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2 産総研 TODAY 2005-07 グローバルな相互補完的連携による 研究開発コンピタンスの強化 “Global Complementary Competence” 持続的成長に向けたグローバル知的ネットワークによる知価創造に向けて “Global Knowledge Network of Excellence for Knowledge Value Creation” 背景:持続的成長に向けた技術融合化と知識経済社会に向けた競争力強化がますます重要に このような背景には、世界的に、各研究機関や大学において、「科学と産業・イノベーション」のインター フェイスを強化する動きが強まっており、とくに、縦割りの研究分野を超えた技術融合によるブレークスルー (ICT、バイオ、ナノ材料、環境エネルギー関連等 ) が求められていることがあげられます。世界的に、それ ぞれの研究ユニット・機関では対応できない、技術や知の融合的・相互補完的ネットワークと人材ネットワー クがより重要になってきたことや、これらを担う人材の獲得競争が激化してきたことがあげられます。それ と同時に、各国間のグローバルな競争も、中国やアジア諸国をはじめBRICSの追い上げと成長を背景に、 従来の技術ベースの生産やサービス提供から、より高度な知識融合化・集約化に向けた競争力強化が各国に おいてもトッププライオリテイの政策課題にもなってきたことがあげられます。 産総研が国際的連携や国際展開で目指す目標は、第二期中期計画を踏まえ、グローバルな知的ネッ トワーク(Knowledge Network of Excellence)とその相互補完的連携により、「知識経済社会に向け た国際的競争力を強化」し、「持続的発展可能な経済社会を実現」することにあります。言い換えれば、 持続的発展可能な社会に向けた国際的なネットワークオブエクセレンスとイノベーションハブを構築 することにより、グローバルな知価創造(“Knowledge Value Creation for Sustainable Growth”) 及びそれによる新しい産業創出や持続可能な産業構造の転換を促進していくことにあります。 このためには、産総研として、限られた資源を自らの研究開発のコアコンピタンスに集中させると ともに、世界のトップレベルの研究者・研究機関と戦略的に相互補完的な相乗的効果を発揮できうる 連携を強化する必要があります。産総研としては、国際競争力のある研究成果の創出とそれを支える 人材の養成・国際的ネットワーク化とともに、世界の優秀な研究者が集まるような国際的人材ハブ化 を目指して、世界的に有力な研究機関や研究者との人材交流・共同研究などの研究交流の促進を図る ことが重要です。マネジメントにおいては、「技術融合・統合化」を推進する効率的な体制構築とともに、 このような「Core-competenceへの選択・集中」と「Knowledge Network of Excellence」を強化す ることが肝要です。 具体的な相互補完的連携にあたっては、産総研の本格研究の発展段階(第 2 種基礎研究から製品化研 究、市場化まで)や分野別の技術習熟度や融合化の程度に応じて、どの分野でどの海外の研究機関・研 究者と相互補完的に「協調」していくことによりどのような相乗効果が生まれ、どの競合分野において、 どのように自らのコンピタンスを高め「競争」的優位性を高めていくのか、という「競争と協調」の戦略 を進め、産総研の分野融合アプローチによる産総研の強みを最大限発揮させ、産総研の外に本格研究 が広がっていくように、知のネットワーク・オブ・エクセレンスをグローバルに構築することが求め られています。 グローバルな相互補完的連携による「競争と協調」の戦略

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Page 1: “Global Complementary Competence” - AIST...2 産総研TODAY 2005-07 産総研の戦略的国際展開 グローバルな相互補完的連携による 研究開発コンピタンスの強化

2 産総研 TODAY 2005-07

産総研の戦略的国際展開

グローバルな相互補完的連携による研究開発コンピタンスの強化

“Global Complementary Competence”

持続的成長に向けたグローバル知的ネットワークによる知価創造に向けて“Global Knowledge Network of Excellence for Knowledge Value Creation”

背景:持続的成長に向けた技術融合化と知識経済社会に向けた競争力強化がますます重要にこのような背景には、世界的に、各研究機関や大学において、「科学と産業・イノベーション」のインターフェイスを強化する動きが強まっており、とくに、縦割りの研究分野を超えた技術融合によるブレークスルー(ICT、バイオ、ナノ材料、環境エネルギー関連等)が求められていることがあげられます。世界的に、それぞれの研究ユニット・機関では対応できない、技術や知の融合的・相互補完的ネットワークと人材ネットワークがより重要になってきたことや、これらを担う人材の獲得競争が激化してきたことがあげられます。それと同時に、各国間のグローバルな競争も、中国やアジア諸国をはじめBRICSの追い上げと成長を背景に、従来の技術ベースの生産やサービス提供から、より高度な知識融合化・集約化に向けた競争力強化が各国においてもトッププライオリテイの政策課題にもなってきたことがあげられます。

産総研が国際的連携や国際展開で目指す目標は、第二期中期計画を踏まえ、グローバルな知的ネットワーク(Knowledge Network of Excellence)とその相互補完的連携により、「知識経済社会に向けた国際的競争力を強化」し、「持続的発展可能な経済社会を実現」することにあります。言い換えれば、持続的発展可能な社会に向けた国際的なネットワークオブエクセレンスとイノベーションハブを構築することにより、グローバルな知価創造(“Knowledge Value Creation for Sustainable Growth”)及びそれによる新しい産業創出や持続可能な産業構造の転換を促進していくことにあります。

このためには、産総研として、限られた資源を自らの研究開発のコアコンピタンスに集中させるとともに、世界のトップレベルの研究者・研究機関と戦略的に相互補完的な相乗的効果を発揮できうる連携を強化する必要があります。産総研としては、国際競争力のある研究成果の創出とそれを支える人材の養成・国際的ネットワーク化とともに、世界の優秀な研究者が集まるような国際的人材ハブ化を目指して、世界的に有力な研究機関や研究者との人材交流・共同研究などの研究交流の促進を図ることが重要です。マネジメントにおいては、「技術融合・統合化」を推進する効率的な体制構築とともに、このような「Core-competenceへの選択・集中」と「Knowledge Network of Excellence」を強化することが肝要です。

具体的な相互補完的連携にあたっては、産総研の本格研究の発展段階(第2種基礎研究から製品化研究、市場化まで)や分野別の技術習熟度や融合化の程度に応じて、どの分野でどの海外の研究機関・研究者と相互補完的に「協調」していくことによりどのような相乗効果が生まれ、どの競合分野において、どのように自らのコンピタンスを高め「競争」的優位性を高めていくのか、という「競争と協調」の戦略を進め、産総研の分野融合アプローチによる産総研の強みを最大限発揮させ、産総研の外に本格研究が広がっていくように、知のネットワーク・オブ・エクセレンスをグローバルに構築することが求められています。

グローバルな相互補完的連携による「競争と協調」の戦略

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3産総研 TODAY 2005-07

このような「競争と協調」の戦略を進める上で、経済産業活動・構造のグローバル化(最近における欧州統合市場、アジア経済連携、NAFTA・中南米連携を含め)や今後成長するグローバル市場、地域の産業構造を見据えた産業技術ネットワーク化を戦略的に考える必要があります。とくに、地球環境やエネルギー分野の

ように各国の国境を超えてグローバルに取り組むべき共通重要課題については、

成長市場であるアジアの産業技術構造の実態を踏まえ、産学連携を強め、その技術のアプリケーションと市場化をにらんだ対応が重要です。日本企業の国境を超えた活動が加速化しているアジアにおいては、とくに「持続可能な成長に向けた産業技術構造への転換」という共通課題に対して、また、我が国へのエネルギーセキュリティや環境問題対応を考えても、産総研の果たすべき役割は極めて大

きなものがあり、アジアからグローバルな持続的成長に向けた産業構造の転換を進めていくことも現実的な対応です。このような環境エネルギー分野に加え、一国や一研究機関のみでは対応できない長期的な産業技術インフラ整備や標準化対応など、各国や地域の産業活動・構造との連携や各国の政策プライオリティを踏まえて研究開発の国際連携を進める必要があります。

グローバルな産業構造を見据えた対応、政策との連携

図2 1990年代において「Knowledge」への投資が増大Source of change, as a percentage of GDP, 1992-2000

%

3.0

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

0.0

-0.5

-1.0イタリア

カナダ

オーストラリア

スペイン

英国

日本

ポルトガル

フランス

ドイツ

米国

デンマーク

フィンランド

スウェーデン

R&D ソフトウェア 高等教育 Total change

図1-1 Knowledgeに対する投資=R&D支出+高等教育への支出+ソフトウェアへの支出Investment in knowledge, as a percentage of GDP, 2000日本は、R&D投資は高い水準であるが(スウェーデン、フィンランドに続いて対GDP比で3%超。OECD平均は2%。欧州リスボン戦略目標は2010年までに3%)、高等教育、ソフトウェアが低迷。(なお、非OECD諸国のR&D投資は全世界の約17%で、中国のR&D投資は世界第3位(米国、日本に続く)、インドのR&D投資は世界第10位)。

