遺伝疫学研究デザイン isseing333
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遺伝疫学研究デザイン
東京大学 医学系研究科
M1 倉橋一成
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遺伝研究
2003年にヒトゲノム計画が完了
ヒトゲノム:約30億塩基対,約22,000遺伝子
これら遺伝子の形質を知りたい(ポストゲノム計画)
Knowledge-based approach→実験的手法
Statistics-based approach→統計的手法
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遺伝統計学の倫理的問題
三省庁(文部科学省,厚生労働省,経済産業省)による倫理指針
「ヒトゲノム,遺伝子解析のための倫理指針」 倫理審査委員会による審査
インフォームドコンセントの徹底
個人情報の保護
情報の開示
遺伝カウンセリング
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0103/h0329-3.html
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遺伝カウンセリング
情報開示に伴う個人の心理的障害に対処
遺伝子は… 生涯変化しない
個人だけでなく血縁者にも関係する
→特に生殖細胞遺伝子の取り扱いに注意
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遺伝統計学
DNAアレイ,SNPアレイなどの発現解析
遺伝疫学
薬物の感受性
有害事象の頻度
遺伝子と環境との交互作用
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遺伝子と環境の交互作用
遺伝子や環境単独ではリスク無し
遺伝子と環境の交互作用リスクは有り
例)妊娠期の喫煙,TGFα多型と口蓋リスクとの関係
喫煙,TGFα多型のみではリスク無し
喫煙とTGFα多型の交互作用リスクは有り
喫煙 遺伝子型 ケース コントロール オッズ比 95%信頼区間
+ + 13 11 5.5 2.1-14.6
+ - 13 69 0.9 0.4-1.8- + 7 34 1.0 0.3-2.4- - 36 167 1.0
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遺伝疫学の特徴
疾患感受性遺伝子
ケースコントロール研究
マーカーによって疾患と相関のある遺伝子を同定
遺伝子と環境との疾患に対する交互作用
遺伝子診断はしばしば高価
妥当なコントロールが不明
ケースオンリー研究
ケースの親族をコントロールとした研究
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今回紹介する研究デザイン
Case-control study Case-only study Case-parental control study
伝達不平衡テスト(TDT) 家族内相関解析(AFBAC)
Affected relative-pair study 罹患同胞対解析
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遺伝に関する基礎知識
DNA 染色体
遺伝子多型
アレル
座位(遺伝子座)
塩基
遺伝 メンデルの法則
表現型と形質
連鎖
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細胞
生物の最小単位
ヒトでは
約数10兆個(体重1kgにつき1兆個)
約220種
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染色体
DNAの集合体
ほとんどが核の中に存在
通常の細胞:23対(46本)
全DNAを1ゲノムと表現
約22,000の遺伝子
遺伝子はゲノムの約数%
染色体
染色分体
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遺伝子
染色体の一部
遺伝子座(locus):遺伝子が存在する場所
形質(trait):ある遺伝子座の役割
疾患,薬剤感受性
表現型(phenotype):形質を細かく表現
疾患の有無,薬剤感受性の強弱
染色体
形質
ポストゲノム時代の遺伝統計学
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遺伝子(つづき)
アレル(allele):同遺伝子座に存在する対立遺伝子
遺伝子型:2つのアレルで表現される
多型(polymorphism):遺伝子やその産物の違い
マーカー遺伝子:測定が容易な遺伝子遺伝子座
アレル 遺伝子型が決定
染色体
表現型が決定
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ハプロタイプ(haplotype) 2つの遺伝子座でのアレルの組み合わせ
ディプロタイプ形:2つのハプロタイプの組み合わせ
