第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀...

18
1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1 作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中 国語にも作文という言葉があるのに、両者の意味は必ずしも同じとは限らないからである。 文字だけ見れば、もちろん、両者とも、文(文章)を作ることなのであるが、日本語の「文」 (ないし文章)はセンテンス、つまり「ある思想内容を表わす、完結した形式を備えた、一 続きの語のまとまり」という意味を持っていながら、複数のセンテンスで、まとまった思 想・感情を表したものを指すこともできる 1) 。一方、中国語の“文(文章)”は前者の意味 を持たずに、後者の意味だけを有するのである。ということから、日本語で「作文テスト」 をいう場合、センテンスを作ることと文章を書くことの両方が含まれている。一方、中国 語で“作文(测试)”をいう場合は、“文章”を書くテストの意味しか持っていない。センテ ンスを作ることであれば、中国語では、“造句”という。“造句”は、ふつう一つの単語(特 に連詞や介詞などの虚詞)、あるいは慣用語、四字熟語を使って文を作ることである。 違いはあるにしても日本語で言う「作文」と中国語で言う“作文”とは、共通している ところもある。それは、聞くこと、読むことのように情報を受け取ること、インプットす ることではなく、情報を発信すること、アウトプットする点であり、どちらも音声による ものではなくて、文字に頼って意思表示を表わす点にある。この2点は正に作文の特質で、 作文そのものはこの特質から離れることはできない。 また中国語でいう“翻译”は、日本語の翻訳と違って、通訳のことをも含んでいる。分 けて語る場合は、“笔译”は「翻訳」、“口译”は「通訳」に当たるのである。面接や口頭試 問の場合は、“口译”を行うこともあるが、筆記試験はもちろん、リスニングテストでも、 ふつう“笔译”しかないので、まさに翻訳テストに相当する。ここでは、通訳テストのこ とは触れないことにする。現在行われている日本人を対象にしている中国語試験の中で受 ける人数が最も多いのは中国語検定試験(中検と略称)であるが、その初級(準 4 級)から上 級(1級)まで各級とも日文中訳の翻訳の問題がある。これはいわば、内容を最大限に指定 された作文に等しいだろう。つまり、発信する内容は、指定されたもので、自分自身の考 えや気持ちを勝手に言い表すものではない。この点だけが作文と異なっている。しかし、 文字を使って意思表示をする点から言えば、作文と同じである。 中検 2 級、準1級、1級ではさらに中文日訳の問題もある。中文日訳の試験問題は、中 国語の文章を正確に理解できるかどうか、そして正しく日本語に直せるかどうかをテスト ポイントにしているので、作文とはかなり違うものとなる。HSK の場合は、世界各国の中 国語学習者を対象にしているので、学習者の母語に関係なく、作文の出題があるが、翻訳 の出題はない。これと同じく、翻訳をテストにせず、作文だけの出題をするものに、ビジ ネス中国語検定試験(BCT)というものがある。作文の出題も翻訳の出題もない中国語試験も ある。たとえば日本の中国語コミュニケーション能力試験(TECC)がそれに当たる。これは