図1-2 科学と産業の連携:民間資金による公的機関(大学含む)でのR&DShare of business funding in R&D expenditure performed by the government (GOV) and higher education (HE) sectors, percentage, 2001. 日本はOECD最下位で欧米に比して産学連携が弱い。

知識経済社会に向けた「Knowledge」の競争にシフト 出典:OECD, 2003

02468 %

スウェーデン米国フィンランド韓国カナダスイスデンマーク(1999)OECD(1999)ドイツオランダ日本フランスベルギー(1999)英国オーストラリアEUオーストリアノルウェーチェコアイルランドハンガリースペインスロバキア(1999)イタリアポルトガルポーランドメキシコ(1999)ギリシャ(1999)

R&D ソフトウェア 高等教育

20 %15 10 5 0

トルコニュージーランドベルギーオランダ韓国スロバキアポーランドフィンランドハンガリースペイン英国アイスランドメキシコ(HE only)カナダドイツノルウェーアイルランドEUルクセンブルク(GOV only)ギリシャOECDオーストラリアスイス(HE only)スウェーデンデンマークフランスチェコ米国イタリアオーストリアポルトガル日本

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4 産総研 TODAY 2005-07

アジアにおける戦略的展開  相互補完的技術Partnershipを促進

表1 アジアをはじめとする各国の研究機関との包括研究協力協定締結、国際ワークショップ等主な活動実績

● 包括研究協力協定等の締結とワークショップ開催 ● 2001年11月:仏国立科学研究センター(CNRS)と包括研究協力協定締結(東京) ● 2002年 2月 :韓国産業技術研究會(KOCI)と包括研究協力協定締結(ソウル) ● 2004年 5月:中国科学院(CAS)と包括研究協力協定締結、ワークショップ開催(東京):写真1 ● 2004年 6月:韓国産業技術研究會(KOCI)とワークショップ開催(札幌) ● 2004年10月:シンガポール科学技術研究局(A*STAR)と包括研究協力協定締結(つくば) ● 2004年11月:タイ国家科学技術開発庁(NSTDA)及びタイ科学技術研究院(TISTR)と包括研究協力協定締結、ワークショップ開催(バンコク):写真2 ● 2004年12月:ベトナム科学技術院(VAST)と包括研究協力協定締結、ワークショップ開催(ハノイ) ● 2005年 1月:バイオマス・アジア・ワークショップ2005開催(つくば) ● 2005年 3月:タイ国との第2回ワークショップ開催(つくば)

● 産総研の研究協力協定(包括協定を含む) 締結数は、83件(2001年度から平成2005年度7月現在)25カ国 (仏、独、英、米、露、韓国等)

我が国とアジアの経済産業構造の深化・緊密化と、世界の成長市場であるアジアにおいては環境エネルギー問題の深刻化と地球温暖化対策、エネルギー多様化確保が共通の喫緊の課題であることから、地球環境保全、持続可能な成長に向けた戦略展開を図り、産学連携を含めSustainable Growthへのアジア産業技術圏の形成、新再生エネルギーを含め新しい総合エネルギー環境関連産業創出等に取り組むこととしています。このため、アジアの優秀な人材とのネットワークを強化することが必要です。とくに、環境エネルギー分野における分野融合的コンピタンスを最大限活用し、「環境・エネ

ルギー・産業製造技術」及び「環境計測・影響評価・対策」の三位一体の技術融合化を展開し、研究分野の地域性、特殊性を活かした(そこでなければできない)相互補完的技術Partnershipを促進していくことが重要です。例えば、アジアのバイオマス資源の利活用、各地域の実情・ニーズに応じた分散型エネルギーネットワーク構築、アジアの生物遺伝子資源確保活用、アジア固有の技術開発・情報データベース構築等です。また、ナノテク分野におけるアジア太平洋地域の各国の研究機関・大学とのネットワークやグリッドインフラ分野や地質・地球システム分野における調査研究活動のネットワーク

化を進めています。このように、「アジアにおける研究人材ハブ機関(拠点)への脱皮」、アジア諸国との補完的連携による地球環境問題・エネルギー問題の解決や国際標準の戦略的獲得等を通じて我が国の産業競争力の維持・発展に寄与しつつ、グローバルな持続可能な成長に向けてアジアにおける産業技術ネットワークの構築に取り組んでいます。

アジア環境エネルギーPartnership推進 アジア地域においては、各国の経済発展に伴いエネルギー消費量は2030年には世界最大のエネルギー消費圏になると予想

このため、先端的研究動向把握を含め国際的な研究開発競争力に関する技術情報分析能力を高め、世界のCOE・研究機関、トップ人材との相互補完的研究開発競争力を構築するためには、従来からの個別の研究ユニットレベルの共同研究・委託研究等の個別対応のみならず、技術融合化・統合化を踏まえた、戦略的、組織的な研究機関レベルの共同連携フレームワークを構築していくことが効率的で有益です。最近、各国の研究機関において、知識経済社会の競争力強化を目指して、知財管理の強化(TLO設置)、研究セキュリティへの対応等が研究機関のマネジメントにおいても重要になってきてい

ることや、限られた人材・資金を効率的にコアコンピタンスに集中する必要があることからも、組織としてのプライオリティを踏まえた(知財管理を含めた)研究機関どうしの相互補完連携がますます重要になっています。このようなことから、産総研では、現在まで、25カ国の研究機関と80件を超える研究協力協定(平成13年度産総研発足から)を締結してきましたが、最近においては、戦略的に、各国のトップの研究機関との包括研究協力協定を締結し(現在、海外の8研究機関と締結)、技術融合的連携を視野に入れたワークショップを活用しつつ、相互補完的連携とともに、人的ネットワークの強化に

努めています(表1)。また、最近のサイエンスとイノベーションのインターフェイス強化(基礎から市場化まで)、分野融合横断的研究マネジメント、評価システム、知財管理、産学官連携、起業化・ベンチャー育成等が共通の新たなマネジメント課題になっていることからも、このような研究機関におけるお互いの経験を踏まえたBetter(Best) Practice Learningも有益です。共同研究開発の成果たる知財については、お互いに相乗効果が発揮できうるように、共同研究パートナーとの国際的な共同シェアも視野にいれたグローバルな知財戦略を展開する必要があります。

各国の研究機関・研究者とのNetwork of Excellence構築

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5産総研 TODAY 2005-07

産総研の戦略的国際展開

され(IEA予測:現在の約3倍。なお、中国の一次エネルギー消費は現在、世界全体の1割強を占め米国に次ぐ世界第2位の規模。)、エネルギーセキュリティの脆弱化が深刻な共通課題となっています。地球環境については、中国は2030年頃には米国を抜き世界一のCO2排出国になると予想され(現在の中国の排出量の約3倍)、このままでは、2100年には途上国のCO2排出量は先進国の3倍に上昇するという試算もあります。このようなアジアにおいて喫緊の共通

課題である「環境エネルギー分野」につい

ては、包括研究協定締結の研究機関をはじめ、バイオマス、分散型エネルギーネットワーク(燃料電池、太陽光、バイオマス・水素エネルギー利用を含め)、大気環境・地球環境改善に資するクリーン燃料/エンジン、環境調和・エネルギー効率・経済生産性効率を勘案した統合的技術のシステムや総合的評価技術・規格標準導入等、相互補完関係・新産業創造・国際標準化を視野に入れたExperimental Projectの推進等を図ることが重要です。また、世界最大のバイオマス資源を有

するアジアにおいて、バイオマスの持続

可能な生産促進と再生可能エネルギー・有用物質製造の循環システムを構築し、アジア各国・研究機関と連携して(工農連携を含め)その実用化を目指し、地球温暖化防止、エネルギー効率化に貢献することは喫緊の課題です。各国各研究機関の連携とともに、多国間では、とくに、バイオマスニッポン総合戦略を踏まえた「バイオマスアジア」を推進しています(コラム参照)。このようなアジアの環境エネルギーPartnershipの推進により、持続可能なグローバルな産業構造・成長に展開していくことが重要です。

写真1 2004年5月19日、産総研・中国科学院包括研究協力協定調印(東京):吉川産総研理事長と路甬祥中国科学院院長。

写真2 2004年11月25日、産総研とタイNSTDAおよびTISTRとの包括研究協力協定調印(バンコク)調印式での3機関の長。左から、Nongluck院長(TISTR)、吉川理事長(産総研)、Sakarindr長官(NSTDA)

