音楽実技科目におけるルーブリックの設定 ピアノ演...

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音楽実技科目におけるルーブリックの設定 -ピアノ演奏技能の学習過程の評価- 寺 田 貴 雄 ・ 小 林 美 貴 子 北海道教育大学札幌校音楽教育学研究室 ピアノ演奏技能を習得する授業科目にルーブリックを設定し、学習プロセスの評価を試 みた。自己学習の記録である「ピアノ練習表」および「ピアノ練習カード」を素材としてルー ブリック評価を行った。音楽実技の評価では、一連の学習の結果としての演奏を評価する だけではなく、学習過程に焦点をあてた評価も重要である。その際、音楽的思考の質を評 価する工夫が必要になる。 はじめに 本研究は,小学校教員養成におけるピアノ実技力習 得のための授業にルーブリックを導入し,到達目標を 明確化することにより,学びの質の向上を目指すもので ある。従来、実技系科目では各種活動でどのような技 能を習得し,それによってどのような力量の獲得を目指 すのかが曖昧であった。筆者が担当する授業「子どもと 音楽C」では,学生が自身のピアノ学習過程を記録す ることで、自分の学びを見つめ、学びの質を高める試 みを行ってきた。 本研究は、音楽実技科目にルーブリックを設定する こと、とりわけ、学生の学習プロセスの記録を評価する ことを試みたい。 パフォーマンス評価としての音楽演奏 ある特定の文脈での人のパフォーマンス全体を直接 的に評価する「パフォーマンス評価( performance assessment)」は、日本では 1990 年代から取り組まれて きた 1 。大学教育でも、レポート、論文、ポスターなどの 完成作品や、プレゼンテーション、ディベート、演技、 演奏などの実技がパフォーマンス評価の代表的なもの として積極的に導入されてきた。これらの、パフォーマ ンス評価では、パフォーマンス課題とルーブリックの設 定が重要とされている。パフォーマンス課題は、「リアル な文脈のなかで知識やスキルを使いこなすことを求め るよう複雑な課題」 2 であり、それを評価するにあたって ルーブリックが必要である。ルーブリックは、「評価指標」 「評価基準」「評価規準」と訳されるが、「成功の度合い を示す数値的な尺度(scale)と、それぞれの尺度に見ら れるパフォーマンスの特徴を示した記述語(descriptorから成る評価基準表」 3 と定義されている。 大学における音楽実技のパフォーマンス評価の先行 研究として、教員養成におけるピアノの弾き歌いの学 習にルーブリックを導入した事例 4 がある。ここでは、ル ーブリック作成に際し、演奏実技の質や習熟、理解の 度合いが明確になるよう工夫されている。しかし、ここで 評価の対象としているのは、学習の結果としての演奏 であり、音楽実技を学習していくプロセスには着目して いない。筆者は、音楽実技の評価では、一連の学習の 結果としての演奏を評価するだけではなく、学習過程 に焦点をあてた評価も重要であると考える。 「子どもと音楽C」の概要 「子どもと音楽C」は、小学校音楽科におけるピアノ演 奏の基礎技能の習得を目ざした授業科目である。受講 対象者は、小学校教員を志望しており、ピアノ演奏経

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音楽実技科目におけるルーブリックの設定 -ピアノ演奏技能の学習過程の評価-

寺 田 貴 雄 ・ 小 林 美 貴 子

北海道教育大学札幌校音楽教育学研究室

概 要

ピアノ演奏技能を習得する授業科目にルーブリックを設定し、学習プロセスの評価を試

みた。自己学習の記録である「ピアノ練習表」および「ピアノ練習カード」を素材としてルー

ブリック評価を行った。音楽実技の評価では、一連の学習の結果としての演奏を評価する

だけではなく、学習過程に焦点をあてた評価も重要である。その際、音楽的思考の質を評

価する工夫が必要になる。

はじめに

本研究は,小学校教員養成におけるピアノ実技力習

得のための授業にルーブリックを導入し,到達目標を

明確化することにより,学びの質の向上を目指すもので

ある。従来、実技系科目では各種活動でどのような技

能を習得し,それによってどのような力量の獲得を目指

すのかが曖昧であった。筆者が担当する授業「子どもと

音楽C」では,学生が自身のピアノ学習過程を記録す

ることで、自分の学びを見つめ、学びの質を高める試

みを行ってきた。

本研究は、音楽実技科目にルーブリックを設定する

こと、とりわけ、学生の学習プロセスの記録を評価する

ことを試みたい。

パフォーマンス評価としての音楽演奏

ある特定の文脈での人のパフォーマンス全体を直接

的に評価する「パフォーマンス評価( performance

assessment)」は、日本では 1990 年代から取り組まれて

きた1。大学教育でも、レポート、論文、ポスターなどの

完成作品や、プレゼンテーション、ディベート、演技、

演奏などの実技がパフォーマンス評価の代表的なもの

として積極的に導入されてきた。これらの、パフォーマ

ンス評価では、パフォーマンス課題とルーブリックの設

定が重要とされている。パフォーマンス課題は、「リアル

な文脈のなかで知識やスキルを使いこなすことを求め

るよう複雑な課題」2であり、それを評価するにあたって

ルーブリックが必要である。ルーブリックは、「評価指標」

「評価基準」「評価規準」と訳されるが、「成功の度合い

を示す数値的な尺度(scale)と、それぞれの尺度に見ら

れるパフォーマンスの特徴を示した記述語(descriptor)

から成る評価基準表」3と定義されている。

大学における音楽実技のパフォーマンス評価の先行

研究として、教員養成におけるピアノの弾き歌いの学

習にルーブリックを導入した事例4がある。ここでは、ル

ーブリック作成に際し、演奏実技の質や習熟、理解の

度合いが明確になるよう工夫されている。しかし、ここで

評価の対象としているのは、学習の結果としての演奏

であり、音楽実技を学習していくプロセスには着目して

いない。筆者は、音楽実技の評価では、一連の学習の

結果としての演奏を評価するだけではなく、学習過程

に焦点をあてた評価も重要であると考える。

「子どもと音楽C」の概要

「子どもと音楽C」は、小学校音楽科におけるピアノ演

奏の基礎技能の習得を目ざした授業科目である。受講

対象者は、小学校教員を志望しており、ピアノ演奏経

【ピアノ練習表の記録】

験の無い学生(ピアノ初心者)である。到達目標は、「バ

イエル教則本 80~100 番程度の曲を演奏できる技能、

および歌唱共通教材の伴奏実技の習得等、ピアノ初級

の演奏ができる」である。授業時だけではなく日々の自

主的な学習によって技能習得を促進したいと考えた。

日常の学生の学びを記録するために、個々の練習時

【ピアノ練習カードの記録】

間や練習内容を記入する「ピアノ練習表」と、練習の上

で苦労した箇所を記入する「ピアノ練習カード」を配布

し、自己の練習状況を記録させた。

毎回の授業では、はじめに「ピアノ練習表」を回収し、

1週間の練習状況を確認し、コメントを付して返却する。

学生は、楽譜、「ピアノ練習表」、「ピアノ練習カード」を

持って練習室に入り、自己学習を進める。「ピアノ練習

表」に示された番号の曲を順番に練習する。あまり間違

えたり止まったりせずに弾くことができれば、次の曲を

練習する。

教員が練習室に入ってきたら、学生は自分が練習し

た曲の中で、完成度の高いものを演奏する。教員は学

生の演奏を確認し、演奏困難な箇所の練習方法等に

ついて適宜アドバイスする。また、その内容を「ピアノ練

習カード」に記入させる。

このように進められた授業の最終回では、まとめとし

て発表会形式で演奏を披露する実技試験を実施した。

ルーブリックの作成

「子どもと音楽C」におけるパフォーマンス課題を、「バ

イエル教則本の学習を通して、小学校音楽科を実践す

る上で必要なピアノ演奏技能を獲得する」と設定した。

この課題の追求は、授業最終回での実技試験だけ

ではなく、日常の授業外での自主的練習を通して行わ

れる。そのため、ピアノ技能の学習プロセスも評価対象

とすることから、「ピアノ練習表」「ピアノ練習カード」の記

録状況も評価の素材としている。「ピアノ練習表」および

「ピアノ練習カード」の実際の記録を前頁に示した。

これら「ピアノ練習表」「ピアノ練習カード」「実技試験」

の各項目のルーブリックを次表のように作成した。

おわりに

ルーブリックは、学習者があらかじめ知っていること

によって、目標として学習活動を方向付ける作用を持

っている。一方で、そこに記載されたこと以外のことを

目標や評価の対象から外してしまいかねないという問

題点も持っている5。「子どもと音楽C」では、「ピアノ練

習カード」についてのルーブリックとして、「苦手な箇所

や努力した箇所の記録」を観点として設定した。ところ

が、実際のカードの記録を見ると、より深い音楽的思考

が垣間見られる文言を記している学生が少なくないの

である。学習プロセスを重視したパフォーマンス評価で

は、個々の学生の学習の質を評価する工夫も重要にな

ってくる。音楽的思考の質をいかに評価するかは、今

後の課題である。

引用文献 1 遠藤貴弘(2014)「学力と授業の評価に取り組む」日

本教育方法学会編『教育方法学研究ハンドブック』

学文社,p.366. 2 西岡加名恵(2009)「教育評価と授業研究」日本教育

方法学会編『日本の授業研究 下巻-授業研究の方

法と形態』学文社,p.124. 3 田中耕治(2003)『教育評価の未来を拓く』ミネルヴァ

書房. 4 島川香織(2013)「教員養成における「真正の評価」と

してのルーブリック導入に向けた弾き歌い指導の試み」

『関西国際大学研究紀要』第 14号,pp.71-84. 5 黒上晴夫(2012)「教育プログラムの評価」久保田賢

一,岸磨貴子編著『大学教育をデザインする-構成

主義に基づいた教育実践』晃洋書房,pp.168-170.