ある遺伝子座のアレル
ハプロタイプ ディプロタイプ形
1 1
1
2 2
2
ポストゲノム時代の遺伝統計学
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Case-control study 前提:適切なコントロールの選出
曝露(環境)と遺伝子型はそれぞれ2分類
遺伝子型:1つまたはいくつかの遺伝子座に存在するアレルによって決定
曝露,遺伝子型,発病の2×4表を作成曝露 遺伝子型 ケース コントロール
+ a b- c d+ e f- g h
-
+
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オッズ比
,gOR eh fg=,eOR ch dg= egOR ah bg=
交互作用の指標(synergy index)
1でなければ乗法モデルで交互作用有り
ge
g e
ORSIM
OR OR=
×
曝露 遺伝子型 ケース コントロール+ a b- c d+ e f- g h
-
+
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遺伝子と疾患との関連
交絡変数を調整したオッズ比
まれな疾患の場合はリスク比に近似
疾患と関連のあるアレルが疾患の原因とは限らない
本当の疾患遺伝子と連鎖不平衡であるため検出された可能性
集団の特徴によって変わる
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連鎖(linkage) 連鎖:アレル同士の子への分配が非独立
遺伝子座Aとマーカー:連鎖不平衡
遺伝子座Bとマーカー:連鎖平衡
Pr :あるアレルが子供へ継承される確率
1,m 2m :マーカー1,2
( ) ( ) ( )1 1 1 1Pr Pr PrA m A m≠ ×
( ) ( ) ( )1 1 1 1Pr Pr PrB m B m= ×
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妊娠期の喫煙,TGFα多型と口蓋リスクとの関係
喫煙,遺伝子型のみではリスクなし
同時リスクは約5.5倍(2.1-14.6倍)
交互作用有り
( ) ( )13 167 11 36 6.57
7 167 34 36 13 167 69 36SIM × ×
= =× × × × ×
Hwang et al. 1995
喫煙 遺伝子型 ケース コントロール オッズ比 95%信頼区間+ 13 11 5.5 2.1-14.6- 13 69 0.9 0.4-1.8+ 7 34 1 0.3-2.4- 36 167 1
+
-
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Case-only study 曝露(環境)と遺伝子型の交互作用に興味
ケースのみを用いた2×2表
であればSIMとCORは一致する Z:コントロール群での曝露と遺伝子型とのオッズ比
+ -
+ a c
- e g
曝露遺伝子型
adfg bhCOR SIM Z ag cebceh df
= × = × =
1Z =
曝露 遺伝子型 ケース+ a- c+ e- g
-
+
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CORの解釈
コントロール群で曝露と遺伝子型が独立
交互作用として解釈できる
曝露や遺伝子型の単独の効果はわからない
ロジスティックモデルにより共変量を考慮
精密な推定値
SIMは疾患に潜む病因の異質性を表現
交絡要因を調整する事も可能
1,Z COR SIM= =
Piegorsh et.al. 1944
Begg and Zhang 1994
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妊娠期の喫煙,TGFα多型と口蓋リスクとの関係 Hwang et al. 1995
13 36 5.1413 7
COR ×= =
×
11 167 0.78,69 34
Z ×= =
×5.14 6.590.78
SIM = =
独立の仮定は満たされているであろう
喫煙 遺伝子型 ケース コントロール オッズ比 95%信頼区間+ 13 11 5.5 2.1-14.6- 13 69 0.9 0.4-1.8+ 7 34 1 0.3-2.4- 36 167 1
+
-
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Case-only studyの注意点1 ケースの選出法
発症ケースが最も良い
コントロール群での仮定
通常の状況に比べて満たされる場合が多い
栄養状態,喫煙,職業曝露,飲酒
満たされない場合
アルコール代謝酵素によるアルコール依存症や肝硬変などへのリスク
曝露や遺伝子型単独の効果はわからない
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検出されたアレルや遺伝子型と疾患との関係
真の疾患感受性遺伝子との連鎖不平衡
CORは乗法モデルでの交互作用と解釈
疫学における正しい交互作用とは?