Upload: others

Post on 20-Jan-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

1

第7章 作文テスト

顧 令儀

7.1作文テストとは

作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

国語にも作文という言葉があるのに、両者の意味は必ずしも同じとは限らないからである。

文字だけ見れば、もちろん、両者とも、文(文章)を作ることなのであるが、日本語の「文」

(ないし文章)はセンテンス、つまり「ある思想内容を表わす、完結した形式を備えた、一

続きの語のまとまり」という意味を持っていながら、複数のセンテンスで、まとまった思

想・感情を表したものを指すこともできる 1)。一方、中国語の“文(文章)”は前者の意味

を持たずに、後者の意味だけを有するのである。ということから、日本語で「作文テスト」

をいう場合、センテンスを作ることと文章を書くことの両方が含まれている。一方、中国

語で“作文(测试)”をいう場合は、“文章”を書くテストの意味しか持っていない。センテ

ンスを作ることであれば、中国語では、“造句”という。“造句”は、ふつう一つの単語(特

に連詞や介詞などの虚詞)、あるいは慣用語、四字熟語を使って文を作ることである。

違いはあるにしても日本語で言う「作文」と中国語で言う“作文”とは、共通している

ところもある。それは、聞くこと、読むことのように情報を受け取ること、インプットす

ることではなく、情報を発信すること、アウトプットする点であり、どちらも音声による

ものではなくて、文字に頼って意思表示を表わす点にある。この 2点は正に作文の特質で、

作文そのものはこの特質から離れることはできない。

また中国語でいう“翻译”は、日本語の翻訳と違って、通訳のことをも含んでいる。分

けて語る場合は、“笔译”は「翻訳」、“口译”は「通訳」に当たるのである。面接や口頭試

問の場合は、“口译”を行うこともあるが、筆記試験はもちろん、リスニングテストでも、

ふつう“笔译”しかないので、まさに翻訳テストに相当する。ここでは、通訳テストのこ

とは触れないことにする。現在行われている日本人を対象にしている中国語試験の中で受

ける人数が最も多いのは中国語検定試験(中検と略称)であるが、その初級(準 4級)から上

級(1級)まで各級とも日文中訳の翻訳の問題がある。これはいわば、内容を最大限に指定

された作文に等しいだろう。つまり、発信する内容は、指定されたもので、自分自身の考

えや気持ちを勝手に言い表すものではない。この点だけが作文と異なっている。しかし、

文字を使って意思表示をする点から言えば、作文と同じである。

中検 2級、準1級、1級ではさらに中文日訳の問題もある。中文日訳の試験問題は、中

国語の文章を正確に理解できるかどうか、そして正しく日本語に直せるかどうかをテスト

ポイントにしているので、作文とはかなり違うものとなる。HSK の場合は、世界各国の中

国語学習者を対象にしているので、学習者の母語に関係なく、作文の出題があるが、翻訳

の出題はない。これと同じく、翻訳をテストにせず、作文だけの出題をするものに、ビジ

ネス中国語検定試験(BCT)というものがある。作文の出題も翻訳の出題もない中国語試験も

ある。たとえば日本の中国語コミュニケーション能力試験(TECC)がそれに当たる。これは

Page 2: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

2

それぞれの違ったテスト目的によるものである。

7.2作文能力とその測定

どの言語の学習でも同じだが、聞くこと、話すこと、読むこと、書くこと、いわゆる四

つの言語技能(場合によって訳すことも入れて、五つの言語技能)を身に付けることを目的

とする。しかし、四つの言語技能があるとはいえ、学習の難易度から見ても、実用時の要

求から見ても、同じレベルのものとは限らない。李珠、姜丽萍(2008:244)はこの四つの

言語技能の中で、書くことは最も難しいとしている。書くことはほかの三つの技能と比べ

て、より一層厳密性が求められる。つまり、書いたものは意味が通じるだけでは足りなく、

漢字が正しく書かれているかどうか、単語の使い方や、文法の運用など、読み手に何回も

繰り返して吟味させる余裕が必要であり、またほとんどの場合はその場で訂正や補足もで

きないので、より高いレベルが求められる。HSKを例にしてみると、4級から初めてセンテ

ンスを書く問題が出てきて、5級には 80文字くらいの短い文章(ディスコースあるいは段

落)、6級になってようやく文章を書くことが求められている。文章はセンテンスによって

構成されている、しかし、何故 HSK6級になってやっと文章を書くことが求められるのだろ

う。邹申(2005)は作文をするには文字を書く能力、文法の運用、文章の構成などの能力

が関わっているとしている。そのほかに交渉内容を如何にして相手に伝えるかという認知

過程とメタ認知過程も加える必要がある。要するに、言語能力(語彙と文法の知識を運用す

る能力)のほかに、文化能力(本国文化、外国文化、異文化間コミュニケーション)、交際能

力(思想や感情を表現する能力)、コミュニケーションストラテジー、それから文章の構成

や文体、格式を運用する能力なども必要とされている。これらを総合的に運用して、書く

という技能(正しく文字を書き、正しく句読点を使うことなど)を通して表現する過程が文

を作ることなのである。

作文をする以上、文字を書いたり、語彙や文法知識を活用したりすることは不可欠であ

ることは誰でも納得でき、想像できるだろう。一方、なぜまた文化能力、交際能力、文章

構成の能力ないしコミュニケーションストラテジーが必要なのかと疑問を持っている方は

少なくないだろう。実はこれらのものが欠如すると、自分の意思伝達上においては、邪魔

になったり完全に逆効果となったりする恐れがある。どの国にも生活習慣上のタブーがあ

ることはいうまでもないのであるが、こういう文化を知らずに書いた文章にそれが出てく

ると、相手の誤解や不愉快を招くことになるだろう。また、日本人同士では、いくら表現

を曖昧にしても、読み手は書き手の言いたいことを理解できるが、同じ表現を簡単に中国

語に直して作文にしたら、全く理解してもらえない恐れがある。自分の言いたいこと、表

わしたい気持ちを直接に伝達することができない場合は、誰でもあるだろう。この場合ど

のように言いまわしを工夫するか、どのように迂回的な表現を利用して表わすか、などを

考えて適切に対応するにはストラテジーを講じるほかないだろう。まとまったものを述べ

る場合、起承転結のようなものがどうしても必要であり、新年の祝いを何かの返還催促状

と同じように書いてはいけないのも当然であろう。従って、作文の場合はどうしても文章

構成の能力も欠かせない。とはいえどのレベルのテストにとってもこれらの能力を必要と

するとは限らない。言い換えれば、レベルによって測定すべき能力は違ってくる。ここで

は HSKや中国語検定試験の作文問題から第二言語である中国語各レベルの作文の大よその

Page 3: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

3

内容をまとめる。

初級:センテンスを作ることをメインとする。測定内容は文字の正確性;語彙の正確性;

センテンスの構造を中心とする。

中級:短文やディスコースをメインとする。測定内容は初級レベルの内容以外に、実詞

の組み合わせ;虚詞の使用;複文の構造、ディスコースの成り立ち、文と文の関係を加え

る。

上級:文章をメインとする。測定内容は初級、中級レベルの内容以外に、課題分析;文

章の論理性、説得力と交際効果;段落の成り立ち、段落と段落の関係を加える。

実際の中国語作文テストにおいては、問題形式によって評価できる能力がごく一部しか

ないものが多く、評価できる内容もそれぞれ異なっていると思われる。例えば HSK3級と 4

級の“书写”部分では順番を並べかえる問題形式がある。

例(1)

那座桥 800年的 历史 有 了

那座桥有 800年的历史了。

(HSK試験第1回 4級第 3部分)

