資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

16
材料の設計強度の決定の経緯について 材料規格は、告示501号及び設計・建設規格の材料関係の箇所をとりまとめた 規格であり、最近の国内規格発行・改定状況及び国際規格の動向並びに最近の技術 進展を反映した告示501号の後継規格となっている。 材料規格における材料の設計強度は、高温引張試験データや告示501号、材料 関係JIS、圧力容器関係JIS及び国際規格としてASME Boiler and Pressure Vessel Code Section II Materials等の規格・基準類を参考文献として代表的な値を分科会 において審議を行ったコンセンサスルール(専門家による合意のもとに作成された 規格の意味)である。コンセンサスルールであることから、違う専門家による審 議、技術の進展及び国際規格の改定状況に応じて現状とは違う判断がされることが ある。すなわち、材料規格は、種々の情報に基づき審議の時点で最良と思われる案 を分科会の総意としてとりまとめたものであることから「新たな情報や製造方法等 技術的進展」があれば「専門家集団のコンセンサスとして内容を変更する」経験に 基づく規格であるといえる。 材料規格では現在原子力発電所に使われている材料及び将来使用される可能性が ある材料について掲載しているが、これらの掲載材料については高温強度などの試 験データがすべて完備していないことから、他の規格類を参考文献として強度を定 めた。国内にある材料強度に関する規格類は、高温強度試験を実施し、その結果を 反映した規格はきわめて少ない状況にあり、一般的には関係する国内外の材料規格 を参考文献として専門家が材料ごとに判断し委員会としてとりまとめられたもので ある。 本資料は、規制側及びその支援を行っている原子力安全基盤機構より要求のあっ た、材料規格の設計強度の決定方法について例を用いて解説するものである。 本資料で取り上げた材料は、JIS G3118「中・常温圧力容器用炭素鋼鋼板」 SGV480及びJIS G3101 「一般構造用圧延鋼材」SS400の2種類である。JIS G3118 SGV480は、鋼製〔原子炉〕格納容器等に用いられる材料であり、設計係数 3.5が採用されており、JIS B8265「圧力容器の構造-一般事項」、JIS G3267「圧力 容器の設計」及びASME B&PV Code Section II(非原子力)に記載されている材料 ある。一方、JIS G3101 SS400は、化学成分が不純物のリン及びイオウのみが制限 されている炭素鋼であり原子力発電所の機器サポートなどに多く使用されている材 1

Upload: tranphuc

Post on 03-Feb-2017

249 views

Category:

Documents


8 download

TRANSCRIPT

Page 1: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

材料の設計強度の決定の経緯について

  材料規格は、告示501号及び設計・建設規格の材料関係の箇所をとりまとめた規格であり、最近の国内規格発行・改定状況及び国際規格の動向並びに最近の技術進展を反映した告示501号の後継規格となっている。

  材料規格における材料の設計強度は、高温引張試験データや告示501号、材料関係JIS、圧力容器関係JIS及び国際規格としてASME Boiler and Pressure Vessel Code Section II Materials等の規格・基準類を参考文献として代表的な値を分科会において審議を行ったコンセンサスルール(専門家による合意のもとに作成された規格の意味)である。コンセンサスルールであることから、違う専門家による審議、技術の進展及び国際規格の改定状況に応じて現状とは違う判断がされることがある。すなわち、材料規格は、種々の情報に基づき審議の時点で最良と思われる案を分科会の総意としてとりまとめたものであることから「新たな情報や製造方法等技術的進展」があれば「専門家集団のコンセンサスとして内容を変更する」経験に基づく規格であるといえる。

  材料規格では現在原子力発電所に使われている材料及び将来使用される可能性がある材料について掲載しているが、これらの掲載材料については高温強度などの試験データがすべて完備していないことから、他の規格類を参考文献として強度を定めた。国内にある材料強度に関する規格類は、高温強度試験を実施し、その結果を反映した規格はきわめて少ない状況にあり、一般的には関係する国内外の材料規格を参考文献として専門家が材料ごとに判断し委員会としてとりまとめられたものである。

