飼料学(124)飼料学(124) 誌名 畜産の研究 = animal-husbandry issn 00093874 著者 川島,...

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飼料学(124) 誌名 誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry ISSN ISSN 00093874 著者 著者 川島, 知之 石橋, 晃 巻/号 巻/号 69巻8号 掲載ページ 掲載ページ p. 725-730 発行年月 発行年月 2015年8月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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  • 飼料学(124)

    誌名誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry

    ISSNISSN 00093874

    著者著者川島, 知之石橋, 晃

    巻/号巻/号 69巻8号

    掲載ページ掲載ページ p. 725-730

    発行年月発行年月 2015年8月

    農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

  • 725

    飼料学(124)

    ーエコフィード一

    川 島 知 之 1 ・石橋 晃 2

    はじめに

    食品残さは古くから畜産現場における主たる飼

    料原料であり,庭先での養豚・養鶏を支えてきた。

    高度経済成長期の急速な畜産物需要の進展に伴い,

    効率的な生産を推進するために,高能力な外来種や

    配合飼料の導入などの結果,食品残さの飼料利用

    は主流とは言えなくなっていった。しかし,都市

    近郊では粕酪,残飯養豚といった,人の生活ととも

    に集まる食品残さを積極的に飼料活用する,地域

    に根付いた畜産の形態も継続されてきた。一方,

    循環型社会の形成推進に向けて,食品廃棄物の減量,

    再生利用を促進するための食品循環資源の再利用の促

    進に関する法律(食品リサイクル法)が制定された

    2000年頃から食品残さの飼料化が注目されるよう

    になり,行政サイドの支援L 輸入穀類の高止まりなどから,その利用は着実に伸びている。関連の支

    援事業の中で,食品残さなどを利用して調製され

    た飼料をエコフィードと呼ぶことになり,この名

    称で定着してきた。 2013年にはエコフィード製造

    数量は 108万 TDNtとなり,トウモロコシの年間輸

    入量の約 l割に相当するようになっている。

    2 エコフィードの定義とその成立条件

    エコフィードとは,環境にやさしい(ecological)

    や節約する(economical)などを意味するエコ

    (巴co)と飼料を意味するフィード(feed)を併せた

    造語である。食品製造副産物(醤油粕や焼酎粕など,

    食品の製造過程で得られる副産物),余剰食品(売れ

    残りのパンやお弁当など,食品としての利用がされ

    なかったもの),調理残さ(野菜のカットくずや非

    可食部など,調理の際に発生するもの)などを利用

    して調製された家畜用飼料を指す。食品残さ飼料,

    リサイクノレ飼料,食品循環資源利用飼料,有機性

    資源飼料などの呼ばれ方がされてきたが,関連事業

    2宮崎大学 (Tomoyuki Kawashima)

    '(一社)日本科学飼料協会 (Teru Ishibashi)

    の中で普及につなげるために魅力的なネーミング

    にしようと定められたものである。その後,エコ

    フィード関連事業の確固たる推進のために,事業

    の実施者で、あった社団法人配合飼料供給安定機構

    が「エコフィード(ECOFEED)Jを2005年 6月に

    特許庁に商標登録を出願し,特許庁は 2005年 7月

    にこれを公開し, 2007年6月に正式に取得された。

    その後, 2014年 10月に,この商標は公益社団法人

    中央畜産会に引き継がれた。

    このような経緯から,現在,エコフィードという

    名称については,広義ならびに狭義での利用がな

    されている。広義での利用については,食品製造

    副産物,余剰食品,調理残さなどから製造された

    家畜飼料のことを広く指す。一方,狭義での利用は,

    後述するエコフィード認証制度において,認証さ

    れたエコフィードを指し,この場合は認証エコ

    フィードという呼び方をしている。

    エコフィードは名称こそ新しいが,前述のとおり,

    その利用には古い歴史がある。しかし,畜産を取り

    巻く環境は変化してきており,過去の技術がその

    まま利用できるものではない。また,配合飼料に

    依存した体系とは異なるため,それが成立する条

    件を理解した上で実践に移す必要がある。エコ

    フィードの利活用が成立する条件としては以下の

    ことが考えられる。

    ①法令を順守していること,②経営的に優位

    であること,③安全性が担保されていること,④

    飼料として価値,成分値の変動,供給の安定性が

    許容されること,⑤良質な畜産物を生産できること,

    ⑤利用の手聞が許容範囲であること,⑦消費者

    に許容されること,③地域的な環境問題(臭気,

    害虫の発生など)を引き起こさず,地球環境にも優

    しいこと,⑨循環型社会形成への貢献としづ社会

    的意義づけが明確であること。

    0369 5247 /15/¥500/1論文/JCOPY

  • 726 畜産の研究第69巻 第8号(2 0 1 5年)

