170304 中四国総合医セミナー 診断研究のよみかた

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感度と特異度のお話 -分かること診断研究の読むときのポイント- 大原記念倉敷中央機構 倉敷中央病院耳鼻咽喉科 & 臨床研究支援センター 藤原崇志

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Page 1: 170304 中四国総合医セミナー 診断研究のよみかた

感度と特異度のお話

-分かること診断研究の読むときのポイント-

大原記念倉敷中央機構

倉敷中央病院耳鼻咽喉科 & 臨床研究支援センター

藤原崇志

Page 2: 170304 中四国総合医セミナー 診断研究のよみかた

感度 = × 100(%)

特異度 = × 100(%)

病気あり 病気なし 計

検査異常(陽性) a b a + b

検査正常(陰性) c d c + d

計 a + c b + d a+b+c+d

検査異常の人

病気のある人

検査正常の人

病気のない人

感度100%、特異度100%なら完璧な検査

感度・特異度の定義

Page 3: 170304 中四国総合医セミナー 診断研究のよみかた

症例

• 26歳男性、生来健康

• 医療機関入職時に感染症検査(B型肝炎、C型肝炎、HIV)を受け、その際に検査でHIV検査で陽性になった。

• この26歳男性が、もし同僚だったらどうしますか?

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症例

• 26歳男性、生来健康

• 医療機関入職時に感染症検査(B型肝炎、C型肝炎、HIV)を受け、その際に検査でHIV検査で陽性になった。

• この26歳男性が、もし同僚だったらどうしますか?

ちなみに、感度は99.7%以上、特異度99.7%以上

一般人でHIVの頻度は1/10000人

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先生、いいですか?

どしたの、何かあった?

前に虫垂炎の検査で造影CTが感度95%、 特異度85%ぐらいっていってたじゃないですか。 さっき気付いたんですけど、100%の身体所見あるなって!!

へー、そんな有用なのあるの。 なんなの? (一体どういうこと???)

とあるA

藤原

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病気あり 病気なし

検査異常(陽性) 95 15

検査正常(陰性) 5 85

急性虫垂炎の感度・特異度 • 造影CT: 感度91~98%、特異度75~93%

• 造影CTよりもっとよい検査?

病気あり 病気なし

検査異常(陽性) 100 0

検査正常(陰性) 0 100

Page 7: 170304 中四国総合医セミナー 診断研究のよみかた

感度は病気の人のうち検査や身体所見で異常 がある人の割合で、特異度は健康の人のうち 検査や身体所見で異常ない人の割合ですよね。

まあ大体そうだね。

虫垂炎の症状に腹痛あるじゃないですか。 虫垂炎の人だったら腹痛あるし、 健康の人だったら腹痛ないですよね。 だったら腹痛の在る無しって感度と特異度って 100%になりますよね??

え・・・。 (そもそも腹痛の人に虫垂炎あるか ないかが問題なのであって・・・)

とあるA

藤原

診断研究を読むときのポイントがある から、一回調べてみようか。

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参考(DORと感度・特異度)

1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 Specificity

0.0

0.2

0.4

0.6

0

.8

1

.0

Sen

siti

vity

DOR = 1

DOR = 2

DOR = 5

DOR = 16

DOR = 81

DOR = 361

DOR =

DOR = ÷

陽性尤度比

陰性尤度比

感度

(1 – 特異度)

(1 − 感度)

特異度

Diagnostic odds ratio(DOR)

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診断研究におけるバイアスと過剰評価

研究の性質 DORの比(95%CI)

* DOR = LR+/LR-, 数字が大きいほど診断精度がよい。

Bias in studies of diagnostic tests. JAMA 1999;282:1061-1066

Page 10: 170304 中四国総合医セミナー 診断研究のよみかた

診断研究におけるバイアスと過剰評価

研究の性質 DORの比(95%CI)

* DOR = LR+/LR-, 数字が大きいほど診断精度がよい。

Bias in studies of diagnostic tests. JAMA 1999;282:1061-1066

診断研究の場合、病気の人と健康の人を比べた研究だと、 検査精度を3-4倍近く過剰に良く見積もってしまう!!!

(この研究いつのまにかRetractedでしたが・・・)

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Question 病気の人と健康の人を調べた研究って多いの?

Answer

新聞記事で、例えば癌の早期発見の記事なんかで、

進行癌患者と健康な人を比べて、腫瘍マーカーが新たに

見つかりました!とかの記事とかありますよね??

診断研究での問題点

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• 話は変わって、本日の論文

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季節性インフルエンザの咽頭濾胞

• 典型的なインフルエンザ濾胞 – 大きさ1mm程度のインフルエンザ濾胞の「芽」

– 大きさ3-4mm程度の典型的な濾胞

咽頭の視診所見でインフルエンザを診断する 兵庫県保険医協会 http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/141125-070000.php

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季節性インフルエンザの咽頭濾胞

• 「麻疹のKoplik斑のように、インフルエンザに特徴的な所見はないものなのだろうか?」という強い疑問を持ち続けました。1998年、咽頭の後壁に「イクラ」のような2㎜ほどの大きさの透明感のある濾胞があることに気づき、2004年に、忘れられない「インフルエンザ濾胞の典型例」に遭遇し、

世界で初めて「インフルエンザ濾胞」をデジタル画像に記録することに成功しました。

• 「著者は、この所見を知ってから、インフルエンザを疑う患者さんの咽頭後壁を観察すると確かに濾胞を発見できるようになりました。今までも目には入っていたのでしょうが、見ようとしないと見えないのだと実感したものです」

かぜ診療マニュアル:かぜとかぜにみえる重症疾患のp134ページより

咽頭の視診所見でインフルエンザを診断する 兵庫県保険医協会より http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/141125-070000.php

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• インフルエンザの濾胞所見しっておくの大事だけど、 実際感度/特異度96%以上もあんの???