  本資料は、規制側及びその支援を行っている原子力安全基盤機構より要求のあった、材料規格の設計強度の決定方法について例を用いて解説するものである。

  本資料で取り上げた材料は、JIS G3118「中・常温圧力容器用炭素鋼鋼板」SGV480及びJIS G3101 「一般構造用圧延鋼材」SS400の2種類である。JIS G3118 SGV480は、鋼製〔原子炉〕格納容器等に用いられる材料であり、設計係数3.5が採用されており、JIS B8265「圧力容器の構造-一般事項」、JIS G3267「圧力容器の設計」及びASME B&PV Code Section II(非原子力)に記載されている材料ある。一方、JIS G3101 SS400は、化学成分が不純物のリン及びイオウのみが制限されている炭素鋼であり原子力発電所の機器サポートなどに多く使用されている材

1

kudo
タイプライターテキスト
資料29-1-2
kudo
長方形
Page 2: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

料である。SS400は、当初分科会審議の結果、規格から削除することが決定した材料である。SS400を削除することしたが、産業界からの要望で再度規格掲載材となった材料で従来通り設計係数4.0としさらに告示501号と同じ設計許容応力値、設計降伏点及び設計引張強さを採用している。SS400は、JIS B8265ではASMEに相当材がない材料、告示501号ではASME SA283 Gr. D、JIS鉄鋼ハンドブックによるとASME SA36と分類されている材料である。本解説では、典型的な2鋼種3材料について紹介する。

1.JIS G3118 SGV480

(1)化学成分

JIS G3118に定められているSGV480の化学成分は以下の通り。

表1 JIS G3118 化学成分

(2)機械的性質

JIS G3118に定められているSGV480の機械的性質は以下の通り。

表2 JIS G3118 機械的性質(常温)

(3)告示、圧力容器JIS及びJISハンドブックにおける相当材料比較

表3 JIS G3118の相当材比較表

*:ASMEでは、国際規格としての位置づけを明確とするため各国の材料を

SGV480厚さ

200mm以下C

0.31以下Si

0.15-0.40Mn

0.85-1.20P

0.030以下S

0.030以下

SGV480降伏点N/mm²265以上

引張強さN/mm²480-590

ASME相当材

告示

SA516 Gr70

JIS B8265

SA516 Gr70

JIS鉄鋼

ハンドブック

SA516Gr70

備考

ASMEでは独自にSGV480を制定している*

2

Page 3: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

Section IIに取り込む作業を行っておりJIS G3118 SGV480は、パイロットプログラムとして作業が実施されASME規格として制定された。ただし、非原子力。

(4)ASME規格などの比較

ASME SA516 及びASME SA/JIS G3118等の化学成分及び機械的性質などの比較を以下に示す。

表4 ASME Section II Part Aにおける化学成分及びJISの化学成分

*:SI単位表記

**:ASME規格ではJIS G3118と同じ。

表5 ASME Section II Part Aにおける機械的性質及びJISの機械的性質

38 ksi = 262.01 MPa、70 ksi = 482.65 MPa、90 ksi = 620.55 MPa

表6に設計降伏点(Sy値)の比較、表7に設計引張強さ(Su値)の比較及び表8に許容引張応力(S値)の比較を示す。

SA516 Gr70

【485*】SA/JIS

G3118**

JIS G3118 SGV480

厚さ

8inch以下【200mm以下】

200mm以下

200mm以下

C

0.35以下

0.31以下

0.31以下

Si

0.15-0.45

0.15-0.40

0.15-0.40

Mn

1.20以下

0.85-1.20

0.85-1.20

P

0.035以下

0.030以下

0.030以下

S

0.035以下

0.030以下

0.030以下

SA516 Gr. 70SA516 Gr. 485*SA/JIS G3118JIS G3118 SGV480

降伏点38 ksi260 MPa

265N/mm²以上

265N/mm²以上

引張強さ70-90 ksi485-620 MPa480-590N/mm²

480-590N/mm²

3

Page 4: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(ks

i)

常温

最小

降伏

点(

ksi)

