a207 トウダイグサ科 euphorbiaceaeflora-kanagawa2.sakura.ne.jp/attach/florakanagawa2018...992...

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992 トウダイグサ科 A207 トウダイグサ科 EUPHORBIACEAE (勝山輝男,図:勝山輝男) 草本から高木まである.花は単性で雌雄異株または同株.花は小型で目立たず,花弁と萼の区別は不明瞭で,とき に退化している.3 数性のものが多い.子房は 3 室で各室に 1 個の種子をもつ.トウダイグサ属では杯状花序をつけ る.植物体を傷つけると乳液を出す.果実は蒴果.有毒植物が多い.世界に約 250 属,6,000 種以上がある.日本には 14 35 種が自生し,多くの帰化種がある.県内には帰化や逸出も含めて 8 27 種がある.従来のトウダイグサ科か らはコミカンソウ科などが分離されたが,まだ,多系統や側系統のものを含み,将来はさらに分割されると思われる. A.草本 B.杯状花序をもち,乳液を出す ............................................................................................................ 1.トウダイグサ属 B.杯状花序を欠き,乳液も出さない C.葉は対生.................................................................................................................................................... 2.ヤマアイ属 C.葉は互生 D.小型の植物で,葉はたて状につかない.花序には心形の葉状総苞がある ............................ 3.エノキグサ属 D.高さ 1 2m に達する大型の植物.葉はたて状につき,掌状に分裂する ................................. 4.トウゴマ属 A.木本 B.若枝や葉に星状毛がある .................................................................................................................... 5.アカメガシワ属 B.若枝や葉に星状毛はない C.葉は少なくとも下面脈腋に毛がある.花には花弁がある ............................................................ 6.アブラギリ属 C.葉は無毛.花は花弁がない D.葉は楕円形または卵形.葉柄上端と支脈の末端に腺がある.種皮はろう質ではない ................ 7.シラキ属 D葉は菱状卵形または広卵形.葉柄上端にだけ腺がある.種子は白色ろう質の種皮がある .... 8.ナンキンハゼ属 1トウダイグサ属 Euphorbia L. 植物体を傷つけると乳液を出す.5 枚の総苞片が合着し,中心に 1 個の雌花,そのまわりに多数の雄花をつける(杯 状花序).総苞片の間には三日月形,半月形または楕円形の腺体がある.花後,子房が発達してくると,柄が傾き杯 状花序から鈴をぶらさげたようになる.花序の下の苞葉が黄色く着色して目立つものもある.『神植誌 01』では茎 が斜上または匍匐し,葉が対生し,杯状花序の腺体にエプロン状の付属体があり,種子にヘソがないことから,ニ シキソウ属 Chamaesyce Gray を分けたが,今回は『平凡新野生 3』にあわせて,トウダイグサ属に含めた.世界に 2,000 種以上があり,属に含まれる種数がもっとも多い属の 1 つである.日本には帰化も含めて 30 種がある.県内には絶 えたものも含めて在来種 8 種,帰化種 11 種がある. A.茎は直立,下部の葉は互生,上部の葉は輪生する B.葉は幅 2cm 未満.杯状花序の腺体は 4 5 C.葉は線形.......................................................................................................................................... 1)マツバトウダイ C.葉は長楕円形,披針形,卵形,倒卵形 D.葉の縁には微細な鋸歯がある E.葉はへら状倒卵形.果実は平滑.種子は網状紋がある....................................................... 2)トウダイグサ E.葉は披針形~長楕円形.果実はこぶ状突起がある.種子は平滑 F.苞葉は花期にも緑色 G.花は夏に咲き,茎は有毛で高さ 50 200cm,種子は黒色 ........................................ 3)タカトウダイ G.花は春に咲き,茎は無毛または有毛,茎は高さ 10 50cm,種子は褐色 .............. *シナノタイゲキ F.苞葉は花期に黄色に色づく........................................................................................... 4)バルカンノウルシ D.葉は全縁 E.茎葉には明らかな柄があり,果実の背面に 2 条のひれがある....................................... 5)チャボタイゲキ E.茎葉はほとんど柄がなく,果実にひれはない F.総苞の腺体は三日月形または半月形,果実は平滑 G.葉は輪生葉が互生葉より長く,上部葉腋から無花柄は出さず,総苞の腺体は三日月形 ............................................................................................................................................. 6)ナツトウダイ G.葉は輪生葉が互生葉より短く,上部葉腋から無花枝を分枝,総苞の腺体は半月形 ..................................................................................................................................... 7)センダイタイゲキ F.総苞の腺体は楕円形,果実はこぶ状突起がある G.海岸性.葉は厚く側脈は不明で,無毛 .......................................................................... 8)イワタイゲキ

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Page 1: A207 トウダイグサ科 EUPHORBIACEAEflora-kanagawa2.sakura.ne.jp/attach/Florakanagawa2018...992 トウダイグサ科 A207 トウダイグサ科 EUPHORBIACEAE (勝山輝男,図:勝山輝男)

992

トウダイグサ科

A207 トウダイグサ科 EUPHORBIACEAE(勝山輝男,図:勝山輝男)

 草本から高木まである.花は単性で雌雄異株または同株.花は小型で目立たず,花弁と萼の区別は不明瞭で,とき

に退化している.3 数性のものが多い.子房は 3 室で各室に 1 個の種子をもつ.トウダイグサ属では杯状花序をつけ

る.植物体を傷つけると乳液を出す.果実は蒴果.有毒植物が多い.世界に約 250 属,6,000 種以上がある.日本には

14 属 35 種が自生し,多くの帰化種がある.県内には帰化や逸出も含めて 8 属 27 種がある.従来のトウダイグサ科か

らはコミカンソウ科などが分離されたが,まだ,多系統や側系統のものを含み,将来はさらに分割されると思われる.

A.草本

 B.杯状花序をもち,乳液を出す ............................................................................................................ 1.トウダイグサ属

 B.杯状花序を欠き,乳液も出さない

  C.葉は対生 .................................................................................................................................................... 2.ヤマアイ属

  C.葉は互生

   D.小型の植物で,葉はたて状につかない.花序には心形の葉状総苞がある ............................3.エノキグサ属

   D.高さ 1 ~ 2m に達する大型の植物.葉はたて状につき,掌状に分裂する .................................4.トウゴマ属

A.木本

 B.若枝や葉に星状毛がある .................................................................................................................... 5.アカメガシワ属

 B.若枝や葉に星状毛はない

  C.葉は少なくとも下面脈腋に毛がある.花には花弁がある ............................................................ 6.アブラギリ属

  C.葉は無毛.花は花弁がない

   D.葉は楕円形または卵形.葉柄上端と支脈の末端に腺がある.種皮はろう質ではない ................7.シラキ属

   D.葉は菱状卵形または広卵形.葉柄上端にだけ腺がある.種子は白色ろう質の種皮がある .... 8.ナンキンハゼ属

1.トウダイグサ属 Euphorbia L. 植物体を傷つけると乳液を出す.5 枚の総苞片が合着し,中心に 1 個の雌花,そのまわりに多数の雄花をつける(杯

状花序).総苞片の間には三日月形,半月形または楕円形の腺体がある.花後,子房が発達してくると,柄が傾き杯

状花序から鈴をぶらさげたようになる.花序の下の苞葉が黄色く着色して目立つものもある.『神植誌 01』では茎

が斜上または匍匐し,葉が対生し,杯状花序の腺体にエプロン状の付属体があり,種子にヘソがないことから,ニ

シキソウ属 Chamaesyce Gray を分けたが,今回は『平凡新野生 3』にあわせて,トウダイグサ属に含めた.世界に 2,000種以上があり,属に含まれる種数がもっとも多い属の 1 つである.日本には帰化も含めて 30 種がある.県内には絶

えたものも含めて在来種 8 種,帰化種 11 種がある.