このような問題形式はすでに使われる単語を提示しているので、測定できるのはセンテ

ンスの構造のみとなる。また、中国語検定試験の「四つの文から正しいものを選ぶ」とい

う問題形式も、これと同じく、センテンスの構造しか測定できないと思われる。

一方、作文能力の構成要素をわりに全面的に測定できる問題形式もあり、HSK6級にある

“缩写”がこの類である。これは、受験者に与えられた文章の主な内容を自らの言葉で書

くという形式となっている。そのために、受験者の言語能力、交際能力、文化能力および

文章の構成能力のほかに、読解能力などの能力をも綜合的に測定することが可能である。

また、同じ自由作文でも、ビジネス相手への手紙と友達への手紙は同じではないので、コ

ミュニケーションストラテジー能力における要求も当然異なってくる。そのために、測定した

い能力や重視したい能力に応じて問題の形式やレベル、内容を設定する必要がある。

7.3テストの目的と採点基準

作文テスト・翻訳テストは受験者の何の力を測るのか、何についての評価なのか。これ

は、テストの種類(性質、目的等)によって異なる。例えば、文の構造を重視するとともに、

漢字の書き方などもテストの重点に含めるものもあれば、文法やセンテンスの構造がより

重視されるテストもある。通常の中国語テストは日常常用されている言葉、表現しか出題

されてないが、ビジネス中国語なら国際貿易実務に関連する表現や専門用語がかなり入っ

てくる。従って、テストをするにあたっては、まず目的と採点基準を決めなければならな

い。

作文テストの採点方法に、エラーカウント評価(error count method)や総合的評価

(impression method)、分析的評価(analytical method)などをあげることができる(刘润

Page 4: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

4

青、韩宝成:2000)。それぞれの採点方法にはそれぞれのメリットやデメリットがある。エ

ラーカウント評価は間違えたところを数えて、減点していく方法で、公平そうに見えるが、

文章の全体的な構成や表現しようとする内容を評価することができない。総合的評価は作

文全体で一つの得点をつける方法で、採点者の考えやその時の気持ち、疲労度によって左

右されることがある。分析的評価は評価項目別に採点する方法で、日常的な教育の中で、

何人かの教師が一つの作文に対して採点することはあまり現実的ではない。しかし、テス

トの目的あるいは使い道から考えて、学習者の学習途中の熟達度や問題点を把握するため

のテストや、受験者のより具体的な能力のランク付けをするためのテストなどは、やはり

各項目の成績をはっきりさせるために分析的評価がよく採用されているようである。

評価項目に関しては、田中・長坂(2006)の評価表では「1 目的・内容;2 構成・結束

性;3言語能力」と大きく三つにわかれ、《国际汉语教学通用课程大纲》ではこれらの内容

に加えて書式も要求される。更に HSK試験や中国語検定試験などのテストで実際に出され

た作文問題の形式を視野に入れて、筆者は次の作文テスト採点項目の表(表 1)を作成し

た。

表 1 作文テスト採点項目

言語 文字の正確性 筆順、画数、字形は正しいかどうか。

筆順は判断しにくい面があり、事実上、画数と字形が採点の

主な根拠となる。字形については、特に簡体字と日本語の漢

字の略字、簡体字と繁体字の違いが重点。発音による漢字書

写の場合、同音字が重点。

語彙の正確性 正確に語彙を使用しているかどうかは、意味、使い方、ニュ

アンス(口語か書面語か、プラスイメージかマイナスイメー

ジか、言語待遇穏当かどうかなど)と三つの面から判定。特

に、類義語の使い分け、同じか似た語彙素を持っている語彙

の混同などが重点。

実詞の組み合わせ 語彙正確性の立場から見れば、使い方の一側面でもあるが、

組み合わせる語同士のことにかかわっていることから、語彙

だけではなくて、文法にもかかわっている。組み合わせるこ

とができるかどうか、共存できるかどうかがポイント。

虚詞の使用 副詞、介詞、接続詞、助詞がともに虚詞テストの重点。誤用

や似たものの識別がポイント。

センテンスの構造 テストの重点は、全体的語順、修飾語の位置、補語、テンス

とアスペクト、連動文、兼語文、存現文、受身文、使役文、

複文など。誤用の性質も考えるべき。

ディスコースの成

り立ち、文と文の関

文と文の関係、その関係を表明したもの、並べる順序などは、

このディスコースの趣旨、内容の段取り、ないし考えの論理

性にもかかわっている。センテンスより大きな言語単位を重

点的に考察して、その完成度を判定する。

Page 5: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

5

段落の成り立ち、段

落と段落の関係

一段落の内容がまとまったものになっているかどうか、段落

分けは適切かどうか、段落と段落の関係は自然かどうか。段

落分けと段落間の関係の出来具合を重点的に考察して、その

完成度を判定する。

内容 課題分析 文章趣旨がはっきりしているかどうか、事象・概念を正しく

説明しているかどうか、因果関係などについての分析が十分

かどうか。重点は試験問題の要求にどれだけ達しているかの

判定。

文章の論理性、説得

力と交際効果

文章全体の論理性が整っているかどうか、伝えたいことは正

確に読み手に理解・納得してもらえるか、必要なストラテジ

ーを講じているかどうか、発信として十分に機能しているか

どうか。重点は交際効果に置く。

そ の

句読符号 句読点及びそのほかの符号の使い方は正しいかどうか。

書式 文章として、特に応用文としての定まった書き方に合ってい

るかどうか。

修辞 基礎的修辞についての知識を活用できているかどうか。

この表では、作文採点の項目、採点原則を並べておいたが、レベルを初中上によって分

けていない。実際に使うときは、各項目全てについて、まず級別によって、3 段階に分け

て、さらに、それぞれA(完璧に近いほどできている)、B(だいたいできている)、C(いち

おうできているが、不十分なところがかなりある)、D(問題が多く、完成まで相当開きが

ある)、E(ぜんぜんできていない)の五つのランク、あるいはA(うまくできている)、B(一

応できている)、C(まだまだできていない)と、三つの段階に分けなければならない。

たとえば、文字の正確性については、次のような分け方が考えられる。

初級:日常常用語をはじめとして、300 くらいの基本語彙をめどに、最も常用される意

味と基本的な使い方を中心に。

中級:常用語を中心とした 1000~1400くらいの語彙をめどに、意味と常用用法及び話し

言葉か書き言葉かの異同を中心に。

上級:3500~5000語をめどに、意味、使い方、ニュアンス各側面から常用類義語等の使

い分けを中心に。

採点する時は、3 ランクにする場合であれば、次のように考えるのが妥当ではないかと

考える。

A意味から見ても用法から見ても、正確で自然。

B不自然なところ、間違ったところがあるが、全体的に見て言いたいことがわかる。

C誤用が多く、全体的に見て意味不明。

Page 6: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

6

特定のテストをする場合、測定目的も要求もより明確なので、より具体的に項目別の評

価基準表を作ったほうが良い。≪国际汉语教学通用课程大纲≫の関係部分は本書の付録と

して付けてある。2)