アジアをはじめとする環境エネルギーPartnership

図3 アジアをはじめとする環境エネルギーPartnership

なぜ、今アジアPartnership なのか?(歴史的視点)産総研のミッション

技術融合アプローチによる相互補完的連携

①経済産業関係の深化・拡大、アジア経済圏の緊密化②アジア地域でのエネルギー需要の急拡大と地球環境問題深刻化 →グローバルな共通の喫緊の政策課題    (国内セキュリテイ→アジア圏からグローバル・セキュリテイへ)③Sustainable Growth に向けた環境・エネルギー・産業(生産)技術密接不可分の統合的アプローチが重要に

・地球環境対応、新エネルギー創出のプラスサムへの歴史的転換へ(新再生エネルギー、環境エネルギー技術・機器・システム・アセスメント等)

・新しい環境エネルギー市場・産業創出(基礎研究から製品・システム・評価方法まで)

①Sustainable Growth への積極的貢献(産総研がアジアからグローバルセキュリティへ産学連携を牽引する役割大)

②アジアでの新しい総合エネルギー・環境市場・産業の創出を技術戦略で牽引③環境・エネルギー・製造技術の三位一体の技術融合化展開による産業技術ネットワークの形成(基礎研究から製品・市場化まで)④人材ハブ機関への脱皮とネットワーク化(Knowledge Network of Excellence)⑤国際標準化  

例①バイオマス・アジア②多様な需要に応えるアジア分散型エネルギーネットワークと多様化③大気環境・地球環境改善・エネルギー効率を両立させるクリーン燃料・エンジン・イニシアテイヴ④環境影響計測評価対策技術・低エネルギー環境負荷低減型製造プロセス・材料等総合的技術による地球環境イニシアテイヴ(予知・予防対策技術開発、アジア地質情報データベース構築活用を含め)

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6 産総研 TODAY 2005-07

「バイオマス・アジア」については、産総研は国内で農工連携、産学官連携を推進するとともに、アジア諸国の行政・中核研究機関とのネットワークの構築、アジア諸国との連携によるバイオマス利活用の戦略構築に努めています。これまでの化石資源に依存した大量生産、大量消費、大量

廃棄の社会システムは、地球温暖化、廃棄物、有害物質等の様々な環境問題を深刻化させており、再生可能な生物由来の有機性資源であるバイオマス利活用の重要性がますますクローズアップされています。アジアは、その気候条件等から豊富なバイオマス資源に恵

まれており、世界の4割以上のバイオマス資源がアジアに賦存する一方で、アジアの多くの国では、今後の急激な経済成長や人口増加等に伴うエネルギー消費量および温室効果ガス排出量の増加が危惧されています。また、アジアの一部では砂漠化や森林伐採による荒廃地化が進んでおり、砂漠化防止、森林の再生に向けた新たなバイオマス生産システムの構築も必要となっています。このような状況の下、アジア地域において、バイオマス利

活用技術の確立、環境調和型の循環型社会の創生、持続可能な農水産業の構築が求められています。この具体策として2005年1月に、産総研が主体的役割

を担って、バイオマス利活用に関わっているアジア諸国の行政・研究関係者と我が国の関係機関(農水省、経産省、文科

省、産総研、農水5研究機関、東大、RITE、産業界等のオールジャパン組織)による「バイオマス・アジア・ワークショップ2005」を日本で開催しました。ワークショップでは、各国とのネットワーク構築を検討するとともに、技術の交流、意見交換等を通して、今後の本分野に係る産業・農業政策および研究開発の方向性を明らかにし、また、アジア諸国にとっても、はじめて本分野における政府・研究機関をはじめとするネットワーク化と各国・機関のバイオマスの取り組み現状と技術課題を把握することが可能となりました。今後、アジア諸国とパートナーシップの確立に向けて、どのようにネットワークを構築していくか、どのような相互補完的研究開発のアクションプランを作成し、どのように展開していくか(資金面の手当てを含めて)、次回のワークショップ(2005年12月、タイで開催予定)で更に議論を深めることを考えています。産総研は今後とも「バイオマス・アジア」におけるネットワーク構築、パートナーシップ確立を先導するとともに、日本とアジア諸国の両者にメリットがある相互補完的な国際共同研究プロジェクトの企画・立案を推進し、アジア・世界におけるエネルギー多様化とセキュリティー安定化、地球温暖化防止への寄与、アジア諸国との連携強化活動を通して我が国の持続的発展に寄与していくこととしています。

バイオマス・アジアの戦略的展開

アジア諸国 日本・豊富なバイオマス資源・アジア諸国の保有技術・収集/輸送等のコストの優位性

・日本の保有技術・知的財産・バイオマス・ニッポン総合戦略・アジア諸国との連携ニーズ(エネルギー・地球環境対応等)

「持続可能な成長に向けて」

両者にメリットのある相互補完的な共同研究開発

1. 環境にやさしい新エネルギー(バイオマス起源の燃料エネルギー)と  バイオマテリアルの製造と利用2. バイオマス利用によるCO2排出量の低減3. 持続可能な第一次産業の促進・バイオマス関連新産業の創出

・アジア/世界におけるエネルギー多様化とセキュリティ安定化・地球温暖化防止への寄与と持続可能な成長(環境負荷、エネルギー効率、経済成長の 両立)に向けたアジア諸国との連携強化

(世界の4割以上を保有)

水素経済社会(ポスト石油)の構築に向けて

図4 バイオマス・アジアの概略図

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7産総研 TODAY 2005-07

産総研の戦略的国際展開

欧州各首脳は、2000年3月にリスボン戦略を採択し、2010年までに世界で最も競争力と活力に富む知識基盤社会に変革することを目的に、イノベーション改革に取り組んでいます。具体的には、研究開発予算の充実(R&D予算を5割増によりEU国内総生産の3%目標に)、Scienceと Innovationの Interface・産学官連携の強化、分野融合的技術によるブレークスルー(ICT、バイオ、ナノ、環境エネルギー関連等)、共同研究開発の連携強化(Framework Program 6 - 7)、知財マネジメント強化、Entrepreneurship・

Business start-ups促進に積極的に取り組んでおり、国境を越えてグローバルな「競争と協調」戦略、とくに共同研究やNetwork of Excellence等の連携を強化しています。欧州各国の主要研究機関は、産総研の第1期中期計画における改革と同様に、目下これらのイノベーション改革に取り組んでいます。また、グローバルな共同研究の運営や知財マネジメント、個人情報・倫理を含め遺伝子関連、生物資源の管理アクセス、サイバーやバイオ関連セキュリティ、ナノテクを含め安全安心健康リスク関連、環境エネ

ルギー関連の標準化・アセスメント・規制等の多国間の研究フレームワークづくりを進めており、産総研としても、これらの欧州の研究動向を踏まえた連携を進めています。また、独、仏、英をはじめ、分野融合横断的な連携を強化するために、地域レベルで、各研究機関・大学・民間のイノベーション・クラスターのネットワークを強化しており、これらの地域ネットワークとの相互補完連携も効率的です。

リスボン戦略を展開する欧州における連携

米国との相互補完的連携

写真3 仏CNRSとのジョイントラボによる連携    (仏 ロース大臣つくば視察)研究機関との包括的協力関係は、CNRS(フランス国立科学研究センター)と2001年11月に提携しており、その後、産総研の知能システム研究部門とCNRS情報通信科学技術部門との間で、共同研究を進めるため、それぞれ、フランスベルサイユ大学構内と産総研のつくばOSL棟に、Joint Japanese-French Robotics Laboratory(JRL)を設立した。常時数名の研究者が、相手側の研究室に滞在し研究を行っており、両者の技術を融合し、共同論文の発表を含めロボット研究の世界的なネットワーク作りの中心となりつつある。JRLは、現在CNRSと産総研の協力関係を示す代表的な事例となっており、2005年2月のフランス経済財政産業省フランソワ・ロース貿易担当大臣のご視察を始め、多くの海外要人の視察先となっている。

米国においては、80年代半ばに、バイドール法、TLO、知財管理強化等の知識経済社会に向けた新たなイノベーション政策を導入し、研究系大学や公的研究所を中心に、政府の研究資金活用や産学官連携強化、起業化促進のイノベーションシステムが確立され、また、海外からの優秀な人材によりグローバルな人材ネットワークの構築、産業競争力強化を進めてきたと言えます。特に研究系大学を中心に、その自立性を維持し、政府の競争的資金を活用しつつ、産学官連携・起業化を日欧に先駆けて促進してきました。産総研においては、米国の各研究所や各大学のコンピタンスに応じて、環境エネルギー、ライフサイエンス、ナノ素材、グリッドを含め情報技術、ロボット関連、

