新型テレメトリー送信器における個別飼育と群飼育の自律神...

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新型テレメトリー送信器における個別飼育と群飼育の自律神経の評価検討 ○坂井勝彦 *1 , 水流功春 *1 *1プライムテック株式会社 研究支援部 1. Abstract 4 m 6 m 2.4 m 3.8 m 2. Material & Methods 4. Conclusion 近年、イヌをはじめとする複数で社会生活を営む実験 動物は、動物福祉の観点から複数頭で群飼育すること が求められるようになっており、より動物本来の生態 系に近い飼育環境へ改善することで、動物のストレス が低い状態で実験を実施でき、また、精度・再現性の 高い実験系が実現できることが望まれている。しかし、 一方では動物がどの程度、飼育環境によりストレスを 受けているのか指標が明確でなく、また、個体間にお いても同一飼育環境条件でも一般状態に差が出てくる。 そして飼育環境条件の改善をどの程度行えば良いのか 不明瞭で、そのため、青天井のごとくハードルが上が る危険性を秘めている。 そこで今回、Data Sciences International が郡飼 育可能な中大動物用のデジタル方式の新型テレメト リー送信器を発売したので、ビーグル犬の雄4頭を使 い、従来の個別飼育ケージ(700W×800D×700H mm)と郡飼育(4000 × 6000mm)との飼育環境の 居住スペースの変化(従来のSingle housingから Group housingへ)をECG波形からの自律神経系の評 価を実施し、その指標から動物が実際に受けている交 感神経、副交感神経の状態を評価検討した。 イヌにおいてPhysioTel Digital送信器を使用することにより、Single housingGroup housingで暗時および明期間の心電図 から自律神経系の活動の明確な違いを検出することができた。 さらに、LF / HFパラメータにからはSingle housingよりも Group housingでの環境下が動物にとってストレスが低いことが明確になった。 このことから、Group housingでの無拘束下のテレメトリ測定が可能になり、今まで不可能だった新しい実験デザインの設計 を可能にし、さらに社会化された飼育環境下で実現によりの動物福祉の観点からも動物を本来の近い状態での飼育環境実現へ 改善することも可能になった【動物】 ビーグル犬 4月齢:1728ヶ月齢 体重(手術時)11.712.3kg 生産者:北山ラベス 【測定送信器】 PhysioTel Digital 送信器 Data Sciences international 【測定ソフトウェア】 Ponemah Ver.5.2SP8 Data Sciences international 動物に測定送信器を右側腹部に留 置し、付属のアンテナを皮下に通 し、血圧はカテーテルを右大腿動 脈から挿入し左腎動脈の手前2~ 4cmに留置するように固定した、 心電図は心嚢膜にⅡ誘導になるよ うに固定した。回復期間を経て測 定ソウトウェアで血圧、心電図、 体温および活動量を測定した。 6) なお、Single housing(図1)とGroup housing(図2)の条件で飼育した。照明時間、飼育室洗浄・給餌時間は許容範囲 内に収まるように実施した。 自律神経系の評価は測定されたECG波形のR波をソフトウェアで解析して得られたRR- intervalから評価時点1時間ごとの心拍数(Heart Rate)、また周波数解析(表1)を実施し個体ごとのLF(低周波領 ),HF(高周波領域),TP(トータルパワー)およびLF/HF Ratioを算出した。 1)2)3)4)5) そのデータから全動物(N=4)LF/HF Ratioを暗期(Dark Period)と明期(light period)に分け有意差を検定(Paired T-test)した1:Single housingの飼育室 2:Group housingの飼育室 10:暗期と明期の比較 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 Dark Period Light Period LF/HF Ratio Each value represents the mean ± SE of 4 dogs. *p < 0.05 Paired T-test Single Pair * * 実験の結果から、Single housingGroup housingの心拍数の解析では全体的にGroup housing よりもSingle housingのほうが低値を示した。これは動物の居住スペースが狭いと活動領域が制限 されその結果として心拍数がGroup housingよりも低い値を示すと考えられる。 5(図3)しかし LF/HFは必ずとも心拍数と相関があるともいえない結果であった。(6)例えば、Single housing の暗期の0:007:00までの心拍数はGroup housingに比べると低値で安定している値を出してい るがLF/HFGroup housingに比べ高値で安定していない。これにより心拍数の数値のみでは自律 神経系の評価は難しくHRV(Heart Rate Variability)の解析が必要なことがわかった。 4) 周波数解析の結果からはLF/HF Ratioにおいては、Group housingSingle housingを比べると 個体差があった。上記同様に個体別に見てもGroup housingの暗期のデータは全個体安定しており、 低値を示すが、これに対しSingle housingは個体間で差はあるものの高値でばらつきが大きい。個 体によっては明期よりも暗期に高値を示す時間帯もあった。以上の結果は全個体を集計するとより 鮮明になった。(6)また、全個体を暗期と明期各12時間の時間帯のデータをまとめ比較しt-検定 LF:低周波数帯域[Hz] LF:高周波数帯域[Hz] 0.04 0.15 0.15 1.0 SourceData: ECG RR-Interval Interpolation Rate: 50 Hz Interpolation Method: Quadratic Segment Douration: 4 minutes Windowing Method: Hanning Overlapping Sub-series: 2 1:周波数解析設定 3. Results & Conclusion 9:Single housingGroup housingHF 0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 HF (ms2/Hz) Time (hh:mm) Single Piar Dark Period Dark Period 5:Single housingGroup housingHeart Rate 6:Single housingGroup housingLF/HF Ratio 0.00 0.01 0.01 0.02 0.02 0.03 0.03 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 LF (ms2/Hz) Time (hh:mm) Piar Single Dark Period Dark Period 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 LF/HF Rat Time (hh:mm) Piar Single Dark Period Dark Period 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 Heart Rate(bpm) Time(hh:mm) Single Pair Dark Period Dark Period 8:Single housingGroup housingLF 4:固体別のSingle housingGroup housingLF/HF Ratio 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0:00 3:00 6:00 9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 TP (ms2/Hz) Time (hh:mm) Single Piar Dark Period Dark Period 7:Single housingGroup housingTP 1) 基礎と臨床のための動物の心電図・心エコー・血圧・病理学検査(増補改訂版)編集:菅野茂・局博一・桑原正貴・中田義禮 出版社: アドスリー 2) DSI Technote Heart Rate Variability Analysis in Dataquest A.R.T. 4.0. Data Sciences International 3) Heart Rate Variability(HRV) video:Jennifer Doyle ,Data Services Data Sciences International 4) MU00196_Data Review Option Manual Data Sciences International 5) Heart Rate Variability analysis 解析protocol Ver1.0 [プライムテック株式会社] 6) Providing data by LSI Medience Corporation of Beta site 5.Reference により、有意差(明期, p = 0.012,暗期p=0.046) が検出された。(10) TP(トータルパワー)においては、Single housing Group housing間は同様の推移を示した。 LF(低周波領域)においては、LF/HFと類似の交感 神経活動の推移を示した。 HF(高周波領域)においては、副交感神経の活動を 反映してLF/HFに対してSingle housingに比べ Group housingのほうが高値を示している。やは りこれはGroup housingの環境が副交感神経の活 動が優位になっている結果であると考えられる。 飼育室スペース: 700W×800D×700H mm 照明時間帯: 7:00 ~ 19:00 (12hours) 洗浄・給餌時間: 17:30-18:00 飼育室総飼育頭数: 4 頭 床面積: 0.56m 2 /頭 飼育室スペース: 4000 × 6000mm 照明時間帯: 7:00 ~ 19:00 (12hours) 洗浄・給餌時間: 17:30-18:00 飼育室総飼育頭数: 4 頭 床面積: 6.00m 2 /頭

