Download - LEPにより子宮筋腫の増大をきたした子宮内膜症性囊胞の1例 · 2017. 8. 3. · しかしながら,実際の臨床ではlep,oc に より子宮筋腫の増大は時に報告されている.
右卵巣
右卵巣54×50×43 mm左卵巣(小囊胞集簇)35×33×39 mm
T 1 強調
右卵巣子宮
漿膜下筋腫23×26×19 mm
右卵巣
T 2 強調
左卵巣
緒 言日本産科婦人科学会監修の OC・LEPガイド
ライン2015年版で子宮筋腫患者への投与時の説明の CQの回答として,投薬により筋腫サイズ増加への影響を認めず月経期間の短縮,貧血の改善が期待できると回答されている.また OC
により著明な子宮筋腫の縮小を認めた報告など,子宮筋腫および随伴症状への影響は少ないことでコンセンサスが得られている.今回われわれは LEP投与により子宮筋腫の増大と大量
性器出血による貧血をきたし,腹腔鏡下子宮筋腫核出術を行った卵巣子宮内膜症性囊胞の1例を経験したので報告する.
症 例32歳未婚女性.既往歴にアレルギー症.妊娠歴なし.月経は27日周期.6年前より月経痛(VAS72)を主訴に近医産婦人科を受診,右卵巣子宮内膜症性囊胞を指摘され LEP内服にて症状軽快後いったん終了,その後症状増悪したため当科を受診,画像検査で両側卵巣子宮内膜
〔一般演題/薬物療法2〕
LEPにより子宮筋腫の増大をきたした子宮内膜症性囊胞の1例
1)社会医療法人かりゆし会 ハートライフ病院産婦人科2)琉球大学医学部腫瘍病理学講座
武田 理1),上原 博香1),喜久本 藍1),大西 勉1),青山 肇2)
日エンドメトリオーシス会誌2017;38:148-153
図1 術前超音波およびMR画像
148
ba
dc
左卵巣囊胞右卵巣囊胞子宮
症性囊胞の診断により精査手術目的で当科入院となる.154cm,42.0kg.内診所見で右付属器領域に圧痛,可動性良好.経腟超音波検査で両付属器領域にびまん性の高輝度内部エコーを有する卵巣囊胞を認めた(図1).
MRI検査(図1):右卵巣子宮内膜症性囊胞54×50×43mmで左側にも内膜症性小囊胞.子宮体部前璧に漿膜下筋腫を認めた.血液検査所見:CA125(69.6U/ml),CA19―
9(57.3U/ml)の軽度上昇の他に末梢血,生化学,出血傾向検査に異常なし.以上より両側卵巣子宮内膜症性囊胞,子宮筋
腫の診断により手術を施行した.腹腔内所見を示す(図2).腹腔鏡下右卵巣
囊胞核出術および左卵巣囊胞 drilling術(多発小囊胞で核出困難により)を施行.術後病理組織検査で卵巣子宮内膜症性囊胞と診断された(図2).その後の経過をチャートに示す(図3).術後から LEP(ルナベル LD)内服を開始,
月経痛は消失した.術後3ヵ月時に超音波検査で右卵巣内に子宮内膜症性囊胞出現もその後囊胞径は20mm台で推移していた.術後21ヵ月経過時に超音波検査で19×19mmの筋層内子宮筋腫陰影を新たに確認,その後副作用軽減を考慮してルナベル ULDへ変更した.筋腫径は漸増(図4),29ヵ月目より月経量の増加を自覚,30ヵ月目に HB9.0g/dl,32ヵ月目に HB
6.2g/dlまで低下した.鉄剤処方で貧血補正し,LEPによる子宮筋腫増大の可能性を説明する
図2 a 右卵巣囊胞左上方に子宮および漿膜下筋腫(矢頭)が見えるb 左右の卵巣囊胞 c 摘出標本 d HE染色×100
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75
囊胞核出
LLD
経血量増加筋層内筋腫出現
LULDへ
鉄剤処方 GnRH
LULD中止
腹腔鏡下筋腫核出
ルナベルLD : LLD
ルナベルULD : LULD
経血量増加
鉄剤処方
MR検査
4842363024181260(ヵ月)
38
CA125
HB
11.29.0
6.2
12.17.2
4.8
(U/ml)(g/dl)
39
も希望により LEP継続としたが過多月経は改善なく,その後も貧血が再発.一方筋腫は32ヵ月時のMR画像で(図5,6)43×34×42mm
まで増大,他に小筋腫の新たな出現も認められた(術前より認めていた子宮前壁漿膜下筋腫も23×26×19mmから33×29×30mmと増大.右卵巣囊胞径は20mm台を維持).37ヵ月経過時より再度貧血補正,GnRH(リュープリン1.88mg)を2回投与後腹腔鏡下筋腫核出術を施行した(図7).術後経過は良好で過多月経,貧血は改善,現在無治療で経過観察中である.
