個別記事用原稿(1ページ原稿) 研究動向・成果...

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337 1.はじめに 近年、国内ではICTの進展から効率的にビックデー タの収集が可能になったほか、AI(人工知能)技術 の進展が見られ、高度な映像解析が可能となってき ている。これらの技術進展を受け、国土交通省は、 「5年に1度の道路交通センサスを主体とした車に焦 点をあてた調査体系」から、「ICTをフル活用した常 時観測を基本とする平常時・災害時を問わない調査 体系」への移行を目指し、「ICTを活用した新道路交 通調査体系検討会」 1) を2018年10月に設置した。 この新道路交通調査体系を実現する上で、道路管 理用の監視カメラ(CCTV)映像とAIを用いた交通量 計測は、既存の設備が活用でき、歩行者等の車以外 の計測への応用も期待できる点で有効な手段である と考えられる。そこで道路研究室では、映像とAIを 用いた交通量計測について現時点での国内技術の水 準を把握するべく、AIを用いた交通量計測技術を開 発している企業6社に対して動向調査を実施した。 2.AIを用いた交通量計測技術の動向 本稿で扱うAIを用いた交通量計測技術は、深層学 習による車両検知機能を用いた技術である。様々な 方向から捉えた移動体(車両や歩行者など)の特徴 を学習したAIが、道路空間内の映像にて移動する対 象を認識し、その交通量を計測するものである。 今回の動向調査は、2018年末時点における各社の 計測可能な移動体や精度について行った。結果概要 は表-1に示すとおりである。移動体の判別は小型・ 大型の2車種や二輪車は可能だが、歩行者や二輪車に おける自転車とバイクの判別に関しては一部企業で の開発にとどまっている(①②③)。交通量計測精度 に関しては、昼は高い精度が得られているが、夜間 で道路照明等が無く、車両のライトが照らす範囲し か見えないような環境では移動体の検知が困難とな 表-1 AIを用いた交通量計測技術の動向(6社) り、多くの企業で計測不可とされている(車種判別 も不可)(④)。また、解析映像は様々な撮影範囲(カ メラの設置高さ・俯角等の条件より異なる。)が想 定され、その環境下で高い交通量計測精度を確保す るにはAIによる高精度の車両検知能力が必要だが、 そのために解析映像の撮影範囲に応じた移動体の見 え方についてAIの追加学習が必要である企業も多い (⑤)。雨や雪等の気象による影響については2社が検 証を行っており、レンズに雨や雪の付着がない場合 は、精度への影響はほぼ無いことが確認されている (⑥)。このほか、レンズへの車両ライトや太陽光の 直射により映像が「白とび」(映像が白一色に塗り つぶされる状況)になった場合や、計測対象が車両 の重なりで全く見えない状況が続いた場合など、人 の観測でも捉えることが困難な状況下ではAI計測で も同様に困難であることが確認されている(⑦)。 3.おわりに 現時点での国内技術では昼計測において広く実用 段階に達していること、夜間計測には課題があるこ とが判明した。今後は道路交通調査の実務への適用 に向け、夜間計測等の課題解決に向けた検討を行う。 【詳細情報】1) ICTを活用した新道路交通調査体系検討会 http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/ict/index.html 最大性能 最小性能 一定性能以上 の企業数 (道路照明有) (道路照明無) 小型・大型計測 0社/6社 歩行者観測可能 (車両と同時計測可能) 計測不可 歩行者計測可能 5社/6社 自転車・バイク 区別可能 二輪車として 一括計測 計測・区別可能 3社/6社 99% 90% 95%以上精度 4社/6社 (道路照明有) 99% 90% 95%以上精度 3社/6社 (道路照明無) 80% 計測不可 80%以上精度 1社/6社 不要(必須ではない) 必要 不要:2社/6社 影響ほぼ無し 未検証 (精度低下想定) 影響ほぼ無:2社/6社 未検証4社/6社 ⑦その他 精度への影響事項 ・カメラレンズへの光直射による白とび ・車両の重なりによる計測対象の遮蔽 2車種 小型・大型計測 6社/6社 項目 ①車種判別 ②歩行者の計測 ⑤映像毎のAI追加学習の要否 ⑥(気象)雨・雪の 計測への影響 識別不可 7車種判定(乗用車,バ ン,SUV,小型・大型トラック, 中型・大型バス) 2車種 (小型・大型) ③自転車・バイクの計測 ④交通量 計測精度 3. i-Construction 使研究動向・成果 AI を用いた交通量計測技術 の動向調査 (研究期間 : 平成 28 年度~平成 30 年度) 道路交通研究部 道路研究室 研究官 瀧本 真理 交流研究員 中田 寛臣 主任研究官 松田 奈緒子 交流研究員 泰士 室長 瀬戸下 伸介 (キーワード) AI、交通量計測、常時観測、映像解析 - 125 - - 125 -