A.茎は直立,下部の葉は互生,上部の葉は輪生する

 B.葉は幅 2cm 未満.杯状花序の腺体は 4 ~ 5 個

  C.葉は線形 ..........................................................................................................................................(1)マツバトウダイ

  C.葉は長楕円形,披針形,卵形,倒卵形

   D.葉の縁には微細な鋸歯がある

    E.葉はへら状倒卵形.果実は平滑.種子は網状紋がある .......................................................(2)トウダイグサ

    E.葉は披針形~長楕円形.果実はこぶ状突起がある.種子は平滑

     F.苞葉は花期にも緑色

      G.花は夏に咲き,茎は有毛で高さ 50 ~ 200cm,種子は黒色 ........................................(3)タカトウダイ

      G.花は春に咲き,茎は無毛または有毛,茎は高さ 10 ~ 50cm,種子は褐色 ..............*シナノタイゲキ

     F.苞葉は花期に黄色に色づく ...........................................................................................(4)バルカンノウルシ

   D.葉は全縁

    E.茎葉には明らかな柄があり,果実の背面に 2 条のひれがある .......................................(5)チャボタイゲキ

     E.茎葉はほとんど柄がなく,果実にひれはない

     F.総苞の腺体は三日月形または半月形,果実は平滑

      G.葉は輪生葉が互生葉より長く,上部葉腋から無花柄は出さず,総苞の腺体は三日月形

         .............................................................................................................................................(6)ナツトウダイ

      G.葉は輪生葉が互生葉より短く,上部葉腋から無花枝を分枝,総苞の腺体は半月形

         .....................................................................................................................................(7)センダイタイゲキ

     F.総苞の腺体は楕円形,果実はこぶ状突起がある

      G.海岸性.葉は厚く側脈は不明で,無毛 ..........................................................................(8)イワタイゲキ

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トウダイグサ科

      G.内陸性.葉は薄く側脈は見え,下面に軟毛がある ..............................................................(9)ノウルシ

 B.葉は楕円形で大きく,幅 2cm 以上.杯状花序の腺体は 1 ~ 2 個

  C.葉の中部に湾入はなく,花期に苞葉は紅色にならない ........................................(10)ショウジョウソウモドキ

  C.葉の中部に湾入があり,花期に苞葉は紅色を帯びる ........................................................(11)ショウジョウソウ

A.茎は斜上または匍匐し,葉は対生

 B.茎は斜上.葉はやや大きく,長さ 1.5 ~ 4cm  C.枝先に複合集散花序をつける

   D.茎は上側に細毛があり,果実は径約 2mm,種子は長さ約 1.2mm ..................................(12)オオニシキソウ

   D.茎は無毛,果実は径約 1.8mm,種子は長さ約 1mm ................................................*セイタカオオニシキソウ

  C.花序は葉腋から出た短い枝にかたまって多数つくので頭状に見える

   D.葉の上面は有毛,頭状花序は各節に 1 個ずつつける ........................................................(13)シマニシキソウ

   D.葉の上面は無毛,頭状花序は茎の最上部にのみつける ............................................(14)ニセシマニシキソウ

 B.茎は匍匐する.杯状花序は腋生.葉は小型で長さ 2 ~ 15mm  C.果実は無毛

   D.葉は長さ 7 ~ 15mm,鋸歯縁.茎は軟立毛が散生 .....................................................................(15)ニシキソウ

   D.葉は長さ 2 ~ 6mm,全縁.茎は無毛 ...............................................................................(16)コバノニシキソウ

  C.果実は有毛

   D.果実は稜とその近くに立った毛がある

    E.茎は上側 1 列に軟毛があり,葉の下面はまばらに毛がある.果実は長さ 1 ~ 1.2mm .....(17)ハイニシキソウ

    E.茎や葉の下面は全体に曲った軟毛を密生.果実は長さ約 1.5mm ............................(18)アレチニシキソウ

   D.果実は全体に寝た毛がある

    E.果実は柄が長く杯状花序の外に出て,長さ約 1.3mm,種子は約 0.8mm ........................(19)コニシキソウ

    E.果実は柄が短く基部が杯状花序中にあり,長さ 1 ~ 1.2mm,種子は 0.6 ~ 0.8mm ....*イリオモテニシキソウ

♪ →(1) マツバトウダイ Euphorbia cyparissias L. 多年草.茎は多数を叢生.茎葉は線形で長さ 1 ~ 2cm,幅 2mm 以下,全縁で無毛.花期には輪生葉や苞葉が色づく.

ヨーロッパ原産で,北アメリカやアジアの温帯に広く帰化している.日本では北海道~本州に帰化.団地の建替え

工事現場で採集された.

標本:相模原市横山団地 2014.7.16 松本雅人 SCM50447.(2) トウダイグサ Euphorbia helioscopia L. 越年草.高さ 20 ~ 30cm.ふつう無毛であるが,ときに軟毛を密生するものもある.葉がへら状倒卵形なので,

近縁種との区別は容易.互生葉は輪生葉と同長または少し短く,長さ 1 ~ 4cm,幅 7 ~ 15mm.花は春.本州,四国,

九州,琉球;北半球に広く分布する.県内では丘陵や沖積地の路傍,畦,河岸などに普通に生える.

(3) タカトウダイ Euphorbia lasiocaula Boiss. 多年草.茎は有毛,高さ 30 ~ 80cm.互生葉(茎葉)は輪生葉より長く,長さ 5 ~ 6cm,幅 5 ~ 7mm.葉は縁に

微細な鋸歯があり,ふつう無毛であるが,ときに下面脈上に軟毛があるもの,下面全体に軟毛を密生するものがある.

花はトウダイグサ類でもっとも遅く,初夏から夏にかけて開花する.杯状花序の腺体は楕円形.果実の表面にはこ

ぶ状の突起がある.種子は平滑.本州,四国,九州;東アジアに分布.草地に生える.県内ではシイ・カシ帯~ブ

ナ帯下部の丘陵や山地に普通にみられる.タカトウダイにはこれまで E. pekinensis Rupr. があてられ,E. lasiocaulaはその異名とされていたが,果実のいぼ状突起の形が異なり,タカトウダイは E. lasiocaula とされた(Kurosawa & Ohashi 1994 J. Jap. Bot. 69: 1-13). 箱根で 6 月初~中旬に開花するものがあり,シナノタイゲキ E. sinanensis (Hurus.) T.Kuros. & H.Ohashi の可能性を

考えたが,茎は 60cm に達し,白軟毛が生え,種子が淡黒褐色のため,タカトウダイの範囲とした.

 三浦半島の海岸に生えるものは,全体に小型で葉がやや厚く,花序の枝が短く密集するもので,ハマタカトウ

ダイ form. maritima (Hurus.) T.Kuros. & H.Ohashi という.基礎異名の Galarhoeus lasiocaulus (Boiss.) Hurus. form. maritimus Hurus. in J. Fac. Sci. Univ. Tokyo sect. 3, 6: 264 (1954) の基準標本(Japonia, Prov. Kadzusa, Daito. K.Hisauchi, 1934)は大戦により失われたと考えられ,Kurosawa & Ohashi(1994 J. Jap. Bot. 69: 273)により神奈川県三崎産の標

本(TI)が新基準標本として選定された.

