ごみ焼却施設の煙突解体工事例 -...
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ごみ焼却施設の煙突解体工事例
一色真人1・斎藤研一2・白井浩哲2・仲松宇大3
1正会員 西松建設株式会社 東関東支店(〒260-8556 千葉県千葉市中央区新宿2-3-8) 2西松建設株式会社 東関東支店(〒260-8556 千葉県千葉市中央区新宿2-3-8)
3西松建設株式会社 企画技術部(〒105-8401 東京都港区虎ノ門1-20-10)
千葉県八千代市清掃センター内ごみ焼却施設を解体撤去する工事のうち,煙突の解体工事に
ついて報告する.
工事場所は,稼動中の焼却施設に囲まれ,解体工事に使用できるスペースが狭隘なため,大
型重機を常駐させた状態での作業が出来ない.当社は,狭隘なスペースにおいても効率的に煙
突の解体作業を行うことのできる自昇降式小型クレーン(西松建設㈱・㈱北川鉄工共同開発)を
用いた煙突解体工法を適用した.この方式は,老朽化した煙突にクレーン荷重をかけずに,足
場組立・煙突解体・足場解体の一連の作業を安全にかつ効率的に行うことができる.
キーワード : 焼却施設,煙突解体,環境,ダイオキシン類,自昇降式小型クレーン
1.はじめに 廃棄物焼却施設の解体にあたっては,「廃棄物焼
却施設内作業におけるダイオキシン類ばく露防止対
策要綱(平成13年4月付け基発第401号)」が施行され,
ダイオキシン類の飛散等による周囲の環境汚染防止,
および作業員へのダイオキシン類のばく露防止が求
められた.そのため,解体工事では,ダイオキシン
類濃度の分析調査を基にした作業管理区域の設定,
適正な保護具の使用,ダイオキシン類の飛散防止設
備の設置,およびそれらの徹底管理によるダイオキ
シン類ばく露防止対策の計画と実施が必要となった.
このような背景のもと,稼動中の廃棄物焼却施設
の近傍に位置する旧3号焼却炉,およびその煙突の
解体工事計画を策定し,安全に効率的に焼却施設を
解体した.
2.全体工事概要
本工事は,旧焼却炉,煙突の解体工事,および
解体跡地にペットボトル減容施設建設工事である.
工事概要を示す. 工 事 名 旧 3号焼却炉解体等工事
発 注 者 千葉県八千代市
工 期 平成 17 年 3 月~平成 18年 3月
工事場所 千葉県八千代市上高野 1387-7
八千代市清掃センター内
(旧 3 号焼却炉の解体)
焼却方式 ストーカー式焼却炉
焼却能力 100 ㌧/24 時間 (1 基)
煙突高さ H=55m (地上部)
建屋構造 鉄筋コンクリート造+鉄骨 ALC 造
延床面積 1637.5m2 (4 階建て)
(ペットボトル減容施設の建設)
設備性能 ペットボトルを 5 時間で 3㌧以上処理
可能な能力を有する設備
新 3 号焼却炉
煙突 旧 3 号焼却炉
図-2(写真視点)
1・2 号焼却炉
図-1 工事範囲全体平面図
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写真-1 焼却施設全景(中央の煙突が解体対象)
3.煙突解体工
(1)煙突構造と解体範囲
本工事において解体する煙突の構造を以下に示す.
構 造 (外筒) 鉄筋コンクリート造
(内部) 耐火レンガ
外 径 Φ2.52m~Φ3.90m
補 強 外筒に対して以下の補強を行っている
鋼材補強 (GL+19.0m~43.0m)
鋼板巻き補強 (GL+43.0m~55.0m)
図-2 煙突断面構造
(2)作業計画の立案
煙突解体作業を計画するにあたっては,以下の点
について配慮し計画する必要があった.
○ 解体対象煙突は稼動中の焼却施設に囲まれて
おり,解体作業箇所の近傍をごみ収集運搬車
が頻繁に通行し,作業スペースが狭隘である
煙突解体用仮設備配置図を図-3に示す.
○ 旧 3 号焼却炉の建屋の劣化状況,および煙突
外筒コンクリートのクラック発生状況から,
煙突躯体はかなり劣化が進行している.
新 3 号焼却炉
図-3 煙突解体用仮設備配置図
a)狭隘な解体作業エリアへの対応
煙突解体工事では,解体時に発生する粉じん,騒
音の拡散を防止するために煙突外周に高さ約 60m の
解体用枠組足場を設置し,煙突頂部の開口部は,煙
突内部の付着物を除去するまでの間,密封養生する
必要があった.
