絨毛癌および子宮外(異所性)妊娠の 新たな薬物療法 -...
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絨毛癌および子宮外(異所性)妊娠の新たな薬物療法
秋田大学 医学部附属病院 産科婦人科
講師 河村 和弘
絨毛癌は 妊娠により形成される胎盤trophoblast cell由来の、異形成が高く浸潤性が強い腫瘍である。急速に増殖して早期より血行性転移を起こしやすい。特に肺への転移が多く認められる
絨毛癌
研究背景
子宮の中以外の部分への受精卵の着床によって発症する。全妊娠の約1%に認められ、20%近くの患者が反復する。90%以上は卵管妊娠で、進行すれば卵管破裂→多量出血によるショックとなる場合がある
子宮外(異所性)妊娠
Trophoblast cellの増殖・生存に必要な細胞内シグナルを見つけ、そのシグナルを抑制できれば、絨毛癌および子宮外妊娠分子標的治療薬の創薬につながる
Trophoblast cell由来の絨毛癌Trophoblast cellが子宮の中以外で増殖する子宮外妊娠
Brain-derived neurotrophic factor (BDNF)
neurotrophin familyの1つで、Tyrosine kinase (Trk) B とp75 (p75NTR) を活性化する
BDNFは中枢神経系に広く発現し、神経系細胞の生存や分化に重要である。神経系以外の組織においてもBDNFは重要な役割を持つ。
栄養外胚葉:trophoectoderm (TE)
内細胞塊:inner cell mass (ICM)胎児に分化
胎盤の主に絨毛:trophoblast cellに分化
Blastocyst(胚盤胞):受精卵の最終発達段階
BDNF/TrkBシグナルはTEの増殖・分化を制御する(Kawamura et al. Endocrinology, 2009)
BDNF/TrkB シグナルはTE から分化するtrophoblast cellにおいても細胞の増殖・生存に重要な可能性がある
BDNFNC PL JAR BW
NT-4/5NC PL JAR BW
TrkB p75 NTR
β-actin
BDNF NT-4/5 TrkB
RT-PCR 免疫染色 (JAR)
NC PL JAR BW NC PL JAR BW
NC PL JAR BW
NC: 陰性コントロールPL: 胎盤 (陽性コントロール)JAR: 絨毛癌細胞株; JARBW: 絨毛癌細胞株; BeWo
TrkB リガンドとレセプターの双方は、絨毛癌細胞株 (JAR、Bewo) に発現していた
Scale bars, 20 µm
新技術の基となる研究成果
0
2
4
6
8
10
BeWo JAR
BD
NF
or N
T-4/
5 (p
g/m
g) BDNF
BeWo JAR
NT-4/5
0
1
2
3
BeWoJAR
TrkB
/β-a
ctin
mR
NA
(x 10-4)
Real-time RT-PCRELISA
N = 6, columns, Mean; bars, SE
JARとBewoの双方の癌細胞株でBDNFの方がNT-4/5より多く発現していた
BDNF、 NT4/5、TrkBの発現は癌細胞株で差を認めなかった
内因性TrkBシグナルの阻害による癌細胞株への効果
0
20
40
60
80
100
0
20
40
60
80
100
C
JAR
BeWo
*
*
**
K252a(nM)
K252b(nM)
100 100 500500
細胞数
(コントロール
= 10
0%) *
*
TrkB EC(µg/ml)
1 10
*
*
絨毛癌細胞株培養(48時間):培養液のみ (C), TrkB添加群(TrkB EC), K252a 添加群、K252b 添加群
トリパンブルー色素 排除試験
N = 5, columns, Mean; bars, SE. *, P < 0.05 vs. control group.