教養科目「情報機器の操作」におけるルーブリック評価の試み

小林 美貴子

北海道教育大学札幌校 音楽教育学第 2研究室

概 要

本研究では,教養科目「情報機器の操作」におけるルーブリックを,学生の成果物にもと

づき作成した。コンピュータの基本的な操作技能の習得が中心となる「情報機器の操作」

にルーブリックを用いることによって,各講義内容および課題における学生の学びの状況

を把握しやすくなる。今後は,学生の学びの過程を捉え,学生の努力や独創性といった質

的な要素を,ルーブリックにどのように反映させるか検討する必要があるだろう。

はじめに

本研究は,教員養成課程に所属する学生の学びの

質の向上を目指し,教養科目「情報機器の操作」への

ルーブリック評価の導入を試みるものである。

大学の初年次教育では,「情報機器の操作」は,大

学での学びを支援する機器使用の技能を習得すること

に主眼が置かれる場合が多い科目である。「情報機器

の操作」の授業時間の多くは,コンピュータの基本的な

操作,情報の検索および収集,各種アプリケーションソ

フトの使用等に費やされる。したがって,授業中の実際

の機器使用や各種課題において,学生がさまざまな技

術をどのように習得しているか,どのような力量を獲得

すべきかを教師が把握することが重要である。さらに,

習得・獲得すべき技術や力量を,学生自身が自らの学

びとして把握することによって,学びの質を高めること

ができると考える。

そこで本研究では,「情報機器の操作」の各講義内

容,各種課題,学生の成果物等を通して,ルーブリック

を試作することとした。ルーブリックを作成することによ

って,評価の観点や水準を明確にし,さらに,学習者に

どのような力を育てることが必要なのか,どのようにつま

ずくのかを具体的に捉えることができる 1)。「情報機器

の操作」のルーブリックを作成し,次年度の「情報機器

の操作」における学習の指針としたい。

「情報機器の操作K」の概要

本研究では,筆者が担当した授業科目である,平成

27 年度前期開設科目「情報機器の操作 K」を対象とし

て,ルーブリックの作成を試みた。

「情報機器の操作 K」は,北海道教育大学札幌校

芸術体育教育専攻 音楽教育分野 1 年次生が受講す

る科目である。平成 27年度の受講者は 9名であった。

平成 27年度に実施した「情報機器の操作K」の目標お

よびシラバスを,以下に示す。

【一般目標】

大学や教育現場で必要とされるコンピュータの基礎的な操作

の仕方,大学での学びに必要な情報を収集・活用する力,そし

てそれらを用いてプレゼンテーションする力を身につける。

対応する専攻のディプロマ・ポリシーは以下の通り。

1-1 教員としての豊かな人間性,幅広い教養,知性を身に

つける。

【到達目標】

・Word,Excel,PowerPoint等,コンピュータの基本的な操作を

習得する。

・図書館およびインターネット等を用いて,大学での学びに必

要な情報を収集し,活用することができる。

・プレゼンテーションの基本を習得し,効果的なプレゼンテーシ

ョンを工夫する。

【シラバス】

第 1回 オリエンテーション

第 2回 文書作成の基礎①-基本的な操作-

第 3回 文書作成の基礎②-図表を組み込んだ文書の作成-

第 4回 プレゼンテーション①-授業記録のまとめ-

第 5回 表計算の基礎①-基本的な操作-

第 6回 表計算の基礎②-成績表の作成-

第 7回 表計算の基礎③-グラフの作成-

第 8回 資料の検索と収集①-図書館の活用-

第 9回 資料の検索と収集②-インターネットの活用-

第 10回 プレゼンテーションソフトの基本的な操作

第 11回 プレゼンテーションソフトの活用

第 12回 情報モラルとセキュリティ

第 13回 与えられたテーマに関する情報収集・活用

第 14回 プレゼンテーション②

-与えられたテーマによる発表-

第 15回 総括

各授業の中で,第 1 回から第 4 回,第 9 回は Word

を,第 5回から第 8回は Excelを,第 10回および第 11

回,第 13回および第 14回は Power Pointを中心に扱

った。各回の講義内容が学生の中で強く関連づけられ

るように,毎回の講義の後に,各回の講義内容の復習

および予習となり得る課題を与えることとした。

また,プレゼンテーションを始めとした複数の場面に

おいて,互いの成果物を交流し合い,評価する(「良か

った点・真似したい点」「課題点・改善すべき点」を伝え

合う)場,質問する場を設けた。学生同士で評価し合う

ことで,新たな技能を習得する場面も見受けられた。

<表 「情報機器の操作K」におけるルーブリックの試案>

回 活動内容 A B C

第 2回

課題

ポスターを作成する ・与えられた文章および写真を挿入している

・ワードアート,図形,クリップアート等を挿入し

ている

・音楽教育分野を紹介する文章を作成し,挿

入している

・与えられた文章および写真を挿入して

いる

・ワードアート,図形,クリップアート等を挿

入している

・与えられた文章お

よび写真を挿入し

ている

第 3回 ポスターを批評する ・表を作成し,表の中にポスターの画像を挿入

している

・他者が作成したポスターの「良かった点・真

似したい点」および「課題点・改善すべき点」

を記述している

・表を作成し,表の中にポスターの画像を

挿入している

・他者が作成したポスターの「良かった

点・真似したい点」または「課題点・改善

すべき点」を記述している

・表を作成し,表の

中にポスターの画

像を挿入している

第 4回 プレゼンテーション

(授業分析図の説明)

を批評する

・プレゼンテーションを通して,「伝え方」「内

容」を 3段階で評価している

・他者が作成した授業分析図やプレゼンテー

ションから,「良かった点・真似したい点」「課

題点・改善すべき点」を記述している

・自身のプレゼンテーションを客観的に批評

し,「良かった点」「課題点」を記述している

・プレゼンテーションを通して,「伝え方」

「内容」を 3段階で評価している

・他者が作成した授業分析図やプレゼン

テーションから,「良かった点・真似した

い点」「課題点・改善すべき点」を記述し

ている

・プレゼンテーション

を通して,「伝え方」

「内容」を 3 段階で

評価している

第 6回

および

第 7回

「成績表」およびグラ

フを作成する

・与えられたデータにもとづき「成績表」を作成

し,平均,最大,最小を求めることができる

・「成績表」を折れ線グラフに示し,グラフタイト

ルおよび軸ラベル等を追加することができる

・「成績表」を積み上げ棒グラフに示し,各要素

の色を変更することができる

・与えられたデータにもとづき「成績表」を

作成し,平均,最大,最小を求めることが

できる

・「成績表」を折れ線グラフに示し,グラフ

タイトルおよび軸ラベル等を追加するこ

とができる

・与えられたデータ

にもとづき「成績

表」を作成し,平

均,最大,最小を求

めることができる

第 10回

課題

「小中学生の携帯電

話の所持」に関する

スライドショーを作成

する

・賛成派および反対派の特徴を捉え,スライド

に示している

・自身の考えをスライドに記述している

・アニメーションを用いて効果的なスライドショ

ーを作成している

・賛成派および反対派の特徴を捉え,スラ

イドに示している

・自身の考えをスライドに記述している

・賛成派および反対

派の特徴を捉え,

スライドに示してい

第 11回 「小中学生の携帯電

話の所持」に関する

スライドショーを批評

する

・スライドショーを通して,「1 枚あたりのスライド

の文字」「アニメーションの効果」を 3 段階で

評価している

・他者のスライドショーを通して,「良かった点」

「改善点」を記述している

・自身のスライドショーを客観的に批評し,「良

かった点」「改善点」を記述している

・スライドショーを通して,「1 枚あたりのス

ライドの文字」「アニメーションの効果」を

3段階で評価している

・他者のスライドショーを通して,「良かっ

た点」「改善点」を記述している

・スライドショーを通

して,「1 枚あたりの

スライドの文字」「ア

ニメーションの効

果」を3段階で評価

している

<写真 第 11回の批評カードの記入例(学生A)>

ルーブリックの作成

本研究では,「情報機器の操作K」において,上記の

表に示すルーブリックを作成した。全 15回の授業およ

び各種課題の中から,Wordの操作(第 2回課題,第 3

回,第 4回),Excelの操作(第 6回,第 7回),Power

Pointの操作(第10回課題,第11回)に関わるものを抜

粋し,学生の成果物(上記の写真を参照)を具体的事

例として,ルーブリックを作成することとした。また,評価

規準の作成にあたっては,「情報機器の操作K」の授

業を行なった際に学生に提示した,各種課題を進める

ための手順を援用した。

まとめ

今回,学生の成果物を改めて見つめることで,各課

題の評価規準が明確になったと同時に,学生に身につ

いてない力が浮き彫りになった。ルーブリックを活用す

ることで,「情報機器の操作」の各講義内容および課題

における個々の学生の学びの状況を,より具体的に把

握することができるようになるだろう。

ただし,今回のルーブリックは学生の成果物にもとづ

いて作成したものであったため,各講義の中で行われ

る演習をどのように評価するかまでは検討できていな

い。学生の成果物,すなわち学生の学んだ結果だけで

なく,学びの過程における評価について追究する必要

があると考える。

また,ルーブリックを学生に示せば,学生はルーブリ

ックに書かれた通りのことを正確に行うようになり,学生

の学びの質を一定の水準に保つことができる。その一

方で,ルーブリックに書かれていること以上のことは行

わず,やや均一的で独創性に欠けるような課題を提出

する 2)学生もいる。さらに,コンピュータの操作に慣れ

ている学生もいれば,普段コンピュータに触れることが

ほとんどない学生もいる。個々の習熟度が異なるからこ

そ,成果物のみではなく,学びによる個々の学生の成

長にも注目しなければならない。

したがって,今後は,個々の学生の学びの過程を捉

え,学生の努力や独創性といった質的な要素をルーブ

リックにどのように反映させるか検討する必要があるだ

ろう。また,ルーブリックの作成を通じて,教師側の指導

法を改善し,評価方法を見直す必要があるだろう。

1)西岡加名恵,石井英真,田中耕治編(2015)『新しい教育評

価入門 人を育てる評価のために』有斐閣,pp.150-151.

2)リンダ・サスキー,齋藤聖子訳(2015)『学生の学びを測る

アセスメント・ガイドブック』玉川大学出版部,p. 152.

参考文献

梶田叡一,加藤明(2004)『実践教育評価事典』文溪堂.

