11 病原細菌学f1 goto - 国立大学法人 岡山大学...vibrios (ビブリオ菌)...

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MRI研究内容 1. Histotoxic Clostridia (ガス壊疽菌群) ガス壊疽菌群はコラゲナーゼを産生して周囲の結合組織を破壊する。本酵素はコラー ゲン結合ドメイン(CBD, 図1a)を有する。細菌毒素の機能性ドメインのX線結晶学的解 析を米国アーカンソー大学のDr. Sakonとともに進めている。(配属学生; 中村悠大) CBDと成長因子との融合タンパク質(コラーゲン結合型成長因子)をコラーゲン材料に アンカリングすることで、成長因子を局所で長時間作用させることができた(図1b)。 ところで、骨膜組織に存在する間葉系細胞は、骨折の治癒過程において重要な役割を 果たしている。そのため、骨膜組織を損傷した骨折では、骨の癒合が進まず難治性と なる。北里大学医学部整形外科学単位では、間葉系細胞をターゲットとし、コラーゲ ン結合型成長因子を含む複合材料を用いた骨再生医療の確立を目指している(図1c)。 【先輩からの伝言】配属先では、ピペットの使い方からCT撮影、qRT-PCRまで基礎 研究に必要な手技を習得できます。また、骨折モデルの作製を通じて、皮膚切開や皮 膚・筋肉の縫合といった外科的手技も体験することができます。充実した3か月間を 過ごしたい方はぜひ北里大学へ!(配属学生; 余頃瑞希, 堀川恭佑, 廣瀬安章2. Clostridium botulinum (ボツリヌス菌) ボツリヌス菌は強力な神経毒素を産生して、ヒトや動物に弛緩性麻痺を引き起こ す。毒素はA型~H型の抗原性を有するので、ボツリヌス症の診断や治療では、迅速 に毒素や菌の検出および毒素型の決定を行うことが重要となる。そのため迅速かつ高 感度な各型毒素の検出法を開発している(早稲田大学、関東化学㈱との共同研究)。 一方、ボツリヌス毒素が運動神経疾患だけでなく知覚神経疾患にも治療薬として有 用なことが明らかになった。神経障害性疼痛に対するボツリヌス療法をエビデンスに 基づいた治療法として確立するため、三叉神経障害性疼痛モデルラットを用いて毒素 の鎮痛効果の分子メカニズムを解析している(歯学部との共同研究)(図2)。 ▶MRI研究では、安全のため活性のない毒素を使用してもらいます。 3. Vibrios (ビブリオ菌) 病原細菌が病気を起こせるのは、病原遺伝子がヒトの体内で発現されているから だ。私たちは、病原細菌がどうやって宿主の体に侵入したことを「知り」、病原性を 発揮するのかについて興味を持っている。人食いバクテリアと呼ばれるビブリオ属菌 の中にはコラーゲン分解酵素を使って、人体組織を文字通り「食う」ものが存在す る。私たちはVibrio alginolyticusをモデルとしてコラーゲン分解酵素の発現メカニズム の解明に取り組んでいる。MRIで配属された先輩たちの研究によって、コラーゲンセ ンサーによる感知からコラーゲン分解酵素遺伝子の発現に至るプロセスが明らかにな りつつある(図3)。細菌の巧みな病原遺伝子発現メカニズムを逆手に取れば、これま での細菌を殺す抗菌薬とは違ったアプローチの治療薬の開発が期待される。(配属学 生; 白川 拓, 中田悠介, 久保田紗矢) 学生派遣先 1. 内田健太郎先生, 高相晶士先生 北里大学医学部整形外科学単位 (神奈 川県相模原市) 複合材料を用いた骨、軟骨の再生医療研究 2. Dr. Joshua Sakon University of Arkansas, Fulbright college of Arts and Sciences, Chemistry and Biochemistry Department, 毒素の構造解析 病原細菌学分野 Department of Bacteriology Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences 連絡先:松下 治 基礎研究棟7階 エレベーターを降り左折3回 Tel: 086-235-7157, 7158 Fax: 086-235-7162 E-mail: [email protected] http://www.okayama-u.ac.jp/user/saikin/ 図2 細菌や毒素との戦いとその利用 - 毒を知り、毒をもって毒を制する - 図3 図1a 図1b センサー 酵素 コラゲナーゼ遺伝子 ③認識 ①酵素産生 T2SS レギュレーター ④発現誘導 コラーゲン分解産物 Ala-Hyp-Gly-Ser-Gln-NH2 ②分解 Vibrio 宿主のコラーゲン Transplant of decorated collagen-sheet PBS/CS bFGF/CS CB-bFGF/CS 図1c 眼窩下神経結紮ラット