ここで書いたのは採点項目の基準ではあるが、出題項目の基準でもあり、テストの狙い

でもあると見てよいだろう。

出題する前に採点の項目と基準をはっきりさせ、そして、採点するまでに、受験生が書

いた作文をサンプルとして評価し、採点者全員の考えをできるだけ一致させた上で、細か

い点まで採点法を決め、共通認識をもつという段取りをした方が良い。

7.4よく見られる作文問題――その出題と採点

作文の初級レベルはセンテンスを作ることを中心にしている以上、出題は語彙や文法の

テストとやや重なることは避けられないだろう。この点を踏まえながら、試験の中によく

見られる作文の問題を整理していこう。

作文テストは答えの形式によって大まかに間接測定と直接測定の 2種類に分けることが

可能である(邹申:2005)。

7.4.1間接測定

間接測定は学習者に直接に文を書かせるのではなく、語彙や文法など言語能力を測定す

ることによって、学習者の作文能力を推測・判定できるような問題形式である。このよう

な問題形式はマークシートを利用して採点することが可能である。語彙、文法などの言語

能力は作文能力の基盤と言っても良いが作文そのものではない。いずれも作文能力の一側

面に過ぎず、綜合的な作文能力を測定するには不十分なところがある。測定したい能力に

応じて、問題形式を使い分けする必要がある。実詞の組み合わせ、虚詞の使用やセンテン

スの構造を中心に測定したい場合は「文になるように語を並べる」や「四つの文から正し

いものを選ぶ」という形が多く用いられているが、単語や文法などの言語能力を測定する

場合は「穴を埋める」という形式がある。

A.文になるように語を並べる

【測定可能な能力】

実詞の組み合わせ、虚詞の使用やセンテンスの構造など。

【問題を作成する時の注意点】

先ずテストポイントを明確にすることが第一義になる。つまり、まず何についての測定

か、有効に測定できるかなどを前もってはっきりさせるべきである。例えば、HSK 試験 3

級第 3部分に出された回答例“河上有一条小船。”のように、「存現文」なら「場所を表す

名詞+存在を表す動詞“有”+数量詞+人やものを現す名詞」という構造、語順をテスト

ポイントとする。

また、すべての可能性を想像し、正解を唯一にしなければならない。一見答えが明らか

になっているような問題でも、時には別の答えがあるかもしれない。

例(2)

举行 这次 电影艺术节 在 北京 也许 会

Page 7: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

7

(HSK試験第 2回 4級 91)

例(2)は“也许这次电影艺术节会在北京举行”“这次电影艺术节也许会在北京举行”の

両方とも正解になる。これは、“也许”という副詞は、文頭にも動詞フレーズの前にも来

ることができるからである。この試験問題のテストポイントは、やはりセンテンスの構造

や“也许”“在”の使い方に置かれていると思うが、肝心なところは複数正解になってしま

う。

受験者に書かせて、採点者が成績判定をする場合にしても、二つの正解どれも認めるか、

その中のどれを第 1正解にするか、第 1正解と第 2正解に得点配分をどうするか、などの

ことを事前に定める必要があるし、大規模な試験で複数の採点者が作業するとき採点者の

考えを統一させる必要がある。このような複数正解の出題はできるだけ避けたほうが得策

ではないかと思う。

B.四つの文から正しいものを選ぶ

四つの選択肢が用意され、使う言葉は全く同じで、違うところはやはり語順である。前

の「文になるように語を並べさせる」は受験者に並べさせて書かせる形だが、このタイプ

の出題は並べてあるものを選ばせる形である。

【測定可能な能力】

実詞の組み合わせ、虚詞の使用やセンテンスの構造など。

【問題を作成する時の注意点】

このタイプの試験問題は、客観的テストの形を採っているので、正解が複数であっては

いけない。出題時、テストポイントを明確にすることと同時に、複数正解防止を工夫すべ

きである。それに加え、作文問題を利用し、有効的に測定することが求められている。

例(3)

① 他上月往我借了一万日元,现在居然不认账了。

② 他上月向我借了一万日元,现在竟然不认账了。

③ 他上月对我借了一万日元,现在竟然不认账了。

④ 他上月从我借了一万日元,现在居然不认账了。

(中国語検定試験第 80回(2013年 6月)2級筆記 2 の 1、(3))

四つの選択肢を比べてみたところ、違うところは 2箇所しかない。前半は介詞の“往”、

“像”、“对”、“从”、後半は副詞の“居然”、“竟然”である。つまり、この問いの

テストポイントは語順やセンテンスの構造ではなくて、単語の使い方に置かれている。単

語の用法と言っても、後半は異なる語が二つしかないから、これによって前半の正誤を決

めるほかない。すなわち、この問いのテストポイントは介詞の使用 1箇所に限定されてい

る。介詞のマスターを測定するための問いとしては全く問題ないが、作文テストとしては

すこし不十分ではないかと思われる。

C.単語や文法を穴埋める

Page 8: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

8

穴埋めの形の出題はフレーズやセンテンスにもよく使われるものであるが、それらは、

かなり単純な単語用法に過ぎず、作文能力測定には適切とはいえない為、ここでは触れな

いことにする。

ここでいう穴埋めはディスコースに穴を開け、学生に前後の文脈に踏まえて最も適切な

答えを選んでもらうことによって、単語や文法などの言語能力を測定することに絞る。

【測定可能な能力】

実詞の組み合わせや虚詞の使用、センテンスやディスコースの理解、作成。

例(4)

問:每段文字中有若干个空儿,每个空儿右边有 ABCD四个词语,请选择最恰当的词语。

答案请涂在答卷上。

大学生打工不用交税吗?这个最近被激烈讨论的(73)其实暴露出人们对中国税收

(74)的无知。北京地税局的通知上(75)写着:大学生打工收入应该交税。也就是(76),

大学的打工收入并未被排除在个人所得税的征收范围之(77)。大学生交税不是用不用交

的问题,(78)交多少的问题。

73 A意见 B建议 C难题 D话题

74 A历史 B计划 C制度 D机构

75 A果然 B明明 C似乎 D也许

76 A说 B问 C写 D想

77 A内 B外 C中 D后

78 A就是 B还是 C而是 D或是

(『ビジネス中国語検定試験要綱 公式試験ガイドブック』第 2部分 p47)

例(4)の場合、(73)(74)(76)(77)の四つの穴を埋めるのは、名詞・動詞などいわゆる

実詞である。(75)は動詞のすぐ前に来るもので、副詞の穴埋めであって、(78)だけが文

型にかかわっている。全体的に見れば言語能力測定のテストだが、文脈、ディスコースに

かかわっているから作文についての間接的測定と看做してよかろう。

【問題を作成する時の注意点】

このタイプの問題を作成する時、語の組み合わせだけで決められるものばかりでは、作

文能力の判定にはあまり十分ではない。複文の構成やディスコースの成り立ちをも視野に

いれて出題したほうが良いだろう。場合によって、複数正解も可能(例えば“无论…也”