温度

(°

F)【

℃】

-20 〜 100

150

【66

200

【93

250

【12

1】

300

【14

9】

350

【17

7】

400

【20

4】

450

【23

2】

500

【26

0】

550

【28

9】

600

【31

6】

650

【34

3】

700

【37

1】

750

【39

9】

800

【42

7】

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

070

3838

.035

.734

.834

.233

.6-

32.5

-31

.0-

29.1

28.2

27.2

26.3

25.5

SI単

位換

算48

326

226

224

624

023

623

2-

224

-21

4-

201

194

188

181

175

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

/JIS

G31

18定められていない。

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(M

Pa)

常温

最小

降伏

点(

MPa

)

温度

(℃

-30 〜 40

6510

012

515

017

520

022

525

027

530

032

535

037

540

042

5

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Met

ric E

ditio

n

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

048

526

026

224

623

923

523

222

822

522

121

621

020

419

919

318

718

117

6

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

omar

y U

nitか

らSI

単位

換算

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

048

326

226

224

623

923

523

222

822

522

021

621

020

419

919

318

718

117

8

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Met

ric E

ditio

n SA

/JIS

G31

18

JIS B

8267

(200

8)圧

力容

器の

設計

SGV4

8048

026

526

5(2

46)

238

235

232

228

226

220

214

207

199

192

190

188

182

175

材料

規格

-200

8

中・

常温

圧力

容器

用炭

素鋼

鋼板

JIS G

3118

(200

5)

SGV4

8048

026

5(2

65)

(246

)23

8-

232

-22

622

021

420

719

919

219

0

告示

50

1号

JIS G

3118

(198

7)SG

V480

480

265

(265

)(2

46)

238

-23

2-

226

220

214

207

199

192

190

定められていない。

表6 設計降伏点(Sy値)の比較

4

Page 5: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(ks

i)

常温

最小

降伏

点(

ksi)

温度

(°

F)【

℃】

-20 〜 100

150

【66

200

【93

250

【12

1】

300

【14

9】

350

【17

7】

400

【20

4】

450

【23

2】

500

【26

0】

550

【28

9】

600

【31

6】

650

【34

3】

700

【37

1】

750

【39

9】

800

【42

7】

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

070

3870

-70

-70

-70

-70

-70

-70

69.1

64.3

SI単

位換

算48

326

248

3-

483

-48

3-

483

-48

3-

483

-48

347

644

3

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

/JIS

G31

18

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(M

Pa)

常温

最小

降伏

点(

MPa

)

温度

(℃

-30 〜 40

7510

012

515

017

520

022

525

027

530

032

535

037

540

042

5

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Met

ric E

ditio

n

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

048

526

048

3-

483

-48

3-

483

-48

3-

483

483

483

483

476

446

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

omar

y U

nitか

らSI

単位

換算

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

048

326

248

3-

483

-48

3-

483

-48

3-

483

483

483

482

475

443

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Met

ric E

ditio

n SA

/JIS

G31

18

JIS B

8267

(200

8)圧

力容

器の

設計

SGV4

8048

026

5

材料

規格

-200

8

中・

常温

圧力

容器

用炭

素鋼

鋼板

JIS G

3118

(200

5)

SGV4

8048

026

548

0-

480

-48

0-

480

-48

0-

480

480

480

480

告示

50

1号

JIS G

3118

(198

7)SG

V480

480

265

480

449

431

-42

4-

422

422

421

421

420

416

412

397

定められていない。

定められていない。

表7 設計引張強さ(Su値)の比較

定められていない。

5

Page 6: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(ks

i)

常温

最小

降伏

点(

ksi)

温度

(°

F)

-20 〜 100

150

【66

200

【93

250

【12

1】

300

【14

9】

350

【17

7】

400

【20

4】

450

【23

2】

500

【26

0】

550

【28

9】

600

【31

6】

650

【34

3】

700

【37

1】

750

【39

9】

800

【42

7】

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

070

3820

.020

.020

.0-

20.0

-20

.0-

20.0

-19

.418

.818

.114

.812

.0

SI単

位換

算48

326

213

813

813

8-

138

-13

8-

138

-13

413

012

510

283

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

/JIS

G31

18SG

V480

7038

20.0

20.0

20.0

-20

.0-

20.0

-20

.0-

19.4

18.8

18.1

14.8

12.0

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(M

Pa)