→(4) バルカンノウルシ(新称) Euphorbia oblongata Griseb. タカトウダイに類似のもので,花期が早く,花期に苞が色づくものが市街地で採集されている.茎は叢生し,立っ

た白毛が密生,葉は細鋸歯縁で両面無毛.花序は散形に 5 本ほどの枝を伸ばし,花序枝は輪生葉よりもやや短く,

総苞の腺体は楕円形,果実にはこぶ状突起がある.南ヨーロッパ原産で北アメリカに帰化.

標本:川崎市幸区柳町 2014.5.2 酒井藤夫・啓子 KPM-NA0175969;磯子区汐見台 2015.5.30 井上・原田 YCB444463;藤沢市大庭 2013.5.22 浅野牧子 HCM102600.

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トウダイグサ科

トウダイグサ

→(5) チャボタイゲキ Euphorbia peplus L. 1 ~越年草または短命な多年草.全体に無毛.茎は高さ 10 ~ 30cm.互生葉(茎葉)は輪生葉より長く,倒卵形

で先は鈍く,基部はくさび形となって柄に続き,長さ 1 ~ 2cm,幅約 1cm,全縁,質は薄い.杯状花序の腺体は三

日月形.果実は径約 2mm,無毛,3 室に分かれ,各室の背面に 2 条の顕著なひれがある.種子は赤褐色,長さ約 1.5mm,

格子状の深い凹みがある.地中海沿岸原産の帰化植物.1940 年ごろに長崎市に帰化(長田帰化 72).県内では『神

植誌 01』の調査時に川崎市ではじめて記録され,その後,大磯,鎌倉,横須賀など各地で採集されるようになった.

川崎市では栗畑の林床や路傍に群生する.

(6) ナツトウダイ Euphorbia sieboldiana C.Morren & Decne.; E. guilielmii A.Gray in Mem. Amer. Acad. Arts Sci. n.s. 6: 406 (1859) の基準標本 3 点のうちの 1 点の産地は横浜(Williams & Morrow)

 多年草.高さ 20 ~ 40cm.輪生葉は互生葉(茎葉)と同大またはやや大きく,長楕円形で全縁,長さ 2 ~ 6cm.

花は名前に反して早春に咲く.杯状花序の腺体は三日月形.果実および種子は平滑.北海道,本州,四国,九州,

朝鮮に分布する.丘陵から山地の雑木林や草地に生える.県内ではシイ・カシ帯~ブナ帯下部の丘陵や山地にやや

普通にみられる.

♪(7) センダイタイゲキ Euphorbia sendaica Makino 別名ムサシタイゲキ.多年草.横にはった根茎を伸ばし群生する.茎は高さ 20 ~ 40cm,無毛,上部の葉腋から

無花枝を分枝する.茎葉は互生し,狭長楕円形,長さ 2 ~ 6cm,基部はくさび形,先は円形または鈍形,全縁で両

面ともに無毛.輪生葉は 4 ~ 6 枚,長さ 2 ~ 3cm で最上部の茎葉よりも短い.花は 4 月.杯状花序の苞葉は対生し,

3 角状半円形.総苞は長さ約 2mm,腺体は半月形.蒴果は無毛で平滑.本州(岩手県~山梨県の太平洋側)に分布.

丘陵~低山地のやや湿った林床や林縁に生える.大和市泉の森の水源地に 2005 年頃より生育が知られていたが,開

花せず正体が不明であった.栽培株が 2013 年に開花し,本種であることが確認され,2014 年には自生地でも開花

がみられた(馬場 2014 FK (78): 924-925).国 RDB15 では準絶滅危惧種.

標本:大和市上草柳 2014.4.16 馬場しのぶほか KPM-NA020434.(8) イワタイゲキ Euphorbia jolkinii Boiss. 多年草.茎は太く,高さ 30 ~ 50cm.互生葉(茎葉)は輪生葉より長く,長さ約 4cm,全縁で,質厚く,側脈は

不明で,縁が白色になり,無毛.花は春.杯状花序の腺体は楕円形.果実の表面には先の丸いこぶ状突起が密生する.

本州(千葉県以西),四国,九州,琉球;朝鮮(南部),台湾に分布.海岸の岩場に生える.1968 年に三浦半島で採

マツバトウダイ

互生葉 輪生葉苞葉

杯状花序と蒴果種子

トウダイグサ

マツバトウダイ

5mm苞葉

互生葉

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トウダイグサ科

タカトウダイ

杯状花序と蒴果

種子

輪生葉

苞葉

互生葉

バルカンノウルシ

タカトウダイ

チャボタイゲキ

互生葉

苞葉

杯状花序と蒴果

1mm

1cm

種子

チャボタイゲキ

互生葉 輪生葉苞葉

種子

杯状花序

と蒴果

ナツトウダイ ナツトウダイ

1mm輪生葉

苞葉

互生葉

1cm

バルカンノウルシ

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トウダイグサ科

集された標本が残されているが,その後の調査では見出されず,『神 RDB95』では絶滅種とされた.『神植誌 01』の

調査で真鶴半島の付け根の岩場に十数株が生えているのが見出された(勝山 2000 FK (50): 579).現在も健在である.

『神 RDB06』では絶滅危惧ⅠA 類とされた.

標本:三浦市毘沙門 1968.6.15 高橋秀男 KPM-NA0092671;三浦市毘沙門 1968.4.21 YCM16004,YCM35457;湯河原

町 2000.5.8 勝山輝男 KPM-NA0118651.†(9) ノウルシ Euphorbia adenochlora C.Morren & Decne.; E. rochebrunei Franch. & Sav., Enum. Pl. Jap. 1: 421 (1875), 2:

485-486 (1878) の基準産地は横須賀付近(Savatier-1097bis) 多年草.高さ 30cm 前後.互生葉(茎葉)は輪生葉より長く,長さ 5 ~ 6cm,全縁,質薄く側脈は見え,下面に

軟毛が生える.花は春.杯状花序の腺体は楕円形.果実の表面には先の尖ったこぶ状突起がある.北海道,本州,

四国,九州に分布.河岸などの湿った草地に生える.箱根(箱根目 58),登戸(帝国女子医学薬学専門学校 1932 武蔵登戸付近植物目録),鶴見川河畔(横植誌 68)の文献記録があり,下記の標本も残されている.『神植誌 88』の調

査では横浜市港北区樽町で採集されたが,これが県内からの最後の記録となった.県内ではもともと稀であったが,

河川改修等によって絶滅したと思われる.『神 RDB95』『神 RDB06』ともに絶滅種と判定した.なお,『神 RDB95』は丹沢中津川(1953.5.31 大場達之 KPM-NA0021258)のノウルシの標本を引用しているが,丹沢中津川は中津渓谷

またはその周辺と考えられ,このあたりにノウルシの生育環境はない.同じ標本番号(KPM-NA0021258)のナツト

ウダイの標本があり,番号 1 つ違いの KPM-NA0021257 が埼玉県新座市産のノウルシであることから,この標本は

台紙に貼る際に紛れたものと考える.