久保田賢一,岸磨貴子編著(2012)『大学教育をデザインする

構成主義に基づいた教育実践』晃洋書房

1

平成 27 年度 大学教育開発センター研究事業 報告書 2016 年 3 月 16 日

アカデミックスキルのルーブリック構築についての試論的研究

―札幌校芸術体育教育専攻 音楽教育分野の事例をもとに―

石出 和也

北海道教育大学札幌校 音楽教育学研究室

概 要

本研究の主目的は,初年次教育の一環であるアカデミックスキルについて,その評価指標となるルーブ

リックを試論的に構築することである。平成 27 年度前期に札幌校芸術体育教育専攻 音楽教育分野の 1 年

次学生を対象として実施したアカデミックスキルを手掛かりとして,講義内容,講義方法および学習成果

物を遡行的に吟味し,「要約文型のレジュメ作成についてのルーブリック」「図解型のレジュメ作成につい

てのルーブリック」「レポート作成についてのルーブリック」の 3 つを構想した。アカデミックスキルはレ

ジュメやレポート,プレゼンテーションなどの学習成果物を多く伴っており,学習過程が可視化されやす

い講義であるため,ルーブリックを導入することで得られる利点は多いと考えられる。

1.本研究の目的と性格

本研究の主目的は,初年次教育の一環であるアカ

デミックスキルについて,その評価指標となるルー

ブリック(rubric)を試論的に構築することである。

平成 27 年度前期に札幌校芸術体育教育専攻 音楽

教育分野の 1 年次学生 9 名を対象として実施した

アカデミックスキルを手掛かりとして,講義内容,

講義方法および学習成果物を遡行的に吟味する。そ

こから得られた成果や課題を踏まえてルーブリッ

クを作成し,平成 28 年度以降の同講義への導入を

目指す。そのことにより,アカデミックスキルの講

義内容と講義方法を精緻化するとともに,指導と評

価の整合性を図ることが期待できる。

すでに指摘されているように,教育実践に先立っ

てルーブリックを作成する場合,それはあくまでも

実際の授業に対する「暫定的な仮説」である 1)。そ

のため,実際的な評価指標の作成においては,「評

価のための表づくり」と「授業実践からの洗い出し

や解答例の収集」を表裏一体の関係にあるものとし

て捉え,両者を往還させることが重要となる 2)。本

研究は平成 27 年度の講義内容,講義方法および学

習成果物をもとにして,平成 28 年度以降に使用す

る評価指標を作成するというものであり,年度を超

えて学習成果物からルーブリックを構想するため,

必然的に「授業実践からの洗い出し」という研究方

法上の立場を採ることになる。

2.本研究の焦点

(1)ルーブリックの概念規定

ルーブリックとは,いわゆる「目標に準拠した評

価」にふさわしい評定尺度として開発された評価指

標であり 3),一般的には評価基準表という形をとる。

主にパフォーマンス(作品や実演)の質を評価する

ために用いられ,一つ以上の「基準(次元)」とそ

れについての「数値的な尺度」によってマトリック

スが構成され,それぞれのセルの中には,尺度の中

身を説明する「記述語」が入る 4)。それぞれのセル

に入る「記述語」はパフォーマンスの質のレベルを

2

規定する「規準(criteria)」を示すものであり,場

合によっては,評価される特定のパフォーマンスに

典型的な行動や形跡である「指標(indicators)」を

含むこともある 5)。

本研究ではアカデミックスキルにおけるパフォ

ーマンス課題とその学習成果物のうち,主に(1)文

献講読に関わるレジュメ作成,(2)アカデミック・ラ

イティングに基づくレポート作成,の2つに焦点化

してルーブリックを構想する。

(2)アカデミックスキルの講義内容

次頁の表 1 は,本研究が検討対象としている平成

27 年度前期アカデミックスキルの授業計画である。

また,以下は本講義の一般目標である(シラバスよ

り抜粋)。

ノートテイキングや文献の読み方など,アカデミ

ックスキルが扱う内容の一部には,確かに「学び方

についてのリメディアル教育」という側面も含まれ

るだろう。だが,アカデミックスキルの目的は,あ

くまでも大学での学び方を修得することである 6)。

リメディアル教育と隣接してはいるが,アカデミッ

クスキルが目指している学び方の修得は,これから

始まる大学生活での学びの軌跡の出発点となるも

のであり,初年次教育とリメディアル教育は一線を

画すべきである 7)。上に示したように,今回のアカ

デミックスキルでは「大学での学び方」ひいては「学

術研究の基盤となるような能力」の獲得を目指し,

最終的な到達点を「きちんとしたレポートを作成す

る」とした。初年次教育であることを踏まえれば,

レポートの内容面に学術的な独創性を要求するこ

とはできないとしても,初年次教育であるからこそ,

テーマ設定や文章の構成,文体,資料からの引用や

註による補足などについての基本的な方法に留意

したレポート作成を経験させることが重要であろ

う。

3.レジュメ作成についてのルーブリック

第 1 回と第 2 回では,大学の講義におけるノート

テイキングの基本事項や工夫点について学ばせ,続

く第 3 回はノートテイキングの拡張・応用として,

小中学校での授業観察における授業記録の取り方

について学ばせた 8)。ここでは第 4 回~第 5 回と第

8 回~第 9 回の講義で扱った,文献講読に関わるレ

ジュメ作成の演習について報告し,そのルーブリッ

ク構築の可能性について検討する。

大学における学びの場面では,ゼミや授業などの

文献講読に臨む準備としてレジュメを作成したり,

文献調査の個人的な記録の蓄積としてレジュメを

作成したりすることが多い。あるテクストの内容を

整理・要約してレジュメを作成する技法は,大学で

の学び方を身に付けていく上で,必要不可欠のもの

であると言えよう。ここで「要約」とは,「ダウン

サイジングとしての理解」――理解する働きを作業

に変えたもの――を指す 9)。例えば,1 ページ程度

のレジュメを作成して,100 ページの本の内容を自

分の言葉で説明することができるという状態を考

える。その場合,説明するためには,その説明に用

いる言葉以上のことを分かっていなければならな

い。従って授業者は,「説明することができている」

という〈可視化〉された学習成果物(レジュメ)を

通して,「理解しているかどうか」という学習者内

部の営みを把握することができるのである。

第 4 回~第 5 回では,テクストの内容を文章とし

て整理・要約させる「要約文型のレジュメ」につい

て扱い,第 8 回~第 9 回では,テクストの内容をプ

レゼンテーション的な視覚的効果を用いて整理・要

約させる「図解型のレジュメ」を扱った。

このアカデミックスキルは,これからの大学生活

において,主体的・創造的に学んでいくための基礎

力を身に付ける授業です。大学での学びを「見る」

「聴く」「書く」「読む」「考える」「調べる」「探す」

「整理する」「伝える」などのいくつかのトピックに

分節化して捉えつつ,それらを「きちんとしたレポ

ートを作成する」という到達点へと統合させます。

3

(1)「要約文型のレジュメ」の作成

表 2 は,要約文型のレジュメ作成の演習に使用

した 3 つのテクストである。いずれも 5 ページ以

内の短いテクストであり,レジュメ作成の入門期に

適していると考えた。また,これらは同一の文献の

中から選んだものではあるが,文章の構成を読み取

るための練習として,タイトルや本文の構成などの

特徴がそれぞれ異なっているものを選んだ。テクス

トの内容面についても,若干ではあるが,他の講義

や実習などとの関連性を意識して選定した(学生に

はそのことを明示していない)。さらに,同時期に

学生が受講している文献講読の講義で同一の著者

による文献を使用していることから 10),文献を捉

える視点が「何の本」から「誰の本」へ――「タイ

トル」から「著者」へ――と拡大することを期待し

たのも選定理由の 1 つである。実際の講義時には,

「どこかで見たことがある名前だ」「この著者は知

っている」などの反応が見られた。このように「書

き手が誰であるのか」に着目させることは,インタ

ーネット等の情報を参照する際の留意点にも繋が

るものであろう。インターネット上の情報を直接的

な研究対象とする場合を除き,原則として,書き手

が明示されていない文章を学術的な論考の「根拠」

にすることはできないからである。そのことを,初

年次教育においても伝える必要があるだろう。

この演習に際して学生に示した主な条件は,以下

6点である。なお,1~3 のそれぞれのテクストに

ついて,レジュメ作成の期間は 1 週間とした。

①A4用紙 1 枚(1 行 40 字×30 行が目安)に

まとめる。

②講義名,提出日時,自分の名前,学生番号,

所属などを必ず明記する。

③レジュメ作成の対象となっているテクスト

の情報を明記する。

④形式段落に従い,各段落の「内容についての

要約文」と「見出し」を含む構成表を作る。

⑤キーワードやキーセンテンスを適切に抽出し,

テクスト全体の要約文を作る。

⑥分からない語句の意味や疑問点など,本文の

内容以上の情報を脚註で付加させる。

第 1 回 書く技術① ―講義を記録する(ノートテイキングの基本)―

第 2 回 書く技術② ―講義を記録する(ノートテイキングの工夫)―

第 3 回 書く技術③ ―授業観察の方法(ノートテイキングの応用)―

第 4 回 読む技術① ―アカデミック・リーディングの基本―

第 5 回 読む技術② ―アカデミック・リーディングの工夫―

第 6 回 考える技術① ―思考を生み出すための方法―

第 7 回 考える技術② ―思考を拡げるための方法―

第 8 回 レポート作成の技術① ―アカデミック・ライティングの基礎(レポートの形式と内容)―

第 9 回 調べる技術① ―アカデミック・ライティングのための情報検索方法―

第 10 回 調べる技術② ―「書く」ために「読む」―

第 11 回 レポート作成の技術② ―情報整理の方法―

第 12 回 ディスカッションの技術 ―意見・根拠・例示・反論・統合―

第 13 回 レポート作成の技術③ ―読み手を想定したレポート構成を考える―

第 14 回 伝える技術① ―レポートに基づくプレゼンテーション(前半)―

第 15 回 伝える技術② ―レポートに基づくプレゼンテーション(後半)―

表 1 アカデミックスキルの授業計画

4

表 2 要約文型のレジュメ作成の演習に使用したテクスト

1

渡辺裕「ハンディなにするものぞ―新しい表現を求めて―」『考える耳―記憶の場,批評の眼―』春秋社,

2007 年,pp.90-94

タイトルと本文の構成に関する特徴 内容上の選定理由

メインタイトルは,本文全体にわたって示されている事例を暗

示しており,サブタイトルは,文章の結論を象徴的表してい

る。文章の結論は,中心部に位置している。

初年次教育の一環として,特別支援教育について学んだ

り,養護学校を訪問したりする機会があることから,身

体性を考えるための契機として選んだ。

2

渡辺裕「「標準」は変容してゆく」『考える耳―記憶の場,批評の眼―』春秋社,2007 年,pp.31-35.

