場所と課題の複合操作による 文脈依存記憶 › isarida › lab › pdf ›...
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記憶について
》 エピソード記憶:出来事の記憶・思い出▷ 焦点情報(focal information)
▷ 文脈(context)
》 異なるタイプの文脈▷ 情報の種類▷ 変動の速さ▷ 連合する範囲
》 処理している情報から生まれる、意味的、言語的情報から成る文脈→意味的文脈
》 出来事が起こっている場所の物理的特徴に関する文脈→環境文脈(本研究ではこちら)
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構成の特性が異なる
文脈
焦点情報
環境的文脈とは
》 日常記憶で重要な役割
》 エピソードの全要素と連合、特徴づける
= エピソードの区別に有効
》 環境的文脈の標準的操作方法は確立されていない› Ex. コンピュータ画面の視覚的特徴、BGM、匂い
》 環境の物理的特徴を操作することで、環境の物理的特徴以外の心的要因が文脈依存記憶を生む
› Ex. Eich(1995)、Isarida & Isarida(1999a)
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実験の概要
》 目的
▷ 個々の文脈要素やそれらの組み合わせが、どのように記憶に影響するかを調べる
▷ 心的要因におよぼす各要素とその組み合わせの効果を調べる
自由再生テスト後に心的要因に関する尺度の評定を行う
》 環境的要因▷ 2要因(場所、課題)
› 場所:主に環境的文脈操作に使用
› 課題:実験内容の認知に最も影響する要素
符号化課題と一緒に遂行される副課題を、課題要素として使用
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実験1~3の目的
》 実験1
▷ 場所と課題の複合操作が
自由再生と心的要因におよぼす効果
自由再生と心的要因の評定結果との関連性
》 実験2
▷ 場所単独の効果
※課題要素を文脈操作から排除
》 実験3
▷ 課題単独の効果
※学習時の場所が検索手がかりとならないように学習時とテスト時の場所を異ならせる
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実験1:計画 ①
》 実験計画▷ 学習文脈(A,B)×テスト文脈(A,B) の2要因参加者間計画
》 実験参加者▷ 静岡大学生 60名
▷ 2×2の群にランダムに割り当て
》 実験材料▷ 漢字2文字熟語20個
› イメージ価、具体性が5.00以上(小川・稲村、1974)の中から、相互に無関連になるように選出
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実験1:計画 ②
》 文脈▷ 文脈A…場所Aと共存課題A
▷ 文脈B…場所Bと共存課題B から成る
› 場所A…ベージュの壁、3枚の灰色の衝立で囲まれた部屋のコーナー(200×200cm)、薄暗い照明、PC、マウス、小さなテーブル、椅子など
› 場所B…明るい照明の子供用プレイルーム(550×520cm)、多くのおもちゃが散乱、大きな窓など
› 共存課題A…計算課題
1桁数字の3項の加減算 答の下一桁の数字キーを押下
正答「ピッ」、誤答「ブー」
› 共存課題B…動作課題
割り箸を使い、金時豆を1個ずつカップからカップへと移す作業
※共存課題A,Bの制限時間はともに30秒
共存課題: 符号化課題やテスト課題の前後に行わせる課題
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実験1:手続き [符号化課題]
》 20項目の符号化▷ 4項目×5ブロックに分ける
▷ 各ブロックは30秒提示
› 前半20秒で考え、後半10秒で口頭報告
▷ 各ブロックの項目を用いた簡単な文の作成
▷ 文脈Aにおいて
› 項目はPCのディスプレイに提示
› 報告開始「ピーン」、画面下方に「文を言ってください」
▷ 文脈Bにおいて
› 項目は実験者がカードで提示
› 報告開始「文を言ってください」と口頭で指示
》 共存課題▷ 符号化のとき、各ブロックの前後に行う(6回)
▷ 課題は30秒間
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40分中間課題