計算科学、アセスメント手法等様々な相互補完的連携を研究ユニットベースで進めています。研究協力協定関連では、計量計測標準に関する米国国立標準技術研究所(NIST)や地質に関する米国地質所との連携を進めており、本年秋には、環太平洋のネットワーク化を進める観点からも、グリッド関連について、日米ジョイントラボをカリフォルニア大学サンディエゴ校で立ち上げる予定です。また、1999年からの国立衛生研究所(NIH)ライフサイエンス予算の倍増計画の影響もあり、遺伝子・医工連携関連の連携も増えています。最近における米国政府のR&D関連政

策動向としては、Sept.11テロ事件を契機に、ホームランドセキュリティの体制

を整備し、「セキュリティ」関連研究のプライオリティが高まっており、地球環境やエネルギー問題の対応としては、「水素経済社会構築」に向けた大統領イニシアティブを推進しています。セキュリティはグローバルなガバナンスが必要とされ各国間の協調が求められており、また、水素経済社会に向けたイニシアティブは、米国としても国際的パートナーシップ「International Partnership for the Hydrogen Economy」を推進しており、今までの連携をベースに、さらに本格研究を加速しつつ技術融合的な日米やマルチの戦略的な連携に取り組む段階にきています。

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日本

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イスラエル

カナダ

トルコ

南アフリカ

ギリシャ

オーストリア

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アイルランド

チェコ

ベルギー

中国

アイスランド

ハンガリー

スロバキア

メキシコ

ロシア

ルクセンブルク

ポーランド

日本

イタリア

韓国

スペイン

EUチェコ

ドイツ

イスラエル

ギリシャ

ロシア

オーストラリア

トルコ

アイスランド

デンマーク

ニュージーランド

ハンガリー

OECD

ポーランド

フランス

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ノルウェー

英国

南アフリカ

メキシコ

スロバキア

中国

フィンランド

オーストリア

ポルトガル

ベルギー

スウェーデン

カナダ

オランダ

アイルランド

スイス

ルクセンブルク

1991-92

1991-92

分野融合的アプローチと知財を含めた国際連携フレームワーク構築産総研における多様な分野融合的コン

ピタンス能力を伸ばし、長期的観点から技術のブレークスルーを図るべき骨太の分野融合プロジェクトを推進するためには、内外のトップの研究機関・研究者や産学連携による相互補完的相乗効果を図るグローバルな視野にたった企画調整実施体制やマネジメントを確立することが必要です。とくに持続可能な成長を目指す環境エネルギー分野は、一国の国境を越える「協調」指向の連携がますます重要になり、さらに、ライフサイエンス、ナノの融合的進展は、高齢化健康社会、感染症、食料、安全安心、エネルギー地球環境等「持続可能な発展」関連のグローバルな問題の解決を迫られている国家レベルの最重要課題の解決に向けて、多大な

貢献が期待されております。例えば、基礎生命科学にとどまらず、医学・薬学、農学、工学、人間科学等幅広い領域にわたって国境を越えて世界の知のネットワーク化が必要になってきています。産総研としては、包括的提携先をはじ

めとする研究機関とのワークショップを活用しつつ、プライオリティ、技術融合的連携チームと各参加者の役割分担、競争的資金を含めた人的・資金的アレンジ、知財管理、産学連携を含めたジョイントラボの設置等のアクションプランをお互いに精査していくことが必要になります。ジョイントラボについては、現在、仏CNRSとロボット関連、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校とグリッド関連で相互連携を進めています。

産総研における各研究ユニットの自立性を踏まえつつも、如何に効率的な技術融合チームとマネジメントとを確立していくか、さらに国際的に補完的連携を図っていくか、ということは大変な難題です。融合チームのリーダーのリーダーシップとコーデネーション能力と協調的コミュニケーションとともに、明確な時間軸を含めた目標とコンピタンスに応じた役割分担、相互・相乗補完関係のシナリオについての共有が不可欠です。さらに電子会議システムの導入(EDG: Electronic Discussion Group)を含めIT活用や英語を共通語とするジョイントラボ運営・効率的コミュニケーションのマネジメントも重要です。

図5-1 クロスボーダー特許上:外国人が取得した国内特許のシェアForeign ownership of domestic inventions according to the residence of the inventors, average for priority years 1999-2000(Share of patent applications to the European Patent Office (EPO) owned by foreign residents in total patents invented domestically.)下:国外での発明による国内特許のシェアDomestic ownership of inventions made abroad according to the residence of the inventors, average for priority years 1999-2000(Share of patent applications to the EPO invented abroad in total patents owned by country residents.)日本はともにOECD最下位

出典:OECD, 2003

クロスボーダー特許外国人が取得した国内特許のシェア

国外での発明による国内特許のシェア

Page 8: “Global Complementary Competence” - AIST...2 産総研TODAY 2005-07 産総研の戦略的国際展開 グローバルな相互補完的連携による 研究開発コンピタンスの強化

9産総研 TODAY 2005-07

産総研の戦略的国際展開

%

60

50

40

30

20

10

0

日本

OECD

EU韓国イタリア

ドイツ

米国

フィンランド

フランス

スウェーデン

オランダ

デンマーク

スペイン

オーストラリア

英国

ニュージーランド

ノルウェー

オーストリア

ハンガリー

スイス

カナダ

ギリシャ

ベルギー

アイルランド

アイスランド

チェコ

トルコ

ポルトガル

メキシコ

スロバキア

ポーランド

ルクセンブルク

国際的知財戦略と産総研成果の国際的展開

我が国産業の国際競争力の強化、経済の活性化の観点から経済のグローバル化と技術革新の時代における知的財産の重要性が高まっています。イノベーションを加速させ、国際的連携を推進する上で、「協調と競争」の視点を踏まえた知的財産(IPR)の保護強化、活用促進の知財マネジメントが必要です。具体的には、公的研究機関としての本格研究段階で科学的・技術的知見の競争と拡散を促すべき公共財的な技術開発については、各国と連携しつつ、そのTechnology Diffusion指向(「協調」を基本)を重視し、グローバルマーケットにおける、より応用から市場化に近い産総研成果のビジネス展開については、「知財保護」指向(「競争」)を重視し、各技術分野の成熟度に応じた知財マネジメントを視野に入れて、国際的産学官連携における知財戦略を確立する必要があります。米国における、シリコンバレーのイノベーション動向において、バイドール法の解釈・意義や大学TLOによる知財収入増、ベンチャー起業化重視等を強調する見方がよくありますが、知財マネジメントにおいて、大学の本来の

使命である、基礎研究のDiffusion効果の重要性(研究成果の無償公開や知財の研究開発適用除外)とともに次のInnovation Cycleを産み出す大学の使命と産学連携の重要性が見落とされがちです。実際にシリコンバレーでは、単独企業では対応できない、次の技術融合のInnovation Driving Forceを見極めるための長期視点にたった本格研究段階の産学連携が増大しているのもその一例だと思われます(例:スタンフォード大学集積システム研究センター、ナノ材料プロセス先端研究等ナノ・IT・バイオ融合プロジェクト、IT/Bio-Medical研究、Neuro-IT関連研究、エネルギー環境プロジェクトなど)。また、日本は、OECD諸国の中で、知的財産権を海外の研究機関・研究者と共同でシェアしながら国際的な相互補完連携を進めることに遅れをとっています(図5-1、5-2)。各国の研究機関や産学連携による共同研究(知財シェア)、及び協力協定締結先については、そのフレームワーク(知財条項)を活用しつつ、できるだけ事前に基本・周辺特許を押さえながら、相互補完関係においてもイニシアチブがと

れるような対応が重要になりますが、さらに、技術の融合化を踏まえつつ、産総研以外の研究者のコンピタンスと相乗効果を生み出すIPRの統合化(Integration)を考慮することが求められています。また、アジア各国研究機関とのTLO、知財マネジメント関連の協力・連携を含め(協力協定における連携フレームワークの整備)、様々な技術のライセンスや共有を可能にするグローバルな技術市場の拡大に努めることも重要です。現在、公的研究機関の知財マネジメントのあり方については、OECDが、研究目的利用免除のあり方を含めイノベーション指向の知財マネジメントについて、国際的比較分析を踏まえたマルチフレームワーク(「Good Licensing Practices」)に取り組んでいます。今後、公的研究機関のフロントランナーとして、欧米の知財システムを踏まえた戦略的対応ができうる知財マネジメント人材の育成とともに、本格研究の各段階と技術の成熟度を踏まえたイノベーション指向の国際的な知財管理システムを構築することが肝要です。

図5-2 外国人との共同発明・共同出願 Percentage of patents applications to the European Patent Office with foreign co-inventors 1997-1999特許の国際共同出願も、日本はOECDの最下位→国際連携が弱い