タイトルと本文の構成に関する特徴 内容上の選定理由

タイトル自体が,本文における主張(結論)を表している。本

文中で述べられているのは,いずれも事例であり,結論という

形で明確に主張が示されているわけではない。

同時期に別の講義で行っている文献講読で類似する話題

に触れていることから,文献講読における内容理解の補

助として選んだ。

3

渡辺裕「トロンボーンを吹く女子学生―音楽におけるジェンダー論の射程―」『考える耳―記憶の場,批評の

眼―』春秋社,2007 年,pp.81-85.

タイトルと本文の構成に関する特徴 内容上の選定理由

メインタイトルは例示であり,サブタイトルは,本文の内容を暗

示している。メインタイトルに示されている例は本文冒頭で紹

介されているのみで,それ以降は別の事例を経ながら文章末尾

の結論に向かっている。

初年次教育の一環として,後期の授業科目でジェンダー

やセクシュアリティなどの問題を議論する機会が予定さ

れているため,それに向けた基礎的用語の獲得を意図し

て選んだ。

実際に得られた学習成果物は,合計 27 枚の要約

文型のレジュメである(右の図 1 はその一例)。そ

れらのレジュメの形式と内容を吟味した結果に,添

削指導を行っていた際の筆者の判断過程を再現し

て重ね合わせると,次頁の表 3 のようなルーブリ

ックを構想することができる。評価観点①~⑤には

レジュメの形式面に比重を置いた到達目標を配置

し,⑥~⑩にはレジュメの内容面に比重を置いた到

達目標を配置した。

図 1 要約文型のレジュメの例 ①

5

表 3 要約文型のレジュメ作成についてのルーブリック

6

ところで,ルーブリックには,記述語の内容に相

当する典型例が「パフォーマンス事例(work

samples)」として添付されることがある 11)。例え

ば以下は,キーワードやキーセンテンスが的確に取

捨選択されている要約文であり,前頁のルーブリッ

クの中の評価観点⑨を達成しているパフォーマン

ス事例であると判断した。

今後ルーブリックを用いる際には,このような典

型例を添付することにより,授業者と学習者が評価

観点についての達成条件を確認・共有することも可

能である。ただし,具体的なパフォーマンス事例を

添付せずに学習者の状況を把握するのか(診断的評

価としての機能),それとも添付することよって到

達目標への意識づけを強めるのかは,その講義過程

でのねらいに応じて使い分けるべきであろう。その

後の第 6 回~第 7 回の講義では,レジュメ作成の技

法とは異なる学習内容に移行したが(本報告書の 8

頁以降において詳述する),個別の添削指導という

形で要約文型のレジュメ作成の演習は継続した。そ

の際に使用したテクストは『幼児期』(岡本夏木著,

岩波書店,2005 年)の序章部分(pp.2-19.)である。

次に示す図 2 は,ルーブリック全体の評価観点を満

たすパフォーマンス事例に相当するレジュメであ

る。

図 2 要約文型のレジュメの例 ②

(2)「図解型のレジュメ」の作成

レジュメ作成の対象となっているテクストにつ

いて,その内容を視覚的に整理・要約して伝達する

ためのレジュメを,今回のアカデミックスキルでは

「図解型のレジュメ」とした。第 8 回~第 9 回の講

義では,子ども理解に関する入門書・概説書の中か

ら,表 4 に示す2つのテクストを使用して,その作

成方法の要点について学ばせた。図 3 は,実際に学

生が作成したレジュメである。なお,この「図解型

のレジュメ」は,第 14 回~第 15 回の「伝える技

術」(プレゼンテーションの技法)に向けた予備的

段階の 1 つでもあった。

表 4 図解型のレジュメ作成の演習に使用したテクスト

1

吉田甫「子どもは計算ができるか―不思議な数5(幼児

期後期)―」『よくわかる乳幼児心理学(やわらかアカ

デミズム・わかるシリーズ)』ミネルヴァ書房,2008 年,

pp.164-165.

2

吉田甫「擬人化は子どもが生物界を理解するのに役立つ

か」『よくわかる乳幼児心理学』ミネルヴァ書房,2008

年,pp.168-169.

楽器のイメージには男女の性差が結びついており,

そのことはそれぞれの楽器の本質的な性格によるも

のであるかのように考えられてきた。このことは,ジ

ェンダーという問題に関わる。これまで自明と思われ

てきた女性観や「女性らしさ」の感覚が,歴史的に形

成された「文化」であり,その意味や位置づけを考え

直すための共通の土台をすっ飛ばして,自らの感覚が

歴史や社会を超越した普遍的なものであるかのよう

な議論に塗り込めてしまうとすれば,「文化を破壊」

する「過激」な暴論ではないだろうか。

7

要約文型のレジュメは,元のテクストを再び文章

として整理・要約していくものであるから,読み手

にとっては「線条性」――順序立てて並べられた情

報を,一定時間を要してたどっていく――という特

徴が備わっている。一方で,「図解型のレジュメ」

は「現示的」――テクストに含まれる情報を全体像

として一挙に把握すること――であるという特徴

を持つ 12)。つまりこの 2 種類のレジュメはそれぞ

れ,読み手の関与の仕方が異なるのである。

実際に得られた学習成果物は,合計 18 枚の図解

型のレジュメである。要約文型のレジュメの際と同

様,それらのレジュメの形式と内容を吟味した結果

に,添削指導を行っていた際の筆者の判断過程を再

現して重ね合わせると,表 5 のようなルーブリッ

クを構想することができる。

図 3 図解型のレジュメの例

図 3 図解型のレジュメの例

表 5 図解型のレジュメ作成についてのルーブリック

8

(3)記述語と尺度についての検討

ここまで「要約文型のレジュメ」と「図解型のレ

ジュメ」という 2 つのパフォーマンス課題について

のルーブリックを構想してきた。ルーブリックは客

観的な評価指標を目指すものであるとはいえ,記述

語の中に程度をあらわす表現(「おおむね」「十分」

「ある程度」など)が含まれる場合には,評価がぶ

れてしまうこともある 13)。例えば表 3 と表 5 のル

ーブリック中の評価観点①のように,言語表記のみ

では曖昧さが残ってしまう場合には,記述語の内容

を図 4 のように視覚的に補うなどの方法も考えら

れる(なお今回は,「不足」と「超過」を等価なも

のとはみなさず,「不足」よりも「超過」の方を高

評価とした)。

図 4 記述語を補う図の例

最も単純な尺度になっているものは,定規や温度

計の目盛りのように,一次元的な連続性を持つ記述

語のタイプである(例えば表 3 と表 5 の評価観点②

④など)。一方で「正確さ“かつ”表記方法」や「正

確さ“または”表記方法」といった集合論的な包含

関係になっている記述語のタイプもある(例えば表

3 と表 5 の評価観点③など)。このタイプの記述語

では,2 つの指標を集合に見立てて,その共通部分,

差集合,補集合に相当する領域に順位付けを行うの

も 1 つの方法だろう(図 5 参照)。

今回のルーブリックは,分布が中庸のみに集中し

てしまうことを避けるために,3 段階や 5 段階では

なく 4 段階として構想したが,今回の研究の範囲内

ではレベル設定の根拠を明らかにするまでには至

っていない。次年度以降,実際にルーブリックを導

入し試行する中で,検討を重ねたい。

図 5 記述語を検討するためのベン図

4.「子ども」についての探究-レポートのテーマ

設定に向けて-

大学での学び方にとって必要となる様々なスキ

ルを修得する際は,具体的事例を通して学ぶことで

学生の学習効果が向上すると考えられる。今回はレ

ポートを作成するための種々のスキルを学ばせる

際,そこで扱うコンテンツ(内容・話題)として「子

ども理解」に関わるものを設定した。第 6 回~第 7

回の「考える技術」を身に付ける過程では,「子ど

も」についての探究活動を位置づけることで子ども

への興味関心を喚起し,学生が自分自身のレポート

のテーマを見出すことができるような講義設計を

行った。

(1)「子ども」をセントラル・イメージとした

マインドマップの作成

レポートのテーマ決定に向けた起点として,第 6

回ではマインドマップの作成に取り組んだ。セント

ラル・イメージには図像的なものではなく,「子ど

も」という言葉を設定し,絵や色,形などの視覚的

効果は用いずに作成させた。図 6 および図 7 は,

提出された手書きのマインドマップを筆者がデー

タ化したものである。作成されたマインドマップの

全体的な傾向としては,中央の「子ども」から直接

伸びるメイン・ブランチの先には「元気」「純粋」

などの一般的な印象が書かれていることや,ブラン

チの末端に進むとエピソードが具体的になってい

9

たり,自分自身の記憶や体験・経験を重ね合わせた

りしていることなどが挙げられる。今回は講義時に

作成したものを各自が持ち帰り,後日内容を追加し

て提出するという方法を採ったため,同一の時間的

条件のもとで仕上げられたものではない。従って単

純に数値を比較することはできないが,メイン・ブ

ランチの数と出現した要素の数を参考として示す

と以下のようになる。

表 6 マインドマップにおけるブランチの数と要素の数

マインドマップと似た特徴を持つ概念マップや

ウェビングの場合は,「整理法」として用いられる

例と「連想法」として用いられる例があり,「連想

法」として用いられる際は挙げられた言葉(要素)