テスト課題
符号化課題
成長 画面
因果 凝視
共存課題符号化①共存課題符号化②共存課題符号化③共存課題符号化④共存課題符号化⑤共存課題
実験1:手続き [中間課題]
》 単語完成課題 8分間▷ 藤田(1998)の問題完成率の高いものから60題を使用
▷ 場所Nで行う
》 場所N
▷ 4.1×5.2mの面接室、ソファー、テーブル、書棚など
▷ 参加者が課題を遂行している間、実験者は退室
※部屋の移動+中間課題= (保持期間)10分
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40分中間課題
テスト課題
符号化課題
実験1:手続き [テスト課題]
》 共存課題を30秒間行った後、口答自由再生
》 実験に関する質問紙評定▷ 質問項目
› 作文課題・共存課題の印象
› テスト課題内容に対する予想
› 符号化課題とテスト課題の内容の類似度
› 符号化時とテスト時の気分の類似度
※予想・内容・気分の項目はすべて5段階評定
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40分中間課題
テスト課題
符号化課題
実験1:結果①
》 学習文脈×テスト文脈の分散分析から
▷ 学習文脈 [F(1,56) = 1.79, MSE =
1.22] とテスト文脈 [F < 1] の主効果はいずれも有意でない
⇔交互作用 [F(1,56) = 10.94, MSE
= 1.22, p < .01] は有意
文脈依存効果がある
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実験1:結果②
》 学習文脈とテスト文脈が一致する条件(AAとBB)と不一致条件(ABとBA)との間の重みづけ効果サイズ(weighted effect size) (Hedges & Olkin,
1985; Smith & Vela, 2001)は、0.80 [95% CI+ = 1.17, CI- = 0.42]
》 リスト長、提示速度、再生率などのパラメータから独立に、文脈依存効果の大きさを測定したら0.80
=文脈依存効果が、95%の確率で生じる範囲は、最大1.17、最小0.42
最小でも0以上の効果サイズ値があるので、
いつでも(95%の確率で)文脈依存効果が生じる
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つまり…
実験1:結果③
》 予想▷ 学習文脈の主効果 [F(1,56) = 1.49, MSE = 1.91] 、テスト文脈の主効果
[F(1,56) = 2.03, MSE = 1.91] のいずれも有意でない⇔交互作用は有意 [F(1, 56) = 14.37, MSE = 1.51, p < .001]
》 内容▷ 学習文脈の主効果 [F < 1] 、テスト文脈の主効果 [F(1,56) = 2.17, MSE =
1.51] のいずれも有意でない⇔交互作用は有意 [F(1, 56) = 14.37, MSE = 1.51, p < .001]
》 気分▷ 学習文脈の主効果 [F(1,56) = 2.62, MSE = 2.13] 、テスト文脈の主効果 [F
< 1]のいずれも有意でない⇔交互作用は有意 [F(1,56) = 4.14, MSE = 2.13, p < .05]
》 3項目の相関› 再生と予想 [r = -.588, p < .01] と再生と内容 [r = -.297, p < .05] の相関は有意 ⇔再生と気分 [r = -.168] の相関は有意でない
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実験2:計画 ①
》 実験計画▷ 学習文脈(A,B)×テスト文脈(A,B) の2要因参加者間計画
》 実験参加者▷ 静岡大学生 60名
▷ 実験1に参加していない
▷ 2×2の群にランダムに割り当て
》 実験材料▷ 実験1と同一
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実験2:結果①
》 学習文脈×テスト文脈の分散分析から
▷ 学習文脈の主効果 [F(1, 56) =
3.41, MSE = 10.77, p < .10] が有意傾向
⇔テスト文脈の主効果 [F < 1] 、交互作用 [F(1,56) = 1.89, MSE
= 10.77] が有意でない
文脈依存効果なし??
