定と評価を通じて,次の設計に反映させていく,(公差設計の全体の)PDCAの実践が不可欠となる。 公差設計を実施する上では,身に付けておくべき知識は幅広い。漫然と解説書で学習していくよりも,百聞は一見にしかず,事例でポイントを掴んでいくのが手っ取り早い。本稿では,公差の設定から解決策までその手順を踏まえて,各段階でおくべきポイントをケーススタディ(機械装置 A

の事例)をもとに紹介していきたい。 なお,本ケーススタディは,ローランドディー.ジー.の杉山裕一氏が 13 年前に作成したものであり,公差設計のプロセスとして非常に優れた流れを演出している。後述する設問に基づき 3つのステップで公差設計への理解を確認できる。 Step.1 では現状図面の公差計算を間違いなく出来ることが重要であり,本ケーススタディでは公

差計算が破綻していることが確認できる。実はたいていの設計現場で正しく公差計算を行うと破綻している事が多い。 Step.2 ではその改善案を考えるわけであるが,従来構造の延長線上で何とかしようとすると,無理のある設計(現場に負担をかける)になってしまうケースが多い。本ケーススタディもその事が確認できる。 Step.3 では構造変更まで考えることで,設計もしやすく,かつ現場でも作りやすい,という設計が実現できる(品質向上とコストダウンの両立)。そのことを体感してほしい。

ケーススタディ―機械装置Aの事例

 読者諸氏は,図 1 のような機械装置 A(ケーススタディ用に簡略化した図を用いている)を設計

図1 機械装置A

隙間

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20 機 械 設 計

する場合,どのように公差設計をするだろうか。 本ケーススタディは,ガタ・レバー比(p.39 で説明)に入る前の,基礎知識ベースを理解しているかどうかを確認するのに適したものである。 図 2は組立図詳細であり,隙間 fを最適な設定にするために公差計算を行いたい。部品構成は,次の通りである。 ①ベース ②板 ③フランジブッシュ ④シャフト ⑤Eリング隙間 fの公差計算に必要な要因としては,次のものが上げられる。 A.板厚 B.フランジ厚 C.Eリング厚 D.シャフト溝ピッチ G.ベース幅(A,B,Cは,両側に配置されているので要注意) 図 3 は,各部品の 3 次元データであり,A~G

までの寸法箇所を示している。このうち,設計者は社内規定から,次の要因は決めているとする。 Gは,100±0.1 Dは,X(まだ未定)±0.1図3 機械装置Aに用いる部品

A:板(板厚) B:フランジブッシュ(フランジ厚)

内径:φ8

一般部:φ8止め輪部:φ6

呼び径:6

C:Eリング(Eリング厚)

D:シャフト(シャフト溝ピッチ)

G:ベース(べース幅)

A

B

C

D

G

図2 組立図の詳細

シャフト Eリング 板 フランジブッシュ④ ⑤ ⑤②

① ベース

②③ ③

A:板厚

G:ベース幅

D:シャフト溝ピッチ

C:Eリング厚

B:フランジ厚

100±0.1

x±0.1

f

50

最適な隙間の設定

0.9 0.9

Parts4