標本:横浜市港北区樽町 1981.4.18 川合友理枝 KPM-NA1003674;相州箱根山 S.Tamaki TI.→(10) ショウジョウソウモドキ Euphorbia heterophylla L.; Poinsettia heterophylla (L.) Klotzsch & Garcke 1 年草.葉は楕円形で,長さ 4 ~ 10cm.苞葉は緑色.果実は表面が平滑で長さ約 4mm.種子は灰黒色で表面はで

こぼこしていて,長さ 2 ~ 3mm.南アメリカ原産の一時帰化植物.沖縄に帰化.横浜市瀬谷区の米軍通信隊付近の

畑地で採集された(勝山 1998 FK (46): 511).葉に湾入はなく,苞葉は黄色を帯びるだけで,紅色にはならない.

標本:横浜市瀬谷区米軍通信隊付近 1997.11.24 松本雅人 KPM-NA0107339;同 1998.11.02 松本雅人 SCM11129.→(11) ショウジョウソウ Euphorbia cyathophora Murray 1 年草.葉の中部に深い湾入があり,花期には苞葉の一部が紅色に色づく.北アメリカ南部原産で観賞用に栽培

され,暖地に逸出する.『神植誌 01』までは採集されていなかったが,今回の調査では多数の標本が採集されている.

イワタイゲキ

互生葉

輪生葉

苞葉

杯状花序

イワタイゲキ

センダイタイゲキ★新産RD

互生葉

輪生葉

苞葉

杯状花序

センダイタイゲキ

1mm

1mm

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トウダイグサ科

ノウルシ

ショウジョウソウモドキ

互生葉

輪生葉

苞葉

杯状花序

杯状花序と蒴果

種子

5mm

ノウルシ

ショウジョウソウモドキ

ショウジョウソウ

→(12) オオニシキソウ Euphorbia nutans Lag.; Chamaesyce nutans (Lag.) Small 1 年草.茎は斜上し,上側にだけ細毛がある.葉は長楕円形で縁には細かい鋸歯がある.果実は無毛,長さ約

2mm.種子は不明のしわがあって,長さ約 1.2mm.北アメリカ原産の帰化植物.本州(中南部)に帰化.路傍,河

原,荒地などに生える.県内では市街地から郊外にかけて普通にみられる.従来,日本では本種に E. maculata L. があてられていた(長田帰化 76 など)が,E. maculata はコニシキソウである.

 茎が無毛のものが相模原市根小屋(2007.10.1 松本雅人 SCM49618)で採集されている.アメリカ大陸原産で琉球

や小笠原に帰化しているセイタカオオニシキソウ E. hyssopifolia L.; C. hyssopifolia (L.) Small の可能性があるが,標

本の状態が悪く,同定を保留した.

→(13) シマニシキソウ Euphorbia hirta L.; Chamaesyce hirta (L.) Millsp. 1 年草.茎や葉には開出した硬い毛があり,葉はひし形.果実には伏毛がある.路傍や荒地に生える.熱帯アメ

リカ原産の帰化植物.本州,四国,九州,琉球に帰化.県内では 1956 年に横浜市で採集され,その後しばらくは記

録がなかったが,『神植誌 01』の調査時に川崎市麻生区で採集された.今回の調査では小田原市などで採集された.

標本:川崎市麻生区下麻生 1997.10.10 平川恵美子 KYS-125314;横浜市南区中里 1956.7.31 長谷川義人 YCM12499;

1cm

ショウジョウソウ

1cm

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998

トウダイグサ科

横浜市港南区上永谷 1956.10.6 長谷川義人 YCM12500.♪ →(14) ニセシマニシキソウ Euphorbia ophthalmica Pers.; Chamaesyce ophthalmica (Pers.) D.G.Burck. シマニシキソウに似るが,全体に小さく,葉の上面は無毛で,花序は茎の最上部のみにつく.アメリカ大陸原産.

2013 年に千葉県野田市で気付かれ和名が仮称された(土屋 2015 千葉県植物誌資料 (29): 299-300).県博には 2000年に三重県松阪市で採集された標本(KPM-NA0123914)があり,かなり以前より帰化していたものと思われる.県

内では相模原市や藤沢市で採集された.

標本:相模原市緑区根小屋 2007.10.1 松本雅人 KPM-NA0208199,SCM48882;相模原市新磯野(SA-2) 2008.9.30 SCM51566;藤沢市用田 2016.11.23 鈴木益美 SCM55110.

(15) ニシキソウ Euphorbia humifusa Willd.; Chamaesyce humifusa (Willd.) Prokh. 1年草.茎には立った毛がまばらに生える.葉は赤斑がなく,長さ7~15mm,縁には細かい鋸歯がある.果実は無毛,

長さ約 1.5mm.種子はしわがなく,長さ約 1mm.本州,四国,九州,琉球;東アジア,南アジアに分布.路傍や畑

に生える.全国的にコニシキソウにおされ,少なくなりつつある.

→(16) コバノニシキソウ Euphorbia makinoi Hayata; Chamaesyce makinoi (Hayata) H.Hara 1 年草.茎は無毛.葉は広楕円形で全縁,長さ 2 ~ 6mm.果実は長さ約 1.3mm,無毛.種子は長さ約 1mm,無毛.

琉球;中国(南部),台湾,フィリピンに分布.川崎市の工場地帯に一時帰化.『神植誌 01』調査時に福島大学の黒

沢高秀により下記標本が同定され,県内への帰化がはじめて確認された.その後,相模原市や座間市などで採集され,

産地は増加している.

標本:川崎市川崎区千鳥町 1996.10.27 武井尚 KPM-NA0115133.→(17) ハイニシキソウ Euphorbia prostrata Aiton; Chamaesyce prostrata (Aiton) Small 1 年草.茎は上側にのみ短い伏毛が生える.葉は赤斑がなく,長さ 4 ~ 8mm,縁には細かい鋸歯がある.果実は

稜のみに立った直毛があり,長さ 1 ~ 1.2mm.種子は深い横しわがあり,長さ約 0.7mm.熱帯アメリカ原産の帰化

植物.本州,四国,九州,琉球,小笠原;世界の熱帯から亜熱帯に広く帰化している.路傍に生える.県内では稀.

『神植誌 88』の調査時には横浜市中区山下埠頭で採集されただけであったが,『神植誌 01』では川崎市,横浜市,綾

瀬市などの数ヶ所で採集され,県内分布は増加している.『神植誌 88』では学名を E. chamaesyce L. としたが,これ

は誤りであった.Smith & Tutin(1968 Fl. Europaea Vol.2) によると,E. chamaesyce は南ヨーロッパに産し,茎の全

面が有毛ときに無毛で,果実も全体に毛があるかときに無毛のもので,日本やアメリカには帰化していない.なお,

種子 杯状花序と蒴果

シマニシキソウ

蒴果

シマニシキソウ

オオニシキソウ

オオニシキソウ

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999

トウダイグサ科

ニシキソウ

コバノニシキソウ

ハイニシキソウ

種子

種子

蒴果

蒴果

種子

1mm

コバノニシキソウ

ニシキソウ

ハイニシキソウ

ニセシマニシキソウニセシマニシキソウ

1cm

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1000

トウダイグサ科

『長田帰化 72,長田帰化 76』のハイニシキソウは記述,図版,引用標本ともに次のアレチニシキソウと思われる.