常温

最小

降伏

点(

MPa

)

温度

(℃

-30 〜 40

6510

012

515

017

520

022

525

027

530

032

535

037

540

042

545

0

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Met

ric E

ditio

n

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

048

526

013

813

813

813

813

8-

138

-13

8-

136

132

128

123

101

83.8

67.1

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Cust

omar

y U

nitか

らSI

単位

換算

SA51

6 Gr

.70

SA51

6Gr7

048

326

213

813

813

813

813

8-

138

-13

8-

135

132

128

122

101

83.9

-

ASM

E Se

c. II

Par

t A-2

004

Met

ric E

ditio

n SA

/JIS

G31

18SG

V480

485

260

138

138

138

138

138

-13

8-

138

-13

613

212

812

310

183

.867

.1

JIS B

8267

(200

8)圧

力容

器の

設計

SGV4

8048

026

513

8(1

38)

138

138

138

138

138

138

138

137

135

132

128

122

102

84

材料

規格

-200

8

中・

常温

圧力

容器

用炭

素鋼

鋼板

JIS G

3118

(200

5)

SGV4

8048

026

513

8(1

38)

138

-13

8-

138

-13

813

713

513

212

812

210

284

67

告示

50

1号

別表

第6

の値

を4/

3.5

JIS G

3118

(198

7)SG

V480

480

265

137

(137

)13

7-

137

-13

713

713

713

713

713

713

713

5-

--

表8 許容引張応力(S値3.5ベース)の比較

6

Page 7: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

(5)審議内容の概要

ASME SA516 Gr. 70はSGV480と化学成分及び機械的性質が類似していることから相当材として確認された。化学成分及び機械的性質の微妙な違いについては規格上での取り決めの問題とされ、製品レベルで考えると特に差異のない材料として分類可能であることが確認された。

ASME SA516 Gr. 70(SA516 Gr. 485)は、Customary Unit版とSI単位版とで同じ材料ではあるが、規格値である降伏点及び引張り強さが約2MPaの差異のある材料となっている。(規格値とは、保証すべき数値。例えば、SA516 Gr. 485として製造し降伏点が261 N/mm²であったするとSA516 Gr. 485としては納品可能であるが、同じ材料をSA516 Gr. 70と記載して納品することはできない。)SA516 Gr. 70とJIS G3118 SGV480を比較すると、降伏点及び引張強さで3MPaの相違がある。

JSME材料規格は、ASME US Customary Unit版から換算したものであり常温の規格値の差異をのぞくと換算丸め誤差の差異が現れる。また、SA516 Gr. 70の場合では、材料規格とASME Metricとの差異も換算丸め誤差程度の差異がある。これらの誤差は、誤記ではなく、常温の規格値の相違や換算誤差により発生しているものである。

また、ASMEでは、国際規格化作業の一環として各国の材料をASMEコードに取り込む作業が行われている。このパイロットプログラムとして日本からJIS G3118 SGV480の検討が行われ現在ASME規格材料となっている。ASMEは、SGV480の高温引張り試験結果をもっているわけではなく、材料分科会と同じように化学成分及び材料強度の比較からASME SA516 Gr. 70と同じ材料として分類した。ASME SA/JIS G3118 SGV480とSA516 Gr. 70との比較からS値は、SA516 Gr70と同じ値を使用していることがわかる。

(6)結論

材料規格は、JIS B826xシリーズも参照先はASME Code Section IIであることから国際規格となっているASME Code Section IIとの比較を行い規格値を定めていると言える。ASMEとの参照の際には、ASME Code Section II US Customary Unit版から換算した値を参照値として用いている関係から換算誤差が含まれている場合があるが、この件については、常温の値が規格値として相違していることもあり、分科会では特に問題として取り上げられなかった。当然、両者の差異が合った場合も誤記としての取り扱いはしていない。

7

Page 8: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

2.JIS G3118 SGV480TMCP

JIS G3118 SGV480は、鋼製〔原子炉〕格納容器に用いられている材料である。近年の発電所の大型化により板厚の厚い材料が使用されることが期待された。このため、SGV480についても従来の板厚よりも厚い材料を使用することの検討が進めら熱加工制御(加工熱処理)材料(TMCP Thermo-Mechanical Control Proess)材料がJIS G3118に追加された。SGV480TMCのTMCは、熱処理の記号であり区別が必要である場合に追加されるもので通常は記載されていない。

