肺癌診療はどこまで進んだか · 2013-09-21 · 肺癌の治療法...
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肺癌診療はどこまで進んだか
2013年 9月 7日(土)
大垣市民病院 呼吸器内科 進藤 丈
肺癌の特徴
肺癌の診断
肺癌の治療
肺癌と遺伝子異常
早期からの緩和ケア
禁煙の勧め
本日お話しする内容
肺癌の特徴
肺癌の診断
肺癌の治療
肺癌と遺伝子異常
早期からの緩和ケア
禁煙の勧め
本日お話しする内容
死因別死亡率・部位別がん死亡率
主な部位別がん死亡率2010年 (人口10万対)
心疾患
脳卒中
肺炎
老衰
事故
がんが死因の第一位、その中で肺癌がトップ
肺
肺がんの種類と特徴 【肺門型(中心型)】
特徴:喫煙との関連が多い 血痰が出ることがある
【肺野型(末梢型)】
特徴:喫煙との関連が少ない 自覚症状が出にくい
扁平上皮癌 腺癌 ・ 大細胞癌 小細胞癌
非小細胞癌
肺の血流と肺胞の構造
左心房
肺動脈
終末細気管支
肺胞
平滑筋
呼吸細気管支
肺胞
肺胞道
コーンの孔
肺胞
弾性線維
肺静脈
肺動脈
全身 心臓 肺
全身 心臓 肺
酸素を取り込み、 二酸化炭素を吐き出す
肺癌の特徴
肺癌の診断
肺癌の治療
肺癌と遺伝子異常
早期からの緩和ケア
禁煙の勧め
本日お話しする内容
肺がんの診断手順
アプローチの流れ
① 胸部画像診断(X線検査、胸部CT)
② 病理組織診断のための生検
気管支鏡検査、CT下経皮針生検
④ 転移検索
頭部MRI、骨シンチ、腹部CT・US
③ 病理組織診断
異常の発見
質的な診断悪性を確認
量的な診断
進展を確認
肺がんの診断-胸部X線写真-
肺がんの診断-胸部CT検査-
病理診断のための 気管支鏡下肺生検
鉗子口
レンズ
X線透視のみでは 前後にずれていても判らない
CTでしか見えない小さな病変はX線透視では確認でき
ない
気管支鏡検査の進歩
超音波気管支内視鏡
仮想気管支鏡
CTガイド下気管支鏡下肺生検
① X線透視のみでは前後にずれていても判らない
② 先端の超音波で病巣内に入っていることを確認
③ ガイドシースを固定したまま超音波発信器 を抜き、鉗子に入れ替えて病巣の一部を採取。
超音波発信器使用ガイドシース法
ガイドシース(GS) 超音波発信機
生検鉗子
確実な組織採取が可能
CTガイド下気管支鏡下肺生検
病変が小さくて X線透視で不明 →CT透視で確認
仮想気管支鏡 末梢の病変近くまでのルート
を仮想気管支鏡で確認
CTガイド下気管支鏡下肺生検
極細径 気管支鏡
3Dバーチャル気管支鏡像を作成し、 ナビゲーションとして末梢の小病変を生検
悪性腫瘍としての診断
どんな種類のがんか?