→(18) アレチニシキソウ Euphorbia sp. 茎の全周や葉の下面には曲った白軟毛が密生する.葉は長さ 4 ~ 7mm.杯状花序の腺体の付属体は小さく目立た

ない.果実は長さ約 1.5mm,ハイニシキソウと同様に稜付近に立った毛があるが,その毛はやや縮れ,側面にもま

ばらに生える.種子は長さ約 1mm,深い横しわがある.1950 年ごろから西日本を中心に採集されている原産地・学

名不詳の帰化植物.県内では『神植誌 01』の調査時に横浜市と川崎市から下記の標本が採集され,その後,各地で

記録されるようになった.

標本:横浜市神奈川区亀住町 1999.1.7 河濟英子 YCB418525;横浜市瀬谷区上瀬谷 1999.9.24 松本雅人 SCM13582;川崎市川崎区千鳥町 1996.8.11 武井尚 KPM-NA0112759.

 アレチニシキソウは村田(1953 分地 15: 47)が,室井綽により兵庫県赤穂郡有年駅付近で 1952 年 8 月 8 日に採集

されたものを,E. chamaesyce L. subsp. massiliensis (DC.) Thell. と同定して報告したもので,葉,茎,果実に軟毛があり,

種子の表面に不規則な横しわがある.『長田帰化 72』のハイニシキソウの参考標本としてあげられている兵庫県赤

穂郡有平村産の標本(室井綽 Ⅷ 1952 TNS109316)は,村田(1953)の引用標本と同じものと思われ,『長田帰化

72,長田帰化 76』が「茎には縮れた白毛がある」とだけ書かれている点とあわせて考えると,『長田帰化 72,長

田帰化 76』の“ハイニシキソウ”もハイニシキソウ E. prostrata ではなく,アレチニシキソウである.しかし,村

田(1953)がアレチニシキソウにあてた E. chamaesyce subsp. massiliensis は Smith & Tutin(1968 Fl. Europaea Vol.2)によると,ハイニシキソウの項に記した E. chamaesyce subsp. chamaesyce の果実の特徴に加えて,杯状花序の付属

体が腺体の 2 倍の大きさがあるもので,果実の稜付近にのみ毛があり,杯状花序の腺体の付属体が小さいアレチ

ニシキソウとはあわない.したがって,アレチニシキソウは E. chamaesyce subsp. massiliensis でも,E. chamaesyce subsp. chamaesyce でもない.いまのところ,アレチニシキソウに一致する記載が見出せない.

→(19) コニシキソウ Euphorbia maculata L.; Chamaesyce maculata (L.) Small; E. supina Raf. 1 年草.茎は全体に白軟毛が密生し,節間もつまる.葉は上面中央に赤斑があり,長さ約 10mm.果実は全面に伏

毛があり,長さ約1.2mm.種子は長さ約1mm,褐色で不明の横しわがある.北アメリカ原産の帰化植物.路傍,線路,畑,

河原などの裸地に生える.1895年に牧野富太郎が横浜本牧岬や東京で採集している(牧野 1895 植雑 9: 314).その後,

ニシキソウに変わって日本各地で普通にみられる雑草になってしまった.県内ではシイ・カシ帯の人家や畑がある

ところにはほとんど侵入している.

コニシキソウ

アレチニシキソウ

種子

蒴果

種子

2mm

1mm

アレチニシキソウ

蒴果コニシキソウ

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1001

トウダイグサ科

*イリオモテニシキソウ Euphorbia thymifolia L.; Chamaesyce thymifolia (L.) Millsp. 1 年草.茎は全体に軟毛があり,果実の全面に伏毛がある点で,コニシキソウによく似ているが,果実はやや小

さく長さ 1 ~ 1.2mm で,柄が短く基部が杯状花序に埋もれる点が異なる.葉は赤斑がなく,長さ 10mm 以下で,き

わめて密生する.種子は赤褐色で不明のしわがある.奄美~沖縄.南アジアに分布.横浜に帰化の記録(久内帰化)

があるが,標本は確認されていない.

2.ヤマアイ属 Mercurialis L. 1 年草または多年草.茎は直立し,葉は対生.雌雄異株ときに雌雄同株.枝先の葉腋から細長い穂状花序を伸ばす.

ユーラシア大陸に 7 種あり,日本にはヤマアイ 1 種のみが分布.

(1) ヤマアイ Mercurialis leiocarpa Siebold & Zucc. 多年草.分枝する長い地下茎があり群生し,高さ 30 ~ 50cm.葉は柄が長く,葉身は披針形または楕円形で,長

さ 3 ~ 10cm,縁には鋸歯があり,葉身基部に腺がある.本州,四国,九州,琉球;朝鮮,中国(南部),台湾,イ

ンドシナに分布.湿った樹林内に生える.『神植目 33,神植誌 58,神植誌 88』のいずれにも記録がなかったが,『神

植誌 01』の調査時に横浜市,川崎市,葉山町で採集され,その後も採集されることが多い.これまで本州の太平洋

側では静岡県以西に分布するとされていた.稀に栽培されることもあり,県内のものが自然に分布を拡大してきた

ものか,栽培していたものに由来するものかは不明である.

3.エノキグサ属 Acalypha L. 1 年草,稀に小低木.葉腋につく花序は先端に穂状の雄花序,その基部に雌花序をつけ,あみがさ状の葉状苞がある.

トウダイグサ属の杯状花序との関連がある.熱帯を中心に 400 種以上が知られている.日本には 2 種があり,エノ

キグサ 1 種が広く分布する.また,帰化の記録が 2 種ある.

A.穂状花序は葉腋につけ,上部に雄花,下部に雌花をつけ,雌花基部の苞葉は卵形で鋸歯縁 ..........(1)エノキグサ

A.穂状花序は枝先につけ,上部に雌花,基部に雄花をつけ,雌花基部の苞葉は線形の裂片に細裂する

   .........................................................................................................................................................(2)アレチアミガサソウ

(1) エノキグサ Acalypha australis L. 別名アミガサソウ.1 年草.葉は卵形または卵状披針形で鋸歯縁,両面ともに無毛または伏毛を散生する程度.

全体に深緑色または赤味を帯びることがある.葉の形や質がエノキの葉に似ているのでエノキグサという.北海道,

本州,四国,九州,琉球;東アジアに分布.畑や路傍にきわめて普通に生える.葉の形や毛の量に変化が多く,『神

植誌 01』ではビロードエノキグサとナガバエノキグサの 2 変種を区別したが,多くの標本が集まると,分類に迷う

ものも多く,今回は分布図を分けることができなかった.ビロードエノキグサ form. velutina (Honda) Ohwi は茎に上

向きの曲がった毛が密生し,葉は卵形で先があまり尖らず,脈上に長い斜上毛,脈間に立細毛を密生し,触るとビ

ロード状のもの.県内では畑地や路傍の草地に見られるが,エノキグサに比べてはるかに少ない.ナガバエノキグ

サ form. glareosa (Rupr.) H.Hara は葉が全体に小さく,茎の下部のものから上部のものまで同形同大で,葉の下面脈

上に長い立毛または斜上毛があり,ときに脈間にも生えるもので,毛の量には多少があるが,脈間に立細毛がない

ので,触ってもあまりビロード状の手触りはない.市街地などの路傍や乾燥した裸地に生える.