TMC材の規格としての取り扱いは、ASTMではTMC材と非TMC材に分けて規格化しているが国内では既存JISに取り込みを行いTMC材と非TMC材で分けて管理をしていない。

分科会では、泊3号機鋼製〔原子炉〕格納容器に従来よりも板厚の厚いSGV480が使用されることが計画されておりSGV480TMCが用いられる予定であることが最近の動向として紹介された。

SGV480TMCは、機械的性質及び溶接特性を改善するため微量の合金元素を添加した特殊な材料であることが分科会で話題となり新規材料としてとりあつかうのか従来通りSGV480としてして扱うかが議論となった。以下に材料分科会での検討結果を示す。

(1)化学成分

規定されている化学成分は、SGV480とSGV480TMCとで差異はない。ただし、付属書1(規定)特別品質規定の熱加工制御材の炭素当量の計算及び溶接割れ感受性の組成に関する記述が化学成分として管理が必要なC(炭素)、Si(シリコン)、Mn(マンガン)、P(リン)、S(イオウ)の5元素以外にNi、Cr、Mo、V、B、Cuが添加されている。

(2)機械的性質

規定されている機械的性質は、SGV480であり、SGV480TMCについての記述はない。

(3)審議の内容の概要

SGV480TMCは、機械的性質と溶接特性を満足させるために意図的にNi、

8

Page 9: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

Cr、Mo、V、B、Cuを添加している材料であり、炭素鋼と言うよりも低合金鋼として分類すべき材料ではないかとの意見が提出されSGV480TMCとして個別審議することとなった。

新規材料としての定義、素材メーカの材料設計方針、JIS鉄鋼の体系などについて以下のような議論がされた。

・意図的に合金の添加を行って機械的性質の改善と溶接特性の改善を図っているため、新規材料として登録すべき。

・工業技術院での新規材料の定義は新たな機能を満足させるために意図的に合金元素の添加などを行った場合は新規材料としていた。

・素材メーカは、機械的性質を満足するための基本的な材料設計方針があり、素材メーカ各社で考え方が違う。このため、多少の合金元素の添加や熱処理を行っている実績を考えると今回のSGV480TMCを新たな材料として審議する必要がない。

・JIS鉄鋼の体系では、板の厚さが厚くなっても薄い板の強度を満足するようにしている。JIS G3118にTMC材が追加されたが既に多くのTMC材が他のJISに登録され使用されている。SGV480TMCは、技術の進歩を反映したJISの改定と考えられる。新規材料として取り扱う必要はない。

(4)結論

SGV480TMC材は、板厚が厚くなっても強度を満足できるように開発されているため、強度上の問題はない。

機械的性質と溶接特性を改善するために合金元素を意図的に添加しているが、規格上管理できないようになっているため、規格としての規制はできない。

機械的性質及び化学成分としての従来の材料と比較して「同等以上」と判断されたため使用を認めることした。また、規格上は、従来のSGV480と同じ取り扱いとすることした。

9

Page 10: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

3.JIS G3101 SS400

(1)化学成分

JIS G3101に定められているSS400の化学成分は以下の通り。

表9 JIS G3101 化学成分

(2)機械的性質

JIS G3101に定められているSS400の機械的性質は以下の通り。

表10 JIS G3101 機械的性質(常温)

*: 40-100mm

**: 16-40mm

***: 16mm以下

(3)告示、圧力容器JIS及びJISハンドブックにおける相当材料比較

表11 JIS G3101の相当材比較表

*:JIS B8265では、SS400については、ASMEに参照する材料がないとするとともに、強度は過去のJIS B8270等から継承されたものであり由来が明確ではないとしている。

