①農業上有用な遺伝子の特定・機能解明 - maff.go.jp...(光合成):gps...
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穂いもち抵抗性:Pb1
①農業上有用な遺伝子の特定・機能解明
イネの農業上有用な遺伝子を85個特定。このうち24遺伝子の DNAマーカーを開発し、DNAマーカー選抜育種に活用
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
耐乾燥性(深根性):Dro1,
いもち病抵抗性: pi21, Pi35, Pi38, Pi39
ツマグロヨコバイ抵抗性: Grh5, Grh6, Grh7
浮きイネ性:SK1, SK2
種子形(幅、長さ): qSW5, TGW6, GL5a, GL5b
カドミウム吸収性:OsHMA3, Osnramp5
無古米臭:LOX3
・高温登熟関連:MSD1, Amy1A, Amy1C Amy3A, Amy3D, Amy3E ・高温耐性:YUCCA, YY2 ・低温発芽性:qLTG3-1 ・トビイロウンカ抵抗性:BPH25,BPH26 等
出穂期:Ef7, Ef2,Efx
強稈性:SCM
穂発芽耐性: Sdr4、Sdr7
・収量性(種子サイズ):SRS1,SRS3, SRS5 (穂数・粒数の増大):TAW1, APO1 (光合成):GPS ・カドミウム吸収性:LCT1 ・リン吸収性:PiTF-6, PiACP-8
その他、特定した有用遺伝子
今後DNAマーカーの開発と活用により、品種開発が加速化
収量性(種子数):WFP
DNAマーカー選抜育種に既に活用されている遺伝子
DNAマーカーを活用することにより、
短期間・省力で確実に選抜が可能
イネの染色体
②DNAマーカー選抜育種技術を活用した先導的品種の開発
コシヒカリ
10日 早生
10日 晩生
②出穂期を改変したコシヒカリ
栽培適地の拡大が期待
関東HD1号 (6年)
関東HD2号 (5年)
③ハスモンヨトウ抵抗性をもつ大豆 「フクミノリ」(3年)
九州地方の大豆作付面積の約8割で発生するハスモンヨトウの被害低減が期待
フクミノリ
フクユタカ
ミルキークイーン ミルキーサマー
①良食味品種「ミルキークイーン」に開花を制御する遺伝子を導入し 早生化 した 「ミルキーサマー」(3年)
沖縄県の奨励品種として 普及面積の拡大が期待
④根こぶ病と黄化病抵抗性をもつ ハクサイ「あきめき」(4年)
あきめき 根こぶ病 黄化病
ハクサイの主要病害である根こぶ病 と黄化病の被害低減が期待
・DNAマーカーを目印として有用遺伝子をもつ個体を選抜する技術を開発 ・育種年限の大幅な短縮が可能(12年→4年程度) ※( )は開発期間
今後は、 ・イネのDNAマーカー選抜育種を全国の育種機関で展開 ・DNAマーカー選抜育種をイネ以外の麦・大豆・園芸作物へ拡大
③DNAマーカー選抜育種技術を活用した 良食味でかついもち病に強い水稲品種の開発
○陸稲が持っている様々な系統のいもち病菌に対して抵抗性を示すpi21遺伝子につい
ては、不良食味遺伝子と近接していることから、水稲の品種に導入することが困難であった。 ○pi21遺伝子と不良食味遺伝子のDNAマーカーを開発し、交配後の多数の個体の中から、 pi21遺伝子のみが導入された個体を選抜することが極めて簡単になった。 ○この方法で、コシヒカリにpi21を導入し、これまで80年間挑戦してもできなかったいもち病抵抗性良食味品種「ともほなみ」を開発した。
コシヒカリ 陸稲
美味しいがいもち病に弱い
いもち病に強いが不味い
遺伝子の正確な位置情報に基づく品種改良
病気に強いが 美味しくない
病気に強く 美味しい 食味を悪くする
遺伝子
いもち病抵抗性 遺伝子pi21
DNAマーカーにより、いもち病に強い遺伝子だけを取り込んだ個体を選抜することが出来る(6,000個体以上の中から3個体を選抜)
食味を悪くする 遺伝子
いもち病抵抗性 pi21遺伝子
いもち病に強い遺伝子と食味を悪くする遺伝子が一緒に取り込まれる
陸稲の 染色体
pi21が取り込まれたものの食味を悪くする遺伝子は排除したコシヒカリの染色体
陸稲の 染色体
両遺伝子が取り込まれた コシヒカリの染色体
これまでの品種改良
いもち病発生地での栽培状況。「ともほなみ」は、 いもち病による障害がほとんど見られない。 コシヒカリ ともほなみ
pi21遺伝子のDNAマーカーは、8都道府県の育種機関で活用されており、この遺伝子を導入した品種開発により、いもち病被害の大幅な低減が期待
④高温による米の品質低下の原因解明
デンプン 蓄積良好
常温
デンプン 合成酵素 シンターゼ
健全粒
デンプン 蓄積不足
デンプン分解酵素 α-アミラーゼ
乳白粒
高温
デンプン 合成酵素 シンターゼ
デンプン 原材料 (糖)
葉での 光合成
~
~
~
登熟期の高温で乳白粒が発生するメカニズム
デンプン原材料 (糖)
葉での 光合成 せっかく作ったデンプン
をα-アミラーゼが分解
対照イネ α-アミラーゼ低減イネ 高温
α-アミラーゼ遺伝子 の働きを抑えることで、 高温で発生する 乳白粒を低減できた