の数を定量的に評価することに加え,挙げられた言

葉の偏りからその学習者の知識の範囲や興味・関心

の重点を探ることが可能である 14)。マインドマッ

プについても,メイン・ブランチの本数や要素の数

に量的な最低条件を設けるなどの方策により,学習

者の思考を活性化させることは可能だろう。また授

業者は,マインドマップに出現した要素を見つめる

ことで,学習者の思考の方向性を把握することがで

きる。すなわちマインドマップには,レポート作成

向けた診断的評価としての機能があると言えるだ

ろう。

さらに,放射思考に基づくマインドマップは,思

考を拡げるためのツールであるから 15),この作業

段階では質的な真偽や妥当性が問われるものでは

ない。それらはあくまでも「自分が考える子どもの

印象」であり,「子どもについての事実」が書かれ

ているわけではない。そのことがむしろ,レポート

作成に向けて「事実かどうかを調べる」という次の

作業段階に向かうための動機づけになると考えら

れる。

図 6 マインドマップの例①

図 7 マインドマップの例 ②

(2)KJ 法による子どもの特徴の整理

第 7 回では,マインドマップの記述内容を精

選して付箋紙に書き出し,「自分たちが思い描く

子どもの特徴」を KJ 法によって整理した 16)。マ

インドマップは主に個人的な思考の産物である

と同時に,拡散的な思考を促すツールである。一

方 KJ 法では,グループ活動によってお互いの思

考を共有したり交換したりする中で,拡散してい

る情報を収束させながら整理していく思考が要

求される。今回は9人の受講学生を 3 人ずつ 3 つ

のグループに分け,模造紙上で KJ 法を行った

(図 8)。KJ 法によって作成した図は,その後グ

ループごとにデータ化した(図 9)。

学生 A B C D E F G H I

ブランチの数 9 10 13 15 7 6 12 6 6

要素の数 20 47 24 92 48 24 25 37 18

10

図 8 KJ 法による「子どもの特徴」についての整理

図 9 KJ 法によって作成した図をグループごとにデータ化したもの

11

(3)KJ 法を踏まえたレポートのテーマ設定

個人的思考であるマインドマップと,集団的探究

である KJ 法を経たのち,再び学生一人ひとりが

KJ 法の内容を振り返り,「自分が考える子どもの印

象」について文章化した。以下は,その文章の一例

である(A4 用紙1枚程度の文章から一部を抜粋し

た)。

こうした作業を通して,子どもに対する興味関心

を喚起したり,子どもの特徴についての疑問を抱か

せたりすることで,レポートの研究テーマを探究さ

せた。ただし前述したように,この段階はあくまで

も「自分が考える子どもの印象」に留まっており,

「子どもについての事実」が確認されているわけで

はない。

5.レポートについてのルーブリック

そこで,本学の附属図書館を活用して「子ども理

解」に関係の深い事典類にはどのようなものがある

のかを調査させ,各自が「子ども」「遊び」「好奇心」

「成長」「発達」などの自分自身の興味関心に関連

する用語の意味を再確認した。その後は文献資料の

探索を行い,そこから得た知識を情報カードに書き

留めていく作業を続けながら,レポートの研究テー

マを絞り込んでいった。以下の表は,今回の受講学

生が最終的に設定したレポートのテーマの一覧で

ある。この段階での要点は,例えば「子どもとは何

か」「音楽とは何か」というような漠然としたもの

ではなく,レポートの作成日数や入手可能な資料に

基づき,探究可能なテーマとなっていることである。

○学校教育と家庭教育において音楽教育は存在するのか

○子どもの個性と表現

○家庭は子どもの人格形成にどのように影響するのか

○子どもの年齢の定義について

○子どもの成長・発達における個人差に対処するために

は何が重要か

○運動遊びによって発達する力

○子どもは何に対して好奇心を抱き,それがどのように

学習意欲と結びつくのか

○遊びの中の音楽―子どもの成長とわらべ歌の関わり―

○子どもは遊びを通して,何を得ていくのか

授業者側からは,レポートを作成するための基本

的な方法として,「序論」「本論」「結論」という標

準的な構成に則って書くこと,「事実」と「意見」

を区別して書くこと,特に「事実」について記述す

る部分では「引用」を意識的に行うこと,などを指

導した。加えて,註の主な目的としては「出典・引

用の提示」「補足的説明」の2つがあること,さら

に,註の主な種類には「脚註」と「後註」があるこ

となどを,具体的な例を示しながら伝えた。

このレポート作成課題に際しては,上述した基本

的な方法に加え,より具体的な条件として以下 4 点

を学生に示した。

①分量は A4用紙(1 行 40 字×30 行が目安)

5 枚以上 20 枚以内とする。

②講義名,提出日時,自分の名前,学生番号,

所属などを必ず明記する。

③提出期日までの間に授業者からの添削指導

を最低 2 回受ける。

④学術的な文章作成の練習として,脚註による

補足説明を 4 か所以上付ける。

「子どもの特徴」については,「単純」であり「純粋」

であること,さらに「好奇心が旺盛」であると考え

た。まず,好奇心が旺盛であるということから,「学

びにつながる何か」が生まれる。なぜなら,「覚えた

ことをすぐに実践する」,「何事にもよく疑問をもつ」

といった学びにつながることが子どもの特徴として

挙がったが,これは好奇心があるからこそではない

かと考えるからだ。さらに性格面においても「元気

で明るい」「笑顔」「よくしゃべる」という子どもの特

徴も,好奇心が旺盛なこととつながっていると考え

た。…(中略)…子どもの特徴として「遊びをすぐに

思いつく」「外遊びをよくする」などたくさんの「遊

び」をするということが挙げられた。しかし遊びの

中でも,「寄り道をしてしまう」など悪いこと・危険

なこともしてしまうため,「家族との決まり事が多

い」など家族関係の特徴も挙げられた。…(後略)…

12

アカデミックスキルの全 15 回の中では,実際の

レポート作成に向けた「精密な計画」を作らせるこ

とに主眼を置き,実際にレポートを書く作業は,第

15 回の講義以降に行わせた。第 15 回の講義まで

に,これから書こうとするレポートのアウトライン

を「計画書」として作成させて,第 15 回の講義時

には,その「計画書」に基づくプレゼンテーション

を課した(2015 年 7 月 28 日)。この「計画書」に

はテーマとその時点で入手している文献資料,序

論・本論・結論のそれぞれの部分の概要,その時点

で想定している結論,などを含めることを主な条件

とした(図 10)。その後,7 月下旬~8 月中旬にか

けてレポートの作成作業に取り組ませ(提出期日は

2015 年 8 月 20 日),この間,授業者からの添削指

導を受けながら仕上げていくという手順をとった。

完成したレポートについては,後期に冊子としてま

とめて,受講学生全員に配付した。

学部レベルのレポート課題では,学術論文で求め

られるような高度なクオリティを要求することは

困難であるから,「オリジナリティ」などの評価指

標よりも,むしろ「授業を理解しているか」「自分

の頭を使って考えているか」といった,教育的な観

点から評価すべきであろう 17)。そのことを踏まえ

つつ,実際に得られた 9 つのレポートについて,レ

ジュメの際と同様の手続きを経て構想したルーブ

リックが表 7 である 18)。図 11 はレポートの一部を

抜粋したものである。なお,今回提出されたレポー

トについては,表紙を除く頁数の分布は5頁~10

頁であり,9 つのレポートの分量の平均は約 6 頁と

なった。また,引用文献数についての分布は 3 件~

14 件であり,その平均は約 7 件であった。

図 10 レポート作成に向けた計画書

(全体の中から一部を抜粋した)

図 11 実際のレポートの例

(全体の中から一部を抜粋した)

13

表 7 レポート作成についてのルーブリック

14

6.結論

本研究では,平成 27 年度前期に札幌校芸術体育

教育専攻 音楽教育分野の 1 年次学生を対象として

実施したアカデミックスキルを手掛かりとして,

「要約文型のレジュメ作成についてのルーブリッ

ク」「図解型のレジュメ作成についてのルーブリッ

ク」「レポート作成についてのルーブリック」の 3

つを構想した。これらのルーブリックはいずれも試

論的に構築したものであるから,その利点や改善点

については,平成 28 年度以降,実際に試行してい

く中で確認し,継続研究として別の機会に報告した

い。

そもそもルーブリックによる評価は,学習者に対

する最終的な評価として確定させることが目的な

のではない。ルーブリック中の「2」「1」に相当

するような事例をできるだけ生じさせないように,

形成的評価として指導過程を工夫・展開させていく

ことが重要である。つまりルーブリックは,講義設

計や添削指導などのあり方と表裏一体なのである。

本報告書の中では,「添削指導を行っていた際の筆

者の判断過程を再現して重ね合わせる」という表現

を繰り返し用いてきた。講義設計やそこでの学習成

果物を振り返ってルーブリックを構想することは,

通常は「身体知」となっていることが多い授業者自

身の評価観・指導観を,言語化していく作業でもあ

るだろう。

結論としては,アカデミックスキルにルーブリッ

クを導入することで得られる利点は多いと考えら

れる。その第 1 の理由として,アカデミックスキル

はレジュメやレポート,プレゼンテーションなどの

学習成果物を多く伴っており,学習過程が可視化さ

れやすい講義であるという点が挙げられる。また第

2 の理由として,アカデミックスキルはいわゆる大

人数講義ではないことから,授業者と学習者がルー

ブリックを共有しながら指導過程・学習過程を効率

化させていくことに適しているという点が挙げら

れる。

しかし一方で,講義や演習の性格によっては,何

かを感じ取ることや何事かについて考え抜くなど,

体験的な理解そのものが重視される学びの場面も

あるだろう。そうした場面においては,ルーブリッ

クによる言語的な規準・基準によって区切ることに

より,学習者の豊かな学びを矮小化させてしまう危

険性もある。今後,学士課程教育の全体像の中でル

ーブリック導入の可能性を検討していく際には,そ

の適用範囲を精査する必要があると考える。

なお本報告書については,その内容を加筆修正し

て『北海道教育大学紀要』に投稿する予定であるこ

とを付記しておく。

註および引用文献

1)西岡加名恵「第2章 教育評価の方法」田中耕治編著

『新しい教育評価への挑戦 新しい教育評価の理論と方

法 第Ⅰ巻 理論編』日本標準,2002 年,pp.35-97.

引用は p.55.

2)田中耕治「第 1 章「目標に準拠した評価」を生かす教

育実践 1「目標に準拠した評価」が実践に提起してい

ること」田中耕治編著『教育評価の未来を拓く-目標に

準拠した評価の現状・課題・展望-』ミネルヴァ書房,

2003 年,pp.12-25. 引用は pp.15-16.

3)田中耕治編著『教育評価の未来を拓く-目標に準拠し

た評価の現状・課題・展望-』ミネルヴァ書房,2003 年,

p.253.