    3 法令順守と安全性の確保

    2001年に施行された食品循環資源の再生利用等

    の促進に関する法律(食品リサイクル法)において,

    食品の売れ残りや食べ残し,食品の製造過程で発生

    する食品廃棄物と定義されている食品循環資源の

    発生抑制と減量化とともに,飼料や肥料などの原

    材料としての再生利用を促進することが定められ

    ている。食品リサイクル法は 2007年に改正され,

    再生利用の各種取組の中で飼料化を優先順位の第

    一に置くことが定められた。

    一方,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃

    法)では,食品残さは食品製造業からの産業廃棄物,

    食品流通業及び外食産業からの事業系一般廃棄物

    と,家庭から排出される家庭系一般廃棄物に分類

    されている。食品残さは有効な資源であるものの,

    その収集の仕方によっては廃掃法を遵守する必要

    がある。

    また,食品リサイクル法の施行に伴って再生利

    用事業登録制度が設立され,廃掃法が制限してい

    る資源の運搬に対し,特例処置が施されるように

    なった。これら法律に則った許認可を取得するこ

    とにより,エコフィードを調製する目的で,排出

    事業所から食品残さを受け取る際,処理料を受け

    取ることができる。このことは経営に重要である

    が,許認可の取得には相応の手間と時聞がかかり,

    飼料化施設設置後,飼料の安全性に関わる許認可

    を得て実際に操業を開始するまでに時間がかかる

    ため,綿密な計画を立てて事業を興す必要がある。

    エコフィードの流通には,自家用としてのみ使

    用する場合,相対で農家に販売する場合,さらに

    は製造された飼料を配合飼料原料として販売する

    場合がある。いずれにせよ飼料製造の届け出は必

    要である。配合飼料原料とする場合には,農業資

    材審議会における審議が必要であり,製造された

    飼料の成分分析,消化試験,安全性試験の結果が

    求められる。相対取引をする場合でも,使用経験

    のない飼料の場合は安全性試験が必要となる。

    飼料の安全性については,飼料の安全性の確保

    及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)を順守

    する必要がある。飼料安全法及び家畜伝染病予防

    法の順守を前提として,エコフィードの普及に向

    けて,食品残さ等利用飼料の安全性確保のための

    ガイドライン(エコフィードガイドライン)が

    2008年に制定された。この中で,飼料安全法で定

    められているように,反須動物用飼料への動物由

    来タンパク質の混入防止の徹底が示されるととも

    に,反須動物以外の飼料で、あっても,その中で生

    肉などが混入している可能性のあるものは, 70°C,

    30分以上または 80°C,3分以上加熱処理した後に

    使用することが示されている。

    4 認証制度

    エコフィードのさらなる推進を目指して,食品

    産業,運搬業者,エコフィード加工業者,エコ

    フィード利用者(畜産生産者)などの各段階がその

    意義についての共通認識の下に密接に連携し,資

    源循環型畜産に対する理解の醸成を促進する一環

    として,エコフィード認証制度が 2009年 2月に開

    始された。さらに,食品循環資源の利活用を推進

    するため,認証エコフィードを給与して生産され

    た牛肉,豚肉,鶏肉,牛乳,鶏卵などの畜産物お

    よびその加工品を「エコフィード利用畜産物j と

    して認証することにより,消費者にエコフィード

    を通じた資源循環型畜産への取組を理解し、ただき,

    さらなるエコフィードの利用拡大を図ることを目

    的としてエコフィード利用畜産物認証制度が

    2011年 5月に開始された。

    1)エコフィード認証制度

    第一段階であるエコフィード認証制度は,飼料

    としてのエコフィードを対象としたものである。

    認証を受けるためには,エコフィードガイドライ

    ンが示す指針に従うことを大前提としたうえで,

    製品中における国内で発生した食品循環資源の割

    合が風乾物重量比で 20%以上であること,かつ,

    製品中の推進食品循環資源の割合が風乾物重量比

    で 5%以上であることという 2つの要件を満たし

    ていることが必要である。国内で発生した食品循

    環資源というのは,圏内で製造された食品だけで

    はなく,食料として輸入されたものでも,消費さ

