生物の地理学 -...

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生物の地理学 日本と世界の植生分布(12.1) 原植生の衰退(12.2) 日本列島における動物相の成り立ち(12.3) 環境の変遷と生物群の進化(12.4) 生物の分布に対する現在の環境の影響を理解する 生物の分布に対する環境変動の影響を理解する 1/31

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生物の地理学

日本と世界の植生分布(12.1)

原植生の衰退(12.2)

日本列島における動物相の成り立ち(12.3)

環境の変遷と生物群の進化(12.4)

生物の分布に対する現在の環境の影響を理解する

生物の分布に対する環境変動の影響を理解する

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日本と世界の植生分布

世界の植生分布(p119)

植物の分布は「温度」と「降水量」によって決まる(図12.4)

・・・ケッペンの気候区分

日本の植生分布(p117)

「温度」の条件として「温量指数」が良い

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温量指数

降水量が満たされている場合,植生の分布は気温で決まる.

「気温」とは具体的になにを意味するのか?

年平均気温? 年最高気温?

「温量指数」の導入

月平均気温5℃以上の積算温度

15~55℃:常緑針葉樹林

55~100℃:落葉広葉樹林

100~180℃:常緑広葉樹林

日本の植生も温量指数でほぼ説明することができる.

リンゴの耕作地は温量指数60~100℃の範囲に成立している

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現在の日本の植生分布

日本は降水量が多いため,基本的には気温分布で植生分布が決まる.

温度の高い南側から【常緑広葉樹林】→【コナラ林】→【落葉広葉樹林】→【常緑針葉樹林】の順に配列.

高山では気温が低下するため,同じ緯度でも【常緑広葉樹林】→【落葉広葉樹林】→【常緑針葉樹林】 →【高山植生】の順に配列.

降水量が少なく,乾燥傾向にある瀬戸内では,乾燥に強いアカマツ林が成立している.

暗青:高山植生

青:常緑針葉樹林

緑:落葉広葉樹林

黄:コナラ林

桃:アカマツ林

赤:常緑広葉樹林

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世界の中の日本の植生

日本を含む東アジアは,世界的に見ると乾燥している緯度帯にあるので,貴重な森林である.

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「潜在植生」という考え方

植物の分布が温量指数で基本的に決まるのであれば,月平均気温の分布から,代償植生や乾燥による生育抑制,あるいは人間の影響がない「本来あるべき姿の植物分布」が考えられる.

これを「潜在植生」とよぶ.

暗青:高山植生

青:常緑針葉樹林

緑:落葉広葉樹林

黄:中間温帯林

赤:常緑広葉樹林

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氷期の植生復元

気温の低下量を仮定し,氷期の温量指数を算出すると,氷期の植生分布を復元することができる.

東日本のほとんどが常緑針葉樹林となる.

西日本のほとんどが落葉広葉樹林となる.

常緑広葉樹林はほとんど姿を消す.

海面低下を考慮すると,九州の先端部,太平洋岸の半島先端部などに残存していたと考えられている(レフュージアの形成).

暗青:高山植生

青:常緑針葉樹林

緑:落葉広葉樹林

黄:中間温帯林

赤:常緑広葉樹林

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将来の植生変化予測

気温低下時(氷期)の復元ができると言うことは,気温上昇時(たとえば地球温暖化)の予測も可能.

2℃上昇のときの温量指数に基づいて予測した図.

北海道では常緑針葉樹林が消失,東日本では落葉広葉樹林(ブナ林)が中間温帯林(コナラ林)に.西日本では常緑広葉樹林が広がる.

わずかな温度変化が景観と生態系に大きな変化を与える.

青:高山

→常緑針葉樹林

緑:常緑針葉樹林→落葉広葉樹林

黄:落葉広葉樹林→コナラ林

赤:コナラ・アカマツ→常緑広葉樹林

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潜在植生と現植生の比較

暗青:高山植生

青:常緑針葉樹林

緑:落葉広葉樹林

黄:中間温帯林

赤:常緑広葉樹林

人間による植生の改変

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植生の破壊

日本は第二次大戦直後に乱伐で森林面積が少なくなる

現在は増加傾向

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世界の森林減少

現在,先進国への輸出を目的とした森林伐採が東南アジア,アフリカ,南米で伐採が進んでいる

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生物分布と地球環境変動

動物相・植物相に着目したときのアジア(東洋区)とオセアニア(オーストラリア区)の境界→ ウォーレス線 有袋類の存在や淡水魚などでオーストラリア区は独特な生物区となっている.

ウォーレス線とハイデッカー(ライデッカー)線の間が遷移帯となっている.

なぜ,ボルネオやインドネシアはアジア大陸と共通の生物区となり,オーストラリアとは共通ではないのか?

東南アジアの生物区界

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ウォーレス線とスンダランド

ウェーバー線ハイデッカー線

氷期になると,陸上に大量の氷が固定されるため,海水の量が減少し,海面が低下する

海面が低下すると,ボルネオ・スマトラ島はアジア大陸とつながり,ニューギニアはオーストラリアとつながる.

スンダランドと呼ばれる土地

陸がつながると生物の移動が起こるため生物相が一様になる(両生物区の成立).

陸地にならないウォーレス線とハイデッカー(ライデッカー)線の間(ウォーレシア)は生物の移動が少なく,両生物区の混在地域となる.

ウォーレス線

スンダランド

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日本の動物相

日本国内にも,大きな生物区の境界がある.一つは津軽海峡の「ブラキストン線」,もう一つはトカラ海峡の「渡瀬線」

世界自然遺産に登録が決定した小笠原諸島は,本土と陸続きになったことがないため,特有な生態系が発達している→固有種

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ブラキストン線

間宮海峡,宗谷海峡は水深が浅く,最終氷期の海面低下によって北海道はアジア大陸とつながる.

津軽海峡,朝鮮海峡はやや深いため,本州・四国・九州はアジア大陸と直接つながったかどうかまだ不明.

そのため,津軽海峡に生物区の境界<ブラキストン線>が成立.

北海道にはヒグマ・キタキツネ・エゾリス・エゾタヌキ・ナキウサギが棲み,本州にはツキノワグマ・ホンドキツネ・ニホンリス・ホンドタヌキが棲む.

渡瀬線

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本時のまとめ

日本と世界の植生分布

気温,降水量による分布の規定

温量指数という考え方

落葉広葉樹林(ブナ林など)と常緑広葉樹林(照葉樹林)

世界の中の日本の植生・・・東アジアモンスーン

原植生の衰退

開発,森林資源利用による伐採

日本は森林資源が増大傾向にある・・・量ではなく質の問題

日本列島における動物相の成り立ち

氷河性海面変動と動物地理区の成立