4)松下佳代「パフォーマンス評価による学習の質の評価

-学習評価の構図の分析にもとづいて-」『京都大学高等

教育研究』第 18 号,2012 年,pp.75-114.

引用は p.82.

5)前掲書 1) p.88.

6)本文中にあるアカデミックスキルの目的について,北

海道教育大学「教養教育見直しについての答申」

(教養教育見直しワーキンググループ/平成 22 年 10 月)

においては,以下のように説明されている。

・「アカデミックスキル」の目的(「授業内容」)を「大学

での勉強の仕方」の修得,すなわち大学で学ぶ上で最低

限必要とされる技能・力量を獲得することにおく。

15

・「大学での勉強の仕方」とは,「読む」「書く」「調べる」

「課題を見つける」「まとめる(考える)」「発表する」「聴

く」等であり,本授業では文章の読み方・書き方,文献・

資料収集の仕方,図書館の使い方,課題の立て方,レポ

ートやレジュメの書き方,発表の仕方・聴き方などに関

する基本的な力の形成をめざす。

7)山田礼子「学生の特性を把握する間接評価:教学 IR の

有用性」『工学教育』61(3),2013 年,pp.27-32. 引用は

p.31.

8)教員養成大学の初年次教育では,小中学校において授

業観察を行う機会も多い(北海道教育大学教育学部札幌

校の場合は「基礎実習」がこれに相当する)。今回は「書

く技術」の中にそうした授業観察・授業記録についての

基本的事項も含め,ノートテイキングの応用と位置付け

た。

9)佐々木健一『論文ゼミナール』東京大学出版会,2014

年,pp.48-50.

10)音楽教育分野の 1 年次学生が受講している「音楽教

育研究基礎論Ⅰ」は,文献講読とディスカッションを主

体とした講義である。アカデミックスキルでレジュメ作

成の技法について学んでいた同時期に,この講義では以

下の文献講読を行っていた。

渡辺裕『聴衆の誕生-ポスト・モダン時代の音楽文化-』

(中公文庫 857)中央公論新社,2012 年.

11) 前掲書 1),p.90.

12)池上嘉彦『自然と文化の記号論』放送大学教育振興会,

2002 年,pp.77-79.

13)成瀬尚志「レポート評価において求められるオリジナ

リティと論題の設定について」『長崎外大論叢』第 18 号,

2014 年,pp.99-108. 引用は p.99.

14) 前掲書 1),p.61.

15)吉田敦也「4.マインド・マッピング」立田慶裕編『教

育研究ハンドブック』世界思想社,2005 年,pp.40-51.

16)KJ 法については以下を参考資料として配付し,その

基本的な方法を確認してから作業に臨んだ。

境愛一郎,中西さやか「子ども理解の方法としての KJ 法

―子どもの遊びの姿から学びを可視化する―」『子ども理

解のメソドロジー-実践者のための「質的実践研究」ア

イディアブック-』ナカニシヤ出版,2012 年,pp.19-34.

17) 前掲書 13),p.105.

18)レポート作成に関するルーブリックの構想にあたっ

ては,以下を参考にした。

スティーブンス他『大学教員のためのルーブリック評価

入門』佐藤浩章監訳,井上敏憲,俣野秀典訳,玉川大学

出版部,2014 年.

授業省察におけるルーブリックの活用

小泉匡弘

北海道教育大学旭川校技術科教育教室

概要

本研究は,マイクロティーチングに対する事後検討・再デザイン・再実践において,ルーブリックのICEモデルを活用することによる学生の省察の深まりについて検証した。学生は,ジグソー法によってマ

イクロティーチングを実施し,マイクロティーチング後,学生は個人及びグループ省察による課題点の抽

出,KJ法による課題点の整理・まとめ,課題解決策の考案,マイクロティーチングの再デザイン・再実践

を行った。学生に対してアンケート調査を行った結果,ルーブリックによって省察の目標と評価基準が明

確になり,学生にとって学びが実感できる学修になったと考えられた。また,ジグソー法やKJ法による

アクティブラーニングとルーブリックとが有機的に関連し省察を深めたものと判断された。しかし,学生

のルーブリック自体に対する理解不足が見られ,今後はルーブリックについての学修と各省察段階に関

するルーブリックの提示を検討する必要性のあることがわかった。

1 はじめに

授業に対する実践知を高めるには,授業実践に

対する省察を深めることが重要である。しかし,

授業実践経験が乏しい学生にとって授業省察を

自ら深めることは困難であるため,授業省察サイ

クルを経験する学修は,教員養成課程における学

生の成長にとって大切だと考える。本研究では,

主に生活・技術教育専攻の2年生を対象とした教

科教育に関する科目において,学生の省察場面に

ルーブリックを活用することによる,学生の省察

や実践知獲得への効果について検証した。

2 講義の流れ

まず,学生を4グループに分けて1グループを7

名で構成し,教材研究・指導案作成・マイクロテ

ィーチングをジグソー学習によって行った(図1)。

マイクロティーチング後,学生は自らの授業に

ついて省察し再度マイクロティーチングを行っ

た(図2)。この際,教員は学生に省察に関するル

ーブリック(表1)と各段階における具体例を提示

し,これを学生の省察のガイドとして活用した。

提示したルーブリックはSue,F.Y.&Robert,J.W. が開発したICE(Ideas, Connections, Extensions)モデルを参考に作成した。学生は,生徒役の学