TrkB EC: 可溶型 TrkB細胞外ドメインK252a: 汎特異的 Trk 受容体抑制剤K252b: 細胞膜非透過型 K252a
TrkBシグナルの抑制により、JARと Bewoの双方の細胞数が減少した
BeWo
0
1
2
3
4
50
1
2
3
4
5JAR*
**
TrkB EC(µg/ml)
CK252a(nM)
K252b(nM)
100 100 50050010
相対的カスパーゼ
-3/7
活性
**
*
TrkBシグナルの抑制により、JARとBewoの双方のcaspase-3/7 活性が増加し、アポトーシスが増加した
カスパーゼ-3/7 酵素アッセイ
N = 5, columns, Mean; bars, SE. *, P < 0.05 vs. control group.
絨毛癌細胞株培養(8時間):培養液のみ, TrkB添加群、K252a 添加群、K252b 添加群
0
10
20
30
40vehicle
K252bK252a
相対的腫瘍体積
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9(day)
**
*****
In vivo におけるTrk レセプター阻害剤の絨毛癌発育に対する効果
腫瘍体積測定
JAR腫瘍を皮下に形成させたヌードマウスに、腫瘍体積が40~62.5mm3に達した時点で、担体のみ(vehicle), K252aまたはK252b (500µg/kg) を3日毎に注射した
腫瘍体積 (mm3)・ = 長径 x (短径)2 x 0.5
N = 9, points, Mean; bars, SE.*, P ・ 0.05 vs. control group.
K252aによる腫瘍発育抑制効果は投与開始後3日目から認められ実験終了時の9日目まで継続した
0
0.4
0.8
1.2
0.3 0.5 1.0 1.5 2.0
血清
hCG
-ß(µ
g/m
l)
tumor volume (x 103 mm3)
0
0.2
0.4
0.6
vehicle K252a K252b
*
血清
hCG
-ß(µ
g/m
l)
RIA
N = 4, points, Mean; bars, SE.
N = 9, columns, Mean; bars, SE. *, P ・ 0.05 vs. control group.
血清hCG-・ß レベルは K252a or K252b 投与後9日目のマウスにて測定した
血清hCG-ßレベルは腫瘍体積と相関し、腫瘍マーカーとして用いた
K252a 投与は血清hCG-ßレベルを減少させた
vehicle K252a K252b
H&E
PCNA
TUNEL
*
相対的カスパーゼ
-3/7活性
0
4
8
12
16
20
vehicle K252a K252b
N = 9, columns, Mean; bars, SE. *, P ・ 0.05 vs. control group.
免疫染色 および TUNEL アッセイ
Scale bars, 200 µm
K252aは摘出した腫瘍内の細胞増殖(PCNA)シグナル(茶)を減少させ、アポトーシス(TUNEL陽性細胞(緑)とcaspase-3/7 活性)を増加させた
カスパーゼ-3/7 酵素アッセイ
腫瘍の細胞増殖・アポトーシスの組織学的検討、およびカスパーゼ活性の測定はK252a or K252b 投与後9日目のマウスにて測定した
ELISA
real-time RT-PCRBDNF
ヒト妊娠初期絨毛におけるBDNFとTrkBの発現
TrkB
/β-a
ctin
mR
NA
TrkB
0123456
(x 10-4)
6 7 8 9 10 11
Pregnant (weeks)
* *
*
0
100
200
300
400
BD
NF
(pg/
mg)
BDNF、TrkBともにヒト妊娠初期絨毛(正常妊娠・子宮外妊娠)に発現している
免疫染色 (子宮外妊娠)
BDNF
TrkB
BDNF/TrkB シグナル抑制による 絨毛の発育抑制
K252b
Control TrkB EC
K252a