SIMも加法モデルでの交互作用とは解釈できない
多くの環境-遺伝交互作用は乗法モデルで記述
Case-only studyの注意点2
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Parental control study コントロールの定義が不明確
ケースの親類がコントロールとして理想的かも
先祖が同じである
親や兄弟をコントロールとする
親をコントロールとする
伝達不平衡テスト(TDT) ハプロタイプ相対リスク(HHRR) 家族内相関解析(AFBAC)
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TDT(transmission disequilibrium test)
マーカー座位MにアレルMとm 両親を分割表に分類する
父親:a,母親:c McNemar検定:
M/M M/m
M/m
M mM a b a+bm c d c+d
a+c b+d 2n
transmitted allelenon-transmitted allele
( )22 2
1~td
b cb c
χ χ−
=+
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HHRR(Haplotype-based haplotype relative risk)
M/M M/m M mtransmitted a+b c+d 2n
nontransmitted a+c b+d 2n2a+b+c b+c+2d 4n
allele
M/m
興味あるアレルの頻度を知りたい
伝達された,又はされてないアレル中の頻度
Pearsonの 検定を行う2χ
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AFBAC(affected family based control study)
HRR(haplotype relative risk)に基づく
両親の遺伝子型を基に仮想コントロールを設定
Case-parental control studyも仮想コントロールを設定
M/M M/m
M/m
M/M仮想コントロール
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TDT,HHRR,AFBAC TDT
アレルと疾患(遺伝子)との連鎖を検定
少なくとも相関はあることが前提
相関が無いと連鎖していても検出できない
HHRR,AFBAC アレルと疾患(遺伝子)との相関を検定
相関しているからといって連鎖しているとは限らない
この方法を連鎖の検定に用いるとαエラーは大
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AFBAC(Case-parental control study)
ケースとコントロールを分割表に分類
あるアレルや遺伝子型を持っているor持っていない
マッチング表の解析
全セルの合計はn(ペア)
オッズ比:c b
+ -+ a b- c d
genotype in casegenotype incontrol
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環境との交互作用
曝露で層別
曝露有り群のオッズ比:
曝露無し群のオッズ比:
これらの比 によって交互作用を確認
+ -+ a b- c d+ e f- g h
genotype in casegenotype incontrol
+
-
exposure
c bg f
c bg f
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Flanders and Khouryの方法
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Case-parental control studyの特徴1
コントロールが妥当であるか
仮想コントロールの遺伝子型が生殖機能に関わっている場合
生存や生殖に影響を及ぼさない遺伝子型
大人になって発病するような疾患に有用
親の遺伝子型が必要
周産期に関わる疾患(先天異常など)に有用
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Case-parental control studyの特徴2
環境単独の効果はわからない
曝露の有り無しで遺伝子型の効果が異なるかどうか
環境と遺伝子型の交互作用はわかる
遺伝子型単独の効果がわかる
Case-only studyではわからなかった
検出されたアレルや遺伝子型と疾患との関係
真の疾患感受性遺伝子との連鎖不平衡
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Sib control study ケースの親族がコントロールとして適切
発症年齢が高い疾患
親の遺伝子型を調べることは困難
罹患していない兄弟をコントロールとする
同胞伝達不平衡テスト(S-TDT) 罹患同胞対解析(affected sib-pair analysis)
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S-TDT 家族毎(i)に分割表を考える
ある遺伝子型の期待値からのずれをMantel-Haenszel testによって検定
disease + - total+-
total
genotype
ir+ ir− ir⋅
in+
i in r+ +−in−
i in r− −−in⋅
i in r⋅ ⋅−
,i i i ie r n n+ ⋅ + ⋅= [ ] ( )( )2 ,
1i i i i i
i ii i
n n r n rV r e
n n+ − ⋅ ⋅ ⋅
+ +⋅ ⋅
−− =
−
( )
[ ]
2
2i i
iS TDT
i ii
r e
V r eχ
+ +
−+ +
− =
−
∑∑
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Affected sib-pair analysis
兄弟間のIBD(identity by descent)を考える
IBD:アレルが同祖である状態
兄弟のIBDは期待的に・・・
IBD=0:25% IBD=1:50% IBD=2:25%
期待値からの乖離:連鎖の存在を示唆
環境で層別することで交互作用を確認
兄弟間で曝露が異なっていたら複雑になる
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環境との交互作用
IBDの分布の偏りは尤度比で検定する
尤度比の対数:LOD値
+ - + -
0 a d 0.25 1 1
1 b e 0.5 b/2a e/2d2 c f 0.25 c/a f/d
IBDodds ratio
exposedexposedexpected
ここの比で交互作用を調べる
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Affected sib-pair analysisの特徴
疾患感受性を増加させる遺伝子座を調査
家族に2人以上の患者が必要
サンプルサイズの減少
ケース同士のIBD 親や親戚の情報が必要
特定のアレルの疾病への影響はわからない
環境単独の効果はわからない
メンデルの法則が崩れると妥当ではない
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まとめ
遺伝子と環境の交互作用を確かめる様々な方法
外的なコントロールは利用しない
疾病の機序が複雑な場合
特定の交互作用を検出することは難しい
ケースコントロール研究に勝ることは無い
交互作用を調べるためには充分に有用である