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実験2:結果②
》 重みづけ効果サイズは、0.35 [95% CI = + 0.61, CI- = -0.09]
》 最小値がゼロ以下なので、文脈依存効果が生じるのは95%未満の確率
文脈依存効果は有意でない
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つまり…
実験2:結果③
》 予想▷ 学習文脈の主効果 [F(1, 56) = 2.17, MSE = 1.73] が有意でない
⇔テスト文脈の主効果 [F(1,56) = 6.03, MSE 1.73, p < .05] 、交互作用 [F (1,56) = 11.82, MSE = 1.73, p < .01] は有意
》 内容▷ 学習文脈の主効果 [F(1, 56) = 5.60, MSE = 0.96, p < .05] は有意
⇔テスト文脈の主効果 [F(1,56) = 2.48, MSE = 0.96] 、交互作用 [F < 1] は有意でない
》 気分▷ 学習文脈の主効果 [F(1,56) = 1.67, MSE = 1.43] は有意
⇔テスト文脈の主効果 [F(1,56) = 2.48, MSE = 0.96] 、交互作用 [F < 1] は有意でない
》 3項目の相関› 再生と予想 [r = - .16] 、再生と内容 [r = .03] 、再生と気分 [r =
.12] のいずれも有意でない
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実験3:計画①
》 実験計画▷ 学習文脈(A,B)×テスト文脈(A,B) の2要因参加者間計画
》 実験参加者▷ 静岡大学生 56名
▷ 実験1に参加していない
▷ 2×2の群にランダムに割り当て
》 実験材料▷ 実験1.2と同一
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実験3:計画②
》 文脈▷ 文脈Aでは共存課題Aを遂行▷ 文脈Bでは共存課題Bを遂行
› 半数は、 場所Aで項目の学習→場所Bでテストもう半数は、 場所Bで項目の学習→場所Aでテスト
》 場所Aで共存課題Bを遂行するとき▷ 課題における刺激をPCのディスプレイとPC内臓の音源で提示▷ 課題Bが終わるたびに、参加者自身が豆の入ったカップを指定された場所に置いた
》 場所Bで課題を遂行するとき▷ 実験者と参加者が対面して着席▷ 課題Aを実施するために、ノート型PCの画面と内臓音源を使う
※その他の文脈操作、手続きは実験1と同一
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実験3:結果①
》 学習文脈×テスト文脈の分散分析から▷ 学習文脈の主効果 [F < 1] 、テスト文脈の主効果 [F (1,52) = 2.03, MSE = 10.13] 、交互作用[F < 1]いずれも有意でない
》 重みづけ効果サイズは、0.20[95% CI+ = 0.41, CI- = -0.36]
▷ 最小値がゼロ以下なので、文脈依存効果が生じるのは95%未満の確率
文脈依存効果は有意でない
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つまり…
実験3:結果②
》 予想▷ 学習文脈の主効果、テスト文脈の主効果、交互作用のいずれも[Fs < 1] 有意でない
》 内容▷ 学習文脈の主効果、テスト文脈の主効果のどちらも[Fs < 1] 有意でない⇔交互作用
[F(1, 52) = 17.67, MSE = 1.38, p < .001] は有意
》 気分▷ 学習文脈の主効果
[F(1,52) =2.45, MSE = 1.64] 、テスト文脈の主効果 [F < 1] 、交互作用[F(1, 52) 1.31, MSE = 1.64] はいずれも有意でない
》 3項目の相関▷ 再生と予想 [r = - .01] 、再生と内容 [r = -.08] 、再生と気分 [r = -.07]のいずれも有意でない
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》 複数の環境的文脈要素を複合操作することが有効であることを実証▷ 自由再生において、学習文脈・テスト文脈の交互作用が有意
》 複数操作に対し、単一文脈要素の単独操作は自由再生を規定しなかった▷ それぞれの単独操作が心的要因におよぼす効果は、非常に異なる
》 以上の発見は、「心的要因が環境的文脈依存記憶を媒介する」 (Eich (1995) やIsarida and Isarida (1999a))という考えを支持する
考察①
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考察②-1 [場所]