“无论…都”“不管…也”“不管…都”どれも言える場合)であるが、中級レベルでは、そ

の微妙な違いを無視して同じように認めることもよいが、上級レベルでは、文体上の差異

などを考えて、点数の違いを事前に定めなければならない。

7.4.2直接測定

直接に学習者に文を書かせる測定形式が直接測定と呼ばれる。直接測定はテストの有効

性を高めることができるが、デメリットがないわけではない。それは周知のように正解を

ひとつしか認めない機械(学習者の答えを書いてあるマークシートを読めるカードリーダ

Page 9: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

9

ー)による採点ではなくて、採点者の主観的判断による採点方式を取る問題の形式となるか

らである。村上(2007)は、作文テストのようなパフォーマンス評価は、ある特定の具体

的な課題が与えられ、その課題に応じた遂行行動が評価の対象となるため、個々の課題に

よって結果が変動するのは避けられないとしている。そのため、ある程度の規模のテスト

になるとたいてい複数の採点者が採点を実施するが、この場合、理念、観点、考え方が完

全には統一できないことは免れないのである。したがって、同じ回答に対する採点が、違

ってくることもよく見られ、厳密に言えば公平公正には欠ける可能がある。

よく見られる直接測定問題の形式は以下のようなものが挙げられる。一言で直接的測定

といっても、問題の形式によって主観的問題と制限ある主観的問題に分けることが可能性

である。

7.4.2.1主観的問題

作文のタイトルや内容、あるいは使う単語や設定場面を決めて、受験者に作文させるテ

ストである。これは文法・語彙などの言語能力ばかりでなく、交渉の完成度や書式、全体

的な印象、論理性、文化習慣、コミュニケーションストラテジーなどの側面から採点を行

う問題形式である。

D.指定語句を使う作文

与えられたすべての単語を使って、短い文章を書かせる問題形式である。出された単語

に対して、どこまで理解・活用できるか、これらの言葉を利用して、想像した内容を文で

表現できるかを通して作文能力を判定することが目的である。

【測定可能な能力】

語彙や文法に対する運用や、ディスコースの構成など。

例(5)

请结合下列词语(要全部使用)写一篇 80字左右的短文。

宿舍、理解、开心、坦率、帮助

(HSK試験第 2回 5级第 3部分 99)

【問題を作成する時の注意点】

指定語彙を利用して作文させる試験問題では、指定される語彙は、明確な目的があるの

がふつうである。“宿舍”は場所を設定し、“理解”、“开心”、“坦率”、“帮助”は

人間関係を暗示している。同じ宿舎の人間関係を想定して、出題された作文の題だろう。

つまり、出題する時、出題者の頭の中にすでに、「誰」が「どこ」で、あるいは「どんな時」

に「何をしている」という場面がいくつか予想されている。

問題に出された単語は、受験者の身近で起きてすぐに連想できそうなものを選ぶ必要が

ある。また、五つの単語は名詞だけにとどまらずに、関連性のある動詞や形容詞を入れた

ほうが受験者が連想しやすいと思われる。

【採点時の注意点】

採点者が自分の想定した場面に基づいて採点することは逆に禁物となる。設定した場面

と異なる答えであっても、文章の趣旨、言葉の使い方、そして文章の成り立ちなど、前述

の書く項目の甲乙を判定すべきである。

Page 10: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

10

E.指定場面による作文

1枚の図または写真を受験者に与えて、この図(写真)について短い文章を書かせる問

題形式である。

【測定可能な能力】

語彙や文法に対する運用や、ディスコースの構成など。

例(6) 请结合这张图片写一篇 80字左右的短文。

(HSK試験第 2回 5级第 3部分 100)

【問題を作成する時の注意点】

指定語彙作文よりは設定条件は緩やかであるが、基本的に展開可能な図でないといけな

い。例題の場合、「一人の女性が電話をかけている」という場面の指定だが、これだけでは、

80文字の文章を作ることはできない。電話をかけている女性はどんな人か、誰にかけてい

るか、なんのためにかけているか、相手からどのような返事をもらっているか、それにつ

いて女性がどう思うか、などを展開する余地があると思われる。

受験者の想像に任せているので、標準答案のようなものは全くないとはいえ、意味が連

想しにくい図形や、抽象的な絵は避けるべきである。目的は受験者の語学力を測定するの

だから、できる限り受験者にはっきりしたヒントを与えることが大事だと思われる。

【採点時の注意点】

採点については、標準答案がないとしても、やはり文の趣旨はどうか、文章構造はどう

か、各文に文法的間違いはないか、言葉の使い方はあっているか、文字表記は正しいかな

どが、採点の重点的な基準だろう。

F.場面や人物関係を設定した作文

もっともよく見られるのは日常応用文である。これは、書き手、読み手をはっきり設定し、

決まり文句や固定書式で文を書かせる問題形式である。

【測定可能な能力】

語彙や文法に対する運用、ディスコースの構成、書式、異文化の対する理解など。

例(7)

趙先生歓送のための晩餐会は、予定通りに 3月 18日に開催するが、参加者が予想

以上に多いため場所を変えることにした。晩餐会の開始時間と場所は次のように決ま

Page 11: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

11

った。

時間 3月 18日(土曜日)夕方 18時 30分

場所 西京大通 2-12 友愛館 2階

問:変更の内容を参加予定の先生方々、クラスメートにメールで知らせなければなり

ません。先生方、クラスメートそれぞれに対するメールを書いてください。

要求:メール 2通 各 250字以内。(筆者案)