遺伝資源や突然変異集団の中からα-アミラーゼ遺伝子変異イネの選抜により、高温登熟耐性品種の開発が期待される
デンプン分解酵素α-アミラーゼを人為的に減らすと
0 10 20 30 40 50 60 70 80
対照系統 α-アミラーゼ低減系統
健全
粒率
(%)
健全粒が 大幅に増加
昼31℃、夜26℃の高温条件で登熟したときの比較
⑤イネの複合病害抵抗性メカニズムの解明
WRKY45遺伝子を適切なレベルで発現させ、強い複合病害抵抗性を示しかつ、生育や 収量が悪化しない遺伝子組換え飼料イネを開発することで、減農薬での栽培が可能
WRKY45遺伝子を高発現するイネは強い複合抵抗性を示す
日本晴 (対照)
いもち病(糸状菌:カビ)抵抗性
WRKY45 高発現イネ
白葉枯病(細菌病)抵抗性
日本晴 (対照)
A, B, C・・・・・・・・・(~300個)
複合病害抵抗性反応(いもち病、白葉枯病、ごま葉枯病等)
WRKY45遺伝子
抵抗性反応を実行する遺伝子群
植物活性化剤 O SCH3
SN
植物活性化剤は作物自身の 病害抵抗性を引き出す
WRKY45遺伝子が植物活性化剤の作用を 媒介するタンパク質であることを発見
WRKY45遺伝子はイネの抵抗性反応の実行に関わる遺伝子を約300個制御しており、それらの働きの総和により強い抵抗性が発揮される
WRKY45 高発現イネ
⑥気象データからイネの葉のほぼ全遺伝子の 働きを予測するシステムの開発
新品種がその能力を発揮するためには、導入した有用遺伝子が働く環境下で栽培することが不可欠であるが、野外環境では、気温、風量、日照が激しく変動しており、能力の検定が困難。
今後の展開
遺伝子の働き方を指標にすることで、作物の生育状況の正確な予測が可能となり、 ・施肥時期や農薬散布時期の最適化が可能 ・新品種を栽培しなくても、日本の各地で栽培した場合の栽培適地の予測が可能
課 題
つくば市内の水田で生育させたイネの葉について、ほぼ全遺伝子(約2万7千個)の働き方を解析
これら遺伝子の働き方と風量、気温、湿度、日照等の気象データとの相関を大型コンピュータで解析
イネの葉で働く約1万7千個について、気象データからそれぞれの遺伝子の働きを正確に予測できるシステムを構築
遺伝子の働き方の予測の一例 イネ体内時計因子(OsGI)遺伝子の働きについて、予測システムに日照や気温のデータを入力して算出した値と実際にイネの葉から測定した値は一致した
研究の成果
エンレイ (食品用)
Williams 82 (油糧用)
⑦我が国の主要品種のゲノム解読と品種間比較
国産大豆のゲノム解読及び品種間比較
日本晴とコシヒカリの品種間比較
これら情報の活用により、有用遺伝子の特定 及びDNAマーカーの開発が加速化
イネの染色体
米国の標準品種「Williams82」(左)の全ゲノム塩基配列を参照して、我が国の基準品種「エンレイ」(右)の全ゲノム塩基配列を解読
エンレイ以外の国産7品種のおおまかな塩基配列を解読し、エンレイを含む国産8品種のゲノム塩基配列を比較し、約4万箇所の一塩基多型(SNP)マーカーを特定
DAIZUbaseで随時公開
標準品種「日本晴」と「コシヒカリ」の塩基配列の比較から、コシヒカリの持つ様々な性質を決める遺伝子が染色体のどこに存在するかが明らかになった。
赤字:コシヒカリが持つ長所となる遺伝子 青字:コシヒカリが持つ短所となる遺伝子
DNAマーカー選抜育種技術
×
良食味品種 病害抵抗性品種
A B C D
選抜
幼苗
病害抵抗性遺伝子の有無により客観的に選抜 (従来は、病気にかかりにくいものを目で見て選抜)
病害抵抗性の良食味品種
A B D
病害抵抗性のマーカー
DNA判別
C
交配
例えば、良食味品種に 病害抵抗性を取り入れたい
バンドを示す(病害抵抗性遺伝子が導入された)ACを選抜、BDは廃棄
A C ・・・
DNAマーカーを活用することにより ・形質を調査する必要がないので、一年間に2~3回交配と選抜 ができる ・最初の交配後に得られた系統を直ちに選抜できる ことから、新品種育成期間を大幅に短縮
従来育種と同様に交配してその後代から良い形質を持った個体を選抜。ただし、DNAマーカーを利用することで、幼苗の段階で選抜できるため、少ない労力で確実にしかも短期間で選抜できる。
(参考1)
×
収量や食味などの特性
調査
従来の交配育種:12年程度
DNAマーカー選抜育種:4年程度に短縮可能
1代目
交配
2代目
0 年
3代目
4代目
5代目
1 年
2 年
3 年
4 年
5 年
6 年
7 年
8年
9年
12年
・・・
世代促進 (温室等)
6代目
7代目
8代目
× 1 代 目
交 配
2 代 目
0 年
3 代 目
4 代 目
5 代 目
1 年
2 年
3 年
4 年
新品種
新品種
DNAマーカーによる特定形質に関わる遺伝子を導入した系統の選抜
幼苗で選抜できるため、省 スペースで栽培可能
収量や食味などの特性
調査
【DNAマーカー選抜用の幼苗】
外観形質で選抜 各県で
特性調査
・一年間に2~3回交配と選抜ができる。 ・交配後に得られた系統を直ちに選抜できる(従来の交配育種では形質 を固定させるため、4~5世代後から選抜が始まる)。
(参考2)
従来の交配育種とDNAマーカー選抜育種の比較