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新型テレメトリー送信器における個別飼育と群飼育の自律神経の評価検討

• ○坂井勝彦*1, 水流功春*1 *1プライムテック株式会社 研究支援部

1. Abstract

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2. Material & Methods

4. Conclusion

近年、イヌをはじめとする複数で社会生活を営む実験動物は、動物福祉の観点から複数頭で群飼育することが求められるようになっており、より動物本来の生態系に近い飼育環境へ改善することで、動物のストレスが低い状態で実験を実施でき、また、精度・再現性の高い実験系が実現できることが望まれている。しかし、一方では動物がどの程度、飼育環境によりストレスを受けているのか指標が明確でなく、また、個体間においても同一飼育環境条件でも一般状態に差が出てくる。そして飼育環境条件の改善をどの程度行えば良いのか不明瞭で、そのため、青天井のごとくハードルが上がる危険性を秘めている。そこで今回、Data Sciences International が郡飼

育可能な中大動物用のデジタル方式の新型テレメトリー送信器を発売したので、ビーグル犬の雄4頭を使い、従来の個別飼育ケージ(700W×800D×700H mm)と郡飼育(4000 × 6000mm)との飼育環境の居住スペースの変化(従来のSingle housingからGroup housingへ)をECG波形からの自律神経系の評価を実施し、その指標から動物が実際に受けている交感神経、副交感神経の状態を評価検討した。

イヌにおいてPhysioTel Digital送信器を使用することにより、Single housingとGroup housingで暗時および明期間の心電図から自律神経系の活動の明確な違いを検出することができた。 さらに、LF / HFパラメータにからはSingle housingよりもGroup housingでの環境下が動物にとってストレスが低いことが明確になった。このことから、Group housingでの無拘束下のテレメトリ測定が可能になり、今まで不可能だった新しい実験デザインの設計を可能にし、さらに社会化された飼育環境下で実現によりの動物福祉の観点からも動物を本来の近い状態での飼育環境実現へ改善することも可能になった。