【問題を作成する時の注意点】

先ず、両者の立場や関係によって、使う言葉も、交渉の仕方も異なってくるので、出題

する時には、測定したいものを明確に決める必要がある。しかし、同じ内容を相手に応じ

て異なる表現で伝えるのは母語者にとってもかなりハードルの高いことで、上級レベルに

達してない受験者には不向きな問題形式になる。また、特定の場面を設定するという問題

の形式だが、受験者がそのような場面の話題についてよく知らなければ、作文できないの

で、この類の問題形式を採用するときは、第二言語の学習者が既に言葉遣いや書式を十分

学習しているということが前提である。

【採点時の注意点】

書き手、読み手がはっきりしているので、2 者の関係、立場の違い、待遇表現をうまく

扱えるかどうかがこの試験問題の狙いである。例(7)で同じ内容のメール 2通を課題にして

いるのは、正にこの狙いの表れである。そのため、意味が通じるだけではものたりないの

で、適切な言葉や言い回しができているかどうかも採点の項目に入る。この例の場合、ク

ラスメートに対しては“晚餐会的地方变了。”と軽い口調で書いてもまったく問題がない

が、参加する先生宛への連絡であれば、ふさわしくないのは明らかである。また、言葉の

使い分けができても、重要なことを伝えたかどうかも採点項目となる。つまり、経緯を十

分にわかった上で伝えたい内容を明確に伝えることが重要である。3 点目は、形式上、決

まった書式を守っているかが採点の基準になる。

H.書き抜き

長い文章を学生に与え、規定時間内にその主な内容を受験者に書かせる問題形式である。

普通は自分の観点を入れる必要がない。

【測定可能な能力】

読解能力を始め、語彙や文法に対する運用、ディスコースの構成、段落と段落の関係な

ど綜合的な能力。

【問題を作成する時の注意点】

書き抜き形式の問題の前提は、まず受験者に与えられた短文を十分に理解させなければ

ならない。そこでどんな短文が題としてふさわしいかを検討してみよう。まず、ストーリ

ーのない文章や専門性の強い文章は避けたほうがよいのだろう。ストーリーがないと、あ

らすじを把握しにくく、書き抜きをするのは難しいと思われる。例えば、《荷塘月色》のよ

うな有名でうつくしいエッセイの場合、周りへの描写が細かい美文だが、わりにストーリ

ー性が少ないため、主旨を 400字に要約せよといわれても、母語者ですら難しく感じるだ

ろう。またあまりにも専門的な文章には専門用語が多く含まれていて、一般の受験者に縮

Page 12: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

12

写させるには適切ではないだろう。受験者の理解に影響のない程度で、日常的な言葉で書

かれたもので、ストーリー性のある短文が望ましい。中には非常に難しい言葉が使われて

いてもかまわないが、受験者の理解には支障にならないことが原則になる。

また、出題時には、書き抜くべきいくつかの点を明確にすると同時に、受験者の読解レ

ベルを考慮し、それに応じて文章を選ばないといけない。

【採点時の注意点】

短文のあらすじ、趣旨を把握することを一番重要視すべきだろう。短文中に使われてい

る単語や文法はそのまま使ってもかまわないし、受験者の得意な表現で書いてもよい。“缩

写”した結果である 400字くらいの「答え」に高難度の表現を使っているかどうかは、ふ

つう採点の対象にはならない。与えられた文章を適切に要約しているかどうかに注目して

いるので、読解能力と作文能力両方によって得点を定めるべきであろう。書くという言語

能力の測定ができる点は間違いではないが、それほど単純的なものではいないと思われる。

Ⅰ.タイトルを出して、文章を書かせる

題を出して、文章を書かせる形である。

【測定可能な能力】

総合的な作文能力を判定できる試験問題と思われる。

【問題を作成する時の注意点】

このような命題作文は、作文の最上級になる。最上級の作文テストであるからといって、

どんな題を出してもよいという訳ではない。受験者が準備をしなくても、いままで経験し

たことを書かせるのが普通である。

例(8)

① 最让我难忘的一位老师

② 想念妈妈 (筆者案)

以上の題を見てわかるように、①は、ある教師についての描写であるが、人物描写より

事を選んで描写することがより大事なので、それを通して読み手の心をつかめるよう、工

夫してもらうのが出題者の狙いとなる。②も人物描写のように思われるが、感情を述べる

ことを第一義にするべきだろう。いずれも誰でも書けるような題である。しかし、次のよ

うな題はいかがであろう。

③ 我的留学生活

④ 试论未来一年经济走向

受験者が全員留学経験を持っているならば、③は問題がないが、多人数の受験者がいる

場合、必ずしも全員が留学経験を持っているとは限らないので、“我的留学生活”は適切な

題とは言い難い。一方“试论未来一年经济走向”はあまりにも専門的過ぎて、作文能力の

測定というより、専門知識を駆使して論文を書かせているような感じがする。このように

専門性が強い題は出さないほうがよいであろう。

Page 13: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

13

【採点時の注意点】

総合的な作文テストの採点では、内容を重視し、それと同時に、言葉使い、文の構造、

段落の成り立ちなども全面的に考慮しなければならない。

7.4.2.2制限ある主観的問題

制限ある主観的問題の代表的な出題形式は、翻訳である。使われる語彙や文法、伝えよ

うとする内容などあらゆる側面に制限を設け、学習者の作文に対して主観的採点をする問

題形式である。作文テストの中で、もっとも学習者の言語能力を測定できる問題形式とも

思われる。しかし、自分の意思を相手に伝える交際能力、文化能力、コミュニケーション

ストラテジーは勿論、文章を構成する能力でさえ測定しにくいのである。中国語検定試験

の場合、各級の筆記試験の第 5問(翻訳)はこのようなものである。

G.日本語の文を訳させる

日本語を受験者に与えて、それを中国語に翻訳させる問題形式である。

【測定可能な能力】

語彙ないし熟語、成語や、文法構造とその運用能力、複文ないしディスコース、場合に

よって専門知識や、文化能力、コミュニケーションストラテジーなど。

【問題を作成する時の注意点】

中検の初級・中級は、だいたい短い文の翻訳で、上級になるほど、長くて難しくなって

くる。いずれにしても出題者は予め測定したいポイントを設定し、使用する文法や単語を

想定する必要がある。

【採点時の注意点】

テストポイントを中心にして採点を行うが、簡単に答えを一つしか認めず、あとは 0点

にするべきではない。例えば

例(9)

(1)~(5)の日本語を中国語に訳し、漢字(簡体字)で解答欄に書きなさい。(漢字は崩

したり略したりせずに書き、文中・文末には句読点や疑問符をつけること。)

(1)兄は絵がとても上手です。

(中国語検定試験第 83回(2014年 6月実施)3級筆記の第 5問 抜粋)

この問題の答えとしてよく見られた中国語訳文には、次のような三つがあった。

a哥哥画画儿很好。

b我哥哥的画儿画得很好。

c我哥哥画画儿画得很好。

出題者の狙いは、「動詞+目的語+同じ動詞+補語(“得”+〔副詞+〕形容詞)」とい

う構造だそうである。テストポイントから言えば、全体的には、「兄は」を主語として訳さ

なければならないこと、また、「絵がとても上手です」を“画画儿画得非常(あるいは“很”

など)好”と訳してほしいのである。以上三つの答えを見てみれば、aは、肝心な動詞“画”