出典:OECD, 2003

外国人との共同発明・共同出願

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10 産総研 TODAY 2005-07

また、産総研研究成果のビジネス展開においては、知財マネジメントを踏まえつつ、Business Partnering、Customer Valueや市場有望性の評価を踏まえたBusiness planの作成、市場化へのBusiness Partneringを促進するためのシンポジウム・展示商談会の利活用、市場分析のできうるアドバイザー・コンサルタント・ベンチャーキャピタリストの人脈ネットワークの利活用、海外の地域のイノベーションクラスターにおけるTLO活動やBusiness Partneringネットワークとの連携等の戦略的展開に取り組んでいます。

写真4 科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム Science and Technology in Society forum:Lights and Shadows2004年11月14日、京都にて開催。尾身元科学技術担当大臣の発案で、世界中の政治家、科学者、企業人、マスコミが対等に科学技術について議論する、いわば「科学版ダボス会議」として、初めて行われた。吉川理事長は4人の発起人の一人として企画時から参画、当日は基調講演の座長と、「発展途上国のエネルギー」を主題とする分科会の座長を務めた。

分野 開催日時 開催地 主催 参加者数

ナノテク

Asia Nanotech Forum Summit (ANFoS2004) 2004/05/10~12 プーケット、バンコク

National Science and Technology Development Agency NSTDA(タイ)、産総研 約50人

Asia Nano Forum (ANF) Special Workshop-Societal Impact of Nanotechnology in the Asia Pacific Region 2004/11/26~27 北京 Asia Nano Forum (ANF) 100人

Nano Tech 2005 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議 2005/02/23~25 東京 Nano Tech 実行委員会 39,069人HKUST-AIST Joint Workshop on Nano Science and Technology 2005/03/03~04 香港 HKUST、 産総研 100人

ライフサイエンス

Bio Vision欧州最大バイオ国際会議Bio Square同時開催:ビジネスミーティング・展示会-2001年から隔年開催、バイオの“ダボス会議”-

2005/04/12~15 リヨン(仏) バイオビジョンコンソーシアム 約1500人

情報

High Performance Computing and Grid in Asia-Pacific Region (HPC Asia 2004):第7回アジア太平洋地域高性能計算とグリッドに関する国際会議-アジア太平洋地域の各国で18ヶ月ごとに開催-

2004/07/20~22 大宮

情報処理学会ハイパフォーマンスコンピューティング研究会、米国IEEE Computer Society日本支部 協賛: 情報処理学会計算機アーキテクチャ研究会、日本応用数理学会、日本計算工学会、日本シミュレーション学会、日本物理学会、日本流体力学会、グリッド協議会

448名

The 5th International Conference on Parallel and Distributed Computing, Applications and Technologies (PDCAT)

2004/12/08~10 シンガポール Nanyang Technological University Sun Microsystems Asia Pacific Science -

Computational Science Workshop 2005 (CSW)-2000年から毎年開催、計算科学に関する国際集会- 2005/03/22~23 つくば 産総研 計算科学研究部門 130人

Grid Asia 2005 2005/05/02~06 シンガポールThe National Grid Office (Singapore)Agency for Science, Technology & Research, Infocomm Development Authority of Singapore, Nanyang Technological University, and National University of Singapore

-

20th Asia Pacific Advanced Network(APAN) Meeting:アジア太平洋高度研究情報ネットワーク会議 2005/08/23~27 台北 Asia-Pacific Advanced Network(APAN) -

国際メッセ

ハノーバー・メッセ2003-産総研成果のビジネスパートナリングを含む- 2003/04/07~12 ハノーバー

(独) ドイツ産業見本市社 約18万人

第4回大邱国際自動化機器・工具見本市(DAMEX2003)-産総研の光触媒関連技術を出展- 2003/09/25~28 テグ(韓国) EXCO(Daegu Exhibition & Convention Center)、

Korea Trade-Investment Promotion Agency -

COMDEX Fall 2003:世界最大級情報技術(IT)国際見本市-産総研発ベンチャー技術12テーマを出展- 2003/11/17~20 ラスベガス メディアライブインターナショナル 約5万人

ハノーバー・メッセ2004-産総研成果のビジネスパートナリングを含む- 2004/04/19~24 ハノーバー

(独) ドイツ産業見本市社 約18万人

BIO2004:バイオテクノロジー産業の祭典-生命情報科学研究センターと産総研バイオベンチャー第1号の株式会社インフォジーンズ出展-

2004/06/06~09 サンフランシスコ 米国バイオ産業協会 約17,000人

ChinaNANOMAT2004 2004/11/24~27 北京 EAA Corp. -Nano Tech 2005 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議 2005/02/23~25 東京 Nano Tech実行委員会 39,069人ハノーバー・メッセ2005-産総研成果のビジネスパートナリングを含む- 2005/04/09~17 ハノーバー

(独) ドイツ産業見本市社 約18万人

Bio2005 国際コンベンション:世界最大バイオ産業見本市-産総研成果のビジネスパートナリングを含む- 2005/06/19~22 フィラデルフィア 全米バイオ産業協会(BIO) 約8,500人

表2 最近における主な国際会議(研究成果の普及を含む)

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11産総研 TODAY 2005-07

産総研の戦略的国際展開

地球システム関連の融合化

地球システム関連の研究Competence(「地球を良く知り、地球と共生する」)においては、とくに日本が大陸縁辺の地質学的に活動的な地域に位置することから、その地質の特徴である地震、火山、沿岸海洋地質等の研究では世界的レベルにある強みがあり、地質学上共通性の高いアジアにおいてグローバルな資源エネルギー地球環境・自然災害問題に対応す

る上で、強いリーダーシップを発揮することが期待されています。具体的には、次のように、地質調査総合センター(GSJ = Geological Survey of Japan)が行う地質調査と、環境・エネルギー、情報通信研究技術を融合したものです。地熱・メタンハイドレート資源調査開発

の研究ポテンシャルや地圏環境循環システム関連の研究を踏まえ、我が国のこれまで

の公害産業環境対応や地球環境問題への対応を通じて、アジアを中心に、CO2排出抑制と安定供給に資する地球資源利用環境保全、大深度地下空間利用、産業立地評価・環境修復、地球微生物プロセス解明利用技術開発、自然災害発生リスク、そして、グリッド技術活用による地質基盤情報統合システムとデータネットワーク共有化等、融合化に取り組んでいます。

情報と地質分野の融合「GeoGrid」による国際展開

写真5 2004年11月、つくば市で開催された第41回CCOP年次総会

図6 2004年12月巨大津波により甚大な被害を受けたインドネシア・バンダアチェ地域の3D人工衛星画像(AIST/METI)このような人工衛星情報は、重要な地球観測基盤情報として、GeoGridによってより一層、広くアジア地域での自然災害軽減、地球環境評価に貢献することができる。

東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)CCOPは、国連アジア極東経済委員会(後のESCAP)の付

属機関として、1966年に設立され、1987年に独立し、国際機関へ移行した機関です。現在は、日本をはじめ11カ国(中国、インドネシア、韓国、カンボジア、マレーシア、パプア・ニューギニア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)が加盟しており、東・東南アジアにおける地球科学プロジェクトを推進しているほか、地球環境に配慮した持続的発展のための資源・エネルギー開発、自然災害軽減技術開発、地質情報の世界標準化、アジア地球科学情報ネットワークなどの研究を推進しています。年次総会はこの11ヶ国の持ち回りで開催されており、

2004年11月、第41回年次総会が、9年ぶりに日本(つくば)で開催されました。主催は産総研とCCOP、経済産業省と外務省の後援の下、アジア11 カ国の政府代表と欧米やESCAP などの国際団体、および国内の地質関係機関・企業から、国内外合わせて約180 名の参加者がありました。会議では、地下水管理技術および沿岸環境保全の課題を扱ったテーマや最新のモデリング手法、地質分野での数値情報の国際標準化・共有化等を含め、地質と環境・資源・情報の融合化に向けたテーマにより関心が高まりました。