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Page 1: 11 病原細菌学f1 goto - 国立大学法人 岡山大学...Vibrios (ビブリオ菌) 病原細菌が病気を起こせるのは、病原遺伝子がヒトの体内で発現されているから

MRI研究内容1. Histotoxic Clostridia (ガス壊疽菌群)ガス壊疽菌群はコラゲナーゼを産生して周囲の結合組織を破壊する。本酵素はコラー

ゲン結合ドメイン(CBD, 図1a)を有する。細菌毒素の機能性ドメインのX線結晶学的解析を米国アーカンソー大学のDr. Sakonとともに進めている。(配属学生; 中村悠大)CBDと成長因子との融合タンパク質(コラーゲン結合型成長因子)をコラーゲン材料に

アンカリングすることで、成長因子を局所で長時間作用させることができた(図1b)。ところで、骨膜組織に存在する間葉系細胞は、骨折の治癒過程において重要な役割を

果たしている。そのため、骨膜組織を損傷した骨折では、骨の癒合が進まず難治性となる。北里大学医学部整形外科学単位では、間葉系細胞をターゲットとし、コラーゲン結合型成長因子を含む複合材料を用いた骨再生医療の確立を目指している(図1c)。【先輩からの伝言】配属先では、ピペットの使い方からCT撮影、qRT-PCRまで基礎研究に必要な手技を習得できます。また、骨折モデルの作製を通じて、皮膚切開や皮膚・筋肉の縫合といった外科的手技も体験することができます。充実した3か月間を過ごしたい方はぜひ北里大学へ!(配属学生; 余頃瑞希, 堀川恭佑, 廣瀬安章)2. Clostridium botulinum (ボツリヌス菌)

ボツリヌス菌は強力な神経毒素を産生して、ヒトや動物に弛緩性麻痺を引き起こす。毒素はA型~H型の抗原性を有するので、ボツリヌス症の診断や治療では、迅速に毒素や菌の検出および毒素型の決定を行うことが重要となる。そのため迅速かつ高感度な各型毒素の検出法を開発している(早稲田大学、関東化学㈱との共同研究)。

一方、ボツリヌス毒素が運動神経疾患だけでなく知覚神経疾患にも治療薬として有用なことが明らかになった。神経障害性疼痛に対するボツリヌス療法をエビデンスに基づいた治療法として確立するため、三叉神経障害性疼痛モデルラットを用いて毒素の鎮痛効果の分子メカニズムを解析している(歯学部との共同研究)(図2)。

▶MRI研究では、安全のため活性のない毒素を使用してもらいます。3. Vibrios (ビブリオ菌)

病原細菌が病気を起こせるのは、病原遺伝子がヒトの体内で発現されているからだ。私たちは、病原細菌がどうやって宿主の体に侵入したことを「知り」、病原性を発揮するのかについて興味を持っている。人食いバクテリアと呼ばれるビブリオ属菌の中にはコラーゲン分解酵素を使って、人体組織を文字通り「食う」ものが存在する。私たちはVibrio alginolyticusをモデルとしてコラーゲン分解酵素の発現メカニズムの解明に取り組んでいる。MRIで配属された先輩たちの研究によって、コラーゲンセンサーによる感知からコラーゲン分解酵素遺伝子の発現に至るプロセスが明らかになりつつある(図3)。細菌の巧みな病原遺伝子発現メカニズムを逆手に取れば、これまでの細菌を殺す抗菌薬とは違ったアプローチの治療薬の開発が期待される。(配属学生; 白川 拓, 中田悠介, 久保田紗矢)

学生派遣先1. 内田健太郎先生, 高相晶士先生 北里大学医学部整形外科学単位 (神奈川県相模原市) 複合材料を用いた骨、軟骨の再生医療研究2. Dr. Joshua Sakon University of Arkansas, Fulbright college of Arts and Sciences, Chemistry and Biochemistry Department, 毒素の構造解析

病原細菌学分野Department of Bacteriology

Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences

連絡先:松下 治 基礎研究棟7階 エレベーターを降り左折3回Tel: 086-235-7157, 7158 Fax: 086-235-7162E-mail: [email protected] http://www.okayama-u.ac.jp/user/saikin/

図2

細菌や毒素との戦いとその利用- 毒を知り、毒をもって毒を制する -

図3

図1a

図1b

センサー

酵素

コラゲナーゼ遺伝子

③認識①酵素産生

T2SS

セセ

Sレギュレーターレギュ④発現誘導

コラーゲン分解産物Ala-Hyp-Gly-Ser-Gln-NH2 ②分解②②分解解②

Vibrio

宿主のコラーゲン

Transplant of decorated collagen-sheet

PBS/CS bFGF/CS CB-bFGF/CS

図1c

眼窩下神経結紮ラット