    れなかった余剰食品は対象に含まれる。しかし,

    飼料原料として輸入された,輸入大豆油粕,輸入

    ふすま,輸入糖蜜などは対象に含まれない。推進

    食品循環資源とは,圏内で発生した食品循環資源の

    うち,通常に飼料原料として利用されているもの

    ではなく,今後さらなる飼料化の推進が期待され

  • 川島 ・石橋 ー飼料学(124) 727

    るものを指す。具体的には,余剰食品,調理残さ,

    食べ残しのすべてが対象となり,食品製造副産物

    の中では大豆粕,米ぬか,ふすまのようにすでに

    飼料原料として利用されているものは除外されて

    いる。そして,原材料の保管,製造工程や品質の

    管理などを内容とする飼料業務管理規則などが定め

    られていることや,製品の栄養成分が把握されて

    いることなども要件となる。本語、証制度を運営する

    実施主体を一般社団法人日本科学飼料協会がつと

    めており ,申請手続きには下記のステップがある。

    チェックリストによる自己評価→事前申請→独

    立行政法人農林水産消費安全技術センタ ー

    (F品 HC)に対する安全性確認依頼→F品位C によ

    る安全性確認→正式申請→エコフィード認証運営

    委員会による審査→エコフィードの商標及び認証

    マークの利用に関する許諾契約→認証証の交付

    エコフィードとして認証された製品(認証エコ

    フィ ー ド)については,その容器,包装,カタログ

    などにエコフィードの商標及び認証マークを添付

    することができる(図 1)。認証を受けた製造事業

    所は毎年度の認証エコフィードの製造状況を事務

    局に報告する。 2015年 4月で 24業者 46製品がエ

    コフィードとして認証されている。

    26 認au••・号

    食品循環資源利用率.%以上

    図 l エコフィード‘認証マーク

    2)ヱコフィード利用畜産物認証制度

    認証制度の第二段階であり,認証エコフィード

    により生産された畜産物及びその加工品が認証の

    対象となる。牛肉,豚肉,鶏肉,牛乳,鶏卵など

    の生鮮品のみならず,ハム,ソーセージ,バター,

    チーズ,ゆで卵などの一次加工品に加え,ハンパー

    グ,アイスクリーム,オムライスなどの二次加工

    品も対象となる。本制度の要件としては次のこと

    が挙げられる。

    食肉を生産する場合,全飼養期間の約 1/3以

    上の期間,認証エコフィードを給与すること

    乳または卵を生産する場合,それが生産され

    る約 10日前から認証エコフィードを給与すること。

    対象となる畜産物が他の商品と区分され,そ

    の生産から流通,販売に至るまでの聞の流通

    ノレートが特定されていることが確認できること。

    本制度の実施主体は公益社団法人中央畜産会で

    あり,会内に外部学識経験者などから構成される

    エコフィー ド利用畜産物認証運営委員会が設置され

    ている。認証のまでの手続きは申請→エコフィー

    ド利用畜産物認証運営委員会による審査→商標及

    び認証マークの利用に関する許諾契約の締結→認証

    書の交付である。

    5 食 品 残 さ の 飼 料 と し て の 特 性

    バイオマス利用はエネルギー利用とマテリアル

    利用に大別されるが,エコフィードの取組はマテ

    リアノレ利用の最たるものであり,原料である食品

    残さと製品であるエコフィードの成分値は,乾物

    当りでみると殆んど差がない。乾燥する場合,水

    分のみが変化するだけで,その他の成分が変化し

    ないように速やかに処理することが求められる。

    サイレージ化の場合でも一部の糖が有機酸に変化

    するだけで,その他の成分は変化しないことが良好

    なサイレージ調製の条件となる。そのため,良質

    な原料をし、かに集めるかが,エコフィード事業に

    とって重要な課題である。

    エコフィードの原料としては,食品製造副産物,

    余剰食品,調理残さ,農場残さなどがあり,極め

    て多様である。多様な資源から調製されるエコ

    フィードは,その資源の特性を理解した上で利用

    されるべきである。食品製造副産物や調理残さに

    ついては,製造加工のプロセス,余剰食品につい

    ては,その食品自体の特性を理解した上で,エコ

    フィードの調製法を加味して,飼料特性を理解して

    家畜生産の現場で利用されるべきである。ここでは

    エコフィードの原料となる資源ごとにその特性を

    考えてみる。

  • 728 畜産の研究第69巻第8号(2 0 1 5年)