が 2 回出てきてほしいのに、1 回しか使ってないし、期待している補語(“得”+〔副詞

Page 14: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

14

+〕形容詞)も答えてないから、5 点満点とすれば、3、4 点は減点されるであろう。b の

答えの中で、もっとも問題となったのは主語が“哥哥”あるいは“我哥哥”ではなくて、

“我哥哥的画儿”となっていることである。“哥哥”あるいは“我哥哥”が主語になった

ら動詞“画”が 2回出てくるべきだが、この文では構造が違うので、“画得很好”でかま

わない。5点満点とすれば、3点は減点されるであろう。cは正解となる。“我哥哥”を“哥

哥”だけにしても大丈夫で、“很”を“非常”などにしても認められる。

7.5作文テスト・翻訳テストについての出題心得

7.5.1テストの性質と狙いを明確にしておくこと

ほかの部分でも触れたと思うが、テストの性質や狙いが異なると、出題の仕方もだいぶ

違ってくる。入学入社のテストなら、学校や会社の性質によって違うところもあれば、特

定の試験によって一発選抜を行うこともある。前者は要求に応じて、試験問題の独自の特

性がないといけないが、後者は得点の開きを大きめにする必要がある。学習途中のテスト

なら、この段階の勉強振り、教えたものをどれくらい理解して活用できるかがテストの狙

いになるから、作文にかかわるすべての能力を測る必要はないし、事実上不可能でもある。

ランク付けのための検定試験なら、各段階にそれぞれ言語能力やほかの能力への要求が同

じではないから、それぞれのレベルにあった出題でなければ、テスト自体も無意味になる。

合否判定、単位承認か否かのためのテストの場合、まず、合格基準、単位取得の基準をは

っきりさせて、出題はこれに合うようにしなければならない。

7.5.2適切な問題形式を選定すること

邹申(2005)は 1回の作文テストではあらゆる面の書く能力を測定することはできない

とし、受験者の状況やテストの目的に応じてテストの内容を確定すべきだと論じた。作文

テスト、翻訳テストの形式はたくさんあるが、大よそ次のようなものである。

① 語彙能力を中心とした作文試験:実詞をはじめ単語の穴埋め

② 文法能力を中心とした作文試験:虚詞の穴埋め、語順、位置

③ 文化能力を兼ねて測定する作文試験:指定語彙利用の作文、図・場面など設定した作

文、応用文作文、命題作文

④ 交際能力を兼ねて測定する作文試験:読み手がはっきりした作文、応用文作文

⑤ コミュニケーションストラテジーを兼ねて測定する作文試験:読み手がはっきりした

作文、応用文作文

⑥ 文章構成の能力を兼ねて測定する作文試験:複数のセンテンスからできた作文、複数

の段落からできた作文、命題作文

⑦ 読解の能力を前提とした作文試験:縮写、返答内容の作文

7.5.3テストポイント、難易度を合理的に設定すること

試験問題を作るとき、まずテストポイントをはっきりさせなければならない。テストポ

イントとは、何のためにこの試験問題を作るか、つまり受験者の何の知識、あるいは何の

能力をテストしたいかであり、試験問題を作るたびに、この点を明確にするべきである。

そして、1問題にテストポイントは一つ、多くとも二つにしたほうが良かろう。1問題にテ

ストポイントが二つ置かれた場合、テストの狙いによって、前もってどちらが第 1位(メイ

ンポストポイントとも言える)で、どちらが第 2位(サブテストポイントとも言える)である

Page 15: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

15

のかを設定したほうが良い。受験者の力を判断する上でも採点の時のトラブルを防ぐ上で

も意義があり、必要である。

1 回の試験で出題する問題の量も考えるべきであるが、これは、テストの試験目的、今

回の試験と前の試験との関係、次の試験との関係、全関連のなかにおける今回試験の位置

づけ、試験の内容、試験実施の時間などによって違ってくる。試験問題が多すぎると、所

定時間内に答えられないこともありうるし、少なすぎると、回答の早い受験者にとっては

十分に自分の力を発揮できなくなるので、両方とも公正さ、公平さに欠ける。

1 回の試験にはふつう試験問題が複数あるはずだが、複数の試験問題、複数のテストポ

イントの全体的なバランスを講じなければならない。同じテストポイントが重複してはよ

くないし、試験目的から考えて出すべきものが出てこないことも大問題になる。作文試験

の場合は、テストしたい能力が全部網羅されているか、それぞれの子項目が試験目的に合

っているか、各テストポイントのばらつきがどうかなどのことを考えるべきであろう。

テストポイントを決める場合、それぞれの難易度も考えるべきである。1 問ごとの難し

さよりも全体的難易度がもっと重要になる。これは、今回試験の受験者の成績にかかわっ

ているだけではなく、今回試験全体の、ないし数年間にわたる試験の公正さ・公平さに関

係しているからである。難易度のバランスを考えるとき、問題の難しさを、いくつかの級

(たとえば、Aもっとも難しい、Bやや難しい、Cふつう、Dやややさしい、Eやさしい、

の 5段階、あるいはA難しい、Bふつう、Cやさしいの 3段階)に分けて、仮に想像して、

そのバランスを図ってみよう。

テストポイントのバランス及びテストポイントの難易度を把握するには、以下のような

表を利用するのが有効的であろう。

例(10)

(1) 姉はカナダの大学で物理学を 2年間勉強しました。

(2) 山田君は一人で行ったのではなくて、木下君といっしょに行ったのです。

(3) この美術館では写真を撮ってもかまいません。

(4) 最近ますます暖かくなってきました。

(5) そこでお茶でも飲みながら話しましょう。

(中国語検定試験第 85回 3級筆記第 5問・2015年 3月実施)

表 2 テストポイント分布

試験問題番号 テストポイント 1 テストポイント 2 難易度ランク

(1) 学了两年(2 年間勉強しまし

た)

語順 B

(2) “是~的”構文 不是~而是~(~ので

はなく~です)