Twitterでインフルエンザ、濾胞で検索した結果。いっぱいRTされてた。

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診断研究のポイント

• 対象患者は、実臨床で検査が行われる患者集団か?

• 評価されている検査/所見は再現可能な方法か?

• 最終診断はGold standardか?

• 最終診断は検査/所見の結果を知らずに行われたか?

• 全例で最終診断が行われているか?

• 評価されている検査/所見の再現性は?

(Novel とseasonal influenza評価してるけど、今回はNovelみます)

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Diagnosis of influenza from pharyngeal follicles

Question 対象患者は、実臨床で検査が行われる患者集団か?

• 研究方法: 前向き研究(Novel influenza)

• 研究期間: 2009年8月~10月29日

• 対象集団: 上気道炎症状+発熱患者87名

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Diagnosis of influenza from pharyngeal follicles

Question 最終診断はGold standardか?

Question 最終診断は検査/所見の結果を知らずに行われたか?

• インフルエンザ迅速検査を行い、陽性であればPCRで確認し 診断を確定している。

• 最終診断が迅速検査結果を知った状態で行われたかは不明。PCRは他の施設で行われるので、濾胞の有無を、PCRを 行う人が知っている可能性は低そう。

• また濾胞の結果にかかわらずPCRのカットオフ値はかわらなさそう(検査と最終診断を独立/ブラインドしなくてもよさそう)

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Diagnosis of influenza from pharyngeal follicles

Question 全例で最終診断が行われているか?

• STARDだと下記のような図の記載を推奨

対象患者

最終診断で 病気あり

最終診断で 病気なし

最終診断で 病気あり

最終診断で 病気なし

検査/所見で異常 検査/所見で正常

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今回の論文だとこんな感じ

上気道症状+発熱患者 (n=87)

Group 1A(n=22) 初診時濾胞あり

Group 1B (n=1) 初診時濾胞なし →後日濾胞あり

迅速検査陽性

Group 2 (n=64) 初診時濾胞なし

迅速検査陽性 迅速検査陰性

PCR陽性 (n=20)

PCR陰性 (n=2)

PCR陽性 (n=1)

PCR陰性 (n=0)

感度 = 100%(21/21),特異度 =??

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Diagnosis of influenza from pharyngeal follicles

• Group 1Aの患者

– 4patients were followed up because they had influenza follicles on initial evaluation despite negative results for type A influenza rapid testing.

– 3 were determined to be type A-positive upon diagnostic testing in day 2, 1 was found to be type A-positive in day 3.

• Group 1Bの患者

– 1 patient had no influenza follicles on initial evaluation(中略). The follicles appeared on day 6 after initial evaluation, and rapid diagnostic testing at that time was positive for type A influenza.

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Diagnosis of influenza from pharyngeal follicles

上気道症状+発熱患者 (n=87)

Group 1A(n=22) 初診時濾胞あり

Group 1B (n=1) 初診時濾胞なし →後日濾胞あり

迅速検査陽性

Group 2 (n=64) 初診時濾胞なし

迅速検査陽性 迅速検査陰性

PCR陽性 (n=20)

PCR陰性 (n=2)

PCR陽性 (n=1)

PCR陰性 (n=0)

感度 = 100%(21/21),特異度 = 97%(64/66)??

濾胞あるけど迅速陰性の人はねちっこく後日、迅速検査再検査してるのに、濾胞なし&迅速陰性の人の扱いざつじゃない??

(まあ濾胞を信じるなら実臨床ならそうなるのかもしれんけど)

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Diagnosis of influenza from pharyngeal follicles

Question 全例で最終診断が行われているか?

対象患者(n=87)

迅速検査陽性 (n=18)

迅速検査陰性 (n=4)

迅速検査陽性 (n=0)

迅速検査陰性 (n=65)

初診時濾胞あり(n=22) 濾胞なし(n=65)

*1例が受診6日後に 濾胞陽性&迅速検査陽性

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あと、再現性の話。

Question 評価されている検査/所見の再現性は?

• AccuracyとPrecise

Not Accurate Not Precise

Accurate Not Precise

Not Accurate Precise

Accurate Precise

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今回の研究のAccuracy

Question 評価されている検査/所見の再現性は?

• Kappa statistic(カッパ値) – 0.41~0.60 中等度の一致

– 0.61~0.80 かなりの一致

– 0.81~0.80 ほぼ完璧に一致

– 感度も特異度も96%の所見のわりに、Accuracy低すぎじゃないかな・・・ *注意: 個人的な感想です。

Page 27: 170304 中四国総合医セミナー 診断研究のよみかた

参考:論文を読む/書く時のポイント

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論文読むときのチェックシート

EBMと生涯学習の広場 The SPELL

http://spell.umin.jp/EBM_materials_BTS.html

CASP JAPAN http://caspjp.umin.ac.jp/materials/caspsheets/index.html

参考:論文を読む/書く時のポイント

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まとめ

• 感度・特異度の話をするときは、せっかくなのでもとになった論文を見てみよう。

• その時は、診断研究を読むときのポイントを参考にしてね。

• ただ批判的にぶったぎるだけだと悲しいのでよくよんで弱点を知って、身体所見/検査は活用してください。

• そもそもなぜ診断するのか?もお忘れなく。