    (1)食品製造副産物 食品の製造過程から排出さ

    れる副産物は,一般に排出量も多く,排出される

    頻度も定期的で,その品質もある程度均一である

    ため,古くから配合飼料原料として利用されてい

    るものも多い。油粕類,ぬか類,デンプン製造副

    産物,水産加工副産物,食肉,食鳥処理加工残さ,

    酒類製造副産物,製糖副産物,大豆加工品副産物,

    果実,野菜加工副産物,菓子類製造副産物,茶製

    造副産物などがある。

    食品の製造加工の工程で調理や抽出が施される

    ため,それぞれの原料と副産物の成分には偏りが

    ある。デンプン抽出後の副産物や,アルコーノレ製

    造副産物,製糖副産物,ジュース粕のような果実

    加工副産物については,原料に比べて非構造性炭

    水化物が少なくなり,相対的にタンパク質や繊維

    質が高くなる。油粕類は,脂質が抽出されている

    ため,粗脂肪含量が原料より少なくなっている。

    麦茶粕のように熔煎の過程を経る場合,高温処

    理によりタンパク質の利用性が大幅に低減してい

    るものもある。醤油粕については,醤油の製造工

    程で食塩が添加されており,醤油粕の塩分も高い

    ことから,それを考慮した配合設計を行う必要が

    ある。緑茶製造残さについては,緑茶の成分の殆

    んど、は副産物に残っており,粗タンパク質含量が

    高く,カテキンやビタミンEなどの抗酸化作用を

    有する成分が多く含まれている。そのため,抗酸

    化機能を活用した飼料利用もなされている。

    副産物は,細かく粉砕されているものが多く,

    反須家畜の飼料として利用する場合,化学成分と

    して示される繊維含量の割にその物理性が弱く,

    反須刺激が十分ではないため,粗飼料との適正な

    配合が求められる。また,一般に水分含量が高い

    ものが多く,保存性を高めるために乾燥させる場

    合や,サイレージ調製する場合もある。

    (2)余剰食品,調理残さ デパート,スーパーマー

    ケット,コンビニエンスストアなどの小売店から

    排出される売れ残りや賞味期限切れ食品や,セン

    トラルキッチン,レストラン,食堂,ホテノレ,学校,

    病院などから排出される調理残さや食べ残しなど

    がこの範曙に含まれる。弁当,調理パン,菓子パン,

    麺類,惣菜,米飯,乳製品,サラダなどの多様な食品

    や,それを調理する過程で排出される野菜・魚肉・

    果物など調理屑などである。動物性タンパク質が含

    まれる可能性が高いため,これらの原料から調製さ

    れるエコフィードはブタ,ニワトリが対象となる。

    表 1に一例としてコンビニエンスストアより排

    出される残さの成分に関する調査結果を示す。そ

    の飼料としての特性は, 1)弁当めし,おにぎり,

    麺類を代表とする炭水化物主体の素材, 2)菓子パ

    ンのようにタンパク質は低めで,炭水化物と脂質

    が多い素材, 3)弁当のそうざい,そうざい,調理

    パンを代表とする高タンパク質,高脂肪の素材の

    三つに大別される。

    表 lの粗脂肪と灰分から読み取れるように,余

    剰食品は,脂質と塩分の高いことが課題になり易

    い。塩分については,余剰食品から調製されたエ

    コフィードの塩分含量は家畜の要求量の 10倍以

    上にもなることがしばしばある。十分な給水がで

    表 l 分別したコンビニエンスストア残さの成分値

    乾物 粗タンパク質 粗脂肪 NDF 灰分

    (%) (%乾物) (%乾物)(%乾物)(%乾物)

    炭水化物系弁当めし 41.6 7 .2 2.8 1.4 1.5 おにぎり 42.1 9.3 5.3 1.7 3.1 和めん類 33.7 11.8 1.9 2.1 1.5 スパゲッティ(めんのみ) 35.4 14.3 4.2 4.3 1.6 菓子類 41.4 7.4 9.5 3.9 1.3