(3) 可以(~てもかまいません) A

(4) 越来越(ますます) B

(5) 一边~一边~(~ながら~) C

Page 16: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

16

7.5.4 答えてみて、答案のチェックをする

出題を終えれば万事終了と考えてはいけない。せいぜい 60%のことしかしていないと考

えてほしい。少なくとも、次の点につて検討が必要であろう。

・答えてみて、テストポイントになるかどうか。

・答案は複数が出てはいけないので、答案の唯一性が保証されているかどうか。

・難易度は最初の想像と一致しているかどうか。

・前回・前々回との比較をして、テストポイントはバランスが取れているかどうか、難易

度はだいたい似ているかどうか。

7.5.5 客観的試験の正解の分布をチェックして、主観的試験の答案要点を再検

討する

客観的試験は、ふつう 4択(四つの選択肢から正解を選んでもらう)の形を採るが、まれ

に3択(三つの選択肢から正解を選んでもらう)や5択(五つの選択肢から正解を選んでもら

う)の形を採ることもある。同じ形の試験問題が 5問あるいは 10問あるなら、正解答案の

分布を考えなくては、最終的の成績は不公平になる恐れがある。

主観的試験の場合、統一した答案はありえないのであるが、採点上の不公平・不公正を

防ぐために、答案要点を事前に定めなくてはならない。少なくとも、文章趣旨は明確か、

文章展開は明快か、文章構成は穏当か、段落配分は適切かなどが必要であろう。

7.5.6 同時に 2部作る

追試験や臨時事情のため、同じ試験目的、似たテストポイントを持つ、難易度がだいた

い同じ試験問題を用意しなければならない。従って、同時に 2部作るのが原則である。

1) 『岩波国語辞典第7版』(2009.11.20.岩波書店 p.1329)

2) 書く技能に対する要求。(孔子学院总部/国家汉办编 2014.《国际汉语教学通用课程大纲》.北京语言

大学出版社.p1-35)

1级 能模仿写出课堂所教授的规定的基本汉字,书写基本正确,能用拼音写出简单的词句。其中

包括:

1.能用正确的笔顺抄写汉字;

2.能填写最基本的个人信息,如姓名、国籍等;

3.能书写学过的最简单的日常生活用语和日期、时间、数字等;

4.能正确书写社交场合中的简单用语,如贺卡上的祝福语等。

2级 能默写规定的基本汉字,掌握笔画和笔顺,能写出一些自己造的句子。其中包括:

1 能用简单的词语填写、表达与个人生活密切相关的信息;

2 能用简单的词语或句子表达感谢、道歉、祝贺、告别等简单信息;

3 能记录、填写或抄写与家庭或个人生活密切相关的基本信息;

4 能用书面的形式简短回答与个人生活密切相关的简单问题。

3级 能用简单的词语填写或描述与个人生活密切相关的信息;能用最基本的词语或句子就一般场

合下熟悉的话题进行简单的书面交流;能组织简单的段落。其中包括:

Page 17: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

17

1.能用简单的词语填写、回答或介绍与个人生活密切相关的信息;

2.能用最基本的词语或句子就一般场合下熟悉的话题进行简单的书面交流;

3.能就一般社交场合下熟悉的话题书写简短的信息;

4.能记录、抄写或填写事实性或说明性信息;

5.能组织简单的段落叙述或描述个人生活、家庭生活及学习生活;

6.能编写小故事、撰写简单的计划。

4级 能就基本的日常学习、工作或社交话题进行描述,能按一定格式书写简短的篇章,传递或表

达恰当的信息。其中包括:

1.能根据所读或所听材料做简单的记录,概括出大意;

2.能就个人经历或熟悉的有关学习、工作或社交话题做简单的成段描述,语句基本通顺,表

达基本清楚;

3.能填写简单的工作表格和计划书等;

4.能根据简短的口头报告或参考资料整理出简单的笔记;

5.能在两事物之间进行对比描述;

6.能撰写日记,语句基本通顺,表达基本清楚,且具有一定的连贯性。

5级 能就特定的话题进行描述、记录或说明,撰写相关的文件或文章,语句通顺;能正确反映客

观情况,准确地表达自己的观点。其中包括:

1.在口头交际的基础上,就一些特定话题与他人进行书面交流;

2.表达个人的意见与看法,所写言之有物,语句通顺,语篇连贯;

3.会写一般应用文或一定工作范围内的工作文件,格式基本正确,语言表达清楚;

4.能就所听或所读的材料进行总结,有条理地写出摘要或简要报告;

5.能撰写简短的一般性文章,就某些具体或抽象话题进行描述、阐述或说明,用词恰当,表

达通顺,能正确反映事实,清楚地表达自己的观点。

参考文献

日本語:

工藤洋路、根岸雅史 2002.「自由作文の採点方法による採点者間信頼性について」annual review of English

language education in Japan,Vol.13:2 p91-100

国家汉办/孔子学院总部、株式会社スプリックス 2014.『中国語検定 HSK公式過去問集』3級、4級、5級、

6級.株式会社スプリックス

関正昭、平高史也編 2013.『テストを作る』.スリーエーネットワーク

田中真理・長阪朱美 2006.「第二言語としての日本語ライティング評価基準とその作成過程」国立国語

研究所編『世界の言語テスト』くろしお出版.P253-276

中国・国家漢語国際普及指導グループ弁公室、北京大学・ビジネス中国語能力試験研究開発弁公室 2008.

『ビジネス中国語検定試験要綱』.日本BTC事務局 セリングビジョン株式会社

中国語コミュニケーション協会編 2012.『TECCオフィシャルガイド﹠最新過去問題』.朝日出版社

松岡榮志、木村守 2009.『中国語作文 1025題』.株式会社イースト・プレス

村上京子 2007.「作文の評価との関連要因」藤原雅憲・堀恵子・西村よしみ・才田いずみ・内山潤編『大

学における日本語教育の構築と展開』.ひつじ書房.P133-147

Page 18: 第7章 作文テスト · 2018-03-29 · 1 第7章 作文テスト 顧 令儀 7.1作文テストとは 作文テストに触れる前に、まず作文の意味を明確にしておきたいと思う。日本語にも中

18

中国語:

孔子学院总部/国家汉办编 2014.《国际汉语教学通用课程大纲》.北京语言大学出版社

李妍编著 2005.《HSK捷径:汉语水平考试应试对策与考点精炼》.北京大学出版社

李珠、姜丽萍 2008.《怎样教外国人汉语》.北京语言大学出版社

刘润清、韩宝成编著 2000.《语言测试和它的方法》.外语教学与研究出版社

王佶旻 2011.《语言测试概论》.北京语言大学出版社

杨翼 2010.《对外汉语教学的成绩测试》.北京大学出版社

张斌主編 2004.《简明现代汉语》.复旦大学出版社

邹申主編 2005.《语言测试》.上海外语教育出版社

付記:本稿は、科学研究費助成金基盤研究(B)「コンピュータ適応型中国語テストの開発

と検証」(研究番号 15H03225)による研究成果の一部である。