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個別記事用原稿(1ページ原稿)

AIを用いた交通量計測技術

の動向調査(研究期間:平成28~30年度)

道路交通研究部 道路研究室 研究官 瀧本 真理 交流研究員 中田 寛臣 主任研究官 松田 奈緒子 交流研究員 林 泰士 室長 瀬戸下 伸介

(キーワード) AI、交通量計測、常時観測、映像解析

1.はじめに

近年、国内ではICTの進展から効率的にビックデー

タの収集が可能になったほか、AI(人工知能)技術

の進展が見られ、高度な映像解析が可能となってき

ている。これらの技術進展を受け、国土交通省は、

「5年に1度の道路交通センサスを主体とした車に焦

点をあてた調査体系」から、「ICTをフル活用した常

時観測を基本とする平常時・災害時を問わない調査

体系」への移行を目指し、「ICTを活用した新道路交

通調査体系検討会」1)を2018年10月に設置した。

この新道路交通調査体系を実現する上で、道路管

理用の監視カメラ(CCTV)映像とAIを用いた交通量

計測は、既存の設備が活用でき、歩行者等の車以外

の計測への応用も期待できる点で有効な手段である

と考えられる。そこで道路研究室では、映像とAIを

用いた交通量計測について現時点での国内技術の水

準を把握するべく、AIを用いた交通量計測技術を開

発している企業6社に対して動向調査を実施した。

2.AIを用いた交通量計測技術の動向

本稿で扱うAIを用いた交通量計測技術は、深層学

習による車両検知機能を用いた技術である。様々な

方向から捉えた移動体(車両や歩行者など)の特徴

を学習したAIが、道路空間内の映像にて移動する対

象を認識し、その交通量を計測するものである。

今回の動向調査は、2018年末時点における各社の

計測可能な移動体や精度について行った。結果概要

は表-1に示すとおりである。移動体の判別は小型・

大型の2車種や二輪車は可能だが、歩行者や二輪車に

おける自転車とバイクの判別に関しては一部企業で

の開発にとどまっている(①②③)。交通量計測精度

に関しては、昼は高い精度が得られているが、夜間

で道路照明等が無く、車両のライトが照らす範囲し

か見えないような環境では移動体の検知が困難とな

表-1 AIを用いた交通量計測技術の動向(6社)

り、多くの企業で計測不可とされている(車種判別

も不可)(④)。また、解析映像は様々な撮影範囲(カ

メラの設置高さ・俯角等の条件より異なる。)が想

定され、その環境下で高い交通量計測精度を確保す

るにはAIによる高精度の車両検知能力が必要だが、

そのために解析映像の撮影範囲に応じた移動体の見

え方についてAIの追加学習が必要である企業も多い

(⑤)。雨や雪等の気象による影響については2社が検

証を行っており、レンズに雨や雪の付着がない場合

は、精度への影響はほぼ無いことが確認されている

(⑥)。このほか、レンズへの車両ライトや太陽光の

直射により映像が「白とび」(映像が白一色に塗り

つぶされる状況)になった場合や、計測対象が車両

の重なりで全く見えない状況が続いた場合など、人

の観測でも捉えることが困難な状況下ではAI計測で

も同様に困難であることが確認されている(⑦)。

3.おわりに

現時点での国内技術では昼計測において広く実用

段階に達していること、夜間計測には課題があるこ

とが判明した。今後は道路交通調査の実務への適用

に向け、夜間計測等の課題解決に向けた検討を行う。

【詳細情報】1) ICTを活用した新道路交通調査体系検討会

http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/ict/index.html

最大性能 最小性能一定性能以上

の企業数昼

(道路照明有)

(道路照明無)