    炭水化物+高脂質

    菓子パン 66.4 11.9 17 .2 1.8 1.8

    高タンパク質+高脂質そうざい(弁当以外) 21.9 35.6 27 .6 13.4 9.1 調理パン 49.2 17 .7 27.0 4.7 3.6 弁当そうざい 28.2 31.9 27 .5 17 .1 7.4

    サラダ 11.4 30.4 26.9 13.5 6.1

  • 川島・石橋:飼料学(124) 729

    きれば食塩中毒を防ぐことはできるが,尿量が増

    えるため,排世物処理が問題になる。そのような

    エコフィードを利用する場合,排水処理の能力を

    高めに設定しておく必要がある。

    食品の中でもそうざい類には脂質が多く含まれ,

    これらの資源から調製されたエコフィードについて

    も脂質含量の高さが問題になる。脂質含量が多い

    と乾燥してあっても給餌用のパイプラインに詰

    まったり,ハンドリングが悪くなり易い。また,

    脂質含量の多い食品残さを豚に給与すると,生産

    された豚肉脂肪の融点が下がるとともにその硬度

    が低下し,軟らかくなる。これを軟脂と呼ぶが,

    軟脂は加工に向かず,格付けが悪くなり,価格も

    落ちる。これを防ぐには給与飼料中の脂質含量を

    抑える必要がある。脂質の少ない飼料原料と組合

    わせて配合するか,脱脂工程を設けるなどして,

    給与飼料中の粗脂肪含量は 7%程度以下に抑えるべきである。特にリノーノレ酸など多価不飽和脂肪

    酸を多く含む飼料はできる限り配合割合を低くす

    る必要がある。酸化の進んだ魚のあら,廃食用油,

    烏ガラなどといった過酸化脂質を多く含むものを

    給与すると体脂肪が黄色くなる。これを黄豚とい

    うが,このような豚肉は風味が悪く,ひどいもの

    では食用に適さない。黄豚や風味の悪い肉を発生

    させないためには,過酸化脂質を含む食品残さを

    利用しないように留意する。

    これらの資源に含まれる穀類は精製されてから

    調理されており,もともとの穀類よりも繊維質が

    少ない。デンプン含量が多く,調理の過程で脂質

    も加えられるケースもあり,一般にエネノレギーが

    高くなる。一方で繊維が少ないため,このような

    原料から調製されたエコフィードをブタに給与す

    ると便秘を引き起こし易い。繊維質を含む資源、と

    バランス良く配合して調製する必要がある。

    (3)農場残さ 主として規格外の農産物などを指

    す。規格外のニンジン,パレイショ,カンショ,

    長イモなどがエコフィードの原料として利用され

    ている。成分についてはそれぞれの農産物によっ

    て異なるが,一般に水分含量が高い。収穫時期が

    地域ごとに決まっており,産地毎に多様な取り組み

    がみられる。副資材と混合して水分調整後,サイ

    レージ化される場合や,カンショなどについては

    乾燥処理がなされるケースもある。パレイショ,

    カンショの一大産地である北海道,鹿児島では,

    それぞれを原料とするデンプン工場があるため,

    規格外もその原料になる場合が多く,エコフィードの

    取り組みはそれ以外の地域でなされる場合が多い。

    規格外農産物は収穫時に畑で放棄されるケース

    が多く,それが病虫害を媒介する可能性もある。

    それぞれの畑で産出される量は必ずしも多くない

    ことから,農産物生産者やエコフィード生産者そ

    れぞれにとって,いかに収集するかが課題でなる。

    規格外を含めたすべての収穫物を選別所に持ち込

    めると良いが,選別所の処理能力からそれができ

    ないケースも多い。パレイショについては生のま

    まブタに給与すると,含まれているトリプシンイ

    ンヒビターにより飼料全体のタンパク質の利用性

    が低下する。そのため,加熱処理により阻害酵素

    の活性をなくしてから給与することが望ましい。

    6 食品残さの成分値と飼料設計

    食品残さを活用する限り,調製された飼料の成分

    が変動することは仕方がないと思われがちである。

    しかし,家畜を適正に成長させるには,必要とする

    養分を有し,成分変動も一定範囲に抑えた飼料を調製

    することが求められる。各種食品残さの発生状況や

    その背景を十分理解した上で飼料の調製を行うなら