ヒト絨毛組織培養 (96時間後)
TrkBシグナルの抑制により、ヒト妊娠初期絨毛の増殖が抑制され、アポトーシス(TUNEL陽性細胞:緑)が増加した
Control TrkB EC
K252a K252b
TUNEL アッセイ
妊娠初期絨毛
重症免疫不全マウス腎臓被膜下移植
子宮外妊娠の動物実験モデルの作製
ヒト絨毛の正着
小断片化 (5 mg)
1週間
子宮外妊娠治療薬投与
効果判定(組織学的検査・hCGレベル)
BDNF/TrkB シグナル抑制によるマウス腎被膜下に移植したヒト絨毛組織の増殖抑制
vehicle K252a K252b MTX
HLA-G
サイトケラチン
TrkBシグナルの抑制により、生体内でヒト妊娠初期絨毛の発育が抑制(HLA-G、サイトケラチン、hCG)された。その効果はMTXより顕著であった
免疫染色
hCG
-β(µ
g/g 組織
)
0
0.4
0.8
1.2
1.6
2.0
vehicle K252a K252b MTX
*
RIA
従来技術とその問題点
絨毛癌の治療は、現在、メトトレキセート(MTX)、アクチノマイシンーD、エトポシド等の抗癌剤を用いる化学療法によって行われている。しかし、5-25%の患者は抗癌剤により十分に治療されず、あるいは、再発するため、これらの抗癌剤以外の新たな治療法の開発が必要である
子宮外妊娠の薬物療法は、現在、抗癌剤であるMTXによって行われている。しかし、進行した子宮外妊娠には有効性が低い。また、副作用として、口内炎、潰瘍性口内炎、吐き気、嘔吐、胃部不快感等がある。従って、より強力で安全性の高い治療法の開発が必要である
新技術の特徴・従来技術との比較
我々の開発したBDNF/TrkBを標的とした絨毛癌の分子標的治療は、従来の化学療法とは異なったメカニズムで、かつ絨毛癌細胞に特異的に作用することから、より安全で化学療法が効かない患者でも有効な方法となりうる
また、子宮外妊娠においては、従来の抗癌剤であるMTXによる治療法に比べ、強力かつ副作用の少ない薬物療法となりうる。我々の開発した子宮外妊娠の動物モデルはこれまで困難だった薬物療法の生体内での効果判定に有用である
想定される用途
1. 絨毛癌の分子標的治療
2. BDNF/TrkB発現量を指標とした絨毛癌の予後判定
3. 子宮外(異所性)妊娠の薬物療法
想定される業界
• 利用者・対象
製薬企業、創薬ベンチャー企業
• 市場規模
絨毛癌の発生頻度は、全妊娠の0.004%程度である。一方、子宮外妊娠は、全妊娠の1%に認められると報告されている。日本の平成21年度の分娩数は107万人であり、子宮外妊娠だけで患者は年間1万人に上ると考えられ、治療薬の治療規模は、国内で年間数十億円規模と考えられる
実用化に向けた課題
・本研究でTrkBシグナル阻害剤として用いたK252a自体に ついては他者の特許権はないが、合成された既知のK252a誘導体のうち一部については、他者に特許を取得され、臨床試験第Ⅲ相にまで進んだものがある。そこで、特許化されていないK252a及びその誘導体のうち、絨毛癌及び子宮外妊娠の治療剤として最適な化合物を、前臨床試験により選択する必要がある
・実用化のためには、最終的に臨床試験・薬事申請が必要
企業への期待
・K252a及びその誘導体を入手又は合成し、前臨床試験を
行う意志のある企業を求めている
・前臨床試験の後に、次のステップへ進むか、他の製薬
企業へ導出してくれることを期待する
・BDNF/TrkBをターゲットとした抗体医薬又は核酸医薬を
作製する意志のある企業も歓迎する
本技術に関する知的財産権
発明の名称: 絨毛癌の治療剤
出願番号 : 特願2010-185384
出願人 : 秋田大学
発明者 : 河村 和弘
発明の名称: 子宮外妊娠の治療剤
出願番号 : 特願2010-294391
出願人 : 秋田大学
発明者 : 河村 和弘
お問い合わせ先
秋田大学産学連携推進機構産学官連携コーディネーター 特任准教授 佐藤 博
TEL 018-889 - 2712FAX 018-837 - 5356e-mail staff@crc.akita-u.ac.jp