生による評価票を基に個人省察を行った後,教材

研究・指導案作成を行ったグループ内で省察した

内容を共有し,マイクロティーチングの課題点(Ideas)を抽出しKJ法によってまとめた。次に,こ

れら課題点について教育方法と指導内容のつな

がり(Connections)を図った解決策を考えた。そ

して,解決策を用いて個々が最も改善が必要だと

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

製図製図製図製図

①内容分担

②教材研究・指導案作成

③マイクロティーチング

A B C D

A B C D

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

けがきけがきけがきけがき

切断切断切断切断

切削切削切削切削

検査修正検査修正検査修正検査修正

組立て組立て組立て組立て

仕上げ仕上げ仕上げ仕上げ

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

製図,けがき切断,切削検査修正組立て仕上げ

図 1 マイクロティーチングまでの流れ

図 2 省察のサイクル

感じた場面を再デザイン・再実践(Extensions)した。最後に,これらの省察・再デザイン・再実

践によって学んだことをレポートとしてまとめ

た。教員は,マイクロティーチングの指導案から

レポートまでの資料をポートフォリオ評価の材

料として使用した。

3 学生の省察

3-1 課題点の抽出

学生の個人及びグループによる省察において

は次のようなことに関する課題が多く見られた。

・説明や発問の明快

・教材準備

・話しの抑揚と表情の豊かさ

・授業者自身の知識と技能

・時間配分の調整

・個々への対応

学生は,授業経験がほとんどないため,授業者

としての実践知に関することを自らの課題と感

じていた。また,これらの課題がこれまで学修し

てきた知識・技能の不十分さも起因しているもの

だということを強く自覚しているようであった。

3-2 解決策の考案

学生は課題点を解決し授業のねらいを達成す

るための手立てを考えた。例を示す。

○くぎときりの関連性を形状から選択するだけ

ではなく,目的と機能から関連性を理解できる

よう,説明に用いる図を改訂する。

○教科書に載っている構想図と作品の関係がわ

かりやいように立体模型を準備する。

○材料の種類によるメリットが感じられやすい

ように,各材料の比較実験をする。

○生徒が行う実習に合わせたデモンストレーシ

ョンを示しながら口頭説明を行う。

学生は授業内容に関する自分自身の知識・技能

を学び直した上で,これによって得たものをより

よい授業を行うための実践知へと転換しよう試

みていた。

3-3 再デザイン・再実践

学生は,再デザイン・再実践後,実践した改善

場面について省察した。教員は,その際,具体的

視点の例として次のことを提示した。

・学習者の姿・声

・解決策の妥当性

・授業内容の発展性

・前マイクロティーチングとの変容

学生の多くは,具体的な解決策を改善場面に適

用することで前マイクロティーチングと比べよ

りよい実践が行えたという手応えを感じていた

ようであった。また,再実践することにより新た

な課題点への気づきを得ていた。

4 授業アンケート

講義の最後に,講義の内容と講義の進め方に関

するアンケート調査を行った。回答例を次に示す。

学生の回答を見ると,ルーブリックを省察のガ

イドとして用いることで,授業省察において考え

るべき事及び講義の評価基準が明確になり,学生

にとって学びが実感できるものとなったようで

ある。また,ジグソー学習による授業づくり及び

KJ法を取り入れた省察サイクルがルーブリック

と有機的に関連し省察を深めたものと考える。し

かし,アンケート回答にも見られたように学生が

ルーブリック自体について理解を深める必要性

を感じた。その上で,さらに各省察段階のルーブ

リックを提示することで,学生の学びがより充実

するものになると考える。今後は,教員自身の省

察を深めながら,これらについての検討を進めて

いきたい。

参考文献

Sue,F.Y., & Robert,J.W. (2013) 「主体的学び」につな

げる評価と学習方法, 東信堂

表 1 提示したルーブリック

・1 度授業をして,その後省察をすることで課題

を見つけることができさらにその改善を図る

経験ができてよかった。 ・授業づくりをジグソー,まとめを KJ 法で行っ

たので,たくさんの人の意見をきけた。あと,

ルーブリックでやるべきことがはっきりしな

がら学べた。 ・授業づくりと省察のプロセスや評価を体験し

ながら学ぶことができて,客観的に自分を評価

できた ・ルーブリックで評価基準がはっきりして学べ

たが,ルーブリック自体のことについてもっと

知りたかった。

- 1 -

外国語(英語)Ⅱのリーブリックの開発とその効果

松 崎 邦 守

北海道教育大学釧路校英語分野

概 要

本研究では、本学の「ルーブリック作成の手引き(平成27年度版)」を参照し、「外国語(英語)Ⅱ」

のルーブリックを開発した。また、同ルーブリックを、実際の授業において実践の上、受講者評価に

よりその効果を検討した。その結果、「各学習活動のねらいを理解することができ」、「到達点を事前

に理解でき自分の取り組みの方向性を見いだせた」、また「どのような力をつければ良いのか事前に

理解することができた」と、本ルーブリックに対して受講生が肯定的に評価していることが示された。

1.はじめに

教育の質保証の観点から、ルーブリック評価が注目さ

れている。教養科目としての英語の授業においては、コミ

ュニケーション能力の育成が目指されており、特に学生が

授業の結果、「できるようになること」やそのための「学習プ

ロセスと評価方法」が予め明示され、学生がそれらに合意

し、自律的に学びに関与し続けることが重要視されてい

る。そこから、本研究では、教養科目(共通基礎科目)であ

る外国語(英語)Ⅱのルーブリックを開発し、実践の上、そ

の効果を明らかにすることを目的とした。なお、同ルーブ

リックの開発・実践・検証にあたっては、本学のルーブリッ

ク作成の手引き(平成27年度版)を参照し援用した。

2.ルーブリックの開発

本研究ルーブリックの開発に先立ち、まず、実施科目で

ある「外国語(英語)Ⅱ」(以下、本科目)のシラバスを設計し

た。同シラバスの主な内容は、以下に示すとおりである。

(1)授業の目標

①「チャンツ」にチャレンジし、小学校外国語活動の指導に

活かせる「英語の自然の発音やリズム感覚」を体験的に身に

つける。

②「スタンダードを基盤とした教師ポートフォリオ」に関する最

新の英語文献を講読し、同ポートフォリオに関する基本的事

項を理解する。

③パラグラフ・リーディングの方法を体験的に身につける。

(2)到達目標

①小学校外国語活動で活用できる英語のチャンツに、積極

的に取り組むことができる。

②学んだチャンツを、英語の発音やリズムに気をつけなが

ら、CDのリズムに合わせて、ペアで暗唱・演じることができる。

③チャンツで学んだ重要表現を用いて、ペアでSmall Talkを

3分程度続けることができる。

④「スタンダードを基盤とした教師ポートフォリオ」に関する英

語文献を読み、パラグラフ単位で、読み取ったメッセージを

日本語で再話(retelling)できる。

⑤同英語文献に含まれる教育に関する重要な語彙や活用

性のある英語表現を用いて、節単位の概要を確認するため

に、ペアで1分程度の会話をすることができる。

⑥トピック・センテンス、支持文、結論文、結束性、論理の一

貫性、つなぎ言葉など、英語のパラグラフの構成、およびそ

の要素や機能について、簡潔に説明することができる。

⑦英語学習に関する自己効力感を高めることができる。

(3)ルーブリックの作成

続いて、本科目の「授業の位置づけ」、上記「授業の目標」

・「到達目標」、「評価の方法」などに対応させて、本科目のル

ーブリックを作成した。以下に、その一部(2.(1).①の目標)を

- 2 -

示す。なお、本報告では同ルーブリック・ディスクリプタの構

成要素のみを簡潔に例示する。

①評価A :「face-to-face 、smile で楽しそうにペアワーク

ができている。」、「暗唱でチャンツができている。」、「CDの英

語のリズムでチャンツができている。」、「必要な音のつながり

や、脱落が表出できている。」

②評価B :「face-to-face 、smile で楽しそうにペアワーク

ができている。」、「暗唱でチャンツができている。」、「CDの英

語のリズムでチャンツができている。」

③評価C :「face-to-face 、smile で楽しそうにペアワーク

ができている。」、「暗唱でチャンツができている。」

④評価D :「face-to-face 、smile で楽しそうにペアワーク

ができている。」

⑤評価F :全ての構成要素が実現できていない。

3.開発したルーブリックに対する受講生評価の結果と考察

本科目において作成し、実践したルーブリックに対する受

講生評価を、ルーブリック活用に関する5項目、および同回

顧的自由記述1項目(いずれも事後調査)により検討した。そ

の結果、表1のとおり、「各学習活動のねらいを理解すること

ができ」、「到達点を事前に理解でき自分の取り組みの方向

性を見いだせた」、また「どのような力をつければ良いのか事

前に理解することができた」と、有意に肯定的回答数が多く、

本ルーブリックに対して受講生が肯定的に評価していること

が示された。加えて、回顧的自由記述に対する分析の結果

(表2)から、同結果が支持されていることが認められた。

「ルーブリック活用に関する5項目」に対する直接確率計算(母比率不等)結果 =41)表1 (N5段階尺度を3段階尺度に 「肯定的」と「中立+否定的」

平均値 変更し再集計した人数 の比較項 目 内 容

( ) 肯定的 中立 否定的 比 較SD p3.561. 各学習活動のねらいを理解することができた。

中立+否定的(1.07) 26 6 9 0.00 ** 肯定的>3.492. 到達点を事前に理解でき自分の取り組みの方向性を

中立+否定的見いだせた。 (1.16) 25 7 9 0.00 ** 肯定的>3.493. どのような力をつければ良いのか事前に理解するこ

中立+否定的とができた。 (1.10) 24 10 7 0.01 * 肯定的>3.124. ルーブリックに基づく自己評価は、自分の学習計画や

肯定的 中立+否定的実施方法に良い影響を与えた。 (1.10) 17 13 11 0.48 ≒ns3.545. 先生の最終的評定を納得して受け止められる。

肯定的 中立+否定的(0.90) 22 15 4 0.51 † ≒3.596. ルーブリックに基づいて自己評価することはそれほど

中立+否定的負担ではなかった。 (0.89) 26 10 5 0.00 ** 肯定的>肯定的→5,4 中立→3 否定的→2,1(5段階尺度) ** < .01 * .01 < < .05 .05 < < .10p p p†

2 主な自由記述( =39)表 N

26ルーブリック活用に関連して肯定的な主な記述例 **

(13)<学習の方向性> ・どのような方向性で頑張ればいいのかがわかりやすかった。 ・最初に目標を設置したことで、それを意識し

ながら学習できた。・目標が明確に提示されることによって、進むべき方向もしっかりと考えることができた。 ・毎回何をやるのか提

示した上で授業が始まるのは、学生自身も講義の見通しが立つので良いと思う。 ・学習への方向性を明確にすることは、活動方

針を持つことができると思う。 ・自分たちで決めた目標に向けて取り組めた。

(6)<到達点明確>・自分がやらなければいけないことや、到達すべき点を自覚的に確認できていたので良かったと思う。

・到達点が何なのか、理解しやすかった。 ・評価の基準がより明確になった。

(5)<目標の立てやすさ>・何を目的として取り組みをするか、目標を立てるという点で良いと思った。 ・自己評価もできたし、最初の

目標も立てやすく、取り組む上でとても便利でした。 ・ねらいを理解できたのが一番大きかった。

(2)<その他>・教える側のねらいが明確になり、他の活動にも利用、応用できると感じた。・わかりやすく授業を受ける手立てとなった。

13ルーブリック活用に関連して中立および否定的な主な記述例

(3)<中立> ・ゴールカードとルーブリックをもう少し結びつけても良かった。

(10)<否定的> ・計画にはなかなか影響せず、目標のようになってしまった。・あまり意識して確認もしていなかったため、あまり意味

がないと感じた。 ・もう少しこのルーブリックを使う意味と、しっかりと各項目を頭に入れて活動する必要があったと感じます。・計画

にはなかなか影響せず、目標のようになってしまった。

** 記述数(「肯定的」対「中立+否定的」)に関する直接確率計算(母比率不等)の結果 < .01p

主体的学習を生かす複式授業の環境設計(3):

計量基盤自己評価表による地域学習の学習目標明確化

北海道教育大学函館校 高橋 伸幸

Design of learning environment for multigrade instructions utilizing autonomous learning (3):

Measurement basis self-assessment sheets for a definite targeting of regional learning

Nobuyuki TAKAHASHI (Hokkaido Univ. of Education, Hakodate)

Self-assessment of student on basic knowledge and skills in measurable phenomena has a potential to

assist planning personalized instructions and finding the individual target and the task for the student

learning objects based on mathematical concepts. We examined the efficiency of using a self-assessment

sheet on approaching the learning target for a general education class “Introduction to Natural Science 2

(Informatics)” of the Department of International and Regional Studies. Effect of a “Self-assessment

Sheet” based on a personalized “Rubric” was analyzed for the “regional issues” in the image of each

student described in the term examination. “Self-assessment Sheet” score has a weak correlation with the

score of the term examination. Managing abilities of the self-assessment sheet were discussed for

controlling the personalized learning objectives in the short time range of the classroom activities for

individual students. “Self-assessment Sheet” took a role to be a guide for targeting and analyzing the

complex phenomena of student interest based on the limited knowledge of the student.

Multigrade instruction strategy is becoming essential to classroom learning for academically diverse

learners in regular classrooms [1]. Abstracted learning in limited time on comprehensive materials in

elementary and middle level schooling causes lack of basic experiences and performances in a large part

of learners resulting very distributed level in a class. Teacher’s instruction performance is inevitable to be

adapted to the distributed levels of basics of learners for improving efficiency based on student-centered

learning. Multigrade instruction gives a useful model of learning for the basic level distributed class.

Teacher’s resources for instruction are limited. Self-assessment of student learning [2] has a potential

to assist teacher’s performance to plan independent instruction for each student and also student’s

performance to find the individual target and the specialized task for the student in the course of

fluctuating theme of the classroom for the day-to-day variance in the diverse interests of students.

Regional learning has a specialized function for unifying the student’s interests into the other student’s

presentation [3]. We examined a general education class “Introduction to Natural Science 2 (Informatics)”

of the Department of International and Regional Study. Effect of “Self-assessment Sheet” based on the

“Rubric” on the term examination was analyzed. Finding connections between outside phenomena and

laws of sciences were tried as tasks for students. “Self-assessment Sheet” score has a weak correlation

with the score of the term examination. “Self-assessment Sheet” took a role to be a guide and a memory

of targeting and analyzing the complex phenomena of student interest. The contents of tabulated episodes

and key words were not enough to make an established picture describing the logical understanding of the

students. The tabulated words have an essential role for assessing the learning state of the student. The

integrated scoring is a limited way to describing the learning state of the student. More precise method is

to be developed based on a statistical analysis of measures patterning the self-assessment sheet. There

was a hope of inducing effective discussions for issues of interest based on realistic knowledge within

students.