SS400P

0.050以下S

0.050以下

SGV480

降伏点N/mm²215以上*

235以上**

245以上***

引張強さN/mm²

400-510

ASME相当材

告示

SA283 Gr. D

JIS B8265

該当なし*

JIS鉄鋼

ハンドブックSA36

10

Page 11: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

(4)ASME規格などの比較

ASME SA283 Gr. D 及びASME SA36等の化学成分及び機械的性質などの比較を以下に示す。

表12 ASME Section II Part Aにおける化学成分及びJISの化学成分

*: 40mm以下の厚さの板材。40mm以上の厚さの板材ではSi 0.15-0.40。

**:20-40mmの厚さの板材。40-65mmの厚さの板材ではC 0.26以下、Si 0.15-0.40

表13 ASME Section II Part Aにおける機械的性質及びJISの機械的性質

33 ksi = 227.5 MPa、60 ksi = 413.7 MPa、80 ksi = 551.6 MPa

36 ksi = 248.2 MPa、58 ksi = 399.9 MPa

表14に設計降伏点(Sy値)の比較、表15に設計引張強さ(Su値)の比較及び表16に許容引張応力(S値)の比較を示す。

SA283 Gr D*SA36**JIS

G3101 SS400

C

0.27以下

0.25以下

規定なし

Si

0.40以下

0.40以下

規定なし

Mn

0.90以下

0.80-1.20

規定なし

P

0.035以下

0.04以下

0.050以下

S

0.04以下

0.050以下

0.050以下

Cu

0.20以下

0.20以下

-

SA283 Gr. D

SA36

JIS G3101 SS400

降伏点33 ksi

【230MPa】36 ksi

【250MPa】215 N/mm²以上

235 N/mm²以上

245 N/mm²以上

引張強さ60-80 ksi

【415-550MPa】58-80 ksi

【400-550MPa】

400-510N/mm²

11

Page 12: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(ks

i)

常温

最小

降伏

点(

ksi)

温度

(°

F)【

℃】

-20 〜 100

150

【66

200

【93

250

【12

1】

300

【14

9】

350

【17

7】

400

【20

4】

450

【23

2】

500

【26

0】

550

【28

9】

600

【31

6】

650

【34

3】

700

【37

1】

750

【39

9】

800

【42

7】

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

283

SA28

3 Gr

. D60

3333

.031

.030

.229

.729

.2-

28.2

-26

.9-

25.3

24.5

23.6

22.8

22.1

SI単

位換

算41

422

822

821

420

820

520

1-

194

-18

5-

174

169

163

157

152

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

36

SA36

5836

36.0

33.8

33.0

32.4

31.8

-30

.8-

29.3

-27

.626

.725

.824

.924

.1

SI単

位換

算40

024

824

823

322

822

321

9-

212

-20

2-

190

184

178

172

166

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(M

Pa)

常温

最小

降伏

点(

MPa

)

温度

(℃

-30 〜 40

6510

012

515

017

520

022

525

027

530

032

535

037

540

042

5

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Met

ric E

ditio

n SA

283

Gr.D

SA28

3Gr.D

415

230

228

214

207

204

201

198

195

191

187

183

178

173

167

162

157

153

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

omar

y U

nitか

ら換

算 S

A283

Gr.D

SA28

3Gr.

D41

422

822

821

420

720

420

119

819

519

118

718

217

817

316

716

215

715

3

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Met

ric E

ditio

n SA

36SA

3640

025

024

823

322

722

321

921

621

320

920

419

919

418

818

317

717

116

6

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

omar

y U

nit か

ら換

算SA

36SA

3640

024

824

823

322

722

321

921

621

320

920

419

919

418

818

317

717

116

7

JIS B

8265

(200

8)圧

力容

器の

構造

-一般

事項

SS40

040

024

524

5(1

94)

187

185

183

180

178

174

169

163

157

152

150

材料

規格

-200

8

一般

構造

用圧

延鋼

JIS G

3101

(200

4)

SS40

040

024

5(2

45)

(231

)22

1-

207

-19

318

718

117

617

016

515

9

告示

50

1号

JIS G

3101

(198

7)SS

400

400

245

(245

)(2

31)

221

-20

7-

193

187

181

176

170

165

159

表14 設計降伏点(Sy値)の比較

12

Page 13: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(ks

i)

常温

最小

降伏

点(

ksi)