小細胞癌
非小細胞癌
腺癌・扁平上皮癌・大細胞癌
小細胞癌 大細胞癌
扁平上皮癌
腺癌
病理組織診断(確定診断) 非小細胞癌
PET-CT がんの進展:病期の正確な評価
肺がんの診断手順
アプローチの流れ
① 胸部画像診断(X線検査、胸部CT)
② 病理組織診断のための生検
気管支鏡検査、CT下経皮針生検
超音波気管支鏡、CT下気管支鏡下肺生検
④ 転移検索
頭部MRI、骨シンチ、腹部US・CT
③ 病理組織診断
PET-CT 治療
遺伝子変異検査
肺癌の特徴
肺癌の診断
肺癌の治療
肺癌と遺伝子異常
早期からの緩和ケア
禁煙の勧め
本日お話しする内容
肺癌の治療法 病理組織診断・病期・遺伝子変異・年齢・日常生
活の活動性により、治療方針を決定 手術 切除可能な状態であれば、最も治癒の可能性が高
い
放射線治療 癌が局所にとどまっている場合には、手術に次い
で有効な治療法 治癒が望めない状況でも、症状緩和などに有効
抗癌剤治療 根治的治療ではなく、治癒は困難なことが多い 生存期間の延長やQOLの改善を目的とする
局所療法
全身治療
・遺伝子変異
肺癌診療ガイドライン
日本肺癌学会肺癌診療ガイドライン2012年版
薬
剤
選
択
1950
1960
1970
1980
1990
2000
ナイトロジェンマスタードなど
抗癌剤
1984シスプラチン発売
1990カルボプラチン発売
新規抗癌剤発売
2002~11
分子標的治療薬:イレッサ、タルセバ
葉酸代謝拮抗剤:アリムタ
血管新生阻害剤:アバスチン
分子標的治療薬:ザーコリ
シクロホスファミド、マイトマイシンC ブレオマイシン、ドキソルビシン
イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル ビノレルビン、ゲムシタビン、トポテカン アムルビシン、TS-1
標準治療 プラチナ製剤(シスプラチン or カルボプラチン)
+ 新規抗癌剤の併用療法
肺癌に用いる抗癌剤開発の歴史
肺癌の特徴
肺癌の診断
肺癌の治療
肺癌と遺伝子異常
早期からの緩和ケア
禁煙の勧め
本日お話しする内容
遺伝子異常によりがんにいたるまで
正常
がん
多段階発癌
がん化
何種類かの遺伝子異常
を生じて
初めてがんとなる
和歌山県立医科大学 内科学第三講座 :山本信之
強力な癌化遺伝子が関与する場合
正常
がん
1種類の
遺伝子異常
により
がん化する
ALK 融合遺伝子
の肺癌
Soda M, et al. Nature 2007
遺伝子変異
↓
異常蛋白
↓
異常増殖・癌化
分子標的薬の開発
効果を期待できる患者 を選択する
EGFR遺伝子変異
ALK遺伝子転座
イレッサ®
ゲフィチニブ(Gefitinib) タルセバ®
エルロチニブ(Erlotinib)
上皮成長因子受容体- チロシンキナーゼ阻害剤
EGFR-TKI (Epithelial Growth Factor Receptor –
Tyrosine Kinase Inhibitor)
上皮成長因子受容体(EGFR)の機能
RAS-RAF-MEK
上皮成長因子受容体 (EGFR)
細胞膜
増殖を促す 刺激
STAT
PI3K-AKT
細胞の 分化・増殖・機能や構造変化・維持
:リガンドEGF :EGFR-TKI
リン酸化による活性化
制御された細胞の増殖・分化 環境の変化によりリガンドが受容体に結合し、増殖を刺激する。リガンド刺激が無くなれば、増殖は停止する
癌細胞に対するEGFR-TKIの作用機序
RAS-RAF-MEK
細胞膜
増殖を促す 刺激
刺激が無くても活性化
STAT
PI3K-AKT
増殖・血管新生・浸潤転移誘導・細胞死の抑制
:リガンドEGF :EGFR-TKI 構造変化を生じた
上皮成長因子受容体 (EGFR)
刺激が無くても活性化
細胞の癌化
EGFR遺伝子変異
癌細胞に対するEGFR-TKIの作用機序
RAS-RAF-MEK
細胞膜
増殖を促す 刺激
刺激が無くても活性化
STAT
PI3K-AKT
増殖・血管新生・浸潤転移誘導・細胞死の抑制