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》 場所のみの自由再生に対する影響が、信頼できないことを示唆▷実験2:自由再生において、学習文脈とテスト文脈に有意な交互作用なし
▷ 「場所あるいは環境の物理的特徴によって文脈を操作したとき、文脈依存効果が信頼できないという発見」(e.g., Bjork & Richardson Klavehn, 1989; Fernandez & Glenberg, 1985)を補強
› ⇔文脈依存効果が抑制された可能性› ex. Smith and Vela (2001)のメタ分析
考察②-2 [場所]
》 同じ場所で次に行われる実験内容の予想に影響▷実験内容そのもの、気分への影響なし
》 実験1では、予想に対する文脈依存効果があった▷場所は実験内容に対する予想の主要な要因である
》 予想だけでは自由再生を規定不可能▷予想の評定結果と自由再生成績との間に有意な相関なし
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Smith and Vela (2001)のメタ分析
》 学習時の項目間連合処理は環境的文脈依存効果を減少させ、しばしば消滅させる
》 10分間の保持期間は、明確な場所の効果を引き出すには短すぎる
》 実験1での複合文脈操作▷ 作文や10分間の保持期間で有意な文脈依存効果を得た
》 場所、課題、実験者の複合文脈操作で、安定して文脈依存効果が見出されてきている(Isarida, 1992; Isarida & Isarida, 1998; Isarida & Morii, 1986)
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考察③ [課題]
》 実験内容の認知に影響し得る》 内容項目では学習文脈・テスト文脈の交互作用が有
》 予想尺度や気分尺度では有意でない
》 課題の単独操作》 自由再生成績に影響なし》 再生成績は学習文脈・テスト文脈の間に交互作用なし》 再生成績と心的要因の全ての間に有意な相関なし
》 単一項目の文脈依存効果は引き起こせるが、数多くの項目の文脈依存効果は引き起こせない》 背景色文脈の場合も同様(e.g., Dulsky, 1935; Isarida & Isarida,
2001; Pointer & Band, 1998; Weiss & Margolius, 1954)
》 ※課題単独でも、記憶を規定出来ることがある› Ex:Falkenberg (1972)
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考察④
》 符号化課題▷単独でも有意な文脈依存効果を引き出せる可能性有
› 副課題よりも厳密に実験内容の認知に影響し得る
》 復元される課題文脈手がかり負荷が大きくなり、その分の手がかり効果が弱くなる(Watkins & Watkins, 1975)という問題が発生▷ (Isarida & Isarida, 1999b)によって実証的に確認された
› 符号化課題を文脈操作に用いる場合、参加者はテストで符号化課題を文脈手がかりとして提示される
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課題と場所の組み合わせ①
》 場所・課題が心的要因におよぼす効果は相補的である》 場所⇒次の出来事の内容の期待に影響、出来事の内容そのものの認知に影響なし
》 課題⇒出来事の内容の認知に影響
》 気分⇒場所と課題の組み合わせによってのみ影響
》 場所と課題は独立的でなく、相互作用的に機能している
》 場所単独操作よりは、複合操作の方が、より強い文脈依存効果を引き起こせると言える
》 本研究の場所操作は、課題と組み合わせれば有意な文脈依存効果を引き起こすに十分であったと言える
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課題と場所の組み合わせ②
》場所は出来事の内容に関する情報が欠落
▷場所依存記憶の信頼性のなさを引き出すこともある(Bjork & Richardson-Klavehn, 1989;
Fernandez & Glenberg, 1985)
》課題は場所の欠落を補える
▷出来事の内容の認知に影響するため
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結論
》 本研究は、複数文脈要素の複合操作による環境的文脈が、単一操作による環境的文脈よりも、記憶への効果が信頼できることを示す証拠を提供する研究
》 複数の文脈要素:相互独立的でなく、相互作用的に機能
》 環境的文脈:焦点情報と偶発的に連合するからでなく、エピソードを識別する多くの特徴を持つため、記憶を規定する
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