References

[1] Tomlinson, Carol Ann, et al. "Differentiating instruction in response to student readiness, interest, and

learning profile in academically diverse classrooms: A review of literature." Journal for the Education of

the Gifted 27.2-3 (2003): 119-145.

[2] Nicol, David J., and Debra Macfarlane‐Dick. "Formative assessment and self-regulated learning: A

model and seven principles of good feedback practice." Studies in higher education 31.2 (2006): 199-218.

[3] Takahashi, Nobuyuki. “Design of learning environment for multigrade instructions utilizing

autonomous learning (1): Drawing figure environment inducing renewal of word meaning.”

. へき地教育研究, 69, (2014): 31-37.

図 1. 基準明示群(n=103)と自己採点群(n=72)に

おける引用文献の記載の有無の割合

ルーブリックに基づく自己採点がレポートの

引用文献の記載に与える効果 ― 認知心理学ミニレポートにおける検討 ―

○林 美都子(北海道教育大学教育学部)

問題と目的 ルーブリックは学生らに主体的学習を促す手法

の一つであり(松下, 2014)、さまざまな教育効果

が見込まれている。そのうちの一つとして、教員

と学生とが同一の評価基準を共有することにより、

より適切なメタ認知能力の向上に寄与すること

(今井・加藤, 2014, 2015)が挙げられよう。

大学教育で実施されることの多いレポート課題

では、自身の執筆した文章を客観視し、自分の考

えや関連事項について、他者にも理解できるよう

根拠を添えて説明することが必要となる。つまり、

メタ認知能力の大いに寄与するところであり、ま

たその発現が明確に文章の形で見えやすくなる。

本研究では、とりわけ引用文献の記載に注目した。

適切な文献の引用のためには、主観と客観、自分

の意見と他者の意見との区別を初めとして、その

分野における各文献の重要性や信頼性、妥当性、

自分の意見に対する反証・根拠としての強さ等を

理解する必要があり、それらが反映されやすいと

考えたためである。

本研究では、認知心理学に関するレポートの執

筆を取り上げ、評価基準を示しただけの場合(基準

明示群)と示された評価基準に基づいて自己採点

を行わせた場合(自己採点群)とで、文献の引用に

関する学生のパフォーマンスがどのように変わる

か検討を行った。

方法 調査対象者:

基準明示群:2014 年度認知心理学受講生 103 名。

自己採点群:2015 年度認知心理学受講生 72 名。

手続き:いずれの群においても、認知心理学の初

回と第 2 回目の授業において、1.毎週 800 字以上

のテーマに沿ったミニレポートの提出が課される

こと、2.採点基準は、「日本語の正しさ」「字数」

「テーマと内容との適切性」「内容・知識の正確さ

(文献の正しい引用含む)」「論理性(説明の分かり

やすさ)」「説得力」「その他(熱意・独自性等)」で

あり、3 段階で採点されることをルーブリック形

式で示し丁寧に説明し、シラバスにも簡易に示し

た。自己採点群にはチェックリストを渡し、ミニ

レポートと同時に自己採点を提出するよう求めた。

ミニレポートのテーマは、「知覚」「注意」など認

知心理学に関するものであり、学生が課題になん

じんだと考えられる 5 回目「表象」をテーマとす

るミニレポートを分析対象とした。

結果 基準明示群:引用文献を明記していたのは、全 103

レポート中 34 件(33.01%)であった。引用文献が示

されているもののうち、引用文献が 1 件のみであ

るものが 24 件、2 件のものが 8 件、3 件のものが

2 件であった。また、文献の種類について、指定

の教科書 19件、WEB からの引用 5件、辞典類 1件、

専門書 7 件、授業内容 1 件であった。

自己採点群:引用文献を明記していたのは、全 72

レポート中 49 件(68.06%)であった。引用文献が示

されているもののうち、引用文献が 1 件のみであ

るものが 33 件、2 件のものが 12 件、3 件のものが

3 件、4 件のものが 1 件であった。また、文献の種

類について、指定の教科書 37 件、WEB からの引用

8 件、辞典類 2 件、専門書 11 件、一般書 1 件、授

業内容 2 件、論文 5 件、学生が自身で集めたデー

タ 1 件であった。

各群の比較:各群における引用文献記載の有無の

割合を図 1 に示した。図 1 に示された偏りについ

てカイ自乗検定を行ったところ、偏りは有意であ

り(χ2(1)=19.43, p<.01)、自己採点群における引

用文献の記載率が高いことが明らかとなった。

考察 本研究の結果、基準を明示するだけでなく自己

採点を求めるなど学生自身に積極的に基準の活用

を求めた方が、引用文献等に対する意識がより刺

激され、教育効果の高まることが示された。

注:本研究は、平成 27 年度北海道教育大学大学教

育開発センター研究事業による支援を受けた。

1

試験・演習問題にリンクしたルーブリックの活用 3

4

5

松 橋 博 美

7

北海道教育大学函館校化学教室

概 要

学修成果の評価の観点と評価基準を学生と共有する目的で,二つの方法でそれらを明

示した。一つはシラバスに明示する方法で,各講義時間に扱った内容について演習問題

を設定し,その学修内容をルーブリックに書き直して,シラバスに記載した。シラバスは,授

業開始時には各講義時間に扱う内容を示しておき,講義終了後に評価の視点と評価基準

を書き加えた。もう一つは,講義内容のホームページに各回の目標として明示する方法で

ある。両方とも,学生には好評であったが,試験の合格率には直接的には関係しなかっ

た。

8

はじめに

授業について,到達目標(学修成果の評価の観点)と

評価基準を明示することは,学生にとって学修の指針と

到達点を明らかにする意味で,非常に重要であると言

える。本研究では,共に人間地域科学課程,環境科学

専攻,物質・エネルギー環境科学分野の専門科目であ

るグリーンケミストリーと物質科学Bについて,明示の効

果を検証した。

ルーブリックあるいは目標の明示方法

グリーンケミストリーは選択必修科目である。隔年開講

であるため,毎回対象となる学生の準備状況が異なる。

この理由で,講義内容を準備状況に応じて毎回変更し

ている。シラバスは,授業開始時には概略を示しておき,

授業終了後にその回に扱った主題と到達レベルを成

績評価欄に書き加えた。到達目標の欄は変更しなかっ

た。一般目標,到達目標,成績評価(授業開始前)は下

の通りである。

一般目標

化学の基本的な原理や法則に興味を持ち、それをグリ

ーンケミストリーの観点から理解し、身につける事を通し

て、市民としての環境に関わる考え方を理解できるように

なる。

対応する DP を細分化した観点は,3-3.地域学を支え

る学問の専門的知識を身につけている。

到達目標

・グリーンケミストリーの考え方を化学の基本的な原理や

法則から説明する事ができる。

・これまでに学修した化学の原理を具体的な反応に関し

て示すことができる。

・実際のプロセスについて、化学の基本的な原理とグリ

ーンケミストリーの見地から説明することができる。

・身近な物質について、その合成法を調べ、グリーンケミ

ストリーの見地からその妥当性を議論することができる。

・ある物質について、環境負荷の低い合成法を見いだす

ことができる。

評価は、目標に沿った内容の試験で行う。試験の点数が

60%に満たない者は不合格とします。到達度を見極める

ために,適宜小テストを実施します。小テストの成績が不

振の学生については,以後の受講を遠慮願うことがあり

ます。

欠席に関しては,講義資料等を活用して各自で不足分

を補うよう努力してください。

学修内容と到達度の関し,ルーブリックを提示します。授

業計画と同様に,適宜変更しますので,注意して下さ

い。

シラバスに表を書き込むのは困難であるため,評価

基準の文の後にレベルを明示した。下はその例であ

る。

代表的な酸である硫酸,硝酸,塩酸(塩化水素),酢酸に

ついて,立体的な分子の構造を示すことができる(D),強

い酸性と共鳴構造の関係を説明出来る(C),混成軌道と

電子配置を示すことができる(B),原子軌道と分子軌道の

関係を説明出来る(A)

シラバスの成績評価の欄からあふれたため,別の欄も

活用した。

物質科学 B は必修科目である。以前より,ウェッブで

授業ノートを公開し,ノートテイクの手間を減ずることで

授業での説明の聞き取りに集中できるよう工夫している。

ノートは 13 回分あり,各回の最初にその回の到達目標

を明示した。下は,第一回の分のウェッブの写しであ

る。

第1章 原子構造、電子配置と周期表

到達目標

・30 番までの元素の元素名,元素記号,原子番号を知っ

ている。

・原子の構造

原子は、陽子、中性子、電子からなることを理解して

いる。

・原子軌道と電子配置、周期表の関係

原子軌道の種類、軌道のエネルギーレベルと電子の

配置の順序,最外殻電子数と周期表の関係を理解して

いる。

・量子数

電子の配置が量子数によって決定されることを理解し

ている。原子軌道と量子数の対応関係を理解している。

なお,物質科学 B のシラバスの到達目標は,下の通り

である。ウェッブの到達目標が非常に具体的で,試験

問題を想像できるのに対し,シラバスの到達目標は全

体を網羅する記述が必要であるため,内容が曖昧とな

ってしまっていることが判る。

(1)原子や各族の無機化学的な基本性質を理解し、そ

れらの性質と実際の現象の関係を積極的に理解しようと

する。

(2)化学結合について,現代的な取り扱いを理解する。

(3)無機物質、特に酸化物、ハロゲン物、水素化物など

の性質を説明できる。

(4)原子や各族の無機科学的な基本性質の重要性を理

解し、それを表現することができる。

取り組みの成果

両科目とも,最終試験の際にアンケート調査を行った。

質問はルーブリック(グリーンケミストリー)あるいは到達

目標(物質科学)が自学修に(1)役に立った,(2)少し

役に立った,(3)どちらとも言えない,(4)あまり役に立

たなかった,(5)全く役に立たなかった,とした。結果を

下の表に示す。

選択肢 グリーンケミストリー 物質科学

(1)役に立った 7人 8人

(2)少し役に立った 2人 3人

(3)どちらとも言えない 1人

(4)あまり役に立たなかった

(5)全く役に立たなかっ

調査の結果より,ルーブリックあるいは到達目標の明

示が自学修に役に立った様子が判るが,試験の成績

に顕著な効果は見られず,合格率には直接的には関

係しなかった。