:リガンドEGF :EGFR-TKI
構造変化を生じた 上皮成長因子受容体
(EGFR) 刺激が無くても活性化
細胞の癌化
EGFR遺伝子変異
EGFR-TKIが 結合すること で増殖刺激を 抑制する
イレッサ奏功例
治療前 治療3ヶ月後
イレッサ 奏功例
治療前
治療4ヶ月後
ALK阻害剤
クリゾチニブ(ザーコリⓇ)
・ 2007年に肺癌においてALK遺伝子変異が日本人によって発見された。
・ ALK遺伝子変異が生じることで、無秩序な細胞増殖が生じ発癌。
・ ALK阻害剤はその細胞増殖を抑制する薬剤
・ 2012年5月29日に発売
異常な膜蛋白の産生 持続する無秩序な増殖刺激
ALK 遺伝子転座と分子標的治療
Soda, M. et al.:Nature 448(7153):561, 2007
分子標的治療薬
による増殖抑制
ALK阻害剤ザーコリⓇ奏功例(報告例)
Eunice, L. et al.:NEJM 448 2010 (363) 1693-1703
治療前 治療2ヶ月後
Driver mutation EGFRやALKなど、
1種類の遺伝子変異のために癌化している肺癌
遺伝子変異
↓
異常蛋白
↓
異常増殖・癌化
分子標的治療薬による
個別化治療の可能性
遺伝子変異の有無を確認し効果を期待できる患者を選択
日本人の非小細胞肺癌における 遺伝子変異の頻度
(Mitsudomi, T. Jpn J Clin Oncol 2010; 40: 101‒106)
東アジアと北米における 喫煙と遺伝子変異の関係
Suda K, et al. Cancer Metastasis Rev 2010
喫煙者 非喫煙者 喫煙者 非喫煙者
EGFR
EGFR
禁煙・防煙による 予防が大切
>
< <
その他にも・・・・
新規の制吐剤開発
血管新生阻害薬
骨転移による痛みの軽減、骨折予防の薬剤
鎮痛剤(医療用麻薬)の種類の増加
しかし
がんの治療成績の推移
まだまだ不充分
早期からの緩和ケア導入による延命効果
Temel, J.S., et al. NEJM 363: 733-742, 2010
肺癌患者に対する早期からの緩和ケア導入の有無でQOLに差が生じるか
期間(月)
0 10 20 30 40
生存率(%)
0
20
40
60
80
100
標準的 がん治療
早期からの緩和ケア QOLに有意差あり、かつ
生存期間でも約3ヶ月延長
身体・精神症状緩和 +
通院中から緩和ケア開始
生存期間でも約3ヶ月延長
西濃地域における緩和ケアの現状と今後
大垣市民病院:がん拠点病院 地域の病院
緩和ケアチーム 緩和ケア研修会
西濃在宅緩和ケア研究会
がん診療に携わる医師に対する 緩和ケア技術の普及 患者・家族が希望する療養場所の提供
苦痛緩和の技術向上 在宅療養可能症例の増加 疼痛緩和マニュアル オピオイド説明パンフレット
西濃地域の在宅緩和ケアの充実 顔の見える病診連携の拡大・充実
大垣市医師会・西濃医学会
在宅医療マップの作成
がんサロン リンクナース
緩和ケア地域連携パス 情報共有の充実 わたしのカルテ
PEACEモジュールの活用
クリニカルパスを用いた情報共有により 患者・家族の望む、安心の地域医療を
患者・家族
訪問看護 ステーション 病院専門医
看護師 MSW
在宅ケア医
調剤 薬局
わたしの カルテ
がんパス
緩和ケアパス
包括的がん診療モデルと緩和パス
受診 死
がんの治療 抗がん剤治療 放射線治療 手術治療
遺族ケア
わたしの カルテ
緩和
ケアパス
大垣市民病院 退院時 通院時導入 積極的治療時導入
緩和ケア
在宅医と継ぎ目のない 医療連携を
有機的な連携
肺癌診療はどこまで進歩したか
「煙草を吸う骸骨」ゴッホ作 1885~1886アントワープ時代
本日のまとめ
肺癌の診療は以前と比べ、大きく進歩したが、5年生存率の改善はまだまだ不充分
分子標的治療の進歩により個別化治療が現実的になりつつある
早期からの緩和ケア導入も予後を延長
禁煙・防煙による予防が一番
ご清聴
ありがとうございました