    ば成分の変動もある程度抑えることが可能である。

    1)成分が安定している残さの利用

    原料と製法が決まっている食品を製造する際に

    排出される食品製造副産物はその成分値が比較的

    安定している。たとえ現物当たりの成分値が変動

    しているような場合でも,乾物当りで見ると成分

    変動がきわめて小さい場合が多い。そのため,化

    学成分の中で乾物率だけは頻繁に測定するべきで,

    乾物率を補正するだけで成分の変動を小さくする

    ことが可能になる。産業廃棄物である食品製造副

    産物に限らず,事業系の一般廃棄物であっても,

    同ーの食品生産を行っている事業所からの廃棄物

    は成分が安定している場合が多い。

    2)大規模収集による成分の安定化

    食品残さを大規模にかっ多数の排出元から収集

    すると,一つの事業所から排出される残さの成分

    値は大きく変動しでも,全体としての成分含量は

    一定値に収飲してくるため,比較的安定した成分

    の飼料を調製することが可能になる。主としてブ

  • 730 畜産の研究第69巻第8号( 2 0 1 5年)

    表 2 肥育試験のための発酵リキッド飼料の配合設計

    原物割合 乾物割合

    弁当めし 11.3 19.2 おにぎり 11.3 19.4

    菓子パン 16.9 45.9 大豆粕 1.6 5.7

    アルフアルファミール 2.3 8.4 第三リン酸カルシウム 0.4 1.5 水 56.3 0.0

    表 3 調製した飼料の化学成分対照区 発酵リキッド、区

    乾物率(%) 87.8 21.6 組タンパク質(%乾物) 16.6 16.8 組脂肪 (%乾物) 2.9 7.5 NDF (%乾物) 15 .1 8.1 粗灰分 (%乾物) 5.6 2.4 Lys (%乾物) 0.90 0.51

    一一一一一ー ー一一一

    タやニワトリ用の乾燥飼料を製造する現場に該当

    し,農業資材審議会の審議を経て配合飼料原料と

    して利用 されている事例もある。

    3)類型化分別

    多様な食品残さであっても,項目ごとに分別し,

    その代表値により配合設計を行うことで,ブタの要求

    量を満たす,安定した成分のエコフィードを生産

    することができる。分別するには多大な労力が必要

    と思われがちだが,様々なレベノレで、の分別が想定で、

    きる。厨房残さやスーパーなどからの残さについては,

    野菜屑専用とかそうざい専用などと表示したコン

    テナを設置することで,排出現場での分別も可能に

    なる。また,同じ事業所から排出される残さの成分は

    比較的安定している場合があり,排出される事業所

    単位で設計することも可能である。その場合,単位

    となる事業所の残さについて成分値を複数回分析し,

    平均の成分値を得て,その値を基に配合設計を行う

    と良い。

    一つの事例を示す。 前述の表 lで示された情報を

    基に,表 2のように肥育後期飼料用の配合設計を

    行った。いずれの素材も栄養価が高く ,多給しすぎ

    ると便秘になることが懸念されたため,タンパク質

    0.8

    0.6

    0.4

    0.2

    。対照 発酵リキッド

    図2 増体日量(kg/日)

    6

    4

    2

    。対照 発酵リキッド

    図3 ロース筋肉脂肪含量(%FM)

    の補給は大豆粕に加えて,繊維質の多いアルフアノレ

    ファミーノレを利用した。Lys含量について,食品成

    分表や飼料成分表によりその含量を推定した。

    Lys含量を要求量ーより低くした飼料でブタを肥

    育すると霜降りの豚肉が生産できるという報告に

    従い, Lys含量が要求量よりやや低くなるように

    設計した。この設計で発酵リキッド飼料を調製し,

    その成分値仁対照区に用いた豚産肉検定用飼料

    の成分値を表 3に示した。乾物当りの一般成分に

    ついては,両者の粗タンパク質含量はほぼ同じ値

    を示し, Lys含量については低く抑える ことがで

    きた。その結果,増体は変わらず,霜降りの豚肉

    を生産することができ(図 2,3),類型化して分別

    し,その成分の代表値によって飼料設計すること

    の有効性を示すことができた。