解体用枠組足場の設置・撤去には,大型クレーン
(150 ㌧以上)を使用する方法がある.本工事にお
いては,ごみ収集運搬車の通行を確保した状態で大
型クレーンを常設することが不可能であった.
足場設置は,休日などのごみ運搬車が通行しない
日に併せて,大組した枠組足場を大型クレーンを用
いて短期間で設置することとした.
しかし,足場の撤去は,煙突外筒の解体と併行し
て実施することから,一括しての撤去が行えない.
そこで,自昇降式小型クレーン(西松建設・北川鉄
工共同開発)を用いた枠組足場の解体・撤去を採用
することとした.
煙突解体用足場断面図,および煙突上部養生詳細
図を図-4に示す.
b)劣化の著しい煙突への対応
解体方法を計画するにあたり,コア抜きによる煙
突外筒コンクリート躯体の強度確認を実施した.そ
の 結 果 , 設 計 強 度 21.0N/mm2 対 し て , 実 強 度
25.7N/mm2という結果が確認され,コンクリート自体
の強度低下は見られなかった.しかし,コンクリー
ト外周面にかなりのクラックが確認されており,コ
ンクリート内部の鉄筋の腐食による強度低下が懸念
された.
煙突外筒
耐火レンガ
下部外径
上部外径
作業エリア
クリーンルーム
エアシャワー
ごみ収集運搬車
通行帯
換気装置
管理区域
水処理装置
煙突
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煙突解体作業時の安全性を確保するために以下の
対策を講じることとした.
○ 煙突内部への作業員の立入りを少なくするた
めに,洗浄は無人高圧洗浄装置を用いる
○ レンガ撤去時は,煙突内部に作業員が入る必要
があるため,煙突外筒部クラック状況を確認しな
がら撤去作業を実施する
○ 煙突に反力を必要としない自昇降式小型クレーン,
ハンドブレーカーなど小型機器を用いて解体する
図-4 煙突解体用足場断面図
(3)解体手順
焼却施設の煙突の一般的構造としては,鉄筋コン
クリート製の外筒の中に耐火レンガが 1条,部分的
に 2条で配置されている.ダイオキシン類等の汚染
物は,耐火レンガの表面,および耐火レンガと外筒
の間に付着している.
そこで,汚染物の除去作業は,管理区域を設定し,
密封養生を行い耐火レンガの洗浄,ならびに撤去を
行う.次に,汚染物除去後は,煙突外筒コンクリー
ト内部を高圧洗浄し,付着物のサンプリング分析結
果に基づき管理区域を解除し通常解体する.
煙突解体手順詳細を図-5に示す.
開 始
図-5 煙突解体手順図
(4)工程(実績)
煙突解体作業において,仮設備設置工から洗浄工
は順調に作業が進んだが,煙突外筒解体工は次の要
因により,当初想定よりも日数を要した.
○ 煙突上部に設置されている補強鋼板(SUS)の解
体・撤去に時間を要した
○ 煙突の劣化の状態が激しく,躯体を大割する
ことができず小分割し解体する必要があった
○ 解体期間中,強風による作業中止が頻繁にあ
った
煙突解体工程表(実績)を表-1に示す.
煙突上部養生詳細図
仮設備設置工
煙突開口部養生工
煙突内洗浄工
煙突内耐火レンガ撤去工
煙突内 2 次洗浄工
自昇降式小型クレーン設置工
煙突解体撤去工(人力解体)
解体用足場撤去工
煙突解体撤去工(機械解体)
仮設備解体撤去工
整 地 工
管理区域内作業
作業前
作業環境測定
サンプリング測定
洗浄作業中
作業環境測定
測定調査
洗浄作業後
59.4m
55.0m
管理区域
12.0m
煙突
煙突解体用枠組足場
5.2m
自昇降式小型クレーン
サンプリング測定
防音シート
養生シート
解体作業エリア
煙突
周辺環境調査
血中ダイオキシン類濃度調査
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表-1 煙突解体工程表(実績)
(5)測定分析
仕様書では,解体工事におけるダイオキシン類の
周辺環境への飛散防止,ならびに作業員へのばく露
防止が求められていた.そこで,汚染物除去作業後
のサンプリング分析調査による除去作業妥当性の検
証,周辺環境調査による周辺環境への飛散防止の検
証,ならびに作業員の血中ダイオキシン類濃度調査
によるばく露防止の検証を行った.
a)サンプリング分析調査
作業環境レベルの設定,解体物の適正処分のため
に解体作業中にダイオキシン類濃度測定を実施する
必要がある.測定方法には公定法と簡易測定法があ
る.簡易測定法は近年開発された手法であり,一般
的には公定法が採用されている.