♪ →(2) アレチアミガサソウ Acalypha ostryifolia Riddell ex J.M.Coult. 1 年草.茎は直立し,高さ 20 ~ 40cm,細毛が密生し,疎らに有柄の腺毛がある.葉は卵形で長さ 1.5 ~ 5cm,基

部は心形で先は短く尖り,縁には細鋸歯がある.穂状花序は枝先につき,上部に多数の雌花をつけ,基部に少数の

雄花をつけ,ときに基部から枝を分けて雄花序をつける.雌花の基部には苞があり,苞は長さ 3 ~ 5mm,10 ~ 15個の線形の裂片に細裂し,細毛と腺毛が疎らに生え,裂片上部の縁はざらつく.果実は長さ約 2mm,幅約 3mm,表

面には刺状の突起がある.種子は卵形で長さ約 2mm,基部は円く,先は尖り,表面にはこぶ状の突起がある.中央

アメリカ原産で北アメリカ南部に広く帰化.横浜市旭区で採集され,日本新産帰化植物としてアレチアミガサソウ

と仮称され,A. setosa A.Rich. の可能性が示唆された(秋山 2013 FK (77): 916-917).G.A.Levin(2017 Acalypha in Fl. North America online, http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=100064)の記述より,本種と同定された.

A. setosa は葉の基部が円形または切形,苞は無毛,果実は平滑,種子にこぶ状の突起がないなどの違いがある.

標本:横浜市旭区矢指町 2013.10.3 秋山幸也 SCM48124.

→4.トウゴマ属 Ricinus L. 低木または 1 年草.葉は互生し,単葉で掌状に裂け,葉柄は楯状につく.雌雄同株.花序は総状,上部に雌花,

下部に雄花がつく.雄花は 5 個の萼と多数の雄しべからなる.雌花は 3 ~ 5 個の萼と 1 個の雌しべからなる.果実

は球形で刺が多い.

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1002

トウダイグサ科

ヤマアイ

エノキグサ

花序

種子1cm

1cm

1cm

アレチアミガサソウ

ヤマアイ

エノキグサ

ビロードエノキグサ

ナガバエノキグサ

→(1) トウゴマ Ricinus communis L. 別名ヒマ.温帯では 1 年草.葉は径 20 ~ 70cm.アメリカ東部原産.ヒマシ油を採るために栽培され,西日本を

中心に帰化している.県内では稀に逸出.アカトウゴマ form. sanguineus Baill. は全草赤色で生花用に栽培される.

トウゴマ同様に稀に逸出する.

5.アカメガシワ属 Mallotus Lour. 葉は単葉で互生.雌雄異株または同株.花は小さく,花序は頂生,穂状または下部で枝分かれして円錐状.雄花

は束状に集まり,3 ~ 4 裂する萼と多数の雄しべがある.雌花は各苞に 1 個つき,萼と雌しべがあり,子房には刺

や腺点があり,花柱は 3.世界の熱帯を中心に約 150 種あり,日本にはアカメガシワ 1 種が広く分布し,ほかに琉

球に 2 種がある.

(1) アカメガシワ Mallotus japonicus (L.f.) Müll.Arg. 落葉高木.葉身は卵円形で長さ 5 ~ 15cm,全縁~波状縁~ 3 浅裂し,基部で 3 脈が目立ち,上面基部に 2 個の腺

アレチアミガサソウ

1cm

1mm

1cm花序

種子苞

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1003

トウダイグサ科

トウゴマ

トウゴマ

種子5cm

1cm

体があり,両面に星状毛と下面全体に小腺点がある.葉柄は長さ 5 ~ 20cm.花は 7 月.本州(秋田県以南),四国,

九州,琉球;中国に分布.海岸,河川敷,崩壊地などの荒れた土地に好んで生える.県内では海岸から山地まで普

通にみられる.

→6.アブラギリ属 Vernicia Lour. 落葉高木.雌雄同株.花は頂生の円錐花序につき,雄花と雌花はふつう別の花序につける.萼は 2 ~ 3 裂,花弁

は大きく 5 個.雄花には 8 ~ 20 の雄しべが,雌花には 2 裂する花柱が 3 個ある.果実は堅果で裂開しない.アジア

の熱帯から暖帯に 3 種ある.日本には 1 種があり,2 種が栽培される.県内には 1 種が国内帰化.

A.葉の下面は無毛,葉身基部の腺は有柄,果実の頂部は尖らない ..........................................................(1)アブラギリ

A.葉の下面は有毛,葉身基部の腺は無柄,果実の頂部は尖る ..............................................................*オオアブラギリ

→(1) アブラギリ Vernicia cordata (Thunb.) Airy Shaw; Aleurites cordata (Thunb.) R.Br. ex Steud.; Dryandra cordata Thunb., Nov. Gen. Pl. 3: 60-61 (1783) の基準産地は箱根ほか

 葉は大きく長さ 12 ~ 20cm,全縁または 3 裂し,星状毛はなく,下面掌状脈の基部に褐色毛が密生する.葉柄は

長さ 6 ~ 23cm,上端に 2 個の腺がある.花は 6 月に咲き,花弁は長さ 18mm で淡紅色.果実は直径 2 ~ 2.5cm の

偏球形で,頂部は尖らず,側面には 3 ~ 4 個の溝がある.本州(中部地方以西),四国,九州;中国に分布.かつて

は種子から乾性油,樹皮からタンニンや染料をとるために栽培され,それが放置されて山林中に逸出している.葉

の形や質がイイギリに似るが,イイギリには葉柄の上端だけでなく下端近くにも腺がある.

*オオアブラギリ Vernicia fordii (Hemsl.) Airy Shaw; Aleurites. fordii Hemsl. 別名シナアブラギリ.中国~インドシナ原産,亜熱帯域で広く栽培され,北アメリカに帰化している.県内では

稀に栽培され,ときに放棄されたものを見る.

7.シラキ属 Neoshirakia Esser 全体に無毛.葉は互生し,単葉で全縁.花は単性で雌雄同株.花序は総状で,上部に雄花を多数つけ,下部に

少数の雌花をつける.種皮はろう質ではない.シラキ 1 種のみからなる単型属.これまでナンキンハゼとともに

Sapium Jacq. に含められていたが,Sapium はいくつかの属に分割され,日本産のものは含まれなくなった.

(1) シラキ Neoshirakia japonica (Siebold & Zucc.) Esser; Sapium japonicum (Siebold & Zucc.) Pax & K.Hoffm. 落葉小高木.葉は楕円形または卵形で長さ 6 ~ 12cm,全縁,支脈の末端に腺点がある.葉柄は長さ 1 ~ 2.5cm,

上端に腺がある.花は 6 月,枝の先に長さ 5 ~ 8cm の総状花序をつける.花序の基部に 1 ~ 3 個の雌花,先の方に

多数の雄花をつける.葉や若枝を傷つけると白色の乳液を出す.種子は球形で径約 7mm,淡褐色で黒い斑紋がある.

本州(岩手県以南),四国,九州,琉球;東アジアに分布.県内では丘陵から山地の斜面や谷沿いに多くみられる.

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1004

トウダイグサ科

アカメガシワ アブラギリ

シラキ

アカメガシワ

アブラギリ シラキ

ナンキンハゼ

→8.ナンキンハゼ属 Triadica Lour. シラキとともに Sapium 属から分離独立された.種子は白色ろう質の種皮に包まれる.アジアの熱帯~亜熱帯に 3~ 4 種がある.日本に在来種はなく,1 種が帰化.