温度

(°

F)【

℃】

-20 〜 100

150

【66

200

【93

250

【12

1】

300

【14

9】

350

【17

7】

400

【20

4】

450

【23

2】

500

【26

0】

550

【28

9】

600

【31

6】

650

【34

3】

700

【37

1】

750

【39

9】

800

【42

7】

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

283

SA28

3 Gr

. D60

3360

.0-

60.0

-60

.0-

60.0

-60

.0-

60.0

60.0

60.0

59.3

55.1

SI単

位換

算41

422

841

4-

414

-41

4-

414

-41

4-

414

414

414

409

380

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

36

SA36

5836

58.0

-58

.0-

58.0

-58

.0-

58.0

-58

.058

.058

.057

.353

.3

SI単

位換

算40

024

840

0-

400

-40

0-

400

-40

0-

400

400

400

395

368

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(M

Pa)

常温

最小

降伏

点(

MPa

)

温度

(℃

-30 〜 40

7510

012

515

017

520

022

525

027

530

032

535

037

540

042

5

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Met

ric E

ditio

n SA

283

Gr.D

SA28

3Gr.D

415

230

414

-41

4-

414

-41

4-

414

-41

441

441

441

440

838

2

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

omar

y U

nitか

ら換

算 S

A283

Gr.D

SA28

3Gr.

D41

422

841

4-

414

-41

.4-

414

-41

4-

414

414

414

413

408

382

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Met

ric E

ditio

n SA

36SA

3640

025

040

0-

400

-40

0-

400

-40

0-

400

400

400

400

394

369

ASM

E Se

c. II

Par

t D-2

004

Cust

omar

y U

nit か

ら換

算SA

36SA

3640

024

840

0-

400

-40

0-

400

-40

0-

400

400

400

399

394

369

JIS B

8265

(200

8)圧

力容

器の

構造

-一般

事項

SS40

040

024

5

材料

規格

-200

8

JIS G

3101

(200

4)一

般構

造用

圧延

鋼SS

400

400

245

400

400

400

-40

0-

400

400

400

400

400

400

400

告示

50

1号

JIS G

3101

(198

7)一

般構

造用

圧延

鋼SS

400

400

245

400

381

373

-37

3-

373

373

373

373

373

373

373

表15 設計引張強さ(Su値)の比較

記載されていない。

13

Page 14: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(ks

i)

常温

最小

降伏

点(

ksi)

温度

(°

F)

-20 〜 100

150

【66

200

【93

250

【12

1】

300

【14

9】

350

【17

7】

400

【20

4】

450

【23

2】

500

【26

0】

550

【28

9】

600

【31

6】

650

【34

3】

700

【37

1】

750

【39

9】

800

【42

7】

ASM

E Se

c. II

Par

t D-1

995

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

283

SA28

3 Gr

. D60

3315

.015

.015

.0-

15.0

-15

.0-

15.0

-15

.015

.0

SI単

位換

算41

422

810

310

310

3-

103

-10

3-

103

-10

310

3

ASM

E Se

c. II

Par

t D-1

995

Cust

om U

nit E

ditio

n SA

36

SA36

5836

14.5

-14

.5-

14.5

-14

.5-

14.5

-14

.514

.513

.9

SI単

位換

算40

024

810

0-

100

-10

0-

100

-10

0-

100

100

96

類種

別記

号製 造 法

常温

最小

引張

強さ

(M

Pa)

常温

最小

降伏

点(

MPa

)

温度

(℃

-30 〜 40

6510

012

515

017

520

022

525

027

530

032

535

037

540

042

545

0

ASM

E Se

c. II

Par

t D-1

995

Cust

omar

y U

nitか

ら換

算SA

283

Gr. D

SA

283

Gr.D

414

228

103

103

103

-10

3-

103

-10

3-

103

103

103

ASM

E Se

c. II

Par

t D-1

995

Cust

omar

y U

nit か

ら換

算SA

36SA

3640

024

810

010

010

0-

100

-10

0-

100

100

100

100

100

JIS B

8265

(200

8)圧

力容

器の

構造

-一般

事項

SS40

040

024

510

0(1

00)