GeoGrid:地球科学系のグリッドシステム人類社会が直面する地球規模の様々な問題解決には、地球規模での情報収集とともに、関連する分野の知識を統合・融合し、既存の学問分野を超えて対応することが必要になってきています。また、膨大な観測データを高性能・高信頼・柔軟なアクセス手段を提供できる「グリッド技術」との融合により、「GeoGrid」という「地球科学系のグリッドシステム」とデータネットワーク共有化等をはかり、国際的イニシアティブを発揮していきます。地球観測システムの構築や途上国への能力開発等を主な目的とする実施計画策定は、2003年のエビアンG8サミットでも、「持続可能な開発のための科学技術G8行動計画」として合意されており、「GeoGrid」は、産総研の「持続的発展可能な地球社会の実現に資する」基本的活動理念に合致するミッションでもあります。包括協定関連研究機関等各国とのバイの連携とともに、産総研がこれまで構築してきたアジア太平洋地域におけるグリッド技術の研究促進を行うためのコミュニティ「グリッド計算のためのアジアパシフィック・パートナーシップ」(ApGrid)や、東・東南アジア地球科学計画調整委員会(CCOP)の研究ネットワークを活用しつつ、「GeoGrid」のアジアへの展開に取り組んでいます。

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12 産総研 TODAY 2005-07

グローバルな技術関連情報収集・分析及び研究開発環境の構築 -「技術と社会・リスク・安全」-産総研としては、効果的な「協調と競

争」の国際連携を進め研究コンピタンスを国際的に高めていくために、各国の研究機関・研究コンピタンスや政策当局の動向を把握するとともに、欧州統合市場、OECDをはじめ地域レベルや多国間のフレームワークや科学技術政策・研究開発動向を的確に把握・分析し、グローバル

な研究コンピタンスに関する技術情報分析能力を高めることが重要です。とくに欧州では競争力強化に向けた「リスボン戦略」の政策動向を踏まえつつ、研究フレームワークプログラムやNetwork of Excellence等の多国間連携フレームワークをバイ・マルチのチャネルでフォローしています。研究開発段階から、国際標

準化とともに、「社会に与える科学技術の影響」についての動向やパブリックアクセプタンス、研究開発ルールやフレームワークを視野に入れることが重要になってきており、研究者間のネットワークや研究機関同士の情報交換や連携は極めて有効です。

安全保障輸出管理の的確な実施

国際的な研究活動を推進することは、当然のこととして、海外の研究者あるいは共同研究先への実験試料、装置又は実験データ等の提供あるいは研究者の交流による技術の移転を伴うこととなります。各国では、平和と安全を脅かす核兵器をはじめとする大量破壊兵器の拡散防止及びテロリスト等に兵器やそれに必要な技術の移転を阻止するために、その一つとして、国際合意により、兵器及び兵器の開発に用いられる可能性の高い汎用品の輸出規制が実施されています。産総研から提供または移転する技術等は社会の持続的発展及び我が国の産業の発展に資するものでなければなりません。いかに優秀な研究成果であろうとも、大量破壊兵器等の開発や紛争を助長するような軍事用途に絶対に利用されてはなりません。このため、産総研では、「国際的な平和及び安全の維持を妨

げるおそれがあると判断される技術の提供及び貨物の輸出は行わない。技術の提供または貨物の輸出について輸出管理関係法令を遵守する。」ことを基本方針とし、2004年1月に「安全保障輸出管理規程」を制定しました。輸出管理最高責任者を定め、輸出管理統括部署を設置し、各部門等について輸出管理責任者の任命及び輸出管理者の指名を行い、それぞれ責任ある業務を遂行しています。具体的業務としては、輸出する貨物や提供する技術について日本政府の許可を取得しなければならないものであるか否かの判断、また、相手先・用途について懸念があるか否かの確認・審査等を行っています。このように、産総研は、国際活動の前提として、安全保障輸出管理の的確な実施への取り組みを積極的に進めています。

研究センター、研究部門、研究ラボ、管理部門等各組織単位ごとに責任者・管理者を置く

/輸出管理者会議輸出管理責任者会議

部門等輸出管理責任者部門等輸出管理者

輸出管理統括部署

輸出管理統括責任者

輸出管理最高責任者

図7-1 安全保障輸出管理体制

どこの国の誰に(相手先)

何を(具体的提供内容)

何のために(目的・用途)

調査・審査内容

輸出(提供)する貨物・技術

技術資料・設計図等

試料・試作品等

装置等

ソフトウェア

材料・部品

提供手段

・文書・通信回線・輸送・郵送・ハンドキャリー・研究者受入れ・研修・発表   等

図7-2 安全保障輸出管理の対象

「安全・安心・健康・環境リスク関連」については、ナノ関連リスク、遺伝子・感染症等バイオ関連、セキュリティ(サイバー・バイオテロ関連、バイオメトリクス等)、IT関連(体内埋込型バイオセンサー等)などについて、欧州委員会、各国政府・研究機関との情報交換、対話を進め、新しい技

術への社会の認知を強めていくことが必要です。また、バイオ遺伝子関連(プライバシー情報管理、遺伝子関連データアクセス、生物資源アクセスルール、知的所有権のマネジメント、倫理関係、遺伝子組み換え生物(GMO)関連など)や国境を越えて各国協調協力する必要がある分野、とくにセキュ

リティ関係については、OECDや欧州委員会、米国とともに、アジア各国・研究協力協定締結研究機関等とのネットワークを活用し、政府との連携により、グローバルな研究開発環境の構築、技術的コンピタンスの連携・相互補完的ネットワーク化に努める必要があります。

社会に与える科学技術の影響

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13産総研 TODAY 2005-07

産総研の戦略的国際展開

グローバルな技術関連情報収集・分析及び研究開発環境の構築 -「技術と社会・リスク・安全」-例えば、ナノテクノロジーについて、

それがもたらすベネフィットはもちろん、ナノテクノロジーが社会に与える影響に関する議論が世界的に高まっています。そこで、ナノ粒子の人体や環境への影響(いわゆるナノリスク)に関する評価

法や管理の手法、さらには産業化に重要なナノの標準化について、産総研では「ナノテクノロジーと社会」と題する公開の討論会およびシンポジウムを主催しています。多くの異なる分野が関わるこの課題に、それぞれ所管省庁が異なる研究機

関、各省庁、民間のナノテクノロジー推進母体などが一堂に会して議論が展開され、日本のナノテクノロジーの国際戦略を考える上で極めて重要な意味を持っています。

国際競争力ある研究人材を養成し、多様な優秀な研究者を世界から引きつけ「知」の創造を促進させるためには(人材ハブ・イノベーション拠点)、その能力を発揮できる創造的・競争的環境を醸成し、若手研究者の海外における研鑽機会提供、人材の評価システムやキャリアパスの展望、受け入れ体制整備、海外機関と連携した人材交流・育成や戦略的に取り組むべき新興・融合分野(ナノやバイオインフォマティクス等)における産学連携を含め人材養成プログラム提供や人材流動性向上に向けた取り組みを強化する必要があります。同時に「知」の活用については、多様なキャリアパスを勘案し、国際的視野を持ったプロジェクトコーディネーター、産学官連携、知財、技術経営・技術支援等多様な人材養成・確保を図る必要があります。

欧米に比べ問題になっている「人材流出・知の空洞化」を克服し、人材ハブ化やネットワークの強化には、そもそも産総研の研究レベルが国際的に競争力のある魅力のあるものでなければ世界からトップレベルの人材は集まらないことは言うまでもありません。また、外国人研究者を含め能力の評価、給与体系やインセンティブ、女性研究者を含め外国人研究者が活躍できる将来のキャリア展望等も大きな要因になっています。さらには、産総研のみならず地域コミュニティ全体でのコミュニケーション(例えば英語を共通語とするジョイントラボから各種手続き・生活環境関係まで)、生活教育環境、ワンストップサービスを含め生活支援体制が重要です。

国際的人材育成に関しては、産総研において、近年、とくに長期に海外トップレベルの研究所・大学・研究者のもとで研究する若手研究者が減少してきています。人材キャリアの多様化とそれに即した教育訓練・研修制度や採用・人事・評価制度、独立行政法人日本学術振興会の海外特別研究員事業を含め、既存の各種海外派遣制度の問題等が関係していると考えられます。第2期中期計画においては、これらの問題点を踏まえた制度改革とともに、新たなフェローシップ制度(研究キャリアアップ、知財や技術マネジメント研修)を含め、国際的人材育成と人材ハブ化に向けたアクションを進めることとしています。

人材ハブ・イノベーション拠点に 国際的人材の育成及び戦略的人材ネットワークの構築

ナノテクノロジーと社会

また、近年の新型肺炎SARSや鳥インフルエンザの世界的蔓延に見られるように、人・モノの移動のグローバル化に伴い、感染症のような負の側面も容易に国境を越えていきます。これを防ぐためには、研究情報の国際的公開・共有による

海外におけるリスク安全管理

早期の封じ込めが有効であり、同時に、遺伝子情報のプライバシー保護を含めた情報セキュリティの対応も重要になってきます。このため、国際機関や各国政府・研究機関との連携も必要です。人材交流のグローバル化を促進・支援することは