→(1) ナンキンハゼ Triadica sebifera (L.) Small; Sapium sebiferum (L.) Dum. Cours. 落葉高木.葉は菱状卵形または広卵形,長さ 4 ~ 8cm,葉柄は 2 ~ 5cm,上端に腺がある.種子は径約 7mm,初

冬に果皮が落ちた後,白色の種子が残り目立つ.花は 7 月.中国原産で街路樹や公園樹として栽培される.現在,

日本には自生しないが,種子の遺体が出土するので,かつてあったものが絶えたと考えられる.

ナンキンハゼ

果実

1cm

葉柄上端の腺

葉柄上端の腺

果実

1cm

1cm1cm

オオアブラギリ

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1005

アマ科

A208 アマ科 LINACEAE(勝山輝男,『神植誌 01』:大津 任,図:佐々木あや子)

 葉は互生か対生または輪生.花は両性で放射相称形.雄しべは 5 個か 10 個または多数で,基部は合着し,蜜腺が

ある.子房は上位で 3 ~ 5 室(ときに擬壁で 10 室),花柱は糸状で 3 ~ 5 個.果実は蒴果.世界に 14 属約 250 種が

ある.日本にはマツバニンジン 1 種が自生(絶滅),4 種が帰化または逸出.

A.草本.花柱は 5,花は径 2cm 以下 ........................................................................................................................1.アマ属

A.低木.花柱は 3 または 5,花は径 3cm 以上 ............................................................................................ 2.キバナアマ属

1.アマ属 Linum L. 草本で,ときに基部が木質化する.茎は細い円柱形で無毛,稀に有毛.葉は互生または対生し,線形または披針

形で全縁の単葉.茎や葉は粉白色を帯びるものが多い.花は頂生または腋生し,盃状形.花弁は 5 個で早落性.萼

片 5 個,雄しべ 5 個.雌しべ 5 個.約 180 種が亜熱帯~温帯に分布.日本には 1 種マツバニンジンが自生し,ほか

に帰化種や逸出した栽培種がある.県内には以下の 4 種がある.

A.花は黄色,葉に羽状脈,果実は径約 2.5mm ......................................................................(1)キバナノマツバニンジン

A.花は淡青色~紫色.葉に 3 脈

 B.萼片の縁に黒い腺点がある.果実は径 3 ~ 4mm .........................................................................(2)マツバニンジン

 B.萼片の縁に黒い腺点はない.果実は径 5 ~ 8mm  C.1 年草,花時の萼片は長さ 5 ~ 6mm,果実は径 7 ~ 8mm.........................................................................(3)アマ

  C.多年草,花時の萼片は長さ 2 ~ 3mm,果実は径約 5mm ........................................................(4)シュッコンアマ

→(1) キバナノマツバニンジン Linum medium (Planch.) Britton 多年草.茎は高さ 15 ~ 50cm.葉は少し粉白色を帯び,茎の下部では対生し,狭倒卵形で鈍頭または円頭,上部

では互生し,広線形で先が尖る.茎も葉も無毛だが,萼片 5 個のうち内側の 3 個は縁に腺毛がある.花期は 6 ~ 8 月,

花の直径は約 8mm.北アメリカ原産.国内各地に帰化.『久内帰化』に「近年千葉県下に蔓延しつつあり.和名は

奥山春季の命名」とある.路傍や空地に生える.県内では各地に点在するが少ない.『長田帰化 76』や『平凡野生草Ⅱ』

では,L. virginianum L. とされているが,『神植誌 88』では,蒴果の頂点が尖るため,学名不詳とした.その後,近

田(1997 地分 45(2): 135-136)により,キバナノマツバニンジンは上記学名に改められた.

†(2) マツバニンジン Linum stelleroides Planch. 無毛の 1 年草.茎は分枝し,高さ 40 ~ 60cm.葉は互生し,長さ 1 ~ 3cm,幅は 2 ~ 4mm.花は淡紫色で径約

1cm.花期は 8 ~ 9 月.北海道,本州,四国,九州;東アジアに分布.山地の草原に生える.県内では『神植目 33』は箱根,矢倉沢を,『神植誌 58』は三浦,箱根,矢倉沢を,『宮代目録』は箱根,矢倉沢,大磯を,『丹沢目録 61』は世附を,それぞれ記録している.しかし,その後の調査では採集されていない.『神 RDB06』では絶滅とされた.

横浜(鶴見)と丹沢(塔ノ岳,丹沢山)の標本が残されているが,横浜のものはきわめて貧弱.横須賀市博のマツ

バニンジン(三浦市剣崎 1960.6.5 大谷茂 YCB12458 ~ 60)はアマの誤認であった.

標本:生見尾(現在の横浜市鶴見区)1912.10. 宮代周輔 YCB41021;塔ノ岳 1948.8.16 出口長男 KPM-NA0080999,KPM-NA0081000;丹沢 1953.10.9 大場達之 KPM-NA0015279.

→(3) アマ Linum usitatissimum L. 1年生の有用植物.中央アジア原産といわれるが,はっきりしない.古くから世界各地で栽培され,種子からは油を,

茎からは繊維を得ている.茎は高さ 60 ~ 130cm,ふつう油用は枝分かれし,繊維用はほとんど枝分かれしない.花

期は 4 ~ 7 月,花は淡青色で直径 1.5 ~ 2cm,萼片は長さ 5 ~ 6mm.果実は径 7 ~ 8mm.観賞用に栽培され,市街

地の路傍,空き地などに稀に逃げ出している.県内ではときに逸出しているが,きわめて少ない.

→(4) シュッコンアマ Linum perenne L. 多年草.花は径約 2cm,青~青紫色,花時の萼片は長さ 2 ~ 3mm.果実は径約 5mm.栽培され,稀に逸出する

ものがあり,次の標本が採集されていた.

標本:横浜市港南区下永谷 1993.7.20 田中京子 YCB410514;大和市山谷 2015.6.8 松本雅人 SCM53274.

2.キバナアマ属 Reinwardtia Dumort. 低木.東アジア~インドに 1 種のみがある.

→(1) キバナアマ Reinwardtia indica Dumort. 高さ 1m 以下の常緑低木.葉は互生,長さ 3 ~ 8cm の柄があり,長楕円形,長さ 3 ~ 6cm,両面無毛.花は黄色,

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1006

トウダイグサ科

キバナノマツバニンジン

アマ

キバナアマ

キバナノマツバニンジン

a:葉,b:花,c:果実,d:萼片(長さの記していないスケール

は 1mm)

b

c

d(外片) d(内片)

a

2mm2cm

マツバニンジン

c d

2mm

a

萼片の

縁の腺点

アマ

c

d(外片)d(内片)a

1cm

5mm 5mm

マツバニンジン

1cm

キバナアマ(図:勝山輝男)

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アマ科

径 3 ~ 5cm.琉球に帰化が知られていたが,最近,神奈川県や静岡県でも野生状態のものが見られるようになった.

逗子市沼間では植栽されたものが種子繁殖して周辺に拡散している(長谷川 2010 (FK) 69: 839-840).標本:逗子市沼間 2013.5.15 長谷川義人 YCB439918.