【動物】ビーグル犬 ♂ 4頭月齢:17~28ヶ月齢体重(手術時):11.7~12.3kg生産者:北山ラベス【測定送信器】PhysioTel Digital 送信器〔Data Sciences international 〕【測定ソフトウェア】Ponemah Ver.5.2SP8〔Data Sciences international 〕動物に測定送信器を右側腹部に留置し、付属のアンテナを皮下に通し、血圧はカテーテルを右大腿動脈から挿入し左腎動脈の手前2~4cmに留置するように固定した、心電図は心嚢膜にⅡ誘導になるように固定した。回復期間を経て測定ソウトウェアで血圧、心電図、体温および活動量を測定した。6)

なお、Single housing(図1)とGroup housing(図2)の条件で飼育した。照明時間、飼育室洗浄・給餌時間は許容範囲内に収まるように実施した。 自律神経系の評価は測定されたECG波形のR波をソフトウェアで解析して得られたRR-intervalから評価時点1時間ごとの心拍数(Heart Rate)、また周波数解析(表1)を実施し個体ごとのLF(低周波領域),HF(高周波領域),TP(トータルパワー)およびLF/HF Ratioを算出した。1)2)3)4)5)そのデータから全動物(N=4)のLF/HFRatioを暗期(Dark Period)と明期(light period)に分け有意差を検定(Paired T-test)した。

図1:Single housingの飼育室 図2:Group housingの飼育室

図3:Single housingとGroup housingの心拍数

図10:暗期と明期の比較

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Dark Period Light Period

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HF

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io

Each value represents the mean ± SE of 4 dogs.*p < 0.05 Paired T-test

Single

Pair

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実験の結果から、Single housingとGroup housingの心拍数の解析では全体的にGroup housingよりもSingle housingのほうが低値を示した。これは動物の居住スペースが狭いと活動領域が制限されその結果として心拍数がGroup housingよりも低い値を示すと考えられる。5)(図3)しかしLF/HFは必ずとも心拍数と相関があるともいえない結果であった。(図6)例えば、Single housingの暗期の0:00~7:00までの心拍数はGroup housingに比べると低値で安定している値を出しているがLF/HFはGroup housingに比べ高値で安定していない。これにより心拍数の数値のみでは自律神経系の評価は難しくHRV(Heart Rate Variability)の解析が必要なことがわかった。4)

周波数解析の結果からはLF/HF Ratioにおいては、Group housingとSingle housingを比べると個体差があった。上記同様に個体別に見てもGroup housingの暗期のデータは全個体安定しており、低値を示すが、これに対しSingle housingは個体間で差はあるものの高値でばらつきが大きい。個体によっては明期よりも暗期に高値を示す時間帯もあった。以上の結果は全個体を集計するとより鮮明になった。(図6)また、全個体を暗期と明期各12時間の時間帯のデータをまとめ比較しt-検定

LF:低周波数帯域[Hz] LF:高周波数帯域[Hz]

0.04 ~ 0.15 0.15 ~ 1.0SourceData: ECG RR-IntervalInterpolation Rate: 50 HzInterpolation Method: QuadraticSegment Douration: 4 minutesWindowing Method: HanningOverlapping Sub-series: 2表1:周波数解析設定

3. Results & Conclusion

図9:Single housingとGroup housingのHF

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図5:Single housingとGroup housingのHeart Rate

図6:Single housingとGroup housingのLF/HF Ratio

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図8:Single housingとGroup housingのLF

図4:固体別のSingle housingとGroup housingのLF/HF Ratio

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図7:Single housingとGroup housingのTP

1) 基礎と臨床のための動物の心電図・心エコー・血圧・病理学検査(増補改訂版)編集:菅野茂・局博一・桑原正貴・中田義禮 出版社: アドスリー2) DSI Technote Heart Rate Variability Analysis in Dataquest A.R.T. 4.0. 〔Data Sciences International 〕3) Heart Rate Variability(HRV) video:Jennifer Doyle ,Data Services 〔Data Sciences International 〕4) MU00196_Data Review Option Manual 〔Data Sciences International 〕5) Heart Rate Variability analysis 解析protocol Ver1.0 [プライムテック株式会社]6) Providing data by LSI Medience Corporation of Beta site

5.Reference

により、有意差(明期, p = 0.012,暗期p=0.046)が検出された。(図10)TP(トータルパワー)においては、Single housingとGroup housing間は同様の推移を示した。LF(低周波領域)においては、LF/HFと類似の交感神経活動の推移を示した。HF(高周波領域)においては、副交感神経の活動を反映してLF/HFに対してSingle housingに比べGroup housingのほうが高値を示している。やはりこれはGroup housingの環境が副交感神経の活動が優位になっている結果であると考えられる。

飼育室スペース: 700W×800D×700H mm照明時間帯: 7:00 ~ 19:00 (12hours)洗浄・給餌時間: 17:30-18:00飼育室総飼育頭数: 4 頭

床面積: 0.56m2/頭

飼育室スペース: 4000 × 6000mm照明時間帯: 7:00 ~ 19:00 (12hours)洗浄・給餌時間: 17:30-18:00飼育室総飼育頭数: 4 頭

床面積: 6.00m2/頭