考 察日本産科婦人科学会監修の OC・LEPガイド
ラインの CQではこれらの薬剤の子宮筋腫患者への投与時の説明として「筋腫サイズ増加への影響を認めず月経期間の短縮,貧血の改善が期待できる」と回答されていて〔1〕子宮筋腫および随伴症状への影響は少ないことでコンセン
サスが得られている.子宮筋腫はホルモン(エストロゲン)依存性
腫瘍であり,その薬物療法は内分泌療法が主体となる.LEP,OCは偽妊娠療法として卵胞発育と排卵の抑制,子宮内膜の増殖を抑制し,月経痛,過多月経を緩和する.またプロゲステロンはエストロゲンと拮抗的に作用することも筋腫増殖抑制に働くと考えられている.しかし,低用量ながらエストロゲンを含む合剤であるため,これらの薬剤の添付文書には子宮筋腫合併患者への使用に関して従来から慎重投与のコメントが記載されている.OCにより著明な子宮筋腫の縮小を認めた報告〔2〕も散見されるが,一般的に子宮重量に対する影響は認められないとされている.Friedmanらの報告では,OC
使用群52例と未使用群32例で投与時と12ヵ月後の比較により筋腫サイズに両群とも有意な変化を認めず,使用群で有意な月経期間の短縮と Ht
の上昇が認められた〔3〕.Orsiniらも24ヵ月間
図3 臨床経過
150 武田ほか
子宮内腔
筋層内筋腫
21ヵ月
19×19 mm
26×19 mm
右卵巣筋層内筋腫 子宮
39×36 mm
筋層内筋腫
21ヵ月
39ヵ月
OCの子宮筋腫への影響を検討し,筋腫サイズ,月経期間,Ht値に関して Friedmanらと同様の有意差を OC使用群で報告している〔4〕.また子宮筋腫の新たな罹患率に関しても,
Qinらは約9,000人の筋腫症例と約130,000人の対照を含む11の報告からmeta analysis解析を
行い,OC使用群は未使用群に比し筋腫罹患率を上げず,5年以上の使用歴は17%の罹患率の低下を認めたと報告している〔5〕.最近では子宮内膜症の治療選択肢としてレボノルゲストレル放出型子宮内避妊システム(LNG―IUS)も注目されており,Sayedらは子宮筋腫による過
図5 32ヵ月経過時(Hb低下)MR T2強調画像筋層内筋腫43×34×42mmと新たな筋層内筋腫(矢頭)を認める.
図4 術後21ヵ月および39ヵ月時超音波画像筋層内筋腫の増大を認める.右卵巣囊胞は20mm台を維持していた.
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多月経に対する OCの効果を LNG―IUSと比較したおのおの29例を12ヵ月間の観察期間を置いて検討し,経血量,過多月経の程度,HB量,筋腫の推定重量等を比較した〔6〕.LNG―IUS
の効果は筋腫重量を含めすべての項目で有意に改善がみられ,OCでは過多月経の程度のみ有意に改善されたことにより,筋腫合併の内膜症
性囊胞では LNG―IUSが選択肢の1つとして有力と考えられる.しかしながら,実際の臨床では LEP,OCに
より子宮筋腫の増大は時に報告されている.PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機
構)のデータベース〔7〕によると,EE(エチニールエストラジオール),NET(ノルエチス
図6 32ヵ月経過時(Hb低下)MR T2強調画像左)囊胞核出術前MR画像 右)LM術前MR画像初回手術時から存在していた漿膜下筋腫(矢印)23×26×19mm→33×29×30mmも増大していた.
図7 術中および核出標本写真子宮体部右側に筋層内筋腫(矢印)を認め,上方の漿膜下筋腫(矢頭)とともに核出した.病理組織診断結果は平滑筋腫であった.
152 武田ほか
テロン)を含む LEP,OCの副作用報告で,子宮筋腫の発生あるいは増大症例は2008年度から16年度までで8例であった.一方,ルナベル(LD,ULDあわせて)製造販売後調査でも増大例の報告が散見される.子宮筋腫の発育に関するエストロゲン,プロゲステロンの詳細な作用機序はいまだに明確にはわかっておらず,プロゲスチンもエストロゲンと協力して筋腫の増殖に関わるとの基礎的データ〔8〕もみられることより,やはり子宮筋腫合併の子宮内膜症性囊胞患者では LEP,OCの使用中にはその変化につき注意が必要と思われた.
LEP投与中に子宮筋腫の発生,増大と大量性器出血による貧血をきたし,腹腔鏡下子宮筋腫核出術を行った子宮内膜症性囊胞の1例を経験した.LEPによる子宮内膜症の治療中には月経血量等に留意し卵巣病変のみならず,頻度は少ないながらも子宮筋腫の増大あるいは新病変の出現にも注意を払う必要があると考えられた.
文 献〔1〕日本産科婦人科学会.OC・LEPガイドライン2015
年度版;83〔2〕山口直孝ほか.経口避妊薬(Oral Contraceptive:
OC)長期投与によって子宮筋腫縮小を認めた二症例.北海道産婦会誌 2015;59:175-176
〔3〕Friedman AJ et al. Does low-dose combinationoral contraceptive use affect uterine size or men-strual flow in premenopausal women with leio-myomas? Obstet Gynecol1995;85:631-635
〔4〕Orsini G et al. Low-dose combination oral contra-ceptives use in women with uterine leiomyomas.Minerva Gynecol2002;54:253-261
〔5〕Qin J et al. Oral contraceptive use and uterineleiomyoma risk : a meta-analysis based on cohortand case-control studies. Arch Gynecol Obstet2013;288:139-148
〔6〕Sayed GH et al. A randomized clinical trial of alevonorgestrel-releasing intrauterine system and alow-dose combined oral contraceptive for fibroid-related menorrhagia. Int J Gynaecol Obstet2011;112:126-130
〔7〕独立行政法人医薬品医療機器総合機構データベース2008-2016 https : //www.pmda.go.jp
〔8〕Maruo T et al. Sex steroidal regulation of uter-ine leiomyoma growth and apoptosis. Hum Re-prod Update2004;10:207-220
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