A211 コミカンソウ科 PHYLLANTHACEAE(勝山輝男,図:勝山輝男)

 草本から高木まである.花は単性,3 数性,小型で目立たない.子房は 3 室,各室に 2 胚珠をつける.果実は蒴果,

裂開した後に胎座の中軸が残る.トウダイグサ科に含められていたが,遺伝子を用いた系統解析により,同じキン

トラノオ目の独立した科として扱われることになった.トウダイグサ科とは,傷つけても乳液を出さない,杯状花

序をもたない,1 室あたり 2 種子を入れるなどの点が異なる.熱帯を中心に世界に広く分布し,約 60 属 2,000 種が

ある.日本には 6 属 27 種があり,県内には 2 属 3 種が自生し, 2 種が帰化する.

A.草本.雌雄同株 ........................................................................................................................................ 1.コミカンソウ属

A.低木.雌雄異株 ........................................................................................................................................ 2.ヒトツバハギ属

1.コミカンソウ属 Phyllanthus L. 草本または低木.葉は左右 2列につくので羽状複葉のように見える.県内のものは雌雄同株.葉腋に単性花をつけ,

子房は 3 室,各室に 2 個の胚珠をつける.果実は球形の蒴果で,形がミカンに似るのでコミカンソウという.熱帯

亜熱帯を中心に 1200 種以上があり,日本には 16 種が自生し,4 種が帰化.県内には草本の 2 種が自生し,2 種が帰

化または一時帰化する.

A.主茎は小枝とともに葉をつける.果実は有柄で平滑 ......................................................................(1)ヒメミカンソウ

A.主茎には葉をつけない

 B.果実はほとんど無柄でウロコ状の突起が密生する ..........................................................................(2)コミカンソウ

 B.果実は有柄で平滑

  C.果実の柄は長さ 4 ~ 6mm,種子には細かいいぼ状突起がある .....................................(3)ナガエコミカンソウ

  C.果実の柄は長さ 0.8 ~ 1.2mm,種子には背面に縦の鈍い稜,側面に半円形の鈍稜がある

   D.葉の基部は円形,がく片は 5 個で長さ約 0.5mm ..........................................................(4)キダチコミカンソウ

   D.葉の基部は鋭形,がく片は 6 個で長さ 0.6 ~ 1mm ..................................................*オガサワラコミカンソウ

(1) ヒメミカンソウ Phyllanthus ussuriensis Rupr. & Maxim.; P. matsumurae Hayata 小型の 1 年草.雌雄同株.雄しべは 2 本,雄花の花被片は 4 枚.果実は径 2mm.種子は半月型で長さ 1mm,平

滑で腺点が縞紋様をつくる.本州,四国,九州,琉球;東アジアに分布.畑や道端に生える.県内ではシイ・カシ

帯の人里や市街地に普通.

(2) コミカンソウ Phyllanthus lepidocarpus Siebold & Zucc.; P. hookeri Müll.Arg.; P. urinaria non. L. 小型の 1 年草.雌雄同株.小枝の先の方に雄花,基の方に雌花をつける.雄しべは 3 本.雄花の花被片は 6 枚.

果実は径 2mm.種子は半月型で長さ 1mm,横しわがある.本州,四国,九州,琉球;東アジア,東南アジアに分布.

畑や道端に生える.県内ではシイ・カシ帯の人里や市街地に普通.『神植誌 88』では本種に P. urinaria をあてたが,『FJⅡ c』や『神植誌 01』では P. hookeri に改められ,『平凡新野生 3』では表記の学名に改められた.

→(3) ナガエコミカンソウ Phyllanthus tenellus Roxb. 1 年草.茎は硬く,高さ 10 ~ 50cm,全体に無毛.葉は小枝に互生し,長さ 5 ~ 15mm.雌雄同株.小枝の基部の

葉腋に雄花,先の方の葉腋に雄花と雌花をつける.雄花の柄は短く,雌花の柄は長さ 5 ~ 8mm.果実は長さ 1mm,

径 2mm,平滑.種子は半月形,長さ約 0.7mm,表面には細点がある.マスカレーン諸島原産の帰化植物.本州(関

東地方以西),九州,琉球;世界の熱帯に広く帰化.Kurosawa(1999 FJ Ⅱ c: 5)で国内の帰化が明らかになった.

県内では『神植誌 01』で急速に分布を広げていることが明らかになった.『神植誌 88』では琉球に帰化している“キ

ダチコミカンソウ P. niuri L. subsp. amarus Leandri”と誤同定したが,トウダイグサ科を専門とする福島大学の黒沢

高秀により本種と同定され,ナガエコミカンソウの和名が与えられた.『神植誌 88』では 1987 年 8 月に鎌倉で高さ

10cm の貧弱な個体が 1 個体採集されただけであったが,その後,ぽつぽつと数ヶ所で採集され,最近では各地から

報告がある.黒沢氏によると本州各地でキダチコミカンソウとされていたものは,すべてナガエコミカンソウであっ

たという.森田・村田(1999 分地 50: 246-248)が報告したブラジルコミカンソウもナガエコミカンソウである(黒

アマ科・コミカンソウ科

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コミカンソウ科

種子蒴果

種子蒴果

蒴果

ヒメミカンソウ

コミカンソウ

ナガエコミカンソウ

ヒメミカンソウ

コミカンソウ

ナガエコミカンソウ

沢 2001 植雑 76(1): 51-52).♪ →(4) キダチコミカンソウ Phyllanthus amarus Schumach 1 年草.葉は楕円形,長さ 5 ~ 10mm,先は円形または鈍形,基部は円形または切形,全縁で無毛.雄花,雌花と

もに柄が短く,がく片は 5 枚で長さ約 0.5mm,先は鋭形または鈍形.種子は長さ約 1mm,背面に縦に数個の鈍稜,

側面には半円形に数個の鈍稜がある.熱帯アメリカ原産で全世界の熱帯に帰化.日本では九州~琉球に帰化.今回,

津久井町で一時帰化したものがはじめて採集された.

標本:津久井町根小屋 2008.6.30 松本雅人 SCM45060,45061.*オガサワラコミカンソウ Phyllanthus debilis J.G.Klein ex Willd. キダチコミカンソウに似るが,検索表のような相違がある.アジアの熱帯原産,日本では琉球や小笠原に帰化し

ている.

種子

★要 2 値化

0.5mm

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コミカンソウ科

キダチコミカンソウ

ヒトツバハギ

蒴果

雄株

雌株

ヒトツバハギ

キダチコミカンソウ

種子

蒴果

葉0.5mm

1cm

1cm

★要 2 値化

蒴果

オガサワラコミカンソウ

1cm

1cm

2.ヒトツバハギ属 Flueggea Willd. 低木または高木.葉は互生,単葉で全縁.雌雄異株.花序は腋生.果実は蒴果で各室に2個ずつ計6個の種子を入れる.

世界に約 20 種,日本にはヒトツバハギが広く分布し,ほかに琉球に 1 種がある.

(1) ヒトツバハギ Flueggea suffruticosa (Pall.) Baill.; Securinega suffruticosa (Pall.) Rehder 落葉低木.葉は長楕円形で長さ 2~ 4cm,全縁または小波状縁,両面無毛,脈は下面に隆起する.花は夏,雄花は多数,

雌花は 1 ~ 5 個.蒴果は扁球形で直径約 4mm.本州(福島県以南),四国,九州に分布.林縁に生える.県内の分

布は特殊で,横浜市西部の丘陵や台地から相模原台地の南部にかけて集中的にみられ,ほかではきわめて稀である.