もちろんですが、それに伴い、産総研の外部人材登録を整備し、他方、職員の海外での出張・勤務における感染症・テロ・事故等のリスク管理を含め人材に起因する様々なリスク管理の改善に努めます。

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14 産総研 TODAY 2005-07

305

304220

205

150

141

138

84

69

494644

430

538808

862

24051622

1198

中国その他

その他欧州

韓国

インド 台湾

カナダ

トルコドイツ

メキシコ

日本ブラジル

英国

フランス

アルゼンチン

イスラエル香港

オーストラリア

米国英国

スペインオーストラリア

スイスカナダ

オーストリアスウェーデンベルギー

フィンランドチェコ

ポルトガルデンマーク(1999)

韓国ノルウェー

ニュージーランドイタリア

スロバキア

30,000 60,000 90,000

世界的な人材獲得競争

現在、世界的に、人材獲得競争が激化しており、とくに米国は、従来、世界から優秀な人材を引きつけることにより競争力強化を図ってきたと言えます。 とくに理工系においては、アジアからの優秀な頭脳流入が顕著で(中国、韓国、インドに比べ日本は減少)、アジアの人材ネットワークが強化されています(図8-1、8-2)。最近では、中国の帰国奨励制度(海亀制度)やインドをはじめアジア各国の人材のリターン現象もあり、米国においも、科学技術・研究人材のキャリアパスを含めた教育問題(青少年の科学技術離れ)や人材流動性問題が重要な政策課題になっています。欧州においては、知識経済社会に向けた競争力強化を目指した「リスボン戦略」を推進しており、とく

に米国への優秀な研究者の人材流出を懸念しつつ、海外の研究者の受け入れ・人材交流プログラムの提供等国際競争力ある研究人材を養成し、多様な優秀な研究者を世界から引きつけるとともに、若い人材の科学離れを踏まえ、科学技術教育や研究者のキャリア向上に向けた取り組みを強化しています。仏・英では、科学技術分野の優秀な外国人学生、研究者の留学奨励、世界的な評価を持っている一流の研究者の招聘、海外で活躍する仏英のポストドクターの帰国支援や研究開発型企業・研究所の誘致にもかなり力を入れています。また、ドイツのマックスプランク協会では、270名の研究幹部長職の4人に1人が外国人で、5,700名の若手科学者の半数以上は外国人となっていま

す。このような世界の優秀な人材のハブ研究機関として、創設以来(1948年)15名のノーベル賞受賞者を輩出し(前身のKaiser Wilhelm Society (1911年以来)を含めると30名)高い研究コンピタンスの成果を挙げています。国際的に人材ハブ競争が激しくなっていることからも、産総研・日本としても早急にアクションを実行するとともに、例えば、多様な研究機関が集まる“つくば”においても、欧米アジアの優秀な研究者の招聘のみならず、海外の研究開発機能・研究開発型企業の誘致を図り、起業化支援・産学官連携を含めた国際的なイノベーションハブ拠点・クラスターを形成することが喫緊の課題です。

図8-1 世界規模でPhD養成を担う米国と英国:PhD課程の留学生の受け入れDistribution of foreign PhD students in OECD countries by host country, 2000米国:約7万9千人英国:約2万6千人なお、PhD課程の学生に占める留学生の比率の多い国は、スイス、ベルギー、英国、米国(PhDの3人に1人が留学生)。

図8-2 米国PhDの取得⇒アジアの頭脳(中国、韓国、インド、台湾):非米国人の理工系米国PhD取得者(国別)Number of S&E doctorates awarded to foreign citizens in the US by citizenship - 2001米国PhD取得者の過半は非米国人。内訳 中国:25% 韓国:9% インド:9% 台湾:6%。なお、米国におけるOECD諸国出身の非米国人理工系研究者は、大多数は英国・カナダ出身で(日本人は少ない)、非OECD諸国では、中国出身が英国の3倍、 インド出身が英国の2倍。

出典:米国NSF, 2003

出典:OECD, 2003

世界規模でPhD養成を担う米国と英国PhD課程の留学生の受け入れ

米国PhDの取得⇒アジアの頭脳(中国、韓国、インド、台湾)非米国人の理工系米国PhD取得者(国別)

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15産総研 TODAY 2005-07

産総研の戦略的国際展開

産総研の人材交流の現状

産総研においては、外国人職員は255名(産総研全体職員数3225名のうち、常勤外国人研究職員は65名、外国人非常勤職員は190名)(平成17年4月現在)となっており、海外からの研究者受け入れ人数については、平成16年度では短期を含め約800人になっています。また、外国の研究者に対する技術研

修をはじめ、独立行政法人国際協力機構(JICA)、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)、社団法人科学技術国際交流センター(JISTEC)からの依頼などにより、JICA集団研修、個別研修、サマープログラム研修(欧米の博士号取得前後の研究者を夏期2ヶ月間受入)、ウィンター

インスティテュート研修(韓国の若手研究者を冬季に約5週間受入)を実施し、平成16年度は合計84名の外国人研修生を受け入れてきました。これらの研修は、日本の科学技術に関する理解を深め、専門分野での人的なネットワークを強める基礎となっています。海外からのVIPの視察では、例えば

タイNSTDA長官(2004/4/16)、中国科学院院長(2004/5/17~19)、タイ科学技術大臣(2004/6/5)、韓国大統領補佐官(2004/11/17)、フランス経済財政産業省貿易担当大臣(2005/2/24)、米国の2人のノーベル物理学賞受賞者(2005/4/22) 、チェコ教育省副大臣(2005/5/25)、ノル

ウェー教育研究省大臣(2005/5/30)など世界各国の方々が来所されています。また、産総研職員の長期海外派遣(1年以上)は、最近では減少傾向にあります(旧工業技術院時代には、各種長期派遣制度による派遣のみでも年間30名以上であったところ、派遣制度の統廃合もあり激減しており、昨年度は、産総研全体としても10名程度となっています。なお、3ヶ月以上の短期派遣ベースでは30名弱となっております)。海外出張ベースでは、米国、フランス、ドイツ、韓国を中心に、国際会議や学会などに参加するため、年間約3,700件(平成16年度)となっています。

外国人研究者支援のための産総研インターナショナルセンター等

長期滞在研究者及びその家族に対しては、産総研独自の外国人生活支援組織としての産総研インターナショナルセンター(AIC)により、ハンドブック発行、生活相談、入管申請取次、日本語研修、日本文化体験講習などを展開し、外国人研究者から高い評価を受けております。平成16年度からは、さらにビザの取次(代理提出)をAICができるようになりました。民間宿舎に入居する場合の入居保証人制度の創設など、受入研究者を支援す

る仕組み作りも着実に進展しています。研究者の宿舎としては、産総研ではつ

くばセンター内に、短期滞在用(90日以内)のさくら館(シングル114室、ツイン他24室)、長期滞在用(90日以上1年未満)のけやき館(シングル50室、ファミリールーム10室)を用意しています。さくら館の中には、テクノ・グロース・ハウス(外国人拠点室)として、外国人研究者が国内で活動する上で必要となるオフィス(パソコン、電話、FAX常設)を8室、20

名が討議できる同時通訳可能な国際会議場も用意しており、外国人研究者がつくばで様々な活動ができるような支援体制を整えています。産総研の戦略的国際展開と人材ハブ化を踏まえた外国人研究者の招聘、受け入れと連携しながら、このような外国人研究者支援の体制強化に努めています(テクノ・グロース・ハウスの詳細は、下記のウェブページをご覧下さい)。http://unit.aist.go.jp/internat/tgh/index.html

写真6-1 外国人拠点室(オフィス)

写真6-3 国際小会議室

写真6-2 AIC発行の各種ハンドブック

写真6-4 外国人向け図書室

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産総研においては、科学基盤としての標準・計測分野と工業標準化において、積極的に国際展開を進めています。とくに研究成果の社会還元が強く求められる中、工業標準の施策は、社会貢献の一形態として、その価値が高く認識されるようになってきています。産総研は、メートル条約を支える我が国唯一の、そして世界でも有数の国家計量標準機関「NMIJ=National Metrology Institute of Japan」となっており、工業標準の策定において計量標準分野との連携が緊密という高いメリットを有しています。

産総研における国際展開、とくにグローバルな「競争と協調」は、標準分野においてとくに重要です。我が国オリジナルな技術やその成果たる製品が内外の市場を創造・獲得していくためには、それらの機能・性能を客観的・科学的評価手法と基準によって計測・評価し、信頼できる結果(計測データ)を示して、我が国の技術・製品の優位性をグローバルマーケットに示していくことが重要です。とくにフロンテイア型技術開発においては、新しい価値観に基づく技術・製品を開発する場合は、その有用性・信頼性を客観的・科学的に評価する手法を技術開発段階からグローバルな市場を見据えて取り組む必要があり、国際的な連携を視野にいれることが極めて重要です。