小型・大型計測

0社/6社

歩行者観測可能

(車両と同時計測可能)計測不可

歩行者計測可能

5社/6社

自転車・バイク

区別可能

二輪車として

一括計測

計測・区別可能

3社/6社

昼 99% 90%95%以上精度

4社/6社夜

(道路照明有)99% 90%

95%以上精度

3社/6社夜

(道路照明無)80% 計測不可

80%以上精度

1社/6社

不要(必須ではない) 必要 不要:2社/6社

影響ほぼ無し未検証

(精度低下想定)

影響ほぼ無:2社/6社

未検証4社/6社

⑦その他

精度への影響事項

・カメラレンズへの光直射による白とび

・車両の重なりによる計測対象の遮蔽

2車種

小型・大型計測

6社/6社

項目

①車種判別

②歩行者の計測

⑤映像毎のAI追加学習の要否

⑥(気象)雨・雪の

計測への影響

識別不可

7車種判定(乗用車,バ

ン,SUV,小型・大型トラック,

中型・大型バス)

2車種

(小型・大型)

③自転車・バイクの計測

④交通量

計測精度

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個別記事用原稿(1ページ原稿)

OD交通量逆推定手法時間単位変動係数モデルの開発 (研究期間:平成30年度~)

道路交通研究部 道路研究室 研究官 坂ノ上 有紀 主任研究官 松田 奈緒子 交流研究員 中田 寛臣 室長 瀬戸下 伸介

(キーワード) 交通調査、OD交通量逆推定、交通ネットワーク分析、道路交通センサス

1.はじめに

国土交通省では、調査対象日1日あたりのOD交通

量を把握する調査(以下「センサスOD調査」という。)

を概ね5年に1度実施している。一方で、渋滞対策や

事故、災害等の突発事象に対応した道路交通施策の

検討には、日別・時間帯別のOD交通量を把握できる

ことが望まれている。道路上に設置した機械で常時

観測している日別観測リンク交通量から、日単位の

OD交通量を推定する手法として、OD交通量逆推定

手法日単位モデルが開発されている。本研究では、

日単位モデルを発展させた、時間帯別のOD交通量の

把握手法として、時間単位変動係数モデルの提案、

実地域を対象とした適用性検証、および手法の改良

を行った。

2.時間単位変動係数モデルの提案および検証

OD交通量逆推定手法時間単位変動係数モデルの

推定フローを図1に示す。具体的には、センサスの調

査結果から得られる時間別リンク交通量、日別OD

交通量と道路上の機械で常時観測している時間別観

測リンク交通量を用いて時間変動係数を推定する。

まず、近畿地方において、OD交通量の時間変動傾

向から5つの類型を設定し、類型ごとにモデルの適用

性を検証した。5つの類型のうち、起終点が大阪府全

域と兵庫県の一部(神戸・阪神南・阪神北)のOD

(以下「阪神圏内々OD」)についての結果を図2に

示す。推定値とセンサス値を比較すると、推定値は

時間変動が小さく、実際の交通状況と乖離があった。

原因として、OD交通量を5類型に分類して推計を行

ったことにより、OD毎の時間変動傾向を反映できる

一方で、同時間帯内の類型間のOD交通量の配分が複

雑になり、非現実的な推定値が生じやすくなること

が考えられた。

3.モデルの改良および検証

この原因を解消するため、モデル式にセンサスOD

調査結果の時間帯別OD交通量を考慮する項(センサ

ス先験情報項)を加え、改良モデルとした。既存項

とセンサス先験情報項の重みの比を重み係数αを用

いて設定した。改良モデルの適用性の検証結果のう

ち、阪神圏内々ODについて、図2に示す。改良前の

モデルと比較すると、よりセンサス値に近い時間変

動係数が推定され、改良モデルの有効性が示された。

4.おわりに

改良モデルにおける重み係数の推定結果への影響度

はOD交通量の類型ごとに異なっている。モデルの適

用を全国へ展開していくことを目指し、今後は、適

切な重み係数の設定方法の検討を進めていきたい。

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真デー

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真デー

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(写

真デー

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真デー

図1 時間単位変動係数モデル推定フロー

図2 時間変動係数の推計結果

3.生産性革命(i

-Construction

の推進、賢く使う)

研究動向・成果

AI を用いた交通量計測技術 の動向調査(研究期間 : 平成28年度~平成30年度)

道路交通研究部 道路研究室 �研究官 瀧本 真理 交流研究員 中田 寛臣 主任研究官 松田 奈緒子 交流研究員 林 泰士 室長 瀬戸下 伸介

(キーワード) AI、交通量計測、常時観測、映像解析

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