100

100

100

100

100

100

100

100

100

100

100

材料

規格

-200

8

JIS G

3101

(200

4)一

般構

造用

圧延

鋼SS

400

400

245

100

(100

)10

0-

100

-10

010

010

010

010

010

010

0

告示

50

1号

別表

第6

の値

JIS G

3101

(198

7)一

般構

造用

圧延

鋼SS

400

400

245

100

(100

)10

0-

100

-10

010

010

010

010

010

010

0

表16 許容引張応力(S値4ベース)の比較

14

Page 15: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

(5)審議内容の概要

材料分科会では、SS400について化学成分の制限が不純物元素であるリン及びイオウのみになっており、強度や溶接性に影響を与える炭素及びマンガンが制限されていないことから設計強度を定めることが議題となった。議論の結果、SS400の使用しないこと(規格から削除すること)を決議した。ただし、現場への影響を配慮するため、SS400を使用をやめることに対して現場の意見を聞いた。

現場の意見は、使用継続の強い要望であった。分科会での再審議では、各社の購入の際の状況をヒアリングした。その結果、少なくとも炭素の含有量について追加要求をだすとともにミルシート添付のものを購入していることが判明した。すなわち、名称はSS400であるが購入材料は、最低SB材かSM材を購入してことが判明した。

各社の購入状況が理解できたことから、SS400についてどのような設計強度を与えることについて議論した結果、SS400は規格上不純物管理のみであるから設計係数3.5は採用できない。このため従来通り設計係数4.0のままとすること、JIS B8265の審議ではSS400のASME相当材がないのに加えてその設計強度の由来がはっきりしてないので過去と同じ値を使用することとなっていること、及びSS400の材料としての問題があり発電所のトラブルを生じたことがないことなどを考慮し、結局従来と同じ値(告示501号と同じ値)を採用することとした。

SS400は、JIS B8265ではASME相当材はないとしているが、告示501号質疑応答集によるとSA283 Gr. Dを相当材としている。一方、JIS 鉄鋼ハンドブックによるとSS400のASME相当材はSA36としている。SA283 Gr. D及びSA36ともに鉄鋼の主要元素である炭素、シリコン、マンガン、リン、イオウの5元素を制限しているとともに銅についても制限している。規格上の化学成分比較では、SS400とSA283 Gr. D及びSA36は、別の材料と思われる。SA36をSS400の相当材として分類したのは鉄鋼連盟標準化センターであり素材メーカとしてSS400の製造状況を考慮するとSA36が妥当な選択であるとしている。一方、SA283 Gr. Dは、SA36とほぼ同等な材料と思われるが不純物管理がSA36よりも厳しい材料となっている。国内での原子力発電所へ使用する材料の購入の実情では、より不純物管理が厳しいSA283 Gr. Dが相当すると原子力各社が判断したことは特に問題が生じるものではないと考えられた。

SS400の高温引張試験結果がないことからASME B&PV Code Section II Part Dを参照として検討すると、SA283 Gr. DとSA36では似ているが常温での強度レベルが相違しているため高温強度についても差異がある。

15

Page 16: 資料29-1-2 材料の設計強度の決定の経緯について

分科会では、設計降伏点(Sy値)、設計引張強さ(Su値)、許容引張応力(S値)を取り決める義務があるが、現在入手できる国内外の規格との整合性の他ユーザが使い安いこと、過去のトラブル事例などの情報を総合的に検討し高温強度などを決定している。

SS400の場合は、告示501号の値、ASME相当材とされているSA283 Gr. D及びSA36との値には互いに差異が存在しているが分科会では差異を誤記としては取り扱うことはなくどのような値を採用すると常温の規格値(JIS G3101 SS400に規定されている最小降伏点245MPa及び最小引張強さ400MPa)と調和するかとの観点から検討をし告示501号の値を採用した。

(6)結論

SS400については、産業界からの要望で継続使用としたがJIS B8265にはASME相当材がないとしているが、告示501号及びJIS鉄鋼ハンドブックによるとASME相当材が存在している。ASME相当材とSS400の値には、差異があるが誤記として取り扱うのではなく常温強度の違い(規格の問題)としてとらえ適切と思われる告示501号の値を選択した。

16