近年、経済活動のグローバル化が進展する中で、情報通信やバイオテクノロジーなどの先端技術分野においては、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)などのデジュール標準ばかりでなく、国際的なフォーラム活動を含めた国際標準化が活発化しています。つまり知的財産を単に保有・活用するだけでなく、それらが国際標準として採用され、より広範に活用されることが、我が国産業育成の国際競争力を維持、強化させるために重要です。米国では、米国標準協会(ANSI)、商務省傘下の国家計量標準機関である米国標準技術研究所(NIST)が政府と連携して、自国標準化を強力に推進しています。一方、経済統合のための標準化政策を推進している欧州では、欧州計量標準機関連合(EUROMET)、欧州標準化委員会(CEN)、欧州電気標準化委員会(CENELEC)等が欧州委員会、関係国政府と連携し、計量標準の相互承認、欧州規格基準を国際標準化へと推進しています。我が国は、地理的・経済的に関係の深いアジア・太平洋地域においては、特に産総研はそのリーダー的役割を果たすべく、アジア太平洋計量計画(APMP)とアジア太平洋法定計量フォーラム(APLMF)活動に積極的に取り組み、アジア太平洋地域での国際調整に関与する責務を強化し、世界標準へ我が国の国際ニーズを反映させる上で、PASC(太平洋地域標準会議)等の諸活動を通じて、アジア太平洋地域の工業標準関係者との情報交換を行うなどのネットワークの緊密化を図りながら、アジア標準活動、国際規格作成機能を促進しているところです。このように、米国、欧州、そして成長市場であるアジア・太平洋地域の三極化が進んでいる中、グローバルな「競争と協調」のもと、産業競争力強化の観点から、研究開発と、標準化を一体的に進めることの重要性も高まってきています。産総研においては、この計量標準の整備・相互承認、国際標準化を、計測標準研究部門などの研究ユニット、計量標準管理センター、産学官連携部門工業標準部、そして国際部門等が協力しながら展開しています。

日本経団連、日本工業標準調査会、総合科学技術会議等からの公的研究機関に対する国際標準化活動への積極的な参画への期待にも応え、またわが国の計量標準整備とその国際相互承認を図るべく産総研では「工業標準化ポリシー」、「第2期 研究戦略」、「計量標準整備計画」等をとりまとめ、着々と実行に移しつつあります。

標準における国際展開の目標

計量標準における国際展開の施策目標としては、1990 年代において我が国の国家計量標準の整備・供給レベルが欧米先進諸国に比べ劣位であったことを考慮し、キャッチアップ段階にある我が国の基本的計量標準の整備を2010 年までのできるだけ早期に完了して、国際通商や基準認証の場でわが国の技術開発や産業が不利益を被らない産業技術環境を構築します。同時に、工業標準における国際展開として、国内外の研究成果の標準化

活動をとりまとめ、国際標準化機関へ発信していくことが期待されており、我が国発オリジナルな技術・製品が国際市場で正当に評価されるために、産総研が中心となって、計量標準、工業標準、計測標準、データベース整備を迅速かつ機動的に提供できる体制を2010 年までに整えることを目指します。最先端分野においては、一つの標準

に多くの関連の知的財産が含まれる事例が増えており、周辺技術を含めた技術全

体の標準化を含め知的財産と標準化戦略を視野に入れて、研究開発段階から我が国オリジナルな技術・製品による内外市場の創造を視野に入れた国際標準の獲得を目指すことが重要です。先端分野の国際的連携においては、産業技術の信頼性確定に向けた計測評価技術の研究開発と工業標準化・計量標準の一体的連携・推進を図ります(例えば、ナノスケール計測標準、ナノ領域物理・物性量計測標準及び標準物質、光通信用周波数計測標準

標準における戦略的国際展開:「グローバルな視点」と「アジアの視点」に

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産総研の戦略的国際展開

等)。関連する先端計測分析機器の研究開発について、オリジナルな計測技術育成に力を入れるとともに、計測分析機器開発についても、そのアプリケーションの市場を勘案し国際的な連携を視野に入

相互認証・人材育成

グローバル化する経済・技術開発の環境の下で、グローバルな産業活動を円滑に促進するためには、基準認証分野ごとに地域・国際レベルを踏まえ、「国家計量標準の同等性に関する国際相互承認体制」(MRA)並びに、「計量器の技術基準の同等性に関する国際相互受入取り決

め」(MAA)を発展させる活動が極めて重要です。なお、国内的に必要とされる基本的計量標準整備については、関連の国際相互承認を早期に完了させることとしています。また国際標準化団体における会議幹

事、議長、コンビナーの引き受けを積極

的に進め、国際標準化活動においてリーダーシップを発揮できる人材育成に努めることによって、我が国のプレゼンスを強化していくと同時に、「計量研修センター」を核とした「計量計測技術研修」などを通して、人材育成システムを強化していきます。

標準とグローバルな環境安全リスク

1990年代には環境汚染や地球規模の気候変動が大きな問題となり、有害微量化学物質や温暖化物質の分析結果への信頼性要求が強まりました。近年は、食品やバイオ製品の安全性への懸念が強まり、遺伝子組み換え作物の混合割合の検査、食品中の微量有害成分の検査、バイオ関連製品・臨床医学関連での検査などにおける計測データへの信頼性が求められており、これを背景に計量標準や標準物質に対する環境安全リスク対応を含めたグローバルな期待が高まっています。産総研では、環境・健康・安全安心を始め、科学技術の社会へのリスク関係の関心の高まりに対応して、関連の品質や安全性

評価・基準等について、試験データ、信頼性、計測器・Traceabilityを含め評価基準など、国際的動向を的確に把握しつつ、それが過度の貿易制限措置につながらないように、新しい技術の国際的標準化について、二国間や多国間のチャネルを活用しつつ、パブリックアクセプタンスについても国際的連携を図ります。とくに、欧州においては、消費者・環境団体等の関心の高まりを背景に、多国間での環境リサイクル・健康安全関連の対応に注力してきたことから、欧州でリスク対応の関心の高いフロンテイア型技術(例えば、遺伝子関連、ナノリスク、健康食品関連技術融合分野)については、欧州

委員会や各国政府とともに各国の研究機関との相互理解や連携を強めることが重要です。グローバルな視点からは、1995年、WTO/TBT協定(世界貿易機関/貿易の技術的障害に関する協定)の発効に伴って、ISO/IECなどでの世界標準をとることが標準化の主要ゴールであることが世界の共通認識となり、統合を推進する欧州経済の要請に基づく国際計量標準政策を展開する欧州、そして軍事・経済等の国益観点からの総合的基準認証政策を働きかける米国に対して、世界的計量標準機関の下での国際協調の視点を強調しつつ、我が国の意見を反映させていくことも大切になってきました。

「アジアの視点」

アジア各国については、経済産業構造関係の緊密化とアジア経済圏での技術開発の成果の産業化・市場化を考え、研究ネットワークを構築し、アジア各国の研究機関と工業技術に関するデータ標準化、標準的な試験方法確立に関する研究、標準化を戦略的に進める人材育成等において連携を深めることが重要です。これによりアジア標準化を視野にいれた国際展開を考え、とくにアプリケーションを考えたユーザー研究者を巻き込んだシステム開発の標準化について産総研の融合

的総合性をアジア経済圏でリードしていきます。また、アジア各国の工業製品の品質

向上のために良好な標準供給体制を早期に確立し、国際的に承認されることは急務であり、そのための計量・工業標準技術者の人材育成の支援を図ります。アジアの開発途上の国立標準研究所については、国際比較に参加し国際相互承認を受けられるように、技術指導・研修の受け入れを行うとともに、基本となる計量標準と標準物質を供給し支援を行ってい

ます。アジア太平洋地域における多国間関係に関しては、計量標準及び計量器に関するアジア太平洋諸国の調整機能を持つ「アジア太平洋計量計画」(APMP) と「アジア太平洋法定計量フォーラム」(APLMF)、PASC(太平洋地域標準会議)等の諸活動に積極的に取り組み、アジア太平洋地域での国際調整に関与する責務を強化するなど、世界標準へ我が国の国際ニーズを反映させる上で不可欠な、アジア標準活動、国際規格作成機能を促進します。

れる必要があります。具体的な先端分野の計量標準に関しては政府と産業界の連携を深め必要な開発ターゲットを明確化し、先進国の計量標準研究所、とくに米国NIST,ドイツPTB,イギリスNPL等と

の協力関係を維持発展させ、研究者の交流と情報の交換、必要に応じて二国間比較を実施する等の積極的展開を図ることとしています。