本工事では,洗浄後の分析結果を確認し,次工程
に取り掛かる必要があった.そこで,発注者と協議
し,公定法と簡易測定法の両方を併行して実施し,
簡易測定法による結果を参考に工事を進めることと
した.測定法比較一覧表を表-2に示す.
表-2 測定法比較一覧表
簡易測定法 公定法
測定精度 測定結果に多少の
ばらつきがある 高い
分析時間 3 日程度 3 週間程度
分析費用* 0.5 1.0
*分析費用は,公定法を 1.0 とした場合を示す.
本工事において,簡易測定法と公定法の測定結果
を比較した結果,概ね簡易測定法のほうが若干高い
値を示した.そこで,公定法の測定値が簡易測定法
より高い場合は,再洗浄し再度分析を実施し,安全
性に対して充分配慮した.
測定値比較一覧表(公定法と簡易測定法)を表-3 に
示す.
表-3 測定値比較一覧表(公定法と簡易測定法)
測定値(ng-TEQ/g) 測定対象
簡易測定法 公定法
煙突内付着物 - 4.5 以上
煙突内耐火物(1 次洗浄後) 0.50 0.21
煙突内耐火物(2 次洗浄後) 0.44 0.02
煙突外筒下部コンクリート 0.08 0.14
b)周辺環境調査
解体工事中の周辺環境へのダイオキシン類の飛散
の有無を確認するために大気質,土壌の周辺環境測
定を実施した.
解体工事中に併行して測定して実施した大気質調
査,ならびに解体工事終了後に実施した土壌測定に
おいて,ともにダイオキシン類濃度は工事開始前の
濃度に比べて増加は見られず,解体工事によるダイ
オキシン類のが周辺環境への飛散がなかったことを
確認した.
周辺環境調査実施状況を写真-2に示す.
写真-2 周辺環境調査実施状況
c)血中ダイオキシン類濃度調査
解体作業中の作業員へのダイオキシン類のばく露
の有無を確認する目的で,作業完了後の作業員の血
中ダイオキシン類濃度測定を実施した.
その結果,すべての検体において一般的な数値内
に入っており,作業員へのダイオキシン類のばく露
が無かったことを確認した.
仮設備設置工
1 次洗浄工
耐火レンガ撤去工
2 次洗浄工
煙突外筒解体工
14 日
実工期 100 日8 日
14 日
4 日
60 日
0 25 50 75 100
延べ日数(日)
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煙突解体状況を以下に示す.
① 煙突開口部養生工
煙突内洗浄工
洗浄後ダイオキシン類測定
3ng-TEQ/g 以下
YES
NO
再洗浄
写真-3 煙突開口補強状況
仮設備設置工
足場組・ばく露防止対策養生設置
煙突内耐火レンガ撤去工
写真-4 解体用枠組足場設置状況 その1
写真-5 解体用枠組足場設置状況 その2
写真-7 耐火レンガ撤去状況
煙突内 2次洗浄工
写真-8 煙突内洗浄状況(高圧洗浄)
洗浄後の煙突内部付着物のダイオキシン類濃度測定によって,ダイオキシン類が除去されたことを付着物のサンプリング分析により確認し管理区域を解除する 写真-6 煙突内洗浄状況(自動高圧洗浄装置使用)
① ②
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② ③
写真-12 煙突外筒解体撤去状況(重機解体)
煙突外筒は GL+12m 位置まで人力にて解体し,それより低部はロングアームの重機にて解体する
煙突解体完了
煙突解体撤去(重機解体) 自昇降式小型クレーン設置工
煙突解体撤去工(人力解体)
写真-9 自昇降式小型クレーン設置状況
4.おわりに
写真-10 煙突外筒解体撤去状況(人力解体) 自昇降式小型クレーンを用いて人力にて煙突を解
体した本工事は,煙突躯体に反力を必要とせず,大
型クレーンの常駐を必要としないことから,安全で
経済的に施工できたと考える.
写真-11 煙突解体用枠組足場撤去状況
煙突用解体足場撤去(小型クレーン使用)
廃棄物焼却施設の解体工事は,近年,全国で年間
約 40 件行われている.一般廃棄物焼却施設は,同
じ敷地内に供用中の焼却施設が併設されている場合
が多く,その場合,解体工事に使用できるエリアが
制限され,狭隘なスペースにおける施工を余儀なく
される.また,焼却施設の煙突は,高温の排気の影
響を受け,劣化が著しいものがほとんどであり,解
体時,煙突に反力を取ることができない.そのよう
な条件下における煙突解体方法として,今回の施工
例が参考になれば幸いである.
③
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